(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-18
(45)【発行日】2022-11-29
(54)【発明の名称】気体センサ及び気体検出方法
(51)【国際特許分類】
G01N 29/036 20060101AFI20221121BHJP
G01N 29/48 20060101ALI20221121BHJP
【FI】
G01N29/036
G01N29/48
(21)【出願番号】P 2018075284
(22)【出願日】2018-04-10
【審査請求日】2021-03-09
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】303018827
【氏名又は名称】Tianma Japan株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001678
【氏名又は名称】藤央弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】今井 阿由子
(72)【発明者】
【氏名】住吉 研
【審査官】小野寺 麻美子
(56)【参考文献】
【文献】特開昭63-298013(JP,A)
【文献】国際公開第2007/132671(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2005/0109080(US,A1)
【文献】特開2008-256485(JP,A)
【文献】特開平09-264839(JP,A)
【文献】特開平11-153477(JP,A)
【文献】特表2018-507390(JP,A)
【文献】特開2006-292639(JP,A)
【文献】特表2002-519634(JP,A)
【文献】特表2010-517025(JP,A)
【文献】実公昭50-041919(JP,Y1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 29/00 - G01N 29/52
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
共鳴器と、
前記共鳴器から出力された音波を電気信号に変換する変換器と、
前記変換器が変換した電気信号に基づいて、特定の気体を検出する検出部と、を備え、
前記共鳴器は、振動時の周波数特性がそれぞれ異なり、前記共鳴器内の気体を振動させて前記共鳴器から共鳴による音波を出力する複数の振動体を含み、
前記複数の振動体は、第1振動体と第2振動体とを含み、
前記第1振動体の周波数特性において、前記特定の気体の濃度が第1の値である場合における前記共鳴器の共鳴周波数における振幅が所定値以上であり、
前記第2振動体の周波数特性において、前記特定の気体の濃度が前記第1の値より大きい第2の値である場合における前記共鳴器の共鳴周波数における振幅が所定値以上である、気体センサ。
【請求項2】
請求項1に記載の気体センサであって、
前記第1振動体は第1音源であり、前記第2振動体は、前記第1音源より高い周波数において振幅のピークが存在する周波数特性を有する第2音源である、気体センサ。
【請求項3】
請求項1に記載の気体センサであって、
前記第1振動体は第1圧電素子であり、前記第2振動体は、前記第1圧電素子より高い周波数において振幅のピークが存在する周波数特性を有する第2圧電素子である、気体センサ。
【請求項4】
請求項1に記載の気体センサであって、
前記共鳴器内の気体の振動を制御する制御部を含み、
前記検出部は、ロックインアンプを含み、
前記制御部は、
前記複数の振動体に対して、周波数を掃引して交流電圧を印加し、
前記交流電圧を参照信号として前記ロックインアンプに送信し、
前記ロックインアンプは、
前記変換器が変換した電気信号と、前記参照信号と、に基づいて、前記特定の気体を検出する、気体センサ。
【請求項5】
請求項1に記載の気体センサであって、
前記共鳴器内の気体の振動を制御する制御部を含み、
前記検出部は、
前記変換器が変換した電気信号を増幅し、
前記増幅した電気信号を前記制御部に送信し、
前記制御部は、前記検出部から受信した信号を用いて、前記複数の振動体の振動を制御する、気体センサ。
【請求項6】
請求項1に記載の気体センサであって、
前記共鳴器内の気体の振動を制御する制御部を含み、
前記制御部は、
前記複数の振動体に対して、周波数を掃引して交流電圧を印加し、
前記共鳴器の周波数特性における振幅が第3の値である第1周波数において印加する第1電圧より、前記共鳴器の周波数特性における振幅が前記第3の値より大きい第4の値である第2周波数において印加する第2電圧の方が小さい、気体センサ。
