IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 鹿島建設株式会社の特許一覧 ▶ ケミカルグラウト株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-免震装置の冷却方法 図1
  • 特許-免震装置の冷却方法 図2
  • 特許-免震装置の冷却方法 図3
  • 特許-免震装置の冷却方法 図4
  • 特許-免震装置の冷却方法 図5
  • 特許-免震装置の冷却方法 図6
  • 特許-免震装置の冷却方法 図7
  • 特許-免震装置の冷却方法 図8
  • 特許-免震装置の冷却方法 図9
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-18
(45)【発行日】2022-11-29
(54)【発明の名称】免震装置の冷却方法
(51)【国際特許分類】
   E04G 23/02 20060101AFI20221121BHJP
   E04H 9/02 20060101ALI20221121BHJP
   F16F 15/04 20060101ALI20221121BHJP
   F16F 1/40 20060101ALN20221121BHJP
【FI】
E04G23/02 C
E04H9/02 331A
F16F15/04 P
F16F1/40
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2017024374
(22)【出願日】2017-02-13
(65)【公開番号】P2018131750
(43)【公開日】2018-08-23
【審査請求日】2019-08-07
【審判番号】
【審判請求日】2021-09-29
(73)【特許権者】
【識別番号】000001373
【氏名又は名称】鹿島建設株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】390002233
【氏名又は名称】ケミカルグラウト株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100122781
【弁理士】
【氏名又は名称】近藤 寛
(74)【代理人】
【識別番号】100182006
【弁理士】
【氏名又は名称】湯本 譲司
(72)【発明者】
【氏名】山田 篤史
(72)【発明者】
【氏名】井口 雅章
(72)【発明者】
【氏名】尾崎 悦広
(72)【発明者】
【氏名】釘本 幹生
【合議体】
【審判長】前川 慎喜
【審判官】藤脇 昌也
【審判官】有家 秀郎
(56)【参考文献】
【文献】特開平8-291640(JP,A)
【文献】特開平8-285011(JP,A)
【文献】特開平9-221921(JP,A)
【文献】特開2001-263419(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04H 9/00 - 9/16
E04G 23/00 - 23/08
F16F 15/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
積層ゴムを備えた免震装置の冷却方法であって、
前記積層ゴムを冷却させることによって前記積層ゴムを収縮させる工程と、
前記積層ゴムの膨張を抑制する膨張抑制部材を取り付ける工程と、
を備え、
前記免震装置は、前記積層ゴムの鉛直方向上部に位置する上フランジと、前記積層ゴムの鉛直方向下部に位置する下フランジと、を備え、
前記膨張抑制部材は、前記上フランジに固定される第1固定部材と、前記下フランジに固定される第2固定部材と、前記第1固定部材の上側への移動、及び前記第2固定部材の下側への移動を規制する規制部材と、を備える、
免震装置の冷却方法。
【請求項2】
前記膨張抑制部材を取り付ける工程では、前記膨張抑制部材を前記上フランジと前記下フランジの間に取り付ける、
