IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社日本製鋼所の特許一覧

<>
  • 特許-延伸装置および延伸装置の部品交換方法 図1
  • 特許-延伸装置および延伸装置の部品交換方法 図2
  • 特許-延伸装置および延伸装置の部品交換方法 図3
  • 特許-延伸装置および延伸装置の部品交換方法 図4
  • 特許-延伸装置および延伸装置の部品交換方法 図5
  • 特許-延伸装置および延伸装置の部品交換方法 図6
  • 特許-延伸装置および延伸装置の部品交換方法 図7
  • 特許-延伸装置および延伸装置の部品交換方法 図8
  • 特許-延伸装置および延伸装置の部品交換方法 図9
  • 特許-延伸装置および延伸装置の部品交換方法 図10
  • 特許-延伸装置および延伸装置の部品交換方法 図11
  • 特許-延伸装置および延伸装置の部品交換方法 図12
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-18
(45)【発行日】2022-11-29
(54)【発明の名称】延伸装置および延伸装置の部品交換方法
(51)【国際特許分類】
   B29C 55/20 20060101AFI20221121BHJP
【FI】
B29C55/20
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2019079077
(22)【出願日】2019-04-18
(65)【公開番号】P2020175576
(43)【公開日】2020-10-29
【審査請求日】2022-02-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000004215
【氏名又は名称】株式会社日本製鋼所
(74)【代理人】
【識別番号】110002066
【氏名又は名称】弁理士法人筒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】吉松 尚暁
(72)【発明者】
【氏名】中嶋 一郎
【審査官】▲高▼村 憲司
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-129961(JP,A)
【文献】特開2005-313403(JP,A)
【文献】特開昭61-056723(JP,A)
【文献】特開2016-132152(JP,A)
【文献】国際公開第2008/010479(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 55/00 - 55/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下を含む、膜の延伸装置:
前記膜の搬送および延伸可能な、複数のリンクが無端チェーンを構成するように連結された一対のリンク装置;
前記一対のリンク装置の中央部を覆う、前記膜に熱処理を行うための熱処理部;
前記熱処理部の外部であって、前記膜の入口側に配置された、前記複数のリンクを駆動するための第1のリンク駆動機構;
前記熱処理部の外部であって、前記膜の出口側に配置された、前記複数のリンクを駆動するための第2のリンク駆動機構;および
前記熱処理部の外部であって、前記膜の出口側に配置された、前記複数のリンクのピッチを小さくするためのリンク調整機構、
ここで、前記一対のリンク装置のそれぞれは、前記膜と対向する膜側と、前記膜側の反対に位置するリターン側と、を備え、
前記膜の搬送方向において、前記リンク調整機構は、前記第2のリンク駆動機構と前記リンク装置の中央部との間で、かつ、前記リターン側にある、延伸装置。
【請求項2】
請求項において、
前記第1のリンク駆動機構は、前記一対のリンク装置それぞれの前記リターン側から前記膜側に向かって前記複数のリンクを送り出すように回転する第1スプロケットを備え、
前記第2のリンク駆動機構は、前記一対のリンク装置それぞれの前記膜側から前記リターン側に向かって前記複数のリンクを送り出すように回転する第2スプロケットを備え、
前記リンク調整機構は、前記リターン側において、前記複数のリンクのピッチが小さくなるように回転する回転体を備え、
前記回転体の回転速度は、前記第2スプロケットの回転速度より遅い、延伸装置。
【請求項3】
請求項において、
前記リンク調整機構は、前記回転体であり、かつ、前記膜の出口側から前記膜の入口側に向かって前記複数のリンクを送り出すように回転する第3スプロケットを備え、
前記第3スプロケットの歯数は、前記第2スプロケットの歯数より多い、延伸装置。
【請求項4】
請求項において、
前記熱処理部の外部であって、前記膜の入口側に配置された、前記複数のリンクのピッチを小さくするための第4スプロケット、をさらに有し、
前記第1スプロケットの歯数は、前記第2スプロケットの歯数と等しく、
前記第3スプロケットの歯数は、前記第4スプロケットの歯数と等しい、延伸装置。
【請求項5】
請求項において、
前記一対のリンク装置のそれぞれは、内側レールおよび外側レールから成る一対のレールを有し、
前記複数のリンクのそれぞれは、前記一対のレール上に配置され、
前記内側レールおよび前記外側レールのそれぞれは、前記膜の入口側、前記熱処理部、および出口側に亘って、環状に形成され、
前記第1、第2、第3、および第4スプロケットのそれぞれは、前記内側レールのさらに内側に配置され、
前記内側レールと前記外側レールとの離間距離は、前記一対のレールが配置される領域毎に互いに異なり、
前記一対のリンク装置の前記リターン側において、前記第3スプロケットと前記熱処理部との間にある第1領域における前記内側レールと前記外側レールとの離間距離は、前記一対のリンク装置の前記膜側において、前記第4スプロケットと前記熱処理部との間にある第2領域における前記内側レールと前記外側レールとの離間距離と等しい、延伸装置。
【請求項6】
以下を含む、膜の延伸装置:
前記膜の搬送および延伸可能な、複数のリンクが無端チェーンを構成するように連結された一対のリンク装置;
前記一対のリンク装置の中央部を覆う、前記膜に熱処理を行うための熱処理部;
前記熱処理部の外部であって、前記膜の入口側に配置された、前記複数のリンクを駆動するための第1のリンク駆動機構;
前記熱処理部の外部であって、前記膜の出口側に配置された、前記複数のリンクを駆動するための第2のリンク駆動機構;および
前記熱処理部の外部であって、前記膜の出口側に配置された、前記複数のリンクのピッチを小さくするためのリンク調整機構、
ここで、前記一対のリンク装置のそれぞれは、前記膜と対向する膜側と、前記膜側の反対に位置するリターン側と、を備え、
前記一対のリンク装置のそれぞれは、内側レールおよび外側レールから成る一対のレールを有し、
前記複数のリンクのそれぞれは、前記一対のレール上に配置され、
前記内側レールおよび前記外側レールのそれぞれは、前記膜の入口側、前記熱処理部、および出口側に亘って、環状に形成され、
