(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-18
(45)【発行日】2022-11-29
(54)【発明の名称】建具
(51)【国際特許分類】
E06B 7/36 20060101AFI20221121BHJP
E06B 3/46 20060101ALI20221121BHJP
E06B 7/16 20060101ALI20221121BHJP
【FI】
E06B7/36 F
E06B3/46
E06B7/16 C
(21)【出願番号】P 2019015554
(22)【出願日】2019-01-31
【審査請求日】2021-03-31
(73)【特許権者】
【識別番号】390005267
【氏名又は名称】YKK AP株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000637
【氏名又は名称】特許業務法人樹之下知的財産事務所
(72)【発明者】
【氏名】成岡 絵美
(72)【発明者】
【氏名】鬼塚 康臣
(72)【発明者】
【氏名】西塔 都志雄
(72)【発明者】
【氏名】八重樫 涼
【審査官】河内 悠
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-157691(JP,A)
【文献】特開2008-150925(JP,A)
【文献】特開2009-150047(JP,A)
【文献】特開2008-240475(JP,A)
【文献】特開2017-95924(JP,A)
【文献】特開平7-310482(JP,A)
【文献】特開2006-342552(JP,A)
【文献】登録実用新案第3071463(JP,U)
【文献】特開2002-220950(JP,A)
【文献】特開2015-59320(JP,A)
【文献】特開2010-285836(JP,A)
【文献】特開2012-77569(JP,A)
【文献】特開2013-147808(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E06B 7/00-7/36
E06B 3/46
E05B 1/00-1/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
枠体と、前記枠体内に左右方向にスライド可能に配置された障子とを備えた建具であって、
前記枠体は、上枠と、下枠と、一方側縦枠と、他方側縦枠とを備え、
前記一方側縦枠および前記他方側縦枠の間には縦部材が配置され、
前記上枠、前記下枠、前記一方側縦枠および前記縦部材によって開口部が形成され、
前記縦部材は、前記建具の見込み方向において前記障子に対向した煙返し片部と、気密材が装着された装着片部とを有し、
前記装着片部は、左右方向において前記煙返し片部よりも前記開口部側に配置され、
前記障子は、上框、下框、戸先縦框および戸尻縦框によって構成された框体と、前記框体内に配置された面材とを備え、
前記縦部材は、少なくとも前記戸先縦框が前記縦部材に対向する状態で、前記装着片部が前記戸先縦
框に対して指幅寸法よりも大きい見込み間隔を隔てて位置する構成とされ
、
前記枠体および前記障子間には、前記障子の閉鎖移動において前記障子を前記縦部材側に移動させる引寄せ機構が構成され、
前記縦部材の前記装着片部には係合凹溝が形成され、
前記装着片部に装着される前記気密材は、前記係合凹溝に係合する気密材基部と、前記障子に当接する弾性変形可能な気密材当接部とを有し、
前記気密材基部のうち前記気密材当接部に対して前記煙返し片部側に位置する部分には、前記建具の見込み方向において前記障子側に突出した突部が形成され、
前記気密材基部における前記突部の突出寸法は、前記気密材当接部の見込み寸法よりも小さい寸法であって、前記気密材当接部が前記障子に押されて潰れた際に当該障子に干渉しない範囲で大きい寸法とされている
ことを特徴とする建具。
【請求項2】
請求項1に記載の建具において、
前記開口部の全開状態では、前記戸先縦框は前記縦部材よりも前記開口部側に突出しない
ことを特徴とする建具。
【請求項3】
請求項1
または請求項
2のいずれか一項に記載の建具において、
前記戸先縦框における前記縦部材側の見付け片部には、引手が設けられ、
前記引手は、戸尻側から戸先側に向かうに連れて浅くなる開放移動操作用指掛け溝部を有している
ことを特徴とする建具。
【請求項4】
請求項
3に記載の建具において、
前記引手は、戸先側から戸尻側に向かうに連れて浅くなる閉鎖移動操作用指掛け溝部を更に有している
ことを特徴とする建具。
【請求項5】
請求項1
または請求項
2に記載の建具において、
