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特許7179641陰イオン交換樹脂の性能評価方法、純水の製造方法及び水処理システム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-18
(45)【発行日】2022-11-29
(54)【発明の名称】陰イオン交換樹脂の性能評価方法、純水の製造方法及び水処理システム
(51)【国際特許分類】
   C02F 1/42 20060101AFI20221121BHJP
   B01J 41/04 20170101ALI20221121BHJP
   B01J 49/00 20170101ALI20221121BHJP
【FI】
C02F1/42 B
C02F1/42 A
B01J41/04
B01J49/00
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2019028758
(22)【出願日】2019-02-20
(65)【公開番号】P2020131130
(43)【公開日】2020-08-31
【審査請求日】2021-06-02
(73)【特許権者】
【識別番号】591030651
【氏名又は名称】水ing株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000523
【氏名又は名称】アクシス国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】隋 鵬哲
(72)【発明者】
【氏名】島村 和彰
(72)【発明者】
【氏名】大場 将純
(72)【発明者】
【氏名】西村 究
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼橋 洋平
【審査官】片山 真紀
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-179218(JP,A)
【文献】特開2002-048776(JP,A)
【文献】特開2007-216094(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C02F 1/42
B01J 20/285、39/00-49/90
G01N 30/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
通水線速度の制御が可能な微小カラム内に陰イオン交換樹脂を収容し、
前記陰イオン交換樹脂を収容した前記微小カラム内に液相拡散の影響を無視できる通水線速度以上で珪酸含有溶液を通水し、
前記微小カラムからの流出水中の珪酸濃度及び/又は珪酸除去率を測定し、
前記珪酸濃度及び/又は珪酸除去率の測定結果に基づいて、運転時間の異なる陰イオン交換樹脂を用いて得られる各流出水中の珪酸濃度の変化を比較するか、または、前記珪酸濃度の測定結果から得られる珪酸除去率を算出してそれぞれを比較するか、または、珪酸濃度及び/又は珪酸除去率の測定結果を設定値と比較するか、により前記陰イオン交換樹脂の性能を評価することを特徴とする陰イオン交換樹脂の性能評価方法。
【請求項2】
前記通水線速度が80m/以上であることを含む請求項に記載の陰イオン交換樹脂の性能評価方法。
【請求項3】
前記微小カラムに充填される樹脂層の高さを50mm以下とすることを含む請求項1又は2に記載の陰イオン交換樹脂の性能評価方法。
【請求項4】
前記陰イオン交換樹脂の性能を評価することが、珪酸イオン反応速度の低下率を測定することを含む請求項1~3のいずれか1項に記載の陰イオン交換樹脂の性能評価方法。
【請求項5】
被処理水を陰イオン交換樹脂に通水して処理水を得るアニオン交換塔を用いて純水を製造する純水の製造方法において、
前記アニオン交換塔内に収容された前記陰イオン交換樹脂をサンプリングし、
サンプリングされた前記陰イオン交換樹脂を、通水線速度の制御が可能な微小カラム内に収容し、前記微小カラム内に珪酸含有溶液を前記陰イオン交換樹脂を収容した前記微小カラム内の液相拡散の影響を無視できる通水線速度以上で通水し、前記微小カラムからの流出水中の珪酸濃度及び/又は珪酸除去率を測定し、測定結果に基づいて前記陰イオン交換樹脂の性能を評価し、
前記性能の評価結果に基づいて前記陰イオン交換樹脂の再生又は交換を行うこと