前記第1のリンク駆動機構、第2のリンク駆動機構、および前記リンク調整機構のそれぞれは、前記内側レールのさらに内側に配置され、
前記内側レールと前記外側レールとの離間距離は、前記内側レールおよび前記外側レールが配置される領域毎に互いに異なり、
前記一対のリンク装置の前記リターン側において、前記リンク調整機構と前記熱処理部との間にある第1領域における前記内側レールと前記外側レールとの離間距離は、全ての領域のなかで最も大きい。
【請求項7】
請求項1において、
前記一対のリンク装置の離間距離は、前記膜の入口側の方が、前記膜の出口側より小さい、延伸装置。
【請求項8】
請求項において、
前記一対のリンク装置のそれぞれは、内側レールおよび外側レールから成る一対のレールを有し、
前記複数のリンクのそれぞれは、前記一対のレール上に配置され、
前記リンク調整機構は、前記回転体であり、かつ、前記膜の出口側から前記膜の入口側に向かって前記複数のリンクを送り出すように回転するスクリューを備え、
前記スクリューは、
内側レールに沿って延びるシャフトと、
前記シャフトの周囲に設けられた複数の羽と、
を備える、延伸装置。
【請求項9】
以下の工程を有する、延伸装置の部品交換方法:
(a)延伸装置を準備する工程;
ここで、前記延伸装置は、以下を含む:
膜の搬送および延伸可能な、複数のリンクが無端チェーンを構成するように連結された一対のリンク装置;
前記一対のリンク装置の中央部を覆う、前記膜に熱処理を行うための熱処理部;
前記熱処理部の外部であって、前記膜の入口側に配置された、前記複数のリンクを駆動するための第1のリンク駆動機構;
前記熱処理部の外部であって、前記膜の出口側に配置された、前記複数のリンクを駆動するための第2のリンク駆動機構;および
前記熱処理部の外部であって、前記膜の出口側に配置された、前記複数のリンクのピッチを小さくするためのリンク調整機構、
(b)前記一対のリンク装置のそれぞれの前記膜の出口側にあるリンク交換領域において、前記複数のリンクに含まれる複数個のリンクから成る取出し用リンク群を結束し、前記一対のリンク装置の前記リンク交換領域から搬出する工程;
(c)前記(b)工程の後、前記リンク交換領域において、前記取出し用リンク群と同じ個数のリンクから成る交換用リンク群が結束された状態で、前記リンク交換領域にある一対のレール上に配置する工程;
(d)前記(c)工程の後、前記交換用リンク群を前記熱処理部側に向かって送り出し、新たな取出し用リンク群が前記リンク交換領域に押し出されるように前記複数のリンクを駆動する工程;
(e)前記(b)工程、(c)工程、および前記(d)工程を繰り返し実施して、前記一対のリンク装置のそれぞれが備える全てのリンクを交換する工程。
【請求項10】
請求項において、
前記一対のリンク装置のそれぞれは、前記膜と対向する膜側と、前記膜側の反対に位置するリターン側と、を備え、
前記一対のリンク装置のそれぞれは、内側レールおよび外側レールから成る一対のレールを有し、
前記複数のリンクのそれぞれは、前記一対のレール上に配置され、
前記内側レールおよび前記外側レールのそれぞれは、前記膜の入口側、前記熱処理部、および出口側に亘って、環状に形成され、
前記第1のリンク駆動機構、第2のリンク駆動機構、および前記リンク調整機構のそれぞれは、前記内側レールのさらに内側に配置され、
前記内側レールと前記外側レールとの離間距離は、前記内側レールおよび前記外側レールが配置される領域毎に互いに異なり、
前記一対のリンク装置の前記リターン側において、前記リンク調整機構と前記熱処理部との間にある第1領域における前記内側レールと前記外側レールとの離間距離は、全ての領域のなかで最も大きい、延伸装置の部品交換方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、膜を縦方向および横方向に引き延ばす延伸装置に好適に利用できるものである。
【背景技術】
【0002】
延伸装置においては、縦延伸と横延伸を行うことができ、これらを順番に行うことを逐次二軸延伸法といい、一度に行うことを同時二軸延伸法という。同時二軸延伸法は、逐次延伸法に比べ、スクラッチが発生しにくい、原料の適応範囲が広く、結晶化速度が速くても延伸可能である、物性の縦横均一性が高いなどのメリットがある。
【0003】
例えば、特許文献1(特開2004-155138号公報)には、折尺状に形成された複数個の等長リンク装置よりシート状物の両側端に配置された無端リンク装置を、シート状物の入口側及び出口側のスプロケットにより駆動し、進行方向に末広がり状に配置されたガイドで形成されるガイドレールによって案内し、シート状物を横方向に延伸させるシート状物の延伸機が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2004-155138号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
膜を引き延ばす延伸装置は、無端チェーンを構成するように連結された、複数のリンクを有する。例えばメンテナンス時に、この複数のリンクの交換作業を行う場合、作業の効率化の観点から改善の余地がある。
【0006】
その他の課題と新規な特徴は、本明細書の記述および添付図面から明らかになるであろう。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本願において開示される膜の延伸装置は、以下を含む。前記膜の搬送および延伸可能な、複数のリンクが無端チェーンを構成するように連結された一対のリンク装置;
前記一対のリンク装置の中央部を覆う、前記膜に熱処理を行うための熱処理部;前記熱処理部の外部であって、前記膜の入口側に配置された、前記複数のリンクを駆動するための第1のリンク駆動機構;
前記熱処理部の外部であって、前記膜の出口側に配置された、前記複数のリンクを駆動するための第2のリンク駆動機構;
前記熱処理部の外部であって、前記膜の出口側に配置された、前記複数のリンクのピッチを小さくするためのリンク調整機構部。
【発明の効果】
【0008】
本願において開示される延伸装置によれば、複数のリンクを効率的に交換することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】一実施の形態である薄膜の製造システムの構成を示す模式図である。
図2図1に示す延伸装置の構造例を示す平面図である。
図3図2に示す複数のリンクのうちの一つを拡大して示す拡大平面図である。
図4図3に示すリンクのA-A線に沿った断面図である。
図5図3に示すリンクのA-B線に沿った断面図である。
図6】本実施の形態の延伸装置のリンクの交換方法の工程フローの概要を示すフロー図である。
図7図2に示すリンク交換領域において、複数のリンクのうちの一部の連結を解除した状態を示す平面図である。
図8図7に示す取出し用リンク群を結束し、レール上から搬出する様子を模式的に示す平面図である。
