(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-18
(45)【発行日】2022-11-29
(54)【発明の名称】脂質二重膜の水透過性の評価システム、脂質二重膜の水透過性の評価方法、および、脂質二重膜の水透過性を制御する薬剤のスクリーニング方法
(51)【国際特許分類】
G01N 13/04 20060101AFI20221121BHJP
G01N 33/15 20060101ALI20221121BHJP
G01N 33/50 20060101ALI20221121BHJP
G01N 27/06 20060101ALI20221121BHJP
G01N 27/22 20060101ALI20221121BHJP
C12Q 1/02 20060101ALN20221121BHJP
【FI】
G01N13/04
G01N33/15 Z
G01N33/50 Z
G01N27/06 A
G01N27/22 Z
C12Q1/02
(21)【出願番号】P 2019012092
(22)【出願日】2019-01-28
【審査請求日】2021-08-02
(73)【特許権者】
【識別番号】504145320
【氏名又は名称】国立大学法人福井大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】特許業務法人HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】老木 成稔
(72)【発明者】
【氏名】岩本 真幸
(72)【発明者】
【氏名】矢野 啓太
【審査官】北条 弥作子
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-081838(JP,A)
【文献】特表2003-520958(JP,A)
【文献】特表2011-521222(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0356430(US,A1)
【文献】特表2011-512526(JP,A)
【文献】国際公開第2017/150705(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 11/00-13/04
G01N 33/48-33/98
B01J 10/00-12/02
G01J 14/00-19/32
G01N 27/00-27/10
G01N 27/14-27/24
C12Q 1/00- 3/00
G01N37/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部に、所定の浸透圧濃度である第1の水溶液、脂質二重膜、および、上記第1の水溶液よりも高い浸透圧濃度である第2の水溶液をこの順番にて配置するための管であって、当該管を開閉する開閉部を備えている管と、
上記脂質二重膜の移動距離を計測するための移動距離計測計と、
上記脂質二重膜を介した電位差と電流とを制御および計測
して、静電膜容量を測定するための電極対と、
を備えていることを特徴とする、脂質二重膜の水透過性の評価システム。
【請求項2】
上記脂質二重膜は、イオノフォア、または、ポリペプチドを含有するものであることを特徴とする、請求項1に記載の脂質二重膜の水透過性の評価システム。
【請求項3】
上記脂質二重膜の水透過性の評価システムは、水流束の評価システム、
および、非撹拌水層の評価システム
を含むことを特徴とする、請求項1に記載の脂質二重膜の水透過性の評価システム。
【請求項4】
上記脂質二重膜の水透過性の評価システムは、水流束の評価システム、非撹拌水層の評価システム、および、流動電位の評価システムを含むことを特徴とする、請求項2に記載の脂質二重膜の水透過性の評価システム。
【請求項5】
上記管は、
上記管内に上記第1の水溶液を導入するための第1の開口と、
上記管内に上記第2の水溶液を導入するための第2の開口と、
上記第1の開口と上記第2の開口との間にて上記管に設けられている第3の開口であって、上記第3の開口から上記管内に配置されている、上記脂質二重膜を形成するための油を吸引するための第3の開口と、を備えていることを特徴とする、請求項1~
4の何れか1項に記載の脂質二重膜の水透過性の評価システム。
【請求項6】
上記脂質二重膜の水透過性の評価システムは、上記管を複数備えていることを特徴とする、請求項1~
5の何れか1項に記載の脂質二重膜の水透過性の評価システム。
【請求項7】
上記水透過性の評価システムは、複数の上記第1の開口のうちの少なくとも2つと接続されている第1の副管と、複数の上記第2の開口のうちの少なくとも2つと接続されている第2の副管と、を備えていることを特徴とする、請求項5に記載の脂質二重膜の水透過性の評価システム。
【請求項8】
請求項
3に記載の脂質二重膜の水透過性の評価システムを用いる脂質二重膜の水透過性の評価方法であって、
上記脂質二重膜の水透過性の評価方法は、水流束の評価方法、および、非撹拌水層の評価方法を含む計測工程を有し、
上記水流束の評価方法は、
1)上記脂質二重膜の移動速度を、上記移動距離計測計によって測定し、上記管の断面積と、上記脂質二重膜の移動距離とから、水の移動体積を算出する工程;
2)上記電極対を用いて測定した上記脂質二重膜の上記静電膜容量を、上記脂質二重膜を形成する脂質の特性膜容量にて除することにより、上記脂質二重膜の面積を算出する工程;および、
3)1)で算出した上記水の移動体積を、2)で算出した上記脂質二重膜の面積にて除することにより、水透過性を算出する工程を有し;
上記非撹拌水層の評価方法は、
4)下記式により、非撹拌水層の影響を考慮した真の浸透圧差を算出する工程を有する、
真の浸透圧差=見かけの浸透圧差×(100-G’(%))/100
ここで、
G’は、上記非撹拌水層のコンダクタンスの絶対値G(-)と、上記脂質二重膜のコンダクタンスGmとの誤差であり、G’=[(Gm-G(-))/Gm]×100」で求められる値であり、
Gmは、電位A[mV]時における上記脂質二重膜の真のコンダクタンスであり、
G(-)は、電位-A[mV]時の上記非撹拌水層のコンダクタンスの絶対値である;
脂質二重膜の水透過性の評価方法。
【請求項9】
請求項
4に記載の脂質二重膜の水透過性の評価システムを用いる脂質二重膜の水透過性の評価方法であって、
上記脂質二重膜の水透過性の評価方法は、水流束の評価方法、および、非撹拌水層の評価方法、および、流動電位の評価方法を含む計測工程を有し、
上記水流束の評価方法は、
1)上記脂質二重膜の移動速度を、上記移動距離計測計によって測定し、上記管の断面積と、上記脂質二重膜の移動距離とから、水の移動体積を算出する工程;
2)上記電極対を用いて測定した上記脂質二重膜の上記静電膜容量を、上記脂質二重膜を形成する脂質の特性膜容量にて除することにより、上記脂質二重膜の面積を算出する工程;および、
3)1)で算出した上記水の移動体積を、2)で算出した上記脂質二重膜の面積にて除することにより、水透過性を算出する工程を有し;
上記非撹拌水層の評価方法は、
4)下記式により、非撹拌水層の影響を考慮した真の浸透圧差を算出する工程を有し、
真の浸透圧差=見かけの浸透圧差×(100-G’(%))/100
ここで、
G’は、上記非撹拌水層のコンダクタンスの絶対値G(-)と、上記脂質二重膜のコンダクタンスGmとの誤差であり、G’=[(Gm-G(-))/Gm]×100」で求められる値であり、
Gmは、電位A[mV]時における上記脂質二重膜の真のコンダクタンスであり、
G(-)は、電位-A[mV]時の上記非撹拌水層のコンダクタンスの絶対値である;
上記流動電位の評価方法は、
5)イオンチャネルの存在によって発生する流動電位を計測し、上記イオンチャネルを流れる水-イオン流束比を算出する工程を有する;
脂質二重膜の水透過性の評価方法。
【請求項10】
請求項
3に記載の脂質二重膜の水透過性の評価システムを用いる、脂質二重膜の水透過性を制御する薬剤のスクリーニング方法であって、
上記管内に配置されている第1の水溶液、脂質二重膜、および、第2の水溶液からなる群から選択される少なくとも1つに薬剤の候補物質を加える添加工程と、
請求項8に記載の脂質二重膜の水透過性の評価方法によって、脂質二重膜の水透過性を評価する工程と、
上記脂質二重膜の水透過性を評価する工程における上記計測工程によって得られた計測値と、参照値とを比較する比較工程と、を有することを特徴とする、スクリーニング方法。
【請求項11】
請求項4に記載の脂質二重膜の水透過性の評価システムを用いる、脂質二重膜の水透過性を制御する薬剤のスクリーニング方法であって、
上記管内に配置されている第1の水溶液、脂質二重膜、および、第2の水溶液からなる群から選択される少なくとも1つに薬剤の候補物質を加える添加工程と、
請求項9に記載の脂質二重膜の水透過性の評価方法によって、脂質二重膜の水透過性を評価する工程と、
上記脂質二重膜の水透過性を評価する工程における上記計測工程によって得られた計測値と、参照値とを比較する比較工程と、を有することを特徴とする、スクリーニング方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、脂質二重膜の水透過性の評価システム、脂質二重膜の水透過性の評価方法、および、脂質二重膜の水透過性を制御する薬剤のスクリーニング方法に関する。
【背景技術】
【0002】
細胞は、一般的に、脂質二重膜にて形成されている細胞膜によって覆われており、当該細胞膜によって、細胞と外界との境界が形成されている。
【0003】
細胞膜は、外界から細胞内へ物質が自由拡散することを防ぐ機能を有しているのみならず、外界から細胞内へ物質を選択的に取り込む機能も有している。このような細胞膜の機能は、細胞膜を形成している脂質や、細胞膜中に埋め込まれている様々な膜タンパク質などによって発現している。
【0004】
近年、細胞膜が有している様々な機能に注目が集まっており、当該機能を解析しようとする試みがなされている。
【0005】
例えば、細胞膜は外界から細胞内へ物質が自由拡散することを防ぐ機能を有しているため、体内における薬剤の拡散に影響を及ぼし得る。それ故に、薬剤の開発にあたっては、薬剤の細胞膜の透過性を解析しようとする試みがなされている。
【0006】
例えば、細胞膜は外界から細胞内へ物質が自由拡散することを防ぐ機能を有しているものの、有毒な化合物の中には、細胞膜を貫通して拡散し得るものがある。それ故に、有毒な化合物の毒性評価にあたって、当該化合物の細胞膜の透過性を解析しようとする試みがなされている。
【0007】
例えば、膜タンパク質は細胞膜から分離すると変性する場合がある。それ故に、膜タンパク質の機能を解析するために、膜タンパク質を人工的に細胞膜に埋め込もうとする試みがなされている。
【0008】
例えば、細胞膜は水を透過させる機能を有しており、脂質二重膜の脂質組成によって細胞膜の水透過性が異なるだけでなく、脂質二重膜に埋め込まれた膜蛋白質である水チャネル(アクアポリン)によって細胞膜の水透過性が調節されている。細胞および組織の細胞膜の局所にアクアポリンが分布することによって、細胞内外および組織内に、組織化された水の流れ(水流ネットワーク)が生み出される。そして、当該水流ネットワークが、細胞の移動等の様々な生命現象に深く関与していることが明らかになりつつある(非特許文献1)。
【0009】
細胞膜が有している水流形成機能を解析するためには、脂質二重膜を人工的に作製し、脂質二重膜それ自体の水透過性と、脂質二重膜に埋め込まれた水チャネルの水透過性と、を測定する技術が必要であって、このような技術の開発が進められてきた。
【0010】
脂質二重膜を人工的に作製する技術としては、例えば、脂質一重膜によって覆われた液滴と、脂質一重膜によって覆われた他の液滴とを、機械的な外力によって接触させる方法が挙げられる(特許文献1)。また、脂質二重膜を人工的に作製する技術としては、油の中で予め脂質一重膜によって覆われた液滴を形成させ、その液滴をマニピュレータなどで操作することによって、脂質二重膜を作製する方法も挙げられる(非特許文献2)。
【0011】
一方、水透過性の測定方法は、限られており、リポソームの体積変化を光散乱に基づいて観察する技術が挙げられる(非特許文献3)。非特許文献4に記載の技術は、イオン電極を用いて、膜近傍のイオン濃度分布から水流束を測定する技術である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【非特許文献】
【0013】
【文献】Stroka KM, Jiang H, Chen SH, Tong Z, Wirtz D, Sun SX, Konstantopoulos K. Cell. Vol. 157, April 2014, Issue 3, 611-623.
