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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-18
(45)【発行日】2022-11-29
(54)【発明の名称】ウインチ装置
(51)【国際特許分類】
   B66D 5/14 20060101AFI20221121BHJP
   B66D 3/20 20060101ALI20221121BHJP
【FI】
B66D5/14
B66D3/20 C
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2018142436
(22)【出願日】2018-07-30
(65)【公開番号】P2020019577
(43)【公開日】2020-02-06
【審査請求日】2021-05-19
(73)【特許権者】
【識別番号】598025511
【氏名又は名称】ユニパー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000198
【氏名又は名称】弁理士法人湘洋特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】綱木 一郎
【審査官】須山 直紀
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-076163(JP,A)
【文献】特開2013-049534(JP,A)
【文献】特開2005-029371(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2005/0011707(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B66D 5/14
B66D 3/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
モーターと、前記モーターに駆動されるギアと、前記ギアを弾力機構を介して挟持するギア挟持手段を含むギア保持部と、前記ギア保持部と接続可能なラチェット機構と、前記ギア保持部を介して前記ギアによって駆動されるワイヤードラム駆動シャフトと、前記ワイヤードラム駆動シャフトによって駆動されるワイヤードラムとを有し、
前記ギア保持部は嵌め合う傾斜面を有する一対のカムを有し、前記ギアが荷揚げ方向に回転するときは前記カムが相対的に正方向に捻れて前記ギア保持部を伸長させて前記ラチェット機構に接続し、前記ギア、前記弾力機構、前記ギア挟持手段及び前記ラチェット機構が一体的に回転し、前記ラチェット機構を作用させながら前記モーターの回転を、前記ワイヤードラム駆動シャフトを介して、前記ワイヤードラムに伝達するウインチ装置であって、
前記ギア挟持手段は、
前記ギアの両側に配置されたブレーキパッドと、
前記ブレーキパッドを両側から挟持する、一方の前記カムを有するブレーキディスクとプレートと、
前記ギアから所定距離を保持する保持板と、を有し、
前記弾力機構は、
前記保持板との距離を調整可能な押え板と、
一端が前記押え板に当接し、他端が前記プレートに当接し、前記保持板の貫通孔に挿入されたコイルバネとを有する
ウインチ装置。
【請求項2】
請求項1に記載のウインチ装置であって、
前記ブレーキディスクは、
前記ブレーキパッドの一つにその外側から当接するディスク部と、前記ディスク部から延出し前記ギアの中心部開孔を貫通して反対側の前記ブレーキパッドと前記プレートと前記保持板の外側に突出する貫通軸とを有し、
前記ブレーキディスクの前記貫通軸は、前記保持板の位置を保持する止め具を有しているウインチ装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載のウインチ装置であって、
前記弾力機構は、
前記押え板と前記保持板との距離を調整するねじと、
前記押え板と前記保持板の間に配置され、前記ばねの初期荷重を規定するスペーサと、有し
前記押え板と前記保持板の直径は、前記ギアの直径よりも小さく、前記ねじと前記コイルバネは、前記ワイヤードラム駆動シャフトを軸とした周方向に互い違いに設けられている
ウインチ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ウインチ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、工事現場等で建設資材等の荷揚げと荷下ろしにウインチ装置が使用されている。
【0003】
