(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-18
(45)【発行日】2022-11-29
(54)【発明の名称】窒化物半導体基板
(51)【国際特許分類】
H01L 21/338 20060101AFI20221121BHJP
H01L 29/778 20060101ALI20221121BHJP
H01L 29/812 20060101ALI20221121BHJP
H01L 21/20 20060101ALI20221121BHJP
【FI】
H01L29/80 H
H01L21/20
(21)【出願番号】P 2019170218
(22)【出願日】2019-09-19
【審査請求日】2021-11-30
(31)【優先権主張番号】P 2018232148
(32)【優先日】2018-12-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2019126583
(32)【優先日】2019-07-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】507182807
【氏名又は名称】クアーズテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101878
【氏名又は名称】木下 茂
(74)【代理人】
【識別番号】100187506
【氏名又は名称】澤田 優子
(72)【発明者】
【氏名】阿部 芳久
(72)【発明者】
【氏名】江里口 健一
(72)【発明者】
【氏名】小宮山 純
【審査官】恩田 和彦
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-080776(JP,A)
【文献】特開2010-153817(JP,A)
【文献】特開2016-219690(JP,A)
【文献】特開2011-082494(JP,A)
【文献】特開2014-175624(JP,A)
【文献】特開2012-015306(JP,A)
【文献】特開2018-093239(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 29/778
H01L 29/812
H01L 21/338
H01L 21/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Si単結晶基板上に、いずれも窒化物半導体からなるバッファー層および動作層が順次積層された窒化物半導体基板であって、
前記バッファー層は、前記Si単結晶基板に接して形成された単層の第一初期層と、前記第一初期層上に形成された単層の第二初期層とを含み、
前記第一初期層はAlNで形成され、
前記第二初期層はAl
zGa
1-zN(0.12≦z≦0.65)で形成され、かつ、X軸をz×100とし、Y軸を前記第二初期層中の炭素濃度としたX-Yグラフにおいて、Xが12以上65以下であり、Yが、Y=1E+17×exp(-0.05×X)と、Y=1E+21×exp(-0.05×X)の間の範囲内であ
り、
前記バッファー層が、さらに、第二初期層に接して形成された層を含み、
前記第二初期層に接して形成された層がAl
c1
Ga
1-c1
Nで形成され、かつ、X軸をc1×100とし、Y軸を前記第二初期層に接して形成された層中の炭素濃度としたX-Yグラフにおいて、Xが0以上20以下、Yが、Y=8E+18×exp(-0.03×X)と、Y=4E+20×exp(-0.03×X)の間の範囲内であり、
前記第二初期層に接して形成された層の炭素濃度が、前記第二初期層の炭素濃度より低いことを特徴とする窒化物半導体基板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高速および高耐圧素子等に用いられる窒化物半導体基板に関し、詳しくは、シリコン(Si)からなる異種基板上に窒化ガリウム(GaN)を積層させて構成された窒化物半導体基板に関する。
【背景技術】
【0002】
