(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-18
(45)【発行日】2022-11-29
(54)【発明の名称】コンクリート構造物の内部鋼材の防錆処理とコンクリートの劣化防止を行う処理剤の製造方法、および鋼材防錆処理とコンクリートの劣化防止処理の方法
(51)【国際特許分類】
C23F 11/00 20060101AFI20221121BHJP
E04G 23/02 20060101ALI20221121BHJP
【FI】
C23F11/00 H
C23F11/00 F
C23F11/00 E
E04G23/02 A
(21)【出願番号】P 2019221670
(22)【出願日】2019-11-11
【審査請求日】2021-08-17
(73)【特許権者】
【識別番号】508181504
【氏名又は名称】株式会社サンエイジ
(73)【特許権者】
【識別番号】507048592
【氏名又は名称】アロウィング株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091683
【氏名又は名称】▲吉▼川 俊雄
(72)【発明者】
【氏名】野村 英司
【審査官】瀧口 博史
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-066055(JP,A)
【文献】特開2013-253015(JP,A)
【文献】特開2016-196409(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23F 11/00
E04G 23/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
タンニン酸、還元性リン酸化合物、リチウム化合物と、水とからなることを特徴とするコンクリート構造物用浸透性鋼材防錆処理剤。
【請求項2】
請求項1に記載のコンクリート構造物用浸透性鋼材防錆処理剤の製造方法であって、
タンニン酸、還元性リン酸化合物
を各1~20質量%、リチウム化合物
を1~30質量%
用意し、水に、タンニン酸、還元性リン酸化合物、及び、リチウム化合物を加えて、攪拌及び混合することを特徴とするコンクリート構造物用浸透性鋼材防錆処理剤
の製造方法。
【請求項3】
浸透性をさらに向上させるために、炭素数が5以下の低級アルコールを0.1~40質量%
を用意し、水と低級アルコールに、タンニン酸、還元性リン酸化合物、及び、リチウム化合物を加え
て、攪拌及び混合することを特徴とする請求項
2に記載のコンクリート構造物用浸透性鋼材防錆処理剤
の製造方法。
【請求項4】
リチウム化合物が水酸化リチウム、炭酸リチウム、ケイ酸リチウム、リン酸リチウム、亜リン酸リチウム、次亜リン酸リチウムの少なくとも1種が含まれるものであることを特徴とする請求項
2又は3に記載のコンクリート構造物用浸透性鋼材防錆処理剤
の製造方法。
【請求項5】
還元性リン酸化合物が、亜リン酸、亜リン酸塩、次亜リン酸、次亜リン酸塩の少なくとも1種が含まれるものであることを特徴とする請求項
2から4のいずれかに記載のコンクリート構造物用浸透性鋼材防錆処理剤
の製造方法。
【請求項6】
内部に鋼材を埋設したコンクリート構造物
に対して、請求項
1に記載されたコンクリート構造物用浸透性鋼材防錆処理剤を
、前記コンクリート構造物の表面に塗布
する、又は、前記コンクリート構造物のひび割れ部に注入
することにより、コンクリート内部の鋼材とコンリートの補修、劣化防止を同時行うことを特徴とする防錆処理及びコンクリートの再生・劣化防止の処理方法。
【請求項7】
前記コンクリート構造物用浸透性鋼材
防錆処理剤の塗布
又は注入後
、さらにケイ酸化合物の
水溶液又はケイ酸化合物を分散させた懸濁液を、前記コンクリート構造物の表面に塗布する、又は、前記コンクリート構造物のひび割れ部に注入することを特徴
