(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-18
(45)【発行日】2022-11-29
(54)【発明の名称】予兆検知システム及び予兆検知方法
(51)【国際特許分類】
G05B 23/02 20060101AFI20221121BHJP
F02C 9/00 20060101ALI20221121BHJP
【FI】
G05B23/02 T
G05B23/02 P
F02C9/00 A
(21)【出願番号】P 2017066125
(22)【出願日】2017-03-29
【審査請求日】2020-01-10
【審判番号】
【審判請求日】2021-08-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000006208
【氏名又は名称】三菱重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100162868
【氏名又は名称】伊藤 英輔
(74)【代理人】
【識別番号】100161702
【氏名又は名称】橋本 宏之
(74)【代理人】
【識別番号】100189348
【氏名又は名称】古都 智
(74)【代理人】
【識別番号】100196689
【氏名又は名称】鎌田 康一郎
(72)【発明者】
【氏名】岸 真人
(72)【発明者】
【氏名】熊野 信太郎
(72)【発明者】
【氏名】安部 克彦
(72)【発明者】
【氏名】山本 圭介
(72)【発明者】
【氏名】井上 由起彦
(72)【発明者】
【氏名】新妻 瞬
【合議体】
【審判長】見目 省二
【審判官】鈴木 貴雄
【審判官】大山 健
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2013/0318018(US,A1)
【文献】特表2010-527089(JP,A)
【文献】特開平6-167591(JP,A)
【文献】特開2003-114294(JP,A)
【文献】特開2014-115714(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G05B 23/02
F02C 9/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
機器の運転データと、前記機器の経年変化に影響する前記機器の運転または保守の実績を示し、前記機器の累積運転時間と、その間の前記機器の起動回数及び停止回数のうち少なくとも1つと、を含む運転履歴データと、を取得するデータ取得部と、
前記運転データと、前記運転履歴データと、前記機器の監視対象となるパラメータについて前記運転履歴データが示す運転または保守を経た時点での前記機器の経年変化を反映した前記パラメータの値を推定する、前記運転履歴データを入力パラメータとして用いた推定モデルと、に基づいて、前記パラメータの推定値を算出する推定部と、
前記データ取得部が取得した前記運転データに含まれる前記パラメータの計測値と
当該計測値について前記推定モデルを用いて算出された前記推定値との偏差の時系列の情報である第1情報と、
前記第1情報に係る前記パラメータについて前記第1情報に係る前記計測値よりも過去に計測された計測値と当該計測値について前記推定モデルを用いて算出された前記推定値との偏差の時系列の情報である第2情報と異常発生との対応関係に基づいて前記機器の状態を評価する判定モデルと、に基づいて、前記機器の状態を評価する状態評価部と、
を備え、
前記状態評価部は、前記第1情報と前記判定モデルとに基づいて、前記第1情報が示す前記偏差の経時的変化のパターンに対応する異常
の予兆を検知する、
予兆検知システム。
【請求項2】
前記運転履歴データには、前記機器の運転パターン別の運転時間、運転パターン別の起動回数、運転パターン別の運転頻度、のうち少なくとも1つが含まれる、
請求項1に記載の予兆検知システム。
【請求項3】
前記運転履歴データには、前記機器に対する保守点検作業を行った回数、前記機器が備える部品ごとの保守点検作業を行った回数、前記機器に対して保守点検作業を行ってからの経過時間、前記部品に対して保守点検作業を行ってからの経過時間、のうち少なくとも1つが含まれる、
請求項1から請求項2の何れか1項に記載の予兆検知システム。
【請求項4】
前記運転履歴データには、前記機器の出力の累積値が含まれる、
請求項1から請求項3の何れか1項に記載の予兆検知システム。
【請求項5】
前記運転データには、前記機器を監視する装置が生成したアラーム情報及びイベント情報のうち少なくとも1つが含まれる、
請求項1から請求項4の何れか1項に記載の予兆検知システム。
【請求項6】
前記推定モデルは、前記機器の運転データ及び運転履歴データに加え、前記機器と同じ種類の他の機器の運転データ及び運転履歴データに基づいて構築されている、
請求項1から請求項5の何れか1項に記載の予兆検知システム。
【請求項7】
前記運転履歴データと、その運転履歴データが示す運転または保守を経た時点での前記機器の運転データおよび前記パラメータと、に基づいて前記推定モデルを構築する推定モデル構築部、
をさらに備える請求項1から請求項6の何れか1項に記載の予兆検知システム。
【請求項8】
前記状態評価部は、前記第1情報と、前記対応関係と、に基づいて、将来発生する異常を予測する、
請求項1から請求項7の何れか1項に記載の予兆検知システム。
【請求項9】
前記機器は、ガスタービンプラントである、
請求項1から請求項8の何れか1項に記載の予兆検知システム。
【請求項10】
予兆検知システムが、
機器の運転データと、前記機器の経年変化に影響する前記機器の運転または保守の実績を示し、前記機器の累積運転時間と、その間の前記機器の起動回数及び停止回数のうち少なくとも1つと、を含む運転履歴データと、を取得するステップと、
前記運転データと、前記運転履歴データと、前記機器の監視対象となるパラメータについて前記運転履歴データが示す運転または保守を経た時点での前記機器の経年変化を反映した前記パラメータの値を推定する、前記運転履歴データを入力パラメータとして用いた推定モデルと、に基づいて、前記パラメータの推定値を算出するステップと、
前記運転データに含まれる前記パラメータの計測値と
当該計測値について前記推定モデルを用いて算出された前記推定値との偏差の時系列の情報である第1情報と、
前記第1情報に係る前記パラメータについて前記第1情報に係る前記計測値よりも過去に計測された計測値と当該計測値について前記推定モデルを用いて算出された前記推定値との偏差の時系列の情報である第2情報と異常発生との対応関係に基づいて前記機器の状態を評価する判定モデルと、に基づいて、前記機器の状態を評価するステップと、