前記戸先縦框における前記縦部材側の見付け片部には、引手が設けられ、
前記引手は、引手溝部と、上下方向に沿った軸を中心として回動可能に前記引手溝部に設置された回動板とによって構成されている
ことを特徴とする建具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スライド可能な障子を備える片引き窓、引き違い窓等の建具に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、建具として、サッシ枠の左右方向における中央部に嵌め殺し窓部(閉鎖部)を設置し、嵌め殺し窓部に対して室外側に左右の障子を設置し、嵌め殺し窓部に対して左右にある開口部を左右の障子によって片引き戸式に開閉可能に構成された窓サッシが知られている(特許文献1参照)。嵌め殺し窓部は、一対の方立と、一対の方立に保持された複層ガラスとを備えている。左右の障子は、上框、下框および左右の縦框によってガラスを保持して構成されており、戸先側の縦框(戸当たり框)の室内面には指掛け部が形成されている。このように構成された窓サッシにおいて開口部を最大開放状態(全開状態)にする場合、障子の戸先側の縦框(戸当たり框)は、嵌め殺し窓部の方立に覆われる位置まで移動される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、特許文献1に記載の窓サッシでは、戸先側の縦框の室内面に形成された指掛け部に手指を掛けて障子を開放操作し、障子を開放移動させた場合、この開放移動によって開口部が全開となる際に手指が方立および縦框間に挟み込まれるおそれがある。
【0005】
本発明は、障子の開放操作における指挟みリスクを軽減できる建具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の建具は、枠体と、前記枠体内に左右方向にスライド可能に配置された障子とを備えた建具であって、前記枠体は、上枠と、下枠と、一方側縦枠と、他方側縦枠とを備え、前記一方側縦枠および前記他方側縦枠の間には縦部材が配置され、前記上枠、前記下枠、前記一方側縦枠および前記縦部材によって開口部が形成され、前記縦部材は、前記建具の見込み方向において前記障子に対向した煙返し片部と、気密材が装着された装着片部とを有し、前記装着片部は、左右方向において前記煙返し片部よりも前記開口部側に配置され、前記障子は、上框、下框、戸先縦框および戸尻縦框によって構成された框体と、前記框体内に配置された面材とを備え、前記縦部材は、少なくとも前記戸先縦框が前記縦部材に対向する状態で、前記装着片部が前記戸先縦框に対して指幅寸法よりも大きい見込み間隔を隔てて位置する構成とされていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、障子の開放操作における指挟みリスクを軽減できる建具を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明の実施形態に係る片引き窓を示す全閉状態の外観姿図。
【
図2】前記実施形態に係る片引き窓を示す全閉状態の横断面図。
【
図3】前記実施形態に係る片引き窓の要部を示す全閉状態の横断面図。
【
図4】前記実施形態に係る片引き窓の開放移動操作を示す横断面図。
【
図5】前記実施形態に係る片引き窓の要部を示す全開状態の横断面図。
【
図6】前記実施形態に係る片引き窓を示す全開状態の縦断面図。
【
図7】前記実施形態に係る片引き窓の下部を示す全閉状態の縦断面図。
【
図8】前記実施形態に係る片引き窓の上部を示す全閉状態の縦断面図。
【
図9】前記実施形態に係る片引き窓の下ガイド機構を示す説明図。
【
図10】前記実施形態に係る片引き窓の上ガイド機構を示す説明図。
【
図11】前記実施形態に係る片引き窓の気密材を示す説明図。
【
図12】前記実施形態に係る片引き窓の引手を示す斜視図。
【
図13】
図12に示すC1-C1線、C2-C2線に沿った断面図。
【
図14】本発明の変形例に係る気密材を示す説明図。
【
図15】本発明の第1変形例に係る引手を示す説明図。
【
図16】本発明の第2変形例に係る引手を示す説明図。
【
図17】本発明の第3変形例に係る引手を示す説明図。
【発明を実施するための形態】
【0009】
[本実施形態の構成]
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
図1~
図8において、本実施形態に係る建具である片引き窓1は、建物躯体の開口部に設置されて室内外を仕切るものであり、窓枠2(枠体)と、
