(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-18
(45)【発行日】2022-11-29
(54)【発明の名称】ホース用樹脂材料、ホース管及びホース
(51)【国際特許分類】
C08L 77/00 20060101AFI20221121BHJP
B32B 1/08 20060101ALI20221121BHJP
F16L 11/10 20060101ALI20221121BHJP
【FI】
C08L77/00
B32B1/08 B
F16L11/10 B
(21)【出願番号】P 2017543524
(86)(22)【出願日】2016-09-28
(86)【国際出願番号】 JP2016078727
(87)【国際公開番号】W WO2017057516
(87)【国際公開日】2017-04-06
【審査請求日】2019-06-24
【審判番号】
【審判請求日】2021-12-15
(31)【優先権主張番号】P 2015190496
(32)【優先日】2015-09-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000005278
【氏名又は名称】株式会社ブリヂストン
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】松山 史昌
【合議体】
【審判長】平城 俊雅
【審判官】槙原 進
【審判官】松下 聡
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-262673(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2005/0247103(US,A1)
【文献】特開2011-7240(JP,A)
【文献】特開2006-266318(JP,A)
【文献】特公昭60-37352(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16L 9/00 - 11/26
B32B 1/00 - 43/00
C08L 1/00 - 101/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂材料の成形物であるホース管を含む、水素ガスの移送のためのホースであって、
前記樹脂材料は、-40℃の環境下における破断伸びが20%以上であり、重量平均分子量が50000以上70000以下であり、結晶化度が20%~35%であり、可塑剤を実質的に含まない融点が180℃以上のPA11のみを樹脂として含む、ホース(ただし、芳香族含有ポリアミド樹脂を含むものを除く)。
【請求項2】
前記ホース管の外側に配置される補強層を有する、請求項
1に記載のホース。
【請求項3】
ポリアミド又はポリオレフィンを含む外被層をさらに有する、請求項
1又は請求項
2に記載のホース。
【請求項4】
PA12を含む外被層をさらに有する、請求項
1又は請求項
2に記載のホース。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ホース用樹脂材料、ホース管及びホースに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、金属パイプ等に代わって液体や気体を高圧で移送する手段として、補強層と、その内部に配置された樹脂材料からなる内管と、を有するホースの開発が進められている。例えば、ポリ塩化ビニル等の熱可塑性樹脂からなる内層及び中間層と、その外周に隙間なく巻きつけられた補強線材と、外層と、を有する耐圧ホースが提案されている(例えば、特開2010-190343号公報参照)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
近年、水素ガスステーション等から自動車等の燃料電池へ水素ガスを供給するためのホースの需要が高まっている。水素ガスは、充填効率向上のために可能な限り高圧かつ低温でホース内を移送させるため、ホースには低温環境下での耐久性の向上が求められている。耐圧ホースの分野ではこれまで常温環境下での耐久性に関する検討が主になされ、低温環境下での耐久性についてはなお向上の余地がある。
【0004】
従って、低温環境下での耐久性に優れるホースを製造可能なホース用樹脂材料、並びにこれを用いたホース管及びホースの開発が待たれている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
-40℃の環境下における破断伸びが20%以上であり、可塑剤を実質的に含まないホース用樹脂材料。
【発明の効果】
【0006】
