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特許7179580ポリオレフィン系樹脂用防曇剤及びその利用
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-18
(45)【発行日】2022-11-29
(54)【発明の名称】ポリオレフィン系樹脂用防曇剤及びその利用
(51)【国際特許分類】
   C08L 23/00 20060101AFI20221121BHJP
   C08K 5/103 20060101ALI20221121BHJP
   C08L 71/02 20060101ALI20221121BHJP
   C08K 5/05 20060101ALI20221121BHJP
   C08K 5/17 20060101ALI20221121BHJP
   C09K 3/18 20060101ALI20221121BHJP
【FI】
C08L23/00
C08K5/103
C08L71/02
C08K5/05
C08K5/17
C09K3/18
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2018201373
(22)【出願日】2018-10-26
(65)【公開番号】P2019090009
(43)【公開日】2019-06-13
【審査請求日】2021-10-04
(31)【優先権主張番号】P 2017220552
(32)【優先日】2017-11-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000188951
【氏名又は名称】松本油脂製薬株式会社
(72)【発明者】
【氏名】重田 啓彰
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 剛司
(72)【発明者】
【氏名】後藤 佳希
【審査官】藤井 明子
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-218636(JP,A)
【文献】特開2006-161012(JP,A)
【文献】特開昭56-038351(JP,A)
【文献】特開平01-129089(JP,A)
【文献】特開昭54-018851(JP,A)
【文献】特開2013-209613(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00-101/14
C08K 3/00-13/08
C09K 3/18
B29C 71/04
C08J 3/00-3/28、7/00-7/02、7/12-7/18、99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
グリセリン脂肪酸エステル成分(A)と、多価アルコール脂肪酸エステルのアルキレンオキサイド付加物である成分(B)と、脂肪族アミンのアルキレンオキサイド付加物及び脂肪族アルコールから選ばれる少なくとも1種である成分(C)と、を含む防曇剤であって、前記防曇剤の水酸基価(OHv)とケン化価(Sv)との比率(OHv/Sv)が1.47以下であり、前記成分(A)がグリセリンモノ脂肪酸エステル(A-1)及びグリセリンジ脂肪酸エステル(A-2)を含み、前記エステル(A-1)と前記エステル(A-2)の重量比(A-1/A-2)が20/80~70/30の範囲にあり、前記成分(A)を構成する脂肪酸残基が炭素数8~14であるグリセリン脂肪酸エステル(A-3)及び前記成分(A)を構成する脂肪酸残基が炭素数16~22であるグリセリン脂肪酸エステル(A-4)を含み、前記エステル(A-3)と前記エステル(A-4)の重量比(A-3/A-4)が10/90~80/20であり、前記成分(C)が下記一般式(1)又は下記一般式(2)で示される、ポリオレフィン系樹脂用防曇剤。
【化1】
(式中、Rはアルキル基、アルケニル基、アルカジエニル基またはアルキニル基であり、その炭素数は8~22であり、AOはエチレンオキシド基もしくはプロピレンオキシド基であり、1種または2種から構成されても良く、nおよびmは0以上でn+m=2~3を満足する数である。)
【化2】
(式中、Rはアルキル基、アルケニル基、アルカジエニル基またはアルキニル基であり、その炭素数は8~22である。)
【請求項2】
