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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-18
(45)【発行日】2022-11-29
(54)【発明の名称】回転部潤滑装置
(51)【国際特許分類】
   F16H 57/04 20100101AFI20221121BHJP
【FI】
F16H57/04 P
F16H57/04 J
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2018130650
(22)【出願日】2018-07-10
(65)【公開番号】P2020008110
(43)【公開日】2020-01-16
【審査請求日】2021-06-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000005348
【氏名又は名称】株式会社SUBARU
(74)【代理人】
【識別番号】110003410
【氏名又は名称】弁理士法人テクノピア国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100116942
【弁理士】
【氏名又は名称】岩田 雅信
(74)【代理人】
【識別番号】100167704
【弁理士】
【氏名又は名称】中川 裕人
(72)【発明者】
【氏名】小林 宏臣
【審査官】鷲巣 直哉
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-145408(JP,A)
【文献】特開2006-308010(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 57/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両における動力源からの動力を受けて回転する回転部が配置されると共に、供給される潤滑油を貯留して前記回転部の少なくとも一部を油没させる貯留室と、
前記回転部の回転数に応じて、前記貯留された潤滑油についての排油のための取り込み位置の高さを変化させる排油調整部と、を備えると共に、
前記貯留された潤滑油を前記貯留室外部に排出する排油孔を備え、
前記排油調整部は、
前記排油孔より排出すべき潤滑油を前記貯留された潤滑油から取り込む取込孔が形成された可動部材を有し、前記可動部材が、前記回転部の掻き上げた潤滑油を受けて動くことにより前記取込孔の高さ位置が変化する
回転部潤滑装置。
【請求項2】
前記可動部材は、
前記回転部における回転体の回転軸と略平行な回転軸により回転することが可能に設けられると共に、軸直交方向に突出された受油部が形成されている
請求項に記載の回転部潤滑装置。
【請求項3】
前記可動部材は、少なくとも前記受油部が浮力を有する
請求項に記載の回転部潤滑装置。
【請求項4】
前記排油調整部は、
前記取込孔の上限位置を規制するように前記可動部材の動きを規制する第一規制部を有する
請求項乃至請求項の何れかに記載の回転部潤滑装置。
【請求項5】
前記排油調整部は、
前記取込孔の下限位置を規制するように前記可動部材の動きを規制する第二規制部を有する
請求項乃至請求項の何れかに記載の回転部潤滑装置。
【請求項6】
前記可動部材が弾性変形可能な部材とされた
請求項乃至請求項の何れかに記載の回転部潤滑装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両における動力源からの動力を受けて回転する回転部が配置されると共に、供給される潤滑油を貯留して回転部の少なくとも一部を油没させる貯留室を備えた回転部潤滑装置についての技術分野に関する。
【背景技術】
【0002】
車両の動力伝達装置には、例えばエンジン等の動力源からの動力を受けて回転する回転部が多数設けられている。例えば、各種のギヤや、CVT(Continuously Variable Transmission)におけるプーリ等を挙げることができる。各種のギヤの一例としては、動力伝達装置を動作させるための作動油や潤滑油の油圧源として用いられるオイルポンプの駆動ギヤ等を挙げることができる。
