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特許7179603リチウムイオン二次電池の固体電解質用NASICON型酸化物粒子の製造方法
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  • 特許-リチウムイオン二次電池の固体電解質用NASICON型酸化物粒子の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-18
(45)【発行日】2022-11-29
(54)【発明の名称】リチウムイオン二次電池の固体電解質用NASICON型酸化物粒子の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/0562 20100101AFI20221121BHJP
   H01M 4/62 20060101ALI20221121BHJP
   H01M 10/052 20100101ALN20221121BHJP
   C01B 25/37 20060101ALN20221121BHJP
【FI】
H01M10/0562
H01M4/62 Z
H01M10/052
C01B25/37 K
C01B25/37 H
C01B25/37 Z
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2018240003
(22)【出願日】2018-12-21
(65)【公開番号】P2020102372
(43)【公開日】2020-07-02
【審査請求日】2021-11-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000000240
【氏名又は名称】太平洋セメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000084
【氏名又は名称】特許業務法人アルガ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山下 弘樹
(72)【発明者】
【氏名】大神 剛章
【審査官】前田 寛之
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-088423(JP,A)
【文献】特表2013-502045(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M10/05-10/0587
H01M10/36-10/39
H01M 4/00- 4/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
次の工程(I)~(II):
(I)リチウム化合物、金属(M)(Mは、Ca、Al、Cu、Co、Fe、Ni、Ga、Cr、Sc、In、Y、La、Zn、Si、Mn、Zr、Ge、Nd、Sr、Sn、Hf、V又はZrから選ばれる1種又は2種以上を示す。)化合物及びリン酸化合物と、溶媒とを混合して、25℃におけるpHが0.5~3である混合液を調製する工程
(II)得られた混合液を600℃~1000℃で噴霧熱分解する工程
を備える、下記式(1)で表されるリチウムイオン二次電池の固体電解質用NASICON型酸化物粒子の製造方法
Li 1+x 2 (PO 4 3 ・・・(1)
(式(1)中、Mは、金属(M)化合物におけるMと同義であり、xは、0≦x≦4、x+(Mの価数)×2=8を満たす数を示す。)
【請求項2】
工程(I)で得られる混合液中においてリチウムとリン酸とのモル比(Li/PO4)が0.33~0.65である、請求項1に記載のリチウムイオン二次電池の固体電解質用NASICON型酸化物粒子の製造方法。
【請求項3】
工程(I)で得られる混合液中におけるリチウム化合物の含有量が、0.01mol/L~1.0mol/Lである、請求項1又は2に記載のリチウムイオン二次電池の固体電解質用NASICON型酸化物粒子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、全固体リチウムイオン二次電池に用いるための、NASICON型酸化物粒子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
現在実用化されているリチウムイオン二次電池は、電解液に可燃性の有機溶媒を用いているため、液漏れや発火等に対する安全対策を充分に講じる必要があり、また電池の小型化や薄膜化の難易度も高い。ところが、酸化物系や硫化物系の固体電解質を備えた全固体リチウムイオン二次電池であると、エネルギー密度が高い上に、可燃物を用いることなく製造することができるため、安全対策を講じる負担が軽減され、製造コストや生産性を容易に高めることが可能となる。