とする請求項6に記載の防錆処理方及びコンクリートの再生・劣化防止の処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、年月の経過に伴い既設コンクリート構造物中に配設される鉄筋や鉄骨などの鋼材に発錆してコンクリート構造物が劣化すること(経年劣化)を抑制して、コンクリート構造物の耐久性を向上させるために用いられる防錆剤であって、既設コンクリート構造物の外壁をなすコンクリート面に塗布、注入し、コンクリート構造物内部に配置された鉄筋等の鋼材の位置まで浸透するコンクリート構造物用浸透性鋼材防錆処理剤に関するものである。また、そのコンクリート構造物用浸透性防錆処理剤を用いて、コンクリート構造物内部の鋼材を防錆する方法であり、さらに構造物のコンクリートに対して劣化の修復、劣化の防止を図る処理方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
内部に鋼材が埋め込まれている鉄筋コンクリート等のコンクリート構造物は、経年劣化してその構造物全体の強度が低下する。経年劣化は、具体的には、コンクリートの中性化をはじめ、鉄筋等に対するコンクリートの被り厚さの不足やコンクリートのひび割れ等を契機として水分や塩分等がコンクリート構造物内部まで容易に浸入し、コンクリート構造物内部の鉄筋や鉄骨等の鋼材に錆を発生させることで生じる。鋼材に錆が発生して鋼材の腐食が起こると、見かけ上鋼材の体積が膨張し、鋼材周囲のコンクリートに膨張圧が加わり、コンクリート構造物内部からコンクリートのひび割れが増大する。そして、経年劣化が更に進行するにつれ、コンクリート構造物全体の強度低下が一層進行し、やがてコンクリート構造物自体が破壊されるに至る。そこで、既設コンクリート構造物の鋼材に錆による腐食が生じた場合にはその補修を施し、さらには鋼材に錆ができるだけ発生しないように防錆処理を施すと同時にコンクリートのアルカリ骨材反応を抑制し、コンクリートの劣化を防止することが重要となる。
【0003】
従来、既設コンクリート構造物の補修及び鉄筋の防錆処理方法としては、コンクリート構造物の表面にリチウム塩水溶液や珪酸塩水溶液を塗布、注入し、これらの水溶液の成分たるリチウム化合物や珪酸塩をコンクリート構造物内部に浸透させることで、経年劣化を抑制する方法が公知となっている。この防錆処理方法は、コンクリート構造物の外壁をなすコンクリート面にリチウム化合物水溶液(亜硝酸カルシウム水溶液又は亜硝酸リチウム水溶液)を塗布、注入してコンクリート中に亜硝酸イオンを浸透拡散させ、コンクリート内部の鉄筋等に不動態皮膜を形成させて鋼材に水分や塩分等の接触を抑えて鋼材を防錆環境下におくことにより、錆による既設コンクリート構造物の劣化を抑える方法である(特許文献1,2,3)。また、界面活性剤の配合によりコンクリート構造物内部に亜硝酸浸透性をより向上させようとしたコンクリート構造物用浸透性鋼材防錆処理剤などが提供されていた(特許文献4,5,6、7、8)。
【0004】
また、このような防錆処理方法に用いられる防錆剤として、亜硝酸塩やリチウム化合物の水溶液に界面活性剤等を配合したものが提案されている。いずれもコンクリート構造物内部へ亜硝酸イオを浸透させて内部鋼材の防錆効果を得ようとする浸透性鋼材防錆処理剤である。防錆剤の主剤である亜硝酸塩は、雨水などで希釈されて含有濃度が低下すると、鋼鉄面への不動態膜の形成が不充分になり、また逆に鉄錆を進行させることがあった。亜硝酸塩の亜硝酸イオンは生物に対して毒性があり、河川や湖沼に流出すると環境的にも好ましくなく、また、生態系へ悪影響を及ぼすものであった。
【0005】
【文献】特開昭60-108385号公報
【文献】特開昭60-231478号公報
【文献】特開平1-298185号公報
【文献】特開2002-371388号公報
【文献】特開2005-076038号公報
【文献】特開2005-090219号公報
【文献】特開2006-144313号公報
【文献】特開2008-196024号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