本開示によれば、低温環境下での耐久性に優れるホースを製造可能なホース用樹脂材料、並びにこれを用いたホース管及びホースが提供される。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、本開示の具体的な実施形態について詳細に説明するが、本開示は、以下の実施形態に何ら限定されるものではなく、適宜変更を加えて実施することができる。
【0008】
本明細書において「樹脂」とは、熱可塑性樹脂及び熱硬化性樹脂を含む概念であり、加硫ゴムは含まない。
本明細書において「~」を用いて表される数値範囲は、「~」の前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味する。
本明細書において「工程」との語には、独立した工程だけではなく、他の工程と明確に区別できない場合であっても、その目的が達成されるものであれば、当該工程も本用語に含まれる。
【0009】
<ホース用樹脂材料>
本実施形態のホース用樹脂材料(以下、単に樹脂材料とも称する)は、-40℃の環境下における破断伸びが20%以上であり、可塑剤を実質的に含まない。
本明細書において樹脂材料が可塑剤を「実質的に含まない」場合には(1)樹脂材料が可塑剤を全く含まない場合と、(2)可塑剤を含むがその量が樹脂材料全体の3質量%以下、好ましくは1質量%以下である場合と、が含まれる。
本明細書において「ホース」とは、屈曲性を有し、移送対象(例えば、液体又は気体等の流体)を移送可能な管状の物体を意味する。
【0010】
ホースの材料として使用される樹脂には、通常、耐久性や柔軟性を高めたり、押出成形を容易にするために可塑剤が添加されている。樹脂に可塑剤を添加すると、その破断伸びの値は一般に大きくなると考えられる。しかしながら、本発明者らの検討により、樹脂の種類によっては可塑剤を添加した場合よりも、可塑剤を実質的に含まない場合の方が、低温環境下での破断伸びの値が大きい傾向にあることがわかった。本開示はかかる知見に基づくものであり、低温環境下での耐久性に優れるホースを製造可能な樹脂材料を提供するものである。
【0011】
本明細書において「可塑剤」とは、樹脂の柔軟性等の物性を改良する目的で用いられる化合物を意味する。可塑剤の種類は、樹脂の種類に応じて選択される。例えば、ポリアミドの可塑剤としてはN-ブチルベンゼンスルホンアミド(BBSA)、エチルトルエンスルホンアミド、N-シクロヘキシルトルエンスルホンアミド等のベンゼンスルホンアミド誘導体、p-ヒドロキシ安息香酸-2-エチルヘキシル、p-ヒドロキシ安息香酸-2-デシルヘキシル等のヒドロキシ安息香酸のエステル、オリゴエチレンオキシテトラヒドロフルフリルアルコール等のテトラヒドロフルフリルアルコールのエステル又はエーテル、クエン酸、オリゴエチレンオキシマロネート等のヒドロキシマロン酸のエステル、フェノール系化合物などが挙げられる。
【0012】
樹脂材料中に可塑剤が含まれているか否かの確認及びその量の測定は、ガスクロマトグラフィー等の公知の方法によって行うことができる。
【0013】
本実施形態の樹脂材料は、可塑剤を実質的に含まないため、-40℃の環境下における破断伸びが20%以上である。この条件を満たすことにより、低温環境下でのホースの耐久性及び加締め性能が充分に得られる。樹脂材料の-40℃の環境下における破断伸びは50%以上であることが好ましく、100%以上であることがより好ましく、150%以上であることが更に好ましい。
【0014】
樹脂材料の-40℃の環境下における破断伸びの上限値は特に制限されないが、ホースの耐久性、剛性、成形性(補強材巻き付け時の安定性等)、加締め性能及び口金具アセンブリ性能を充分に得る観点からは、600%以下であってよく、500%以下であることが好ましく、300%以下であることがより好ましく、260%以下であることが更に好ましい。
【0015】
本明細書において「破断伸び」の値は、JIS K 6251(2010)に規定される方法に準拠して測定される値である。具体的には、樹脂材料を用いて作製した6号ダンベル形状の試験片を引張試験機にセットして、50mm/分の速度で試験片を引っ張る。以上の操作を所定の温度環境下で実施し、所定の温度環境下における破断伸びの値を測定する。
【0016】
樹脂材料は、-40℃の環境下における破断強度が25MPa以上であることが好ましい。この条件を満たすことにより、低温環境下でも充分な強度を有するホースを製造できる。樹脂材料の-40℃の環境下における破断強度は、30MPa以上であることがより好ましく、40MPa以上であることが更に好ましい。
【0017】
樹脂材料の-40℃の環境下における破断強度の上限値は特に制限されないが、ホースの耐久性、剛性、成形性、加締め性能及び口金具アセンブリ性能を充分に得る観点からは、200MPa以下であってよく、120MPa以下であることが好ましく、100MPa以下であることがより好ましく、85MPa以下であることが更に好ましい。
【0018】
