(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-18
(45)【発行日】2022-11-29
(54)【発明の名称】含硫化合物および香味付与剤
(51)【国際特許分類】
C07C 327/06 20060101AFI20221121BHJP
C11B 9/00 20060101ALI20221121BHJP
A23L 27/00 20160101ALI20221121BHJP
A23L 27/20 20160101ALI20221121BHJP
A61Q 13/00 20060101ALN20221121BHJP
A61K 8/46 20060101ALN20221121BHJP
【FI】
C07C327/06 CSP
C11B9/00 H
A23L27/00 Z
A23L27/00 C
A23L27/20 D
A61Q13/00 101
A61K8/46
(21)【出願番号】P 2020042582
(22)【出願日】2020-03-12
【審査請求日】2021-07-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000214537
【氏名又は名称】長谷川香料株式会社
(72)【発明者】
【氏名】小林 宗隆
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 詩歩
(72)【発明者】
【氏名】中西 啓
【審査官】小久保 敦規
(56)【参考文献】
【文献】特開昭53-108924(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第101314582(CN,A)
【文献】特表2009-511031(JP,A)
【文献】特許第6827687(JP,B1)
【文献】国際公開第2019/243869(WO,A1)
【文献】Vinodelie i Vinogradarstvo SSSR,No.4,pp.48-49 (1980).
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07B 31/00 - 63/04
C07C 1/00 - 409/44
C11B 1/00 - 15/00
C11C 1/00 - 5/02
A61J 1/00 - 19/06
A61L 9/00 - 9/22
D06M 13/00 - 15/70
A61K 8/00 - 8/99
A61Q 1/00 - 99/00
A47J 37/10 - 37/12
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表される含硫化合物。
【化1】
[式(1)中、R
1
はホルミル基を表し、R
2およびR
3はそれぞれ独立して炭素数1~4の直鎖または分岐鎖状アルキル基を表す。]
【請求項2】
下記式(1)で表される化合物からなる香味付与剤。
【化2】
[式(2)中、R
4は水素、炭素数1~4の直鎖もしくは分岐鎖状アルキル基、アセチル基、またはホルミル基のいずれかを表し、R
5およびR
6はそれぞれ独立して炭素数1~4の直鎖または分岐鎖状アルキル基を表す。
ただし、R
4
が水素、かつR
5
がエチル基、かつR
6
がエチル基である場合を除く。]
【請求項3】
請求項1に記載の含硫化合物または請求項2に記載の香味付与剤を含有する香料組成物。
【請求項4】
請求項1に記載の含硫化合物、請求項2に記載の香味付与剤または請求項3に記載の香料組成物を含有する消費財。
【請求項5】
請求項1に記載の含硫化合物または請求項2に記載の香味付与剤を香料組成物に配合する工程を含む、香料組成物の香味改善方法。
【請求項6】
請求項1に記載の含硫化合物、請求項2に記載の香味付与剤または請求項3に記載の香料組成物を消費財に配合する工程を含む、消費財の香味改善方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、含硫化合物および香味付与剤、ならびに香料組成物、消費財、香料組成物の香味改善方法、消費財の香味改善方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、飲食品、香粧品、医薬品、保健衛生品など様々な物品(以下、消費財という場合がある。)に対する消費者の要求は、その消費財の香気にも及んでいる。消費者の天然志向の高まりから、天然感に富む多様な香気が求められているが、従来から提案されている香料化合物だけでは十分には対応しきれず、従来にない特徴を付与可能で、かつ、汎用性のある新規化合物または香味付与剤の開発が望まれている。
【0003】
例えば、分子内にメルカプト基(チオール基とも呼ばれる)およびカルボン酸エステル基を有する含硫化合物のいくつかが、香料化合物または香味付与剤として知られている。例えば、特許文献1には、香料化合物として、ジイソペンチル メルカプトサクシネートを含む各種チオール化合物が使用できることが記載されている。特許文献2には、ナッツ様香気・香味付与・増強乃至改良剤として、3-メチルチオプロピオン酸エチルおよび3-メチルチオプロピオン酸メチルが使用できることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特表2015-537099号公報
【文献】特開2006-025706号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、消費財などの香味付与剤として使用されている上記した従来の含硫化合物は、香気や香味の質および強度の点で単調である、コク感などを増強して全体的に満足感を増強する点で十分とはいえない、使用できる香味が限られている、などの少なくとも1つの理由から、多様化している消費財の香気を改善する要望に十分対応できておらず、新規な含硫化合物および香味付与剤、ならびに、これらを含む香料組成物および消費財の開発が期待されている。
【0006】
本発明の課題は、新規な含硫化合物および香味付与剤、ならびに消費財、香料組成物の香味改善方法、消費財の香味改善方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本願において開示される発明のうち、代表的なものの概要を簡単に説明すれば、次の通りである。
【0008】
[1] 下記式(1)で表される含硫化合物。
【0009】
【化1】
[式(1)中、R
1はアセチル基またはホルミル基を表し、R
2およびR
3はそれぞれ独立して炭素数1~4の直鎖または分岐鎖状アルキル基を表す。]
【0010】
[2] 下記式(2)で表される化合物からなる香味付与剤。
【0011】
【化2】
[式(2)中、R
4は水素、炭素数1~4の直鎖もしくは分岐鎖状アルキル基、アセチル基、またはホルミル基のいずれかを表し、R
5およびR
6はそれぞれ独立して炭素数1~4の直鎖または分岐鎖状アルキル基を表す。]
【0012】
[3] [1]に記載の含硫化合物または[2]に記載の香味付与剤を含有する香料組成物。
【0013】
[4] [1]に記載の含硫化合物、[2]に記載の香味付与剤、または[3]に記載の香料組成物を含有する消費財。
【0014】
[5] [1]に記載の含硫化合物または[2]に記載の香味付与剤を香料組成物に配合する工程を含む、香料組成物の香味改善方法。
【0015】
[6] [1]に記載の含硫化合物、[2]に記載の香味付与剤、または[3]に記載の香料組成物を消費財に配合する工程を含む、消費財の香味改善方法。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、新規な含硫化合物および香味付与剤、ならびに消費財、香料組成物の香味改善方法、消費財の香味改善方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の一実施の形態について、詳細に説明する。本明細書において、「~」は下限値および上限値を含む範囲を意味し、「濃度」、「%」は特に断りのない限りそれぞれ「質量濃度」、「質量パーセント濃度」を表すものとする。また、本明細書において、「香味」とは、香気(香り)によって変化し得る1種または複数種の感覚、代表的には嗅覚および味覚などを含む感覚を意味する。本明細書において、「香味付与」(または「香味を付与する」)とは、香気を新たに加える、または香気を増強することを含み、例えば、香気付与の結果、香味が改善されるものを含んでいる。さらには、香気付与の結果、嗅覚および味覚以外の感覚、例えば、冷感、温感、質感(のど越し、固さ、粘度など、テクスチャともいう)、炭酸や辛さなどの刺激感などを増強、抑制、または改善するものであってもよい。また、本明細書において、例えば「本件含硫化合物または本件香味付与剤を含有する」という場合は、特に断りがない限り、本件含硫化合物または本件香味付与剤のいずれか1つを含有する場合だけでなく、本件含硫化合物および本件香味付与剤の両方を含有する場合も含むものとする。
【0018】
(含硫化合物)
