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特許7179291HiPIMSを用いて成長欠陥を低減させたTiCN
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-18
(45)【発行日】2022-11-29
(54)【発明の名称】HiPIMSを用いて成長欠陥を低減させたTiCN
(51)【国際特許分類】
   C23C 14/06 20060101AFI20221121BHJP
【FI】
C23C14/06 H
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2018555190
(86)(22)【出願日】2017-04-21
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2019-05-30
(86)【国際出願番号】 EP2017000500
(87)【国際公開番号】W WO2017182124
(87)【国際公開日】2017-10-26
【審査請求日】2020-03-19
(31)【優先権主張番号】62/326,098
(32)【優先日】2016-04-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】516082866
【氏名又は名称】エリコン サーフェス ソリューションズ アーゲー、 プフェフィコン
【住所又は居所原語表記】Churerstrasse 120 8808 Pfeffikon SZ CH
(74)【代理人】
【識別番号】100180781
【弁理士】
【氏名又は名称】安達 友和
(74)【代理人】
【識別番号】100181582
【弁理士】
【氏名又は名称】和田 直斗
(72)【発明者】
【氏名】クラポブ,デニス
(72)【発明者】
【氏名】クラスニッツァー,ジークフリード
【審査官】神▲崎▼ 賢一
(56)【参考文献】
【文献】特開平02-141572(JP,A)
【文献】特表2002-504189(JP,A)
【文献】特開2001-277251(JP,A)
【文献】特表2010-529295(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 14/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
HiPIMSを用いて、少なくとも1つのTiCN層を備えた被覆部を、被覆されるべき基板の表面に塗布する方法であって、前記少なくとも1つのTiCN層を析出するために、前記TiCN層を生成するためのTi源として、Ti含有ターゲットを少なくとも1つ用い、前記Ti含有ターゲットを、被覆チャンバ中の反応性雰囲気中でHiPIMS方法を用いてスパッタし、前記反応性雰囲気は、少なくとも1つの希ガスを含み、少なくとも窒素ガスを反応性ガスとして含む、方法において、
前記少なくとも1つのTiCN層を析出する間に、成長欠陥を低減させるために、
前記反応性雰囲気は、追加的に第2反応性ガスとして炭素含有ガスを含み、前記炭素含有ガスを、TiCN層を生成するための炭素源として用い、前記TiCN層の析出時には、双極性のバイアス電圧を前記被覆されるべき基板上にかけ、
または
前記TiCN層を生成するための炭素源として、少なくとも1つの炭素含有ターゲットを用い、前記少なくとも1つの炭素含有ターゲットを、反応性ガスとして窒素ガスのみを有する反応性雰囲気を有する前記被覆チャンバ中で、HiPIMS方法を用いてスパッタし、
-20V~-200Vの範囲のバイアス電圧が用いられ、
バイアス電圧の高さは、対称的または非対称であるように設定され、
負のバイアス電圧対正のバイアス電圧の時間的な割合tneg:tposは、10:1~1:5の範囲であり、
炭素源として少なくとも1つの炭素含有ターゲットを用い、1つまたは複数のTi含有ターゲットは第1電力給電機器または第1電力給電ユニットを用いてパルス電力で作動し、かつ1つまたは複数の炭素含有ターゲットは、第2電力給電機器または第2電力給電ユニットを用いてパルス電力で作動することを特徴とする、方法。
【請求項2】
炭素源として炭素含有ガスを用い、前記炭素含有ガスはCHを含み、またはCHからなる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