を含む純水の製造方法。
【請求項6】
被処理水を陰イオン交換樹脂に通水して処理水を得るアニオン交換塔と、
前記陰イオン交換樹脂をサンプリングするサンプリング手段と、
通水液の通水線速度の制御が可能な容積を有し、サンプリングされた前記陰イオン交換樹脂を収容する微小カラムと、
前記微小カラムに通水するための珪酸含有溶液を貯留する貯留槽と、
前記陰イオン交換樹脂を収容した前記微小カラム内の液相拡散の影響を無視できる通水線速度以上となるように、前記微小カラム内に通水する前記珪酸含有溶液の流量を制御する流量計と、
前記微小カラムからの流出水中の珪酸濃度を測定する測定手段と
前記珪酸濃度の測定結果に基づいて、運転時間の異なる陰イオン交換樹脂を用いて得られる各流出水中の珪酸濃度の変化を比較するか、または、前記珪酸濃度の測定結果から得られる珪酸除去率を算出してそれぞれを比較するか、または、珪酸濃度及び/又は珪酸除去率の測定結果を設定値と比較することにより、陰イオン交換樹脂の性能評価又は劣化診断を行う処理装置と
を備えることを特徴とする水処理システム。
【請求項7】
前記測定手段による測定結果を、通信可能に接続されたサーバ手段に対して送信可能な送信手段と、
前記送信手段により送信された測定結果に基づいて前記サーバ手段により演算された前記アニオン交換塔の内部のイオン交換反応のシミュレーション結果を受信可能な受信手段と
を更に備えることを特徴とする請求項6に記載の水処理システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、陰イオン交換樹脂の性能評価方法、純水の製造方法及び水処理システムに関する。
【背景技術】
【0002】
医薬品の製造、半導体の製造、発電用ボイラー水、食品などに使用される純水もしくは超純水を製造するためのイオン交換方式純水製造装置が知られている。イオン交換方式純水製造装置は、原水をイオン交換樹脂等に接触させ、原水に含まれるアニオン及びカチオン成分をイオン交換反応により除去し、純水を製造する装置である。イオン交換樹脂は、定期的に酸及びアルカリにより再生することで、繰り返し使用することができる。
【0003】
イオン交換樹脂を長時間繰り返して使用すると樹脂の性能劣化と機能障害が発生する。例えば強塩基性陰イオン交換樹脂の場合、交換基の低級化(弱塩基化)及び交換基の脱落により珪酸などの弱酸成分に対する交換能の低下が発生し、反応速度の低下によるリークのリスクが増大する。珪酸成分は陰イオン交換樹脂の表面や内部に蓄積することにより反応速度を低下させることも知られている。そのため、陰イオン交換樹脂を長時間繰り返して使用する場合には、陰イオン交換樹脂の性能評価及び劣化診断を行うことが重要である。
【0004】
イオン交換樹脂の性能評価方法としては種々の方法が知られている。例えば、総交換容量、中性塩分解容量等を用いた静的な交換容量、即ち交換できるイオンのトータル量を指標として評価する方法がある。特開平11-237370号公報(特許文献1)には、再生したイオン交換樹脂を純水で洗浄し、洗浄排水に溶出したTOCを劣化度の指標とした評価方法が記載されている。特開2004-41911号公報(特許文献2)には、陽イオン交換樹脂に対して、樹脂自体が含有するポリスチレンスルホン酸(PSS)の溶出特性を用いた劣化評価方法が記載されている。特開2010-179218号公報(特許文献3)には、陰イオン交換樹脂に対して、ビーカーなど容器を用いて撹拌している状態で珪酸塩の静的な総除去量を指標とした評価方法が記載されている。
【0005】
しかしながら、これら特許文献1~3に提案されるような指標は、イオン交換樹脂の反応速度の影響をイオン交換樹脂の性能評価に反映させることができておらず、運転管理面やイオン交換樹脂の再生時期や交換時期をより適切に判断する指標としては未だ検討の余地がある。
【0006】
イオン交換樹脂の反応速度を考慮した評価方法として、例えば、特開2002-48776号公報(特許文献4)には、ミニカラムで入口水と出口水の無機態炭酸濃度を測り、算出した物質移動係数を指標として、陰イオン交換樹脂の性能評価を行う方法が提案されている。特開2015-13276号公報(特許文献5)には、NaClなどアルカリ金属のハロゲン化物水溶液を用い、電気伝導率測定値からフィッティングした総括物質移動容量係数と選択係数を指標として、イオン交換樹脂の性能評価をする方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開平11-237370号公報