【請求項7】
請求項1に記載の気体センサであって、
第1共鳴器、第2共鳴器、第1変換器、及び第2変換器を含み、
前記第1共鳴器及び前記第2共鳴器それぞれは、前記複数の振動体を含み、
前記第1共鳴器及び前記第1変換器は、前記特定の気体の検出対象の空間に設置され、
前記第2共鳴器及び前記第2変換器は、前記検出対象の空間と同一温度の所定条件下の空間に設置され、
前記検出部は、前記第1共鳴器が出力した音波を前記第1変換器が変換した第1電気信号と、前記第2共鳴器が出力した音波を前記第2変換器が変換した第2電気信号と、に基づいて、前記特定の気体を検出する、気体センサ。
【請求項8】
共鳴器と、
前記共鳴器から出力された音波を電気信号に変換する変換器と、
前記変換器が変換した電気信号に基づいて、特定の気体を検出する検出部と、を備え、
前記共鳴器は、
振動時の周波数特性がそれぞれ異なり、前記共鳴器内の気体を振動させて前記共鳴器から共鳴による音波を出力する複数の振動体を含む、気体センサであって、
第1共鳴器と第2共鳴器とを含み、
前記複数の振動体は、第1振動体と第2振動体とを含み、
前記第1共鳴器は、前記第1振動体を含み、
前記第2共鳴器は、前記第2振動体を含み、
同一条件下において、前記第1共鳴器の共鳴周波数は、前記第2共鳴器の共鳴周波数より低く、
前記第1振動体の周波数特性において、前記特定の気体の濃度が第1の値である場合における前記第1共鳴器の共鳴周波数における振幅が所定値以上であり、
前記第2振動体の周波数特性において、前記特定の気体の濃度が前記第1の値より小さい第2の値である場合における前記第2共鳴器の共鳴周波数における振幅が所定値以上である、気体センサ。
【請求項9】
共鳴器と、
前記共鳴器から出力された音波を電気信号に変換する変換器と、
前記変換器が変換した電気信号に基づいて、特定の気体を検出する検出部と、を備え、
前記共鳴器は、
振動時の周波数特性がそれぞれ異なり、前記共鳴器内の気体を振動させて前記共鳴器から共鳴による音波を出力する複数の振動体と、
自身が加熱されることで前記共鳴器の気体を振動させて前記共鳴器から共鳴による音波を出力する被加熱材料と、の少なくとも一方を含み、
前記共鳴器内の気体の振動を制御する制御部を含み、
前記共鳴器は前記被加熱材料を含み、
前記被加熱材料は、レーザー光を吸収する材料を含み、
前記制御部は、前記被加熱材料に対してレーザー光を照射することで前記被加熱材料を加熱する、気体センサであって、
前記共鳴器は、前記複数の振動体を含み、
前記検出部は、ロックインアンプを含み、
前記制御部は、
前記複数の振動体に対して、周波数を掃引して交流電圧を印加し、
前記交流電圧を参照信号として前記ロックインアンプに送信し、
前記ロックインアンプは、
前記変換器が変換した電気信号と、前記参照信号と、に基づいて、前記特定の気体を検出する、気体センサ。
【請求項10】
共鳴器と、
前記共鳴器から出力された音波を電気信号に変換する変換器と、
前記変換器が変換した電気信号に基づいて、特定の気体を検出する検出部と、を備え、
前記共鳴器は、
振動時の周波数特性がそれぞれ異なり、前記共鳴器内の気体を振動させて前記共鳴器から共鳴による音波を出力する複数の振動体と、
自身が加熱されることで前記共鳴器の気体を振動させて前記共鳴器から共鳴による音波を出力する被加熱材料と、の少なくとも一方を含み、
前記共鳴器内の気体の振動を制御する制御部を含み、
前記共鳴器は前記被加熱材料を含み、
前記被加熱材料は、導電性材料を含み、
前記制御部は、前記被加熱材料に対して電圧を印加することで前記被加熱材料を加熱する、気体センサであって、
前記共鳴器は、前記複数の振動体を含み、
前記検出部は、ロックインアンプを含み、
前記制御部は、
前記複数の振動体に対して、周波数を掃引して交流電圧を印加し、
前記交流電圧を参照信号として前記ロックインアンプに送信し、
前記ロックインアンプは、
前記変換器が変換した電気信号と、前記参照信号と、に基づいて、前記特定の気体を検出する、気体センサ。
【請求項11】
共鳴器と、
前記共鳴器から出力された音波を電気信号に変換する変換器と、
前記変換器が変換した電気信号に基づいて、特定の気体を検出する検出部と、を備え、
前記共鳴器は、
振動時の周波数特性がそれぞれ異なり、前記共鳴器内の気体を振動させて前記共鳴器から共鳴による音波を出力する複数の振動体と、
自身が加熱されることで前記共鳴器の気体を振動させて前記共鳴器から共鳴による音波を出力する被加熱材料と、の少なくとも一方を含み、