【0003】
こうしたことから、高い有用性に期待がかかる固体電解質材料については、種々の開発が活発化しつつある。なかでも、一般式Li1+x2(PO4)3で表されるNASICON型の結晶構造を有するリン酸リチウム系複合酸化物(以後、「NASICON型酸化物」と称す。)は、化学的安定性に優れる酸化物系の固体電解質であるという特徴に加えて、室温において10-4S/cm台もの高いリチウムイオン伝導度を示すという優れた特性を有しており、大いに期待される固体電解質材料の一つである。
【0004】
このようなNASICON型酸化物粒子は、固相法やゾルゲル法を用いれば製造することができるものの、粉砕処理を施して微細化を図らなければならず、ブロードな粒度分布の結晶粒子となって、リチウムイオン伝導性の低下を招くおそれがある。一方、これら固相法やゾルゲル法のほか、ガラス化法を用いた製造も試みられており、例えば特許文献1には、NASICON型酸化物の原料となる複数の酸化物をCa3(PO42とともに熔解してガラス化し、そのガラスを熱処理及び酸処理することでNASICON型酸化物多孔質体を製造する方法(ガラス化法)が開示されている。また特許文献2には、モル比でLi2O:Al23:TiO2:P25:ZnO=1+x:x:4-2x:3+y:yを超え、かつ3y未満(0≦x≦1、1≦y≦4)からなるガラスを作製する、ガラス化法によるNASICON型酸化物粒子の製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平05-139781号公報
【文献】特開2016-155707号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載の製造方法であると、得られるNASICON型酸化物粒子に不純物としてCaが多く含まれ、また結晶度が低く、さらに固相法やゾルゲル法と同様、依然として粉砕処理を施す必要がある。また、特許文献2に記載の製造方法であると、不純物の混入が抑制され得るものの、ガラスの作製やガラスを結晶化させるための複数回の熱処理工程、及び不純物の溶出のための酸処理等の工程を経る必要があり、工程の煩雑化を余儀なくされる。
【0007】
したがって、本発明の課題は、粉砕処理等を要することなく微細かつ高純度なNASICON型酸化物粒子が得られ、工程の簡略化をも図ることのできるNASICON型酸化物粒子の製造方法を提供することにある。
【0008】
そこで本発明者は、種々検討したところ、リチウム化合物、金属(M)化合物、及びリン酸化合物と溶媒とから調製した特定のpH値を有する混合液を用い、これを特定の温度で噴霧熱分解することにより、リチウムイオン二次電池の固体電解質として優れた特性を有するNASICON型酸化物粒子が得られることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【課題を解決するための手段】
【0009】
すなわち、本発明は、次の工程(I)~(II):
(I)リチウム化合物、金属(M)(Mは、Ca、Al、Cu、Co、Fe、Ni、Ga、Cr、Sc、In、Y、La、Zn、Si、Mn、Zr、Ge、Nd、Sr、Sn、Hf、V又はZrから選ばれる1種又は2種以上を示す。)化合物及びリン酸化合物と、溶媒とを混合して、25℃におけるpHが0.5~3である混合液を調製する工程
(II)得られた混合液を600℃~1000℃で噴霧熱分解する工程
を備える、リチウムイオン二次電池の固体電解質用NASICON型酸化物粒子の製造方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明の製造方法によれば、所定の混合液を調製し、これを噴霧熱分解するのみで、微細かつ高純度なNASICON型酸化物粒子を得ることができ、また熱処理工程を複数回繰り返す必要がなく、粒子の微細化を図るための粉砕処理を施す必要もないことから、工程の簡略化を図ることもできる。
したがって、本発明の製造方法によれば、優れたイオン伝導性を有するリチウムイオン二次電池の固体電解質用NASICON型酸化物粒子を容易に得ることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】実施例1で得られたNASICON型酸化物粒子を示すSEM像である。図1(a)は、NASICON型酸化物粒子の二次粒子のSEM像であり、図1(b)は、NASICON型酸化物粒子の二次粒子を構成する一次粒子の凝集状態を示すSEM像である。
図2】実施例1で得られたNASICON型酸化物粒子のX線回折パターンである。