前記成分(B)が、ソルビタン脂肪酸エステルのアルキレンオキサイド付加物、ひまし油化合物のアルキレンオキサイド付加物及びグリセリン脂肪酸エステルのアルキレンオキサイド付加物から選ばれる少なくとも1種であり、オキシアルキレン基の繰り返し単位が1~30である、請求項1に記載のポリオレフィン系樹脂用防曇剤。
【請求項3】
前記防曇剤のアミン価が20mgKOH/g以下である、請求項1又は2に記載のポリオレフィン系樹脂用防曇剤。
【請求項4】
ポリオレフィン系樹脂と請求項1~のいずれかに記載のポリオレフィン系樹脂用防曇剤とを含む、ポリオレフィン系樹脂組成物。
【請求項5】
前記防曇剤の含有率がポリオレフィン系樹脂に対して0.1~20重量%である、請求項に記載のポリオレフィン系樹脂組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はポリオレフィン系樹脂用防曇剤、前記防曇剤を含有するポリオレフィン系樹脂化合物並びに前記樹脂化合物を用いたポリオレフィン系フィルムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリオレフィン樹脂は透明性、加工性、剛性、絶縁性および防湿性が良好であることから、食品や衣料品等の包装材料や家電製品部品、自動車内装部品などに広く使用されている。ポリオレフィン製品は、絶縁性に優れる反面、摩擦等によって静電気が発生しやすく、発生した静電気により、人体へのショック、空気中の粉塵等が吸着することによる成形品の汚れ、電気機器への電気障害等の種々のトラブルを発生させることがある。
従来、これらのトラブルを防ぐために、ポリオレフィン樹脂中に帯電防止剤(各種界面活性剤)を練り込み、静電気によるトラブルを防ぐことが行われてきた。この場合、いわゆる練り込み型帯電防止剤では、帯電防止剤が逐次表面に移行(ブリード)し、表面に導電膜を形成することにより、帯電防止効果を発現するものと推測されている。
【0003】
またポリオレフィン樹脂は疎水性であり樹脂表面のぬれ性が著しく低いため、水分含有食品(果物、野菜、食肉等)の包装等が多量の水分にさらされる条件において、包装フィルムの内面に水滴が付着し曇りが発生することがある。この曇りにより、内容物が見えづらくなり、商品価値が減ずるばかりではなく、結露した水滴が包装された食品に付着することにより、食品の変質を促進してしまうことがある。これらの問題を解決するためにやはり各種界面活性剤からなる防曇剤を樹脂に練り込み、樹脂表面の濡れ性を上げることにより表面に水滴を形成させないようにする方法が採用されている。
しかしながら、食品包装用フィルムなどでは表面上の防曇剤と食品の接触による健康上の問題が懸念されるため、近年、EUや中国で防曇剤などの樹脂添加剤に対し添加量制限や溶出量制限の規制が制定され始めており、より安全な添加剤で防曇性の効果を付与させることが求められている。
これら問題を解決するために、特許文献1では、グリセリンモノ脂肪酸エステル、ジグリセリン脂肪酸エステルおよびアルキルジエタノールアミンの3成分からなる防曇剤が提案されている。しかし、この防曇剤では、帯電防止性、防曇性が一時的に発現するものの、時間経過によりブリード過多となることで、防曇剤成分がフィルム表面で凝集を起こし、防曇性や透明性の低下が懸念され、長期の防曇性や透明性の維持が求められる食品包装用フィルム等に対しては問題があった。
また特許文献2では特定な組成を持つジグリセリン脂肪酸エステルとソルビタン脂肪酸エステルおよび/またはポリオキシアルキレンソルビタン脂肪酸エステルからなる防曇剤が提案されている。しかし、この防曇剤では長期に渡り透明性は維持されるものの、ポリオレフィン樹脂に対して相溶性が低いため、防曇性にムラがあるなど防曇剤としてはまだ不十分であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平9-286877
【文献】特開平11-302462
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、成形後速やかに防曇性を発現するとともに、長期間にわたり防曇性とポリオレフィン樹脂の透明性を維持するポリオレフィン系樹脂用防曇剤、およびそれを含むポリオレフィン樹脂組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは鋭意研究を重ねた結果、特定の3成分を含み、水酸基価及びケン化価が一定の値を示す防曇剤であれば、上記課題を解決できることを見出し、本発明を見出した。