【文献】Masayuki Iwamoto & Shigetoshi Oiki, Sci. Rep., 5, 9110, 2015.
【文献】Tadaatsu Kometani & Michiki Kasai, The Journal of Membrane Biology, Vol.41, December 1978, Issue 4, 295-308.
【文献】Peter Pohl et al, Biophysical Journal, Vol.72, April 1997, 1711-1718.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
しかしながら、上述のような従来技術は、脂質二重膜の水透過性の評価、および、脂質二重膜に埋め込まれた水チャネルの水透過性の評価を容易に、かつ、正確に行うことができないという課題を有している。
【0015】
例えば、非特許文献3に記載の技術では、水体積流に伴う非撹拌水層の影響を正確に評価することができなかった。一方、引用文献4に記載の技術では、直接水の流れを測定していないので、水透過性を正確に評価できなかった。
【0016】
このため生体で極めて重要視されている水チャネルの分子特性が十分に明らかになっていない。
【0017】
本発明は、上記問題点に鑑みなされたものであって、その目的は、簡便かつ正確に、脂質二重膜の水透過性、および、脂質二重膜に埋め込まれた水チャネルの水透過性を評価し、水チャネルの制御機構や水チャネルに対する薬物作用を明らかにするための、システムおよび方法を実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
上記の課題を解決するために、本発明の一態様に係る脂質二重膜の水透過性の評価システムは、内部に、所定の浸透圧濃度である第1の水溶液、脂質二重膜、および、上記第1の水溶液よりも高い浸透圧濃度である第2の水溶液をこの順番にて配置するための管であって、当該管を開閉する開閉部を備えている管と、上記脂質二重膜の移動距離を計測するための移動距離計測計と、上記脂質二重膜を介した電位差と電流とを制御および計測(または、制御および/または計測)するための電極対と、を備えていることを特徴とする。
【0019】
上記構成によれば、移動距離計測計の測定結果と、電極対の測定結果とを用いて、水透過性に関するパラメータのうち、例えば、水流束と脂質二重膜の面積とを評価することができる。評価の原理については、後述する〔1-1.本発明の原理〕の欄にて説明する。
【0020】
本発明の一態様に係る脂質二重膜の水透過性の評価システムでは、上記脂質二重膜は、イオノフォア、または、ポリペプチド(例えば、イオンチャネルタンパク質)を含有するものであり得る。
【0021】
脂質二重膜が、イオノフォア、または、ポリペプチド(例えば、イオンチャネルタンパク質)を含有すると、これらによって、脂質二重膜を介したイオンの移動が可能になる。上記構成によれば、移動距離計測計の測定結果と、電極対の測定結果とを用いて、水透過性に関するパラメータのうち、例えば、非撹拌水層、および、流動電位を評価することができる。評価の原理については、後述する〔1-1.本発明の原理〕の欄にて説明する。
【0022】
本発明の一態様に係る脂質二重膜の水透過性の評価システムは、水流束の評価システム、非撹拌水層の評価システム、または、流動電位の評価システムであり得る。
【0023】
本発明の一態様に係る脂質二重膜の水透過性の評価システムは、水流束、非撹拌水層、および、流動電位などを評価することができる。
【0024】
本発明の一態様に係る脂質二重膜の水透過性の評価システムでは、上記管は、上記管内に上記第1の水溶液を導入するための第1の開口と、上記管内に上記第2の水溶液を導入するための第2の開口と、上記第1の開口と上記第2の開口との間にて上記管に設けられている第3の開口であって、上記第3の開口から上記管内に配置されている、上記脂質二重膜を形成するための油を吸引するための第3の開口と、を備え得る。
【0025】
脂質二重膜を形成するための油、第1の水溶液、および、第2の水溶液からなる群から選択される少なくとも1つには、脂質一重膜を形成するための脂質が含まれている。上記油が充填されている管内に第1の水溶液および第2の水溶液を導入すると、当該第1の水溶液および第2の水溶液を覆うように、脂質一重膜が形成される。このとき、管内には上記油が充填されているので、脂質一重膜を形成する脂質は、自身の疎水性領域を上記油の側に配置し、自身の親水性領域を第1の水溶液または第2の水溶液の側に配置することになる。第3の開口は、第1の開口と第2の開口との間に設けられているので、当該第3の開口から管内の上記油を吸引すると、管内に上記油の流れが生じ、当該流れによって、脂質一重膜によって覆われた第1の水溶液と、脂質一重膜によって覆われた第2の水溶液とが接触することになる。上述したように、脂質一重膜を形成する脂質は、自身の疎水性領域を上記油の側に配置し、自身の親水性領域を第1の水溶液または第2の水溶液の側に配置しているので、脂質一重膜同士が接触して形成されている脂質二重膜では、内側にて疎水性領域同士が向かい合うように配置され、外側に親水性領域が配置されることになる。つまり、当該脂質二重膜は細胞膜と同じ構造を有しており、上記構成によれば、簡便に、細胞膜のモデルを容易に作製できるとともに、脂質二重膜についての評価を容易に行うことができる。
【0026】
本発明の一態様に係る脂質二重膜の水透過性の評価システムは、上記管を複数備え得る。
【0027】
上記構成によれば、複数の管の各々の中で同時に脂質二重膜を作製することができ、その結果、短時間にて複数の脂質二重膜について評価を行うことができる。
【0028】
本発明の一態様に係る脂質二重膜の水透過性の評価システムは、複数の上記第1の開口のうちの少なくとも2つと接続されている第1の副管と、複数の上記第2の開口のうちの少なくとも2つと接続されている第2の副管と、を備え得る。
【0029】
上記構成によれば、第1の副管を用いて、複数の第1の開口に対して第1の水溶液を供給することができ、第2の副管を用いて、複数の第2の開口に対して第2の水溶液を供給することができる。それ故に、上記構成によれば、複数の管の各々の中で同時に脂質二重膜を作製することができ、その結果、短時間にて複数の脂質二重膜について評価を行うことができる。
【0030】
上記の課題を解決するために、本発明の一態様に係る脂質二重膜の水透過性の評価方法は、本発明の一態様に係る脂質二重膜の水透過性の評価システムを用いる脂質二重膜の水透過性の評価方法であって、上記管内に配置されている脂質二重膜の移動距離の計測、および、上記管内に配置されている脂質二重膜を介した電位差と電流との制御および/または計測、を行う計測工程を有することを特徴とする。
【0031】
上記構成によれば、移動距離計測計の測定結果と、電極対の測定結果とを用いて、水透過性に関するパラメータのうち、例えば、水流束と脂質2重膜の面積とを評価することができる。また、脂質二重膜がイオノフォア、または、ポリペプチド(例えば、イオンチャネルタンパク質)を含有する場合には、移動距離計測計の測定結果と、電極対の測定結果とを用いて、水透過性に関するパラメータのうち、例えば、非撹拌水層、および、流動電位を評価することができる。評価の原理については、後述する〔1-1.本発明の原理〕の欄にて説明する。
【0032】
本発明の一態様に係る脂質二重膜の水透過性の評価方法は、水流束の評価方法、非撹拌水層の評価方法、または、流動電位の評価方法であり得る。
【0033】
本発明の一態様に係る脂質二重膜の水透過性の評価方法は、水流束、非撹拌水層、および、流動電位などを評価することができる。
【0034】
上記の課題を解決するために、本発明の一態様に係る脂質二重膜の水透過性を制御する薬剤のスクリーニング方法は、本発明の一態様に係る脂質二重膜の水透過性の評価システムを用いる、脂質二重膜の水透過性を制御する薬剤のスクリーニング方法であって、上記管内に配置されている第1の水溶液、脂質二重膜、および、第2の水溶液からなる群から選択される少なくとも1つに薬剤の候補物質を加える添加工程と、上記管内に配置されている脂質二重膜の移動距離の計測、および、上記管内に配置されている脂質二重膜を介した電位差と電流との制御および/または計測を行う、計測工程と、上記計測工程によって得られた計測値と、参照値とを比較する比較工程と、を有することを特徴とする。
【0035】
添加工程では、管内に配置されている第1の水溶液、脂質二重膜、および、第2の水溶液からなる群から選択される少なくとも1つに薬剤の候補物質を加える。薬剤の候補物質は、脂質二重膜自体、または、脂質二重膜に埋め込まれている物質(例えば、イオノフォア、または、ポリペプチド(例えば、イオンチャネルタンパク質))の近傍に存在するので、薬剤の候補物質は、脂質二重膜自体、または、脂質二重膜に埋め込まれている物質に作用(例えば、脂質二重膜に埋め込まれている物質の活性を、上昇または低下)し得る。
【0036】
計測工程では、管内に配置されている脂質二重膜の移動距離の計測、および、上記管内に配置されている脂質二重膜を介した電位差と電流との制御および/または計測を行う。その結果、当該計測工程では、計測値(例えば、脂質二重膜の移動距離、脂質二重膜の移動速度、水流束、非撹拌水層、および、流動電位など)が得られる。