GaNをSi単結晶基板上に積層させた窒化物半導体基板は、通常は有機気相成長(MOCVD)法で製造される。その際、Si単結晶上に窒化アルミニウム(AlN)層と窒化アルミニウムガリウム(AlGaN)層からなる初期層を形成する技術が公知である。
【0003】
特許文献1には、化合物半導体の結晶性を良好に保ち、電流コラプスの発生を抑制するも、オフリーク電流を抑えて高い耐圧を実現する、信頼性の高い化合物半導体装置として、Si基板上に、AlNを材料とする第1のバッファー層と、第1のバッファー層の上方に形成されたAlGaNを材料とする第2のバッファー層とを有する化合物半導体積層構造を含み、第2のバッファー層が、その下面から上面に向かうほど高濃度に炭素を含有する化合物半導体装置の開示がある。
【0004】
特許文献2には、13族窒化物半導体基板の作製例として、まず、下地基板1として直径6インチ、主面の面方位が(111)、ホウ素ドープで比抵抗0.004Ωcmのシリコン単結晶基板をMOCVD装置内にセットし、原料ガスとしてトリメチルアルミニウム(TMA)、アンモニア(NH3)を用い、炭素濃度1×1018atoms/cm3、厚さ100nmのAlN単結晶層を1000℃で気相成長させ、以降の13族窒化物半導体層の形成は全て、成長温度の基準を1000℃とし、これに1~15℃の範囲で微調整を加えることで、前記AlN単結晶層上に、原料ガスとしてトリメチルガリウム(TMG)、TMA、NH3を用い、炭素濃度5×1019atoms/cm3、厚さ300nmのAlx Ga1-xN単結晶層(x=0.1)を気相成長させ、初期核形成層2を形成した、との記載がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2014-17422号公報
【文献】特開2016-219690号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
Si単結晶基板上に最初に形成されるAlN層は、高温で成膜するほど、良質な結晶品質(高い結晶性、良好な表面の平坦性)が得られる反面、Siのエッチング速度も高くなる。そのため、通常、AlNの成膜温度は制限されることから、AlN層表面の平坦性が十分確保されているとは言い難い。この平坦性が悪いと、応力制御で適用される(Al)GaNとAlNの超格子構造が乱れて、応力制御が効かなくなるという問題が生じる。
【0007】
そこで、AlN層の荒れた表面を平坦化するために、その上にAlGaN層を形成するのが一般的である。このAlGaN層には、膜の平坦化のみならず、横型電子デバイスで使用されることを鑑みると、高抵抗であることも要求される。
【0008】
AlNは、その禁制帯幅がGaNに比べて大きく非常に高抵抗である。しかし、AlGaN層にはGaN成分が混入しているため、AlNと比べると幾分その禁制帯幅は小さくなり、抵抗は低下する。また、このAlGaN層は、Si単結晶基板に近い層でもあるため、その結晶中に転位が多く、その転位が抵抗を下げている。
【0009】
上記のような問題に対して、炭素などの電子を補償できる不純物をドーピングして抵抗を上げる方法が適用される。しかしながら、高濃度の炭素をドーピングすると結晶品質の低下を招く。そこで、AlGaN層は適度なAl組成にして、禁制帯幅を大きくし、高濃度の炭素をドーピングする必要がない状態にする必要がある。
【0010】
しかしながら、このAlGaN層のAl組成と炭素濃度の関係については、技術的に確立されていたとは言い難い。例えば、特許文献1では、AlxGa1-xNは、200nm程度の厚みで、0.8≦x≦0.9程度(例えば、x=0.9程度)で、C濃度が5×1017/cm3~3×1018/cm3程度(例えば、1×1018/cm3程度)である。しかしながら、このAlGaN層では、Si単結晶基板へのリーク電流を十分低減できていない。
【0011】
また、特許文献2では、炭素濃度5×1019atoms/cm3、厚さ300nmのAlxGa1-xN単結晶層(x=0.1)を用いているが、この場合は、逆に、炭素濃度が高すぎて、AlGaN層の結晶性が十分確保されているとは言い難い。
