(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-18
(45)【発行日】2022-11-29
(54)【発明の名称】フェンタニル含有貼付剤
(51)【国際特許分類】
A61K 31/4468 20060101AFI20221121BHJP
A61P 25/04 20060101ALI20221121BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20221121BHJP
A61K 9/70 20060101ALI20221121BHJP
A61K 47/32 20060101ALI20221121BHJP
【FI】
A61K31/4468
A61P25/04
A61P43/00 111
A61K9/70 401
A61K47/32
(21)【出願番号】P 2018108939
(22)【出願日】2018-06-06
【審査請求日】2021-02-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000160522
【氏名又は名称】久光製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100126653
【氏名又は名称】木元 克輔
(72)【発明者】
【氏名】栗田 智則
(72)【発明者】
【氏名】尾上 佳大
(72)【発明者】
【氏名】鶴田 清美
【審査官】松本 淳
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2009/051217(WO,A1)
【文献】特開平10-045570(JP,A)
【文献】フェントステープ、添付文書,2014年
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/00-33/44
A61P 1/00-43/00
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持体上に粘着剤層を備える貼付剤であって、
前記粘着剤層が、フェンタニル又はその塩、及び、粘着剤を含有し、
前記粘着剤層におけるフェンタニル又はその塩の含有量が、貼付面積1cm
2あたり、フェンタニルクエン酸塩に換算した場合に0.01~0.18mgであり、
前記粘着剤層におけるフェンタニル又はその塩の含有量が、フェンタニルクエン酸塩に換算した場合に0.1~0.8mgであり、
前記粘着剤がスチレン-イソプレン-スチレン共重合体及びポリイソブチレンから選ばれる少なくとも1種であり、
貼付面積が3~
8cm
2であり、
貼付面の外周長さが、7.93~10.08cmである、貼付剤。
【請求項2】
テープ剤である、請求項1に記載の貼付剤。
【請求項3】
前記フェンタニル又はその塩の濃度が、前記粘着剤層の質量を基準として1~3.5%である、請求項1又は2に記載の貼付剤。
【請求項4】
前記粘着剤層が、粘着付与樹脂をさらに含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の貼付剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フェンタニル含有貼付剤に関する。
【背景技術】
【0002】
フェンタニルは、合成オピオイドに分類される化合物であり、μオピオイド受容体に対して高選択的に完全作動薬として作用し、中等度から高度の癌性疼痛又は慢性疼痛、術後疼痛の緩和を目的として使用される。フェンタニルの塩としては、クエン酸塩の状態で利用される。
【0003】
フェンタニル含有貼付剤は、その着脱により、フェンタニルの血中濃度を管理しやすいという利点を期待され、皮膚刺激性や皮膚透過性の観点から多くの検討が行われている(例えば、特許文献1~3)。また、1日1回投与用フェンタニル含有貼付剤としては、フェントス(登録商標)テープ、ワンデュロ(登録商標)パッチ等が販売されている(例えば、非特許文献1~2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開第2009/051217号
【文献】特開平10-45570号公報
【文献】特開平11-302161号公報
【非特許文献】
【0005】
【文献】フェントス(登録商標)テープ添付文書(2016年改訂)
