(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-18
(45)【発行日】2022-11-29
(54)【発明の名称】微細セルロース繊維含有シートの製造方法
(51)【国際特許分類】
D21H 11/18 20060101AFI20221121BHJP
D21H 17/25 20060101ALI20221121BHJP
【FI】
D21H11/18
D21H17/25
(21)【出願番号】P 2018240029
(22)【出願日】2018-12-21
【審査請求日】2021-11-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000183484
【氏名又は名称】日本製紙株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100126985
【氏名又は名称】中村 充利
(74)【代理人】
【識別番号】100141265
【氏名又は名称】小笠原 有紀
(74)【代理人】
【識別番号】100129311
【氏名又は名称】新井 規之
(72)【発明者】
【氏名】奥村 寛之
(72)【発明者】
【氏名】青木 義弘
(72)【発明者】
【氏名】大根田 真也
【審査官】藤原 敬士
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/154568(WO,A1)
【文献】特開2018-059254(JP,A)
【文献】特開2012-214943(JP,A)
【文献】特開2011-074528(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D21H 11/00 - 27/42
C08B 1/00 - 37/18
D21B 1/00 - 1/38
D21C 1/00 - 11/14
D21D 1/00 - 99/00
D21F 1/00 - 13/12
D21G 1/00 - 9/00
D21J 1/00 - 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
微細セルロース繊維を含有する粉末と、パルプと、水の三成分を混合する、あるいは二成分を先に混合してその余の成分を後から混合して、スラリーを調製する工程、
前記スラリーからシートを製造する工程を備える、
微細セルロース繊維含有シートの製造方法。
【請求項2】
前記微細セルロース繊維が化学変性微細セルロース繊維である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記化学変性微細セルロース繊維がカルボキシメチル化微細セルロース繊維である、請求項2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記スラリーが、前記パルプ100重量部に対して、10重量部以下の前記粉末を含む、請求項1~3のいずれかに記載の製造方法。
【請求項5】
前記粉末の含水率が90重量%以下である、請求項1~4のいずれかに記載の製造方法。
【請求項6】
前記カルボキシルメチル化微細セルロース繊維の置換度が0.01~0.50である、請求項3~5のいずれかに記載の製造方法。
【請求項7】
前記シートの含水率が10重量%以下である、請求項1~6のいずれかに記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は微細セルロース繊維含有シートの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
セルロースを微細化して得られるセルロースナノファイバーやミクロフィブリレイテッドセルロース(以下併せて「微細セルロース繊維」という。)は、繊維径がナノ~マイクロオーダーの微細な繊維であり、高強度、高弾性、チキソ性等、通常のパルプにはない機能を有する新規材料として様々な分野での利用が期待されている。
