(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-18
(45)【発行日】2022-11-29
(54)【発明の名称】エアバッグ装置のカバー体
(51)【国際特許分類】
B60R 21/203 20060101AFI20221121BHJP
B60R 21/215 20110101ALI20221121BHJP
B60R 13/00 20060101ALI20221121BHJP
G09F 7/06 20060101ALN20221121BHJP
【FI】
B60R21/203
B60R21/215
B60R13/00
G09F7/06 G
(21)【出願番号】P 2018220517
(22)【出願日】2018-11-26
【審査請求日】2021-07-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000229955
【氏名又は名称】日本プラスト株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100062764
【氏名又は名称】樺澤 襄
(74)【代理人】
【識別番号】100092565
【氏名又は名称】樺澤 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100112449
【氏名又は名称】山田 哲也
(72)【発明者】
【氏名】井出 恭平
【審査官】菅 和幸
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-104949(JP,A)
【文献】実開平05-057412(JP,U)
【文献】特開2017-214958(JP,A)
【文献】特開2017-144766(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60R 21/16-21/33
B60R 13/00
G09F 7/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
折り畳まれた状態からガスの導入により膨張展開するエアバッグを備えるエアバッグ装置に用いられるカバー体であって、
折り畳まれた状態の前記エアバッグを覆うとともに、前記エアバッグの膨張展開により開裂するカバー本体部と、
意匠部と、受け部とを備え、これら意匠部と受け部とで前記カバー本体部を挟んで取り付けられる装飾部材とを具備し、
前記カバー本体部は、開口部を備え、
前記意匠部は、
意匠部本体部と、
この意匠部本体部に突設され、前記開口部に挿通される係合部とを備え、
前記係合部は、
前記意匠部本体部と連なる軸部と、
この軸部の先端側に拡大されて形成された拡大部と、
この拡大部にて前記係合部の突出方向と交差する方向に沿って面状に形成された第一接触部と、
前記拡大部にて前記係合部の突出方向と交差する方向に沿って前記第一接触部と異なる位置に線状に形成された第二接触部と、
前記意匠部本体部からの前記係合部の突出方向と交差する所定方向に対し前記突出方向の先端側に向かい第一所定角度で傾斜する傾斜部とを有し、
前記受け部は、少なくとも前記エアバッグの膨張展開時に前記第一接触部及び前記第二接触部が前記係合部の突出方向とは反対方向から当接する当接部を備え
、
前記第一接触部は、前記所定方向に対し前記突出方向の先端側に向かい前記第一所定角度よりも小さい第二所定角度で傾斜している
ことを特徴とするエアバッグ装置のカバー体
。
【請求項2】
係合部は、意匠部本体部からの前記係合部の突出方向と交差し互いに反対向きの所定方向に対し前記突出方向の先端側に向かいそれぞれ第一所定角度で傾斜するように前記係合部の両側に隣接して形成された傾斜部を有し、
第二接触部は、前記傾斜部同士が隣接する位置に沿って形成されている
ことを特徴とする請求項
1記載のエアバッグ装置のカバー体。
【請求項3】
第一接触部は、所定方向の長さが傾斜部よりも短く設定されている
ことを特徴とする請求項
1または
