(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-18
(45)【発行日】2022-11-29
(54)【発明の名称】無段変速機
(51)【国際特許分類】
F16H 61/02 20060101AFI20221121BHJP
F16H 59/44 20060101ALI20221121BHJP
F16H 61/66 20060101ALI20221121BHJP
F02D 29/02 20060101ALI20221121BHJP
F02D 29/00 20060101ALI20221121BHJP
B60W 10/04 20060101ALI20221121BHJP
B60W 10/101 20120101ALI20221121BHJP
B60W 10/06 20060101ALI20221121BHJP
B60K 31/00 20060101ALI20221121BHJP
【FI】
F16H61/02
F16H59/44
F16H61/66
F02D29/02 301A
F02D29/00 C
B60W10/00 112
B60W10/06
B60W10/101
B60K31/00 Z
(21)【出願番号】P 2019019301
(22)【出願日】2019-02-06
【審査請求日】2021-12-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000231350
【氏名又は名称】ジヤトコ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002549
【氏名又は名称】弁理士法人綾田事務所
(72)【発明者】
【氏名】明保能 弘道
(72)【発明者】
【氏名】大嶋 歩
(72)【発明者】
【氏名】関 丈二
(72)【発明者】
【氏名】松尾 克宏
(72)【発明者】
【氏名】片倉 秀策
(72)【発明者】
【氏名】芝野 信
(72)【発明者】
【氏名】小泉 拓夢
【審査官】糟谷 瑛
(56)【参考文献】
【文献】特開昭64-60437(JP,A)
【文献】特開2001-27317(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 59/00
F16H 61/00
F16H 63/00
F02D 29/00
B60W 10/00
B60K 31/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンおよび駆動輪間に設けられ、車速を目標車速に保つ定速走行時、前記目標車速に応じた目標エンジン回転速度が設定された定速走行用変速特性を参照し、前記車速が前記目標車速となるように変速比を決定する無段変速機であって、
ドライバが前記目標車速を更新した場合
であって、更新された目標車速から実車速を減じた速度差が正の値の場合、前記変速比を決定する際に参照する
加速用変速特性を、同一の目標車速に対する目標エンジン回転速度が、前記定速走行用変速特性よりも高くなる特性を有する目標車速更新時用変速特性に切り替える無段変速機。
【請求項2】
エンジンおよび駆動輪間に設けられ、車速を目標車速に保つ定速走行時、前記目標車速に応じた目標エンジン回転速度が設定された定速走行用変速特性を参照し、前記車速が前記目標車速となるように変速比を決定する無段変速機であって、
ドライバが前記目標車速を更新した場合、前記変速比を決定する際に参照する変速特性を、同一の目標車速に対する目標エンジン回転速度が、前記定速走行用変速特性よりも高くなる特性を有する目標車速更新時用変速特性に切り替えるにあたり、
前記目標車速更新時用変速特性は、更新された目標車速と実車速との差が大きいほど、前記定速走行用変速特性よりも同一の目標車速に対する目標エンジン回転速度が高くなる特性を有する無段変速機。
【請求項3】
エンジンおよび駆動輪間に設けられ、車速を目標車速に保つ定速走行時、前記目標車速に応じた目標エンジン回転速度が設定された定速走行用変速特性を参照し、前記車速が前記目標車速となるように変速比を決定する無段変速機であって、
ドライバが前記目標車速を更新した場合、前記変速比を決定する際に参照する変速特性を、同一の目標車速に対する目標エンジン回転速度が、前記定速走行用変速特性よりも高くなる特性を有する目標車速更新時用変速特性に切り替えるにあたり、
前記目標車速更新時用変速特性は、更新された目標車速から実車速を減じた速度差が正の値の場合に参照される加速用変速特性と、前記速度差が負の値の場合に参照される減速用変速特性と、を有し、