請求項1に記載の免震装置の冷却方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、免震装置の積層ゴムを冷却して収縮させる免震装置の冷却方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特開平10-88824号公報には、冷却装置を用いた積層ゴムの交換方法が記載されている。この交換方法では、積層ゴムの周囲を断熱材で囲むと共に、断熱材の外側にジャッキを配置してジャッキを伸長させた後に、冷却装置によって断熱材内の積層ゴムを冷却させる。この冷却装置は冷気導入ダクトと排気ダクトとを備えており、冷気導入ダクト及び排気ダクトを断熱材内に挿入し、冷気導入ダクトから断熱材内に冷気を導入すると共に排気ダクトから排気を行うことによって免震装置を冷却させる。この冷却によって積層ゴムは収縮し、この収縮で免震装置と上部構造物との間に隙間が形成された後に免震装置を撤去している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平10-88824号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前述の冷却装置を用いた積層ゴムの交換では、冷気導入ダクトと排気ダクトとを備える冷却装置を免震装置の周囲に配置し、断熱材で積層ゴムの全周を囲むと共に、冷気導入ダクト及び排気ダクトを断熱材内に挿入する必要がある。この冷却装置では、冷気導入ダクトからの冷気によって免震装置を冷却し、この冷気によって免震装置が収縮するのを待ってから免震装置を撤去する必要がある。従って、冷気による免震装置の冷却では免震装置が収縮するまでに時間がかかる。
【0005】
免震装置の冷却の作業を長時間行う場合には、作業員を配置して監視等を長時間行う必要があるため、作業環境において改善の余地がある。また、免震装置の撤去又は設置に伴い、積層ゴムの冷却により免震装置を収縮させる場合において、積層ゴムの冷却を途中で中断すると、積層ゴムは膨張を開始する。すなわち、例えば夕方又は週末の作業終了時に積層ゴムの冷却を中断すると、その後、積層ゴムが徐々に膨張する。従って、再び作業を開始するときには、積層ゴムが膨張した状態から再度冷却を行うことになる。よって、冷却の作業に無駄が多く、作業期間が長期化しているという問題がある。
【0006】
本発明は、作業期間を短縮させて作業環境を良好にすることができる免震装置の冷却方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る免震装置の冷却方法は、積層ゴムを備えた免震装置の冷却方法であって、積層ゴムを冷却させることによって積層ゴムを収縮させる工程と、積層ゴムの膨張を抑制する膨張抑制部材を取り付ける工程と、を備える。
【0008】
本発明に係る免震装置の冷却方法では、積層ゴムを冷却して積層ゴムを収縮させる。よって、積層ゴムの冷却及び収縮によって免震装置の高さを低くすることができるので、免震装置の撤去、及び免震装置の新設を容易に行うことができる。また、この冷却方法では、積層ゴムの膨張を抑制する膨張抑制部材を免震装置に取り付ける。この膨張抑制部材を取り付けることにより、積層ゴムの冷却を中断した場合であっても、積層ゴムの膨張を抑えることができる。従って、冷却を中断しても積層ゴムの膨張が抑制され、再び作業を行うときには積層ゴムが収縮した状態から再度冷却を行うことができるので、積層ゴムの冷却作業を効率よく行うことができる。よって、積層ゴムを効率よく収縮させることができ、冷却の作業の無駄を無くすことができる。従って、作業期間を短縮させることができる。また、積層ゴムの冷却の作業を長時間行う必要がなくなるので、長時間の監視等を不要とすることができ、作業環境を良好にすることができる。
【0009】
また、免震装置は、積層ゴムの鉛直方向上部に位置する上フランジと、積層ゴムの鉛直方向下部に位置する下フランジと、を備え、膨張抑制部材を取り付ける工程では、膨張抑制部材を上フランジと下フランジの間に取り付けてもよい。この場合、免震装置の上フランジと下フランジとの間に膨張抑制部材を容易に取り付けることができる。また、上フランジと下フランジを膨張抑制部材を取り付ける箇所として有効利用することができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、作業期間を短縮させて作業環境を良好にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】免震装置の配置の一例を示す側面図である。
図2図1の免震装置を示す縦断面図である。
図3】免震装置の冷却装置が設置された状態を示す縦断面図である。