炭素源として炭素含有ガスを用い、前記炭素含有ガスはCを含み、またはCからなる、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
少なくとも1つのTi含有ターゲットは、Tiからなる金属ターゲットである、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
少なくとも1つのTi含有ターゲットは、TiCからなるセラミック製のターゲットである、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
少なくとも1つの炭素含有ターゲットは黒鉛からなる、請求項1~5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記少なくとも1つの炭素含有ターゲットは複合材料からなる、請求項1~5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記少なくとも1つの炭素含有ターゲットは、少なくとも1つの金属と炭化物とを含む複合材料からなる、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記少なくとも1つの希ガスは、アルゴンである、請求項1~8のいずれか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面、とりわけ加工品、構成部品または工具の表面に成長欠陥を低減させたTiCN被覆を施す方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来技術
反応性スパッタリングまたはHiPIMSプロセスを用いた被覆では、しばしば金属ターゲットを噴霧材料源として用い、この際に少なくとも1つの反応性ガスを、作動ガスに追加して採用する。本発明の枠内では、「噴霧する」の概念と「スパッタリング」の概念とは同一であると理解される。ターゲットとは、本発明の枠内では、この方法を行う際に材料が削り取られるスパッタリング源の構成部分を称する。
【0003】
反応性スパッタリングプロセスの場合またはカソードアーク蒸発(Arcenとも称される)の場合も、層の析出のために、通常2つの反応性ガスが必要とされる。従来技術では、これらは、通常窒素および炭素含有ガス(これは、大抵アセチレン(C)である)である。アーク蒸発が比較的「頑強な」プロセスであると見なされうる一方で、とりわけスパッタリングプロセスまたはHiPIMSプロセスでは、プロセスガス調節がプロセス安定性にとって決定的な役割を果たす。
【0004】
クラスニッツァー(Krassnitzer)は、例えばWO2014207154中で、HiPIMSを用いてTiCN層を析出する方法を開示し、この文献中では、TiCN層を基板表面上に塗布するために、反応性NおよびCを含有する雰囲気中で、Tiターゲットをスパッタする。HiPIMSプロセスは、電力パルスおよび/または電力パルスシーケンスを使用して、ターゲット面上に対して、電力パルスないし電力パルスシーケンス毎に少なくとも0.2ジュール/cmのエネルギー含量で行う。被覆チャンバ中での反応性ガスの濃度は、反応性ガス流を開ループ制御または閉ループ制御することにより管理し、様々な特性、例えば色の印象は、被覆チャンバ中の反応性ガスの濃度により管理することが提案される。
【0005】
スパッタリングまたはHiPIMSプロセスの間に、NとCとの双方の反応性ガスは、蒸発したターゲット材料と反応し、金属セラミック層を基板上に形成することは公知である。層の圧縮を達成するために、通常負の基板バイアス電圧が基板にかけられ、これにより正に帯電したイオンが基板上に加速する。
【0006】
同様に、最適な層特性を再現可能に設定可能にするためには、スパッタリングないしHiPIMSプロセスを詳細に知りかつ制御することが非常に重要であることが公知である。この際、最適な作用点を選択することが特に重要であると見なされうるが、この理由は、プロセス時にこの作用点からわずかにずれただけでも、層品質に変動をきたし、色特性が変わってしまい、プロセス不安定性が引き起こされ、最終的にプロセスの中断が引き起こされうるからである。この際、作用点とは、作動ガスと、1つまたは複数の反応性ガスとの所定の割合であると理解される。
【0007】