を備え、
前記評価するステップでは、前記第1情報と前記判定モデルとに基づいて、前記第1情報が示す前記偏差の経時的変化のパターンに対応する異常
の予兆を検知する、
予兆検知方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、予兆検知システム及び予兆検知方法に関する。
【背景技術】
【0002】
発電プラント等の設備において、機器の動作の状態を監視するために、ANN(Artificial Nural Network)等のモデルが用いられる場合がある。例えば、特許文献1では、第1のANNで現在の設備の状態を模擬し、第2のANNで正常運転時の設備の状態を模擬し、第1のANN及び第2のANNの出力データの差から故障の発生の有無を判断することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】米国特許出願公開第2013/0318018号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、一般に特許文献1等に記載のモデルを用いた監視では、正常な状態を示すプロセス値などを学習して構築した正常モデルと、監視対象のプラント等で取得されたプロセス値とを比較し、実際のプロセス値が正常モデルから乖離している場合に異常を検知することが多い。このような場合に、正常モデルの構築に用いられるデータは、一般的に過去のデータである。しかしながら,実際のプラントには、経年変化があるため,正常モデルを更新しないと、正常モデルが現状のプラントの正常な状態と乖離してしまい、この正常モデルに基づく監視精度が劣化してしまう。
【0005】
そこで、この発明は、上述の課題を解決することのできる予兆検知システム及び予兆検知方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第1の態様によれば、機器の運転データと、前記機器の経年変化に影響する前記機器の運転または保守の実績を示し、前記機器の累積運転時間と、その間の前記機器の起動回数及び停止回数のうち少なくとも1つと、を含む運転履歴データと、を取得するデータ取得部と、前記運転データと、前記運転履歴データと、前記機器の監視対象となるパラメータについて前記運転履歴データが示す運転または保守を経た時点での前記機器の経年変化を反映した前記パラメータの値を推定する、前記運転履歴データを入力パラメータとして用いた推定モデルと、に基づいて、前記パラメータの推定値を算出する推定部と、前記データ取得部が取得した前記運転データに含まれる前記パラメータの計測値と当該計測値について前記推定モデルを用いて算出された前記推定値との偏差の時系列の情報である第1情報と、前記第1情報に係る前記パラメータについて前記第1情報に係る前記計測値よりも過去に計測された計測値と当該計測値について前記推定モデルを用いて算出された前記推定値との偏差の時系列の情報である第2情報と異常発生との対応関係に基づいて前記機器の状態を評価する判定モデルと、に基づいて、前記機器の状態を評価する状態評価部と、を備え、前記状態評価部は、前記第1情報と前記判定モデルとに基づいて、前記第1情報が示す前記偏差の経時的変化のパターンに対応する異常の予兆を検知する予兆検知システムである。
【0007】
また、本発明の第2の態様によれば、前記予兆検知システムであって、前記運転履歴データには、前記機器の運転パターン別の運転時間、運転パターン別の起動回数、運転パターン別の運転頻度、のうち少なくとも1つが含まれていてもよい。
【0008】
また、本発明の第3の態様によれば、前記予兆検知システムであって、前記運転履歴データには、前記機器に対する保守点検作業を行った回数、前記機器が備える部品ごとの保守点検作業を行った回数、前記機器に対して保守点検作業を行ってからの経過時間、前記部品に対して保守点検作業を行ってからの経過時間、のうち少なくとも1つが含まれていてもよい。
【0009】
また、本発明の第4の態様によれば、前記予兆検知システムであって、前記運転履歴データには、前記機器の出力の累積値が含まれていてもよい。
【0010】
また、本発明の第5の態様によれば、前記予兆検知システムであって、前記運転データには、前記機器を監視する装置が生成したアラーム情報及びイベント情報のうち少なくとも1つが含まれていてもよい。
【0011】
また、本発明の第6の態様によれば、前記予兆検知システムであって、前記推定モデルは、前記機器の運転データ及び運転履歴データに加え、前記機器と同じ種類の他の機器の運転データ及び運転履歴データに基づいて構築されていてもよい。
【0012】
また、本発明の第7の態様によれば、前記予兆検知システムは、前記運転履歴データが示す運転または保守を経た時点での前記機器の運転データおよび前記パラメータと、に基づいて前記推定モデルを構築する推定モデル構築部、をさらに備えていてもよい。
【0014】
また、本発明の第8の態様によれば、前記予兆検知システムであって、前記状態評価部は、前記第1情報と、前記対応関係と、に基づいて、将来発生する異常を予測してもよい。
【0016】
また、本発明の第9の態様によれば、前記予兆検知システムであって、前記機器は、ガスタービンプラントである。
【0017】
また、本発明の第10の態様は、予兆検知システムが、機器の運転データと、前記機器の経年変化に影響する前記機器の運転または保守の実績を示し、前記機器の累積運転時間と、その間の前記機器の起動回数及び停止回数のうち少なくとも1つと、を含む運転履歴データと、を取得するステップと、前記運転データと、前記運転履歴データと、前記機器の監視対象となるパラメータについて前記運転履歴データが示す運転または保守を経た時点での前記機器の経年変化を反映した前記パラメータの値を推定する、前記運転履歴データを入力パラメータとして用いた推定モデルと、に基づいて、前記パラメータの推定値を算出するステップと、前記運転データに含まれる前記パラメータの計測値と当該計測値について前記推定モデルを用いて算出された前記推定値との偏差の時系列の情報である第1情報と、前記第1情報に係る前記パラメータについて前記第1情報に係る前記計測値よりも過去に計測された計測値と当該計測値について前記推定モデルを用いて算出された前記推定値との偏差の時系列の情報である第2情報と異常発生との対応関係に基づいて前記機器の状態を評価する判定モデルと、に基づいて、前記機器の状態を評価するステップと、を備え、前記評価するステップでは、前記第1情報と前記判定モデルとに基づいて、前記第1情報が示す前記偏差の経時的変化のパターンに対応する異常の予兆を検知する予兆検知方法である。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、プラント等の経年変化を考慮した予兆検知が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明に係る予兆検知システムを用いて監視を行うプラントの一例を示す図である。