図9図8に示すリンク交換領域のレール上に交換用リンク群を搬入する様子を模式的に示す平面図である。
図10図9に示す交換用リンク群のバンドを取り外し、前方のリンクと連結した状態を示す平面図である。
図11図2に示す一対のリンク装置の一方の出口側の拡大平面図である。
図12図11に示すリンク調整機構の変形例を示す拡大平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、実施の形態を実施例や図面に基づいて詳細に説明する。なお、実施の形態を説明するための全図において、同一の機能を有する部材には同一の符号を付し、その繰り返しの説明は省略する。
【0011】
<全体構造>
図1は、本実施の形態の薄膜の製造システムの構成を示す模式図である。図1に示す本実施の形態の薄膜製造システム1は、混練押し出し装置(二軸混練押し出し装置)2、Tダイ3、原反冷却装置4、延伸装置(同時二軸延伸装置)5、引き取り装置6、および巻き取り装置7を有する。図1に示す例では、まず、混練押し出し装置2の原料供給部2Aに樹脂材料(ペレット)および添加剤などを供給する。二軸混練押し出し装置2は、供給された樹脂材料などを、混合しながら輸送(搬送)する。Tダイ3は、二軸混練押し出し装置2により混練された混練物(溶融樹脂)をスリットから押し出す。Tダイ3から押し出された混練物は、原反冷却装置4において冷却され、膜(シート、樹脂膜)8になる。Tダイ3により成形される膜は、延伸装置5に連続的に供給される。延伸装置5にとっては、膜8は延伸に供される原料に相当する。本明細書では、延伸装置5を中心に説明するので、延伸装置5に供されるシート状の材料、および延伸処理が施されている前の膜8のことを原反と呼ぶ場合がある。一方、延伸処理が完了し、延伸装置5から排出された状態の膜8を薄膜と呼ぶ場合がある。
【0012】
原反冷却装置4で冷却されて形成された膜8は、延伸装置5によりMD方向およびTD方向に延伸され、薄膜になる。延伸された膜8は、引き取り装置6を介して巻き取り装置7に巻き取られる。
【0013】
図1に一例として示す薄膜製造システム1の場合、上記のように、薄膜を製造する。なお、図1に示す薄膜製造システム1は、形成する薄膜の特性に応じて、種々の変形が可能である。例えば、図1に示す構成に加え、図1に示す引き取り装置6の近傍に図示しない抽出槽が設けられ、膜8中の可塑剤(例えば、パラフィンなど)が抽出槽で除去される場合がある。
【0014】
本実施の形態の延伸装置5は、膜8をMD方向に搬送しながら、薄膜をMD方向およびTD方向に引き延ばす。MD(Machine Direction)方向は、薄膜の搬送方向であり、縦方向とも言う。また、TD(Transverse Direction)方向は、上記薄膜の搬送方向と交差する方向であり、横方向とも言う。互いに交差する二方向に同時に延伸させることが可能な延伸装置5は、同時二軸延伸装置と呼ばれる。
【0015】
以下、延伸装置5の構造、および延伸装置5が、MD方向およびTD方向に膜8を引き延ばす原理について説明する。図2は、図1に示す延伸装置の構造例を示す平面図である。図2に示すオーブン内には、レール13A、13B上に配置された複数のリンク20が配置されるが、図2では、レール13Aおよび13B、および膜8の輪郭のみを、点線で示している。図3は、図2に示す複数のリンクのうちの一つを拡大して示す拡大平面図である。図4は、図3に示すリンクのA-A線に沿った断面図である。図5は、図3に示すリンクのA-B線に沿った断面図である。図4および図5では、クリップ21の支持構造を見やすくするため、図3に示すA-A線およびA-B線に沿った断面とは異なる位置にある部材を、白抜きで示している。
【0016】
図2に示すように、延伸装置5は、平面視において、互いに離間して配置される一対のリンク装置10Aおよび10Bを有する。膜8は、リンク装置10Aとリンク装置10Bとの間に配置され、MD方向に搬送される。リンク装置10Aとリンク装置10Bとの間の部分は、膜8を搬送するための搬送部として機能する。延伸装置5は、一対のリンク装置10Aおよび10Bの中央部を覆い、膜8に熱処理を行うための熱処理部12を有する。図2に示す例では、熱処理の方法として、オーブンを用いた熱処理の例を示している。リンク装置10Aおよび10Bのそれぞれの一部分(中央部11)は、熱処理部12の庫内に配置される。以下、本明細書では、熱処理部12であるオーブンを貫通するように配置されるリンク装置10Aおよび10Bのそれぞれのうち、熱処理部12内に配置された部分を中央部11として説明する。膜8は、リンク装置10Aおよび10Bに保持された状態で、熱処理部12を通過する。
【0017】
リンク装置10Aおよび10Bのそれぞれは、無端チェーンを構成するように連結された複数のリンク20を有する。複数のリンク20のそれぞれには、膜8を把持する治具であるクリップ21(図3参照)が取り付けられている。膜8は、クリップ21を介して複数のリンク20に把持される。
【0018】
互いに連結された複数のリンク20は、レール13Aおよび13Bに沿って走行可能な状態で、レール13Aおよび13B上に載せられる。リンク装置10Aおよび10Bのそれぞれは、一対のレール13Aおよび13Bを有する。一対のレール13Aおよび13Bのうち、レール13Aは内周側に、レール13Bは外周側に、それぞれ配置される。なお、レール13Aを内側レールと呼び、レール13Bを外側レールと呼ぶ場合がある。
【0019】
図2に示すようにリンク装置10Aおよび10Bのそれぞれが備える一対のレール13Aおよび13Bは、膜8の入口側(入口部)8A、熱処理部12、および出口側(出口部)8Bに亘って環状に形成される。一対のリンク装置10Aおよび10Bのそれぞれは、膜8と対向する膜側と、膜側の反対に位置するリターン側と、を備える。以下の説明において、膜8がクリップ21により把持した状態で、複数のリンク20が入口側8Aから出口側8Bに向かって搬送されるサイドを「膜側」と記載する。一方、膜側の反対に位置し、クリップ21が膜8を把持せず、複数のリンク20が出口側8Bから入口側8Aに向かって搬送されるサイドを「リターン側」と記載する。
【0020】
複数のリンク20により構成される無端チェーンは、熱処理部12の外側に配置されるリンク駆動機構により駆動される。図2に示す例では、延伸装置5は、膜8の入口側8Aおよび出口側8Bのそれぞれにリンク駆動機構を有する。膜8の入口側8Aには、第1のリンク駆動機構であるスプロケット31が配置される。膜8の出口側8Bには、第2のリンク駆動機構であるスプロケット32が配置される。スプロケット31および32は、それぞれ複数のリンク20に係合され、複数のリンク20をMD方向に送り出すように回転する。複数のリンク20のそれぞれは、スプロケット31および32の回転動作の駆動力により、レール13Aおよびレール13B上を移動する。
【0021】
