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特許7179717水性製剤及び注射器入り水性製剤、並びに、抗体タンパク脱凝集剤及び抗体タンパク脱凝集方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-18
(45)【発行日】2022-11-29
(54)【発明の名称】水性製剤及び注射器入り水性製剤、並びに、抗体タンパク脱凝集剤及び抗体タンパク脱凝集方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 39/395 20060101AFI20221121BHJP
   A61P 17/06 20060101ALI20221121BHJP
   A61P 19/02 20060101ALI20221121BHJP
   A61P 37/02 20060101ALI20221121BHJP
   A61K 9/08 20060101ALI20221121BHJP
   A61K 47/18 20060101ALI20221121BHJP
   A61K 47/26 20060101ALI20221121BHJP
【FI】
A61K39/395 U
A61P17/06
A61P19/02
A61P37/02
A61K9/08
A61K47/18
A61K47/26
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2019510230
(86)(22)【出願日】2018-03-30
(86)【国際出願番号】 JP2018013559
(87)【国際公開番号】W WO2018181876
(87)【国際公開日】2018-10-04
【審査請求日】2021-03-02
(31)【優先権主張番号】P 2017070844
(32)【優先日】2017-03-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006091
【氏名又は名称】Meiji Seikaファルマ株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】514254629
【氏名又は名称】ドン ア ソシオホールディングス シーオー.,エルティディー.
(74)【代理人】
【識別番号】110001047
【氏名又は名称】弁理士法人セントクレスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】嘉屋 アーパンシリー
(72)【発明者】
【氏名】藤田 充成
【審査官】佐々木 大輔
(56)【参考文献】
【文献】特表2005-508981(JP,A)
【文献】特表2013-544763(JP,A)
【文献】特表2016-505572(JP,A)
【文献】特表2012-510468(JP,A)
【文献】国際公開第2012/048134(WO,A2)
【文献】J. Physical Chemistry B, 2016, Vol.120, pp.7062-7075
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 39/00-39/44
A61K 9/00- 9/72
A61K 47/00-47/69
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ウステキヌマブと、ヒスチジン及びその塩から選択される少なくとも1種と、スクロースと、ポリソルベートと、水と、を含有しており、
ヒスチジン及び/又はその塩の含有量がヒスチジン換算で60~80mMであり、
スクロースの含有量が40~55mg/mLであり、
ポリソルベートの含有量が0.04mg/mLである、
水性製剤。
【請求項2】
メチオニンを更に含有しており、メチオニンの含有量が10~50mMである請求項1に記載の水性製剤。
【請求項3】
ウステキヌマブの含有量が80~100mg/mLである請求項1又は2に記載の水性製剤。
【請求項4】
pHが5.7~6.3である請求項1~のうちのいずれか一項に記載の水性製剤。
【請求項5】
ウステキヌマブ及びヒスチジン緩衝液を配合してなる請求項1~のうちのいずれか一項に記載の水性製剤。
【請求項6】
注射器と、前記注射器内に充填された請求項1~のうちの少なくともいずれかに記載の水性製剤と、を備える注射器入り水性製剤。
【請求項7】
凝集ウステキヌマブを脱凝集せしめるための抗体タンパク脱凝集剤であり、
ヒスチジン及びその塩から選択される少なくとも1種と、スクロースと、ポリソルベートと、水とを含有しており、
ヒスチジン及び/又はその塩の含有量がヒスチジン換算で60~80mMであり、
スクロースの含有量が40~55mg/mLであり、