すなわち、本発明のポリオレフィン系樹脂用防曇剤は、グリセリン脂肪酸エステル成分(A)と、多価アルコール脂肪酸エステルのアルキレンオキサイド付加物である成分(B)と、脂肪族アミンのアルキレンオキサイド付加物及び脂肪族アルコールから選ばれる少なくとも1種である成分(C)と、を含む防曇剤であって、前記防曇剤の水酸基価(OHv)とケン化価(Sv)との比率(OHv/Sv)が1.47以下であり、前記成分(A)がグリセリンモノ脂肪酸エステル(A-1)及びグリセリンジ脂肪酸エステル(A-2)を含み、前記エステル(A-1)と前記エステル(A-2)の重量比(A-1/A-2)が20/80~70/30の範囲にあり、前記成分(A)を構成する脂肪酸残基が炭素数8~14であるグリセリン脂肪酸エステル(A-3)及び前記成分(A)を構成する脂肪酸残基が炭素数16~22であるグリセリン脂肪酸エステル(A-4)を含み、前記エステル(A-3)と前記エステル(A-4)の重量比(A-3/A-4)が10/90~80/20であり、前記成分(C)が下記一般式(1)又は下記一般式(2)で示される防曇剤である。
【0007】
記成分(B)が、ソルビタン脂肪酸エステルのアルキレンオキサイド付加物、ひまし油化合物のアルキレンオキサイド付加物及びグリセリン脂肪酸エステルのアルキレンオキサイド付加物から選ばれる少なくとも1種であり、オキシアルキレン基の繰り返し単位が1~30であると好ましい。
【0008】
本発明のポリオレフィン系樹脂組成物は、ポリオレフィン系樹脂と上記ポリオレフィン系樹脂用防曇剤とを含む。
前記防曇剤の含有率がポリオレフィン系樹脂に対して0.1~20重量%であると好ましい。
本発明のポリプロピレンフィルムであると好ましい。
【発明の効果】
【0009】
本発明のポリオレフィン系樹脂用防曇剤は、成形後速やかに防曇性を発現するとともに、長期間にわたり防曇性とポリオレフィン樹脂の透明性を維持する。本発明のポリオレフィン樹脂組成物は、長期間にわたり防曇性と透明性が維持される。
【発明を実施するための形態】
【0010】
まずは、本発明のポリオレフィン系樹脂用防曇剤を構成する各成分について詳細に説明する。
【0011】
〔成分(A)〕
成分(A)は、グリセリン脂肪酸エステルである。本発明に使用される防曇成分のうちで防曇性を付与する効果、防曇成分全体のブリードアウトを促進させる効果および防曇剤の樹脂への相溶性を上げる効果を有する成分である。
グリセリン脂肪酸エステルとしては、グリセリンモノ脂肪酸エステル(A-1)、グリセリンジ脂肪酸エステル(A-2)、グリセリントリ脂肪酸エステルが挙げられる。前記エステル(A-1)は主に防曇性を付与するとともに防曇成分全体のブリードアウトを促進させる成分であり、前記エステル(A-2)は主に防曇剤の樹脂への相溶性を上げる成分である。
【0012】
前記成分(A)がグリセリンモノ脂肪酸エステル(A-1)及びグリセリンジ脂肪酸エステル(A-2)を含み、前記エステル(A-1)と前記エステル(A-2)の重量比(A-1/A-2)が20/80~70/30の範囲にあると、防曇剤の防曇性、ブリードアウト速度と樹脂との相溶性のバランスの観点から好ましく、25/75~65/35の範囲がより好ましく、30/70~60/40の範囲がさらに好ましく、最も好ましくは40/60~55/45である。(A-1/A-2)が20/80より小さい場合は、防曇剤のブリードアウト速度が遅くなり、成形後速やかに防曇性を発現することが難しくなる。一方、(A-1/A-2)が70/30より大きい場合は防曇剤の樹脂への相溶性が低くなり、樹脂表面で防曇剤が経時的に凝集、結晶化することで透明性および防曇性が低下する恐れがある。
【0013】
前記成分(A)を構成する脂肪酸残基としては、炭素数6~22が挙げられる。
前記成分(A)を構成する脂肪酸残基が炭素数8~14であるグリセリン脂肪酸エステル(A-3)及び前記成分(A)を構成する脂肪酸残基が炭素数16~22であるグリセリン脂肪酸エステル(A-4)を含む。
前記エステル(A-3)は主に防曇性を付与させる成分であり、前記エステル(A-4)は主に防曇剤の樹脂への相溶性を向上させる成分である。
【0014】