【0003】
ここで、動力伝達装置のオイルポンプに対しては、上記の駆動ギヤの少なくとも一部を油没させるために潤滑油を貯留する貯留室を備えた回転部潤滑装置が設けられる場合がある。
図8は、従来例としての回転部潤滑装置100の構成を説明するための図である。
オイルポンプは、例えば内接歯車式のオイルポンプとされ、内歯車に連結された駆動シャフト101と、駆動シャフト101に連結された駆動ギヤ102とを有している。駆動ギヤ102には、エンジン等の動力源により回転駆動される入力シャフト103からの動力がチェーン104を介して伝達される。これにより駆動ギヤ102が回転駆動されてオイルポンプがポンプ動作を行う。
【0004】
回転部潤滑装置100は、内部に駆動シャフト101の一部及び駆動ギヤ102と、入力シャフト103の一部と、チェーン104とが配置された貯留室105を備えている。貯留室105の室壁には、貯留室105に潤滑油を供給するための給油孔106と、貯留された潤滑油を貯留室105外部に排出するための排油孔107とが形成されている。
【0005】
上記構成による回転部潤滑装置100においては、貯留室105に貯留される潤滑油の油面高さは、概ね排油孔107の高さ位置に調整される。
【0006】
なお、関連する従来技術については下記特許文献1~3を挙げることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2015-212571号公報
【文献】特開2012-67839号公報
【文献】特開2009-275886号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ここで、オイルポンプが動作し始める際、すなわち駆動ギヤ102が低回転のときは、駆動シャフト101等の回転部品が焼き付くことの防止を図るべく、潤滑油の量は多い方が望ましい。一方で、駆動ギヤ102が高回転とされたときは、潤滑油の量が多いと攪拌抵抗の増大によりオイルポンプの駆動効率低下を招く。
図9では、低回転時に理想的な油面高さH1と高回転時に理想的な油面高さH2とを例示している。
【0009】
しかしながら、従来の回転部潤滑装置100では、上述のように貯留室105における油面高さは排油孔107の高さ位置に依存する。
このため油量を低回転時と高回転時との双方で適正化することが困難とされる。
【0010】
本発明は上記事情に鑑み為されたものであり、回転部の低回転時における潤滑油不足による回転部構成部品の焼き付き防止と、高回転時における油攪拌抵抗による回転部の駆動効率低下防止との両立を図ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係る回転部潤滑装置は、車両における動力源からの動力を受けて回転する回転部が配置されると共に、供給される潤滑油を貯留して前記回転部の少なくとも一部を油没させる貯留室と、前記回転部の回転数に応じて、前記貯留された潤滑油についての排油のための取り込み位置の高さを変化させる排油調整部と、を備えるものである。
【0012】
これにより、回転部の回転数に応じて貯留室の油面高さを調整可能とされる。具体的には、回転部の低回転時には取り込み位置を高くして油面高さを高くし、高回転時には取り込み位置を低くして油面高さを低くする調整を行うことが可能とされる。
【0013】
上記した本発明に係る回転部潤滑装置においては、前記貯留された潤滑油を前記貯留室外部に排出する排油孔を備え、前記排油調整部は、前記排油孔より排出すべき潤滑油を前記貯留された潤滑油から取り込む取込孔が形成された可動部材を有し、前記可動部材が、前記回転部の掻き上げた潤滑油を受けて動くことにより前記取込孔の高さ位置が変化する構成とすることが可能である。
【0014】
これにより、排油のための取り込み位置の高さを変化させるにあたり、可動部材を回転部の回転数に応じて駆動するためのアクチュエータ等の部品を追加する必要がなくなる。
【0015】
上記した本発明に係る回転部潤滑装置においては、前記可動部材は、前記回転部における回転体の回転軸と略平行な回転軸により回転することが可能に設けられると共に、軸直交方向に突出された受油部が形成された構成とすることが可能である。
