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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-18
(45)【発行日】2022-11-29
(54)【発明の名称】摺動部品
(51)【国際特許分類】
   F16J 15/34 20060101AFI20221121BHJP
【FI】
F16J15/34 G
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2019564751
(86)(22)【出願日】2019-01-11
(86)【国際出願番号】 JP2019000617
(87)【国際公開番号】W WO2019139107
(87)【国際公開日】2019-07-18
【審査請求日】2021-07-15
(31)【優先権主張番号】P 2018003694
(32)【優先日】2018-01-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000101879
【氏名又は名称】イーグル工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098729
【弁理士】
【氏名又は名称】重信 和男
(74)【代理人】
【識別番号】100163212
【氏名又は名称】溝渕 良一
(74)【代理人】
【識別番号】100204467
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 好文
(74)【代理人】
【識別番号】100148161
【弁理士】
【氏名又は名称】秋庭 英樹
(74)【代理人】
【識別番号】100156535
【弁理士】
【氏名又は名称】堅田 多恵子
(74)【代理人】
【識別番号】100195833
【弁理士】
【氏名又は名称】林 道広
(74)【代理人】
【識別番号】100206911
【弁理士】
【氏名又は名称】大久保 岳彦
(72)【発明者】
【氏名】井村 忠継
【審査官】山田 康孝
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/002774(WO,A1)
【文献】特開2006-077899(JP,A)
【文献】特開2011-074931(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16J 15/34-15/38
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
円環状のメイティングリングと、円環状のシールリングとが対向して各摺動面を相対回転させることにより、相対回転摺動する前記摺動面の径方向の一方側に存在する被密封流体を密封する摺動部品において、
前記メイティングリングまたは前記シールリングのいずれか一方の摺動面には、前記メイティングリングと前記シールリングとの相対回転摺動により動圧を生起する動圧凹部が円周方向に分離されて複数形成され、
前記メイティングリングまたは前記シールリングの他方の摺動面には、前記動圧凹部よりも深さく、全体が有底の静圧凹部が前記動圧凹部と協働する位置に円周方向に複数形成されることを特徴とする摺動部品。
【請求項2】
前記動圧凹部と前記静圧凹部とは、前記メイティングリングまたは前記シールリングの径方向において少なくとも一部がオーバーラップしている請求項1に記載の摺動部品。
【請求項3】
前記動圧凹部は、前記被密封流体側に開放されている請求項1または2に記載の摺動部品。
【請求項4】
前記動圧凹部は、正面視円周方向に沿った帯形状である請求項3に記載の摺動部品。
【請求項5】
前記静圧凹部は、ディンプルである請求項1ないし4のいずれかに記載の摺動部品。
【請求項6】
前記動圧凹部は、正面視円周方向に沿った帯形状であり、前記静圧凹部は、ディンプルである請求項1ないし3のいずれかに記載の摺動部品。
【請求項7】
前記動圧凹部は、前記メイティングリングまたは前記シールリングのいずれか一方の摺動面の前記被密封流体側のみに配置されている請求項1ないし6のいずれかに記載の摺動部品。
【請求項8】
前記動圧凹部は、前記メイティングリングまたは前記シールリングのいずれか一方の摺動面の径方向において前記被密封流体側の1/4以下の領域にのみ配置されている請求項7に記載の摺動部品。