前記エステル(A-3)と前記エステル(A-4)の重量比(A-3/A-4)が10/90~80/20であると、防曇剤の防曇性と樹脂との相溶性のバランスの観点から好ましく、20/80~70/30であるとより好ましく、30/70~65/35であるとさらに好ましく、最も好ましくは40/60~60/40である。(A-3/A-4)が10/90~80より小さい場合は、防曇性が発現しない可能性がある。一方、(A-3/A-4)が80/20より大きい場合は防曇剤の樹脂への相溶性が低くなり、樹脂表面で防曇剤が経時的に凝集、結晶化することで透明性および防曇性が低下する恐れがある。
【0015】
成分(A)の脂肪酸残基としては、飽和および不飽和どちらでも良く、たとえば、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、イソパルミチン酸、ステアリン酸、イソステアリン酸、オレイン酸、ベヘニン酸等が挙げられ、成分(A)としてはグリセリンモノラウレート、グリセリンセスキラウレート、グリセリンモノミリステート、グリセリンセスキミリステート、グリセリンモノパルミテート、グリセリンセスキパルミテート、グリセリンモノイソパルミテート、グリセリンセスキイソパルミテート、グリセリンモノオレート、グリセリンセスキオレート、グリセリンモノステアレート、グリセリンセスキステアレート、グリセリンモノイソステアレート、グリセリンセスキイソステアレート、グリセリンモノベヘネート、グリセリンセスキベヘネート等が挙げられ、1種または2種以上でもよい。また、反応時の副生成物としてトリエステルが含まれていても良い。
【0016】
防曇剤に占める成分(A)の重量比率は50~97重量%であると、ブリードアウト速度の観点から好ましく、55~90重量%であるとより好ましく、60~85重量%であるとさらに好ましい。防曇剤に占める成分(A)の重量比率が50重量%未満であるとブリードアウト速度が遅くなり、成形後速やかに防曇性を発現することが難しくなり、97重量%を超えるとブリード過剰となり、防曇性および透明性が低下する恐れがある。
【0017】
成分(A)の製造方法については、特に限定はないが、たとえば、グリセリンと脂肪酸とをエステル化反応させたり、グリセリンエステルに脂肪酸エステルをエステル交換反応させたりして製造することができる。
【0018】
〔成分(B)〕
成分(B)は、多価アルコール脂肪酸エステルのアルキレンオキサイド付加物である。成分(B)は防曇剤のブリード調整剤としての効果を有する成分である。
前記成分(B)が、ソルビタン脂肪酸エステルのアルキレンオキサイド付加物、ひまし油化合物のアルキレンオキサイド付加物及びグリセリン脂肪酸エステルのアルキレンオキサイド付加物から選ばれる少なくとも1種からなり、オキシアルキレン基の繰り返し単位が1~30であると、防曇剤のブリード調整と樹脂への相溶性のバランスの観点から好ましく、5~25であるとより好ましく、10~20であるとさらに好ましい。オキシアルキレン基が1未満の場合、成分(B)の分子量が小さくなりブリード調整剤としての効果が小さくなる可能性があり、30を超えると樹脂との相溶性が低下し混ざりにくくなる恐れがある。オキシアルキレン基としては、本願効果を発揮する観点から、オキシエチレン基が好ましい。
【0019】
ソルビタン脂肪酸エステルのアルキレンオキサイド付加物を構成する脂肪酸としては、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、イソパルミチン酸、ステアリン酸、イソステアリン酸、オレイン酸、ベヘニン酸等の脂肪酸のエステル等が挙げられ、1種または2種以上でもよく、モノエステル、ジエステル、トリエステル等のいずれであってもよく、ソルビタンに対する脂肪酸の反応モル数が1.5や2.5のように中間的なエステル化度のものも使用できる。
【0020】
ソルビタン脂肪酸エステルのアルキレンオキサイド付加物を構成するアルキレンオキサド基としては、エチレンオキシド基もしくはプロピレンオキシド基が挙げられ、1種または2種から構成されても良い。
【0021】
ソルビタン脂肪酸エステルのアルキレンオキサイド付加物の製造方法については、特に限定はないが、たとえば、ソルビタンと脂肪酸をエステル化した後にアルキレンオキサイドを付加する方法やソルビタンにアルキレンオキサイドを付加した後に脂肪酸とエステル化する方法が挙げられる。
【0022】