【0016】
これにより、回転部の掻き上げた潤滑油の飛散態様が回転数に応じて変化することに伴い、受油部が受ける油の量や圧を変化させることが可能とされる。すなわち、回転部の回転数に応じて可動部材の回転角を変化させ、取込孔の高さ位置を変化させることが可能とされる。
【0017】
上記した本発明に係る回転部潤滑装置においては、前記可動部材は、少なくとも前記受油部が浮力を有する構成とすることが可能である。
【0018】
貯留室における油面は常時水平ではなく、車両走行等の要因により一時的に上下変動し得る。回転部が高回転から低回転となり受油部が受ける油の量や圧が低下した状態において、車両走行等に起因して一時的にでも油面上昇が起きると、浮力を有する受油部は油面上昇に応じて浮上し、これに伴い可動部材が低回転→高回転への変化時とは逆方向に回転される。すなわち、回転部が低回転の状態において、取込孔の位置を自動的に上昇させることが可能とされる。
【0019】
上記した本発明に係る回転部潤滑装置においては、前記排油調整部は、前記取込孔の上限位置を規制するように前記可動部材の動きを規制する第一規制部を有する構成とすることが可能である。
【0020】
これにより、低回転時に対応した潤滑油の貯留量が所定量を超えないように図られる。
【0021】
上記した本発明に係る回転部潤滑装置においては、前記排油調整部は、前記取込孔の下限位置を規制するように前記可動部材の動きを規制する第二規制部を有する構成とすることが可能である。
【0022】
これにより、高回転時に対応した潤滑油の貯留量が所定量を超えないように図られる。
【0023】
上記した本発明に係る回転部潤滑装置においては、前記可動部材が弾性変形可能な部材とされた構成とすることが可能である。
【0024】
これにより、可動部材を貯留室の室壁等の所定位置に対して動作自在に係止させるための手法として、可動部材の弾性変形を利用した係止手法を採ることが可能とされる。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、回転部の低回転時における潤滑油不足による回転部構成部品の焼き付き防止と、高回転時における油攪拌抵抗による回転部の駆動効率低下防止との両立を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】本発明に係る実施形態としての回転部潤滑装置のカットモデルを示した図である。
図2】実施形態としての回転部潤滑装置が備える可動部材の取付部近傍の構成例を示した図である。
図3】取付部に可動部材を取り付けた様子を表した図である。
図4図3に示すA-A’断面の断面図である。
図5図3に示すB-B’断面の断面図である。
図6】回転部の低回転時に対応した作用についての説明図である。
図7】回転部の高回転時に対応した作用についての説明図である。
図8】従来例としての回転部潤滑装置のカットモデルを示した図である。
図9】低回転時、高回転時それぞれにおける理想的な油面高さを例示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、添付図面を参照して本発明に係る実施形態としての回転部潤滑装置1について説明する。
図1は、回転部潤滑装置1の構成例を説明するための図であり、回転部潤滑装置1を車両の前後方向における所定位置で垂直方向に切断した際のカットモデルを示している。また、図2は、排油調整部3における可動部材4を取り付けるための取込部21近傍の構成例を示した図である。
【0028】
実施形態の回転部潤滑装置1は、車両における動力伝達装置、具体的にはトランスミッションの油圧回路に作動油を吐出するオイルポンプに対して設けられており、該オイルポンプの回転部についての潤滑を行う。
ここで、回転部潤滑装置1が設けられるオイルポンプは、例えば内接歯車式のオイルポンプとされ、内歯車に連結された駆動シャフト101と、駆動シャフト101に連結された駆動ギヤ102とを有している。駆動ギヤ102には、車両が有するエンジン等の動力源からの動力を受けて回転する入力シャフト103からの動力がチェーン104を介して伝達される。これにより駆動ギヤ102が回転駆動されてオイルポンプがポンプ動作を行う。