【文献】特開2004-41911号公報
【文献】特開2010-179218号公報
【文献】特開2002-48776号公報
【文献】特開2015-13276号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献4及び5に提案される物質移動係数は、液相から樹脂表面までの液相のイオン拡散と、樹脂内部すなわち固相のイオン拡散と、イオン交換反応との総合係数である。しかしながら、液相から樹脂表面までのイオン拡散は、樹脂性能とは関係がないため、こうしたパラメータが加わることによって、樹脂の反応速度を考慮した樹脂の性能評価及び劣化診断がより適切に行われていない場合がある。
【0009】
上記課題を鑑み、本発明は、陰イオン交換樹脂の反応速度を考慮した性能評価及び劣化診断をより適切に行うことが可能な陰イオン交換樹脂の性能評価方法、純水の製造方法及び水処理システムを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために本発明者らが鋭意検討した結果、陰イオン交換樹脂の反応速度をより適切に評価するためには、液相から樹脂表面までのイオン拡散の影響を最小化することが可能な装置内に陰イオン交換樹脂を収容して特定の物質の濃度を測定することが有効であるとの知見を得た。
【0011】
以上の知見を基礎として完成した本発明の実施の形態は一側面において、通水線速度の制御が可能な微小カラム内に陰イオン交換樹脂を収容し、陰イオン交換樹脂を収容した微小カラム内に珪酸含有溶液を通水し、微小カラムからの流出水中の珪酸濃度及び/又は珪酸除去率を測定し、珪酸濃度及び/又は珪酸除去率の測定結果に基づいて陰イオン交換樹脂の性能を評価することを含む陰イオン交換樹脂の性能評価方法である。
【0012】
本実施形態において「珪酸含有溶液」とは、珪酸又は珪酸塩を含む溶液を意味する。「珪酸濃度」及び「珪酸除去率」の測定は、微小カラム出口側の溶液中の珪酸又は珪酸塩の濃度及び、微小カラム入口側と出口側の溶液中の珪酸又は珪酸塩のイオン濃度を測定することにより評価することができる。
【0013】
本発明の実施の形態に係る陰イオン交換樹脂の性能評価方法は一実施態様において、珪酸濃度及び/又は珪酸除去率の測定結果に基づいて陰イオン交換樹脂の性能を評価することが、運転時間の異なる陰イオン交換樹脂を用いて得られる各流出水中の珪酸濃度及び/又は珪酸除去率を比較することを含む。
【0014】
本発明の実施の形態に係る陰イオン交換樹脂の性能評価方法は別の一実施態様において、陰イオン交換樹脂を収容した微小カラム内の液相拡散の影響を無視できる通水線速度以上で珪酸含有溶液を通水することを含む。
【0015】
本発明の実施の形態に係る陰イオン交換樹脂の性能評価方法は更に別の一実施態様において、通水線速度が80m/L以上であることを含む。
【0016】
本発明の実施の形態は別の一側面において、被処理水を陰イオン交換樹脂に通水して処理水を得るアニオン交換塔を用いて純水を製造する純水の製造方法において、アニオン交換塔内に収容された陰イオン交換樹脂をサンプリングし、サンプリングした陰イオン交換樹脂を、通水線速度の制御が可能な微小カラム内に収容し、微小カラム内に珪酸含有溶液を通水し、微小カラムからの流出水中の珪酸濃度及び/又は珪酸除去率を測定し、測定結果に基づいて陰イオン交換樹脂の性能を評価し、性能の評価結果に基づいて陰イオン交換樹脂の再生又は交換を行うことを含む純水の製造方法である。
【0017】
本発明の実施の形態は更に別の一側面において、被処理水を陰イオン交換樹脂に通水して処理水を得るアニオン交換塔と、陰イオン交換樹脂をサンプリングするサンプリング手段と、通水液の通水線速度の制御が可能な容積を有し、サンプリングされた陰イオン交換樹脂を収容する微小カラムと、微小カラムに通水するための珪酸含有溶液を貯留する貯留槽と、陰イオン交換樹脂を収容した微小カラム内の液相拡散の影響を無視できる通水線速度以上となるように、微小カラム内に通水する珪酸含有溶液の流量を制御する流量計と、微小カラムからの流出水中の珪酸濃度を測定する測定手段とを備える水処理システムである。
【0018】