前記共鳴器内の気体の振動を制御する制御部を含み、
前記共鳴器は前記被加熱材料を含み、
前記被加熱材料は、レーザー光を吸収する材料を含み、
前記制御部は、前記被加熱材料に対してレーザー光を照射することで前記被加熱材料を加熱する、気体センサであって、
前記共鳴器は、前記複数の振動体を含み、
前記検出部は、
前記変換器が変換した電気信号を増幅し、
前記増幅した電気信号を前記制御部に送信し、
前記制御部は、前記検出部から受信した信号を用いて、前記複数の振動体の振動を制御する、気体センサ。
【請求項12】
共鳴器と、
前記共鳴器から出力された音波を電気信号に変換する変換器と、
前記変換器が変換した電気信号に基づいて、特定の気体を検出する検出部と、を備え、
前記共鳴器は、
振動時の周波数特性がそれぞれ異なり、前記共鳴器内の気体を振動させて前記共鳴器から共鳴による音波を出力する複数の振動体と、
自身が加熱されることで前記共鳴器の気体を振動させて前記共鳴器から共鳴による音波を出力する被加熱材料と、の少なくとも一方を含み、
前記共鳴器内の気体の振動を制御する制御部を含み、
前記共鳴器は前記被加熱材料を含み、
前記被加熱材料は、導電性材料を含み、
前記制御部は、前記被加熱材料に対して電圧を印加することで前記被加熱材料を加熱する、気体センサであって、
前記共鳴器は、前記複数の振動体を含み、
前記検出部は、
前記変換器が変換した電気信号を増幅し、
前記増幅した電気信号を前記制御部に送信し、
前記制御部は、前記検出部から受信した信号を用いて、前記複数の振動体の振動を制御する、気体センサ。
【請求項13】
共鳴器と、
前記共鳴器から出力された音波を電気信号に変換する変換器と、
前記変換器が変換した電気信号に基づいて、特定の気体を検出する検出部と、を備え、
前記共鳴器は、
振動時の周波数特性がそれぞれ異なり、前記共鳴器内の気体を振動させて前記共鳴器から共鳴による音波を出力する複数の振動体と、
自身が加熱されることで前記共鳴器の気体を振動させて前記共鳴器から共鳴による音波を出力する被加熱材料と、の少なくとも一方を含み、
前記共鳴器内の気体の振動を制御する制御部を含み、
前記共鳴器は前記被加熱材料を含み、
前記被加熱材料は、レーザー光を吸収する材料を含み、
前記制御部は、前記被加熱材料に対してレーザー光を照射することで前記被加熱材料を加熱する、気体センサであって、
前記共鳴器は、前記複数の振動体を含み、
前記制御部は、
前記複数の振動体に対して、周波数を掃引して交流電圧を印加し、
前記共鳴器の周波数特性における振幅が第1の値である第1周波数において印加する第1電圧より、前記共鳴器の周波数特性における振幅が前記第1の値より大きい第2の値である第2周波数において印加する第2電圧の方が小さい、気体センサ。
【請求項14】
共鳴器と、
前記共鳴器から出力された音波を電気信号に変換する変換器と、
前記変換器が変換した電気信号に基づいて、特定の気体を検出する検出部と、を備え、
前記共鳴器は、
振動時の周波数特性がそれぞれ異なり、前記共鳴器内の気体を振動させて前記共鳴器から共鳴による音波を出力する複数の振動体と、
自身が加熱されることで前記共鳴器の気体を振動させて前記共鳴器から共鳴による音波を出力する被加熱材料と、の少なくとも一方を含み、
前記共鳴器内の気体の振動を制御する制御部を含み、
前記共鳴器は前記被加熱材料を含み、
前記被加熱材料は、導電性材料を含み、
前記制御部は、前記被加熱材料に対して電圧を印加することで前記被加熱材料を加熱する、気体センサであって、
前記共鳴器は、前記複数の振動体を含み、
前記制御部は、
前記複数の振動体に対して、周波数を掃引して交流電圧を印加し、
前記共鳴器の周波数特性における振幅が第1の値である第1周波数において印加する第1電圧より、前記共鳴器の周波数特性における振幅が前記第1の値より大きい第2の値である第2周波数において印加する第2電圧の方が小さい、気体センサ。
【請求項15】
共鳴器と、
前記共鳴器から出力された音波を電気信号に変換する変換器と、
前記変換器が変換した電気信号に基づいて、特定の気体を検出する検出部と、を備え、
前記共鳴器は、
振動時の周波数特性がそれぞれ異なり、前記共鳴器内の気体を振動させて前記共鳴器から共鳴による音波を出力する複数の振動体と、
自身が加熱されることで前記共鳴器の気体を振動させて前記共鳴器から共鳴による音波を出力する被加熱材料と、の少なくとも一方を含み、
前記共鳴器内の気体の振動を制御する制御部を含み、
前記共鳴器は前記被加熱材料を含み、
前記被加熱材料は、レーザー光を吸収する材料を含み、
前記制御部は、前記被加熱材料に対してレーザー光を照射することで前記被加熱材料を加熱する、気体センサであって、
