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特許7179344無線アクセスポイント及び転送レート制御方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-18
(45)【発行日】2022-11-29
(54)【発明の名称】無線アクセスポイント及び転送レート制御方法
(51)【国際特許分類】
   H04W 28/22 20090101AFI20221121BHJP
   H04W 28/18 20090101ALI20221121BHJP
   H04W 76/30 20180101ALI20221121BHJP
   H04W 48/14 20090101ALI20221121BHJP
   H04W 72/04 20090101ALI20221121BHJP
   H04W 84/12 20090101ALI20221121BHJP
【FI】
H04W28/22
H04W28/18 110
H04W76/30
H04W48/14
H04W72/04 110
H04W84/12
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2019231518
(22)【出願日】2019-12-23
(65)【公開番号】P2021100204
(43)【公開日】2021-07-01
【審査請求日】2022-07-04
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】500112146
【氏名又は名称】サイレックス・テクノロジー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100118784
【弁理士】
【氏名又は名称】桂川 直己
(72)【発明者】
【氏名】香川 忠與
【審査官】鈴木 重幸
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-252877(JP,A)
【文献】特開2013-090179(JP,A)
【文献】特開2019-009602(JP,A)
【文献】特開2006-013756(JP,A)
【文献】特開2005-136507(JP,A)
【文献】特開2018-142940(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04B 7/24- 7/26
H04W 4/00-99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
無線通信端末と無線通信可能である通信部と、
前記通信部が対応している転送レートとして、通信相手の前記無線通信端末に通知する転送レートである通知転送レートを前記無線通信端末に応じて決定する制御部と、
を備え、
前記制御部は、前記無線通信端末のMACアドレスと、当該無線通信端末に通知する前記通知転送レートと、が対応付けられており当該無線通信端末との無線通信の開始前に作成された対応情報を用いて、無線通信の開始時に通知する前記通知転送レートを決定し、
前記通信部は、前記無線通信端末に応じて前記制御部が決定した前記通知転送レートを、無線通信の開始時における前記無線通信端末からの無線通信を開始するための要求に基づいて、当該無線通信端末へ通知することを特徴とする無線アクセスポイント。
【請求項2】
請求項に記載の無線アクセスポイントであって、
無線アクセスポイントを管理する管理装置が前記対応情報を記憶しており、
前記制御部は、前記管理装置から前記通知転送レートを受信するか、又は、前記管理装置から受信した前記対応情報を用いて、無線通信の開始時に通知する前記通知転送レートを決定することを特徴とする無線アクセスポイント。
【請求項3】
請求項又はに記載の無線アクセスポイントであって、
前記制御部は、前記無線通信端末との無線通信の開始後において、当該無線通信端末との通信状態に基づいて、前記対応情報のうち当該無線通信端末に対応する前記通知転送レートを更新することを特徴とする無線アクセスポイント。
【請求項4】
請求項に記載の無線アクセスポイントであって、
前記制御部が前記通知転送レートを更新した場合であって、かつ、前記無線通信端末との通信状態に基づいて切断条件を満たしたと前記制御部が判定した場合に、前記通信部が当該無線通信端末との無線通信を切断することを特徴とする無線アクセスポイント。
【請求項5】
請求項1からまでの何れか一項に記載の無線アクセスポイントであって、
前記通信部は、無線通信の開始時において、前記無線通信端末からのプローブリクエストに対する応答であるプローブレスポンスと、前記無線通信端末からのアソシエーションリクエストに対する応答であるアソシエーションレスポンスと、を前記無線通信端末に送信し、
