(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-18
(45)【発行日】2022-11-29
(54)【発明の名称】積層体
(51)【国際特許分類】
B32B 17/04 20060101AFI20221121BHJP
B32B 27/30 20060101ALI20221121BHJP
D03D 1/00 20060101ALI20221121BHJP
D03D 15/267 20210101ALI20221121BHJP
【FI】
B32B17/04 Z
B32B27/30 D
D03D1/00 Z
D03D15/12 A
(21)【出願番号】P 2018180014
(22)【出願日】2018-09-26
【審査請求日】2018-09-26
【審判番号】
【審判請求日】2020-04-30
(31)【優先権主張番号】P 2017205221
(32)【優先日】2017-10-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002853
【氏名又は名称】ダイキン工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】弁理士法人WisePlus
(72)【発明者】
【氏名】山田 雅彦
(72)【発明者】
【氏名】中田 裕
【合議体】
【審判長】井上 茂夫
【審判官】久保 克彦
【審判官】藤井 眞吾
(56)【参考文献】
【文献】特開昭63-116845(JP,A)
【文献】特開2002-283517(JP,A)
【文献】特許第3384395(JP,B2)
【文献】特開2016-159579(JP,A)
【文献】特開昭49-17875(JP,A)
【文献】特開平6-39220(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23B 17/04
B23B 27/30
D03D 1/00
D03D 1/267
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ライニング用の積層体であって、
フッ素樹脂を含むシートと、
熱溶融性樹脂層と、
ガラスクロスとが積層されてなり、
前記フッ素樹脂を含むシートは、ポリテトラフルオロエチレン[PTFE]シートであり、
前記熱溶融性樹脂層は、テトラフルオロエチレン[TFE]/パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)[PAVE]共重合体[PFA]の層であり、
前記ガラスクロスは、バルキー加工を施したガラスヤーンの織編物であることを特徴とする積層体。
【請求項2】
フッ素樹脂を含むシートと、
熱溶融性樹脂層と、
ガラスクロスとが積層されてなる積層体であって、
前記フッ素樹脂を含むシートは、平均比重が2.175以上であるポリテトラフルオロエチレン[PTFE]シートであり、
前記熱溶融性樹脂層は、テトラフルオロエチレン[TFE]/パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)[PAVE]共重合体[PFA]の層であり、
前記ガラスクロスは、バルキー加工を施したガラスヤーンの織編物であることを特徴とする積層体。
【請求項3】
フッ素樹脂を含むシートと、
熱溶融性樹脂層と、
ガラスクロスとが積層されてなる積層体であって、
前記フッ素樹脂を含むシートは、厚さが2~4mmであるポリテトラフルオロエチレン[PTFE]シートであり、
前記熱溶融性樹脂層は、テトラフルオロエチレン[TFE]/パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)[PAVE]共重合体[PFA]の層であり、
前記ガラスクロスは、バルキー加工を施したガラスヤーンの織編物であることを特徴とする積層体。
【請求項4】
フッ素樹脂を含むシートと、
熱溶融性樹脂層と、
ガラスクロス(ただし、Cガラス組成の未処理ガラスクロス、フッ素系樹脂を主成分とする処理液で処理したCガラス組成のガラスクロス、シリコン系樹脂を主成分とする処理液で処理したCガラス組成のガラスクロス、フッ素系樹脂及びシリコン系樹脂を主成分とする処理液で処理したCガラス組成のガラスクロス、フッ素系樹脂を主成分とする処理液で処理したEガラス組成のガラスクロス、シリコン系樹脂を主成分とする処理液で処理したEガラス組成のガラスクロス、並びに、フッ素系樹脂及びシリコン系樹脂を主成分とする処理液で処理したEガラス組成のガラスクロスを除く。)とが積層されてなる積層体であって、