ひまし油化合物のアルキレンオキサイド付加物としては、ひまし油のアルキレンオキサイド付加物および硬化ひまし油のアルキレンオキサイド付加物が挙げられる。ひまし油化合物のアルキレンオキサイド付加物を構成するアルキレンオキサイド基としては、エチレンオキシド基もしくはプロピレンオキシド基が挙げられ、1種または2種から構成されても良い。
【0023】
グリセリン脂肪酸エステルのアルキレンオキサイド付加物を構成する脂肪酸としては、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、イソパルミチン酸、ステアリン酸、イソステアリン酸、オレイン酸、ベヘニン酸等の脂肪酸のエステル等が挙げられ、1種または2種以上でもよく、モノエステル、ジエステル等のいずれであってもよく、グリセリンに対する脂肪酸の反応モル数が1.5のように中間的なエステル化度のものも使用できる。
グリセリン脂肪酸エステルのアルキレンオキサイド付加物を構成するアルキレンオキサイド基としては、エチレンオキシド基もしくはプロピレンオキシド基が挙げられ、1種または2種から構成されても良い。
【0024】
グリセリン脂肪酸エステルのアルキレンオキサイド付加物の製造方法については、特に限定はないが、たとえば、グリセリンと脂肪酸をエステル化した後にアルキレンオキサイドを付加する方法やグリセリンにアルキレンオキサイドを付加した後に脂肪酸とエステル化する方法が挙げられる。
【0025】
防曇剤に占める成分(B)の重量比率は2~30重量%であると防曇剤のブリード調整の観点から好ましく、5~25重量%であるとより好ましく、10~20重量%であるとさらに好ましい。防曇剤に占める成分(B)の重量比率が2重量%未満であると防曇剤の過剰ブリードとなり、防曇性および透明性の低下を引き起こす可能性があり、30重量%を超えるとブリードを抑制しすぎることで防曇性が発現しない可能性がある。
【0026】
〔成分(C)〕
成分(C)は、凝集防止剤であり、樹脂組成物の表面で防曇剤成分が凝集や結晶化することを抑制する成分である。成分(C)を含まない場合は、樹脂組成物の表面で防曇剤成分が凝集や結晶化が起こり、防曇性や透明性の低下が起こる可能性がある。
成分(C)としては、脂肪族アミンのアルキレンオキサイド付加物及び脂肪族アルコールから選ばれる少なくとも1種が挙げられる。
前記成分(C)が上記一般式(1)又は上記一般式(2)で示されると、(A)成分および(B)成分との相溶性やブリードの速度の観点から好ましい。
【0027】
式(1)中、Rはアルキル基、アルケニル基、アルカジエニル基またはアルキニル基であり、その炭素数は8~22であり、12~22が好ましく、16~22がより好ましく、ブリードの速度や耐熱性の観点からステアリル基もしくはオレイル基が最も好ましい。
AOはエチレンオキシド基もしくはプロピレンオキシド基が挙げられ、1種または2種から構成されても良く、nおよびmは0以上でn+m=2~3を満足する数である。
式(2)中、Rはアルキル基、アルケニル基、アルカジエニル基またはアルキニル基であり、その炭素数は8~22であり、12~22が好ましく、16~22がより好ましい。
としては、ブリードの速度や耐熱性の観点からステアリル基もしくはオレイル基が最も好ましい。
【0028】
防曇剤に占める成分(C)の重量比率は1~30重量%であると凝集防止性の観点から好ましく、2~20重量%であるとより好ましく、3~15重量%であるとさらに好ましく、最も好ましくは5~10重量%である。防曇剤に占める成分(C)の重量比率が1重量%未満であると凝集防止の効果が低く防曇性や透明性の低下を引き起こす可能性があり、30重量%を超えると後述するアミン価が上昇することや成分(C)自体が凝集や結晶化の原因となる可能性がある。
【0029】
本発明のポリオレフィン系樹脂用防曇剤は、本発明の効果に大きな影響を及ぼさない限りにおいて、上記で説明した各成分には該当しないものであって、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、エチレングリコール脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、クエン酸脂肪酸エステル、ペンタエリスリトール脂肪酸エステル、トリメチロールプロパン脂肪酸エステル、ポリエチレングリコール脂肪酸エステル、ポリプロピレングリコール脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン高級アルコールエーテル、高級アルコール脂肪酸エステル、脂肪酸とジエタノールアミンの縮合生成物、ポリエチレングリコール、アルキルスルホン酸塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルナフタリンスルホン酸塩、アルキルスルホコハク酸塩、アルキルサルフェート塩、ポリオキシエチレン脂肪アルコールエーテルサルフェート塩、脂肪酸塩等の界面活性剤や、着色防止のためフェノール系酸化防止剤、亜リン酸系酸化防止剤およびアクリレート系酸化防止剤酸化防止剤や、フィルムの滑性向上のため脂肪酸アマイド等の他、造核剤、無機重点剤、顔料などを含有しても良い。