前記通信部は、前記プローブレスポンス及び前記アソシエーションレスポンスの両方に、前記通知転送レートを含めることを特徴とする無線アクセスポイント。
【請求項6】
無線アクセスポイントが対応している転送レートのうち、通信相手の無線通信端末に通知する転送レートである通知転送レートを前記無線通信端末に応じて決定する決定工程と、
前記無線通信端末に応じて前記決定工程で決定した前記通知転送レートを、無線通信の開始時における前記無線通信端末からの無線通信を開始するための要求に基づいて、前記無線アクセスポイントから当該無線通信端末へ通知する通知工程と、
を含み、
前記決定工程では、前記無線通信端末のMACアドレスと、当該無線通信端末に通知する前記通知転送レートと、が対応付けられており当該無線通信端末との無線通信の開始前に作成された対応情報を用いて、無線通信の開始時に通知する前記通知転送レートが決定されることを特徴とする転送レート制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主として、無線通信端末と無線通信を行う無線アクセスポイントに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、無線基地局と無線端末との転送レートを変更する方法を開示する。無線基地局は、データの送信に連続して成功した無線端末を、データの転送にとって良い環境にある無線端末と判定する。無線基地局は、データの転送にとって良い環境にある無線端末へは、高い転送レートを用いてデータを送信する。一方、無線基地局は、データの送信に連続して失敗した無線端末を、データの転送にとって悪い環境にある無線端末と判定する。また、低い転送レートを用いた場合の方が、データの送信に失敗する可能性が低い。従って、無線基地局は、データの転送にとって悪い環境にある無線端末へは、低い転送レートを用いて確実にデータを送信する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2003-110575号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一般的な無線通信規格では、無線通信の開始時において、無線アクセスポイントと無線通信端末との間で、それぞれが対応している転送レートの情報を交換する。その後、無線アクセスポイントと無線通信端末の両方が対応している転送レートから1つを選択してデータの送受信を行う。
【0005】
ここで、無線アクセスポイントと無線通信端末の通信環境は、例えば無線アクセスポイントから無線通信端末までの距離及び障害物の有無等に応じて異なる。従って、最適な転送レートは、無線通信端末毎に異なる。しかし、無線アクセスポイントと無線通信端末は、両方が対応している転送レートから1つを選択するため、無線通信端末との通信環境によっては適切でない転送レートを用いて無線通信が行われる可能性がある。
【0006】
また、特許文献1の方法では、通信環境に応じて転送レートが変更されるが、適切でない転送レートも選択可能なので、適切でない転送レートが用いられる可能性がある。また、特許文献1の方法では、無線アクセスポイントがデータを送信する際の転送レートは制御可能であるが、無線通信端末がデータを送信する際の転送レートを制御することはできない。
【0007】
もちろん、無線通信端末をカスタムすれば、無線通信端末がデータを送信する際の転送レートを制御することも可能である。しかしながら、無線アクセスポイントには、不特定又は多数の無線通信端末が接続される可能性があるため、無線通信端末をカスタムせずに、これを実現できることが望まれていた。
【0008】
本発明は以上の事情に鑑みてされたものであり、その主要な目的は、無線通信端末をカスタムすることなく、無線通信端末毎に異なる適切な転送レートを用いて無線通信端末と無線通信を行うことができる無線アクセスポイントを提供することにある。
【課題を解決するための手段及び効果】
【0009】
本発明の解決しようとする課題は以上の如くであり、次にこの課題を解決するための手段とその効果を説明する。
【0010】
本発明の第1の観点によれば、以下の構成の無線アクセスポイントが提供される。即ち、この無線アクセスポイントは、通信部と、制御部と、を備える。前記通信部は、無線通信端末と無線通信可能である。前記制御部は、前記通信部が対応している転送レートとして、通信相手の前記無線通信端末に通知する転送レートである通知転送レートを前記無線通信端末に応じて決定する。前記制御部は、前記無線通信端末のMACアドレスと、当該無線通信端末に通知する前記通知転送レートと、が対応付けられており当該無線通信端末との無線通信の開始前に作成された対応情報を用いて、無線通信の開始時に通知する前記通知転送レートを決定する。前記通信部は、前記無線通信端末に応じて前記制御部が決定した前記通知転送レートを、無線通信の開始時における前記無線通信端末からの無線通信を開始するための要求に基づいて、当該無線通信端末へ通知する。