2記載のエアバッグ装置のカバー体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、意匠部と受け部とで被取付部を挟んで取り付けられる装飾部材を備えたエアバッグ装置のカバー体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車などの車両のハンドルに備えられるエアバッグ装置が用いられている。このエアバッグ装置は、袋状のエアバッグと、このエアバッグにガスを供給するインフレータと、エアバッグを折り畳まれた非展開時に覆って収納するカバー体とを備えている。そして、車両が例えば衝突などにより衝撃を受けた際に、インフレータからエアバッグへとガスが供給されることでエアバッグが膨張し、このエアバッグの膨張によりカバー体が予め設けられた破断線すなわちテアラインに沿って破断して複数の扉部が形成され、これら扉部がそれぞれヒンジ部を中心として展開することにより、エアバッグが乗員側に展開して、乗員を拘束して保護するように構成されている。
【0003】
このようなエアバッグ装置のカバー体について、エンブレム体と受け部とからなる装飾部材としてのエンブレム(オーナメント)を、カバー本体部に形成された凹部を挟んで取り付けた構成が知られている。そして、凹部により、エンブレム体を位置決めできるとともに、カバー体の表面の曲率とは別個に凹部底部の曲率を調整することで、カバー体の表面の曲率による影響をエンブレムに及ぼしにくくすることができる(例えば、特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2000-255361号公報 (第3-4頁、
図1-6)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、例えばエンブレムを取り付けた状態でカバー体の表面部の曲率とエンブレム体の曲率が略等しくなるよう要望される場合があり、このような場合、エンブレム体の裏面の曲率がカバー体の表面と同程度となることで、エンブレム体の成形時の裏面側の抜き勾配もエンブレム体の裏面の曲率が基準となるため、エンブレム体の裏面から突設する係合用のピンの先端の係止面に形成される抜き勾配による傾斜も大きくなる。そのため、ピンの係止面と受け部の穴部の周辺にある係止受面との接触量が減少してしまう。したがって、カバー本体部の破断により扉部が展開する際に遠心力などによってエンブレム体が脱落しないように係止部周辺の増強などが別途必要となり、製造コストが高騰する原因となる。
【0006】
本発明は、このような点に鑑みなされたもので、簡素な構成で、装飾部材のカバー本体部に対する係合力を高めることが可能なエアバッグ装置のカバー体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1記載のエアバッグ装置のカバー体は、折り畳まれた状態からガスの導入により膨張展開するエアバッグを備えるエアバッグ装置に用いられるカバー体であって、折り畳まれた状態の前記エアバッグを覆うとともに、前記エアバッグの膨張展開により開裂するカバー本体部と、意匠部と、受け部とを備え、これら意匠部と受け部とで前記カバー本体部を挟んで取り付けられる装飾部材とを具備し、前記カバー本体部は、開口部を備え、前記意匠部は、意匠部本体部と、この意匠部本体部に突設され、前記開口部に挿通される係合部とを備え、前記係合部は、前記意匠部本体部と連なる軸部と、この軸部の先端側に拡大されて形成された拡大部と、この拡大部にて前記係合部の突出方向と交差する方向に沿って面状に形成された第一接触部と、前記拡大部にて前記係合部の突出方向と交差する方向に沿って前記第一接触部と異なる位置に線状に形成された第二接触部と、前記意匠部本体部からの前記係合部の突出方向と交差する所定方向に対し前記突出方向の先端側に向かい第一所定角度で傾斜する傾斜部とを有し、前記受け部は、少なくとも前記エアバッグの膨張展開時に前記第一接触部及び前記第二接触部が前記係合部の突出方向とは反対方向から当接する当接部を備え、前記第一接触部は、前記所定方向に対し前記突出方向の先端側に向かい前記第一所定角度よりも小さい第二所定角度で傾斜しているものである。
【0008】
請求項2記載のエアバッグ装置のカバー体は、請求項1記載のエアバッグ装置のカバー体において、係合部は、意匠部本体部からの前記係合部の突出方向と交差し互いに反対向きの所定方向に対し前記突出方向の先端側に向かいそれぞれ第一所定角度で傾斜するように前記係合部の両側に隣接して形成された傾斜部を有し、第二接触部は、前記傾斜部同士が隣接する位置に沿って形成されているものである。
【0009】
請求項3記載のエアバッグ装置のカバー体は、請求項1または2記載のエアバッグ装置のカバー体において、第一接触部は、所定方向の長さが傾斜部よりも短く設定されているものである。
