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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-18
(45)【発行日】2022-11-29
(54)【発明の名称】過給システム
(51)【国際特許分類】
   F02B 39/10 20060101AFI20221121BHJP
   F02B 37/04 20060101ALI20221121BHJP
   F02B 37/00 20060101ALI20221121BHJP
【FI】
F02B39/10
F02B37/04 C
F02B37/00 500B
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2018100507
(22)【出願日】2018-05-25
(65)【公開番号】P2019203476
(43)【公開日】2019-11-28
【審査請求日】2021-01-29
(73)【特許権者】
【識別番号】000006208
【氏名又は名称】三菱重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100112737
【弁理士】
【氏名又は名称】藤田 考晴
(74)【代理人】
【識別番号】100140914
【弁理士】
【氏名又は名称】三苫 貴織
(74)【代理人】
【識別番号】100136168
【弁理士】
【氏名又は名称】川上 美紀
(72)【発明者】
【氏名】山下 幸生
(72)【発明者】
【氏名】小▲柳▼ 拓也
(72)【発明者】
【氏名】ジワリヤウェート ウィツター
(72)【発明者】
【氏名】内藤 あゆみ
【審査官】北村 亮
(56)【参考文献】
【文献】特開平09-032569(JP,A)
【文献】特表2016-512295(JP,A)
【文献】特開2000-179348(JP,A)
【文献】特開平09-032567(JP,A)
【文献】国際公開第2018/084309(WO,A1)
【文献】特開平06-341325(JP,A)
【文献】英国特許出願公開第02444603(GB,A)
【文献】特開2002-171606(JP,A)
【文献】特表2011-504080(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02B 39/10
F02B 37/04
F02B 37/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電動モータによって駆動し、内燃機関へ流体を圧送する圧縮機と、
前記内燃機関からの排気によって回転するタービン発電機と、
前記タービン発電機で発電した電気により前記電動モータを駆動する駆動装置と、
を備え、
前記駆動装置は、
前記タービン発電機で発電した電気を整流する整流部と、
前記整流部によって整流した直流電圧の電圧値を昇圧または降圧して出力するコンバータ部と、
前記コンバータ部から出力された直流電圧を用いて前記電動モータを駆動するインバータ部と、
前記コンバータ部における入力電圧に対する出力電圧の電圧値の変化量を制御する制御部と、
を有し、
前記コンバータ部はチョッパ回路であり、
前記制御部は、
過給システムの運転状態を示す状態量の目標値を目標状態量として設定する目標値設定部と、
前記過給システムの状態量と前記目標状態量との差を変数として含む所定の評価関数を用いて、所定時間経過後において前記評価関数の解が略最小となる前記過給システムの最適状態量を前記過給システムの解析モデルに基づいて演算するモデル解析部と、
前記モデル解析部により演算された前記最適状態量に基づいて、前記コンバータ部における直流電圧の変化量を制御する電圧変化量制御部と、を有し、
前記モデル解析部は、所定時間経過後の将来における状態量である前記タービン発電機の回転数Ntと吸気マニホールド圧力MAPを(式5)より予測し、その所定時間経過後の将来において、(式8)の前記評価関数の解が略最小となるような前記最適状態量(Pm、Pdc、WG)を演算する
過給システム。
(式5)
Pt:タービンの動力
ηt:タービンの効率
Cp:タービンの定圧熱容量
Tin:タービンの入口温度
wt:タービンの質量流量
Π:タービンの圧力比
κ:比熱比
(式8)
g(x,u):評価関数
x:状態量
u:将来において最適と推定される状態量
Nt*:目標回転数
MAP*:吸気マニホールド圧力目標値
Q:目標値に対する追従誤差において付加される重みづけ
Pm:電動モータの入力電力
Pdc:コンバータ部の入力電力
WG:ウェイストゲートの開度
R:uの変化量に対する重みづけ
【請求項2】
前記駆動装置は、前記コンバータ部から出力された直流電圧を蓄電する蓄電部を有する請求項1に記載の過給システム。
【請求項3】
前記制御部は、
前記タービン発電機の目標回転数を設定する前記目標値設定部と、
前記タービン発電機の現在の回転数と前記目標回転数とが一致するように、前記コンバータ部における直流電圧の変化量を制御する前記電圧変化量制御部と、
を有する請求項1または2に記載の過給システム。
【請求項4】
前記目標値設定部は、前記目標状態量として前記タービン発電機の目標回転数を設定し、
前記モデル解析部は、前記評価関数において、前記タービン発電機における回転数と前記目標回転数との差を前記変数として含む請求項に記載の過給システム。
【請求項5】
前記目標値設定部は、前記タービン発電機において、タービンに流入する流体の流速に対するタービンの外周速度の比である周速比が所定の値となる前記目標回転数を設定する請求項3またはに記載の過給システム。
【請求項6】
前記目標値設定部は、前記タービン発電機における前記排気の入口温度と、前記タービン発電機における前記排気の圧力比とに基づいて、前記周速比が所定の値となる前記目標回転数を設定する請求項に記載の過給システム。
【請求項7】
前記目標値設定部は、前記タービン発電機における前記排気の入口温度と、前記タービン発電機における前記排気の圧力比と、前記タービン発電機において効率が略最大となる回転数との関係を有しており、前記関係に基づいて前記タービン発電機の現在の前記入口温度及び前記圧力比から効率が略最大となる回転数を特定し、特定した回転数を前記目標回転数として設定する請求項3またはに記載の過給システム。
【請求項8】
前記目標値設定部は、前記内燃機関の運転状態と、前記タービン発電機において効率が略最大となる回転数との関係を有しており、前記関係に基づいて前記内燃機関の現在の運転状態から効率が略最大となる回転数を特定し、特定した回転数を前記目標回転数として設定する請求項3またはに記載の過給システム。
【請求項9】