本発明の一実施の形態に係る含硫化合物(以下、本件含硫化合物という場合がある。)は、以下の式(1)で表される含硫化合物のうち、R1がアセチル基またはホルミル基であり、R2およびR3がそれぞれ独立して炭素数1~4の直鎖または分岐鎖状アルキル基であるものであって、これまで一切知られていなかった新規化合物である。
【0019】
【0020】
本件含硫化合物の例として、以下の式(3)で表されるジメチル ホルミルチオサクシネート(Dimethyl formylthiosuccinate;R1がホルミル基、R2およびR3がメチル基であるもの)、式(4)で表されるジエチル ホルミルチオサクシネート(Diethyl formylthiosuccinate;R1がホルミル基、R2およびR3がエチル基であるもの)、式(5)で表されるジメチル アセチルチオサクシネート(Dimethyl acetylthiosuccinate;R1がアセチル基、R2およびR3がメチル基であるもの)、式(6)で表されるジエチル アセチルチオサクシネート(Diethyl acetylthiosuccinate;R1がアセチル基、R2およびR3がエチル基であるもの)を挙げることができる。
【0021】
【0022】
【0023】
【0024】
【0025】
本発明者らは、本件含硫化合物がトロピカルフルーツ様、シトラス様、または肉様のいずれか1つ以上の香気を呈することを確認した。
【0026】
(含硫化合物の合成方法)
本件含硫化合物は、例えば、ジアルキル メルカプトサクシネート(Dialkyl mercaptosuccinate)を中間体として、合成することができる。
【0027】
まず、中間体となるジアルキル メルカプトサクシネートは、例えば、メルカプトコハク酸に対し、酸触媒存在下でアルコールを作用させエステル化して合成する。酸触媒としては任意の酸を用いることができ、例えば、p-トルエンスルホン酸(PTSA)、p-トルエンスルホン酸ピリジニウム(PPTS)、カンファースルホン酸(CSA)、硫酸、リン酸、または塩酸等が挙げられる。また、エステル化であれば、上記以外の方法であってもよく、例えばN,N’-ジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC)によるエステル化(脱水縮合)、リパーゼによるエステル化等であってもよい。
【0028】
本件含硫化合物のうち、式(1)のR1がホルミル基であるジアルキル ホルミルチオサクシネート(例えば、式(3)および(4))にあっては、ジアルキル メルカプトサクシネートに、ギ酸と無水酢酸との混合物を作用させてホルミル化することで、ジアルキル ホルミルチオサクシネートを合成することができる。
【0029】
本件含硫化合物のうち、式(1)のR1がアセチル基であるジアルキル アセチルチオサクシネート(例えば、式(5)および(6))にあっては、ジアルキル メルカプトサクシネートに、無水酢酸およびピリジンを作用させてアセチル化することで、ジアルキル アセチルチオサクシネートを合成することができる。
【0030】
なお、中間体であるジアルキル メルカプトサクシネートは、Chem.Res.Toxicol.,6,pp.718-723(1993)、またはJ.Pharm.Sci.,53,787-789(1964)等に記載の方法によっても合成することができる。
【0031】
以上の合成方法により得られた本件含硫化合物は、さらに必要に応じてカラムクロマトグラフィまたは減圧蒸留等の手段を用いて精製してもよい。
【0032】
(香味付与剤)
本発明の一実施の形態に係る香味付与剤(以下、本件香味付与剤という場合がある。)は、式(2)で表される化合物のうち、R4が水素、炭素数1~4の直鎖もしくは分岐鎖状アルキル基、アセチル基、またはホルミル基のいずれかであり、R5およびR6はそれぞれ独立して炭素数1~4の直鎖または分岐鎖状アルキル基であるものからなる。
【0033】
【0034】
本件香味付与剤の例として、以下の式(7)で表されるジメチル メルカプトサクシネート(Dimethyl mercaptosuccinate;R4が水素、R5およびR6がメチル基であるもの)、式(8)で表されるジエチル メルカプトサクシネート(Diethyl mercaptosuccinate;R4が水素、R5およびR6がエチル基であるもの)、式(9)で表されるジイソプロピル メルカプトサクシネート(Diisopropyl mercaptosuccinate;R4が水素、R5およびR6がイソプロピル基であるもの)、式(10)で表されるジイソブチル メルカプトサクシネート(Diisobutyl mercaptosuccinate;R4が水素、R5およびR6がイソブチル基であるもの)、式(11)で表されるジプロピル メルカプトサクシネート(Dipropyl mercaptosuccinate;R4が水素、R5およびR6がプロピル基であるもの)、式(12)で表されるジブチル メルカプトサクシネート(Dibutyl mercaptosuccinate;R4が水素、R5およびR6がブチル基であるもの)、式(13)で表されるジメチル メチルチオサクシネート(Dimethyl methylthiosuccinate;R4、R5およびR6がメチル基であるもの)、式(14)で表されるジエチル メチルチオサクシネート(Diethyl methylthiosuccinate;R4がメチル基、R5およびR6がエチル基であるもの)を挙げることができる。
【0035】
【0036】
【0037】
【0038】
【0039】
【0040】
【0041】
【0042】
【0043】
本発明者らは、本件香味付与剤が、それぞれ、トロピカルフルーツ様、シトラス様、肉様、またはウッド様のいずれか1つ以上の香気を呈することを確認した。
【0044】
本件香味付与剤は、新規な化合物であるか、または従来、それ自体の香気特性について一切確認されておらず、香料化合物としての用途が検討されてこなかった化合物のいずれかであるが、本発明者らは、後述の実施例にその一例を示すように、本件香味付与剤が、香料化合物として使用できるだけでなく、各種物品に配合することで配合対象に香味を付与でき、非常に広範にわたる香味改善効果を奏することを発見し、本発明に至ったものである。
【0045】
配合対象の物品としては特に限定されないが、飲食品、香粧品、医薬品、または保健衛生品などの消費財を例示できる。さらに、本件香味付与剤は、各種香料組成物に配合して、当該香料組成物に香味を付与することもできる。
【0046】
(香味付与剤の入手方法)
本件香味付与剤は、当業者によってなし得る任意の方法で入手することができる。本件香味付与剤のうち、式(2)のR4が水素であるジアルキル メルカプトサクシネート(例えば、式(7)、(8)、(9)、(10)、(11)および(12))にあっては、前述した通りに合成することができる。
【0047】
本件香味付与剤のうち、式(2)のR4がメチル基であるジアルキル メチルチオサクシネート(例えば、式(13)および(14))にあっては、ジアルキル メルカプトサクシネートに、例えば水素化ナトリウム、水素化カリウム、水素化リチウム、炭酸カリウム、水酸化ナトリウム等の塩基、および、例えばヨードメタン、クロロメタン、フルオロメタン等のハロゲン化メタンを作用させてメチル化し、合成することができる。
【0048】
以上の合成方法により得られた本件香味付与剤は、さらに必要に応じてカラムクロマトグラフィまたは減圧蒸留等の手段を用いて精製してもよい。
【0049】
(香料組成物)
本発明の一実施の形態に係る香料組成物(以下、本件香料組成物という場合がある。)は、本件含硫化合物または本件香味付与剤を所定量含み、香味の付与を目的として、各種物品に配合することができるものである。本件香料組成物によれば、例えば、香料組成物の天然感、果汁感、みずみずしさ、ボリューム感、熟成感、完熟感、華やかさ、フレッシュ感、香ばしさ、苦さ、スパイシー感、コク、またはボリューム感などの香味が付与された香料組成物を提供することができ、本件香料組成物が配合された各種物品の香味を改善することができる。
【0050】
具体例としては、飲食品用香料組成物(フレーバー組成物ともいう)、香粧品用香料組成物(フレグランス組成物ともいう)が挙げられる。配合対象となる物品の例としては、上述のように、飲食品、香粧品、医薬品、または保健衛生品などの消費財が挙げられる。本件香料組成物の形態は特に限定されず、水溶性香料組成物、油溶性香料組成物、乳化香料組成物、粉末香料組成物が例示できる。
【0051】
本件香料組成物中の本件含硫化合物または本件香味付与剤の濃度は、香料組成物の配合対象に応じて任意に決定できる。
【0052】
当該濃度の例として、香料組成物の全体質量に対して、0.1ppt~10%、好ましくは1ppb~1%、より好ましくは0.1ppm~0.1%の範囲内が挙げられる。より具体的には、下限値を0.1ppt、1ppt、10ppt、100ppt、1ppb、10ppb、100ppb、1ppm、10ppm、100ppm、0.1%、1%のいずれかとし、上限値を10%、1%、0.1%、100ppm、10ppm、1ppm、100ppb、10ppb、1ppb、100ppt、10ppt、1pptのいずれかとして、これら下限値および上限値の任意の組み合わせによる範囲内とすることができるが、これらに限定されない。なお、香料組成物の処方や香調にも依存するが、香料組成物中の本件含硫化合物または本件香味付与剤の濃度が0.1ppt未満の場合は配合効果が低いと感じられる場合があり、10%を超える場合は本件含硫化合物または本件香味付与剤由来の香りが強く配合対象の香料組成物の香気または風味特性に好ましくない変質を与えると感じられる場合があるが、配合対象の香料組成物の香調などによっては前記下限を下回る濃度または前記上限を上回る濃度で配合してもよい。
