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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-18
(45)【発行日】2022-11-29
(54)【発明の名称】有機化合物及び有機発光素子
(51)【国際特許分類】
   C07C 13/62 20060101AFI20221121BHJP
   C07C 255/50 20060101ALI20221121BHJP
   C07D 215/04 20060101ALI20221121BHJP
   C07D 333/76 20060101ALI20221121BHJP
   C07C 25/13 20060101ALI20221121BHJP
   H01L 51/50 20060101ALI20221121BHJP
   H05B 33/12 20060101ALI20221121BHJP
   C09K 11/06 20060101ALI20221121BHJP
【FI】
C07C13/62 CSP
C07C255/50
C07D215/04
C07D333/76
C07C25/13
H05B33/14 B
H05B33/12 E
C09K11/06 610
【請求項の数】 20
(21)【出願番号】P 2018187928
(22)【出願日】2018-10-03
(65)【公開番号】P2020055779
(43)【公開日】2020-04-09
【審査請求日】2021-09-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110870
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 芳広
(74)【代理人】
【識別番号】100096828
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 敬介
(72)【発明者】
【氏名】西出 洋祐
(72)【発明者】
【氏名】宮下 広和
(72)【発明者】
【氏名】山田 直樹
(72)【発明者】
【氏名】鎌谷 淳
【審査官】早乙女 智美
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-139426(JP,A)
【文献】特開2012-149012(JP,A)
【文献】特開2000-034234(JP,A)
【文献】特開2013-067586(JP,A)
【文献】特開2013-047195(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C
H05B
C09K11/06
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で示されることを特徴とする有機化合物。
【化1】
[式(1)において、R1乃至R24は、水素原子、ハロゲン原子、置換あるいは無置換の炭素原子数1乃至10のアルキル基、置換あるいは無置換の炭素原子数1乃至10のアルコキシ基、置換あるいは無置換のアミノ基、置換あるいは無置換の炭素原子数6乃至18のアリール基、置換あるいは無置換の炭素原子数3乃至15の複素環基、置換あるいは無置換のアリールオキシ基、シリル基及びシアノ基からそれぞれ独立に選ばれる。]
【請求項2】
前記R1乃至R24は、水素原子、置換あるいは無置換の炭素原子数1乃至10のアルキル基及び置換あるいは無置換の炭素原子数6乃至18のアリール基からそれぞれ独立に選ばれることを特徴とする請求項1に記載の有機化合物。
【請求項3】
前記R7、R8、R13、R18、R23及びR24から選ばれる少なくとも1つは、ハロゲン原子、置換あるいは無置換の炭素原子数1乃至10のアルキル基、置換あるいは無置換の炭素原子数1乃至10のアルコキシ基、置換あるいは無置換のアミノ基、置換あるいは無置換の炭素原子数6乃至18のアリール基、置換あるいは無置換の炭素原子数3乃至15の複素環基、置換あるいは無置換のアリールオキシ基、シリル基及びシアノ基からそれぞれ独立に選ばれることを特徴とする請求項1に記載の有機化合物。
【請求項4】
前記R7、R8、R13、R18、R23及びR24から選ばれる少なくとも1つは、置換あるいは無置換の炭素原子数1乃至10のアルキル基及び置換あるいは無置換の炭素原子数6乃至18のアリール基からそれぞれ独立に選ばれることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載の有機化合物。
【請求項5】
前記R7、R8、R13、R18、R23及びR24から選ばれる少なくとも1つは、置換基を有する、炭素原子数6乃至18のアリール基であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一項に記載の有機化合物。
【請求項6】
前記アリール基はオルト位に置換基を有することを特徴とする請求項5に記載の有機化合物。
【請求項7】
前記R7、R8、R13、R18、R23及びR24から選ばれる少なくとも1つは、置換あるいは無置換のフェニル基であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一項に記載の有機化合物。
【請求項8】
前記R7、R8、R13、R18、R23及びR24から選ばれる少なくとも1つは、R7、R8のいずれか一方とR23、R24のいずれか一方であることを特徴とする請求項3乃至7のいずれか一項に記載の有機化合物。
【請求項9】
陽極と陰極と、前記陽極と前記陰極との間に配置される有機化合物層と、を有し、前記有機化合物層は、請求項1乃至8のいずれか一項に記載の有機化合物を含有する層を有することを特徴とする有機発光素子。
【請求項10】
前記有機化合物を含有する層は発光層であることを特徴とする請求項9に記載の有機発光素子。
【請求項11】
赤色発光することを特徴とする請求項10に記載の有機発光素子。
【請求項12】
前記発光層と積層して配置される別の発光層を更に有し、前記別の発光層は、前記発光層が発する発光色とは異なる色を発光することを特徴とする請求項10に記載の有機発光素子。
【請求項13】
白色発光することを特徴とする請求項12に記載の有機発光素子。
【請求項14】
複数の画素を有し、前記画素が、請求項9乃至13のいずれか一項に記載の有機発光素子と、前記有機発光素子に接続された能動素子と、を有することを特徴とする表示装置。
【請求項15】
画像情報を入力するための入力部と、画像を出力するための表示部と、を有し、
前記表示部が、請求項14に記載の表示装置を有することを特徴とする画像表示装置。
【請求項16】
複数のレンズを有する光学部と、前記光学部を通過した光を受光する撮像素子と、表示部と、を有し、
前記表示部は、前記撮像素子が撮像した情報を表示する表示部であり、前記表示部は請求項14に記載の表示装置を有することを特徴とする撮像装置。
【請求項17】
筐体と、外部と通信する通信部と、表示部とを有し、
前記表示部は請求項14に記載の表示装置であることを特徴とする電子機器。
【請求項18】
光源と、光拡散部または光学フィルタと、を有する照明装置であって、
前記光源は、請求項9乃至13のいずれか一項に記載の有機発光素子を有することを特徴とする照明装置。
【請求項19】
請求項9乃至13のいずれか一項に記載の有機発光素子と、前記有機発光素子に接続されている電源回路とを有することを特徴とする照明装置。
【請求項20】
機体と、前記機体に設けられている灯具を有し、
前記灯具は、請求項9乃至13のいずれか一項に記載の有機発光素子を有することを特徴とする移動体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機化合物及びこれを用いた有機発光素に関する。
【背景技術】
【0002】
有機発光素子(有機エレクトロルミネッセンス素子(有機EL素子))は、一対の電極とこれら電極間に配置される有機化合物層とを有する電子素子である。これら一対の電極から電子及び正孔を注入することにより、有機化合物層中の発光性有機化合物の励起子を生成し、該励起子が基底状態に戻る際に、有機発光素子は光を放出する。
有機発光素子の最近の進歩は著しく、低駆動電圧、多様な発光波長、高速応答性、発光デバイスの薄型化・軽量化が可能であることが挙げられる。
また、ディスプレイに用いられる色再現範囲として、sRGBやAdobeRGBの規格が用いられ、それを再現する材料が求められてきたが最近ではさらに色再現範囲を広げる規格としてBT-2020が挙げられている。
ところで、現在までに発光性の有機化合物の創出が盛んに行われている。高性能の有機発光素子を提供するにあたり、発光特性の優れた化合物の創出が重要であるからである。