【0003】
セルロースナノファイバーをパルプに添加すると紙力が向上することが知られており、例えば特許文献1には、酸化パルプと水の混合物を解繊処理してセルロースナノファイバー分散液を調製し、当該分散液を紙料に添加することを備える紙の製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1の方法はセルロースナノファイバー分散液を用いる。セルロースナノファイバー分散液はそのほとんどが水であるため、当該分散液を抄紙実施場所まで輸送する際のハンドリング性等に問題があり、作業性が良好ではなかった。かかる事情を鑑み、本発明は作業性に優れる、微細セルロース繊維含有シートの製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
発明者らは、微細セルロース繊維を含有する粉末を用いることで前記課題を解決できることを見出した。すなわち、前記課題は以下の本発明によって解決される。
(1)微細セルロース繊維を含有する粉末と、パルプと、水の三成分を混合する、あるいは二成分を先に混合してその余の成分を後から混合して、スラリーを調製する工程、
前記スラリーからシートを製造する工程を備える、
微細セルロース繊維含有シートの製造方法。
(2)前記微細セルロース繊維が化学変性微細セルロース繊維である、(1)に記載の製造方法。
(3)前記化学変性微細セルロース繊維がカルボキシメチル化微細セルロース繊維である、(2)に記載の製造方法。
(4)前記スラリーが、前記パルプ100重量部に対して、10重量部以下の前記粉末を含む、(1)~(3)のいずれかに記載の製造方法。
(5)前記粉末の含水率が90重量%以下である、(1)~(4)のいずれかに記載の製造方法。
(6)前記カルボキシルメチル化微細セルロース繊維の置換度が0.01~0.50である、(3)~(5)のいずれかに記載の製造方法。
(7)前記シートの含水率が10重量%以下である、(1)~(6)のいずれかに記載の製造方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明によって、作業性に優れる、微細セルロース繊維を含有するシートの製造方法を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明を詳細に説明する。本発明において「X~Y」はその端値であるXとYを含む。また「XまたはY」はX、Yの一方あるいは双方を意味する。
【0009】
1.本発明の製造方法
1-1.スラリー調製工程
本工程では、微細セルロース繊維を含有する粉末と、パルプと、水を混合してスラリーを調製する。
(1)微細セルロース繊維
本発明において、微細セルロース繊維は、平均繊維径が500nm未満のセルロースナノファイバー(以下「CNF」ともいう)および500nm以上のミクロフィブリレイテッドセルロース(以下「MFC」ともいう)の総称である。当該平均繊維径は長さ加重平均繊維径であり、例えばバルメット株式会社製フラクショネーターや原子間力顕微鏡(AFM)を用いて微細セルロース繊維を観察することにより測定できる。本発明においてMFCおよびCNFの平均繊維径等を測定する場合は、まず微細セルロース繊維がMFC、CNFのいずれに該当するかを特定する。当該特定は微細セルロース繊維をABB株式会社製ファイバーテスターやバルメット株式会社性フラクショネーター等の画像解析による繊維分析の結果をもとに判断することができる。微細セルロース繊維がMFCの場合は、フラクショネーターで平均繊維径を測定することができ、CNFの場合はAFMを用いて平均繊維径を測定することができる。当該繊維径の下限は好ましくは1nm以上であり、上限は特に限定されないが10mm以下程度である。
【0010】