【0012】
本発明は、上記に鑑み、特に、GaNをSi単結晶基板上に積層させた窒化物半導体基板において、初期AlGaN層の成膜条件を適宜調整し、Al組成および不純物炭素濃度をある一定範囲内にすることで、横型デバイスとして利用した時に縦方向のリークが抑制された結晶性の高い窒化物半導体基板を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の窒化物半導体基板は、Si単結晶基板上に、いずれも窒化物半導体からなるバッファー層および動作層が順次積層された窒化物半導体基板であって、前記バッファー層は、前記Si単結晶基板に接して形成された単層の第一初期層と、前記第一初期層上に形成された単層の第二初期層とを含み、前記第一初期層はAlNで形成され、前記第二初期層はAlzGa1-zN(0.12≦ z≦0.65)で形成され、かつ、X軸をz×100とし、Y軸を前記第二初期層中の炭素濃度としたX-Yグラフにおいて、Xが12以上65以下であり、Yが、Y=1E+17×exp(-0.05×X)と、Y=1E+21×exp(-0.05×X)の間の範囲内であり、前記バッファー層が、さらに、第二初期層に接して形成された層を含み、前記第二初期層に接して形成された層がAl
c1
Ga
1-c1
Nで形成され、かつ、X軸をc1×100とし、Y軸を前記第二初期層に接して形成された層中の炭素濃度としたX-Yグラフにおいて、Xが0以上20以下、Yが、Y=8E+18×exp(-0.03×X)と、Y=4E+20×exp(-0.03×X)の間の範囲内であり、前記第二初期層に接して形成された層の炭素濃度が、前記第二初期層の炭素濃度より低いことを特徴とする。
【0014】
かかる構成を有することで、特に、GaNをSi単結晶基板上に積層させた窒化物半導体基板において、横型デバイスとして利用した時に縦方向のリークが抑制される。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、III族窒化物半導体膜を横型デバイス用に適応する場合、第二初期層の成膜条件を適宜調整して、Al組成および不純物炭素濃度をある一定範囲内にすることで、横型デバイスとして利用した時に縦方向のリークが抑制でき、より耐圧特性に優れたものとなる。そして、第二初期層の結晶性が高いので、その上に形成される窒化物半導体層も高品質なものとなる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】
図1は、本発明の窒化物半導体基板の一態様を示す断面概略図である。
【
図2】
図2は、本発明の窒化物半導体基板において、第二初期層中のAl組成および不純物炭素濃度の関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面も用いながら、本発明の窒化物半導体基板について詳細に説明する。前記窒化物半導体基板は、Si単結晶基板上に、いずれも窒化物半導体からなるバッファー層および動作層が順次積層された基板であって、前記バッファー層は、前記Si単結晶基板に接して形成された単層の第一初期層と、前記第一初期層上に形成された単層の第二初期層を含み、前記第一初期層はAlNで形成され、前記第二初期層はAlzGa1-zN(0.12≦z≦0.65)で形成され、かつ、X軸をz×100とし、Y軸を前記第二初期層中の炭素濃度としたX-Yグラフにおいて、Xが12以上65以下であり、Yが、Y=1E+17×exp(-0.05×X)と、Y=1E+21×exp(-0.05×X)の間の範囲内である。
【0020】
図1は、本発明の窒化物半導体基板の一態様を示す断面概略図である。ここでは、HEMT構造を用いて説明する。すなわち、窒化物半導体基板Wとして、下地基板Sの一主面上に、バッファー層Bが積層され、その上に、動作層Gが形成されている。
【0021】
ここで、本発明で示す概略図は、説明のために形状を模式的に簡素化かつ強調したものであり、細部の形状、寸法、および比率は実際と異なる。また、同一の構成については符号を省略し、さらに、説明に不要なその他の構成は記載していない。