【発明の効果】
【0010】
請求項1記載のエアバッグ装置のカバー体によれば、意匠部の係合部の軸部の先端側に拡大されて形成された拡大部に、係合部の突出方向と交差する方向に沿って第一接触部を面状に形成するとともに、第一接触部と異なる位置にて係合部の突出方向と交差する方向に沿って第二接触部を線状に形成し、これら第一接触部と第二接触部とを、受け部の当接部に対し、少なくともエアバッグの膨張展開時に係合部の突出方向とは反対方向から当接させ、かつ、意匠部本体部からの係合部の突出方向と交差する所定方向に対し、傾斜部の傾斜角度である第一所定角度よりも、第一接触部の傾斜角度である第二所定角度を小さく設定することで、意匠部の係合部と受け部の当接部との接触量を確保するとともに受け部の当接部に対する第一接触部の接触量を確保でき、簡素な構成で、装飾部材のカバー本体部に対する係合力を高めることが可能になる。
【0011】
請求項2記載のエアバッグ装置のカバー体によれば、請求項1記載のエアバッグ装置のカバー体の効果に加えて、意匠部本体部からの係合部の突出方向と交差し互いに反対向きの所定方向に対し突出方向の先端側に向かいそれぞれ第一所定角度で傾斜する傾斜部同士が隣接する位置に沿って第二接触部を形成することで、係合部の突出方向と交差し互いに反対向きの所定方向に型開きされる成形型のパーティングラインを利用して、第二接触部を容易に形成できる。
【0012】
請求項3記載のエアバッグ装置のカバー体によれば、請求項1または2記載のエアバッグ装置のカバー体の効果に加えて、第一接触部は、所定方向の長さが傾斜部よりも短いので、第一接触部の第二傾斜角度が小さくても、所定方向に型開きされる成形型に対し係合部を脱型可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】(a)は本発明の一実施の形態のカバー体の装飾部材の意匠部と受け部とを取り付けた状態を示す断面図、(b)はカバー体の一部を示す断面図である。
【
図2】(a)は同上装飾部材の意匠部を示す正面図、(b)は同上意匠部を示す側面図、(c)は同上意匠部の係合部を示す斜視図である。
【
図4】(a)は同上装飾部材の成形状態を模式的に示す断面図、(b)は(a)の係合部の突出方向と交差する方向の断面図である。
【
図5】同上装飾部材を備えるエアバッグ装置のカバー体の一部を示す分解斜視図である。
【
図6】同上エアバッグ装置を備えるハンドルの一例を示す正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の一実施の形態の構成について、図面を参照して説明する。
【0015】
図6において、10は車両である自動車のハンドルとしてのステアリングホイールである。ステアリングホイール10は、ハンドル本体としてのステアリングホイール本体11と、このステアリングホイール本体11の乗員側に装着されるエアバッグ装置12とを備えている。なお、ステアリングホイール10は、通常傾斜した状態で車両に備えられるステアリングシャフトに装着されるものであるが、以下、車両の直進状態を基準とし、ステアリングシャフト側を背面側、乗員側を正面側とし、フロントガラスに向かう方向(矢印A方向)を上側として説明する。
【0016】
そして、ステアリングホイール本体11は、円環状をなす把持部であるグリップ部であるリム部14と、このリム部14の内側に位置するボス部15と、これらリム部14とボス部15とを連結する複数のスポーク部16とから構成されている。
【0017】
また、図示しないが、ボス部15の背面部には、ステアリングシャフトに嵌着される略円筒状のボスが設けられているとともに、このボスに芯体を構成するボスプレートが一体的に固着されている。そして、このボスプレートから、スポーク部16の芯金が一体に延設され、あるいは溶接などして固着されている。さらに、このスポーク部16の芯金に、リム部14の芯金が溶接などして固着されている。また、これらリム部14の芯金の外周部と、スポーク部16の芯金のリム部14側の部分の外周部とには表皮部が形成され、さらに、この表皮部の外周の全部あるいは一部が、天然あるいは人工の皮革などにより覆われている。
【0018】
一方、エアバッグ装置12は、エアバッグモジュールとも呼ばれ、ステアリングホイール本体11のボス部の正面側を覆うように配置されるものである。エアバッグ装置12は、被取付部材としてのベースプレート、袋状のエアバッグ、ガスを噴射するインフレータなどを備えるとともに、