第1共鳴器、第2共鳴器、第1変換器、及び第2変換器を含み、
前記第1共鳴器及び前記第2共鳴器それぞれは、前記複数の振動体を含み、
前記第1共鳴器及び前記第1変換器は、前記特定の気体の検出対象の空間に設置され、
前記第2共鳴器及び前記第2変換器は、前記検出対象の空間と同一温度の所定条件下の空間に設置され、
前記検出部は、前記第1共鳴器が出力した音波を前記第1変換器が変換した第1電気信号と、前記第2共鳴器が出力した音波を前記第2変換器が変換した第2電気信号と、に基づいて、前記特定の気体を検出する、気体センサ。
【請求項16】
共鳴器と、
前記共鳴器から出力された音波を電気信号に変換する変換器と、
前記変換器が変換した電気信号に基づいて、特定の気体を検出する検出部と、を備え、
前記共鳴器は、
振動時の周波数特性がそれぞれ異なり、前記共鳴器内の気体を振動させて前記共鳴器から共鳴による音波を出力する複数の振動体と、
自身が加熱されることで前記共鳴器の気体を振動させて前記共鳴器から共鳴による音波を出力する被加熱材料と、の少なくとも一方を含み、
前記共鳴器内の気体の振動を制御する制御部を含み、
前記共鳴器は前記被加熱材料を含み、
前記被加熱材料は、導電性材料を含み、
前記制御部は、前記被加熱材料に対して電圧を印加することで前記被加熱材料を加熱する、気体センサであって、
第1共鳴器、第2共鳴器、第1変換器、及び第2変換器を含み、
前記第1共鳴器及び前記第2共鳴器それぞれは、前記複数の振動体を含み、
前記第1共鳴器及び前記第1変換器は、前記特定の気体の検出対象の空間に設置され、
前記第2共鳴器及び前記第2変換器は、前記検出対象の空間と同一温度の所定条件下の空間に設置され、
前記検出部は、前記第1共鳴器が出力した音波を前記第1変換器が変換した第1電気信号と、前記第2共鳴器が出力した音波を前記第2変換器が変換した第2電気信号と、に基づいて、前記特定の気体を検出する、気体センサ。
【請求項17】
複数の振動体が設けられた共鳴器から出力された音波を電気信号に変換し、
前記変換した電気信号に基づいて、特定の気体を検出する、気体検出方法であって、
前記複数の振動体は、
振動時の周波数特性がそれぞれ異なり、前記共鳴器内の気体を振動させて前記共鳴器から共鳴による音波を出力し、
第1振動体と第2振動体とを含み、
前記第1振動体の周波数特性において、前記特定の気体の濃度が第1の値である場合における前記共鳴器の共鳴周波数における振幅が所定値以上であり、
前記第2振動体の周波数特性において、前記特定の気体の濃度が前記第1の値より大きい第2の値である場合における前記共鳴器の共鳴周波数における振幅が所定値以上である、気体検出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、気体センサ及び気体検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
水素は、燃料電池、合成樹脂、及び医薬品等の化学製品などに幅広く使用されている。水素ガスは分子量が小さいため漏れが起こりやすい上に、爆発範囲の濃度が広いため、水素ガス濃度を測定する技術が重要である。水素は分子量が小さく、水素ガス中での音速が他の気体に比較して大きい、という性質を有するため、音速の変化を検出することにより水素ガス濃度を測定する技術がある。
【0003】
非特許文献1には、開口部が設けられた容器内の気体を、当該容器に設置された1つの圧電素子によって、振動させることによりヘルムホルツ共鳴を発生させ、その共鳴周波数から音速を算出して、水素ガス濃度を測定する技術が記載されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【文献】IEEE Transactions on Ultrasonics, Ferroelectrics, and Frequency Control, VOL. 50, No. 9, SEPTEMBER 2003
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、分子量が小さい水素等の気体の濃度が高い状態での共鳴周波数は高く、圧電素子の共振周波数(圧電素子が有する周波数特性において振幅が大きい周波数)よりも非常に高い。従って、非特許文献1に記載の技術では、ガス濃度が高くなると共鳴周波数と共振周波数とが大きく乖離し、ヘルムホルツ共鳴による音圧が低下するため、共鳴を検出することが困難である。
【0006】