【0011】
これにより、無線通信端末毎に通知転送レートを異ならせることができるので、無線通信端末の位置及び環境に応じた適切な転送レートで無線通信を行うことができる。従来では、無線通信の開始時には無線アクセスポイントが対応している全ての転送レートを無線通信端末に通知するが、無線通信端末に応じてそれを選択的に通知することで、無線通信端末をカスタムすることなく、転送レートを制御できる。また、事前に無線通信端末毎に通知転送レートを決めておくことができるので、簡単な処理で通知転送レートを決定できる。
【0014】
前記の無線アクセスポイントにおいては、以下の構成とすることが好ましい。即ち無線アクセスポイントを管理する管理装置が前記対応情報を記憶している。前記制御部は、前記管理装置から前記通知転送レートを受信するか、又は、前記管理装置から受信した前記対応情報を用いて、無線通信の開始時に通知する前記通知転送レートを決定する。
【0015】
これにより、管理装置が独立して対応情報を管理するため、無線アクセスポイントの負荷を低減でき、また複数の無線アクセスポイントを備えるシステムでは無線アクセスポイント間で必要な情報を共有できる。
【0016】
前記の無線アクセスポイントにおいては、前記制御部は、前記無線通信端末との無線通信の開始後において、当該無線通信端末との通信状態に基づいて、前記対応情報のうち当該無線通信端末に対応する前記通知転送レートを更新することが好ましい。
【0017】
これにより、その時点での状況に合致した適切な通知転送レートを動的に設定することができる。
【0018】
前記の無線アクセスポイントにおいては、前記制御部が前記通知転送レートを更新した場合であって、かつ、前記無線通信端末との通信状態に基づいて切断条件を満たしたと前記制御部が判定した場合に、前記通信部が当該無線通信端末との無線通信を切断することが好ましい。
【0019】
これにより、無線通信端末を切断することで、更新した通知転送レートを用いた無線通信を自動的に再開できる。
【0022】
前記の無線アクセスポイントにおいては、以下の構成とすることが好ましい。即ち、前記通信部は、無線通信の開始時において、前記無線通信端末からのプローブリクエストに対する応答であるプローブレスポンスと、前記無線通信端末からのアソシエーションリクエストに対する応答であるアソシエーションレスポンスと、を前記無線通信端末に送信する。前記通信部は、前記プローブレスポンス及び前記アソシエーションレスポンスの両方に、前記通知転送レートを含める。
【0023】
これにより、一般的な無線通信規格に合致できるので、汎用性を高くすることができる。
【0024】
本発明の第2の観点によれば、以下の転送レート制御方法が提供される。即ち、この転送レート制御方法は、決定工程と、通知工程と、を含む。前記決定工程では、無線アクセスポイントが対応している転送レートのうち、通信相手の無線通信端末に通知する転送レートである通知転送レートを前記無線通信端末に応じて決定する。前記通知工程では、前記無線通信端末に応じて前記決定工程で決定した前記通知転送レートを、無線通信の開始時における前記無線通信端末からの無線通信を開始するための要求に基づいて、前記無線アクセスポイントから当該無線通信端末へ通知する。前記決定工程では、前記無線通信端末のMACアドレスと、当該無線通信端末に通知する前記通知転送レートと、が対応付けられており当該無線通信端末との無線通信の開始前に作成された対応情報を用いて、無線通信の開始時に通知する前記通知転送レートが決定される。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】本発明の一実施形態に係る無線アクセスポイントを含む無線通信システム。
図2】対応情報を示す表。
図3】無線通信の開始時に無線アクセスポイントが行う処理を示すフローチャート。
図4】無線通信の開始後に通信状態に基づいて対応情報を更新する処理を示すフローチャート。
図5】無線通信の開始時の通信状態に基づいて通知転送レートを決定する処理を示すフローチャート。
図6】別の実施形態に係る無線アクセスポイントが、使用可能な転送レートを無線通信の開始後に変更する処理を示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0026】
次に、図面を参照して本発明の実施形態を説明する。初めに、図1を参照して、無線アクセスポイント1を含む無線通信システム100について説明する。図1に示すように、無線通信システム100は、無線アクセスポイント1と、無線通信端末2と、管理装置3と、から構成されている。
【0027】
