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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-18
(45)【発行日】2022-11-29
(54)【発明の名称】経口投与用の皮膚用保湿機能剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 8/37 20060101AFI20221121BHJP
   A61Q 19/00 20060101ALI20221121BHJP
   A61K 8/99 20170101ALI20221121BHJP
   A61K 8/9789 20170101ALI20221121BHJP
   C12P 1/04 20060101ALN20221121BHJP
   C12P 7/62 20220101ALN20221121BHJP
【FI】
A61K8/37
A61Q19/00
A61K8/99
A61K8/9789
C12P1/04 Z
C12P7/62
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2018238165
(22)【出願日】2018-12-20
(65)【公開番号】P2020100574
(43)【公開日】2020-07-02
【審査請求日】2021-11-19
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 MDPI AG、Nutrients 2018,10(12),1858
(73)【特許権者】
【識別番号】302054936
【氏名又は名称】株式会社光英科学研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110002446
【氏名又は名称】特許業務法人アイリンク国際特許商標事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100076163
【弁理士】
【氏名又は名称】嶋 宣之
(72)【発明者】
【氏名】徳留 嘉寛
(72)【発明者】
【氏名】玉根 強志
【審査官】相田 元
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-114806(JP,A)
【文献】特開2016-202139(JP,A)
【文献】特開平10-287540(JP,A)
【文献】特表平08-511013(JP,A)
【文献】国際公開第2014/091988(WO,A1)
【文献】特開2008-24618(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 8/00- 8/99
A61K 31/225
A61Q 1/00-90/00
C12P 1/00-41/00
Mintel GNPD
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
トリリノレインを有効成分とする経口投与用の皮膚用保湿機能剤。
【請求項2】
豆乳を培地にして生産され、上記トリリノレインが含有された乳酸菌生産物質からなる請求項1に記載の経口投与用の皮膚用保湿機能剤。
【請求項3】
上記乳酸菌生産物質は、
B.ロンガム(Bifidobacterium longum)、B.ビフィダム(Bifidobacterium bifidum)、B.アドレセンティス(Bifidobacterium adolescentis)、
L.アシドフィラス(Lactobacillus acidophilus)、L.ブレビス(Lactobacillus brevis)、L.ジェンセニイ(Lactobacillus jensenii)、L.パラカゼイ(Lactobacillus paracasei subsp. paracasei)、L.ガセリー(Lactobacillus gasseri)、L.ブルガリクス(Lactobacillus delbrueckii subsp.bulgaricus)、L.ヘルベティカス(Lactobacillus helveticus)、L.カゼイ(Lactobacillus casei subsp. casei)、L.ラモナウサス(Lactobacillus rhamnosus)、L.デルブリッキィ(Lactobacillus delbrueckii subsp. delbrueckii)、