ウインチ装置は、駆動用のモーターと、荷に結びつけたワイヤーを巻き取りあるいは繰り出すためのワイヤードラムと、モーターとワイヤードラムの間の動力伝達機構からなっている。モーターの駆動軸は動力伝達用のギアとかみ合っており、ギアの回転はワイヤードラム駆動シャフトを介してワイヤードラムに伝達されるようになっている。
【0004】
かかるウインチ装置において、荷揚げ時および荷下ろし時の様々な荷重状態に対して安全に使用できるように種々の対策が講じられている。
【0005】
ウインチ装置のギアの両側にはブレーキパッドが備えられている。具体的な一つの構成例として、弾力機構を有してギアを保持する部分(「ギア保持部」という)があり、弾力機構によってブレーキパッドをギアに押圧している。
【0006】
ギア保持部の間の距離は伸縮可能になっている。ギア保持部の間の距離が伸びた状態では、伸びたギア保持部の一部がラチェット板に押し付けられ、所定の方向にしか回転を許さないラチェット機構が働くようになる。
【0007】
逆に、ギア保持部の間の距離が縮んだ状態では、ラチェット板に押し付けられていたギア保持部の一部が滑り出し、ラチェット機構が働かずにギアが逆の方向に回転することができるようになっている。
【0008】
ウインチ装置で荷揚げをするときは、ギア保持部の間の距離が伸び、ギア保持部の一部がラチェット機構のラチェット板に押し付けられる。これによって、ギアはラチェット板とともに回転し、ラチェット機構の許す方向に回転する。この状態では、モーターの回転(正回転)がギアとワイヤードラムに伝えられて荷を揚げることができる。万一、荷揚げの途中で、ギアが反対方向に回転しそうになるときは、ラチェット機構が働いてギアの逆転を防止することができる。
【0009】
荷下ろしするときは、ギア保持部の間の距離が縮み、それによってラチェット板に押し付けられたギア保持部の一部がラチェット板に対して滑り出し、ラチェット機構が働かずに、ギアがモーターの回転(逆回転)と同一の逆方向に回転することができるようになる。
【0010】
ギア保持部の伸縮を可能とする手段の一例として、傾斜面が互いに嵌まり合う一対のカムを用いることができる。
【0011】
かかるカムによれば、荷揚げ時にはカムの傾斜面が摺動してカムの間の距離が伸長し、その結果ギア保持部の間の距離が伸び、ギア保持部のラチェット機構に当接する部材がラチェット板に押しつけられ、摩擦力によってラチェット板がギアとともに回転するようになる。その結果、ラチェット機構を機能させながら一方向に回転することができるようになる。
【0012】
一方、ウインチ装置で荷下ろしする時には、カムの傾斜面が互いに嵌まり合う方向に摺動し、ギア保持部の間の距離が縮小する。その結果、ギア保持部のラチェット機構に当接する部材が、ラチェット板に対して滑り、ラチェット機構が機能しないで荷下ろしをすることができるようになる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【文献】特開平11-35289号公報
【文献】特開平11-43291号公報
【文献】特開平5-43194号公報
【文献】特開2009-107833号公報
【文献】特開2018-76163号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
上述したように、ウインチ装置で荷揚げをするときは、ギア保持部の間の距離が伸びて、ギア保持部の一部がラチェット板に強く押し付けられ、ギアがラチェット板とともにモーターの回転方向(正回転)に回転する。
【0015】
この荷揚げ状態の途中で、モーターの回転が停止するような荷重がかかったときは、モーターに電流を投入し続ける状態が続くと、モーターが焼き付く事態に至ることがある。このため、ウインチ装置の荷揚げ時に、規定荷重より大きい一定の荷重がかかったときは、モーターが回転し続けられる手段が講じられている。
【0016】
具体的には、ウインチ装置の荷揚げ時に一定の大荷重がかかったときは、ギアとその両側に備えられたブレーキパッドの間で滑りが発生するようにしている。
【0017】
これらのブレーキパッドは、通常の運転では、ギアとの間で滑りを発生せず、しかし、規定荷重より大きい一定の荷重がかかったときは滑りを発生するように、弾力機構によってギアに対する押圧力を調整されている。
【0018】
ウインチ装置は、工場出荷時に、弾力機構が適切な力でブレーキパッドをギアに押圧するように調整して出荷される。
【0019】
しかし、ブレーキパッドは使用によって摩耗していくことがある。弾力機構は、通常の使用時にスリップしないように比較的大きな力でブレーキパッドを押圧できるように、また、小型化することができるように、弾力係数が比較的大きいバネを使用することが多い。