【文献】ワンデュロ(登録商標)パッチ添付文書(2018年改訂)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
フェンタニルは、通常、中等度から高度の疼痛患者に投与されるため、その患者の病態に合わせた細かな血中濃度の管理が要求されることがある。しかし、フェンタニル含有貼付剤は、貼付面積1cm2あたりフェンタニルクエン酸塩を0.2mg以上含有しており、細かな血中濃度の調節をすることが困難な場合がある。
【0007】
本発明者らは、貼付面積が2.5cm2であり、フェンタニルクエン酸塩0.5mgを含有する貼付剤を調製したところ、予想外にもフェンタニルクエン酸塩の保存安定性が低下することを見出した。
【0008】
そこで、本発明の目的は、フェンタニル又はその塩の含有量が低くても、保存安定性に優れた貼付剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、以下の[1]~[14]を提供する。
[1]支持体上に粘着剤層を備える貼付剤であって、上記粘着剤層が、フェンタニル又はその塩、及び、粘着剤を含有し、上記粘着剤層におけるフェンタニル又はその塩の含有量が、貼付面積1cm2あたり、フェンタニルクエン酸塩に換算した場合に0.01~0.18mgである、貼付剤。
[2]テープ剤である、[1]に記載の貼付剤。
[3]粘着剤層におけるフェンタニル又はその塩の含有量が、フェンタニルクエン酸塩に換算した場合に0.1~0.8mgである、[1]又は[2]に記載の貼付剤。
[4]貼付面積が3~10cm2である、[1]~[3]のいずれかに記載の貼付剤。
[5]フェンタニルまたはその塩の濃度が、粘着剤層全体の質量を基準として0.5~3.8%である、[1]~[4]のいずれかに記載の貼付剤。
[6]粘着剤層が、可塑剤をさらに含む、[1]~[5]のいずれかに記載の貼付剤。
[7]粘着剤層が、粘着付与樹脂をさらに含む、[1]~[6]のいずれかに記載の貼付剤。
[8]支持体上に粘着剤層を備える貼付剤であって、上記粘着剤層が、フェンタニル又はその塩、及び、粘着剤を含有し、上記粘着剤層におけるフェンタニル又はその塩の濃度が、フェンタニルクエン酸塩の質量に換算した場合に、0.5~3.8%である、貼付剤。
[9]テープ剤である、[8]に記載の貼付剤。
[10]粘着剤層におけるフェンタニル又はその塩の含有量が、フェンタニルクエン酸塩に換算した場合に0.1~0.8mgである、[8]又は[9]に記載の貼付剤。
[11]貼付面積が3~10cm2である、[8]~[10]のいずれかに記載の貼付剤。
[12]フェンタニルまたはその塩の濃度が、粘着剤層全体の質量を基準として0.5~3.8%である、[8]~[11]のいずれかに記載の貼付剤。
[13]粘着剤層が、可塑剤をさらに含む、[8]~[12]のいずれかに記載の貼付剤。
[14]粘着剤層が、粘着付与樹脂をさらに含む、[8]~[13]のいずれかに記載の貼付剤。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、フェンタニル又はその塩の含有量が低くても(例えば、フェンタニル又はその塩の含有量が、フェンタニルクエン酸塩に換算した場合に0.1~0.8mgであっても)、フェンタニル又はその塩の保存安定性に優れる貼付剤を提供することができる。
【0011】
本明細書において、「保存安定性」とは、フェンタニル又はその塩を含有する貼付剤を、一定期間保存した後にフェンタニル又はその塩が当初の形態のまま95%以上残存していることを意味する。「保存安定性に優れる」とは、例えば、フェンタニルクエン酸塩を含有する貼付剤を、60℃にて1ヶ月間保存した(苛酷試験)後に、フェンタニルクエン酸塩が保存前の含有量に基づいて、少なくとも95%の量で残存していることを意味する。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明について、以下に詳細に述べる。
【0013】
本発明の一実施形態は、支持体上に粘着剤層を備える貼付剤であって、粘着剤層が、フェンタニル又はその塩、及び、粘着剤を含有し、粘着剤層におけるフェンタニル又はその塩の含有量が、貼付面積1cm2あたり、フェンタニルクエン酸塩に換算した場合に0.01~0.18mgである、貼付剤である。
【0014】
本実施形態に係る貼付剤では、粘着剤層にフェンタニル又はその塩、及び、粘着剤を含有する。