【0037】
薬剤の候補物質が脂質二重膜自体、または、脂質二重膜に埋め込まれている物質に作用する場合の計測値は、薬剤の候補物質が脂質二重膜自体、または、脂質二重膜に埋め込まれている物質に作用しない場合の計測値(換言すれば、参照値)と異なる。それ故に、比較工程にて計測値と参照値とを比較することによって、脂質二重膜(例えば、脂質二重膜に埋め込まれている物質)の水透過性を制御する薬剤をスクリーニングすることができる。
【発明の効果】
【0038】
本発明の一態様によれば、脂質二重膜の水透過性(例えば、水流束、非撹拌水層および流動電位など)、および、脂質二重膜に埋め込まれた水チャネルの水透過性(例えば、水流束、非撹拌水層および流動電位など)を簡便かつ正確に評価することができる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【
図1】(a)~(d)は、本発明の原理を説明する図である。
【
図3】(a)~(c)は、本発明の実施例における試験結果を示す図である。
【
図4】本発明の実施例における試験結果を示す図である。
【
図5】本発明の実施例における試験結果を示す図である。
【
図6】(a)~(c)は、本発明の一態様に係る脂質二重膜の水透過性の評価システムの構成の一例を示す図である。
【
図7】本発明の一態様に係る脂質二重膜の水透過性の評価システムの構成の一例を示す図である。
【
図8】(a)は、本発明の一態様に係る脂質二重膜の水透過性の評価システムの構成の一例を示す図であり、(b)および(c)は、本発明の一態様に係る脂質二重膜の水透過性の評価方法の構成の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0040】
本発明の一実施形態について説明すると以下の通りであるが、本発明はこれに限定されない。本発明は、以下に説明する各構成に限定されるものではなく、特許請求の範囲に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態及び実施例にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態及び実施例についても本発明の技術的範囲に含まれる。また、本明細書中に記載された文献の全てが、本明細書中において参考文献として援用される。本明細書中、数値範囲に関して「A~B」と記載した場合、当該記載は「A以上B以下」を意図する。
【0041】
〔1.脂質二重膜の水透過性の評価システム〕
〔1-1.本発明の原理〕
図1および
図2を参照しながら、本発明の原理を説明する。
【0042】
<A.水透過性の評価>
本明細書にて水透過性の評価とは、水流束の発生の有無の評価、または、水流束の大きさ(例えば、水の透過係数)の評価、を意図する。
【0043】
図1(a)に示すように、まず、所定の浸透圧濃度である第1の水溶液(低浸透圧電解質溶液)、脂質二重膜を形成するためのリン脂質を溶解した油、および、上記第1の水溶液よりも高い浸透圧濃度である第2の水溶液(高浸透圧電解質溶液)を、この順番にて管の中に配置する。リン脂質を、両水溶液か油にあらかじめ加えてあるので、水溶液と油との界面(油―水界面)にリン脂質の単分子層が形成される。なお、当該管には、
図1(a)および(b)に示されている第2の水溶液よりも右側に、
図6(c)に示すような開閉部が設けられている。
【0044】
次いで、
図1(a)に示すように、管の開口から油の中へ細管を挿入し、当該細管を用いて、余分な油を除去する。余分な油を除去すると、
図1(b)に示すように、第1の水溶液と第2の水溶液とが、接近し、2枚の単分子層が互いに接触する。そして、第1の水溶液と第2の水溶液とが接触した箇所に、脂質二重膜が形成される。
【0045】
図1(b)に示すように、第1の水溶液(低浸透圧電解質溶液)、脂質二重膜、および、第2の水溶液(高浸透圧電解質溶液)が、この順番にて管の中に配置されると、脂質二重膜を介して、第1の水溶液から第2の水溶液に向かって水流束が生じる。当該水流束は、第2の水溶液の体積を増加させる。
【0046】
このとき、開閉部(例えば、脂質二重膜と開閉部とによって第2の水溶液を挟むように設けられている、開閉部)を閉じて第2の水溶液が脂質二重膜とは反対の側に移動することを妨げれば、体積が増加した第2の水溶液は、脂質二重膜に対して、第1の水溶液に向かう力を加える。これによって、脂質二重膜は、第1の水溶液に向かって移動する。
【0047】
脂質二重膜の移動速度を、移動距離計測計によって測定する。管の断面積と、脂質二重膜の移動距離とから、水の移動体積を算出することができる。
【0048】
電極対を用いれば、脂質二重膜の静電膜容量(μF)を測定することができ、当該静電膜容量から、脂質二重膜の面積を算出することができる。具体的には、測定された静電膜容量を、脂質二重膜を形成する脂質の特性膜容量(μF/cm2;ヘキサデカンが油相の場合、0.7μF/cm2)にて除することにより、脂質二重膜の面積を算出することができる。あるいは、画像から脂質二重膜の面積を算出することもできる。
【0049】
水透過性は、水の移動体積を、脂質二重膜の面積にて除することにより、算出することができる。水透過性を浸透圧差濃度差で除したものが、水透過係数である。
【0050】
<B.非撹拌水層の評価>
本明細書において、非撹拌水層の評価とは、非撹拌水層の発生の有無の評価、または、非撹拌水層の影響を考慮した浸透圧差の評価、を意図する。より具体的に、本明細書において、非撹拌水層の評価とは、例えば、非撹拌水層を考慮した上での、水透過性の評価を意図する。
【0051】
図2に示すように、所定の浸透圧濃度である第1の水溶液(低浸透圧電解質溶液)、脂質二重膜、および、上記第1の水溶液よりも高い浸透圧濃度である第2の水溶液(高浸透圧電解質溶液)を、この順番にて管の中に配置すると、脂質二重膜を介して、第1の水溶液から第2の水溶液に向かって水流束が生じる。この結果、脂質二重膜の近傍で溶質濃度が変化する。水流束の上流側の膜近傍では溶質濃度が増大し、下流では減少する。これが非攪拌層である。非攪拌層により水の駆動力は減弱し、水流束も減少する。当該水の駆動力の減弱を考慮しない場合には、脂質二重膜の水の透過性を過小に評価してしまうという問題が生じる。それ故に、脂質二重膜の水の透過性を正確に評価するためには、脂質二重膜の近傍におけるイオン濃度の変化を評価する必要がある。
【0052】
このとき、脂質二重膜が、イオノフォア、ポリペプチド(例えば、イオンチャネルタンパク質)などを含有すると、これらによって、脂質二重膜を介したイオンの移動が可能になる。
【0053】
脂質二重膜に所定のランプ波(例えば、A[mV]~-A[mV])を印加した状態にて、電流および電圧を測定して電流-電圧曲線を描き、各膜電位(例えば、+100 mVと-100 mVと)でのコンダクタンス比を求める。脂質二重膜内に形成される対称構造を有するチャネルでは、両水溶液のイオン組成が同じであれば電流-電圧曲線は、理論上は対称になる。ところが非攪拌水層の発生に伴って、脂質二重膜近傍のイオン組成が非対称となり電流-電圧曲線が非対称になり、当該非対称性から、非攪拌水層内のイオン濃度を推定することができる。
【0054】
コンダクタンス比は、非撹拌水層の形成に伴うイオン(例えば、ナトリウムイオン)濃度の比であると考えられる。当該コンダクタンス比に基づいて、非撹拌水層の影響を加味した、脂質二重膜の近傍での浸透圧調節物質(例えば、尿素)の真の濃度、換言すれば、非撹拌水層の影響を考慮した真の浸透圧差を推定できる。
【0055】
なお、電位A[mV]時の非撹拌水層のコンダクタンスの絶対値をG(+)とし、電位-A[mV]時の非撹拌水層のコンダクタンスの絶対値をG(-)とすれば、電位A[mV]時における脂質二重膜の真のコンダクタンスGmは、「Gm=(G(+)+G(-))/2」にて算出することができる。また、浸透圧調節物質(例えば、尿素)を含有する水溶液の側の非撹拌水層のコンダクタンスの絶対値G(-)と、脂質二重膜のコンダクタンスGmとの誤差G’は、「G’=[(Gm-G(-))/Gm]×100」にて算出することができる。
【0056】
コンダクタンス比から、非撹拌水層の影響を考慮した真の浸透圧差を求めることができる。例えば、計算式、「真の浸透圧差=見かけの浸透圧差×(100-G’(%))/100」に基づいて、非撹拌水層の影響を考慮した真の浸透圧差を求めることができる。
【0057】
<C.流動電位の評価>
非攪拌層の評価のために、脂質二重膜にグラミシジンなどのイオンチャネルを組み込み、チャネル電流の非対称性から非攪拌層を評価するが、その際、イオンチャネルの存在によって流動電位が発生する。ここで発生する流動電位の値は1mV以下であるが、これを補正してチャネル電流の非対称性を正確に評価することが目的である。
本明細書において、流動電位の評価とは、流動電位の発生の有無の評価、または、流動電位の大きさ(例えば、水/イオン流束比)の評価、を意図する。より具体的に、本明細書において、流動電位の評価とは、例えば、流動電位を考慮した上での、水流束の評価を意図する。
【0058】