本明細書において破断強度とは、上述した破断伸びの値を測定するための引張試験において、樹脂材料を用いて作製した試験片が破断せずに耐えられる最大の引張強さ(MPa)である。
【0019】
樹脂材料に含まれる樹脂は、ホースの成型加工性や耐圧ホースに要求される性能の観点からは熱可塑性樹脂であることが好ましい。熱可塑性樹脂として具体的には、ポリアミド、ポリエステル、ポリウレタン、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリイミド、ポリ乳酸、ポリ塩化ビニル、ポリアセタール、アクリル樹脂、フッ素含有樹脂等の熱可塑性樹脂が挙げられる。これらの樹脂は、1種を単独で用いても、2種以上を併用してもよい。樹脂材料は、エラストマーの状態であってもよい。
【0020】
上記の樹脂の中でも、ホースの成形加工性、寸法安定性及び耐圧ホースに要求される性能の観点からは、ポリアミドが好ましい。ポリアミドとしては、ナイロン11(PA11)、ナイロン6(PA6)、ナイロン9(PA9)、ナイロン10(PA10)、ナイロン610(PA610)、ナイロン612(PA612)等の脂肪族ポリアミド(ナイロン)、芳香族ポリアミド(アラミド)などが挙げられる。これらのポリアミドは、1種を単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
上記のポリアミドの中でも、耐圧ホースに要求される性能及び低温環境下での耐久性の観点からは、ナイロン11(PA11)が好ましい。
樹脂材料に含まれる樹脂がナイロン11(PA11)を含む場合、ナイロン11(PA11)の含有量は樹脂全体の90質量%以上であることが好ましく、樹脂成分はナイロン11(PA11)のみ)であってもよい。
【0021】
樹脂材料に含まれる樹脂の融点は特に制限されないが、水素ガス透過性を低く抑えるためには一般に高い方が好ましい。一方、樹脂の融点が低くなると一般に結晶性が低くなり、水素ガス透過性も上昇する傾向にある。以上の観点から、樹脂の融点は180℃~210℃の範囲であることが好ましい。本明細書において樹脂の融点は、示差走査熱量計(DSC)により測定される値である。
【0022】
樹脂材料に含まれる樹脂の結晶化度は特に制限されないが、75%以下であることが好ましく、20%~75%であることがより好ましく、20%~35%であることがさらに好ましい。本明細書において樹脂の結晶化度は、示差走査熱量計(DSC)により測定される値である。
【0023】
樹脂材料に含まれる樹脂の重量平均分子量は特に制限されないが、ガス透過性と低温環境下での耐久性の観点からは50000以上であることが好ましい。また、成型加工性の観点からは70000以下であることが好ましい。本明細書において樹脂の重量平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)で測定される値(PMMA換算)である。
【0024】
樹脂材料は、本実施形態の樹脂材料の効果を妨げない範囲で樹脂以外の成分を含んでもよい。このような成分としては、老化防止剤、着色剤、充填材、帯電防止剤、熱安定剤、難燃剤等が挙げられる。
【0025】
樹脂材料を用いて製造されるホースにおける樹脂材料が適用される部位は特に制限されないが、ホースの内側の樹脂層(ホース内管)であることが好ましく、樹脂層はホース内の移送対象に接触する位置に存在することがより好ましい。樹脂材料を用いてホースの樹脂層を形成することで、低温環境下で使用する場合や、低温の移送対象を移送する場合でも耐久性に優れるホースを製造することができる。
【0026】
<ホース管>
本実施形態のホース管は、-40℃の環境下における破断伸びが20%以上であり、可塑剤を実質的に含まない樹脂材料の成形物である。
【0027】
本実施形態のホース管は、低温環境下での耐久性に優れている。このため、低温環境下で使用されるホースや、低温の移送対象を移送するためのホースの部材として適している。このようなホースとしては、水素ガス、炭酸ガス、プロパンガス、酸素ガス、その他可燃性ガス等の気体を加圧した状態で移送するためのホースが挙げられる。
【0028】
本実施形態のホース管は、上述したホース用樹脂材料を用いて形成されることが好ましい。ホース用樹脂材料の物性、成分等については上述したとおりである。ホース管の形成方法は特に制限されず、公知の方法により行うことができる。ホース管は、ホース内を移送される移送対象に接触する位置に存在することが好ましい。ホース管は1層のみでもよく、2層以上であってもよい。
【0029】
ホース管の内径(ホース管の断面における中空部分の最大径)は特に制限されず、所望の強度、耐久性に応じて選択できる。例えば、3.0mm以上とすることができ、4.0mm以上であることが好ましい。また、51.0mm以下とすることができ、25.4mm以下であることが好ましい。
【0030】