図4】実施形態に係る膨張抑制部材を示す斜視図である。
図5図4の膨張抑制部材、上フランジ及び下フランジを示す縦断面図である。
図6】支持部材で上部構造物を支持した状態を示す斜視図である。
図7】(a)~(d)は、図3の冷却装置の設置工程を示す図である。
図8】(a)及び(b)は、図4の膨張抑制部材の設置を示す図である。
図9】膨張抑制部材の有無に応じた積層ゴムの収縮量と作業時間との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照しながら本発明に係る免震装置の冷却方法の実施形態を詳細に説明する。図面の説明において同一又は同等の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0013】
図1に示されるように、本実施形態では、例えば建物S(上部構造物)の下部に位置する基礎ピットP内に複数の免震装置10が配置されている。免震装置10は、地盤上に設けられたコンクリートの基礎2(下部構造物)と、基礎2の上方に位置する建物Sの大梁3との間に介在している。大梁3と免震装置10との間にはコンクリートの上部基礎5が設けられており、基礎2と免震装置10との間にはコンクリートの下部基礎6が設けられている。上部基礎5は大梁3の下面から突出し、下部基礎6は基礎2の上面から突出している。
【0014】
図2に示されるように、免震装置10は、例えば、円柱状の積層ゴム11と、積層ゴム11を上下から挟み込む上フランジ12及び下フランジ13とを備えている。積層ゴム11は、ゴム14と鋼板15とが上下に交互に積層された構造を有しており、ゴム14及び鋼板15は、例えば加硫接着によって互いに密着している。上フランジ12は積層ゴム11の鉛直方向上部に設けられ、下フランジ13は積層ゴム11の鉛直方向下部に設けられている。上フランジ12及び下フランジ13は例えば鋼板で構成されている。
【0015】
積層ゴム11、上フランジ12及び下フランジ13は、例えば、平面視において円形状となっており、互いに同心円状に設けられている。上フランジ12及び下フランジ13の径は、積層ゴム11の径よりも大きくなっている。上フランジ12及び下フランジ13には上下に貫通するネジ孔Hが複数形成されており、このネジ孔Hにアンカーボルト16が挿入される。
【0016】
これらのネジ孔H及びアンカーボルト16は、例えば、上フランジ12及び下フランジ13の周方向に沿って等間隔に配置されている。各ネジ孔Hに各アンカーボルト16が挿入されることによって、上フランジ12は上部基礎5に固定され、下フランジ13は下部基礎6に固定されている。
【0017】
次に、図3を参照しながら免震装置10の冷却装置20について説明する。冷却装置20は、免震装置10を冷却させることによって免震装置10を収縮し、例えば、収縮した免震装置10を撤去するために設けられる。冷却装置20は、ゴム14の表面14a及び鋼板15の表面15aに螺旋状に巻き付けられる管状部材21と、管状部材21同士の間に充填されると共に管状部材21の表面を覆う充填部材22と、充填部材22を囲むように配置される断熱部材23と、管状部材21に冷媒Cを供給し積層ゴム11を冷却させる冷却手段24とを備えている。
【0018】
冷媒Cは、例えば、不凍液(クーラント)である。この場合、管状部材21に不凍液を流し込むことによって積層ゴム11を冷却及び収縮させる。このように管状部材21に不凍液を流し込むことにより積層ゴム11を-10℃程度にまで冷やすことができる。なお、冷媒Cは液体窒素であってもよい。但し、冷媒Cとして不凍液を流し込む場合には、液体窒素を流し込む場合と比較して積層ゴム11を冷えすぎないようにすることができる。従って、積層ゴム11が冷えすぎて積層ゴム11のゴム性状が損なわれる可能性を確実に抑えることができる。
【0019】
管状部材21は、例えば、銅、ステンレス又は真鍮等の金属で構成されており、熱伝導率が高い材料で構成されている。また、管状部材21は、柔軟に曲げることが可能なフレキシブル素材で構成されており、積層ゴム11の表面14a,15aに沿って巻き付けることが可能となっている。
【0020】
