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特許7179486凝集剤注入制御装置、凝集剤注入制御方法及びコンピュータプログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-18
(45)【発行日】2022-11-29
(54)【発明の名称】凝集剤注入制御装置、凝集剤注入制御方法及びコンピュータプログラム
(51)【国際特許分類】
   B01D 21/30 20060101AFI20221121BHJP
   C02F 1/52 20060101ALI20221121BHJP
   C02F 1/28 20060101ALI20221121BHJP
【FI】
B01D21/30 A
C02F1/52 Z
C02F1/28 D
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2018088258
(22)【出願日】2018-05-01
(65)【公開番号】P2019193916
(43)【公開日】2019-11-07
【審査請求日】2021-04-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(73)【特許権者】
【識別番号】598076591
【氏名又は名称】東芝インフラシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001634
【氏名又は名称】弁理士法人志賀国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】有村 良一
(72)【発明者】
【氏名】難波 諒
(72)【発明者】
【氏名】毛受 卓
(72)【発明者】
【氏名】黒川 太
(72)【発明者】
【氏名】横山 雄
【審査官】高橋 成典
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-194559(JP,A)
【文献】特開平07-112103(JP,A)
【文献】特開2014-065030(JP,A)
【文献】特開2017-136545(JP,A)
【文献】特開2003-284904(JP,A)
【文献】特開2001-79310(JP,A)
【文献】特開2011-156529(JP,A)
【文献】特開2012-101171(JP,A)
【文献】特開2014-54603(JP,A)
【文献】特開2015-93243(JP,A)
【文献】特開2017-77525(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第1958140(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 21/00 - 21/34
C02F 1/52 - 1/56
1/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
凝集剤が注入された被処理水である混和水におけるフロックの凝集状態を前記フロックの電気泳動速度に基づいて測定し、前記凝集状態を制御量とし、被処理水に対する凝集剤の注入量を操作量としてフィードバック制御を行う凝集剤注入制御部と、
混和水中のフロックを沈澱させる沈澱池の濁度及びその目標値に基づいて、前記フィードバック制御における前記制御量の制御目標値を決定する制御目標値決定部と、
前記制御目標値決定部によって決定された制御目標値が所定の範囲内にあるか否かを判定し、前記制御目標値が前記範囲外の値である場合には、前記制御目標値を前記範囲内の値に調整して前記凝集剤注入制御部に出力する目標値調整部と、
被処理水の水温と、pH又はアルカリ度とに基づいて前記制御目標値の調整に係る前記範囲を決定するリミット決定部とをさらに備える、
を備える凝集剤注入制御装置。
【請求項2】
前記制御目標値決定部は、凝集剤が注入される前の被処理水である原水の現在の状態、及び前記混和水の現在の状態に基づいて、現在の凝集剤の注入量によって変化する前記沈澱池の濁度を重回帰分析によって予測する、
請求項1に記載の凝集剤注入制御装置。
【請求項3】
前記原水の状態は、前記原水の濁度、pH、アルカリ度、水温、導電率、色度、紫外線吸光度又は流量によって表され、
前記混和水の状態は、前記混和水のpH、アルカリ度、導電率、凝集剤注入率、活性炭注入率又は攪拌強度と、前記フロックの凝集状態とによって表される、
請求項2に記載の凝集剤注入制御装置。
【請求項4】
前記制御目標値決定部は、凝集剤を注入する前後における被処理水の水質の偏差に基づく変数を説明変数に含めて前記重回帰分析を行う、
請求項2又は3に記載の凝集剤注入制御装置。
【請求項5】
前記制御目標値決定部は、前記沈澱池の濁度の実測値と、予め定められた前記濁度の目標値との偏差に基づいて前記制御量の目標値を決定する、
請求項1に記載の凝集剤注入制御装置。
【請求項6】
前記混和水のゼータ電位、流動電流値又はコロイド電荷量に基づいて前記混和水におけるフロックの凝集状態を測定する凝集状態測定部をさらに備える、
請求項1からのいずれか一項に記載の凝集剤注入制御装置。
【請求項7】
凝集剤が注入された被処理水である混和水におけるフロックの凝集状態を前記フロックの電気泳動速度に基づいて測定する測定ステップと、
前記凝集状態を制御量とし、被処理水に対する凝集剤の注入量を操作量としてフィードバック制御を行う凝集剤注入制御ステップと、
混和水中のフロックを沈澱させる沈澱池の濁度及びその目標値に基づいて、前記フィードバック制御における前記制御量の制御目標値を決定する制御目標値決定ステップと、
決定された前記制御目標値が所定の範囲内にあるか否かを判定し、前記制御目標値が前記範囲外の値である場合には、前記制御目標値を前記範囲内の値に調整する目標値調整ステップと、
前記被処理水の水温と、pH又はアルカリ度とに基づいて前記制御目標値の調整に係る前記範囲を決定するリミット決定ステップと、
を有する凝集剤注入制御方法。
【請求項8】
凝集剤が注入された被処理水である混和水におけるフロックの凝集状態を前記フロックの電気泳動速度に基づいて測定する測定ステップと、
前記凝集状態を制御量とし、被処理水に対する凝集剤の注入量を操作量としてフィードバック制御を行う凝集剤注入制御ステップと、
混和水中のフロックを沈澱させる沈澱池の濁度及びその目標値に基づいて、前記フィードバック制御における前記制御量の制御目標値を決定する制御目標値決定ステップと、
決定された前記制御目標値が所定の範囲内にあるか否かを判定し、前記制御目標値が前記範囲外の値である場合には、前記制御目標値を前記範囲内の値に調整する目標値調整ステップと、
前記被処理水の水温と、pH又はアルカリ度とに基づいて前記制御目標値の調整に係る前記範囲を決定するリミット決定ステップと
コンピュータに実行させるためのコンピュータプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、凝集剤注入制御装置、凝集剤注入制御方法及びコンピュータプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
水処理プラントでは、処理すべき原水への凝集剤の注入量を制御する凝集剤注入制御装置が用いられている。しかしながら、従来の凝集剤注入制御装置による制御では、凝集剤の注入量を原水の水質や運用事業者のニーズに応じて適切に制御することができず、処理後の水の水質が安定しない場合があった。また、このような場合、水質の安定化のために必要以上の凝集剤が注入され、運用コストが増大してしまう可能性があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第3522650号公報