無線アクセスポイント1は、自機を中心として無線LAN等の無線ネットワークを構築する。無線アクセスポイント1は、無線通信端末2と無線通信が可能である。無線アクセスポイント1は、複数の無線通信端末2同士の通信を中継したり、無線通信端末2を別のネットワーク(例えばインターネット等のWAN)等に接続する処理を行う。なお、無線通信システム100を構成する無線アクセスポイント1は、1台であっても複数台であってもよい。
【0028】
無線アクセスポイント1は、通信部11と、制御部12と、を備える。通信部11は、例えば無線通信を行うためのアンテナ又は無線通信モジュールである。通信部11は、所定の無線通信規格に準拠して、無線通信端末2と無線通信を行う。無線通信規格としては、例えば、IEEE802.11が考えられるが、これに限定されない。制御部12は、CPU等の演算装置と、フラッシュメモリ又はハードディスク等の記憶装置と、を備える。演算装置は、記憶装置に記憶されているプログラムを実行することで、無線通信に関する制御を行う。制御部12が行う制御の詳細については後述する。
【0029】
無線通信端末2は、いわゆる無線通信ステーションである。無線通信端末2は、例えば、スマートフォン、タブレット端末、又はパーソナルコンピュータ等である。無線通信端末2は、アンテナ又は無線通信モジュールを備えており、例えば無線アクセスポイント1と無線通信を行うことができる。なお、無線通信システム100を構成する無線通信端末2は複数台であることが想定されるが、一時的に1台の無線通信端末2のみが無線通信システム100を構成していてもよい。
【0030】
管理装置3は、無線通信システム100を管理する装置である。管理装置3は、無線アクセスポイント1と有線又は無線で接続されており、無線アクセスポイント1と通信可能である。管理装置3は、例えば、1又は複数の無線アクセスポイント1に関するSSID、パスワード、電波強度、及び使用チャネル等を管理する。なお、管理装置3は必須ではないので、無線通信システム100の構成要素から省略することもできる。また、複数の無線アクセスポイント1のうち1台が、管理装置3と同等の機能を有していてもよい。
【0031】
次に、一般的な無線通信の開始の流れについて簡単に説明する。例えば、IEEE802.11では、無線通信端末2は、周囲に存在する無線通信機器を知るために、プローブリクエストと呼ばれるデータを周囲に無線で送信する。これを受信した無線アクセスポイント1は、返信として、プローブレスポンスと呼ばれるデータを無線で無線通信端末2に送信する。その後、無線通信端末2は、無線通信を要求するためのアソシエーションリクエストと呼ばれるデータを無線アクセスポイント1に送信する。これを受信した無線アクセスポイント1は、無線通信端末2との無線通信が許可できる場合は、アソシエーションレスポンスと呼ばれるデータを無線通信端末2に送信する。その後、無線アクセスポイント1と無線通信端末2の無線通信が開始される。
【0032】
ここで、従来のプローブレスポンス及びアソシエーションレスポンスには、無線アクセスポイント1が対応する全ての転送レートが含まれている。また、無線通信端末2も、自機が対応する全ての転送レートをプローブリクエスト及びアソシエーションリクエストにて無線アクセスポイント1に送信する。そして、無線アクセスポイント1及び無線通信端末2は、両方が対応している転送レートから1つを選択してデータの送受信を行う。
【0033】
次に、無線アクセスポイント1と無線通信端末2の転送レートについて説明する。転送レートとは、データ(パケット)の通信速度であり、例えば単位時間あたりに送信可能なビット数である。また、転送レートを変更するためには、データの変調方式を変更する必要がある。従って、本明細書において、「高い/低い転送レートに決定する」等と記載している箇所は、「高速/低速に対応する変調方式を用いることを決定する」等という意味を含んでいる。
【0034】
また、一般的に転送レートが高くなるほど、データの送信に失敗し易くなる。従って、通信環境が悪い状況において、高い転送レートを用いると、データの送信に失敗する可能性が高くなる。そのため、通信環境が悪い状況では、低い転送レートを用いることが好ましい。一方、通信環境が良い状況では、高い転送レートを用いてもデータの送信に失敗する可能性は低い。また、通信環境が良いとは、無線アクセスポイント1と無線通信端末2の距離が近かったり、無線アクセスポイント1と無線通信端末2の間に障害物が少なかったりすること等によって、電波の干渉、反射が少なく、電波強度も低くないことである。
【0035】
しかし、通信環境は無線通信端末2毎に異なる。例えば図1に示す無線アクセスポイント1(左側)と無線通信端末2との間の無線通信において、無線通信端末2A(MACアドレスの末尾が0Aの無線通信端末2、以下同じ)は通信環境が良い。一方で、無線通信端末2B(MACアドレスの末尾が0Bの無線通信端末2)は障害物5の影響で通信環境が悪い。従って、理想的には、無線アクセスポイント1(左側)は無線通信端末2Aと無線通信する際の転送レートを高くし、無線通信端末2Bと無線通信する際の転送レートを低くすることが好ましい。しかし、上述したように、無線通信規格の関係で、従来の無線アクセスポイント1と無線通信端末2は、無線通信の開始時に自機が対応している全ての転送レートを互いに通知する。そのため、好ましくない転送レートを用いて無線通信が行われる可能性がある。