管状部材21は、ゴム14及び鋼板15の径方向外側で螺旋状に巻き付けられ、これにより、ゴム14の表面14a及び鋼板15の表面15aを径方向外側から覆うように配置される。また、管状部材21は、ゴム14の表面14a及び鋼板15の表面15aに接触するように配置されるので、管状部材21内を通る冷媒Cによって積層ゴム11の表面14a,15aを直接的且つ満遍なく冷却させることが可能となっている。
【0021】
ゴム14の各表面14a及び鋼板15の各表面15aに伝達された冷媒Cからの冷熱は、ゴム14及び鋼板15の内側に伝達し、ゴム14及び鋼板15の中央部分にまで伝達する。このような冷熱の伝達で鋼板15が熱収縮することによって積層ゴム11は収縮するので、例えば、建物Sの荷重を後述する支持部材40に負担させた状態で免震装置10を撤去可能な状態となる。
【0022】
充填部材22は、例えば、急結セメント等のモルタルで構成されている。充填部材22は、積層ゴム11の外周に巻き付けられた管状部材21を埋めるように管状部材21同士の間に充填されると共に管状部材21全体を覆う。また、充填部材22は、表面14a,15aに接触している。
【0023】
充填部材22は、例えば、塗り付けられる前にはペースト状となっており、塗り付けられた後に硬化し、硬化した後には管状部材21を完全に覆って固まった状態となる。このような充填部材22を配置することによって、管状部材21内の冷媒Cの冷熱は直接的且つ満遍なく積層ゴム11に伝達される。
【0024】
充填部材22と、その上側に位置する上フランジ12との間には、間隙Kが形成されている。また、充填部材22と、その下側に位置する下フランジ13との間にも間隙Kが形成されている。このように充填部材22の上下に間隙Kが形成されることによって、充填部材22から上フランジ12、及び充填部材22から下フランジ13、に向かう冷熱の伝達が抑制される。すなわち、充填部材22から各フランジ12,13への冷熱の伝達を遮断することができる。従って、積層ゴム11に一層集中的に冷熱を伝達させることができるので、免震装置10の収縮を早めることができる。断熱部材23は、充填部材22から外方に冷熱が逃げるのを抑制するために設けられる。断熱部材23は、例えば防熱シートであり、充填部材22の外側で充填部材22を覆うように巻き付けられる。
【0025】
冷却手段24は、例えば、冷媒Cを収容するタンクであり、冷媒Cを管状部材21に供給する。冷却手段24から供給された冷媒Cは、管状部材21内を例えば螺旋状に通り、これにより、積層ゴム11の表面14a,15aを満遍なく冷却する。そして、管状部材21の内部を通った冷媒Cは、積層ゴム11から外方に延びる管状部材21の内部を通って排出される。
【0026】
以上のように構成された冷却装置20で免震装置10の積層ゴム11を冷却させることにより、積層ゴム11を収縮させることができ、免震装置10を建物Sから撤去したり、建物Sと基礎2の間に免震装置10を設置したりすることが可能となる。しかしながら、冷媒Cの供給を停止して冷却作業を中断すると、温度上昇に伴って積層ゴム11が膨張し、当該冷却作業が無駄になることが想定される。
【0027】
そこで、本実施形態に係る免震装置10の冷却方法では、積層ゴム11の膨張を抑制する膨張抑制部材30が用いられる。図4は、膨張抑制部材30を示す斜視図であり、図5は、膨張抑制部材30、上フランジ12及び下フランジ13を示す縦断面図である。図4及び図5に示されるように、膨張抑制部材30は、上フランジ12と下フランジ13との間で固定されることによって、積層ゴム11の膨張を抑制する。
【0028】
膨張抑制部材30は、上フランジ12に固定される第1固定部材31と、下フランジ13に固定される第2固定部材32と、第1固定部材31の上側への移動、及び第2固定部材32の下側への移動を規制する規制部材33とを備える。第1固定部材31及び第2固定部材32は、例えば、全ネジボルトから形成されている。
【0029】
第1固定部材31は、上フランジ12のネジ孔Hに螺合する第1雄螺子部31aと、規制部材33に螺合する第2雄螺子部31bと、第1雄螺子部31a及び第2雄螺子部31bの間に位置する欠き込み部31cとを有する。欠き込み部31cは、上フランジ12と規制部材33との間に位置する。欠き込み部31cは、例えば、工場で予め全ネジボルトの一部が欠き込まれることによって形成されている。
【0030】