プロセスの間に選択された作用点を一定に保つために、通常ガス流または部分圧の閉ループ制御が用いられる。この点は、反応性ガスが1つのみである場合には、すなわち例えばTiNの析出の場合には、Ar部分圧が0.40Paで、N部分圧が0.03Paで、これにより0.43Paの全圧力が設定される。HiPIMSプロセスでは、作用点は、選択されたプロセス条件、例えば、パルス電力平均Pavまたはパルス幅tpulseに強く依存しうるが、用いられるターゲットまたはポンプ性能の状態および古さにも依存しうる。設定された作用点、またはN部分圧ないし結果として生じる全圧は、通常N流を適合させることにより実施される。
【0008】
しかし、2つの以上の反応性ガス、例えばNおよびCを同時に用いる場合には、この概念はもはや応用可能ではないが、この理由は、1つの反応性気体の圧力のみを閉ループ制御可能で、他方の反応性ガスは、通常固定流量でチャンバ中に入るからである。
【0009】
したがって、上述の理由により、プロセスに影響を与えるパラメータのわずかな変化が、所望の作用点のずれを必然的に伴い、これが望ましい層品質に悪い作用を与えうることも明らかである。
【0010】
上述の問題は、とりわけTiCNを反応性析出させる際に決定的となるが、この際、双方の元素、すなわち炭素および窒素をガス位相から得て、かつこれをチタンターゲットからスパッタされたチタンと反応させてチタンTiCNにする。最適な作用点からわずかにずれることですでに層特性の顕著なずれを引き起こしうる。
【0011】
反応性スパッタリングまたはHiPIMSプロセス時における別の重要な態様は、1つまたは複数の反応性ガスをターゲット表面と反応させ、これにより通常セラミック製の反応生成物が形成される。一般的には、この過程はターゲット被毒と称され、スパッタリング特性またはプロセスの作用点に対して顕著に作用しうる。ターゲット被毒の際に伝導性の悪いまたはさらには絶縁性の接続部がターゲット表面に形成されると、放電電圧が劇的に高まり、全ターゲット面に覆われた場合には、最悪の場合にはスパッタリングプラズマの崩壊が引き起こされうる。
【0012】
EP2565291A1中では、様々なターゲット材料を用いた反応性スパッタリングプロセスの使用時のターゲット被毒におけるこの現象を、各スパッタリング源においてガス流調節器を設け、これが反応性ガス流を各スパッタリングターゲットの被毒度の高さに応じて設定することによって、回避することが提案されているが、これは、ターゲット源の電圧を計測することによって行い、予め定義した目標値に従って、反応性ガス流の閉ループ制御によって可能になる。この方法は、しかしながら実現が比較的コスト高であり、ターゲットにおける反応性ガスに関連した過程について詳細な知識が必要である。さらに、作動ガス対反応性ガスの割合に関して、任意の作用点を選択する可能性は存在しない。
【0013】
従って、所望の層特性に応じて、このために必須となる作用点を任意に選択することができる方法を提供すること、およびこの際これを安定的に作動させることが第一義的に重要である。本発明は、まさしくこの工程を可能にする。
【0014】
層の圧縮を達成するために、通常負の基板バイアス電圧を基板にかけ、これにより正に帯電したイオンを基板に加速させる。直流(DC)バイアス電圧を使用して反応性スパッタリングまたはHiPIMSプロセスで層を析出する際、使用電圧は、プラズマ電位よりも高くすべきである。通常-30Vより高く、したがって例えば-40VのDCバイアス電圧がかけられ、これにより基板材料上へのイオンの加速が達成される。
【0015】
DCバイアス電圧を、例えば-40Vから-80Vに高めることにより、イオンエネルギーの上昇が達成され、これにより、層圧縮が高まり、通常層の内部応力の上昇も生じる。しばしば内部応力の上昇により、層硬度の高まりも見られうる。
【0016】
高い硬度は多くの応用において望まれているが、しかし、同時に内部応力が上昇することにより、数マイクロメートルの層厚を、構成部品または工具の所望の箇所に達成するにあたって、顕著な困難が生じる。層中の内部応力が高すぎることにより、部分的にまたは広い面積に渡ってさえ、層の剥離が生じる。
【0017】
従来のスパッタリングまたはHiPIMSプロセスでは、層の成長は成長欠陥の導入を内在させる。
【0018】