図3】比較例1で得られたNASICON型酸化物粒子を示すSEM像である。
図4】比較例1で得られたNASICON型酸化物粒子のX線回折パターンである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明のリチウムイオン二次電池の固体電解質用NASICON型酸化物粒子(以下、単に「NASICON型酸化物粒子」とも称する)の製造方法は、次の工程(I)~(II):
(I)リチウム化合物、金属(M)(Mは、Ca、Al、Cu、Co、Fe、Ni、Ga、Cr、Sc、In、Y、La、Zn、Si、Mn、Zr、Ge、Nd、Sr、Sn、Hf、V又はZrから選ばれる1種又は2種以上を示す。)化合物及びリン酸化合物と、溶媒とを混合して、25℃におけるpHが0.5~3である混合液を調製する工程
(II)得られた混合液を600℃~1000℃で噴霧熱分解する工程
を備える。
【0013】
工程(I)は、リチウム化合物、金属(M)(Mは、Ca、Al、Cu、Co、Fe、Ni、Ga、Cr、Sc、In、Y、La、Zn、Si、Mn、Zr、Ge、Nd、Sr、Sn、Hf、V又はZrから選ばれる1種又は2種以上を示す。)化合物及びリン酸化合物と、溶媒とを混合して、25℃におけるpHが0.5~3である混合液(A)を調製する工程である。かかる工程(I)において調製された混合液(A)を用いれば、後述する工程(II)を経ることのみで、粒子を形成させるための熱処理と粒子の微細化とを一括して行うことができ、工程の簡略化を図ることができる。
【0014】
工程(I)において用いるリチウム化合物は、後の工程でNASICON型酸化物粒子を形成させるためのリチウム源である。かかるリチウム化合物としては、例えば水酸化物、塩化物、炭酸塩、硫酸塩、及び有機酸塩から選ばれる1種又は2種以上が挙げられる。より具体的には、例えば、水酸化リチウム又はその水和物、過酸化リチウム、塩化リチウム、炭酸リチウム、硫酸リチウム、酢酸リチウム、シュウ酸リチウム等を好適に用いることができる。
【0015】
リチウム化合物の含有量は、その種類によっても変動し得るが、工程(I)において得られる混合液(A)中に、好ましくは0.01mol/L~1.0mol/Lであり、より好ましくは0.05mol/L~0.7mol/Lであり、さらに好ましくは0.05mol/L~0.5mol/Lである。
【0016】
工程(I)において用いる金属(M)化合物は、後の工程でNASICON型酸化物粒子を形成させるための金属(M)源(Mは、Ca、Al、Cu、Co、Fe、Ni、Ga、Cr、Sc、In、Y、La、Zn、Si、Mn、Zr、Ge、Nd、Sr、Sn、Hf、V又はZrから選ばれる1種又は2種以上を示す。)である。かかる金属(M)化合物としては、例えば、アルミニウムの硫酸塩、硝酸塩、炭酸塩、酢酸塩、乳酸塩、シュウ酸塩、酸化物、水酸化物、ハロゲン化物等の、Ti化合物以外の化合物が挙げられる。
【0017】
金属(M)化合物の含有量は、工程(I)において得られる混合液(A)中でのリチウムと金属(M)のモル比(Li/M)で、好ましくは2~11であり、より好ましくは2.4~11であり、さらに好ましくは3~6である。上記混合液(A)中においてこのような量となるよう、金属(M)化合物を混合液に添加すればよい。
【0018】
工程(I)において用いるリン酸化合物は、後の工程でNASICON型酸化物粒子を形成させるためのリン酸源であり、また混合液(A)のpHを制御するためのpH調整剤としても作用し得る。例えば、オルトリン酸(H3PO4、リン酸)、メタリン酸、ピロリン酸、三リン酸、四リン酸、リン酸アンモニウム、リン酸水素アンモニウム等が挙げられる。なかでも、pH調整剤としての作用を活用する観点から、リン酸又はリン酸水素アンモニウムを用いるのが好ましく、リン酸水素アンモニウムを用いるのがより好ましい。また、これらは70質量%~90質量%濃度の水溶液として用いるのがよい。
【0019】
リン酸化合物の含有量は、工程(I)において得られる混合液(A)中でのリチウムとリン酸のモル比(Li/PO4)で、好ましくは0.33~0.65であり、より好ましくは0.37~0.6であり、さらに好ましくは0.4~0.55である。また、リチウム化合物の含有量は、工程(I)において得られる混合液(A)中に、好ましくは0.01mol/L~1mol/Lであり、より好ましくは0.05mol/L~0.5mol/Lであり、さらに好ましくは0.08mol/L~0.3mol/Lである。
【0020】
工程(I)における混合液(A)のpHは、後述する工程(II)を経ることにより、目的物であるNASICON型酸化物粒子を良好に形成させる観点から、好ましくは0.5~3であり、より好ましくは0.5~2.7であり、特に好ましくは0.5~2.5である。なお、pH調整剤として、リンゴ酸、クエン酸、乳酸などの有機酸を適宜用いてもよい。