図5などに示すカバー体18を備えている。そして、ベースプレートは、ホーンプレートあるいはブラケット部などを介してステアリングホイール本体11に取り付けられ、このベースプレートに、エアバッグ、インフレータ、及びカバー体18が取り付けられ、小さく折り畳まれたエアバッグがカバー体18により覆われている。
【0019】
カバー体18は、ケース体、パッド、あるいはモジュールカバーなどとも呼ばれるものである。カバー体18は、例えば被取付部であるカバー本体部19と、このカバー本体部19に取り付けられた装飾部材であるエンブレム20とを備えている。
【0020】
カバー本体部19は、例えば合成樹脂により形成されている。カバー本体部19は、ボス部15及びスポーク部16の一部を覆う被覆部としての表板部21と、この表板部21の背面(裏面)から正面視略角筒状などの筒状に突設された周壁である周板部22とを備えている。そして、表板部21と周板部22とに囲まれた部分が、折り畳んだエアバッグを収納するエアバッグ収納部となり、このエアバッグ収納部の正面側に臨む部分が装飾部材取付部である正面板部23となる。正面板部23は、例えばエアバッグとは反対側である正面側(乗員側)に膨出するように湾曲されている。本実施の形態において、正面板部23は、例えば球面に沿って湾曲されている。また、表板部21には、エアバッグ収納部に臨み、テアラインが形成され、このテアラインの開裂によりエアバッグの展開時に複数の扉部が形成される。このテアラインは、予定線部あるいは破断予定部となどとも呼び得るもので、正面板部23の背面(裏面)側を溝状に凹設し、正面板部23の他の部分より脆弱な弱部として形成されている。このテアラインは、設定したい扉部の形状及び枚数に応じて、エンブレム20を避ける位置に任意に設定できるが、本実施の形態では、例えば正面板部23の一側部からエンブレム20の下部を経由して他側部に連続するように形成されている。したがって、扉部は、正面板部23のエンブレム20の上部をヒンジ部として上方に展開するようになっている。すなわち、テアラインによるカバー本体部19の開裂時に、扉部の開きにより生じる遠心力は、ヒンジ部の回動方向(
図2(b)の矢印Bに示す)に対して垂直に遠ざかる方向となっている。
【0021】
さらに、表板部21には、エンブレム20を取り付けるための開口部28が複数開口されている。これら開口部28は、円形状に形成されており、正面板部23を厚さ方向である前後方向に貫通して設けられている。これら開口部28は、エンブレム20を上下左右にバランスよく固定できれば、その形状などに応じて適宜設定できるが、本実施の形態では、例えば上側中央部に位置する開口部28と、下側両側部に位置する開口部28,28とが設定されている。本実施の形態において、開口部28は、例えば正三角形の各頂点上に配置されている。すなわち、開口部28は、回転対称(3回対称)に配置されている。また、本実施の形態において、表板部21の正面板部23には、意匠面である正面側に、エンブレム20が収納される収納部としての取付凹部29が凹設されている。取付凹部29は、例えば正面板部23の中央部に配置される。また、取付凹部29は、例えばエンブレム20の形状に沿って形成されている。さらに、取付凹部29には、開口部28が配置される。また、取付凹部29の底部は、正面板部23の湾曲に沿って湾曲されている。
【0022】
周板部22には、ベースプレートとカバー体18とを係合するためのカバー体係合部である係合開口部22aなどが複数設けられている。
【0023】
また、エンブレム20は、オーナメントなどとも呼ばれるものである。エンブレム20は、意匠部であるエンブレム体31と、受け部であるバックプレート32とを備えている。そして、エンブレム20は、エンブレム体31とバックプレート32とによりカバー体18の正面板部23を挟んで取り付けられる。
【0024】
図1(a)、
図1(b)、
図2(a)ないし
図2(c)、及び
図5に示すエンブレム体31は、デザインオーナメント、アッパプレート、あるいはアッパエンブレムなどとも呼ばれるものである。エンブレム体31は、例えば硬質または軟質の合成樹脂により成形され適宜塗装やメッキなどの表面処理が施されて、エンブレム20の意匠部分を構成している。エンブレム体31は、正面板部23の反エアバッグ側である正面側に取り付けられる。本実施の形態において、エンブレム体31は、取付凹部29に嵌合される。そして、エンブレム体31は、意匠部本体部としてのエンブレム本体部34と、エンブレム本体部34に突設された係合部であるピン35とを一体的に備えている。