本発明の実施の形態に係る水処理システムは一実施態様において、測定手段による測定結果を、通信可能に接続されたサーバ手段に対して送信可能な送信手段と、送信手段により送信された測定結果に基づいてサーバ手段により演算されたアニオン交換塔の内部のイオン交換反応のシミュレーション結果を受信可能な受信手段とを更に備える。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、陰イオン交換樹脂の反応速度を考慮した性能評価及び劣化診断をより適切に行うことが可能な陰イオン交換樹脂の性能評価方法、純水の製造方法及び水処理システムが提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明の実施の形態に係る水処理システムの一例を表す概略図である。
図2】本発明の実施の形態に係る水処理システムの別の一例を表す概略図である。
図3】陰イオン交換樹脂のシリカ除去率と運転時間との関係を表すグラフである。
図4】本発明の実施の形態に係る性能評価方法を用いて、運転450日後の陰イオン交換樹脂と新品の陰イオン交換樹脂とを比較した場合における塩化物イオン反応速度、硫酸イオン反応速度及び珪酸イオン反応速度の低下率と、従来から用いられる総交換容量及び中性塩分解容量の低下率をそれぞれ測定した場合の評価結果を表すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、図面を参照しながら本発明の実施の形態について説明する。以下の図面の記載においては、同一又は類似の部分には同一又は類似の符号を付している。なお、以下に示す実施の形態はこの発明の技術的思想を具体化するための装置や方法を例示するものであって、この発明の技術的思想は、構成部品の構造、配置等を下記のものに特定するものではない。
【0022】
(性能評価方法)
本発明の実施の形態に係る陰イオン交換樹脂の性能評価方法は、通水線速度の制御が可能な微小カラム内に陰イオン交換樹脂を収容し、陰イオン交換樹脂を収容した微小カラム内に珪酸含有溶液を通水し、微小カラムからの流出水中の珪酸濃度及び/又は珪酸除去率を測定し、珪酸濃度及び/又は珪酸除去率の測定結果に基づいて陰イオン交換樹脂の性能を評価することを含む。
【0023】
評価対象とされる陰イオン交換樹脂は、陰イオン交換樹脂を収容するアニオン交換塔から採取される。採取された陰イオン交換樹脂に対して例えば水酸化ナトリウム溶液を通水し、1000g-NaOH/L-R以上の再生レベルで十分に再生した樹脂サンプルを、本実施形態に係る陰イオン交換樹脂として好適に使用することができる。
【0024】
「通水線速度の制御が可能な微小カラム」としては、イオン交換樹脂に通水する通水液の通水線速度を入口側と出口側とでほぼ一定に制御することが可能なカラムであればよく、微小カラム内の液相拡散の影響を無視できる通水線速度以上で微小カラム内に溶液を通水することが可能なカラムであれば限定されない。
【0025】
具体的には、樹脂層を薄くして高い通水線速度(LV)で通水液を通水できるようなカラムが好適に用いられる。以下に制限されるものではないが、例えば、内径10cm以下、高さ40cm以下のカラムが利用可能であり、一実施態様においては、内径1~2cm、高さ10~30cm程度で、樹脂層の高さを1~50mm程度とすることが可能な微小カラムを利用することができる。
【0026】
イオン交換樹脂においてイオンの交換反応は、液相のイオン拡散と固相のイオン拡散と、イオン交換反応からなる。そのため、陰イオン交換樹脂の反応速度を考慮した評価するための評価基準としては、(1)陰イオン交換樹脂を充填したカラム内の液相のイオン拡散速度と、(2)固相、即ち陰イオン交換樹脂のイオン拡散速度と、(3)陰イオン交換樹脂のイオン交換反応速度とを考慮することが考えられる。
【0027】
一般的には、液相のイオン濃度が低濃度である場合や、液相のイオンと陰イオン交換樹脂を交換する初期段階等の場合は、液相のイオン拡散速度は、イオン交換が律速であると言われる。しかしながら、液相のイオン拡散速度は、樹脂自体の性能評価とは基本的には関係の無いパラメータである。
【0028】