図1に示す左側に構成される固定窓3と、窓枠2内に左右方向にスライド可能に配置された障子4と、障子4のスライド移動において当該障子4を見込み方向に移動させるガイド機構5(引寄せ機構)とを備えている。窓枠2内のうち固定窓3よりも室外側の部分には網戸6が左右方向にスライド可能に配置されている。なお、
図1では網戸6の図示を省略している。
以下の説明において、片引き窓1の左右方向をX軸方向とし、片引き窓1の上下方向をY軸方向とし、片引き窓1の見込み方向(面内外方向)をZ軸方向とする。X,Y,Z軸方向はそれぞれ互いに直交する。
【0010】
窓枠2は、上枠21、下枠22および左右の縦枠23,24を枠組みし、縦枠23,24間に中骨25(縦部材)を設けて構成されている。縦枠23は、後述する戸先側の縦框43が当接する一方側縦枠(戸先縦枠)であり、縦枠24は、障子4に対して戸尻側に位置する他方側縦枠(戸尻縦枠)である。上枠21には、障子4をX軸方向にスライド案内する上レール211(
図8参照)が形成されており、下枠22には、障子4をX軸方向にスライド案内する下レール221(
図7参照)が形成されており、縦枠23には後述する気密材10が装着される装着見付け片部201が形成されていると共に錠受け72が取り付けられている。中骨25は、概ね中空矩形状に形成されており、上枠21および下枠22の長手方向(X軸方向)における略中間位置(
図1参照)に配置されている。中骨25の室内見付け片部251(障子4に対向する対向片部)には、室外側に延出し且つ戸尻側に折曲された断面略L字形状の煙返し片部252が形成されており、煙返し片部252よりも戸先側(開口部20側)の部分は後述する気密材10が装着された装着片部253として構成されている。装着片部253には気密材10が係合する係合凹溝254が形成されている。
煙返し片部252は、装着片部253よりも障子4側に突出して形成されている(図3,4等参照)。
固定窓3は、複層ガラス等からなる面材31の周縁が上枠21、下枠22、縦枠24および中骨25に形成される開口に嵌め殺しされて構成されている。この固定窓3によって窓枠2内のうち略左側半分(
図1参照)が閉鎖された閉鎖部30が構成されている。また、窓枠2内のうち略右側半分は、上枠21、下枠22、縦枠23および中骨25によって室内外につながった開口部20が構成されており、窓枠2のうち開口部20の周囲を囲む部分における室内面に気密材10が装着されている。
【0011】
障子4は、上框41、下框42、左右の縦框43,44および複層ガラス等からなる面材45を框組みして構成されている。縦框43が戸先縦框であり、縦框44が戸尻縦框である。
縦框43は、
図2および
図3に示すように、室外見付け片部431
(見付け面部)、見込み片部432,433および室内見付け片部434を有しており、室外見付け片部431、見込み片部432および室内見付け片部434によって縦溝部435が形成されている。室外見付け片部431には引手8が設けられており、室内見付け片部434には操作ハンドル9が設けられており、縦溝部435には、縦枠23の錠受け72と係合可能な錠部材71(本実施形態ではグレモン錠)が設けられており、錠部材71および錠受け72によって錠装置が構成されている。
引手8の後述する底面83A,83Bは、面材45の室外面(中骨25側に位置する面)よりも装着片部253からZ軸方向に離間した位置に配置されている。
錠部材71は、図示しない連動機構によって操作ハンドル9と連結されており、操作ハンドル9の操作によって錠受け72と係合し、また、係合解除する構成とされている。縦框43の室外見付け片部431は、開口部20の全閉状態では、
図3に示すように縦枠23の装着見付け片部201に対してZ軸方向に対向して配置され、且つ、装着見付け片部201に装着された気密材10に当接する。
縦框44は、概ね中空矩形状に形成されており、その室外面441には中骨25の煙返し片部252に係合する断面略コ字状の係合部材442が形成されている。係合部材442は、障子4の開放移動によって煙返し片部252から外れ、障子4の閉鎖移動によって煙返し片部252に係合する。
下框42は、
図6および
図7に示すように、室外見付け片部421、上下の見込み片部422,423および室内見付け片部424を有しており、下方側の見込み片部423には可傾戸車46が配置された戸車用の孔(図示省略)が形成されている。
可傾戸車46は、下レール221に載せられている。ここで、可傾戸車46は、X軸方向に沿った仮想軸を中心として
図6に示す直立状態から