欠き込み部31cは、スパナ又はレンチ等の締め付け工具を掛ける部位であり、例えば、互いに対向する2つの平坦状の表面(図5の例では、欠き込み部31cの左右両端で上下に直線状に延びる部分)を有する。この欠き込み部31cに締め付け工具を掛けることにより、第1固定部材31を回転させるときに締め付け工具の滑りを抑制できるので、第1固定部材31を効率よく回転させることができる。
【0031】
第2固定部材32は、下フランジ13のネジ孔Hに螺合する第3雄螺子部32aと、規制部材33に螺合する第4雄螺子部32bと、第3雄螺子部32a及び第4雄螺子部32bの間に位置する欠き込み部32cとを有する。第3雄螺子部32a、第4雄螺子部32b及び欠き込み部32cは、上下の向き以外は、第1雄螺子部31a、第2雄螺子部31b及び欠き込み部31cと同様の構成であるため、詳細な説明を省略する。
【0032】
規制部材33は、第1固定部材31及び第2固定部材32が互いに離間しないように第1固定部材31及び第2固定部材32を固定する。規制部材33は、例えば、箱状且つ枠状に形成されており、上面部33a、下面部33b、第1側面部33c及び第2側面部33dを含んでいる。例えば、上面部33a、下面部33b、第1側面部33c及び第2側面部33dは、共に、平坦状とされた鉄板であり、規制部材33の箱状部(上面部33a、下面部33b、第1側面部33c及び第2側面部33d)は、互いに溶接されることによって形成されている。
【0033】
上面部33a、下面部33b、第1側面部33c及び第2側面部33dは、例えば、いずれも長方形状とされており、上面部33a、下面部33b、第1側面部33c及び第2側面部33dの端部同士が互いに溶接等で固定されることによって、容易に規制部材33の箱状部が形成される。このように、膨張抑制部材30は、箱状部を有することにより、積層ゴム11の膨張に抵抗しうる強度を確実に確保している。第1側面部33cと第2側面部33dとの間隔は、第1側面部33cと第2側面部33dの間に締め付け工具が入りやすい程度に広い間隔とされている。
【0034】
上面部33aは、第2雄螺子部31bを挿通させる貫通孔33eを有しており、貫通孔33eは、例えば上面部33aの中央に形成された円形状の孔である。下面部33bは、第4雄螺子部32bを挿通させる貫通孔33fを有する。貫通孔33fは、例えば、下面部33bの中央に円形状に形成されている。
【0035】
規制部材33は、上面部33aの下側で第2雄螺子部31bが螺合する第1ナット33gと、下面部33bの上側で第4雄螺子部32bが螺合する第2ナット33hと、を更に備える。第2雄螺子部31bに対する第1ナット33gの締め付け度合を調整することによって、上フランジ12と規制部材33との間隔D1を広がらないように固定する。また、第4雄螺子部32bに対する第2ナット33hの締め付け度合を調整することによって、下フランジ13と規制部材33との間隔D2を広がらないように固定する。
【0036】
次に、冷却装置20及び膨張抑制部材30を用いて行う免震装置10の冷却方法について説明する。以下では、積層ゴム11を冷却して免震装置10を建物S及び基礎2の間から撤去する方法について説明する。まず、図6に示されるように、例えば、建物Sの大梁3を支持する支持部材40が用いられる。この支持部材40は、嵩上げ材41と、ジャッキ42と、フィラープレート43とを備えている。なお、支持部材40の構成は、上記の例に限られず適宜変更可能である。また、以下の図7及び図8では、詳細な構成を簡略化して図示している。
【0037】
最初に、図7(a)に示されるように、積層ゴム11の外周に管状部材21を巻き付ける。このとき、例えば、予めロール状となっている管状部材21を手で持って、管状部材21を積層ゴム11の表面14a,15aに沿って螺旋状に巻き付けることにより、表面14a,15aを覆うように管状部材21を配置する。
【0038】
次に、図7(b)に示されるように、ペースト状の充填部材22を管状部材21同士の間に充填させると共に充填部材22で管状部材21を覆うように充填部材22を塗りつける。このとき、上フランジ12と充填部材22の間、及び下フランジ13と充填部材22の間に間隙Kを形成する。
【0039】