【0020】
ブレーキパッドの磨耗によってバネのストロークが変化すると、弾力係数が大きい弾力機構のバネは、ストロークが変化し、ブレーキパッドに対する押圧力が許容範囲以上に減少してしまうことがある。換言すると、従来の技術では、ブレーキパッドの摩耗の許容範囲が狭かった。
【0021】
そのため、定期的にウインチ装置を調整する必要があり、ブレーキパッドの消耗が許容範囲を超える場合には、ブレーキパッドの取り替えなど、大幅なメンテナンスが必要になることがある。
【0022】
そこで、本発明の目的は、簡単な構造により、長期間メンテナンスフリーなウインチ装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0023】
本発明によるウインチ装置は、例えば、
モーターと、前記モーターに駆動されるギアと、前記ギアを弾力機構を介して挟持するギア挟持手段を含むギア保持部と、前記ギア保持部と接続可能なラチェット機構と、前記ギア保持部を介して前記ギアによって駆動されるワイヤードラム駆動シャフトと、前記ワイヤードラム駆動シャフトによって駆動されるワイヤードラムとを有し、
前記ギア挟持手段は、ギアの両側に配置されたブレーキパッドと、前記ブレーキパッドを両側から挟持するブレーキディスクとプレートと、前記ギアから所定距離を保持する保持板と、を有し、
前記弾力機構は、前記保持板との距離を調整可能な押え板と、一端が前記押え板に当接し、他端が前記プレートに当接するコイルバネとを有することを特徴とする。
【0024】
前記ブレーキディスクは、
前記ブレーキパッドの一つにその外側から当接するディスク部と、前記ディスク部から延出し前記ギアの中心部開孔を貫通して反対側の前記ブレーキパッドと前記プレートと前記保持板の外側に突出する貫通軸とを有し、
前記ブレーキディスクの前記貫通軸は、前記保持板の位置を保持する止め具を有していてもよい。
【0025】
前記弾力機構は、
前記押え板と前記保持板との距離を調整するねじと、
前記押え板と前記保持板の間に配置され、前記ばねの初期荷重を規定するスペーサと、有していてもよい。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、簡単な構造により、長期間メンテナンスフリーなウインチ装置が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1】本発明の一実施形態によるウインチ装置の斜視図である。
図2】本発明の一実施形態によるウインチ装置の分解斜視図である。
図3】本発明の一実施形態による動力伝達部の分解斜視図である。
図4】本発明の一実施形態によるギアの周辺の分解斜視図である。
図5】本発明の一実施形態によるギア挟持手段と弾力機構と作用の説明図である。
図6】本発明の一実施形態による爪プレートの斜視図である。
図7】本発明の一実施形態によるブレーキディスク及びリングの斜視図である。
図8】ブレーキディスク及びリングのカムの作用の説明図である。
図9】本発明の一実施形態による挟持部材の固着状態を解除する手段の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下に本発明を実施するための一形態を説明する。
【0029】
図1は本発明の一実施形態によるウインチ装置1の斜視図を示している。
【0030】
ウインチ装置1は、駆動源となるモーター部2と、荷を吊り上げあるいは吊り下げるワイヤーを巻き取るワイヤードラム3と、モーター部2の動力をワイヤードラム3に伝える動力伝達部4とを有している。
【0031】
動力伝達部4はケース4aとケースカバー4bを有し、動力伝達機構はその内部に格納されている。
【0032】
ウインチ装置1は、サイドプレート10a,10bを有し、これらサイドプレート10a,10bは装置全体を支持し、ウインチ装置1を台座等に固定するために使用される。
【0033】
図2はウインチ装置1の分解斜視図を示している。図3は、動力伝達部4部分を拡大した分解斜視図を示している。図4は、さらに動力伝達部4のギア周辺(ギア保持部)を拡大して示した分解斜視図である。これらの図面を用いて本実施形態のウインチ装置1の構成を以下に説明する。
【0034】
モーター部2は、図2に示すように、モーターカバー2aとファンケース2bを有し、その内部に、ファン2cとモーター2dが格納されている。ファン2cは回転してモーター2dの熱を排出するために設けられている。
【0035】