前記運転状態とは、前記内燃機関の回転数及び負荷状態である請求項に記載の過給システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、過給システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車等に搭載された内燃機関(エンジン)では、高出力・高効率化のために、内燃機関の吸入口側に圧縮機を設け、また、内燃機関の排出口側にタービン発電機を設けた構成が考案されている(例えば、特許文献1)。タービン発電機で回生された電気は、圧縮機の駆動に使用される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第5700237号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載の構成では、内燃機関からの排気によってタービン発電機が受動的に回転して発電を行い、発電された電気は圧縮機の駆動に使用される。すなわち、タービン発電機の運転状態(回転数等)は受動的に決定されている。しかしながら、タービン発電機の効率は、例えば周速度等に依存するため、タービン発電機の運転状態が受動的に決定されると(制御されていないと)、効率がよくない動作点でタービン発電機が運転してしまう場合がある。すなわち、タービン発電機を、積極的に効率の良い運転状態とすることができなかった。
【0005】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであって、タービン発電機の回転数を能動的かつ容易に制御することのできる過給システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第1態様は、電動モータによって駆動し、内燃機関へ流体を圧送する圧縮機と、前記内燃機関からの排気によって回転するタービン発電機と、前記タービン発電機で発電した電気により前記電動モータを駆動する駆動装置と、を備え、前記駆動装置は、前記タービン発電機で発電した電気を整流する整流部と、前記整流部によって整流した直流電圧の電圧値を昇圧または降圧して出力するコンバータ部と、前記コンバータ部から出力された直流電圧を用いて前記電動モータを駆動するインバータ部と、前記コンバータ部における直流電圧の変化量を制御する制御部と、を有する過給システムである。
【0007】
上記のような構成によれば、タービン発電機において発電した電気を整流した後、整流した直流電圧の電圧値を昇圧または降圧して、電圧値の変化量を制御することとした。タービン発電機において発電した電気を変化させること(昇圧または降圧させること)によって、タービン発電機の負荷(ブレーキング力)を変化させることができるため、タービン発電機の回転数を制御することが可能となる。例えば、発電した電気を昇圧すると、導通する電流量が増加するため、負荷が増加してタービン発電機の回転数が減少する。また、発電した電気を降圧すると、導通する電流量が減少するため、負荷が減少してタービン発電機の回転数が増加する。すなわち、発電した電気を変化させることによってタービン発電機の回転数を能動的かつ容易に制御することができる。例えば、タービン発電機の効率が良い回転数等に制御することが可能である。なお、直流電圧の電圧値を昇圧または降圧して出力するコンバータ部とは、DC/DCコンバータであって、昇圧コンバータ、降圧コンバータ、または昇降圧コンバータである。
【0008】
また、電動モータを駆動するインバータ部の上流側において直流電圧を昇圧または降圧することとしたため、電動モータや内燃機関の制御及び運転状態に依らず、タービン発電機の回転数を制御することが可能となる。
【0009】
また、コンバータ部における直流電圧の変化量を制御することとしたため、例えばベクトル制御のような複雑な制御系を用いることなく、簡単な構成でタービン発電機の回転数を制御することが可能となる。
【0010】
上記過給システムにおいて、前記駆動装置は、前記コンバータ部から出力された直流電圧を蓄電する蓄電部を有することとしてもよい。
【0011】
上記のような構成によれば、コンバータ部から出力された直流電圧を蓄電することとしたため、コンバータ部において直流電圧の電圧値を変化させたとしても、該変化を緩衝することができる。
【0012】
上記過給システムにおいて、前記制御部は、前記タービン発電機の目標回転数を設定する目標値設定部と、前記タービン発電機の現在の回転数と前記目標回転数とが一致するように、前記コンバータ部における直流電圧の変化量を制御する電圧変化量制御部と、を有することとしてもよい。
【0013】
上記のような構成によれば、タービン発電機の現在の回転数と目標回転数とが一致するようにコンバータ部における直流電圧の変化量を制御するため、簡便な制御系の構成で容易にタービン発電機の回転数を制御することができる。
【0014】
上記過給システムにおいて、前記制御部は、前記過給システムの運転状態を示す状態量の目標値を目標状態量として設定する目標値設定部と、前記過給システムの状態量と前記目標状態量との差を変数として含む所定の評価関数を用いて、所定時間経過後において前記評価関数の解が略最小となる前記過給システムの最適状態量を前記過給システムの解析モデルに基づいて演算するモデル解析部と、前記モデル解析部により演算された前記最適状態量に基づいて、前記コンバータ部における直流電圧の変化量を制御する電圧変化量制御部と、を有することとしてもよい。
【0015】
上記のような構成によれば、過給システムの状態量と目標状態量との差を変数として含む関数を評価関数とし、所定時間経過後において該評価関数の解が略最小となる過給システムの最適状態量を演算するため、将来における過給システムの最適な状態量を算出することができる。そして、最適状態量に基づいて、コンバータ部における直流電圧の変化量を制御するため、先行的かつ効率的に過給システムを最適な運転状態とすることができる。すなわち、過給システムの運転状態が過渡的な場合であっても、より効果的に運転状態を最適化することができる。なお、過給システムの運転状態を示す状態量とは、例えば、タービン発電機の回転数やマニホールドの圧力等である。
【0016】
上記過給システムにおいて、前記目標値設定部は、前記目標状態量として前記タービン発電機の目標回転数を設定し、前記モデル解析部は、前記評価関数において、前記タービン発電機における回転数と前記目標回転数との差を前記変数として含むこととしてもよい。
【0017】
上記のような構成によれば、評価関数において、タービン発電機における回転数と目標回転数との差を変数として含むため、容易に取得できるパラメータ(回転数)を用いて評価関数を設定することができる。
【0018】
上記過給システムにおいて、前記目標値設定部は、前記タービン発電機において、タービンに流入する流体の流速に対するタービンの外周速度の比である周速比が所定の値となる前記目標回転数を設定することとしてもよい。
【0019】
上記のような構成によれば、タービン発電機において周速比が所定の値となる目標回転数を設定するため、タービン発電機を所望の周速比にて運転させることができる。例えば、タービン発電機の効率は周速比に依存するため、周速比を適切に設定することで、タービン発電機をより効率のよい運転状態に維持することができる。具体的には、タービン発電機の効率は、周速比が0.7付近で最大となる。周速比とは、タービンに流入する流体の流速に対するタービンの外周速度(タービン翼の外周部における周速度)の比である。
【0020】
上記過給システムにおいて、前記目標値設定部は、前記タービン発電機における前記排気の入口温度と、前記タービン発電機における前記排気の圧力比とに基づいて、前記周速比が所定の値となる前記目標回転数を設定することとしてもよい。
【0021】