【0036】
特に、無線アクセスポイント1は、無線通信端末2がデータの送信時に用いる適切な転送レートを具体的に指定することはできない。もちろん無線通信端末2をカスタムすることで、転送レートを指定することは可能であるが、無線通信システム100に接続される無線通信端末2の台数が多かったり、不特定の無線通信端末2が無線通信システム100に接続されたりすることがあるため、全ての無線通信端末2をカスタムすることは現実的ではない。
【0037】
この点、本実施形態の方法を用いることで、無線通信端末2をカスタムすることなく、無線アクセスポイント1と無線通信端末2の無線通信で使用する転送レートを指定することができる。以下、図2及び図3を参照して説明する。
【0038】
上述したように、プローブレスポンス及びアソシエーションレスポンスには、無線アクセスポイント1の機能を知らせるために、無線アクセスポイント1が対応可能な全ての転送レートが含まれている。しかし、本実施形態では、プローブレスポンス及びアソシエーションレスポンスに含まれる転送レートを、接続先の無線通信端末2に応じて異ならせる。つまり、無線アクセスポイント1は、対応可能な全ての転送レートではなく、無線通信端末2との通信に適した転送レートのみを通知する。以下では、プローブレスポンス及びアソシエーションレスポンスで無線通信端末2に通知する転送レートを「通知転送レート」と称する。
【0039】
無線通信端末2は、通知転送レートに含まれる転送レートのみを用いて無線アクセスポイント1と無線通信を行う。このようにして、無線通信端末2が用いる転送レートを無線アクセスポイント1が指定できる。また、プローブレスポンス及びアソシエーションレスポンスは、通常の無線通信規格に沿った処理であるため、無線通信端末2をカスタムする必要もない。
【0040】
この機能を実現するため、図2に示す対応情報が作成される。対応情報は、無線通信端末2のMACアドレスと、当該無線通信端末2に通知する通知転送レートと、を対応付けた情報である。本実施形態では、無線アクセスポイント1が対応情報を作成及び記憶するが、管理装置3が対応情報を作成及び記憶してもよい。この場合、管理装置3は、全ての無線アクセスポイント1に共通の対応情報を作成してもよいし、無線アクセスポイント1毎に個別の対応情報を作成してもよい。なお、無線通信システム100の管理者又は提供者が対応情報を作成してもよい。
【0041】
図2には、無線アクセスポイント1が対応している通知転送レートを表す符号として、例えば「1」~「6」が記載されている(上述のように、「1」~「6」は変調方式を表す符号でもある)。数字が大きくなるほど高い転送レートを表すものとする。上述の無線通信端末2Aは通信環境が良いため、高い通知転送レートのみが対応情報に記載されている。また、上述の無線通信端末2Bは通信環境が悪いため、低い通知転送レートのみが対応情報に記載されている。
【0042】
無線アクセスポイント1は、プローブレスポンス及びアソシエーションレスポンスの送信時において、対応情報に記載された通知転送レートを該当する無線通信端末2に通知する。これにより、無線通信端末2の通信環境に応じた適切な転送レートで、無線アクセスポイント1と無線通信端末2が無線通信を行うことができる。
【0043】
以下、図3のフローチャートを参照して、無線アクセスポイント1と無線通信端末2との間で無線通信が開始されるまでの具体的な処理の流れを説明する。なお、図3のフローチャート及び図4以降のフローチャートは、無線アクセスポイント1の通信部11又は制御部12によって行われる。
【0044】
無線アクセスポイント1は、無線通信端末2からプローブリクエストを受信した場合(図3のS101)、プローブリクエストに含まれるMACアドレスが、対応情報に含まれるか否かを判定する(S102)。
【0045】
プローブリクエストのMACアドレスが対応情報に含まれる場合、対応情報に記載の通知転送レートを含むプローブレスポンスを無線通信端末2に送信する(S103)。一方、プローブリクエストのMACアドレスが対応情報に含まれない場合、通常の処理、即ち、通信部11が対応する全ての転送レートを通知転送レートとして含むプローブレスポンスを無線通信端末2に送信する(S104)。
【0046】
なお、対応情報を管理装置3が記憶している場合、無線アクセスポイント1は、無線通信端末2のMACアドレスを管理装置3に送信して、管理装置3から対応する通知転送レートを受信する。あるいは、無線アクセスポイント1は、管理装置3に対応情報の送信を要求し、管理装置3から受信した対応情報に基づいて通知転送レートを決定してもよい。
