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  • 特許-トンネルセントルの目地形成構造 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-18
(45)【発行日】2022-11-29
(54)【発明の名称】トンネルセントルの目地形成構造
(51)【国際特許分類】
   E21D 11/10 20060101AFI20221121BHJP
【FI】
E21D11/10 B
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2018187016
(22)【出願日】2018-10-02
(65)【公開番号】P2020056207
(43)【公開日】2020-04-09
【審査請求日】2021-09-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000158725
【氏名又は名称】岐阜工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107700
【弁理士】
【氏名又は名称】守田 賢一
(72)【発明者】
【氏名】棚瀬 冨弘
【審査官】亀谷 英樹
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-129800(JP,A)
【文献】特開2002-220995(JP,A)
【文献】特開2001-164895(JP,A)
【文献】特開2015-151774(JP,A)
【文献】特開2016-023488(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第107227974(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E21D 11/00-19/06
E21D 23/00-23/26
E21D 1/00-9/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
既設の覆工コンクリートの、切羽側に位置する前端部に接近して位置させられる型枠の端部に、前記覆工コンクリートの端部内周面から離れた内方位置へ延びる受け部材を設け、目地材を、前記覆工コンクリートの端部内周に形成された切欠きに向けて前記型枠とは独立に当該型枠の外周面に沿って前後動可能に前記型枠の外周に装着するとともに、前記目地材の端部底面に前記受け部材に向けて突出しその突出端が前記受け部材の外周面に当接して、前記目地材を前後動させた際に当該前後動の間、前記目地材の姿勢を維持する支持脚部を設け、前記目地材を後退移動させてその一部を前記切欠き内に挿入した状態で、新たな覆工コンクリートの目地の凹断面形状に倣った突出部が形成されるトンネルセントルの目地形成構造。
【請求項2】
前記目地材の後側面を前記切欠きに倣った傾斜面に形成した請求項1に記載のトンネルセントルの目地形成構造。
【請求項3】
前記受け部材の前記覆工コンクリートの内周面と対向する外周面に所定厚のクッション体を設けた請求項1又は2に記載のトンネルセントルの目地形成構造。
【請求項4】
前記支持脚部に前記目地材を後退移動させる引きロープの一端を固定した請求項1ないし請求項3のいずれかに記載のトンネルセントルの目地形成構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はトンネルセントルの目地形成構造に関し、特に、既設コンクリートのクラック発生を有効に防止できる目地形成構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
トンネルの覆工コンクリートは、セントルを逐次移動させ、掘削されたトンネル内周とセントル外周との間にコンクリートを注入し養生することを繰り返して形成される。この際、隣接するコンクリートの継ぎ目には角部分の欠損防止等のために目地を形成している。セントルの型枠は移動の際に一旦収縮させて既設コンクリートの内周面から離脱させ、セントルを切羽側へ移動させた後に、所定のコンクリート注入空間を形成すべく型枠を再び展開させるが、この際に往々にして既設コンクリートの内周面を過度に押し上げて当該コンクリート内にクラックを生じさせるという問題があった。
【0003】
そこで、特許文献1では、既設コンクリートと長手方向で干渉しない位置に型枠を位置させるとともに、型枠の端部に、軸体の先端に受け板を取着した構造の受け部材を設けて、目地を形成するための目地材を型枠の外周に沿って既設コンクリートの方向へ移動させて上記受け板で目地材を支持するようにして、型枠と既設コンクリートの干渉を回避しつつ目地の凹断面形状に倣った突出部を形成するようにした目地形成構造が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2015-151774
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上記従来の構造は受け部材の構造が複雑であるとともに、このような受け部材を型枠端部の周方向の複数位置に設ける必要があるためコスト高になるという問題があった。
【0006】