本例では、入力シャフト103、駆動シャフト101、及び駆動ギヤ102の回転軸は車両の前後方向に略平行とされている。入力シャフト103の回転方向は図1に示す正面視(車両前方側から後方側に向く視点)で時計回り方向とされ、従って駆動シャフト101及び駆動ギヤ102の回転方向も時計回り方向とされる。
【0029】
回転部潤滑装置1は、外筐としての金属製のケース2と、ケース2に形成された給油孔106及び排油孔107(図2参照)と、ケース2内に設けられた排油調整部3とを備えている。
ケース2は、内部空間が貯留室105として形成され、貯留室105には、駆動シャフト101の一部及び駆動ギヤ102と、入力シャフト103の一部と、チェーン104とが配置されている。貯留室105は、給油孔106から供給される潤滑油を貯留し、駆動シャフト101、駆動ギヤ102、入力シャフト103、及びチェーン104で構成される回転部108の少なくとも一部を油没させる。本例では、貯留室105は、少なくとも駆動ギヤ102の下端部を油没させることが可能に構成されている。
【0030】
ケース2は、貯留室105を形成する室壁として、回転部108を左側、右側、上側、下側からそれぞれ覆う左室壁、右室壁、上室壁、下室壁の四つの室壁と、回転部108を前側から覆うと共に入力シャフト103を軸支する前室壁と、回転部108を後側から覆うと共に駆動シャフト101を軸支する後室壁との計六つの室壁を有している。ここで、これら室壁のうち後室壁のことを「壁部20」と表記する。
【0031】
給油孔106は、壁部20を前後方向に貫通する孔とされ、壁部20の左上端部に位置されている。給油孔106には、トランスミッションに形成された不図示の油圧回路を経由して潤滑油が供給される。
【0032】
排油孔107(図2参照)は、給油孔106と同様に壁部20を前後方向に貫通する孔とされ、壁部20の右下端部に位置されており、貯留室105に貯留された潤滑油をケース2外部、すなわち貯留室105外部に排出する。
【0033】
排油調整部3は、回転部108の回転数に応じて、貯留室105に貯留された潤滑油についての排油のための取り込み位置の高さを変化させる。本例において、排油調整部3は、可動部材4と、第一規制部23と、第二規制部24とを有して構成されている。
【0034】
可動部材4は、略円盤状の外形を有する本体部40と、本体部40を前後方向に貫通し貯留室105に貯留された潤滑油を排油のために取り込む取込孔41と、本体部40に連接され本体部40から外周方向に突出された板状の受油部42と、本体部40に連接され本体部40から外周方向に突出された規制凸部43とを有している。
取込孔41は、本体部40における外周寄りとなる位置に形成されている。
受油部42は、本体部40の径方向に平行な面に対して厚み方向が直交している。これにより、後述するように回転部18が貯留された潤滑油を掻き上げたとき、飛散される潤滑油についての受油面積が大きくなるように図られている。
規制凸部43は、本例では、突出方向が受油部42とは逆向きとされている。
【0035】
本例において、可動部材4は、弾性変形可能な例えば樹脂製の部材とされ、壁部20に形成された取付部21に対し、回転自在に取り付けられる。ここで、可動部材4の回転軸は、本例では回転部108における駆動ギヤ102等の回転体の回転軸と平行とされている。このとき、可動部材4の回転軸は上記回転体の回転軸と厳密に平行である必要はなく、略平行であればよい。
また本例において、可動部材4は、回転部108の右側、具体的には駆動ギヤ102の右側に配置されている。後の説明から理解されるように、可動部材4を回転部108の右側、左側の何れに位置させるかは、回転部108の回転方向に依る。
なお、可動部材4の取り付けに係る構成については以降で改めて説明する。
【0036】
また、本例の可動部材4は、少なくとも受油部42が潤滑油に対する浮力を有している。本例では、可動部材4は全体が同一の樹脂材料で構成されており、全体において潤滑油に対する浮力を有している。
【0037】
第一規制部23は、取込孔41の上限位置を規制するように可動部材4の動きを規制する。第二規制部24は、取込孔41の下限位置を規制するように可動部材4の動きを規制する。