【0047】
無線アクセスポイント1は、無線通信端末2からアソシエーションリクエストを受信した場合も同様の処理を行う。なぜなら、プローブレスポンスとアソシエーションレスポンスで通知転送レートが異なると、無線通信端末2が誤動作する可能性があるからである。なお、無線通信端末2が誤動作する可能性がない場合、何れか一方(例えばアソシエーションレスポンス)のみに、対応情報に記載の通知転送レートを含めてもよい。
【0048】
具体的には、無線アクセスポイント1は、無線通信端末2からアソシエーションリクエストを受信した場合(S105)、アソシエーションリクエストに含まれるMACアドレスが、対応情報に含まれるか否かを判定する(S106)。このMACアドレスが対応情報に含まれる場合、対応情報に記載の通知転送レートを含むアソシエーションレスポンスを無線通信端末2に送信する(S107)。一方、このMACアドレスが対応情報に含まれない場合、通信部11が対応する全ての転送レートを通知転送レートとして含むアソシエーションレスポンスを無線通信端末2に送信する(S108)。その後、無線アクセスポイント1と無線通信端末2との間で無線通信が開始される(S109)。
【0049】
次に、図4を参照して、無線通信の開始後に無線アクセスポイント1が行う処理について説明する。
【0050】
無線通信の開始後に無線通信端末2が移動することで、通信環境が変化する可能性がある。例えば、無線通信端末2Aが移動して、無線アクセスポイント1と無線通信端末2Aの間に障害物5が位置するようになることがある。このような状況では、無線通信の開始時の通知転送レートを使い続けることが好ましくない場合がある。従って、無線アクセスポイント1は、以下の処理を行うことで、無線通信端末2との無線通信で使用可能な転送レートを変更する。
【0051】
初めに、無線アクセスポイント1は、無線通信端末2の通信状態を判定する(S201)。無線アクセスポイント1は、例えば無線通信端末2の電波強度、又は、無線通信端末2に送信したデータの到達率等に基づいて、無線通信端末2の通信状態を判定する。
【0052】
次に、無線アクセスポイント1は、ステップS201の判定で得られた通信状態に合致した転送通知レートが、対応情報に記載されているか否かを判定する(S202)。上述したように、通信状態が良いほど高い転送レートを用いることが好ましく、通信状態が悪いほど低い転送レートを用いることが好ましい。従って、無線アクセスポイント1は、例えば、通信状態が良いと判定したにもかかわらず、低い通知転送レートが対応情報に記載されている場合は、通信状態と転送通知レートが合致していないと判定する。
【0053】
無線アクセスポイント1は、通信状態に合致した通知転送レートが対応情報に記載されていないと判定した場合、通信状態に合致した通知転送レートになるように対応情報を更新する(S203)。例えば、通信状態が良いと判定したにもかかわらず、低い通知転送レートが対応情報に記載されている場合は、高い転送通知レートとなるように対応情報を更新する。これにより、最新の状況に合わせた適切な対応情報を作成できる。また、無線アクセスポイント1は、対応情報が記載されていない無線通信端末2に対しては、適切な通知転送レートを新たに記載する。
【0054】
また、無線通信規格では、無線通信端末2との接続を維持しつつ、現在使用可能な転送レート(即ち、通知転送レート)を変更することはできない。現在使用可能な転送レートを変更するためには、無線通信端末2との接続を一度切断する必要がある。しかし、無線通信端末2との接続を切断した場合、短時間ではあるが無線通信が不能となる。そのため、無線アクセスポイント1は、一定の条件(以下、切断条件)を満たした場合に、無線通信端末2との接続を切断する。
【0055】
切断条件は、無線通信端末2の通信状態と、現在使用可能な転送レート(通知転送レート)と、の整合性を判定するための条件である。もう少し具体的に説明すると、無線アクセスポイント1は、無線通信端末2へのデータの送信に失敗する確率が閾値より高い場合、切断条件を満たすと判定する。また、ステップS201の判定で得られた通信状態が良好であるにもかかわらず、現在使用可能な転送レートを用いた場合にデータの送信に失敗する確率が閾値より低くなる場合も、切断条件を満たすと判定する。なお、ここに記載した切断条件は一例である。
【0056】
無線アクセスポイント1は、無線通信端末2との通信状態が切断条件を満たすと判定した場合(S204)、無線通信端末2との接続を切断する(S205)。無線通信端末2との接続を切断した場合、無線アクセスポイント1と無線通信端末2は再び接続される。その際に、ステップS103,S107に記載したように更新後の対応情報に記載の通知転送レートが無線通信端末2に送信されるので、再接続後は、適切な転送レートで無線アクセスポイント1と無線通信端末2が無線通信を行うことができる。