【0022】
本発明においては、下地基板Sは、Si単結晶である。異種基板上に最初に形成される層は、当然、異種基板の素性を十分考慮して選択、設計されるので、下地基板Sのその他の物性値は、特に限定されるものではない。
【0023】
例えば、Si単結晶に含まれる不純物の種類やその濃度、炭素濃度、窒素濃度、酸素濃度、欠陥密度、およびSi単結晶の製造方法は、要求される仕様に応じて任意に選択できる。また、窒化物半導体層が形成される面には、-4°~4°の範囲でオフ角を有していてもよい。
【0024】
バッファー層Bは、窒化物半導体層が複数積層された構造であり、用途や目的に応じて、その構造は公知の手法により形成することができる。例えば、特許文献2に記載されるような、最初に適切な初期層を形成した後、組成や不純物濃度が互いに異なる窒化物半導体層を一層以上積層するものが好適といえる。
【0025】
ここで、窒化物半導体としては、Ga、Al、インジウム(In)等の13族元素と、窒素等の15族元素との組み合わせが例示される。
【0026】
動作層Gは、デバイスとして機能する層、およびこの層の上に付帯する各種の層を総称したものである。
図1に示すHEMTでは、電子走行層101および電子供給層102が動作層Gに相当する。さらに、その上にGaN等からなるキャップ層を備えてもよい。
【0027】
窒化物半導体基板Wは、用途に特段の制限はないが、高周波化、高耐圧化が可能なパワーデバイス用として特に好適といえる。
【0028】
本発明では、バッファー層Bは、Si単結晶基板に接して形成された単層の第一初期層と、第一初期層上に形成された単層の第二初期層を含む。すなわち、下地基板Sの直上に、単層の第一初期層11と単層の第二初期層12がこの順で積層される。
【0029】
第一初期層11はAlNで形成される。本発明における第一初期層11は、公知の技術にあるような役割、すなわち、SiとGaが直接反応するのを防ぐ役割を有する。なお、第一初期層11は、Si単結晶直上の層としての機能を最低限有していればよく、Al比100%であるAlNだけでなく、Al比100%を2~3%下回るAlGaNで形成されていても構わない。
【0030】
上記同様の理由で、第一初期層11は厳密な単一層であることまでは要求されず、多少の組成傾斜を含むことも許容される。また、本発明の効果を損なわない範囲内で、MOCVD法で連続して層を形成するときに不可避的に混入する各種元素(Si、Ga、C等)が存在していてもよい。
【0031】
第一初期層11の層厚は、特に限定されないが、概ね40~150nm、好ましくは80~120nmの範囲である。
【0032】
そして、第二初期層12はAlzGa1-zN(0.12≦z≦0.65)で形成される。この層の目的は、第一初期層11の荒れた表面を平坦化することにある。第一初期層11および第二初期層12を形成することで、転位密度の低減等による結晶性の向上と、厚膜化に伴う反りを抑制するという効果が得られる。
【0033】
第二初期層12のAl比zが0.65よりも大きいと、第二初期層12の良好な表面平坦性が確保し難くなる。一方、zが0.12を下回ると、第一初期層11との格子定数差が拡大しすぎて、転位多発やクラック発生を引き起こす懸念がある。
【0034】
第二初期層12の層厚も特に限定されないが、概ね50~450nm、好ましくは200~350nmの範囲である。
【0035】
第二初期層12も、第一初期層11と同様に、厳密な単一層であることまでは要求されず、多少の組成傾斜を含むことは許容される。
【0036】
そして、第二初期層12では、X軸をz×100とし、Y軸を前記第二初期層中の炭素濃度としたX-Yグラフにおいて、Xは12以上65以下であり、Yは、Y=1E+17×exp(-0.05×X)と、Y=1E+21×exp(-0.05×X)の間の範囲内となる。
【0037】
図2は、本発明の窒化物半導体基板Wにおいて、第二初期層12中のAl組成および不純物炭素濃度の関係を示すグラフである。第二初期層12中のAl
zGa