複数のリンク20のうち、互いに隣り合うリンク20間のピッチ(リンクピッチと呼ぶ場合もある)は、レール13Aとレール13Bとの離間距離に応じて変更可能である。言い換えれば、レール13Aとレール13Bとの離間距離を調整することにより、互いに隣り合うリンク20のピッチを調整することができる。詳しくは、レール13Aと13Bとの離間距離が大きい領域では、レール13Aと13Bとの離間距離が小さい領域と比較して、隣り合うリンク20のピッチが小さい。
【0022】
複数のリンク20は、隣り合うリンク20のピッチが変更可能な状態でレール上に配置される。また、クリップ21(図3参照)は、隣り合うクリップ21のピッチ(中心間距離)が変更可能な状態で複数のリンクのそれぞれの一方の端部に取り付けられる。膜8は、熱処理部12において、リンク装置10Aのレール13Bとリンク装置10Bのレール13Bとの離間距離が徐々に大きくなる領域で、TD方向に延伸される。延伸装置5は、熱処理部12において、リンク装置10Aが備える複数のリンク20のリンクピッチ、およびリンク装置10Bが備える複数のリンク20のリンクピッチが大きくなる領域(MD方向延伸領域)を備える。膜8は、このリンクピッチが大きくなる領域において、MD方向に延伸される。リンクピッチが大きくなる領域では、リンク装置10Aおよび10Bのそれぞれにおいて、レール13Aとレール13Bとの離間距離が小さくなる。リンク装置10Aのレール13Bとリンク装置10Bのレール13Bとの離間距離が徐々に大きくなる領域とリンクピッチが大きくなる領域とは同じ領域なので、この領域では、膜8は、TD方向およびMD方向に同時に延伸される。
【0023】
また、延伸装置5は、熱処理部12において、リンクピッチを大きくするので、熱処理部12への入口側8Aにおいて、リンクピッチを小さくしておく必要がある。このため、延伸装置5は、熱処理部12の外部であって、膜8の入口側8Aに配置されたスプロケット33を備える。スプロケット33は、スプロケット31の回転速度より遅い回転速度で回転する。スプロケット33は、複数のリンク20に係合する。スプロケット31の回転速度より遅く回転するスプロケット33が膜8の入口側8Aに配置されることにより、複数のリンク20のリンクピッチは、スプロケット33に係合される領域において小さくなる。スプロケット33は、複数のリンク20のリンクピッチを小さくするためのリンク調整機構部として機能する。
【0024】
また、延伸装置5は、スプロケット34の他に、膜8の出口側8Bに配置されるスプロケット34を備える。スプロケット34は、熱処理部12の外部であって、膜8の入口側8Aに配置される。スプロケット34は、膜8の出口側8Bにおいて、複数のリンク20のリンクピッチを小さくするためのリンク調整機構部として機能する。スプロケット34が設けられることによる効果は後述する。
【0025】
膜8は、熱処理部12への入口側8Aにおいて、リンク装置10Aおよび10Bのそれぞれが備えるリンク20に取り付けられたクリップ21により把持される。クリップ21は、図3~5に記載されるバネ21Aなどの力により把持部21B(図4および5参照)が上下に動作することで、開閉するように構成される。クリップ21は膜8の端部を把持した状態でリンク20と一緒にMD方向に搬送される。膜8は、熱処理部12内で加熱され、かつ、クリップ21の移動に伴ってMD方向およびTD方向に引き伸ばされる。引き伸ばされた後の膜8は、クリップ21に把持された状態で、熱処理部12の出口側8Bに向かって搬送される。熱処理部12の外部であり、かつ膜8の出口側8Bにおいて、膜8はクリップ21から外される。膜8の出口側の先には、図1に示す引き取り装置6および巻き取り装置7が配置され、引き伸ばされた膜8は、巻き取り装置7に巻き取られ、回収される。
【0026】
次に、リンク20の構造について説明する。図3に示すように、リンク20は、上段側リンクプレート22と、下段側リンクプレート23と、レールホルダ24および25と、を備える。上段側リンクプレート22および下段側リンクプレート23のそれぞれは、平面視において直線的に延びる板状の部材である。上段側リンクプレート22の一方の端部には、シャフト26が挿入される。図4および図5に示すように、シャフト26は、下段側リンクプレート23にも挿入され、上段側リンクプレート22と、下段側リンクプレート23とは、シャフト26の中心を回転軸として、回転自在な状態でシャフト26を介して連結される。下段側リンクプレート23の一方の端部には、クリップ21が取り付けられる。図4に示すように、下段側リンクプレート23において、シャフト26は、クリップ21が取り付けられる一方の端部と他方の端部との間に挿入される。図3では、シャフト26を中心に上段側リンクプレート22と下段側リンクプレート23とが回転する状態を、二点鎖線を用いて模式的に示している。シャフト26を回転軸として上段側リンクプレート22と下段側リンクプレート23とが回転すると、上段側リンクプレート22と下段側リンクプレート23との成す角θ1の角度が変化する。
【0027】
なお、本明細書では、図3に示す各θ1の角度が大きくなることを「リンクが開く」、角θ1の角度が小さくなることを「リンクが閉じる」と呼ぶ場合がある。また、角θ1の角度が大きくなったり小さくなったりする動作を、「リンクの開閉動作」と呼ぶ場合がある。
【0028】
また、図4および図5に二点鎖線で示すように、上段側リンクプレート22には、シャフト27が挿入される。シャフト27は、互いに隣り合うリンク20を連結する連結部材である。シャフト27は、互いに隣り合うリンク20のうち、一方のリンク20の上段側リンクプレート22と、他方のリンク20の下段側リンクプレート23とに挿入される。一方のリンク20の上段側リンクプレート22および他方のリンク20の下段側リンクプレート23のそれぞれは、シャフト27の中心を回転軸として回転自在な状態で、シャフト27を介して連結される。図5に示すように、上段側リンクプレート22の他方の端部には、図2に示すスプロケット31、32、33、および34に係合される係合部29が取り付けられる。上段側リンクプレート22において、シャフト27は、係合部29とシャフト26との間に挿入される。シャフト27を回転軸として上段側リンクプレート22と下段側リンクプレート23とが回転すると、一方のリンク20の上段側リンクプレート22と他方のリンク20の下段側リンクプレート23との成す角(図示は省略)の角度が変化する。
【0029】
図4および図5に示すように、シャフト26の下端には、レールホルダ25が取り付けられる。レールホルダ25は、シャフト26の中心を回転軸として、回転可能な状態で取り付けられる。図4に示すように、シャフト27の下端には、レールホルダ24が取り付けられる。レールホルダ24は、シャフト27の中心を回転軸として、回転可能な状態で取り付けられる。レールホルダ24はレール13Aを覆うように配置され、レールホルダ25はレール13Bを覆うように配置される。
【0030】