S.サーモフィラス(Streptococcus thermophilus)、E.フェシウム(Enterococcus faecium)、L.ラクチス(Lactococcus lactis)の16菌種のいずれかであって共棲培養可能な複数の乳酸菌を培養した培養液からなる請求項2に記載の経口投与用の皮膚用保湿機能剤。
【請求項4】
上記乳酸菌生産物質は、
E.フェシウムおよびL.ヘルベティカスを第1グループ、
E.フェシウムおよびL.アシドフィラスを第2グループ、
E.フェシウムおよびL.ガセリーを第3グループ、E.フェシウム、L.アシドフィラスおよびL.ブレビスを第4グループ、
E.フェシウム、L.アシドフィラスおよびL.ブレビスを第5グループ、
E.フェシウム、L.アシドフィラス、L.ブレビス、L.パラカゼイを第6グループ、
B.アドレセンティス単体を第7グループ、
L.デルブリッキィおよびL.ガセリーを第8グループ、
L.デルブリッキィ単体を第9グループ、
E.フェシウム、L.ジェンセニイ、L.パラカゼイおよびL.ブレビスを第10グループ、
L.アシドフィラス単体を第11グループ、
E.フェシウムおよびL.ガセリーを第12グループ、
L.パラカゼイ単体を第13グループ、
L.ガセリー、E.フェシウムおよびB.ビフィダムを第14グループ、
B.ロンガム、S.サーモフィラスおよびE.フェシウムを第15グループ、
L.ガセリーを単体で第16グループ、
L.ブルガリクスおよびS.サーモフィラスを第17グループ、
L.ガセリー、L.ラクチス、L.ガセリーおよびE.フェシウムを第18グループ、
L.ガセリー、S.サーモフィラスおよびL.ブルガリクスを第19グループ、
L.ラクチスを単体で第20グループ、
L.ガセリーおよびE.フェシウムを第21グループ、
L.ラモナウサスを単体で第22グループ、
L.カゼイを単体で第23グループ、
B.ロンガムを単体で第24グループとし、
それぞれのグループ毎の培養液のうち、上記第1,2グループ同士、上記第3,4グループ同士、上記第5,6グループ同士、上記第7,8グループ同士、上記第9,10グループ同士、上記第11,12グループ同士、上記第13,14グループ同士、上記第15,16グループ同士、上記第17,18グループ同士、上記第19,20グループ同士、上記第21,22グループ同士、上記第23,24グループ同士で1次培養し、
上記第1,2グループと上記第3,4グループ、上記第5,6グループと上記第7,8グループ、上記第9,10グループと上記第11,12グループ、上記第13,14グループと上記第15,16グループ、上記第17,18グループと上記第19,20グループ、上記第21,22グループと上記第23,24グループ同士とで2次培養し、
上記2次培養後の各2次培養液を混合した混合液を用いて3次培養した培養液からなる請求項2に記載の経口投与用の皮膚用保湿機能剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、皮膚の保湿機能を高めるための皮膚用保湿機能剤に関する。
【背景技術】
【0002】
表皮の水分量が低減すると、皮膚のバリア機能が低下してアトピー性皮膚炎を起こしたりするなど、様々な不具合が発生することは知られている。そのため、表皮からの水分の蒸発を抑制するために皮膚表面に軟膏などの外用剤を塗布することが行なわれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2015-229643号公報
【文献】特開2016-023170号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のような外用剤は、皮膚表面を覆って表皮層から外部への水分の通過を物理的に遮断するのであって、皮膚の保湿機能を向上させるものではなかった。
このような外用剤は、表皮を覆うことでその機能を発揮するので、カバー状態を保つために頻繁に広範囲に塗布しなければならない。そのため、塗布の手間がかかるだけでなく、べたつきなどの不快感を与えることもあった。
また、経口などによって体内に取り込んで効果を発揮する皮膚用保湿機能剤も種々提案されているが、安定した効果が得られるものは少なかった。
この発明は、手軽にかつ確実に、皮膚の保湿機能を向上させることができる皮膚用保湿機能剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
第1の発明の経口投与用の皮膚用保湿機能剤には、トリリノレインが含まれていればよく、例えばトリリノレイン以外の機能性物質や担体、賦形剤、添加剤等が含まれていてもよい。上記機能性物質としては、ビタミンやアミノ酸などが考えられる
【0006】
第2の発明の経口投与用の皮膚用保湿機能剤には、豆乳を培地にした乳酸菌生産物質が含まれる。
