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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-18
(45)【発行日】2022-11-29
(54)【発明の名称】錠
(51)【国際特許分類】
   E05B 65/08 20060101AFI20221121BHJP
   E05B 1/00 20060101ALI20221121BHJP
   E05C 3/10 20060101ALN20221121BHJP
【FI】
E05B65/08 G
E05B1/00 311K
E05C3/10
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2020072269
(22)【出願日】2020-04-14
(65)【公開番号】P2021169706
(43)【公開日】2021-10-28
【審査請求日】2021-11-04
(73)【特許権者】
【識別番号】000152169
【氏名又は名称】株式会社栃木屋
(74)【代理人】
【識別番号】110002882
【氏名又は名称】白浜国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】藤田 寛信
【審査官】秋山 斉昭
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-163640(JP,A)
【文献】特開2016-3500(JP,A)
【文献】特開2000-170421(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E05B 65/08
E05B 1/00
E05C 3/00-3/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
固定枠に対して開閉する戸に取り付けることのできる錠であって、
前記錠は、互いに直交する横方向と縦方向と前後方向とを有し、前記戸に取り付けられるケース部材が前記前後方向に前面板部と後面板部とを有し、前記前面板部と前記後面板部との間にはばね付勢下にある係止部材が往復旋回運動をして前記ケース部材に対しての進出と退入とを反復可能に収納されていて、前記固定枠に対して前記戸が閉じている状態では、前記係止部材が、前記ばね付勢に抗して進出して所要角度だけ旋回すると前記固定枠の所要部位に係合して前記戸を施錠状態にする一方、前記ばね付勢下に退入すると前記ケース部材に収納されて前記戸を解錠状態にし、
前記前面板部の前方にはハンドルがあり、前記ハンドルから前記後面板部に向かって延びる回転軸部が往復回転運動をするとリンク機構とカム機構とを介して前記係止部材が前記往復旋回運動をし、
前記リンク機構は、第1リンク部材と第2リンク部材とを含み、前記第1リンク部材は前記ハンドルの前記回転軸部を第1端部として前記回転軸部の径方向外側へ延びていて、延びた先端部分を第2端部とするものであり、前記第2リンク部材は、前記第1リンク部材の前記第2端部において回転可能な状態にある第1支軸を介して前記第1リンク部材に連結された第3端部と、前記係止部材に設けられた第2支軸を介して前記係止部材に取り付けられた第4端部とを有し、前記第1支軸を介して連結された前記第1,第2リンク部材は前記縦方向において下向きとなるV字形を画いており、
前記第1リンク部材には、前記第1端部と前記第2端部との間に延びる溝部が形成されていて、前記溝部においては前記第1支軸が回転可能に挿入されるとともに前記第1支軸と前記第1端部との間に付勢手段が介在し、前記付勢手段は前記第1支軸を前記第1端部から離間する方向へ付勢しており、
前記カム機構は前記第1支軸をカムフォロアとして含むとともに、前記第1支軸の周面を摺動させて前記第1支軸の運動の軌跡を規制するカム面とを含み、
前記カム面は、前記縦方向の上方に位置する第1カム面と前記第1カム面の下方に位置する第2カム面とを含み、前記第1カム面は、前記ハンドルの操作によって前記ケース部材から進出するように旋回するときの前記係止部材が前記固定枠の前記所要部位に係合することなく前記所要角度を越えてさらに旋回するときの前記第1支軸の前記軌跡を規定することができるように形成されていて、前記第1支軸が前記第1カム面にあるときに前記ハンドルから手を離すと、前記ばね付勢下にある前記係止部材が前記ケース部材に収納される一方、前記係止部材が前記所要角度だけ旋回して前記所要部位に係合したときに前記ハンドルの操作をさらに続けると、前記第2リンク部材の前記第1支軸が前記付勢手段を圧縮しながら前記第1端部に接近する方向へ動くことによって前記第1カム面から離れて前記第2カム面へと移動し、前記第1支軸が前記第1カム面を摺動する過程では下向きのV字形を画く連結状態にあった前記第1リンク部材と前記第2リンク部材とが前記第2カム面を摺動する過程では上向きのV字形を画く連結状態へと変化して、前記ハンドルから手を離しても前記所要部位に係合している前記係止部材が前記ケース部材に収納される方向へ旋回することを抑止されていることを特徴とする扉用の錠。