上記のような構成によれば、タービン発電機における排気の入口温度と圧力比とを用いて、周速比が所定の値となる目標回転数を設定することとした。タービン発電機における周速比は、タービン発電機における排気の入口温度と圧力比に大きく依存するため、タービン発電機の運転状態によって変動してしまう。そこで、タービン発電機における排気の入口温度と圧力比を考慮することで、適格にタービン発電機の運転状態を同定することができ、より正確に、周速比が所定の値となる目標回転数を設定することができる。
【0022】
上記過給システムにおいて、前記目標値設定部は、前記タービン発電機における前記排気の入口温度と、前記タービン発電機における前記排気の圧力比と、前記タービン発電機において効率が略最大となる回転数との関係を有しており、前記関係に基づいて前記タービン発電機の現在の前記入口温度及び前記圧力比から効率が略最大となる回転数を特定し、特定した回転数を前記目標回転数として設定することとしてもよい。
【0023】
上記のような構成によれば、タービン発電機における排気の入口温度及び圧力比と、タービン発電機において効率が略最大となる回転数との関係を用いることによって、タービン発電機の現在の該入口温度及び該圧力比から効率が略最大となる回転数を容易に取得することが可能となる。すなわち、より簡単に目標回転数を設定することができる。
【0024】
また、タービン発電機の効率がより良い状態となる周速比(例えば、0.7)は必ずしも一定ではないため、タービン発電機における排気の入口温度及び圧力比から直接的に効率が略最大となる回転数を取得することで、より精度よくタービン発電機を高効率状態とすることができる。なお、タービン発電機における排気の入口温度及び圧力比と、タービン発電機において効率が略最大となる回転数との関係については、事前試験や解析等によって予め設定されるものである。
【0025】
上記過給システムにおいて、前記目標値設定部は、前記内燃機関の運転状態と、前記タービン発電機において効率が略最大となる回転数との関係を有しており、前記関係に基づいて前記内燃機関の現在の運転状態から効率が略最大となる回転数を特定し、特定した回転数を前記目標回転数として設定することとしてもよい。
【0026】
上記のような構成によれば、内燃機関の運転状態と、タービン発電機において効率が略最大となる回転数との関係を用いることによって、効率が略最大となる回転数を容易に取得することが可能となる。
【0027】
上記過給システムにおいて、前記運転状態とは、前記内燃機関の回転数及び負荷状態であることとしてもよい。
【0028】
上記のような構成によれば、運転状態として内燃機関の回転数及び負荷状態を用いることとしたため、効率的に内燃機関の運転状態を特定することができる。
【発明の効果】
【0029】
本発明によれば、タービン発電機の回転数を能動的かつ容易に制御することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0030】
図1】本発明の第1実施形態に係る過給システムの概略構成を示す図である。
図2】本発明の第1実施形態に係る駆動装置の概略構成を示す図である。
図3】本発明の第1実施形態に係る制御部の制御ブロック図である。
図4】本発明の第2実施形態に係る制御部の制御ブロック図である。
図5】本発明の第2実施形態に係る制御部における入口温度と圧力比と回転数の関係を示したマップである。
図6】本発明の第3実施形態に係る制御部の制御ブロック図である。
図7】本発明の第3実施形態に係る制御部におけるエンジンの運転状態と回転数の関係を示したマップである。
図8】本発明の第4実施形態に係る制御部の制御ブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
〔第1実施形態〕
以下に、本発明に係る過給システムの第1実施形態について、図面を参照して説明する。
図1は、本発明の第1実施形態に係る過給システム1の概略構成を示す図である。図1に示すように、本実施形態に係る過給システム1は、内燃機関(以下、「エンジン4」という。)に設けられ、低圧側電動圧縮機(以下、「低圧コンプレッサ2」という。)と、高圧側圧縮機(以下「高圧コンプレッサ3」という。)と、排気タービン5と、タービン発電機6と、駆動装置7とを主な構成として備えている。過給システム1において、低圧コンプレッサ2、高圧コンプレッサ3、エンジン4、排気タービン5、タービン発電機6の順に流体が流通しており、本実施形態では該流体として空気を用いる場合について説明する。なお、空気に替えて他の流体を使用することとしてもよい。また、本実施形態では、過給システム1が自動車に適用される場合について説明するが、エンジン4を要するものであれば自動車に限定されず適用することが可能である。
【0032】
低圧コンプレッサ2は、電動モータ2bによって駆動する電動コンプレッサであって、空気(外気)を取り込んで圧縮し、高圧状態の空気をエンジン4へ圧送する。このため、低圧コンプレッサ2は、圧縮機2aと電動モータ2bとを有しており、互いに同軸で接続されている。なお、電動モータ2bは、後述する駆動装置7によって制御される。
【0033】
高圧コンプレッサ3は、排気タービン5で回収した排気のエネルギーによって駆動される圧縮機であり、排気タービン5と同軸で接続されている。エンジン4からの排気によって排気タービン5が回転し、排気タービン5の回転力が該同軸を介して高圧コンプレッサ3に伝達されることで高圧コンプレッサ3が駆動される。高圧コンプレッサ3では、低圧コンプレッサ2によって圧縮した空気を更に高圧状態にしてエンジン4へ供給する。
【0034】
エンジン4は、低圧コンプレッサ2及び高圧コンプレッサ3より圧送された高圧空気を用い、内部で燃料を燃焼することによって、熱エネルギーを機械的エネルギー(回転力)へ変換する。そして、エンジン4は、取り出した機械的エネルギーを用いて、例えば、自動車の車輪を駆動して自動車を走行させる。燃焼された空気は、排気として排気タービン5へ供給される。
【0035】
排気タービン5は、エンジン4から供給された排気が有するエネルギーを回転力に変換し、同軸を介して高圧コンプレッサ3を駆動する。
【0036】
タービン発電機6は、エンジン4より排出された排気からエネルギーを回生して発電を行う。このため、タービン発電機6は、タービン6aと発電機6bとを有しており、互いに同軸で接続されている。エンジン4より排出された排気は、タービン6aに流入してタービン翼に対して仕事を行い、回転力を発生させる。発生した回転力は同軸を介して発電機6bに伝達され、発電機6b内では、磁石が回転し、コイルに電磁誘導を発生させることで交流電圧を発生させる。このようにして、タービン発電機6は、三相交流電圧を発生させる。なお、タービン発電機6において仕事を終えた排気は、過給システム1の外(外気中)に放出される。
【0037】
発電機6bの負荷は、発電機6bの電力出力側における導通電流の大きさ(負荷抵抗値の状態)によって変動する。例えば、導通電流が大きくなると、発電機6bの負荷は増加し、発電機6bのブレーキング力が増加し、発電機6bは減速する(タービン6aの回転数Ntも低下する)。また、導通電流が小さくなると、発電機6bの負荷は減少し、発電機6bのブレーキング力が減少し、発電機6bは加速する(タービン6aの回転数Ntも増加する)。タービン発電機6にて発電した電気は、駆動装置7へ供給され、低圧コンプレッサ2の駆動に用いられる。
【0038】