MFCと原料であるセルロース繊維とは解繊の度合いが異なる。解繊の度合いは繊維を直接観察することによって確認できる。また、解繊の度合いを定量化することは一般に容易ではないが、機械処理後の濾水度や保水度の変化量や表面積(例えばBET)の変化量で定量化することも可能である。一例として、以下にN-オキシル化合物と、臭化物、ヨウ化物およびこれらの混合物からなる群より選択される物質の存在下で、酸化剤を用いて酸化して得た酸化セルロースの場合を説明する。この場合、MFCの解繊前のパルプの濾水度(F0)が10ml以上変化する程度に機械解繊または叩解して得たものであることが好ましい。すなわち、処理後の濾水度をFとすると、濾水度の差ΔF=|F0-F|は10ml以上であることが好ましく、20ml以上であることがより好ましく、30ml以上であることがさらに好ましい。パルプの濾水度は変性の度合いによって異なるが、解繊前のパルプの濾水度を基準とするため、前記定義によって化学変性の度合いに因らず解繊度合いを特定できる。F0は化学変性の度合いによって異なるため、ΔFの上限を一義的に定めることは困難であるが、処理後の濾水度FはF0よりも小さくなるか、もしくはパルプが機械的処理によって非常に微細になることで、F0よりも大きくなる(叩解後パルプが水と一緒にメッシュを抜ける)。このようにして得た機械解繊化学変性MFCのABB株式会社製ファイバーテスターによって求めたフィブリル化率は1.0%以上であることが好ましく、2.5%以上であることがより好ましく、3.5%以上であることがさらに好ましい。パルプの種類によってフィブリル化率が異なるが、上記範囲であれば、解繊されていると考えられる。
【0011】
また、本発明のMFCは、機械的処理を行う前のパルプのフィブリル化率(f0)が1ポイント以上向上する程度に機械的処理を行って得られたものであることが好ましい。すなわち、処理後のフィブリル化率をfとすると、フィブリル化率の差Δf=f-f0は好ましくは1ポイント以上、より好ましくは2.5ポイント以上である。
【0012】
前記解繊の度合いは、前述の指標以外にスラリーとしたときの吸光度、粘度特性(たとえば回転数-粘度の関係)等によっても評価できる。
【0013】
(1-1)ミクロフィブリレイテッドセルロース(MFC)
本発明で用いるMFCの平均繊維長は5μm以上が好ましく、200μm以上がより好ましい。平均繊維長の上限は2.0mm以下が好ましく、1.5mm以下程度がより好ましい。本発明において平均繊維径は長さ加重平均繊維径であり、平均繊維長は長さ加重平均繊維長である。MFCとCNFでは平均繊維長の測定方法が異なる。そこで、まず、得られた微細セルロース繊維の平均繊維径を前述の方法で測定し、MFCとCNFのいずれであるかを決定する。そして、得られた微細セルロース繊維がMFCである場合、バルメット社製フラクショネーターで測定して平均繊維長を求める。
【0014】
(1-2)セルロースナノファイバー(CNF)
本発明で用いるCNFの平均繊維径は好ましくは100nm以下であり、より好ましくは50nm以下である。平均繊維長は好ましくは5μm以下であり、より好ましくは3μm以下である。平均繊維長の下限は0.1μm以上程度である。平均繊維長および繊維径は、前述のとおり得られた微細セルロース繊維がCNFであることを確認した上で、径が20nm未満の場合は原子間力顕微鏡(AFM)、20nm以上の場合は、電解法出型走査電子顕微鏡(FE-SEM)を用いて、ランダムに選んだ200本の繊維について、解析し、平均を算出することにより測定することができる。また、このようにして得られた値を用いて、下記の式によりアスペクトを算出すことができる。本発明のCNFのアスペクト比は好ましくは50以上である。
アスペクト比=平均繊維長/平均繊維径
【0015】
(1-3)化学変性
本発明で用いる微細セルロース繊維を含有する粉末は、ナノレベルまで微細化したCNFやパルプのフィブリル化を促進したMFCを含有していればよいが、シートの強度向上の観点から、好ましくは化学変性微細セルロース繊維を含有する粉末であり、より好ましくはカルボキシメチル化微細セルロース繊維を含有する粉末である。化学変性については後述する。