なお、上記乳酸菌生産物質にはトリリノレインが含まれるが、この乳酸菌生産物質中のトリリノレインが、第1の発明のトリリノレインの適正量を保持していれば、それをもって第1の発明のトリリノレインとしてもよい。
また、乳酸菌生産物質内のトリリノレインが適正量を保持していないときには、乳酸菌生産物質内のトリリノレインと、当該乳酸菌生産物質とは別のトリリノレインとの合計したものを第1の発明におけるトリリノレインとすることができる。
【0007】
第3の発明の皮膚用保湿機能剤は、16種の乳酸菌の中から選択された共棲培養可能な複数の菌を用いて生成される。16種の乳酸菌のなかには共棲培養が可能なものが多く、それらの組み合わせを何組も作り出し、組み合わせごとに共棲培養をくり返すことができる。このように共棲培養を繰り返すことによって、乳酸菌生産物質をより多く生産することができる。乳酸菌生産物質の生産量が多くなれば、その分トリリノレインの生成量も多くなる。また、乳酸菌生産物質の生産量が多くなれば、トリリノレイン以外の保湿機能性分の生産量も多くなる。
なお、上記16種の乳酸菌のうち共棲培養が可能な組み合わせは種々あり、そのなかで適正な組み合わせを選択すればよい。
【0008】
第4の発明の皮膚用保湿機能剤は、16種の乳酸菌を用いて1次培養から3次培養まで培養したので、各乳酸菌が活性化され、トリリノレインを含んだより多くの乳酸菌生産物質を得ることができる。
【発明の効果】
【0009】
この発明によれば、トリリノレインが皮膚の保湿機能を発揮して例えばアトピー性皮膚炎などの乾燥肌に対する保湿効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】この発明の乳酸菌生産物質を生成するための共棲培養の順序を示した図である。
図2】保湿効果確認実験に用いるマウスの群を示した表である。
図3】経表皮水分損失量に関する実験結果を示すグラフである。
図4】角層水分量に関する実験結果を示すグラフである。
図5】乳酸菌による豆乳の発酵時間とトリリノレイン量との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
この発明の皮膚用保湿機能剤の一実施形態を以下に説明する。
この実施形態では、以下に示す16種の乳酸菌を種々組み合わせて24のグループを作成し、これらグループで1次~3次共棲培養を行ない、最終培養液を滅菌して皮膚用保湿機能剤とするものである。
【0012】
上記16種の乳酸菌は、L.アシドフィラス(Lactobacillus acidophilus)、L.ブレビス(Lactobacillus brevis)、L.ジェンセニイ(Lactobacillus jensenii)、L.パラカゼイ(Lactobacillus paracasei subsp. paracasei)、L.ガセリー(Lactobacillus gasseri)、L.ブルガリクス(Lactobacillus delbrueckii subsp.bulgaricus)、L.ヘルベティカス(Lactobacillus helveticus)、L.カゼイ(Lactobacillus casei subsp. casei)、L.ラモナウサス(Lactobacillus rhamnosus)、L.デルブリッキィ(Lactobacillus delbrueckii subsp. delbrueckii)、S.サーモフィラス(Streptococcus thermophilus)、E.フェシウム(Enterococcus faecium)、L.ラクチス(Lactococcus lactis)、B.ロンガム(Bifidobacterium longum)、B.ビフィダム(Bifidobacterium bifidum)、B.アドレセンティス(Bifidobacterium adolescentis)である。
【0013】
そして、グループ作成プロセスでは、上記乳酸菌を、24のグループに分け、それらをグループ毎に継代培養するが、そのグループ分けは図1に示す通りである。
なお、図1は、上記グループ作成プロセスから、3次培養プロセスまでの各プロセスを示した図である。そして、図中の「No.」はグループ番号である。
すなわち、第1グループはE.フェシウムおよびL.ヘルベティカスで構成し、第2グループは、E.フェシウムおよびL.アシドフィラスで構成している。第3グループはE.フェシウムおよびL.ガセリーで構成し、第4グループは、E.フェシウム、L.アシドフィラスおよびL.ブレビスで構成している。
【0014】
第5グループは、E.フェシウム、L.アシドフィラスおよびL.ブレビスで構成し、第6グループは、E.フェシウム、L.アシドフィラス、L.ブレビス、L.パラカゼイで構成し、第7グループは、B.アドレセンティス単体で構成している。