【請求項2】
前記第1カム面は前記回転軸部の中心からの距離が遠いところにある凸曲面であり、前記第2カム面は前記回転軸部の中心からの距離が近いところにある凹曲面である請求項1記載の錠。
【請求項3】
前記カム機構は、前記前面板部の内側に位置する板部材に形成されている請求項1または2記載の錠。
【請求項4】
前記カム機構は、前記前面板部および前記後面板部のいずれか一方に形成されている請求項1または2記載の錠。
【請求項5】
前記上向きのV字形を画く連結状態にあった前記第1リンク部材と前記第2リンク部材とは、前記ハンドルを解錠方向へ回転させると、前記第1支軸が前記第2カム面と前記第1カム面とを順に摺動して、前記下向きのV字形を画くように変化して、前記係止部材が前記ばね付勢下に前記ケース部材に退入する請求項1~4のいずれかに記載の錠。
【請求項6】
前記第1リンク部材と前記第2リンク部材とが前記下向きのV字形を画く連結状態にあるときの前記錠は、前記ハンドルから手を離すと前記係止部材の全体が前記ばね付勢下に自動的に前記ケース部材に退入する請求項1~5のいずれかに記載の錠。
【請求項7】
前記錠における前記回転軸部は、前記後面板部の側から操作工具を着脱可能に形成されていて、前記操作工具を使用することによって、前記後面板部の側からも前記錠を施錠状態および解錠状態にすることができる請求項1~6のいずれかに記載の錠。
【請求項8】
前記係止部材は、前記所要部位に係合すると、前記固定枠の側に設置された接触子に接触して、前記接触子に機械的または電気的につながる表示機能を作動させる請求項1~7のいずれかに記載の錠。
【請求項9】
前記錠が引戸用の鎌錠である請求項1~8のいずれかに記載の錠。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、引戸等の戸に取付けて使用するのに好適な錠に関する。
【背景技術】
【0002】
引戸等の戸に取付けて使用する錠は、公知でもあり周知でもある。
【0003】
例えば、特許文献1に記載の面付け型の鎌錠は、戸パネルに進出可能に収納されたフックボルトと、戸パネルから常に進出した状態にあるトリガー片とを有する。戸パネルを閉じると、トリガー片が固定枠に衝接し、それに伴って鎌錠の内部機構が作動してフックボルトを進出させ、戸枠に係合させて、戸パネルが施錠状態になる。この鎌錠では、トリガー片が常に戸パネルから突出した状態にある。
【0004】
また、特許文献2に記載の鎌錠は、例えば引き戸式の扉の側端面に取付けられて、出入口を構成する枠体に対して扉を施錠状態にすることができる。鎌錠からは枠体に向かってピン部が突出していて、扉を閉めるとそのピン部が枠体に衝接する。その衝接にともなって鎌錠の内部機構が作動して鎌錠における鎌部材が進出し、枠体における所定の部位に係合して扉が施錠状態になる。この鎌錠においてもまた、常にピン部が鎌錠から突出している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平9-279921号公報
【文献】特許第4514076号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前記文献に記載の従来技術では、トリガー片やピン部が鎌錠から常に突出した状態にある。すなわち、扉が開いている時の出入口には常にトリガー片等の突出物がある。そのような出入口では、人が通るときに衣服や持ち物等がその突出部に接触して、思わぬ事故につながるということが懸念される。
【0007】
そこで、本発明では、そのような懸念を払拭することができるように改良された錠の提供を課題にしている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するために、本発明が対象とするのは、固定枠に対して開閉する戸に取り付けることのできる錠である。
【0009】