【0016】
(1-4)微細セルロース繊維を含有する粉末の製造方法
以下、本発明で用いる粉末の好ましい製造方法を説明する。
[原料パルプ]
原料パルプとしては、針葉樹未漂白クラフトパルプ(NUKP)、針葉樹漂白クラフトパルプ(NBKP)、広葉樹未漂白クラフトパルプ(LUKP)、広葉樹漂白クラフトパルプ(LBKP)、針葉樹未漂白サルファイトパルプ(NUSP)、針葉樹漂白サルファイトパルプ(NBSP)、広葉樹未漂白サルファイトパルプ(LUSP)、広葉樹漂白サルファイトパルプ(LBSP)、サーモメカニカルパルプ(TMP)、加圧砕木パルプ(PGW)、リファイナーグラウンドウッドパルプ(RGP)、アルカリ過酸化水素メカニカルパルプ(APMP)、アルカリ過酸化水素サーモメカニカルパルプ(APTMP)、リンター、ジュート、麻、コウゾ、ミツマタ、ケナフ等の草本由来のパルプ、竹由来のパルプ、再生パルプ、古紙パルプ等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0017】
[化学変性]
原料パルプは化学変性したパルプでも化学変性していないパルプでもよいが、化学変性パルプであることが好ましい。化学変性パルプを原料として使用することで、機械的処理を施した際の繊維のフィブリル化や微細化が進みやすいため、MFCおよびCNFを製造しやすく、かつこれを含むシートの強度を向上させやすいからである。化学変性とはパルプに官能基を導入することであり、化学変性はカチオン変性でもアニオン変性でもよいが、アニオン変性であることが好ましい、すなわち化学変性パルプはアニオン性基を有することが好ましい。アニオン性基としてはカルボキシル基、カルボキシル基含有基、リン酸基、リン酸基含有基、硫酸エステル基等の酸基が挙げられる。カルボキシル基含有基としては、-COOH基、-R-COOH(Rは炭素数が1~3のアルキレン基)、-O-R-COOH(Rは炭素数が1~3のアルキレン基)が挙げられる。リン酸基含有基としては、ポリリン酸基、亜リン酸基、ホスホン酸基、ポリホスホン酸基等が挙げられる。これらの酸基は反応条件によっては、塩の形態(例えばカルボキシレート基(-COOM、Mは金属原子))で導入されることもある。本発明において化学変性はエーテル化が好ましい。
【0018】
エーテル化としては、カルボキシメチル(エーテル)化、メチル(エーテル)化、エチル(エーテル)化、シアノエチル(エーテル)化、ヒドロキシエチル(エーテル)化、ヒドロキシプロピル(エーテル)化、エチルヒドロキシエチル(エーテル)化、ヒドロキシプロピルメチル(エーテル)化などが挙げられる。この中でもカルボキシメチル化が好ましい。カルボキシメチル化は、例えば、発底原料としての原料パルプをマーセル化し、その後エーテル化する方法により実施できる。
【0019】
カルボキシメチル化セルロースのグルコース単位当たりのカルボキシメチル置換度の測定は例えば、次の方法による。すなわち、1)カルボキシメチル化セルロース(絶乾)約2.0gを精秤して、300mL容共栓付き三角フラスコに入れる。2)硝酸メタノール1000mLに特級濃硝酸100mLを加えた液100mLを加え、3時間振とうして、カルボキシメチルセルロース塩(カルボキシメチル化セルロース)を水素型カルボキシメチル化セルロースにする。3)水素型カルボキシメチル化セルロース(絶乾)を1.5g以上2.0g以下程度精秤し、300mL容共栓付き三角フラスコに入れる。4)80%メタノール15mLで水素型カルボキシメチル化セルロースを湿潤し、0.1NのNaOHを100mL加え、室温で3時間振とうする。5)指示薬として、フェノールフタレインを用いて、0.1NのH2SO4で過剰のNaOHを逆滴定する。6)カルボキシメチル置換度(DS)を、次式によって算出する:
A=[(100×F’-(0.1NのH2SO4)(mL)×F)×0.1]/(水素型カルボキシメチル化セルロースの絶乾質量(g))