具体的には、例えば、積層ゴム11における上フランジ12の直下の部分と、積層ゴム11における下フランジ13の直上の部分にテープ部材を巻き付けて、テープ部材を避けた位置にペースト状の充填部材22を塗りつけて充填部材22が硬化した後に当該テープ部材を剥がすことにより、間隙Kを形成する。その後は、図7(c)に示されるように、断熱部材23で充填部材22の全体を外側から覆う。
【0040】
続いて、図6に示されるように、免震装置10の周囲を例えば四方向から囲むように、4個の嵩上げ材41を基礎2上に配置する。そして、各嵩上げ材41の上に2個のジャッキ42を配置して、ジャッキ42の上端にフィラープレート43を配置する。このように嵩上げ材41、ジャッキ42及びフィラープレート43を基礎2と上部基礎5との間に挟み込む。そして、嵩上げ材41、ジャッキ42及びフィラープレート43を挟み込んだ状態で各ジャッキ42を伸長させる。また、上フランジ12のネジ孔Hに挿入されているアンカーボルト16を冷媒Cの供給前までに外しておく。
【0041】
以上のように複数の支持部材40を免震装置10の周囲に配置した後には、図7(d)に示されるように、管状部材21に冷却手段24から冷媒Cを流し込む。このように冷媒Cを管状部材21に流し込むことによってゴム14の表面14a及び鋼板15の表面15aを直接冷却し、この冷却で積層ゴム11の径方向内側に冷熱を満遍なく伝達させることにより、積層ゴム11を収縮させる。
【0042】
積層ゴム11を収縮させることにより、免震装置10が負担していた建物Sの荷重を複数の支持部材40に負担させる。免震装置10の撤去の前には、建物Sの荷重を免震装置10が負担しなくなったことを確認する必要があるが、その確認方法としては、例えば、上フランジ12の上部基礎5からの離間を確認する方法が挙げられる。また、積層ゴム11を収縮させて管状部材21への冷媒Cの供給を止めた後に、荷重を負担していない状態の免震装置10を撤去して、撤去の一連の工程は完了する。
【0043】
しかしながら、冷媒Cの供給によって積層ゴム11を冷却して収縮させる免震装置10の冷却作業は、1日で完了する場合は少なく、数日かけて行われる場合が多い。また、免震装置10の冷却作業は、積層ゴム11が徐々に収縮していくため、積層ゴム11の冷却時には絶えず監視を行う必要がある。よって、例えば夕方の作業中断時又は週末の作業中断時には、積層ゴム11の冷却を中断しなければならない場合がある。この場合、冷却作業の中断に伴って積層ゴム11が膨張するので、本実施形態では、冷却作業の中断前までに膨張抑制部材30を取り付けておく。
【0044】
図8(a)及び図8(b)に示されるように、免震装置10の冷却作業の中断前までに、膨張抑制部材30の第1固定部材31を上フランジ12に固定させると共に、第2固定部材32を下フランジ13に固定させることによって免震装置10に膨張抑制部材30を取り付ける。具体的には、欠き込み部31cに締め付け工具を掛けて第1固定部材31を回転させ、第1固定部材31の第1雄螺子部31aを上フランジ12のネジ孔Hにねじ込む。そして、欠き込み部32cに締め付け工具を掛けて第2固定部材32を回転させ、第2固定部材32の第3雄螺子部32aを下フランジ13のネジ孔Hにねじ込む。
【0045】
その後、冷却作業の中断前に、第1ナット33gに締め付け工具を掛けて第1ナット33gを回転させることにより第1ナット33gの締め付け度合を調整し、上フランジ12と規制部材33との間隔D1を広がらないように固定する。同様に、第2ナット33hに締め付け工具を掛けて第2ナット33hを回転させることにより第2ナット33hの締め付け度合を調整し、下フランジ13と規制部材33との間隔D2を広がらないように固定する。
【0046】
以上のように、上フランジ12と規制部材33との間隔D1を広がらないように固定すると共に、下フランジ13と規制部材33との間隔D2を広がらないように固定することによって、上フランジ12及び下フランジ13に対する膨張抑制部材30の取り付けが完了する。この膨張抑制部材30の取り付けは、例えば、免震装置10に対して4箇所に行い、4体の膨張抑制部材30を90度の位相角度をもって免震装置10の周方向に等間隔に配置する。
【0047】
このように、複数の膨張抑制部材30を免震装置10の周方向に等間隔に配置することにより、冷却中断時における積層ゴム11の膨張をバランスよく抑えることが可能となる。なお、免震装置10に取り付ける膨張抑制部材30の数は、4体に限られず適宜変更可能である。
【0048】