前記フッ素樹脂を含むシートは、ポリテトラフルオロエチレン[PTFE]シートであり、
前記ガラスクロスは、バルキー加工を施したガラスヤーンの織編物であり、
前記バルキー加工を施したガラスヤーンは、ガラスフィラメントを撚り合わせて構成されており、
前記熱溶融性樹脂層と前記ガラスクロスとが接するように積層されており、前記ガラスクロスの前記熱溶融性樹脂層と接する面には、前記バルキー加工を施したガラスヤーン間及び前記ガラスフィラメント間に、前記熱溶融性樹脂が含浸した層を有する請求項1、2又は3記載の積層体。
【請求項5】
前記ガラスクロスは、綾織で織られており、
前記バルキー加工を施したガラスヤーンは、前記ガラスクロスの経糸及び緯糸の少なくとも一方に用いられており、前記ガラスクロスの前記熱溶融性樹脂層と接する面に露出している請求項1、2、3又は4記載の積層体。
【請求項6】
前記バルキー加工を施したガラスヤーンは、バルキー率が101~150%である請求項1、2、3、4又は5記載の積層体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層体に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体の製造を始め、各種の化学プラントで種々の薬液が原料、洗浄剤として広く使用されている。こうした薬液には反応性が高いものや腐食性を持つものがあり、そうした薬液の貯蔵や輸送用の容器、配管には通常バッキングシートといわれる積層体が内壁に貼り付けられている。バッキングシートの薬液に接する面は耐薬品性に富む材料でなければならず、通常耐薬品性に優れる、特にポリテトラフルオロエチレン(PTFE)のシートが使用されている。
【0003】
従来のバッキングシートとしては、ガラス繊維の織布、カーボン繊維の織布等の耐熱性織布をPTFEシートに接着したものが知られており、例えば、特許文献1には、平均比重が2.175以上のポリテトラフルオロエチレンのシートと耐熱性織布とが熱溶融性樹脂層を介して積層されてなる構造を含む積層体が提案されている。
【0004】
また、バッキングシート用途ではないが、特許文献2には、バルキー加工を施した超極細のガラス繊維糸によって構成されたガラス繊維織物を基布とし、この基布の少なくとも一面においてPTFE、FEP等のフッ素樹脂を被覆したことを特徴とする不燃性耐熱フレキシブル素材が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】国際公開第00/10805号
【文献】特開昭61-294285号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
バッキングシートに用いられるガラス繊維の織布は、ガラスヤーンの織編物である。従来、一般的にガラスヤーンとしてはストレートヤーンが用いられていた。そのため、特許文献1では、PTFEシートと熱溶融性樹脂層との間に、PTFE微粒子層を設ける必要があった。PTFE微粒子層を設けない場合は、PTFEシートと熱溶融性樹脂層との加熱融着処理の加熱時間を長くすることにより、PTFEシート中の溶融PTFEの再結晶化を行う必要があった。PTFE微粒子層を設けず、かつ、PTFEの再結晶化を行わない場合、PTFEシートと耐熱性織布とが十分に接着しないという問題があった。
【0007】
本発明は、上記現状に鑑み、PTFE微粒子層を設けず、かつ、フッ素樹脂の再結晶化を行わなくとも、ガラスクロスと上記フッ素樹脂を含むシートとが強固に接着している積層体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、フッ素樹脂を含むシートと、熱溶融性樹脂層と、ガラスクロスとが積層されてなる積層体であって、上記ガラスクロスは、バルキー加工を施したガラスヤーンの織編物であることを特徴とする積層体である。
【0009】
上記熱溶融性樹脂層と上記ガラスクロスとが接するように積層されており、上記ガラスクロスは、綾織で織られており、上記バルキー加工を施したガラスヤーンは、上記ガラスクロスの経糸及び緯糸の少なくとも一方に用いられており、上記ガラスクロスの上記熱溶融性樹脂層と接する面に露出していることが好ましい。
【0010】