【0021】
工程(I)において混合液(A)を調製するにあたり、さらに溶媒を用いる。かかる溶媒としては、水及び/又は有機溶媒が挙げられ、具体的には、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール等の水に可溶な有機溶媒又はこれを水に溶解させた水溶液を用いることもできる。かかる溶媒の含有量は、リチウム化合物、金属(M)化合物及びリン酸化合物の混合液(A)中における良好な溶解性又は分散性を保持する観点、並びに後述する工程(II)の噴霧熱分解において、各成分による粒子形成への良好な反応性と得られるNASICON型酸化物粒子の微粒子化とを確保する観点から、工程(I)において得られる混合液(A)100質量%中に、好ましくは80質量%~99質量%であり、より好ましくは85質量%~97質量%であり、さらに好ましくは88質量%~95質量%である。
【0022】
なお、混合液(A)を調製するにあたり、リチウム化合物、金属(M)化合物及びリン酸化合物の混合液(A)中における溶解性又は分散性を高める観点から、予めこれらの各化合物を各々別個に含有する混合液を調製し、これを混合してもよい。なかでも、各化合物の良好な溶解性又は分散性を確保しつつ、混合液(A)のpHの制御を容易にする観点から、リチウム化合物、金属(M)化合物を含有する混合液と、リン酸化合物を含有する混合液とを混合して、混合液(A)を調製するのが好ましい。
【0023】
混合液(A)は、各成分をより均一に分散させる観点から、工程(II)に移行する前に、撹拌するのがよい。混合液(A)を撹拌する時間は、好ましくは5分間~3時間であり、より好ましくは10分間~2時間であり、さらに好ましくは15分間~90分間である。撹拌速度は、容器内壁面での混合液(A)の流速に換算して、好ましくは10cm/秒~200cm/秒であり、より好ましくは15cm/秒~150cm/秒、さらに好ましくは20cm/秒~100cm/秒である。
【0024】
工程(II)は、工程(I)で得られた混合液(A)を600℃~1000℃で噴霧熱分解する工程である。かかる噴霧熱分解とは、超音波式の噴霧装置、又は流体ノズルによる噴霧装置等を用い、装置に備えられた炉内に原料液体を噴霧することにより液滴を形成させ、さらにこれを蒸発乾固することによって粒子を形成させる処理である。なかでも、液滴の粒径を適宜調整して所望の粒径を有する粒子を形成させる観点から、2流体ノズルや4流体ノズル等の流体ノズルによる噴霧装置を用いるのが好ましい。ここで流体ノズルによる噴霧装置を用いた噴霧熱分解の方式には、空気と原料液体とをノズル内部で混合する内部混合方式と、ノズル外部で空気と原料液体を混合する外部混合方式とがあり、いずれも採用することができる。
【0025】
噴霧熱分解する際における炉内の温度は、リチウム化合物、金属(M)化合物及びリン酸化合物の反応性を確保してNASICON型酸化物粒子を良好に形成させる観点から、600℃~1000℃であって、好ましくは650℃~950℃である。
また、炉内の雰囲気は、特に限定されるものではなく、大気雰囲気下、不活性ガス雰囲気下又は還元条件下のいずれであってもよいが、簡便性の観点から、大気雰囲気下が好ましい。
【0026】
本発明の製造方法により得られるNASICON型酸化物粒子の一次粒子の平均粒径は、SEM又はTEMの電子顕微鏡を用いた観察における、数十個の一次粒子の粒径(長軸の長さ)の測定値の平均値で、好ましくは70nm~300nmであり、より好ましくは70nm~250nmであり、さらに好ましくは70nm~200nmである。さらに、その平均結晶子径は、好ましくは70nm~300nmであり、より好ましくは70nm~250nmであり、さらに好ましくは70nm~200nmである。
ここで、NASICON型酸化物粒子の平均結晶子径は、Cu-kα線による回折角2θの範囲が10°~80°のX線回折プロファイルについて、シェラーの式を適用して求めた値を意味する。
【0027】
また、得られるNASICON型酸化物粒子のBET比表面積は、充放電特性に優れた二次電池を得る観点から、好ましくは3m2/g以上であり、より好ましくは5m2/g以上であり、さらに好ましくは7m2/g以上である。
【0028】
本発明の製造方法により得られるNASICON型酸化物粒子は、NASICON型の結晶構造を有する酸化物であり、具体的には、下記式(1)で表されるTiを含まない酸化物である。
Li1+x2(PO43 ・・・(1)