【文献】特許第5925005号公報
【文献】特許第5131005号公報
【文献】特許第5636263号公報
【文献】特許第4366244号公報
【文献】特許第6074340号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明が解決しようとする課題は、凝集剤の注入量をより適切に制御することができる凝集剤注入制御装置、凝集剤注入制御方法及びコンピュータプログラムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
実施形態の凝集剤注入制御装置は、凝集剤注入制御部と、制御目標値決定部と、目標値調整部と、リミット決定部とを持つ。凝集剤注入制御部は、凝集剤が注入された被処理水である混和水におけるフロックの凝集状態を制御量とし、被処理水に対する凝集剤の注入量を操作量としてフィードバック制御を行う。制御目標値決定部は、混和水中のフロックを沈澱させる沈澱池の濁度及びその目標値に基づいて、前記フィードバック制御における前記制御量の目標値を決定する。目標値調整部は、制御目標値決定部によって決定された制御目標値が所定の範囲内にあるか否かを判定し、目標値が範囲外の値である場合には、記制御目標値を範囲内の値に調整して前記凝集剤注入制御部に出力する。リミット決定部は、被処理水の水温と、pH又はアルカリ度とに基づいて制御目標値の調整に係る範囲を決定する。
を備える凝集剤注入制御装置。
【図面の簡単な説明】
【0006】
図1】第1の実施形態における水処理プラント100の構成の具体例を示す図。
図2】第1の実施形態における凝集剤注入制御装置1が急速混和池4に注入される凝集剤注入量を制御する処理の流れを示すフローチャート。
図3】第1の実施形態において、従来の制御例を説明する図。
図4】第1の実施形態において、従来の制御例を説明する図。
図5】第2の実施形態における水処理プラント100aの構成の具体例を示す図。
図6】第2の実施形態において、分取流路に設けられるセルの具体例を示す図。
図7】第3の実施形態における水処理プラント100bの構成の具体例を示す図。
図8】第4の実施形態における水処理プラント100cの構成の具体例を示す図。
図9】第5の実施形態における水処理プラント100dの構成の具体例を示す図。
図10】第5の実施形態におけるリミット決定部16がリミット値を決定する方法の一例を説明する図。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、実施形態の凝集剤注入制御装置、凝集剤注入制御方法及びコンピュータプログラムを、図面を参照して説明する。
【0008】
(第1の実施形態)
図1は、第1の実施形態における水処理プラント100の構成の具体例を示す図である。水処理プラントは、処理対象の水に含まれる懸濁物等の固形物を凝集剤によって凝集させ、凝集した固形物の重力沈降によって固形物を被処理水から分離する固液分離プロセスを実現する設備である。以下では、水処理プラントが処理対象とする水、又は水処理プラントが処理中の水を「被処理水」といい、水処理プラントによる処理を終えて放流可能又は再利用可能となった水を「処理済み水」という。また、以下では、被処理水として水処理プラントの内外から流入する水、特に流入直後の被処理水を「原水」という。換言すれば、原水は初期状態の被処理水といえる。
【0009】
実施形態の凝集剤注入制御装置が適用される水処理プラントは、このような固液分離プロセスを実現するものであれば、特定の設備に限定されない。例えば、実施形態の凝集剤注入制御装置が適用される水処理プラントは、浄水場であってもよいし、製紙工場や食品工場などの各種工場に設けられた水処理設備であってもよい。例えば、浄水場においては、河川水やダム湖水、地下水、雨水、下水等の水が原水となる。また、製紙工場や食品工場等の産業プラントでは、それらの工業排水が原水となる。図1は、浄水場における固液分離プロセスを実現する水処理プラント100の例を示す。
【0010】
水処理プラント100は、固液分離プロセスを実現する各種設備と、凝集剤注入制御装置1と、凝集剤注入制御装置1に供給されるプラントデータを記憶するプラントデータ記憶部2と、を備える。例えば、水処理プラント100は、固液分離プロセスを実現する各種設備として、着水井3、急速混和池4(混和池)、フロック形成池5、沈澱池6、濾過池7、凝集剤注入装置81、pH調整剤注入装置82及び活性炭注入装置83を備える。被処理水は、着水井3、急速混和池4、フロック形成池5、沈澱池6、濾過池7の順に送られる。すなわち、被処理水の流れに関して最も上流に位置する設備が着水井3であり、最も下流に位置する設備が濾過池7である。また、プラントデータは、水処理プラント100の各種設備において測定される各種の物理量を示すデータである。プラントデータは、図示しないデータ収集装置によって収集され、プラントデータ記憶部2に記憶される。
【0011】
着水井3は、水処理プラント100に流入する原水を貯える貯水槽である。着水井3では、植物や土砂等の比較的比重の大きい固形物が重力沈降し、その上澄み水が被処理水として後段の急速混和池4に送られる。
【0012】
なお、着水井3には原水水質計31が備えられる。原水水質計31は着水井3に貯えられている原水の水質を測定する。具体的には、原水水質計31は、固液分離プロセスの処理結果に影響する可能性のある水質の指標値を測定する。例えば、原水水質計31は、原水の濁度や色度、水温、導電率、pH(水素イオン濃度指数)、アルカリ度(酸消費量)、紫外線吸光度等の諸量を測定する。原水の紫外線吸光度は、原水に含まれる有機物量の指標値として用いることができ、その測定には例えば260nmの波長の紫外線が用いられる。原水水質計31によって測定された各種指標値はプラントデータとしてプラントデータ記憶部2に記憶される。
【0013】
また、着水井3と急速混和池4との間の配水管には流量計32が備えられる。流量計32は、着水井3から急速混和池4に送られる被処理水の流量を測定する。流量計32によって測定された流量はプラントデータとしてプラントデータ記憶部2に記憶される。
【0014】
急速混和池4は、着水井3から送られてきた被処理水に凝集剤を注入し、凝集剤が注入された被処理水を急速攪拌するための貯水槽である。混和水に注入される凝集剤は、例えばポリ塩化アルミニウム(PAC:Poly Aluminum Chloride)や硫酸アルミニウム(硫酸ばんど)等の薬剤であり、凝集剤注入装置81によって行われる。
【0015】
また、急速混和池4には急速攪拌機41が備えられる。急速攪拌機41は急速混和池4において凝集剤が注入された被処理水を攪拌する。例えば、急速攪拌機41はフラッシュミキサである。急速攪拌機41は、一定の攪拌速度で動作するものであってもよいし、モータの制御によって攪拌速度を調節できるものであってもよい。急速混和池4では、凝集剤の注入、及び急速攪拌機41の攪拌によって被処理水中に微小なフロックが形成される。そして、このように形成された微小なフロックを含む被処理水が後段のフロック形成池5に送られる。
【0016】