第8グループは、L.デルブリッキィおよびL.ガセリーで構成し、第9グループはL.デルブリッキィ単体で構成し、第10グループは、E.フェシウム、L.ジェンセニイ、L.パラカゼイおよびL.ブレビスで構成し、第11グループは、L.アシドフィラス単体で構成している。
【0015】
第12グループは、E.フェシウムおよびL.ガセリーで構成し、第13グループは、L.パラカゼイ単体で構成し、第14グループは、L.ガセリー、E.フェシウムおよびB.ビフィダムで構成し、第15グループは、B.ロンガム、S.サーモフィラスおよびE.フェシウムで構成している。第16グループは、L.ガセリー単体で構成し、第17グループは、L.ブルガリクスおよびS.サーモフィラスで構成している。
【0016】
第18グループは、L.ガセリー、L.ラクチス、L.ガセリーおよびE.フェシウムで構成し、第19グループは、L.ガセリー、S.サーモフィラスおよびL.ブルガリクスで構成し、第20グループは、L.ラクチス単体で構成し、第21グループは、L.ガセリーおよびE.フェシウムで構成し、第22グループは、L.ラモナウサス単体で構成し、第23グループは、L.カゼイ単体で構成し、第24グループは、B.ロンガム単体で構成している。
【0017】
上記のようにした各グループを継代培養するとともに、それら培養液のうち、第1,2グループ同士、第3,4グループ同士、第5,6グループ同士、第7,8グループ同士、第9,10グループ同士、第11,12グループ同士、第13,14グループ同士、第15,16グループ同士、第17,18グループ同士、第19,20グループ同士、第21,22グループ同士、第23,24グループ同士で共棲培養する。このプロセスが、図1中の(1)~(12)に示す、この発明の1次培養プロセスである。
【0018】
さらに、図1の(13)~(18)の2次培養プロセスで、上記第1,2グループと第3,4グループ、第5,6グループと第7,8グループ、第9,10グループと第11,12グループ、第13,14グループと第15,16グループ、第17,18グループと第19,20グループ、第21,22グループと第23,24グループ同士とで共棲培養をする。
さらに、図1の(19)の3次培養プロセスで、上記2次培養後の各グループの2次培養液を混合して、共棲培養するのが3次培養プロセスである。
【0019】
なお、上記グループ作成プロセスで作成した各グループの乳酸菌は次のようにして継代培養したものである。すなわち、各グループのそれぞれの乳酸菌は、それらを継代培養した場合にも、共棲状態を維持できることを予測しながら集合させたものである。
複数の乳酸菌が共棲状態を維持するとは、複数の種類の乳酸菌が同時に存在し、それぞれが活性を維持する共棲状態が存在することで、一方が、他方に影響を及ぼしたり、一方だけが生き残ったりする状態ではない。
【0020】
上記各乳酸菌グループは、様々な菌の組み合わせの中から、共棲可能な組み合わせを選択することによって形成している。
また、上記24のグループを構成する乳酸菌の中には、同時に複数のグループに属する菌種も有る。これは、3次培養プロセスまでの共棲培養の過程で共棲状態が維持されることを考慮して菌種を組み合わせたためである。また、同一種の乳酸菌でも、株が異なるものも含まれている。
【0021】
そして、各乳酸菌グループの培養培地は、日水製薬株式会社製のGAM半流動高層培地、BL寒天培地あるいは変法GAM寒天培地からなる3種類の培地を、乳酸菌に応じて使い分けるとともに、これらの培地において、32〔℃〕で12時間培養した。その後、37〔℃〕で12時間培養し、さらに40〔℃〕で24時間培養した。グループ化した乳酸菌を上記のようにして継代培養するとともに、その培養液を5〔℃〕で冷蔵保存しておいた。
【0022】
このようにして乳酸菌のグループを継代培養するとともに、グループ毎に同定をしたが、その同定試験は社団法人日本食品分析センターに依頼した。そして、その同定試験の概要は、各グループの検体を寒天平板培地に直接接種・培養し、優勢に生育した形状の異なる集落を釣菌してグループ毎に乳酸菌を分離し、この分離菌について形態観察、生理的性状試験および菌体内DNAのGC含有量の測定を行い、次の文献を参考に同定したものである。
【0023】
1.Sneath,P.H.A.,Mair,N.S.,Sharpe,M.E. and Holt,J.G. : “Bergey’s Manual of Systematic Bacteriology” Vol.2, (1986) Williams & Wilkins.