ポリソルベートの含有量が0.04mg/mLである、
抗体タンパク脱凝集剤。
【請求項8】
メチオニンを更に含有しており、メチオニンの含有量が5~50mMである請求項に記載の抗体タンパク脱凝集剤。
【請求項9】
pHが5.7~6.3である請求項7又は8に記載の抗体タンパク脱凝集剤。
【請求項10】
凝集ウステキヌマブを脱凝集せしめるための抗体タンパク脱凝集方法であり、
凝集ウステキヌマブに請求項のうちのいずれか一項に記載の抗体タンパク脱凝集剤を添加する工程を含む、
抗体タンパク脱凝集方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水性製剤及び注射器入り水性製剤、並びに、抗体タンパク脱凝集剤及びそれを用いた抗体タンパク脱凝集方法に関し、より詳しくは、ウステキヌマブ含有水性製剤及びそれを含む注射器入り水性製剤、凝集ウステキヌマブを脱凝集せしめる抗体タンパク脱凝集剤及び抗体タンパク脱凝集方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ウステキヌマブ(Ustekinumab)は、ヒト型抗ヒトIL-12/23p40モノクローナル抗体、すなわち、ヒトIL-12(インターロイキン-12)及びIL-23(インターロイキン-23)の共通構成タンパクであるp40サブユニットに対するヒトIgG1モノクローナル抗体の一般名である。ヒトIL-12はCD4陽性ナイーブT細胞のヘルパーT細胞1(Th1)への分化に関与し、IL-23はヘルパーT細胞17(Th17)の活性化を促すとされている。かかるヒトIL-12及びIL-23のp40サブユニット(IL-12/23p40)に対して高い親和性及び選択性を有するウステキヌマブは、ポリペプチド(抗体タンパク)薬として、尋常性乾癬や関節症性乾癬等の自己免疫疾患の治療に用いられており、一般に、注射剤によって投与されている。ウステキヌマブは、例えば、国際公開第2009/114040号(特許文献1)に記載されているチャイニーズハムスター卵巣細胞や、マウスミエローマ(Sp2/0)細胞などの哺乳動物細胞発現系において遺伝子組み換え技術によって生産される。また、例えば、ウステキヌマブを含有する水性製剤(注射剤)が、「ステラーラ(登録商標)」としてヤンセンファーマ株式会社において製造販売されている。
【0003】
他方、ウステキヌマブのような抗体タンパクを含有する水性製剤は、該抗体タンパクの複雑な構造に起因して、製造過程や保存中に化学的変化や凝集等の物理的変化を起こしやすい。このような製剤の不安定性は、抗体タンパクの薬理作用を低下させるだけではなく、患者に対する安全性に大きな影響を与えるため、抗体タンパク含有水性製剤では、特に優れた安定性が求められている。
【0004】
抗体タンパク含有水性製剤の安定化のためには、例えば、糖類、アミノ酸類、水溶性高分子、界面活性剤、及び緩衝剤といった添加剤の添加や、剤型、pH、各成分の濃度といった様々な条件の検討がなされている。例えば、特表2016-65079号公報(特許文献2)には、抗体、アルギニン40~1000mM、及びメチオニン10~200mMを緩衝液中に含有する抗体含有溶液製剤が記載されており、特開2016-117756号公報(特許文献3)には、塩基性アミノ酸-アスパラギン酸塩或いは塩基性アミノ酸-グルタミン酸塩を含有する抗体含有製剤が記載されている。また、特開2016-65091号公報(特許文献4)には、ヒスチジン-酢酸緩衝液(pH5.5~6.5)中にモノクローナル抗体を含む薬学的製剤が記載されており、特表2007-524602号公報(特許文献5)には、100~260mg/mlのタンパク質又は抗体、50~200mMのアルギニン-HCl、10~100mMのヒスチジン、0.01~0.1%のポリソルベートを含む液体製剤が記載されている。しかしながら、これらの特許文献2~5には、ウステキヌマブについて何ら記載されていない。
【0005】
また、抗体タンパクについては、凝集した抗体タンパクの可溶化方法や再生方法の検討もなされており、例えば、特表平11-514334号公報(特許文献6)には、変性されたTFPI(組織因子経路阻害剤)に荷電ポリマー溶液を添加してTFPIを再生する方法が記載されており、特開平10-522270号公報(特許文献7)には、pH及び抗体の結合定数を選定して変性タンパク質をリフォールディングする方法が記載されている。しかしながら、これらの特許文献6~7にも、ウステキヌマブについては何ら記載されていない。また、これらの文献に記載されている方法はいずれも、抗体タンパクの遺伝子工学的生産過程における不適切な折りたたみによって形成された凝集体を可溶化及び/又は再生させるための方法であって、特許文献6~7には、水性製剤の製造過程や保存中に熱などのストレスによって凝集した抗体タンパクを脱凝集せしめる方法は何ら記載されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】国際公開第2009/114040号