したがって、液相のイオン拡散速度を最小化できるような環境を作り出すためには、通水線速度の制御が可能な微小カラム内に、陰イオン交換樹脂を充填し、液相拡散の影響を無視できる通水線速度以上で微小カラム内に珪酸や珪酸塩溶液を通水することが重要である。通水線速度を上げるほど、液相抵抗の影響が最小化されて陰イオン交換樹脂自体の固相拡散速度と、陰イオン交換樹脂自体のイオン交換反応速度とにより決定される脱塩率としてより正確に評価できる。
【0029】
一実施形態では、通水線速度を80m/h以上とすることが好ましく、より好ましくは100m/以上であり、更に好ましくは120m/以上である。但し、通水線速度は微小カラムの大きさや陰イオン交換樹脂の樹脂量、装置規模によって適宜変更されるため、上記の例に制限されるものではないことは勿論である。
【0030】
本実施形態に係る微小カラムを使用することで、ビーカー等を用いた従来の評価試験に比べて、樹脂層内の通水線速度の正確な制御が可能となるため、陰イオン交換樹脂自体の固相拡散速度及びイオン交換反応速度より決めた脱塩率を液相拡散の影響が少ない状態でより適切に評価することができる。
【0031】
通水液の種類の選択もまた重要である。陰イオン交換樹脂は、イオン交換と再生とを繰り返すことにより、イオン交換した珪酸塩(シリカ)の再生が困難となる場合がある。そのために、珪酸塩が樹脂の表面や内部に蓄積することがある。このような蓄積に伴い、珪酸塩の反応速度が、塩化物イオンや硫酸イオン等の他のイオンに比べて早く低下する傾向にある。また、強塩基性陰イオン交換樹脂の性能劣化原因の一つとして、交換基の低級化(弱塩基化)があるが、塩化物イオンや硫酸イオンを含有する溶液を通水液とする場合に比べて、珪酸含有溶液を通水液として用いることにより、このような交換基の性能劣化程度も適切に把握できるようになる。
【0032】
本実施形態においてより適切な評価結果を得るためには、通水液中の珪酸イオン濃度と微小カラム内に収容する陰イオン交換樹脂の樹脂量とを適正化することが好ましい。イオン負荷率が小さい場合、脱塩率はほぼ一定となるが、イオン負荷率を上げるほど急激に脱塩率が低くなる傾向にある。本実施形態では、例えばシリカ(SiO2)のイオン負荷率が50%未満となるように、より好ましくは40%以下、更には、30%以下となるような条件となるように珪酸又は珪酸塩のイオン濃度を決定することが好ましい。
【0033】
以下に制限されないが、例えば、1~100mg-SiO2/L、より典型的には1~50mg-SiO2/L、更に典型的には5~30mg-SiO2/Lの珪酸含有溶液を性能評価の際の微小カラムの通水液として用いることが好ましい。
【0034】
微小カラム内に収容する陰イオン交換樹脂の樹脂量は、充填した微小カラムの樹脂層高をできるだけ低くすることにより、イオン除去率がより正確に測れる。以下に制限されないが、例えば、微小カラムに充填する陰イオン交換樹脂の樹脂量が20mL以下、更には10mL以下、更には5mL以下とすることが好ましい。樹脂量が少なすぎても正確に測定できない場合があることから、樹脂量は1mL以上とすることができ、より典型的には1.5mL以上とすることができる。
【0035】
微小カラムに充填された樹脂層の高さは、微小カラムの大きさにもよるため以下に制限されるものではないが、例えば50mm以下とすることができ、より好ましくは20mm以下、1mm以上である。通水液の通水時間は1~30分とすることができるが、できるだけ短時間で行われることが好ましく、好ましくは10分以下、更に好ましくは5分以下、より更に好ましくは3分以下である。
【0036】
微小カラムの流出水中の珪酸濃度の測定は、シリカ計、導電率計等によって、珪酸濃度又は珪酸塩濃度を連続的又は間欠的に行うことにより測定できる。珪酸除去率の測定は、所定の通水時間、例えば2分間の出口側の珪酸濃度又は珪酸塩濃度と、入口側の珪酸濃度又は珪酸塩濃度の値に基づいて行うことができる。
【0037】
これら珪酸濃度及び/又は珪酸除去率の測定結果に基づいて、樹脂劣化による樹脂内部の拡散速度や交換速度の低下を求めることができる。この結果に基づいて陰イオン交換樹脂の性能評価及び劣化診断を行い、陰イオン交換樹脂の交換時期や再生戦略(再生時期、倍量再生の実施、再生液濃度/温度/流速など再生条件の選択等)を判断することができる。
【0038】
例えば、運転時間の異なる陰イオン交換樹脂を用いて得られる流出水中の珪酸濃度及び/又は珪酸除去率と、運転時間との間には直線関係を有するような相関関係を備える。そのため、珪酸濃度及び/又は珪酸除去率の測定結果と、予め設定した閾値とを比較することにより、陰イオン交換樹脂の交換時期や再生戦略(再生時期、倍量再生の実施、再生液濃度/温度/流速など再生条件の選択等)をより適切に判断することができる。