これまでに創出された化合物として、特許文献1に基本骨格として記載されている下記化合物1-Aまたは特許文献2に基本骨格として記載されている下記化合物1-Bがある。
【0003】
【化1】
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2000-34234号公報
【文献】特開2013-139426号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
化合物1-A、化合物1-Bは、本発明者らが調べたところ、後述するように赤色発光である。
しかし、特許文献1及び特許文献2に記載の化合物を用いた有機発光素子はBT-2020の色再現範囲における赤の色度座標を再現することが困難であり、さらに長波長で赤発光する化合物が求められる。
本発明は、上記課題を解決するためになされるものであり、その目的は、より長波長発光の赤色発光を出力する、有機化合物を提供することである。また本発明の他の目的は、発光効率と駆動耐久に優れる有機発光素子を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の有機化合物は、下記一般式(1)で示されることを特徴とする。
【0007】
【化2】
[式(1)において、R1乃至R24は、水素原子、ハロゲン原子、置換あるいは無置換の炭素原子数1乃至10のアルキル基、置換あるいは無置換の炭素原子数1乃至10のアルコキシ基、置換あるいは無置換のアミノ基、置換あるいは無置換の炭素原子数6乃至18のアリール基、置換あるいは無置換の炭素原子数3乃至15の複素環基、置換あるいは無置換のアリールオキシ基、シリル基及びシアノ基からそれぞれ独立に選ばれる。]
【発明の効果】
【0008】
本発明に係る有機化合物は、色純度の高い赤色発光が可能である。また本発明に係る有機化合物は、昇華性を有するため、高純度化が可能であり、発光効率が高く、駆動耐久に優れる有機発光素子を提供することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本実施形態に係る表示装置の一例を示す断面模式図である。
図2】本実施形態に係る表示装置の一例を表す模式図である。
図3】本実施形態に係る表示装置の一例を表す模式図である。
図4】本実施形態に係る撮像装置の一例を表す模式図である。
図5】本実施形態に係る携帯機器の一例を表す模式図である。
図6】本実施形態に係る照明装置の一例を示す模式図である。
図7】本実施形に係る移動体の一例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
≪有機化合物≫
まず本実施形態に係る有機化合物について説明する。本実施形態に係る有機化合物は、下記一般式(1)で示される。
【0011】
【化3】
【0012】
式(1)において、R1乃至R24は、水素原子、ハロゲン原子、置換あるいは無置換の炭素原子数1乃至10のアルキル基、置換あるいは無置換の炭素原子数1乃至6のアルコキシ基、置換あるいは無置換のアミノ基、置換あるいは無置換の炭素原子数6乃至18のアリール基、置換あるいは無置換の炭素原子数3乃至15の複素環基、置換あるいは無置換のアリールオキシ基、シリル基及びシアノ基からそれぞれ独立に選ばれる。R1乃至R24は、好ましくは、水素原子、置換あるいは無置換の炭素原子数1乃至10のアルキル基及び置換あるいは無置換の炭素原子数6乃至18のアリール基からそれぞれ独立に選ばれる。R1乃至R24は、より好ましくは、水素原子及び置換あるいは無置換の炭素原子数6乃至18のアリール基からそれぞれ独立に選ばれる。
【0013】
尚、本明細書において基本骨格とは、一般式(1)に示す化合物のR1乃至R24がすべて水素原子である骨格である。
【0014】
1乃至R24で表されるハロゲン原子として、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0015】
1乃至R24で表される炭素原子数1乃至10のアルキル基として、メチル基、エチル基、ノルマルプロピル基、イソプロピル基、ノルマルブチル基、ターシャリーブチル基、セカンダリーブチル基、オクチル基、シクロヘキシル基、1-アダマンチル基、2-アダマンチル基等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。好ましくは、炭素原子数1乃至4のアルキル基である。
【0016】
1乃至R24で表される炭素原子数1乃至8のアルコキシ基として、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、2-エチル-ヘキシルオキシ基、ベンジルオキシ基等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0017】
1乃至R24で表されるアミノ基として、N-メチルアミノ基、N-エチルアミノ基、N,N-ジメチルアミノ基、N,N-ジエチルアミノ基、N-メチル-N-エチルアミノ基、N-ベンジルアミノ基、N-メチル-N-ベンジルアミノ基、N,N-ジベンジルアミノ基、アニリノ基、N,N-ジフェニルアミノ基、N,N-ジナフチルアミノ基、N,N-ジフルオレニルアミノ基、N-フェニル-N-トリルアミノ基、N,N-ジトリルアミノ基、N-メチル-N-フェニルアミノ基、N,N-ジアニソリルアミノ基、N-メシチル-N-フェニルアミノ基、N,N-ジメシチルアミノ基、N-フェニル-N-(4-ターシャリブチルフェニル)アミノ基、N-フェニル-N-(4-トリフルオロメチルフェニル)アミノ基、N-ピペリジル基等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0018】
1乃至R24で表される炭素原子数6乃至18のアリール基として、フェニル基、ナフチル基、インデニル基、ビフェニル基、ターフェニル基、フルオレニル基、フェナントリル基、トリフェニレニル基等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0019】
1乃至R24で表される炭素原子数3乃至15の複素環基として、ピリジル基、オキサゾリル基、オキサジアゾリル基、チアゾリル基、チアジアゾリル基、カルバゾリル基、アクリジニル基、フェナントロリル基、ジベンゾフラニル基、ジベンゾチオフェニル基等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0020】
1乃至R24で表されるアリールオキシ基として、フェノキシ基、チエニルオキシ基等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0021】
1乃至R24で表されるシリル基として、トリメチルシリル基、トリフェニルシリル基等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0022】
上記アルキル基、アルコキシ基、アミノ基、アリール基、複素環基、アリールオキシ基がさらに有してもよい置換基として、メチル基、エチル基、ノルマルプロピル基、イソプロピル基、ノルマルブチル基、ターシャリーブチル基等のアルキル基、ベンジル基等のアラルキル基、フェニル基、ビフェニル基等のアリール基、ピリジル基、ピロリル基等の複素環基、ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基、ジベンジルアミノ基、ジフェニルアミノ基、ジトリルアミノ基等のアミノ基、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基等のアルコキシ基、フェノキシ基等のアリールオキシ基、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素等のハロゲン原子、シアノ基等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。好ましくは、ハロゲン原子、置換あるいは無置換の炭素原子数1乃至10のアルキル基、置換あるいは無置換の炭素原子数6乃至12のアリール基、置換あるいは無置換の炭素原子数3乃至9の複素環基、シアノ基である。
【0023】
ところで本実施形態に係る有機化合物において、基本骨格に水素原子以外の基、すなわちハロゲン原子、置換あるいは無置換の炭素原子数1乃至10のアルキル基、置換あるいは無置換の炭素原子数1乃至6のアルコキシ基、置換あるいは無置換のアミノ基、置換あるいは無置換の炭素原子数6乃至18のアリール基、置換あるいは無置換の炭素原子数3乃至15の複素環基、置換あるいは無置換のアリールオキシ基、シリル基またはシアノ基を導入すると、濃度消光を抑制し、昇華時には昇華性の向上、塗布で使用する際は溶媒溶解性の向上した化合物を得ることができる。
【0024】
