(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-17
(45)【発行日】2022-11-28
(54)【発明の名称】水性組成物のための新規マーカー
(51)【国際特許分類】
G01N 33/44 20060101AFI20221118BHJP
C09D 5/02 20060101ALI20221118BHJP
C09D 7/63 20180101ALI20221118BHJP
C09D 201/00 20060101ALI20221118BHJP
G01N 30/88 20060101ALI20221118BHJP
【FI】
G01N33/44
C09D5/02
C09D7/63
C09D201/00
G01N30/88 P
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2021200839
(22)【出願日】2021-12-10
(62)【分割の表示】P 2017219600の分割
【原出願日】2017-11-15
【審査請求日】2021-12-10
(32)【優先日】2016-11-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】590002035
【氏名又は名称】ローム アンド ハース カンパニー
【氏名又は名称原語表記】ROHM AND HAAS COMPANY
(73)【特許権者】
【識別番号】502141050
【氏名又は名称】ダウ グローバル テクノロジーズ エルエルシー
(74)【代理人】
【識別番号】110000589
【氏名又は名称】特許業務法人センダ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ペイリン・ヤン
(72)【発明者】
【氏名】エリック・シー・グレイソン
(72)【発明者】
【氏名】ゼンウェン・フー
(72)【発明者】
【氏名】ザヒド・アシフ
【審査官】大瀧 真理
(56)【参考文献】
【文献】特表2016-522898(JP,A)
【文献】特表2016-524134(JP,A)
【文献】特表2016-503446(JP,A)
【文献】特開2012-208081(JP,A)
【文献】特開2001-083143(JP,A)
【文献】特開平09-043218(JP,A)
【文献】米国特許第5902750(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/44
C09D 5/02
C09D 7/63
C09D 201/00
G01N 30/88
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(i)1つ以上の水性ポリマーの水性組成物、またはそれから形成した乾燥もしくは硬化した膜、コーティング、もしくは層中の、(ii)1つ以上のC
1-C
12アルキルフェニルエーテルのマーカーを検出する方法であって、前記方法は、
溶媒を使用して前記水性組成物またはそれから形成した乾燥もしくは硬化した膜、コーティング、もしくは層から前記1つ以上のC
1-C
12アルキルフェニルエーテルを抽出して、マーカー抽出物を形成することと、
前記マーカー抽出物から、前記(ii)1つ以上のC
1-C
12アルキルフェニルエーテルをクロマトグラフ分離によって分離することと、
前記マーカー抽出物中の前記(ii)1つ以上のC
1-C
12アルキルフェニルエーテルを検出することと、を含む、方法。
【請求項2】
抽出のための前記溶媒が極性である請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記検出が前記抽出物中のマーカーの量を定量的に示す、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記検出が、水素炎イオン化検出器(FID)、原子発光検出器、パルス放電ヘリウムイオン化検出器、誘電体バリア検出器、熱伝導度検出器、ヘリウムイオン化検出器及び質量選択検出器から選択される検出器を用いて行われる、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記溶媒がメタノールである、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば路面塗料で用いるためのコーティング組成物のような水性組成物をマーキングするための方法において有益なアルキルアリールエーテル化合物に関する。