【0039】
このように、本発明の実施の形態に係る陰イオン交換樹脂の性能評価方法によれば、通水線速度の制御が可能な微小カラムを用いて、微小カラム内に高い通水線速度で珪酸含有溶液を通水し、微小カラムからの流出水中の珪酸濃度及び/又は珪酸除去率を測定することで、陰イオン交換樹脂内部の固相拡散速度やイオン交換反応速度を考慮した性能評価及び劣化診断をより適切に行うことが可能となる。
【0040】
なお、本発明の実施の形態に係る陰イオン交換樹脂の性能評価方法は、総交換容量、中性塩分解容量等を用いた静的な交換容量、即ち交換できるイオンのトータル量を指標として評価する方法と組み合わせて、陰イオン交換樹脂の交換時期や再生戦略等を総合的に判断することができる。
【0041】
種々の静的な交換容量の評価手法の中でも特に中性塩分解容量は、運転時間の長期化に比例して中性塩分解容量が減少する傾向にある。そのため、上記の微小カラムを用いた測定に加え、陰イオン交換樹脂の中性塩分解容量を測定し、中性塩分解容量の測定結果と珪酸や珪酸塩濃度の測定結果とに基づいて、陰イオン交換樹脂の性能を評価することで、より最適な陰イオン交換樹脂の交換時期や再生戦略等を決定づけることができる。
【0042】
更に、本実施形態に係る陰イオン交換樹脂の評価方法を、被処理水を陰イオン交換樹脂に通水して処理水を得るアニオン交換塔を用いて純水を製造する純水の製造方法に適用することにより、陰イオン交換樹脂の長寿命化を図り、運転コストを低減しながら、安定した水質の純水を製造することができる。
【0043】
(水処理システム)
本発明の実施の形態に係る水処理システム100は、図1に示すように、陰イオン交換樹脂を収容するアニオン交換塔1と、陰イオン交換樹脂の性能評価装置2とを備えることができる。
【0044】
性能評価装置2は、アニオン交換塔1内の陰イオン交換樹脂をサンプリングするサンプリング手段21と、通水液の通水線速度の制御が可能な容積を有し、サンプリングされた陰イオン交換樹脂を収容する微小カラム22と、微小カラム22に通水するための珪酸含有溶液を貯留する貯留槽23と、微小カラム22内の液相拡散の影響を無視できる通水線速度以上となるように、微小カラム22内へ供給する珪酸含有溶液の流量を制御する流量計25と、微小カラム22からの流出水中の珪酸濃度を測定する測定手段26とを備える。
【0045】
性能評価装置2は、更に、微小カラム22を洗浄するための洗浄水を収容する洗浄水槽24と測定手段26に接続された処理装置27とを備えることができる。処理装置27は汎用の計算機等で構成され、測定手段26が測定した珪酸や珪酸塩濃度の測定結果に基づいて、運転時間の異なる陰イオン交換樹脂を用いて得られた各流出水中の珪酸濃度及び/又は珪酸除去率を比較することにより、陰イオン交換樹脂の性能を計算することが可能である。
【0046】
サンプリング手段21としては、シリンジ、ポンプ等を利用することができる。微小カラム22は、微小カラム22を通過する通水液の通水線速度が微小カラム22内において例えば80m/L以上となるように制御可能な容積を有するカラムが利用可能である。
【0047】
詳細を図示していないが、貯留槽23は、珪酸や珪酸塩溶液を貯留する貯留槽と、サンプリングした陰イオン交換樹脂を再生するための水酸化ナトリウム等の再生液を貯留する貯留槽を備えることができる。微小カラム22内に収容した陰イオン交換樹脂を再生処理する場合には再生液を貯留した貯留槽23から微小カラム22内に再生液が通水される。微小カラム22内に収容した陰イオン交換樹脂の性能評価を行う場合には、珪酸や珪酸塩溶液を貯留した貯留槽23から微小カラム22内に通水液が通水される。洗浄水槽24には、微小カラム22を洗浄するための例えば純水が収容される。流量計25は汎用の流量コントローラが利用可能である。測定手段26としてはシリカ計等が利用可能である。
【0048】
アニオン交換塔1からサンプリング手段21によりサンプリングされ、微小カラム22内に所定量収容された陰イオン交換樹脂は、まず、洗浄水槽24から洗浄水が供給されて洗浄がなされた後、貯留槽23から1000-NaOH/L-R以上の再生液が供給されて十分に再生処理がなされる。その後は、上述の陰イオン交換樹脂の性能評価方法に従って、微小カラム22内に通水液を通水させることにより、性能評価試験が行われる。