次に、本実施形態に係る有機化合物の合成方法を説明する。本実施形態に係る有機化合物は、例えば、下記に示す反応スキームに従って合成される。
【0025】
【化4】
【0026】
上記合成スキームにて示されるように、本実施形態に係る有機化合物は、下記(a)乃至(d)に示される化合物を原料として合成されるものである。
(a)アセナフテンキノン誘導体(D1)
(b)ジベンジルケトン誘導体(D2)
(c)ベンゾフルオランテン誘導体(D3)
(d)ナフタレン誘導体(D4)
【0027】
ここで上記(a)乃至(d)に示される化合物に適宜置換基を導入することにより、一般式(1)中のR1乃至R24のいずれかが水素原子から水素原子以外の所定の基に置換されることになる。また上記合成スキームにおいて、D1乃至D4をそれぞれ変えることで種々の有機化合物を合成することができる。
【0028】
次に、本実施形態に係る有機化合物は、以下のような特徴を有するため、色純度の高い赤発光を呈する安定な化合物となり、さらにこの有機化合物を用いることで、発光効率が高く素子耐久に優れる有機発光素子を提供することもできる。なお、本実施形態に係る有機化合物の基本骨格は、電子不足系のπ共役を有しているため、HOMO及びLUMOが低くなり、電子の受領性が高い。
(1)基本骨格自体の発光波長が色純度の高い赤色領域にある
(2)遷移双極子モーメントが高いため、量子収率が高い
(3)反応性の高いSP 2 炭素を有していないため、熱安定性が高い
【0029】
以下、これらの特徴について説明する。
【0030】
尚、表2乃至表3に記載の分子構造の、S1(一重項励起状態)波長、振動子強度、二面角の計算値は以下の分子軌道計算を用いた。
【0031】
分子軌道計算法の計算手法は、現在広く用いられている密度汎関数法(Density Functional Theory,DFT)を用いた。汎関数はB3LYP、基底関数は6-31G*を用いた。尚、分子軌道計算法は、現在広く用いられているGaussian09(Gaussian09,RevisionC.01,M.J.Frisch,G.W.Trucks,H.B.Schlegel,G.E.Scuseria,M.A.Robb,J.R.Cheeseman,G.Scalmani,V.Barone,B.Mennucci,G.A.Petersson,H.Nakatsuji,M.Caricato,X.Li,H.P.Hratchian,A.F.Izmaylov,J.Bloino,G.Zheng,J.L.Sonnenberg,M.Hada,M.Ehara,K.Toyota,R.Fukuda,J.Hasegawa,M.Ishida,T.Nakajima,Y.Honda,O.Kitao,H.Nakai,T.Vreven,J.A.Montgomery,Jr.,J.E.Peralta,F.Ogliaro,M.Bearpark,J.J.Heyd,E.Brothers,K.N.Kudin,V.N.Staroverov,T.Keith,R.Kobayashi,J.Normand,K.Raghavachari,A.Rendell,J.C.Burant,S.S.Iyengar,J.Tomasi,M.Cossi,N.Rega,J.M.Millam,M.Klene,J.E.Knox,J.B.Cross,V.Bakken,C.Adamo,J.Jaramillo,R.Gomperts,R.E.Stratmann,O.Yazyev,A.J.Austin,R.Cammi,C.Pomelli,J.W.Ochterski,R.L.Martin,K.Morokuma,V.G.Zakrzewski,G.A.Voth,P.Salvador,J.J.Dannenberg,S.Dapprich,A.D.Daniels,O.Farkas,J.B.Foresman,J.V.Ortiz,J.Cioslowski,and D.J.Fox,Gaussian,Inc.,Wallingford CT,2010.)により実施した。
【0032】
(1)基本骨格自体の発光波長が色純度の高い赤色領域にある
本発明者らは、式(1)に示される有機化合物を発明するにあたり、基本骨格それ自体に注目した。具体的には、基本骨格のみの分子が有する発光波長が所望の発光波長領域に収まるものを提供することを試みた。本実施形態において、所望の発光波長領域とは色純度の高い赤色領域のことであり、具体的には希薄溶液中では最大発光波長が595nm以上630nm以下の帯域内にあることである。
【0033】
次に、本発明の有機化合物に類似する構造を有する比較化合物を比較対照して挙げながら、本発明に係る有機化合物の基本骨格の性質を説明する。具体的には、比較化合物として下記式(2)、(3)にそれぞれ示される化合物を挙げる。一方、本発明に係る有機化合物の1つとして、式(1)で示される基本骨格を有しR1乃至R7、R9乃至R22、R24が水素原子、R8、R23がフェニル基である例示化合物A2を挙げる。
【0034】
【化5】
【0035】
本発明者らは、比較化合物(2)および比較化合物(3)と本発明の例示化合物A2との実測の最大発光波長の比較を行った。結果を表1に示す。尚、発光波長の測定は、日立製F-4500を用い、室温下、励起波長350nmにおける希釈トルエン溶液のフォトルミネッセンス測定により行った。
【0036】
【表1】
【0037】
表1より、比較化合物(2)及び(3)の最大発光波長は所望の帯域内にはない。一方で、例示化合物Aは、所望の帯域内に最大発光波長を有するため、ディスプレイの規格の赤色に適した発光色を示す。基本骨格自体である例示化合物A1でも同様である。よって、本発明の基本骨格は色純度の高い赤色発光を呈することが可能である。赤の色度座標については実施例にて詳細に説明する。
【0038】
(2)遷移双極子モーメントが高いため、量子収率が高い
一般的に、基本骨格の分子量が増加すると昇華温度が向上し、分解温度に近くなるため、分解が起こりやすくなる。そのため、できるだけ分子量を増加させず発光波長を長波長化させる必要があった。また、発光効率に係るパラメータとして、振動子強度がある。高い発光効率を有するためには、高い振動子強度が必要である。したがって、基本骨格の共役拡張による発光波長の長波長化のために、縮環の数を増やすことが必要であったが、本発明者らは縮環の拡張位置に着目した。
【0039】
比較化合物a~c、本発明の例示化合物A2について、分子軌道計算を用いてS1(一重項励起状態)波長及び振動子強度を比較した。その結果を表2に示す。なお、比較化合物(2)及び(3)のS1波長、振動子強度がそれぞれ、580nm、1.3及び576nm、1.3であったため、S1波長に関しては580nm以上を〇、580nm未満を×、振動子強度に関しては、1.3以上が〇、1.3未満が×とした。
【0040】
【表2】
【0041】
表2より、例示化合物A2及び比較化合物aのように、分子軸に対して一番長い方向にベンゼンを縮合化すると長波長化の効果が大きく、量子収率に影響する振動子強度も高いことが分かった。本発明の骨格は分子軸に対して一番長い方向に遷移双極子モーメントを有しており、ベンゼンを縮合化する場合はこの方向に伸ばすことが遷移双極子モーメントを大きくする効果が大きいことによると考えられる。
【0042】
(3)反応性の高いSP2炭素を有していないため、熱安定性が高い
表2に示すように、S1波長と振動子強度を満たした比較化合物aと例示化合物A2を合成し昇華精製を行ったところ、比較化合物aは昇華精製前後で一部分解するのに対し、例示化合物A2は分解しなかった。なお、分解の有無は液体クロマトグラフィー分析により行った。この結果は、比較化合物aの熱安定性が低いことを示しており、これは基本骨格に含有されるアントラセン構造内に反応性の高いSP2炭素を有するためである。一方で、本発明の例示化合物A2は、基本骨格に反応性の高いSP2炭素を有していないため、熱安定性が高い。分解を生じない安定な昇華精製は、材料の高純度化や、蒸着による有機発光素子の作製を可能にする。これにより、有機電界発光素子中に含まれる不純物を減少することができ、不純物による発光効率の低下、駆動耐久の低下を招くことを防ぐことができる。
【0043】
以上より、本発明に係る化合物は、発光波長の長波長化、高効率及び昇華安定性を兼ね備えた発明である。これらを、有機電界発光素子に用いることで高色純度、高効率の赤色発光特性、優れた駆動耐久が得られる。さらに、例えば、ディスプレイとして用いた場合に深い赤色を再現することができる。
【0044】
以下、さらに本発明に係る化合物の好ましい態様の特徴について説明する。
(4)R7、R8、R13、R18、R23、R24のいずれかに水素原子以外の基を有する
(5)分子平面を覆うような基を有する
以下、これらについて説明する。
【0045】
(4)R7、R8、R13、R18、R23、R24のいずれかに水素原子以外の基を有する