そこで、本発明はこのような課題を解決するもので、簡易かつ安価に、型枠の展開時に既設コンクリートにクラックが生じるのを確実に防止できるトンネルセントルの目地形成構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本第1発明では、既設の覆工コンクリート(Cr)の、切羽側に位置する前端部に接近して位置させられる型枠(1)の端部(11)に、前記覆工コンクリート(Cr)の端部内周面から離れた内方位置へ延びる受け部材(2)を設け、目地材(3)を、前記覆工コンクリート(Cr)の端部内周に形成された切欠き(Cc)に向けて前記型枠(1)とは独立に当該型枠(1)の外周面に沿って前後動可能に前記型枠(1)の外周に装着するとともに、前記目地材(3)の端部底面に下線前記受け部材(2)に向けて突出しその突出端が前記受け部材(2)の外周面に当接して、前記目地材(3)を前後動させた際に当該前後動の間、前記目地材(3)の姿勢を維持する支持脚部(31)を設け、前記目地材(3)を後退移動させてその一部を前記切欠き(Cc)内に挿入した状態で、新たな覆工コンクリートの目地の凹断面形状に倣った突出部(P)が形成される
【0008】
本第1発明において、型枠を既設の覆工コンクリートと長手方向で干渉しない位置に置いて、受け部材のみを上記覆工コンクリートの切欠き空間に臨ませる。これにより、型枠が展開させられる際に型枠が覆工コンクリートと干渉することが避けられる。したがって、既設の覆工コンクリートの内周面が過度に押し上げられて当該コンクリート内にクラックが生じることが防止される。
【0009】
この状態で、枠体の外周に位置する目地材を当該外周に沿って既設の覆工コンクリートの方向(型枠打設進行方向に対して後方)へ移動させて、その一部を切欠き内に挿入して新たな覆工コンクリートの目地の凹断面形状に倣った突出部を形成する。
【0010】
この移動の間、目地材は支持脚部によって常時受け部材上に支持されているからその姿勢が変化することはなく、目地材は既設コンクリートの切欠き内に適正に挿入される。型枠の位置が既設の覆工コンクリートに対して接近ないし離間方向へずれても、支持脚部は常に受け部材に支持されているから目地材の姿勢が変化することはない。
【0011】
本第2発明では、前記目地材(3)の後側面を前記切欠き(Cc)に倣った傾斜面に形成する。
【0012】
本第2発明によれば、型枠の位置が既設の覆工コンクリートに対して上下方向へずれた場合でも、目地材は受け部材に支持された状態で傾斜面に接して上方ないし下方へずれるから目地材の姿勢は変化しない。したがって、この場合にも目地材は既設コンクリートの切欠き内に適正に挿入されて新たな覆工コンクリートの目地の凹断面形状に倣った突出部が良好に形成される。
【0013】
本第3発明では、前記受け部材(2)の前記覆工コンクリート(Cr)の内周面と対向する外周面に所定厚のクッション体(5)を設ける。
【0014】
本第3発明によれば、クッション体を設けたことによって、型枠の展開時に上昇する受け部材が既設の覆工コンクリートの内周面に直接衝突することがないから、クラックが生じるのをより確実に防止することができる。また、クション体の上面を型枠の表面高さに一致させておくことにより、作業員による型枠セットの高さ監視の目安となり、セット状態を容易に判断することができる。
【0015】
本第4発明では、前記支持脚部(31)に前記目地材(3)を後退移動させる引きロープ(4)の一端を固定する
【0017】
上記カッコ内の符号は、後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係を参考的に示すものである。
【発明の効果】
【0018】
以上のように、本発明のトンネルセントルの目地形成構造によれば、簡易かつ安価に、型枠の展開時に既設コンクリートにクラックが生じるのを確実に防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】目地形成構造の縦断面図である。
図2】目地形成構造の横断面図で、図1のII-II線に沿った断面図である。
図3】型枠接近移動時の目地形成構造の縦断面図である。
図4】型枠離間移動時の目地形成構造の縦断面図である。
図5】型枠下降移動時の目地形成構造の縦断面図である
図6】型枠上昇移動時の目地形成構造の縦断面図である
【発明を実施するための形態】
【0020】
なお、以下に説明する実施形態はあくまで一例であり、本発明の要旨を逸脱しない範囲で当業者が行う種々の設計的改良も本発明の範囲に含まれる。
【0021】
図1に本発明の目地形成構造の一例を示す。図1において、覆工コンクリートCrの打設を終えるとトンネルセントルはその型枠1が収縮下降させられて、打設された既設の覆工コンクリートCr(以下、既設コンクリートという)の内方から切羽側へ引き出され、その後、型枠1が再び展開上昇させられてその後端部11が図1に示すように既設コンクリートCrの前端部に接近して位置させられる。通常は、型枠1の外周面1aは既設コンクリートCrの内周面と略同一面上に位置させられる。
【0022】
型枠1の端面には周方向の複数位置(図2)にステー21が突設されて、これらステー21に支持されて型枠1の周方向へ延びる板状の受け部材2が設置されている。受け部材2は型枠1の外周よりも一定量内方に位置しており(図1)、その板幅方向(図1の左右方向)は、既設コンクリートCrの端部内周面から離れた内方位置へ所定長さで延びている。
【0023】
型枠1の端部11外周にはこれに沿って目地材3が配設されている。目地材3は略三角断面の長尺体で、ゴム材等を押出し成形することによって得られる。目地材3は三角断面の底面を型枠1の端部11外周に位置させて、当該外周面に沿って既設コンクリートCrの前端部に対し遠近前後動(図1の左右方向)可能である。