(式(1)中、Mは、Ca、Al、Cu、Co、Fe、Ni、Ga、Cr、Sc、In、Y、La、Zn、Si、Mn、Zr、Ge、Nd、Sr、Sn、Hf、V又はZrから選ばれる1種又は2種以上を示し、xは、0≦x≦4、x+(Mの価数)×2=8を満たす数を示す。)
より具体的には、例えば、LiZr2(PO43、Li1.5Al0.5Ge1.5(PO43、Li1.2Zr1.9Ca0.1(PO43、LiHf2(PO43、LiGe2(PO43、Li1.5Al0.4Cr0.1Ge1.5(PO43が挙げられる。
【0029】
このように、本発明の製造方法によれば、粒径が有効に微細化されたNASICON型酸化物粒子を得ることができる。したがって、優れた充放電特性を発現し得る全固体リチウムイオン二次電池用固体電解質を、簡便に製造することができる。
【0030】
こうして本発明の製造方法により得られるNASICON型酸化物粒子を固体電解質として適宜適用できる二次電池としては、正極と負極と固体電解質を必須構成とするものであって、正極活物質層、固体電解質層、及び負極活物質層の順に積層配置された積層体が形成されるものであれば特に限定されない。
【0031】
ここで、正極活物質層については、リチウムイオン等の金属イオンを充電時には放出し、かつ放電時には吸蔵することができれば、その材料構成は特に限定されるものではなく、公知の材料構成のものを用いることができる。例えば、原料化合物を水熱反応させることにより得られる各種ポリアニオン型正極活物質からなる正極活物質層を好適に用いることができる。
【0032】
また、負極活物質層については、リチウムイオン等を充電時には吸蔵し、かつ放電時には放出することができれば、その材料構成は特に限定されるものではなく、公知の材料構成のものを用いることができる。例えば、原料を水熱反応させることにより得られるチタンニオブ酸化物やチタン酸ナトリウムリチウム複合酸化物からなる負極活物質層を好適に用いることができる。
【0033】
また、本発明のNASICON型酸化物粒子を用いて二次電池を製造する方法としては、特に限定されず、公知の方法を使用できる。例えば、特開2017-10816号公報に記載されるように、正極活物質層、及び負極活物質層に内包される固体電解質粒子として、本発明のNASICON型酸化物粒子を二次電池の固体電解質として用い、固体電解質層には、かかる固体電解質粒子以外の固体電解質を用いてもよい。
【0034】
上記の構成を有する二次電池の形状としては、特に制限を受けるものではなく、コイン型、円筒型,角型等種々の形状や、ラミネート外装体に封入した不定形状であってもよい。
【実施例
【0035】
以下、本発明について、実施例に基づき具体的に説明する。なお、表中に特に示さない限り、各成分の含有量は質量%を示す。
【0036】
[製造例1](LiCoPO4正極活物質粒子の製造)
LiOH・H2Oを12.72gと水40mLを混合して、スラリーx1を得た。得られたスラリーx1を、25℃の温度に保持しながら3分間撹拌しつつ85質量%のH3PO4を11.53g、35mL/分で滴下し、撹拌速度400rpmで1時間撹拌することにより、Li3PO4スラリーx2を得た。次に、得られたLi3PO4スラリーx2全量に対し、CoSO4・7H2Oを21.08g添加して、スラリーx3とした後、これをオートクレーブに投入し、170℃で1時間の水熱反応を行った。オートクレーブ内の圧力は、0.8MPaであった。生成した水熱反応物をろ過し、次いで、水熱反応物1質量部に対して12質量部の水により洗浄した。洗浄した水熱反応物を-50℃で12時間凍結乾燥して、LiCoPO4正極活物質粒子(粒子径100nm)を得た。
【0037】
[実施例1](Li1.5Al0.5Ge1.5(PO43
水100mLにLiNO3 1.03g、Al(NO33・9H2O 1.88g及びGeO2 1.57gを混合して、混合液a1を得た。得られた混合液a1にNH42PO4 3.45gを混合し、撹拌速度50cm/秒で10分間撹拌して混合液A1を得た。25℃における混合液A1のpHは1.0であった。
次いで、圧縮空気をキャリアガスとして用い、得られた混合液b1を送液ポンプにより4流体ノズルを介してミスト状に噴霧し、炉内温度を900℃に設定した噴霧熱分解炉内を通過させてNASICON型酸化物粒子X1を得た。得られたNASICON型酸化物粒子X1は、Li1.5Al0.5Ge1.5(PO43単相であり、一次粒子の平均粒径は100nm、平均結晶子径は100nm、BET比表面積は24m2/gであった。
得られたNASICON型酸化物粒子X1のSEM写真を図1に、X線回折パターンを図2に示す。
【0038】
[実施例2](LiZr2(PO43