以上のように、膨張抑制部材30を免震装置10に取り付けて冷却作業を中断し、その後、免震装置10の冷却作業を再開するときには、管状部材21への冷媒Cの供給を再度行う。なお、免震装置10からの膨張抑制部材30の取り外しは、積層ゴム11を更に収縮させた後に行ってもよいし、行わなくてもよい。また、積層ゴム11を更に収縮させて、免震装置10が負担していた建物Sの荷重を複数の支持部材40に負担させた後には、管状部材21への冷媒Cの供給を停止して免震装置10を撤去する。
【0049】
免震装置10の撤去が完了した後には、免震装置10から断熱部材23、充填部材22及び管状部材21を取り外してもよい。このとき、充填部材22がモルタルである場合には、例えばハンマー等で充填部材22を叩いて割ることによって充填部材22を免震装置10から取り外す。このように、ハンマー等で充填部材22を叩き分解することによって、簡単に充填部材22を外すことができる。なお、管状部材21、断熱部材23及び膨張抑制部材30は、取り外した後に別の免震装置に対して再利用することが可能である。
【0050】
また、上記のように撤去が完了した後には、新規の免震装置10を上部基礎5と下部基礎6の間に挿入してもよい。新規の免震装置10の高さは上部基礎5と下部基礎6の間の空間の高さよりも僅かに高い。このため、前述と同様、新規の免震装置10を冷却し、免震装置10を高さ方向に収縮させてから免震装置10の挿入を行う。このとき、新規の免震装置10に膨張抑制部材30を取り付けることにより、冷却の中断に伴う免震装置10の膨張が抑制されるので、新規の免震装置10の冷却作業を効率よく行うことが可能となる。
【0051】
次に、本実施形態に係る免震装置10の冷却方法の作用効果についてより詳細に説明する。免震装置10の冷却方法では、積層ゴム11を冷却して積層ゴム11を収縮させる。よって、積層ゴム11の冷却及び収縮によって免震装置10の高さを低くすることができるので、免震装置10の撤去、及び免震装置10の新設を容易に行うことができる。
【0052】
また、この冷却方法では、免震装置10に積層ゴム11の膨張を抑制する膨張抑制部材30を取り付ける。膨張抑制部材30を取り付けることにより、積層ゴム11の冷却を中断した場合であっても、積層ゴム11の膨張を抑えることができる。従って、冷却を中断しても積層ゴム11の膨張が抑制され、再び作業を行うときには積層ゴム11が収縮した状態から再度冷却を行うことができるので、積層ゴム11の冷却作業を効率よく行うことができる。よって、積層ゴム11を効率よく収縮させることができ、冷却の作業の無駄を無くすことができる。従って、作業期間を短縮させることができる。
【0053】
例えば、図9のグラフを用いて、膨張抑制部材30を免震装置10に取り付けた場合と、膨張抑制部材30を免震装置10に取り付けない場合とを比較する。図9のグラフの太い実線は、膨張抑制部材30を取り付けて免震装置10の冷却作業を行った場合(実施例)を示し、図9のグラフの二点鎖線は、膨張抑制部材30を用いずに免震装置10の冷却作業を行った場合(比較例)を示している。
【0054】
図9に示されるように、冷却作業開始時(時間0)から時間t1まで積層ゴム11の冷却作業を実行すると、実施例及び比較例のいずれも同じ収縮量だけ積層ゴム11が収縮する。しかしながら、時間t1が経過した時点で積層ゴム11の冷却を中断すると、実施例の積層ゴム11の収縮量は一定に維持される(例えば収縮量の減少が1mm以下に抑えられる)ものの、比較例の積層ゴム11では、積層ゴム11の収縮量が徐々に減少していく。
【0055】
そして、冷却作業を中断して時間t2が経過したときには、比較例の積層ゴム11の収縮量は、実施例の積層ゴム11の収縮量と比較して小さい状態(ある程度膨張した状態)に戻っている。よって、時間t2で積層ゴム11の冷却を再開すると、実施例の積層ゴム11が目標収縮量に到達するまでの時間t3よりも、比較例の積層ゴム11が目標収縮量に到達するまでの時間t4の方が長くなる。従って、膨張抑制部材30が無い比較例では収縮に長期間を要するが、膨張抑制部材30を取り付けた実施例では収縮を短期間で完了させることができる。従って、積層ゴム11の冷却の作業を長時間行う必要がなくなるので、長時間の監視等を不要とすることができ、作業環境を良好にすることができる。
【0056】