【0053】
また、本件香料組成物は、本件含硫化合物または本件香味付与剤に加えて、さらに他の任意の化合物または成分を含有し得る。
【0054】
そのような化合物または成分の例として、各種類の香料化合物または香料組成物、油溶性色素類、ビタミン類、機能性物質、魚肉エキス類、畜肉エキス類、植物エキス類、酵母エキス類、動植物タンパク質類、動植物蛋白分解物類、澱粉、デキストリン、糖類、アミノ酸類、核酸類、有機酸類、溶剤などを例示することができる。例えば、「特許庁公報、周知・慣用技術集(香料)第II部食品用香料、平成12年1月14日発行」、「日本における食品香料化合物の使用実態調査」(平成12年度厚生科学研究報告書、日本香料工業会、平成13年3月発行)、および「合成香料 化学と商品知識」(2016年12月20日増補新版発行、合成香料編集委員会編集、化学工業日報社)に記載されている天然精油、天然香料、合成香料などを挙げることができる。
【0055】
合成香料化合物の具体例として、炭化水素化合物としては、α-ピネン、β-ピネン、γ-テルピネン、ミルセン、カンフェン、リモネンなどのモノテルペン、バレンセン、セドレン、カリオフィレン、ロンギフォレンなどのセスキテルペン、1,3,5-ウンデカトリエンなどが挙げられる。
【0056】
アルコール化合物としては、ブタノール、ペンタノール、3-オクタノール、ヘキサノールなどの飽和アルコール、(Z)-3-ヘキセン-1-オール、プレノール、2,6-ノナジエノールなどの不飽和アルコール、リナロール、ゲラニオール、シトロネロール、テトラヒドロミルセノール、ファルネソール、ネロリドール、セドロール、α-ターピネオール、テルピネン-4-オール、ボルネオールなどのテルペンアルコール、ベンジルアルコール、フェニルエチルアルコール、シンナミルアルコールなどの芳香族アルコールが挙げられる。
【0057】
アルデヒド化合物としては、アセトアルデヒド、ヘキサナール、オクタナール、デカナール、ヒドロキシシトロネラールなどの飽和アルデヒド、(E)-2-ヘキセナール、2,4-オクタジエナールなどの不飽和アルデヒド、シトロネラール、シトラール、ミルテナール、ペリルアルデヒドなどのテルペンアルデヒド、ベンズアルデヒド、シンナミルアルデヒド、バニリン、エチルバニリン、ヘリオトロピン、p-トリルアルデヒドなどの芳香族アルデヒドが挙げられる。
【0058】
ケトン化合物としては、2-ヘプタノン、2-ウンデカノン、1-オクテン-3-オン、アセトイン、6-メチル-5-ヘプテン-2-オン(メチルヘプテノン)などの飽和および不飽和ケトン、ジアセチル、2,3-ペンタンジオン、マルトール、エチルマルトール、シクロテン、2,5-ジメチル-4-ヒドロキシ-3(2H)-フラノンなどのジケトンおよびヒドロキシケトン、カルボン、メントン、ヌートカトンなどのテルペンケトン、α-イオノン、β-イオノン、β-ダマセノンなどのテルペン分解物に由来するケトン、ラズベリーケトンなどの芳香族ケトンが挙げられる。
【0059】
フランまたはエーテル化合物としては、フルフリルアルコール、フルフラール、ローズオキシド、リナロールオキシド、メントフラン、テアスピラン、エストラゴール、オイゲノール、1,8-シネオールなどが挙げられる。
【0060】
エステル化合物としては、酢酸エチル、酢酸イソアミル、酢酸オクチル、酪酸エチル、イソ酪酸エチル、酪酸イソアミル、2-メチル酪酸エチル、イソ吉草酸エチル、イソ酪酸2-メチルブチル、ヘキサン酸エチル、ヘキサン酸アリル、ヘプタン酸エチル、オクタン酸エチル、イソ吉草酸イソアミル、ノナン酸エチルなどの脂肪族エステル、酢酸リナリル、酢酸ゲラニル、酢酸ラバンジュリル、酢酸テルピニル、酢酸ネリルなどのテルペンアルコールエステル、酢酸ベンジル、サリチル酸メチル、ケイ皮酸メチル、プロピオン酸シンナミル、安息香酸エチル、イソ吉草酸シンナミル、3-メチル-2-フェニルグリシド酸エチルなどの芳香族エステルが挙げられる。
【0061】
ラクトン化合物としては、γ-デカラクトン、γ-ドデカラクトン、δ-デカラクトン、δ-ドデカラクトンなどの飽和ラクトン、7-デセン-4-オリド、2-デセン-5-オリドなどの不飽和ラクトンが挙げられる。
【0062】
酸化合物としては、酢酸、酪酸、イソ吉草酸、ヘキサン酸、オクタン酸、ステアリン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸などの飽和・不飽和脂肪酸が挙げられる。
【0063】
含窒素化合物としては、インドール、スカトール、ピリジン、アルキル置換ピラジン、アントラニル酸メチル、トリメチルピラジンなどが挙げられる。
【0064】
含硫化合物としては、メタンチオール、ジメチルスルフィド、ジメチルジスルフィド、アリルイソチオシアネート、3-メチル-2-ブテン-1-チオール、3-メチル-2-ブタンチオール、3-メチル-1-ブタンチオール、2-メチル-1-ブタンチオール、3-メルカプトヘキサノール、4-メルカプト-4-メチル-2-ペンタノン、酢酸3-メルカプトヘキシル、p-メンタ-8-チオール-3-オンおよびフルフリルメルカプタンなどが挙げられる。
【0065】
天然精油としては、スイートオレンジ、ビターオレンジ、プチグレン、レモン、ベルガモット、マンダリン、ネロリ、ペパーミント、スペアミント、ラベンダー、カモミール、ローズマリー、ユーカリ、セージ、バジル、ローズ、ヒヤシンス、ライラック、ゼラニウム、ジャスミン、イランイラン、アニス、クローブ、ジンジャー、ナツメグ、カルダモン、スギ、ヒノキ、ベチバー、パチョリ、ラブダナムなどが挙げられる。
【0066】
各種動植物エキスとしては、ハーブまたはスパイスの抽出物、コーヒー、緑茶、紅茶、またはウーロン茶の抽出物や、乳または乳加工品およびこれらのリパーゼまたはプロテアーゼなどの各種酵素分解物などが挙げられる。
【0067】
本件香料組成物は、本件含硫化合物または本件香味付与剤を公知の方法によって適切な溶媒や分散媒に配合して調製することができる。
【0068】
本件香料組成物の形態としては、本件含硫化合物、本件香味付与剤、またはその他成分を水溶性または油溶性の溶媒に溶解した溶液、乳化製剤、粉末製剤、またはその他固体製剤(固形脂など)などが好ましい。
【0069】
水溶性溶媒としては、例えば、エタノール、メタノール、アセトン、テトラヒドロフラン、アセトニトリル、2-プロパノール、メチルエチルケトン、グリセリン、プロピレングリコール、ジプロピレングリコールなどを例示することができる。これらのうち、飲食品への使用の観点から、エタノールまたはグリセリンが特に好ましい。油溶性溶媒としては、植物性油脂、動物性油脂、精製油脂類(例えば、中鎖脂肪酸トリグリセリドなどの加工油脂や、トリアセチン、トリプロピオニンなどの短鎖脂肪酸トリグリセリドが挙げられる。)、各種精油、トリエチルシトレートなどを例示することができる。
【0070】
また、乳化製剤とするためには、本件含硫化合物または本件香味付与剤を水溶性溶媒および乳化剤と共に乳化して得ることができる。本件含硫化合物または本件香味付与剤の乳化方法としては特に制限されるものではなく、従来から飲食品などに用いられている各種類の乳化剤、例えば、脂肪酸モノグリセリド、脂肪酸ジグリセリド、脂肪酸トリグリセリド、プロピレングリコール脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、レシチン、加工でん粉、ソルビタン脂肪酸エステル、キラヤ抽出物、アラビアガム、トラガントガム、グアーガム、カラヤガム、キサンタンガム、ペクチン、アルギン酸およびその塩類、カラギーナン、ゼラチン、カゼインキラヤサポニン、またはカゼインナトリウムなどの乳化剤を使用してホモミキサー、コロイドミル、回転円盤型ホモジナイザー、高圧ホモジナイザーなどを用いて乳化処理することにより安定性の優れた乳化液を得ることができる。これら乳化剤の使用量は厳密に制限されるものではなく、使用する乳化剤の種類などに応じて広い範囲にわたり変えることができるが、通常、本件含硫化合物または本件香味付与剤1質量部に対し、約0.01~約100質量部、好ましくは約0.1~約50質量部の範囲内が適当である。また、乳化を安定させるため、係る乳化液には水の他に、例えば、グリセリン、プロピレングリコール、ソルビトール、マルチトール、ショ糖、グルコース、トレハロース、糖液、還元水飴などの多価アルコール類の1種類または2種類以上の混合物を配合することができる。
【0071】