また、急速混和池4とフロック形成池5との間の配水管には混和水水質計42(凝集状態測定部の一例)が備えられる。混和水水質計42は、凝集剤が注入された被処理水(以下「混和水」ともいう。)の水質を測定する。具体的には、混和水水質計42は、固液分離プロセスの処理結果に影響する可能性のある性質の指標値を測定するとともに、混和水中のフロックの凝集状態を表す指標値(以下「凝集状態指標値」という。)を測定する。例えば、混和水水質計42は、固液分離プロセスの処理結果に影響する可能性のある混和水の水質の指標値として、アルカリ度、pH、導電率を測定する。また、混和水水質計42は、混和水のゼータ電位や流動電流値、フロックの電気泳動速度などの値を凝集状態指標値として測定する。混和水水質計42によって測定された各種指標値はプラントデータとしてプラントデータ記憶部2に記憶されるとともに、凝集状態指標値は凝集剤注入制御装置1に入力される。
【0017】
通常、水中に存在する懸濁物の表面はマイナスに帯電している。一方、凝集剤は、水中ではプラスに帯電する。したがって、懸濁物を含む被処理水に凝集剤が注入されると、凝集剤が懸濁物に付着する。懸濁物に付着した凝集剤は、懸濁物のマイナスの荷電を打ち消し(以下「中和する」という。)、懸濁物の表面電荷を0[mV]に近づける。懸濁物の表面電荷が0[mV]に近づくと、それに伴ってゼータ電位も0[mV]に近づく。したがって、凝集剤は、懸濁物同士の反発を弱めて衝突回数を増加させる。この凝集剤の作用により、衝突したフロック同士が徐々に集塊化していき、より大きなフロックが形成される。
【0018】
なお、急速混和池4では、凝集剤の注入に加え、pH調整剤又は活性炭が混和水に注入される。pH調整剤はpH調整剤注入装置82によって注入され、活性炭は活性炭注入装置83によって注入される。pH調整剤の注入や活性炭の注入は固液分離プロセスにおいて必ずしも必須ではないが、被処理水の水質を調整する手段となりうる。例えば、活性炭は被処理水に含まれる臭気物質や有機物を除去する目的で注入され、pH調整剤はフロックの凝集を促進する目的で注入される。
【0019】
pH調整剤には酸性のものとアルカリ性のものとがある。例えば、硫酸や塩酸は酸性のpH調整剤であり、水酸化ナトリウム(別名:苛性ソーダ)はアルカリ性のpH調整剤である。pH調整剤注入装置82は、被処理水の水質に応じて酸性又はアルカリ性のどちらのpH調整剤を注入すべきかを決定し、混和水のpHやアルカリ度が所定値となるようにpH調整剤の注入量を決定する。例えば、アルカリ性のpH調整剤を注入する場合、pH調整剤注入装置82は、注入後の混和水のアルカリ度が20±5[mg/l]程度となるようにpH調整剤の注入量を決定する。
【0020】
また、活性炭は一般に粉末状又はスラリー状で注入されることが多く、また、その注入は不定期的に行われることが多い。例えば、活性炭の注入は、除去対象の臭気物質や有機物が被処理水中に多く含まれる季節や時間帯などに行われることが多い。
【0021】
フロック形成池5は、被処理水中により大きなフロックを形成するための貯水槽である。フロック形成池5には、緩速攪拌機が備えられ、緩速攪拌機による被処理水の攪拌によってフロックのさらなる集塊化が促進される。例えば、フロック形成池5は、図1に示すように3つの攪拌池51、52及び53に分けられ、各攪拌池にそれぞれ緩速攪拌機54、55及び56が設置される。例えば、緩速攪拌機54、55及び56はフロキュレータである。各攪拌池のうち攪拌池51は被処理水の流れに関して最も上流に位置し、攪拌池53は最も下流に位置する。
【0022】
攪拌池51には急速混和池4から送られた被処理水が流入する。攪拌池51では、緩速攪拌機54による被処理水の攪拌により、微細なフロックが衝突を繰り返すことによってより大きな粒径のフロックが形成される。攪拌池51の被処理水は、所定時間の攪拌の後に後段の攪拌池52に送られる。
【0023】
攪拌池52には攪拌池51から送られた被処理水が流入する。攪拌池52では、緩速攪拌機55による被処理水の攪拌により、さらに大きな粒径のフロックが形成される。ここで、攪拌強度が強すぎると集塊化したフロックが破壊されてしまうため、緩速攪拌機55は緩速攪拌機54よりも弱い強度で被処理水を攪拌する。これにより、フロックのさらなる集塊化が促進される。攪拌池52の被処理水は、所定時間の攪拌の後に後段の攪拌池53に送られる。
【0024】
攪拌池53には攪拌池52から送られた被処理水が流入する。攪拌池53では、緩速攪拌機56による被処理水の攪拌により、さらに大きな粒径のフロックが形成される。ここでも、集塊化したフロックが破壊されないように、緩速攪拌機56は緩速攪拌機55よりも弱い強度で被処理水を攪拌する。これにより、フロックのさらなる集塊化が促進される。攪拌池53の被処理水は、所定時間の攪拌の後に後段の沈澱池6に送られる。
【0025】
沈澱池6は、フロック形成池5から流入する被処理水を貯える貯水槽である。被処理水が所定時間の間沈澱池6に貯留されることにより、フロック形成池5において形成された粒径の大きなフロックが重力沈降する。例えば、被処理水は3時間程度沈澱池6に貯留される。これにより、フロックが被処理水から分離され、その上澄み水が後段の濾過池7に送られる。なお、沈澱池6の最下流部には、濾過池7に送られる被処理水に対してオゾン処理や生物活性炭処理等を施す設備が備えられてもよい。また、沈澱池6に沈澱したフロックは汚泥として引き抜かれ図示しない汚泥処理設備に送られる。
【0026】
また、沈澱池6の下流部には沈澱池水質計61が備えられる。沈澱池水質計61は、濾過池7に送られる被処理水の水質を測定する。具体的には、沈澱池水質計61は、固液分離プロセスの処理結果を表す指標値を測定する。例えば、沈澱池水質計61は、固液分離プロセスの処理結果を表す指標値として、被処理水の濁度及び色度を測定する。沈澱池水質計61によって測定された各種指標値はプラントデータとしてプラントデータ記憶部2に記憶される。
【0027】
濾過池7は、沈澱池6から流入する被処理水に対する濾過設備を備えた貯水池である。濾過池7では、被処理水に残留する微小な固形物が濾過によって分離される。濾過された被処理水は処理済み水として放流又は再利用される。
【0028】
このような各種設備を有する水処理プラント100において、凝集剤注入制御装置1はプラントデータ記憶部2から供給されるプラントデータに基づいて凝集剤注入装置81が注入する凝集剤の注入量(以下「凝集剤注入量」という。)を制御する。一般に、凝集剤注入量は、単位時間当たりに注入される凝集剤の量で表される。また、凝集剤注入量は、単位時間当たりの被処理水の流量を用いて凝集剤の注入率(以下「凝集剤注入率」という。)に換算される。以下、本実施形態の凝集剤注入制御装置1の構成について詳細に説明するが、凝集剤注入量は、適宜、凝集剤注入率に置き換えることができる。
【0029】
凝集剤注入制御装置1は、バスで接続されたCPU(Central Processing Unit)やメモリや補助記憶装置などを備え、プログラムを実行する。凝集剤注入制御装置1は、プログラムの実行によって濁度目標値入力部11、制御目標値決定部12及び凝集剤注入制御部13を備える装置として機能する。なお、凝集剤注入制御装置1の各機能の全て又は一部は、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)やPLD(Programmable Logic Device)やFPGA(Field Programmable Gate Array)等のハードウェアを用いて実現されてもよい。プログラムは、コンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録されてもよい。コンピュータ読み取り可能な記録媒体とは、例えばフレキシブルディスク、光磁気ディスク、ROM、CD-ROM等の可搬媒体、コンピュータシステムに内蔵されるハードディスク等の記憶装置である。プログラムは、電気通信回線を介して送信されてもよい。
