(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-18
(45)【発行日】2022-11-29
(54)【発明の名称】廃リチウムイオン電池の処理装置及び処理方法
(51)【国際特許分類】
B09B 3/40 20220101AFI20221121BHJP
C22B 7/00 20060101ALI20221121BHJP
H01M 10/54 20060101ALI20221121BHJP
B09B 101/16 20220101ALN20221121BHJP
【FI】
B09B3/40
C22B7/00 C
H01M10/54
B09B101:16
(21)【出願番号】P 2018183335
(22)【出願日】2018-09-28
【審査請求日】2021-02-08
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000000240
【氏名又は名称】太平洋セメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106563
【氏名又は名称】中井 潤
(72)【発明者】
【氏名】中村 充志
(72)【発明者】
【氏名】市村 高央
(72)【発明者】
【氏名】石田 泰之
【審査官】柴田 啓二
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-187142(JP,A)
【文献】特開2017-131795(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B09B
C22B 7/00
H01M 10/54
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
廃リチウムイオン電池を収容する耐熱容器と、
該耐熱容器を加熱する熱処理炉と、
該熱処理炉に前記耐熱容器を投入及び排出する容器搬送装置と、
該容器搬送装置によって前記熱処理炉から排出された耐熱容器に冷却水を噴霧して冷却する冷却装置とを備えることを特徴とする廃リチウムイオン電池の処理装置。
【請求項2】
前記冷却装置内が負圧になるように制御する圧力制御装置を備えることを特徴とする請求項1に記載の廃リチウムイオン電池の処理装置。
【請求項3】
前記冷却装置の排ガスをセメントキルンの排ガス処理系統に供給する排ガス処理装置を備えることを特徴とする請求項1又は2に記載の廃リチウムイオン電池の処理装置。
【請求項4】
廃リチウムイオン電池を収容した耐熱容器を加熱し、
加熱後の耐熱容器に
のみ冷却水を噴霧して冷却することを特徴とする廃リチウムイオン電池の処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気自動車、ハイブリッド自動車等の電源として使用された廃リチウムイオン電池の処理装置及び処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン電池は、アルミ箔にリチウム、コバルト、ニッケル等を塗布した正極材と、銅箔に黒鉛等を塗布した負極材と、電解液と、セパレーター等で構成される。リチウムイオン電池は、リチウム、コバルト、ニッケル、銅、アルミニウム等の有価物を含むため、廃棄されたリチウム電池からこれらの有価物を回収することは、資源に乏しいわが国にとって極めて有益である。そこで、廃リチウムイオン電池から上記有価物を回収するため、焙焼、破砕又は粉砕、篩分け、選別等による分離回収が行われている。
【0003】
しかし、リチウムイオン電池の電解液には、電解質となるフッ素化合物(LiPF6等)が含まれており、LiPF6は水と反応すると加水分解して有毒なフッ化水素を発生する。そこで、廃リチウムイオン電池を処理する際に、特許文献1には、揮発性のフッ素化合物(LiPF6等)等を安全に処理するため、フッ素化合物を含む電解液の揮発成分を減圧下で加熱して気化させる気化工程、気化したガスに含まれるフッ素成分をカルシウムと反応させてフッ化カルシウムとして固定するフッ素固定工程等を備えるフッ素含有電解液の処理方法が記載されている。
【0004】
一方、特許文献2には、複数個のリチウムイオン電池セルが配列された電池モジュールが箱型筺体内に複数収納されてなる電池パックを排気口が設けられた耐熱容器に格納した後、耐熱容器を熱処理炉に投入して耐熱容器をその外側からアルミニウムの融点よりも低い温度で加熱することで、耐熱容器部の電池パックを乾留して炭化混合物を分離すると共に、電池内の電解液を揮発化して耐熱容器の排気口から熱処理炉内に排出させることで、極めて簡易な作業で廃リチウムイオン電池をリサイクル処理する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2013-229326号公報