リンク20は、上記の構造を備えるので、レール13Aとレール13Bとの離間距離が変化すると、その変化に追従して上段側リンクプレート22および下段側リンクプレート23が回転する。この結果、隣り合うリンク20のピッチは、レール13Aとレール13Bとの離間距離に対応して変化する。なお、隣り合うリンク20のピッチは、回転可能に構成された部分の頂点、言い換えれば、シャフト26の中心を基準として規定することができる。すなわち、隣り合うリンク20のピッチとは、互いに隣り合うリンク20のそれぞれが備えるシャフト26の中心間距離として規定される。
【0031】
<リンクの交換方法>
次に、図2に示す延伸装置5が備える複数のリンク20の交換方法について説明する。図6は、本実施の形態の延伸装置のリンクの交換方法の工程フローの概要を示すフロー図である。以下では、図6に示すフローに沿ってリンクの交換方法を順に説明する。
【0032】
図2図5を用いて説明した延伸措置5は、膜8(図2参照)を把持するクリップ21(図3~5参照)が固定されたリンク20を供える。リンクピッチが可変な状態で連結された複数のリンク20を環状に駆動することにより、膜8を互いに交差する2方向に同時に延伸させることができる。延伸装置5を安定的に稼働させるためには、延伸装置5の構成部品の定期的なメンテナンスが必要である。特に、リンク20は可動部を多く含みリンク20の可動部が適切に動作することが、延伸された膜8の品質に強く影響する。また、リンク20は、熱処理部12の庫内を通過することで繰り返し加熱されるので、消耗部品の交換等が必要不可欠である。このため、延伸装置5の安定稼働の観点から、多数のリンク20を定期的に交換し、リンク20が設計通りに動作する状態を維持する必要がある。
【0033】
ところが、一台の延伸装置5が備えるリンク20の数は、1000個を超える。例えば、図2に示すリンク装置10Aおよび10Bのそれぞれが700個~800個程度のリンク20を有している。このため、リンク20を一個ずつ交換していては、作業時間がかかりすぎる。したがって、作業効率を向上させるためには、複数個のリンク20を一括で交換することが好ましい。
【0034】
例えば、以下で説明する実施の形態では、互いに連結された10個(10山と呼ぶ場合もある)のリンク20を1グループとして、グループ毎に交換作業を行う方法について説明する。10個のリンク20が連結された一つのグループの重量は、約40kgである。このため、作業性と作業時間との関係を勘案して、一つのグループに含まれるリンク20の数を10個とした。ただし、一つのグループに含まれるグループの数は厳密に10個に限定されない。交換作業の作業性が損なわれない範囲であれば、リンク20の数は10個より多くてもよい。また、例えば一つのグループが10個より少ない数のリンク20により構成される場合でも、1個ずつ交換するよりは作業時間を短縮できる。
【0035】
(カバー取り外し工程)
まず、図6に示すカバー取り外し工程として、リンク装置10Aおよび10Bのそれぞれを覆うカバーのうち、リンク交換作業の作業領域であるリンク交換領域(第1領域)40(図2参照)を覆う部分のカバーを取り外し、リンク交換領域40の複数のリンク20を露出させる。図2では図示を省略したが、複数のリンク20のそれぞれは、膜8の入口側8Aおよび出口側8Bのそれぞれにおいて、リンク装置10Aおよび10Bのカバーに覆われている。
【0036】
本実施の形態の場合、リンク交換領域40は、熱処理部12の外部で、かつ、出口側8Bのリターン側に設けられている。また、リンク交換領域40は、出口側8Bのリターン側において、スプロケット34と熱処理部12との間に設けられている。本実施の形態に対応する検討例として、本願発明者は、図2に示す入口側8Aの膜側にある領域41において、リンク交換作業を行う方法について検討した。領域41の場合、リンク装置10Aとリンク装置10Bとの離間距離が小さく、かつ、図1に示す延伸装置5に膜8を供給するための装置が配置されるため、作業スペースの確保が困難である。例えば、図2に示すように、リンク装置10Aとリンク装置10Bとの離間距離は、膜8の入口側8Aの方が膜8の出口側8Bより小さい。仮に、交換作業ができたとしても、限られたスペースで作業を行う必要があるので、作業効率が低い。
【0037】
一方、本実施の形態によるリンク交換領域40は、リターン側に配置されているので、領域41と比較して、リンク交換作業を行う際の他の装置との干渉が少ない。このため、広い作業スペースを確保することができる。例えば、互いに連結された10個のリンク20を一括して交換する場合、使用済のリンク20の取出しや交換用のリンク20の搬入のために広いスペースがある方が好ましい。本実施の形態によれば、使用済、あるいは交換用のリンク20の取り回しの自由度が高いので、効率的に作業を行うことができる。
【0038】
(連結解除工程)
次に、図6に示す連結解除工程として、図7に示すように、リンク交換領域40において、互いに連結される複数のリンク20のうちの一部の連結状態を解除する。図7は、図2に示すリンク交換領域において、複数のリンクのうちの一部の連結を解除した状態を示す平面図である。なお、図2に示すリンク装置10Aおよび10Bのうち、図7ではリンク装置10A(図2参照)のリンク交換領域40の拡大図を例示的に示している。リンク装置10Bのリンク交換領域40での作業については、リンク装置10Aのリンク交換領域40での作業と同様なので、図示は省略する。なお、リンクの交換方法の説明に関する図6に示す各工程のそれぞれにおいて、同様に、リンク装置10Aにおける交換作業を例示的に説明する。
【0039】
複数のリンク20のそれぞれは、シャフト27を介して連結され、シャフト27の上端部にピン28を挿入することにより連結部が固定されている。本工程では、10個のリンク20により構成される取出し用リンク群20G1のうち、進行方向の先頭に位置するリンク20A、および進行方向の最後に位置するリンク20Bのピン28をシャフト27から取り外す。次に、先頭のリンク20Aの上段側リンクプレート22(図4参照)を、進行方向の前方のリンク20Cの下段側リンクプレート23(図4参照)に挿入されるシャフト27から取り外す。これにより、取出し用リンク群20G1は、進行方向の前方にあるリンク20Cから分離される。また、取出し用リンク群20G1よりも後方にあるリンク20Dの上段側リンクプレート22を、進行方向の最後のリンク20Bの下段側リンクプレート23に挿入されるシャフト27から取り外す。これにより、取出し用リンク群20G1は、進行方向の後方にあるリンク20Dから分離される。
【0040】
(搬出工程)
次に、図6に示す搬出工程として、図8に示すように、結束された取出し用リンク群20G1をレール上から外部に搬出する。図8は、図7に示す取出し用リンク群を結束し、レール上から搬出する様子を模式的に示す平面図である。
【0041】