コンクリート構造物の表面に内部鋼材に対する防錆処理剤や構造物のコンクリートに対する修復、劣化防止の処理剤(リチウム塩水溶液や珪酸塩水溶液)を塗布、従来の処理剤や処理方法で、防錆成分やコンリートの修復・劣化防止の成分がコンクリート構造物内部までその量、深さともに十分には浸透せず、亜硝酸塩水溶液や珪酸塩水溶液をさらに重ねて塗布、注入しても、それらの成分の浸透量、浸透深さ共に不十分であり、防錆性能やコンクリートの劣化防止は不十分であった。
【0007】
例えば鉄筋コンクリート構造物に埋設される鉄筋は、建築構造物の場合、表面からの深さ(かぶり厚さ)が約30mmの位置に配置され、土木構造物の場合にはかぶり厚さが30~60mmというのが通常である。そして、このようなコンクリート構造物内部における鉄筋の位置にまでは、従来用いられる亜硝酸塩水溶液系防錆剤や珪酸塩水溶液系防錆剤では、亜硝酸イオンを十分にコンクリート内部の鋼材部まで浸透させることができなかった。また亜硝酸イオンによるコンコンクリート内部鋼材の防錆処理は、不動体被膜を形成するもので、その防錆力は不十分であった。
【0008】
特許文献4に記載された浸透性鋼材防錆処理剤は水溶液にて使用されるが、その水溶液は、pH9.0未満の弱アルカリ性や酸性の状態にあるとリチウム化合物の化学分解が起りやすいとう問題があった。このため、保管段階において界面活性剤としての浸透性促進効果の機能が徐々に喪失してしまう事態が発生する。そのため、この浸透性鋼材防錆処理剤は、亜硝酸イオンをコンクリート内部に効率よく浸透させるという界面活性剤としての機能を長期間にわたり安定的に発揮できるものではなく、コンクリート構造物内部の鋼材まで亜硝酸イオンを十分に浸透させることは不十分であった。
【0009】
また、特許文献4、特許文献5に記載の浸透性鋼材防錆処理剤については、コンクリート内部への浸透性を向上させるために、界面活性剤を添加するものであるが、界面活性剤が徐々にアルカリ加水分解し、界面活性剤としての機能を徐々に喪失してしまうという問題があった。
【0010】
しかも、特許文献5に記載された浸透性鋼材防錆処理剤では、この浸透性鋼材防錆処理剤の必須成分をなすアニオン界面活性剤としてのアルカンスルホン酸塩がリチウム化合物を高濃度に含む電解質水溶液に対して所定量加えられても、リチウム化合物の高濃度水溶液とアルカンスルホン酸塩とは相溶性に乏しいため、アルカンスルホン酸塩はリチウム化合物水溶液に殆ど溶解せず水溶液中に懸濁した状態となってしまう。特に、リチウム化合物の高濃度水溶液、例えば亜硝酸カルシウム15~20質量%水溶液に、アルカンスルホン酸ナトリウムが配合される場合には、アルカンスルホン酸ナトリウムが水溶液中でナトリウムイオンとカルシウムイオンとのイオン交換により水に難溶な物質(アルカンスルホン酸カルシウム)になってしまい、アルカンスルホン酸塩を界面活性剤として機能させること自体できなくなってしまう。すると、この浸透性鋼材防錆処理剤をコンクリートの表面、ひび割れ部に塗布、注入しても、水に溶けなかったアルカンスルホン酸カルシウムがコンクリート表層に沈積し、界面活性剤としての機能が発揮されないだけでなく、亜硝酸イオンのコンクリート構造物内部への浸透が妨げられる問題もあった。こうしたことから、この浸透性鋼材防錆処理剤では、コンクリート構造物内部への亜硝酸イオンの十分な浸透性が得られなかった。
【0011】
また、ポリオキシエチレンアルキルエーテル型のノニオン界面活性剤とアニオン界面活性剤を併用配合して浸透性鋼材防錆処理剤を構成せずに、ポリオキシエチレンアルキルエーテル型のノニオン界面活性剤を単独で配合の浸透性鋼材防錆処理剤を構成して、そのノニオン界面活性剤の配合率を増加させて浸透性鋼材防錆処理剤を構成することも考えられるが、そのように構成したところで、亜硝酸塩による亜硝酸イオンのコンクリート構造物内部への浸透性には限界があり、十分な浸透性を得ることができなかった。それどころか、浸透性鋼材防錆処理剤におけるノニオン界面活性剤の配合率を増加させたことより、浸透性鋼材防錆処理剤をコンクリート壁面に対して刷毛又はローラーで塗布、注入する際に激しく泡立ち、コンクリート壁面への濡れ性が悪化して亜硝酸イオンの浸透性に悪影響を及ぼすという問題が生じていた。