【
図2】本発明に係る第一実施形態における予兆検知装置の機能ブロック図である。
【
図3】本発明に係る第一実施形態における予兆検知処理を説明する図である。
【
図4】本発明に係る第一実施形態における推定モデルの構築処理の一例を示すフローチャートである。
【
図5】本発明に係る第一実施形態における予兆検知処理の一例を示すフローチャートである。
【
図6】本発明に係る第一実施形態における予兆検知処理の他の例について説明する図である。
【
図7】本発明に係る第一実施形態における予兆検知装置による異常発生の予測とその効果について説明する図である。
【
図8】本発明に係る第二実施形態における予兆検知装置の機能ブロック図である。
【
図9】本発明に係る第二実施形態における予兆検知処理を説明する図である。
【
図10】本発明に係る第二実施形態における判定モデルの構築処理の一例を示すフローチャートである。
【
図11】本発明に係る第二実施形態における予兆検知処理の他の例について説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
<第一実施形態>
以下、本発明の第一実施形態による予兆検知システムついて
図1~
図7を参照して説明する。
本発明に係る予兆検知システムを用いて監視を行うプラントの一例を示す図である。
図1に示す監視対象となるガスタービンプラントは、ガスタービン10と、発電機15と、ガスタービン10の動作の制御や監視を行う装置20と、を備えている。ガスタービン10と発電機15はロータ14で連結されている。ガスタービン10は、空気を圧縮して圧縮空気を生成する圧縮機11と、圧縮空気中で燃料ガスを燃焼させ高温の燃焼ガスを生成する燃焼器12と、燃焼ガスにより駆動するタービン13と、を備えている。燃焼器12は、燃焼器12に燃料を供給する各系統A、B,Cごとにそれぞれの燃料供給装置(図示せず)と接続されている。燃料供給装置と燃焼器12の間には各系統A~Cの燃料の流量を調節する燃料流量調整弁16A,16B,16Cが設けられている。装置20は、1台又は複数台のコンピュータで構成された制御装置等である。装置20は、IGV(IGV:inlet guide vane)17の開度を調節して圧縮機11に流入する空気の流量や、燃料流量調整弁16A~16Cの開度調整による燃焼器12への燃料ガスの供給量等を制御して、タービン13を駆動し、発電機15を稼働させる。
【0021】
また、装置20は、ガスタービン10や発電機15の各所に設けられたセンサから温度、圧力などの計測データを取得する。計測データには、ガスタービン10の内部に取り込まれ、実際の運転に用いられる燃料ガスや大気などの物性データだけでなく、運転環境の温度など周囲の環境情報が含まれる。また、装置20は、取得した計測データを用いて、ガスタービン10を制御するための制御信号を生成する。なお、計測データには、各センサの識別情報、計測値、計測時刻等が含まれている。また、制御信号には、その制御信号が出力された時刻が含まれている。また、装置20は、計測データを所定の推定モデル(例えば、ガスタービン10のある状態量を算出するための計算式など)に入力して、その推定モデルによって算出された推定値を、計測データの代わりに、あるいは、計測データに加えて取得してもよい。なお、この推定値を第2推定値と呼ぶ場合がある。これら計測データ(または第2推定値)と制御信号とを総称してプロセスデータと記載する。また、装置20は、取得した計測データを所定の閾値と比較して、計測データが閾値を上回ったり下回ったりすると、ガスタービン10に異常が生じたり、注意すべき状態となったことを示すアラーム情報を生成する。また、装置20は、ガスタービン10の起動停止、ガスタービン10が備える機器の動作(弁の開閉など)、運転状態の変更等が発生するとそれらの発生を示すイベント情報を生成する。アラーム情報及びイベント情報には、各々の情報が生成された時刻情報が含まれている。装置20は、プロセスデータ、アラーム情報、イベント情報を図示しない表示装置に表示させ、運転員は、その表示装置に表示された計測データやアラーム情報などを監視してガスタービン10の運用を行う。
【0022】
また、装置20は、プロセスデータ、アラーム情報、イベント情報を予兆検知装置30へ送信する。プロセスデータについては、装置20は、例えば、所定周期毎、プロセスデータを取得する毎、プロセスデータの値に所定の変化が発生した場合などに、予兆検知装置30へ送信する。また、アラーム情報、イベント情報については、装置20は、例えばそれらの情報を生成する度に予兆検知装置30へ送信する。なお、本実施形態において装置20は、ガスタービン10の運転に必要な制御装置、監視装置などを含んでいる。これに対し、予兆検知装置30は、ガスタービン10に将来発生する異常の予兆を検知し、これを運転員に通知する目的で設置される。なお、プロセスデータ、アラーム情報、イベント情報を総称して運転データと記載する。
【0023】
予兆検知装置30は、ガスタービン10に生じる異常の予兆を検知する。特に本実施形態に係る予兆検知装置30は、ガスタービン10の経年変化を考慮した予測モデルを用いて予兆検知を行う。次に、予兆検知装置30について説明する。
図2は、本発明に係る第一実施形態における予兆検知装置の機能ブロック図である。
図2に示すように予兆検知装置30は、データ取得部31と、推定部32と、状態評価部33と、制御部34と、推定モデル構築部35と、入出力部36と、記憶部37と、を備える。
データ取得部31は、機器の運転データと、機器の運転履歴を示す運転履歴データとを取得する。ここで、運転履歴データとは、例えば、ガスタービン10の累積運転時間、運転パターン別の運転時間、ガスタービン10を導入して設置してからの経過時間、起動回数、停止回数、起動停止回数、ガスタービン10の出力実績の累積値などの運転履歴データ、ガスタービン10に対する保守点検作業を行った回数、保守点検作業を行ってから経過した時間などの保守履歴データを含む。データ取得部31は、取得した運転データを記憶部37に記録する。