【0015】
フェンタニルは、N-(1-フェネチルポペリジン-4-イル)-N-フェニルプロパンアミドとも呼ばれる。フェンタニルの塩とは、フェンタニルの酸付加塩を意味し、具体的にはフェンタニルと有機酸又は無機酸との塩である。有機酸としては、例えば、酢酸、乳酸、クエン酸、シュウ酸、マレイン酸、フマル酸、グルタミン酸、アスパラギン酸、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、トルエンスルホン酸が挙げられる。無機酸としては、例えば、塩酸、臭化水素酸、硫酸、硝酸、リン酸が挙げられる。好ましいフェンタニル又はその塩は、フェンタニルクエン酸塩である。
【0016】
本明細書において、フェンタニル又はその塩の含有量又は濃度を計算するときは、フェンタニルクエン酸塩に換算して考慮される。フェンタニルクエン酸塩は、化学式(1)で表されるフェンタニルのモノクエン酸塩であり、その分子量は528.59である。
【化1】
【0017】
本明細書において、「粘着剤層におけるフェンタニル又はその塩の含有量」とは、貼付剤の粘着剤層全体に含有されるフェンタニル又はその塩の含有量を意味し、本発明においては、フェンタニルクエン酸塩の質量に換算して考慮される。
【0018】
本実施形態に係る貼付剤では、粘着剤層におけるフェンタニル又はその塩の含有量は、フェンタニルクエン酸塩の質量に換算した場合に、0.1~0.8mgであることが好ましく、0.2~0.7mgであることがより好ましく、0.4~0.65mgであることが特に好ましい。
【0019】
また、「貼付面積」とは、貼付剤を皮膚に貼付する際に皮膚に接する面積を意味する。本実施形態に係る貼付剤では、貼付面積は3~10cm2であることが好ましく、4~8cm2であることがより好ましい。貼付面積が3cm2以上であると、取り扱い性がより向上し、貼付しやすい。貼付面積が10cm2以下であると、衣服の着脱時等において貼付剤の周縁部がひっかかりにくくなる。
【0020】
「貼付面積1cm2あたりのフェンタニル又はその塩の含有量」とは、当該皮膚に接する面積1cm2に相当する粘着剤層におけるフェンタニル又はその塩の含有量を意味し、本発明においては、フェンタニルクエン酸塩の質量に換算して考慮される。すなわち、当該フェンタニル又はその塩の含有量とは、粘着剤層中に含有されるフェンタニル又はその塩の含有量をフェンタニルクエン酸塩の質量に換算した後、貼付面積で除した値であり得る。
【0021】
本実施形態に係る貼付剤では、貼付面積1cm2あたりのフェンタニル又はその塩の含有量が0.01~0.18mgであることが好ましく、0.01~0.09mgであることがより好ましく、0.02~0.08mgであることが更に好ましく、0.03~0.07mgであることが特に好ましい。
【0022】
本明細書において、「フェンタニル又はその塩の濃度」とは、粘着剤層全体の質量を基準とした場合のフェンタニル又はその塩の質量を意味し、本発明においては、フェンタニルクエン酸塩の質量に換算して考慮される。
【0023】
本実施形態に係る貼付剤では、粘着剤層におけるフェンタニル又はその塩の濃度は、フェンタニルクエン酸塩の質量に換算した場合に、0.5~3.8%であることが好ましく、0.5~3.5%であることがより好ましく、1~2.5%であることが特に好ましい。
【0024】
粘着剤は、貼付剤に一般的に使用されているものであればよく、例えば、アクリル系粘着剤、ゴム系粘着剤、シリコーン系粘着剤が挙げられる。好ましい粘着剤は、ゴム系粘着剤である。
【0025】
アクリル系粘着剤として、例えば、(メタ)アクリル酸アルキルエステルの重合体又は(メタ)アクリル酸アルキルエステルとコモノマーとの共重合体が挙げられる。ここで、(メタ)アクリル酸アルキルエステルとは、アクリル酸アルキルエステル及びメタクリル酸アルキルエステルを意味する。(メタ)アクリル酸アルキルエステルとして、例えば、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸ヘキシル、(メタ)アクリル酸オクチル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル、及び(メタ)アクリル酸デシルが挙げられる。(メタ)アクリル酸アルキルエステルは単独で又は2種以上を組み合わせて用いてよい。