【0049】
処理装置27は、測定手段26が測定した珪酸や珪酸塩濃度の測定結果に基づいて、陰イオン交換樹脂の性能を評価する。例えば、運転時間の異なる陰イオン交換樹脂を用いて、各流出水中の珪酸濃度を測定し、珪酸濃度の変化を比較するか、珪酸濃度の測定結果から得られる珪酸除去率を算出してそれぞれを比較するか、あるいは、珪酸濃度及び/又は珪酸除去率の測定結果を設定値と比較すること等により、陰イオン交換樹脂の性能をオンタイムで測定することが可能となる。
【0050】
本発明の実施の形態に係る水処理システム100によれば、アニオン交換塔1に接続された性能評価装置2を用いて、アニオン交換塔1内の陰イオン交換樹脂の状態をすぐに把握することができるため、陰イオン交換樹脂の反応速度を考慮した性能評価及び劣化診断をより迅速かつ適切に行うことが可能となる。
【0051】
図2に示すように、本発明の実施の形態に係る水処理システム100aは、測定手段26による測定結果をネットワーク102を介して通信可能に接続されたサーバ手段101に対して送信可能な送信手段271と、サーバ手段101からの情報を受信可能な受信手段272とを備えた処理装置27を更に備えていてもよい。
【0052】
そして、受信手段272が、アニオン交換塔1b、1cが設置された複数の水処理システム100b、100cからの珪酸や珪酸塩濃度及び/又は珪酸や珪酸塩除去率の測定結果を比較することにより算出された陰イオン交換樹脂の性能の評価結果をサーバ手段101から受信するように構成されていてもよい。
【0053】
図2に示すように、複数の水処理システム100a、100b、100cがネットワーク102を介して相互に接続されており、サーバ手段101が、各水処理システム100a、100b、100cの情報、更には各水処理システム100a、100b、100cに供給される原水の性状情報を収集して管理するように構成される。
【0054】
サーバ手段101においては、より詳細かつ多量の測定データが収集され、収集されたデータをもとに、アニオン交換塔内部のイオン交換反応のシミュレーションを行うことができる。このようにして、水処理システム100a、100b、100cが備える陰イオン交換樹脂の情報をサーバ手段101において一括管理し、各水処理システム100a、100b、100cの運転条件にその結果を反映させることで、季節、天候、温度等の変動による原水の性状変動やイオン交換樹脂自体の性質を考慮したより詳細な性能評価を行うことができる。
【0055】
(その他の実施の形態)
本発明は上記の実施の形態によって記載したが、この開示の一部をなす論述及び図面はこの発明を限定するものであると理解すべきではない。この開示から当業者には様々な代替実施の形態及び運用技術が明らかとなろう。
【0056】
図1及び図2に示す例では、アニオン交換塔1の所定の高さに接続された性能評価装置2から陰イオン交換樹脂をサンプリングする例を開示しているが、アニオン交換塔1からサンプリングする陰イオン交換樹脂は、アニオン交換塔1の入口側と出口側との間の任意の複数個所から同時にサンプリングし、その性能を評価するように構成されてもよい。性能評価装置2とアニオン交換塔1は、図1及び図2に示されるように、必ずしも近接させて配置する必要はなく、アニオン交換塔1から独立した性能評価装置2として別個独立に構成されていてもよい。
【0057】
このように、本発明は上記の開示から妥当な特許請求の範囲の発明特定事項によって表されるものであり、実施段階においては、その要旨を逸脱しない範囲において変形し具体化し得るものである。
【実施例
【0058】
以下に本発明の実施例を比較例と共に示すが、これらの実施例は本発明及びその利点をよりよく理解するために提供するものであり、発明が限定されることを意図するものではない。
【0059】
(実施例1)
アニオン交換塔の運転開始後100日、220日、326日、450日目にアニオン交換塔から採取した陰イオン交換樹脂(DOWEX(登録商標)550A)と新品の陰イオン交換樹脂について、図1の性能評価装置2を用いて樹脂性能を評価した。採取した陰イオン交換樹脂は純水で洗浄し、NaOH溶液で1000g-NaOH/L-Rレベルで十分に再生した。
【0060】