TiCNを従来のスパッタリングまたはHiPIMSプロセスを用いて生産する場合、層成長時に成長欠陥が導入されるが、これは、例えば完全には噴霧状にならないターゲットの金属粒子、または設備中の不純物からも生じうる。さらに、噴霧化されたターゲット材料が反応性ガスとどこで反応するのかを精確に区別するのは困難であるが、これは、すでに反応済みのTiCNがチタンターゲットのターゲット表面において存在しえ、これが「マイクロ粒子」として噴霧化され、成長欠陥として、基板において成長した層中に組み込まれうることを意味する。ターゲット表面で反応性ガスがターゲット材料と反応するこの過程は、通常「被毒」と称され、プロセスパラメータ、この場合とりわけ反応性ガス流調節に強く依存している。ターゲット表面が完全に1つまたは複数の反応生成物により覆われている場合に、ターゲットが完全に被毒されていると称する。
【0019】
さらに、基板における層の表面品質の高さは、しばしば層厚に依存しているが、この理由は、層成長時に成長欠陥がより小さい場合でさえも、被覆された構成部品または工具の粗度が顕著に上昇する。これは、層がより厚くなると、より薄い層で等しい析出条件下の場合よりも、粗度がより高くなる傾向があることを意味する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0020】
本発明の課題
本発明の課題は、成長欠陥がより小さく、しかし同時に可能な限り層硬度の損失がなくまたは層の内部応力が上昇しないTiCN層を生産することができる方法を提供することである。
【0021】
望ましくは、本発明の方法は、高いプロセス安定性を取り入れるべきである。
【課題を解決するための手段】
【0022】
本発明による解決方法
本発明の課題は、請求項1に記載の方法を提供することにより解決される。
【0023】
本発明によれば、HiPIMSを用いて、少なくとも1つのTiCN層を備えた被覆部を、被覆されるべき基板の表面に塗布する方法であって、少なくとも1つのTiCN層を析出するために、TiCN層を生成するためのTi源として、Ti含有ターゲット例えばTiターゲットを少なくとも1つ用い、このTi含有ターゲットを、被覆チャンバ中、反応性雰囲気中でHiPIMS方法を用いてスパッタし、反応性雰囲気は、少なくとも1つの希ガス好ましくはアルゴンを含み、少なくとも窒素ガスを反応性ガスとして含み、少なくとも1つのTiCN層を析出する間に成長欠陥を低減させるために、
反応性雰囲気は、追加的に第2反応性ガスとして炭素含有ガス好ましくはCHを含み、この炭素含有ガスを、TiCN層を生成するための炭素源として用い、TiCN層の析出時には、双極性のバイアス電圧を被覆されるべき基板上にかけ、
または
TiCN層を生成するための炭素源として、少なくとも1つの炭素含有ターゲット例えば黒鉛ターゲットを用い、このターゲットを、反応性ガスとして窒素ガスのみを有する反応性雰囲気を有する被覆チャンバ中で、HiPIMS方法を用いてスパッタし、この際、Ti含有ターゲットは好ましくは第1電力給電機器または第1電力給電ユニットを用いてパルス電力で作動し、かつ黒鉛含有ターゲットは、好ましくは第2電力給電機器または第2電力給電ユニットを用いてパルス電力で作動する。
【0024】
本発明の説明
発明者が見出した点は、驚くべきことに、HiPIMSプロセスの際に双極性のバイアス電圧を用いると、反応性HiPIMSプロセスを用いて、非常に高い硬度を有するTiCNからなる硬質材料層を、非常に滑らかな層表面とともに同時に、さらに内部応力を比較的低くして製造することが可能であるとの点である。また、驚くべきことに、反応性HiPIMSプロセスを用いて、このHiPIMSプロセスにおいて窒素のみを反応性ガスとして用い、TiCNの生産用の炭素を炭素含有ターゲットから準備する場合に、非常に高い硬度とともに同時に、非常に滑らかな層表面を有するTiCNからなる硬質材料層を製造することが可能であることも発明者は見出した。
【0025】
これにより、例えば、適用領域において、高い表面品質を有ししたがって低粗度の十分厚い層を生成するため、より厚い層を成長させ、かつ上述の問題を克服することが可能になる。
【0026】
本発明によるTiCN層を析出させるために、HiPIMS方法を用いたが、この方法は、非常に高い電力パルスまたは電力パルスシーケンスを、1つまたは複数のチタンターゲットのターゲット表面上に当てた。電力パルスのパルス幅tpulseの間、または電力パルスシーケンスのシーケンス期間tpulsesequenceの間、正に帯電したArイオンを用いて、ターゲット表面中にエネルギーがもたらされ、これによりターゲット材料が打ち出されまたは噴霧化される。HiPIMS方法の場合には、従来のスパッタリング方法の場合に比べて、イオン化された噴霧材料の割合が顕著により高くなる。HiPIMSプロセスにおけるエネルギー含有量は、相応に高いパルス電力Pおよび/または相応の非常に長いパルス長ないしパルス幅tpulse、を設定することを介して非常に単純に達成可能である。