図2に示すように、所定の浸透圧濃度である第1の水溶液(低浸透圧電解質溶液)、脂質二重膜、および、上記第1の水溶液よりも高い浸透圧濃度である第2の水溶液(高浸透圧電解質溶液)を、この順番にて管の中に配置する。第1の水溶液および第2の水溶液中に電極を設置する。このとき、脂質二重膜が、イオノフォア、ポリペプチド(例えば、膜タンパク質)、などを含有すると、浸透圧濃度差によって、脂質二重膜に組み込まれたイオンチャネル内を、水の流れに押し流されてイオンが移動する。このイオン流によって流動電位が発生する。この時パッチクランプアンプのモードをcurrent clamp modeとして電流をゼロに設定することによって、流動電位を観察することができる。流動電位からチャネルを流れる水-イオン流束比(Jw/Ji)を求めることができる。
【0059】
脂質二重膜に電圧を印加すると、実際には、流動電位の分の誤差が加わった電圧が脂質二重膜に印加される。流動電位の分の誤差を予め考慮した電圧を脂質二重膜に印加すれば、脂質二重膜に所定の電圧を正確に印加することができる。
【0060】
〔1-2.評価システムの構成〕
本実施の形態の脂質二重膜の水透過性の評価システムは、内部に、所定の浸透圧濃度である第1の水溶液、脂質二重膜、および、上記第1の水溶液よりも高い浸透圧濃度である第2の水溶液をこの順番にて配置するための管であって、当該管を開閉する開閉部を備えている管と、上記脂質二重膜の移動距離を計測するための移動距離計測計と、上記脂質二重膜を介した電位差と電流とを制御および計測(または、制御および/または計測)するための電極対と、を備えている。
【0061】
管の中に第1の水溶液、脂質二重膜、および、第2の水溶液を配置する方法は、特に限定されず、細管を用いて配置してもよいし、後述する〔1-3.評価システムの構成の一例〕に記載の構成を用いて配置してもよい。
【0062】
上記第1の水溶液は、第2の水溶液よりも浸透圧濃度が低い溶液であればよく、具体的な組成は、特に限定されない。一方、第2の水溶液は、第1の水溶液よりも浸透圧濃度が高い溶液であればよく、具体的な組成は、特に限定されない。第1の水溶液の浸透圧濃度の値、および、第2の水溶液の浸透圧濃度の値は、所望の値に設定され得、その値は限定されない。
【0063】
第1の水溶液および第2の水溶液の溶媒としては、水が用いられ得る。
【0064】
第1の水溶液、および、第2の水溶液は、所望の浸透圧濃度を実現するために、様々な溶質成分(例えば、塩、塩基、浸透圧調節物質)を、所望の濃度にて含み得る。上記塩としては、例えば、ナトリウム塩、カリウム塩、マグネシウム塩、カルシウム塩、リン酸、および、アミノ酸塩を挙げることができる。上記塩基としては、例えば、グアニン、アデニン、チミン、および、シトシンを挙げることができる。上記浸透圧調節物質としては、例えば、尿素、スクロース、ソルビトール、ポリエチレングリコールを挙げることができる。
【0065】
上記脂質二重膜は、例えば、脂質単分子層同士を接触させることによって形成され得る。脂質二重膜の内側では、構成成分である脂質の疎水性領域同士が向かい合うように配置され、脂質二重膜の外側に、構成成分である脂質の親水性領域が配置され得る。つまり、当該脂質二重膜は細胞膜と同じ構造を有し得る。
【0066】
脂質二重膜を構成する脂質は、特に限定されない。当該脂質としては、例えば、リン脂質、および、コレステロールを挙げることができる。リン脂質としては、例えば、ホスホコリン、ホスファチジルコリン、ジフィタノイルホスファチジルコリン、ジパルミトイルホスファチジルコリン、パルミトイルオレオイルホスファチジルコリン、ジオレオイルホスファチジルコリン、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルセリン、スフィンゴミエリン、および、ホスファチジルグリセロール等が挙げられる。
【0067】
脂質二重膜は、ポリペプチド、チャネルを含有するものであり得る。上記構成であれば、様々な機能(例えば、イオン透過機能)を有する脂質二重膜を再現することができる。上記ペプチドとしては、例えば、グラミシジンを挙げることができる。上記ポリペプチドとしては、例えば、膜貫通タンパク質、トランスポータ、および、膜貫通型の輸送タンパク質を挙げることができる。
【0068】
上記管は、その内部に、脂質二重膜を挟むように、第1の水溶液および第2の水溶液を配置し得るものであればよく、その構成は限定されない。
【0069】
管の材質は、特に限定されないが、油によって変形および腐食しない材質が好ましい。例えば、管の材質としては、ガラス、プラスチック、アクリル、および、テフロン(登録商標)等があげられる。耐薬品性に優れると共に、管の内部に配置されている脂質二重膜の光学観察を容易に行うことができるという観点から、管の材質は、ガラスが好ましい。
【0070】
管の長さは、特に限定されず、所望の長さに設定することができる。管の長さは、例えば、5mm~1000mm、10mm~500mm、10mm~100mm、10mm~50mm、または、10mm~30mmであってもよい。管の長さを短く設定できるので、本実施の形態の評価システムを小さく構成することができる。
【0071】
管の断面の形状は、特に限定されないが、円形であることが好ましい。当該円の直径は、特に限定されず、例えば、0.1mm~100mm、1mm~10mm、または、1mm~5mmであってもよい。
【0072】
上記管は、当該管を開閉する開閉部を備え得る。当該構成によれば、管を閉鎖した状態にて、脂質二重膜の水透過性をより正確に評価することができる(例えば、後述する実施例におけるClosed法を参照)。また、当該構成によれば、管の内部に第1の水溶液、および/または、第2の水溶液を導入するタイミングを制御することができる。
【0073】
開閉部は、(i)管を閉じる動作、および、管を開ける動作を、繰り返し行うものであってもよいし、(ii)開いている管を閉じる動作を行った後、管を閉じた状態に維持するものであってもよいし、(iii)閉じている管を開く動作を行った後、管を開いた状態に維持するものであってもよい。上記(ii)の構成であれば、脂質二重膜の水透過性をより正確に評価することができる(例えば、後述する実施例におけるClosed法を参照)。上記(iii)の構成であれば、脂質二重膜の水透過性を評価した後、管の内部に存在する不要な物質を容易に除去することができる。上記(i)の構成であれば、上記(ii)の構成にて行い得る事項、および、上記(iii)の構成にて行い得る事項の両方を行うことができる。
【0074】
開閉部は、様々な様式にて構成され得、例えば、開閉可能なバルブ、または、管を遮断可能な板などによって構成され得る。
【0075】
管に設けられる開閉部の数は、特に限定されず、1つ以上であってもよいし、2つ以上であってもよいし、3つ以上であってもよい。
【0076】
開閉部が設けられる位置は、特に限定されないが、例えば、後述する第1の開口と同じ位置に設けられてもよく、第1の開口の近傍に設けられてもよく、後述する第2の開口と同じ位置に設けられてもよく、第2の開口の近傍に設けられてもよい。
【0077】
開閉部は、当該開閉部と脂質二重膜とによって第2の水溶液を挟むことが可能な位置に、設けられてもよい。上記構成であれば、第2の水溶液が脂質二重膜とは反対の側に移動することを妨げることができるので、脂質二重膜の水透過性をより正確に評価することができる(例えば、後述する実施例におけるClosed法を参照)。
【0078】
本実施の形態の脂質二重膜の水透過性の評価システムは、脂質二重膜の移動距離を計測するための移動距離計測計を備え得る。
【0079】
移動距離計測計としては、脂質二重膜の移動距離を計測できるものであればよく、その構成は、特に限定されない。移動距離計測計は、例えば、脂質二重膜の像(脂質二重膜の移動距離の算出に使用される像)を撮影する撮影部(例えば、カメラ)と、時間の経過(例えば、脂質二重膜の移動に要した時間)を計測する時間計測部(例えば、タイマー)とを備え得る。移動距離計測計は、撮影部によって得られた複数の像と、時間計測部によって計測された時間とから、脂質二重膜の移動速度を算出する算出部を備えていてもよい。
【0080】
当該算出部は、脂質二重膜の移動速度を算出のみならず、(1)水の移動体積の算出、(2)脂質二重膜の面積の算出、(3)水流束の算出、(4)電流-電圧曲線の作成、(5)各膜電位におけるコンダクタンス比の算出、(6)コンダクタンスGmの算出、(7)誤差G’の算出、および、(8)非撹拌水層の影響を考慮した真の浸透圧差の算出、からなる群から選択される少なくとも1つ(好ましくは全て)を行い得る。上記構成であれば、簡単な構成の評価システムを用いて、水流束の評価、非撹拌水層の評価、または、流動電位の評価を行うことができる。
【0081】
当該算出部は、移動距離計測計の計測結果、および、後述する電極対の測定結果に基づいて、後述する〔4.本発明の別の態様〕の欄に記載の「上記脂質二重膜の移動速度として浸透圧濃度差に従った水流束を測定すると同時に、電気生理学的に静電容量として膜面積を測定し、上記水流束および上記膜面積に基づいて、単位膜面積当たりの水流束を求める工程」または「上記脂質二重膜の移動速度として浸透圧濃度差に従った水流束を測定すると同時に、電気生理学的にグラミシジンチャネルの電流-電圧曲線を測定し、電流-電圧曲線の非対称性から非撹拌水層の局所濃度を推定し、当該局所濃度によって上記水流束を補正する工程」を行ってもよい。
【0082】
上述した算出部は、移動距離計測計の一部分として構成され得るが、移動距離計測計とは別に構成されてもよい。例えば、移動距離計測計および/または電極対と接続された、移動距離計測計および電極対とは別のものとして、構成されてもよい。