【0025】
エンブレム本体部34は、種々の形状とすることができるが、例えば本実施の形態では、同径の円形状の三つの部分が互いに等角度に配置された、いわゆるクローバー形状となっている。すなわち、エンブレム本体部34は、回転対称に形成されている。エンブレム本体部34は、本実施の形態において、取付凹部29内に位置する。また、エンブレム本体部34は、板状に形成され、意匠面側に膨出するように湾曲されている。すなわち、エンブレム本体部34は、周縁部分から中央部分に向かい徐々に突出するように形成されている。エンブレム本体部34は、表板部21の正面板部23の湾曲、及び、取付凹部29の底部の湾曲に沿って湾曲されている。したがって、エンブレム本体部34は、取付凹部29内に位置した状態で、正面板部23の曲率(平均曲率)と一致または略一致するように配置される。
【0026】
ピン35は、開口部28にそれぞれ挿通されバックプレート32に係合されることでエンブレム体31をカバー体18側であるバックプレート32に係合固定するものである。ピン35は、エンブレム本体部34と連続する軸部37と、軸部37の先端側に段差状に拡大された拡大部38とを有している。ここで、ピン35の配置は、エンブレム体31を上下左右にバランスよく支持できれば、その形状などに応じて適宜設定できるが、本実施の形態では、例えばエンブレム本体部34の三つの部分の中央部または略中央部にそれぞれ配置されている。このため、ピン35は、本実施の形態において、正面から見て正三角形の各頂点上に配置され、回転対称な配置となっている。
【0027】
軸部37は、複数のリブ40を備えている。本実施の形態において、軸部37は、複数のリブ40からなるが、円柱状の基部に対してリブ40が突出されるように形成されていてもよい。リブ40は、例えば三つ形成され、放射状に配置されている。すなわち、リブ40は、ピン35の中心軸位置から放射方向に沿って延びている。本実施の形態のリブ40は、ピン35の先端側から見て、Y字状に等配されている。
【0028】
拡大部38は、軸部37に対し、ピン35の突出方向と交差する方向に拡大されている。拡大部38は、例えば円柱状に形成されている。また、拡大部38は、軸部37のリブ40と連なって形成されている。また、拡大部38には、傾斜部42と、第一接触部である当て面としての面状部43と、第二接触部である線状部44とが、軸部37側の位置に形成されている。
【0029】
傾斜部42は、エンブレム本体部34からのピン35の突出方向(矢印Xに示す)と交差する所定方向である法線方向(矢印Yに示す)に対し、突出方向の先端側に向かって0°より大きい第一所定角度θ1で傾斜している。第一所定角度θ1は、本実施の形態では例えば9°に設定されている。本実施の形態において、傾斜部42は、ピン35毎に二つずつ形成され、互いに隣接して位置している。すなわち、傾斜部42,42は、ピン35の突出方向と交差し互いに反対向きの所定方向である法線方向(矢印Y1,Y2に示す)に対し突出方向の先端側に向かいそれぞれ第一所定角度θ1で傾斜している。したがって、傾斜部42,42は、ピン35の突出方向に対し、両側に配置されている。
【0030】
面状部43は、拡大部38にてピン35の突出方向と交差する方向に沿って面状に形成されている。面状部43は、傾斜部42に対して、ピン35の軸部37側、すなわち基端部側に位置している。面状部43は、ピン35の法線方向に対しピン35の突出方向の先端側に向かって、0°以上の第二所定角度θ2で傾斜している。第二所定角度θ2は、第一所定角度θ1よりも小さく設定されている。例えば、第二所定角度θ2は、0°に設定されていてもよい。また、面状部43は、傾斜部42に対して、ピン35の突出方向とは反対方向に段差状に突出している。さらに、面状部43のピン35の法線方向の長さは、各傾斜部42のピン35の法線方向の長さよりも短く設定されている。また、面状部43は、軸部37の外側面と連なって形成されている。本実施の形態において、面状部43は、一つのリブ40と連なって、このリブ40と同幅に形成されている。面状部43は、幅全体に亘り、ピン35の法線方向に一定または略一定の長さとなっている。さらに、面状部43は、複数のピン35の同側に配置されている。例えば本実施の形態の面状部43は、エンブレム体31を正面から見て、各ピン35の右下側に配置されている。すなわち、本実施の形態の面状部43は、ピン35に対し扉部の開きにより生じる遠心力方向側(下側)に設定されている。