本発明に係る有機化合物は、R1乃至R24に水素原子以外の基を導入することで分子間の重なりによる分子自体の結晶性をある程度抑えることが可能である。結晶性を抑えるということは、分子間の濃度消光の抑制や昇華性の向上につながる。本発明に係る有機化合物は、長波長化のため、平面性が高く、R1乃至R24が全て水素原子であると分子間の重なりが生じ易い。そのため、効果的に抑制できる置換位置について説明する。
【0046】
表3に、R1乃至R24の各箇所がフェニル基である場合のフェニル基と基本骨格の二面角、つまり捻じれの度合いを示した。置換位置R7、R8、R13、R18、R23、R24の場合は、フェニル基のオルト位の水素と基本骨格の水素との立体反発が大きい為、二面角が大きい。そのため、分子全体の平面性は崩れる。この効果は分子間の重なりを防ぎ、結晶性を抑え、分子間の濃度消光の抑制や昇華性の向上につながる。
【0047】
【化6】
【0048】
【表3】
【0049】
よって、R7、R8、R13、R18、R23及びR24から選ばれる少なくとも1つ、好ましくはR7、R8のいずれか一方とR23、R24のいずれか一方に、水素原子以外の基、好ましくは嵩高い基または嵩高い置換基を有する基を導入することが好ましい。尚、水素原子以外の基とは、ハロゲン原子、置換あるいは無置換の炭素原子数1乃至10のアルキル基、置換あるいは無置換の炭素原子数1乃至10のアルコキシ基、置換あるいは無置換のアミノ基、置換あるいは無置換の炭素原子数6乃至18のアリール基、置換あるいは無置換の炭素原子数3乃至15の複素環基、置換あるいは無置換のアリールオキシ基、シリル基またはシアノ基であり、好ましくは置換あるいは無置換の炭素原子数1乃至10のアルキル基または置換あるいは無置換の炭素原子数6乃至18のアリール基である。
【0050】
(5)分子平面を覆うような基を有する
水素原子以外の基として具体的には、炭素原子数1乃至10のアルキル基の場合にはメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ヘキシル基、オクチル基などが好ましいが、特に立体的に大きいイソプロピル基やターシャリブチル基が好ましい。炭素原子数6乃至18のアリール基の場合、フェニル基、ナフチル基等のアリール基が好ましいが分子量が小さいフェニル基が昇華性の観点で好ましく、メチル基、イソプロピル基、ターシャリブチル基といった置換基を有するフェニル基のようなアリール基が好ましい。また、水素原子以外の基が、フッ素原子やフッ素原子を有するアリール基もこの点で好ましい。また、液体に含ませて所定位置に配置(塗布)し、溶媒をその後除去する方法に用いる際には膜性の向上にもつながるので水素原子以外の基を導入することが好ましい。
【0051】
さらに、改善する効果として、本発明者らは、π共役平面を遮蔽するような基を導入することを試みた。その結果、表4に示すように、R7、R8、R13、R18、R23及びR24から選ばれる少なくとも1つとして導入された、フェニル基のオルト位にメチル基を有するオルトトリル体やフェニル基を有するオルトビフェニル体等のオルト位に置換基を有するアリール基が基本骨格のπ共役平面を覆い、分子間の重なりを抑制できることを見出した。その効果はメチル基よりフェニル基の方がπ共役平面蔽が大きく、分子間の重なりを抑制できる。
【0052】
【表4】
【0053】
以上より、本発明に係る有機化合物は、条件(5)を満たす場合に、昇華温度と熱分解温度の差が広く、昇華性に優れる化合物である。
【0054】
以上より、本発明に係る有機化合物は、上記(1)乃至(3)の性質を有する化合物であるため、比較化合物と比較して、基本骨格自体の発光波長が赤色であり、かつ昇華性を維持した有機化合物となる。さらに、(4)及び(5)の性質を有する化合物となることで、分子間の重なりを抑制し、昇華性の向上や濃度消光を抑制することができる化合物となる。そして、これを用いることで、高効率で素子耐久性の高い、色純度の高い赤色発光を示す有機発光素子を得ることができる。
【0055】
本発明に係る有機化合物の具体例を以下に示す。しかし、本発明はこれらに限られるものではない。
【0056】
【化7】
【0057】
【化8】
【0058】
【化9】
【0059】
上記例示化合物のうち、A1乃至A11、C1乃至C12の化合物は、分子全体がSP2混成軌道の炭素と水素のみで構成されている。ここでSP2混成軌道の炭素と水素のみで構成される化合物は、一般的にHOMOエネルギーレベルが低い。従って、A1乃至A11、C1乃至C12の化合物は酸化電位が低い、即ち、酸化に対して安定である化合物である。従って、本実施形態に係る化合物のうち、SP2混成軌道の炭素と水素のみで構成されている有機化合物、即ち、A1乃至A11、C1乃至C12の化合物は、分子の安定性が高いので好ましい。またA1乃至A11、C1乃至C12の化合物は、端的には、発光層ホスト材料や輸送層、注入層に使用することもできる。
【0060】
上記例示化合物のうち、A12乃至A18、B群、C13乃至C21に属するものはR1乃至R24としてまたはR1乃至R24が有する置換基として、アルキル基、フッ素、アルコキシ基、アミノ基、炭素数が7以上の複素環基、含窒素系の複素環基、アリールオキシ基、シリル基またはシアノ基を導入した例である。アルキル基またはフッ素を導入した化合物は分子間のスタッキングが回避され、昇華、あるいは蒸着開始温度が低下し、発光層ゲスト材料として用いた場合、濃度消光を抑えることができる。また、化合物の溶解度が向上するため、塗布用の材料として用いることができる。アルコキシ基またはアリールオキシ基、シリル基を導入した化合物は同様に濃度消光を抑える効果がある他、塗布用の材料として用いることができる。含窒素系の複素環基またはシアノ基を導入した化合物は基本骨格に対して電子を吸引する効果が働き、本発明に係る化合物の中でもHOMOエネルギーレベルが低く、酸化に対してさらに安定である化合物である。アミノ基を導入した化合物は基本骨格に対して電子を供与する効果が働き、バンドギャップが狭くなり、より長波長発光の化合物である。炭素数が7以上の複素環基を導入した化合物はフェニル基を導入した化合物に比べ、ガラス転移温度が高くなり、発光層ホスト材料や輸送層として用いる場合、熱安定なアモルファス膜を形成する。
【0061】
上記例示化合物のうち、B群に属するもの及びC21はR1乃至R24としてフェニル基、ピリジル基等のアリール基を有し、さらにアリール基のオルト位にアルキル基、フッ素、アルコキシ基及びシアノ基を導入した例である。アリール基のオルト位に置換基を有することで、アリール基が基本骨格に対して捻じれ、オルト位の置換基が基本骨格のπ共役平面を覆い、分子パッキングを抑制するため、A群よりもさらに分子間のスタッキングが回避され、昇華、あるいは蒸着開始温度が低下する。また、発光層ゲスト材料として用いた場合、濃度消光を抑えることができる。
【0062】
上記例示化合物のうち、C群に属するものはR1乃至R24としてフェニル基を有し、さらにフェニル基のオルト位にさらにフェニル基を導入した例である。B群よりも基本骨格のπ共役平面を覆う効果が大きいため、さらに分子パッキングを抑制するため、B群よりもさらに分子間のスタッキングが回避され、昇華、あるいは蒸着開始温度が低下する。
【0063】
本発明に係る有機化合物は、赤色発光に適した発光を呈する化合物である。このため本発明に係る有機化合物を有機発光素子の構成材料として用いることで、良好な発光特性と優れた耐久特性を有する有機発光素子を得ることができる。
【0064】
≪有機発光素子≫
次に、本実施形態の有機発光素子について説明する。本実施形態の有機発光素子は、一対の電極である陽極と陰極と、これら電極間に配置される有機化合物層と、を少なくとも有する。本実施形態の有機発光素子において、有機化合物層は発光層を有していれば単層であってもよいし複数層からなる積層体であってもよい。ここで有機化合物層が複数層からなる積層体である場合、有機化合物層は、発光層の他に、ホール注入層、ホール輸送層、電子ブロッキング層、ホール・エキシトンブロッキング層、電子輸送層、電子注入層等を有してもよい。また発光層は、単層であってもよいし、複数の層からなる積層体であってもよい。
【0065】
本実施形態の有機発光素子において、上記有機化合物層の少なくとも一層が本実施形態に係る有機化合物を含有する。具体的には、本実施形態に係る有機化合物は、上述した発光層、ホール注入層、ホール輸送層、電子ブロッキング層、ホール・エキシトンブロッキング層、電子輸送層、電子注入層等のいずれかに含まれている。本実施形態係る有機化合物は、好ましくは、発光層に含まれる。
【0066】