運転履歴データは、ガスタービン10が稼働状態にあることを示す、例えば、発電機15の出力、ガスタービン10の起動命令信号、停止命令信号などのプロセスデータを用いて算出することができる。例えば、累積運転時間であれば、装置20が、上記のプロセスデータを用いて1回の起動から停止までの運転時間を計算し、これを累積して累積運転時間を算出する。また、例えば、起動停止回数であれば、装置20が、自身が出力した起動命令、停止命令の回数をカウントして、これを累積して起動停止回数を算出する。装置20は、これらの運転履歴データを算出し、データ取得部31は、装置20から運転履歴データを取得する。
また、装置20は、ガスタービン10に対して行われた過去の保守履歴の情報を記憶していて、装置20は、保守作業の累積回数、保守作業を行ってからの経過時間などを算出し、データ取得部31は、装置20から保守履歴データを取得する。
【0024】
推定部32は、運転データと、運転履歴データと、運転履歴データが示す運転実績に応じた経年変化を反映した監視対象パラメータの値を推定する推定モデルと、に基づいて、パラメータの推定値を算出する。
状態評価部33は、推定部32による監視対象パラメータの推定値(第1推定値)とデータ取得部31が取得したガスタービン10の監視対象パラメータの計測値または推定値(第2推定値)との偏差に基づいて、監視対象パラメータが示すガスタービン10の状態を評価する。例えば、偏差が所定の閾値以上の場合、その監視対象パラメータがガスタービン10又はその一部の機器に生じる異常の予兆を示していると評価する。また、状態評価部33は、異常の予兆を検知すると、異常予兆を検知したことを示すアラーム情報、異常発生率、異常発生箇所などの異常情報を算出する。
制御部34は、予兆検知装置30の起動、停止、処理実行などの各種制御を行う。
【0025】
推定モデル構築部35は、運転履歴データと、その運転履歴データに対応する(その運転履歴データが示す運転を経た時点での)機器の正常動作時の運転データと、を学習して、ガスタービン10の正常動作時における監視対象パラメータの値を推定する推定モデルを構築する。推定モデル構築部35が構築する推定モデルとは、ガスタービン10の経年変化を陽に考慮したモデルである。推定モデルとは、例えばANNなどのニューラルネットワーク、各種機械学習、深層学習、重回帰分析などの各種統計的手法によるモデルである。
入出力部36は、状態評価部33による評価結果や異常情報の算出結果をディスプレイ、他の装置などへ出力する。また、入出力部36は、監視員による予兆検知装置30への指示情報等の入力操作を受け付ける。
記憶部37は、例えば、運転データなどの種々のデータを記憶する。
【0026】
図3は、本発明に係る第一実施形態における予兆検知処理を説明する図である。
推定部32は、推定モデルMを有している。推定モデルMは、正常時の過去の運転データに基づいて,入力パラメータを大気温度、大気圧力、相対湿度、燃料流量指令値、燃料分配比設定、ガスタービン10の回転数、燃料流量調整弁16A~16Cの弁開度、系統A~C毎の燃料供給圧力、IGV開度、運転時間、起動停止回数などとし、出力パラメータをガスタービン出力、ガスタービン効率、車室圧力、各燃料系統のマニホールド圧力、各燃焼器の燃焼振動値、タービン13からの排ガス温度などとする、例えばニューラルネットワークモデルである。
推定部32は、運転データのうち、監視対象パラメータ(ガスタービン10の出力、車室圧力など)の推定に必要なパラメータ(大気温度、大気圧力、燃料流量指令値など)を推定モデルMに入力する。また、推定部32は、ガスタービン10の累積運転時間、起動停止回数などの運転履歴データを推定モデルMに入力する。予測モデルMは、現在までの累積運転時間や起動停止回数が示すガスタービン10の経年変化を反映したガスタービン出力の推定値、車室圧力の推定値などを出力する。推定部32は、予測モデルMによる推定値を、状態評価部33へ出力する。
【0027】
状態評価部33は、推定モデルMが出力したガスタービン出力等の監視対象パラメータの推定値と、データ取得部31が取得した現在のガスタービン出力等の計測値と、を取得する。状態評価部33は、減算器S、異常判定部Dを有している。減算器Sは、取得した推定モデルMによる推定値と、対応するパラメータの計測値との偏差を算出する。例えば、減算器Sは、ガスタービン出力の推定値とガスタービン出力の計測値との偏差を算出する。また、減算器Sは、車室圧力の推定値と車室圧力の計測値との偏差を算出する。減算器Sは、算出した監視対象である各パラメータの推定値と計測値の偏差を、異常判定部Dへ出力する。異常判定部Dは、各パラメータの偏差と、パラメータごとに定められた偏差の閾値とを比較して、異常の予兆の有無を判定する。例えば、異常判定部Dは、ガスタービン出力の偏差と、ガスタービン出力用の閾値とを比較して、ガスタービン出力の偏差が所定の閾値を上回っていれば、ガスタービン出力について、異常の予兆があると判定する。また、ガスタービン出力の偏差が閾値以下であれば、異常判定部Dは、ガスタービン出力について異常の予兆が無いと判定する。
【0028】
異常判定部Dは、異常情報生成部D1を有している。異常情報生成部D1は、異常発生の予兆を検知したことを示すアラーム情報、異常個所、異常発生率などの異常情報を生成する。アラーム情報には、異常の内容、異常の予兆ありと判定した時刻の情報が含まれている。また、異常情報生成部D1は、推定値と計測値の偏差の大きさに応じて異常の規模、確度、重大さなどを推定し、それらの情報を異常情報へ含めてもよい。また、異常情報生成部D1は、閾値を上回った監視対象パラメータの種類に応じて、ガスタービン10のどの部分に異常が発生するかを判定し、異常の発生が予想される箇所を推定する。また、異常情報生成部D1は、過去の異常発生実績、故障実績などに基づいて、異常の予兆を検知した部位の異常発生率や故障率を算出する。なお、記憶部37には過去の故障実績の情報が記録されている。また、異常情報生成部D1は、複数の監視対象パラメータの値に基づいて、異常情報を生成してもよい。例えば、ガスタービン出力と車室圧力の両方の監視対象パラメータが閾値を超えている場合、「異常X」の予兆であるとのアラーム情報を生成してもよい。
【0029】
従来の予測モデルに基づく予兆検知では、プラントの経年変化を考慮しないことが多く、その為、予測モデルが推定する監視対象パラメータの値が、ある期間の運転を経た実際のプラントの実態と乖離してしまっていることが多い。これに対し、本実施形態では、所定の推定モデルに基づいて、経年変化に応じた現在のガスタービン10の出力パラメータの値を推定する。そして、この推定値を正として、ガスタービン10の出力パラメータの計測値が正常な範囲の値であるかどうかを判定する。現在のプラントの状態に応じた閾値を基準として異常の判定を行うので、精度の高い予兆検知が可能となる。
【0030】