【文献】特開2016-22395号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1及び特許文献2に記載の技術で加熱処理を行った後、大気下で自然冷却を行うと、加熱した廃リチウムイオン電池からはフッ化水素、塩化水素等を含む有害なガスが発生する可能性があるため安全面で課題が残る。また、自然冷却に長時間を要するため、効率的な処理の妨げになっていた。
【0007】
そこで、本発明は、上記従来の技術における問題点に鑑みてなされたものであって、安全かつ効率的に廃リチウムイオン電池を処理することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本発明は、廃リチウムイオン電池の処理装置であって、廃リチウムイオン電池を収容する耐熱容器と、該耐熱容器を加熱する熱処理炉と、該熱処理炉に前記耐熱容器を投入及び排出する容器搬送装置と、該容器搬送装置によって前記熱処理炉から排出された耐熱容器に冷却水を噴霧して冷却する冷却装置とを備えることを特徴とする。
【0009】
本発明によれば、熱処理炉から排出された耐熱容器に冷却装置で冷却水を噴霧して熱処理後の廃リチウムイオン電池を短時間で冷却することができ、効率的に廃リチウムイオン電池を処理することができる。
【0010】
上記廃リチウムイオン電池の処理装置において、前記冷却装置内が負圧になるように制御する圧力制御装置を備えることができ、これによって、フッ化水素、塩化水素等を含む有害ガスが冷却装置から放出されるのを防止することができる。
【0011】
また、前記冷却装置の排ガスをセメントキルンの排ガス処理系統に供給する排ガス処理装置を備えることができ、これによって、フッ化水素、塩化水素等を含む有害ガスをセメント製造工程内のセメント原料に固定化して無害化することができる。
【0012】
さらに、本発明は、廃リチウムイオン電池の処理方法であって、廃リチウムイオン電池を収容した耐熱容器を加熱し、加熱後の耐熱容器にのみ冷却水を噴霧して冷却することを特徴とする。本発明によれば、加熱後の耐熱容器にのみ冷却水を噴霧して熱処理後の廃リチウムイオン電池を短時間で冷却することができ、効率的に廃リチウムイオン電池を処理することができる。
【発明の効果】
【0013】
以上のように、本発明によれば、安全かつ効率的に廃リチウムイオン電池を処理することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明に係る廃リチウムイオン電池の処理装置の一実施の形態を示す全体横断面図である。
【
図2】本発明に係る廃リチウムイオン電池の処理装置の一実施の形態を示す全体縦断面図である。
【
図3】
図2のA矢視図であって、冷却装置及びその近傍を示す概略図である。
【
図4】本発明に係る廃リチウムイオン電池の処理装置で用いる耐熱容器を示す縦断面図である。
【
図5】熱処理炉に投入される直前の耐熱容器を示す横断面図である。
【
図6】熱処理炉に投入される直前の耐熱容器を示す縦断面図である。
【
図7】熱処理炉への耐熱容器の投入動作を説明するための概略図である。
【
図8】熱処理炉への耐熱容器の投入・排出動作を説明するための概略図である。
【
図9】熱処理炉への耐熱容器の投入・排出動作を説明するための概略図である。
【
図10】冷却装置及び熱処理炉への耐熱容器の投入・排出動作を説明するための概略図である。
【
図11】冷却装置からの耐熱容器の排出動作を説明するための概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
次に、本発明の一実施の形態について図面を参照しながら詳細に説明する。
【0016】
図1及び
図2に示すように、本発明に係る廃リチウムイオン電池の処理装置1は、複数個のリチウムイオン電池セルが配列された電池モジュールが箱型筐体内に複数収納された電池パック50に加熱処理を施して有用金属を回収するものであって、主に電池パック50を格納する複数の耐熱容器2と、熱処理炉3と、熱処理炉3に耐熱容器2を投入及び排出する容器搬送装置4と、熱処理後の耐熱容器2を冷却する冷却装置31等を備える。
【0017】
耐熱容器2は、
図4~
図6に示すように、容器本体2Aと蓋2Bとで構成され、少なくとも650℃の耐熱温度を有する。
【0018】