【0024】
型枠1の端部11外周から既設コンクリートCr方向へせり出した目地材3の打設進行方向における後端部の底面には、受け部材2の外周面たる板面に向けて突出する一定厚の壁状の支持脚部31が形成されており、支持脚部31の突出端面(下端面)は受け部材2の板面に当接している。このような支持脚部31によって、型枠端部11からせり出した目地材3はほぼ型枠1の外周面1aの延長上に保持されている。
【0025】
目地材3の支持脚部31には周方向の適当位置に受け部材2の板面に平行な貫通孔311が設けられ、一端を支持脚部31の側面に固定された引きロープ4が貫通孔311に挿通されて既設コンクリートCrの内方位置をこれに沿って延びている。また、目地材3の断面中心には円形の貫通孔32が長手方向へ形成されており、当該貫通孔32に固定用ロープを通してその両端を引き絞ることによって、目地材3が縮径変形させられて型枠1の外周面1aに対して固定されるようになっている。
【0026】
受け部材2の板面には周方向へ間隔をおいて、支持脚部31の長さとほぼ同程度の厚みのクッション体5が複数接合固定されている(図2)。また、型枠1の頂部領域に位置するクッション体5の間には受け部材2にリミットスイッチ6が、進退作動するそのアクチュエータ61を既設コンクリートCrの内周面に向けて設置されている。なお、アクチュエータ61は進出方向へ付勢されている。
【0027】
このような目地形成構造において、既設コンクリートCrに続いて新たに覆工コンクリートを打設する場合には、既に説明したように、トンネルセントルの型枠1を既設コンクリートCrの内方から切羽側へ引き出し(図1)、型枠1の後端部11を既設コンクリートCrに干渉しないその前端部に接近した位置に移動させる。移動の際に公知の構造によって収縮下降させられた型枠1は移動後に再び展開上昇させられる。
【0028】
この上昇時に受け部材2が既設コンクリートCrの内周面に直接衝突することがないようにクッション体5で緩衝すると同時に、アクチュエータ61の先端が上記内周面に当接してリミットスイッチ6が作動すると型枠上昇停止信号が出力される。この状態で、型枠1の外周面1aは既述のように既設コンクリートCrの内周面と略同一面となる。
【0029】
続いて、図1の鎖線で示すように型枠1の外周面1a上に位置している目地材3を、図1の矢印で示すようにロープ4を引くことによって既設コンクリートCrに向けて引き出して図1の実線で示すように、目地材3の傾斜側面を既設コンクリートCrの端部内周に形成された切欠きCcの斜面に一致させて、目地材3の略半部を切欠きCc内に挿入する。このようにロープ4を引くことによって、目地材3を既設コンクリートCrに向けて容易かつ確実に引き出すことができる。
【0030】
この移動の間、目地材3は支持脚部31によって常時受け部材2上に支持されているからその姿勢が変化することはなく、目地材3は既設コンクリートCrの切欠きCc内に適正に挿入される。これにより、型枠1の外周とトンネル内周との間に既設コンクリートCrに連続する新たなコンクリート打設空間Sが形成されるとともに、これらの境界部に目地材3によって、三角凹断面形状の目地を形成するための突出部Pが形成される。
【0031】
トンネルセントルの移動位置や型枠1の上昇位置は一定範囲で誤差を生じる。本実施形態の構造によれば、型枠1が目標位置(図1)から既設コンクリートCrに接近し過ぎた場合(図3)や反対に離間し過ぎた場合(図4)にも、支持脚部31は常に受け部材2の板面上にあってこれに支持されているから目地材3の姿勢が変化することはなく、いずれの場合も三角凹断面形状の目地を形成するための突出部Pが適正に形成される。
【0032】
また、型枠1の位置が目標位置(図1)から下方へずれ(図5)あるいは反対に上方へずれた場合(図6)でも、支持脚部31は常に受け部材2の板面上にあって目地材3はこれに支持されているから目地材3の姿勢は変化せず、切欠きCcの斜面に接した状態で目地材3は下方あるいは上方へずれる。この際の突出部Pによって形成される目地の三角凹断面形状はやや崩れたものになるが、実用上は問題ない。
【0033】
本実施形態によれば、支持脚部31を有する目地材3は押出し成形等によって簡易かつ安価に一体成型することができるとともに、支持脚部32を受ける受け部材2も所定幅で周方向へ延びる簡易な長板状のものとすれば良いから、総じて簡易かつ安価に目地形成構造を実現することができる。
【0034】
そして、既設コンクリートCrと長手方向で干渉しない位置に型枠1を位置させ、かつ受け部材2にはクッション体5を設けて受け部材2が既設コンクリートCrの内周面に直接衝突しないようにするとともにリミットスイッチ6を設けて受け部材2と既設コンクリートCrの内周面との衝突を確実に防止しているから、既設コンクリートCrの内周面が過度に押し上げられて当該コンクリートCr内にクラックが生じるのを有効に防止することができる。
【0035】
なお、クッション体5やリミットスイッチ6は必ずしも必要なものではなく、また目地材3の断面形状も三角形断面に限られるものではない。なお、必ずしもリミットスイッチに限られず、近接スイッチ等の他の接近検出手段を使用することができる。
【符号の説明】
【0036】
1…型枠、11…端部、2…受け部材、3…目地材、31…支持脚部、5…クッション体、6…リミットスイッチ(接近検出手段)、Cr…既設コンクリート(既設の覆工コンクリート)、Cc…切欠き、P…突出部。
図1
図2
図3
図4
図5
図6