図7に示す傾斜状態まで室外側に傾動可能に配置されている。また、可傾戸車46には、障子4の面材45等の自重に基づいて傾斜状態から直立状態へ復帰する方向の力が与えられている。このため、障子4が開放移動されてガイド機構5による室外側への引き寄せが解除されることで、傾斜状態から直立状態へ自動復帰する。これにより、障子4はその開放移動に伴って閉鎖状態における見込み位置から室内側へ4mmほど移動するようになっている。
上框41は、
図6および
図8に示すように、室外見付け片部411、上下の見込み片部412,413および室内見付け片部414を有しており、室外見付け片部411、見込み片部412および室内見付け片部414によって上方に開口した上溝部415が形成されている。上溝部415には上枠21の上レール211が配置されている。
【0012】
ガイド機構5は、
図8および
図10に示す上ガイド機構50と、
図7および
図9に示す下ガイド機構60と、
図3に示す戸先側引寄せ機構90および戸尻側引寄せ機構95とを備えており、本実施形態では下ガイド機構60、戸先側引寄せ機構90および戸尻側引寄せ機構95によって障子を室外側へ引き寄せる引寄せ機構が構成されている。
戸先側引寄せ機構90は、錠部材71の先端部に形成された引寄せ面91によって構成されている。引寄せ面91は、その戸先側縁部が戸尻側縁部よりも室外側に位置するようにX軸方向に対して傾斜しており、障子4の閉鎖移動において引寄せ面91が錠受け72の先端部に摺接しながら縦框43を室外側に4mmほど移動させて気密材10に密着させる。
戸尻側引寄せ機構95は、縦框44の係合部材442の先端部に形成された引寄せ面96によって構成されている。引寄せ面96は、その戸先側縁部が戸尻側縁部よりも室外側に位置するようにX軸方向に対して傾斜しており、障子4の閉鎖移動において引寄せ面96が煙返し片部252の先端部に摺接しながら縦框44を室外側に4mmほど移動させて気密材10に密着させる。
【0013】
下ガイド機構60は、
図7および
図9に示すように、下框42の室外見付け片部421に取り付けられた摺動部材61と、下枠22の見込み片部222に取り付けられて下レール221の室外面に当てられた引寄せ部材64とを備えている。摺動部材61および引寄せ部材64は樹脂製材料によってそれぞれ形成されている。
摺動部材61は室内側へ突出した突出部を有している。摺動部材61は、下框42の室外見付け片部421の長手方向における中央部分に形成された切欠き部分に嵌め込まれており、その突出部が室外見付け片部421から室内側に突出して配置されている。
引寄せ部材64は、その室外側頂点が開口部20の全閉状態において摺動部材61の突出部の室内側頂点と対向する位置に配置されている。
この下ガイド機構60では、障子4のスライド移動によって摺動部材61が引寄せ部材64に対してX軸方向に移動する。障子4が全閉位置から戸尻側に所定距離離れた位置で移動する場合には、摺動部材61の突出部は引寄せ部材64と非当接状態となっており、このため、下ガイド機構60は障子4を室外側に引き寄せ案内しない。また、障子4が前記離れた位置よりも戸先側の位置で移動する場合には、摺動部材61の突出部は引寄せ部材64と当接状態となっており、このため、下ガイド機構60は障子4を室外側に引き寄せ案内する。
【0014】
上ガイド機構50は、
図8および
図10に示すように、縦框43,44の上端にキャップ部材として取り付けられた左右の摺動部材52と、上レール211に取り付けられる左右の窪み部材55とを備えている。各窪み部材55は、上レール211の切欠き部分にそれぞれ装着されている。摺動部材52および窪み部材55は、樹脂製材料によってそれぞれ形成されている。
左右の摺動部材52のそれぞれは、
図10に示すように、一対の側片部521,522および底片部523を有して溝部524を形成しており、この溝部524は上溝部415とX軸方向に連なっている。側片部521に対して室内側に位置する側片部522には、室外側に突出した突出部525が形成されている。
左右の窪み部材55には室外側に窪んだ窪み部551が形成されており、窪み部551は開口部20の全閉状態で左右の摺動部材52の突出部525に対向する位置に配置されている。
この上ガイド機構50では、障子4のスライド移動によって左右の摺動部材52が左右の窪み部材55に対してX軸方向に移動する。障子4が全閉位置から戸尻側に所定距離離れた位置で移動する場合には、左右の摺動部材52の突出部525は上レール211に摺接して障子4をX軸方向に案内する。また、障子4が前記離れた位置よりも戸先側の位置で移動する場合には、左右の摺動部材52の突出部525は左右の窪み部材55の窪み部551に入り込む。これにより、前述した引寄せ機構による障子4の室外側への引き寄せが可能な状態となる。