コモノマーとしては、例えば、(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキル、エチレン、プロピレン、スチレン、酢酸ビニル、N-ビニルピロリドン、及び(メタ)アクリル酸アミドが挙げられる。コモノマーは、単独で又は2種以上を組み合わせて用いてよい。アクリル系粘着剤の具体例としては、ブチルアクリレート、2-エチルヘキシルアクリレート、酢酸ビニル、メタクリル酸、ヒドロキシエチルアクリレート、グリシジルメタクリレート、メトキシエチルアクリレート、及びアクリル酸から選ばれる少なくとも2種類を含む共重合体からなるものが挙げられ、より具体的には、DURO-TAK 87-2097、87-2194、87-2196、87-2287、87-2516、87-2852、87-4287、及び87-900A(商品名、ヘンケル社製)、並びにニッセツKP-77及びAS-370(商品名、日本カーバイド工業(株)製)が挙げられる。
【0026】
ゴム系粘着剤としては、例えば、スチレン-イソプレン-スチレン共重合体(SIS)、イソプレンゴム、ポリイソブチレン(PIB)、スチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体(SBS)、スチレン-ブタジエンゴム(SBR)、ポリシロキサン等が挙げられる。これらのゴム系粘着剤は、1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。好ましいゴム系粘着剤は、スチレン-イソプレン-スチレン共重合体(SIS)又はポリイソブチレン(PIB)である。ゴム系粘着剤の具体例としては、オパノールB12、B15、B50、B80、B100、B120、B150、B220(商品名、BASF社製)、JSRブチル065、268、365(商品名、JSR社製)、ビスタネックスLM-MS、MH、H、MML-80、100、120、140(商品名、エクソン・ケミカル社製)、HYCAR(商品名、グッドリッチ社製)、Quintac 3570C(商品名、日本ゼオン社製)、SIS5002(商品名、ジェイエスアールクレイトンエラストマー社製)、SIBSTAR T102(商品名、カネカ社製)等が挙げられる。
【0027】
シリコーン系粘着剤として、例えば、ジメチルポリシロキサン、ジメチルポリシロキサンとシリケート樹脂との縮合反応物等のオルガノポリシロキサンが挙げられる。シリコーン系粘着剤の具体例としては、BIO-PSA X7-4201、BIO-PSA 7-4102、BIO-PSA 7-4202、BIO-PSA 7-4302、BIO-PSA Q7-4501、360Medical fluid 1000CS、及びMDX4-4210(商品名、ダウ・コーニング社製)が挙げられる。
【0028】
粘着剤の含有量は、粘着剤層全体の質量に対して、10~95質量%であることが好ましく、10~80質量%であることがより好ましい。
【0029】
粘着剤層は、その他の成分として、粘着付与樹脂、可塑剤、経皮吸収促進剤、安定化剤、充填剤、香料等をさらに含有してもよい。
【0030】
粘着付与樹脂としては、例えば、ロジン、ロジンのグリセリンエステル、水添ロジン、水添ロジンのグリセリンエステル及びロジンのペンタエリストールエステルなどのロジン誘導体、アルコンP100(商品名、荒川化学工業社製)などの脂環族飽和炭化水素樹脂、クイントンB170(商品名、日本ゼオン社製)などの脂肪族炭化水素樹脂、クリアロンP-125(商品名、ヤスハラケミカル社製)などのテルペン樹脂、マレイン酸レジンなどが挙げられる。これらの中でも、水添ロジンのグリセリンエステル、脂環族飽和炭化水素樹脂、脂肪族炭化水素樹脂又はテルペン樹脂が好ましく、脂環族炭化水素樹脂がより好ましい。これら粘着付与樹脂は2種以上組み合わせてもよい。粘着付与樹脂を含むことにより、粘着剤層の接着性を向上させ、他の物性を安定に維持することができる。
【0031】
粘着付与樹脂の含有量は、粘着剤層の全質量を基準として、0~80質量%であることが好ましく、10~70質量%であることがより好ましい。
【0032】