かかる錠において、本発明が特徴とするところは、以下のとおりである。すなわち、前記錠は、互いに直交する横方向と縦方向と前後方向とを有し、前記戸に取り付けられるケース部材が前記前後方向に前面板部と後面板部とを有し、前記前面板部と前記後面板部との間にはばね付勢下にある係止部材が往復旋回運動をして前記ケース部材に対しての進出と退入とを反復可能に収納されていて、前記固定枠に対して前記戸が閉じている状態では、前記係止部材が、前記ばね付勢に抗して進出して所要角度だけ旋回すると前記固定枠の所要部位に係合して前記戸を施錠状態にする一方、前記ばね付勢下に退入すると前記ケース部材に収納されて前記戸を解錠状態にする。前記前面板部の前方にはハンドルがあり、前記ハンドルから前記後面板部に向かって延びる回転軸部が往復回転運動をするとリンク機構とカム機構とを介して前記係止部材が前記往復旋回運動をする。前記リンク機構は、第1リンク部材と第2リンク部材とを含み、前記第1リンク部材は前記ハンドルの前記回転軸部を第1端部として前記回転軸部の径方向外側へ延びていて、延びた先端部分を第2端部とするものであり、前記第2リンク部材は、前記第1リンク部材の前記第2端部において回転可能な状態にある第1支軸を介して前記第1リンク部材に連結された第3端部と、前記係止部材に設けられた第2支軸を介して前記係止部材に取り付けられた第4端部とを有し、前記第1支軸を介して連結された前記第1,第2リンク部材は前記縦方向において下向きとなるV字形を画いている。前記第1リンク部材には、前記第1端部と前記第2端部との間に延びる溝部が形成されていて、前記溝部においては前記第1支軸が回転可能に挿入されるとともに前記第1支軸と前記第1端部との間に付勢手段が介在し、前記付勢手段は前記第1支軸を前記第1端部から離間する方向へ付勢している。前記カム機構は前記第1支軸をカムフォロアとして含むとともに、前記第1支軸の周面を摺動させて前記第1支軸の運動の軌跡を規制するカム面とを含む。前記カム面は、前記縦方向の上方に位置する第1カム面と前記第1カム面の下方に位置する第2カム面とを含み、前記第1カム面は、前記ハンドルの操作によって前記ケース部材から進出するように旋回するときの前記係止部材が前記固定枠の前記所要部位に係合することなく前記所要角度を越えてさらに旋回するときの前記第1支軸の前記軌跡を規定することができるように形成されていて、前記第1支軸が前記第1カム面にあるときに前記ハンドルから手を離すと、前記ばね付勢下にある前記係止部材が前記ケース部材に収納される一方、前記係止部材が前記所要角度だけ旋回して前記所要部位に係合したときに前記ハンドルの操作をさらに続けると、前記第2リンク部材の前記第1支軸が前記付勢手段を圧縮しながら前記第1端部に接近する方向へ動くことによって前記第1カム面から離れて前記第2カム面へと移動し、前記第1支軸が前記第1カム面を摺動する過程では下向きのV字形を画く連結状態にあった前記第1リンク部材と前記第2リンク部材とが前記第2カム面を摺動する過程では上向きのV字形を画く連結状態へと変化して、前記ハンドルから手を離しても前記所要部位に係合している前記係止部材が前記ケース部材に収納される方向へ旋回することを抑止されている。
【0010】
本発明の実施態様の一例において、前記第1カム面は前記回転軸部の中心からの距離が遠いところにある凸曲面であり、前記第2カム面は前記回転軸部の中心からの距離が近いところにある凹曲面である。
【0011】
本発明の実施態様の他の一例において、前記カム機構は、前記前面板部の内側に位置する板部材に形成されている。
【0012】
本発明の実施態様のさらに他の一例において、前記カム機構は、前記前面板部および前記後面板部のいずれか一方に形成されている。
【0013】
本発明の実施態様のさらに他の一例において、前記上向きのV字形を画く連結状態にあった前記第1リンク部材と前記第2リンク部材とは、前記ハンドルを解錠方向へ回転させると、前記第1支軸が前記第2カム面と前記第1カム面とを順に摺動して、前記下向きのV字形を画くように変化して、前記係止部材が前記ばね付勢下に前記ケース部材に退入する。
【0014】
本発明の実施態様の他の一例において、前記第1リンク部材と前記第2リンク部材とが前記下向きのV字形を画く連結状態にあるときの前記錠は、前記ハンドルから手を離すと前記係止部材の全体が前記ばね付勢下に自動的に前記ケース部材に退入する。
【0015】
本発明の実施態様のさらに他の一例において、前記錠における前記回転軸部は、前記後面板部の側から操作工具を着脱可能に形成されていて、前記操作工具を使用することによって、前記後面板部の側からも前記錠を施錠状態および解錠状態にすることができる。
【0016】
本発明の実施態様のさらに他の一例において、前記係止部材は、前記所要部位に係合すると、前記固定枠の側に設置された接触子に接触して、前記接触子に機械的または電気的につながる表示機能を作動させる。
【0017】
本発明の実施態様のさらに他の一例において、前記錠が引戸用の鎌錠である。
【発明の効果】
【0018】
このように形成された本発明に係る錠では、戸が固定枠に対して施錠状態にないときには、例えば戸が開いているときには、係止部材を操作するためのハンドルから手を離すと、係止部材はばね付勢下にケース部材に収納されるから、人が出入口を通るときに衣服や持ち物が係止部材に接触して事故を起こすということがない。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図面は、本開示に係る本発明の特定の実施の形態を示し、本発明の不可欠な構成ばかりでなく、選択的に実施可能な形態および好ましい実施形態を含む。