2.Holt,J.G., Krieg,N.R., Sneath,P.H.A., Staley,J.T. and Williams,S.T. : “Bergey’s Manual of Determinative Bacteriology”Ninth Edition(1994)Williams & Wilkins.
3.光岡知足:“腸内菌の世界”,(1984)叢文社.
4.辨野義巳:微生物6,3-14(1990).
5.厚生省生活衛生局監修:“食品衛生検査指針-微生物編-”(1990)日本食品衛生協会.
6.Schleifer,K.H. and Kilpper-Balz,R. : Int.J.Syst.Bacteriol.,34,31-34(1984).
【0024】
上記同定の結果、図1に示す16種の菌とその菌株とが特定され、それらが各グループ内で共棲状態を維持していることが確認された。
上記のようにして継代培養した24のグループのうち、図1で隣り合うグループの乳酸菌を合わせて(1)~(12)の1次培養プロセスの共棲培養を行なった。そして、この1次培養プロセスでは、日水製薬株式会社製のGAM半流動高層培地、BL寒天培地あるいは変法GAM寒天培地からなる3種類の培地を、1次培養用培地として使用するとともに、これら1次培養用培地を、乳酸菌に応じて使い分けた。
【0025】
上記3種類のいずれかの1次培養用培地に対して、グループ化した乳酸菌を添加して1次培養を行なったが、例えば、上記のようにグループ化した乳酸菌の培地が、流動性が高い培地の場合であって、しかも、ビフィドバクテリウム菌属の菌を含んでいる場合には、1次共棲培養用培地に対して1~10〔%(w/w)〕の乳酸菌を添加した。ビフィドバクテリウム菌属の菌を含んでいないグループの場合には、同じく1次培養用培地に対して1~10〔%(w/w)〕の乳酸菌を添加した。
【0026】
なお、上記1次培養用培地に対して乳酸菌を添加する場合に、図1の乳酸菌1~24の乳酸菌グループの培地が、固形性の高い培地の場合には、白金耳でつり上げた1回の量を1次培養用培地に添加した。
そして、上記のように乳酸菌を添加した1次培養用培地が37〔℃〕でpH値が4.6になるまで約6~12時間、乳酸菌を培養した。これが1次培養プロセスである。
なお、上記16菌種のうちビフィドバクテリウム菌に属する菌は、B.ロンガム、B.ビフィダム、B.アドレセンティスである。
【0027】
2次培養プロセスは、図1に示す(13)~(18)のプロセスである。
この2次培養プロセスでは、2次培養用培地として豆乳にブドウ糖0.5〔%(w/w)〕、酵母エキス0.4〔%(w/w)〕を添加した。
この2次培養用培地に、上記1次培養プロセスが終了した乳酸菌を1次培養用培地ごと投入し、37〔℃〕でpH値が4.55になるまで約6~10時間培養を行なう。上記1次培養用培地の投入量は1~10〔%(w/w)〕である。
なお、図1の(13)~(18)のプロセスそれぞれで、上記2次培養用培地を用いるが、その2次培養用培地や添加要素は、どの乳酸菌グループについても全て同じにした。
【0028】
また、図1に(19)で示す3次培養プロセスでも、3次培養用培地として豆乳にブドウ糖0.5〔%(w/w)〕、酵母エキス0.4〔%(w/w)〕を添加した。このようにした3次培養用培地に、2次培養が終了した全ての乳酸菌を2次培養用培地ごと投入した。このとき、投入する2次培養用培地は、3次培養用培地に対して1~10〔%(w/w)〕である。
そして、32〔℃〕で24時間し、次に40〔℃〕で48時間、さらに37〔℃〕で48時間培養した。
【0029】
上記のようにして3次培養プロセスを終了した乳酸菌と培地とからなる最終培養液を、85〔℃〕以上で加熱して滅菌した。このように滅菌された最終培養液がこの発明の乳酸菌生産物質であり、この実施形態ではこれを皮膚用保湿機能剤とする。