アウターシャフト5はワイヤードラム3の芯部に挿通され、モーター2dの駆動軸のドライブシャフト6はアウターシャフト5の内部を貫通している。
【0036】
図2の符号20は、ワイヤードラム3に巻き付けられるワイヤー(長さの異なる2種)を示している。
【0037】
ドライブシャフト6の端部はドライブシャフトギア6aを有し、ケース4aの内部に挿入され動力伝達部4のギア7と噛合している。
【0038】
図2および図3においてさらに明らかに示すように、ギア7は、ギア保持部19(すなわちブレーキディスク13と二枚のブレーキパッド14とプレート15と爪プレート33と保持板16と弾力機構17とねじりスプリング24とリング25)を介して、ワイヤードラム駆動シャフト8に動力を伝達することができるように構成されている。
【0039】
弾力機構17は、保持板16との距離を調整可能な押え板21と、一端が押え板21に当接し、他端がブレーキパッド14を押圧するプレート15に当接する少なくとも一つ(図の例では5つ)のコイルバネ22と、後述するねじ26とスペーサ27と、を有している。
【0040】
ワイヤードラム駆動シャフト8の端部にはワイヤードラム駆動ギア8aが設けられ、図2に示すワイヤードラムギア9と噛合している。
【0041】
ワイヤードラムギア9はねじによってワイヤードラム3に固定され、回転をワイヤードラム3に伝えるようになっている。
【0042】
動力の伝達経路の面から見れば、モーター2dの回転は、ドライブシャフト6を通してギア7に伝えられ、ギア7の回転はギア保持部19を介してワイヤードラム駆動シャフト8に伝えられ、ワイヤードラム駆動シャフト8の回転はワイヤードラムギア9を介してワイヤードラム3に伝えられるように構成されている。
【0043】
図4はギア7と、ギア保持部19とカムの固着状態を解除する解除手段の構成を示している。
【0044】
ギア保持部19は、図4の左側から、ブレーキディスク13と一対のブレーキパッド14とプレート15と爪プレート33と保持板16と押え板21とコイルバネ22とねじ26とスペーサ27とC型の止め具23とねじりスプリング24とリング25とを有している。
【0045】
そのうち、押え板21と、コイルバネ22と、ねじ26と、スペーサ27は弾力機構17を構成している。ブレーキパッド14はギア7の両側に配置されている。
【0046】
ねじりスプリング24は、その一端が、ブレーキディスク13のカム13d付近に設けられた溝(孔でも良い)に引っ掛けられ、他端が、リング25の外周に設けられたピン孔に挿着されたスプリングピン25aに引っ掛けられている。
【0047】
ギア保持部19は、弾力機構17を介してギア7を挟持するためのギア挟持手段18を有している。
【0048】
ギア挟持手段18は、弾力機構17と、弾力機構17を機能させるための固定された距離を保持するための構造を有している。
【0049】
このため、ブレーキディスク13は、ブレーキパッド14の一つ(図4の例では左側のブレーキパッド14)にその外側から当接するディスク部13aと、ディスク部13aから延出しギア7の中心部開孔7aを貫通して反対側のブレーキパッド14とプレート15と爪プレート33と保持板16の外側に突出する貫通軸13bを有している。貫通軸13bの突出した端部には溝が刻設されており、その溝に止め具23が嵌着されている。これにより、保持板16は、止め具23に止められ、ギア7から所定の距離を保持できるようになる。
【0050】
この保持板16に対して、押え板21は距離を調整可能になっている。具体的には、複数のねじ26が押え板21を貫通して保持板16に螺合している。ねじ26の保持板16と押え板21の間のねじ部には、スペーサ27が嵌着されている。押え板21は、コイルバネ22の一端に当接している。コイルバネ22は、保持板16を貫通し、爪プレート33をさらに貫通し、他端がプレート15に当接している。図4図5等に図示のように、保持板16及び押え板21は、いずれもギア7より直径が小さい。
【0051】
押え板21とコイルバネ22とねじ26とスペーサ27は、弾力機構17を構成し、弾力機構17の作用により、ギア7を弾力的に挟持できるようになっている。なお、スペーサ27は弾力機構17に必要に応じて追加することができる付加的な構成である。また、スペーサ27は、ねじ26のねじ部に嵌着される構成に限られない。例えば、スペーサ27は、ねじ26が貫通する押え板21の貫通孔を囲むように又は貫通孔から外れた位置に、押え板21に一体的に形成されていてもよい。反対に、保持板16側に一体的に形成されていてもよい。このようにすれば、弾力機構17の部品点数を少なくすることができ、製造工程を簡略化できる。