【0002】
水性速乾性路面塗料は、道路の安全性を向上させるための普及した低コストの方法である。道路を担当する政府機関は、しばしば、同機関に販売される塗料中に選択されたポリマーグレードを最小レベルで使用することを指定する。しかし、同機関は、配合者が指定のポリマーグレードを所要量で実際に提供しているかどうかを確認するために苦労している。完全な分析的分離は、時間がかかり高価であり、したがって実用的ではない。このような塗料の既存のマーカーシステムには、迅速かつ簡単なものがあるが、色や蛍光などの検出技術を使用するものであり、すべての色合いで作用しないか、塗料中の他の原材料や自然発生の生成物からの干渉を受ける可能性がある。いくつかの既知の検出方法は、現像液を必要とし、これは複雑さを追加する。いくつかの検出方法は、定量的でないか、または少量のマーク材料に対して高感度でなく、これらの検出方法は、より高レベルの存在のみを検出することができるが、量は検出できない。いくつかのマーカーは、毒性のような望ましくない副作用を有し、かつ/または高用量レベルを必要とする。他のマーカーは広範囲の温度またはpH安定性を有しておらず、処理中または使用中にマーキングされた組成物から除去され得る。例えば、親水性マーカーは、乾燥組成物または乾燥膜から浸出するかまたは洗い流され得るため、適用されて硬化されたコーティングまたは塗料のような乾燥試料の識別におけるそれらの使用を制限している。コーティングまたは交通標示のような、天候の結果として、もしくは最終用途製品の繰り返しの洗い流しまたは湿潤の結果として、組成物を乾燥させることによって除去することが困難である水性ポリマー組成物のためのマーカー化合物が依然として必要とされている。
【0003】
Dow Chemicalの世界知的所有権機関公開第WO2014/081556A1号には、燃料の蒸留後にある程度検出可能であることを含めて、燃料中に検出可能な燃料マーカーとしてのアルキルフェニルエーテル(アルキル=C1-C12)分子の使用が開示されている。
【0004】
本発明者らは、組成物の外観または性能を変化させることなく、湿潤組成物及び乾燥したものまたはそれから製造されたコーティング中で検出可能である、コーティングなどの水性ポリマー組成物をマーキングするのに有用なマーカーを見出すことを試みた。
【発明の概要】
【0005】
本発明による水性組成物、例えばコーティングまたは好ましくは交通標示を製造するのに有用な組成物は、(i)1つ以上の水性ポリマー、例えばビニルもしくはアクリルエマルジョンポリマーまたはポリウレタン分散物と、(ii)式Ph(R2)m(OR1)nを有するC1-C12アルキルフェニルエーテルから選択される、1つ以上の、好ましくは2つ以上の化合物100ppb~10ppm、または好ましくは100ppb~2ppm、またはより好ましくは200ppb~1.5ppmとを含み、式中、Phは、6~9個の炭素原子を有する芳香族環含有基、例えば、フェニル基またはメチルフェニル基であり、R1はC1-C12アルキル基、または好ましくはC4-C8アルキル基であり、R2はC1-C12アルキル基であり、mは0~5、好ましくは0~1の整数であり、nは1~3の整数であり、(m+n)は1~6、または好ましくは1~3の整数である。
【0006】