【文献】特表2016-65079号公報
【文献】特開2016-117756号公報
【文献】特開2016-65091号公報
【文献】特表2007-524602号公報
【文献】特表平11-514334号公報
【文献】特開平10-522270号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は上記課題に鑑みてなされたものであり、安定性に優れたウステキヌマブ含有水性製剤及びそれを含む注射器入り水性製剤、並びに、凝集ウステキヌマブを脱凝集せしめることが可能な抗体タンパク脱凝集剤及び抗体タンパク脱凝集方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、ウステキヌマブに高濃度のヒスチジン緩衝液を配合して、ウステキヌマブと、ヒスチジン及びその塩から選択される少なくとも1種と、水と、を組み合わせたウステキヌマブ含有水性製剤とすることによって、ウステキヌマブの凝集体(凝集ウステキヌマブ)の生成が十分に抑制されることを見出した。さらに本発明者らは、驚くべきことに、遺伝子工学的に生産した後に熱などのストレスによって凝集した凝集ウステキヌマブに前記高濃度のヒスチジン緩衝液を配合することにより、該凝集ウステキヌマブが脱凝集されて、凝集ウステキヌマブの生成が十分に抑制された上記のウステキヌマブ含有水性製剤を得られることも見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
かかる知見により得られた本発明の態様は次のとおりである。
(1)ウステキヌマブと、ヒスチジン及びその塩から選択される少なくとも1種と、水と、を含有しており、ヒスチジン及び/又はその塩の含有量がヒスチジン換算で50~90mMである、水性製剤。
(2)メチオニンを更に含有しており、メチオニンの含有量が10~50mMである(1)に記載の水性製剤。
(3)ウステキヌマブの含有量が80~100mg/mLである(1)又は(2)に記載の水性製剤。
(4)スクロースを更に含有する(1)~(3)のうちのいずれか一項に記載の水性製剤。
(5)pHが5.7~6.3である(1)~(4)のうちのいずれか一項に記載の水性製剤。
(6)ウステキヌマブ及びヒスチジン緩衝液を配合してなる(1)~(5)のうちのいずれか一項に記載の水性製剤。
(7)注射器と、前記注射器内に充填された(1)~(6)のうちの少なくともいずれかに記載の水性製剤と、を備える注射器入り水性製剤。
(8)凝集ウステキヌマブを脱凝集せしめる抗体タンパク脱凝集剤であり、ヒスチジン及びその塩から選択される少なくとも1種と水とを含有しており、ヒスチジン及び/又はその塩の含有量がヒスチジン換算で50~90mMである、抗体タンパク脱凝集剤。
(9)メチオニンを更に含有しており、メチオニンの含有量が5~50mMである(8)に記載の抗体タンパク脱凝集剤。
(10)スクロースを更に含有する(8)又は(9)に記載の抗体タンパク脱凝集剤。
(11)pHが5.7~6.3である(8)~(10)のうちのいずれか一項に記載の抗体タンパク脱凝集剤。
(12)凝集ウステキヌマブを脱凝集せしめる抗体タンパク脱凝集方法であり、凝集ウステキヌマブに(8)~(11)のうちのいずれか一項に記載の抗体タンパク脱凝集剤を添加する工程を含む、抗体タンパク脱凝集方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、安定性に優れたウステキヌマブ含有水性製剤及びそれを含む注射器入り水性製剤、並びに、凝集ウステキヌマブを脱凝集せしめることが可能な抗体タンパク脱凝集剤及び抗体タンパク脱凝集方法を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】実施例1及び比較例1~9で得られた水性製剤をそれぞれ40℃で2週間保存した後の相対凝集体量を示すグラフである。
図2】比較例10~11で得られた水性製剤をそれぞれ40℃で2週間保存した後の相対凝集体量を示すグラフである。
図3】実施例1~3及び比較例2、12~14で得られた水性製剤をそれぞれ40℃で2週間保存した後の%凝集体を示すグラフである。
図4】実施例1~3で得られた水性製剤における、40℃で2週間保存した後の%凝集体とメチオニン濃度との関係を示すグラフである。
図5】実施例4~5及び比較例1で得られた水性製剤における、%凝集体と40℃における保存期間との関係を示すグラフである。
図6】実施例6~9及び比較例15で得られた水性製剤における、%凝集体と40℃における保存期間との関係を示すグラフである。