1-zN(0.12≦z≦0.65)におけるzと、炭素濃度との関係が、X=12、X=65、Y=1E+17×exp(-0.05×X)、およびY=1E+21×exp(-0.05×X)で囲まれた領域内にあるときに、本発明の格別な効果が得られる。
【0038】
本発明では、第二初期層12を適度なAl組成にして禁制帯幅を大きくし、高濃度の炭素をドーピングしないのが最適であるという根拠のもと、Al比と炭素濃度との関係を明らかにしている。この関係が前記した範囲内であると、第二初期層12は、結晶性と高抵抗とが両立したものとなる。
【0039】
このような炭素濃度は、例えば、有機金属気相成長法(MOCVD)において、公知の技術である、成長温度または成長圧力の調整により、所望の値とすることができる。また、Al比zも、原料ガスの流量、供給時間で調整できる。
【0040】
以下、本発明における、さらに好ましい態様について説明する。さらに、第二初期層12中のAl比zと、炭素濃度との関係は、X-Yグラフにおいて、Xが26以上45以下で、Yが、Y=7E+17×exp(-0.05×X)と、Y=1E+19×exp(-0.05×X)の間の範囲内にあることがより好ましい。前記範囲は、炭素濃度がより低く抑えられている領域であるので、結晶品質を重視する設計であるといえる。
【0041】
なお、第二初期層12を形成するに当たり、形成初期はAl比zを高く、層を成長させるに従い、Al比zを小さくすると、層の前半領域は結晶性を重視し、後半領域は耐圧を重視した設計になり、第二初期層12の層厚をむやみに大きくしなくても、本発明の効果をより効率的に得ることができ、さらに好ましい。
【0042】
バッファー層Bは、第一初期層11および第二初期層12に加えて、多層バッファー層mを有していてもよい。多層バッファー層mの一例は、厚さ15~50nmのAlcGa1-cN(0≦c≦0.8)単結晶層と、厚さ3~10nmのAlN層とが交互に繰り返し積層され、全体の層厚が500~2000nm程度である多層構造である。このような多層バッファー層mをさらに備えることで、バッファー層Bにおける応力緩和効果を効果的に発揮させることができる。
【0043】
動作層Gは、電子走行層101および電子供給層102からなる積層構造である。動作層Gの上には、デバイス作製時の目的や用途に応じて、キャップ層やパッシベーション層等の他の層を有してもよい。電子走行層101および電子供給層102の層厚は、公知の値である。
【0044】
本発明の窒化物半導体基板Wの各層は、通常、エピタキシャル成長による堆積で形成される。堆積方法は、一般的に用いられる方法でよく、例えば、MOCVDやプラズマCVD(PECVD)を始めとしたCVD法、レーザービームを用いた蒸着法、雰囲気ガスを用いたスパッタ法、高真空における分子線を用いた分子線エピタキシー法(MBE)、または、MOCVDおよびMBEの複合である有機金属分子線エピタキシー法(MOMBE)等である。また、エピタキシャル成長用原料も、実施例で使用するものに限定されるものではなく、例えば、炭素を添加するための原料ガスは、トリメチルアルミニウム(TMAl)、トリメチルガリウム(TMGa)の他に、トリエチルアルミニウム(TEAl)、トリエチルガリウム(TEGa)であってもよい。
【0045】
以上の通り、本発明の窒化物半導体基板は、横型デバイスとして利用した時に縦方向のリークが抑制できるので、より耐圧特性に優れたものとなる。そして、第二初期層の結晶品質が高いので、その上に形成される窒化物半導体層も高品質となる。
【実施例】
【0046】
以下、本発明を実施例に基づいて具体的に説明するが、本発明は、下記実施例により制限されるものではない。
【0047】
[実施例1]