前記加速用変速特性は、同一の目標車速に対する目標エンジン回転速度が前記減速用変速特性よりも高くなる特性を有する無段変速機。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれか1項に記載の無段変速機であって、
前記実車速が前記目標車速に到達する前に、前記変速比を決定する際に参照する変速特性を、前記定速走行用変速特性に戻す無段変速機。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれか1項に記載の無段変速機であって、
前記定速走行用変速特性は、前記目標車速に対して、車両の負荷と駆動力との釣り合い状態を維持するための目標エンジン回転速度が設定されている無段変速機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無段変速機に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、クルーズコントロール運転中、ドライバが設定した目標車速と実車速との差に応じて変速比を制御し、実車速が目標車速に収束するようにフィードバック制御を行う無段変速機が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記従来の無段変速機にあっては、ドライバによる目標車速の更新時に実車速を目標車速に収束させる際、車両の加減速の応答遅れに伴う違和感を与えるおそれがあった。
本発明の目的の一つは、ドライバに与える違和感を低減できる無段変速機を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、エンジンおよび駆動輪間に設けられ、車速を目標車速に保つ定速走行時、前記目標車速に応じた目標エンジン回転速度が設定された定速走行用変速特性を参照し、前記車速が前記目標車速となるように変速比を決定する無段変速機であって、
ドライバが前記目標車速を更新した場合、前記変速比を決定する際に参照する変速特性を、同一の目標車速に対する目標エンジン回転速度が、前記定速走行用変速特性よりも高くなる特性を有する目標車速更新時用変速特性に切り替える。
【発明の効果】
【0006】
よって、本発明にあっては、ドライバによる目標車速の更新時に車速を目標車速に収束させる際、目標エンジン回転速度が、定速走行用変速特性よりも高くなるため、更新時に車両の加減速感を得ることができ、応答遅れに伴いドライバに与える違和感を低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】実施形態1の無段変速機1の概略構成図である。
【
図2】実施形態1の通常走行モード用変速マップの一例である。
【
図3】実施形態1のオートクルーズ用変速マップの一例である。
【
図4】実施形態1の目標車速更新時用変速マップ(加速時)の一例である。
【
図5】実施形態1の目標車速更新時用変速マップ(減速時)の一例である。
【
図6】実施形態1の変速マップ切り替え処理の流れを示すフローチャートである。
【
図7】実施形態1のCVT1において目標車速更新時に加速する際のタイムチャートである。
【
図8】実施形態1のCVT1において目標車速更新時に減速する際のタイムチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0008】
〔実施形態1〕
図1は、実施形態1の無段変速機(以下、「CVT」という。)1の概略構成図である。CVT1は、エンジン5を動力源とする車両において、エンジン5および図示しない駆動輪間に設けられている。CVT1は、プライマリプーリ2およびセカンダリプーリ3を有する。両プーリ2,3は、両者の溝が整列するよう配置されている。両プーリ2,3の溝には、ベルト4が掛け渡されている。プライマリプーリ2と同軸にエンジン5が配置され、エンジン5およびプライマリプーリ2間には、エンジン5の側から順に、トルクコンバータ6、前後進切り替え機構7が設けられている。
トルクコンバータ6は、エンジン5の出力軸に連結されるポンプインペラ6a、前後進切り替え機構7の入力軸に連結されるタービンランナ6b、ステータ6cおよびロックアップクラッチ6dを備える。
【0009】