ホース管の厚み(ホース管の断面における樹脂材料からなる周囲部分の厚み)は特に制限されず、所望の強度、耐久性に応じて選択できる。例えば、0.05mm以上とすることができ、0.5mm以上であることが好ましい。また、10mm以下とすることができ、5mm以下であることが好ましい。
【0031】
<ホース>
本実施形態のホースは、上述したホース管を含む。本実施形態のホースはホース管のみからなっても、補強層、外被層等の別の部材を含んでいてもよい。
【0032】
ホースは、ホース管の外側に配置される補強層を有することが好ましい。ホースが補強層を有することで、移送対象の移送を高圧で行う場合にも充分な強度が得られる。この場合のホースは、補強層とホース管との間にさらに別の層を有してもよく、補強層の外側又はホース管の内側にさらに別の層を有してもよい。補強層は1層のみでもよく、2層以上であってもよい。
【0033】
補強層の材料は特に制限されず、所望の強度、耐久性に応じて選択できる。例えば、アラミド、ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール(PBO)、ポリケトン(PK)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ナイロン(PA)、ポリアリレート、ポリイミド、ポリ乳酸、フッ素含有樹脂等の有機材料、金属、ガラス、炭素等の無機材料等が挙げられる。
【0034】
補強層の厚みは特に制限されず、所望の強度、耐久性に応じて選択できる。例えば、0.2mm以上とすることができ、1.0mm以上であることが好ましい。また、20mm以下とすることができ、10mm以下であることが好ましい。
【0035】
補強層の形成方法は特に制限されない。例えば、繊維状又はコード状の補強層の材料を、ホース管の外側にスパイラル状又はブレード状に巻きつけたり、布状又は編地状にした補強層の材料をホース管の外側に巻きつけたりして補強層を形成してもよい。
【0036】
ホースは、補強層の外側に配置される外被層をさらに有していてもよい。ホースが外被層を有することで、ホースの強度をさらに向上させることができる。また、外部環境(雨水、薬品等)からホースを保護することができる。外被層の材料は特に制限されず、ポリアミド、ポリウレタン、ポリエステル、ポリオレフィン等の樹脂(エラストマーであってもよい)が挙げられる。
【0037】
本開示のホースは低温環境下での耐久性に優れるため、低温環境で使用されるホースや、低温の物体を移送するホースとして好適に使用される。特に、低温かつ高圧で移送させる場合の多い水素ガスの移送に好適に使用される。
【0038】
本開示には、以下に示す実施態様が含まれる。
<1>-40℃の環境下における破断伸びが20%以上であり、可塑剤を実質的に含まないホース用樹脂材料。
<2>-40℃の環境下における破断強度が25MPa以上である、<1>に記載のホース用樹脂材料。
<3>-40℃の環境下における破断伸びが500%以下である、<1>又は<2>に記載のホース用樹脂材料。
<4>融点が180℃以上210℃以下である樹脂を含む、<1>~<3>のいずれか1項に記載のホース用樹脂材料。
<5>重量平均分子量が50000以上70000以下である樹脂を含む、<1>~<4>のいずれか1項に記載のホース用樹脂材料。
<6>ポリアミドを含む、<1>~<5>のいずれか1項に記載のホース用樹脂材料。
<7>-40℃の環境下における破断伸びが20%以上であり、可塑剤を実質的に含まない樹脂材料の成形物である、ホース管。
<8>-40℃の環境下における破断強度が25MPa以上である、<7>に記載のホース管。
<9>前記樹脂材料がポリアミドを含む、<7>又は<8>に記載のホース管。
<10><7>~<9>のいずれか1項に記載のホース管を含む、ホース。
<11>前記ホース管の外側に配置される補強層を有する、<10>に記載のホース。
<12>水素ガスの移送用である、<10>又は<11>に記載のホース。
【実施例】
【0039】
以下、本開示について実施例を用いてより具体的に説明するが、本開示はこれらの記載に何ら制限を受けるものではない。
【0040】
[実施例1]
樹脂材料として、可塑剤を含有せず、融点、重量平均分子量及び結晶化度が表1に記載する値であるポリアミド(PA11)を用いて、長さが1mのホース管(内径:6.5mm、厚み:1.5mm)を作製した。次いで、ホース管の外側に金属ワイヤーを巻き付けて3層構造の補強層(全体の厚み:6.0mm)を形成した。次いで、補強層の外側にポリアミド(PA12)を用いて外被層(厚み:1.2mm)を形成し、ホースを作製した。
【0041】
[実施例2、比較例1~3、6]
樹脂材料として、可塑剤としてフェノール系化合物を表1に記載の量で含有し、融点、重量平均分子量及び結晶化度が表1に記載する値であるポリアミド(PA11)を用いてホース管を作製した以外は実施例1と同様にして、ホースを作製した。