DS=0.162×A/(1-0.058×A)
A:水素型カルボキシメチル化セルロースの1gの中和に要する1NのNaOH量(mL)
F:0.1NのH2SO4のファクター
F’:0.1NのNaOHのファクター
【0020】
カルボキシメチル化セルロース中の無水グルコース単位当たりのカルボキシメチル置換度は、0.01以上が好ましく、0.05以上がより好ましく、0.10以上がさらに好ましい。当該置換度の上限は、0.50以下が好ましく、0.40以下がより好ましく、0.35以下がさらに好ましい。従って、カルボキシメチル基置換度は、0.01以上0.50以下が好ましく、0.05以上0.40以下がより好ましく、0.10以上0.30以下がさらに好ましい。
【0021】
酸化は公知のとおりに実施できる。例えばN-オキシル化合物と、臭化物、ヨウ化物およびこれらの混合物からなる群より選択される物質との存在下で、酸化剤を用いて水中で原料パルプを酸化する方法が挙げられる。この方法によれば、セルロース表面のグルコピラノース環のC6位の一級水酸基が選択的に酸化され、アルデヒド基、カルボキシル基、およびカルボキシレート基からなる群より選ばれる基が生じる。あるいは、オゾン酸化方法が挙げられる。この酸化反応によればセルロースを構成するグルコピラノース環の少なくとも2位および6位の水酸基が酸化されると共に、セルロース鎖の分解が起こる。
【0022】
カルボキシル基量の測定方法の一例を以下に説明する。酸化セルロースの0.5重量%スラリー(水分散液)60mLを調製し、0.1M塩酸水溶液を加えてpH2.5とした後、0.05Nの水酸化ナトリウム水溶液を滴下してpHが11になるまで電気伝導度を測定する。電気伝導度の変化が緩やかな弱酸の中和段階において消費された水酸化ナトリウム量(a)から、下式を用いて算出することができる。
カルボキシル基量〔mmol/g酸化セルロース〕=a〔mL〕×0.05/酸化セルロース重量〔g〕
【0023】
このようにして測定した酸化セルロース中のカルボキシル基の量は、絶乾重量に対して、好ましくは0.1mmol/g以上、より好ましくは0.5mmol/g以上、さらに好ましくは0.8mmol/g以上である。当該量の上限は、好ましくは3.0mmol/g以下、より好ましくは2.5mmol/g以下、さらに好ましくは2.0mmol/g以下である。従って、当該量は0.1~3.0mmol/gが好ましく、0.5~2.5mmol/gがより好ましく、0.8~2.0mmol/gがさらに好ましい。
【0024】
[機械的処理]
パルプに機械的処理を施すことで微細セルロース繊維を製造できる。本発明において機械的処理とは、繊維を混合しさらに微細化またはフィブリル化することをいい、叩解、解繊、分散、混錬等を含む。微細化は繊維長、繊維幅等が小さくなることいい、フィブリル化は繊維の毛羽立ちが多くなることをいう。機械的処理に用いる装置は限定されないが、例えば、高速回転式、コロイドミル式、高圧式、ロールミル式、超音波式などのタイプの装置が挙げられ、高圧または超高圧ホモジナイザー、リファイナー、ビーター、PFIミル、ニーダー、ディスパーザー、トップファイナーなど回転軸を中心として金属または刃物とパルプ繊維を作用させるもの、あるいはパルプ繊維同士の摩擦によるものを使用することができる。本発明においては、比較的高い濃度(20重量%以上)の化学変性パルプと水の混合液を処理する機械的処理と、比較的低い濃度(20重量%未満)の化学変性パルプと水の混合液を処理する機械的処理の双方を採用できる。
【0025】
機械的処理の装置や強度、回数、時間を調整し、生成する微細セルロース繊維のフィブリル化を促進し、さらに平均繊維径を500nm以上とするように機械的処理(好ましくは叩解)を行うことでMFCを製造できる。また生成する微細セルロース繊維の平均繊維径を500nm未満とするように機械的処理(好ましくは解繊)を行うことでCNFを製造できる。CNFは前述のとおりに製造したMFCを、さらに機械的処理に供して製造することもできる。この場合の機械的処理も好ましくは解繊処理であり、前述の装置を用いることができる。