上記バルキー加工を施したガラスヤーンは、ガラスフィラメントを撚り合わせて構成されており、上記ガラスクロスの上記熱溶融性樹脂層と接する面には、上記バルキー加工を施したガラスヤーン間及び上記ガラスフィラメント間に、上記熱溶融性樹脂が含浸した層を有することが好ましい。
【0011】
上記フッ素樹脂を含むシートは、ポリテトラフルオロエチレン[PTFE]シートであることが好ましい。
【0012】
上記PTFEシートは、平均比重が2.175以上であることが好ましい。
【0013】
上記バルキー加工を施したガラスヤーンは、バルキー率が101~150%であることが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明の積層体は、上記構成を有することから、PTFE微粒子層を設けず、かつ、上記フッ素樹脂の再結晶化を行わなくとも、ガラスクロスと上記フッ素樹脂を含むシートとが強固に接着している。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】
図1は、加熱ローラを用いた加熱融着方法の一例を模式的に示す図である。
【
図2】
図2は、実施例1で使用したガラスクロス3の写真である。
【
図3】
図3は、比較例1で使用したガラスクロス3-2の写真である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に本発明を詳細に説明する。
【0017】
本発明の積層体は、ガラスクロスを有し、上記ガラスクロスは、バルキー加工を施したガラスヤーンの織編物である。バルキー加工を施したガラスヤーンのガラスクロスは、バルキー加工を施していないガラスヤーン(ストレートヤーン)のガラスクロスと比較して見かけ上の表面積が大きくなる。そのため、熱溶融性樹脂層が溶融した際に、熱溶融性樹脂がガラスクロスに含浸し易くなり、熱溶融性樹脂層とガラスクロスが強固に接着する。また、ガラスクロスが熱溶融性樹脂層を介してフッ素樹脂を含むシートに接触する面積が増えるため、アンカー効果によってより強固に接着する。また、バルキー加工を施したガラスヤーンのガラスクロスは、柔軟性が高く、フッ素樹脂を含むシートに対する追随性にも優れる。このため、PTFE微粒子層を設けず、かつ、上記フッ素樹脂の再結晶化を行わなくとも、ガラスクロスとフッ素樹脂を含むシートとが強固に接着した積層体が得られる。また、積層体を曲げた際に、ガラスクロスが破損しにくい。
【0018】
バルキー加工とは、嵩高加工、テクスチャード加工ともいわれる、繊維の嵩を増すための加工方法の一つである。ガラスヤーンの場合には、一定の引出し速度で、ガラスヤーンを高速エアジェットノズル中に供給し、引出し速度より遅い巻取り速度で、ガラスヤーンに空気乱流を当て、ガラスヤーンに開繊を生じさせバルキー加工を行う。
【0019】
上記バルキー加工を施したガラスヤーンは、ガラスフィラメントを撚り合わせて構成されることが好ましい。上記ガラスフィラメントの平均直径は2~10μmが好ましく、4~7μmがより好ましく、撚り合わせるガラスフィラメントの数は、200~6000本が好ましく、400~2400本がより好ましい。ガラスヤーンとしては、例えば、ガラス短繊維の呼び径(記号)として一般に知られているD、DE、E、G等を用いることができる。
【0020】
上記バルキー加工を施したガラスヤーンは、単糸で用いてもよく、複数本を撚り合わせて合撚糸として用いてもよい。
【0021】
上記バルキー加工を施したガラスヤーンの番手(線重量)は、30~200texであることが好ましく、50~100texであることがより好ましい。
【0022】
上記バルキー加工を施したガラスヤーンのバルキー率は、ガラスクロスと熱溶融樹脂層とを強固に接着させる上で、101%以上であることが好ましく、103%以上であることがより好ましく、105%以上であることが更に好ましい。バルキー率の上限は特に限定されないが、例えば200%である。ガラスヤーンから織編物に加工する上で、バルキー率の上限は150%が好ましく、130%がより好ましく、120%が更に好ましい。
上記バルキー率は、バルキー加工を施したガラスヤーンの番手(線重量)とバルキー加工を施す前のガラスヤーンの番手(線重量)との比により求める値である。
ここで、バルキー加工を施したガラスヤーンの番手(線重量)は単位長当たりのガラスヤーンの重量であり、バルキー加工を施す前のガラスヤーンの番手(線重量)はガラスフィラメントの太さとフィラメント総本数から特定されるものである。