そこで、本開示の一態様は、分子量が小さい気体を広範囲の濃度において検出することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本開示の一態様は以下の構成を採用する。気体センサは、共鳴器と、前記共鳴器に設けられた振動器と、前記共鳴器から出力された音波を電気信号に変換する変換器と、前記変換器が変換した電気信号に基づいて、特定の気体を検出する検出部と、を備え、前記振動器は、振動時の周波数特性がそれぞれ異なり、前記共鳴器内の気体を振動させて前記共鳴器から共鳴による音波を出力する複数の振動体と、前記共鳴器内の気体を加熱して前記共鳴器から共鳴による音波を出力する加熱器と、の少なくとも一方を含む。
【発明の効果】
【0008】
本開示の一態様によれば、分子量が小さい気体を広範囲の濃度において検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】実施例1におけるガス検出装置の構成例を示すブロック図である。
【
図2】実施例1における共鳴器の一例を示すブロック図である。
【
図3】実施例1における共鳴器の一例を示すブロック図である。
【
図4】実施例1におけるガス検出装置の構成例を示すブロック図である。
【
図5】実施例1におけるガス検出装置の構成例を示すブロック図である。
【
図6】実施例2におけるガス検出装置の構成例を示すブロック図である。
【
図7】実施例2におけるガス検出装置の構成例を示すブロック図である。
【
図8】実施例3における共鳴器の一例を示すブロック図である。
【
図9】実施例3における共鳴器の一例を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、添付図面を参照して実施形態を説明する。本実施形態は本開示を実現するための一例に過ぎず、本開示の技術的範囲を限定するものではないことに注意すべきである。各図において共通の構成については同一の参照符号が付されている。また、図面に描かれた形状は、実際の寸法及び比率とは必ずしも一致しない。
【0011】
本実施形態では気体センサの一例として、水素ガスを検出するガス検出装置について説明する。ガス検出装置は、水素ガスのみならず、分子量が小さく、ガス中での音速が空気中と比較して高い他のガス(例えばヘリウムガス等)の検出に用いられてもよい。
【実施例1】
【0012】
図1は、ガス検出装置の構成例を示すブロック図である。ガス検出装置は、例えば、共鳴器10、制御部30、マイクロホン40、検出部50を含む。共鳴器10は、開口部11を有する容器(
図1の例では、共鳴器10の断面図が示されている)であり、振動器20及び温度計60が取り付けられている。
図1の例では、共鳴器10は、振動器20を含む面を底面とする円柱であり、開口部11は、振動器20を含む面に対向する面に設けられ、その形状は円形である。なお、共鳴器10及び開口部11の形状、開口部11が設けられる位置は、
図1の例に限られない。
【0013】
振動器20は、共鳴器10内の空洞の気体を振動させる。共鳴器10内の空洞の気体が特定の周波数(共鳴周波数)で振動することにより、共鳴器10においてヘルムホルツ共鳴が発生する。
図1の例では、振動器20は共鳴器10に含まれ、共鳴器10内の気体を振動させているが、振動器20は共鳴器10内の外面に取り付けられていてもよく、この場合、振動器20が共鳴器10自体を振動させることにより、共鳴器10内の気体が振動する。振動器20の具体例については、後述する。
【0014】
制御部30は、振動器20の振動を制御する。制御部30は、例えば、プログラムに従って動作するプロセッサ及び/又は特定機能の論理回路を含んで構成される。これらの部は、それぞれ個別の回路で構成されてもよく、これらの一部又は全部は同一の回路(プロセッサを含む)を共有してもよい。これは検出部50についても同様である。
【0015】
マイクロホン40は、共鳴器10による共鳴音を電気信号に変換する変換器である。マイクロホン40は、例えば、磁石41、ムービングコイル42、及び振動板43を含むダイナミックマイクである。
【0016】
検出部50は、マイクロホン40に接続され、マイクロホン40からの電気信号を検出し、共鳴器10による共鳴音周波数を特定する。また、検出部50は、温度計60に接続され、温度計60が計測した温度情報を受信する。温度計60は、例えば、共鳴器10に取り付けられ、ガス雰囲気の温度を測定する。
【0017】
また、検出部50は、共鳴周波数と温度計60から受信した温度とを用いて、水素ガス濃度を算出する。具体的には、例えば、検出部50は以下の数式を用いて、水素ガス濃度を算出する。
【0018】
【0019】
【0020】
