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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-17
(45)【発行日】2022-11-28
(54)【発明の名称】誘電体
(51)【国際特許分類】
   C03C 10/02 20060101AFI20221118BHJP
   H01B 3/12 20060101ALI20221118BHJP
   H01G 4/30 20060101ALI20221118BHJP
   H01G 4/12 20060101ALI20221118BHJP
【FI】
C03C10/02
H01B3/12 313
H01B3/12 336
H01B3/12 337
H01B3/12 335
H01B3/12 330
H01B3/12 333
H01B3/12 325
H01B3/12 331
H01B3/12 338
H01B3/12 320
H01B3/12 312
H01B3/12 314
H01G4/30 201L
H01G4/30 515
H01G4/12 900
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2021150707
(22)【出願日】2021-09-16
(62)【分割の表示】P 2017214319の分割
【原出願日】2017-11-07
(65)【公開番号】P2022008415
(43)【公開日】2022-01-13
【審査請求日】2021-10-15
(31)【優先権主張番号】P 2016224763
(32)【優先日】2016-11-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000128784
【氏名又は名称】株式会社オハラ
(74)【代理人】
【識別番号】100137589
【弁理士】
【氏名又は名称】右田 俊介
(74)【代理人】
【識別番号】100160864
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 政治
(74)【代理人】
【識別番号】100158698
【弁理士】
【氏名又は名称】水野 基樹
(72)【発明者】
【氏名】傅 杰
【審査官】大塚 晴彦
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-117162(JP,A)
【文献】特開2014-094879(JP,A)
【文献】特開2015-166289(JP,A)
【文献】特開2003-212592(JP,A)
【文献】米国特許第4784976(US,A)
【文献】特開2011-178603(JP,A)
【文献】特開2011-098869(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03C 1/00 -14/00
C04B 35/495
H01B 3/00
H01G 4/00
INTERGLAD
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化物換算組成の全物質量に対して、モル%で
25成分 15.0%~50.0%、
TiO 2 成分 0%~40.0%、
Nb 2 5 成分 10.0%~50.0%、
モル和(TiO2+Nb25) 15.0%~70.0%
BaO成分 0%超30.0%以下、
RO成分(式中、RはMg、Ca、Sr、Baからなる群より選択される1種以上) 13%~35%、
RO成分とZnO成分との合計量 35%以下
を含有し、1kHzにおける誘電率が25以上であることを特徴とするガラスセラミックス誘電体。
【請求項2】
酸化物換算組成の全物質量に対して、モル%で
SiO2成分 0~20.0%、
23成分 0~20.0%、
Al23成分 0~15.0%
rO成分 0~30.0%、
CaO成分 0~30.0%、
MgO成分 0~30.0%、
ZnO成分 0~45.0%、
Li2O成分 0~10.0%、
Na2O成分 0~10.0%、
2O成分 0~15.0%、
WO3成分 0~20.0%、
Ta25成分 0~15.0%
ZrO2成分 0~15.0%
SnO2成分 0~10.0%、
Ln23成分(式中、LnはLa、Ce、Gd、Y、Dy、Yb、Luからなる群より選択される1種以上)の合計量 0~10.0%、
xy成分(式中、MはV、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Ag、Moからなる群より選択される1種以上)の合計量 0~10.0%、