【0030】
濁度目標値入力部11は、固液分離プロセスによって得られる処理済み水の水質に関する目標値を入力する。一般に、固液分離プロセスに要求される水質は、水処理プラント100の用途や運用方針等によって異なり、処理結果の妥当性は沈澱池6から濾過池7に送られる被処理水の濁度(以下「沈澱池濁度」という。)で判断されることが多い。そのため、ここでは、濁度目標値入力部11は、処理済み水の水質に関する目標値として、水処理プラント100の運用事業者によって決定された沈澱池濁度の目標値(以下「濁度目標値」という。)を入力する。濁度目標値入力部11は、濁度目標値の入力を受け付けるキーボードやタッチパネル等の入力機器として構成されてもよいし、濁度目標値を通信回線を介して取得する通信機器として構成されてもよい。濁度目標値入力部11は、入力された濁度目標値を制御目標値決定部12に出力する。
【0031】
制御目標値決定部12は、凝集剤注入装置81の凝集剤注入率をフィードバック制御方式で決定する際の制御目標値を決定する。フィードバック制御は、制御量と制御目標値との偏差に基づいて操作量を変動させることで制御量を制御目標値に制御する制御方式である。本実施形態では、制御目標値決定部12は、沈澱池濁度を濁度目標値に制御することを目的として凝集状態指標値の目標値(以下「凝集状態目標値」という。)を制御目標値として決定する。制御目標値決定部12は、決定した凝集状態目標値を凝集剤注入制御部13に出力する。
【0032】
凝集剤注入制御部13は、制御目標値決定部12によって決定された凝集状態目標値と、プラントデータ記憶部2から供給されるプラントデータとに基づいて凝集剤注入装置81の凝集剤注入率を操作量として決定する。凝集剤注入制御部13は、決定した凝集剤注入率を凝集剤注入装置81に通知する。この凝集剤注入率の制御周期は例えば10分周期で行われる。
【0033】
具体的には、凝集剤注入制御部13は、凝集状態指標値を制御量とするフィードバック制御において、制御目標値決定部12によって決定された凝集状態目標値に基づいて前記フィードバック制御の操作量となる凝集剤注入率を決定する。例えば、凝集剤注入制御部13は、P制御(比例制御:Proportional Controller)やPI制御(比例積分制御:Proportional-Integral Controller)、PID制御(Proportional-Integral-Differential Controller)等のフィードバック制御を実行する。なお、ここでは、凝集状態指標値はプラントデータ記憶部2から取得される場合を想定しているが、凝集状態指標値はプラントデータ記憶部2を介さず直接的に凝集剤注入制御部13に入力されてもよい。
【0034】
続いて、制御目標値決定部12の構成をより具体的に説明する。制御目標値決定部12は、凝集状態目標値を決定するための構成としてパラメータ同定部121及び目標値決定部122を備える。
【0035】
パラメータ同定部121は、プラントデータ記憶部2から取得される過去のプラントデータに基づいて、沈澱池濁度の予測式を構成するパラメータ(以下「予測パラメータ」という。)を同定する。具体的には、パラメータ同定部121は、凝集剤が注入される前の被処理水の状態を示す諸量、及び凝集剤が注入された後の被処理水の状態を示す諸量を説明変数に含め、沈澱池濁度を目的変数とする重回帰分析を行うことにより予測パラメータを同定する。
【0036】
例えば、凝集剤が注入される前の被処理水の状態は、原水水質計31によって測定される原水の濁度、pH、アルカリ度、水温、導電率、色度、紫外線吸光度、流量等の諸量によって表される。一方、凝集剤が注入された後の被処理水の状態は、混和水水質計42によって測定されるpH、アルカリ度、導電率、凝集剤の注入率、pH調整剤の注入率、活性炭の注入率、攪拌強度等の諸量によって表される。各注入率は各注入装置81~83から取得可能であり、攪拌強度は急速攪拌機41又は各緩速攪拌機54~56から取得可能である。
【0037】
例えば、予測パラメータの同定には、過去の所定期間(例えば1週間~1か月)に取得されたプラントデータが用いられる。これに対して、プラントデータ記憶部2には、例えば1分程度の短い時間間隔でプラントデータが取得される。なお、原水の水質変化が緩やかな場合には、より長い時間間隔(例えば1時間)でプラントデータが取得されてもよい。また、プラントデータとして取得される各種計測データには異常値が含まれる場合があるので、プラントデータには異常値を除去する処理や異常値の影響を弱める処理などが施されることが望ましい。これらの機能は、凝集剤注入制御装置1に備えられてもよいし、上述のデータ収集装置に備えられてもよい。
【0038】
例えば、所定時間ごとにプラントデータの平均値をとり、その平均値群を予測パラメータの同定に用いることにより、プラントデータに含まれる異常値が予測パラメータの同定精度を低下させる可能性を低くすることができる。なお、平均値の算出には、所定時間内のプラントデータの全てが用いられてもよいし、所定時間ごとに信頼性の低い(すなわち分散が大きい)データを除外したプラントデータが用いられてもよい。サンプルデータから信頼性の高いデータを抽出して平均をとる手法は一般に刈込平均と呼ばれる。
【0039】
また、固液分離プロセスでは、被処理水が複数の段階を経て処理される。そのため、異なる段階で取得されたプラントデータを用いて予測パラメータを同定する場合には、各段階における処理時間による時間遅れを考慮する必要がある。例えば、急速混和池4における水質の変化の応答が沈澱池6における水質の変化として現れるのには4時間程度の時間がかかる。また、着水井3における水質の変化の応答が沈澱池6の水質の変化として現れるのには5時間程度の時間がかかる。そのため、この場合、ある時点における沈澱池6の水質を示すデータを用いて予測パラメータを同定するためには、その時点から4時間程度前の時点における急速混和池4の水質を示すデータと、その時点から5時間程度前の時点における着水井3の水質を示すデータと、が必要になる。
【0040】
これはすなわち、重回帰分析を行う前提として、異なる段階で取得されたプラントデータ間の時間遅れを反映したデータセットを作成しておく必要があるということである。そこで、パラメータ同定部121は、重回帰分析の前処理として、各プラントデータ間の時間遅れを反映したデータセットを生成する。具体的には、パラメータ同定部121は、各貯水池の容積及び各貯水池間で送られる被処理水の流量に基づいて各段階における時間遅れを推定し、各プラントデータを取得された段階に応じた遅れ時間だけずらして組み合わせたデータセットを複数生成する。
【0041】