【0083】
上記算出部の構成は、特に限定されず、集積回路(ICチップ)等に形成された論理回路(ハードウェア)によって実現されてもよいし、ソフトウェアによって実現されてもよい。後者の場合、算出部は、各機能を実現するソフトウェアであるプログラムの命令を実行するコンピュータを備え得る。このコンピュータは、例えば少なくとも1つのプロセッサ(制御装置)を備えていると共に、上記プログラムを記憶したコンピュータ読み取り可能な少なくとも1つの記録媒体を備えている。そして、上記コンピュータにおいて、上記プロセッサが上記プログラムを上記記録媒体から読み取って実行することにより、本発明の目的が達成される。上記プロセッサとしては、例えばCPU(Central Processing Unit)を用いることができる。上記記録媒体としては、「一時的でない有形の媒体」、例えば、ROM(Read Only Memory)等の他、テープ、ディスク、カード、半導体メモリ、プログラマブルな論理回路などを用いることができる。また、上記プログラムを展開するRAM(Random Access Memory)などをさらに備えていてもよい。また、上記プログラムは、該プログラムを伝送可能な任意の伝送媒体(通信ネットワークや放送波等)を介して上記コンピュータに供給されてもよい。なお、本発明の一態様は、上記プログラムが電子的な伝送によって具現化された、搬送波に埋め込まれたデータ信号の形態でも実現され得る。
【0084】
本実施の形態の脂質二重膜の水透過性の評価システムは、脂質二重膜を介した電位差と電流とを制御および計測(または、制御および/または計測)するための電極対を備え得る。当該電極対は、脂質二重膜の膜容量も計測し得る。当該電極対は、水透過性の評価に必要な、あらゆる電気的情報を取得するために用いられ得る。電極対としては、市販の電極対(例えば、塩化銀電極)を用いることができる。
【0085】
本実施の形態の脂質二重膜の水透過性の評価システムは、水流束の評価システム、非撹拌水層の評価システム、または、流動電位の評価システムとして使用することができる。
【0086】
〔1-3.評価システムの構成の一例〕
本実施の形態の脂質二重膜の水透過性の評価システムは、脂質二重膜を形成することが可能な管、または、当該管を有する脂質二重膜形成装置を備えていてもよい。以下では、
図6および
図7を参照しながら、当該管、および、当該脂質二重膜形成装置について説明する。
【0087】
6(a)および
図6(b)に示すように、管5は、管5内に第1の水溶液1を導入するための第1の開口6と、管5内に第2の水溶液2を導入するための第2の開口7と、第1の開口6と第2の開口7との間にて管5に設けられている第3の開口8であって、第3の開口から管5内に配置されている、脂質二重膜を形成するための油を吸引するための第3の開口8と、を備えている。
【0088】
管5内に充填される油、第1の水溶液1、および、第2の水溶液2からなる群から選択される少なくとも1つには、脂質一重膜を形成するための脂質が含まれ得る。
図6(a)の矢印にて示すように管5内に第1の水溶液1および第2の水溶液2が導入された後、第1の水溶液1および第2の水溶液2が管5内を移動しているとき、および/または、第1の水溶液1と第2の水溶液2とが管5内で接触したときに、第1の水溶液1および第2の水溶液2の各々を覆うように、脂質一重膜が形成される。このとき、管5には油が充填されているので、脂質一重膜を形成する脂質は、自身の疎水性領域を油の側に配置し、自身の親水性領域を第1の水溶液1または第2の水溶液2の側に配置することになる。第3の開口8は、第1の開口6と第2の開口7との間に設けられているので、
図6(a)および
図6(b)の矢印にて示すように第3の開口8から管5内の油を管5の外へ向かって吸引すると、管5内に油の流れが生じ、当該流れによって、脂質一重膜によって覆われた第1の水溶液1と、脂質一重膜によって覆われた第2の水溶液2とが接近し(例えば、互いに向かって移動し)、脂質二重膜形成領域10にて接触し、その結果、脂質二重膜が形成されることになる。上述したように、脂質一重膜を形成する脂質は、自身の疎水性領域を油の側に配置し、自身の親水性領域を第1の水溶液1または第2の水溶液2の側に配置しているので、脂質一重膜同士が接触して形成されている脂質二重膜では、内側にて疎水性領域同士が向かい合うように配置され、外側に親水性領域が配置されることになる。つまり、当該脂質二重膜は細胞膜と同じ構造を有している。
【0089】
第1の開口6、第2の開口7、および、第3の開口8の形状は、特に限定されないが、管5の断面の形状と同じであることが好ましい。第1の開口6、第2の開口7、および、第3の開口8の形状は、例えば、直径が0.1mm~100mm、1mm~10mm、または、1mm~5mmである円であり得る。
【0090】
第3の開口8には、第3の開口8から管5の外へ向かって吸引された油を導くための管(図示せず)が接続されていてもよい。当該管は、例えば、管5に接続された注射器であってもよい。当該構成によれば、第3の開口8から管5の外へ向かって、所望の速度にて油を吸引することができる。その結果、より効率よく、脂質二重膜を形成することができる。
【0091】
管5内における、第1の開口6および第2の開口7の位置は、特に限定されない。例えば、(i)管5の端部の各々に第1の開口6および第2の開口7の各々を設けてもよいし、(ii)管5の端部よりも内側に第1の開口6および第2の開口7の各々を設けてもよいし、(iii)管5の端部に第1の開口6または第2の開口7の一方を設け、かつ、管5の端部よりも内側に第1の開口6または第2の開口7の他方を設けてもよい。管5内における油の流れをスムーズにするという観点からは、上記(i)の位置が好ましい。
【0092】
管5内における第3の開口8の位置は、特に限定されない。例えば、管5の端部と管5の反対側の端部とを結ぶ線の中央、または、中央の近傍に、第3の開口8が設けられてもよい。当該構成であれば、第1の水溶液1と第2の水溶液2とを効率よく接触させることによって、脂質二重膜を効率よく形成することができる。
【0093】
管5内に充填される油は、特に限定されず、脂質一重膜および脂質二重膜を形成する脂質の種類等に応じて、適宜、選択することができる。管5内に充填される油としては、リン脂質、ヘキサデカン、デカン、スクアレン、シリコンオイル、および、ミネラルオイル等があげられる。これらの中でも、形成された脂質一重膜および脂質二重膜の中に入り込み難く、形成された脂質二重膜が細胞膜により近い膜構造になるという観点、および、揮発性が低く、取り扱いが容易であるという観点から、上記油としては、ヘキサデカンが好ましい。
【0094】
上記油、第1の水溶液1、および、第2の水溶液2からなる群から選択される少なくとも1つは、例えば、イオノフォア、ポリペプチド、チャネル、疎水性化合物、または、疎水性イオンを含んでいてもよい。上記構成であれば、これらの物質を含有する脂質二重膜を形成することができる。上記イオノフォアとしては、例えば、グラミシジンを挙げることができる。上記ポリペプチドとしては、例えば、膜貫通タンパク質、トランスポータ、および、膜貫通型の輸送タンパク質を挙げることができる。
【0095】
上記油、第1の水溶液1、および、第2の水溶液2からなる群から選択される少なくとも1つは、脂質一重膜を形成するための脂質を含んでいてもよい。より具体的に、(i)管5内に充填される油、(ii)第1の水溶液1および第2の水溶液2の両方、または、(iii)管5内に充填される油、第1の水溶液1および第2の水溶液2の全てに、脂質一重膜を形成するための脂質が含まれていてもよい。
【0096】
図6(c)に示すように、管5は、管5を開閉する開閉部15を備えていてもよい。
【0097】
図7に示すように、本実施の形態の脂質二重膜の水透過性の評価システムは、管5(例えば、管5、第1の開口6、第2の開口7、および、第3の開口8からなるユニット)を複数備えていてもよい。更に、
図7に示すように、本実施の形態の脂質二重膜の水透過性の評価システムは、複数のユニットに含まれている複数の第1の開口6のうちの少なくとも2つと接続されている第1の副管20と、複数のユニットに含まれている複数の第2の開口7のうちの少なくとも2つと接続されている第2の副管30と、を備えていてもよい。また、本実施の形態の脂質二重膜の水透過性の評価システムは、複数のユニットに含まれている複数の第1の開口6の全てと接続されている第1の副管20と、複数のユニットに含まれている複数の第2の開口7の全てと接続されている第2の副管30と、を備えていてもよい。
【0098】
より具体的に、
図7に示す脂質二重膜の水透過性の評価システムは、管5、第1の開口6、第2の開口7、および、第3の開口8からなるユニットを3つ備えている。なお、本実施の形態の脂質二重膜の水透過性の評価システムが備え得るユニットの数は、特に限定されず、例えば、2~10ユニット、2~50ユニット、または、2~100ユニットであってもよい。勿論、本実施の形態の脂質二重膜の水透過性の評価システムが備え得るユニットの数は、100ユニット以上を備えていてもよい。
【0099】