【0057】
次に、対応情報を用いずに、無線通信端末2毎に通知転送レートを異ならせる処理について図5を参照して説明する。
【0058】
無線アクセスポイント1は、無線通信端末2からプローブリクエストを受信した場合(S301)、プローブリクエストの受信状態に基づいて無線通信端末2との通信状態を推定し、この通信状態に基づく通知転送レートを決定する(S302)。無線アクセスポイント1は、例えばプローブリクエストの電波強度に基づいて、無線通信端末2との通信状態を推定する。そして、無線アクセスポイント1は、通信状態が良いほど高い通知転送レートを決定する。
【0059】
次に、無線アクセスポイント1は、決定した通知転送レートを含むプローブレスポンスを無線通信端末2に送信する(S303)。また、無線アクセスポイント1は、無線通信端末2からアソシエーションリクエストを受信した場合(S304)、プローブレスポンスの送信時と同じ通知転送レートを含むアソシエーションレスポンスを無線通信端末2に送信する(S305)。その後、無線アクセスポイント1と無線通信端末2との間で無線通信が開始される(S306)。
【0060】
この方法を用いることにより、過去の無線通信端末2の通信状態ではなく、現在の無線通信端末2の通信状態を考慮して決定された転送レートを用いて、無線アクセスポイント1と無線通信端末2で無線通信を行うことができる。なお、この方法と対応情報を用いる方法とを組み合わせてもよい。つまり、対応情報にMACアドレスが記載されている無線通信端末2に対しては、対応情報に基づいて通知転送レートを決定する。一方、対応情報にMACアドレスが記載されていない無線通信端末2に対しては、プローブリクエストの電波強度に基づいて通知転送レートを決定する。
【0061】
次に、無線通信端末2をカスタムする別の実施形態について図6を参照して説明する。
【0062】
上述したように、無線通信端末2には不特定の端末が含まれることもあるため、全ての無線通信端末2をカスタムすることは現実的ではない。しかし、無線通信システム100を構成する無線通信端末2が限られている場合(例えば外部からの端末の持ち込みが規制されている場合)、全ての無線通信端末2をカスタムすることもできる。
【0063】
無線通信端末2のカスタムとは、具体的には、事前に所定のソフトウェアを無線通信端末2にインストールすることである。このソフトウェアをインストールすることで、無線通信端末2は、登録された無線アクセスポイント1からの指令に応じて、使用可能な転送レートを変更することができるようになる。例えば、無線通信端末2のカスタムにおいて、使用可能な転送レート及びその優先順位が無線アクセスポイント1との間で予め設定されており、無線通信端末2は無線アクセスポイント1から転送レートを変更する旨の通知を受けるだけで、予め設定された転送レートに基づいて、自発的に転送レートを変更することができる。このように、カスタムされた無線通信端末2は、無線アクセスポイント1と無線通信を行う際の転送レートを両装置間で動的に合わせることができる。
【0064】
以下、無線アクセスポイント1が行う具体的な処理について説明する。また、図6のフローチャートのうち、ステップS401,S402,S403は、それぞれ、図4のステップS201,S202,S203と同じ処理であるため、説明を省略する。また、図6に示す処理では、無線通信端末2を切断することなく、使用可能な転送レートを変更可能である。つまり、カスタムを行えない無線通信端末2では、無線通信を確立した無線アクセスポイント1との間で転送レートを変更する場合には、一度無線通信を切断し再度無線接続処理を行うことで両装置が使用可能な転送レートを合わせる必要があるが、図6に示す処理では、転送レートを変更するデメリットがないため、図4のステップS204及びS205(切断条件の判定と切断)に相当する処理は含まれていない。
【0065】
無線アクセスポイント1は、対応情報を更新した後に、使用可能な転送レートの変更を無線通信端末2に通知する(S404)。具体的には、更新後の対応情報に記載される通知転送レートを無線通信端末2に通知する。これにより、無線通信端末2を切断することなく、使用される転送レートを変更できる。
【0066】
以上に説明したように、本実施形態の無線アクセスポイント1は、通信部11と、制御部12と、を備える。通信部11は、無線通信端末2と無線通信可能である。制御部12は、通信部11が対応している転送レートとして、通信相手の無線通信端末2に通知する転送レートである通知転送レートを無線通信端末2に応じて決定する(決定工程)。通信部11は、無線通信の開始時に、無線通信端末2に応じて制御部12が決定した通知転送レートを当該無線通信端末2へ通知する(通知工程)。以上により、転送レート制御方法が行われる。
【0067】