図1】解錠状態にある錠の斜視図。
図2】前面板部が取り外されているときの錠の内部構造を示す図。
図3】カム板が取り外されているときの錠の内部構造を示す図。
図4】一部分を破断して示す図3と同様な図。
図5図2のV-V線矢視図。
図6】(a)は図1のVI(a)-VI(a)線矢視図、(b)は図1のVI(b)-VI(b)線矢視図。
図7】(a)と(b)とによって、係止部材であるフック部材の動きの一例を示す図。
図8】(a)~(d)によって、フック部材が施錠状態になるまでの動きを示す図。
図9】(a)と(b)とによって、実施態様の一例を示す図。
図10】実施態様の一例を示す後面板部の斜視図。
図11】(a)と(b)とによって、実施態様の一例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0020】
添付の図面を参照して本発明に係る錠の詳細を説明すると、以下のとおりである。
【0021】
図1は、使用状態にある錠1の前面側を示す斜視図であって、錠1が取り付けられている引戸2と、引戸2が開閉可能に取り付けられている固定枠3とは、半開きの状態にあって、それらの一部分のみが示されている。このような引戸2と固定枠3との一例には、鉄道車両等における個室トイレ用のものがある。錠1は、そのトイレの内側から引戸2に対して施錠したり解錠したりすることができるように引戸2の内面(室内側の面)に取り付けられている。錠1は、図示されているように、互いに直交する横方向Xと縦方向Yと前後方向Zとを有する。
【0022】
錠1では、ケース部材11の内側に固定枠3に対しての係止部材となるフック部材15等が収納されている。ケース部材11は、互いに平行して前方に位置する前面板部16と後方に位置する後面板部17、および前面板部16と一体の周壁部18と後面板部17と一体の周壁部19を有する。周壁部18と周壁部19とは、互いに重なり合う部分がねじ6によって固定されている。前面板部16の前方部分には、ハンドル20が取り付けられている。ハンドル20は、前面板部16に記された「開」位置と「閉」位置との間を双頭矢印21で示されるように、往復回転運動または往復旋回運動可能な状態にある。回転運動であるか旋回運動であるかは、ハンドル20の形状によって決まるもので、図示例のハンドル20は回転運動するものである。周壁部18,19は、固定枠3と向かい合う部分が切り欠かれていて、フック部材15の進出、退入を可能にする開口部22が形成されている。引戸2は、横方向Xにおいて矢印Aで示す方向へ移動させると、側面部2aが固定枠3の側面部3aに衝接して閉じた状態になり、矢印Bで示す方向へ移動させると開いた状態になる。引戸2が閉じた状態にあるときに、ハンドル20に手を当てて「閉」方向へ回転させると、ケース部材11から進出するフック部材15が所要角度だけ旋回して固定枠3でのキーパーとなる後記係合部100に対して係止した状態となる。さらにハンド20を「閉」の位置にまで回転させると、ハンドル20は「閉」の位置で静止し、手を離しても動くことがなく、引戸2が施錠状態となる。引戸2を解錠状態にするときには、静止しているハンドル20に手を当てて、「開」方向へ強い力で回転させればよい。
【0023】
図2は、図1における前面板部16が外されているときの錠1を示す図であって、引戸2と固定枠3との図示が省略されている。図1におけるハンドル20は、前面板部16に対して回転可能に取り付けられているもので、図2では、前面板部16とともに外されている。図2のケース部材11では、前面板部16の内側に位置するカム板25が4本の固定ピン23を介して後面板部17の前方に固定されている。カム板25には、第1透孔26と第2透孔27と第3透孔28とが形成されていて、第1透孔26の周縁の一部分には後記カム面30が形成されている。また、第1透孔26の内側にはカム面30を摺動することのできる第1支軸31が見えている。第2透孔27は、ハンドル20の第1回転軸部20a(図6(a),(b)参照)を挿入することができて、第2透孔27の内側にはその第1回転軸部20aに嵌合して第1回転軸部20aとともに回転する第2回転軸部20bが見えている。第3透孔28の内側には、錠1を引戸2に取り付けるための小ねじ24が見えている。錠1は、後面板部17を引戸2の内面2b(図1参照)に固定する態様で引戸2に取り付けられている。
【0024】
図2におけるフック部材15は、その全体がケース部材11の内側に収納されるように、4本の固定ピン23のうちの1本の固定ピン23に巻き付けられたトーションスプリング33によって図における時計方向へ付勢されている。
【0025】