式1におけるf(ω)は共鳴器10の共鳴周波数、Cは音速、Vは共鳴器10の容積、lは開口部11の高さ(共鳴器10の開口部11を有する面の厚さ)、aは開口部11の半径、dは共鳴器10の空洞の底面の直径、hは共鳴器10の空洞の高さである。式2におけるCは音速、γは比熱比、Rは気体定数(=8.31446m2kg/s2Kmol)、Tは温度、Mはモル質量(kg/mol)である。
【0021】
検出部50は、受信した共鳴周波数から式1を用いて音速を算出する。続いて、検出部50は算出した音速と、受信した温度と、から式2を用いて気体のモル質量及び比熱比を算出することにより、ガス濃度を算出する。
【0022】
検出部50は、例えば、図示しない出力装置(例えばディスプレイ装置やスピーカ装置)などに接続されていてもよく、算出したガス濃度を当該出力装置に出力する。なお、検出部50は、ガス濃度そのものを出力装置に出力するのではなく、例えば、ガス濃度が所定の範囲に含まれる場合(例えば爆発限界である場合等)に、出力装置にアラートを出力してもよい。
【0023】
なお、マイクロホン40は、コンデンサマイクであってもよい。コンデンサマイクは、例えば、絶縁支持体、固定電極、及び振動板(可動電極)を有する。例えば、空気中(水素ガス濃度0%)での共鳴周波数が1000Hz程度である場合、水素ガス濃度が1%である空気中での共鳴周波数は1005Hz程度である。この場合、水素ガス濃度が1%変化しているのに対して、共鳴周波数が約5Hz変化している。一方、空気中(水素ガス濃度0%)での共鳴周波数が5000Hz程度である場合、水素ガス濃度が1%である空気中での共鳴周波数は5024Hz程度である。この場合、水素ガス濃度が1%変化しているのに対して、共鳴周波数が約24Hz変化している。
【0024】
従って、共鳴器10の共鳴周波数が高い値になるように設計することにより、ガス検出装置の水素濃度変化に対する感度が上昇する。コンデンサマイクは、ダイナミックマイクと比較して高周波数域の音波を検出しやすいため、マイクロホン40がコンデンサマイクであることにより、水素濃度変化に対する感度が上昇する。
【0025】
図2は、共鳴器10の一例を示すブロック図である。
図2の例では、振動器20は、いずれも振動体である低周波数用音源21と高周波数用音源22とを含むダイナミックスピーカである。低周波数用音源21は、低周波数域(例えば、所定温度(例えば293K)において水素ガス濃度が測定下限値(例えば0%)である場合における共鳴周波数(具体的には、例えば5kHz前後))の振幅が大きい(例えば、所定値以上である)周波数特性を有する。高周波数用音源22は、高周波数域(所定温度(例えば293K)において水素ガス濃度が測定上限値(例えば100%)である場合における共鳴周波数(具体的には、例えば15kHz前後))の振幅が大きい(例えば、所定値以上である)周波数特性を有する。また、例えば、低周波数用音源21の周波数特性における振幅のピークは、高周波数用音源22の周波数特性における振幅のピークより低周波数側に存在する。低周波数用音源21及び高周波数用音源22は、いずれも、例えば、磁石201、ムービングコイル202、及び振動板203を含むスピーカである。
【0026】
制御部30は、例えば、交流電源を含み、振動器20に対して周波数を掃引して交流電圧を印加することにより、共鳴器10から音波を出力する。振動器20は、周波数特性が異なる2つの音源を含んでいるため、広周波数域の音を出力することができる。具体的には、例えば、水素ガス濃度が高くなったことにより、共鳴器10の共鳴周波数が大きく高周波数側にシフトした場合であっても、振動器20は高い音圧の共鳴を発生させることができる。従って、ガス検出装置は、広範囲の濃度の水素ガスを検出することができる。なお、
図2の例では、振動器20は2つの音源を含んでいるが、音源の数に制限はない。
【0027】
なお、制御部30は、振動器20に対して周波数を掃引して交流電圧を印加する際に、周波数ごとに異なる電圧をかけてもよい。具体的には、制御部30は、例えば、低周波数用音源21と高周波数用音源22の周波数特性における音圧振幅の合計(即ち振動器20全体としての周波数特性における音圧振幅)が所定値より低い周波数においては高電圧(例えば2Vpp)を印加し、低周波数用音源21と高周波数用音源22の周波数特性における音圧振幅の合計(即ち振動器20全体としての周波数特性における音圧振幅)が所定値より高い周波数においては低電圧(例えば、0.15Vpp)を印加する。
【0028】