【0023】
上記織編物は、織物であっても編物であってもよく、上記バルキー加工を施したガラスヤーン及び要すればバルキー加工を施していないガラスヤーンを製織又は編成して作製する。上記ガラスヤーンを製織又は編成する手段としては、例えば、公知の織機又は編機を用いる手段等が挙げられる。具体的には、ジェット織機(例えばエアージェット織機又はウォータージェット織機等)、スルザー織機又はレピヤー織機等を用いてガラス繊維を製織する手段等が挙げられる。ガラス糸の整経工程及び糊付工程後、織物の製織方法(織り方)としては、例えば、平織、朱子織、ななこ織、綾織、斜文織、からみ織、三軸織又は横縞織等が挙げられる。また、編物の編成方法(編み方)としては、例えば平編、ゴム編又はパール編等の横編、シングルデンビ編、シングルコード編、二目編等の縦編、レース編、浮き編、パイル編等が挙げられる。編成は、例えば台丸機、丸編機又はコットン式編機等の自体公知の横編機又は縦編機を使用してよい。これらの中でも、綾織で織られた織物が好ましい。
【0024】
上記ガラスクロスは、経糸及び緯糸により構成されることが好ましい。この場合、上記バルキー加工を施したガラスヤーンは、経糸及び緯糸の少なくとも一方に用いられることが好ましい。より好ましくは、経糸及び緯糸の一方に上記バルキー加工を施したガラスヤーンを用い、他方にバルキー加工を施していないガラスヤーンを用いることである。バルキー加工を施したガラスヤーンが露出した面を積層体のフッ素樹脂を含むシートと接触させることにより、上記ガラスクロスとフッ素樹脂を含むシートとが強固に接着する。更に、経糸及び緯糸の少なくとも一方にバルキー加工を施したガラスヤーンを用いることにより、上記ガラスクロスが一層柔軟性に優れたものとなり、積層体を曲げた際に、ガラスクロスが一層破損しにくくなる。
【0025】
上記ガラスクロスを上記バルキー加工を施したガラスヤーンと、バルキー加工を施していないガラスヤーンとによって構成する場合、上記バルキー加工を施したガラスヤーンと、バルキー加工を施していないガラスヤーンとの質量比は、100/0~10/90とすることが好ましく、100/0~40/60とすることがより好ましい。
【0026】
上記ガラスクロスの厚さは、目的に応じて選択できるが、例えば0.03~3.0mmであってよい。バッキングシートに使用する場合は、0.1~0.5mmが好ましい。
【0027】
本発明の積層体は、フッ素樹脂を含むシートを有する。本明細書において、フッ素樹脂とは、部分結晶性フルオロポリマーであり、フルオロプラスチックスである。フッ素樹脂は、融点を有し、熱可塑性を有するが、溶融加工性であっても、非溶融加工性であってもよい。
【0028】
本明細書において、溶融加工性とは、押出機及び射出成形機等の従来の加工機器を用いて、ポリマーを溶融して加工することが可能であることを意味する。従って、溶融加工性のフッ素樹脂は、ASTM D-1238及びD-2116に準拠して、結晶化融点より高い温度で測定されるメルトフローレートが0.01~100g/10分であることが通常である。
【0029】
本明細書において、非溶融加工性とは、押出機及び射出成形機等の従来の加工機器を用いて、ポリマーを溶融して加工することが不可能であることを意味する。より具体的には、上記非溶融加工性とは、ASTM D-1238及びD-2116に準拠して、結晶化融点より高い温度でメルトフローレートを測定できない性質を意味する。
【0030】
本発明におけるフッ素樹脂は、融点が100~360℃であることが好ましく、140~350℃であることがより好ましく、160~350℃であることが更に好ましく、180~350℃であることが特に好ましい。
【0031】
本明細書において、上記フッ素樹脂の融点は、示差走査熱量計〔DSC〕を用いて10℃/分の速度で昇温したときの融解熱曲線における極大値に対応する温度である。
【0032】
上記フッ素樹脂としては、ポリテトラフルオロエチレン[PTFE]、テトラフルオロエチレン[TFE]/パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)[PAVE]共重合体[PFA]、TFE/ヘキサフルオロプロピレン[HFP]共重合体[FEP]、エチレン[Et]/TFE共重合体[ETFE]、TFE/フッ化ビニリデン[VDF]共重合体、Et/TFE/HFP共重合体、ポリクロロトリフルオロエチレン[PCTFE]、クロロトリフルオロエチレン[CTFE]/TFE共重合体、Et/CTFE共重合体、ポリフッ化ビニリデン[PVDF]、ポリフッ化ビニル[PVF]等が挙げられる。中でも、PTFEが好ましい。