【0052】
ここで、図5を用いて、ギア挟持手段18が弾力機構17を介してギア7を適切な力で挟持することができることを説明する。
【0053】
図5はギア挟持手段18と弾力機構17と作用を説明する図である。図5において、簡潔に示すため、コイルバネ22とねじ26とスペーサ27はそれぞれ一つのみ示しているが、それらは図2-4の例ではそれぞれ5個存在し、コイルバネ22とねじ26は周方向に互い違いに配置されている。
【0054】
ギア7の両側にはブレーキパッド14が配置され、一方のブレーキパッド14は外側からブレーキディスク13のディスク部13aに挟まれ、他方のブレーキパッド14は反対側からプレート15によって挟まれている。ブレーキディスク13の貫通軸13bは、ギア7の中心部開孔7aを貫通し、反対側のブレーキパッド14とプレート15と爪プレート33と保持板16の外側に突出している。貫通軸13bの先端部には溝が刻設され、そこに止め具23が嵌着されている。止め具23により、保持板16はギア7との間の最大距離が規定されている。
【0055】
保持板16に対して押え板21は、ねじ26によって、その間の距離が調整可能になっている。コイルバネ22は、一端部が押え板21に当接し、他端部がプレート15に当接している。この構造により、ねじ26を締め込むと、保持板16がギア7との距離が保持されているため、コイルバネ22がプレート15を強く押圧するようになる。これによって、ブレーキパッド14が両側からギア7に強く押し付けられる。
【0056】
ウインチ装置1の通常の運転のトルク(例えば、規定荷重の150%未満)ではブレーキパッド14とギア7が滑らずに一体的に回転するようになっている。このため、コイルバネ22は、220-280キログラム、さらに好ましくは240-260キログラムの圧力でプレート15を押圧する。なお、この圧力はウインチ装置1の規定荷重により適宜調節することができることは言うまでもない。
【0057】
スペーサ27は、ねじ26を締め込んだ時の、保持板16と押え板21の間の距離を規定する。スペーサ27を配置することにより、工場出荷時にねじ26が一定の圧力(初期荷重)でプレート15を押圧するようにすることができる。これにより、ウインチ装置1のブレーキパッドの押圧力を均質化することができ、製品のばらつきを防止することができる。
【0058】
コイルバネ22は、ブレーキパッド14の制動力を生じるために必要な弾力係数を有している。さらに、コイルバネ22は、ブレーキパッド14の磨耗によってストロークが変化しても、必要な押圧力を発生させるものを選択することができる。すなわち、ばね定数を適宜選択することにより、工場出荷時に、適切な押圧力を発生するように設定し、設計上のブレーキパッド14の摩耗を見込むことにより、ギア7のブレーキのメンテナンス周期を大きく延ばすことができる。
【0059】
ギア保持部19の間の距離が短くなった状態では上記のブレーキの制動力が発生し、荷揚げ時にはブレーキディスク13がリング25に対して捻れを生じることになる。
【0060】
図6は爪プレート33を拡大して示している。
【0061】
図6に示すように、爪プレート33は概略鍔状の金属プレートからなり、周縁部に切り込みを有し、一部の金属が折り返されて図に示すような傾斜面を有する一対の爪33a、33bが形成されている。爪プレート33の中央部開口の近傍には図示するように複数の孔33cが形成されている。孔33cは図4に示すように、トラスネジ36によって爪プレート33を隣接するプレート15に固定するために使用される。
【0062】
図7は、ブレーキディスク13とリング25を抜き出して示している。
【0063】
図7に示すように、ブレーキディスク13はカム13dを有し、リング25はカム25dをそれぞれ有している。カム13dとカム25dはそれぞれ図示するような傾斜面を有し、組み立て時には傾斜面が互いに嵌め合うように形成されている。ブレーキディスク13とリング25はギア保持部19の両端の部材になっている。
【0064】
リング25は図示しないワイヤードラム駆動シャフト8に嵌着され、キー溝25bによってワイヤードラム駆動シャフト8と一体的に回転するよう固定されている。
【0065】
図8はブレーキディスク13とリング25の相互の作用を説明する図である。
【0066】
図8に示すように、ブレーキディスク13とリング25はカム13dとカム25dが互いに向かい合うように配置され、組み立て時にはカム13dの傾斜面とカム25dの傾斜面が互いに嵌め合うように配置される。
【0067】