【0027】
標準的なHiPIMSの構成および被覆パラメータは従来技術から公知である。
【0028】
本発明の枠内では、とりわけ例えばクラスニッツァー(Krassnitzer)がWO2012143091A1号中で記載したようなHiPIMS方法を用いた。
【0029】
以下に、本発明を詳細にかつ図ないし表を用いて例示的に補足する。
【図面の簡単な説明】
【0030】
図1図1は、一例として析出させたTiCN層の特性の概要を示す表であり、これらのTiCN層は、従来技術に従ってDC電圧を用いて析出させたTiCN層(A、B参照)と比較して、実施例1にしたがって双極性のバイアス電圧を用いて析出させたTiCN層(C、D、E参照)である。
図2図2は、様々なバイアス電圧を用いた実施例1によるTiCN層の層表面の光学顕微鏡写真である。
図3図3は、一例として析出させたTiCN層の特性の概要を示す表であり、これらのTiCN層は、従来技術に従ってTiターゲットのみおよびDC電圧を用いて析出させたTiCN層(REF参照)と比較して、実施例2にしたがってTiおよび黒鉛ターゲットを用いて析出させたTiCN層(A、B、C、D、E参照)である。
図4図4は、様々なターゲットないし反応性ガスシステムを用いた実施例2によるTiCN層の層表面の光学顕微鏡の写真である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
実施例1(第1の好適な実施形態による)
第1実施例にしたがって一例として示した全てのTiCN層を、接着層として薄いTiN層を備えて製造した。まず、このTiN接着層を、被覆されるべき表面上に析出し、この際、以下のパラメータを用いた。すなわち、パルス電力Ppulseは60kWで、ターゲットにおける平均電力Pavは9.0kWで、tpulseが25ミリ秒、全圧ptotが0.81Paであり、N部分圧が0.01Paであり、Ar部分圧が0.4Paであり、一定のバイアス電圧が-80Vであり、被覆温度が450℃であった。
【0032】
その直後、TiCN層を、等しいPpuls、等しいPav、等しいN2部分圧およびAr部分圧で、しかし追加的に一定のCH流量50sccm、より短いtpulsである1ミリ秒で塗布した。
【0033】
図1の表中の比較例AおよびBについては、TiN接着層の析出時にもTiCN層の析出中にも、DCバイアス電圧を用いた。
【0034】
図1中の表1中の本発明による実施例C、DおよびEについては、本発明によりTiN接着層の析出後に、本発明のTiCN層の析出のためにバイアス電圧を双極性パルスモードに変えた。
【0035】
全ての層の層厚は約4.0μmであり、続いて全ての層を特徴付けたが、これについては、表1中の層特性のまとめの中で明らかである。サンプルないし試料番号AおよびBは、同一の条件下で、しかし様々な充填量で、-40Vの一定のDCバイアス電圧で析出を行った。試料番号C、DおよびEは、双極性のパルスバイアス電圧-50V、-80Vおよび-100Vでそれぞれ析出した。負のバイアス電圧対正のバイアス電圧の時間的な割合tneg:tposは、50:25ミリ秒で、試料C、DおよびEについて一定に保った。
【0036】
驚くべきことに、DCバイアス電圧に代えて、本発明によりパルスバイアス電圧を使用した場合、バイアス電圧が匹敵する値である場合およびより高い場合であってさえも、粗度値Ra、RzおよびRmaxの明らかな低減が認められた。図1中に被覆された試料表面の光顕微鏡写真を示すが、ここで、試料B(-40Vの一定のDC)を試料C、DおよびEと比較した。「黒い」点の光学印象は成長欠陥により生成される。この成長欠陥がない場合に反射光中で表面構造が非常に滑らかになるが、成長欠陥はこれを妨げる。試料C~Eでは、試料Bと比較して、黒い点の密度が明らかにより低く見え、この点は、計測された粗度値と一致している。しかし、興味深いことに、計測した層の炭素含有量は、列挙した計測精確性の枠内では、バイアス電圧をかけるために用いた方法に依存せず、ほぼ一定の10±2at%である。
【0037】