【0015】
前述した気密材10は樹脂製であり、
図11(A)および
図11(B)に示すように、気密材基部11と、気密材基部11よりも軟質な樹脂材料によって形成された弾性変形可能な環状の気密材当接部12とを有している。
図11(A)は障子4に押し潰されていない状態の気密材10を示しており、
図11(B)は障子4に押し潰された状態を示している。気密材基部11は、表面に気密材当接部12が取り付けられた平板状の本体基部111と、本体基部111の裏面から延出した係合爪部112と、本体基部111の表面における一方側縁側から突出した突部113とを有している。突部113と気密材当接部12との間には、気密材当接部12の所定範囲の潰れ変形を許容するための間隙114が設けられている。突部113は、気密材当接部12の側部に対向する受け面113Aを有している。受け面113Aは、その先端が基端よりも気密材当接部12から離れた位置となるように突部113の突出したA方向に対して傾斜しており、このように傾斜することで、もし砂や水が気密材当接部12を乗り越えて浸入した場合にこれらを排水経路へ誘導できる。突部113のA方向における突出寸法115は気密材当接部12のA方向における寸法116よりも小さい寸法であって、気密材当接部12が
図11(B)に示すように障子4に押されて所定量潰れた際(本実施形態では4mmほど潰れた際)に障子4に干渉しない範囲で大きい寸法とされている。なお、例えば施工誤差や気密材10の取付相手部材に反りなどが発生した場合には、突部113が障子4に当接することがあるが、この当接によって気密材当接部12が過度に潰されて永久圧縮ひずみが発生することを抑制できる。
このように形成された気密材10は、係合爪部112が中骨25の係合凹溝254に係合されて装着片部253に装着される。このとき、突部113は気密材当接部12に対して煙返し片部252側に配置される。
また、前述同様に形成された他の気密材10は、上枠21、下枠22および縦枠23(装着見付け片部201)に装着されている。各気密材10の端部はそれぞれ突き合わされており、これにより、開口部20の周囲を囲っている。また、気密材基部11の突部113は、気密材当接部12に対して外周側に配置されている。このため、気密材当接部12が外周側に弾性変形して、各気密材10の端部間にピンホールが形成されることが抑制される。
【0016】
前述した引手8は、本実施形態では
図12に示すように、上下で形状が異なる二つの指掛け溝部81,82を有している。
図13(A)は指掛け溝部81の断面図であり、
図13(B)は指掛け溝部82の断面図である。
指掛け溝部81,82は、底面83A,83B、側面84A,84B(指掛け面)および傾斜側面85A,85B(指抜きガイド面)によって形成されており、側面84A,84Bは底面83A,83Bに対して略垂直に立ち上げられており、傾斜側面85A,85Bは底面83A,83Bから離れるに連れて指掛け溝部81,82が浅くなるようにB方向(引手8の左右方向)に対してそれぞれ傾斜している。
指掛け溝部81,82は左右逆向きに形成されている。指掛け溝部81では、引手8の縦框43への設置状態で側面84Aが戸先側に位置し且つ傾斜側面85Aが戸尻側に位置する。このため、指掛け溝部81は閉鎖移動操作用の指掛け溝部として構成され、戸先側から戸尻側に向かうに連れて浅くなっている。また、指掛け溝部81に対して下方に位置する指掛け溝部82は、引手8の縦框43への設置状態で側面84Bが戸尻側に位置し、傾斜側面85Bが戸先側に位置する。このため、指掛け溝部81は開放移動操作用の指掛け溝部として構成され、戸尻側から戸先側に向かうに連れて浅くなっている。
【0017】
以上の片引き窓1において、開口部20の全閉状態では中骨25に対して戸尻側の縦框44がZ軸方向に対向して配置される。この状態における中骨25の装着片部253と縦框44の室外面441のうち前記装着片部253と対向する対向面443との間の見込み間隔28の寸法L1は、操作者の手指15(
図3,4参照)の指幅寸法よりも小さい寸法であり、本実施形態では9mmに設定されている。
また、開口部20の全開状態(
図5参照)では中骨25に対して戸先側の縦框43がZ軸方向に対向して配置される。この状態における中骨25の装着片部253と縦框43の室外見付け片部431との間の見込み間隔29の寸法L2は、前述した指幅寸法よりも大きい寸法とされている。ここで、指幅寸法は、ASTM基準(ASTM:America Society for Testing and Materials(米国材料試験協会))に基づいて設定され、寸法L2は13mm以上、本実施形態では13mmに設定される(ASTM F 963-03「8歳未満の子供の指を挟み込まない」)。なお、前述したASTM基準では、8歳未満の子供の手指15の指幅寸法を想定しているが、これに限られず、8歳以上の手指15の指幅寸法を本実施形態における指幅寸法としてもよい。この場合でも、寸法L2は指幅寸法よりも大きい寸法に設定される。