次に、本実施形態の推定モデルの構築処理について説明を行う。
図4は、本発明に係る第一実施形態における推定モデルの構築処理の一例を示すフローチャートである。
まず、データ取得部31が、ガスタービン10の運転データとともにその運転データに対応する運転履歴データを取得する(ステップS11)。運転データに対応する運転履歴データとは、例えば、大気温度X、燃料流量指令値Y、ガスタービン10出力Zなどの運転データが、YYYY年MM月DD日hh時mm分ss秒にセンサによって計測または装置20によって出力されたものである場合、YYYY年MM月DD日hh時mm分ss秒(または、それを含む前後所定の期間)までの累積運転時間や起動停止回数のことである。また、取得する運転データは、監視対象となるガスタービン10において採取された過去の正常運転時の運転データである。なお、運転履歴データの例として、累積運転時間、起動停止回数の他に、運転パターン別の運転時間、起動回数または運転頻度、ガスタービン10を設置してからの経過時間、導入後の当該ガスタービン10による出力の累積値(MWh)、保守点検作業を行った回数、保守点検作業を行ってから経過した時間などが含まれていてもよい。運転パターン別の運転時間とは、例えば、定格運転での累積運転時間、部分負荷運転での累積運転時間、負荷変動時の累積運転時間である。また、例えば、運転パターン別の運転時間とは、ホットスタート(例えば停止時間が8時間以内)、ウォームスタート(例えば停止時間が24時間以内)、コールドスタート(例えば停止時間が24時間超)と運転パターンを分類した場合、各パターンのスタート態様で運転を開始した場合の累積運転時間である。また、例えば、運転パターン別の起動回数とは、ホットスタートした累積起動回数、ウォームスタートした累積起動回数、コールドスタートした累積起動回数である。また、例えば、運転パターン別の運転頻度とは、例えば運転データの採取日を基準とする所定期間内に何回ホットスタート、ウォームスタート、コールドスタートの各々を実行したかである。また、ガスタービン10を設置してからの経過時間とは、ガスタービン10の設置後、運転時間及び停止時間の全て含んだ経過時間である。また、保守点検作業を行った回数とは、対応する運転データの採取日を基準としてそのときまでに行った定期点検、部品の補修や交換、部品のグレードアップなどの総回数である。保守点検作業を行った回数については、点検個所や保守を行った部品ごとの保守点検回数を用いてもよい。また、保守点検作業を行ってから経過した時間とは、例えば、最初又は最後に定期点検を行ってから経過した時間や、ある部品について複数回の点検や交換を行っている場合、最後に部品交換を行ってから経過した時間である。
【0031】
次に、データ取得部31は、取得した対応関係にある運転データと運転履歴データとを記憶部37に対応付けて記録する(ステップS12)。
次に、推定モデル構築部35は、推定モデルの構築に必要な所定期間分の運転データ等が記憶部37に蓄積されたかどうかを判定する(ステップS13)。蓄積されていない場合(ステップS13;No)、ステップS11からの処理を繰り返す。所定期間分の運転データ等が蓄積された場合(ステップS13;Yes)、推定モデル構築部35は、推定モデルMを構築する(ステップS14)。例えば、推定モデル構築部35は、ある運転データαと対応する運転履歴データβについて、運転データαのうち、入力パラメータ(大気温度、大気圧力、燃料流量指令値など)と運転履歴データ(累積運転時間、起動停止回数)とをそのモデルに入力すると、運転データのうち監視対象パラメータ(ガスタービン出力、車室圧力など)を出力するような推定モデルをANN等の手法で構築する。推定モデル構築部35は、構築した推定モデルMを記憶部37へ記録する。続いて、構築した推定モデルMを用いたオンラインでの予兆検知処理の流れについて説明する。
【0032】
図5は、本発明に係る第一実施形態における予兆検知処理の一例を示すフローチャートである。
まず、データ取得部31が、稼働中のガスタービン10の運転データを取得する(ステップS21)。例えば、データ取得部31は、装置20を介して各種センサが計測した最新の計測値(大気温度、大気圧力、ガスタービン10の出力、車室圧力など)を取得する。また、データ取得部31は、装置20から、装置20が指示した最新の制御信号の値(IGV開度、燃料流用指令値、各燃料系統の弁開度など)を取得する。これらデータ取得部31が取得する運転データには、入力パラメータと、監視対象パラメータ(出力パラメータ)とが含まれる。また、データ取得部31は、装置20から、取得した運転データに対応する運転履歴データ(累積運転時間、起動停止回数、定期点検後の経過時間など)を取得する。
データ取得部31は、取得した運転データのうち入力パラメータ及び運転履歴データを推定部32へ出力する。また、データ取得部31は、取得した運転データのうち監視対象パラメータを状態評価部33へ出力する。
【0033】
次に、推定部32は、記憶部37から推定モデルMを読み出して、読み出した推定モデルMに、データ取得部31から取得した運転データ(入力パラメータ)と運転履歴データとを入力する。推定モデルMは、入力された値を用いて監視対象パラメータの推定値を算出する(ステップS22)。推定部32は、監視対象パラメータの推定値を、状態評価部33へ出力する。
【0034】
次に、状態評価部33は、推定部32から取得した監視対象パラメータの推定値と、データ取得部31から取得した監視対象パラメータの計測値との偏差を算出する(ステップS23)。例えば、状態評価部33が備える減算器Sが、ガスタービン出力の推定値からガスタービン出力の計測値を減算する。減算器Sは、算出した偏差を、状態評価部33が備える異常判定部Dに出力する。減算器Sは、他の監視対象パラメータについても同様に偏差を算出し、監視対象パラメータの識別情報(例えば監視対象パラメータの名称)と偏差を対応付けて、異常判定部Dに出力する。
【0035】
次に、状態評価部33は、推定値と計測値との偏差に基づいて、監視対象パラメータの評価を行う。例えば、異常判定部Dは、監視対象パラメータごとに定められた所定の閾値と、減算器Sが算出した当該監視対象パラメータについての偏差を比較する。異常判定部Dは、偏差が閾値を上回っていた場合、異常の予兆ありと判定し、偏差が閾値以内の場合、異常の予兆なしと判定する。
【0036】