【0030】
〔ポリオレフィン系樹脂用防曇剤〕
本発明のポリオレフィン系樹脂用防曇剤は、前記防曇剤の水酸基価(OHv)とケン化価(Sv)との比率(OHv/Sv)が1.5未満の範囲にあることを特徴とし、1.4以下であるとより好ましく、1.3以下であるとさらに好ましく、最も好ましくは1.2以下である。水酸基価(OHv)とケン化価(Sv)との比率(OHv/Sv)が1.5以上であると、樹脂への相溶性の低下や防曇剤の過剰ブリードを引き起こし、本願課題を達成することができない。
【0031】
前記防曇剤のアミン価は、20mgKOH/g以下が好ましく、18mgKOH/g以下がより好ましく、16mgKOH/g以下がさらに好ましく、最も好ましくは10mgKOH/g以下である。アミン価が20mgKOH/gを超える場合は、樹脂組成物の表面にブリードしてくるアミン成分が増加し、食品包装用フィルム等に用いる場合は、アミン成分が食品に接触、付着するおそれがあるため安全性に関する懸念が生じることがあり、実際にEUや中国ではアミン成分の溶出量に規制が設けられている。
好ましいアミン価の下限値は0mgKOH/gである。
【0032】
〔ポリオレフィン系樹脂組成物〕
本発明のポリオレフィン系樹脂組成物は、ポリオレフィン系樹脂と上記ポリオレフィン系樹脂用防曇剤とを含む。
ポリオレフィン系樹脂組成物を構成するポリオレフィン系樹脂としては、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂およびエチレン-プロピレンの共重合樹脂等が挙げられる。
本発明のポリオレフィン系樹脂組成物は、成形材料の中間原料であるマスターバッチでもよいし、成形に用いられる成形材料でもよいし、フィルム、シート、成形品といった成形加工品でもよい。
前記防曇剤の含有率がポリオレフィン系樹脂に対して0.1~20重量%であると、防曇性の発現やマスターバッチなどの輸送コストの観点から好ましい。0.1重量%未満の場合は、防曇剤の濃度が低く防曇性の効果が薄れる可能性があり、20重量%を超える場合は、防曇剤を樹脂に均一に練り込むことが難しくなる。
【0033】
〔成形加工品〕
本発明のポリオレフィン系樹脂組成物が成形加工品の場合、成形加工品としては、たとえば、インフレーションフィルムや2軸延伸フィルム等のフィルム、シート、射出成形品、ブロー成形品など様々な形状の成形加工品を挙げることができるが、ポリプロピレンフィルムにおいて最も本発明の効果が発揮される。
【実施例
【0034】
以下の実施例および比較例で本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。実施例における防曇剤や熱可塑性樹脂組成物の物性評価は、下記の方法にて実施した。
【0035】
〔(A)成分:グリセリン脂肪酸エステルの合成〕
表1に示すグリセリン脂肪酸エステルは次のように合成した。
【0036】
【表1】
【0037】
(グリセリンモノラウレート)
1000mLの四つ口フラスコに、グリセリンを184gとラウリン酸(C12=約98%、C16以上非含有)を400gとを仕込んで、窒素ガスを導入しつつ、220℃×5時間、エステル化反応を行った後(このときの酸価は1.2)、水洗により未反応グリセリンを除去し、さらに、遠心式分子蒸留装置を用いて、分子蒸留することで、グリセリンモノラウレートを得た。
【0038】
(グリセリンセスキラウレート)
1000mLの四つ口フラスコに、グリセリンを184gとラウリン酸(C12=約98%、C16以上非含有)を600gとを仕込んで、窒素ガスを導入しつつ、220℃×5時間、エステル化反応を行った後(このときの酸価は1.3)、水洗により未反応グリセリンを除去し、グリセリンセスキラウレートを得た。
【0039】