このように生成された各データセットには、固液分離プロセスに関して好ましい処理結果が得られた場合のデータも含まれれば、好ましくない場合のデータも含まれうる。処理結果の良し悪しはあっても、これらは説明変数と目的変数との関係性を分析した結果として得られたものであるため、通常は処理結果の良し悪しによってデータセットを選別する必要はない。むしろ、説明変数と目的変数とのより正確な関係性を推定するためには、各データセットは様々なケースのデータを含んでいることが望ましい。ただし、台風やゲリラ豪雨の発生時など、原水の水質が平常時とは大きく異なった場合には、自動制御ではなく人手による制御が行われることが多い。そのため、パラメータ同定部121は、重回帰分析に用いるプラントデータからこのような異常時に取得されたデータを除外するように構成されてもよい。例えば、パラメータ同定部121は、原水濁度の閾値(例えば30度)を予め記憶しておき、原水に関するプラントデータのうち閾値以上の濁度を示すデータを除外するように構成されてもよい。
【0042】
ここで、パラメータ同定部121が推定する予測式の具体例を次の式(1)に示す。
【0043】
【数1】
【0044】
式(1)においてYは予測対象の沈澱池濁度を表す。km(mは0以上の整数)はパラメータ同定部121によって同定される予測パラメータを表す。xn(nは1以上の整数)は予測式の入力変数であり、沈澱池濁度に影響を与える可能性のある各値を表す。例えば、入力変数には、原水及び混和水の水質を示す各種指標値や、凝集剤注入率、凝集状態指標値などの値、又はこれらの値に基づいて算出される値(例えば、変化量や変化率など)が含まれる。また、これらの各値に加えて、入力変数には、活性炭注入率や、pH調整剤注入率、急速混和池4又はフロック形成池5における攪拌速度などの値、又はこれらの値に基づいて算出される値が含まれてもよい。
【0045】
パラメータ同定部121は、沈澱池濁度を目的変数とし、予測式の各入力変数を説明変数として、目的変数及び説明変数に対応するプラントデータを用いて重回帰分析を行うことにより、目的変数と説明変数との関係性を一意に決定する式(1)の予測パラメータを決定する。パラメータ同定部121は、このように同定した予測パラメータを目標値決定部122に出力する。なお、目的変数及び説明変数に対応するプラントデータは、過去の所定期間分の時系列データとしてプラントデータ記憶部2から供給されるものとする。
【0046】
目標値決定部122は、パラメータ同定部121によって同定された予測パラメータを用いて凝集状態目標値を決定する。具体的には、目標値決定部122は、予測パラメータによって決定される予測モデルに、入力変数となる各値の現在値を入力することにより、その入力に対する沈澱池濁度の応答を予測する。なお、上述のとおり、原水の水質の変化に対する応答が混和水の水質の変化として現れるのには1時間程度の時間遅れがあるため、混和水に関する入力変数については現在値を与え、原水に関する入力変数には現在よりも1時間前の値を与えてもよい。ただし、1時間程度の間に生じる水質の変化は小さいため、全ての入力変数に現在値を与えてもよい。
【0047】
目標値決定部122は、算出した沈澱池濁度の予測値と、濁度目標値入力部11によって入力された濁度目標値との差に基づいて凝集状態目標値(制御目標値)を決定する。具体的には、沈澱池濁度の予測値が濁度目標値より高い場合、凝集剤が不足して沈澱池6の水質が悪化することが予測される。そのため、この場合、目標値決定部122は、凝集剤注入率を増加させるように凝集状態目標値を決定する。
【0048】
一方、沈澱池濁度の予測値が濁度目標値より低い場合、凝集剤が過多となり沈澱池6の水質が過度に良くなってしまうことが予測される。そのため、この場合、目標値決定部122は、凝集剤注入率を減少させるように凝集状態目標値を決定する。このような凝集状態目標値を決定する処理は、沈澱池濁度の予測値と濁度目標値との偏差に基づくP制御やPI制御によって実現されてもよい。なお、上述のとおり、凝集剤注入率の制御を行ってから、その制御応答が沈澱池6に現れるまでには3~5時間程度の時間がかかるため、制御目標値の変更は、時間遅れを考慮してある程度長い時間間隔で行われることが望ましい。
【0049】
例えば、予測パラメータの同定は、日単位で行われてもよいし、原水の水質や状態に大きな変化が無い場合には週単位で行われてもよい。例えば、原水の水質は季節的に変化し、水温の変化も季節的な影響が大きいことが知られている。そのため、原水の水質や状態を季節の変化よりも早く変化させる要因等がない場合には、予測パラメータの同定は月単位で行われてもよい。このように、予測パラメータの同定頻度は、適用先の水処理プラントにおける原水の水質変動の大きさに応じて定められるとよい。目標値決定部122は、このように決定した凝集状態目標値を凝集剤注入制御部13に出力する。
【0050】
図2は、第1の実施形態における凝集剤注入制御装置1が急速混和池4に注入される凝集剤注入量を制御する処理の流れを示すフローチャートである。まず、濁度目標値入力部11が濁度目標値の入力を受け付ける(ステップS101)。濁度目標値入力部11は、入力された濁度目標値を制御目標値決定部12に出力する。
【0051】
続いて、パラメータ同定部121が過去のプラントデータを用いて沈澱池濁度の予測式を決定する予測パラメータを同定する(ステップS102)。パラメータ同定部121は、同定した予測パラメータを目標値決定部122に出力する。
【0052】
続いて、目標値決定部122が、パラメータ同定部121によって同定された予測パラメータを予測式に適用し、現在の凝集剤注入量による沈澱池濁度の制御応答を予測する(ステップS103)。目標値決定部122は、濁度目標値入力部11を介して入力された濁度目標値と、沈澱池濁度の予測値とに基づいて混和水の凝集状態目標値を決定する(ステップS104)。目標値決定部122は、決定した凝集状態目標値を凝集剤注入制御部13に出力する。
【0053】
続いて、凝集剤注入制御部13が、現在の凝集状態と、目標値決定部122によって決定された凝集状態目標値とに基づいて、凝集剤注入装置81に指示する凝集剤注入率を決定する(ステップS105)。凝集剤注入制御部13は、決定した凝集剤注入率を凝集剤注入装置81に通知する(ステップS106)。
【0054】
このように構成された第1の実施形態の凝集剤注入制御装置1は、凝集剤の注入に対し時間遅れを伴って変化する沈澱池濁度を予測し、その予測値と沈澱池濁度の目標値(濁度目標値)とに基づいて凝集剤注入量を決定する。このため、第1の実施形態の凝集剤注入制御装置1によれば、被処理水に対する凝集剤注入量をより適切に制御することができる。
【0055】
従来の水処理プラントの多くでは、原水の濁度と、注入すべき凝集剤の量との対応関係を示す情報(以下「対応情報」という。)を予め生成しておき、濁度の現在値と、対応情報とを用いて凝集剤注入量を決定することが行われてきた。この対応情報は、例えば図3に示すテーブル形式のデータ、又は図4に示す関数形式のデータとして表される。このような制御方式は、一般にフィードフォワード制御と呼ばれる。この場合、予め対応情報を生成する必要があり、対応情報は対象の水処理プラントの用途や特性に応じたものでなければならない。そのため、従来の制御方式では、適用対象の水処理プラントごとに対応情報を生成する作業が発生し、必ずも汎用性の高い制御方式ではなかった。
【0056】
また、このような従来の制御方式は、プラントの運用経験に基づいて対応情報を更新することで制御精度を向上させていくことを想定したものであるため、運用開始後でノウハウが十分に蓄積されていない段階では必ずしも高い制御精度を実現できるとは限らない。さらに、従来のフィードフォワード制御方式では、原水の水質が変化した場合には、変化の要因を特定して対応情報に反映させない限り、その変化に対応することができない。
【0057】