図7に示すように、本実施の形態の脂質二重膜の水透過性の評価システムでは、第1の投入口21から第1の副管20内へ第1の水溶液1が導入されて、当該第1の副管20内を第1の水溶液1が移動する。各管5では、第3の開口8から管5内の油が管5の外へ向かって吸引される。このとき、各管5では、第1の開口6から第3の開口8に向かって油の流れが生じる。当該油の流れによって、第1の副管20内を移動している第1の水溶液1が、第1の開口6の各々を経て、管5の各々の中へ導入される。管5の各々の中へ導入された第1の水溶液1は、第3の開口8に向かって移動する。
【0100】
また、本実施の形態の脂質二重膜の水透過性の評価システムでは、第2の投入口31から第2の副管30内へ第2の水溶液2が導入されて、当該第2の副管30内を第2の水溶液2が移動する。各管5では、第3の開口8から管5内の油が管5の外へ向かって吸引される。このとき、各管5では、第2の開口7から第3の開口8に向かって油の流れが生じる。当該油の流れによって、第2の副管30内を移動している第2の水溶液2が、第2の開口7の各々を経て、管5の各々の中へ導入される。管5の各々の中へ導入された第2の水溶液2は、第3の開口8に向かって移動する。
【0101】
第3の開口8へ向かって移動する第1の水溶液1と第2の水溶液2とは、第3の開口8の近傍にて接触し、その結果、脂質二重膜が形成される。上記構成によれば、短時間にて複数の脂質二重膜を作製することができ、その結果、複数の脂質二重膜の水透過性を短時間にて評価することができる。例えば、上記構成によれば、後述する脂質二重膜の水透過性を制御する薬剤のスクリーニング方法を、効率良く実施することができる。
【0102】
第1の副管20には、第1の投入口21の反対側に第1の排出口22が設けられ得、第2の副管30には、第2の投入口31の反対側に第2の排出口32が設けられ得る。第1の排出口22からは、第1の副管20内に充填される油、および/または、管5内に導入されなかった第1の水溶液1を排出することができる。一方、第2の排出口32からは、第2の副管30内に充填される油、および/または、管5内に導入されなかった第2の水溶液2を排出することができる。
【0103】
第1の副管20、および、第2の副管30の長さ等は、管5の数などに応じて、適宜設定することができる。また、第1の副管20、および、第2の副管30は、管5と同じ材料によって形成されてもよいし、管5と異なる材料によって形成されてもよい。また、第1の副管20、および、第2の副管30の断面の形状は、管5の断面の形状と同じ形状であってもよいし、管5の断面の形状と異なる形状であってもよい。
【0104】
本実施の形態の脂質二重膜の水透過性の評価システムの別の態様は、
図8(a)に示すように、内部に、所定の浸透圧濃度である第1の水溶液、脂質二重膜、および、第1の水溶液よりも高い浸透圧濃度である第2の水溶液をこの順番にて配置するための管5であって、管5を開閉する開閉部(
図6(c)を参照)を備えている管5と、脂質二重膜60の移動距離を計測するための移動距離計測計50と、脂質二重膜60を介した電位差と電流とを制御および計測(または、制御および/または計測)するための電極対40・41と、を備えていてもよい。管5は、その端部に、第1の開口6と第2の開口7とを備え得る。管5は、第3の開口を備えていてもよいし、備えていなくてもよい。
【0105】
〔2.脂質二重膜の水透過性の評価方法〕
図8を参照しながら、本実施の形態の脂質二重膜の水透過性の評価方法について説明する。
【0106】
図8(b)に示すように、本実施の形態の脂質二重膜の水透過性の評価方法は、上述した脂質二重膜の水透過性の評価システムを用いる脂質二重膜の水透過性の評価方法であって、上記管内に配置されている脂質二重膜の移動距離の計測、および、上記管内に配置されている脂質二重膜を介した電位差と電流との制御および/または計測、を行う計測工程S1を有する。
【0107】
計測工程S1では、管内に配置されている脂質二重膜の移動距離の計測、および、管内に配置されている脂質二重膜を介した電位差と電流との制御および/または計測、が行われる。なお、管内に配置されている脂質二重膜の移動距離の計測は、上述した移動距離計測計を用いて行われ得る。一方、管内に配置されている脂質二重膜を介した電位差と電流との制御および/または計測は、上述した電極対を用いて行われ得る。
【0108】
計測工程S1は、例えば、脂質二重膜の像(脂質二重膜の移動距離の算出に使用される像)を撮影する撮影工程と、時間の経過(例えば、脂質二重膜の移動に要した時間)を計測する時間計測工程とを包含してもよい。計測工程S1は、撮影工程によって得られた複数の像と、時間計測工程によって得られた時間とから、脂質二重膜の移動速度を算出する移動速度算出工程を包含してもよい。
【0109】
計測工程S1は、上述した工程の他に、(1)水の移動体積を算出する工程、(2)脂質二重膜の面積を算出する工程、(3)水流束を算出する工程、(4)電流-電圧曲線を作成する工程、(5)膜電位とコンダクタンス比とを算出する工程、(6)コンダクタンスGmを算出する工程、(7)誤差G’を算出する工程、および、(8)非撹拌水層の影響を考慮した真の浸透圧差を算出する工程、からなる群から選択される少なくとも1つ(好ましくは全て)を包含してもよい。上記構成であれば、簡単に、水流束の評価、非撹拌水層の評価、または、流動電位の評価を行うことができる。
【0110】
図8(c)に示すように、本実施の形態の脂質二重膜の水透過性の評価方法は、計測工程S1よりも前に、脂質二重膜形成工程S0を包含してもよい。
【0111】
脂質二重膜形成工程S0は、例えば、管内に充填されている油を第3の開口から吸引することによって、脂質一重膜によって覆われた第1の水溶液と脂質一重膜によって覆われた第2の水溶液とを互いに接触させて脂質二重膜を形成させる工程であってもよい。
【0112】
本実施の形態の脂質二重膜の水透過性の評価方法は、脂質二重膜形成工程S0の後(例えば、脂質二重膜形成工程S0の後であって、かつ、計測工程S1の前)に、(i)第1の水溶液と第2の水溶液とが接触している界面を観察する界面観察工程、および/または、脂質二重膜の静電容量を測定する静電容量測定工程を有していてもよい。当該構成によれば、脂質二重膜が形成されているか否かを判定することができる。なお、界面観察工程は、第1の水溶液と第2の水溶液とが接触している界面を、顕微鏡(例えば、倒立顕微鏡)によって観察し、界面の状態が変化することを確認することによって行うことができる。一方、静電容量測定工程は、電極対などを用いて脂質二重膜の静電容量を測定し、静電容量の値が変化することを確認することによって行うことができる。
【0113】
本実施の形態の脂質二重膜の水透過性の評価方法は、水流束の評価方法、非撹拌水層の評価方法、または、流動電位の評価方法として使用することができる。
【0114】
〔3.脂質二重膜の水透過性を制御する薬剤のスクリーニング方法〕
本実施の形態の脂質二重膜の水透過性を制御する薬剤のスクリーニング方法は、上述した脂質二重膜の水透過性の評価システムを用いる、脂質二重膜の水透過性を制御する薬剤のスクリーニング方法であって、上記管内に配置されている第1の水溶液、脂質二重膜、および、第2の水溶液からなる群から選択される少なくとも1つに薬剤の候補物質を加える添加工程と、上記管内に配置されている脂質二重膜の移動距離の計測、および、上記管内に配置されている脂質二重膜を介した電位差と電流との制御および/または計測を行う、計測工程と、上記計測工程によって得られた計測値と、参照値とを比較する比較工程と、を有する。
【0115】
添加工程では、管内に配置されている第1の水溶液、脂質二重膜、および、第2の水溶液からなる群から選択される少なくとも1つに薬剤の候補物質を加える。薬剤の候補物質は、脂質二重膜自体、または、脂質二重膜に埋め込まれている物質(例えば、イオノフォア、ポリペプチド(例えば、膜タンパク質)、疎水性化合物、または、疎水性イオン)の近傍に存在するので、薬剤の候補物質は、脂質二重膜自体、または、脂質二重膜に埋め込まれている物質に作用(例えば、脂質二重膜に埋め込まれている物質の活性を、上昇または低下)し得る。
【0116】
添加工程を実施する方法は、特に限定されず、例えば、(i)管内に既に配置されている第1の水溶液、脂質二重膜、および、第2の水溶液からなる群から選択される少なくとも1つに、細管などを用いて、直接、薬剤の候補物質を加える方法、または、(ii)管内に脂質二重膜を形成する際に、脂質二重膜を形成するための油、第1の水溶液、および、第2の水溶液からなる群から選択される少なくとも1つに、予め薬剤の候補物質を加える方法、を用いることができる。
【0117】
計測工程では、管内に配置されている脂質二重膜の移動距離の計測、および、上記管内に配置されている脂質二重膜を介した電位差と電流との制御および/または計測を行う。その結果、当該計測工程では、水透過性に関する計測値(例えば、脂質二重膜の移動距離、脂質二重膜の移動速度、水流束、非撹拌水層、および、流動電位など)が得られる。
【0118】
薬剤の候補物質が脂質二重膜自体、または、脂質二重膜に埋め込まれている物質に作用する場合の計測値は、薬剤の候補物質が脂質二重膜自体、または、脂質二重膜に埋め込まれている物質に作用しない場合の計測値(換言すれば、参照値)と異なる。それ故に、比較工程にて計測値と参照値とを比較することによって、脂質二重膜(例えば、脂質二重膜に埋め込まれている物質)の水透過性を制御する薬剤をスクリーニングすることができる。なお、上記参照値は、管内に配置されている第1の水溶液、脂質二重膜、および、第2の水溶液の何れにも薬剤の候補物質を加えない場合の計測値であってもよい。