また、かくして得られた乳化液は、所望ならば乾燥することにより粉末製剤とすることができる。粉末化に際して、さらに必要に応じて、アラビアガム、トレハロース、デキストリン、砂糖、乳糖、ブドウ糖、水飴、還元水飴などの糖類を適宜配合することもできる。これらの使用量は粉末製剤に望まれる特性などに応じて適宜に選択することができる。
【0072】
本件香料組成物は、上記以外に、必要に応じて、香料組成物において通常使用されている成分を含有していてもよい。例えば、水、エタノールなどの溶剤や、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、グリセリン、ヘキシルグリコール、ベンジルベンゾエート、トリエチルシトレート、ジエチルフタレート、ハーコリン、中鎖脂肪酸トリグリセライド、中鎖脂肪酸ジグリセライドなどの香料保留剤を含有することができる。
【0073】
(香料組成物の香味改善方法)
本発明の一実施の形態に係る香料組成物の香味改善方法(以下、本件に係る香料組成物の香味改善方法という場合がある。)は、本件含硫化合物または本件香味付与剤を香料組成物に配合する工程を含む。
【0074】
本件含硫化合物または本件香味付与剤を、香料組成物に有効量配合することで、例えば、香料組成物の天然感、果汁感、みずみずしさ、ボリューム感、熟成感、完熟感、華やかさ、フレッシュ感、香ばしさ、苦さ、スパイシー感、コク、またはボリューム感などの香味を改善することができる。
【0075】
本件に係る香料組成物の香味改善方法において、香料組成物に対する本件含硫化合物または本件香味付与剤の添加量は、有効成分として含まれる本件含硫化合物または本件香味付与剤によって、香味が付与される有効量であればよく、香料組成物の種類や形態に応じて任意に設定することができる。この場合において、香料組成物に対する本件含硫化合物の濃度の例としては、前掲「香料組成物」の項目で述べた通りである。
【0076】
本件に係る香料組成物の香味改善方法において、本件含硫化合物または本件香味付与剤を香料組成物に添加する方法は特に限定されない。また、本件含硫化合物または本件香味付与剤を香料組成物に添加する時期(タイミング)についても特に限定されない。
【0077】
(消費財)
本発明の一実施の形態に係る消費財(以下、本件消費財という場合がある。)は、本件含硫化合物、本件香味付与剤または本件香料組成物を所定量含むものである。本件消費財によれば、例えば、飲食品や香粧品などに使用された動植物素材を想起させるような天然感、果汁感、みずみずしさ、ボリューム感、熟成感、完熟感、華やかさ、フレッシュ感、香ばしさ、苦さ、スパイシー感、コク、またはボリューム感などが増強され、それが良好なバランスのまま持続可能な消費財を提供することができる。また、本件消費財によれば、トップ、ミドル、ラストのいずれか1以上の香味が増強され、例えば、トップの香味立ち、ミドル以降の香味の持続性(余韻ともいう)の1以上が増強された消費財を提供することができる。
【0078】
本件消費財において、消費財に対する本件含硫化合物、本件香味付与剤または本件香料組成物の添加量は、有効成分として含まれる本件含硫化合物または本件香味付与剤による消費財の香味や所望の効果の程度などに応じて任意に決定できる。
【0079】
当該濃度の例として、飲食品であれば、飲食品の全体質量に対して、本件含硫化合物または本件香味付与剤の濃度として0.001ppt~0.1%、好ましくは1ppt~100ppm、より好ましくは1ppb~100ppmの範囲内が挙げられる。より具体的には、下限値を0.001ppt、0.01ppt、0.1ppt、1ppt、10ppt、100ppt、1ppb、10ppb、100ppb、1ppm、10ppm、100ppmのいずれか、上限値を0.1%、100ppm、10ppm、1ppm、100ppb、10ppb、1ppb、100ppt、10ppt、1ppt、0.1ppt、0.01pptのいずれかとして、これら下限値および上限値の任意の組み合わせの範囲内が挙げられるが、これらに限定されない。好ましい濃度の例として、飲食品の全体質量に対して、本件含硫化合物または本件香味付与剤の濃度として100ppt~100ppb、100ppt~1ppm、1ppb~100ppb、1ppb~1ppm、10ppb~1ppm、10ppb~100ppb、100ppb~10ppm、1ppm~100ppmから、飲食品の風味特性に応じて選択することができるが、これらに限定されない。なお、飲食品の種類や香味にも依存するが、飲食品中の本件含硫化合物または本件香味付与剤の濃度が0.001ppt未満の場合は、香味改善効果が低いと感じられる場合があり、0.1%を超える場合は、本件含硫化合物または本件香味付与剤そのものの香気が突出して配合対象の飲食品の香味に好ましくない変質を与えると感じられる場合があるが、飲食品の香味などによっては前記下限を下回る濃度または前記上限を上回る濃度で配合してもよい。
【0080】
香粧品であれば、香粧品の全体質量に対して、本件含硫化合物または本件香味付与剤の濃度として0.001ppt~0.1%の範囲内が挙げられる。より具体的には、下限値を0.001ppt、0.01ppt、0.1ppt、1ppt、10ppt、100ppt、1ppb、10ppb、100ppb、1ppm、10ppm、100ppmのいずれか、上限値を0.1%、0.01%、100ppm、10ppm、1ppm、100ppb、10ppb、1ppb、100ppt、10ppt、1ppt、0.1ppt、0.01pptのいずれかとして、これら下限値および上限値の任意の組み合わせの範囲内が挙げられるが、これらに限定されない。好ましい濃度の例として、香粧品の全体質量に対して、本件含硫化合物または本件香味付与剤の濃度として、100ppt~100ppm、10ppb~10ppm、100ppb~1ppmの各範囲から、香粧品の香気特性に応じて選択することができるが、これらに限定されない。なお、香粧品の種類や香気にも依存するが、香粧品中の本件含硫化合物または本件香味付与剤の濃度が0.001ppt未満の場合は、香気改善効果が低いまたは変化がないと感じられる場合があり、0.1%を超える場合は、配合対象の香粧品の香気に好ましくない変質を与えると感じられる場合があるが、香粧品の香気などによっては前記下限を下回る濃度または前記上限を上回る濃度で配合してもよい。
【0081】
本件含硫化合物、本件香味付与剤または本件香料組成物は、それ自体を消費財に配合してもよいし、1種または2種以上の水溶性香料、乳化香料組成物、任意の香料化合物、天然精油(例えば、前掲の「特許庁公報、周知・慣用技術集(香料)第II部食品香料」、「日本における食品香料化合物の使用実態調査」、および「合成香料 化学と商品知識」に記載される香料化合物)、から選択される1種以上と併せて消費財に配合してもよい。
【0082】
本件含硫化合物、本件香味付与剤または本件香料組成物を配合可能な飲食品は特に限定されないが、例として、レモン、オレンジ、グレープフルーツ、ライム、マンダリン、みかん、カボス、スダチ、ハッサク、イヨカン、ユズ、シークワーサー、金柑などの各種柑橘風味;ストロベリー、ブルーベリー、ラズベリー、アップル、チェリー、プラム、アプリコット、ピーチ、パイナップル、バナナ、メロン、マンゴー、パパイヤ、キウイ、ペアー、グレープ、マスカット、巨峰などの各種フルーツ風味;ミルク、ヨーグルト、バターなどの乳風味;バニラ風味;緑茶、紅茶、ウーロン茶、ハーブティーなどの各種茶風味;コーヒー風味;コーラ風味;カカオ風味;ココア風味;スペアミント、ペパーミントなどの各種ミント風味;シナモン、カモミール、カルダモン、キャラウェイ、クミン、クローブ、コショウ、コリアンダー、サンショウ、シソ、ショウガ、スターアニス、タイム、トウガラシ、ナツメグ、バジル、マジョラム、ローズマリー、ローレル、ガーリック、ワサビなどの各種スパイスまたはハーブ風味;アーモンド、カシューナッツ、クルミなどの各種ナッツ風味;ワイン、ブランデー、ウイスキー、ラム、ジン、リキュール、日本酒、焼酎、ビールなどの各種酒類風味;タマネギ、セロリ、ニンジン、トマト、キュウリなどの野菜風味;鶏肉、鴨肉、豚肉、牛肉、羊肉、馬肉などの各種畜肉風味;マグロなどの赤身魚、サバ、タイ、サケ、アジなどの白身魚、アユ、マス、コイなどの淡水魚、サザエ、ハマグリ、アサリ、シジミなどの貝類、エビ、カニなどの各種甲殻類、ワカメ、昆布などの各種海藻類、などの各種魚介や海藻風味;米、大麦、小麦、麦芽などの麦類などの各種穀物風味;牛脂、鶏油、ラードなどの畜肉の油脂や各種魚類の油などの各種油脂風味;などの風味の1以上を有する飲食品が挙げられる。すなわち、上記風味の1種類のみを感じさせる飲食品でもよく、2種類以上の風味を感じさせる飲食品でもよく、その複数種類の風味が同類であっても異類であってもよく、例えば、前者の例としてフルーツ風味のうちバナナ、ピーチおよびアップル風味など複数のフルーツ風味を感じさせる(いわゆるミックスフルーツ風味)が挙げられ、後者の例として、レモンなどの柑橘風味および乳風味を感じさせるもの(シトラス風味の乳酸菌飲料など)や、ミント風味や柑橘風味およびコーラ風味を感じさせるもの(ミントまたはレモンフレーバーのコーラ飲料など)が挙げられる。
【0083】