前後進切り替え機構7は、ダブルピニオン遊星歯車組7aを主たる構成要素とし、そのサンギヤはトルクコンバータ6のタービンランナ6bに結合され、キャリアはプライマリプーリ2に結合される。前後進切り替え機構7は、さらに、ダブルピニオン遊星歯車組7aのサンギヤおよびキャリア間を直結する発進クラッチ7b、およびリングギヤを固定する後進ブレーキ7cを備える。そして、発進クラッチ7bの締結時には、エンジン5からトルクコンバータ6を経由した入力回転がそのままプライマリプーリ2に伝達され、後進ブレーキ7cの締結時には、エンジン5からトルクコンバータ6を経由した入力回転が逆転され、プライマリプーリ2へと伝達される。
【0010】
プライマリプーリ2の回転はベルト4を介してセカンダリプーリ3に伝達され、セカンダリプーリ3の回転は、出力軸8、歯車組9およびディファレンシャルギヤ装置10を経て駆動輪へと伝達される。上記の動力伝達中にプライマリプーリ2およびセカンダリプーリ3間のプーリ比(変速比)を変更可能にするために、プライマリプーリ2およびセカンダリプーリ3の溝を形成する円錐板のうち一方を固定円錐板2a,3aとし、他方の円錐板2b,3bを軸線方向へ変位可能な可動円錐板としている。これら可動円錐板2b,3bは、ライン圧を元圧として作り出したプライマリ圧およびセカンダリ圧をプライマリプーリ室2cおよびセカンダリプーリ室3cに供給することにより固定円錐板2a,3aに向けて付勢され、これによりベルト4を円錐板に摩擦係合させてプライマリプーリ2およびセカンダリプーリ3間での動力伝達が行われる。
【0011】
CVT1の変速は、プライマリ圧およびセカンダリ圧間の差圧により両プーリ2,3の溝幅を変化させ、プーリ2,3に対するベルト4の巻き掛け円弧径を連続的に変化させることによって行われる。プライマリ圧およびセカンダリ圧は、前進走行レンジの選択時に締結する発進クラッチ7bおよび後進走行レンジの選択時に締結する後進ブレーキ7cへの供給油圧と共に変速制御油圧回路11によって制御される。変速制御油圧回路11は変速機コントローラ12からの信号に応答して制御を行う。
【0012】
変速機コントローラ12には、CVT1のプライマリプーリ2のプライマリ回転速度を検出するプライマリ回転速度センサ13からの信号と、CVT1のセカンダリプーリ3のセカンダリ回転速度(なお、セカンダリ回転速度に終減速比やタイヤ径といった諸元を用いて車速を算出可能)を検出するセカンダリ回転速度センサ14からの信号と、プライマリ圧を検出するプライマリ圧センサ15pからの信号と、セカンダリ圧を検出するセカンダリ圧センサ15sからの信号と、アクセル開度を検出するアクセル開度センサ16からの信号と、セレクトレバー位置を検出するインヒビタスイッチ17からの選択レンジ信号と、ブレーキペダルの踏み込みの有無を検出するブレーキスイッチ18からの信号と、エンジン5を制御するエンジンコントローラ19からのエンジン5の運転状態(エンジン回転速度、エンジントルク、燃料噴時間、冷却水温等)に関する信号と、が入力される。
【0013】
変速機コントローラ12は、
図2に示すような通常走行モード用変速マップを参照して車速(セカンダリ回転速度)およびアクセル開度に応じた目標入力回転速度を設定し、プライマリ回転速度が目標入力回転速度に追従するように制御する。なお、目標入力回転速度を設定することは、目標プーリ比(目標変速比)を設定することと同義である。プーリ比は、セカンダリ回転速度をプライマリ回転速度で除した値であり、セカンダリ回転速度は、車速によって一義的に決定される値だからである。また、プーリ比を制御する際には、エンジントルクおよびトルクコンバータトルク比によって決まるCVT1の入力トルクを伝達するのに必要なプーリ押し付け力が得られるように、目標プライマリ圧および目標セカンダリ圧を設定し、実プライマリ圧および実セカンダリ圧が目標圧に追従するようにフィードバック制御する。また、異常を表す所定条件が成立したときは、ドライバに異常を報知可能なランプ20に対して点灯指令を出力する。
【0014】
実施形態1の車両は、部分自動運転機能(レベル2)として、車両を目標車速で自動的に走行させるオートクルーズ(定速走行)機能を備える。ドライバがオートクルーズ運転を行う場合、オートクルーズモード選択用のメインスイッチ21をオン操作した後にスピードメータにて所望の速度に到達したことを目視で確認し、セットスイッチ22を手動操作(オン)する。これにより、セットスイッチ22がオンされたときの車速がオートクルーズモードの目標車速として設定される。変速機コントローラ12は、オートクルーズモードにおいて、目標車速が設定されると、