本発明によれば、(i)1つ以上の水性ポリマー、例えばビニルもしくはアクリルエマルジョンポリマーまたはポリウレタン分散物を含む水性組成物は、(ii)0.01:1.0~1.0:0.01、もしくは好ましくは0.1:1~1:0.1の任意の比であり得る、既定のまたは設定比にある2つのC1-C12アルキルフェニルエーテル、または(iii)最高濃度を有するマーカーが最低濃度を有するマーカーの濃度の100倍以下で存在するような任意の比、例えば、0.01:0.01:1.0~1.0:0.01:1.0であり得る、既定のまたは設定比にある3つのC1-C12アルキルフェニルエーテル、のうちのいずれかを有する。
【0007】
本発明によれば、(i)1つ以上の水性ポリマー、例えばビニルもしくはアクリルエマルジョンポリマー、ポリウレタン分散物、または水溶液ポリマー、例えばポリアミン、重合性ポリ酸またはアルカリ可溶性ポリマーと、(ii)1つ以上のC1-C12アルキルフェニルエーテルと、を含む水性組成物は、3~12、または好ましくは7~11のpHを有する。
【0008】
本発明によれば、(i)1つ以上の水性ポリマーと、(ii)1つ以上のC1-C12アルキルフェニルエーテルと、を含む水性組成物中で、(i)1つ以上の水性ポリマーは、好ましくはビニルもしくはアクリルエマルジョンポリマー、例えばアクリルエマルジョンポリマー、またはより好ましくは重合形態のブチルアクリレートを含むアクリルエマルジョンポリマーである。
【0009】
本発明によれば、(i)1つ以上の水性ポリマーと、(ii)1つ以上のC1-C12アルキルフェニルエーテル化合物と、を含む水性組成物中で、(i)1つ以上の水性ポリマーは、アニオン性安定化エマルジョンポリマーである、ビニルもしくはアクリルエマルジョンポリマーであり、この組成物は、1つ以上のポリアミン及び1つ以上の揮発性塩基、例えばアンモニア、アルキルアミン、例えばエチルアミンアミンアルコール、または好ましくはアンモニアをさらに含む。
【0010】
本発明によれば、(ii)1つ以上のC1-C12アルキルフェニルエーテルと、(i)1つ以上の水性ポリマーとしての1つ以上のアニオン性安定化エマルジョンポリマーと、1つ以上のポリアミン及び1以上の揮発性塩基と、を含む水性組成物中で、1つ以上のポリアミンの量は、全ポリマー固形分に基づいて0.1~2重量%、または好ましくは0.25~1.5重量%固形分の範囲にある。
【0011】
本発明によれば、(i)1つ以上の水性ポリマーと、(ii)1つ以上のC1-C12アルキルフェニルエーテルと、を含む水性組成物は、1つ以上の顔料、増量剤、及び/または充填剤をさらに含む。この1つ以上の顔料、増量剤及び/または充填剤は、好ましくは、1つ以上の充填剤及び/または増量剤、好ましくは炭酸カルシウム、酸化カルシウム、シリカ、シリケート、及びそれらの組み合わせと組み合わせられた、顔料、例えば白色または不透明化顔料、好ましくは二酸化チタンを含む。本明細書で使用される場合、用語「充填剤」及び用語「増量剤」は交換可能に使用される。
【0012】
本発明によれば、(i)1つ以上の水性ポリマーと、(ii)1つ以上のC1-C12アルキルフェニルエーテルと、を含む水性組成物は、二酸エステル、リン酸エステル、イソ酪酸エステル、脂肪酸のアルキルエステル、脂肪族エーテル、脂肪族グリセリド、脂肪酸アミド、脂肪酸のアルコキシレート、付加(コ)ポリマー合体剤(addition(co)polymer coalescent)、150~300℃の標準沸点を有するエチレン及びプロピレングリコールエーテル、及びそれらの混合物から選択される1つ以上の高沸点合体剤、好ましくはイソ酪酸エステルをさらに含む。合体剤の量は、全ポリマー固形分に基づいて4.0重量%~30重量%、または好ましくは5~20重量%の範囲であり得る。
【0013】