(グリセリンセスキステアレート)
1000mLの四つ口フラスコに、グリセリンを200gとステアリン酸(C14=約2%、C16=約34%、C18=約64%)を540g仕込んで、窒素ガスを導入しつつ、230℃×5時間、エステル化反応を行った後(このときの酸価は0.9)、水洗により未反応グリセリンを除去することでグリセリンセスキステアレートを得た。
【0040】
(グリセリンモノステアレート)
前記グリセリンセスキステアレートを、さらに、遠心式分子蒸留装置を用いて、分子蒸留することで、グリセリンモノステアレートを得た。
【0041】
(グリセリンセスキベヘネート)
1000mLの四つ口フラスコに、グリセリンを184gとベヘニン酸(C22=約85%、C14以下非含有)を680g仕込んで、窒素ガスを導入しつつ、230℃×5時間エステル化を行った後(このときの酸価は1.5)、水洗により未反応グリセリンを除去することでグリセリンセスキベヘネートを得た。
【0042】
グリセリン脂肪酸エステル中のグリセリンモノ脂肪酸エステル(A-1)とグリセリンジ脂肪酸エステル(A-2)の比率はGPCを用いて次の条件で分析した。
装置 :HLC-8320GPC(東ソー製)
検出器 :RI検出器
カラム :SHODEX GPC KF-402HQ、KF-403HQ(昭和電工製)の連結
移動相 :THF
測定温度 :40℃
流量 :0.3ml/min
試料注入量 :10μl(試料濃度;0.2%)
検量線標準物質 :ポリエチレングリコール
【0043】
グリセリン脂肪酸エステル中の脂肪酸残基が炭素数8~14であるグリセリン脂肪酸エステル(A-3)及び脂肪酸残基が炭素数16~22であるグリセリン脂肪酸エステル(A-4)の比率についてはGCを用いて次の条件で分析した。
前処理 : サンプルにトリメチルシリル化処理を施し、クロロホルムに溶解させた。
装置 : GC-2010(島津製作所製)
検出器 : FID検出器
カラム : DB-1HT(アジレントテクノロジー製)
(長さ30m、内径0.32mm、膜厚0.10μm)
キャリア : ヘリウム、80kPa
温度条件 : 注入口;340℃、検出器;340℃、カラム;220℃開始、
1分保持後15℃/minで340℃まで昇温し、5分保持
スプリット比 : 25:1
注入量 : 1μL
【0044】
(酸価)
防曇剤の酸価を医薬部外品原料規格酸価測定法第3法によって測定する。
なお、上記測定法は本願出願時に規定された測定法とする。
(アミン価、AmV)
防曇剤のアミン価は医薬部外品原料規格アミン価測定法第2法によって測定する。
なお、上記測定法は本願出願時に規定された測定法とする。
(ケン化価、Sv)
防曇剤のケン化価は医薬部外品原料規格ケン化価測定法によって測定する。
なお、上記測定法は本願出願時に規定された測定法とする。
(水酸基価、OHV)
防曇剤の水酸基価は医薬部外品原料規格水酸基価測定法によって測定する。
なお、上記測定法は本願出願時に規定された測定法とする。
(防曇性(級))
容量100mlのガラス製ビーカーに30℃の水を60ml入れ、ビーカーの口を規定温度下にて所定期間保管後のポリオレフィン系樹脂組成物の成形によって作製されたフィルムで密閉し塞いだ。次いで、5℃の恒温槽に入れ、1時間後のフィルム内面への水滴の付着状態を目視で観察し、下記に示す評価基準(1~10級)に基づいて評価し、フィルム作製1日後~30日後までの経時変化を測定し、7級以上を維持したものを合格とした。フィルムの保管温度はポリプロピレンフィルムの場合は40℃、ポリエチレンフィルムの場合は23℃の条件で保管した。

10級:全く水滴がなく、全面濡れた状態。
9級:曇りは全くないが、極わずかはじかれた水滴が存在している状態。
8級:7級および9級の中間の評価
7級:曇りはないが、所々にはじかれた水滴が存在している状態。
6級:5級および7級の中間の評価
5級:曇りはないが、はじかれた水が大きな水滴となって点在している状態。
4級:3級および5級の中間の評価
3級:全面に大きな水滴が付着し、曇って中身がほとんど見えない状態。
2級:1級および3級の中間の評価
1級:全体的に白く曇って中身が全く見えない状態。
【0045】
(表面固有抵抗率(LOG))