【0119】
計測値と参照値との差が大きいほど、当該候補物質を、脂質二重膜の水透過性をより強く制御する薬剤とみなすことができる。
【0120】
〔4.本発明の別の態様〕
本発明は、以下のように構成することも可能である。
【0121】
本発明の一実施形態は、管(例えば、ガラス管)を使った移動接触膜法であって、
上記管の内壁を疎水性物質にて表面処理した後、当該管の内壁を更にリン脂質(例えば、ヘキサン溶液)にて表面処理する工程と、
上記管内に、浸透圧濃度の低い第一の水溶液、上記リン脂質を分散した油、および、浸透圧濃度の高い第二の水溶液を、この順番にて充填する工程と、
上記管の一端に電極A(例えば、AgCl電極)を設置した後、当該管の一端を閉じる(たとえば、熱可塑性チューブを用いて閉じる)工程と、
上記閉じられた一端とは反対側の開放端から、上記リン脂質を分散した油を吸引して(例えば、注射器を用いて吸引)、2つの単分子層を接着させて脂質二重膜を形成する工程と、
上記開放端に電極B(例えば、AgCl電極)を設置する工程と、
上記脂質二重膜の移動速度として浸透圧濃度差に従った水流束を測定すると同時に、電気生理学的に静電容量として膜面積を測定し、上記水流束および上記膜面積に基づいて、単位膜面積当たりの水流束を求める工程と、を有する、移動接触膜法(または、水流束の評価方法)。
【0122】
本発明の一実施形態は、管(例えば、ガラス管)を使った非撹拌水層評価法であって、
上記管の内壁を疎水性物質にて表面処理した後、当該管の内壁を更にリン脂質(例えば、ヘキサン溶液)にて表面処理する工程と、
上記管内に、少量のグラミシジンを含む浸透圧濃度の低い第一の水溶液(例えば、電解質溶液)、上記リン脂質を分散した油、および、少量のグラミシジンを含む浸透圧濃度の高い第二の水溶液(例えば、電解質溶液)を、この順番にて充填する工程と、
上記管の一端に電極A(例えば、AgCl電極)を設置した後、当該管の一端を閉じる(たとえば、熱可塑性チューブを用いて閉じる)工程と、
上記閉じられた一端とは反対側の開放端から、上記リン脂質を分散した油を吸引して(例えば、注射器を用いて吸引)、2つの単分子層を接着させて脂質二重膜を形成する工程と、
上記開放端に電極B(例えば、AgCl電極)を設置する工程と、
上記脂質二重膜の移動速度として浸透圧濃度差に従った水流束を測定すると同時に、電気生理学的にグラミシジンチャネルの電流-電圧曲線を測定し、電流-電圧曲線の非対称性から非撹拌水層の局所濃度を推定し、当該局所濃度によって上記水流束を補正する工程と、を有する、非撹拌水層評価法(または、水流束の評価方法)。
【実施例】
【0123】
<1.試験の準備>
A.試験に用いた器具
顕微鏡としては、倒立顕微鏡(具体的には、Olympus IX70)を使用した。パッチクランプアンプとしては、AxoPatch 200B(Axon Instrumental)を用いた。電位記録は、Clampex 10.7(Intermedical)を用いて行った。データの解析は、Clampfit 10.7(Intermedical)を用いて行った。顕微鏡の画像記録は、WRAYCAM NF1000(WRAYMER)を用いて行った。記録した画像の解析は、Image Jを用いて行った。データ解析は、Microsoft Excel 2013を用いて行った。
【0124】
B.脂質の準備
脂質一重膜および脂質二重膜を形成するための脂質としては、diphytanoylphosphocholine(DphPC 50mg/mL:avanti polar lipid)を用いた。
【0125】
DphPCが溶解したクロロホルム溶液150μLをロータリーエバポレーターにかけて溶媒の除去を行い、得られた固形物を、デシケーター内にて、17hPaの低圧環境下にて6時間以上保管した。
【0126】
保管後の固形物を、250μLのヘキサンに溶解し、30mg/mLにてDphPCを含有するヘキサン溶液を得た。以後の試験では、当該ヘキサン溶液を用いて、キャピラリーの内部をプレコーティングした。
【0127】
また、保管後の固形物を、250μLのヘキサデカンに溶解し、30mg/mLにてDphPCを含有するヘキサデカン溶液を得た。以後の試験では、当該ヘキサデカン溶液(脂質二重膜作製用DphPCとも呼ぶ)を、プレコーティングされたキャピラリーに充填することによって、水溶液を覆う脂質一重膜を形成した。
【0128】
C.水溶液の準備
溶媒としては水を用い、溶質としてはNaClおよび尿素を用いた。まずNaClを100mMの濃度にて含有する水溶液を作製し、これを基本の水溶液とした。基本の水溶液に尿素を加えることによって、NaClを100mMの濃度にて含有し、かつ、尿素を200mM、400mM、600mM、800mM、または、1000mMの濃度にて含有する水溶液を作製した。
【0129】
非撹拌水層の測定を行う場合には、NaClおよび尿素を含有する水溶液に対して、更にグラミシジン(Gramicidin) A(SANTA CRUZ)を溶解した水溶液を用いた。具体的に、Dimethyl sulfoxide(DMSO)にグラミシジン Aの粉末を溶解し、グラミシジン Aを1mmol/Lの濃度にて含有するDMSO溶液を作製した。当該DMSO溶液をさらにDMSOを用いて希釈し、グラミシジン Aを100nmol/Lの濃度にて含有するDMSO溶液を作製した。
【0130】
当該DMSO溶液を、NaClを含有する水溶液、または、NaClと尿素とを含有する水溶液を用いて50倍に希釈した。グラミシジン Aを2nmol/Lの濃度にて含有するDMSO溶液を試験に用いた。なお、NaClおよび尿素を用いた理由は、NaClの拡散係数と、尿素の拡散係数とが、略同じであるからである。
【0131】
D.キャピラリーの準備
内径1.1mm、長さ50mmのガラス製のキャピラリーを用いた。まず、キャピラリーの内腔にSIGMACOTE(SIGMA-ALDRICH)を通し、内腔を疎水化した後、当該キャピラリーを、6時間以上デシケーター内で17hPaにて保管した。
【0132】
その後、あらかじめ上記方法にて準備しておいたDphPCが溶解したヘキサン溶解を、キャピラリーの内腔に通した。当該キャピラリーを、3時間以上デシケーター内で17hPaにて保管した。以上の操作によって、キャピラリーの内腔のコーティングを行った。
【0133】
<2.水流束の測定試験>
水の体積移動に伴う脂質二重膜の平行移動を正確に観察するために、コーティングされたキャピラリーの片側の端部を閉塞させた(Closed法)。
【0134】
具体的には、コーティングされたキャピラリーの片側の端部に、長さが7~8mm程度のheat shrink tubeをとりつけた。AgClインクが塗布されているキャピラリーの部分に、2~3mm程度の長さのheat shrink tubeを被せ、当該heat shrink tubeに熱風をふきつけることによって、キャピラリーにheat shrink tubeを装着させた。
【0135】
次いで、当該キャピラリー内に、(i)NaClを100mMの濃度にて含有する水溶液(25μL)、(ii)脂質二重膜作製用DphPC(3μL)、(iii)NaClを100mMの濃度にて含有し、かつ、尿素を所望の濃度にて含有する水溶液(25μL)を、当該順番にて充填した。
【0136】
上記(i)~(iii)の溶液を充填したキャピラリーを倒立顕微鏡にセットした。塩化銀電極をキャピラリー内に挿入した後、加熱されたピンセットの先端にて、heat shrink tubeをつまむことによって、キャピラリーの片側の端部を閉塞させた。
【0137】
倒立顕微鏡の拡大率を40倍~100倍として、キャピラリーの内部を観察しながら、キャピラリー内の脂質二重膜作製用DphPCを、キャピラリーの開放端から挿入した吸引用キャピラリーを用いて吸引および除去し、当該脂質二重膜作製用DphPCの両側に存在する(i)の溶液のコンパートメントと、(iii)の溶液のコンパートメントとを接触させた(
図1(a)および
図1(b)参照)。なお、吸引用キャピラリーとしては、27G注射針(テルモ製)に対して、70mm程度の長さに切った内径50μmのキャピラリー(フナコシ製)を接着したものを、1mmシリンジ(テルモ)に接続したものを用いた。
【0138】
溶液のコンパートメント同士を接触させた後、塩化銀電極を開放端からキャピラリー内に差し込んだ。その後、倒立顕微鏡の拡大率を400倍として、溶液のコンパートメント同士の境界面を観察した。はじめは境界面に厚みが存在するが、しばらくすると境界面が突然薄くなり、溶液のコンパートメント同士がより強く接触する。この時に、溶液のコンパートメント同士の間に、大きな脂質二重膜が形成される(
図1(c)および
図1(d)参照)。なお、脂質二重膜の厚さは、略4nmである。脂質二重膜の厚さが略4nmになっているか否かは、顕微鏡観察のみならず、静電容量から判断することができる。
【0139】
溶液のコンパートメントの間の浸透圧の差に従って、脂質二重膜を通って水が移動すると、脂質二重膜が、水の体積変化に応じて、キャピラリー内を平行移動する。この動きをタイムラプスにて、5秒間隔で合計45秒間、10枚の写真を撮影した。
【0140】