【請求項9】
前記静圧凹部は、前記メイティングリングまたは前記シールリングの他方の摺動面の全面に配置されている請求項1ないし8のいずれかに記載の摺動部品。
【請求項10】
前記静圧凹部は、その深さ寸法がその正面視における開口最大径寸法よりも大きい請求項1ないし9のいずれかに記載の摺動部品。
【請求項11】
前記被密封流体は、0.1MPa以上の高圧液体である請求項1ないし10のいずれかに記載の摺動部品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、相対回転する摺動部品に関し、例えば自動車、一般産業機械またはその他のシール分野のメカニカルシールに用いられる摺動部品に関する。
【背景技術】
【0002】
被密封流体の漏れを防止する密封装置として、相対回転し、かつ平面上の端面同士が摺動するように構成された2部品からなるもの、例えば、メカニカルシールにおいて、密封性を長期的に維持させるためには、「密封」と「潤滑」という相反する条件を両立させなければならない。特に、近年においては、環境対策等のために、被密封流体の漏れ防止を図りつつ、機械的損失を低減させるべく、より一層、低摩擦化の要求が高まっている。低摩擦化の手法としては、回転により摺動面間に動圧を発生させ、液膜を介在させた状態で摺動することにより達成できる。
【0003】
従来、回転により摺動面間に動圧を発生させるようにしたメカニカルシールとして、例えば特許文献1に記載された密封装置が知られている。摺動部品の一方であるメイティングリングの摺動面には、回転時に動圧を発生させる動圧発生溝が複数設けられている。また、摺動部品の他方であるシールリングの摺動面は平坦に形成されている。摺動部品が相対回転すると、動圧発生溝の回転方向上流側は負圧となる一方、同下流側では正圧が生じ、動圧発生溝の回転方向下流側の端面壁によるくさび作用によって正圧が大きくなり、全体として正圧が作用し、大きな浮力が得られるというものである。
【0004】
特許文献1の密封装置は、摺動面間に正圧が発生するため、流体が正圧部分から摺動面外へ流出する。この流体の流出は、シールの場合の被密封流体の漏れに該当する。そこで、動圧発生溝内または同溝外に微小溝等を形成してポンピング機能を付与し、摺動部品の始動時に、方向性を持った流体を摺動面間に流すことで漏れを低減するものも開発されている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第3066367号公報(第3頁、第1図)
【文献】特許第5960145号公報(第10頁、第4図)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、高圧の被密封流体を対象とする摺動部品においても更なる「密封」と「潤滑」の向上が求められている。特許文献2の摺動部品は、被密封流体が高圧になるにつれてポンピング用の微小溝の溝形状(深さ、幅、長さ、角度等)を最適化してもポンピング作用が期待できない程低くなる傾向にあり、潤滑性を維持しつつ漏れを十分に抑制できない虞があった。また、特許文献1等の密封装置のように動圧発生溝により動圧を発生させることが考えられるが、被密封流体が高圧であるため大きな浮力を得るためには動圧発生溝の深さを浅くする必要があることから、この場合には、動圧発生溝に十分に被密封流体が供給されず貧潤滑となって潤滑性が悪化する虞があった。このように、いずれの文献の技術によっても、高圧の被密封流体を対象とする摺動部品において、動圧発生溝の機能によっていわゆる流体潤滑状態を維持することは困難であって、漏れが多いまたは高トルクの摺動部品となってしまうという問題があった。
【0007】
本発明は、従来技術の問題を解決するためになされたもので、高圧の被密封流体の漏れが少なくかつ低トルクの摺動部品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するために、本発明の摺動部品は、
円環状のメイティングリングと、円環状のシールリングとが対向して各摺動面を相対回転させることにより、当該相対回転摺動する前記摺動面の径方向の一方側に存在する被密封流体を密封する摺動部品において、
前記メイティングリングまたは前記シールリングのいずれか一方の摺動面には、前記メイティングリングと前記シールリングとの相対回転摺動により動圧を生起する動圧凹部が円周方向に分離されて複数形成され、