図3は、図2におけるカム板25が外されたときの錠1の内部構造を示す斜視図である。図3の錠1はまた、小ねじ24(図2参照)をゆるめて、引戸2から外された状態にある。図3において、ケース部材11に収納されているフック部材15は、固定ピン23を旋回軸として、双頭矢印Cで示す方向へ往復旋回運動をして、ケース部材11に対しての進出と退入とを反復することができる。フック部材15はまた、固定ピン23に取り付けられたトーションスプリング33によって、退入する方向へ、すなわちケース部材11に収納される方向へ付勢されている。第2回転軸部20bは、回転可能に後面板部17に取り付けられていて、その前端部分29は、前面板部16における第1回転軸部20a(図6(a),(b)参照)に嵌合して一体となり得るように作られているもので、その嵌合を可能にするために、周面には互いに平行する一対の平面部29aが含まれている。
【0026】
図3においてはまた、第2回転軸部20bとフック部材15との間にリンク機構が介在している。そのリンク機構は、第1リンク部材41と第2リンク部材42とを含んでいる。第1リンク部材41は、第2回転軸部20bから延びているものであり、第2リンク部材42は第1リンク部材41の先端部分に位置する第1支軸31とフック部材15に形成された第2支軸32との間に延びている。第1リンク部材41は、第2回転軸部20bと一体で、第2回転軸部20bを中心に往復旋回運動をする。第2リンク部材42は、第1支軸31と一体であって、第1リンク部材41の先端部分47において第1支軸31を中心に往復旋回運動をする。第2リンク部材42はまた、第2支軸32の周面を摺動しての往復旋回運動が可能である。
【0027】
図4は、第2リンク部材42の一部分を切り欠いてリンク機構の詳細を示す図3と同様な図である。図4においてはまた、第2回転軸部20bに取り付けられていた止め輪43(図3参照)も外されている。その第2回転軸部20bには、多角形部分44が形成されている。第1リンク部材41は、基端部分46がその多角形部分44に嵌合することによって、第2回転軸部20bの往復回転運動に伴って往復旋回運動をすることができる。第1リンク部材41にはまた、基端部分46と先端部分47との間に溝部48が形成されている。溝部48は、第1リンク部材41をその厚さ方向において貫通していて、底部のないものである。その溝部48では、先端部分47に第2リンク部材42の第1支軸31が挿入されている。また、第1支軸31と基端部分46との間には付勢手段としての圧縮スプリング50が挿入されていて、第1支軸31を基端部分46から遠ざかる方向へ付勢している。圧縮スプリング50は、板ばね等の弾性的な付勢手段に代えることができる。
【0028】
図5は、図2におけるV-V線矢視図である。V-V線は第2回転軸部20bの中心と第1支軸31の中心とを結ぶように延びている。カム板25と後面板部17との間に延びる第2回転軸部20bは、後面板部17から延出する部分20cに操作用凹部である角溝52が形成されている。引戸2の後面側において所定の操作工具(図示せず)を角溝52に嵌合させると、引戸2の後面側からも第2回転軸部20bを往復回転運動させて錠1を施錠状態にしたり、解錠状態にしたりすることができる。その第2回転軸部20bは、平座金53と止め輪54とを使用して後面板部17に対して回転可能に取り付けられている。カム板25と後面板部17との間ではまた、第2回転軸部20bから第1リンク部材41が第1支軸31に向かって延びるとともに、圧縮スプリング50が溝部48の内側において第2回転軸部20bと第1支軸31との間に延びている。圧縮スプリング50の一端部50aは第2回転軸部20bに形成された溝部分56(図3参照)にあって、溝部分56から抜け出ることがないように、第2回転軸部20bに取り付けられた止め輪43で抑えられている。圧縮スプリング50のもう一方の端部50bは第1支軸31に圧接するとともに、互いに平行する2枚の第2リンク部材42に挟まれていて、第1リンク部材41の溝部48から抜け出ることがない。第1支軸31の頂部にはキャップ58が嵌められていて、そのキャップ58がカム面30を摺動する。2枚の第2リンク部材42は、同形同大のものが互いに対向する態様にあって、フック部材15と第1リンク部材41とのそれぞれを挟むようにして使用されている。
【0029】
図6(a),(b)は、図1のVI(a)-VI(a),VI(b)-VI(b)線矢視図であって、ハンドル20における要部の断面形状を示している。図6(a)において、ハンドル20は、前面板部16の内側から雄ねじ7を使用して円柱状の第1回転軸部20aが取り付けられている。第1回転軸部20aには、互いに平行な一対の壁面部20d(図6(a)参照)によって嵌合用溝部20eが形成されている。前面板部16と後面板部17とを対向させて図1のケース部材11を組み立てるときには、その嵌合用溝部20eに第2回転軸部20bにおける前端部分29(図3参照)を挿入して、ハンドル20と第2回転軸部20bとを一体化し、ハンドル20によって、第2回転軸部20bの回転を可能にする。