本例では、第一規制部23、第二規制部24は、共に可動部材4における規制凸部43に対するストッパとして設けられており、規制凸部43が当接することで可動部材4の動き(回転角)を規制する。
これら第一規制部23、第二規制部24は、本例では壁部20の一部を前方に突出させた凸部として形成されている。このため、可動部材4の動きを規制するにあたり、追加部品を設けることが不要とされている。
【0038】
図2に示すように、取付部21は、摺動凹部21aと、係止凹部21bとを有している。摺動凹部21aは、壁部20に形成された略輪状の凹部とされ、係止凹部21bは、摺動凹部21aよりも内周において開口され、摺動凹部21aよりもさらに後方に凹んだ略輪状の凹部として壁部20に形成されている。
【0039】
また、本例では、取付部21の一部には、略半月状の連絡溝22が形成されている。連絡溝22は、摺動凹部21bよりも後方側に凹んだ溝部として壁部20に形成されており、摺動凹部21aの最外周よりも内周側で且つ係止凹部21bの最外周よりも外周側に位置されている。
連絡溝22の下端部には排油孔107が形成されている。連絡溝22は、可動部材4における取込孔41から取り込まれた潤滑油を排油孔107に導くための溝部として機能する。
【0040】
図3は、取付部21に対し可動部材4を取り付けた際の様子を示しており、図中の破線により可動部材4に対する連絡溝22や排油孔107等の位置関係を示している。
また、図4は、図3に示すA-A’断面の断面図を、図5図3に示すB-B’断面の断面図をそれぞれ示している。
【0041】
可動部材4の本体部40には、受油部42や規制凸部43よりも後方側に突出された摺動凸部40aと、摺動凸部40aの中央部においてさらに後方に突出された係止凸部40bとが形成されている。
【0042】
係止凸部40bは、前寄り、すなわち摺動凸部40a寄りの根元部の径よりも、後端部の径が大きくされている。そして、取付部21における係止凹部21bは、入り口側(前側)の開口径が小さく、奥側(後側)の開口径が大きくされている。
また、可動部材4の本体部40において、係止凸部40bの内周部は前側に凹んでおり空洞Sとされている。
【0043】
可動部材4の取付部21への取り付けは、樹脂製とされた可動部材4の弾性変形(特に係止凸部40bの弾性変形)を利用して、係止凸部40bを係止凹部21bに対して係止させることで行われる。このとき、空洞Sが形成されていることで係止凸部40bが内周側に傾斜可能とされ、係止の容易性(取り付けの容易性)が高められている。
上記のように係止凸部40bが係止凹部21bに係止され、可動部材4が取付部21に対し取り付けられた状態では、係止凹部21bの中心軸を回転軸として可動部材4が回転自在とされる。この場合、可動部材4の回転軸は、回転部108における回転体の回転軸と略平行である。また、この場合、受油部42は、可動部材4における軸直交方向に突出していると言うことができる。
【0044】
可動部材4の回転角は、図1図2に示した第一規制部23と第二規制部24とによって所定の回転角範囲内に規制され、該回転角範囲内では、図5に示すように、可動部材4に形成された取込孔41と連絡溝22とが連通状態を維持する。換言すれば、取込孔41から取り込まれた潤滑油を連絡溝22を通じて排油孔107より排出可能な状態で維持される。
【0045】
ここで、給油孔106から潤滑油が供給され、貯留室105内に或る程度の潤滑油が貯留された状態において回転部108が回転すると、回転部108によって貯留された潤滑油の一部が掻き上げられる。
図6では、回転部108が掻き上げた潤滑油の飛散態様を破線矢印DLと実線矢印DHにより模式的に表している。
オイルポンプが回転を開始した直後であって、回転部108が低回転のときには、回転部108による潤滑油の掻き上げ力が弱く、図中の破線矢印DLで表すように、飛散される潤滑油の殆どは可動部材4における受油部42に到達しない。すなわち、受油部42における受油量が少なく、また受油圧も低い。