前記メイティングリングまたは前記シールリングの他方の摺動面には、前記動圧凹部よりも深さの深い静圧凹部が前記動圧凹部と協働する位置に円周方向に複数形成されることを特徴としている。
この特徴によれば、シールリングとメイティングリングとの相対回転時に、動圧凹部は、動圧凹部よりも深さの深い静圧凹部の対向部や対向部近傍を通過し、静圧凹部から被密封流体が供給され得るようになっているため、貧潤滑となることなく確実に動圧を生じさせることができる。このとき、動圧凹部は、主に摺動面間に動圧を発生させて摺動面間の接触面圧を調整する機能を果たすとともに、静圧凹部は、主にその内部に保持する被密封流体を動圧凹部側に供給する機能を果たしている。このようにして、シールリングとメイティングリングとが互いに完全に相対的に浮上しない程度に動圧を発生させることにより、両摺動面が互いに接触状態にありながら接触面圧が抑えられるため、高圧の被密封流体の漏れが少なくかつ低トルクの摺動部品を得ることができる。
【0009】
好適には、前記動圧凹部と前記静圧凹部とは、前記メイティングリングまたは前記シールリングの径方向において少なくとも一部がオーバーラップしている。
これによれば、シールリングとメイティングリングとの相対回転時に、動圧凹部は、動圧凹部よりも深さの深い静圧凹部の対向部を確実に通過し、静圧凹部から被密封流体が供給され得るため、貧潤滑となることなく確実に動圧を生じさせることができる。
【0010】
好適には、前記動圧凹部は、前記被密封流体側に開放されている。
これによれば、動圧凹部に被密封流体による静圧が加わるため、貧潤滑となることなく確実に動圧を生じさせることができる。
【0011】
好適には、前記動圧凹部は、帯形状である。
これによれば、動圧凹部と静圧凹部とが協働することによって動圧発生効率および静圧発生効率を高めることができる。
【0012】
好適には、前記静圧凹部は、ディンプルである。
これによれば、動圧凹部と静圧凹部とが協働することによって動圧発生効率および静圧発生効率を高めることができる。
【0013】
好適には、前記動圧凹部は、正面視円周方向に沿った帯形状であり、前記静圧凹部は、ディンプルである。
これによれば、動圧凹部と静圧凹部とが協働することによって動圧発生効率および静圧発生効率を高めることができる。
【0014】
好適には、前記動圧凹部は、前記メイティングリングまたは前記シールリングのいずれか一方の摺動面の前記被密封流体側のみに配置されている。
これによれば、シールリングとメイティングリングとの相対回転時に、被密封流体側における貧潤滑を防止できる。
【0015】
好適には、前記動圧凹部は、前記メイティングリングまたは前記シールリングのいずれか一方の摺動面の径方向において前記被密封流体側の1/4以下の領域にのみ配置されている。
これによれば、シールリングとメイティングリングとの相対回転時に、被密封流体側における貧潤滑を防止でき、かつ過度な浮力を発生させずに被密封流体の漏れを少なくできる。
【0016】
好適には、前記静圧凹部は、前記メイティングリングまたは前記シールリングの他方の摺動面の全面に配置されている。
これによれば、静圧凹部は、対向する動圧凹部に被密封流体を供給するとともに、動圧凹部が対向しない箇所において内部に被密封流体を保持することにより、貧潤滑になり難くなっている。
【0017】
好適には、前記静圧凹部は、その深さ寸法がその正面視における開口最大径寸法よりも大きい。
これによれば、静圧凹部は、対向する動圧凹部に被密封流体を供給する機能が高められるとともに、動圧凹部が対向しない箇所において内部に被密封流体を保持する機能が高められる。
【0018】
好適には、前記被密封流体は、0.1MPa以上の高圧液体である。
これによれば、被密封流体が高圧でも摺動面の面荒れが少なくかつ漏れが少ない。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の実施例1に係る一般産業機械用のメカニカルシールの一例を示す断面図である。
図2】本発明の実施例1に係る動圧凹部が形成されたシールリングの摺動面を示す平面図である。
図3図2のシールリングに対向配置される静圧凹部が形成されたメイティングリングの摺動面を示す平面図である。
図4図2および図3のシールリングおよびメイティングリングを径方向で切った非回転時の断面図である。