Sb23成分 0~10.0%、
外割でFを0~30.0%
を含有する請求項に記載のガラスセラミックス誘電体。
【請求項3】
Rn2O成分(式中、RnはLi、Na、Kからなる群より選択される1種以上)の合計量が15.0%以下で、RO成分(式中、RはMg、Ca、Sr、Baからなる群より選択される1種以上)とZnO成分との合計量が23%~35%の範囲にある、請求項1または2に記載のガラスセラミックス誘電体。
【請求項4】
主結晶相としてリン・ニオブ酸化物化合物、タングステンブロンズ型結晶、ペロブスカイト型結晶、TiNb27結晶、TiO2結晶、BaTi25結晶、CaTi25結晶及びこれらの固溶体からなる群から選ばれる一種または一種以上を含む、請求項1から3のいずれかに記載のガラスセラミックス誘電体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、誘電率と絶縁破壊強度とがいずれも高く、通信機器や電子機器に搭載される回路基板及び電子部品、大容量高電圧コンデンサーなどの誘電材料として好適に用いられるガラスセラミックス誘電体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車用電話やパーソナル無線に代表される移動体通信、携帯電話、衛星放送、衛星通信、CATV等に代表されるような高度情報化時代を迎え、情報伝達はより高速化・高周波化の傾向にあり、さらにこれらの機器には小型化が求められ、これに伴って回路素子に対しても小型化が強く要求されている。
【0003】
例えば、マイクロ波用回路素子について、その大きさは、使用電磁波の波長が基準になる。すなわち、誘電率(ε)の誘電体中を伝播する電磁波の波長(λ)は、真空中の波長をλ0とするとλ=λ0/(ε1/2)となり、λはεの平方根に反比例する。よってマイクロ波用回路素子の小型化のためには、比誘電率が高い材料が求められている。
【0004】
また、半導体加工や視力矯正手術で利用されるエキシマレーザー、医療用X線、蓄電装置(工業用高電圧電源、電気自動車の起動電源など)、送電設備などに使われる高エネルギー貯蔵密度を有するコンデンサーへの需要が近年に高まっている。コンデンサーのエネルギー貯蔵密度が(1/2)×ε0εr2(ε0:真空の誘電率、εr:材料の誘電率、E:絶縁破壊強度)で表されるので、高いエネルギー貯蔵密度を得ようとするには高い誘電率と高い絶縁破壊強度を併せ持つ誘電体が望まれる。
【0005】
回路基板や電子部品に使用される誘電体材料として、ガラスセラミックスを使用する提案がなされている(例えば、特許文献1~4)。これら特許文献1~4の提案は、いずれもガラス粉末と無機フィラーとを混合し、成形、焼成するものであるため、緻密性が低く、ポアやボイドが発生したりし、均一な材料になり難く、無機フィラーがガラスと反応して所望の誘電率と絶縁破壊強度が得られないという問題があった。
【0006】
一方、SiO2-TiO2-SrO系ガラスに熱処理を加えることによってSrTiO3結晶を析出させた誘電体ガラスセラミックスが提案されているが(例えば、特許文献5)、誘電率は30程度と低かった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2004-339049号公報
【文献】特開2007-217274号公報
【文献】特開2003-192430号公報
【文献】特許第3805173号公報
【文献】特開2011-230960号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、従来、誘電率が大きい材料ほど絶縁破壊強度は低下する傾向が知られている。すなわち、誘電率と絶縁破壊強度はトレードオフの関係にあり、いずれをも高めることは困難であった。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は鋭意検討し、既存の技術と異なった組成系で上記の課題を解決することができるガラスセラミックス誘電体を見出し、本発明を完成させた。
本発明は以下の(1)~(5)である。
(1)酸化物換算組成の全物質量に対して、モル%で
25成分 15.0%~50.0%、
モル和(TiO2+Nb25) 15.0%~70.0%
を含有し、1kHzにおける誘電率が25以上であることを特徴とするガラスセラミックス誘電体。
(2)酸化物換算組成の全物質量に対して、モル%で
TiO2成分 1%~40.0%、
Nb25成分 10.0%~50.0%、
を含有することを特徴とする上記(1)に記載のガラスセラミックス誘電体。