容器本体2Aは、上方に開口して円筒状に形成された内筒2aと、内筒2aよりも大径で内筒2aを囲繞するように配置された外筒2bと、内筒2a及び外筒2bの底面に配置された複数の車輪2cと、外筒2bの周面2dに固定された2本の取っ手2eと、外筒2bの周面2dから突出するハンガー2fとで構成される。
【0019】
一方、蓋2Bは、下方に開口する円筒状に形成された本体2nと、本体2nの周面に開口して斜め上方に突出する排気管2gと、本体2nの天井面2hに設けられた取っ手2mとで構成される。
【0020】
図1及び
図2に示すように、熱処理炉3は円筒状の縦型炉であり、4本のガスバーナー8(8A~8D)によって加熱される。ガスバーナー8の近傍にはノズル11(11A~11D)が設けられ、ファン(不図示)を介して送られる、燃焼用及び冷却用の空気Aが炉内に供給される。熱処理炉3の炉床17は、電動モータ(不図示)を備えた炉床回転装置19によって鉛直軸回りに回転し、位置決めセンサ(不図示)によって所定の位置に位置決めされる。排気管28の下流側には二次燃焼室、排気用の煙突等が設けられる
【0021】
熱処理炉3の炉壁7の一部には、上下に開閉式の炉体扉7bで外部と仕切られた開口部7aが形成される。開口部7aに対向する位置に、開口部7aから熱処理炉3内に耐熱容器2を投入すると共に、熱処理炉3内を一周した後の耐熱容器2を熱処理炉3から排出する容器搬送装置4が設けられる。
【0022】
容器搬送装置4は、
図1、
図2及び
図6に示すように、熱処理炉3の開口部7aと熱処理炉3の中心を結ぶ線上の方向(
図1では左右方向)に延びると共に、モーター18の正回転によって耐熱容器2に当接して耐熱容器2を熱処理炉3内に押し入れるプッシャー部4aと、耐熱容器2の容器本体2Aの外周に設けられたハンガー2fを係止する爪4cが先端に設けられ、モーター18の負回転によって耐熱容器2を熱処理炉3内から引っ張り出すプルアウト部4bを備えている。プッシャー部4aはプルアウト部4bの真上に配置される。
【0023】
開閉式の炉体扉7bに隣接して(
図1において左方)には炉前室23が設けられ、炉前室23に隣接して(
図3において右方)に冷却装置31が設けられる。熱処理炉3の接線方向(
図1では上下方向)に搬送装置29によって移動自在のスライドベース21が設置され、スライドベース21は、
図3において、炉前室23の左方空間と、開閉式の扉24、25を隔て炉前室23及び冷却装置31の間を移動可能に構成される。
【0024】
冷却装置31は、開閉式の扉25を隔てて炉前室23に隣接し、内部には、熱処理炉3から排出された耐熱容器2に冷却水を噴霧するための噴霧装置31a~31cを備える。噴霧装置31aは耐熱容器2の天井部に冷却水を噴霧し、噴霧装置31b、31cは耐熱容器2の側面に冷却水を噴霧する。また、噴霧した後の水を回収するための排水口31dが冷却装置31の底面に穿設される。
【0025】
また、冷却装置31の内部が負圧になるように制御する圧力制御装置が設けられ、圧力制御装置は、冷却装置31の内部の圧力を測定する圧力計と、冷却装置31の排ガスを吸引する吸引装置と、前記圧力計の測定値が負圧になるように吸引装置を制御するコントローラ等を備える。さらに、冷却装置31の排ガスをセメントキルンの排ガス処理系統に供給する排ガス処理装置(不図示)が設けられる。
【0026】
次に、上記構成を有する廃リチウムイオン電池の処理装置1を用いた廃リチウムイオン電池の処理方法について説明する。尚、以下の説明では、処理装置1によってハイブリッド自動車や電気自動車等から取外されたままの電池パック50を処理する場合を例示する。
【0027】
熱処理炉3の内部の温度を650℃に昇温し、クレーン等(不図示)を使用して、
図7に示すように、電池パック50を格納した耐熱容器2Nをスライドベース21の右端部に載置する。扉24を開放した後、搬送装置29を介してスライドベース21を右方に移動させ、耐熱容器2を炉体扉7bの正面まで移動させた後、扉24を閉じて炉体扉7bを開放し、容器搬送装置4のプッシャー部4aを前進させて耐熱容器2Nを熱処理炉3内に投入する。これにより、耐熱容器2Nは熱処理炉3の炉床17上、
図1では9時の位置に載置される。
【0028】
容器搬送装置4のプッシャー部4aを後退させた後、炉体扉7bを閉鎖し、炉床回転装置19を介して炉床17を45゜左回転させる。この45゜の回転は、特に限定されるものではないが、例えば、37.5分毎に炉床17を45゜ずつ回転させることで、5時間で炉床17が1回転するように設定している。
【0029】
上記動作を7回繰り返すことで、熱処理炉3の炉床17上には、