【0030】
図7(a),(b)は、フック部材15の動きの一例を示すための図2の部分破断図であって、カム板25の一部分が切り欠かれている。図7(a)において、引戸2と固定枠3とは、図1と同じように半開きの状態にある。ただし、固定枠3には、引戸2を施錠するときに使用するものであって、フック部材15の相手方となる係合部100が示されている。引戸2と固定枠3との一例には、既述のように、トイレの個室用のものがある。錠1は、その個室の引戸に対して個室の内側から取り付けられて、個室の使用者によって施錠、解錠される。
【0031】
図7(a)においてはまた、ハンドル20が「開」の位置にある(図1参照)。フック部材15は、トーションスプリング33がストッパーピン15cを押圧することによって、時計方向へ、すなわちケース部材11へ退入し、収納される方向へ付勢されている。また、第1リンク部材41と第2リンク部材42とは、下向きのV字形を画くような連結状態、換言すると交差状態にある。ここでいうV字形とは、第1リンク部材41の外形と第2リンク部材42の外形とがV字形を画いているということを意味するが、より正確にいうならば、第1リンク部材41における第2連結部材20bの回転中心と第2リンク部材42における第1支軸31の中心とを結ぶ第1リンク部材41の中心線(図示せず)と、第2リンク部材42における第1支軸31の中心と第2支軸32の中心とを結ぶ第2リンク部材42の中心線(図示せず)とが鋭角で交差して画く形状を意味している。図7(a)において、第2リンク部材42の第1支軸31は、カム面30の上端部61(図6(b)参照)にあって、さらに上方へは動くことがなく、フック部材15がさらに時計方向へ旋回するということはない。
【0032】
カム面30は、第2回転軸部20bの回転中心(図示せず)からの距離が大きい第1カム面30aと、その距離が小さい第2カム面30bとを含んでいる。図示されているように、第1カム面30aは凹曲面であり、第2カム面30bは凸曲面である。第1カム面30aには上端部61と下端部62とが含まれており、第2カム面30bには下端部63が含まれている(図2参照)。後記するように、第1カム面30aは第1支軸41の旋回運動の軌跡を規制し、第2カム面30bは第1カム面30aから離れた後における第1支軸41の旋回運動の軌跡を規制している。
【0033】
図7(b)は、引戸2が図7(a)の状態にあるときに、すなわちハンドル20が図1の状態にあるときに、そのハンドル20を「閉」の方向に回転させたときのフック部材15の状態を示している。引戸2は半開きの状態にあるので、ハンドル20を回転させると、第2リンク部材42における第1支軸31がカム面30のうちの第1カム面30aを上端部61から下端部62まで摺動したところでハンドル20が停止する。その摺動に伴って、フック部材15はトーションスプリング33の付勢に抗しながら反時計方向へ旋回し、固定枠3の係合部100に係合する場合に予定されている所要の旋回角度を越えてさらに旋回し、係合部100の手前を通り過ぎて、係合部100の下方にまで旋回して図示の状態になり、ハンドル20とともに停止する。このときにおいても、第1リンク部材41と第2リンク部材42とは、図示の如く下向きのV字形を画いている。そこで、ハンドル20から手を離すと、フック部材15はトーションスプリング33の付勢下に図7(a)の状態に復帰する。このように、錠1では、引戸2が半開きの状態にあると、施錠状態になるということがないだけではなくて、ハンドル20から手を離せば、フック部材15がケース部材11に自動的に収納される。フック部材15の形状や大きさが図1,2に例示の如くに整えられている好ましい錠1では、フック部材15の全体がケース部材11に収納されて、フック部材15はケース部材11から突出した状態になるということがない。
【0034】
図8は、図7(a)の状態にある錠1が施錠状態になるまでの引戸2とフック部材15との動きを(a)~(d)によって示す図である。
【0035】
図8(a)において、錠1は図7(a)の錠1と同じ状態にあるが、引戸2は固定枠3に対して閉じた状態にある。ハンドル20は、図1に示されているように「開」の位置にある。
【0036】
図8(b)は、図1におけるハンドル20を「閉」の位置に向けて回転させ始めたときの状態を示している。図8(a)においてハンドル20を回転させると、第1回転軸部20a(図6参照)と第2回転軸部20bとが回転することによって、第1リンク部材41が反時計方向へ旋回し、その旋回に伴って第2リンク部材42が時計方向へ旋回し、フック部材15の先端部分15aが固定枠3に形成された開口(図示せず)へ進入する。第2リンク部材42における第1支軸31は、カム面30のうちの第1カム面30aを下降するように摺動する。第1リンク部材41と第2リンク部材42とは、下向きのV字形を画くような連結状態にある。