【0042】
[比較例4、5]
樹脂材料として、可塑剤を含有せず、融点、重量平均分子量及び結晶化度が表1に記載する値であるポリアミド(PA12)又は可塑剤を3質量%含有し、融点、重量平均分子量及び結晶化度が表1に記載する値であるポリアミド(PA12)を用いてホース管を作製した以外は実施例1と同様にして、ホースを作製した。
【0043】
(低温環境下における破断伸び及び破断強度)
JIS K 6251(2010)に規定される方法に準拠し、実施例及び比較例でホース管の作製に用いた樹脂材料を用いて6号ダンベル形状の試験片を作製し、引張試験機にセットして50mm/分の速度で引っ張る試験を行い、破断伸び(%)及び破断強度(MPa)を測定した。試験は、-40℃に設定した装置内で実施した。
【0044】
(低温環境下における耐久性)
実施例及び比較例で作製したホースに対し、圧力70MPa、雰囲気温度-40℃の条件で、低温で凍結しない鉱物性作動油を移送対象として、約0MPaと70MPaの間で加圧と減圧を繰り返し、ホース管が破壊されるまでの加圧と減圧の繰り返しの回数を測定し、以下の評価基準によって評価した。評価がA又はBであると、低温かつ高圧で移送対象を移送する場合にも耐久性が充分であると判断できる。
【0045】
A 加圧と減圧の繰り返しが2.5万回以上でもホース管が破壊しなかった。
B 加圧と減圧の繰り返しが2万回以上2.5万回未満でホース管が破壊した。
C 加圧と減圧の繰り返しが1.5万回以上2万回未満でホース管が破壊した。
D 加圧と減圧の繰り返しが1万回以上1.5万回未満でホース管が破壊した。
E 加圧と減圧の繰り返しが1万回未満でホース管が破壊した。
【0046】
(水素ガス透過性)
作成したホース管(測定長200mm)について、雰囲気温度70℃、圧力2MPaで水素ガスをホース管内側に流し、ホース管外側に透過してくる水素ガスの透過度(cm3/m・24hr・atm)を測定した。測定は、JIS K7126-2に準じた方法で行い、以下の評価基準によって評価した。
【0047】
A:ガス透過度が9.5cm3/m・24hr・atm以下である
B:ガス透過度が9.5~11.0cm3/m・24hr・atmである
C:ガス透過度が11.0~14.0cm3/m・24hr・atmである
D:ガス透過度が14.0~18.0cm3/m・24hr・atmである
E:ガス透過度が18.0cm3/m・24hr・atm以上である
【0048】
(補強層編上げ加工性(寸法安定性))
作製したホース管の外側に金属ワイヤーを巻付けて補強層を形成するが、金属ワイヤーを巻付ける際の条件は一定として、巻付けた後の補強層外径の安定性を以下の評価基準によって評価した。
【0049】
A:目標通りの補強層外径が中心値付近で安定した状態でワイヤー巻付け可能である
B:目標通りの補強層外径が設定許容差(公差)内で安定した状態でワイヤー巻付け可能である
C:目標通りの補強層外径が設定許容差(公差)内で安定した状態でワイヤー巻付けが可能だが、製造途中でワイヤー巻付け条件の変更を行わないと補強層外径が設定許容差(公差)を外れる可能性がある
D:製造途中の早い段階でワイヤー巻付け条件の変更を行わないと、補強層外径が設定許容差(公差)が外れるか、または、補強層外径が設定許容差(公差)に入らない
E:ワイヤー巻付け条件を変更しても、補強層外径が設定許容差(公差)に入らず製造が出来ない
【0050】
【0051】
表1の結果に示されるように、可塑剤を含有しないか、可塑剤の含有率が3質量%であり、かつ低温環境下での破断伸びが20%以上である実施例1~実施例3では、耐久性試験、水素ガス透過性及び寸法安定性の評価結果が良好であった。
可塑剤の含有率が10質量%、15質量%又は30質量%である比較例1~3では、低温環境下での破断伸びは20%に満たなかった。また、低温環境下で加圧と減圧を繰り返す耐久性の試験を行った結果、耐久性が不充分であった。
可塑剤を含有しないか、含有率が3質量%であっても低温環境下での破断伸びは20%に満たない比較例4、5は、耐久性試験と水素ガス透過性の評価結果が実施例よりも低かった。
可塑剤の含有率が3質量%であっても低温環境下での破断伸びが20%に満たない比較例6は、耐久性試験と寸法安定性の評価結果が実施例よりも低かった。
【0052】
以上より、-40℃の環境下における破断伸びが20%以上であり、可塑剤を実質的に含まない樹脂材料を用いることで、低温環境下での耐久性に優れるホース管及びホースを製造できることがわかった。
【0053】
日本国特許出願第2015-190496号の開示は、その全体が参照により本明細書に取り込まれる。本明細書に記載された全ての文献、特許出願、および技術規格は、個々の文献、特許出願、および技術規格が参照により取り込まれることが具体的かつ個々に記された場合と同程度に、本明細書中に参照により取り込まれる。