【0012】
本発明では、コンクリート構造物の内部鋼材の防錆処理を行う主成分は、従来の亜硝酸イオンから還元性リン酸イオンに切り替えた。これにより、主成分が低濃度になっても高い防錆能力を長期間に渡り発揮することになった。人体・生物や環境に悪い影響をあたえる亜硝酸イオンの使用を回避ができるものある。
【0013】
既設コンクリート構造物の表面やひび割れ部に塗布、注入することにより、コンクリートの経年劣化を防止するとともに、内部鋼材に還元性リン酸鉄の皮膜を形成する防錆処理剤である。本発明の処理剤に含まれるリチウムイオンと還元性リン酸化合物の防錆成分は、コンクリート構造物内部の鉄筋や鋼材部分まで十分に浸透させることが可能である。鋼材部分の防錆処理とコンクリート構造物にリチウムイオンを補給し、コンクリートの補修と劣化防止を効率的に行うことが出来る。したがって、本発明のコンクリート構造物用浸透性鋼材防錆処理剤は、内部の鋼材の防錆処理と、構造物のコンクリートの修復・劣化防止とを同時に行うことができる処理剤であり、またその処理方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、(1)タンニン酸、還元性リン酸化合物と、リチウム化合物と、水とからなることを特徴とするコンクリート構造物用浸透性鋼材防錆処理剤、(2)タンニン酸、還元性リン酸化合物が、リチウム化合物を水に溶かしてなるリチウム化合物溶液に配合されてなることを特徴とする上記(1)に記載のコンクリート構造物用浸透性鋼材防錆処理剤、(3)タンニン酸、還元性リン酸化合物が0.1~100質量%、低級アルコールが0.1~40質量%、リチウム化合物が1~40質量%含まれていることを特徴とする上記(1)又は(2)に記載のコンクリート構造物用浸透性鋼材防錆処理剤、(4)低級アルコール、が第2級高級アルコールエトキシレートであることを特徴とする上記(1)から(3)のいずれかに記載のコンクリート構造物用浸透性鋼材防錆処理剤、(5)リチウム化合物が水酸化リチウム、炭酸リチウム、ケイ酸リチウム、リン酸リチウムの少なくとも1種が含まれるものであり、且つ、pHが9以上であることを特徴とする上記(1)から(4)のいずれかに記載のコンクリート構造物用浸透性鋼材防錆処理剤、(6)内部に鋼材を埋設したコンクリート構造物の表面に対して上記(1)から(5)のいずれかに記載のコンクリート構造物用浸透性鋼材防錆処理剤を塗布、注入した後、該コンクリート構造物の表面に珪酸塩水溶液を塗布、注入することを特徴とするコンクリート構造物内部の鋼材を防錆する方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0015】
本発明のコンクリート構造物用浸透性鋼材防錆処理剤は、リチウム化合物と水のほか、タンニン酸、還元性リン酸化合物と、コンクリートの劣化防止の成分としてリチウム化合物とを併用してなるものであり、このコンクリート用浸透性鋼材防錆処理剤を既設コンクリート構造物の表面やひび割れ部に塗布、注入することにより、防錆成分をなす還元性リン酸イオンやコンクリートの劣化防止の成分のリチウムイオンは、コンクリート構造物内部へ浸透拡散性に優れたものとなり、コンクリート内部の鋼材・鉄筋にまで到達し、鋼材に発生している鉄錆を還元し、防錆能力に優れた還元性リン酸鉄の被膜を鋼材の表面に形成することにより、長期間に亘って鋼材に錆の発生の抑制作用の発現が可能である。
【0016】
また、この浸透性鋼材防錆処理剤は、リチウム化合物とシリカ化合物を含有しているため、コンクリートの表面やひび割れ部に塗布、注入することによりコンクリート表面とひび割れ内部のコンクリートの劣化部を補修し、アルカリ骨材反応を抑制することから、長期に渡り、コンクリートの劣化防止の効果を発揮します。
【0017】