可塑剤としては、例えば、パラフィン系プロセスオイル、ナフテン系プロセスオイル及び芳香族系プロセスオイルなどの石油系オイル;スクワラン;スクワレン;オリーブ油、ツバキ油、ひまし油、トール油及びラッカセイ油などの植物系オイル;シリコンオイル;ジブチルフタレート及びジオクチルフタレートなどの二塩基酸エステル;ポリブテン及び液状イソプレンゴムなどの液状ゴム;ミリスチン酸イソプロピル、ラウリン酸ヘキシル、セバシン酸ジエチル及びセバシン酸ジイソプロピルなどの液状脂肪酸エステル類;ジエチレングリコール;ポリエチレングリコール;サリチル酸グリコール;プロピレングリコール;ジプロピレングリコール;トリアセチン;クエン酸トリエチル;クロタミトンなどが挙げられる。これらの中でも、流動パラフィン、液状ポリブテン、ミリスチン酸イソプロピル、セバシン酸ジエチル及びラウリン酸ヘキシルが好ましく、液状ポリブテン、ミリスチン酸イソプロピル及び流動パラフィンがより好ましく、流動パラフィンが特に好ましい。これらの可塑剤は2種以上組み合わせてもよい。
【0033】
経皮吸収促進剤は、従来、皮膚での経皮吸収促進作用を有することが知られている化合物であればよい。経皮吸収促進剤としては、例えば、有機酸及びその塩(例えば、炭素原子数6~20の脂肪族カルボン酸(以下、「脂肪酸」ともいう。)及びその塩、ケイ皮酸及びその塩)、有機酸エステル(例えば、脂肪酸エステル、ケイ皮酸エステル)、有機酸アミド(例えば、脂肪酸アミド)、脂肪アルコール、多価アルコール、エーテル(例えば、脂肪エーテル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル)などが挙げられる。これらの吸収促進剤は、不飽和結合を有していてもよく、環状、直鎖状又は分枝状の化学構造であってもよい。また、経皮吸収促進剤は、モノテルペン系化合物、セスキテルペン系化合物、及び植物油(例えば、オリーブ油)であってもよい。これらの経皮吸収促進剤は2種以上組み合わせてもよい。
【0034】
かかる有機酸としては、脂肪族(モノ、ジ又はトリ)カルボン酸(例えば、酢酸、プロピオン酸、クエン酸(無水クエン酸を含む)、イソ酪酸、カプロン酸、カプリル酸、脂肪酸、乳酸、マレイン酸、ピルビン酸、シュウ酸、コハク酸、酒石酸等)、芳香族カルボン酸(例えば、フタル酸、サリチル酸、安息香酸、アセチルサリチル酸等)、ケイ皮酸、アルカンスルホン酸(例えば、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、プロパンスルホン酸、ブタンスルホン酸)、アルキルスルホン酸誘導体(例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテルスルホン酸、N-2-ヒドロキシエチルピペラジン-N’-2-エタンスルホン酸)、コール酸誘導体(例えば、デヒドロコール酸等)が挙げられる。これらの有機酸は、ナトリウム塩等のアルカリ金属塩であってもよい。中でも、脂肪族カルボン酸、芳香族カルボン酸又はこれらの塩が好ましく、酢酸、酢酸ナトリウム又はクエン酸が特に好ましい。
【0035】
脂肪酸としては、例えば、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、イソステアリン酸、オレイン酸、リノ-ル酸、リノレン酸が挙げられる。
【0036】
有機酸エステルとしては、例えば、酢酸エチル、酢酸プロピル、乳酸セチル、乳酸ラウリル、サリチル酸メチル、サリチル酸エチレングリコール、ケイ皮酸メチル、脂肪酸エステルが挙げられる。脂肪酸エステルとしては、例えば、ラウリン酸メチル、ラウリン酸ヘキシル、ミリスチン酸イソプロピル、ミリスチン酸ミリスチル、ミリスチン酸オクチルドデシル、パルミチン酸セチルが挙げられる。脂肪酸エステルは、グリセリン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリエチレングリコールソルビタン脂肪酸エステル、ポリエチレングリコール脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、又はポリオキシエチレン硬化ヒマシ油であってもよい。脂肪酸エステルの具体例としては、グリセリンモノカプリレート、グリセリンモノカプレート、グリセリンモノラウレート、グリセリンモノオレエー卜、ソルビタンモノラウレート、ショ糖モノラウレート、ポリソルベート20(商品名)、プロピレングリコールモノラウレート、ポリエチレングリコールモノラウレート、ポリエチレングリコールモノステアレート、Span20、Span40、Span60、Span80、Span120(商品名)、Tween20、Tween21、Tween40、Tween60、Tween80(商品名)、NIKKOL HCO-60(商品名、日光ケミカルズ(株)製)が挙げられる。