【0031】
線状部44は、互いに隣接する傾斜部42,42の隣接位置に沿って形成されている。すなわち、線状部44は、ピン35の突出方向に対し交差する方向に沿って面状部43とは異なる位置に直線状に延びて形成されている。線状部44は、傾斜部42,42の頂部に配置されている。すなわち、線状部44は、傾斜部42,42に対して、ピン35の突出方向とは反対方向に突出して位置している。
【0032】
そして、ピン35は、
図4(a)に示す成形型P1,P2によりエンブレム本体部34と一体成形される。成形型P1,P2は、ピン35を突出方向に対し交差する方向から挟むように型閉じされる。これら成形型P1,P2のパーティングラインPLは、本実施の形態において、
図4(b)に示すように、各ピン35を突出方向に対して交差する所定の同方向に横切るように設定される。すなわち、パーティングラインPLは、二つのピン35,35を所定の同方向にそれぞれ横切るラインと、その方向と平行な方向に残りの一つのピン35を横切るラインとを結ぶように凸字状に設定される。本実施の形態において、パーティングラインPLが各ピン35を横切る方向は、二つのピン35,35の中心軸の位置を結ぶ方向と平行または略平行である。このパーティングラインPLに各ピン35の線状部44が形成される。また、成形型P1,P2は、ゲートGが一つのピン35の位置に設定されている。本実施の形態では、ゲートGは、エンブレム体31の上側に位置するピン35の位置に設定されている。さらに、成形型P1,P2は、
図4(a)に示すように、矢印Y1,Y2方向に移動されて型開きされる。すなわち、傾斜部42の第一所定角度θ1は、成形型P1,P2の抜き勾配により設定される角度となっている。
【0033】
なお、エンブレム本体部34は、成形型P1,P2間のキャビティと連通して別途の成形型間に形成されるキャビティ内に成形されるが、説明を明確にするためにエンブレム本体部34の成形用の成形型については説明及び図示を省略する。
【0034】
図1(a)、
図1(b)、
図3、及び
図5に示すバックプレート32は、ロワエンブレムなどとも呼ばれるものである。バックプレート32は、例えば硬質の合成樹脂により成形されている。バックプレート32は、エンブレム体31を表板部21(正面板部23)に固定できれば種々の形状とすることができるが、例えば各角部が円弧状に湾曲する正三角形状の板状に形成されている。すなわち、バックプレート32は、回転対称に形成されている。また、バックプレート32は、正面板部23のエアバッグ側である背面側に取り付けられる。本実施の形態において、バックプレート32は、取付凹部29の背面側に配置される。また、バックプレート32は、取付凹部29の背面側に位置するリブ状の規制部46により外形位置が規制されて位置決めされる。さらに、バックプレート32には、エンブレム体31のピン35がそれぞれ挿入される穴部48が形成されている。穴部48は、例えば円形状に形成されている。また、穴部48は、ピン35の配置に対応して配置されている。すなわち、本実施の形態において、ピン35は、例えば正三角形の各頂点上に配置されている。さらに、各穴部48には、挿入されたピン35を係止するための当接部である弾性片部49が形成されている。弾性片部49は、穴部48の内縁から中心部に向かい突出された爪部であり、ピン35の突出方向である穴部48に対するピン35の挿脱方向に厚み方向を有して、この厚み方向に弾性変形可能な板状となっている。弾性片部49は、本実施の形態において、穴部48毎に三つずつ形成されており、穴部48の周方向に互いに離れて等配されている。そのため、隣り合う弾性片部49,49間は、穴部48の径方向に沿って放射状の溝部である切欠部50となっている。したがって、本実施の形態において、切欠部50は、穴部48毎に三つずつ形成されている。
【0035】