異常の予兆ありと判定した場合(ステップS26;Yes)、状態評価部33は、出力部104を介して異常の予兆を検知したことを通知する(ステップS27)。例えば、異常情報生成部D1が、異常の予兆ありと判定された監視対象パラメータの名称、異常発生時刻などを含むアラーム情報を生成する。また、例えば、異常情報生成部D1は、監視対象パラメータに基づいて異常発生箇所を特定し、異常発生箇所を示す情報を生成する。また、例えば、異常情報生成部D1は、過去のアラーム情報に基づいて当該アラームの発生回数、あるいは過去の異常情報に基づいて異常発生箇所における異常発生率などを算出し、異常発生率を示す情報を生成する。また、状態評価部33は、複数の監視対象パラメータを用いて、異常予兆の有無を判定してもよい。例えば、監視対象パラメータK1についての偏差が閾値を上回ったときには、状態評価部33は異常K1´の予兆であると判定し、監視対象パラメータK1についての偏差と監視対象パラメータK2についての偏差が共にそれぞれの閾値を上回ったときには、状態評価部33は異常K2´の予兆であると判定してもよい。なお、監視対象パラメータと異常発生箇所を関連付ける情報や、過去のアラーム情報、異常発生箇所ごとの過去の異常情報などは記憶部37に記録されている。状態評価部33は、異常情報生成部D1が生成したアラーム情報、異常発生率、異常発生箇所の情報などを入出力部36へ出力する。入出力部36は、予兆検知装置30に接続されたディスプレイにアラーム情報などを表示する。
【0037】
異常の予兆なしと判定した場合(ステップS26;No)、予兆検知装置30は、予兆検知処理の終了判定を行う(ステップS28)。例えば、監視員が処理の停止命令を、入出力部36を介して予兆検知装置30へ入力した場合、制御部34は、予兆検知処理を終了すると判定する。予兆検知処理を終了すると判定した場合(ステップS28;Yes)、制御部34は、予兆検知処理を停止する。この場合、本フローチャートを終了する。予兆検知処理を継続する場合(ステップS28;No)、ステップS21からの処理を繰り返す。
【0038】
なお、ステップS24で予兆が検知される異常とは、例えば、あと数時間後には、装置20で異常発生として判断される可能性があるような事象である。あるいは、あと数か月後には、運転を停止しての保守作業が必要となるような事象である。本実施形態の予兆検知装置30によれば、運転履歴データとして、例えば累積運転時間を用いて推定モデルを構築したり、推定値を算出したりすることでプラントの経年変化を考慮した監視対象パラメータの値を推定することができる。また、単に累積運転時間だけではなく、その間の運転負荷や運転条件なども、機器の劣化に影響することが考えられるが、運転履歴データとして、例えばガスタービン出力の累積値、運転パターンごとの運転時間などを用いて推定モデルの構築や推定値の算出を行うことで、プラントの稼働負荷の程度の影響を反映した監視対象パラメータの値を推定することができる。また、運転履歴データとして、例えば、起動停止回数、運転頻度、保守作業回数、保守作業からの経過時間などを用いて推定モデルの構築や推定値の算出を行うことで、プラントの劣化や疲労の程度を考慮した監視対象パラメータの値を推定することができる。つまり、様々な運転履歴データをパラメータとして用いた推定モデルMによって、監視対象パラメータの値を推定するので、より現在のプラントの状況を反映した推定を行うことができる。これにより、精度の高い予兆検知が可能になる。なお、上記の説明では、推定モデルMを予兆検知に用いる場合を例に説明を行ったが、現在のプラントの運転データに対する異常判定に用いてもよい。また、状態評価部33は、単に異常予兆の有無の判定だけでなく、異常の発生確率を判定したり、特に異常の予兆が無い場合でも、プラントの運転状態を「良好」、「普通」、「やや負荷が高い」など段階別に評価して監視員に通知したりするようにしてもよい。
【0039】
また、推定モデルMへの入力パラメータとして、運転データには、プロセスデータ(計測データ及び制御信号)の他、装置20が生成したアラーム情報やイベント情報を追加しても良い。
図6は、本発明に係る第一実施形態における予兆検知処理の他の例について説明する図である。
図6に示す第一実施形態の変形例では、推定モデルM´に
図3で説明した入力パラメータに加え、アラーム情報とイベント情報とを入力している。推定モデル構築部35は、アラーム情報、イベント情報を含む入力パラメータを取得し、推定モデルを構築する。このとき、過去の時系列の変化を学習する学習手法(RNN:Recurrent Neural Networkなど)を用いる場合は、運転データとして、時系列のプロセスデータ、アラーム情報、イベント情報を入力することができる。また、時系列の変化を学習しないモデルの場合、例えば、所定時間内に発生したアラーム情報やイベント情報を入力して推定モデルM´を構築してもよい。
【0040】
また、
図6の構成の場合、予兆検知処理では、データ取得部31が、
図3で説明した入力パラメータに加え、アラーム情報やイベント情報を取得し、推定部32は、累積稼働時間などに加え、アラーム情報やイベント情報の発生状況を反映した監視対象パラメータの値を推定する。例えば、大気温度、燃料流量指令値、累積運転時間などの入力パラメータの値が同じでも、アラーム情報が発生している状況と、そうでない状況とでは、監視対象パラメータが大きく異なる可能性がある。また、大気温度、燃料流量指令値、累積運転時間などの入力パラメータの値が同じでも、一見関係がなさそうな機器の動作(イベント情報)が間接的に影響を与え、その結果、監視対象パラメータの値にも影響を及ぼす可能性がある。
図6に例示した推定モデルM´であれば、これまで意識できていなかったアラーム情報やイベント情報との関係を含め監視対象パラメータの値を推定することができる。
なお、上記の説明では、アラーム情報とイベント情報の両方を用いることとしているが、どちらか1つだけを用いるようにしてもよい。
【0041】
また、推定モデルM、M´の構築に用いる学習データは、多い方が好ましい。従って、監視対象プラントで採取した運転データ、運転履歴データだけでなく、同種のプラント、機器で採取した運転データ、運転履歴データを、監視対象プラントの運転データに加えて推定モデルM、M´の構築を行ってもよい。
【0042】
また、
図2に例示した予兆検知装置30では、予兆検知装置30が推定モデル構築部35を備える場合を例示したが、推定モデル構築部35を備えない構成とすることが可能である。この場合、例えば、他のコンピュータで推定モデルMを構築し、その推定モデルMを記憶部37に記録するようにする。
【0043】
また、予兆検知装置30は、プラント状態の未来予測に利用することもできる。例えば、ある監視対象パラメータが示す値の推移を予測することができれば、その監視対象パラメータに関係する部品の劣化の進行速度や交換時期の推定、保守計画の立案などに役立てることができる。
【0044】