本工程では、まず、取出し用リンク群20G1を紐などからなるバンド42により、結束する。図8では、2本のバンド42により結束する例を示しているが、結束方法には種々の変形例が適用できる。上記したように複数のリンク20はリンクピッチが自在に変更可能な状態で連結されている。このため、結束されていない状態で取出し用リンク群20G1をレールから外すと、重力のバランスにより、個々のリンク20が自由に開閉してしまう。そこで、本実施の形態では、取出し用リンク群20G1を結束することで、搬送中のリンク20の開閉動作を制限している。
【0042】
取出し用リンク群20G1を結束する場合、図3に示す上段側リンクプレート22と下段側リンクプレート23との成す角θ1の角度が最も小さくなっていることが好ましい。言い換えれば、レール13Aとレール13Bとの離間距離が全ての領域の中で最大になっていることが好ましい。角θ1の角度が最も小さい時、リンク20の上段側リンクプレート22と下段側リンクプレート23とは閉じた状態である。この場合、レール13Aおよび13B上で結束作業を行っても、複数のリンク20をきつく締めることができる。この結果、取出し用リンク群20G1の開閉動作の自由度を制限した状態で、搬出することができる。
【0043】
本実施の形態の場合、図2に示す一対のリンク装置10Aおよび10Bのリターン側において、リンク調整機構として機能するスプロケット34と熱処理部12との間にあるリンク交換領域(第1領域)40におけるレール13Aとレール13Bとの離間距離は、リンク装置10Aおよび10Bの全体のなかで最も大きい。詳しくは、リンク交換領域40におけるレール13Aとレール13Bとの離間距離は、膜側において、スプロケット33と熱処理部12との間にある領域(第2領域)41におけるレール13Aとレール13Bとの離間距離と等しい。リンク交換領域40および領域41のそれぞれは、リンク装置10Aおよび10Bの各領域のうち、隣り合うリンク20のピッチが最も小さくなるように設計された領域である。
【0044】
その後、図8に矢印を付して模式的に示すように、結束された取出し用リンク群20G1を、リンク装置10Aおよび10B(図2参照)の外部に搬出する。図8では図示を省略したが、取出し用リンク群20G1をレール13Aおよび13B上から持ち上げる場合には、例えばチェーンブロックなどの図示しない搬送装置を用いてもよい。上記したように、本実施の形態のリンク交換領域40の周辺には、広い作業スペースが確保できるので、大型の搬送装置であっても利用することができる。
【0045】
搬出された取出し用リンク群20G1は、損耗状態の検査に供され、必要に応じて分解され、修理または部品交換される。
【0046】
ところで、領域41において、リンク20の交換作業を行う場合、図2に示すスプロケット34およびリンク交換領域40は不要である。この場合、リンク装置10Aおよび10Bのリターン側では、リンクピッチを小さくするための機構は設けられず、リンクピッチが広い状態で膜8の入口側8A連結されたリンク20を駆動すればよい。この場合、本実施の形態と比較してリンク20の総数を削減できる。しかし、領域41には各種の装置が密集して配置されているため、図8に示す取出し用リンク群20G1の搬出作業を行うスペースは確保困難である。このため、本実施の形態では、リンク20の総数は増加するが、作業効率を向上させることができるので、リターン側で、かつ、膜8の出口側8Bにリンク交換領域40を設けている。これにより、交換するリンク20の総数は増加したとしても、結果的に交換作業の効率は向上する。
【0047】
また、リターン側であっても、膜8の入口側8Aにリンク交換領域40を設けることは以下の課題が生じる。すなわち、リンクピッチが小さい状態では、スプロケット31を用いてリンク20をリターン側から膜側に駆動することが難しい。このため、膜8の入口側8Aにリンク交換領域40を設けるためには、リンク交換領域40とスプロケット31との間に、リンクピッチを広げるための機構(例えば図示しない別のスプロケット、あるいはレールを引き回すスペース等)がさらに必要になる。
【0048】
一方、図2に示すように、リンク交換領域40が膜8の出口側8Bに設けられている場合、出口側8Bから入口側8Aまでリンク20を搬送する経路中で、レール13Aとレール13Bとの離間距離を小さくすることでリンクピッチを大きくすることができる。したがって、延伸装置5の大型化を抑制しつつ、かつ、リンクの交換作業を効率的に実施できる作業スペースを確保可能な場所である出口側8Bのリターン側は、リンク交換領域40として最適な場所であると考えられる。
【0049】
(搬入工程)
次に、図6に示す搬入工程として、図9に示すように、結束された交換用リンク群20G2をレール上から外部から搬入し、リンク装置のレール13Aおよび13B上に配置する。図9は、図8に示すリンク交換領域のレール上に交換用リンク群を搬入する様子を模式的に示す平面図である。
【0050】
本工程で搬入される交換用リンク群20G2は、図8を用いて説明した搬出工程で搬出される取出し用リンク群20G1と同じ10個のリンク20から成る。交換用リンク群20G2は、紐などからなるバンド42により、結束されている。結束方法には種々の変形例が適用できることは、図8を用いて説明した搬出工程と同様である。交換用リンク群20G2の場合、搬送中の開閉動作を制限する他、交換用リンク群20G2とレール13Aおよび13Bとの位置合わせを容易に行うため、結束されている必要がある。
【0051】
図4および図5を用いて説明したように、複数のリンク20のそれぞれは、レールホルダ24および25を備える。レールホルダ24はレール13Aを挟むように配置され、レールホルダ25は、レール13Bを挟むように配置される。本実施の形態の場合、10個のリンク20を一括してレール13Aおよび13B上に搭載する。このため、レールホルダ24および25と、レール13Aおよび13Bとの位置合わせを容易に実施するためには、リンク交換領域40では、レール13Aとレール13Bとが平行に延び、かつ、10個のリンク20の開閉状態が揃え易いことが好ましい。10個のリンク20の開閉状態が揃え易いのは、図3に示す各θ1が最も小さい場合である。
【0052】
そこで、本実施の形態では、複数のリンク20が予め結束された状態の交換用リンク群20G2を準備して、結束された状態でレール13Aおよび13B上に搭載する。リンク交換領域40では、上記したように、レール13Aとレール13Bとの離間距離はリンク装置10Aおよび10Bの各領域のなかで最大になっている。このため、結束された状態の交換用リンク群20G2のレールホルダ24および25と、レール13Aおよび13Bとは、容易に位置合わせすることができる。
【0053】
なお、上記したレールホルダ24および25と、レール13Aおよび13Bとの位置合わせのみを考慮した場合、図3に示す各θ1の角度が最も大きい状態、言い換えれば、レール13Aとレール13Bとの離間距離が最も小さい状態、さらに言い得れば、複数のリンク20のそれぞれが最大に開いた状態でも位置合わせ可能である。ただし、複数のリンク20が最大に開いた状態では、交換用リンク群20G2の長さが長大化するので、その状態で10個のリンク20を結束することは困難である。したがって、本実施の形態のように、複数のリンク20が最も閉じた状態で搬入することが特に好ましい。