(3)酸化物換算組成の全物質量に対して、モル%で
SiO2成分 0~20.0%、
23成分 0~20.0%、
Al23成分 0~15.0%、
BaO成分 0~30.0%、
SrO成分 0~30.0%、
CaO成分 0~30.0%、
MgO成分 0~30.0%、
ZnO成分 0~45.0%、
Li2O成分 0~10.0%、
Na2O成分 0~10.0%、
2O成分 0~15.0%、
WO3成分 0~20.0%、
Ta25成分 0~15.0%
ZrO2成分 0~15.0%
SnO成分 0~10.0%、
Ln23成分(式中、LnはLa、Ce、Gd、Y、Dy、Yb、Luからなる群より選択される1種以上)の合計量 0~10.0%、
xy成分(式中、MxyはV、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Ag、Moからなる群より選択される1種以上)の合計量 0~10.0%、
Sb23成分 0~10.0%、
外割でFを0~30.0%
を含有する上記(1)または(2)に記載のガラスセラミックス誘電体。
(4)Rn2O成分(式中、RnはLi、Na、Kからなる群より選択される1種以上)の合計量が15.0%以下で、RO成分(式中、RはMg、Ca、Sr、Baからなる群より選択される1種以上)とZnO成分との合計量が3.0%~50.0%の範囲にある、上記(1)~(3)のいずれかに記載のガラスセラミックス誘電体。
(5)主結晶相としてリン・ニオブ酸化物化合物、タングステンブロンズ型結晶、ペロブスカイト型結晶、TiNb27結晶、TiO2結晶、BaTi25結晶、CaTi25結晶及びこれらの固溶体からなる群から選ばれる一種または一種以上を含む、上記(1)から(4)のいずれかに記載のガラスセラミックス誘電体。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、誘電率が高く、かつ、絶縁破壊強度も高いガラスセラミックス誘電体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】実施例1における誘電率と周波数との関係を示す図である。
図2】実施例1における誘電率と誘電損失を示す図である。
図3】実施例1における絶縁破壊強度を示す図である。
図4】実施例1におけるXRDパターンを示す図である。
図5】実施例2における誘電率と周波数との関係を示す図である。
図6】実施例24,25及び26の絶縁破壊強度を示す図である。
図7】実施例24,25及び26のエネルギー貯蔵密度を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明について説明する。
本発明は、酸化物換算組成の全物質量に対して、モル%で
25成分 15.0%~50.0%、
モル和(TiO2+Nb25) 20.0~70.0%
を含有し、1kHzにおける誘電率εが25以上であることを特徴とするガラスセラミックス誘電体である。
【0013】
本発明のガラスセラミックス誘電体は、ガラスを熱処理することでガラス相中に結晶相を析出させて得られる材料であるため、結晶化ガラスとも呼ばれる。ガラスセラミックス誘電体は、ガラス相及び結晶相から成る材料のみならず、ガラス相が全て結晶相に変化した材料、すなわち、材料中の結晶量(結晶化度)が100質量%のものも含んでよい。なお、本発明のガラスセラミックス誘電体に含まれる結晶相の好ましい種類や結晶化率の好ましい値は後述する。
【0014】
本発明のガラスセラミックス誘電体は誘電率が高く、かつ、絶縁破壊強度も高いため、回路基板及び電子部品、大容量高電圧コンデンサーなどの誘電材料として好適に用いられる。また、本発明のガラスセラミックス誘電体は、高温(おおむね90℃以上)の特性が劣化しにくので、高温用コンデンサーの誘電体としても利用できる。
【0015】
<ガラス成分>
本発明のガラスセラミックス誘電体を構成する各成分の組成範囲を以下に述べる。
以下において単に「%」と記した場合、「モル%」を意味するものとする。
また、本願明細書中において「%」で表されるガラス組成は、すべて酸化物換算組成の全物質量における百分率を意味するものとする。ここで、「酸化物換算組成」とは、本発明のガラスセラミックス誘電体の構成成分の原料として使用される酸化物、硝酸塩等が、溶融によってすべて分解され酸化物へ変化すると仮定した組成をいう。したがって「酸化物換算組成の全物質量における百分率」は、すべての成分が酸化物として存在しているとしたときの生成酸化物の質量の総和を100モル%とし、それに対する各成分の存在量を意味する。