これにより、振動器20全体としての周波数特性はフラット(即ち、低周波数域及び高周波数域のいずれにおいても音圧振幅が小さくない状態)になるため、ガス検出装置は、広範囲の濃度の水素ガスを検出しやすくなる。
【0029】
図3は、共鳴器10の一例を示すブロック図である。
図3の例では、振動器20は、いずれも振動体である低周波数用圧電素子23と高周波数用圧電素子24とを含む。低周波数用圧電素子23は、低周波数域の振幅が大きい周波数特性を有する。高周波数用圧電素子24は、高周波数域の振幅が大きい周波数特性を有する。また、例えば、低周波数用圧電素子23の周波数特性における振幅のピークは、高周波数用圧電素子24の周波数特性における振幅のピークより低周波数側に存在する。
【0030】
制御部30は、例えば、振動器20に含まれる低周波数用圧電素子23及び高周波数用圧電素子24それぞれに対して、周波数を掃引して交流電圧を印加することにより、振動器20から広周波数帯の音を出力することができる。
【0031】
なお、圧電素子の周波数特性は、例えば、非特許文献(L. de Luca, M. Girfoglio, M. Chiatto, G. Coppola “Scaling properties of resonant cavities driven by piezo-electric actuators” Sensors and Actuators A: Physical Volume 247, 15 August 2016, P.465-474, Elsevier B.V.)に記載のパラメータに基づいて設計することができる。
【0032】
図4は、ガス検出装置の構成例を示すブロック図である。
図4では検出部50について詳細に記載されている。
図4の例では、制御部30は交流電源を含み、検出部50はロックインアンプ51を含む。制御部30は、振動器20に対して周波数を掃引して交流電圧を印加する。また、制御部30は、当該交流電圧を参照信号としてロックインアンプ51に送信する。
【0033】
ロックインアンプ51が参照信号とマイクロホンからの測定信号を乗算することにより、測定信号の周波数成分のうち参照信号と等しい周波数成分のみが直流となり、ロックインアンプ51のLPF(Low Pass Filter)を通過することができる。これにより、検出部50は、測定信号の周波数及び位相の情報を検出することができ、ひいてはノイズを低減することができる。
【0034】
図5は、ガス検出装置の構成例を示すブロック図である。
図5では検出部50について詳細に記載されている。例えば制御部30は、発振回路を含む。例えば、何らかの原因で振動器20が特定の周波数で振動して、共鳴器10においてヘルムホルツ共鳴が発生したとする。この場合、検出部50は、マイクロホン40が測定した測定信号を受信し、受信した測定信号から交流成分を検出してアンプで増幅する。増幅された測定信号は、制御部30及び検出部50内の周波数カウンタ52に送信される。
【0035】
周波数カウンタ52は、増幅された測定信号の周波数及び位相の情報を検出する。制御部30は、増幅された測定信号による発振によって振動器20を振動させることにより、共鳴器10におけるヘルムホルツ共鳴が継続する。
図5の例では、制御部30は振動器20に対して周波数を掃引して電圧を印加する必要がないため、ガス濃度の測定時間を短縮することができる。
【実施例2】
【0036】
実施例1との相違点について説明し、実施例1と共通する内容についての説明は省略する。本実施例のガス検出装置は複数の共鳴器10を含む。
図6は、ガス検出装置の構成例を示すブロック図である。ガス検出装置は、共鳴器10-1、及び共鳴器10-2を含む。共鳴器10-1には、開口部11-1が設けられ、振動器20-1が取り付けられている。共鳴器10-2には、開口部11-2が設けられ、振動器20-2が取り付けられている。
図5の例では、温度計60は、共鳴器10-2に取り付けられているが、共鳴器10に取り付けられていてもよいし、共鳴器10-1及び共鳴器10-2の両方に取り付けられていておよい。
【0037】
共鳴器10-1は、同条件において共鳴器10-2より、低い共鳴周波数を有するように設計されている。振動器20-1は、例えば、低周波数域の音圧振幅が大きい周波数特性を有するスピーカである。振動器20-2は、例えば、高周波数域の音圧振幅が大きい周波数特性を有するスピーカである。
【0038】
前述したように、ガス検出装置は、共鳴器10の共鳴周波数が高く設計されているほど水素ガス濃度の変化に対する感度が高くなるため、低濃度域の水素ガスを測定しやすくなる。一方、共鳴器10の共鳴周波数が高く設計されている場合には、水素ガス濃度が高いと共鳴周波数がさらに高くなるため、高濃度域の水素ガス濃度の測定が困難になる。