【0033】
上記PTFEは、TFE単位のみを含むホモPTFEであっても、TFE単位とTFEと共重合可能な変性モノマーに基づく変性モノマー単位とを含む変性PTFEであってもよいが、変性PTFEであることが好ましい。また、上記PTFEは、非溶融加工性及びフィブリル化性を有する高分子量PTFEであることが好ましい。
【0034】
上記変性モノマーとしては、TFEとの共重合が可能なものであれば特に限定されず、例えば、ヘキサフルオロプロピレン[HFP]等のパーフルオロオレフィン;クロロトリフルオロエチレン[CTFE]等のクロロフルオロオレフィン;トリフルオロエチレン、フッ化ビニリデン[VDF]等の水素含有フルオロオレフィン;パーフルオロビニルエーテル;パーフルオロアルキルエチレン;エチレン;ニトリル基を有するフッ素含有ビニルエーテル等が挙げられる。また、用いる変性モノマーは1種であってもよいし、複数種であってもよい。
【0035】
上記パーフルオロビニルエーテルとしては特に限定されず、例えば、下記一般式(1)
CF2=CF-ORf1 (1)
(式中、Rf1は、パーフルオロ有機基を表す。)で表されるパーフルオロ不飽和化合物等が挙げられる。本明細書において、上記「パーフルオロ有機基」とは、炭素原子に結合する水素原子が全てフッ素原子に置換されてなる有機基を意味する。上記パーフルオロ有機基は、エーテル酸素を有していてもよい。
【0036】
上記パーフルオロビニルエーテルとしては、例えば、上記一般式(1)において、Rf1が炭素数1~10のパーフルオロアルキル基を表すものであるパーフルオロ(アルキルビニルエーテル)[PAVE]が挙げられる。上記パーフルオロアルキル基の炭素数は、好ましくは1~5である。
【0037】
上記PAVEにおけるパーフルオロアルキル基としては、例えば、パーフルオロメチル基、パーフルオロエチル基、パーフルオロプロピル基、パーフルオロブチル基、パーフルオロペンチル基、パーフルオロヘキシル基等が挙げられるが、パーフルオロアルキル基がパーフルオロプロピル基であるパープルオロプロピルビニルエーテル[PPVE]が好ましい。
上記パーフルオロビニルエーテルとしては、更に、上記一般式(1)において、Rf1が炭素数4~9のパーフルオロ(アルコキシアルキル)基であるもの、Rf1が下記式:
【0038】
【0039】
(式中、mは、0又は1~4の整数を表す。)で表される基であるもの、Rf1が下記式:
【0040】
【0041】
(式中、nは、1~4の整数を表す。)で表される基であるもの等が挙げられる。
パーフルオロアルキルエチレンとしては特に限定されず、例えば、パーフルオロブチルエチレン[PFBE]、パーフルオロヘキシルエチレン等が挙げられる。
【0042】
ニトリル基を有するフッ素含有ビニルエーテルとしては、CF2=CFORf2CN(式中、Rf2は2つの炭素原子間に酸素原子が挿入されていてもよい炭素数が2~7のアルキレン基を表す。)で表されるフッ素含有ビニルエーテルがより好ましい。
【0043】
上記変性PTFEにおける変性モノマーとしては、PAVE及びHFPからなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましく、PAVEがより好ましい。
【0044】
上記変性PTFEは、変性モノマー単位が0.0001~1質量%の範囲であることが好ましい。変性モノマー単位の含有量の下限としては、0.001質量%がより好ましく、0.01質量%が更に好ましく、0.05質量%が特に好ましい。変性モノマー単位の含有量の上限としては、0.5質量%がより好ましく、0.3質量%が更に好ましい。
【0045】
本明細書において、フッ素樹脂を構成する各単量体単位の含有量は、NMR、FT-IR、元素分析、蛍光X線分析を単量体の種類によって適宜組み合わせることで算出できる。
【0046】
上記PTFEは、標準比重(SSG)が2.140以上であることが好ましく、2.150を超えることがより好ましく、2.160以上であることが更に好ましく、また、2.210以下であることが好ましい。
【0047】
上記標準比重(SSG)は、ASTM D 4895-89に準拠して、水中置換法に基づき測定することができる。