本発明の別の態様は、(i)1つ以上の水性ポリマー、例えばビニルもしくはアクリルエマルジョンポリマーまたはポリウレタン分散物、水性溶液ポリマー、例えばポリアミン、重合性ポリ酸またはアルカリ溶解性ポリマーの水性組成物、またはそれから形成された乾燥もしくは硬化した膜、コーティングもしくは層中の、(ii)1つ以上の、または好ましくは2つ以上のC1-C12アルキルフェニルエーテルのマーカーを検出する方法であって、この方法は、溶媒、例えばキシレンまたはトルエンを使用して、水性組成物、またはそれから形成された乾燥もしくは硬化した膜、コーティング、もしくは層から、1つ以上のC1-C12アルキルフェニルエーテルを抽出して、マーカー抽出物を形成することと、このマーカー抽出物から(ii)1つ以上のC1-C12アルキルフェニルエーテルをクロマトグラフ分離によって、例えばガスクロマトグラフィー(GC)または液体クロマトグラフィー(LC)によって、分離することと、マーカー抽出物中の(ii)1つ以上の、または好ましくは2つ以上のC1-C12アルキルフェニルエーテルを、例えば質量分析法(MS)によって、検出することと、を含む。
【0014】
本発明の方法において、乾燥または硬化した膜、コーティングまたは層が基材上に形成された場合、水性組成物から形成された乾燥または硬化した膜、コーティングまたは層の抽出は、例えば膜、コーティングまたは層をまたはワイヤーブラシでスクレーピングすることによって、基材上の膜、コーティングまたは層を基材から分離または除去し、その後、得られた固形物を粉砕または微粉砕し、次いで抽出してマーカー抽出物を形成し、このマーカーを検出することを含む。
【0015】
本発明の方法において、乾燥または硬化した膜、または層が基材なしの場合、水性組成物から形成された、乾燥または硬化した膜、または層の抽出は、この乾燥または硬化した膜、または層の固形物を粉砕または微粉砕し、次いで抽出してマーカー抽出物を形成し、このマーカーを検出することを含む。
【0016】
他に示さない限り、温度及び圧力の条件は室温及び標準圧力であり、本明細書では「周囲条件」とも呼ばれる。
【0017】
本明細書において、百分率は重量パーセント(重量%)であり、温度は℃単位である。本明細書で言及される全ての沸点は、大気圧(760mm/Hg)で測定される。濃度は、重量/重量基準または重量/体積基準(mg/L)で、好ましくは重量/体積基準で計算された百万分率(「ppm」)または十億分率(「ppb」)で表される。
【0018】
単数形「a」、「an」、及び「the」は、文脈上他に明示されない限り、複数の指示対象を含む。
【0019】
括弧を含むすべての句は、括弧内の事項を含むか及びそれがないかのいずれかまたは両方を示す。例えば、「(メタ)アクリレート」という語句は、選択的に、アクリレート及びメタクリレートを含む。
【0020】
本明細書で使用される場合、用語「酸モノマーまたはアニオンモノマー」は、酸またはアニオン形態(COO-)のいずれかのエチレン性不飽和カルボン酸モノマーを意味する。
【0021】
本明細書で使用される場合、用語「アルカリ可溶性ポリマー」は、8~14のpHで可溶性である水性ポリマーを意味し、例えば、ポリマーを製造するのに使用されるモノマーの全重量を基準にして10~50重量%のエチレン性不飽和カルボン酸またはその塩のアクリルポリマー及びビニルポリマーを意味する。
【0022】
本明細書で使用される場合、用語「アルキル」基は、直鎖、分枝または環状配置で1~22個の炭素原子を有する置換または非置換の飽和ヒドロカルビル基である。1つ以上のOH基またはアルコキシ基のアルキル基上の置換が可能であり、他の基は、本明細書の他の場所で指定された場合に可能であってよい。好ましくは、アルキル基は置換されていない。好ましくは、アルキル基は直鎖または分岐鎖である。
【0023】
本明細書で使用される場合、用語「アルケニル」基は、少なくとも1つの炭素-炭素二重結合を有するアルキル基である。好ましくは、アルケニル基は、1つまたは2つの炭素
-炭素二重結合、好ましくは1つを有する。
【0024】
本明細書で使用される場合、用語「水性」は、水、または周囲条件下で揮発性である水混和性溶媒を16重量%まで、または6重量%まで、または好ましくは0.5重量%まで混合した水、例えば低級アルカノールを意味する。
【0025】
本明細書中で使用される場合、用語「キャピラリーカラム」は、内径75~750μm、好ましくは100~550μm、例えば150~350μm及び長さ5~100m、好ましくは7~60mを有するガスクロマトグラフ法に適したカラムである。
【0026】