【0039】
図6のガス検出装置は、共鳴周波数が低く設計されている共鳴器10-1によって、高濃度域の水素ガス濃度を容易に測定でき、共鳴周波数が高く設計されている共鳴器10-2によって、低濃度域であっても水素ガス濃度の変化に対する感度を高くすることができ、ひいては低濃度域の水素ガスを容易に測定することができる。
【0040】
なお、
図6の例では、ガス検出装置は2つの共鳴器を含んでいるが、共鳴周波数及び振動器の周波数特性が異なる3つの共鳴器を含んでもよい。
【0041】
図7は、ガス検出装置の構成例を示すブロック図である。
図7のガス検出装置は、2つの同一の共鳴器10と、2つの同一のマイクロホン40とを含む。2つの共鳴器10のいずれにも温度計60が取り付けられていない。一方の共鳴器10と一方のマイクロホン40は、水素ガス濃度測定対象の空間に配置されている。
【0042】
他方の共鳴器10と他方のマイクロホン40は、特定の組成の気体で満たされ、かつ水素ガス濃度測定対象の空間と同一の温度の空間に配置されている。具体的には、例えば、当該他方の共鳴器10と当該他方のマイクロホン40は、窒素で満たされ封止された空間に配置されている。
【0043】
なお、当該一方の共鳴器10と当該一方の共鳴器10との位置関係(向きも含む)と、当該他方の共鳴器10と当該他方の共鳴器10との位置関係と、は同じである。
【0044】
制御部30は、例えば、2つの振動器20に対して周波数を掃引して交流電圧を加することにより、2つの共鳴器10から音波を出力する。検出部50は、温度情報を取得していないため、当該他方のマイクロホン40からの出力電圧をリファレンス信号として用いて温度補正を行うことにより、当該一方のマイクロホン40からの出力電圧から水素ガス濃度を算出する。これにより、
図7のガス検出装置は、温度情報を用いることなく、水素ガス濃度を算出することができる。なお、振動器20は、実施例1におけるスピーカや圧電素子等の複数の振動体と、本実施例における加熱器と、の双方を含んでもよい。
【実施例3】
【0045】
実施例1との相違点について説明し、実施例1と共通する内容についての説明は省略する。本実施例の共鳴器10は、振動器20の代わりに加熱器を有する。
図8は、共鳴器10の一例を示すブロック図である。共鳴器10には、加熱器70が取り付けられている。
【0046】
加熱器70が自身を加熱することにより共鳴周波数を有する音波を発生させることにより、共鳴器10においてヘルムホルツ共鳴が発生する。
図8の例では、加熱器70は、レーザー光を吸収する材料で形成されている。金属箔、並びに光吸収剤を塗布したガラス及び樹脂フィルム等は、レーザー光を吸収する材料の一例である。
【0047】
制御部30は、例えば、レーザー光源を含み、加熱器70に対して変調したレーザー光を照射し、加熱器70のレーザー光照射部分が加熱されることにより、光音響効果による音波が発生し、共鳴器10において共鳴周波数でヘルムホルツ共鳴が発生する。
【0048】
図9は、共鳴器10の一例を示すブロック図である。
図9の例では、加熱器70は、導電性材料で形成されている。ガラス上に作成されたCNT(Carbon Nanotube)、及びAgナノワイヤ等は、導電性材料の一例である。
【0049】
制御部30は、例えば、交流電源を含み、加熱器70に対して交流電圧を印加することにより、加熱器70を加熱する。加熱器70が加熱されることにより、熱音響効果による音波が発生し、共鳴器10において共鳴周波数でヘルムホルツ共鳴が発生する。
【0050】
以上、本実施例において、加熱器70によって発生する音波は、音源を振動させて発生させた音波ではないため、固有振動に由来する周波数特性を持たず、フラットな周波数特性を有する。従って、本実施例のガス検出装置は、広範囲の水素濃度において、高感度に水素検出を行うことができる。
【0051】
以上、本開示の実施形態を説明したが、本開示が上記の実施形態に限定されるものではない。当業者であれば、上記の実施形態の各要素を、本開示の範囲において容易に変更、追加、変換することが可能である。ある実施形態の構成の一部を他の実施形態の構成に置き換えることが可能であり、ある実施形態の構成に他の実施形態の構成を加えることも可能である。
【符号の説明】
【0052】
10 共鳴器、11 開口部、20 振動器、21 低周波数用音源、22 高周波数用音源、23 低周波数用圧電素子、24 高周波数用圧電素子、30 制御部、40 マイクロホン、50 検出部、51 ロックインアンプ、60 温度計