しかし、驚くべきことに、パルスバイアス電圧を用いたTiCN層では、DCバイアス電圧を用いた比較試料の場合よりも、計測された内部応力値が明らかにより小さかった。表1から明らかであるように、-100Vパルスバイアス電圧で初めて、等しい内部応力レベルである-4.4GPaに達するが、この値は、-40VのDCバイアス電圧を使用した場合にすでに生じた値である。
【0038】
さらに、パルスバイアス電圧を用いることにより、硬度の穏やかな上昇が観察され、これは、この応用にとって望ましい傾向である。
【0039】
好ましくは-20V~-200Vの範囲のバイアス電圧が用いられる。
【0040】
好ましくは負のバイアス電圧対正のバイアス電圧の時間的な割合tneg:tposは、10:1~1:5、好適には5:1~1:2、特に好適には2:1~1:1の範囲である。
【0041】
バイアス電圧の高さは、対称的または非対称であるように設定されうる。非対称のモードでは、イオン流および電子流を、互いに対して依存せず設定することができる。
【0042】
好ましくは炭素含有ガスとしてはアセチレン(C)またはメタン(CH)を用いる。
【0043】
さらなる本発明の実施形態によれば、TiCN層の析出時に金属であるチタンターゲットに代えて、セラミック製のTiCターゲット、またはTiとTiCとからなるターゲットを用いうる。
【0044】
実施例2(第2の好適な実施形態による)
第2実施例により一例として示された全てのTiCN層は、接着層として薄いTiN層を備えて生成された。まず、TiN接着層を、被覆されるべき表面上に析出し、この際、以下のパラメータを用いた。すなわち、パルス電力Ppulse、は60kW、ターゲットにおける平均電力Pavは9.0kW、tpulseが25ミリ秒、全圧ptotが0.81Paであり、N2部分圧が0.01Paであり、Ar部分圧が0.4Paであり、一定のバイアス電圧が-80Vであり、被覆温度が450℃であった
【0045】
ここで3つのチタンターゲットを上述のように作動した。
【0046】
本発明によれば、直後にTiCN層(図3の表中のA、B、C、D、E)を析出させたが、3つのチタンターゲットを上述と等しい設定で、しかし、追加的に3つの炭素ターゲットをつなげた。
【0047】
3つの炭素ターゲットは、一例となる様々なプロセス中で、それぞれ60kWのPpulse、-50Vの一定のバイアス電圧で用いるが、しかしtpulseは0.05、0.1、0.2および0.3ミリ秒と異なり、かつこの結果生じる0.4、0.9、1.8および2.8kWのPavで析出を行った。対応する試料をA、B、CおよびDの順で挙げ、その特性は図3中に示した。
【0048】
参照試料(REF)として、従来の方法で析出したTiCN層を、これも上述と同じTiN接着層とともに生成したが、しかし、この場合、TiCN層について、チタンターゲットのみを用い、Arをプロセスガスとして部分圧0.40Paで、Nを第1反応性ガスとして部分圧0.01Paで、追加的に第2反応性ガスとして50sccmのCH4を用い、これにより全圧ptotは0.47Paに相当した。DCバイアス電圧を、TiN接着層の析出のためにも、TiCN層の析出のためにも用いた。参照試料についてのこの設定は、上の冒頭で述べたように従来技術に対応し、層特性およびプロセス安定性に関する比較目的のために機能する。
【0049】
さらなる比較試料Eとして、上述のTiN接着層を用いるが、TiCN層用に2つのプロセスガスおよび2種類のターゲットを用いたプロセスを実施した。この際、3つのチタンターゲットのためのパラメータは、上述のように一定に保たれ、3つの炭素ターゲットのために、試料Cに匹敵する設定が、それぞれPpulseを60kW、一定のバイアス電圧を-50V、tpulseを0.2ミリ秒、およびこの結果生じるPavを1.8kW、Ar部分圧を0.4Pa、N2部分圧を0.03、かつ固定のCH流量を10sccmにして析出した。
【0050】
例示的に示した全ての層の層厚は約4.0μmであり、続いて全ての層を特徴付けたが、これについては、図1の表中の層特性のまとめ中で明らかである。
【0051】
図4中では、被覆された試料表面の光顕微鏡写真を示すが、ここで、比較試料REFを試料A、B、CおよびDと比較する。「黒い」点の光学印象は成長欠陥により生成される。この成長欠陥がない場合に反射光中で表面構造が非常に滑らかになるが、成長欠陥はこれを妨げる。驚くべきことに試料A~Dでは、試料REFと比較して黒い点の密度がより低く見え、この点は、計測された粗度値と十分一致している。炭素割合はターゲットにおける電力と共に上昇する。
【0052】