なお、以下において「外割」とは、上記の「酸化物換算組成の全物質量」に含めないことを意味し、外割の比率は、上記の生成酸化物の質量の総和を100モル%としたときの、これに対する存在量を百分率で表した値を意味するものとする。
【0016】
25成分は、ガラスの網目構造を構成し、ガラスの安定性を高めると共に、誘電性結晶の構成成分となる場合もあるので、本発明のガラスセラミックス誘電体に欠かせない成分である。特に、P25成分を15.0%以上含有することで、より安定的にガラスを作製することができる。15.0%未満であるとガラスの作製が困難となる。従って、P25成分の含有量は、好ましくは15.0%以上、より好ましくは18.0%以上、さらに好ましくは20.0%以上とする。
他方で、P25成分の含有量を50.0%以下にすることで、所望の誘電率をより容易に得ることができる。従って、P25成分の含有量は、好ましくは50.0%以下、より好ましくは40.0%以下、さらに好ましくは35.0%以下とする。
【0017】
TiO2成分は、ガラスの安定性を高める効果があり、さらに誘電性結晶の構成成分またはその核形成剤となる場合もあるので、本発明のガラスセラミックス誘電体に任意に添加できる成分である。この成分の含有率が高すぎるとガラスの安定性が低下しやすくなる傾向があるので、40.0%以下含有することが好ましく、35.0%以下含有することがより好ましく、30.0%以下含有することがさらに好ましい。一方、上述の効果を得ようとするには、下限の添加量は1.0%以上であることが好ましく、3.0%以上であることがより好ましく、5.0%以上であることがさらに好ましい。
【0018】
Nb25成分は、ガラスの安定性を高めるとともに、誘電性結晶の構成成分となる場合もあるので、本発明のガラスセラミックス誘電体に任意に添加できる成分である。この成分の含有率が高すぎるとガラスの安定性が低下しやすくなる傾向があるので、50.0%以下含有することが好ましく、40.0%以下含有することがより好ましく、35.0%以下含有することがさらに好ましい。一方、所望の誘電特性を得るには下限の添加量は10.0%以上であることが好ましく、15.0%以上であることがより好ましく、20.0%以上であることがさらに好ましい。
【0019】
本発明のガラスセラミックス誘電体では、モル和(TiO2+Nb25)、すなわち、TiO2の含有率(%)とNb25の含有率(%)との合計が、15.0%以上であることが好ましく、18.0%以上であることがより好ましく、20.0%以上であることがさらに好ましい。また、この合計が70.0%以下であることが好ましく、65.0%以下であることがより好ましく、60.0%以下であることがさらに好ましい。この合計量は高すぎるとガラスの安定性が低下しやすくなる傾向があり、逆に低すぎるとガラスセラミックス誘電体の誘電率が低くなる傾向がある。
【0020】
SiO2成分は、ガラスの安定性を高める効果があるので本発明のガラスセラミックス誘電体における任意成分である。具体的な含有率は20.0%以下であることが好ましく、10.0%以下であることがより好ましく、5.0%以下であることがさらに好ましい。この成分含有率が高すぎるとガラスの安定性が低下、ガラスセラミックス誘電体の誘電率も低下しやすくなる。
【0021】
23成分は、ガラスの安定性を高める効果があるので本発明のガラスセラミックス誘電体における任意成分である。具体的な含有率は20.0%以下であることが好ましく、10.0%以下であることがより好ましく、7.0%以下であることがさらに好ましい。この成分含有率が高すぎるとガラスの安定性が低下し、ガラスセラミックス誘電体の誘電率も低下しやすくなる。
【0022】
Al23成分は、ガラスの安定性を高める効果があるので本発明のガラスセラミックス誘電体における任意成分である。具体的な含有率は15.0%以下であることが好ましく、7.0%以下であることがより好ましく、3.0%以下であることがさらに好ましい。この成分含有率が高すぎるとガラスの安定性が低下し、ガラスセラミックス誘電体の誘電率も低下しやすくなる。
【0023】
BaO成分は、ガラスの安定性を高めると共に、誘電性結晶の構成成分となる場合もあるので、本発明のガラスセラミックス誘電体に任意に添加できる成分である。従って、好ましくは0%超、より好ましくは5.0%以上、さらに好ましくは10.0%以上含有してもよい。他方で、この成分の含有率が高すぎるとガラスの安定性が低下しやすくなる傾向があるので、30.0%以下含有することが好ましく、28.0%以下含有することがより好ましく、25.0%以下含有することがさらに好ましい。