【0030】
[保湿機能確認実験]
そして、この実施形態の乳酸菌生産物質からなる皮膚用保湿機能剤の効果を確認するためにマウスを用いて実験を行なった。その実験をいかに説明する。
この実験に用いたマウスは、ヘアレスマウス(Hos:HR-1,雄性,4週齢)である。
このマウスを、図2の表に示すように、コントロール群、乳酸菌生産物質投与群、標準トリリノレイン投与群及び抽出トリリノレイン投与群からなる各投与群とノーマル群とに分け、各群に5匹のマウスを用いた。
【0031】
上記ノーマル群は、標準飼料MRストック(日本農産製)を給餌し、何も投与しない群である。
一方、各投与群は、飼料HR-AD(星野飼育所製)を6週間給餌した後に、各投与物(図2参照)を1日0.3〔ml〕ずつ経口投与する群である。なお、上記飼料HR-ADは、その給餌によって乾燥肌状態を誘発する飼料である。
【0032】
そして、各投与群に投与する投与物の詳細は次のとおりである。
コントロール群への投与物は、エタノール10〔%(w/w)〕を含む生理食塩水である。
また、上記乳酸菌生産物質投与群に投与する乳酸菌生産物質は、上記した3次培養プロセスで生成された乳酸菌生産物質に10〔%(w/w)〕のエタノールを添加したものである。この乳酸菌生産物質には、約1〔%(w/w)〕のトリリノレインが含まれている。上記乳酸菌生産物質中のトリリノレインは、Bio RAD社の分析装置「Chemi Dox XRS+システム」によってトリリノレインの純品と比較することで確認している。
なお、乳酸菌生産物質にエタノールを添加したのは、上記乳酸菌生産物質が雑菌によって腐敗することを防止するためである。
【0033】
標準トリリノレイン投与群への投与物は、東京化成製のトリリノレイン1〔%(w/w)〕及びエタノール10〔%(w/w)〕を含む生理食塩水である。
抽出トリリノレイン投与群への投与物は、上記乳酸菌生産物質から抽出したトリリノレイン1〔%(w/w)〕及びエタノール10〔%(w/w)〕を含む生理食塩水である。なお、この抽出トリリノレインは、上記乳酸菌生産物質を凍結乾燥して得られた粉末からエーテルで脂質分を抽出して分画して得たものである。
【0034】
そして、ノーマル群及び各投与群のマウスについて、経表皮水分損失量(TEWL)及び角層水分量を測定した。測定は、投与物の投与開始前は1週間ごとに行ない、投与開始後は毎日行なった。
【0035】
[実験結果]
この実験結果を図3,4のグラフに示す。
図3は、各群のマウスの経表皮水分損失量の測定結果を示したグラフである。
このグラフから、給餌前に10〔g/m/h〕前後だった経表皮水分損失量が、飼料HR-AD給餌によって6週間後には30〔g/m/h〕まで上昇して乾燥肌状態になっていることが分かる。その後、各投与物を経口投与すると、コントロール群以外の投与群のマウスで経表皮水分損失量の減少が確認できた。
【0036】
つまり、乳酸菌生産物質投与群、標準トリリノレイン投与群、抽出トリリノレイン投与群で、保湿機能が発揮され乾燥肌状態が改善された。
この保湿機能の効果は乳酸菌生産物質投与群で最も大きく、続く標準トリリノレイン投与群と抽出トリリノレイン投与群はほぼ同等の効果であった。
【0037】
上記の結果から、投与物中のトリリノレインが、経表皮水分損失量を減少させる保湿機能を発揮することがわかった。
また、標準トリリノレイン投与群及び抽出トリリノレイン投与群に比べて乳酸菌生産物質投与群の経表皮水分損失量を減少させる保湿効果が大きいことから、上記乳酸菌生産物質には、トリリノレイン以外にも経表皮水分損失量を減少させる物質、すなわち保湿機能物質が含まれていると推測できる。
【0038】
また、図4はマウスの角層水分量の測定結果を示したグラフである。