【0018】
本実施形態に係る片引き窓1の開放動作は次の通りである。
まず、
図3に示すように閉鎖位置にある障子4の引手8の指掛け溝部82における側面84Bに手指15を掛けてから、障子4を戸尻側に開放移動する。この開放移動により、下ガイド機構60の摺動部材61は引寄せ部材64からX軸方向に外れて下レール221に摺動可能に当接し、上ガイド機構50の摺動部材52の突出部525は、窪み部材55の窪み部551からX軸方向に外れて上レール211に摺動可能に当接し、係合部材442は煙返し片部252から外れる。このとき、可傾戸車46は、障子4の自重によって傾斜状態から直立状態へ復帰する。このように開放移動することで引き寄せ機構による室外側への引寄せは解除されて障子4はZ軸方向において室内側へ4mmほど移動し、気密材10から離れる。
続けて障子4を開放移動すると、
図4に示すように戸先側の縦框43が中骨25と見込み方向に重なりはじめる。このとき、中骨25の装着片部253および縦框43の室外見付け片部431の間の見込み間隔29は前述したようにZ軸方向において13mm以上の寸法L2となっているので、中骨25および縦框43の間に指逃げ空間が形成される。ここで、もし手指15が中骨25および縦框43の間に入り込んでも、装着片部253に装着された気密材10が緩衝材として機能し且つ手指15が指逃げ空間に逃げ込むので、手指15が中骨25および縦框43の間に挟み込まれて潰される指挟みリスクが軽減される。また、もし手指15を引手8から引き抜くタイミングが遅れても、手指15が指掛け溝部82の傾斜側面85Bに案内されながら室外側へ抜き出される。
最後に、障子4の慣性移動または縦框43を戸尻側へ押すことによって障子4を
図5に示す全開位置に配置し、開口部20を全開放する。全開位置では、障子4は引き残しを残さずに固定窓3に対する室内側に納まっており、縦框43の室外見付け片部431および室内見付け片部434の戸先側縁は、中骨25の開口部20を規定する見込み面255に沿った仮想直線上に位置するので、縦框43は中骨25よりも開口部20側に突出しない配置となる。このようにして、障子4は
図5に示す全開位置に配置され、開口部20は最大開放される。
【0019】
本実施形態に係る片引き窓1の閉鎖動作は次の通りである。
まず、
図5に示すように全開位置にある障子4の操作ハンドル9や縦框43の室外見付け片部431、室内見付け片部434などを手で掴んで障子4を戸先側へ引き出し、引手8が開口部20に現れてきたら手指15を指掛け溝部81の側面84Aに掛け、障子4を戸先側へ閉鎖移動する。
続けて障子4を閉鎖移動すると、ガイド機構5によって障子4が室外側へ引き寄せられる。具体的には、上ガイド機構50の摺動部材52の突出部525が窪み部材55の窪み部551に入り込むことで障子4が室外側へ移動可能な状態となる一方、下ガイド機構60の摺動部材61が引寄せ部材64に当接し、錠部材71の先端部に形成された戸先側引寄せ機構90の引寄せ面91が錠受け72の先端部に当接し、且つ、係合部材442の先端部に形成された戸尻側引寄せ機構95の引寄せ面96が煙返し片部252の先端部に当接する。この状態で障子4が閉鎖移動することで、障子4は、下ガイド機構60、戸先側引寄せ機構90および戸尻側引寄せ機構95によって室外側へ4mmほど移動される。このとき、可傾戸車46は直立状態から傾斜状態となり、上框41、下框42および左右の縦框43,44は気密材10に押し当てられて密着する。このようにして、障子4は
図3に示す全閉位置に配置され、開口部20は閉鎖される。
【0020】
[変形例]
前記実施形態では、窓枠2に装着された気密材10は、環状の気密材当接部12を有しているが、この形状に限らない。例えば、気密材10は、
図14(A)に示すヒレ状の気密材当接部12Aを有していてもよく、
図14(B)に示すホロー部および二つのヒレ部を有した気密材当接部12Bを有していてもよく、また、
図14(C)に示すように中実の気密材当接部12Cを有していてもよい。また、気密材10の気密材基部11には、気密材当接部12の側方で突出した突部113が形成されており、この突部113に傾斜した受け面113Aが形成されているが、傾斜せずに本体基部111から真っ直ぐな受け面とされていてもよい。更に、気密材当接部12の潰れ変形を抑制する必要がない場合には、突部113の構成を省略してもよい。