【0037】
図8(b)において、ハンドル20をさらに「閉」位置に向けて回転させると、フック部材15は先端部分15aに形成されている係合凹部15bが固定枠3における係合部100に係合する所要の角度まで旋回したところでその係合が実現して、旋回運動が止まると同時に、引戸2が施錠状態である図8(c)の状態になる。このときに、第2リンク部材42における第1支軸31は、第1カム面30aの途中で第1カム面30aを下降する動きを止めて、第1リンク部材41の圧縮スプリング50を圧縮しながら第1カム面30aを離れて第2カム面30bへ移動する。
【0038】
図8(d)では、ハンドル20をさらに回転させることによって、図8(c)の状態にある第2リンク部材42の第1支軸31が第2カム面30bをさらに下降し、第2カム面30bの下端部63(図8(b)参照)に当接したところで停止し、ハンドル20の回転も停止する。第1リンク部材41と第2リンク部材42とは、図8(a)の状態から図8(b),(c)の状態を経て図8(d)の状態へ至る間に、図2において鋭角であった交差角度を、図8(d)におけるように180度以上の鈍角の交差角度に変化させて、下向きのV字形を画く連結状態を上向きのV字形を画く連結状態へと反転させるように変化させる。
【0039】
図8(d)の状態にある錠1では、ハンドル20が「閉」位置にあるから、そのハンドル20を「開」の位置に向かうように操作すると、第1リンク部材41と第2リンク部材42とが、図8(a)の状態に戻るように動き、錠1が解錠状態になる。ただし、図8(d)の状態にある錠1のハンドル20を「開」の位置に向かって回転させ始めるときには、第1リンク部材41と第2リンク部材42とを上向きのV字形を画く連結状態から下向きのV字形を画く連結状態へと反転させなければならず、その反転に際してはハンドル20に一時的に強い回転力を作用させる必要がある。換言すると、ハンドル20には、錠1が図8(d)の状態から至極簡単に解錠状態となることがないように、ハンドル20の回転を抑止することのできるブレーキがかかっている。一方、図8(d)の状態にある錠1において、ハンドル20を操作することなく、例えばフック部材15に手を当てて、そのフック部材15を係合部100から外すように時計方向へ旋回させようとする不正な操作、すなわちフック部材15を直接図の上方へ持ち上げようとする不正な操作では、上向きのV字形を画く第1リンク部材41と第2リンク部材42とが、互いの交差角度をさらに小さくする方向へ動いて、ハンドル20は「開」の位置とは反対の方向へ動こうとするので、引戸2を解錠状態にすることができない。
【0040】
このように形成されている図示例の錠1は引戸に使用されて鎌錠と呼ばれることのあるものではあるが、錠1の用途や係止部材としてのフック部材15の形状は、図示例のものに限られるわけではなく、本発明に係る錠は旋回して開閉する扉や、上下動して開閉するシャッター等にも適用することができる。
【0041】
また、図示例の回転するハンドル20は、旋回するハンドルに代えることもできる。いずれのハンドルも、第1回転軸部20aを回転させてリンク機構を動作させることにおいては変わりがない。
【0042】
図9(a),(b)は、本発明の実施態様の一例を示す錠101の部分分解斜視図と、その錠101に使用する前面板部116の斜視図である。
【0043】
図9(a)において、錠101は、前後方向Zの前方に前面板部116を有し、後方に第1後面板部117aと、第2後面板部117bとを有する。前面板部116と第1後面板部117aとは、錠ユニット101aを形成している。その錠ユニット101aにおいて、前面板部116の内面171(図9(b)参照)には、図2のカム面30に代わるカム面130(図9(b)参照)を提供するためのリブ構造172が形成されている。前面板部116と第1後面板部117aとの間には、錠1において使用したフック部材15の他に、第1リンク部材41と第2リンク部材42とが組み込まれているが、カム板25は組み込まれていない。リブ構造172は、そのカム板25に代わって採用されている。第1後面板部171aにおいては、第2回転軸部20bから後方へ延びる部分20cが延出している(図5を併せて参照)。第2後面板部117bは、錠ユニット101aを引戸2に取り付けるためのブラケットとして使用されるもので、その形状は図1における後面板部17と実質的に同じである。錠ユニット101aを引戸2に取り付けるには、まず最初に、第2後面板部117bを図2に例示の小ねじ24を使用して引戸2に取り付ける。次いで、錠ユニット101aを第2後面板部117bに接近させて、周壁部118と第1後面板部117aとの間に形成されているクリアランス173に第2後面板部117bにおける周壁部119を進入させる。周壁部118と周壁部119とには、ねじ穴が互いに重なり合うように形成されているから、図1に例示のねじ6を使用して、錠ユニット101aを第2後面板部117bに固定する。かくして、錠101を引戸2に取り付けることができる。錠ユニット101aは、第2後面板部117bを介することなく引戸2に取り付けることも可能であるが、図示例のようにして取り付けると、前面板部116から引戸2に向けて取り付け用ねじを使用するという必要がなく、前面板部116の外観を平滑なものにすることができる。