【0026】
[粉末化]
このようにして得た微細セルロース繊維分散液から微細セルロース繊維粉末を製造できる。微細セルロース繊維粉末は粉末状であればよく、含水率は特に限定されないが、0~90重量%であればよい。その下限は、好ましくは0.1重量%、さらに好ましくは0.3重量%である。上限は前記粉末が粉体の状態を保てる範囲であれば限定されないが、例えば70重量%以下、65重量%以下、20重量%以下とすることができる。乾燥後の水分量や乾燥方法は、目的に応じて適宜調整することができる。乾燥方法としては、例えば、噴霧乾燥、圧搾、風乾、熱風乾燥、凍結乾燥、噴霧乾燥、真空乾燥などが挙げられる。乾燥装置も特に制限されず、連続式のトンネル乾燥装置、バンド乾燥装置、縦型乾燥装置、垂直ターボ乾燥装置、多重段円板乾燥装置、通気乾燥装置、回転乾燥装置、気流乾燥装置、噴霧乾燥装置、円筒乾燥装置、ドラム乾燥装置、ベルト乾燥装置、スクリューコンベア乾燥装置、加熱管付回転乾燥装置、振動輸送乾燥装置、回分式の箱型乾燥装置、真空箱型乾燥装置、および撹拌乾燥装置等を単独でまたは2つ以上の組み合わせで用いることができる。
【0027】
微細セルロース繊維を含有する粉末は添加剤を含んでいてもよい。添加剤としては、分散剤、水溶性高分子、消泡剤、顔料や染料等の着色剤等が挙げられる。これらに限定されないが、水溶性高分子としては、公知の水溶性高分子を使用することができ、例えば、澱粉、セルロース誘導体(カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、エチルセルロース)、キサンタンガム、キシログルカン、デキストリン、デキストラン、カラギーナン、ローカストビーンガム、アルギン酸、アルギン酸塩、プルラン、かたくり粉、クズ粉、陽性澱粉、燐酸化澱粉、コーンスターチ、アラビアガム、ローカストビーンガム、ジェランガム、ゲランガム、ポリデキストロース、ペクチン、キチン、水溶性キチン、キトサン、カゼイン、アルブミン、大豆蛋白溶解物、ペプトン、ポリビニルアルコール、ポリアクリルアミド、ポリアクリル酸ソーダ、ポリビニルピロリドン、ポリ酢酸ビニル、ポリアミノ酸、ポリ乳酸、ポリリンゴ酸、ポリグリセリン、ラテックス、ロジン系サイズ剤、石油樹脂系サイズ剤、尿素樹脂、メラミン樹脂、エポキシ樹脂、ポリアミド樹脂、ポリアミド-ポリアミン樹脂、ポリエチレンイミン、ポリアミン、植物ガム、ポリエチレンオキサイド、親水性架橋ポリマー、ポリアクリル酸塩、でんぷんポリアクリル酸共重合体、タマリンドガム、ジェランガム、ペクチン、グァーガム、コロイダルシリカ、およびこれらの混合物が挙げられる。
【0028】
(2)スラリー
前述のとおり調製した(a)微細セルロース繊維を含有する粉末と、(b)パルプと、(c)水を混合してスラリーを製造するが、その混合の順は限定されない。例えば、三成分を一度に混合してもよいし、二成分を予め混合しておき、後から残りの成分を混合してもよい。混合にはミキサー等の公知の混合機を使用できる。具体的に、時間差で混合する場合は以下の態様が挙げられる。作業性等の観点からは、(i)または(ii)が好ましい。
(i)予め(a)と(b)を混合し、後から(c)を混合する。
(ii)予め(b)と(c)を混合し、後から(a)を混合する。
(iii)予め(a)と(c)を混合し、後から(b)を混合する。
【0029】