より具体的な飲食品例としては、せんべい、あられ、おこし、餅類、饅頭、ういろう、あん類、羊かん、水羊かん、錦玉、ゼリー、カステラ、飴玉、ビスケット、クラッカー、ポテトチップス、クッキー、パイ、プリン、バタークリーム、カスタードクリーム、シュークリーム、ワッフル、スポンジケーキ、ドーナツ、チョコレート、チューインガム、キャラメル、キャンディー、ピーナッツペーストなどのペースト類、などの菓子類;パン、うどん、ラーメン、中華麺、すし、五目飯、チャーハン、ピラフ、餃子の皮、シューマイの皮、お好み焼き、たこ焼き、などのパン類、麺類、ご飯類;糠漬け、梅干、福神漬け、べったら漬け、千枚漬け、らっきょう、味噌漬け、たくあん漬け、および、それらの漬物の素、などの漬物類;サバ、イワシ、サンマ、サケ、マグロ、カツオ、クジラ、カレイ、イカナゴ、アユなどの魚類、スルメイカ、ヤリイカ、紋甲イカ、ホタルイカなどのイカ類、マダコ、イイダコなどのタコ類、クルマエビ、ボタンエビ、イセエビ、ブラックタイガーなどのエビ類、タラバガニ、ズワイガニ、ワタリガニ、ケガニなどのカニ類、アサリ、ハマグリ、ホタテ、カキ、ムール貝などの貝類、などの魚介類;缶詰、煮魚、佃煮、すり身、水産練り製品(ちくわ、蒲鉾、あげ蒲鉾、カニ足蒲鉾など)、フライ、天ぷら、などの魚介類の加工飲食物類;鶏肉、豚肉、牛肉、羊肉、馬肉などの畜肉類;カレー、シチュー、ビーフシチュー、ハヤシライスソース、ミートソース、マーボ豆腐、ハンバーグ、餃子、釜飯の素、スープ類(コーンスープ、トマトスープ、コンソメスープなど)、肉団子、角煮、畜肉缶詰などの畜肉を用いた加工飲食物類;卓上塩、調味塩、醤油、粉末醤油、味噌、粉末味噌、もろみ、ひしお、ふりかけ、お茶漬けの素、マーガリン、マヨネーズ、ドレッシング、食酢、三杯酢、粉末すし酢、中華の素、天つゆ、めんつゆ(昆布だしまたは鰹だしなど)、ソース(中濃ソース、トマトソースなど)、ケチャップ、焼肉のタレ、カレールー、シチューの素、スープの素、だしの素(昆布だしまたは鰹だしなど)、複合調味料、新みりん、唐揚げ粉・たこ焼き粉などのミックス粉、などの調味料類、これらの調味料類が添加された動物性または植物性だし風味飲食品;チーズ、ヨーグルト、バターなどの乳製品;ビール酵母、パン酵母などの各種酵母、乳酸菌など各種微生物発酵品;野菜の煮物、筑前煮、おでん、鍋物などの煮物類;持ち帰り弁当の具や惣菜類;リンゴ、ぶどう、柑橘類(グレープフルーツ、オレンジ、レモンなど)などの果物の果汁飲料や果汁入り清涼飲料、果物の果肉飲料や果粒入り果実飲料;トマト、ピーマン、セロリ、ウリ、ニガウリ、ニンジン、ジャガイモ、アスパラガス、ワラビ、ゼンマイなどの野菜や、これら野菜類を含む野菜系飲料、野菜スープなどの野菜含有飲食品;コーヒー、ココア、緑茶、紅茶、烏龍茶、清涼飲料、コーラ飲料、炭酸飲料(柑橘香味など各種香味のサイダーなど)、乳酸菌飲料などの嗜好飲料品;生薬やハーブを含む飲料;コーラ飲料、果汁飲料、乳飲料、ノンアルコールビールやいわゆる「第三のビール」などを含むビールテイスト飲料、スポーツドリンク、ハチミツ飲料、ビタミン補給飲料、ミネラル補給飲料、栄養ドリンク、滋養ドリンク、乳酸菌飲料などの機能性飲料;各種酒類(ビール風味、梅酒風味、チューハイ風味など)風味のアルコールテースト飲料などのノンアルコール嗜好飲料類;ワイン、焼酎、泡盛、清酒、ビール、チューハイ、カクテルドリンク、発泡酒、果実酒、薬味酒、いわゆる「第三のビール」などのその他醸造酒(発泡性)またはリキュール(発泡性)など、またはこれらを含むアルコール飲料類;などを挙げることができる。
【0084】
本件含硫化合物、本件香味付与剤または本件香料組成物を配合可能な香粧品は特に限定されないが、例として、オーデコロン、オードトワレ、オードパルファム、パルファムなどの香水類;シャンプー、リンス、整髪料(ヘアクリーム、ポマードなど)などのヘアケア製品;ファンデーション、口紅、リップクリーム、リップグロス、化粧水、化粧用乳液、化粧用クリーム、化粧用ゲル、美容液、パック剤などの化粧品類;制汗スプレー、デオドラントシート、デオドラントクリーム、デオドラントスティックなどのデオドラント製品;無機塩類系、清涼系、炭酸ガス系、スキンケア系、酵素系、生薬系などの入浴剤;サンタン製品、サンスクリーン製品などの日焼け化粧品類;フェイス用石鹸や洗顔クリームなどの洗顔料、ボディー用石鹸やボディソープ、洗濯用石鹸、洗濯用洗剤、消毒用洗剤、防臭洗剤、柔軟剤、台所用洗剤、清掃用洗剤などの保健・衛生用洗剤類;歯みがき、ティッシュペーパー、トイレットペーパーなどの保健・衛生材料類;室内や車内などの芳香消臭剤、ルームフレグランスなどの芳香製品;などを挙げることができる。
【0085】
本件含硫化合物、本件香味付与剤または本件香料組成物が使用可能な香調は限定されるものではなく、本件含硫化合物、本件香味付与剤または本件香料組成物によって香味を改善可能な任意の香調であってよい。ただし、本件含硫化合物、本件香味付与剤または本件香料組成物は、各種フルーツ調の香調の物品に配合した際、フルーツのフレッシュでシャープなトップノートを増強でき、熟した果実や果汁用の香気も増強させることができるため、例えば、シトラス調、フローラル調、フルーティ調、グリーン調、ウッディ調、モス調、トロピカルフラワー調などに好適に使用することができる。より具体的には、レモン、オレンジ、グレープフルーツ、ライム、ユズ、カボス、ローズ、ゼラニウム、ジャスミン、スズラン、ヒヤシンス、ライラック、プルメリア、パイナップル、マンゴー、ピーチなどが挙げられるが、これらに限定されない。
【0086】
(消費財の香味改善方法)
本発明の一実施の形態に係る消費財の香味改善方法(以下、本件に係る消費財の香味改善方法という場合がある。)は、本件含硫化合物、本件香味付与剤、または本件香料組成物を、消費財に配合する工程を含む。
【0087】
本件含硫化合物、本件香味付与剤、または本件香料組成物を、飲食品や香粧品などの消費財に有効量配合することで、例えば、飲食品や香粧品などに使用された動植物素材を想起させるような天然感、果汁感、みずみずしさ、ボリューム感、熟成感、完熟感、華やかさ、フレッシュ感、香ばしさ、苦さ、スパイシー感、コク、またはボリューム感などが増強され、それが良好なバランスのまま持続可能となるという効果を奏する。また、本件含硫化合物、本件香味付与剤、または本件香料組成物を飲食品や香粧品などの消費財に有効量配合することで、トップ、ミドル、ラストのいずれか1以上の香味を増強することができ、例えば、トップの香味立ち、ミドル以降の香味の持続性(余韻ともいう)の1以上を増強することができる。
【0088】
本件に係る消費財の香味改善方法において、消費財に対する本件含硫化合物、本件香味付与剤、または本件香料組成物の添加量は、有効成分として含まれる本件含硫化合物または本件香味付与剤によって、香味が付与される有効量であればよく、消費財の種類や形態に応じて任意に設定することができる。この場合において、消費財に対する本件含硫化合物の濃度の例としては、前掲「消費財」の項目で述べた通りである。
【0089】
消費財の香味改善方法において、本件香料組成物を消費財に添加する方法は特に限定されない。また、本件香料組成物を消費財に添加する時期(タイミング)についても特に限定されない。
【実施例】
【0090】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明する。なお、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0091】
[実施例1]本件含硫化合物および本件香味付与剤の合成例
以下、本件含硫化合物および本件香味付与剤の合成例について説明する。なお、ジメチル メチルチオサクシネートは、Biomacromolecules,10,pp.366-373(2009)に記載の方法により、ジエチル メチルチオサクシネートは、Chem.Res.Toxicol.,6,pp.718-723(1993)に記載の方法により、それぞれ合成した。
【0092】
<実施例1-1>ジメチル ホルミルチオサクシネートの合成
100mL三口フラスコに対し、ギ酸(8.28g)および無水酢酸(18.39g)を加え、窒素雰囲気下40℃で2時間撹拌した。室温へと冷却後、ジメチル メルカプトサクシネート(8.91g)およびピリジン(0.5mL)の混合液を加え、60℃で2時間撹拌した。反応液に対し水道水を加え(100mL)、エーテル抽出した(100mL)。有機相を水道水(100mL)、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液(100mL)、および飽和食塩水(100mL)で順次洗浄後、無水硫酸マグネシウムで乾燥後濾過し、減圧濃縮した。残渣を2回の減圧蒸留にて精製し(101-105℃/0.3kPa)、無色油状物質としてジメチル ホルミルチオサクシネートを得た(0.65g、収率6%)。
【0093】
得られた化合物の物性データは以下の通りであった。
1H NMR(CDCl3,400MHz):δ10.10(s,1H),4.71(dd,1H,J=8.0Hz,5.6Hz),3.74(s,3H),3.69(s,3H),3.00(dd,1H,J=17.2Hz,8.0Hz),2.89(dd,1H,J=17.2Hz,5.6Hz).