また、本発明の浸透性鋼材防錆処理剤は、炭素数5以下の低級アルコールを含有しているため、従来の鋼材防錆処理剤に比べてコンクリートの表面、ひび割れ部に対する浸透性と濡れ性が非常に優れているので、コンクリート構造物内部への還元性リン酸イオン、リチウムイオンのコンクリート内部への浸透拡散速度にも非常に優れたものとなっている。
【0018】
本発明のコンクリート構造物用浸透性防錆処理剤において、コンクリートの品質向上剤として、低級アルコールとともに、ノニオン界面活性剤を用いれば、還元性リン酸イオンやリチウムイオンのコンクリート構造物内部への浸透・拡散性を向上させることができる。
【0019】
タンニン酸、還元性リン酸化合物、リチウム化合物は、本来、水に比較的難溶な物質であり、これらを十分に溶解させ、また長期の保管でも沈殿物が析出しないようにするには、十分な多量の水で溶解させることが必要である。しかしながら、多量の水を使用しての溶解は、溶液の成分濃度が低下してしまう。成分濃度の低下は、鉄錆(赤錆、茶錆:ヘマタイト、ゲータイト)の黒錆(マグネタイト)への還元処理、また還元性リン酸鉄被膜形成の防錆処理の反応速度が低下することになる。
【0020】
本発明の浸透性鋼材防錆処理剤では、この対策として、炭素数5以下の低級アルコールを併用することにより、特にタンニン酸の溶解性を高め、同時に、還元性リン酸化合物、リチウム化合物をも、水に安定的に可溶化せることができる。したがって浸透性鋼材防錆処理剤として、還元性リン酸イオン、リチウムイオンの浸透性を著しく向上させると同時に、鉄錆の還元・防錆処理と、コンクリートの劣化補修、劣化防止の処理反応を速度的に高めることが出来る。
【0021】
このように、本発明のコンクリート構造物用浸透性防錆処理剤によれば、タンニン酸、還元性リン酸化合物とリチウム化合物を併用することにより、それぞれの化合物を別個に独立して用いる場合には想像しえないような独自の効果を奏し、相乗効果を奏する。
【0022】
本発明によれば、既設コンクリート構造物の表面に、本発明のコンクリート用浸透性鋼材防錆処理剤を塗布、注入するだけの簡単な施工で、この浸透性鋼材防錆処理剤中の還元性リン酸イオンをコンクリート内部に位置する鉄筋部まで十分に浸透させることができるから、コンクリート構造物の防錆を長期に渡り維持し、経年劣化を遅らせることができる。すなわち、本発明によれは、コンクリート構造物の耐久性を効果的に改善し、コンクリート構造物を長期に渡り保全することができるようになる。
【0023】
従来の浸透性鋼材防錆処理剤は、コンクリートの表面、ひび割れ部に塗布、注入した際に、泡立ちが多く、濡れ性にも問題があり、十分にコンクリート内部に浸透しないという問題があった。特に界面活性剤を添加して、浸透性を改善しようとしたものは泡立ちがあり、この泡立ちがコンクリート内部の鋼材部分へ防錆処理剤の浸透を妨げるものであった。
【0024】
鋼材防錆処理剤に界面活性剤を添加しないものは、コンクリートの表面、ひび割れ部に塗布、注入した際に、泡立ちが少ないものの、濡れ性(本明細書において、濡れ性は、濡れ、広がり、湿潤、浸透を総称する概念であるものとする。)と浸透性に欠ける問題点があった。
【0025】
この点、泡立ちを少なくして濡れ性を向上させるべく、シリコーン系消泡剤等の消泡剤を浸透性鋼材防錆処理剤に加えることが考えられる。しかしながら、その場合には、泡立ちが減少するかわりに、ハジキ現象が発生して結局濡れ性が悪化してしまうことがある。そればかりか、コンクリートの表面、ひび割れ部に浸透性鋼材防錆処理剤を塗布、注入した後にさらにセメントモルタル施工又はペイント塗装を施そうとしても、これらセメントモルタル等がコンクリート構造物にうまく接着しなくなってしまう等といった問題点があった。
【0026】
本発明によれば、こうした問題を引き起こすことなく、濡れ性と浸透性に優れた浸透性鋼材防錆処理とコンクリートの劣化防止を同時に処理する浸透性処理剤を得ることができる。