本明細書中で使用される場合、他に示されない限り、用語「エマルジョンポリマー」は
、水性エマルジョン重合によって製造されるポリマーを指す。
【0027】
本明細書中で使用される場合、エチレン性不飽和カルボン酸モノマーとは、アクリル酸、メタクリル酸、β-アクリルオキシプロピオン酸、エタクリル酸、α-クロロアクリル酸、α-ビニルアクリル酸、クロトン酸、α-フェニルアクリル酸、ケイヒ酸、クロロケイヒ酸、β-スチリルアクリル酸、マレイン酸、イタコン酸、シトラコン酸、及びそれらの塩を指す。
【0028】
本明細書で使用される場合、用語「(メタ)アクリレート」は、アクリレート、メタクリレート及びそれらの混合物を意味し、本明細書で使用される用語「(メタ)アクリル」は、アクリル、メタクリル及びそれらの混合物を意味する。
【0029】
本明細書で使用される場合、用語「フェニル」基は、フェノールまたは他の芳香族炭化水素化合物から誘導される置換基である。フェニル基は、特記しない限り、合計6個の環原子を有し、1個の環を有する。
【0030】
本明細書で使用される場合、用語「重合性ポリ酸」は、エチレン性不飽和カルボン酸モノマーまたはその塩のポリマー及びコポリマーを指し、このコポリマーは、重合形態で、ポリマーを製造するために使用されるモノマーの全重量に基づいて少なくとも80重量%または好ましくは少なくとも90重量%のエチレン性不飽和カルボン酸モノマーまたはその塩を含む。
【0031】
本明細書で使用される場合、用語「全ポリマー固形分」または「ポリマー固形分」は、水性組成物中の1つ以上のビニルもしくはアクリルエマルジョンポリマー及びポリウレタンまたはポリウレタンプレポリマーの全固形分を意味する。
【0032】
本明細書で使用される場合、用語「道路」は、歩行者、移動車両、トラクタ、または航空機によって絶えずまたは断続的に走行されるかまたは走行され得る任意の屋内または屋外の固体表面を含む。「道路」のいくつかの非限定的な例には、高速道路、通り、進路、歩道、滑走路、タクシー区域、ターマック区域、駐車場が含まれる。
【0033】
本明細書中で使用される場合、表現「wt%」は重量%を表す。
【0034】
本発明は、水性ポリマー組成物、例えば、交通用塗料、コーティングなどの使用者、製造者及び販売者のための、彼らが購入、転売、使用または見いだすポリマー組成物の源及び同一性を迅速に高レベルの感度で検出する方法を提供する。使用者、製造者及び販売者は、それらが入手される時期または方法にかかわらず、水性ポリマー組成物の源及び同一性を確認することができる。政府機関及びその他の場合、本発明は品質検証を可能にする。他の製造者、使用者及び販売者にとって、本発明は、第三者及び顧客がどのような水性ポリマー組成物を使用しているかを決定する方法を提供する。検出は、例えばGC/MSを用いて行うことができる。効果的に試験することができる組成物は、既に塗布された塗料またはコーティングまたは既に形成された膜、層または成形品のような水性及び乾燥または硬化組成物の両方を含む。マーカーの濃度が低いこと(100ppbまで低下)は、臭気やこれらの組成物で作られたコーティングなどの最終製品の性能または外観に影響を及ぼす他の方法を導入することなく水性ポリマー組成物の個々のマーキングを可能にする。
【0035】
本発明は、水性ポリマー組成物のマーキング方法を提供し、この方法は、(ii)1つ以上の、または好ましくは1つ以上のC1-C12アルキルフェニルエーテル化合物を水性ポリマー組成物に添加することを含む。好適な水性ポリマー組成物は、例えば、結合剤、コーティング添加剤、ポリマー分散液(すなわち、HYPODなど)、及び他の水性エマルジョンまたは分散ポリマーであってよい。
【0036】
(ii)C1-C12アルキルフェニルエーテルは、水性ポリマー組成物が形成されている間に、例えば重合中に、またはその後、例えば配合中に単に添加することができる。
【0037】
(i)1つ以上の水性ポリマーと、(ii)1つ以上のC1-C12アルキルフェニルエーテルと、を含む水性組成物は、従来の添加剤を任意に含んでもよい。
【0038】