前記実施形態では、引手8は上下に指掛け溝部81,82の間には、傾斜側面85A,85Bの配置が互いに異なるため段差面が形成されるが、例えば
図15に示す第1変形例のように指掛け溝部81,82同士が連続する段差面86A,86Bが底面83A,83Bおよび傾斜側面85A,85Bに対して緩やかな傾斜面によって形成された引手8Aを採用してもよい。また、
図16に示す第2変形例に係る引手8Bを採用してもよい。
図16(A)は引手8Bの斜視図であり、
図16(B)はC3-C3線に沿った断面図である。引手8Bでは、指掛け溝部81,82が上下ではなく左右に隣り合って配置されており、傾斜側面85A,85B同士が連続している。
更に、
図17に示す第3変形例に係る引手8Cを採用してもよい。
図17(A)は引手8Cの斜視図であり、
図17(B)は引手8CのC4-C4線に沿った断面図である。引手8Cは、一対の側面871,872および底面873によって形成された引手溝部87と、Y軸方向に沿った軸88を中心としてR方向に回動可能に引手溝部87に設置された回動板89とによって構成されている。この引手8Cでは、回動板89がR方向において一方側に回動して側面871が露出した第一状態と、回動板89がR方向において他方側に回動して側面872が露出した第二状態とを切り替えられる。このため、手指15を引手溝部87に差し込むことで回動板89を任意の向きに回動させることで、側面871,872のいずれにも手指15を掛けることができ、更に、第一状態では引手8Cの左右において側面871とは反対側に傾斜側面が形成されて溝深さが漸減する指掛け溝部81を構成でき、第二状態では引手8Cの左右において側面872とは反対側に傾斜側面が形成されて溝深さが漸減する指掛け溝部82を構成できる。
前記実施形態では、引手8に傾斜側面85A,85Bが形成されているが、傾斜側面85A,85Bではなく側面84A,84Bと同様の側面が形成された一般的な形状の引手を採用してもよい。
前記実施形態における窓枠2の各枠材および障子4の各框材は、アルミ押出形材によって形成されていてもよく、樹脂押出形材によって形成されていてもよく、また、アルミ樹脂複合形材によって形成されていてもよく、各種の形材を採用できる。
前記実施形態では、障子4が固定窓3に対して室内側に配置される構成としたが、これとは逆に、障子4が固定窓3に対して室外側に配置される構成とされてもよい。
前記実施形態では、片引き窓1を建具として説明したが、引き違い窓であってもよく、この場合、開口部20を規定する縦部材は前述した中骨25ではなく召合せ框によって構成される。
前記実施形態では、縦部材である中骨25を、上枠21および下枠22の長手方向(X軸方向)における略中間位置に配置していたが、中間位置以外に設けてもよい。例えば、片引き窓において、固定窓の幅寸法が障子の幅寸法の2倍程度の場合は、中骨をX軸方向において縦枠23側から略1/3の位置に配置すればよい。
また、縦部材の本数も1本に限定されず、2本以上でもよい。例えば、中央に固定窓が配置され、左右にそれぞれ可動障子を配置した両袖片引き窓では、2本の縦部材間に固定窓が配置される。
【0021】
[本発明のまとめ]
本発明の建具は、枠体と、前記枠体内に左右方向にスライド可能に配置された障子とを備えた建具であって、前記枠体は、上枠と、下枠と、一方側縦枠と、他方側縦枠とを備え、前記一方側縦枠および前記他方側縦枠の間には縦部材が配置され、前記上枠、前記下枠、前記一方側縦枠および前記縦部材によって開口部が形成され、前記縦部材は、前記建具の見込み方向において前記障子に対向した煙返し片部と、気密材が装着された装着片部とを有し、前記装着片部は、左右方向において前記煙返し片部よりも前記開口部側に配置され、前記障子は、上框、下框、戸先縦框および戸尻縦框によって構成された框体と、前記框体内に配置された面材とを備え、前記縦部材は、少なくとも前記戸先縦框が前記縦部材に対向する状態で、前記装着片部が前記戸先縦框に対して指幅寸法よりも大きい見込み間隔を隔てて位置する構成とされていることを特徴とする。
本発明の建具によれば、戸先縦框が縦部材に対向する状態で、縦部材の装着片部が戸先縦框に対して指幅寸法よりも大きい見込み間隔を隔てて位置するので、装着片部および戸先縦框の間に指逃げ空間が形成される。このため、例えば戸先縦框を開放操作する手指を縦部材の装着片部と戸先縦框との間に差し込んでしまっても、前述した指逃げ空間に手指を逃げ込ませることができ、縦部材および戸先縦框の間に手指が挟み込まれる指挟みリスクを軽減できる。また、前述した煙返し片部があることで、手指が縦部材および戸先縦框の間に深く差し込まれることを抑制できる。更に、装着片部に装着された気密材が手指に当たる緩衝材としての機能を発揮できる。加えて、装着片部および戸先縦框の見込み間隔を指幅寸法よりも大きい寸法となるように縦部材を構成するだけでよく、縦部材および戸先縦框間の見込み間隔を大きくするために枠体の見込み寸法を大きくする必要がない。