【0054】
(連結工程)
次に、図6に示す連結工程として、図10に示すように、交換用リンク群20G2の結束を解き、交換用リンク群20G2のうち、進行方向の先頭に位置するリンク20Aと、リンク20Aの前方に位置するリンク20Cとを連結する。図10は、図9に示す交換用リンク群のバンドを取り外し、前方のリンクと連結した状態を示す平面図である。
【0055】
本工程では、10個のリンク20により構成される交換用リンク群20G2のうち、進行方向の先頭に位置するリンク20A、の上段側リンクプレート22(図4参照)に形成された貫通孔に、進行方向の前方のリンク20Cの下段側リンクプレート23(図4参照)に挿入されるシャフト27を挿入する。続いて、上段側リンクプレート22の貫通孔上からシャフト27が抜けることを防ぐワッシャー板を挿入し、シャフト27の状端部にピン28を差し込んで固定する。これにより、交換用リンク群20G2は、進行方向の前方にあるリンク20Cに連結される。
【0056】
なお、図6に示すように、本実施の形態では、連結解除工程から送り出し工程までを繰り返し実行する。このため、全てのリンク20の交換が完了するまでは、連結工程において、進行方向の最後に位置するリンク20Bと進行方向の後方にあるリンク20Dとは連結しない。全てのリンク20が交換された時には、10個のリンク20により構成される交換用リンク群20G2のうち、進行方向の最後に位置するリンク20B、の下段側リンクプレート23(図4参照)に挿入されたシャフト27に、進行方向の後方のリンク20Dの上段側リンクプレート22(図4参照)に形成された貫通孔を挿入する。続いて、上段側リンクプレート22の貫通孔上からシャフト27が抜けることを防ぐワッシャー板を挿入し、シャフト27の状端部にピン28を差し込んで固定する。これにより、交換用リンク群20G2は、進行方向の後方にあるリンク20Dに連結される。
【0057】
(送り出し工程)
次に、図6に示す送り出し工程として、図10に示す交換用リンク群20G2を図2に示す熱処理部12側に向かって送り出し、新たな取出し用リンク群20G1(図7参照)がリンク交換領域40に押し出されるように、複数のリンク20を駆動する。図10に示す例の場合、交換用リンク群20G2の後方に位置するリンク20が、次の取出し用リンク群20G1の進行方向の先頭に位置するリンク20Aになる。
【0058】
送り出し工程で、複数のリンク20を送り出す方法として、例えば、手動で送り出す方向がある。また、別の方法として、図2に示すスプロケット31~34のそれぞれを駆動することにより、複数のリンク20を送り出すことができる。
【0059】
送り出し工程の後、図6に示すように、連結解除工程から送り出し工程までを繰り返し実施する。これにより図2に示すリンク装置10Aおよび10Bが備える全てのリンク20が交換されたら交換完了になる。
【0060】
<リンク駆動の詳細>
次に、リンク駆動機構としてのスプロケット32と、リンク調整機構としてのスプロケット34とのそれぞれの詳細について説明する。図11は、図2に示す一対のリンク装置の一方の出口側の拡大平面図である。なお、図2に示す入口側8Aに配置されるスプロケット31は、出口側8Bのスプロケット32に対応し、スプロケット33はスプロケット34に対応する。スプロケット31および33は、スプロケット32および34と同様の構造を備え、同様の動作をするので、図示は省略し、必要に応じて図2を用いて説明する。
【0061】
図2に示すように、本実施の形態の延伸装置5では、リンク駆動機構およびリンク調整機構として、スプロケット31~34を用いている。スプロケット31~34は、複数の歯を備える歯車であって、図示しないモータにより駆動される。スプロケット31~34はそれぞれ独立してモータに駆動される場合もあるが、一部のスプロケットは、一つのモータが兼用されてもよい。例えば、図11に示す出口側8Bでは、スプロケット32および34を一つのモータで駆動する場合もあるし、スプロケット32および34を互いに異なるモータで独立して駆動する場合もある。スプロケット32および34を一つのモータで駆動する場合には、各スプロケットの回転を同期させ易い。一方、スプロケット32および34を互いに異なるモータで独立して駆動する場合、各スプロケットの回転速度を個別に制御できるので調整マージンが大きい。
【0062】
図2に示すリンク装置10Aおよび10Bのリンク駆動機構としてのスプロケット31およびスプロケット32は、膜8の搬送速度を規定する。スプロケット31は、一対のリンク装置10Aおよび10Bのそれぞれのリターン側から膜側に向かって複数のリンク20を送り出すように回転する。スプロケット32は、一対のリンク装置10Aおよび10Bそれぞれの膜側からリターン側に向かって複数のリンク20を送り出すように回転する。スプロケット31および32は、互いに同じ構造になっている。詳しくは、スプロケット31および32は、回転径(回転の中心から歯の先端までの距離)および歯数が互いに同じである。また、スプロケット31および32は、同じ回転速度で回転する。
【0063】
また、複数のリンク20のピッチを小さくするためのリンク調整機構として機能するスプロケット34は、図11に示す出口側8Bにおいて、複数のリンク20のピッチが小さくなるように回転する回転体である。
【0064】
上記したように、隣り合うリンク20のピッチは、互いに対向するレール13Aおよび13Bの離間距離を広げることにより、小さくできる。ただし、一対のレールの離間距離を急激に変化させた場合、リンク20がレール上をスムーズに移動しない場合があり、リンク20の一部がレール上の一部で詰まる等のトラブルの原因になる。このため、本実施の形態のように、リンクピッチの調整を補助する回転体(スプロケット34)を利用しない場合には、スプロケット32とリンク交換領域40との間に長い距離を取って徐々にリンクピッチを小さくする必要がある。
【0065】
一方、本実施の形態のように、スプロケット34を用いる場合、スプロケット34は、膜8(図2参照)の出口側8Bから膜8の入口側8A(図2参照)に向かって複数のリンク20を送り出すように回転する。スプロケット34は、スプロケット32の回転速度よりも遅い回転速度で回転する。また、図11に示すように、スプロケット34の歯数は、スプロケット32の歯数より多い。図11に示す例では、スプロケット34の歯数は、スプロケット32の歯数の約5倍である。搬送中の複数のリンク20のそれぞれが備える係合部29(図3および図4参照)は、スプロケット34の歯の間の窪みに係合される。この領域では、レール13Aとレール13Bとの離間距離が急激に大きくなる。この時、内側に配置されるレール13Aは外側に配置されるレール13Bよりも回転半径が小さいので、リンク20の内側の部分(図3および図4に示すレールホルダ24の周辺)において、レールホルダ24が詰まり易い。