【0037】
有機酸アミドとしては、例えば、脂肪酸アミド(例えば、ラウリン酸ジエタノールアミド)、ヘキサヒドロ-1-ドデシル-2H-アゼピン-2-オン(Azoneともいう。)及びその誘導体、ピロチオデカンが挙げられる。
【0038】
脂肪アルコールとは、炭素原子数6~20の脂肪族アルコールを意味する。脂肪アルコールとしては、例えば、ラウリルアルコール、ミリスチルアルコール、オレイルアルコール、イソステアリルアルコール、セチルアルコールが挙げられる。多価アルコールとしては、例えば、プロピレングリコールが挙げられる。
【0039】
ポリオキシエチレンアルキルエーテルとしては、例えば、ポリオキシエチレンラウリルエーテルが挙げられる。
【0040】
モノテルペン系化合物としては、例えば、ゲラニオール、チモール、オイゲノール、テルピネオール、l-メントール、ボルネオロール、d-リモネン、イソオイゲノール、イソボルネオール、ネロール、dl-カンフルが挙げられる。
【0041】
オレイルアルコール、ラウリルアルコール、イソステアリルアルコール、ラウリン酸ジエタノールアミド、グリセリンモノカプリレート、グリセリンモノカプレート、グリセリンモノオレエー卜、ソルビタンモノラウレート、プロピレングリコールモノラウレート、ポリオキシエチレンラウリルエーテル又はピロチオデカンがより好ましい。脂肪酸が好ましく、オレイン酸が特に好ましい。
【0042】
経皮吸収促進剤の含有量は、粘着剤層の全質量を基準として、0~20質量%であることが好ましく、0~10質量%であることがより好ましい。
【0043】
安定化剤は、酸化防止剤(トコフェロール誘導体、アスコルビン酸誘導体、エリソルビン酸誘導体、ノルジヒドログアヤレチン酸、没食子酸誘導体、ジブチルヒドロキシトルエン(BHT)、ブチルヒドロキシアニソール、ピロ亜硫酸ナトリウム、亜硫酸ナトリウム、2-メルカプトベンズイミダゾール等)、紫外線吸収剤(イミダゾール誘導体、ベンゾトリアゾール誘導体、p-アミノ安息香酸誘導体、アントラニル酸誘導体、サリチル酸誘導体、ケイヒ酸誘導体、ベンゾフェノン誘導体、クマリン酸誘導体、カンファー誘導体等)などを挙げることができる。これらの安定化剤は2種以上組み合わせてもよい。
【0044】
安定化剤の含有量は、粘着剤層の全質量を基準として、0~5質量%であることが好ましく、0~2質量%であることがより好ましい。粘着剤層が安定化剤を含有することにより、フェンタニル又はその塩の安定性がより向上し得る。
【0045】
充填剤は、金属酸化物(酸化亜鉛、酸化チタン等)、金属塩(炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、ステアリン酸亜鉛等)、ケイ酸化合物(カオリン、タルク、ベントナイト、アエロジル、含水シリカ、ケイ酸アルミニウム、ケイ酸マグネシウム、メタケイ酸アルミン酸マグネシウム等)、金属水酸化物(水酸化アルミニウム等)などを挙げることができる。これらの充填剤は2種以上組み合わせてもよい。
【0046】
充填剤の含有量は、粘着剤層の全質量を基準として、0~10質量%であることが好ましく、0~5質量%であることがより好ましい。
【0047】
粘着剤層は、溶剤を含んでいてもよい。溶剤としては、例えば、メタノール、エタノール、アセトン、酢酸エチル、トルエン、テトラヒドロフラン、アセトニトリル等が挙げられる。これらの溶剤は2種以上組み合わせてもよい。
【0048】
粘着剤層(膏体)の単位面積(1m2)あたりの質量は、25~75g/m2であってもよく、30~70g/m2であることが好ましく、35~60g/m2であることがより好ましい。
【0049】
支持体としては、粘着剤層を支持するのに適したものであれば特に限定はされず、伸縮性又は非伸縮性のものを用いることができる。支持体の材質としては、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリブタジエン、エチレン酢酸ビニル共重合体、ポリ塩化ビニル、ポリエステル、ナイロン、ポリウレタン、ポリアクリロニトリル(PAN)などのフィルム、シート、これらの積層体、多孔体、発泡体、布及び不織布、並びにこれらのラミネート品などが使用できる。また、好ましい支持体の材質は、ポリエチレンテレフタレート(PET)又はポリエチレンである。好ましい支持体の具体例としては、Scotchpak(登録商標)9723、9732等のScotchpakシリーズ(スリーエム社製)が挙げられる。