図3のオートクルーズ用変速マップを参照して目標車速に応じた目標入力回転速度を設定し、実入力回転速度が目標入力回転速度となるように両プーリ2,3のプーリ比を変更する。エンジンコントローラ19は、オートクルーズモードにおいて、変速機コントローラ12により設定された目標入力回転速度に応じてエンジン5の出力を制御する。
【0015】
図3の変速マップには、目標車速に応じた目標エンジン回転速度を決定するためのロードロード変速線(定速走行用変速特性)が設定されている。ロードロード変速線は、目標車速に対して、車両の負荷と駆動力との釣り合い状態を維持するための目標エンジン回転速度が設定されている。つまり、ロードロード変速線は、一定のアクセル開度において一定車速で走行するために必要な駆動力が出力されるときの変速線である。ロードロード変速線は、登坂路の勾配が大きいほど、同一の目標車速に対する目標入力回転速度が高くなる特性を有する。
【0016】
オートクルーズモード中にドライバがアクセルペダやブレーキペダルを踏む、またはメインスイッチ21をオフ操作すると、オートクルーズモードが解除されて通常走行モードへと移行する。変速機コントローラ12は、目標入力回転速度を決定する際に参照する変速マップを、オートクルーズ用変速マップから通常走行モード用変速マップに切り替える。
オートクルーズモード中にドライバがアップスイッチ23またはダウンスイッチ24を押すと、変速機コントローラ12は、目標車速を更新する。例えば、アップスイッチ23またはダウンスイッチ24が押される毎に、目標車速は現在の目標車速から一定幅高い値または低い値に切り替えられる。なお、アップスイッチ23またはダウンスイッチ24が押し続けられる時間に比例して目標車速からの変更量を大きくしてもよい。
【0017】
実施形態1では、ドライバによる目標車速の更新時、車速が目標車速となるようにプーリ比を変更する際、ドライバに与える違和感を低減することを狙いとし、変速機コントローラ12は、オートクルーズモード中、ドライバにより目標車速が更新された場合、目標入力回転速度を決定する際に参照する変速マップを、オートクルーズ用変速マップから
図4または
図5に示すような目標車速更新時用変速マップに切り替える。
図4は加速時用、すなわち更新された目標車速が実車速よりも高い場合の加速用変速マップであり、
図5は減速時用、すなわち更新された目標車速が実車速よりも低い場合の減速用変速マップである。
【0018】
目標車速更新時用変速マップには、目標車速に応じた目標エンジン回転速度を決定するための変速線(目標車速更新時用変速特性)が設定されている。変速線は、目標車速更新時において、更新された目標車速から実車速を減じた速度差の絶対値が大きいほど、同一の目標車速に対する目標入力回転速度が高くなる特性を有する。また、変速線は、同一の目標車速に対する目標入力回転速度が、
図3に示したオートクルーズ用変速マップにおけるロードロード変速線よりも高くなる特性を有する。さらに、加速時用の変速線は、同一の目標車速に対する目標入力回転速度が、減速時用の変速線よりも高くなる特性を有する。加速時用変速線における目標入力回転速度は、ドライバに加速感を与え、かつ、騒音と感じさせない程度のエンジン回転速度が得られる値とする。減速時用の変速線における目標入力回転速度は、ドライバに吹き上がりを抑えたエンジンブレーキ感を与えられる程度のエンジン回転速度が得られる値とする。
変速機コントローラ12は、目標入力回転速度を決定する際に参照する変速マップを、オートクルーズ用変速マップから目標車速更新時用変速マップに切り替えた後、速度差の絶対値がゼロに近い所定値まで減少したとき、目標入力回転速度を決定する際に参照する変速マップを、オートクルーズ用変速マップに戻す。オートクルーズ用変速マップに戻す所定値は、変速マップの切り替えにより目標入力回転速度がステップ的に変化した場合であっても、入力回転速度のオーバーシュートが生じにくい値とする。目標入力回転速度が高いほど所定値を大きな値としてもよい。また、ドライバによって更新された目標車速から実車速を減じた速度差の絶対値が大きいほど、所定値を大きな値としてもよい。
【0019】
図6は、実施形態1の変速マップ切り替え処理の流れを示すフローチャートである。この処理は、変速機コントローラ12において、所定の演算周期で繰り返し実行される。
ステップS1では、オートクルーズモード選択用のメインスイッチ21がオンであるかを判定する。YESの場合はステップS2へ進み、NOの場合はステップS8へ進む。
ステップS2では、目標入力回転速度を決定する際に参照する変速マップとして、オートクルーズ用変速マップを選択する。