駆動装置7は、タービン発電機6で発電した電気により低圧コンプレッサ2の電動モータ2bを駆動する。また、駆動装置7は、タービン発電機6の負荷状態(導通電流量)を変化させることによって、タービン発電機6の回転数Nt(タービン6aの回転数Nt)を制御する。図2は、駆動装置7の概略構成を示した図である。図2に示されるように、駆動装置7は、整流部11と、コンバータ部12と、蓄電部13と、インバータ部14と、制御部15とを有している。整流部11、コンバータ部12、蓄電部13、及びインバータ部14は、電気回路としてハード的に構成されている。なお、蓄電部13は不要としてもよい。
【0039】
整流部11は、タービン発電機6で発電した三相交流を整流する。具体的には、整流部11は、タービン発電機6で発電した三相交流のそれぞれの相に対応して2つ(計6つ)のダイオード素子が設けられており、三相交流を全波整流する。整流した直流電圧(入力電圧Vin)は、コンバータ部12へ出力される。なお、本実施形態では、整流部11は全波整流を行うこととしているが、整流を行うものであれば、全波整流に限らず半波整流等とすることも可能である。
【0040】
コンバータ部12は、整流部11によって整流した直流電圧の電圧値を昇圧または降圧して出力する。具体的には、コンバータ部12は、昇降圧が可能なDC/DCコンバータ(昇降圧チョッパ)であって、コンバータ部12へ入力される電圧(以下、「入力電圧Vin」という。)を昇圧または降圧する。入力電圧Vinとコンバータ部12から出力される電圧(以下、「出力電圧Vout」という。)との昇降圧の変化量は、後述する制御部15によって制御される。
【0041】
例えば、コンバータ部12は、図2に示されるように、整流部11の出力側の電路を直流線21(正極側直流電路)と接地線22(接地側直流電路)として、整流部11側より、直流線21と接地線22とに接続されたコンデンサ23と、直流線21上に設けられたスイッチング素子24(例えば、トランジスタ、FET、IGBT等)と、直流線21と接地線22とに接続されたインダクタ25と、直流線21上に設けられた逆流防止素子26(ダイオード)と、直流線21と接地線22とに接続されたコンデンサ27とを有している。
【0042】
コンバータ部12では、スイッチング素子24のデューティー比D(単位制御周期に対してスイッチング素子24が導通状態となる期間の割合)に応じて、入力電圧Vinに対する出力電圧Voutの変化量(例えば、昇降圧比=出力電圧Vout/入力電圧Vin)を変化させる。例えば、デューティー比Dが0.5以上であれば、入力電圧Vinを昇圧し(出力電圧Vout>入力電圧Vin)、デューティー比Dが0.5未満であれば、入力電圧Vinを降圧する(出力電圧Vout<入力電圧Vin)。
【0043】
すなわち、コンバータ部12では、スイッチング素子24のデューティー比Dを制御して入力電圧Vinの昇降圧の変化量を調整することによって、発電機6bの負荷状態を変化させ、タービン発電機6の回転数Ntを制御する。具体的には、デューティー比Dを0.5以上として昇圧を行うと、後述する蓄電部13やインバータ部14へ流れる導通電流が増加し、発電機6bの負荷が増加(ブレーキング力が増加)して、発電機6bは減速する(タービン6aの回転数Ntも低下する)。また、デューティー比Dを0.5未満として降圧を行うと、導通電流が減少し、発電機6bの負荷が減少(ブレーキング力が減少)して、発電機6bは加速する(タービン6aの回転数Ntも増加する)。スイッチング素子24を制御するためのデューティー比Dは、後述する制御部15によって、タービン発電機6の回転数Ntが目標回転数Nt*となるように制御されている。
【0044】
なお、本実施形態では、コンバータ部12を図2に示すような構成の昇降圧コンバータとしているが、他の回路構成の昇降圧コンバータを使用することも可能である。また、コンバータ部12として、昇圧コンバータまたは降圧コンバータとすることも可能である。
【0045】
蓄電部13(バッテリ)は、コンバータ部12から出力された直流電圧を蓄電する。具体的には、蓄電部13は、コンバータ部12の出力側における直流線21と接地線22との間に接続されており、接地線22に対する直流線21の電圧差(出力電圧Vout)に応じて蓄電を行う。
【0046】
インバータ部14は、コンバータ部12から出力された直流電圧を用いて電動モータ2bを駆動する。具体的には、インバータ部14は、例えば6つのスイッチング素子(例えば、トランジスタ、FET、IGBT等)を有する三相ブリッジインバータ回路であり、各スイッチング素子をスイッチング制御することによって、コンバータ部12の出力電圧Voutを所望の周期の三相交流電圧に変換して電動モータ2bへ供給する。なお、インバータ部14におけるスイッチング素子は、電動モータ2bの回転数が所望の回転数(低圧コンプレッサ2において要求される能力が出力可能なように設定された電動モータ2bの目標回転数)に一致するようにPWM制御されている。
【0047】
制御部15は、コンバータ部12における直流電圧の変化量を制御する。すなわち、直流電圧の変化量を制御することによって、タービン発電機6に発生するブレーキング力を変化させ、タービン発電機6の回転数Ntを制御する。
【0048】
制御部15は、例えば、図示しないCPU(中央演算装置)、RAM(Random Access Memory)等のメモリ、及びコンピュータ読み取り可能な記録媒体等から構成されている。後述の各種機能を実現するための一連の処理の過程は、プログラムの形式で記録媒体等に記録されており、このプログラムをCPUがRAM等に読み出して、情報の加工・演算処理を実行することにより、後述の各種機能が実現される。なお、プログラムは、ROMやその他の記憶媒体に予めインストールしておく形態や、コンピュータ読み取り可能な記憶媒体に記憶された状態で提供される形態、有線又は無線による通信手段を介して配信される形態等が適用されてもよい。コンピュータ読み取り可能な記憶媒体とは、磁気ディスク、光磁気ディスク、CD-ROM、DVD-ROM、半導体メモリ等である。
【0049】
図3は、制御部15の制御ブロック図である。図3に示されるように、制御部15は、目標値設定部31と、電圧変化量制御部32とを備えている。
【0050】
なお、過給システム1には、制御部15で必要とされる情報を計測するための各種計測器が設けられている。具体的には、タービン発電機6における排気の入口温度Tin(以下、単に「入口温度Tin」という。)を計測する温度計測器(不図示)がタービン6aの排気流入口に設けられている。なお、タービン発電機6における排気の入口温度Tinとは、エンジン4から出力された排気がタービン発電機6におけるタービン6aに流入する際の排気の温度である。また、タービン発電機6における排気の圧力比Π(以下、単に「圧力比Π」という。)を計測するために、圧力計測器(不図示)がタービン6aの排気流入口及び排気流出口に設けられている。なお、タービン発電機6における排気の圧力比Πとは、エンジン4から出力された排気がタービン発電機6におけるタービン6aに流入する際の排気の圧力と、タービン6aから流出する際の排気の圧力との比である。また、タービン発電機6の回転数Nt(タービン6aの回転数Nt)を計測する回転数計測器(不図示)がタービン発電機6に対して設けられている。また、コンバータ部12におけるスイッチング素子24を流れる直流の導通電流(以下、単に「直流電流Idc」という。)を計測する電流計測器(不図示)がコンバータ部12に設けられている。温度計測器、圧力計測器、回転数計測器、及び電流計測器の計測結果は制御部15へ出力される。