同時に、Voltage Clamp modeにて脂質二重膜に対して10mV~-10mVのランプ波をかけ、膜容量の測定を行った。DphPCの特性膜容量は、6.52×10-3pF/μm2(Graham et al. Direct in situ measurement of specific capacitance, monolayer tension, and bilayer tension in a droplet interface bilayer : Soft Matter, 2015, 11, 7592-7605)であり、当該データから、脂質二重膜の面積を算出した脂質二重膜の面積(μm2)は、測定した膜容量(pF)を前述のDphPCの特性膜容量で除して算出した。
【0141】
撮影したデータを、image JのManual tracking modeを用いて解析し、45秒間で脂質二重膜が移動した距離を測定した。本試験では内径1.1mmのキャピラリーを用いていることから、キャピラリーの断面積と脂質二重膜の移動距離との積として、水の移動体積が得られる。脂質二重膜の面積も得られているので、これらのデータからDphPCに対する水の透過係数を得ることができる。なお、具体的な水の透過係数(μm/sec)は、単位時間当たりの水の移動体積すなわち水の移動速度(μm3/sec)を膜面積(μm2)で除して算出した。
【0142】
この試験を、浸透圧差200mM、400mM、600mM、800mM、1000mMと変えながら試験を行い、水の透過係数を算出した。浸透圧差200mM、400mM、600mM、800mM、1000mMの場合、水の透過係数は、各々、0.901、1.814、2.619、3.233、および、4.076であった。
【0143】
<3.非撹拌水層の測定試験>
高浸透圧の水溶液と低浸透圧の水溶液との間に脂質二重膜を配置すると、低浸透圧の水溶液から高浸透圧の水溶液に向かって、水が流れ込む。このとき、低浸透圧の水溶液の側の脂質二重膜の近傍ではイオン(例えば、ナトリウムイオン)の濃度が上昇し、高浸透圧の水溶液の側の脂質二重膜の近傍ではイオン(例えば、ナトリウムイオン)の濃度が低下する。そして、脂質二重膜の近傍におけるイオン濃度の変化は、水の駆動力を減弱させる。当該水の駆動力の減弱を考慮しない場合には、脂質二重膜の水の透過性を過大に評価してしまうという問題が生じる。それ故に、脂質二重膜の水の透過性を正確に評価するためには、脂質二重膜の近傍におけるイオン濃度の変化(換言すれば、脂質二重膜の近傍における浸透圧濃度の変化)を評価する必要がある(
図2参照)。
【0144】
本試験では、脂質二重膜の近傍に形成される非撹拌水層の測定を行った。なお、本試験では、グラミシジンを2nmol/Lにて含有する水溶液を用いた。なお、当該グラミシジンとしては、SANTA CRUZ社製のものを用いた。
【0145】
グラミシジンを含有する水溶液を用いること以外は、上記<2.水流束の測定試験>に記載の方法と同じ方法にしたがって、キャピラリー内に脂質二重膜を形成した。
【0146】
グラミシジンを含有する水溶液を用いることによって、脂質二重膜を介した水の移動のみならず、イオンの移動も可能になる。脂質二重膜を介してイオンが移動すると、流動電位が発生する。パッチクランプアンプのモードをcurrent clamp modeに設定することによって、流動電位を観察することができる。
【0147】
本試験では、後に、脂質二重膜の両側から100mVずつの電圧をかけることになるが、流動電位を放置しておくと、脂質二重膜に印加される電圧に、流動電位の分の誤差が発生する。そこで、本試験では、最初にアンプに対して流動電位の分の補正を行うことによって、脂質二重膜に印加される電圧に流動電位の分の誤差が発生することを防いだ。アンプに補正を施した後、脂質二重膜に対して100mV~-100mVのランプ波をかけ、データを記録した。
【0148】
記録したデータに基づいてExcelを用いて電流-電圧曲線を描き、その100mV~-100mVのランプ波をかけた時の、膜電位とコンダクタンス比とを求めた。なお、グラミシジンによって脂質二重膜内に形成されるチャネルは対称構造を持つので、電流-電圧曲線は、理論上は対称になる。ところが非攪拌水層の発生に伴って、電流-電圧曲線が非対称になり、当該非対称性から、非攪拌水層内のイオン濃度を推定することができる。当該コンダクタンス比は、UWL(Unstirred Water Layer)の形成に伴うNaイオン濃度の比であると考えられる。当該コンダクタンス比に基づいて、UWLの影響を加味した、脂質二重膜の近傍での尿素の真の濃度を推定できると考えられる。浸透圧ごとのコンダクタンス比をグラフにまとめた(
図3(a)参照)。
【0149】
(i)NaClを100mMの濃度にて含有する水溶液と、(iii)NaClを100mMの濃度にて含有し、かつ、尿素を所望の濃度にて含有する水溶液との間の浸透圧差が1000mMの時には、脂質二重膜から十分に離れた水溶液と、脂質二重膜の近傍の水溶液との間の浸透圧には、10%程度の誤差が認められた。
【0150】
つまり、(i)NaClを100mMの濃度にて含有する水溶液と、(iii)NaClを100mMの濃度にて含有し、かつ、尿素を所望の濃度にて含有する水溶液との間の浸透圧差が1000mMの時の、UWLの影響が考慮されていないPf(Osmotic Water Permeability Coefficient)の値は、実際のPfよりも、10%程度過小評価されていると考えられる。
【0151】
コンダクタンス比から、UWLの影響を考慮した真の浸透圧差(水透過性)を求めることができる。グラミシジンを含有する水溶液と従来から使用されているDphPCとによって形成された脂質二重膜の水のPfの値は、UWLの影響を考慮して算出すると、約4.55μm/s(浸透圧差1000mM)であった(
図3(b)および
図3(c)参照)。
【0152】
本実施例において、100mV時のUWLのコンダクタンスの絶対値をG(+)とし、-100mV時のUWLのコンダクタンスの絶対値をG(-)とすれば、100mV時における脂質二重膜の真のコンダクタンスGmは、「Gm=(G(+)+G(-))/2」にて算出することができる。また、本実施例において、尿素を含有する水溶液の側のUWLのコンダクタンスの絶対値G(-)と、脂質二重膜のコンダクタンスGmとの誤差G’は、「G’=[(Gm-G(-))/Gm]×100」にて算出することができる。
【0153】
<4.流動電位の測定試験>
上記<3.非撹拌水層の測定試験>に記載の方法と同じ方法にしたがって、キャピラリー内に脂質二重膜を形成した。但し、本試験では、キャピラリーの両端部は、閉塞させることなく、開放した(Open法)。また、本試験では、NaClの代わりに200mMの濃度のKClを用い、かつ、尿素の各々の代わりに、200mM、400mM、600mM、800mM、または、100mMのスクロースを用いた。また、本試験では、グラミシジンを2nmol/Lにて含有する水溶液を用いた。
【0154】
浸透圧差によって、脂質二重膜内に形成されたチャネルを介して水が移動すると、当該水と共にイオンも移動する。そして、当該イオンの移動によって、流動電位が発生する。そこで、当該流動電位を、current clamp(I=0)の条件下にて、塩化銀電極を用いて測定した。その結果を、
図4に示す。
図4より、水/イオン流束比の値は、11.2であった。
【0155】
<5.グラミシジンチャネルの機能解析>
グラミシジンおよび尿素を含有する水溶液(液1)、脂質二重膜作製用DphPC、および、純水(液2)を用いて、脂質二重膜を形成した(Closed法)。このとき、浸透圧の低い液2側から液1側へ水が移動し、膜の移動が起こった(
図5参照)。グラミシジンは液1のみにしか入っていないため、脂質二重膜内にチャネルは形成されない。それ故に、このときの水の移動は、脂質二重膜を介してのみ起こっている。
【0156】
次いで、液2にグラミシジンを少量投与した。当該投与によって、脂質二重膜内にグラミシジンチャネルが形成され、脂質二重膜以外に、グラミシジンを介しても水の移動が起こる。その結果、脂質二重膜の移動速度は増加した(
図5参照)。
【0157】
次いで、液2に、グラミシジンチャネルのブロッカーとして機能する塩化ナトリウム溶液を投与した。グラミシジンチャネルの水透過性は、ナトリウムイオン存在時の方が、ナトリウムイオン非存在時よりも低下し、その結果、脂質二重膜の移動速度は減少した(
図5参照)。
【0158】
なお、グラミシジンチャネルが存在しない脂質二重膜の水透過性よりも、塩化ナトリウムが存在する条件下にて測定された、グラミシジンチャネルが存在する脂質二重膜の水透過性の方が、大きかった。
【産業上の利用可能性】
【0159】
本発明は、脂質二重膜の水流束の評価システム、脂質二重膜の非撹拌水層の評価システム、または、脂質二重膜の流動電位の評価システムなどに用いることができる。
【符号の説明】
【0160】
1 第1の水溶液
2 第2の水溶液
5 管
6 第1の開口
7 第2の開口
8 第3の開口
10 脂質二重膜形成領域
15 開閉部
20 第1の副管
21 第1の投入口
22 第1の排出口
30 第2の副管
31 第2の投入口
32 第2の排出口
40・41 電極
50 移動距離計測計
60 脂質二重膜
S0 脂質二重膜形成工程
S1 計測工程