この状態では、可動部材4は規制凸部43が第一規制部23近傍に位置する状態となり、取込孔41は上限位置近傍に位置される。すなわち、低回転時においては、貯留された潤滑油についての排油のための取り込み位置の高さが高くされ、貯留された潤滑油の油面高さは図中H1と表すように高くされる。
【0046】
一方、回転部108が高回転となった場合には、回転部108による潤滑油の掻き上げ力が強まることで、例えば図中の実線矢印DHで表すように、飛散される潤滑油がダイレクトに受油部42に到達する等、受油部42における受油量や受油圧は、低回転時と比較して多く、また高くなる。
この状態では、例えば図7に示すように、可動部材4は回転部108の回転方向と同方向に回転され、これに伴い、取込孔41の位置が低くなる。このとき、回転部108の回転数が一定数以上に高まり、受油部42における受油量や受油圧が一定量以上に多く、また一定圧以上に高まった場合には、可動部材4の回転角が規制凸部43と第二規制部24により規制され、取込孔41の位置が下限位置で維持される。すなわち本例では、取込孔41の高さ位置が排油孔107の高さ位置と一致した状態を維持する。
このように高回転時には、貯留された潤滑油についての排油のための取り込み位置の高さが低くされ、貯留された潤滑油の油面高さは図中H2と示すように低回転時よりも低くされる。
【0047】
ここで、図7に示すような高回転の状態から回転部108の回転数が低下した際には、受油部42が浮力が有していることで、可動部材4が低回転→高回転への変化時とは逆方向に回転することが可能とされている。
貯留室105における油面は常時水平ではなく、車両走行等の要因により一時的に上下変動し得る。回転部108が高回転から低回転となり受油部42が受ける油の量や圧が低下した状態において、車両走行等に起因して一時的にでも油面上昇が起きると、浮力を有する受油部42は油面上昇に応じて浮上し、これに伴い可動部材4が低回転→高回転への変化時とは逆方向に回転される。すなわち、回転部108が低回転の状態において、取込孔41の位置を自動的に上昇させることが可能とされる。
このとき、第一規制部23が設けられていることで、取込孔41の位置が上限位置を超えることが防止される。また、第一規制部23が設けられていることで、受油部42が回転部108側に傾いてしまうこと、すなわち受油部42が回転部108の掻き上げた潤滑油を受けることが不能となってしまう機能不全状態に陥ることの防止を図ることができる。
【0048】
以上で説明したように、実施形態の回転部潤滑装置(同1)は、車両における動力源からの動力を受けて回転する回転部(同108)が配置されると共に、供給される潤滑油を貯留して回転部の少なくとも一部を油没させる貯留室(同105)と、回転部の回転数に応じて、貯留された潤滑油についての排油のための取り込み位置の高さを変化させる排油調整部(同3)とを備えている。
【0049】
これにより、回転部の回転数に応じて貯留室の油面高さを調整可能とされる。具体的には、回転部の低回転時には取り込み位置を高くして油面高さを高くし、高回転時には取り込み位置を低くして油面高さを低くする調整を行うことが可能とされる。
従って、低回転時における潤滑油不足による回転部構成部品の焼き付き防止と、高回転時における油攪拌抵抗による回転部の駆動効率低下防止との両立を図ることができる。
【0050】
また、実施形態の回転部潤滑装置においては、貯留された潤滑油を貯留室外部に排出する排油孔(同107)を備え、排油調整部は、排油孔より排出すべき潤滑油を貯留された潤滑油から取り込む取込孔(同41)が形成された可動部材(同4)を有し、可動部材が、回転部の掻き上げた潤滑油を受けて動くことにより取込孔の高さ位置が変化する構成とされている。
【0051】
これにより、排油のための取り込み位置の高さを変化させるにあたり、可動部材を回転部の回転数に応じて駆動するためのアクチュエータ等の部品を追加する必要がなくなる。
従って、部品点数の削減、及びコスト削減を図ることができる。
【0052】
さらに、実施形態の回転部潤滑装置においては、可動部材は、回転部における回転体の回転軸と略平行な回転軸により回転することが可能に設けられると共に、軸直交方向に突出された受油部(同42)が形成されている。
【0053】