図7は、本発明に係る第一実施形態における予兆検知装置による異常発生の予測とその効果について説明する図である。
図7に示すグラフの縦軸はガスタービン10に用いられている部品Pに関する監視対象パラメータQの値を示し、横軸はガスタービン10の稼働開始からの累積稼働時間を示している。例えば、ガスタービン10は、定格負荷で運転し続ける運転計画が立てられているとする。この場合、将来の運転における推定モデルMへの入力パラメータとなる運転データ(大気温度等)の値については、過去の運転実績から算出することができる。また、推定モデルMに入力する運転履歴データは累積稼働時間であるとする。また、現在の累積稼働時間はT0、この時点での推定モデルMによる監視対象パラメータQの推定値はR0である。また、部品Pは、監視対象パラメータQの値が閾値R以下となると交換しなければならないことが定められている。また、予兆検知装置30は、予兆検知を行う動作モードの他に、監視対象パラメータのトレンド予測を行う動作モードで動作するよう構成してあるとする。トレンド予測を行う動作モードでは、予兆検知装置30は、指定された期間(例えば累積運転時間によって指定する)における推定モデルMによる監視対象パラメータの推定値を出力する。
【0045】
これらの条件の下、保守計画の立案者は、部品Pの交換時期を次のようにして計画することができる。例えば、立案者は、予兆検知装置30へ、監視対象パラメータQのトレンド予測を行う動作モードで動作するよう入力を行う。続いて、立案者は、過去の運転実績に基づく将来の運転に関する入力パラメータ(大気温度など)の値と、累積運転時間T0~T3を指定する期間として予兆検知装置30へ入力する。
すると、制御部34は、監視対象パラメータのトレンド予測処理を開始する。まず、入出力部36が、それらの値の入力を受け付け、入力パラメータの値をデータ取得部31へ出力し、累積運転時間T0~T3を制御部34へ出力する。すると、制御部34は、累積運転時間T0に所定期間ΔTを加算し、加算後の累積運転時間T0+ΔTをデータ取得部31へ出力する。データ取得部31は、入力パラメータと累積運転時間T0+ΔTを推定部32に出力する。推定部32は、累積運転時間T0+ΔTにおける監視対象パラメータQの推定値を算出する。推定値の算出が完了すると、制御部34は、累積運転時間T0+2・ΔTをデータ取得部31へ出力する。推定部32は、累積運転時間T0+2・ΔTにおける監視対象パラメータQの推定値を算出する。以下、同様にして、推定部32は、累積運転時間をΔTずつ増加しながら累積運転時間がT3に至るまでの監視対象パラメータQの推定値の算出を繰り返す。このような処理により、グラフq1が得られる。立案者は、グラフq1により、累積運転時間がT2となると、監視対象パラメータQが閾値Rに至り、部品Pを交換しなければならないことを把握する。例えば、累積運転時間がT1となるときに定期点検を行うことが計画されていたとすると、立案者は、このタイミングで部品Pの交換を行う計画を立案することができる。また、予兆検知装置30は、同様にして、部品P交換後の監視対象パラメータQの値についても予測を行うことができる(グラフq2)。
【0046】
<第二実施形態>
以下、本発明の第二実施形態による予兆検知システムについて
図8~
図11を参照して説明する。
第二実施形態に係る予兆検知装置30Aについて説明を行う。予兆検知装置30Aは、第一実施形態と異なる方法で異常予兆の検知を行う。第一実施形態では、推定モデルMがプラントの経年変化を考慮した監視対象パラメータの推定を行った。この第二実施形態では、状態評価部33Aが、プラントの経年変化を考慮した評価方法によって、監視対象パラメータの評価を行う。
【0047】
図8は、本発明に係る第二実施形態における予兆検知装置の機能ブロック図である。
本発明の第二実施形態に係る構成のうち、第一実施形態に係る予兆検知装置30を構成する機能部と同じものには同じ符号を付し、それぞれの説明を省略する。図示するように予兆検知装置30Aは、データ取得部31と、推定部32と、状態評価部33Aと、制御部34と、推定モデル構築部35と、入出力部36と、記憶部37と、判定モデル構築部38と、異常実績データ取得部39と、を備える。
状態評価部33Aは、監視対象パラメータの推定値及び計測値に加え、運転履歴データを取得し、運転履歴データが示す運転実績に応じた評価基準に基づいて機器の状態を評価する。
判定モデル構築部38は、異常発生時のものを含む監視対象パラメータの推定値及び計測値と、その時点での運転履歴データと、を学習して、運転履歴データが示す運転実績に応じた評価基準を算出するための判定モデルを構築する。
異常実績データ取得部39は、過去に生じた異常について、その異常の内容(種類、規模)、異常の発生箇所、異常への対処方法、異常発生時の監視対象パラメータの推定値及び計測値、その時点での運転履歴データ、などの情報を取得する。
【0048】
図9は、本発明に係る第二実施形態における予兆検知処理を説明する図である。
推定モデルM´や減算器Sについては、
図3、
図6で説明したものと同様である。つまり、推定モデルM´は、過去の正常時の運転データに基づく、経年変化に応じた監視対象パラメータの値を推定する推定モデルである。また、減算器Sは、各監視対象パラメータの推定値と計測値の偏差を算出し、異常判定部Dへ出力する。
【0049】
本実施形態の状態評価部33Aが備える異常判定部Dは、判定モデルNを有している。判定モデルNは、運転履歴データが示す運転を経た時点における評価基準を算出する。例えば、ある監視対象パラメータについて、運転年数が短い時点では、推定値と計測値の偏差が「10」だと異常予兆と判定するのが適切であるとする。一方、運転年数が長くなると、例えば推定値と計測値の偏差が「10」となると、運転年数が短いときと違ってその後急速に偏差が大きくなり、運転年数が短いときと比較してかなり早い時期に異常が発生するとする。このような場合、推定モデルM´を用いて監視対象パラメータの経年変化を考慮した推定値を算出することとは関係なく、閾値についても累積運転時間(運転履歴データ)に応じて変更することが適切であると考えられる。このような場合、判定モデルNは、累積運転時間に応じた閾値の値(例えば「5」)に基づいて、異常予兆ありと判定する。
【0050】