これに対して、第1の実施形態の凝集剤注入制御装置1は、原水の水質の変化による影響を凝集状態指標値として取り込み、凝集状態指標値を説明変数に含む重回帰分析を行うことにより沈澱池濁度の予測式を推定する。そのため、第1の実施形態の凝集剤注入制御装置1によれば、原水の水質の変化に対応した凝集剤注入率を決定することができる。
【0058】
さらに、凝集剤注入制御装置1は、凝集剤注入率の制御応答が沈澱池濁度に現れるまでの時間遅れを考慮して重回帰分析を行うため、凝集剤の注入量をより適切に制御することが可能となる。
【0059】
また、第1の実施形態の凝集剤注入制御装置1は、凝集状態指標値を変数に含む予測式を用いてフィードバック制御を行うため、原水の水質が変化した場合であっても、その変化の要因を特定することなく、沈澱池濁度が濁度目標値に追従するように凝集剤注入率を制御することができる。
【0060】
また、第1の実施形態の凝集剤注入制御装置1は、沈澱池濁度の目標値に基づいて凝集剤注入量を決定する。このため、第1の実施形態の凝集剤注入制御装置1によれば、プラントごとに沈澱池濁度の目標値が異なる場合でも、各プラントの濁度目標値に応じて凝集剤注入率を自動制御することができる。
【0061】
また、第1の実施形態の凝集剤注入制御装置1は、被処理水の流量を変数に含む沈澱池濁度の予測式を推定する。このため、第1の実施形態の凝集剤注入制御装置1によれば、流量の変動が沈澱池濁度に大きく影響するプラントにおいても、被処理水の流量を考慮した制御目標値(凝集状態目標値)を設定することができる。ここで、予測式の変数に対応する各値の変化の度合いはプラントによって異なり、その中には大きく変化しないものもある。例えば、被処理水の攪拌強度は、攪拌機が一定の回転速度で動作する場合には変化しない。このように、ある値に関してその変化が小さいことが予め分かっている場合には、予測式からその値に対応する変数を除外してもよい。沈澱池濁度を予測する予測式の変数にどの値を用いるかは、各プラントの用途や特性に応じて任意に決定されてよい。
【0062】
以下、第1の実施形態の凝集剤注入制御装置1の変形例を説明する。パラメータ同定部121は、凝集剤を注入する前の被処理水の水質と、凝集剤を注入した後の被処理水の水質と差に基づく変数を含む予測式を推定してもよい。例えば、原水のpHの値をA、混和水のpHの値をBとした場合、パラメータ同定部121はA及びBの差に基づく変数xABを含む予測式の予測パラメータを同定する。この場合、例えば変数xABは次の式(2)で表される値である。
【0063】
【数2】
【0064】
この場合、具体的には、パラメータ同定部121は、原水のpHを示すプラントデータと混和水のpHを示すプラントデータとを用いて、原水のpHと混和水のpHとの差を時系列に算出し、算出した値を対応する各データセットに含めて重回帰分析を行う。ここで、パラメータ同定部121は、他の指標値と同様に、時間遅れを考慮した差を算出してもよい。このように、凝集剤を注入する前の被処理水の水質と、凝集剤を注入した後の被処理水の水質と差に基づく変数を含む予測式を推定することにより、凝集剤注入制御装置1はより精度良く沈澱池濁度を予測することが可能になる。
【0065】
具体的には、凝集剤の注入効果は、原水のpH、混和水のpH及びその差の大きさによって異なる場合がある。このような場合、式(2)に示すような変数を含む予測式を推定することにより予測式の精度を高めることができる。ここでは、原水及び混和水のpHについてその差を示す変数を予測式に含める場合について説明したが、差をとる指標値はpHに限定されない。例えば、凝集剤の注入前後で凝集状態指標値を測定する場合には、凝集状態指標値の差に基づく変数を予測式の変数に含めてもよい。
【0066】
例えば、第2の実施形態で後述する方法で凝集状態指標値を測定する場合、凝集剤注入前の被処理水と、凝集剤注入後の被処理水とのそれぞれに分取流路を設け、各分取流路に設けられたセルを撮像可能な位置に測定装置(解析部)を設置すればよい。第2の実施形態における凝集状態指標値の測定方法によれば、凝集剤注入前後で別々の測定装置を設けることなく凝集状態指標値を測定することができる。
【0067】
このように、凝集剤注入前後の値が沈澱池濁度に影響する可能性のある指標値について、その差を予測式の変数に取り込んで、予測パラメータを同定することにより、より精度の良い沈澱池濁度の予測式を推定することが可能になる。
【0068】
(第2の実施形態)
図5は、第2の実施形態における水処理プラント100aの構成の具体例を示す図である。水処理プラント100aは、凝集状態指標値を測定する具体的な手段の一例として解析部9(凝集状態測定部の一例)を備える点で第1の実施形態における水処理プラント100と異なる。第2の実施形態における凝集剤注入制御装置1は、凝集状態目標値の決定に、解析部9によって測定された凝集状態指標値を用いる点で第1の実施形態における凝集剤注入制御装置1と異なるものの、凝集剤注入率を決定する機能構成は第1の実施形態における凝集剤注入制御装置1と同様である。
【0069】
解析部9は、分取された混和水の一部を分析して凝集状態指標値を測定する装置である。図5は、一部の混和水が急速混和池4とフロック形成池5との間の配水管から分取される構成を示す。この構成は一例であり、混和水は必ずしも急速混和池4とフロック形成池5との間の配水管から分取される必要はない。例えば、混和水は急速混和池4から採取されてもよいし、フロック形成池5から取得されてもよい。また、分取流路を設けることができない場合には、混和水の分取は人手によって行われてもよい。本実施形態では、混和水の分取は、前記配水管を流れる混和水の一部を配水管とは別の流路(以下「分取流路」という。)に流すことによって実現されるものとする。
【0070】
解析部9は、凝集状態指標値を測定する構成として光源部91、撮像部92及び速度測定部93を備える。光源部91は分取流路を流れる混和水に光を照射する。光源部91は、例えばレーザー光や可視光を照射する光源である。光源部91は、照射する光の強度や波長を変更可能なように構成されてもよい。光源部91から照射された光は、一部が混和水中のフロックの表面で散乱され、その他は混和水を透過して撮像部92の光学系に受光される。
【0071】
撮像部92は、カメラ等の撮像装置を用いて構成される。撮像部92は、分取流路を流れる混和水を撮像可能な位置に配置される。例えば、分取流路の途中にはセルと呼ばれる透明な容器が設置され、光源部91と撮像部92とがセルを混和水の流れに対して垂直方向から挟んで対向するように配置される。このような配置により、セルを流れる混和水に流れに対して垂直な方向から光が照射され、撮像部92はセルを透過した光を受光する。撮像部92は、受光した光の強度をデジタル値に変換することによってセルを通過する混和水の画像データを生成する。撮像部92は、セルを通過する混和水を所定の撮像周期(例えば1/3秒周期)で撮像し、生成した画像データを時系列に速度測定部93に出力する。
【0072】
速度測定部93は、撮像部92から出力される画像データに基づいて混和水中のフロックの凝集状態を示す値(凝集状態指標値)を測定する。具体的には、速度測定部93は、フロックの電気泳動速度を凝集状態指標値として測定する。速度測定部93は、撮像部92から出力される時系列の画像データを用いて混和水中のフロックの電気泳動速度を測定し、測定した電気泳動速度を時系列にパラメータ同定部121に出力する。
【0073】