これにより、無線通信端末2毎に通知転送レートを異ならせることができるので、無線通信端末2の位置及び環境に応じた適切な転送レートで無線通信を行うことができる。従来では、無線通信の開始時には無線アクセスポイント1が対応している全ての転送レートを無線通信端末2に通知するが、無線通信端末2に応じてそれを選択的に通知することで、無線通信端末2をカスタムすることなく、転送レートを制御できる。
【0068】
また、本実施形態の無線アクセスポイント1において、制御部12は、無線通信端末2のMACアドレスと、当該無線通信端末2に通知する通知転送レートと、を対応付けた対応情報を用いて、無線通信の開始時に通知する通知転送レートを決定する。
【0069】
これにより、事前に無線通信端末2毎に通知転送レートを決めておくことができるので、簡単な処理で通知転送レートを決定できる。
【0070】
また、本実施形態の無線アクセスポイント1において、1又は複数の無線アクセスポイント1を管理する管理装置3が対応情報を記憶している。制御部12は、管理装置3から通知転送レートを受信するか、又は、管理装置3から受信した対応情報を用いて、無線通信の開始時に通知する通知転送レートを決定する。
【0071】
これにより、管理装置3が独立して対応情報を管理するため、無線アクセスポイント1の負荷を低減でき、また複数の無線アクセスポイント1を備える無線通信システム100では無線アクセスポイント1間で必要な情報を共有できる。
【0072】
また、本実施形態の無線アクセスポイント1において、制御部12は、無線通信端末2との無線通信の開始後において、当該無線通信端末2との通信状態に基づいて、対応情報のうち当該無線通信端末2に対応する通知転送レートを更新する。
【0073】
これにより、その時点での状況に合致した適切な通知転送レートを動的に設定することができる。
【0074】
また、本実施形態の無線アクセスポイント1において、制御部12が通知転送レートを更新した場合であって、かつ、無線通信端末2との通信状態に基づいて切断条件を満たしたと制御部12が判定した場合に、通信部11が当該無線通信端末2との無線通信を切断する。
【0075】
これにより、無線通信端末2を切断することで、更新した通知転送レートを用いた無線通信を自動的に再開できる。
【0076】
また、本実施形態の無線アクセスポイント1において、制御部12は、無線通信の開始時における無線通信端末2との通信状態に基づいて、当該無線通信端末2に通知する通知転送レートを決定する。
【0077】
これにより、現在の通信状態に合致した適切な通知転送レートで無線通信端末2と無線通信を行うことができる。
【0078】
また、本実施形態の無線アクセスポイント1において、通信部11は、無線通信の開始時において、無線通信端末2からのプローブリクエストに対する応答であるプローブレスポンスと、無線通信端末2からのアソシエーションリクエストに対する応答であるアソシエーションレスポンスと、を無線通信端末2に送信する。通信部11は、プローブレスポンス及びアソシエーションレスポンスの両方に、通知転送レートを含める。
【0079】
これにより、一般的な無線通信規格に合致できるので、汎用性を高くすることができる。
【0080】
以上に本発明の好適な実施の形態を説明したが、上記の構成は例えば以下のように変更することができる。
【0081】
上記実施形態で示したフローチャートは一例であり、一部の処理を省略したり、一部の処理の内容を変更したり、新たな処理を追加したりしてもよい。
【0082】
例えば、図3のフローチャートのステップS104において、対応情報に記載されていない無線通信端末2に対しては、全ての転送レートを通知することが記載されているが、この場合において、無線アクセスポイント1が対応するうちの一部の転送レートのみを通知してもよい。
【0083】
また、図4のフローチャートにおいて、無線アクセスポイント1は、切断条件を満たす場合に無線通信端末2との接続を切断するが(S204,S205)、対応情報の更新後に必ず無線通信端末2との接続を切断してもよいし、無線通信端末2との接続を切断する処理を省略してもよい。
【0084】
また、プローブレスポンスに含まれる転送レートとアソシエーションレスポンスに含まれる転送レートが異なる場合に、アソシエーションレスポンスに含まれる転送レートが優先される場合は、図5のフローチャートにおいて、アソシエーションリクエストに基づいて通信状態を判定して通知転送レートを決定してもよい。
【0085】
また、別の実施形態に関し、カスタムされた無線通信端末2と、カスタムされていない無線通信端末2と、が同じ無線通信システム100を構成している場合、図6のフローチャートにおいて、カスタムの有無を判定する処理を追加してもよい。
【符号の説明】
【0086】
1 無線アクセスポイント
2 無線通信端末
3 管理装置
11 通信部
12 制御部
100 無線通信システム
図1
図2
図3
図4
図5
図6