1つ以上の(ii)C1-C12アルキルフェニルエーテルは、水性ポリマー組成物中に直接的に入れられてもよく、あるいは、他の材料、例えば、顔料、充填剤もしくは着色剤、分散剤、界面活性剤、消泡剤、レオロジー調整剤などを含む添加剤パッケージに入れられ、この添加剤パッケージが水性ポリマー組成物に添加される。
【0039】
交通標示を作成するのに使用するための本発明の水性ポリマー組成物において、充填剤、増量剤及び/または顔料の好適な濃度は、ポリマー、合体剤、充填剤、増量剤及び顔料の全固形分の50~90重量%、好ましくは60~85重量%の範囲にあってよい。
【0040】
本発明の水性ポリマー組成物は、充填剤、増量剤及び/または顔料を含まなくてもよく、クリアコート及びカスタム配合物に使用するためにはポリマーバインダー、例えばエマルジョンポリマーまたはポリウレタン分散剤であってもよい。
【0041】
本発明に使用するのに適したビニルもしくはアクリルポリマーは、広範囲の好適な付加重合可能なエチレン性不飽和モノマー、例えば、非イオン性エチレン性不飽和モノマー、例えば、スチレン、ビニルトルエン及びα-メチルスチレンのようなアリーレン、ブタジエン、オレフィン、ビニルエステル、ビニルハライド、塩化ビニリデン、(メタ)アクリロニトリル、(メタ)アクリル酸のC1-C40アルキルエステル例えばメチル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート酸及び他の(メタ)アクリレート類、を含むモノマーから、調製できる。
【0042】
本発明のビニルまたはアクリルポリマーは、付加重合性モノマーの通常の乳化重合、例えば熱開始剤またはレドックス開始剤及び1つ以上の界面活性剤の存在下で形成することができる。
【0043】
本発明のアニオン的に安定化されたエマルジョンポリマーは、1つ以上のアニオン性界面活性剤を含むか、または共重合形態で、エチレン性不飽和カルボン酸モノマーまたはその塩、例えばアクリル酸、またはその両方を含むエマルジョンポリマーである。
【0044】
水感受性を制限するために、本発明のアニオン的に安定化されたエマルジョンポリマーは、全てのモノマーの全重量を基準にして、18重量%以下、または好ましくは4重量%以下、または好ましくは2重量%以下のエチレン性不飽和カルボン酸モノマーまたは共重合された形態の塩を含む。
【0045】
水感受性を制限するために、本発明のアニオン的に安定化されたエマルジョンポリマーは、1つ以上のアニオン性界面活性剤を4質量%以下、好ましくは2質量%以下含むことができる。
【0046】
本発明の化合物(ii)は、当該技術分野で既知の方法、例えば、アリールオキシド塩をハロゲン化アルキルと反応させて、アリールアルキルエーテルを形成することによって、調製することができる。
【0047】
(ii)本発明の1つ以上のC1-C12アルキルフェニルエーテルマーカーは、UV及び熱安定性であり、周囲使用条件及び大気圧で最大80℃の温度でほとんどまたは全く揮発性を提供しない。
【0048】
(ii)本発明の1つ以上のC1-C12アルキルフェニルエーテルをマーカーとして使用する場合、好ましくはマーキングすべき水性ポリマー組成物に添加される各化合物の最小量は、少なくとも100ppb、または好ましくは少なくとも1,000ppb、または好ましくは少なくとも2,000ppbである。好ましくは、各マーカーの最大量は10ppm、好ましくは5ppm以下、より好ましくは2ppm以下である。好ましくは、マーカー化合物の最大総量は20ppm、好ましくは10ppm、より好ましくは2ppmである。
【0049】
好ましくは、(ii)本発明の1つ以上のC1-C12アルキルフェニルエーテルは、マーキングされた水性ポリマー組成物において視覚的手段によって検出可能ではなく、すなわち、それがマーカー化合物を含有することによる、色または他の特性の肉眼での目視観察によって決定することは不可能である。好ましくは、マーカー化合物は、それが添加される水性ポリマー組成物中に、ポリマー自体の成分として、またはその中に使用される添加剤のいずれかとして通常は存在しないものである。