荷揚げ時を例に説明すると、荷揚げ時にはギア7は図8の右側に示す荷揚げ方向(時計回り方向)に回転し、ブレーキディスク13はギア7とともに回転し、リング25に対して相対的に時計回り方向の捻れを生じる。なお、本願明細書において荷揚げ時のリング25に対するブレーキディスク13の相対的な捻れ方向を「正の捻れ方向」という。
【0068】
ブレーキディスク13がリング25に対して正の捻れ方向に相対的に回転すると、カム13dとカム25dの傾斜面が互いに摺動し、ブレーキディスク13とリング25の間の距離が増大(伸長)する。
【0069】
ブレーキディスク13とリング25の間の距離が増大すると、図2に示すように、ブレーキディスク13がラチェット機構の一部のラチェット板12に押しつけられる。なお、ケースカバー4bの内側には、歯止め28が、軸を中心に搖動可能に、かつバネで内側に向けて付勢され取付けられている。ラチェット板12の外周には、歯の向きが傾けられた歯車が設けられており、歯止め28とともに、ラチェット機構を形成する。ラチェット板12の板面には、摩擦力を増大させる摩擦材が設けられている。ラチェット板12は、エンドプレート11とブレーキディスク13とにより挟まれている。
【0070】
これにより、荷揚げ持では、ブレーキディスク13により押し付けられたラチェット板12がギア7とともに回転し、ギア7が逆転しようとするとラチェット機構が作用してギア7の逆転を防止する。
【0071】
荷下ろし時は、ギア7が荷下ろし時の反時計回り方向に回転する。
【0072】
荷下ろし時のギア7の反転時は、ブレーキディスク13とリング25のカム13d,25dが元のように嵌め合って、ブレーキディスク13とリング25の間の距離が減少し、ブレーキディスク13とラチェット板12の圧力が弱まる。このため荷下ろし時に、ブレーキディスク13を、ラチェット板12に対して滑りながら反転可能となることから、ギア7を反転させることができる。
【0073】
以上の構成に基づいてウインチ装置1の動作について以下説明する。
【0074】
まず、荷揚げ時について説明する。
【0075】
荷揚げ時は、モーター2dの回転は、ドライブシャフト6を介して、ギア7に伝えられる。ギア7は、二枚のブレーキパッド14によって挟まれ、前述したようにブレーキディスク13とともに回転しようとし、リング25に対して正方向の捻れを生じることになる。これにより、ブレーキディスク13とリング25のカム13d,25dは、傾斜面同士が摺動して離れる方向に作用しながら噛み合う。
【0076】
カム13d,25dが離れる方向に作用するため、ブレーキディスク13がラチェット板12を押し付ける圧力がかかり、ラチェット板12がブレーキディスク13とともに回転しようとする。ラチェットの歯止め28は解除する方向なので、ラチェット板12は荷揚げ方向には回転可能である。したがって、ブレーキディスク13は、正の方向に回転し、それに伴いリング25が回転する。
【0077】
リング25は、キー溝25bによってワイヤードラム駆動シャフト8に固定されているので、リング25が回転すれば、ワイヤードラム駆動シャフト8も回転し、ギア7の回転をワイヤードラム3に伝えることになり、荷を引き揚げることができる。
【0078】
一方、ラチェット板12の逆回転はラチェット機構により制限されるため、引上げ時に万一の場合にギア7の逆回転を防止することができるようになっている。
【0079】
次に、荷下ろし時について説明する。
【0080】
荷下ろし時には、モーター2dが荷揚げ時と逆の方向に回転し、この回転がギア7に伝えられ、ギア7を荷揚げ時とは逆の方向(荷下ろし方向)に回転しようとする。
【0081】
ギア7の荷下ろし方向の回転は、リング25に対するブレーキディスク13の正の捻れ方向と逆方向の捻れとなり、これによってカム13d,25dの傾斜面が互いに嵌まり合い、ブレーキディスク13とリング25は互いに接近する。
【0082】
この結果、ブレーキディスク13のラチェット板12に対する押し付け力が弱まるので、ブレーキディスク13は、ラチェット板12に対して滑って回転することが可能となり、荷下ろしが可能となる。
【0083】
このように、荷下ろし時はモーター2dが荷揚げ時とは反対の方向に回転し、それにともなってギア7が回転し、その回転はワイヤードラム駆動シャフト8を介してワイヤードラム3に伝えられ、荷を下ろすことができる。また、ブレーキディスク13が、ラチェット板12の摩擦材を摩擦しながら滑ることで、ブレーキを効かすことができ、モーター2dに過度な負担を掛けないで済む。
【0084】
次に、急激に過度な荷重がかかりギア保持部19が固着した状態になる場合について説明する。