【0051】
目標値設定部31は、タービン発電機6の目標回転数Nt*を設定する。具体的には、目標値設定部31は、タービン発電機6における排気の入口温度Tinと、タービン発電機6における排気の圧力比Πとに基づいて、タービン発電機6において周速比U/COが所定の値となる目標回転数Nt*を設定する。なお、目標値設定部31は、入口温度Tinをタービン6aの排気流入口に設けた温度計測器から取得し、タービン発電機6における排気の圧力比Πをタービン6aの排気流入口及び排気流出口に設けた圧力計測器から取得する。
【0052】
周速比U/COとは、タービン発電機6(特に、タービン6a)の効率と相関関係を有するパラメータであって、タービン翼の外周部における周速度(以下、「外周速度U」という。)とタービン6aへ流入する排気の流速CO(以下、単に「流速CO」という。)との比で表されるパラメータである。外周速度U及び流速COは、以下の(1)式及び(2)式で表される。
【0053】
【数1】
【0054】
上記の(1)式において、Dtはタービン翼の外径(直径)である。上記の(2)式において、Cpはタービン6aの定圧熱容量、κは比熱比である。タービン6aは、周速比U/COがある最適値(例えば0.7)となると効率が最大となり、該最適値から乖離した周速比U/COでタービン6aが運転されると、効率が大幅に低下する。すなわち、周速比U/COが最適値となるようにタービン発電機6の運転状態を制御することで、高効率でタービン6aを運転することができる。
【0055】
しかしながら、(2)式におけるタービン6aの入口温度Tin及びタービン6aの圧力比Πは、エンジン4の運転状態等に依存して変動するため、流速COは時々刻々変動する。そこで、目標値設定部31は、タービン6aの入口温度Tinと圧力比Πの計測値を取得して、(2)式より現在のタービン6aにおける流速COを特定し、(1)式に基づいて、周速比U/COがある最適値となるタービン発電機6の回転数Ntを算出する。
【0056】
具体的には、図3に示すように、目標値設定部31は、まず、予め設定された周速比U/COの最適値(目標値)と、タービン6aの入口温度Tin及び圧力比Πの計測値を取得し、(2)式に基づいて流速COを算出する。そして、周速比(U/CO)の最適値と算出した流速COとを乗ずることによって、周速比(U/CO)を最適値とするためのタービン6aの外周速度Uを算出する。そして、算出した外周速度Uから(1)式を用いて(すなわち、外周速度Uに60/(Dt・π)を乗ずることで)、タービン発電機6の回転数Ntを算出し、算出した回転数Ntを目標回転数Nt*として設定する。
【0057】
上記の処理によって、目標値設定部31は、現在の流速COにおいて周速比U/COが最適値となるタービン発電機6の回転数Ntを目標回転数Nt*として設定することができる。目標値設定部31で算出した目標回転数Nt*は電圧変化量制御部32へ出力される。
【0058】
電圧変化量制御部32は、タービン発電機6の現在の回転数Ntと目標回転数Nt*とが一致するように、コンバータ部12における直流電圧(入力電圧Vin)の変化量を制御する。なお、電圧変化量制御部32における制御には、タービン6aの回転数Ntに対するフィードバック制御が適用される。
【0059】
具体的には、電圧変化量制御部32は、図3に示すように、目標値設定部31において設定した目標回転数Nt*を取得するとともに、現在のタービン6aの回転数Ntの計測値を取得し、差分ΔNtを算出する。そして、タービン6aの回転数Ntと目標回転数Nt*とを一致させるために、算出した該差分ΔNtが零となる直流電流Idcの目標値(目標直流電流Idc*)を算出する。なお、目標直流電流Idc*を算出するための制御は、例えば、現在のタービン6aの回転数Ntと目標回転数Nt*との差分ΔNt(偏差)に基づくIP制御が適用される。
【0060】
そして、現在の直流電流Idc(計測値)を電流計測器から取得して、現在の直流電流Idc(計測値)と目標直流電流Idc*との差分ΔIdcを算出し、コンバータ部12における直流電流Idcを目標直流電流Idc*とを一致させるために、該差分ΔIdcが零となるスイッチング素子24のデューティー比Dを算出する。なお、デューティー比Dを算出するための制御は、例えば、現在の直流電流Idcと目標直流電流Idc*との差分ΔIdc(偏差)に基づくIP制御が適用される。算出されたデューティー比Dのスイッチング制御信号はコンバータ部12におけるスイッチング素子24の制御端子(ゲート)に入力され、該デューティー比Dでスイッチング素子24のON/OFFが制御される。
【0061】
算出されたデューティー比Dによりスイッチング素子24が制御されることによって、スイッチング素子24に流れる直流電流Idcを目標直流電流Idc*とすることができる。すなわち、発電機6bの負荷状態を適切な状態として、タービン6aの回転数Ntを目標回転数Nt*とすることができる。
【0062】
なお、本実施形態に係る過給システム1において、低圧コンプレッサ2から出力された高温高圧状態の空気や、高圧コンプレッサ3から出力された高温高圧状態の空気を冷却する冷却装置(例えば、インタークーラ)等を更に備えることとしてもよい。低圧コンプレッサ2または高圧コンプレッサ3から排出された空気は密度が低下してしまっているため、冷却装置を設けることで、空気を冷却して密度を高め、酸素をより大きい質量流量としてエンジン4に供給することができ、エンジン4の効率を高めることができる。
【0063】
また、本実施形態では、エンジン4より空気流れの上流側(過給側)に低圧コンプレッサ2と高圧コンプレッサ3を備えており(2段構成)、エンジン4より空気流れの下流側(排気側)に排気タービン5とタービン発電機6を備える構成(2段構成)としているが、過給側に少なくとも1台のコンプレッサ(電動コンプレッサ)を備えており、排気側に少なくともタービン発電機6を有する構成であれば、様々な構成が適宜設計可能である。
【0064】
以上説明したように、本実施形態に係る過給システムによれば、タービン発電機6において発電した電気を整流した後、整流した直流電圧の電圧値を昇圧または降圧して、電圧値の変化量を制御することとした。タービン発電機6において発電した電気を変化させること(昇圧または降圧させること)によって、タービン発電機6の負荷(ブレーキング力)を変化させることができるため、タービン発電機6の回転数Ntを制御することが可能となる。例えば、発電した電気を昇圧すると、導通する電流量が増加するため、負荷が増加してタービン発電機6の回転数Ntが減少する。また、発電した電気を降圧すると、導通する電流量が減少するため、負荷が減少してタービン発電機6の回転数Ntが増加する。すなわち、発電した電気を変化させることによってタービン発電機6の回転数Ntを能動的かつ容易に制御することができる。例えば、タービン発電機6の効率が良い回転数Nt等に制御することが可能である。
【0065】
また、電動モータ2bを駆動するインバータ部14の上流側において直流電圧を昇圧または降圧することとしたため、電動モータ2bやエンジン4の制御及び運転状態に依らず、タービン発電機6の回転数Ntを制御することが可能となる。
【0066】