また、判定モデルNの別の例として、運転履歴データの代わりに、所定期間分の運転データを入力して異常予兆の判定を行うモデルが考えられる。例えば、監視対象パラメータa1,a2,a3を対象として、これら3つの監視対象パラメータの偏差のパターン(偏差の履歴)によって発生する異常が異なるとする。判定モデルNは、1つ又は複数の監視対象パラメータ(例えば、監視対象パラメータa1,a2,a3の各々)についての推定モデルM´による推定値と計測値との偏差の履歴と、それぞれの偏差の履歴に対して実際に生じた異常との対応関係を記憶している。このような場合、パラメータa1,a2,a3について、推定モデルM´による推定値と実際の計測値との偏差の情報を所定期間分記憶部37に記録しておくようにする。判定モデルNには、記憶部37に記録した現在を基準とする過去の所定期間分の1つまたは複数の監視対象パラメータ(例えば、監視対象パラメータa1,a2,a3)それぞれについて減算器Sが算出した偏差の時系列の情報(偏差の履歴)を入力する。判定モデルNは、入力された所定期間における偏差の履歴に応じて、上記の対応関係に基づいて異常予兆を判定する。これにより、監視対象パラメータの時間経過における変化を考慮した異常予兆の検知ができる。
【0051】
なお、上記の例では、運転履歴データを判定モデルNの入力パラメータに含めることとしたが、さらにアラーム情報及びイベント情報のうち少なくとも1つを入力パラメータに含めて異常予兆を判定するようにしてもよい。
【0052】
次に、本実施形態の判定モデルの構築処理の例について説明を行う。
図10は、本発明に係る第二実施形態における判定モデルの構築処理の一例を示すフローチャートである。
前提として、ある異常について、どの監視対象パラメータに基づいて異常予兆の判定を行うか、異常が発生する前のどの時点を異常予兆検知時点とするかが、予め定められているとする。
まず、データ取得部31が、異常発生時と異常の発生までの所定期間における推定モデルM(またはM´)による推定値と計測値との偏差データと対応する運転履歴データを取得する(ステップS31)。次に、データ取得部31は、取得した対応関係にある異常時の偏差データと運転履歴データとを記憶部37に対応付けて記録する(ステップS32)。また、異常実績データ取得部39が、ステップS31で取得した異常時の偏差データに対応する異常情報(異常の種類、規模、発生箇所、対処方法など)を取得し、記憶部37へ記録する(ステップS33)。次に、判定モデル構築部38は、判定モデルNを構築する(ステップS34)。例えば、判定モデル構築部38は、実際に発生したある異常についての偏差の履歴と累積運転時間との関係から、累積運転時間と異常発生時の偏差の大きさの関係を算出する。また、判定モデル構築部38は、異常発生から、異常予兆検知時点とすることが定められた所定期間前の時点での偏差を算出し、この偏差の値を異常予兆検知の閾値とする。また、判定モデル構築部38は、閾値を設定した時点における累積運転時間を算出する。判定モデル構築部38は、算出した累積運転時間と閾値と異常情報とを組にして記憶部37に記録する。これにより、異常の種類ごとにプラントの累積運転時間に応じた閾値を設定することができる。
【0053】
図11は、本発明に係る第二実施形態における予兆検知処理の他の例について説明する図である。
図11に示す例では、推定モデルM´´に運転履歴データを入力しない。これに対し、判定モデルNについては、運転履歴データ、アラーム情報の入力を行っている。
図11に示すように、経年変化を考慮しない推定モデルを用いた一般的な異常予兆検知において、異常予兆の判定処理に対してのみ運転履歴データを入力して、経年変化に応じた評価基準に基づいて、異常予兆の判定を行う。これにより、プラントの経年変化を考慮した異常予兆が可能になる。
なお、判定モデルNの構築や異常予兆判定に用いる運転履歴データの種類は、累積運転時間に限られず、第一実施形態の推定モデルM(
図3など)で例示したものを用いることができる。
【0054】
また、
図2に例示した予兆検知装置30Aでは、予兆検知装置30Aが判定モデル構築部38、異常実績データ取得部39を備える場合を例示したが、これらの機能部を備えない構成とすることが可能である。この場合、例えば、他のコンピュータで判定モデルNを構築し、その判定モデルNを記憶部37に記録するようにする。
【0055】
本実施形態によれば、プラントの経年変化、稼働負荷、運転条件などに応じた評価基準に基づいて、異常予兆を行うことができる。合わせて変更することができる。
【0056】
なお、上記の第一実施形態、第二実施形態において、第1推定値と監視対象パラメータの計測値との偏差に基づいて予兆検知をするとして説明を行ったが、監視対象パラメータの計測値に代えて第2推定値を用い、第1推定値と監視対象パラメータの第2推定値との偏差に基づいて予兆検知を行ってもよい。
【0057】
上記の予兆検知装置30,30Aは予兆検知システムの一例である。また、予兆検知装置30,30Aにおける各処理の過程は、プログラムの形式でコンピュータ読み取り可能な記録媒体に記憶されており、このプログラムを予兆検知装置30,30Aのコンピュータが読み出して実行することによって、上記処理が行われる。ここでコンピュータ読み取り可能な記録媒体とは、磁気ディスク、光磁気ディスク、CD-ROM、DVD-ROM、半導体メモリ等をいう。また、このコンピュータプログラムを通信回線によってコンピュータに配信し、この配信を受けたコンピュータが当該プログラムを実行するようにしてもよい。
【0058】
また、上記プログラムは、前述した機能の一部を実現するためのものであってもよい。さらに、前述した機能をコンピュータシステムにすでに記録されているプログラムとの組み合わせで実現できるもの、いわゆる差分ファイル(差分プログラム)であってもよい。
また、予兆検知装置30,30Aは、1台のコンピュータで構成されていても良いし、通信可能に接続された複数のコンピュータで構成されていてもよい。
【0059】
その他、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、上記した実施の形態における構成要素を周知の構成要素に置き換えることは適宜可能である。また、この発明の技術範囲は上記の実施形態に限られるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
【符号の説明】
【0060】
10・・・ガスタービン、15・・・発電機、20・・・装置、11・・・圧縮機、
12・・・燃焼器、13・・・タービン、14・・・ロータ、16A,16B,16C・・・燃料流量調整弁、17・・・IGV、30,30A・・・予兆検知装置、
31・・・データ取得部、32・・・推定部、33・・・状態評価部、34・・・制御部、
35・・・推定モデル構築部、36・・・入出力部、37・・・記憶部、38・・・判定モデル構築部、39・・・異常実績データ取得部、A、B,C・・・燃料系統、D・・・異常判定部、M、M´・・・推定モデル、P・・・部品、Q・・・監視対象パラメータ