本発明においては、炭素数5以下の低級アルコールを用いるが、タンニン酸、還元性リン酸化合物、リチウム化合物水溶液への溶解性が良好であるとともに、長期の保管もより安定的に行うことが出来る。炭素数5以下の低級アルコールの含有量は0.1~40質量%の範囲であるので、不燃性液体で危険物には該当しない。また、炭素数5以下の低級アルコールは、通常、水溶液に対する表面張力低下能力を大きくして、浸透性が大幅に向上する。更に疎水性の強い界面活性剤を水溶液に溶解又は乳化する能力も大きいので、界面活性剤との併用する場合にも好都合である。
【0027】
本発明のコンクリート構造物用浸透性鋼材防錆処理剤を塗布、注入の処理を実施した後において、更に該コンクリート構造物の表面に珪酸塩水溶液を塗布、注入することができる。これによりコンクリート構造物の外部から内部への鉄錆を進行させる海水や雨水からの塩類の侵入を抑制する効果が向上し、また、防錆成分の還元性亜リン酸イオンのコンクリート内部から外部への流出抑制が可能になる。このため、内部鋼材の防錆効果とコンクリート構造物の耐久性の向上に対して、長期的に効果的、効率的に発現させることが出来る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
本発明のコンクリート構造物用浸透性鋼材防錆処理剤は、タンニン酸、還元性リン酸化合物とリチウム化合物と水、炭素数5以下の低級アルコールとからなるものである。
【0029】
これらのタンニン酸、還元性リン酸化合物とリチウム化合物と水、炭素5以下の低級アルコールなるコンクリート構造物用浸透性防錆処理剤は、濡れ性、消泡性、金属(鉄筋)への配向性を兼ね備える混合物であり、すなわち添加される対象となる液体の濡れ性を向上させる機能と消泡性を向上させる機能を兼ね備えた防錆処理剤であり、これらの原料は市場で入手可能なものである。
【0030】
浸透性鋼材防錆処理剤に使用されるタンニン酸は、通常『タンニン』と称され、柿渋、お茶に含まれる渋みの成分であり、茶色の粉末状のものが多いが、液体状の濃縮物のものもある。どちらの物を使用しても構わない。
【0031】
浸透性鋼材防錆処理剤に使用される還元性リン酸化合物は、亜リン酸、次亜リン酸などの還元性リン酸の他に、亜リン酸亜鉛、亜リン酸カルシム、亜リン酸アルミニウム、次亜リン酸亜鉛、次亜リン酸カルシウム、次亜リン酸カルシウム、次亜リン酸アルミニウムなどの亜リン化合物、次亜リン酸化合物を用いることが出来る。このうち亜リン酸、次亜リン酸、亜リン酸亜鉛、次亜リン酸亜鉛の使用が、防錆性能を引き出す上で良好である。
【0032】
コンクリート構造物用浸透性防錆処理剤に使用されるリチウム化合物は、水酸化リチウム、炭酸リチウム、ケイ酸リチウム、リン酸リチウム、硝酸リチウムなどを用いることが出来る。
【0033】
浸透性鋼材防錆処理剤に使用される炭素5以下の低級アルコールとしては、メチルアルコール、エチルアルコール、ブタノール、n-プロパノール、i-プロパノール、n-ペンタノールなどが含まれる。水との溶解性や取り扱い上から見て、エチルアルコール、n-プロパノールが好ましい。
【0034】
浸透性鋼材防錆処理剤に使用される水は、飲料用の浄水や工業用水でも良いが、蒸留水、イオン交換水、純水さらには超純水などの出来る限り不純物の少ない純粋な精製水が望ましい。
【0035】
本発明のコンクリート構造物用浸透性防錆処理剤の全体量を100質量%とした場合において、タンニン酸、還元性リン酸化合物、リチウム化合物、炭素5以下の低級アルコールのそれぞれの配合割合は次のようになる。タンニン酸が、1~20質量%であり、好ましくは3~15質量%であり。還元性リン酸化合物が、1~10質量%であり、好ましくは3~8質量%であり、リチウム化合物の配合割合は、1~40質量%、好ましくは10~30質量%である。低級アルコールの配合割合は、0.1~40質量%、好ましくは5~30質量%である。
【0036】
タンニン酸、還元性リン酸化合物、リチウム化合物低級や低級アルコールの配合割合が上記したそれぞれの配合割合の最大値を超える場合、これ以上それぞれの配合量を増やしてもコンクリート構造物の表面からその内部へ浸透する還元性リン酸イオン、リチウムイオンの浸透量や鉄錆の還元能力や防錆能力の飛躍的な向上は見込めない事から、製造コスト高となり好ましくない。