【0022】
本発明の建具では、前記開口部の全開状態では、前記戸先縦框は前記縦部材よりも前記開口部側に突出しないものでもよい。
このような構成によれば、障子を開放移動により全開位置に配置することで、例えば戸先縦框が縦部材よりも開口部側に突出する場合と比べて、開口部の有効開口面積を大きくとることができる。
【0023】
本発明の建具では、前記枠体および前記障子間には、前記障子の閉鎖移動において前記障子を前記縦部材側に移動させる引寄せ機構が構成されていてもよい。
このような構成によれば、開口部が開放されて縦部材と戸先縦框とが対向する状態では、前述したように縦部材の装着片部と戸先縦框との間に指幅寸法よりも大きい見込み間隔を形成できて指挟みリスクを軽減できる一方、開口部が閉鎖されて縦部材と戸尻縦框が対向する状態では、引寄せ機構によって障子が縦部材側に接近されているので、装着片部に装着された気密材に戸尻縦框を密着させることできて気密性を保つことができる。
【0024】
本発明の建具では、前記縦部材の前記装着片部には係合凹溝が形成され、前記装着片部に装着される前記気密材は、前記係合凹溝に係合する気密材基部と、前記障子に当接する弾性変形可能な気密材当接部とを有し、前記気密材基部のうち前記気密材当接部に対して前記煙返し片部側に位置する部分には、前記建具の見込み方向において前記障子側に突出した突部が形成されていてもよい。
このような構成によれば、気密材当接部に障子が当接して弾性変形しても、気密材基部の突部によって気密材当接部を受けることができ、このように受けることで気密材当接部が過度に変形することを抑制できる。これにより、障子を気密材当接部に好適に密着させることができて気密性を保つことができる。
【0025】
本発明の建具では、前記縦部材に対向する前記戸先縦框の見付け片部には引手が設けられ、前記引手は、戸尻側から戸先側に向かうに連れて浅くなる開放移動操作用の指掛け溝部を有していてもよい。
このような構成によれば、引手の指掛け溝部に手指を掛けることで障子を簡単に開放移動操作でき、障子の開放移動において戸先縦框が縦部材と重なっていく際に手指を指掛け溝部から引き抜くタイミングが遅れても、前述したように指掛け溝部が戸尻側から戸先側に向かうに連れて浅くなっているので当該指掛け溝部から抜き出し案内でき、これにより、障子の開放移動操作において手指が引手および縦部材によって挟まれる指挟みリスクを軽減できる。
【0026】
本発明の建具では、前記引手は、戸先側から戸尻側に向かうに連れて浅くなる閉鎖移動操作用の指掛け溝部を更に有していてもよい。
このような構成によれば、閉鎖移動操作用の指掛け溝部に手指を掛けることで障子を簡単に閉鎖移動操作できるうえ、この指掛け溝部が戸先側から戸尻側に向かうに連れて浅くなっていて障子を開放移動操作しにくい構成とされているので、操作者が障子の開放移動操作時に手指を掛ける箇所を間違えにくい構成にできる。このため、障子の開放操作時に手指が閉鎖移動操作用の指掛け溝部と縦部材との間に挟まれるおそれを低減できる。
【0027】
本発明の建具では、前記縦部材に対向する前記戸先縦框の見付け片部には引手が設けられ、前記引手は、引手溝部と、上下方向に沿った軸を中心として回動可能に前記引手溝部に設置された回動板とによって構成されていてもよい。このような構成によれば、障子の開放移動操作時には、引手溝部のうち戸尻側部分に手指を差し込んで回動板を回動させることで、戸尻側から戸先側に向かうに連れて浅くなる開放移動操作用の指掛け溝部を構成できる。また、障子の閉鎖移動操作時には、引手溝部のうち戸先側部分に手指を差し込んで回動板を回動させることで、戸先側から戸尻側に向かうに連れて浅くなる閉鎖移動操作用の指掛け溝部を構成できる。
【符号の説明】
【0028】
1…片引き窓、10…気密材、11…気密材基部、12,12A~12C…気密材当接部、2…窓枠、20…開口部、21…上枠、22…下枠、23,24…縦枠(一方側縦枠、他方側縦枠)、25…中骨(縦部材)、28,29…見込み間隔、252…煙返し片部、253…装着片部、30…閉鎖部、4…障子、41…上框、42…下框、43,44…縦框(戸先縦框、戸尻縦框)、45…面材、8,8A~8C…引手、L1,L2…見込み間隔の寸法。