弾性片部49は、穴部48へのピン35の挿入を容易にするものである。弾性片部49は、例えば穴部48の内縁から周方向に沿って一定に突出する帯状に形成されている。また、弾性片部49は、少なくともエアバッグの膨張展開時にエンブレム体31の面状部43及び線状部44が、ピン35の突出方向とは反対方向から当接する部分である。弾性片部49には、面状部43と線状部44との少なくともいずれかが常時当接されていることが好ましい。例えば、本実施の形態では、面状部43が弾性片部49に対し常時当接され、線状部44がエアバッグの膨張展開時に弾性片部49に対しさらに当接されるように設定されているが、線状部44が弾性片部49に対し常時当接され、面状部43がエアバッグの膨張展開時に弾性片部49に対しさらに当接されるように設定されていてもよいし、面状部43及び線状部44がそれぞれ弾性片部49に対し常時当接されていてもよい。
【0036】
そして、カバー体18の製造の際には、カバー本体部19を予め合成樹脂により射出成形するとともに、エンブレム20のエンブレム体31、及びバックプレート32をそれぞれ合成樹脂により別途射出成形する。エンブレム体31は、成形型P1,P2を閉じ、ゲートGから樹脂原料をキャビティ内に射出し、固化させた後、成形型P1,P2を開いて脱型する。成形されたエンブレム体31には、各ピン35に傾斜部42、面状部43、及び線状部44が形成される。
【0037】
次いで、この成形したエンブレム体31を、カバー本体部19の表板部21の正面板部23の正面側に配置して、ピン35を開口部28に挿通し、別途成形したバックプレート32を表板部21の正面板部23の背面側に配置して、このバックプレート32の穴部48に対して、各開口部28から突出するエンブレム体31のピン35を嵌挿(圧入)する。この結果、各ピン35の拡大部38が弾性片部49をそれぞれ弾性変形させ、これら弾性片部49を拡大部38が通過した位置で弾性片部49が復帰変形して軸部37に接触し、エンブレム体31がバックプレート32に係止保持される。この状態で、各ピン35は、軸部37の各リブ40が各弾性片部49の先縁と接触する。また、各切欠部50は、各ピン35の軸部37のリブ40,40間に位置する。このため、エンブレム体31とバックプレート32とにより、表板部21の正面板部23が正面背面方向に挟み込まれた状態でエンブレム20が強固に固定される。また、この状態で、エンブレム20は、エンブレム体31が取付凹部29に収納され、エンブレム体31のエンブレム本体部34の背面側の曲面が取付凹部29の底部の背面に合わせられて、この取付凹部29の周囲の正面板部23の表面から大きく突出することなく配置される。
【0038】
カバー体18を備えたエアバッグ装置12をステアリングホイール10に備えた自動車が衝突などすると、制御装置がインフレータを作動させ、エアバッグにガスを供給する。すると、エアバッグが急速に膨張展開し、この膨張展開する圧力でカバー本体部19の表板部21をテアラインに沿ってエンブレム20を迂回した位置で破断し、扉部を形成し、この扉部がヒンジ部を軸として回動してエアバッグを膨出させる開口である突出口を形成し、この突出口からエアバッグが乗員の前方に展開し、乗員を保護する。
【0039】
このとき、エンブレム20では、エンブレム体31の面状部43がバックプレート32の弾性片部49に対しピン35の突出方向とは反対方向に面状に向かい当接するとともに、エンブレム体31の線状部44がバックプレート32の弾性片部49に対しピン35の突出方向とは反対方向に向かい線状に当接することで、エンブレム体31に対しバックプレート32が引っ掛けられてカバー本体部19の扉部とともに一体的に引き込まれ、エンブレム体31とバックプレート32とが係合を維持してカバー本体部19からの脱落を防止する。
【0040】
このように、一実施の形態によれば、エンブレム体31のピン35の軸部37の先端側に拡大されて形成された拡大部38に、ピン35の突出方向と交差する方向に沿って面状部43を面状に形成するとともに、面状部43と異なる位置にてピン35の突出方向と交差する方向に沿って線状部44を線状に形成し、これら面状部43と線状部44とを、バックプレート32の弾性片部49に対し、少なくともエアバッグの膨張展開時にピン35の突出方向とは反対方向から当接させることで、エンブレム体31のピン35とバックプレート32の弾性片部49との接触量を確保し、簡素な構成で、エンブレム20のカバー本体部19に対する係合力を高めることが可能になる。したがって、エンブレム20は、部品点数を増やすことなく細部の玉成も不要な、簡素な構成で、高い係合力を有し、安価で保証を高めることができる。
【0041】
また、エンブレム体31の面状部43と線状部44との少なくともいずれか一方をバックプレート32の弾性片部49に対し常時当接させることで、エンブレム体31に対するバックプレート32のがたつきを抑制できる。