図5図2および図3のシールリングおよびメイティングリングによる動圧発生を説明するための周方向で切った回転時の断面模式図である。
図6】(a)および(b)は、実施例1の静圧凹部の変形例を示す断面図である。
図7】(a)~(g)は、本発明の実施例2に係る動圧凹部が形成されたシールリングの摺動面を示す平面図である。
図8】(a)~(f)は、本発明の実施例3に係る静圧凹部が形成されたメイティングリングの摺動面を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明に係る摺動部品を実施するための形態を実施例に基づいて以下に説明する。
【実施例1】
【0021】
実施例1に係る摺動部品につき、図1から図5を参照して説明する。尚、本実施例においては、摺動部品の一例であるメカニカルシールを例にして説明する。また、メカニカルシールを構成する摺動部品の外周側を被密封流体側、内周側を大気側として説明する。
【0022】
図1に示される一般産業機械用のメカニカルシールは、摺動面の外周側から内周側に向かって漏れようとする被密封流体を密封するインサイド形のものであって、回転軸1側にスリーブ2を介して回転軸1と一体的に回転可能な状態で設けられた円環状の摺動部品としてのメイティングリング20と、被取付機器のハウジング4に固定されたシールカバー5に非回転状態かつ軸方向移動可能な状態で設けられた円環状の摺動部品としてのシールリング10と、から主に構成され、ベローズ7によってシールリング10が軸方向に付勢されることにより、ラッピング等により鏡面仕上げされたシールリング10の摺動面11とメイティングリング20の摺動面21とが互いに密接摺動するようになっている。尚、本実施における被密封流体は、0.1MPa以上の高圧液体であるものとする。
【0023】
シールリング10およびメイティングリング20は、代表的にはSiC(硬質材料)同士またはSiC(硬質材料)とカーボン(軟質材料)の組み合わせで形成されるが、これに限らず、摺動材料はメカニカルシール用摺動材料として使用されているものであれば適用可能である。尚、SiCとしては、ボロン、アルミニウム、カーボン等を焼結助剤とした焼結体をはじめ、成分、組成の異なる2種類以上の相からなる材料、例えば、黒鉛粒子の分散したSiC、SiCとSiからなる反応焼結SiC、SiC-TiC、SiC-TiN等があり、カーボンとしては、炭素質と黒鉛質の混合したカーボンをはじめ、樹脂成形カーボン、焼結カーボン等が利用できる。また、上記摺動材料以外では、金属材料、樹脂材料、表面改質材料(コーティング材料)、複合材料等も適用可能である。
【0024】
図2に示されるように、シールリング10は、軸方向一端に軸方向から見た正面視において環状の摺動面11を有している。摺動面11は、平坦面であって、円周方向に分離される複数の動圧凹部としての凹溝12が形成されている。尚、摺動面11は、凹溝12に対してランド部とも言える。
【0025】
凹溝12は、摺動面11と平行な平面として形成される底面12Aと、底面12Aに直交する壁面として形成される径方向壁12B,12Cと、底面12Aおよび径方向壁12B,12Cに直交する壁面として形成される周方向壁12Dとにより画成され、被密封流体側としての外径方向に開放する側面視略矩形の開口12Eを有し、軸方向から見た正面視において摺動面11の円周方向に沿った帯形状の溝として形成されている。尚、本実施例の凹溝12は、レーザ加工により形成されているが、これに限らず、他の方法で形成されてもよい。
【0026】
また、凹溝12は、摺動面11の周方向に12等配されている。尚、凹溝12の数や間隔はこれに限定されるものではないが、凹溝12の数は、多すぎると発生する動圧が大きくなり、少なすぎると摺動面11の周方向に亘って作用する動圧の変化が大きくなるため、6~24等配されることが好ましい。
【0027】
また、凹溝12の周方向の長さと、周方向に隣接する凹溝12,12間の長さ(間隔)は、略同一に形成されている。尚、摺動面11における凹溝12の周方向の長さと間隔は、これに限定されるものではない。
【0028】