本実施形態の有機発光素子において、本実施形態に係る有機化合物が発光層に含まれる場合、発光層は、本実施形態に係る有機化合物のみからなる層であってもよいし、本実施形態に係る有機化合物と他の化合物とからなる層であってもよい。ここで、発光層が本実施形態に係る有機化合物と他の化合物とからなる層である場合、本実施形態に係る有機化合物は、発光層のホストとして使用してもよいし、ゲストとして使用してもよい。また発光層に含まれ得るアシスト材料として使用してもよい。ここでホストとは、発光層を構成する化合物の中で質量比が最も大きい化合物である。またゲストとは、発光層を構成する化合物の中で質量比がホストよりも小さい化合物であって、主たる発光を担う化合物である。またアシスト材料とは、発光層を構成する化合物の中で質量比がホストよりも小さく、ゲストの発光を補助する化合物である。尚、アシスト材料は、第2のホストとも呼ばれている。
【0067】
本実施形態に係る有機化合物を発光層のゲストとして用いる場合、ゲストの濃度は、発光層全体に対して0.01質量%以上20質量%以下であることが好ましく、0.1質量%以上5質量%以下であることがより好ましい。
【0068】
また本実施形態に係る有機化合物を発光層のゲストとして用いる際には、本実施形態に係る有機化合物よりもLUMOが高い材料(LUMOが真空準位により近い材料)をホストとして用いることが好ましい。というのも本実施形態に係る有機化合物はLUMOが低いため、本実施形態に係る有機化合物よりもLUMOが高い材料をホストにすることで、発光層のホストに供給される電子を本実施形態に係る有機化合物がより受領することができるからである。
【0069】
本発明者らは種々の検討を行い、本実施形態に係る有機化合物を、発光層のホスト又はゲストとして、特に、発光層のゲストとして用いると、高効率で高輝度な光出力を呈し、かつ極めて耐久性が高い素子が得られることを見出した。この発光層は単層でも複層でも良いし、他の発光色を有する発光材料を含むことで本実施形態の発光色である赤の発光と混色させることも可能である。複層とは発光層と別の発光層とが積層している状態を意味する。この場合、有機発光素子の発光色は赤に限られない。より具体的には白色でもよいし、中間色でもよい。白色の場合、別の発光層が赤以外の色、すなわち青色や緑色を発光する。また、製膜方法も蒸着もしくは塗布製膜で製膜を行う。この詳細については、後述する実施例で詳しく説明する。
【0070】
本実施形態に係る有機化合物は、本実施形態の有機発光素子を構成する発光層以外の有機化合物層の構成材料として使用することができる。具体的には、電子輸送層、電子注入層、ホール輸送層、ホール注入層、ホールブロッキング層等の構成材料として用いてもよい。この場合、有機発光素子の発光色は赤に限られない。より具体的には白色でもよいし、中間色でもよい。
【0071】
ここで、本実施形態に係る有機化合物以外にも、必要に応じて従来公知の低分子系及び高分子系のホール注入性化合物あるいはホール輸送性化合物、ホストとなる化合物、発光性化合物、電子注入性化合物あるいは電子輸送性化合物等を一緒に使用することができる。以下にこれらの化合物例を挙げる。
【0072】
ホール注入輸送性材料としては、陽極からのホールの注入を容易にして、かつ注入されたホールを発光層へ輸送できるようにホール移動度が高い材料が好ましい。また有機発光素子中において結晶化等の膜質の劣化を抑制するために、ガラス転移点温度が高い材料が好ましい。ホール注入輸送性能を有する低分子及び高分子系材料としては、トリアリールアミン誘導体、アリールカルバゾール誘導体、フェニレンジアミン誘導体、スチルベン誘導体、フタロシアニン誘導体、ポルフィリン誘導体、ポリ(ビニルカルバゾール)、ポリ(チオフェン)、その他導電性高分子が挙げられる。さらに上記のホール注入輸送性材料は、電子ブロッキング層にも好適に使用される。以下に、ホール注入輸送性材料として用いられる化合物の具体例を示すが、もちろんこれらに限定されるものではない。
【0073】
【化10】
【0074】
主に発光機能に関わる発光材料としては、一般式(1)で表わされる有機化合物の他に、縮環化合物(例えばフルオレン誘導体、ナフタレン誘導体、ピレン誘導体、ペリレン誘導体、テトラセン誘導体、アントラセン誘導体、ルブレン等)、キナクリドン誘導体、クマリン誘導体、スチルベン誘導体、トリス(8-キノリノラート)アルミニウム等の有機アルミニウム錯体、イリジウム錯体、白金錯体、レニウム錯体、銅錯体、ユーロピウム錯体、ルテニウム錯体、及びポリ(フェニレンビニレン)誘導体、ポリ(フルオレン)誘導体、ポリ(フェニレン)誘導体等の高分子誘導体が挙げられる。
【0075】
本発明の有機化合物は、バンドギャップが狭く、HOMO/LUMOエネルギーが低い化合物であるため、他の発光材料との混合層を形成する場合や、発光層を積層する場合には、他の発光材料も、同様にHOMO/LUMOエネルギーが低いことが好ましい。なぜなら、HOMO/LUMOエネルギーが高い場合、本発明の有機化合物とエキサイプレックスを形成するなどの、クエンチ成分やトラップ準位を形成する恐れがあるからである。
【0076】
以下に、発光材料として用いられる化合物の具体例を示すが、もちろんこれらに限定されるものではない。
【0077】
【化11】
【0078】
発光層に含まれる発光層ホストあるいは発光アシスト材料としては、芳香族炭化水素化合物もしくはその誘導体の他、カルバゾール誘導体、ジベンゾフラン誘導体、ジベンゾチオフェン誘導体、トリス(8-キノリノラート)アルミニウム等の有機アルミニウム錯体、有機ベリリウム錯体等が挙げられる。
【0079】
本発明の有機化合物は、バンドギャップが狭く、HOMO/LUMOエネルギーが低い化合物であるため、ホスト材料も炭化水素から形成され、HOMO/LUMOエネルギーが低いことが好ましい。なぜなら、ホスト材料が窒素原子などのヘテロ原子を含む場合、HOMO/LUMOエネルギーが高くなり、本発明の有機化合物とエキサイプレックスを形成するなどの、クエンチ成分やトラップ準位を形成する恐れがあるからである。
【0080】
とくに好ましくは、ホスト材料は分子骨格に、アントラセン、テトラセン、ペリレン、ピレン骨格を有していることが好ましい。なぜなら、上記のように炭化水素で構成されることに加え、本発明の有機化合物に十分なエネルギー移動を起こすことができるS1エネルギーを有しているからである。
【0081】
以下に、発光層に含まれる発光層ホストあるいは発光アシスト材料として用いられる化合物の具体例を示すが、もちろんこれらに限定されるものではない。
【0082】
【化12】
【0083】
電子輸送性材料としては、陰極から注入された電子を発光層へ輸送することができるものから任意に選ぶことができ、ホール輸送性材料のホール移動度とのバランス等を考慮して選択される。電子輸送性能を有する材料としては、オキサジアゾール誘導体、オキサゾール誘導体、ピラジン誘導体、トリアゾール誘導体、トリアジン誘導体、キノリン誘導体、キノキサリン誘導体、フェナントロリン誘導体、有機アルミニウム錯体、縮環化合物(例えばフルオレン誘導体、ナフタレン誘導体、クリセン誘導体、アントラセン誘導体等)が挙げられる。さらに上記の電子輸送性材料は、ホールブロッキング層にも好適に使用される。以下に、電子輸送性材料として用いられる化合物の具体例を示すが、もちろんこれらに限定されるものではない。
【0084】
【化13】
【0085】
以下、本実施形態の有機発光素子を構成する、有機化合物層以外の構成部材について説明する。
【0086】
本実施形態の有機発光素子は基板を有しても良い。基板としては、石英、ガラス、シリコンウェハー、樹脂、金属など何を用いてもよい。また、基板上には、トランジスタなどのスイッチング素子や配線を備え、その上に絶縁層を備えてもよい。絶縁層としては、陽極と配線の導通を確保するために、コンタクトホールを形成可能で、尚かつ未接続の配線との絶縁を確保できれば、何を用いてもよい。例えば、ポリイミド等の樹脂、酸化シリコン、窒化シリコンなどを用いることができる。
【0087】
陽極の構成材料としては仕事関数がなるべく大きいものが良い。例えば、金、白金、銀、銅、ニッケル、パラジウム、コバルト、セレン、バナジウム、タングステン、等の金属単体やこれらを含む混合物、あるいはこれらを組み合わせた合金、酸化錫、酸化亜鉛、酸化インジウム、酸化錫インジウム(ITO)、酸化亜鉛インジウム等の金属酸化物が使用できる。またポリアニリン、ポリピロール、ポリチオフェン等の導電性ポリマーも使用できる。これらの電極物質は一種類を単独で使用してもよいし、二種類以上を併用して使用してもよい。また、陽極は一層で構成されていてもよく、複数の層で構成されていてもよい。反射電極として用いる場合には、例えばクロム、アルミニウム、銀、チタン、タングステン、モリブデン、又はこれらの合金、積層したものなどを用いることができる。また、透明電極として用いる場合には、酸化インジウム錫(ITO)、酸化インジウム亜鉛などの酸化物透明導電層などを用いることができるが、これらに限定されるものではない。陽極の形成には、フォトリソグラフィ技術を用いることができる。