図7】実施例6~9及び比較例15で得られた水性製剤における、%単量体と40℃における保存期間との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明をその好適な実施形態に即して詳細に説明する。
【0013】
本発明の水性製剤は、ウステキヌマブと、ヒスチジン及びその塩から選択される少なくとも1種と、水と、を含有しており、ヒスチジン及び/又はその塩の含有量がヒスチジン換算で50~90mMである、ものである。
【0014】
また、本発明の抗体タンパク脱凝集剤は、凝集ウステキヌマブを脱凝集せしめる抗体タンパク脱凝集剤であり、ヒスチジン及びその塩から選択される少なくとも1種と水とを含有しており、ヒスチジン及び/又はその塩の含有量がヒスチジン換算で50~90mMである、ものである。
【0015】
さらに、本発明の抗体タンパク脱凝集方法は、凝集ウステキヌマブに前記抗体タンパク脱凝集剤を添加する工程を含む、ものである。
【0016】
本発明において「水性製剤」とは、治療を要する患者に投与するのに適するように調製された製剤(医薬製剤)のうち、水を溶媒として含有する製剤を指す。前記水としては、薬学的に許容される水であれば特に制限されない。本発明の水性製剤としては、注射剤又は輸液剤であることが好ましい。また、本発明において「ウステキヌマブ含有水性製剤」とは、前記水性製剤のうち、少なくとも水とウステキヌマブとを含有する製剤を指す。
【0017】
本発明において、「抗体」としては、所望の抗原と結合する限り特に制限はなく、ポリクローナル抗体であってもモノクローナル抗体であってもよいが、均質性や安定性の観点からはモノクローナル抗体が好ましい。また、本発明において「抗体タンパク」とは、抗体として機能するタンパクを指し、前記抗体全体の他、抗体断片及び抗体の可変領域を結合させた低分子化抗体も含まれる。
【0018】
本発明において、前記抗体タンパクには、ウステキヌマブが包含される。本発明において「ウステキヌマブ」とは、ヒトIL-12(インターロイキン-12)及びIL-23(インターロイキン-23)の共通構成タンパクであるp40サブユニットに対するヒトIgG1モノクローナル抗体(ヒト型抗ヒトIL-12/23p40モノクローナル抗体)の一般名であり、その活性本体である単量体は、449個のアミノ酸残基からなるH鎖(γ1鎖)2分子と214個のアミノ酸残基からなるL鎖(κ鎖)2分子とからなり、約148~149.7kDaの分子量を有している。ウステキヌマブは従来公知であり、注射剤として市販されている「ステラーラ(登録商標)」の有効成分としても知られている。本発明において、「ウステキヌマブ」には、「ステラーラ(登録商標)」の有効成分であるヒト型抗ヒトIL-12/23p40モノクローナル抗体と医薬的に同等のタンパク、並びに、「ステラーラ(登録商標)」のバイオシミラーの有効成分及びこれと医薬的に同等のタンパクを包含する。
【0019】
ウステキヌマブは、従来公知の方法を適宜採用、改良することによって生産することができ、例えば、国際公開第2009/114040号(特許文献1)に記載の方法にしたがって、チャイニーズハムスター卵巣細胞などの哺乳動物細胞発現系において遺伝子組み換え技術によって生産することができる。
【0020】
また、本発明に係る「ウステキヌマブ」には、特に断りがない限り、凝集していないウステキヌマブ及び凝集ウステキヌマブのいずれも包含される。本発明において、「凝集していないウステキヌマブ」とは、二つの重鎖分子と二つの軽鎖分子とからなる抗体分子を示し、単量体(Monomer)として記載される。また、本発明において、「凝集ウステキヌマブ」とは、ウステキヌマブの凝集体を示し、例えば、前記遺伝子組み換え技術によって生産されたウステキヌマブ(凝集していないウステキヌマブ)が、不適切な環境、例えば、高温、低温、加圧、酸・塩基等に曝されたこと、例えば温度25~40℃の環境に曝されたこと、によって変性されて凝集し、二量体又は三量体となったウステキヌマブが挙げられる。
【0021】
さらに、本発明において、「抗体タンパク脱凝集剤」及び「抗体タンパク脱凝集方法」とは、それぞれ、凝集した抗体タンパクを脱凝集させる機能を有し、その目的で使用される剤、及び凝集した抗体タンパクを脱凝集させることが可能な方法を示し、「脱凝集」とは、前記不適切な環境に曝されたことによって変性されて凝集し、二量体又は三量体となった抗体タンパク(本発明においては前記凝集ウステキヌマブ)が解離し、凝集していない状態(本発明においては前記の凝集していないウステキヌマブ)に戻ることを示す。なお、本発明において、凝集していないウステキヌマブと凝集ウステキヌマブとは、サイズ排除クロマトグラフィー(SEC)によって区別することができる。水性製剤においては、安全性の観点から、前記ウステキヌマブとしては凝集していないウステキヌマブであることが好ましいが、本発明の水性製剤においては、凝集していないウステキヌマブの凝集を抑制し、かつ、凝集ウステキヌマブを脱凝集せしめることができるため、全ウステキヌマブ中の凝集ウステキヌマブの含有量を十分に少なく(好ましくは1.0質量%未満)することが可能となる。