また、凹溝12の軸方向の深さは、5μm未満、好ましくは1μm以上に形成され、凹溝12の径方向の長さR12は、摺動面11の径方向の長さR11の1/2以下、好ましくは1/4以下に形成されている(図2参照)。これにより、凹溝12で発生する各動圧の全体の合計の力(浮力)が大きくなり過ぎることがない。また、凹溝12は、摺動面11の径方向において外径側の領域にのみ配置されている。尚、凹溝12は、摺動面11の内径側に配置されないことが好ましい。これにより、シールリング10とメイティングリング20との相対回転時に、摺動面11の外径側が対向する摺動面21と直接接触し難くなり、回転速度の速い外径側における貧潤滑を防止できる。さらに、凹溝12の周方向の長さc12(図5参照)は、凹溝12の径方向の長さR12(図2参照)よりも長く形成されている。
【0029】
図3に示されるように、メイティングリング20は、シールリング10の摺動面11と軸方向に対向する環状の摺動面21を有している。摺動面21は、平坦面であって、円周方向に複数の静圧凹部としてのディンプル22が全面に形成されている。尚、摺動面21は、ディンプル22に対してランド部とも言える。
【0030】
また、メイティングリング20の摺動面21の径方向の長さw21は、シールリング10の摺動面11の径方向の長さw11よりも長く(w11<w21)形成されている(図4参照)。これにより、シールリング10の摺動面11の外径側に配置される凹溝12の最大径方向長さr12が抑えられている。
【0031】
ディンプル22は、軸方向から見た正面視において円形(図3参照)、径方向断面略楕円形(図4参照)、周方向断面略楕円形(図5参照)の半回転楕円体状に形成され、摺動面21の全面に径方向に6個ずつ千鳥配置されている。尚、摺動面21の全面とは、摺動面11との実質的に摺動する領域のことを示している。尚、本実施例のディンプル22は、レーザ加工により形成されているが、これに限らず、他の方法で形成されてもよい。
【0032】
また、ディンプル22の深さ寸法h22は、正面視におけるディンプル22の開口最大径寸法r22よりも大きく(r22<h22)形成されている(図4参照)。これにより、ディンプル22は、対向する凹溝12に被密封流体を供給する機能が高められるとともに、凹溝12が対向しない箇所において内部に被密封流体を保持する機能が高められる。尚、ディンプル22の深さ寸法h22は、正面視におけるディンプル22の開口最大径寸法r22よりも小さく、または略同一に形成されていてもよい。また、ディンプル22の軸方向の深さは、くさび作用が十分に作用しない10μm以上であることが好ましい。
【0033】
図4に示されるように、ディンプル22の深さ寸法h22は、凹溝12の深さ寸法h12よりも大きく(h12<h22)形成されている。また、凹溝12の最大径方向長さr12は、ディンプル22の最大径方向長さr22よりも長く(r22<r12)形成されている。さらに、図5に示されるように、凹溝12の最大周方向長さc12は、ディンプル22の最大周方向長さc22よりも長く(c22<c12)形成されている。このように、凹溝12とディンプル22とは、摺動面11,21間の径方向において少なくとも一部がオーバーラップしている。
【0034】
次いで、摺動面11,21間における動圧発生について説明する。図5に示されるように、シールリング10とメイティングリング20とが相対回転(回転方向は、図5において径方向壁12B側から径方向壁12C側に向かう白矢印で図示する方向)すると、凹溝12の回転方向側(すなわち図5の径方向壁12C側)は負圧となる一方、反回転方向側(すなわち図5の径方向壁12B側)は正圧が生じ、凹溝12の反回転方向側の径方向壁12Bによるくさび作用によって正圧が大きくなり、全体として正圧が作用し、大きな浮力が得られる。また、凹溝12は、凹溝12よりも深さの深いディンプル22の対向部や対向部近傍を通過し、ディンプル22から被密封流体が供給されるため、貧潤滑となることなく確実に動圧を発生させることができる。このとき、凹溝12は、主に摺動面11,21間に動圧を発生させて摺動面11,21間の接触面圧を調整する機能を果たすとともに、ディンプル22は、主にその内部に保持する被密封流体を凹溝12側に供給する機能および凹溝12が形成されない摺動面11の内径側において静圧を被密封流体側から導入する機能を果たしている。さらに、凹溝12は、被密封流体側である外径方向に開放する側面視略矩形の開口12Eから凹溝12に被密封流体による静圧を導入することにより、摺動面11,21間における動圧の発生に寄与している。尚、図5に模式的に示すように、摺動面11,21は微視的には表面の粗さ、うねり、動圧による変形によって波打つ形状となっている。