また、コンバータ部12における直流電圧の変化量を制御することとしたため、例えばベクトル制御のような複雑な制御系を用いることなく、簡単な構成でタービン発電機6の回転数Ntを制御することが可能となる。また、コンバータ部12から出力された直流電圧を蓄電することとしたため、コンバータ部12において直流電圧の電圧値を変化させたとしても、該変化を緩衝することができる。
【0067】
また、タービン発電機6において周速比U/COが所定の値となる目標回転数Nt*を設定するため、タービン発電機6を所望の周速比U/COにて運転させることができる。例えば、タービン発電機6の効率は周速比U/COに依存するため、周速比U/COを適切に設定することで、タービン発電機6をより効率のよい運転状態に維持することができる。また、タービン発電機6における排気の入口温度Tinと圧力比Πとを用いて、周速比U/COが所定の値となる目標回転数Nt*を設定することとした。タービン発電機6における周速比U/COは、タービン発電機6における排気の入口温度Tinと圧力比Πに大きく依存するため、タービン発電機6の運転状態によって変動してしまう。そこで、タービン発電機6における排気の入口温度Tinと圧力比Πを考慮することで、適格にタービン発電機6の運転状態を同定することができ、より正確に、周速比U/COが所定の値となる目標回転数Nt*を設定することができる。
【0068】
〔第2実施形態〕
次に、本発明の第2実施形態に係る過給システムについて説明する。
上述した第1実施形態では、目標値設定部31は、タービン発電機6において周速比U/COが所定の値となる目標回転数Nt*を設定することとした。しかしながら、タービン発電機6の効率が最大化する周速比は、必ずしも一定とは限らない場合がある。そこで、本実施形態では、周速比を一定の値に限定せずに、タービン発電機6の効率が略最大となる回転数Ntを目標回転数Nt*として設定する。以下、本実施形態に係る過給システム1について、第1実施形態と異なる点について主に説明する。
【0069】
図4は、本実施形態における制御部15の制御ブロック図である。本実施形態における目標値設定部31’は、タービン発電機6における排気の入口温度Tinと、タービン発電機6における排気の圧力比Πと、タービン発電機6において効率が略最大となる回転数Ntとの関係を有しており、該関係に基づいてタービン発電機6の現在の入口温度Tin及び圧力比Πから効率が略最大となる回転数Ntを特定し、特定した回転数Ntを目標回転数Nt*として設定する。
【0070】
タービン発電機6における排気の入口温度Tinと、タービン発電機6における排気の圧力比Πと、タービン発電機6において効率が略最大となる回転数Ntとの関係とは、例えば、図5に示すようなマップである。具体的には、図5に示すマップでは、横軸を圧力比Π、縦軸を入口温度Tinとして、入口温度Tin及び圧力比Πがそれぞれある値である場合において、タービン発電機6の効率が略最大となる回転数Ntが等値線図方式(コンター図)で示されている。なお、図5のマップでは、一例として、回転数Ntが6万rpm、5万rpm、4万rpmの等値線が示されている。すなわち、図5に示すようなマップを用いることで、入口温度Tinと圧力比Πから、タービン発電機6において効率が略最大となる回転数Ntを算出することができる。
【0071】
なお、図5に示すようなマップ(関係性)は、過給システム1に適用するタービン発電機6と同様の構成のタービン発電機6を用いた事前試験や、過去データによる解析等によって予め作成されるものである。なお、入口温度Tinと、圧力比Πと、タービン発電機6において効率が略最大となる回転数Ntとの関係については、図5に示すようなマップに限られず、テーブルや数式など、入口温度Tin及び圧力比Πから回転数Ntが一意的に決定可能な方法であれば適宜適用することが可能である。
【0072】
電圧変化量制御部32では、目標値設定部31’によって設定した目標回転数Nt*に基づいて、タービン発電機6の現在の回転数Ntと目標回転数Nt*とが一致するように、コンバータ部12における直流電圧の変化量を制御する。
【0073】
すなわち、本実施形態では、目標値設定部31’における目標回転数Nt*の設定において、タービン発電機6における排気の入口温度Tinと圧力比Πとから、周速比に依存せずに、効率が略最大となるタービン発電機6の回転数Ntを特定することができるため、タービン発電機6の効率が最大化する周速比が一定とならない場合であっても、タービン発電機6を効率よく運転することが可能となる。
【0074】
以上説明したように、本実施形態に係る過給システムによれば、タービン発電機6における排気の入口温度Tin及び圧力比Πと、タービン発電機6において効率が略最大となる回転数Ntとの関係を用いることによって、タービン発電機6の現在の該入口温度Tin及び該圧力比Πから効率が略最大となる回転数Ntを容易に取得することが可能となる。すなわち、より簡単に目標回転数Nt*を設定することができる。
【0075】
また、タービン発電機6の効率がより良い状態となる周速比U/CO(例えば、0.7)は必ずしも一定ではないため、タービン発電機6における排気の入口温度Tin及び圧力比Πから直接的に効率が略最大となる回転数Ntを取得することで、より精度よくタービン発電機6を高効率状態とすることができる。
【0076】
〔第3実施形態〕
次に、本発明の第3実施形態に係る過給システムについて説明する。
上述した第1実施形態及び第2実施形態では、目標値設定部31(または目標値設定部31’)は、タービン発電機6における排気の入口温度Tinと、タービン発電機6における排気の圧力比Πとに基づいて、目標回転数Nt*を設定することとした。しかしながら、第1実施形態及び第2実施形態では、タービン発電機6における排気の入口温度Tinと、タービン発電機6における排気の圧力比Πを計測する計測器が必要となる。そこで、本実施形態では、タービン発電機6における排気の入口温度Tinと圧力比Πを計測する計測器を設けることなく、タービン発電機6の効率が略最大となる回転数Ntを目標回転数Nt*として設定する。以下、本実施形態に係る過給システム1について、第1実施形態及び第2実施形態と異なる点について主に説明する。
【0077】
なお、本実施形態では、エンジン4の回転数Ne及び負荷状態Pをそれぞれ計測する計測器がエンジン4に対して設けられているものとする。なお、エンジン4の回転数Ne及び負荷状態Pを計測する計測器は、一般的にエンジン4の制御に使用されるため、制御部15による制御とは独立して設けられている。すなわち、本実施形態では、新たに計測器(例えば、タービン発電機6の入口温度Tinの計測器)を設けることなく、既存の計測器(エンジン4の回転数Ne及び負荷状態Pを計測する計測器)を併用して、タービン発電機6の回転数Nt制御を実現する。このため、本実施形態の過給システム1は、既にエンジン4の回転数Ne及び負荷状態Pを計測する計測器が設けられている場合に適用することが好ましい。
【0078】
なお、エンジン4の回転数Neとは、圧送された高温高圧の空気を燃焼することにより取り出したエネルギーを回転運動へ変換した場合の回転数(例えば、燃焼によるピストンの往復運動をフライホイール等によって回転運動に変換した場合の回転数)である。また、エンジン4の負荷状態Pとは、エンジン4のトルク、またはエンジン4のトルクと回転数から算出される出力である。
【0079】