【0024】
SrO成分は、ガラスの安定性を高めると共に、誘電性結晶の構成成分となる場合もあるので、本発明のガラスセラミックス誘電体に任意に添加できる成分である。この成分の含有率が高すぎるとガラスの安定性が低下しやすくなる傾向があるので、30.0%以下含有することが好ましく、25.0%以下含有することがより好ましく、20.0%以下含有することがさらに好ましい。
【0025】
CaO成分は、ガラスの安定性を高めると共に、誘電性結晶の構成成分となる場合もあるので、本発明のガラスセラミックス誘電体に任意に添加できる成分である。この成分の含有率が高すぎるとガラスの安定性が低下しやすくなる傾向があるので、30.0%以下含有することが好ましく、25.0%以下含有することがより好ましく、20.0%以下含有することがさらに好ましい。
【0026】
MgO成分は、ガラスの安定性を高めると共に誘電性結晶の構成成分となる場合もあるので、本発明のガラスセラミックス誘電体に任意に添加できる成分である。この成分の含有率が高すぎるとガラスの安定性が低下しやすくなる傾向があるので、30.0%以下含有することが好ましく、20.0%以下含有することがより好ましく、15.0%以下含有することがさらに好ましい。
【0027】
ZnO成分は、ガラスの安定性を高めると共に誘電性結晶の構成成分となる場合もあるので、本発明のガラスセラミックス誘電体に任意に添加できる成分である。従って、好ましくは0%超、より好ましくは1.0%以上、さらに好ましくは3.0%以上含有してもよい。他方で、この成分の含有率が高すぎるとガラスの安定性が低下しやすくなる傾向があるので、45.0%以下含有することが好ましく、40.0%以下含有することがより好ましく、38.0%以下含有することがさらに好ましい。
【0028】
本発明のガラスセラミックス誘電体は、RO(式中、RはMg、Ca、Sr、Baからなる群より選択される1種以上)成分を50.0%以下含有することが好ましい。RO成分の合計量を50.0%以下にすることでガラスの安定性及びガラスセラミックス誘電体の誘電特性が低下しにくくなるので、RO成分の合計量は、好ましくは50.0%、より好ましくは40.0%、最も好ましくは38.0%を上限とする。一方、RO成分の合計量を1.0%以上にすることでガラスの安定性及びガラスセラミックス誘電体の誘電特性が向上するので、RO成分の合計量は、好ましくは1.0%、より好ましくは3.0%、最も好ましくは5.0%を下限とする。
【0029】
また、本発明のガラスセラミックス誘電体は、RO(式中、RはMg、Ca、Sr、Baからなる群より選択される1種または一種以上)成分及びZnO成分の合計量(モル和)を50.0%以下含有することが好ましい。RO成分とZnO成分との合計量(RO+ZnO)を50.0%以下にすることでガラスの安定性及びガラスセラミックス誘電体の誘電特性が低下しにくくなるのでRO成分とZnO成分の合計量(RO+ZnO)は好ましくは50.0%、より好ましくは45.0%、最も好ましくは40.0%を上限とする。一方、RO成分及びZnO成分の合計量を3.0%以上にすることでガラスの安定性及びガラスセラミックス誘電体の誘電特性が向上するので、その合計量(RO+ZnO)は、好ましくは3.0%、より好ましくは5.0%、最も好ましくは8.0%を下限とする。
【0030】
なお、本発明のガラスセラミックス誘電体において、RO(式中、RはMg、Ca、Sr、Baからなる群より選択される1種以上)成分及びZnO成分の中で、特にBaO成分とZnO成分はガラスの安定性及びガラスセラミックス誘電体の誘電特性を高める効果がより顕著であるため、どちらか、または両方を含むことが最も好ましい。
【0031】
Li2O成分は、ガラスの安定性を高める効果があるので本発明のガラスセラミックス誘電体における任意成分である。具体的な含有率は10.0%以下であることが好ましく、5.0%以下であることがより好ましく、3.0%以下であることがさらに好ましい。この成分含有率が高すぎるとガラスセラミックス誘電体の絶縁破壊強度が低下しやすくなる。
【0032】
Na2O成分は、ガラスの安定性を高める効果があるので本発明のガラスセラミックス誘電体における任意成分である。具体的な含有率は10.0%以下であることが好ましく、5.0%以下であることがより好ましく、3.0%以下であることがさらに好ましい。この成分含有率が高すぎるとガラスセラミックス誘電体の絶縁破壊強度が低下しやすくなる。
【0033】