【0088】
一方、陰極の構成材料としては仕事関数の小さなものがよい。例えばリチウム等のアルカリ金属、カルシウム等のアルカリ土類金属、アルミニウム、チタニウム、マンガン、銀、鉛、クロム等の金属単体またはこれらを含む混合物が挙げられる。あるいはこれら金属単体を組み合わせた合金も使用することができる。例えばマグネシウム-銀、アルミニウム-リチウム、アルミニウム-マグネシウム、銀-銅、亜鉛-銀等が使用できる。酸化錫インジウム(ITO)等の金属酸化物の利用も可能である。これらの電極物質は一種類を単独で使用してもよいし、二種類以上を併用して使用してもよい。また陰極は一層構成でもよく、多層構成でもよい。
【0089】
陰極は、ITOなどの酸化物導電層を使用してトップエミッション素子としてもよいし、アルミニウム(Al)などの反射電極を使用してボトムエミッション素子としてもよいし、特に限定されない。陰極の形成方法としては、特に限定されないが、直流及び交流スパッタリング法などを用いると、膜のカバレッジがよく、抵抗を下げやすいためより好ましい。
【0090】
陰極形成後に、封止部材を設けてもよい。例えば、陰極上に吸湿剤を設けたガラスを接着することで、有機化合物層に対する水等の浸入を抑え、表示不良の発生を抑えることができる。また、別の実施形態としては、陰極上に窒化ケイ素等のパッシベーション膜を設け、有機化合物層に対する水等の浸入を抑えてもよい。例えば、陰極形成後に真空を破らずに別のチャンバーに搬送し、CVD法で厚さ2μmの窒化ケイ素膜を形成することで、封止膜としてもよい。
【0091】
また、各画素にカラーフィルターを設けてもよい。例えば、画素のサイズに合わせたカラーフィルターを別の基板上に設け、それを有機発光素子を設けた基板と貼り合わせてもよいし、酸化ケイ素等の封止膜上にフォトリソグラフィ技術を用いて、カラーフィルターをパターニングしてもよい。
【0092】
本実施形態に係る有機発光素子を構成する有機化合物層(正孔注入層、正孔輸送層、電子ブロッキング層、発光層、正孔ブロッキング層、電子輸送層、電子注入層等)は、以下に示す方法により形成される。即ち、有機化合物層の形成には、真空蒸着法、イオン化蒸着法、スパッタリング、プラズマ等のドライプロセスを用いることができる。またドライプロセスに代えて、適当な溶媒に溶解させて公知の塗布法(例えば、スピンコーティング、ディッピング、キャスト法、LB法、インクジェット法等)により層を形成するウェットプロセスを用いることもできる。ここで真空蒸着法や溶液塗布法等によって層を形成すると、結晶化等が起こりにくく経時安定性に優れる。また塗布法で成膜する場合は、適当なバインダー樹脂と組み合わせて膜を形成することもできる。バインダー樹脂としては、ポリビニルカルバゾール樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエステル樹脂、ABS樹脂、アクリル樹脂、ポリイミド樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、シリコン樹脂、尿素樹脂等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。また、バインダー樹脂は、ホモポリマー又は共重合体として一種類を単独で使用してもよいし、二種類以上を混合して使用してもよい。さらに必要に応じて、公知の可塑剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤等の添加剤を併用してもよい。
【0093】
≪有機発光素子を用いた装置≫
本実施形態に係る有機発光素子は、表示装置や照明装置の構成部材として用いることができる。他にも、電子写真方式の画像形成装置の露光光源や液晶表示装置のバックライト、白色光源にカラーフィルターを有する発光装置等の用途がある。カラーフィルターは例えば赤、緑、青の3つの色のいずれかが透過するフィルターが挙げられる。
【0094】
本実施形態に係る表示装置は、複数の画素を有し、これら画素のうちの少なくとも一つは本実施形態の有機発光素子を有する。そしてこの画素は、本実施形態に係る有機発光素子と、能動素子を有する。能動素子はスイッチング素子又は増幅素子が挙げられ、具体的にはトランジスタが挙げられる。この有機発光素子の陽極又は陰極とトランジスタのドレイン電極又はソース電極とが電気接続されている。トランジスタはその活性領域に酸化物半導体を有していてもよい。酸化物半導体は、アモルファスでも結晶でもあるいは両者の混在でもよい。結晶は単結晶、微結晶、あるいはC軸等の特定軸が配向している結晶のいずれかあるいは少なくともいずれか2種の混合でもよい。
【0095】
このようなスイッチング素子を有する有機発光装置は、それぞれの有機発光素子が画素として設けられる画像表示装置として用いられてもよく、あるいは照明装置として用いられてもよい。またレーザービームプリンタ、複写機等の電子写真方式の画像形成装置の感光体を露光するための露光光源として用いられてもよい。
【0096】
ここで表示装置は、PC等の画像表示装置として用いることができる。上記トランジスタとして、例えば、TFT素子が挙げられ、このTFT素子は、例えば、基板の絶縁性表面に設けられている。表示装置は、エリアCCD、リニアCCD、メモリーカード等からの画像情報を入力する画像入力部を有し、入力された情報を処理する情報処理部を有し、入力された画像を表示部に表示する画像情報処理装置でもよい。また、撮像装置やインクジェットプリンタが有する表示部は、タッチパネル機能を有していてもよい。このタッチパネル機能の駆動方式は、赤外線方式でも、静電容量方式でも、抵抗膜方式であっても、電磁誘導方式であってもよく、特に限定されない。また表示装置はマルチファンクションプリンタの表示部に用いられてもよい。
【0097】
照明装置は例えば室内を照明する装置である。照明装置は白色(色温度が4200K)、昼白色(色温度が5000K)、その他青から赤のいずれの色を発光するものであってもよい。照明装置が有する有機発光素子のうち、いずれかの有機発光素子が本発明の有機発光素子であればよい。本実施形態に係る照明装置は、本実施形態に係る有機発光素子と、この有機発光素子に接続されているAC/DCコンバーターとを有している。AC/DCコンバーターは交流電圧を直流電圧に変換する回路である。このコンバーターは有機発光素子に駆動電圧を供給するための回路である。尚、この照明装置は、カラーフィルターをさらに有してもよい。また、本実施形態に係る照明装置は、放熱部を有していてもよい。放熱部は装置内の熱を装置外へ放出するものであり、比熱の高い金属、液体シリコン等が挙げられる。
【0098】
本実施形態に係る有機発光素子はスイッチング素子の一例であるTFTにより発光輝度が制御され、有機発光素子を複数面内に設けることでそれぞれの発光輝度により画像を表示することができる。尚、本実施形態に係るスイッチング素子は、TFTに限られず、トランジスタやMIM素子、Si基板等の基板上に形成されたアクティブマトリクスドライバーであってもよい。基板上とは、その基板内ということもできる。これは精細度によって選択され、例えば1インチでQVGA程度の精細度の場合はSi基板上に有機発光素子を設けることが好ましい。本実施形態に係る有機発光素子を用いた表示装置を駆動することにより、良好な画質で、長時間表示にも安定な表示が可能になる。
【0099】
<表示装置>
図1は、本実施形態に係る表示装置の一例を表す断面模式図であり、有機発光素子とこの有機発光素子に接続されるTFT素子とを有する表示装置の例を示す図である。TFT素子は、能動素子の一例である。本実施形態に係る表示装置は、赤色、緑色、青色を有するカラーフィルタを有してよい。カラーフィルタは、当該赤色、緑色、青色がデルタ配列で配置されてよい。
【0100】
図1の表示装置10は、ガラス等の基板11とその上部にTFT素子18又は有機化合物層22を保護するための防湿膜12が設けられている。TFT素子18は、金属のゲート電極13とゲート絶縁膜14と半導体層15とドレイン電極16とソース電極17とを有している。TFT素子18の上部には絶縁膜19が設けられている。コンタクトホール20を介して有機発光素子を構成する陽極21とソース電極17とが接続されている。尚、有機発光素子に含まれる電極(陽極21、陰極23)とTFTに含まれる電極(ソース電極17、ドレイン電極16)との電気接続の方式は、図1に示される態様に限られるものではない。つまり陽極21と陰極23のうちいずれか一方と、TFT素子のソース電極17とドレイン電極16のいずれか一方とが電気接続されていればよい。図1の表示装置10では有機化合物層22を1つの層の如く図示をしているが、有機化合物層22は、複数層であってもよい。陰極23の上には有機発光素子の劣化を抑制するための第一の保護層24や第二の保護層25が設けられている。