微小カラムとして内径16mm、高さ10cmのカラムを用意し、この微小カラムに樹脂を2mL、樹脂層の高さが10mmとなるように収容し、通水線速度100m/hで、通水液を流して微小カラムの出口から流出する流出水中のイオン濃度を測定した。通水液として、シリカ濃度20mg/Lの珪酸溶液を用いた。各サンプルに対し、通水2分後のシリカ除去率の計算結果を図3に示す。
【0061】
図3に示すように、新品の陰イオン交換樹脂におけるシリカ除去率は27%であり、アニオン交換塔の運転時間が長くなるほど低下し、シリカ除去率の経時変化は、運転時間と良い相関性を示した。
【0062】
(比較例1)
アニオン交換塔の運転開始後100日、220日、326日、450日目にアニオン交換塔から採取した陰イオン交換樹脂(DOWEX(登録商標)550A)と新品の陰イオン交換樹脂について、図1の性能評価装置2を用いて樹脂性能を評価した。採取した陰イオン交換樹脂は純水で洗浄し、NaOH溶液で1000g-NaOH/L-Rレベルで十分に再生した。
【0063】
微小カラムとして内径16mm、高さ10cmのカラムを用意し、この微小カラムに樹脂を2mL、樹脂層の高さが10mmとなるように収容し、通水線速度100m/hで、通水液を流して微小カラムの出口から流出する流出水中のイオン濃度を測定した。通水液として、濃度10mg/Lとした塩酸溶液を用いた。通水2分後の塩化物イオン除去率を計算した。
【0064】
通水液として塩素イオンを含有する溶液を用いた場合には、塩化物イオンの除去率は期間を通してそれほど大きな変化は確認されなかった。
【0065】
(比較例2)
【0066】
アニオン交換塔の運転開始後100日、220日、326日、450日目にアニオン交換塔から採取した陰イオン交換樹脂(DOWEX(登録商標)550A)と新品の陰イオン交換樹脂について、図1の性能評価装置2を用いて樹脂性能を評価した。採取した陰イオン交換樹脂は純水で洗浄し、NaOH溶液で1000g-NaOH/L-Rレベルで十分に再生した。
【0067】
微小カラムとして内径16mm、高さ10cmのカラムを用意し、この微小カラムに樹脂を2mL、樹脂層の高さが10mmとなるように収容し、通水線速度100m/hで、通水液を流して微小カラムの出口から流出する流出水中のイオン濃度を測定した。通水液として、濃度10mg/Lとした硫酸溶液を用いた。通水2分後の硫酸イオン除去率を計算した。
【0068】
通水液として硫酸イオンを含有する溶液を用いた場合には、硫酸イオンの除去率は期間を通してそれほど大きな変化は確認されなかった。
【0069】
上記の結果より、珪酸や珪酸塩水溶液を陰イオン交換樹脂の性能評価のために使用することで、塩酸溶液又は硫酸溶液を用いる場合に比べてより正確に評価できていることがわかる。
【0070】
また、総交換容量及び中性塩分解容量は経時変化とともに低下する傾向にあったが、複数のアニオン交換塔において、総交換容量と中性塩分解容量の測定結果は、運転時間との関係は明らかにされなかった。
【0071】
(実施例2)
実施例1と同様な原水で、並列的かつ同時に運転した複数のアニオン交換塔において、本発明の実施の形態に係る性能評価方法を用いて、運転450日後の陰イオン交換樹脂と新品の陰イオン交換樹脂とを比較した場合における塩化物イオン反応速度、硫酸イオン反応速度及び珪酸イオン反応速度の低下率と、総交換容量及び中性塩分解容量の低下率をそれぞれ測定し、陰イオン交換樹脂の性能を評価した。
【0072】
図4に示すように、本実施形態に係る方法を用いた場合の珪酸イオン反応速度の低下率が最も大きい。アニオン交換塔においては、樹脂性能が低下するとシリカのリークが最も早く起こるため、本発明によるシリカ除去率の測定は、陰イオン交換樹脂の速度論的な劣化評価方法として、総交換容量や中性塩分解容量の評価よりも有効な方法であると考えられる。特に、樹脂劣化の評価や交換時期の予測に関して、本発明の実施の形態に係る性能評価方法は非常に有意義な性能評価指標であるといえる。
【符号の説明】
【0073】
1、1a、1b、1c…アニオン交換塔
2…性能評価装置
21…サンプリング手段
22…微小カラム
23…貯留槽
24…洗浄水槽
25…流量計
26…測定手段
27…処理装置
100、100a、100b、100c…水処理システム
101…サーバ手段
102…ネットワーク
271…送信手段
272…受信手段
図1
図2
図3
図4