【0048】
上記PTFEは、融点が324~350℃であることが好ましく、327~347℃であることがより好ましい。融点は、300℃以上の温度に加熱した履歴がないPTFEについて示差走査熱量計〔DSC〕を用いて10℃/分の速度で昇温したときの融解曲線において、324~347℃の範囲に少なくとも1つ以上の吸熱ピークが現れ、上記融解曲線における極大値に対応する温度である。
【0049】
上記フッ素樹脂を含むシートは、上記PTFEからなり、かつ平均比重が2.175以上であることが好ましい。上記平均比重は、2.175を超えることがより好ましく、2.178以上であることが更に好ましく、また、2.210以下であることが好ましい。
ここで平均比重とは、上記フッ素樹脂を含むシート全体の比重をいい、加熱の結果上記フッ素樹脂を含むシートに比重の低下した部分(層)が生じる場合は、その低比重層をも含めた全体の比重をいう。
上記シートの平均比重は、水中置換法により測定することができる。測定サンプルの形状とサイズは特に限定されないが、例えば、上記シートから縦2cm・横2cm程度に切り取ったサンプルを測定する。
【0050】
上記PTFEからなり、かつ平均比重が2.175以上であるシートは、高結晶化度のPTFEからなるので、低薬液透過性に優れる。かかる高結晶化度のPTFEシートは、例えばPCT/JP98/01116号明細書に記載されている方法、すなわちPTFE粉末を圧縮成形したPTFE成形品を回転させつつ焼成する回転焼成法によって得た焼成物を切削してシートとすることによって得ることができる。ところで従来法で得たPTFE焼成品から切削したシートは大きく波を打っているため、積層体とするために事前にPTFEシートを加熱して平坦化しなければならず、そのため、積層前にすでにPTFEの結晶化度が低下していた。しかしこの回転焼成法によれば、均質で高結晶化度のPTFEシートが得られ、しかも切削して得られるシートが平坦であるので他の材料との積層が容易であり、加熱による平坦化処理はとくに必要とせず、積層前の結晶化度の低下の心配はない。
【0051】
上記フッ素樹脂を含むシートの厚さは目的とする用途によって異なるが、通常1~4mm、バッキングシートに使用するときは約2~4mm程度である。
【0052】
本発明の積層体は、熱溶融性樹脂層を有する。熱溶融性樹脂は、加熱融着時に溶融し、上記ガラスクロスに含浸することができる。したがって、上記熱溶融性樹脂層は、上記ガラスクロスと強固に接着する。上記熱溶融性樹脂層はまた、上記フッ素樹脂を含むシートとの接着性にも優れるので、当該熱溶融性樹脂層を介して、上記フッ素樹脂を含むシートと上記ガラスクロスとを強固に接着させることができる。
【0053】
上記熱溶融性樹脂層には、熱溶融性樹脂のフィルム又はシートを使用してよい。上記熱溶融性樹脂としては、上記フッ素樹脂を含むシートに熱融着し得るものであればよく、上記フッ素樹脂の融点に近い融点を持つオレフィン系樹脂;PPS、PES、PEEK等の芳香族系樹脂;TFE-PAVE共重合体(PFA)、TFE-ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)等の熱溶融性フッ素樹脂等が挙げられる。これらのうち、上記フッ素樹脂と同様な性質を持ちしかも上記フッ素樹脂と接着性がよい点から熱溶融性フッ素樹脂、特にバッキングシート用としてはPFA、FEP等が好ましく、PFAがより好ましい。
【0054】
上記熱溶融性樹脂層の厚さは目的によって適宜選定すればよく、例えばバッキングシートにおける上記フッ素樹脂を含むシートと上記ガラスクロスとの接着層として用いる場合は約10~300μmとすればよい。
【0055】
本発明の積層体において、上記フッ素樹脂を含むシート、上記熱溶融性樹脂層及び上記ガラスクロスは、この順に積層されていることが好ましい。すなわち、上記フッ素樹脂を含むシートと上記ガラスクロスとが、上記熱溶融性樹脂層を介して接着していることが好ましい。上記熱溶融性樹脂層は上記フッ素樹脂を含むシートとの接着性にも、上記ガラスクロスとの接着性にも優れるので、上記のような積層順とすることで、上記フッ素樹脂を含むシートと上記熱溶融性樹脂層、及び、上記熱溶融性樹脂層と上記ガラスクロスとが強固に接着した積層体が得られる。目的に応じて、上記フッ素樹脂を含むシートと上記熱溶融性樹脂層との間に、未焼成PTFEの微粒子の層を設けてもよい。未焼成PTFEの微粒子の層を設ける場合、未焼成PTFEの溶融エネルギー(融解熱量)は65J/g以下であることが好ましい。溶融エネルギー(融解熱量)は、300℃以上の温度に加熱した履歴がないPTFEについて示差走査熱量計〔DSC〕を用いて10℃/分の速度で昇温したときの融解曲線において、324~347℃の範囲に少なくとも1つ以上の吸熱ピークが現れ、上記融解曲線から算出される290~350℃の溶融エネルギー(融解熱量)である。