【0037】
本発明のコンクリート構造物用浸透性防錆処理剤は、タンニン酸、還元性リン酸化合物、リチウム化合物、低級アルコール、水を添加して、混合、溶解することで容易に製造することができる。
【0038】
本発明のコンクリート構造物用浸透性鋼材防錆処理剤を得る際における、タンニン酸、還元性リン酸化合物、リチウム化合物の添加については、低級アルコールと水を用意し、その後にタンニン酸、還元性リン酸化合物、リチウム化放物の順序で添加し、溶解させることが好ましい。
【0039】
本発明のコンクリート構造物用浸透性鋼材防錆処理剤は、内部に鋼材を配設したコンクリート構造物の表面に対して塗布、注入されることで、コンクリート構造物内部の鋼材を防錆する方法に用いられる。
【0040】
なおコンクリート構造物内部の鋼材を防錆する方法は、内部に鋼材を配設したコンクリート構造物の表面に対して、本発明のコンクリート構造物用浸透性鋼材防錆処理剤を塗布、注入するのみならず、コンクリート構造物の表面に珪酸塩水溶液を塗布、注入することを併用して実施されてもよい。
【0041】
内部に鋼材を埋設したコンクリート構造物の表面に、珪酸リチウム等の珪酸塩を水に溶かしてなる珪酸塩水溶液を塗布、注入すると、コンクリート構造物表面から内部に向かって多数形成されている微細な隙間を通ってコンクリート構造物内部にリチウムイオン等のアルカリ性イオンが浸透拡散してコンクリート構造物内部をアルカリ性にする効果を向上させることが出来る。
【0042】
また、コンクリート構造物内部の鋼材を防錆する方法においては、内部に鋼材を配設したコンクリート構造物の表面に対して、本発明のコンクリート構造物用浸透性鋼材防錆処理剤を塗布、注入した後、該コンクリート構造物の表面に珪酸塩水溶液を塗布、注入することが望ましい。
【実施例】
【0043】
次に、本発明と既存のコンクリート構造物用浸透性鋼材防錆処理剤について具体的な実施例を用いて更に説明する。ただし、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0044】
水:85gとn-プロパノール:5gを用意し、これにタンニン:5g、亜リン酸:2g、水酸化リチウム:3gを加えて、撹拌・混合して、表1の組成物に示すような配合組成のコンクリート構造物用浸透性鋼材防錆処理剤を得た。このコンクリート構造物用浸透性鋼材防錆処理剤のpHは6.3であった(実施例1)。また、同様にして、実施例2~5として、水、n-プロパノール、タンニン、亜リン酸、水酸化リチウムの配合量を替えて、表1の組成物に示すような配合組成のコンクリート構造物用浸透性鋼材防錆処理剤を得た。
【0045】
【比較例】
【0046】
比較例1~5として、従来のコンクリート構造物用浸透性鋼材防錆処理剤を代表する配合組成物を調製した。それを比較例として表2に示す。
【0047】
【0048】
<起泡性試験>
得られた実施例1~5、比較例1~5の組成物について、各200gを採取し、予め高さ方向に長さを示す目盛を附しておいた透明なポリビン(容積500ml)に収容し、そのポリビンを、25℃で、上下に10回振とうした。次に、振とう直後、5分後、60分後、120分後の各時点について液面上に形成される泡の層の高さ(泡高)(mm)を測定した。測定は、各時点について2回実施され、得られた測定値の平均値を泡高とした。起泡性試験の結果は表3に示す。
【0049】
【0050】
<浸透拡散性試験>
実施例1~5と比較例1~5の組成物について,コンクリートへの浸透拡散性を調査するため、コンクリート構造物の試験体(コンクリート試験体)を次のように作製した。
【0051】