【0101】
図1の表示装置10ではスイッチング素子としてトランジスタを使用しているが、これに代えてMIM素子をスイッチング素子として用いてもよい。また図1の表示装置10に使用されるトランジスタは、単結晶シリコンウエハを用いたトランジスタに限らず、基板の絶縁性表面上に活性層を有する薄膜トランジスタでもよい。活性層として、単結晶シリコン、アモルファスシリコン、微結晶シリコンなどの非単結晶シリコン、インジウム亜鉛酸化物、インジウムガリウム亜鉛酸化物等の非単結晶酸化物半導体が挙げられる。尚、薄膜トランジスタはTFT素子とも呼ばれる。図1の表示装置10に含まれるトランジスタは、Si基板等の基板内に形成されていてもよい。ここで基板内に形成されるとは、Si基板等の基板自体を加工してトランジスタを作製することを意味する。つまり、基板内にトランジスタを有することは、基板とトランジスタとが一体に形成されていると見ることもできる。基板内にトランジスタを設けるかどうかについては、精細度によって選択される。例えば1インチでQVGA程度の精細度の場合はSi基板内にトランジスタを設けることが好ましい。
【0102】
図2は、本実施形態に係る表示装置の一例を表す模式図である。表示装置1000は、上部カバー1001と下部カバー1009との間に、タッチパネル1003、表示パネル1005、フレーム1006、回路基板1007、バッテリー1008を有してよい。タッチパネル1003および表示パネル1005は、フレキシブルプリント回路FPC1002、1004が接続されている。表示パネル1005には、本実施形態に係る有機発光素子が用いられてよい。回路基板1007には、トランジスタがプリントされている。バッテリー1008は、表示装置が携帯機器でなければ、設けなくてよいし、携帯機器であっても、この位置に設ける必要はない。
【0103】
図3は、本実施形態に係る表示装置の一例を表す模式図である。図3(a)は、テレビモニタやPCモニタ等の表示装置である。表示装置1300は、額縁1301を有し表示部1302を有する。表示部1302には、本実施形態に係る有機発光素子が用いられてよい。また、表示装置1300は、額縁1301と表示部1302を支える土台1303を有している。土台1303は、図3(a)の形態に限られない。額縁1301の下辺が土台を兼ねてもよい。また、額縁1301および表示部1302は、曲がっていてもよい。その曲率半径は、5000mm以上6000mm以下であってよい。図3(b)の表示装置1310は、折り曲げ可能に構成されており、いわゆるフォルダブルな表示装置である。表示装置1310は、第一表示部1311、第二表示部1312、筐体1313、屈曲点1314を有する。第一表示部1311と第二表示部1312とは、本実施形態に係る有機発光素子を有してよい。第一表示部1311と第二表示部1312とは、つなぎ目のない1枚の表示装置であってよい。第一表示部1311と第二表示部1312とは、屈曲点で分けることができる。第一表示部1311、第二表示部1312は、それぞれ異なる画像を表示してもよいし、第一および第二表示部とで一つの画像を表示してもよい。
【0104】
<撮像装置>
本実施形態に係る表示装置は、複数のレンズを有する光学部と、当該光学部を通過した光を受光する撮像素子とを有する撮像装置の表示部に用いられてよい。撮像装置は、撮像素子が取得した情報を表示する表示部を有してよい。また、表示部は、撮像装置の外部に露出した表示部であっても、ファインダ内に配置された表示部であってもよい。撮像装置は、デジタルカメラ、デジタルビデオカメラであってよい。
【0105】
図4は、本実施形態に係る撮像装置の一例を表す模式図である。撮像装置1100は、ビューファインダ1101、背面ディスプレイ1102、操作部1103、筐体1104を有してよい。ビューファインダ1101は、本実施形態に係る表示装置を有してよい。その場合、表示装置は、撮像する画像のみならず、環境情報、撮像指示等を表示してよい。環境情報には、外光の強度、外光の向き、被写体の動く速度、被写体が遮蔽物に遮蔽される可能性等であってよい。撮像に好適なタイミングはわずかな時間なので、少しでも早く情報を表示した方がよい。したがって、本発明の有機発光素子を用いた表示装置を用いるのが好ましい。有機発光素子は応答速度が速いからである。有機発光素子を用いた表示装置は、表示速度が求められる装置において、液晶表示装置よりも好適に用いることができる。撮像装置1100は、不図示の光学部を有する。光学部は複数のレンズを有し、筐体110内に収容されている撮像素子に結像する。複数のレンズは、その相対位置を調整することで、焦点を調整することができる。この操作を自動で行うこともできる。
【0106】
<電子機器>
本実施形態に係る表示装置は、携帯端末等の電子機器の表示部に用いられてもよい。その際には、表示機能と操作機能との双方を有してもよい。携帯端末としては、スマートフォン等の携帯電話、タブレット、ヘッドマウントディスプレイ等が挙げられる。
【0107】
図5は、本実施形態に係る携帯機器の一例を表す模式図である。携帯機器1200は、表示部1201と、操作部1202と、筐体1203を有する。筐体1203には、回路、当該回路を有するプリント基板、バッテリー、通信部、を有してよい。操作部1202は、ボタンであってもよいし、タッチパネル方式の反応部であってもよい。操作部は、指紋を認識してロックの解除等を行う、生体認識部であってもよい。通信部を有する携帯機器は通信機器ということもできる。
【0108】
<照明装置>
図6は、本実施形態に係る照明装置の一例を表す模式図である。照明装置1400は、筐体1401と、光源1402と、回路基板1403と、光学フィルタ1404と、光拡散部1405と、を有してよい。光源1402は、本実施形態に係る有機発光素子を有してよい。光学フィルタ1404は光源1402の演色性を向上させるフィルタであってよい。光拡散部1405は、ライトアップ等、光源1402の光を効果的に拡散し、広い範囲に光を届けることができる。必要に応じて、最外部にカバーを設けてもよい。
【0109】
照明装置は例えば室内を照明する装置である。照明装置は白色、昼白色、その他青から赤のいずれの色を発光するものであってよい。それらを調光する調光回路を有してよい。照明装置は本発明の有機発光素子とそれに接続される電源回路を有してよい。電源回路は、交流電圧を直流電圧に変換する回路である。また、白とは色温度が4200Kで昼白色とは色温度が5000Kである。照明装置はカラーフィルタを有してもよい。
【0110】
また、本実施形態に係る照明装置は、放熱部を有していてもよい。放熱部は装置内の熱を装置外へ放出するものであり、比熱の高い金属、液体シリコン等が挙げられる。
【0111】
<移動体>
本実施形態に係る移動体は、機体と、機体に設けられている灯具を有する。図7は、本実施形態に係る移動体の一例を表す模式図であり、車両用灯具の一例であるテールランプを有する自動車を示す図である。機体としての自動車1500は、テールランプ1501を有し、ブレーキ操作等を行った際に、テールランプ1501を点灯する形態であってよい。テールランプ1501は、本実施形態に係る有機発光素子を有してよい。テールランプ1501は、有機発光素子を保護する保護部材を有してよい。保護部材はある程度高い強度を有し、透明であれば材料は問わないが、ポリカーボネート等で構成されることが好ましい。ポリカーボネートにフランジカルボン酸誘導体、アクリロニトリル誘導体等を混ぜてよい。自動車1500は、車体1503、それに取り付けられている窓1502を有してよい。窓1502は、自動車1500の前後を確認するための窓でなければ、透明なディスプレイであってもよい。当該透明なディスプレイは、本実施形態に係る有機発光素子を有してよい。この場合、有機発光素子が有する電極等の構成材料は透明な部材で構成される。
【実施例
【0112】
以下、実施例により本発明を説明する。ただし本発明はこれらに限定されるものではない。
[実施例1(例示化合物A2の合成)]
【0113】
【化14】
【0114】
(1)化合物E3の合成
200mlのナスフラスコに、以下に示す試薬、溶媒を仕込んだ。
化合物E1:2.00g(4.59mmol)
化合物E2:1.79g(4.73mmol)
Pd(PPh34:159mg(0.14mmol)
トルエン:45ml
エタノール:20ml
10%炭酸ナトリウム水溶液:25ml
次に、反応溶液を、窒素気流下で90℃に加熱しこの温度(90℃)で5時間攪拌を行った。反応終了後、トルエンと水で抽出を行った後、濃縮し、これをシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘプタン:トルエン=2:1)にて精製後、ヘプタン/エタノールで分散洗浄を行うことにより、濃緑色の化合物E3を2.01g(収率:72%)得た。