ただし、上述のように、本発明の積層体は上記フッ素樹脂を含むシートと上記ガラスクロスとが充分強固に接着しているので、PTFE微粒子層を含まなくても問題はない。
【0056】
本発明の積層体においては、上記フッ素樹脂を含むシート、上記熱溶融性樹脂層及び上記ガラスクロスは、この順に積層され、上記フッ素樹脂を含むシートと上記熱溶融性樹脂層とが直接接着し、上記熱溶融性樹脂層と上記ガラスクロスとが直接接着していることがより好ましい。
【0057】
上記熱溶融性樹脂層と上記ガラスクロスとが接するように積層する場合、上記バルキー加工を施したガラスヤーンが、上記ガラスクロスの上記熱溶融性樹脂層と接する面に露出していることが好ましい。より好ましくは、上記接する面において上記バルキー加工を施したガラスヤーン間に上記熱溶融性樹脂が含浸した層が形成されることである。更に好ましくは、上記接する面において上記バルキー加工を施したガラスヤーン間及び上記バルキー加工を施したガラスヤーンを構成するガラスフィラメント間に上記熱溶融性樹脂が含浸した層が形成されることである。これらの構成により、上記ガラスクロスと上記熱溶融性樹脂層とが一層強固に接着する。上記熱溶融性樹脂が含浸した層は、例えば、加熱融着の際に、溶融した上記熱溶融性樹脂が上記ガラスヤーン間(及び上記ガラスフィラメント間)に含浸し、固化することにより形成される。
【0058】
本発明の積層体において、上記熱溶融性樹脂層と上記ガラスクロスとが接するように積層されており、上記ガラスクロスは、綾織で織られており、上記バルキー加工を施したガラスヤーンは、上記ガラスクロスの経糸及び緯糸の少なくとも一方に用いられており、上記ガラスクロスの上記熱溶融性樹脂層と接する面に露出していることは、特に好ましい態様の1つである。
【0059】
本発明の積層体において、上記バルキー加工を施したガラスヤーンは、ガラスフィラメントを撚り合わせて構成されており、上記ガラスクロスの上記熱溶融性樹脂層と接する面には、上記バルキー加工を施したガラスヤーン間及び上記ガラスフィラメント間に、上記熱溶融性樹脂が含浸した層を有することも、特に好ましい態様の1つである。
【0060】
本発明の積層体は、例えば、上記フッ素樹脂を含むシート、上記熱溶融性樹脂のフィルム又はシート及び上記ガラスクロスを重ねて配置し、加熱融着する方法により製造することができる。
【0061】
本発明の積層体の製造方法において、上記フッ素樹脂を含むシート、上記熱溶融性樹脂のフィルム又はシート及び上記ガラスクロスをこの順で積層する場合は、加熱を上記ガラスクロス側から行うことが好ましい。また、上記フッ素樹脂を含むシート中に溶融しない層が残っている時点で加熱を停止するのが好ましい。
【0062】
加熱温度は上記フッ素樹脂の融点以上であり、フッ素樹脂がPTFEの場合、例えば約360~400℃、好ましくは約360~390℃であり、この温度で上記フッ素樹脂中に溶融しない部分(層)が残った状態で停止することが好ましい。すなわち加える熱量を上記フッ素樹脂を含むシート中に結晶が残存する量とすればよい。結晶を完全に溶融してしまうと比重が大きく低下し、2.175を下回り、薬液透過性が大きくなるおそれがある。
【0063】
加熱時間は加熱温度、上記フッ素樹脂を含むシートの厚さ、上記熱溶融性樹脂の種類や厚さ、上記ガラスクロスの厚さ等によって異なり、実験的に選定するか、結晶化度等から計算により算出してもよい。例えば上記フッ素樹脂がPTFEでシートの比重が2.189で厚さが3mm、加熱温度が380℃の場合、3~5分間とすればよい。
【0064】
部分的に溶融しない部分が残存しているかどうかは、上記フッ素樹脂を含むシートの切断面を見れば分かる。すなわち、結晶化度の高い加熱前のシートは白色不透明であるが、結晶が溶融すると透明になる。したがって切断面は熱溶融性樹脂側に透明な部分(層)が存在し、非加熱面側には白色不透明な層が残存している状態となっている。
【0065】