【0050】
好ましくは、1つより多くのマーカー化合物が存在する。複数のマーカー化合物の使用は、水性ポリマー組成物の起源及び他の特性を識別するために使用することができるコード化された情報の水性ポリマー組成物への組み込みを容易にする。このコードは、マーカー化合物の同一性及び相対量、例えば固定された整数比を含む。1つ、2つ、3つまたはそれ以上のマーカー化合物を用いてコードを形成することができる。本発明によるマーカー化合物は、他のマーカーと組み合わせることができる。
【0051】
本発明の組成物によれば、(ii)C1-C12アルキルフェニルエーテルマーカーの2つ以上を、様々な所定の比率で使用することができる。マーカーの組み合わせは、マーキングした製品のコードを形成する量の比率を用いて、デジタルマーキングシステムとして使用することができる。さらなるマーカーとして有用な化合物は、利用可能なコードを最大にすることが望ましい。したがって、本発明は、所定の水性ポリマー組成物が所与のプロジェクトで使用されたことをエンドユーザーまたは取締機関の検証に提供するために広く使用することができる。
【0052】
好ましくは、マーカー化合物は、クロマトグラフィー技術、例えばガスクロマトグラフィー法、液体クロマトグラフィー法、薄層クロマトグラフィー法、ペーパークロマトグラフィー法、吸着クロマトグラフィー法、アフィニティークロマトグラフィー法、キャピラリー電気泳動法、イオン交換及び分子排除クロマトグラフィー法などを用いて水性ポリマー組成物の成分から少なくとも部分的に分離することによって検出される。クロマトグラフィー法の後に、(i)質量スペクトル分析法、及び(ii)UV分光光度法などのスペクトル分析法の少なくとも1つが続く。マーカー化合物の同一性は、好ましくは、質量スペクトル分析によって決定される。
【0053】
好ましくは、化合物は、2次元ガスクロマトグラフィーを用いて、好ましくは2つのGC分離において異なるカラムを用いて、マーキングした液体から少なくとも部分的に分離される。好ましくは、分離を行わずに水性ポリマー組成物中のマーカー化合物を検出するために質量スペクトル分析が使用される。あるいは、マーカー化合物は、分析の前に、例えば水性ポリマー組成物を乾燥させることによって濃縮することができる。
【0054】
さらに、水性ポリマー組成物中のマーカー化合物を検出するためのガスクロマトグラフィー法は、(a)水性ポリマー組成物から有機溶媒、好ましくはキシレンで溶媒抽出することによりマーカーを抽出することと、(b)好ましくはポリシロキサン固定相で被覆された開放管状カラムである第1のキャピラリーカラムに試料を注入し、試料を第1のキャピラリーカラムに流して第1の溶出液流を生成させることと、(b)第1の流出液流を検出器に通過させ、第1の溶出液流中のマーカー化合物の保持時間を含む保持時間範囲を特定することと、(c)保持時間範囲内にある第1の溶出液流の一部分のみを、(i)イオン性吸着剤、または(ii)ポリエチレングリコールで被覆された開放管状カラムである第2のキャピラリーカラムに導入し、該一部分を第2のキャピラリーカラムに流して第2の溶出液流を生成させることと、(d)第2の溶出液流を検出器に通過させることと、を含む。
【0055】
好適な検出器は、マーカーを検出することができる任意のものであり得る、好ましくは水素炎イオン化検出器(FID)、原子発光検出器、パルス放電ヘリウムイオン化検出器、誘電体バリア検出器、熱伝導度検出器、ヘリウムイオン化検出器、質量選択検出器(例えば、質量分析計(MS))であり、好ましくはFIDまたはMSである。
【0056】
好ましくは、質量分析計が検出器として使用される場合、カラム直径は400μm以下、好ましくは350μm以下、または好ましくは330μm以下である。好ましくは、キャピラリーカラムは、ポリイミドでコーティングされた溶融シリカガラスまたは不動態化金属から作られる。
【0057】