図6は、第2の実施形態において、分取流路に設けられるセルの具体例を示す図である。図6はy軸負方向から入流する混和水をy軸正方向に通過させるセルの例を示す。セルCには、混和水の流れに対して垂直方向の電場を形成する正極EP及び負極ENと、正極EP及び負極ENに電圧を印加する電源PSが備えられる。電源PSが正極EP及び負極ENに電圧を印加した状態で混和水を通水することにより、セルCにおいて混和水中のフロックの電気泳動が発生する。
【0074】
具体的には、表面電荷がマイナスであるフロックは電圧の印加によって正極EP方向(すなわちx軸の負方向)に移動する。従って、表面電荷がマイナスであるフロックの電気泳動速度の平均値は負となる。一方、表面電荷がプラスであるフロックは電圧の印加によって負極EN方向(すなわちx軸の正方向)に移動する。従って、表面電荷がプラスであるフロックの電気泳動速度の平均値は正となる。
【0075】
これに対して表面電荷が中和しているフロックは電場の影響を受けない。そのため、表面電荷が中和しているフロックの移動方向は、電圧が印加されている状況においても一定ではない。従って個々のフロックの電気泳動速度のばらつきが大きくなり、電気泳動速度の分散値が大きくなる。そのため、表面電荷が中和しているフロックの電気泳動速度の分散値は所定値以上になると考えられる。そこで、この所定値を閾値として、フロックの電気泳動速度の分散値と比較することによって、フロックの表面電荷が中和しているか否かを把握することができる。
【0076】
速度測定部93は、セルCを通過する混和水が撮像された画像に対してソフトウェアによる画像解析処理を施すことにより画像内のフロックを検出し、検出した個々のフロックの電気泳動速度を求める。電気泳動速度は、連続して撮像された画像間におけるフロックの位置と、撮像周期とに基づいて求められる。速度測定部93は、検出したフロックごとに電気泳動速度を測定し、各フロックの電気泳動速度の平均値(以下「平均電気泳動速度」という。)を算出する。
【0077】
なお、速度測定部93は、各フロックについて求めた電気泳動速度の移動平均をとり、各フロックの移動平均値を平均した値を平均電気泳動速度として算出してもよい。速度測定部93は、このように算出した平均電気泳動速度の時系列データを凝集状態指標値としてパラメータ同定部121に出力する。なお、平均電気泳動速度は、各フロックの電気泳動速度の平均的な値を示すものであれば平均値に限らず他の統計値に置き換えられてもよい。
【0078】
このように構成された第2の実施形態の水処理プラント100aは、画像解析処理によってフロックの平均電気泳動速度を測定する解析部9を備えることにより、凝集剤注入制御装置1に対してより正確な凝集状態指標値を供給することができる。
【0079】
なお、第2の実施形態では、凝集剤注入制御装置1とは異なる別の装置として解析部9を備える水処理プラント100aについて説明したが、解析部9は必ずしも凝集剤注入制御装置1と別体に構成される必要はなく、凝集剤注入制御装置1の一部として構成されてもよい。
【0080】
また、第2の実施形態では、凝集状態指標値を測定する装置の一例としてフロックの電気泳動速度を測定する解析部9について説明したが、解析部9は他の凝集状態指標値を測定する装置に置き換えられてもよい。例えば、水処理プラント100aは、解析部9に代えて、フロックのゼータ電位、混和水の流動電流値又はコロイド電荷量など、フロックの荷電状態を示す指標値を測定する他の装置に置き換えられてもよい。
【0081】
(第3の実施形態)
図7は、第3の実施形態における水処理プラント100bの構成の具体例を示す図である。水処理プラント100bは、凝集剤注入制御装置1に代えて凝集剤注入制御装置1bを備える点、プラントデータ記憶部2を備えない点で第1の実施形態における水処理プラント100と異なる。凝集剤注入制御装置1bは、制御目標値決定部12に代えて制御目標値決定部12bを備える点で第1の実施形態の凝集剤注入制御装置1と異なる。制御目標値決定部12bは、パラメータ同定部121を備えない点、目標値決定部122に代えて目標値決定部122bを備える点で第1の実施形態における制御目標値決定部12と異なる。水処理プラント100bのその他の構成は第1の実施形態と同様である。そのため、第1の実施形態と同様の構成については図1と同じ符号を付すことにより説明を省略する。
【0082】
目標値決定部122bは、沈澱池濁度の実測値と濁度目標値との差に基づいて凝集状態目標値を決定する点では第1の実施形態における目標値決定部122と同様であるが、凝集状態目標値の決定に、現在の凝集剤注入量による沈澱池濁度の予測値を用いない点で第1の実施形態における目標値決定部122と異なる。
【0083】
具体的には、目標値決定部122bは、実測値が濁度目標値を下回っている場合は、凝集剤注入率を低下させるように凝集状態目標値を決定し、実測値が濁度目標値を上回っている場合は、凝集剤注入率を増加させるように凝集状態目標値を決定する。このような制御方式は、原水の水質が緩やかに変化するプラントにおいて有効である。具体的には、急速混和池4において被処理水に凝集剤が注入されてから、その被処理水の沈澱池濁度が沈澱池6において測定されるまでの時間が、原水の水質が変化する時間よりも短い場合に有効である。
【0084】
このように構成された第3の実施形態における水処理プラント100bは、より簡易な構成で第1の実施形態における水処理プラント100と同様の効果を奏する。
【0085】
(第4の実施形態)
図8は、第4の実施形態における水処理プラント100cの構成の具体例を示す図である。水処理プラント100cは、凝集剤注入制御装置1bに代えて凝集剤注入制御装置1cを備える点で第3の実施形態における水処理プラント100bと異なる。凝集剤注入制御装置1cは、リミット入力部14及び目標値調整部15をさらに備える点で第3の実施形態の凝集剤注入制御装置1bと異なる。水処理プラント100cのその他の構成は第3の実施形態と同様である。そのため、第3の実施形態と同様の構成については図7と同じ符号を付すことにより説明を省略する。
【0086】
リミット入力部14は、目標値決定部122bによって決定された制御目標値(凝集状態目標値)に対するリミット値の入力を受け付ける。リミット値は、凝集剤注入制御部13に入力される制御目標値の許容範囲を示す値である。リミット値は、制御目標値の上限値、下限値、又はその両方によって表され、例えば水処理プラント100cの運用事業者によって決定される。リミット入力部14は、入力されたリミット値を目標値調整部15に出力する。
【0087】
目標値調整部15は、リミット値に基づいて目標値決定部122bによって決定された制御目標値を調整する。具体的には、目標値調整部15は、制御目標値決定部12bによって決定された制御目標値がリミット値の示す範囲内にあるか否かを判定し、その判定結果に応じて制御目標値を前記範囲内の値に調整する。目標値調整部15は、調整後の制御目標値を凝集剤注入制御部13に出力する。
【0088】
例えば、凝集状態指標値として混和水のゼータ電位が測定される場合に、その上限値を10mV、下限値を-10mVとするリミット値が入力されたと仮定する。この場合、目標値調整部15は、目標値決定部122bが決定したゼータ電位の目標値が、-10mV~10mVの範囲内にある場合には、目標値決定部122bが決定したゼータ電位の目標値をそのまま凝集剤注入制御部13に出力する。
【0089】
一方、ゼータ電位の目標値が-10mVを下回っている場合、目標値調整部15は、下限値である-10mVを制御目標値として凝集剤注入制御部13に出力する。また、ゼータ電位の目標値が10mVを上回っている場合、目標値調整部15は、上限値である10mVを制御目標値として凝集剤注入制御部13に出力する。