【0035】
このように、凹溝12とディンプル22の恊働によって、シールリング10とメイティングリング20とが互いに完全に相対的に浮上しない程度に動圧を発生させることにより、摺動面11、21同士は、流体潤滑と境界潤滑とが混合した混合潤滑となり、互いに一部が接触した状態となることで、両摺動面11、21が互いに接触状態にありながら接触面圧が抑えられるため、高圧の被密封流体の漏れが少なくかつ低トルクの摺動部品を得ることができる。さらに、低トルクとなることにより、摺動面11、21の面荒れを抑えることができる。尚、実施例1とは異なり、従来の動圧発生溝は流体潤滑となる流体膜を発生させるものであった。
【0036】
尚、実施例1における凹溝12の変形例として、径方向壁12B,12Cは、底面12Aに直交しなくてもよく、例えば傾斜した状態で交差してもよい。また、底面12Aは、摺動面11に対して平行でなくともよく、例えば傾斜面であってもよい。さらに、底面12Aは、平面でなくてもよく、例えば湾曲面であってもよい。
【0037】
また、実施例1におけるディンプル22の変形例として、ディンプル22の断面形状は、図6(a)に示される矩形、図6(b)に示される円錐形に形成されてもよい。
【実施例2】
【0038】
次に、実施例2に係る摺動部品につき、図7を参照して説明する。尚、前記実施例に示される構成部分と同一構成部分については同一符号を付して重複する説明を省略する。
【0039】
実施例2における摺動部品について説明する。図7(a)に示されるように、摺動部品としてのシールリング210の摺動面211には、軸方向から見た正面視において半円形状の動圧凹部としての凹溝212が形成されている。凹溝212は、被密封流体側である外径方向に開放している。
【0040】
また、図7(b)に示されるように、摺動部品としてのシールリング310摺動面311には、動圧凹部としてのスパイラル溝312が形成されている。スパイラル溝312は、被密封流体側である外径方向に開放し、内径側は閉塞している。
【0041】
また、図7(c)に示されるように、摺動部品としてのシールリング410の摺動面411には、軸方向から見た正面視において略矩形状の動圧凹部としての凹溝412が形成されている。凹溝412は、周囲をランド部に囲われることにより、被密封流体側である外径方向に開放していない。
【0042】
また、図7(d)に示されるように、摺動部品としてのシールリング510の摺動面511には、軸方向から見た正面視において略L字状の動圧凹部としてのレイリーステップ512が形成されている。レイリーステップ512は、径方向および周方向に延びる溝の深さが同一に形成され、径方向に延びる溝が被密封流体側である外径方向に開放している。
【0043】
また、図7(e)に示されるように、摺動部品としてのシールリング610の摺動面611には、軸方向から見た正面視において略L字状の動圧凹部としてのレイリーステップ612が形成されている。レイリーステップ612は、周方向に延びる溝630に径方向に延びる深溝631が連続して形成され、深溝631が被密封流体側である外径方向に開放している。
【0044】
また、図7(f)に示されるように、摺動部品としてのシールリング710の摺動面711には、軸方向から見た正面視において動圧凹部としての略矩形状の凹溝712が形成されている。凹溝712は、周方向略中央に形成される深溝730の周方向両側に傾斜する溝731,732がそれぞれ連続して形成され、凹溝712全体が被密封流体側である外径方向に開放している。
【0045】
また、図7(g)に示されるように、摺動部品としてのシールリング810の摺動面811には、軸方向から見た正面視において円形の動圧凹部としてのディンプル812が形成されている。ディンプル812は、摺動面811の外径側にのみ配置されている。尚、説明の便宜上、図示を省略するが、ディンプル812の最大径方向長さは、メイティングリング20の摺動面21に形成されるディンプル22の最大径方向長さよりも大きく形成されている。
【0046】
尚、図7(a)~図7(g)における各動圧凹部の軸方向の深さは、動圧を十分に発生させることができるように浅く形成されるものとする。
【実施例3】
【0047】
次に、実施例3に係る摺動部品につき、図8を参照して説明する。尚、前記実施例に示される構成部分と同一構成部分については同一符号を付して重複する説明を省略する。