ステップS3では、ドライバにより目標車速が更新されたかを判定する。YESの場合はステップS4へ進み、NOの場合はステップS1へ戻る。
【0020】
ステップS4では、速度差が正の値であるかを判定する。YESの場合はステップS5へ進み、NOの場合はステップS6へ進む。
ステップS5では、目標入力回転速度を決定する際に参照する変速マップとして、加速時用の目標車速更新時用変速マップを選択する。
ステップS6では、目標入力回転速度を決定する際に参照する変速マップとして、減速時用の目標車速更新時用変速マップを選択する。
ステップS7では、速度差の絶対値が所定値以下であるかを判定する。YESの場合はステップS2へ戻り、NOの場合はステップS4へ戻る。
ステップS8では、目標入力回転速度を決定する際に参照する変速マップとして、通常走行モード用変速マップを選択する。
【0021】
次に、実施形態1の作用効果を説明する。
従来の無段変速機では、オートクルーズモード中、実車速が目標車速に収束するようにプーリ比をフィードバック制御している。具体的には、目標車速と実車速との速度差から要求トルクを求め、要求トルクとエンジン回転速度とに基づき仮想アクセル開度を生成し、仮想アクセル開度と実車速とに応じた目標入力回転速度となるようにプーリ比を制御している。このため、目標車速の更新時に実車速を目標車速に収束させる際、速度差が大きな初期段階では、プーリ比が大きくなるため、エンジンが吹き上がる。その後、速度差が収束するに連れてプーリ比が小さくなるため、車両の加速度は徐々に低下する。つまり、上記従来技術では、速度差に応じてプーリ比を常に変化させているため、エンジンは吹き上がるのに車両に加速感がなく、実車速が目標車速に到達するまでに時間がかかるため、ドライバにとって違和感となる。
【0022】
これに対し、実施形態1のCVT1では、オートクルーズモード中にドライバが目標車速を更新した場合、目標入力回転速度を決定する際に参照する変速マップを、オートクルーズ用変速マップから目標車速更新時用変速マップに切り替えることにより、上記課題を解決した。
図7は、実施形態1のCVT1において目標車速更新時に加速する際のタイムチャートである。
時刻t1では、ドライバにより目標車速が更新されたため、目標入力回転速度を決定する際に参照する変速マップを、オートクルーズ用変速マップから加速用の目標車速更新時用変速マップに切り替える。これにより、目標入力回転速度は、ロードロード変速線上の値から、加速時用の目標車速更新時用変速マップにおける変速線上の値へとステップ的に切り替わる。
【0023】
時刻t1から時刻t2までの区間では、目標入力回転速度がステップ的に高められたことにより、ダウンシフトが開始され、エンジン回転速度が急速に立ち上がる。これにより、車両の加速初期における応答性を向上でき、加速感を演出できる。また、ドライバに対し、エンジン音や加速度変化によってダウンシフトによる加速開始を通知できる。さらに、実入力回転速度が目標入力回転速度に到達した後、エンジン回転速度は一定に保たれるため、車両の加速度が安定し、実車速を早期に目標車速まで高められる。
【0024】
ここで、特開平2-216328号公報には、更新された目標車速と実車速との速度差の絶対値が閾値よりも大きいとき、有段変速機の変速段を、第1の変速段からより低速の車速を得る第2の変速段へと切り替える技術が開示されている。ところが、ドライバは、更新した目標車速が高いほど大きな加速度を期待しているのに対し、上記従来技術では、速度差にかかわらず常に一定の変速段へと切り替えられるため、ドライバ要求に合致した加速度が得られず、ドライバに違和感を与える。一方、実施形態1の目標車速更新時用変速マップでは、更新された目標車速から実車速を減じた速度差の絶対値が大きいほど、同一の目標車速に対する目標入力回転速度が高い値に設定された変速線が選択されるため、ドライバ要求に合致した加速度を実現でき、ドライバに与える違和感を低減できる。
時刻t3では、速度差の絶対値がゼロに近い所定値まで減少したため、目標入力回転速度を決定する際に参照する変速マップを、加速用の目標車速更新時用変速マップからオートクルーズ用変速マップに戻す。これにより、目標入力回転速度は、目標車速更新時用変速マップにおける変速線上の値から、ロードロード変速線上の値へとステップ的に変化する。これにより、ドライバに対し、エンジン音や加速度変化によって加速終了を通知できる。
時刻t4では、実車速が目標車速に到達する。
【0025】
図8は、実施形態1のCVT1において目標車速更新時に減速する際のタイムチャートである。