【0044】
図9(b)は、図9(a)における前面板部116の斜視図であって、前面板部116の内面を示している。その内面には、操作用のハンドル(図示せず)につながる第1回動軸部20aと、リブ構造172と、第1後面板部117aを取り付けるための4本の固定ピン123とが見えている。リブ構造172の一部分によって、図2のカム面30と同等のカム面130が提供されている。図示してはいないが、カム面130に対してのカムフォロアーとなる第2リンク部材42の第1支軸31(図2参照)は、リブ構造172におけるカム面130を摺動することができるように、その寸法、形状が変更してある。なお、図示例の前面板部116は、例えば、熱可塑性合成樹脂を射出成形することによって得ることができる。
【0045】
図10もまた、本発明の実施態様の一例を示すために用意された後面板部217の内面を示す斜視図である。後面板部217は図1における後面板部17に代えて使用されるもので、その形状と寸法は後面板部17と同じである。ただし、後面板部217は、図1の錠1におけるカム板25の機能を備えることができるように環状のリブ構造272が形成され、リブ構造272の内周面の一部に図2におけるカム面30に代わるカム面230が形成されている。本発明において、このような後面板部217を使用する態様の錠は、図1の錠1におけるカム板25を使用することのない点において、錠1とは異なっている。そのような錠ではまた、錠1における第2リンク部材42を使用しているのではあるが、その第2リンク部材42における第1支軸31はカム面230に対してのカムフォロアーとなり得るように形状が整えられる。
【0046】
図9,10の実施態様から明らかなように、本発明に係る錠では、カム板25を使用することに代えて、ケース部材11の前面部分を形成する板部および後面部分を形成する板部のいずれか一方の板部にカム機構を形成することができる。
【0047】
図11(a),(b)もまた、本発明の実施態様の一例を示す錠1の模式的な図であるが、錠1として図8(a),(b)における状態のものが示されている。図11(a)において、錠1が取り付けられた引戸2は、固定枠3に対して半開きの状態にある。固定枠3には、係合部100の他に、マイクロスイッチ310が取り付けられている。マイクロスイッチ310から延びるコード311の先端には表示ランプ(図示せず)が取り付けられている。表示ランプは、例えば「使用中」という表示を点灯させることができる。ただし、図11(a)においては、マイクロスイッチ310がオフの状態にあって、表示ランプが点灯していない。
【0048】
図11(b)では、引戸2が固定枠3に対して閉じていて、フック部材15が係合部100に係合した状態にあるとともに、マイクロスイッチ310の接触子312に接触して、マイクロスイッチ310がオンの状態にあり、「使用中」の表示が点灯している。したがって、引戸2が閉じた状態にある個室は、内側から施錠された状態にあって、使用中であることを個室の外から認識することができる。錠1を個室の内側または外側から解錠状態にすると、マイクロスイッチ310がオフの状態になり、「使用中」の表示が消灯する。錠1を個室の外側から解錠状態にするには、図5に例示の操作用凹部である角溝52を使用する。
【符号の説明】
【0049】
1 錠
2 戸(引戸)
3 固定枠
11 ケース部材
15 フック部材
16 前面板部
17 後面板部
20 ハンドル
20a 回転軸部(第1回転軸部)
20b 回転軸部(第2回転軸部)
25 カム板
30 カム面
30a 第1カム面
30b 第2カム面
31 第1支軸(第3端部)
32 第2支軸(第4端部)
33 トーションスプリング
41 第1リンク部材
42 第2リンク部材
48 溝部
50 圧縮スプリング
52 操作用凹部(角溝)
100 係合部
101 錠
116 前面板部
117a 第1後面板部
117b 第2後面板部
118 周壁部
119 周壁部
130 カム面
172 リブ構造
217 後面板部
230 カム面
272 リブ構造
310 マイクロスイッチ
312 接触子
X 横方向
Y 縦方向
Z 前後方向
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11