【0048】
実施例3における摺動部品について説明する。図8(a)に示されるように、摺動部品としてのメイティングリング220の摺動面221には、軸方向から見た正面視において円周方向に複数の円形の静圧凹部としてのディンプル222が形成されている。ディンプル222は、摺動面221の全面に径方向に放射状に配置されている。
【0049】
また、図8(b)に示されるように、摺動部品としてのメイティングリング320の摺動面21には、軸方向から見た正面視において円周方向に複数の矩形の静圧凹部としてのディンプル322が形成されている。ディンプル322は、摺動面321の全面に径方向に千鳥状に配置されている。
【0050】
また、図8(c)に示されるように、摺動部品としてのメイティングリング420の摺動面421には、圧凹部としてのスパイラル溝422が形成されている。スパイラル溝422は、摺動面421の全面に配置され、被密封流体側である外径方向および内径方向に開放している。
【0051】
また、図8(d)に示されるように、摺動部品としてのメイティングリング520の摺動面521には、軸方向から見た正面視において円周方向に隣接する複数の矩形の静圧凹部としての凹溝522が形成されている。凹溝522は、摺動面521の外径側にのみ配置され、被密封流体側である外径方向に開放している。
【0052】
また、図8(e)に示されるように、摺動部品としてのメイティングリング620の摺動面621には、軸方向から見た正面視において半円形状の静圧凹部としての凹溝622が形成されている。凹溝622は、被密封流体側である外径方向に開放している。
【0053】
また、図8(f)に示されるように、摺動部品としてのメイティングリング720の摺動面721には、軸方向から見た正面視において矩形状の静圧凹部としての凹溝722が形成されている。凹溝722は、被密封流体側である外径方向に開放している。
【0054】
尚、図8(a)~図8(f)における各静圧凹部の軸方向の深さは、動圧を十分に発生させない程度に深く形成され、被密封流体を供給・保持できるようになっている。
【0055】
以上、本発明の実施例を図面により説明してきたが、具体的な構成はこれら実施例に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲における変更や追加があっても本発明に含まれる。
【0056】
また、前記実施例では、メカニカルシールを構成する部品が摺動部品である場合を例にして説明したが、本発明はこれに限定されて解釈されるものではなく、本発明の範囲を逸脱しない限りにおいて、当業者の知識に基づいて、種々の変更、修正、改良を加え得るものである。
【0057】
例えば、摺動部品として、一般産業機械用のメカニカルシールを例に説明したが、ウォータポンプ用等の他のメカニカルシールであってもよい。また、メカニカルシールは、アウトサイド形のものであってもよい。
【0058】
また、前記実施例では、動圧凹部をシールリングに、静圧凹部をメイティングリングに設ける例について説明したが、静圧凹部をシールリングに、動圧凹部をメイティングリングに設けてもよい。
【0059】
また、摺動部品として、メカニカルシールを例について説明したが、すべり軸受等メカニカルシール以外の摺動部品であってもよい。
【符号の説明】
【0060】
1 回転軸
2 スリーブ
4 ハウジング
5 シールカバー
7 ベローズ
10 シールリング(摺動部品)
11 摺動面
12 凹溝(動圧凹部)
12A 底面
12B,12C 径方向壁
12D 周方向壁
12E 開口
20 メイティングリング(摺動部品)
21 摺動面
22 ディンプル(静圧凹部)
210~810 シールリング(摺動部品)
211~811 摺動面
212 凹溝(動圧凹部)
220~710 メイティングリング(摺動部品)
221~721 摺動面
222 ディンプル(静圧凹部)
312 スパイラル溝(動圧凹部)
322 ディンプル(静圧凹部)
412 凹溝(動圧凹部)
422 スパイラル溝(静圧凹部)
512 レイリーステップ(動圧凹部)
522 凹溝(静圧凹部)
612 レイリーステップ(動圧凹部)
622 凹溝(静圧凹部)
712 凹溝(動圧凹部)
722 凹溝(静圧凹部)
812 ディンプル(動圧凹部)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8