しかし、興味深いことに、試料REFとCとを比較した場合、これらの双方はほぼ同じ炭素含有量を有するが、本発明により析出された試料Cについて層硬度が明らかにより高く計測されたと認めることができた。これは、2つのターゲット材料を使用する場合、1つがチタンであり、第2材料がこの例では炭素であったが、層特性に良好な作用があり、さらに安定したプロセスが可能になることを意味する。
【0053】
比較試料Eでは、異なる双方のターゲット材料としては、チタンおよび炭素を用い、N2およびCHを反応性ガスとして用いたが、この試料は著しく高い表面粗度を有した。この点は、本発明により析出された試料A、B、CおよびDの炭素含有量ないし粗度と線形相関と比較すると、試料E中の炭素割合と関連しうる。
【0054】
本発明の枠内では、複合材料からなる炭素含有ターゲットを採用することにより、炭素含有量を微調整できることが考えられうる。これに関連して、例えば1つまたは複数の金属からなり、かつ1つまたは複数の炭化物を含む複合材料が考えられ、例えばTiCまたはTi+TiCからなるターゲットが考えられる。
【0055】
同様にこれ以外の金属、例えばCr、Zr、Ta、Nbなどを本発明による方法のために用いることも考えられうる。
【0056】
好ましくは-20V~-200Vの範囲のバイアス電圧、10-4mbar(0.02Pa)~10-2mbar(2Pa)の範囲の全圧、0.1kW/cm~3.0kW/cmの範囲の電力密度、および/または0.05~10kWの範囲の平均電力Pavを用いる。Ar対Nの部分圧の割合は0.01~0.95の範囲内で変動しうる。
【0057】
好ましくは炭素含有ガスとして、アセチレン(C )またはメタン(CH)を用いる。
【0058】
本発明のさらなる実施形態によれば、TiCN層の析出時に、金属のチタンターゲットの代わりにセラミック製のTiCターゲットまたはTiおよびTiCからなるターゲットを用いることができる。
【0059】
本発明が具体的に開示しているのは、HiPIMSを用いて、少なくとも1つのTiCN層を備えた被覆部を、被覆されるべき基板の表面に塗布する方法であって、少なくとも1つのTiCN層を析出するために、TiCN層を生成するためのTi源として、Ti含有ターゲットを少なくとも1つ用い、このTi含有ターゲットを、被覆チャンバ中、反応性雰囲気中でHiPIMS方法を用いてスパッタし、反応性雰囲気は、少なくとも1つの希ガス好ましくはアルゴンを含み、少なくとも窒素ガスを反応性ガスとして含む方法であって、少なくとも1つのTiCN層を析出する間に、成長欠陥を低減させるために、
反応性雰囲気は、追加的に第2反応性ガスとして炭素含有ガスを含み、この炭素含有ガスを、TiCN層を生成するための炭素源として用い、TiCN層の析出時には、双極性のバイアス電圧を被覆されるべき基板上にかけ、
または
TiCN層を生成するための炭素源として、少なくとも1つの炭素含有ターゲットを用い、このターゲットを、HiPIMS方法を用いて、反応性ガスとして窒素ガスのみを有する反応性雰囲気を有する被覆チャンバ中でスパッタする方法である。
【0060】
好ましくはこの方法は、炭素源として炭素含有ガスを用いる場合、炭素含有ガスがCHを含み、もしくはCHからなる、または、Cを含み、もしくはCからなるように実施可能である。
【0061】
好ましくはこの方法は、炭素源として炭素含有ターゲットを用いる場合、1つまたは複数のTi含有ターゲットが第1電力給電機器または第1電力給電ユニットを用いてパルス電力で作動し、かつ1つまたは複数の炭素含有ターゲットが、第2電力給電機器または第2電力給電ユニットを用いてパルス電力で作動するように実施可能である。
【0062】
上述の方法のある好適な変形例によれば、1つまたは複数のTi含有ターゲットは、Tiからなる金属ターゲットである。
【0063】
上述の方法のさらなる好適なある変形例によれば1つまたは複数のTi含有ターゲットは、TiCからなるセラミック製のターゲットである。
【0064】
上述の方法のさらなる好適なある変形例によれば、少なくとも1つの炭素含有ターゲットが用いられ、1つまたは複数の炭素含有ターゲットは黒鉛からなる。
【0065】
上述の方法のさらなる好適なある変形例によれば、少なくとも1つの炭素含有ターゲットを用い、1つまたは複数の炭素含有ターゲットは、複合材料からなり、この複合材料は、例えば1つの金属または複数の金属と、1つの炭化物または複数の炭化物とを含む。
図1
図2
図3
図4