これにより、回転部の掻き上げた潤滑油の飛散態様が回転数に応じて変化することに伴い、受油部が受ける油の量や圧を変化させることが可能とされる。すなわち、回転部の回転数に応じて可動部材の回転角を変化させ、取込孔の高さ位置を変化させることが可能とされる。
従って、低回転時における潤滑油不足による回転部構成部品の焼き付き防止と、高回転時における油攪拌抵抗による回転部の駆動効率低下防止との両立を図ることができる。
【0054】
また、実施形態の回転部潤滑装置においては、可動部材は、少なくとも受油部が浮力を有している。
【0055】
貯留室における油面は常時水平ではなく、車両走行等の要因により一時的に上下変動し得る。回転部が高回転から低回転となり受油部が受ける油の量や圧が低下した状態において、車両走行等に起因して一時的にでも油面上昇が起きると、浮力を有する受油部は油面上昇に応じて浮上し、これに伴い可動部材が低回転→高回転への変化時とは逆方向に回転される。すなわち、回転部が低回転の状態において、取込孔の位置を自動的に上昇させることが可能とされる。
従って、低回転時に対応して取込孔の高さを上昇させるために、可動部材を駆動するためのアクチュエータ等の部品を追加する必要がなくなり、部品点数の削減、及びコスト削減を図ることができる。
【0056】
さらにまた、実施形態の回転部潤滑装置においては、排油調整部は、取込孔の上限位置を規制するように可動部材の動きを規制する第一規制部(同23)を有している。
【0057】
これにより、低回転時に対応した潤滑油の貯留量が所定量を超えないように図られる。
従って、低回転時における貯留油量の適正化を図ることができる。
また、実施形態で例示したように可動部材が回転する構成においては、第一規制部によっては、受油部が回転部側に傾くことの防止を図ることが可能とされる。すなわち、受油部が回転部の掻き上げた潤滑油を受けることが不能となってしまう機能不全状態に陥ることの防止を図ることができる。
【0058】
また、実施形態の回転部潤滑装置においては、排油調整部は、取込孔の下限位置を規制するように可動部材の動きを規制する第二規制部(同24)を有している。
【0059】
これにより、高回転時に対応した潤滑油の貯留量が所定量を超えないように図られる。
従って、高回転時における貯留油量の適正化を図ることができる。
【0060】
さらに、実施形態の回転部潤滑装置においては、可動部材が弾性変形可能な部材とされている。
【0061】
これにより、可動部材を貯留室の室壁等の所定位置に対して動作自在に係止させるための手法として、可動部材の弾性変形を利用した係止手法を採ることが可能とされる。
従って、可動部材の係止にあたりネジ等の別途の係止用部材を用いずに済むものとでき、部品点数の削減、及びコスト削減を図ることができる。
【0062】
なお、本発明は上記で説明した具体例に限定されず、多様な変形例が考えられるものである。
例えば、上記では、取込孔が形成された可動部材が回転することにより排油のための取り込み位置の高さを変化させる例を挙げたが、可動部材が上下方向に動く等、回転以外の他の動きにより排油のための取り込み位置の高さを変化させる構成を採ることもできる。
【0063】
また、上記では、本発明がトランスミッションのオイルポンプに係る回転部の潤滑に適用される例を挙げたが、例えば変速機構に設けられる回転部、具体的にはCVT(Continuously Variable Transmission)におけるプーリ等の回転部の潤滑に本発明を適用することもできる。
本発明は、車両における動力源からの動力を受けて回転する回転部についての潤滑に広く好適に適用することができる。
【符号の説明】
【0064】
1 回転部潤滑装置、2 ケース、20 壁部、21 取付部、21a 摺動凹部、21b 係止凹部、22 連絡溝、23 第一規制部、24 第二規制部、3 排油調整部、4 可動部材、40 本体部、40a 摺動凸部、40b 係止凸部、41 取込孔、42 受油部、43 規制凸部、101 駆動シャフト、102 駆動ギヤ、103 入力シャフト、104 チェーン、105 貯留室、106 給油孔、107 排油孔、108 回転部、S 空洞
図1
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図9