6インチのSi単結晶を下地基板SとしてMOCVD装置に投入し、圧力135hPaの水素雰囲気にて、基板温度950℃でアニーリングすることでシリコン表面の自然酸化膜を除去し、シリコンの原子ステップを発現させた。続いて、基板温度を1020℃にして、TMAlおよびアンモニア(NH3)を供給し、第一初期層11となるAlNを100nmの厚さで形成した。その後、TMGaを加えて、第二初期層12としてAlzGa1-zN(z=0.3)を200nm成膜した。次に、応力制御層としてAl0.1Ga0.9NとAlNとを交互に80層積層した多層バッファー層mを形成した。さらに、動作層Gとして、電子走行層101となるノンドープGaN層を1400nm、電子供給層102となるAl0.25Ga0.75N層を20nmの厚さでこの順に積層し、サンプルを作製した。
【0048】
[実施例2~5]
炭素濃度は主に成膜圧力を制御することで、また、Al比zはTMAlとTMGaの流量を制御することで、それぞれ調整を行い、それ以外は、実施例1と同様にして、実施例2~5のサンプルを作製した。
【0049】
[比較例1]
実施例1において、基板温度を920℃にした以外は、実施例1と同様にして、サンプルを作製した。
得られたサンプル中の不純物炭素濃度は5E+20cm-3であった。不純物炭素の量が多すぎるため、結晶品質が低下したと考えられる。
【0050】
[比較例2]
実施例1において、基板温度を1020℃にした以外は、実施例1と同様にして、サンプルを作製した。
得られたサンプル中に含まれる不純物炭素濃度は1E+16cm-3であった。比較例2のサンプルでは、不純物炭素の量が少なすぎたために、十分な高抵抗値が得られなかったものと考えられる。
【0051】
[比較例3]
実施例1において、AlzGa1-zNのzがz=0.3ではなく、z=0.11となるようにした以外は、実施例1と同様にして、サンプルを作製した。得られたサンプル中に含まれる不純物炭素濃度は5E+17cm-3であった。Al組成が低いために、禁制帯幅が十分に確保できず、不純物炭素濃度も十分でなかったため、抵抗値が上がらなかったものと考えられる。
【0052】
[比較例4]
実施例1において、AlzGa1-zNのzをz=0.3ではなく、z=0.7となるようにした以外は、実施例1と同様にして、サンプルを作製した。
得られたサンプル中の不純物炭素濃度は1E+20cm-3であった。比較例4のサンプルは、Al組成が高く、大きな禁制帯幅を有しているが、不純物炭素濃度が高すぎて結晶品質が低下したものと考えられる。
【0053】
なお、Al組成が70%よりも大きいとき、すなわちz>0.7であるときは、第二初期層12の表面平滑性が確保できなかった。
【0054】
[実施例6]
実施例6では、第二初期層12を形成するに当たり、最初はAl比zを0.35になるようにして、層の形成に伴い徐々にその比を低下させて、最終的にAl比zを0.25になるようにした。層厚は50nmとした。それ以外は、実施例1と同様にした。
【0055】
[評価1~炭素濃度]
各サンプルの第二初期層12中の炭素濃度を、二次イオン質量分析(SIMS)を用いて測定した。
【0056】
[評価2~縦方向のリーク電流]
各サンプルから、基板主面の中央部から基板端部にかけて幅20mmの短冊状の試験片をそれぞれ劈開して切り出した。次に、この試験片の電子供給層102および電子走行層101の一部を、ドライエッチングにより除去した。この状態で、ドライエッチングで露出した面に10mm2のAu電極を真空蒸着してショットキー電極として形成し、市販のカーブトレーサを用いて、Si単結晶基板側と通電してI-V特性を測定して、600Vでの電流値を比較した。そして、1E-8(A)以下を合格とした。
【0057】
[評価3~結晶性]
各サンプルについて、第二初期層12の(002)面のX線回折におけるロッキングカーブの半値幅を測定した。そして、2000arcsec以下を合格とした。
【0058】
以上、各サンプルの製造条件と評価結果をまとめて表1に示す。
【表1】
【0059】
表1の結果から、本発明の範囲内にあるものは、耐圧特性(縦方向のリーク電流)と結晶質(第二初期層12の半値幅)のいずれも良好であった。また、実施例6のサンプルは、実施例1~5と比べて、さらに結晶性と耐圧が高次元で両立されたものであった。
【0060】