13C NMR(CDCl3,100MHz):δ185.0,170.6,170.2,53.2,52.2,38.2,36.2.
MS(EI,70eV):m/z 206(0.09,M+),175(10),147(15),146(92),119(41),118(100),113(31),87(38),86(18),77(12),59(53),58(27),55(20).
【0094】
得られたジメチル ホルミルチオサクシネートの香りは、トロピカルフルーツ様およびシトラス様の香りを含むものであった。
【0095】
<実施例1-2>ジエチル ホルミルチオサクシネートの合成
ジメチル メルカプトサクシネートの代わりにジエチル メルカプトサクシネート(2.06g)を原料とし、実施例1-1と同様の方法によって、無色油状物質としてジエチル ホルミルチオサクシネートを得た(0.79g、収率34%)。
【0096】
得られた化合物の物性データは以下の通りであった。
1H NMR(CDCl3,400MHz):δ10.07(s,1H),4.63(dd,1H,J=7.6Hz,5.6Hz),4.14(q,2H,J=7.2Hz),4.10(q,2H,J=7.2Hz),2.94(dd,1H,J=17.2Hz,7.6Hz),2.83(dd,1H,J=17.2Hz,5.6Hz),1.20(t,3H,J=7.2Hz),1.19(t,3H,J=7.2Hz).
13C NMR(CDCl3,100MHz):δ185.2,170.1,169.6,62.2,61.2,38.6,36.5,14.1,13.9.
MS(EI,70eV):m/z 234(0.004,M+),207(7),189(21),161(24),160(100),133(37),132(92),127(17),105(24),99(18),87(28),86(11),61(12),59(9),55(11),29(24).
【0097】
得られたジエチル ホルミルチオサクシネートの香りは、トロピカルフルーツ様およびシトラス様の香りを含むものであった。
【0098】
<実施例1-3>ジメチル アセチルチオサクシネートの合成
100mL二口フラスコに対し、ジメチル メルカプトサクシネート(1.78g)、ピリジン(5mL)、4-ジメチルアミノピリジン(0.12g)および無水酢酸(1.53g)を加え、10分撹拌した。反応液に対し水道水(50mL)を加え、ヘキサン抽出した(50mL)。有機相を希塩酸(1mol/L,30mL)、水道水(30mL)、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液(30mL)、飽和食塩水(30mL)で順次洗浄し、無水硫酸マグネシウムで乾燥後濾過し、減圧濃縮した。残渣を減圧蒸留にて精製し(95-96℃/0.1kPa)、無色油状物質としてジメチル アセチルチオサクシネートを得た(1.51g,収率69%)。
【0099】
得られた化合物の物性データは以下の通りであった。
1H NMR(CDCl3,400MHz):δ4.51(dd,1H,J=7.6Hz,5.6Hz),3.71(s,3H),3.67(s,3H),2.95(dd,1H,J=17.2Hz,7.6Hz),2.83(dd,1H,J=17.2Hz,5.6Hz),2.34(s,3H).
13C NMR(CDCl3,100MHz):δ193.0,170.8,170.7,53.0,52.0,40.8,36.4,30.1.
MS(EI,70eV):m/z 220(0.1,M+),189(23),188(16),178(81),161(15),146(90),145(40),119(13),118(59),113(18),87(12),59(19),58(11),55(11),43(100).
【0100】
得られたジメチル アセチルチオサクシネートの香りは、トロピカルフルーツ様、シトラス様および肉様の香りを含むものであった。
【0101】
<実施例1-4>ジエチル アセチルチオサクシネートの合成
実施例1-3において、ジメチル メルカプトサクシネートの代わりにジエチル メルカプトサクシネート(2.06g)を原料とし、実施例1-3と同様の方法によって、無色油状物質としてジエチル アセチルチオサクシネートを得た(1.54g、収率62%)。
【0102】
得られた化合物の物性データは以下の通りであった。
1H NMR(CDCl3,400MHz):δ4.47(dd,1H,J=8.0Hz,5.6Hz),4.14(q,2H,J=7.2Hz),4.10(q,2H,J=7.2Hz),2.91(dd,1H,J=17.2Hz,8.0Hz),2.81(dd,1H,J=17.2Hz,5.6Hz),2.32(s,3H),1.21(t,3H,J=7.2Hz),1.19(t,3H,J=7.2Hz).
13C NMR(CDCl3,100MHz):δ193.0,170.3,170.1,61.9,60.9,41.2,36.7,30.0,14.0,13.9.
MS(EI,70eV):m/z 248(0.03,M+),206(64),203(33),175(14),173(34),160(86),133(28),132(100),127(20),104(16),99(25),87(15),55(12),43(95),29(21).
【0103】
得られたジエチル アセチルチオサクシネートの香りは、トロピカルフルーツ様、シトラス様および肉様の香りを含むものであった。
【0104】
<実施例1-5>ジイソプロピル メルカプトサクシネートの合成
300mL三口フラスコに対し、メルカプトコハク酸(15.0g、100mmol)およびイソプロピルアルコール(100mL)を入れ、p-トルエンスルホン酸(0.19g、1mmol)を加えた後、加熱還流下10時間撹拌した。反応液を加熱し溶媒を常圧回収した後、そのまま減圧蒸留に付し(87-91℃/0.2kPa)、無色油状物質として目的物であるジイソプロピル メルカプトサクシネートを得た(13.2g、収率56%)。
【0105】
得られた化合物の物性データは以下の通りであった。
1H NMR(CDCl3,400MHz):δ5.03-4.92(m,2H),3.68-3.61(m,1H),2.90(ddd,1H,J=16.8Hz,9.2Hz,1.2Hz),2.67(br dd,1H,J=16.8Hz,6.0Hz),2.11(br d,1H,J=9.2Hz),1.24-1.17(m,12H).
13C NMR(CDCl3,100MHz):δ171.7,169.7,69.1,68.5,40.1,36.5,21.7,21.5,21.4.
MS(EI,70eV):m/z 234(5,M+),192(29),175(21),174(14),150(51),133(74),132(100),105(42),104(38),87(20),43(44),41(13).