スラリーには必要に応じて公知の填料、歩留剤、分散剤、着色剤等の製紙薬品を添加できる。パルプとしては、セルロース繊維やアラミド繊維などの有機繊維のパルプ、ガラス繊維などの無機繊維のパルプが挙げられるが、本発明においては製紙において通常使用される公知のものを使用できる。当該パルプとしては、化学パルプ(針葉樹の晒クラフトパルプ(NBKP)または未晒クラフトパルプ(NUKP)、広葉樹の晒クラフトパルプ(LBKP)または未晒クラフトパルプ(LUKP)等)、機械パルプ(グランドパルプ(GP)、サーモメカニカルパルプ(TMP)、ケミサーモメカニカルパルプ(CTMP)等)、古紙パルプ、これらの組合せが挙げられる。古紙パルプの原料としては、新聞古紙、段ボール古紙、上質古紙、雑誌古紙、未印刷古紙、廃棄機密文書等の紙類等に由来するものが挙げられる。古紙パルプは、未脱墨古紙パルプであってもよいし、脱墨古紙パルプであってもよい。繊維と前記分散液を混合する方法は限定されないが、予め繊維と必要に応じて製紙薬品と水を混合して得た混合物に、前記分散液を混合してもよく、水と繊維と前記分散液を混合してから、各種製紙薬品を添加してもよい。この際、スラリーの粘度上昇を抑制し、得られるシートの強度を効率的に向上させるという観点から微細セルロース繊維を含有する粉末の配合量の上限は繊維100重量部に対して好ましくは10重量部以下、より好ましくは5重量部以下であり、その下限は紙力向上効果が得られる範囲であればよく、好ましくは1×10-4重量部以上、より好ましくは1×10-2重量部以上である。
【0030】
当該スラリーの固形分濃度はシート製造前の工程において変動する。例えば、パルプを分散する工程、スラリーを希釈する工程、スラリーに薬品を添加する工程、スラリーを貯蔵する工程など、工程によって前記固形分濃度は異なる。しかし、当該濃度は一般的には0.01~30重量%以下であり、微細セルロース繊維含有粉末の分散性や歩留まりの観点から好ましくは0.1~5.0重量%である。濃度が低すぎると繊維と微細セルロース繊維の接触率が低下するため歩留まりが低下する可能性があり、濃度が高すぎると分散性が悪化する可能性がある。
【0031】
1-2.シート製造工程
前記スラリーからのシートの製造は、前記スラリーから水を脱水することで実施することができる。具体的には、公知の方法、例えば、長網型湿式抄紙機、ツインワイヤー抄紙機、ヤンキー抄紙機、円網抄紙機、円網短網コンビネーション抄紙機等、公知の抄紙機を用いて実施できる。また、手すきによって実施してもよい。
【0032】
1-3.他の工程
本発明の製造方法は、シートの上にクリア塗工層または顔料塗工層を設ける塗工工程を備えていてもよく、必要に応じてそれらの層に微細セルロース繊維を含有させてもよい。さらには得られたシートが紙または板紙である場合は、表面処理する工程を備えていてもよい。これらの方法は、公知のとおりに実施できる。
【0033】
2.シート
本発明によって製造されるシートは含水率が10重量%以下であることが好ましい。含水率がこの範囲であることで、強度や加工性に優れたシートを得ることができる等の効果が奏される。この観点から、含水率の上限はより好ましくは9重量%以下であり、下限は好ましくは1重量%以上である。
【0034】
当該シートは優れた強度を有し、特にシートが紙である場合は優れた比破裂強さを有する。この理由は限定されないが、原料パルプが形成するセルロースのネットワークに、化学変性セルロースを原料とした微細セルロース表面の官能基が静電的に作用し、より強固なネットワークが形成されるためと推察される。
【0035】
本発明によって得られるシートが紙である場合、紙(単層紙)の原紙としての坪量は10g/m2以上が好ましく、20g/m2以上がより好ましい。当該坪量の上限は500g/m2以下が好ましい。本発明によって得られるシートが板紙である場合、板紙(多層紙)の原紙としての坪量は、1層あたり10g/m2以上が好ましく、20g/m2以上がより好ましい。1層あたりの坪量の上限は500g/m2以下が好ましい。本発明のシートが多層紙の場合、多層の紙層のうち、少なくとも一層が本発明の微細セルロース繊維を含有していればよく、全層が含有していてもよい。
【実施例】
【0036】
[実施例1]