加熱融着は、加熱ローラを用いて行うことが好ましい。
図1は、加熱ローラを用いた加熱融着方法の一例を模式的に示す図である。
図1に示すように、フッ素樹脂の融点以上に加熱された加熱ローラ4にフッ素樹脂シート1、熱溶融性樹脂フィルム又はシート2、ガラスクロス3の順に配された積層物をガラスクロス3が加熱ローラ4の表面に接するように巻き付け、押えローラ5で押しつけながら加熱融着させて連続的に製造する。
【0066】
加圧するときの圧力は、例えば約0.05~0.15MPa程度の範囲で選択すればよい。また、加熱後は圧力を解除し室温まで徐冷するのが結晶化度を高くする点で好ましい。基本的には押えローラ5は加熱する必要はないが、積層体の歪みを解消する点から上記フッ素樹脂の融点未満、好ましくは上記フッ素樹脂の融点から15~35℃低い温度に加熱してもよい。
【0067】
本発明の積層体は優れた層間接着性及び低薬液透過性を有しており、半導体製造分野をはじめ各種の貯蔵用又は輸送用容器、タンク、パイプライン等のライニング用のバッキングシートとして有用である。その他、フッ素樹脂の非粘着性、低摩擦性といった性質を利用した離型用途、摺動用途といった用途にも好適である。
【実施例】
【0068】
次に実施例を挙げて本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
【0069】
実施例1
図1において、390~400℃に加熱された加熱ローラ4に、回転焼成法(PCT/JP98/01116号明細書の実施例2に記載の方法)により焼成し切削して得たPTFEシート1(比重2.191のPAVE変性PTFEシート、幅1180mm、厚さ2.4mm)、PFAフィルム2(幅1180mm、厚さ0.1mm)、バルキー加工を施したバルキー率が111%のガラスヤーンを綾織することで作製されたガラスクロス3(幅1200mm、密度(縦)53本/25mm、密度(横)30本/25mm、質量320g/m
2、厚さ0.3mm)の順に配された積層物を加熱ローラ4の表面に接するように巻き付け、押えローラ5で押しつけながら加熱融着させて連続的(ライン速度80mm/min)に積層体を製造した。ガラスクロス3の写真を
図2に示す。
この積層体からPTFEシート幅方向に10等分し、幅30mm、長さ150mmのサンプルを切り出し、PTFEシート1とPFAフィルム2が一体化した樹脂層とガラスクロス3との接着強度(剥離強度)をJIS K 6772-9-5に従って測定したところ平均3.7kN/mであった。
接着強度試験後のガラスクロス側の剥離面を観察したところ、バルキー加工が施されたガラスヤーンを確認することができた。また、同剥離面のバルキー加工が施されたガラスヤーンの網目にPFA成分の残存を確認することができた。
また、PTFEシート全体の平均比重は2.175であった。PTFEシートの切断面を観察したところ、PFAフィルム側から約33%は溶融したために半透明となっていた。
【0070】
比較例1
実施例1において使用したバルキー加工が施されたガラスクロス3に代えて、バルキー加工されていないガラスヤーン(ストレートヤーン)を綾織することで作製されたガラスクロス3-2を使用した以外は実施例1と同様にして連続的に積層体を製造した。ガラスクロス3-2の写真を
図3に示す。
PTFEシート1とPFAフィルム2が一体化した樹脂層と、ガラスクロス3-2との接着強度(剥離強度)を実施例1と同様にして測定したところ、わずか1.7kN/mであった。
接着強度試験後のガラスクロス側の剥離面を観察したところ、バルキー加工されていないガラスヤーン(ストレートヤーン)のみを確認することができ、同ガラスヤーンの網目にPFA成分の残存を確認することができなかった。
【0071】
比較例2
実施例1において使用したPFAフィルム2を使用せず、PTFEシート1とバルキー加工が施されたガラスクロス3のみを使用した以外は、実施例1と同様にして連続的に積層体を製造した。
PTFEシート1とガラスクロス3の接着強度(剥離強度)を実施例1と同様にして測定したところ、わずか0.7kN/mであった。
接着強度試験後のガラスクロス側の剥離面を観察したところ、バルキー加工が施されたガラスヤーンを確認することができたが、同ガラスヤーンの網目にPTFE成分の残存を確認することができなかった。
【符号の説明】
【0072】
1:フッ素樹脂を含むシート
2:熱溶融性樹脂フィルム又はシート
3:ガラスクロス
4:加熱ローラ
5:押えローラ