【0106】
得られたジイソプロピル メルカプトサクシネートの香りは、トロピカルフルーツ様およびシトラス様の香りを含むものであった。
【0107】
<実施例1-6>ジイソブチル メルカプトサクシネートの合成
実施例1-5において、イソプロピルアルコールの代わりにイソブチルアルコール(70mL)を原料とし、実施例1-5と同様の方法によって、無色油状物質としてジイソブチル メルカプトサクシネートを得た(8.36g、収率32%)。
【0108】
得られた化合物の物性データは以下の通りであった。
1H NMR(CDCl3,400MHz):δ3.95-3.83(m,4H),3.74(dt,1H,J=9.2Hz,6.0Hz),2.98(dd,1H,J=16.8Hz,9.2Hz),2.74(dd,1H,J=16.8Hz,6.0Hz),2.17(d,1H,J=9.2Hz),1.99-1.83(m,2H),0.92-0.87(m,12H).
13C NMR(CDCl3,100MHz):δ172.3,170.3,71.7,71.1,39.8,36.3,27.7,27.6,19.0,18.9.
MS(EI,70eV):m/z 262(3,M+),206(9),188(9),150(23),133(28),132(82),105(18),104(21),101(12),57(100),56(12)41(21),29(10).
【0109】
得られたジイソブチル メルカプトサクシネートの香りは、トロピカルフルーツ様の香りを含むものであった。
【0110】
<実施例1-7>ジプロピル メルカプトサクシネートの合成
実施例1-5において、イソプロピルアルコールの代わりにプロピルアルコール(50mL)を原料とし、実施例1-5と同様の方法によって、無色油状物質としてジプロピル メルカプトサクシネートを得た(9.7g、収率41%)。
【0111】
得られた化合物の物性データは以下の通りであった。
1H NMR(CDCl3,400MHz):δ4.15-4.01(m,4H),3.74(dt,1H,J=5.6Hz,9.6Hz),2.99(dd,1H,J=16.8Hz,9.6Hz),2.74(dd,1H,J=16.8Hz,5.6Hz),2.18(d,1H,J=9.6Hz),1.72-1.58(m,4H),0.94(t,3H,J=7.2Hz),0.91(t,3H,J=7.2Hz).
13C NMR(CDCl3,100MHz):δ172.4,170.4,67.3,66.6,39.9,36.3,21.9,21.8,10.3,10.3.
MS(EI,70eV):m/z 234(7,M+),175(23),174(48),146(17),133(46),132(100),105(33),104(54),101(9)87(17),43(35),41(13).
【0112】
得られたジプロピル メルカプトサクシネートの香りは、トロピカルフルーツ様および肉様の香りを含み、ロースト感を感じさせるものであった。
【0113】
<実施例1-8>ジブチル メルカプトサクシネートの合成
実施例1-5において、イソプロピルアルコールの代わりにブチルアルコール(30mL)を原料とし、実施例1-5と同様の方法によって、無色油状物質としてジブチル メルカプトサクシネートを得た(23.1g、収率87%)。
【0114】
得られた化合物の物性データは以下の通りであった。
1H NMR(CDCl3,400MHz):δ4.19-4.05(m,4H),3.72(dt,1H,J=6.0Hz,9.6Hz),2.98(dd,1H,J=16.8Hz,9.6Hz),2.73(dd,1H,J=16.8Hz,6.0Hz),2.17(d,1H,J=9.6Hz),1.67-1.54(m,4H),1.43-1.29(m,4H),0.94-0.88(m,6H).
13C NMR(CDCl3,100MHz):δ172.4,170.4,65.6,64.9,39.9,36.3,30.5,30.5,19.0,19.0,13.7.
MS(EI,70eV):m/z 262(6,M+),188(24),133(29),132(100),105(21),104(36),101(18),57(30),56(12),41(19),29(11).
【0115】
得られたジブチル メルカプトサクシネートの香りは、トロピカルフルーツ様および肉様の香りを含み、ロースト感を感じさせるものであった。
【0116】
<実施例1-9>ジメチル メチルチオサクシネートの合成
200mL三口フラスコに対し、水素化ナトリウム(2.62g,55%純度)およびテトラヒドロフラン(50mL)を加え、窒素雰囲気、氷水冷下とした。ジメチル メルカプトサクシネート(8.91g)を10分かけ滴下し、同温で30分撹拌後ヨウ化メチル(3.74mL)を添加し、同温で1時間撹拌した。反応液に対し水道水を加え(100mL)、エーテル抽出した(50mL)。有機相を水道水(50mL)および飽和食塩水(50mL)で順次洗浄し、無水硫酸マグネシウムで乾燥後濾過し、減圧濃縮した。残渣を減圧蒸留にて精製し(86℃/0.3kPa)、無色油状物質としてジメチル メチルチオサクシネート(5.05g,収率53%)を得た。
【0117】
得られた化合物の物性データは以下の通りであった。
1H NMR(CDCl3,400MHz):δ3.75(s,3H),3.68(s,3H),3.61(dd,1H,J=10.0Hz,5.6Hz),3.00(dd,1H,J=17.2Hz,10.0Hz),2.67(dd,1H,J=17.2Hz,5.6Hz),2.15(s,3H).
13C NMR(CDCl3,100MHz):δ171.7,171.1,52.5,52.0,42.0,35.7,13.9.
MS(EI,70eV):m/z 192(20,M+),161(11),160(77),146(13),133(65),132(100),114(37),113(10),100(16),91(58),75(17),74(14),59(25),55(16).
【0118】
得られたジメチル メチルチオサクシネートの香りは、トロピカルフルーツ様およびウッド調の香りを含み、ロースト感を感じさせるものであった。
【0119】
<実施例1-10>ジエチル メチルチオサクシネートの合成
実施例1-9において、ジメチル メルカプトサクシネートの代わりにジエチル メルカプトサクシネート(2.06g)を原料とし、実施例1-9と同様の方法によって、無色油状物質としてジエチル メチルチオサクシネートを得た(1.27g、収率58%)。
【0120】
得られた化合物の物性データは以下の通りであった。
1H NMR(CDCl3,400MHz):δ4.23-4.16(m,2H),4.12(q,2H,J=7.2Hz),3.58(ddd,1H,J=10.0Hz,5.6Hz,0.8Hz),2.97(dd,1H,J=17.2Hz,10.0Hz),2.64(dd,1H,J=17.2Hz,5.6Hz),2.15(d,3H,J=0.8Hz),1.27(br t,3H,J=7.2Hz),1.21(br t,3H,J=7.2Hz).
13C NMR(CDCl3,100MHz):δ171.2,170.7,61.3,60.9,42.2,35.9,14.1,14.1,13.9.
MS(EI,70eV):m/z 220(19,M+),175(17),174(75),147(68),146(100),128(31),105(19),100(28),75(29),73(11),55(12),29(20).