【0115】
(2)化合物E5の合成
100mlのナスフラスコに、以下に示す試薬、溶媒を仕込んだ。
化合物E3:2.00g(3.30mmol)
化合物E4:991mg(4.00mmol)
亜硝酸イソアミル:0.66ml(4.95mmol)
トルエン:35ml
次に、反応溶液を、窒素気流下で105℃に加熱しこの温度(105℃)で2時間攪拌を行った。さらに、化合物E4を330mg(1.32mmol)、亜硝酸イソアミルを0.18ml(1.32mmol)を加え、2時間撹拌した。反応終了後、トルエンと水で抽出を行った後、濃縮し、これをシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘプタン:トルエン=4:1)にて精製後、ヘプタン/エタノールで分散洗浄を行うことにより、黄色化合物E5を1.82g(収率:77%)得た。
【0116】
【化15】
【0117】
(3)化合物E7の合成
100mlのナスフラスコに、以下に示す試薬、溶媒を仕込んだ。
化合物E5:1.80g(2.51mmol)
化合物E6:474mg(2.76mmol)
Pd(PPh34:87mg(0.075mmol)
炭酸セシウム:3.27g(10.0mmol)
トルエン:25ml
エタノール:10ml
水:15ml
次に、反応溶液を、窒素気流下で90℃に加熱しこの温度(90℃)で4時間攪拌を行った。反応終了後、トルエンと水で抽出を行った後、濃縮し、これをシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘプタン:トルエン=4:1)にて精製後、ヘプタン/エタノールで分散洗浄を行うことにより、黄色の化合物E7を1.82g(収率:89%)得た。
【0118】
(5)化合物E8の合成
20mlのナスフラスコに、以下に示す試薬、溶媒を仕込んだ。
化合物E7:1.80g(2.21mmol)
Pd(dba)2:381mg(0.66mmol)
P(Cy)3(トリシクロヘキシルフォスフィン):384mg(1.37mmol)
DBU(ジアザビシクロウンデセン):1.32ml(8.83mmol)
DMAc:30ml
次に、反応溶液を、窒素気流下で170℃に加熱しこの温度(170℃)で5時間攪拌を行った。反応終了後、メタノールを加えて結晶を析出させた後に結晶をろ別し、水、メタノール、エタノール、ヘプタンで順次分散洗浄を行った。次に、得られた黄色結晶をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘプタン:クロロホルム=2:1)にて精製後、ヘプタン/エタノールで分散洗浄を行うことにより、黄色の化合物E8を1.43g(収率:83%)得た。
【0119】
【化16】
【0120】
(6)例示化合物A2の合成
20mlのナスフラスコに、以下に示す試薬、溶媒を仕込んだ。
化合物E8:300mg(0.385mmol)
t-BuOK:1.73g(15.4mmol)
DBU(ジアザビシクロウンデセン):4.61ml(30.8mmol)
ジエチレングリコールジメチルエーテル:18ml
次に、反応溶液を、窒素気流下で180℃に加熱しこの温度(180℃)で10時間攪拌を行った。反応終了後、水を加えて結晶を析出させた後に結晶をろ別し、水、メタノール、エタノール、ヘプタンで順次分散洗浄を行った。次に、得られた濃紫色固体を130℃のクロロベンゼンに溶解させ、そこにアルミナを加え加熱吸着処理を行った。これを熱時ろ過、濃縮を行い、アセトン/ヘプタンで分散洗浄を行うことにより、濃紫色の例示化合物A2を233mg(収率:78%)得た。
【0121】
例示化合物A2の1×10-5mol/Lにおけるトルエン溶液の発光スペクトルは、日立製F-4500を用いて、360nmの励起波長においてフォトルミネッセンスの測定を行った結果、603nmに最大強度を有するスペクトルを得た。
【0122】
尚、例示化合物A2は、MALDI-TOF-MS(Bruker社製Autoflex LRF)を用いて質量分析を行った。
[MALDI-TOF-MS]
実測値:m/z=777 計算値:C6232=776
【0123】
[実施例2至及22(例示化合物の合成)]
表5乃至7に示す例示化合物について、実施例1の原料E1、E2、E6を、それぞれ原料1、原料2、原料3に変えた他は実施例1と同様にして例示化合物を合成した。また、実施例1と同様にして測定した質量分析結果の実測値:m/zを示す。
【0124】
【表5】
【0125】
【表6】
【0126】
【表7】
【0127】
[実施例23]
基板上に、陽極、正孔注入層、正孔輸送層、電子ブロッキング層、発光層、正孔ブロッキング層、電子輸送層、電子注入層、陰極が順次形成されたボトムエミッション型構造の有機発光素子を作製した。
【0128】
先ずガラス基板上にITOを成膜し、所望のパターニング加工を施すことによりITO電極(陽極)を形成した。この時、ITO電極の膜厚を100nmとした。このようにITO電極が形成された基板をITO基板として、以下の工程で使用した。次に、1.33×10-4Paの真空チャンバー内における抵抗加熱による真空蒸着を行って、上記ITO基板上に、表8に示す有機化合物層及び電極層を連続成膜した。尚、この時、対向する電極(金属電極層、陰極)の電極面積が3mm2となるようにした。
【0129】
【表8】
【0130】
得られた素子について、素子の特性を測定・評価した。発光素子の最大発光波長は622nmであり、最大外部量子効率(E.Q.E.)は5.5%、色度は(X,Y)=(0.67、0.33)の赤色発光を得られた。さらに、電流密度100mA/cm2での連続駆動試験を行い、輝度劣化率が5%に達した時の時間を測定したところ、500時間を越えた。測定装置は、具体的には電流電圧特性をヒューレッドパッカード社製・微小電流計4140Bで測定し、発光輝度は、トプコン社製BM7で測定した。
【0131】
[実施例24乃至37、比較例1乃至2]
実施例23において、表9に示される化合物に適宜変更する以外は、実施例23と同様の方法により有機発光素子を作製した。得られた素子について実施例23と同様に素子の特性を測定・評価した。測定の結果を表9に示す。
【0132】
【表9】
【0133】
表9より、比較例1及び比較例2の色度座標はそれぞれ(0.66、0.35)及び(0.65、0.34)であり、実施例のほうがsRGBの色再現範囲に対してより色再現範囲を広げる方向であることがわかる。本発明の化合物がより長波長で赤発光することに起因する。
【0134】
[実施例38]
基板上に陽極、正孔注入層、正孔輸送層、電子ブロッキング層、第一発光層、第二発光層、正孔ブロッキング層、電子輸送層、電子注入層、陰極が順次形成されたトップエミッション型構造の有機発光素子を作製した。
【0135】
ガラス基板上に、スパッタリング法でTiを40nm成膜し、フォトリソグラフィ技術を用いてパターニングし、陽極を形成した。尚、この時、対向する電極(金属電極層、陰極)の電極面積が3mm2となるようにした。続いて、真空蒸着装置(アルバック社製)に洗浄済みの電極までを形成した基板と材料を取り付け、1.33×10-4Pa(1×10-6Torr)まで排気した後、UV/オゾン洗浄を施した。その後、表10に示される層構成で各層の製膜を行い、最後に、窒素雰囲気下において封止を行った。
【0136】
【表10】
【0137】
得られた素子について、素子の特性を測定・評価した。得られた素子は、良好な白色発光を示した。また、得られた白色発光スペクトルから、RGBカラーフィルター透過後の赤の色度座標を見積もり、sRGBにおける赤の色度座標は(0.68、0.32)であった。
【0138】
[実施例39乃至27、比較例3乃至4]
実施例38において、表11に示される化合物に適宜変更する以外は、実施例38と同様の方法により有機発光素子を作製した。得られた素子について実施例38と同様に素子の特性を測定・評価した。測定の結果を表11に示す。
【0139】
【表11】
【0140】
表11より、比較例3及び比較例4の赤の色度座標はそれぞれ(0.67、0.35)及び(0.65、0.34)であり、実施例のほうが赤領域のsRGBの色再現範囲に対してより色再現範囲を広げる方向であることがわかる。本発明の化合物がより長波長で赤発光することに起因する。
【符号の説明】
【0141】
10:表示装置、11:基板、12:防湿膜、13:ゲート電極、14:ゲート絶縁膜、15:半導体層、16:ドレイン電極、17:ソース電極、18:TFT、19:絶縁膜、20:コンタクトホール、21:陽極、22:有機化合物層、23:陰極、24:第一の保護層、25:第二の保護層
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7