ポリオレフィン系樹脂組成物の成形によって作製されたフィルムについて、規定温度下にて所定期間保管後の表面固有抵抗率を東亜電波工業製極超絶縁計を使用し温湿度20℃×45%、R.H.の条件で測定し、その数値を常用対数で返した値を表面固有抵抗率(LOG)として使用する。フィルム作製1日後~30日後までの経時変化を測定し、14未満を維持したものを合格とした。フィルムの保管温度はポリプロピレンフィルムの場合は40℃、ポリエチレンフィルムの場合は23℃の条件で保管した。
【0046】
(透明性(ΔHaze))
ポリオレフィン系樹脂組成物の成形によって作製されたフィルムを、規定温度下にて所定期間保管後に、色差・濁度測定器(日本電色工業製)を使用してフィルムのHaze値およびフィルム表面をエタノールで洗い流した後のフィルムのHaze値を測定し、洗浄前後のフィルムのHaze値の差をΔHazeとして透明性の評価とし、フィルム作製30日後に0.5以下のものを合格とした。フィルムの保管温度はポリプロピレンフィルムの場合は40℃、ポリエチレンフィルムの場合は23℃の条件で保管した。
【0047】
(実施例1)
表2に示す配合割合にて成分(A)~成分(C)を溶融混合して防曇剤を調製した。
次いで、ポリプロピレン(ホモポリマー、MFR=2.5g/10min)を準備し、上記防曇剤の含有率がポリプロピレンに対して10重量%となるように、防曇剤を混合し、二軸押出成形機にて230℃で溶融混練して、ストランドを得た。得られたストランドをペレタイザーでカットして、マスターバッチを作製した。
【0048】
【表2】
【0049】
次いで、得られたマスターバッチおよび別に用意したポリプロピレンを混合して押出原料を調製し、二軸押出成形機にて230℃で溶融混練し、Tダイより押出した。ここで、押出原料は、帯電防止剤の含有率がポリプロピレンに対して0.8重量%となるように、マスターバッチおよび別に用意したポリプロピレンの量を調整して調製した。
Tダイより押出された押出物をつづけて、一軸延伸して厚さ20μmのフィルムに成形した。得られたフィルムについて、防曇性、帯電防止性および透明性を評価し、その結果を表3に示す。
【0050】
【表3】
(実施例2~18、比較例1~7)
実施例1のうちそれぞれ表2のうち該当する配合例に変更した以外は同様に実施した。その結果を表3及び4に示す。
【0051】
【表4】
【0052】
(実施例19)
表2に示す配合割合にて成分(A)~成分(C)を溶融混合して防曇剤を調製した。
次いで、ポリエチレン(LLDPE、MFR=4g/10min)を準備し、上記防曇剤の含有率がポリエチレンに対して5重量%となるように、防曇剤を混合し、二軸押出成形機にて200℃で溶融混練して、ストランドを得た。得られたストランドをペレタイザーでカットして、マスターバッチを作製した。
【0053】
次いで、得られたマスターバッチおよび別に用意したポリエチレンを混合して押出原料を調製し、二軸押出成形機にて200℃で溶融混練し、Tダイより押出した。ここで、押出原料は、帯電防止剤の含有率がポリプロピレンに対して0.4重量%となるように、マスターバッチおよび別に用意したポリエチレンの量を調整して調製した。
Tダイより押出された押出物をつづけて、一軸延伸して厚さ20μmのフィルムに成形した。得られたフィルムについて、防曇性、帯電防止性および透明性を評価し、その結果を表5に示す。
【0054】
(実施例20~36、比較例8~14)
実施例19のうちそれぞれ表2のうち該当する配合例に変更した以外は同様に実施した。その結果を表5及び6に示す。
【0055】
【表5】
【0056】
【表6】
【0057】
表2~6から分かるように、実施例1~36の防曇剤は、グリセリン脂肪酸エステル成分(A)と、多価アルコール脂肪酸エステルのアルキレンオキサイド付加物である成分(B)と、脂肪族アミンのアルキレンオキサイド付加物及び脂肪族アルコールから選ばれる少なくとも1種である凝集防止剤(C)と、を含む防曇剤であって、
前記防曇剤の水酸基価(OHv)とケン化価(Sv)との比率(OHv/Sv)が1.5未満の範囲にあるため、本願の課題を解決できている。
一方、防曇剤の水酸基価(OHv)とケン化価(Sv)との比率(OHv/Sv)が1.5未満の範囲にない場合(比較例1~5、8~12)、多価アルコール脂肪酸エステルのアルキレンオキサイド付加物である成分(B)がない場合(比較例6、13)、脂肪族アミンのアルキレンオキサイド付加物及び脂肪族アルコールから選ばれる少なくとも1種である凝集防止剤(C)がない場合(比較例7、14)には、本願の課題が解決できていない。