ここで、第二初期層に接して形成された層m0(Alc1Ga1-c1N、図示せず)についても、より好ましい範囲がある。すなわち、X-Yグラフにおいて、X(c×100)が0以上20以下、Y(第二初期層に接して形成された層m0中の炭素濃度)が、Y=8E+18×exp(-0.03×X)と、Y=4E+20×exp(-0.03×X)の間の範囲内である。
【0061】
このようにすることで、本発明の窒化物半導体基板の結晶性と耐圧のバランスが、さらに高い次元で両立できることが見出された。以下、実施例7~9として、第二初期層に接して形成された層m0のc1、および、これに含まれる炭素濃度を調整したサンプルを作製した。そして、実施例1同様に、リーク電流と半値幅(結晶性)の評価を行った。
【0062】
[実施例7]
実施例7では、c1=0、炭素濃度を7E+19cm-3とした。
リーク電流は実施例2よりやや低くなり、この点では優れていた。一方、半値幅は1860arcsecであり、炭素濃度が相対的に高い分、実施例2の1850arcsecとの比較では、わずかに結晶性が劣るものであった。しかしながら、結晶性と耐圧の双方を考慮すると、実施例2よりは良好な特性といえる。
【0063】
[実施例8]
実施例8では、c1=0.1、炭素濃度を5E+19cm-3とした。
リーク電流は実施例1よりやや低くなり、この点では優れていた。一方、半値幅は1480arcsecであり、実施例1の1500arcsecより若干良好であった。結晶性と耐圧の双方ともに、実施例1よりは良好な特性といえる。
【0064】
[実施例9]
実施例9では、c1=0.2、炭素濃度を1E+20cm-3とした。
リーク電流は実施例4よりやや低くなり、この点では優れていた。一方、半値幅は1450arcsecであり、実施例4の1600arcsecはもとより、実施例8の1480arsecよりも若干良好であった。結晶性と耐圧の双方ともに、実施例4より良好な特性といえる。
【0065】
以上の通り、本発明のより好ましい一態様は、結晶性と耐圧の双方をより高い次元で両立することを目指す場合に、相対的に優れた窒化物半導体基板であるといえる。
【0066】
ここで、第二初期層に接して形成された層m0の炭素濃度が第二初期層12の炭素濃度より低いと、ことさら好ましい。窒化物半導体中の炭素は不純物として存在するので、その濃度が高くなると、窒化物半導体の結晶性は低下する傾向にある。第二初期層12の炭素濃度は比較的高めの設定なので、これに続く第二初期層に接して形成された層m0の炭素濃度が同程度であると、多層バッファー層m全体も結晶性があまり上がらないまま成長することになる。
【0067】
そこで、本発明では、上記したように、第二初期層に接して形成された層m0の炭素濃度を第二初期層12の炭素濃度より低くすることで、本発明の特徴である第二初期層12の構成と好適にフィットし、かつ、製造しやすい形態で、多層バッファー層mの結晶性を、更に向上させることが可能となる。
【0068】
[実施例10]
実施例4のサンプルでは、第二初期層に接して形成された層m0と第二初期層12の炭素濃度とは略等しく、1E+19cm-3であった。これに対して、実施例10のサンプルでは、製造条件の最適化により、第二初期層に接して形成された層m0の炭素濃度を9E+18cm-3として、第二初期層12の炭素濃度1E+19cm-3より低くした。これ以外は実施例4と同様にサンプルを作製した。
【0069】
その結果、リーク電流については、実施例10は実施例4と同等であった。さらに追加評価として、実施例4と実施例10のサンプルの多層バッファー層mの結晶性を比較したところ、実施例10では、実施例4よりも10%ほど半値幅が低く、結晶性に優れたものであった。これは、不純物である炭素濃度を下げたことにより、第二初期層に接して形成された層m0の結晶性が相対的に高くなり、この上に積層される多層バッファー層mの結晶性も、同様に良化したことによるものと考えられる。
【符号の説明】
【0070】
W 窒化物半導体基板
S 下地基板
B バッファー層
11 第一初期層
12 第二初期層
m 多層バッファー層
m0 多層バッファー層のうち、第二初期層に接して形成された層
G 動作層
101 電子走行層
102 電子供給層