【0085】
前述したように、荷揚げ時に不意にある程度(想定内)の荷重が増加したとき(例えば、規定荷重の150%以上となったとき)、ギア7とブレーキパッド14がスリップし、モーター2dの焼き付きを防止するようになっている。
【0086】
しかし、急激に過度な荷重がかかったときは、カム13d,25dが過度に離開し、カム13d,25dを有するブレーキディスク13とリング25の間の距離が大きくなり、この結果ブレーキディスク13がラチェット板12に強く押しつけられ、力の作用と反作用によりブレーキディスク13が固定されてしまうことがある。
【0087】
ブレーキディスク13が固着した状態でも、モーター2dの荷揚げ方向の回転が維持されモーターの焼き付きは防止されるが、通常モーター2dを逆回転させるとカム13d,25dが嵌まり合い状態に戻るところ、ブレーキディスク13が固着した状態になると、ギア7が空転し、元の状態に戻らなくなる。
【0088】
図9は、本実施形態の解除手段の作用を示している。
【0089】
本実施形態の解除手段は、ギア7とともに回転する第一の係合手段と、ブレーキディスク13とともに回転する第二の係合手段とを有している。
【0090】
第一の係合手段は、ギア7が荷下ろし方向に回転するときにブレーキディスク13の第二の係合手段と係合し、ブレーキディスク13をリング25に対して荷揚げ時の正方向の捻れ方向とは逆の方向に回転させる。
【0091】
本実施形態では、スプリングピン34が第一の係合手段になっており、爪プレート33の爪33a、33bが第二の係合手段になっている。
【0092】
スプリングピン34はギア7に設けられたピン孔35に挿着されており、ギア7とともに回転し、爪プレート33側に突出し、図9の矢印で示す荷下ろし方向に回転するときに、爪33a、33bと係合するようになっている。
【0093】
爪33a、33bは傾斜面を有し、ギア7が荷揚げ方向に回転するときは、スプリングピン34の先端を傾斜面で乗り越えさせるが、ギア7が荷揚げ方向と逆の方向に回転するときはスプリングピン34と係合するようになっている。つまり、ギア7が荷下ろし方向に回転すると、半周以内に、スプリングピン34が爪プレート33を回すことになる。
【0094】
爪プレート33はトラスネジ36によってプレート15と一体的に回転するようになっており、プレート15は内周面にカム13dのキー溝と嵌合するキーを有していることによりブレーキディスク13と一体的に回転するようになっている。
【0095】
以上の構造により、ギア7が図9の矢印に示す荷下ろし方向に回転すると、半回転以内に、スプリングピン34が爪33a、33bと係合し、ブレーキディスク13を強制的に回転させる。
【0096】
ブレーキディスク13の荷下ろし方向の回転は、リング25に対する正の捻れ方向と逆方向の捻れを生じ、カム13d,25dを傾斜面同士が嵌まり合う状態に復帰する。以降は、通常の荷揚げと荷下ろしの操作を行うことができるようになる。
【0097】
上記の記載に基づいて、当業者であれば、本発明の追加の効果や種々の変形を想到できるかもしれないが、本発明の態様は、上述した実施形態に限定されるものではない。特許請求の範囲に規定された内容及びその均等物から導き出される本発明の概念的な思想と趣旨を逸脱しない範囲で種々の追加、変更及び部分的削除が可能である。
【符号の説明】
【0098】
1:ウインチ装置
2:モーター部
2a:モーターカバー
2b:ファンケース
2c:ファン
2d:モーター
3:ワイヤードラム
4:動力伝達部
4a:ケース
4b:ケースカバー
5:アウターシャフト
6:ドライブシャフト
6a:ドライブシャフトギア
7:ギア
7a:中心部開孔
8:ワイヤードラム駆動シャフト
8a:ワイヤードラム駆動ギア
9:ワイヤードラムギア
10a,10b:サイドプレート
11:エンドプレート
12:ラチェット板
13:ブレーキディスク
13a:ディスク部
13b:貫通軸
14:ブレーキパッド
15:プレート
16:保持板
17:弾力機構
18:ギア挟持手段
19:ギア保持部
20:ワイヤー
21:押え板
22:コイルバネ
23:止め具
24:ねじりスプリング
25:リング
25a:スプリングピン
25b:キー溝
25d:カム
26:ねじ
27:スペーサ
28:歯止め
33:爪プレート
33a,33b:爪
33c:孔
34:スプリングピン
35:ピン孔
36:トラスネジ
図1
図2
図3
図4
図5
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図8
図9