2O成分は、ガラスの安定性を高める効果があるので本発明のガラスセラミックス誘電体における任意成分である。具体的な含有率は15.0%以下であることが好ましく、10.0%以下であることがより好ましく、7.0%以下であることがさらに好ましい。この成分含有率が高すぎるとガラスセラミックス誘電体の誘電率と絶縁破壊強度が低下しやすくなる。
【0034】
本発明のガラスセラミックス誘電体は、Rn2O成分(式中、RnはLi、Na、Kからなる群より選択される1種以上)の合計量が、15.0%以下であることが好ましく、10.0%以下であることがより好ましく、5.0%以下であることがさらに好ましく、含有しないことが最も好ましい。この成分含有率が高すぎるとガラスセラミックス誘電体の絶縁破壊強度が低下しやすくなる。
【0035】
WO3成分は、ガラスの安定性を高めると共に、ガラスセラミックス誘電体の誘電率の向上にも寄与するので本発明のガラスセラミックス誘電体における任意成分である。具体的な含有率は20.0%以下であることが好ましく、10.0%以下であることがより好ましく、7.0%以下であることがさらに好ましい。この成分含有率が高すぎるとガラスの安定性が低下しやすくなる。
【0036】
Ta25成分は、ガラスの安定性を高めると共に、ガラスセラミックス誘電体の誘電率の向上にも寄与するので本発明のガラスセラミックス誘電体における任意成分である。具体的な含有率は10.0%以下であることが好ましく、5.0%以下であることがより好ましく、3.0%以下であることがさらに好ましい。この成分含有率が高すぎるとガラスの安定性が低下しやすくなる。
【0037】
ZrO2成分は、ガラスの安定性を高めると共に、誘電性結晶の核形成剤の役割を果たし、誘電率の向上にも寄与するので本発明のガラスセラミックス誘電体における任意成分である。具体的な含有率は15.0%以下であり、8.0%以下であることがより好ましく、7.0%以下であることがさらに好ましい。この成分含有率が高すぎるとガラスの安定性が低下しやすくなる。
【0038】
SnO2成分は、誘電性結晶の核形成剤の役割を果たし、誘電特性の向上に寄与するので、本発明のガラスセラミックス誘電体における任意成分である。具体的な含有率は10.0%以下であることが好ましく、5.0%以下であることがより好ましく、3.0%以下であることがさらに好ましい。この成分含有率が高すぎるとガラスの安定性が低下しやすくなる。
【0039】
Ln23成分(式中、LnはLa、Ce、Gd、Y、Dy、Yb、Luからなる群より選択される1種以上)は、誘電特性の向上に効果があるので、本発明のガラスセラミックス誘電体における任意成分である。これらの含有量の合計が10.0%以下であることが好ましく、5.0%以下であることがより好ましく、3.0%以下であることがさらに好ましい。これらの成分の含有率が高すぎるとガラスの安定性が低下しやすくなる。
【0040】
xy成分(V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Ag、Moからなる群より選択される1種以上)は、誘電特性の改善に効果があるので、本発明のガラスセラミックス誘電体における任意成分である。これらの含有量の合計が10.0%以下であることが好ましく、3.0%以下であることがより好ましく、1.0%以下であることがさらに好ましい。これらの成分の含有率が高すぎるとガラスの安定性が低下しやすくなる。
【0041】
F成分はガラスの安定性を高め、誘電性結晶の核形成剤の役割を果たすので、本発明のガラスセラミックス誘電体における任意成分である。その含有率は、外割で30.0%以下であることが好ましく、15.0%以下であることがより好ましく、8.0%以下であることがさらに好ましい。この成分の含有率が高すぎると誘電特性及び絶縁破壊強度が低下しやすくなる。
【0042】
Sb23成分は、ガラスの脱泡剤の効果があり、さらに誘電特性の改善に寄与するので、本発明のガラスセラミックス誘電体における任意成分である。具体的な含有率は10%以下であることが好ましく、3.0%以下であることがより好ましく、1.0%以下であることがさらに好ましい。この成分含有率が高すぎるとガラスの安定性が低下しやすくなる。
【0043】
本発明のガラスセラミックス誘電体は、主結晶相としてリン・ニオブ酸化物化合物、タングステンブロンズ型結晶、ペロブスカイト型結晶、TiNb27結晶、TiO2結晶、BaTi25結晶、CaTi25結晶及びこれらの固溶体からなる群から選ばれる一種または一種以上を含むことが好ましい。なお、上述のリン・ニオブ酸化物化合物としては、NbPO5、Nb9PO25、Nb182.550、BaTiP28、BaNb2211、ZnNb4217結晶及びこれらの固溶体からなる群から選ばれる一種または一種以上を含むことが特に好ましい。上述のタングステンブロンズ型結晶としては、BaNb26、SrNb26、CaNb26、ZnNb26結晶及びこれらの固溶体からなる群から選ばれる一種または一種以上を含むことが特に好ましい。上述のペロブスカイト型としてはBaTiO3、SrTiO3、CaTiO3及びこれらの固溶体からなる群から選ばれる一種または一種以上を含むことが特に好ましい。