図6は、本実施形態における制御部15の制御ブロック図である。本実施形態における目標値設定部31’’は、エンジン4の運転状態と、タービン発電機6において効率が略最大となる回転数Ntとの関係を有しており、該関係に基づいてエンジン4の現在の運転状態から効率が略最大となる回転数Ntを特定し、特定した回転数Ntを目標回転数Nt*として設定する。なお、本実施形態では、エンジン4の運転状態として、エンジン4の回転数Ne及び負荷状態Pを挙げて説明するが、他のパラメータを用いることとしてもよい。エンジン4の回転数Ne及び負荷状態Pは、タービン発電機6における排気の入口温度Tin及び圧力比Πと相関関係を有しているため、エンジン4の回転数Ne及び負荷状態Pを用いることで、タービン発電機6における排気の入口温度Tin及び圧力比Π、すなわち、タービン発電機6の運転状態(効率の状態)を容易に把握することができる。
【0080】
エンジン4の運転状態と、タービン発電機6において効率が略最大となる回転数Ntとの関係とは、例えば、図7に示すようなマップである。具体的には、図7に示すマップでは、横軸をエンジン4の回転数Ne、縦軸をエンジン4の負荷状態Pとして、回転数Ne及び負荷状態Pがそれぞれある値である場合において、タービン発電機6の効率が略最大となる回転数Ntが等値線図方式(コンター図)で示されている。すなわち、図7に示すようなマップに基づいて、エンジン4の回転数Neとエンジン4の負荷状態Pから、タービン発電機6において効率が略最大となる回転数Ntを算出することができる。
【0081】
なお、図7に示すようなマップ(関係性)は、過給システム1に適用するタービン発電機6と同様の構成のタービン発電機6を用いた事前試験や、過去データによる解析等によって予め作成されるものである。なお、エンジン4の回転数Neと、負荷状態Pと、タービン発電機6において効率が略最大となる回転数Ntとの関係については、図7に示すようなマップに限られず、テーブルや数式など、エンジン4の回転数Ne及び負荷状態Pから回転数Ntが一意的に決定可能な方法であれば適宜適用することが可能である。
【0082】
電圧変化量制御部32では、目標値設定部31’’によって設定した目標回転数Nt*に基づいて、タービン発電機6の現在の回転数Ntと目標回転数Nt*とが一致するように、コンバータ部12における入力電圧Vinの変化量を制御する。
【0083】
以上説明したように、本実施形態に係る過給システムによれば、エンジン4の運転状態と、タービン発電機6において効率が略最大となる回転数Ntとの関係を用いることによって、効率が略最大となるタービン発電機6の回転数Ntを容易に取得することが可能となる。また、運転状態としてエンジン4の回転数Ne及び負荷状態Pを用いることとしたため、効率的にエンジン4の運転状態を特定することができる。
【0084】
〔第4実施形態〕
次に、本発明の第4実施形態に係る過給システムについて説明する。
上述した第1実施形態では、タービン発電機6の回転数Ntと目標回転数Nt*とが一致するようにコンバータ部12における直流電圧の変化量を制御することとしたが、本実施形態では、将来における過給システム1の最適な状態量を算出して、最適状態量に基づいてコンバータ部12における直流電圧の変化量を制御する。以下、本実施形態に係る過給システム1について、第1実施形態、第2実施形態、及び第3実施形態と異なる点について主に説明する。
【0085】
本実施形態における制御部15は、所定時間経過後の将来における過給システム1の所定の状態量(制御入力等)の最適状態量を算出し、算出した最適状態量に基づいて、コンバータ部12における直流電圧の変化量を制御する。概念的には、制御部15は、所定時間経過後の将来における過給システム1の運転状態が、所定の評価関数に基づいて最適と推定される場合の状態量(最適状態量)を予測し、予測した最適状態量となるように先行的に過給システム1(コンバータ部12等)を制御する。特に、制御部15は、先行的にコンバータ部12における直流電圧の変化量を制御する。図8は、本実施形態における制御部15の制御ブロック図である。図8に示されるように、制御部15は、目標値設定部31’’’と、モデル解析部33と、電圧変化量制御部32’とを備えている。
【0086】
目標値設定部31’’’は、過給システム1の運転状態を示す状態量の目標値を目標状態量として設定する。具体的には、目標値設定部31’’’は、目標状態量として、タービン発電機6の目標回転数Nt*及び吸気マニホールド圧力MAPの目標値MAP*を設定する。なお、吸気マニホールド圧力MAPとは、エンジン4の吸気側の気筒(吸気マニホールド)における吸気の圧力である。本実施形態では、タービン発電機6の目標回転数Nt*及び吸気マニホールド圧力目標値MAP*を用いる場合について説明するが、他のパラメータを用いることも可能である。
【0087】
目標値設定部31’’’は、タービン発電機6の目標回転数Nt*を設定する。なお、具体的な設定方法については、上記の第1実施形態(目標値設定部31)、第2実施形態(目標値設定部31’)、及び第3実施形態(目標値設定部31’’)に記載の設定方法を用いることが可能である。本実施形態では、目標値設定部31’’’は、第3実施形態に記載の設定方法を用いるものとする。
【0088】
また、目標値設定部31’’’は、吸気マニホールド圧力目標値MAP*を設定する。目標値設定部31’’’は、エンジン4の運転状態(エンジン4の回転数Ne及び負荷状態P)と、エンジン4の燃費が略最大(燃料消費が略最小)となる吸気マニホールド圧力MAPとの関係を有しており、該関係に基づいてエンジン4の現在の運転状態から、エンジン4の燃費が略最大(燃料消費が略最小)となる吸気マニホールド圧力MAPを特定し、特定した吸気マニホールド圧力MAPを吸気マニホールド圧力目標値MAP*として設定する。なお、目標値設定部31’’’は、エンジン4の運転状態(エンジン4の回転数Ne及び負荷状態P)以外のパラメータから吸気マニホールド圧力目標値MAP*を算出することとしてもよい。
【0089】
モデル解析部33は、過給システム1の状態量と目標状態量との差を変数として含む所定の評価関数を用いて、所定時間経過後において評価関数の解が略最小となる過給システム1の最適状態量を過給システム1の解析モデルに基づいて演算する。モデル解析部33は、過給システム1における将来の状態量を予測するために解析モデルを有し、また、将来の過給システム1の状態を評価するために所定の評価関数(目的関数)を有している。モデル解析部33は、解析モデル及び評価関数を用いて、所定時間経過後の将来において、過給システム1が最適な動作点となる最適状態量(制御入力等)を先行的に予測する。
【0090】
解析モデルとは、過給システム1における特定のパラメータの将来の状態を予想可能なモデルであり、例えば、解析モデルは(3)式に示されるようなシステムの状態量xに対する微分方程式である。モデルを微分方程式で記述することで、状態量xの変化(挙動)を容易に予測することができる。
【0091】
【数2】
【0092】
(3)式において、xは、変化の予測対象の状態量(本実施形態では、タービン発電機6の回転数Nt、吸気マニホールド圧力MAP)であり、uは、モデル解析部33において算出対象の状態量(制御入力等)であり、dは外乱である。なお、(3)式の関数fに含まれるパラメータは一例であり、予測対象の状態量xの微分方程式によって異なる。
【0093】