好ましくは、ガスクロマトグラフに注入される水性ポリマー組成物試料の量は、0.2~5μl、好ましくは0.5~3μl、好ましくは0.8~2μlである。好ましくは、注入は、第1カラムに送られる量に対する総注入の比が25:1~15:1、好ましくは約20:1となるように分割される。好ましくは、第1のカラムのオーブン温度は、最初は25~200℃、好ましくは50~150℃、好ましくは40~100℃であり、次いで300~450℃、好ましくは325~425℃、好ましくは350~400℃である。好ましくは、第2カラムのオーブン温度は、第1カラムのオーブン温度と同じプロファイルに従う。好ましくは、キャリアガス(好ましくはヘリウム)流速は0.2~5mL/分、好ましくは0.5~4mL/分、好ましくは0.5~2mL/分である。当業者であれば、上記のパラメータは相互に関連しており、個々に重要ではないが、それらを一緒に調節して所望の化合物の最適な分離を達成できることを理解するであろう。
【0058】
好ましくは、イオン吸着剤は、無機塩または無機塩の混合物である。好ましくはナトリウムまたはカリウムまたはバリウム塩またはそれらの混合物;好ましくは硫酸ナトリウム、硫酸カリウム、硫酸バリウム、ナトリウム、カリウムまたはバリウムの塩化物、またはそれらの混合物である。特に好ましいイオン吸着剤としては、硫酸ナトリウム、硫酸カリウム、塩化バリウム、硫酸バリウムまたはそれらの混合物、好ましくは硫酸バリウムまたは硫酸カリウムが挙げられる。
【0059】
好ましくは、ポリエチレングリコールは10,000~30,000、好ましくは15,000~25,000の数平均分子量を有する。特に好ましいポリエチレングリコールは、CARBOWAX 20Mである。好ましくは、質量分析計が検出器として使用される場合、第2のカラムはポリエチレングリコールカラムである。
【実施例】
【0060】
ブチルフェニルエーテル(BPE)マーキング配合物中の水性ポリマー組成物の調製: BPEをTexanol(商標)イソブチレートエーテル高沸点可塑剤(Eastman Chemical,Kingsport,TN)に濃度1,000ppmで溶解させた。マーカー溶液をアクリル系エマルジョンポリマーバインダー(アニオン安定化BA/MMAエマルジョンコポリマー、固形分50.5重量%)に添加して、全水性組成物に基づいて1ppmのマーカー濃度を得た。この結合剤を分割し、半分をオーブンの中に60℃で10日間置き、結合剤を熱老化させ(実施例2)、他方の半分を室温で貯蔵した(実施例1)。
【0061】
抽出条件:
熱老化させた配合物及び対照配合物の両方を、キシレンを用いて抽出した。1mLのマーキングされた配合物を、20mLのバイアル中の10mLのキシレンと混合した。溶液を30分間振とうした。1.5mLの溶媒相を次に遠心バイアルに移し、35,000rpmで20分間遠心分離した。GC/MS分析のために上清をオートサンプラーバイアルに移した。
【0062】
GC/MS条件:
下記の表1に記載されている、質量選択検出器を備えたハートカッティング二次元GCシステムを実施例で使用した。
【0063】
【0064】
メタノール、キシレン及びヘキサンを含む3つの抽出溶媒を、基質として実施例1の組成物を使用して異なる溶媒対試料比で調査した。キシレン抽出では、表2に示すように、ほぼ100%のマーキングされたBPEが検出された。他の溶媒もまた許容される結果をもたらし、このことは、マーカー分子及び検出方法の柔軟性を示す。下記の表3に示すように、室温試料及び熱老化した試料において差異は何ら検出されず、マーカーの良好な安定性及び本方法の良好な再現性を実証している。
【0065】
【0066】
実施例1及び実施例2の水性ポリマー組成物(熱老化)中のマーカーを抽出し、下記の表3に示すように検出した。
【0067】
【0068】
上記の表3に示すように、マーカーは、実施例1の水性ポリマー組成物及び実施例2の熱老化した水性ポリマー組成物の両方において容易に検出された。したがって、本発明のマーカーC1-C12アルキルフェニルエーテルは、それらが長期間後に試験され得るように、水性ポリマー組成物中での使用に望ましい安定性を提供する。