このグラフから、給餌前には60以上あった角層水分量が、飼料HR-ADの給餌によって6週間で約30まで減少して乾燥肌状態になっていることが分かる。その後、乳酸菌生産物質投与群では投与10日目から緩やかに角層水分量が上昇し、50程度まで回復した。
【0039】
一方、標準トリリノレイン投与群、抽出トリリノレイン投与群の角層水分量は、コントロール群と比べてやや上昇したが、著しい上昇ではなかった。
このことからも、上記乳酸菌生産物質にはトリリノレインとともに、角層水分量を回復させる保湿機能物質が含まれていると推測できる。
【0040】
上記実験結果が示すように、この実施形態の乳酸菌生産物質からなる皮膚用保湿機能剤は、トリリノレイン及びその他の保湿機能成分を含有し、皮膚の保湿機能を改善するものである。
ただし、この発明の皮膚用保湿機能剤としては、トリリノレインが適量含有されていればよく、乳酸菌生産物質は必須要素ではない。標準トリリノレイン投与群及び抽出トリリノレイン投与群でも、経表皮水分損失量を減少させる効果が十分にあることが確認されているからである。
【0041】
[トリリノレイン生成実験]
また、この実施形態の乳酸菌生産物質に含まれるトリリノレイン量と豆乳の発酵時間との関係を確認する実験を行なった。
この実験では、上記した3次培養プロセスと同様の条件で乳酸菌を培養して豆乳を発酵させた。すなわち、培地として豆乳にブドウ糖0.5〔%(w/w)〕、酵母エキス0.4〔%(w/w)〕を添加した。このようにした培地に上記した2次培養プロセスが終了した全ての乳酸菌を培地ごと合わせた培養液を、上記培地に対して3〔%(w/w)〕混合し、最初に32〔℃〕で24時間培養し、次に40〔℃〕で48時間培養し、さらに37〔℃〕で48時間培養した。
【0042】
そして、上記5日間の培養中に、トリリノレイン量を測定した。図5に示すグラフは、発酵時間ごとの培地中のトリリノレイン量の測定値を示したものである。このグラフにおける発酵時間0日とは、上記培地に乳酸菌として上記3次培養液を3〔%(w/w)〕添加した直後のことである。
その後、温度管理を行なって培地を発酵させる過程で、発酵時間1日、2日、5日の培地中のトリリノレイン量を測定した。この測定結果は図5に示す通りで、トリリノレイン量は発酵時間1日ではほとんど変化はないが、2日で倍以上に増加し5日では2日とほぼ同じであった。
【0043】
上記のように豆乳の発酵によってトリリノレインが増加することから、豆乳を用いた培地で乳酸菌を培養することで乳酸菌培養物質としてトリリノレインが生成されることが確認できた。
そして、この実施形態のように、複数の乳酸菌を共棲培養することによって乳酸菌の活性を維持し、1次~3次培養プロセスを実行すれば、より多くの乳酸菌生産物質を生成することができる。乳酸菌生産物質の量が多くなれば、それに含まれるトリリノレインや、その他の保湿機能成分の量が多くなるので、有効な皮膚用保湿機能剤を効率的に生産できることになる。
【0044】
この実施形態では、16種の乳酸菌で、共棲可能な多数のグループを形成しているが、乳酸菌の組み合わせは上記に限らないし、使用する乳酸菌の種類も上記16種に限定されない。共棲培養によって活性を維持する組み合わせで乳酸菌のグループを形成すれば、活性化した乳酸菌によってより多くの乳酸菌生産物質が生成されることは容易に想定できる。
また、保湿機能を発揮するトリリノレインは乳酸菌生産物質中のものに限らない。ただし、皮膚用保湿機能剤として豆乳培地の乳酸菌生産物質を用いれば、トリリノレインとともにその他の保湿機能物質を同時に含ませることができる。
【産業上の利用可能性】
【0045】
乾燥肌状態を改善して、表皮のバリア機能を回復させることができる。
図1
図2
図3
図4
図5