コンクリート配合物を調製し、このコンクリート配合物を円柱の型枠へ打設し、脱型後、2週間封緘養生を行った。さらにその後、湿度80%、温度20℃で養生を行うことで(28日圧縮強度:26N/mm2)、コンクリート試験体を得た。コンクリート試験体は、直径10cm×高さ20cm寸法の円柱の試験体として得られた。なお、調製されたコンクリート配合物について、その配合組成は、単位セメント量:300kg/m3、細骨材+粗骨材:1800kg/m3、水セメント比(W/C):60%、細骨材/(細骨材+粗骨材)比(s/a):48%、スランプ:18cm、空気量:約6.5%である。
【0052】
得られたコンクリート試験体中の含水率を4~6%に予め調整しておき、そのコンクリート試験体の上面(円柱体の上部面)に、実施例1~5と比較例1~5の組成物を800ml/m2塗布、注入して、温度20℃、相対湿度80%に保った室内に3ヶ月間放置した。その後において、実施例1~5の組成物については、還元性リン酸イオンを、また比較例1~5の組成物について亜硝酸イオンの浸透深さ及び浸透量を測定した。コンクリート試験体中の還元性リン酸イオンまたは亜硝酸イオンの分析は、下記の「還元性リン酸イオン、亜硝酸イオンの分析方法」により測定された。
【0053】
<還元性リン酸イオン及び亜硝酸イオンの分析方法>
コンクリート試験体の塗布、注入面から深さ(浸透深さ)15mmの位置より深さ方向へ10mm毎に試験体を切断して厚さ10mmの試験片を作成し、各試験片に含まれる亜硝酸イオンの濃度を測定した。この亜硝酸イオンの濃度は、コンクリートに含まれる水に対して亜硝酸イオンがどの程度含まれるかを示す亜硝酸イオン含有率として測定される。各試験片に含まれる亜硝酸イオンの濃度の測定は、各試験片を粉砕して粉砕物を得て、この粉砕物に純水を加えて全亜硝酸イオンを水中に溶解抽出させた後、不溶解物をろ過してろ過液を分取し、ろ過液に含まれる還元性リン酸イオンと亜硝酸イオンをイオンクロマトグラフ法により測定することによって行われた。イオンクロマトグラフ法で各試験片に含まれる還元性リン酸イオン、亜硝酸イオンの重量を測定し、コンクリートに含まれる水分に対する亜硝酸イオン含有率(ppm)を算出した。還元性リン酸イオン、亜硝酸イオン含有率の測定結果を表4、表5に示す。
【0054】
【0055】
【0056】
一般的な鉄筋コンクリート中の鉄筋の位置は、上記したようにコンクリートの表面、ひび割れ部から30mm前後の深さの位置に存在するのが通常である。従来のコンクリート構造物用浸透性鋼材防錆処理剤では、上記の表4(比較例1~5)に示すように表面のひび割れ部から防錆成分の亜硝酸イオンが深さ30mmまでにとどまることが多い。
【0057】
本発明のコンクリート構造物用浸透性鋼材防錆処理剤では、鉄筋の位置:30mmを超えて50~60mmの深さの位置にまでに防錆成分の亜リン酸イオンが到達している。
【0058】
したがって、この結果からみると、本発明のコンクリート構造物用浸透性鋼材防錆処理剤のコンクリート中への浸透拡散性は、比較例1~5と対比して飛躍的に向上していることがわかる。
【0059】
本発明のコンクリート構造物用浸透性鋼材防錆処理剤をコンクリートの表面部に塗布、注入後において、ケイ酸化合物をさらに塗布すると、コンクリートの再生および劣化防止がより効率的に実施が出来る。これに使用するケイ酸化合物としては、ケイ酸ナトリウム(水ガラス)、ケイ酸リチウム、ケイ酸カリウム、ケイ酸カルシム、ケイ酸マグネシウム、ケイ酸アルミニウム、シリカ微粒子(粉末、ゾル)などの水溶液、または分散させた懸濁液を用いることが出来る。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明のコンクリート構造物用浸透性鋼材防錆処理剤は、これを既設コンクリート構造物のひび割れ部から注入やコンクリート壁面に塗布することにより、防錆剤中の亜リン酸イオンやリチウムイオンをコンクリート内部の鉄筋等の位置まで十分に浸透させ、鉄筋等の鋼材の鉄錆を還元し、マグネタイト化し、また鋼材部に還元性リン酸鉄の被膜を形成して防錆処理を行うことが出来る。また、同時に劣化したコンクリート部分にリチウムイオンを供給することにより、コンリートの経年劣化を防止し、コンクリート構造物の耐久性を向上させことができる。