【0044】
なお、本発明のガラスセラミックス誘電体の結晶化率及び結晶相の大きさは、熱処理条件の調整により精密に制御することができるが、所望の誘電特性を得るために結晶化率は3.0%以上であることが好ましく、5.0%以上であることがより好ましく、10.0%以上であることが最も好ましい。結晶の平均サイズは、ナノオーダーから数十ミクロンまでの範囲で好ましい。
【0045】
本発明のガラスセラミックス誘電体は、1kHzにおける誘電率εが25以上である。この誘電率εは27以上であることが好ましく、30以上であることがより好ましい。
なお、本発明において、インピーダンスアナライザー(例えばソーラトロン社製 SI1260)を用いて10Hzから1MHzまでの周波数にわたって誘電率及び誘電損失を測定し、1kHzにおける値を本発明の誘電率及び誘電損失とした。
【0046】
<用途>
本発明のガラスセラミックス誘電体は、任意の形にすることが可能であるため、様々な誘電体として利用できる。例えば、通信機器や電子機器に搭載される回路基板及び電子部品、大容量高電圧コンデンサーなどの誘電材料に使用される。コンデンサーは電力変換装置における電流変動の緩衝、カップリングや平滑用に使用される。高電圧コンデンサーは半導体の加工や視力矯正手術で利用されるエキシマレーザー機器のほか、医療用X線装置、工業用高電圧電源や、再生可能エネルギー用送電システムに必要不可欠な部品である。これらのガラスセラミックス誘電体は単独で上記の用途に用いられる以外に、繊維、粉末及びペーストなどの態様で他の誘電体と複合化した形でも使用されることも可能である。具体的には、基板上にパターン電極を形成された誘電体基板、積層基板材料、誘電体共振素子、誘電材料の焼成助剤、誘電体ペースト(誘電体粉末を有機化合物等からなるビヒクル中に懸濁させたものであって、通常、スクリーン印刷や打ち抜き型印刷により電極上に成膜されて使用される)等の用途が挙げられる。
【0047】
<ガラスセラミックス誘電体の製造方法>
本発明のガラスセラミックス誘電体は、
(i)所定の比で混合した原料を溶融し、その融液を冷却してガラスを得る工程と、(ii)ガラスをそのガラス転移点以上の温度で熱処理することでガラスセラミックス誘電体に変換する結晶化工程とを含んでいる。
【0048】
(1)工程(i)
各成分が所定の含有量の範囲内になるように原料を調合し、均一に混合してから白金坩堝、石英坩堝又はアルミナ坩堝に投入して電気炉又は燃焼炉で1200~1500℃の温度範囲で1~24時間溶融し、攪拌均質化したのち、その融液を冷却してガラスを得る工程である。なお、原料は特に限定されるものではなく酸化物、水酸化物、炭酸塩、硝酸塩、弗化物、塩化物、メタ燐酸化合物等の通常のガラスに使用される原料を適宜に選択すればよく、ガラス化の条件は、ガラス組成及び溶解量等に応じて適宜に設定すればよい。また、本工程で得られるガラス体の形状は特に限定されず、用途に応じて板状、繊維状、粒状等であってよい。
【0049】
(2)工程(ii)
上記工程(i)で得られたガラスを熱処理することで、ガラスセラミックス誘電体に変換する結晶化工程である。この熱処理は、ガラスのガラス転移点以上の温度で行われる。ガラス転移点(Tg)は、組成により相違するが、概ね600℃~750℃の範囲にある。熱処理温度の上限は、特に限定されないが、DTA測定で見られた結晶化ピークを示す温度より300℃高い温度を上限とすることが好ましい。本発明のガラスの最高結晶化温度は組成により大きく異なるが、概ね650℃~1000℃の範囲である。また、熱処理時間は、ガラスセラミックス誘電体に変換し得る時間であり、熱処理温度が高いと短く、低いと長くなり、通常0.1~100時間の範囲である。なお、この結晶化工程は、1段階の熱処理でもよいし、2段階以上の熱処理過程を経てもよい。
【0050】
なお、工程(ii)はバルクガラスからバルクガラスセラミックス誘電体を作製するのに最も適する手法であるが、ガラスの形状に応じて工程(ii)における熱処理温度を適宜に設定する必要がある。例えば、工程(i)で得られたガラスは粉末であり、その粉末を用いて焼結法でシート状のガラスセラミックス誘電体を作製する場合は、緻密化を図るためガラスからガラスセラミックス誘電体に変化する温度(焼成温度)は上述の熱処理温度の上限より高い温度にする場合がある。