LiNO3の添加量を0.69gとし、GeO2を用いず、Al(NO33・9H2Oの代わりにZrO(NO3)2・2H2O 5.35gを添加した以外、実施例1と同様にしてNASICON型酸化物粒子X2を得た。得られたNASICON型酸化物粒子X2は、LiZr2(PO43単相であり、一次粒子の平均粒径は100nm、BET比表面積は24m2/gであった。
【0039】
[実施例3](Li1.2Zr1.9Ca0.1(PO43
LiNO3の添加量を0.83gとし、GeO2を用いず、Al(NO33・9H2Oの代わりにZrO(NO3)2・2H2O 5.08g及びCa(NO3)2・4H2O 0.24gを添加した以外、実施例1と同様にしてNASICON型酸化物粒子X3を得た。得られたNASICON型酸化物粒子X3は、Li1.2Zr1.9Ca0.1(PO43単相であり、一次粒子の平均粒径は100nm、BET比表面積は24m2/gであった。
【0040】
[実施例4](LiHf2(PO43
LiNO3の添加量を0.69gとし、GeO2を用いず、Al(NO33・9H2Oの代わりにHfCl4 6.41gを添加した以外、実施例1と同様にしてNASICON型酸化物粒子X4を得た。得られたNASICON型酸化物粒子X4は、LiHf2(PO43単相であり、一次粒子の平均粒径は100nm、BET比表面積は24m2/gであった。
【0041】
[実施例5](LiGe2(PO43
LiNO3の添加量を0.69gとし、GeO2の添加量を2.09gとした以外、実施例1と同様にしてNASICON型酸化物粒子X5を得た。得られたNASICON型酸化物粒子X5は、LiGe2(PO43単相であり、一次粒子の平均粒径は100nm、BET比表面積は24m2/gであった。
【0042】
[実施例6](Li1.5Al0.4Cr0.1Ge1.5(PO43
Al(NO33・9H2Oの添加量を1.50gとし、Al(NO33・9H2OとともにCr(NO3)3・9H2O 0.40gを添加した以外、実施例1と同様にしてNASICON型酸化物粒子X6を得た。得られたNASICON型酸化物粒子X6は、Li1.5Al0.4Cr0.1Ge1.5(PO43単相であり、一次粒子の平均粒径は100nm、BET比表面積は24m2/gであった。
【0043】
[比較例1](Li1.5Al0.5Ge1.5(PO43
水40mLにLiOH・H2O 0.64g及びGeO2 1.58gを混合して、混合液(az-1)2を得た。得られた混合液(az-1)2に、Al23 0.26g及び85質量%のH3PO4 3.46gを混合し、180℃で12時間恒温乾燥して前駆体混合物(Bz)2を得た。得られた前駆体混合物(Bz)2を、空気雰囲気下750℃で12時間焼成してNASICON型酸化物を得た。得られたNASICON型酸化物を、遊星ボールミルを用いて450rpmで10時間粉砕してNASICON型酸化物粒子Y1を得た。得られたNASICON型酸化物粒子Y1は、Li1.5Al0.5Ge1.5(PO43単相であり、平均粒径(D50)は400nm、平均結晶子径は300nm、BET比表面積は8m2/gであった。
ここで、平均粒径(D50)値とは、レーザー回折・散乱法に基づく体積基準の粒度分布により得られる値であり、D50値は累積50%での粒径(メジアン径)を意味する。
得られたNASICON型酸化物粒子Y1のSEM写真を図3に、X線回折パターンを図4に示す。
【0044】
《評価試験》
実施例1~6及び比較例1で得られたNASICON型酸化物粒子X1~X6、及びY1を用い、全固体リチウムイオン二次電池を作製した。
具体的には、正極に製造例1で得られたLiCoPO4正極活物質粒子を用い、正極活物質:NASICON型酸化物粒子(質量比)を75:25の配合割合で混合した後、プレス用冶具に投入して正極活物質層とした。さらに、その層上にNASICON型酸化物粒子のみをさらに投入して固体電解質層として積層させた後、ハンドプレスを用いて16MPaで2分間プレスして、φ14mmの円盤状の正極を得た。次いで、負極としてリチウム箔を固体電解質層側に取り付けることで、全固体リチウムイオン二次電池を作製した。
【0045】
作製した全固体リチウムイオン二次電池を用いて、充電条件を16mA/g、電圧5.0Vの定電流充電、放電条件を16mA/g、終止電圧3.5Vの定電流放電とした場合の、16mA/gにおける放電容量を求めた。なお、充放電試験は全て45℃で行った。結果を表1に示す。
【0046】
【表1】
【0047】
上記結果より、実施例1~6の製造方法で得られたNASICON型酸化物粒子X1~X6は、比較例1の製造方法で得られたNASICON型酸化物粒子Y1に比して、平均粒径の値が小さいため、固体電解質層の密度が増加し、放電容量が大きくなったと考えられる。
図1
図2
図3
図4