【0050】
支持体は、その粘着剤層と接する面に、サンドマット処理を施してもよい。支持体にサンドマット処理を施すことにより、投錨性がより向上する。サンドマット処理の方法としては、当業者に周知の方法により行うことができる。
【0051】
本実施形態に係る貼付剤は、粘着剤層の貼付面を覆うように剥離ライナーを備えていてもよい。すなわち、貼付剤が剥離ライナーを備える場合、貼付剤は、粘着剤層が支持体と剥離ライナーで挟まれた三層構造となる。
【0052】
本実施形態に係る貼付剤は、フェンタニル又はその塩、粘着剤、及び、任意にその他の成分を混合して得られる膏体液を支持体上に展延し、剥離ライナーをその上に積層することにより、得ることができる。また、上記膏体液を剥離ライナー上に展延し、支持体をその上に積層してもよい。
【0053】
本実施形態に係る貼付剤は、パウチ内に入れて保存することが好ましい。
【実施例】
【0054】
以下に、実施例と比較例を用いて、本発明をより詳細に説明する。
【0055】
試験例1:保存安定性試験1
表1の記載にしたがい、フェンタニルクエン酸塩を含有するテープ剤(比較例1、2)を調製した。具体的には、各成分を混合して得られた膏体液を、成形される粘着剤層の質量が50g/m2となるように支持体上に展延し、剥離ライナーをその上に積層することにより、テープ剤を得た。比較例1のテープ剤は、貼付面積が5cm2であり、粘着剤層中にフェンタニルクエン酸塩1mgを含有するテープ剤である。一方、比較例2のテープ剤は、貼付面積が2.5cm2であり、粘着剤層中にフェンタニルクエン酸塩0.5mgを含有するテープ剤である。
【0056】
得られた各テープ剤におけるフェンタニルクエン酸塩の含有量を測定した。その後、テープ剤をアルミニウム製パウチに入れ、60℃にて1か月間保管した後、粘着剤層に含まれるフェンタニルクエン酸塩の含有量を高速液体クロマトグラフ法にて測定した。テープ剤を調製した時のフェンタニルクエン酸塩の含有量(初期値)に対する、保管後のフェンタニルクエン酸塩の含有量を算出した。
【0057】
結果を表1に示す。比較例2のテープ剤では、比較例1のテープ剤と比べて保存後のフェンタニルクエン酸塩の含有量が低下した。
【0058】
【0059】
試験例2:保存安定性試験2
表2の記載にしたがい、試験例1と同様に、フェンタニルクエン酸塩を含有するテープ剤(実施例1~3)を調製した。実施例1~3のテープ剤は、比較例1のテープ剤と比較して、粘着剤層におけるフェンタニルクエン酸塩の濃度を低くして、貼付面積を大きくしたテープ剤である。試験例1と同様にして、実施例1~3のテープ剤の保存安定性を評価した。
【0060】
結果を表2に示す。実施例1~3のテープ剤では、60℃、1ヶ月保存後のフェンタニルクエン酸塩の含有量は95%以上であり、特に実施例2、3のテープ剤では約96%であった。
【0061】
【0062】
また、SISとPIBの組み合わせに代えて、粘着剤としてSISのみを含有する以外は実施例1~3と同様にしてテープ剤(実施例4~6)をそれぞれ調製した。さらに、SISとPIBの組み合わせに代えて、粘着剤としてPIBのみを含有する以外は実施例1~3と同様にしてテープ剤(実施例7~9)をそれぞれ調製した。実施例4~9のテープ剤を用いて保存安定性試験を実施したところ、実施例1~3と同等の結果を示した。
【0063】
試験例3:保存安定性試験3
表3の記載にしたがい、実施例2と同一の組成を有し、貼付面の形状の異なるテープ剤(実施例10~14)を調製した。実施例2、10~14のテープ剤は、その形状の違いにより、貼付面積は互いに同一であるが、外周の長さは異なる。試験例1と同様にして、実施例10~14のテープ剤の保存安定性を評価した。
【0064】
結果を表3に示す。実施例11~14の貼付面の形状は、表3に記載の縦横比を有する長方形である。貼付面の外周長さが長くなるにつれて、フェンタニルクエン酸塩の含有量が低下する傾向が見られた。貼付面積が同一であるテープ剤を比較する場合、粘着剤層の表面積は貼付面の外周長さに依存する。したがって、粘着剤層の表面積がより小さい実施例2、10~12のテープ剤は、実施例13、14のテープ剤よりもフェンタニルクエン酸塩の保存安定性が更に高い結果となった。
【表3】