また、膨張抑制部材30は、免震装置10の上フランジ12と下フランジ13との間に取り付けられる。よって、上フランジ12と下フランジ13の間に膨張抑制部材30を容易に取り付けることができる。また、上フランジ12と下フランジ13を膨張抑制部材30を取り付ける箇所として有効利用することができる。
【0057】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は、前述の実施形態に限定されるものではなく、請求項に記載した要旨を変更しない範囲で変形し、又は他のものに適用したものであってもよい。すなわち、本発明は、請求項の要旨を変更しない範囲で種々の変更が可能である。
【0058】
例えば、前述の実施形態では、充填部材22を備える冷却装置20について説明したが、充填部材22を省略することも可能である。この場合、積層ゴム11の表面14a,15aを覆うように管状部材21を配置した後に、管状部材21の表面を囲むように断熱部材23を配置する。このように充填部材22を省略した場合であっても、管状部材21に冷媒Cを流すことにより、積層ゴム11を直接的且つ均一に冷却させることができるので、短時間で効率よく積層ゴム11を収縮させることができる。従って、充填部材22を省略した場合であっても、積層ゴム11の表面14a,15aを覆うように配置される管状部材21が全面的に積層ゴム11を冷却することによって、免震装置10の冷却の作業性を向上させることができる。
【0059】
また、前述の実施形態では、上フランジ12と充填部材22の間、及び下フランジ13と充填部材22の間、の両方に間隙Kを形成する例について説明した。しかしながら、上フランジ12と充填部材22の間、及び下フランジ13と充填部材22の間、のいずれか一方のみに間隙Kを形成することも可能である。更に、間隙Kを省略してもよい。また、管状部材21、充填部材22、断熱部材23及び冷却手段24の材料、形状、大きさ及び配置態様については、前述の実施形態に限定されず適宜変更可能である。更に、免震装置10及び冷却装置20の構成、並びに免震装置10を設置する対象についても適宜変更可能である。
【0060】
また、前述の実施形態では、第1固定部材31及び第2固定部材32が欠き込み部31c,32cを有する全ネジボルトであって、規制部材33が箱状に形成された膨張抑制部材30について説明した。しかしながら、第1固定部材31、第2固定部材32及び規制部材33の形状、材料、個数、大きさ及び配置態様については適宜変更可能である。また、本発明に係る膨張抑制部材は、第1固定部材31、第2固定部材32及び規制部材33とは異なる構成を備えていてもよい。
【0061】
また、前述の実施形態では、膨張抑制部材30を上フランジ12と下フランジ13の間に配置する例について説明した。しかしながら、膨張抑制部材を配置する場所は、上フランジと下フランジの間に限られず適宜変更可能である。
【0062】
また、前述の実施形態では、免震装置10の撤去又は免震装置10の新設のときに膨張抑制部材30を用いる例について説明したが、膨張抑制部材30を用いるタイミングは上記の例に限定されない。膨張抑制部材は、例えば免震装置の保管又は運搬のとき等、免震装置を収縮させるときには適宜用いることが可能であり、本発明は、免震装置を収縮させるときに広く適用可能である。
【符号の説明】
【0063】
2…基礎、3…大梁、5…上部基礎、6…下部基礎、10…免震装置、11…積層ゴム、12…上フランジ、13…下フランジ、14…ゴム、14a,15a…表面、15…鋼板、16…アンカーボルト、20…冷却装置、21…管状部材、22…充填部材、23…断熱部材、24…冷却手段、30…膨張抑制部材、31…第1固定部材、31a…第1雄螺子部、31b…第2雄螺子部、31c,32c…欠き込み部、32…第2固定部材、32a…第3雄螺子部、32b…第4雄螺子部、33…規制部材、33a…上面部、33b…下面部、33c…第1側面部、33d…第2側面部、33e,33f…貫通孔、33g…第1ナット、33h…第2ナット、40…支持部材、41…嵩上げ材、42…ジャッキ、43…フィラープレート、C…冷媒、D1,D2…間隔、H…ネジ孔、K…間隙、P…基礎ピット、S…建物。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9