【0042】
さらに、エンブレム本体部34からのピン35の突出方向と交差する所定方向である法線方向に対し、傾斜部42の傾斜角度である第一所定角度θ1よりも、面状部43の傾斜角度である第二所定角度θ2を小さく設定することで、バックプレート32の弾性片部49に対する面状部43の接触量を確保でき、エンブレム20のカバー本体部19に対する係合力をより高めることができる。
【0043】
また、エンブレム本体部34からのピン35の突出方向と交差し互いに反対向きの所定方向である法線方向に対し突出方向の先端側に向かいそれぞれ第一所定角度θ1で傾斜する傾斜部42,42同士が隣接する位置に沿って線状部44を形成することで、ピン35の互いに反対向きの法線方向に型開きされる成形型P1,P2のパーティングラインPLを利用して、線状部44を容易に形成できる。
【0044】
さらに、面状部43は、所定方向であるピン35の法線方向の長さが傾斜部42よりも短いので、面状部43の第二傾斜角度θ2が小さくても、ピン35の法線方向に型開きされる成形型P1,P2に対しピン35を脱型可能となる。
【0045】
また、面状部43及び線状部44を、回転対称なエンブレム体31の造形に対して均等に配置することで、カバー本体部19とエンブレム20との曲面合わせに影響が少なくエンブレム体31全体を均等に固定することが可能になる。
【0046】
特に、カバー体18の見栄えを向上するために、エンブレム本体部34をカバー本体部19の正面板部23の湾曲に沿って正面側に膨出するように湾曲させる場合、エンブレム体31(ピン35)の成形型P1,P2からの脱型を可能とするために、抜き勾配となるピン35の傾斜部42の第一所定角度θ1を成形型P1,P2の型開き方向となるピン35の法線方向に対して大きくせざるを得ないため、傾斜部42をバックプレート32の弾性片部49に対して接触させる面積を広く確保することが容易でない。そこで、本実施の形態では、面状部43と線状部44とを弾性片部49に対して接触させるようにすることで、ピン35側とバックプレート32側との接触量を確保し、エンブレム20のカバー本体部19に対する係合力を高めることが可能となる。
【0047】
さらに、一つの弾性片部49に対して面状部43が面状に当接し、他の一つの弾性片部49に対して線状部44が線状に当接するので、すべての弾性片部49に対して拡大部38を面状に接触させる構成と比較して、玉成が容易である。
【0048】
しかも、エンブレム体31のバックプレート32に対する組み付けは、従来と同様にエンブレム体31をバックプレート32に対して押し込む作業のみで容易なため、従来の組付設備を変更することなくエンブレム20の組み付けを実施可能である。
【0049】
なお、上記の一実施の形態において、面状部43の向きは、成形型P1,P2の型開き方向に応じて自由に設定してよい。
【0050】
また、成形型P1,P2の型開き方向(型閉じ方向)は、ピン35の法線方向に限られず、法線方向に対して傾斜した方向でもよい。すなわち、成形型P1,P2の型開き方向(型閉じ方向)は、ピン35の突出方向に対し交差する所定方向として設定可能である。
【0051】
さらに、面状部43及び線状部44は、それぞれ膨張展開時にのみ弾性片部49に当接させるようにしてもよい。
【0052】
また、リブ40は、必須の構成ではなく、軸部37を円柱状などに形成し、面状部43や線状部44を、軸部37に連なって形成してもよい、
そして、エンブレム20は、その成形型構造が成り立つ限りにおいては、ピン35の数を問わずに実施できる。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明は、例えば、自動車のハンドル(ステアリングホイール)に用いられるエアバッグ装置のカバー体の他、種々の移動体のハンドルその他の部位に備えられるエアバッグ装置のカバー体に適用できる。
【符号の説明】
【0054】
12 エアバッグ装置
18 カバー体
19 カバー本体部
20 装飾部材であるエンブレム
28 開口部
31 意匠部であるエンブレム体
32 受け部であるバックプレート
34 意匠部本体部であるエンブレム本体部
35 係合部であるピン
37 軸部
38 拡大部
42 傾斜部
43 第一接触部である面状部
44 第二接触部である線状部
49 当接部である弾性片部