【0090】
このように構成された第4の実施形態の凝集剤注入制御装置1によれば、混和水におけるフロックの凝集状態が想定の範囲外に制御されることを抑制することができる。
【0091】
(第5の実施形態)
図9は、第5の実施形態における水処理プラント100dの構成の具体例を示す図である。水処理プラント100dは、凝集剤注入制御装置1cに代えて凝集剤注入制御装置1dを備える点で第4の実施形態における水処理プラント100cと異なる。凝集剤注入制御装置1dは、リミット入力部14に代えてリミット決定部16を備える点で第4の実施形態の凝集剤注入制御装置1cと異なる。水処理プラント100dのその他の構成は第4の実施形態と同様である。そのため、第4の実施形態と同様の構成については図8と同じ符号を付すことにより説明を省略する。
【0092】
リミット決定部16は、目標値調整部15に入力するリミット値を原水の水質に基づいて決定する。具体的には、リミット決定部16は、原水水質計31から原水のpHや水温等の測定値を取得し、取得したpHや水温等の水質に応じたリミット値を決定する。リミット決定部16は、決定したリミット値を目標値調整部15に出力する。
【0093】
図10は、第5の実施形態におけるリミット決定部16がリミット値を決定する方法の一例を説明する図である。図10は、混和水のゼータ電位を制御量とした場合において決定されうる制御目標値の範囲(以下「制御目標値範囲」という。)を示す図である。図10の横軸は原水のpHを表し、縦軸は決定されうるゼータ電位の目標値を表す。範囲R1は原水の水温が10度であり、pHが7.0である場合におけるゼータ電位の制御目標値範囲を表す。また、範囲R2は、原水の水温が20度であり、pHが7.0である場合におけるゼータ電位の制御目標値範囲を表す。
【0094】
リミット決定部16は、このような原水の水質に応じた制御目標値範囲を示す設定情報を予め記憶しておき、この設定情報と、原水の水質の実測値とに基づいて適用すべき制御目標値範囲を選択する。この場合、リミット決定部16は、選択した制御目標値範囲をリミット情報として目標値調整部15に出力する。
【0095】
図10に示す設定情報の例では、各制御目標値範囲の傾きが負となっている。これは、原水のpHが低くなるほど、ゼータ電位の目標値をプラス側に変化させたほうがいよいことを示している。また、図10の例では、原水の温度が低くなるほど、制御目標範囲が縦軸のプラス側にシフトしている。これは、一般に、水温が低くなると凝集反応の進みが遅くなるため、原水の水温が低くなるほど凝集剤の注入量を増加させたほうがよいことを示している。
【0096】
なお、図10には、原水のpHが7.0である場合における制御目標値範囲のみが示されているが、実際には、設定情報には、原水がとりうる水質(ここでは水温とpHとの組み合わせ)ごとの制御目標値範囲を示す情報が含まれる。
【0097】
また、リミット決定部16は、設定情報を予め記憶しておくのではなく、設定情報を生成する機能を備えてもよい。例えば、図10に示す制御目標範囲は、各pHにおける目標値の最小値を示す線分と、その線分の法線方向の幅とによって一意に決定される。例えば、図10における制御目標範囲R1は、直線L上の線分Wと、幅Hとによって決定される。ここで、凝集状態目標値が現在の沈澱池濁度を濁度目標値に変化させるように決定され、沈澱池濁度が原水及び混和水の水質に大きく影響されることを考えると、凝集状態目標値は原水及び混和水の現在の水質が沈澱池濁度に与える影響度に相関すると考えられる。そして、この影響度は、パラメータ同定部121によって同定された予測パラメータによって表される。そのため、各制御目標範囲は沈澱池濁度の予測式について同定された予測パラメータの関数として表すことができると考えられる。
【0098】
例えば、リミット決定部16は、線分Wを決定する各要素(例えば、直線Lの傾き及び切片、線分Wの一端の座標、線分Wの長さなど)と幅Hとのそれぞれを、予測パラメータを変数とする関数として表し、この関数にパラメータ同定部121が同定した予測パラメータを代入することによって各要素の値を算出する。なお、現在の水質と予測パラメータとによって定まる値を各要素の値に換算する係数は、オペレータ等によって手動で設定されてもよいし、過去のプラントデータを用いた回帰分析によって求められてもよい。これにより、リミット決定部16は、原水及び混和水の現在の水質に応じた制御目標範囲を決定することができる。
【0099】
各要素は原水及び混和水の現在の水質を変数とする関数として表されると考えられる。そのため、リミット決定部16は、パラメータ同定部121と同様に、過去のプラントデータを用いた重回帰分析を行うことにより、線分W及び幅Hを表す関数を推定し、推定した関数の各変数に原水及び混和水の現在の水質を示す値を代入することにより制御目標範囲を決定してもよい。
【0100】
このように構成された第4の実施形態の凝集剤注入制御装置1dは、原水及び混和水の水質に応じて制御目標値のリミット値を決定することができるため、凝集剤注入率をより精度良く決定することが可能である。具体的には、凝集剤注入制御装置1dは、フロックの凝集が適切に進行する範囲から凝集状態が逸脱しないように凝集剤注入率を制御することができるため、原水の水質が変動する場合であっても安定した水質の処理済み水を生成することができる。
【0101】
以上説明した少なくともひとつの実施形態によれば、凝集剤が注入された被処理水である混和水におけるフロックの凝集状態を制御量とし、被処理水に対する凝集剤の注入量を操作量としてフィードバック制御を行う凝集剤注入制御部と、フィードバック制御における制御量の目標値を、凝集剤が注入される前の被処理水である原水の水質、及び混和水の水質に基づいて決定する制御目標値決定部と、を持つことにより、凝集剤の注入量をより適切に制御することができる。
【0102】
なお、混和水水質計42は、混和水の水質を測定可能であれば、必ずしも急速混和池4とフロック形成池5との間の配水管に設けられる必要はない。例えば、混和水水質計42は、急速混和池4の流出部付近に設けられてもよい。また、pH調整剤及び活性炭は、着水井3と急速混和池4との間の配水管において被処理水に注入されてもよい。
【0103】
また、リミット入力部14、目標値調整部15、リミット決定部16は、第1の実施形態及び第2の実施形態の凝集剤注入制御装置1に備えられてもよい。
【0104】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0105】
100,100a,100b,100c,100d…水処理プラント、1,1b,1c,1d…凝集剤注入制御装置、11…濁度目標値入力部、12,12b…制御目標値決定部、121…パラメータ同定部、122,122b…目標値決定部、13…凝集剤注入制御部、14…リミット入力部、15…目標値調整部、16…リミット決定部、2…プラントデータ記憶部、3…着水井、4…急速混和池、5…フロック形成池、6…沈澱池、7…濾過池、81…凝集剤注入装置、82…pH調整剤注入装置、83…活性炭注入装置、9…解析部、91…光源部、92…撮像部、93…速度測定部、31…原水水質計、32…流量計、41…急速攪拌機、42…混和水水質計、51~53…攪拌池、54~56…緩速攪拌機、61…沈澱池水質計
図1
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図10