【0066】
ここで、本実施の形態の場合、レール13Aとレール13Bとの離間距離が急激に大きくなる領域にリンクピッチを小さくするためのスプロケット34が配置されている。スプロケット34は、リンク20の係合部29を強制的に前方に送り出す。また、スプロケット34がリンク20を前方に送り出す速度は、スプロケット34の回転速度により制御されている。このため、複数のリンク20のそれぞれは、レール13A上において詰まりを生じることなく、スムーズに前方(入口側)に向かって駆動される。また、レール13Bを挟むレールホルダ25(図4参照)は、レールホルダ24が減速したことに追従して徐々に減速する。そして、リンク交換領域40に到達する前に、リンク20を閉じる(言い換えれば、図3に示す各θ1の角度を最小値にする)ことができる。
【0067】
上記したように、スプロケット34は、一対のレールの離間距離を変化させることによるリンクピッチの調整機能を補助する。この結果、図11に示すように、スプロケット34に接触した部分において、リンクピッチを急激に小さくした場合でも、詰まることなくリンク20を駆動することができる。
【0068】
また、スプロケット34の回転径(回転の中心から歯の先端までの距離)は、スプロケット32の回転径と等しい。このため、スプロケット32および34の回転速度の比は、スプロケット32および34の歯数の比に反比例する。例えば、図11に示す例では、スプロケット32の歯数は、スプロケット34の歯数の1/5なので、スプロケット32の回転速度は、スプロケット34の回転速度の5倍である。
【0069】
また、拡大図による図示は省略するが、図2に示すスプロケット33の歯数は、スプロケット34の歯数と等しい。また、スプロケット33の回転径および回転速度は、スプロケット34の回転径および回転速度と等しい。
【0070】
<リンク調整機構の変形例>
次に、リンク調整機構の変形例について説明する。図12は、図11に示すリンク調整機構の変形例を示す拡大平面図である。図12に示す変形例の延伸装置5Aは、複数のリンク20のリンクピッチを小さくするためのリンク調整機構として、スクリュー(リンク調整機構)35を用いている点で、図2に示す延伸装置5と相違する。
【0071】
スクリュー35は、レール13Aに沿って延びるシャフト35Aと、シャフト35Aの周囲に設けられた複数の羽35Bを備える。スクリュー35は、シャフト35Aの中心を回転軸として回転する回転体である。スクリュー35が回転すると、回転軸に対して傾斜するように取り付けられた複数の羽35Bが回転する。スクリュー35が回転すると、隣り合う羽35Bの間の溝にリンク20の係合部29(図3および図4参照)が係合される。スクリュー35は、膜8(図2参照)の出口側8Bから膜8の入口側8A(図2参照)に向かって複数のリンク20を送り出すように回転する。
【0072】
スクリュー35は、スプロケット32の回転速度よりも遅い回転速度で回転する。搬送中の複数のリンク20のそれぞれが備える係合部29は、隣り合う羽35Bの間の溝に係合される。また、図12に示すように、スクリュー35の複数の羽35Bは、シャフト35Aの延在方向において、係合部29(図3および図4参照)のピッチが徐々に小さくなるように取り付けられている。本変形例の場合も、この領域では、レール13Aとレール13Bとの離間距離が急激に大きくなる。この時、内側に配置されるレール13Aは外側に配置されるレール13Bよりも回転半径が小さいので、リンク20の内側の部分(図3および図4に示すレールホルダ24の周辺)において、レールホルダ24が詰まり易い。
【0073】
本変形例の場合、レール13Aとレール13Bとの離間距離が急激に大きくなる領域にリンクピッチを小さくするためのスクリュー35が配置されている。スクリュー35は、リンク20の係合部29を強制的に前方に送り出す。また、スクリュー35がリンク20を前方に送り出す速度は、スクリュー35の回転速度により制御されている。このため、複数のリンク20のそれぞれは、レール13A上において詰まりを生じることなく、スムーズに前方(入口側)に向かって駆動される。また、レール13Bを挟むレールホルダ25(図4参照)は、レールホルダ24(図4参照)が減速したことに追従して徐々に減速する。そして、リンク交換領域40に到達する前に、リンク20を閉じる(言い換えれば、図3に示す各θ1の角度を最小値にする)ことができる。
【0074】
上記したように、スクリュー35は、一対のレールの離間距離を変化させることによるリンクピッチの調整機能を補助する。この結果、図11に示すように、スクリュー35に接触した部分において、リンクピッチを急激に小さくした場合でも、詰まることなくリンク20を駆動することができる。
【0075】
図11図12を比較して判るように、本変形例の延伸装置5Aの場合、膜8(図2参照)の出口側8Bにおける装置の専有面積をさらに小さくすることができる。また、レール13Aおよび13Bの総延長距離が図11に示す例と比較して短くなる。この結果、必要なリンク20の総数を低減することができる。
【0076】
図12に示す延伸装置5Aは、上記した相違点を除き、図1図11を用いて説明した延伸装置5と同様である。このため重複する説明については省略する。
【0077】
以上、本発明者によってなされた発明を実施の形態および実施例に基づき具体的に説明したが、本発明は上記実施の形態または実施例に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能であることはいうまでもない。
【0078】
例えば、上記実施の形態では、延伸装置が備えるリンク20の総数や、10個のリンク20の重量、あるいは、スプロケットの回転速度の比など、を例示的に説明した。しかし、説明した発明の要旨を逸脱しない範囲であれば、各数値は、言及した数値に限定されない。
【符号の説明】
【0079】
1 薄膜製造システム
2 混練押し出し装置(二軸混練押し出し装置)
2A 原料供給部
3 Tダイ
4 原反冷却装置
5,5A 延伸装置(同時二軸延伸装置)
6 引き取り装置
7 巻き取り装置
8 膜
8A 入口側(入口部)
8B 出口側(出口部)
10A,10B リンク装置
11 中央部
12 熱処理部
13A,13B レール
20,20A,20B,20C,20D リンク
20G1 取出し用リンク群
20G2 交換用リンク群
21 クリップ
21A バネ
21B 把持部
22 上段側リンクプレート
23 下段側リンクプレート
24,25 レールホルダ
26 シャフト
27 シャフト
28 ピン
29 係合部
31,32,33,34 スプロケット
35 スクリュー
35A シャフト
35B 羽
40 リンク交換領域(第1領域)
41 領域(第2領域)
42 バンド
F1 膜(シート、樹脂膜)
θ1 角
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12