【実施例
【0051】
以下、実施例によって本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらによりなんら制限されるものではない。
【0052】
(実施例1)
組成:25P25-10TiO2-30Nb25-17.5BaO-14CaO-3.5ZnO (モル%)
上記の組成になるように原料(TiO2、Nb25、Ba(PO32、BaCO3、Ca(PO32、CaCO3、ZnO)を調合し、よく混合した後、石英坩堝に入れて1260℃で1時間溶解した。その後、溶融液を白金坩堝に移し、さらに2時間溶解し、攪拌均質化してから溶融液を金型に流し込み、板状のガラスを得た。DTAにより測定されたガラスの転移温度(Tg)は700℃付近、結晶化ピークは765℃及び900℃付近にあった。これらの温度特性に基づいて各種条件で熱処理を行うことによりガラスセラミックス誘電体に変換した。得られたガラスセラミックス誘電体について約30mm×30mm×1mmに加工し、以下の物性評価に供した。
図1に各種条件で熱処理して得たガラスセラミックス誘電体の誘電特性を示す。なお、誘電特性の測定はインピーダンスアナライザー(ソーラトロン社製 SI1260)により行われた。図1に見られるように誘電率は、周波数により、殆ど変化しないが、熱処理温度の上昇または時間の増大に従って大きくなった。
図2に1kHzにおける誘電率及び誘電損失を示す。誘電率は熱処理により大きく増大しても誘電損失は大きくなることがなく、0.01以下に抑えられることが分かる。
図3に各種の熱処理条件で作製した実施例1の絶縁破壊強度を示す。なお、絶縁破壊破強度は厚み1mmのサンプルを用いて、JIS C 2141に準じ測定を行った。絶縁破壊強度は熱処理条件により大きく変化するが、いずれの条件においても30kV/mm以上の値を示すことが分かった。
ガラスセラミックス誘電体の結晶相についてX線回折装置(フィリップス社製、商品名:X'Pert-MPD)で確認した結果、熱処理温度が800℃以下の場合は、主結晶相としてタングステンブロンズ型結晶である(Ba,Ca)Nb26結晶相が析出したが、熱処理温度がより高くなると、Nb9PO25の析出が顕著となり、図4に示すように950℃ではNb9PO25結晶がほぼ単相で析出した。
【0053】
(実施例2)
組成:4.5SiO2-2.5Al23-32P25-28TiO2-23Nb25-9.5ZnO-0.5SnO2 (モル%)
上記の組成になるように原料としてSiO2、Al(PO43、NH42PO4、TiO2、Nb25、Zn(PO32、ZnO及びSnO2を調合し、よく混合した後、白金ポットに入れて700℃で3時間保温してから1450℃まで上げて、この温度で2時間溶解し、攪拌均質化してから溶融液を金型に流し込み、板状のガラスを得た。DTAにより測定されたガラスの転移温度(Tg)は635℃付近、結晶化ピークは800℃付近にあった。これらの温度特性に基づいて各種条件で熱処理を行うことによりガラスセラミックス誘電体に変換した。得られたガラスセラミックス誘電体について約30mm×30mm×1mmに加工し、諸物性の評価に供した。図5に本実施例のガラス組成について各種条件で熱処理して得たガラスセラミックス誘電体の誘電率の周波数依存性を示す。誘電率は周波数の減少に従って大きく増大することが分かる。なお、ガラスセラミックス誘電体に析出した主結晶相はNbPO5及びTiO2であった。












【0054】
【表1】








【0055】
【表2】






【0056】
【表3】







【0057】
【表4】










【0058】
【表5】
【0059】
実施例1または実施例2と類似な方法で実施例3~26及び比較例1を作製した。ガラスセラミックス誘電体の誘電率(1kHz)と主結晶相は表1にまとめた。実施例の誘電率は比較例のそれと比較すると、ずっと大きいことがわかる。
【0060】
図6に実施例24、25及び26の絶縁破壊強度を示す。なお、これらの絶縁破壊破強度は厚み0.5mmのサンプルを用いて、JIS C 2141に準じ測定したものである。どの実施例も80kV/mm以上の値を示すことが分かった。
図7に実施例24、25及び26のエネルギー貯蔵密度を示す。値として1.5J/cm3以上のエネルギー密度を得ることが可能であることが分かった。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7