具体的には、システムの状態量xをタービン発電機6の回転数Ntとした場合、(3)式の微分方程式は、(4)式で表される。
【0094】
【数3】
【0095】
(4)式において、Jtはタービン発電機6のイナーシャ、Ptは供給される排気によって生じるタービン6aの動力(エネルギー)、Pgは発電機6bの負荷(発電機6bに要求される発電電力)である。タービン6aの動力Ptは例えば(5)式で表される。
【0096】
【数4】
【0097】
(5)式において、ηtはタービン6aの効率、Cpはタービン6aの定圧熱容量、wtはタービン6aの質量流量、κは比熱比である。また、発電機6bの負荷Pgは、例えば(6)式で表される。
【0098】
【数5】
【0099】
(6)式において、Pdcはコンバータ部12の入力電力(入力電圧Vinと直流電流Idcの積)、ηgは発電機6bの効率、ηrecは整流部11の効率である。
【0100】
なお、他の状態量(吸気マニホールド圧力MAP)についても微分方程式のモデルがモデル解析部33に格納されているものとする。
【0101】
評価関数は、過給システム1の状態量と目標状態量との差(追従誤差)を変数として含んでおり、例えば(7)式のように定義される。モデル解析部33では、解析モデルを用いて状態量xの将来の値を予測し、評価関数を用いて該将来において最適と推定される状態量uの値を算出する。
【0102】
【数6】
【0103】
(7)式において、x*は状態量xの目標値である。また、Qは目標値に対する追従誤差((x-x*)の絶対値)において付加される重みづけである。Qが大きくなると応答性が向上する。また、Rはuの変化量に対する重みづけである。なお、重みづけとは、例えば定数を乗ずることであり、評価関数における各パラメータの大きさを調整して、応答性等を制御するものである。
【0104】
(7)式において、状態量xをタービン発電機6の回転数Nt及び吸気マニホールド圧力MAPとした場合の具体例を(8)式に示す。
【0105】
【数7】
【0106】
(8)式において、Pmは電動モータ2bの入力電力、WGはウェイストゲートの開度を示している。ウェイストゲートとは、エンジン4の排気を直接外気へ排出するバイパス経路(不図示)上に設けた弁であり、エンジン4の背圧を調節するためのものである。電動モータ2bの入力電力Pm、コンバータ部12の入力電力Pdc、及びウェイストゲートの開度WGは、将来の最適状態量として算出されるパラメータである。なお、最適状態量として算出するパラメータは適宜変更可能である。
【0107】
すなわち、モデル解析部33では、所定時間経過後の将来における状態量であるタービン発電機6の回転数Ntを(5)式の微分方程式より予測し(吸気マニホールド圧力MAPについても同様に微分方程式を用いて予測し)、その所定時間経過後の将来において、(8)式の評価関数の解が略最小となるような最適状態量(Pm、Pdc、WG)を演算する。
【0108】
なお、(6)式に示されるように、発電機6bの負荷Pgはコンバータ部12の入力電力Pdcの関数であるため、(4)式のタービン発電機6の回転数Ntは、コンバータ部12の入力電力Pdcの関数(Nt(Pdc))となる。すなわち、状態量(Nt、MAP)を予測するには算出対象の状態量(Pm、Pdc、WG)も考慮されるため、(8)式において、追従誤差((Nt-Nt*)の絶対値、(MAP-MAP*)の絶対値)についても状態量(Pm、Pdc、WG)に依存することとなる。
【0109】
すなわち、(8)式のような評価関数を用いることで、より過給システム1全体の状況を加味しつつ、所定時間経過後の将来において状態量(Nt、MAP)が目標値(Nt*、MAP*)により近づく状態量(Pm、Pdc、WG)を演算することができる。なお、演算された状態量(Pm、Pdc、WG)は、将来の最適状態量として各制御に使用される。例えば、(8)式より演算された将来の最適状態量であるコンバータ部12の入力電力Pdcは、電圧変化量制御部32’へ出力され、コンバータ部12における直流電圧の変化量の制御に用いられる。
【0110】
電圧変化量制御部32’は、モデル解析部33により演算された最適状態量に基づいて、コンバータ部12における直流電圧の変化量を制御する。具体的には、電圧変化量制御部32’は、図8に示すように、モデル解析部33にて演算した最適状態量であるPdcを取得する。そして、Pdcをコンバータ部12の入力電圧Vinの計測値で割ることによって、目標直流電流Idc*を算出する。そして、現在の直流電流Idc(計測値)を電流計測器から取得し、差分ΔIdcを算出し、該差分ΔIdcを零とするためのスイッチング素子24のデューティー比Dを算出する。算出されたデューティー比Dのスイッチング制御信号はコンバータ部12におけるスイッチング素子24の制御端子(ゲート)に入力され、該デューティー比Dでスイッチング素子24のON/OFFが制御される。
【0111】
このように、所定時間経過後の将来における最適状態量に基づいてコンバータ部12におけるスイッチング素子24を制御するため、先行的にタービン発電機6の運転状態を調整することができる。このため、過渡状態等の運転状態が変動しやすい期間においても、先行的に過給システム1を制御することができる。
【0112】
なお、モデル解析部33における評価関数は、(8)式に限られず適用することができる。例えば、低圧コンプレッサ2の回転数をNecとして、(9)式を評価関数として用いることとしてもよい。また、電動モータ2bの入力電力Pmを用いて、(10)式を評価関数として用いることとしてもよい。
【0113】
【数8】
【0114】
以上説明したように、本実施形態に係る過給システムによれば、過給システム1の状態量と目標状態量との差を変数として含む関数を評価関数とし、所定時間経過後において該評価関数の解が略最小となる過給システム1の最適状態量を演算するため、将来における過給システム1の最適な状態量を算出することができる。そして、最適状態量に基づいて、コンバータ部12における直流電圧の変化量を制御するため、先行的かつ効率的に過給システム1を最適な運転状態とすることができる。すなわち、過給システム1の運転状態が過渡的な場合であっても、より効果的に運転状態を最適化することができる。
【0115】
また、評価関数において、タービン発電機6における回転数Ntと目標回転数Nt*との差を変数として含むため、容易に取得できるパラメータ(回転数Nt)を用いて評価関数を設定することができる。
【0116】
本発明は、上述の実施形態のみに限定されるものではなく、発明の要旨を逸脱しない範囲において、種々変形実施が可能である。なお、各実施形態を組み合わせることも可能である。
【符号の説明】
【0117】
1 :過給システム
2 :低圧コンプレッサ
2a :圧縮機
2b :電動モータ
3 :高圧コンプレッサ
4 :エンジン
5 :排気タービン
6 :タービン発電機
6a :タービン
6b :発電機
7 :駆動装置
11 :整流部
12 :コンバータ部
13 :蓄電部
14 :インバータ部
15 :制御部
21 :直流線
22 :接地線
23 :コンデンサ
24 :スイッチング素子
25 :インダクタ
26 :逆流防止素子
27 :コンデンサ
31、31’、31’’、31’’’ :目標値設定部
32、32’ :電圧変化量制御部
33 :モデル解析部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8