日本製紙株式会社製カルボキシメチル化CNF含有粉末(商品名:CS-01 平均繊維幅:数nm~数百nm、含水率0.5重量%、アスペクト比:約120)を使用した。パルプ(段ボール古紙パルプ、日本製紙株式会社製)に対し1.0重量%の硫酸バンドを添加して、水を加えて混合しパルプ分散液を調製した。前記ミキサーを用いてCNF含有粉末とパルプ分散液を混合し、スラリーを調製した。スラリー中のカルボキシメチル化CNF含有粉末の濃度がパルプ100重量部に対して0.1重量部となるように添加した。得られたスラリーを用いて坪量96.3g/m2の手抄きシートを製造して評価した。手すきシートの含水率は7%であった。
【0037】
[実施例2、3]
パルプ100重量部に対する前記粉末の濃度を1重量部、4重量部にそれぞれに変更した以外は、実施例1と同様にして手抄きシートを製造して評価した。
【0038】
[比較例1]
カルボキシメチル化CNF含有粉末を用いなかった以外は、実施例1と同様にして手抄きシートを製造して評価した。
【0039】
[比較例2]
パルプを混ぜることができる撹拌機に、パルプ(NBKP(針葉樹晒クラフトパルプ)、日本製紙株式会社製)を乾燥重量で200g、水酸化ナトリウムを乾燥重量で111g加え、パルプ固形分が20重量%になるように水を加えた。その後、この混合物を30℃で30分撹拌した後にモノクロロ酢酸ナトリウムを216g(有効成分換算)添加した。この混合物を30分撹拌した後に、70℃まで昇温しさらに1時間撹拌した。その後、反応物を取り出して中和後、洗浄して、グルコース単位当たりのカルボキシメチル置換度0.25のカルボキシメチル化パルプを得た。その後、カルボキシメチル化パルプに水を加えて固形分濃度を1重量%に希釈し、高圧ホモジナイザー(処理圧150MPa)で5回処理し、カルボキシメチル化CNFが水に分散した分散液を得た。固形分0.5重量%のときのB型粘度(20℃、60rpm)は169mPa・sであった。当該分散液を乾燥させることなく、直接紙料に添加し、実施例3と同様にして手抄きシートを製造して評価した。
【0040】
[比較例3]
針葉樹由来の漂白済み未叩解クラフトパルプ(白色度85%:日本製紙株式会社製)5.00g(絶乾)をTEMPO(Sigma Aldrich社製)39mg(絶乾1gのセルロースに対し0.05mmol)と臭化ナトリウム514mg(絶乾1gのセルロースに対し1.0mmol)を溶解した水溶液500mLに加え、パルプが均一に分散するまで撹拌した。反応系に次亜塩素酸ナトリウム水溶液を次亜塩素酸ナトリウムが5.5mmol/gになるように添加し、室温にて酸化反応を開始した。反応中は系内のpHが低下するが、3M水酸化ナトリウム水溶液を逐次添加し、pH10に調整した。次亜塩素酸ナトリウムを消費し、系内のpHが変化しなくなった時点で反応を終了した。反応混合物をガラスフィルターで濾過してパルプ分離し、パルプを十分に水洗してカルボキシル化セルロースを得た。パルプ収率は90%であり、酸化反応に要した時間は90分、カルボキシル基量は1.59mmol/gであった。カルボキシル化セルロースを水に分散し、次いで超高圧ホモジナイザーを用いて当該分散液を120MPaの圧力で5回処理してカルボキシル化CNF分散液を調製した。当該分散液の固形分0.5重量%のときのB型粘度(20℃、60rpm)は179mPa・sであった。当該分散液を乾燥させることなく、直接紙料に添加し、実施例3と同様にして手抄きシートを製造して評価した。これらの結果を表1に示す。
【0041】
【0042】
[評価方法]
坪量:JIS P 8124:2011に従った。
バルク厚さおよびバルク密度:JIS P 8118:2014に従った。
比破裂強さ:JIS P 8131:2009に従った。
ショートスパン比圧縮強さ:JIS P 8223:2006を参考とした。
【0043】
微細セルロース繊維を含有する粉末の輸送効率:以下の基準で評価した。
良:粉体としての取扱い可能であるため優れる
可:やや優れる
不良:劣る
【0044】
微細セルロース繊維を含有する粉末の紙料中の分散性:以下の基準で評価した。
優:極めて優れる
良:優れる
可:やや優れる
不良:劣る