時刻t1では、ドライバにより目標車速が更新されたため、目標入力回転速度を決定する際に参照する変速マップを、オートクルーズ用変速マップから減速用の目標車速更新時用変速マップに切り替える。これにより、目標入力回転速度は、ロードロード変速線上の値から、減速時用の目標車速更新時用変速マップにおける変速線上の値へとステップ的に切り替わる。
時刻t1から時刻t2までの区間では、目標入力回転速度がステップ的に上昇したことにより、ダウンシフトが開始され、エンジン回転速度が急速に立ち上がる。
【0026】
ここで、仮に変速マップを切り替えず、目標入力回転速度をロードロード変速線に基づいて決定した場合、エンジンブレーキが小さいため、ドライバに対して減速の応答遅れ感を与えると共に、実車速が目標車速に到達する時間が長くなる。これに対し、実施形態1では、十分なエンジンブレーキが得られるため、車両の減速初期における応答性を向上でき、減速感を演出できる。また、ドライバに対し、エンジン音や減速度変化によってダウンシフトによる減速開始を通知できる。さらに、実入力回転速度が目標入力回転速度に到達した後は、エンジン回転速度が一定に保たれるため、車両の減速度が安定し、実車速を早期に目標車速まで下げられる。
【0027】
また、目標車速更新時用変速マップの変速線では、目標車速が低いほど目標入力回転速度が高い値に設定されるため、ドライバは、更新した目標車速が低いほど大きな減速度を期待しているのに対し、ドライバ要求に合致した減速度を実現できる。
時刻t3では、速度差の絶対値がゼロに近い所定値まで減少したため、目標入力回転速度を決定する際に参照する変速マップを、減速用の目標車速更新時用変速マップからオートクルーズ用変速マップに戻す。これにより、目標入力回転速度は、目標車速更新時用変速マップにおける変速線上の値から、ロードロード変速線上の値へとステップ的に変化する。これにより、ドライバに対し、エンジン音や加速度変化によって減速終了を通知できる。
時刻t4では、実車速が目標車速に到達する。
【0028】
以上説明したように、実施形態1にあっては、以下に列挙する効果を奏する。
(1) エンジン5および駆動輪間に設けられ、車速を目標車速に保つオートクルーズモード時、目標車速に応じた目標エンジン回転速度が設定されたロードロード変速線を参照し、車速が目標車速となるようにプーリ比を決定するCVT1であって、変速機コントローラ12は、ドライバが目標車速を更新した場合、プーリ比を決定する際に参照する変速特性を、同一の目標車速に対する目標エンジン回転速度が、ロードロード変速線よりも高くなる特性を有する変速線(目標車速更新時用変速特性)に切り替える。これにより、ドライバによる目標車速の更新時に車速を目標車速に収束させる際、目標車速と実車速との差の変化にかかわらず、プーリ比が一定に維持されるため、ドライバに与える違和感を軽減できる。
【0029】
(2) 目標車速更新時用変速特性は、更新された目標車速と実車速との差が大きいほど、ロードロード変速線よりも同一の目標車速に対する目標エンジン回転速度が高くなる特性を有する。これにより、ドライバ要求に合致した加減速を実現できる。
【0030】
(3) 目標車速更新時用変速特性は、更新された目標車速から実車速を減じた速度差が正の値の場合に参照される加速時用の変速線と、速度差が負の値の場合に参照される減速時用の変速線と、を有し、加速時用の変速線は、同一の目標車速に対する目標エンジン回転速度が減速時用の変速線よりも高くなる特性を有する。減速時はエンジンブレーキの制動力に加え、車両のブレーキシステムによる制動力を付与できるのに対し、加速時はエンジン5の出力のみで駆動力を発生させる必要がある。よって、加速時は減速時よりも同一の目標車速に対する目標エンジン回転速度を高くすることにより、加速時において実車速を早期に目標車速まで高められる。
【0031】
(4) 変速機コントローラ12は、実車速が目標車速に到達する前であって、速度差が所定値以下となったとき、プーリ比を決定する際に参照する変速特性をロードロード変速線に戻す。これにより、入力回転速度のオーバーシュートによる車速の変動を抑制できる。
【0032】
(5) ロードロード変速線は、目標車速に対して、車両の負荷と駆動力との釣り合い状態を維持するための目標エンジン回転速度が設定されている。これにより、オートクルーズモードにおいて、静かでなめらかな加減速を実現できる。
【符号の説明】
【0033】
1 CVT(無段変速機)
5 エンジン
12 変速機コントローラ