【0121】
得られたジエチル メチルチオサクシネートの香りは、トロピカルフルーツ様およびウッド調の香りを含み、ロースト感を感じさせるものであった。
【0122】
[実施例2]香料組成物(柑橘風味)への配合効果
下記表1の処方に従って、グレープフルーツエッセンス基本調合香料組成物(以下、本件調合香料組成物という。)を調製した。
【0123】
【0124】
本件調合香料組成物に、本件含硫化合物または本件香味付与剤を下記表2の通り配合し、実施例2-1~2-33の香料組成物を調製した。また、本件調合香料組成物に、既知の香料化合物であるジイソペンチル メルカプトサクシネートを下記表2の通り配合し、比較例2-1の香料組成物を調製した。そして、得られた実施例2-1~2-33および比較例2-1の香料組成物について、15名のよく訓練されたパネラー(経験年数10年以上)による官能評価を行った。官能評価は、本件含硫化合物、本件香味付与剤、およびジイソペンチル メルカプトサクシネートのいずれも配合していない本件調合香料組成物を対照品として、実施例2-1~2-33および比較例2-1を対照品と比べた際の香気についてコメントさせるとともに、対照品と比べた天然感について下記評価基準にしたがいパネラーが点数付けしたものを平均することにより行った。ここで天然感とは、果汁感や果皮感に富み、丸ごとのグレープフルーツ果実そのものを思わせるような感覚を意味する。
【0125】
<天然感に関する評価基準>
対照品に比べて大きく増加した:4
対照品に比べてある程度増加した:3
対照品に比べて若干増加した:2
対照品と同等である:1
【0126】
官能評価の結果を下記表2に示す。
【0127】
【0128】
表2に示すように、本件含硫化合物および本件香味付与剤は、構造類似の化合物であるジイソペンチル メルカプトサクシネートでは得られない賦香効果および各種香味の付与効果を奏することが確認できた。
【0129】
[実施例3]飲食品(フルーツ飲料)への配合効果
市販の果汁50%のマンゴージュースに、本件含硫化合物または本件香味付与剤を下記表3の通り配合し、実施例3-1~3-15のフルーツ飲料を調製した。そして、得られた実施例3-1~3-15のフルーツ飲料について、15名のよく訓練されたパネラー(経験年数10年以上)による官能評価を行った。官能評価は、本件含硫化合物および本件香味付与剤のいずれも配合していない上記マンゴージュースを対照品として、実施例3-1~3-15を対照品と比べた際の香味の違いについてパネラーにコメントさせるとともに、果肉感および熟成感について下記評価基準にしたがいパネラーが点数付けしたものを平均することにより行った。ここで果肉感とは、マンゴー果実そのものをまるごと食したような繊維感、甘さや果汁感を包含する感覚を意味し、熟成感とは、熟した果実のような甘くジューシーで濃厚な香味を意味するものとする。
【0130】
<果肉感および熟成感に関する評価基準>
対照品に比べて大きく増加した:4
対照品に比べてある程度増加した:3
対照品に比べて若干増加した:2
対照品と同等である:1
【0131】
官能評価の結果を下記表3に示す。
【0132】
【0133】
表3に示すように、本件含硫化合物および本件香味付与剤は、果肉感、熟成感などを付与し、フルーツ飲料の香味を改善することが確認された。なお、本発明者らは、本件含硫化合物および本件香味付与剤のうち、表3に記載されていないものについても、表3と同様の効果が得られることを確認した(以下、実施例4~10について同様である。)。
【0134】
[実施例4]飲食品(各種嗜好飲料(コーヒー、紅茶、麦茶、ココア))への配合効果
市販の容器詰めブラックコーヒー、無糖紅茶、麦茶、ココアに、本件含硫化合物または本件香味付与剤を下記表4の通り配合し、実施例4-1~4-20の嗜好飲料を調製した。そして、得られた実施例4-1~4-20の嗜好飲料について、15名のよく訓練されたパネラー(経験年数10年以上)による官能評価を行った。官能評価は、本件含硫化合物および本件香味付与剤のいずれも配合していない上記各市販品を対照品として、実施例4-1~4-20を対照品と比べた際の香味の違いについてパネラーにコメントさせるとともに、嗜好度およびボリューム感について下記の基準にしたがいパネラーが点数付けしたものを平均することにより行った。ここで嗜好度とは、対照品と比べた、その飲料を好ましいと感じられる度合いを意味し、ボリューム感とは、香味の全体的な厚みや濃厚感が豊富で、好ましい感覚を意味する。
【0135】
<嗜好度およびボリューム感に関する評価基準>
対照品に比べて大きく増加した:4
対照品に比べてある程度増加した:3
対照品に比べて若干増加した:2
対照品と同等である:1
【0136】
官能評価の結果を下記表4に示す。
【0137】
【0138】
表4に示すように、本件含硫化合物および本件香味付与剤は、香ばしさや茶葉のような苦みを良好に増強し、嗜好度およびボリューム感を高めることが確認された。
【0139】
[実施例5]飲食品(ビール風味飲料)への配合効果
市販のビール風味飲料(ノンアルコール)に、本件含硫化合物または本件香味付与剤を下記表5の通り配合し、実施例5-1~5-5のビール風味飲料を調製した。そして、得られた実施例5-1~5-5のビール風味飲料について、5名のよく訓練されたパネラー(経験年数10年以上)による官能評価を行った。官能評価は、本件含硫化合物および本件香味付与剤のいずれも配合していない上記ビール風味飲料を対照品として、実施例5-1~5-5を対照品と比べた際の香味の違いについてパネラーにコメントさせることにより行った。
【0140】
官能評価の結果を下記表5に示す。
【0141】
【0142】
表5に示すように、本件含硫化合物および本件香味付与剤は、苦い香味および麦汁感を良好に増強することが確認された。
【0143】
[実施例6]飲食品(ナッツ風味調味料)への配合効果
市販のアーモンドバターに、本件含硫化合物または本件香味付与剤を下記表6の通り配合し、実施例6-1~6-5のナッツ風味調味料を調製した。また、市販のアーモンドバターに、既知の香料化合物であるジイソペンチル メルカプトサクシネートを下記表6の通り配合し、比較例6-1のナッツ風味調味料を調整した。そして、得られた実施例6-1~6-5および比較例6-1のナッツ風味調味料について、15名のよく訓練されたパネラー(経験年数10年以上)による官能評価を行った。官能評価は、本件含硫化合物および本件香味付与剤のいずれも配合していない上記アーモンドバターを対照品として、実施例6-1~6-5および比較例6-1を対照品と比べた際の香味の違いについてコメントさせるとともに、対照品と比べた嗜好度について前述の評価基準にしたがいパネラーが点数付けしたものを平均することにより行った。
【0144】
官能評価の結果を下記表6に示す。
【0145】
【0146】
表6に示すように、本件含硫化合物および本件香味付与剤は、構造類似の化合物であるジイソペンチル メルカプトサクシネートでは得られない賦香効果および各種香味の付与効果を奏することが確認できた。
【0147】
[実施例7]飲食品(ハーブ・スパイス風味ドレッシング)への配合効果
市販のガーリック風味、オニオン風味、コショウ風味、バジル風味の各ドレッシングに、本件含硫化合物または本件香味付与剤を下記表7の通り配合し、実施例7-1~7-20の香味ドレッシングを調製した。そして、得られた実施例7-1~7-20の香味ドレッシングについて、5名のよく訓練されたパネラー(経験年数10年以上)による官能評価を行った。官能評価は、本件含硫化合物および本件香味付与剤のいずれも配合していない上記各ドレッシングを対照品として、実施例7-1~7-20を対照品と比べた際の香味の違いについてコメントさせた。
【0148】
官能評価の結果を下記表7に示す。
【0149】
【0150】
表7に示すように、本件含硫化合物および本件香味付与剤は、刺激感やコクを良好に増強することが確認できた。
【0151】
[実施例8]飲食品(酒類)への配合効果
市販の赤ワインおよびウイスキーに、本件含硫化合物または本件香味付与剤を下記表8の通り配合し、実施例8-1~8-10のアルコール飲料を調製した。そして、得られた実施例8-1~8-10のアルコール飲料について、7名のよく訓練されたパネラー(経験年数10年以上)による官能評価を行った。官能評価は、本件含硫化合物および本件香味付与剤のいずれも配合していない上記各市販品を対照品として、実施例8-1~8-10を対照品と比べた際の香味の違いについてコメントさせることによって行った。
【0152】
官能評価の結果を下記表8に示す。
【0153】
【0154】
表8に示すように、本件含硫化合物および本件香味付与剤は、酒類のコクを良好に増強することが確認された。
【0155】
[実施例9]飲食品(スープ)への配合効果
市販のオニオンコンソメスープ(レトルト調理品)に、本件含硫化合物または本件香味付与剤を下記表9の通り配合し、実施例9-1~9-5のスープを調製した。そして、得られた実施例9-1~9-5のスープについて、5名のよく訓練されたパネラー(経験年数10年以上)による官能評価を行った。官能評価は、本件含硫化合物および本件香味付与剤のいずれも配合していない上記オニオンコンソメスープを対照品として、実施例9-1~9-5を対照品と比べた際の香味の違いについてパネラーにコメントさせることにより行った。
【0156】
官能評価の結果を下記表9に示す。
【0157】
【0158】
表9に示すように、本件含硫化合物および本件香味付与剤は、香ばしさやコク、甘さを良好に増強することが確認された。
【0159】
[実施例10]香粧品(台所用洗剤)への配合効果
市販のオレンジ調、ローズ調およびピーチ調の香調の各台所用洗剤に、本件含硫化合物または本件香味付与剤を下記表10の通り配合し、実施例10-1~10-15の台所用洗剤を調製した。そして、得られた実施例10-1~10-15の台所用洗剤について、15名のよく訓練されたパネラー(経験年数10年以上)による官能評価を行った。官能評価は、本件含硫化合物および本件香味付与剤のいずれも配合していない上記各台所用洗剤を対照品として、実施例10-1~10-15を対照品と比べた際の香気の違いについてパネラーにコメントさせるとともに、天然感について下記の基準にしたがいパネラーが点数付けしたものを平均することにより行った。ここで天然感とは、対照品の各香調に対応する天然素材そのもの(例えば、オレンジ果実、ローズ生花、およびピーチ果実)を感じさせるような感覚を包含するものとする。
【0160】
<天然感に関する評価基準>
対照品に比べて大きく増加した:4
対照品に比べてある程度増加した:3
対照品に比べて若干増加した:2
対照品と同等である:1
【0161】
官能評価の結果を下記表10に示す。
【0162】
【0163】
表10に示すように、本件含硫化合物および本件香味付与剤は、各種フローラル調やフルーツ調の香調の香気の増強に有用であることが確認された。