図1に示したように、隣接する耐熱容器2が一定の間隔を開けた状態で8個の耐熱容器2が環状に載置される。
【0030】
上記動作の間、耐熱容器2は熱処理炉3内で1周する間に外側から加熱されることで、耐熱容器2内は還元雰囲気となり、耐熱容器2に格納された電池パック50の樹脂製の筐体等のプラスチック類は乾留により炭化混合物としてリチウム、コバルト、ニッケル、マンガン等の有用金属が含まれた材料から分離された状態となっている。尚、耐熱容器2はアルミニウムの融点(660℃)よりも低い温度(650℃)で加熱されるので電池パック50内で使用されたアルミニウム成分が溶け出すことはない。また、電池内の電解液は揮発し、プラスチック等の可燃性物質が熱分解することによって発生したガスと共に、耐熱容器2の排気管2gから熱処理炉3内に排出される。熱処理炉3内の未燃焼ガスは二次燃焼室に導かれ、熱処理炉3の温度(650℃)よりも高い温度(800℃)で燃焼する。
【0031】
耐熱容器2が熱処理炉3内で1周する前に、
図8に示すように、電池パック50を格納した新たな耐熱容器2Nを左端部に載置したスライドベース21の右半分を炉前室23に挿入する。この際、扉24は閉じられている。
【0032】
耐熱容器2が熱処理炉3内で1周すると、炉体扉7bを開放して容器搬送装置4のプルアウト部4bを耐熱容器2の位置まで前進させ、
図6に示すように、プルアウト部4b先端に設けられた爪4cを、耐熱容器2に設けられたハンガー2fに係止させる。そして、プルアウト部4bを後退させ、
図9に示すように、熱処理後の耐熱容器2Tを熱処理炉3から引き出してスライドベース21上に載置し、炉体扉7bを閉鎖する。
【0033】
次に、扉24、25を開放した後、スライドベース21を右方に移動し、電池パック50を格納した新たな耐熱容器2Nを炉体扉7bの正面まで移動させると共に、熱処理済みの耐熱容器2Tを冷却装置31に移動させて扉24、25を閉じる。この状態を
図10に示す。
【0034】
図10の状態から、新たな耐熱容器2Nを上述の要領で熱処理炉3内に投入して加熱すると共に、熱処理済みの耐熱容器2Tを冷却装置31で冷却する。冷却装置31において、噴霧装置31aによって耐熱容器2Tの天井部に冷却水を噴霧し、噴霧装置31b、31cによって耐熱容器2Tの側面に冷却水を噴霧する。噴霧した後の水は、排水口31dから回収する。従来の自然冷却では650℃程度まで加熱した電池パック50を150℃程度まで冷却するのに6時間程度を要したが、この冷却水の噴霧による冷却により、1時間程度、すなわち従来の1/6程度で冷却工程が完了する。また、電池パック重量や加熱温度が変化した場合でも、水の噴霧量を調整することで冷却工程を短縮することが可能である。
【0035】
次に、扉24、25を開放した後、冷却済みの耐熱容器2Cが載置されたスライドベース21を左方に移動させ、クレーン等で次工程へ搬送する。
【0036】
冷却後の加熱処理済みの耐熱容器2Cは、内部の電池パック50を破砕、分級して炭化混合物を取り除いた後、リチウム、コバルト、ニッケル、マンガン等の有用金属をさらに分離する処理が行われる。また、電池パック50の破砕物を磁選機にかけて、鉄筐体、ねじ等の磁着物と、銅とアルミニウムからなるミックメタルに分離し、ミックメタルを比重選別してアルミ塊及び銅塊と、銅箔及びアルミ箔の積層物とに分けた後、選別機でさらに銅箔とアルミ箔とに分けることができる。
【0037】
また、冷却装置31からのフッ化水素、塩化水素等を含む有害ガスは、排ガス処理装置によってセメントキルンの排ガス処理系統に供給し、セメント製造工程内のセメント原料に固定化して無害化する。
【0038】
尚、熱処理炉3は、炉床17が回転するものでなくてもよく、バッチ式のものでも適用可能である。また、熱源として電気や重油を使用した各種炉を使用することもでき、既存の製造設備、例えば、セメント焼成装置からの排ガスを熱源として用いてもよい。
【0039】
また、本実施の形態では、電池パック50を電池セルを個々に取外すことなくそのままの状態のものに対して加熱処理したが、電池パック50から分解した電池モジュール単位のものや、電池セルを個々に取外したものを格納した耐熱容器2を熱処理炉3に投入して加熱処理してもよい。
【符号の説明】
【0040】
1 廃リチウムイオン電池の処理装置
2 耐熱容器
3 熱処理炉
4 容器搬送装置
7 炉壁
8(8A~8D) ガスバーナー
11(11A~11D) ノズル
17 炉床
18 モーター
19 炉床回転装置
21 スライドベース
23 炉前室
24、25 扉
29 搬送装置
31 冷却装置
50 電池パック