【0022】
本発明の水性製剤中において、ウステキヌマブの含有量(凝集していないウステキヌマブの含有量又は凝集ウステキヌマブの含有量、或いは、これらがいずれも含有される場合にはそれらの合計含有量、以下同じ)としては、80~100mg/mLであることが好ましい。本発明においては、このように水性製剤中のウステキヌマブの濃度が高くとも凝集体の生成が十分に抑制される。前記ウステキヌマブの含有量としては、80mg/mL、90mg/mL、100g/mLが挙げられ、90mg/mLが特に好ましい。
【0023】
また、本発明の抗体タンパク脱凝集剤及び抗体タンパク脱凝集方法においては、得られる水性製剤におけるウステキヌマブの含有量が前記範囲内となるように前記抗体タンパク脱凝集剤が凝集ウステキヌマブに添加されることがより好ましい。
【0024】
本発明の水性製剤及び抗体タンパク脱凝集剤は、ヒスチジン及びその塩からなる群から選択される少なくとも1種を含有する。ヒスチジンとしては、D体、L体、DL体が挙げられ、これらの中でもL体であることが好ましい。また、前記ヒスチジンの塩(ヒスチジン塩)としては、薬学的に許容される塩であることが好ましく、例えば、ヒスチジン塩酸塩及びその水和物が挙げられる。
【0025】
本発明の水性製剤及び抗体タンパク脱凝集剤中において、ヒスチジン及び/又はその塩の含有量(ヒスチジンの含有量又はヒスチジン塩の含有量、或いは、ヒスチジン及びその塩がいずれも含有される場合にはそれらの合計含有量、以下同じ)としては、ヒスチジン換算で、50~90mMであることが必要である。本発明者らは、このように高濃度のヒスチジン及び/又はその塩とウステキヌマブとを組み合わせることにより、該ウステキヌマブの凝集が特に抑制され、更には、ウステキヌマブが凝集ウステキヌマブである場合にはそれが脱凝集されることを見出した。
【0026】
前記ヒスチジン及び/又はその塩の含有量としては、60~80mMであることがより好ましく、60~70mMであることが更に好ましい。また、本発明の水性製剤及び抗体タンパク脱凝集剤が下記のメチオニンを更に含有する場合にも、前記ヒスチジン及び/又はその塩の含有量としては、60~80mMであることがより好ましく、60~70mMであることが更に好ましい。前記ヒスチジン及び/又はその塩の含有量が前記下限未満であると、凝集していないウステキヌマブの凝集を抑制する効果(以下、場合により単に「凝集抑制効果」という)及び凝集ウステキヌマブを脱凝集せしめる効果(以下、場合により単に「脱凝集効果」という)が低下する傾向にあり、他方、前記上限を超えると、ヒスチジンの酸化による着色や浸透圧の上昇などが生じ、医薬製剤としての適正が低下する傾向にある。
【0027】
また、本発明の抗体タンパク脱凝集剤及び抗体タンパク脱凝集方法においては、得られる水性製剤におけるヒスチジン及び/又はその塩の含有量が前記範囲内となるように前記抗体タンパク脱凝集剤が凝集ウステキヌマブに添加されることがより好ましい。
【0028】
さらに、本発明の水性製剤及び抗体タンパク脱凝集剤としては、凝集抑制効果及び脱凝集効果がいっそう向上する観点から、メチオニンを更に含有することが好ましい。メチオニンとしては、D体、L体、DL体が挙げられ、これらの中でもL体であることが好ましい。
【0029】
本発明の水性製剤及び抗体タンパク脱凝集剤中において、メチオニンの含有量としては、5~50mMであることが好ましく、20~30mMであることがより好ましく、25mMであることが更に好ましい。前記メチオニンの含有量が前記下限未満であると凝集抑制効果及び脱凝集効果の更なる向上が期待できなくなる傾向にあり、他方、前記上限を超えると、浸透圧の上昇などが生じて医薬製剤としての適正が低下する傾向にある。
【0030】
また、本発明の抗体タンパク脱凝集剤及び抗体タンパク脱凝集方法においては、得られる水性製剤におけるメチオニンの含有量が前記範囲内となるように前記抗体タンパク脱凝集剤が凝集ウステキヌマブに添加されることがより好ましい。
【0031】
本発明の水性製剤及び抗体タンパク脱凝集剤のpHとしては、5.5~6.5であることが好ましく、5.7~6.3であることがより好ましく、6.0であることが更に好ましい。pHが前記範囲内にあることにより、より優れた凝集抑制効果及び脱凝集効果が奏される傾向にある。他方、pHが前記下限未満であると注射時の疼痛などが生じ易くなる傾向にあり、前記上限を超えると凝集抑制効果及び脱凝集効果が低下する傾向にある。
【0032】
また、本発明の抗体タンパク脱凝集剤及び抗体タンパク脱凝集方法においては、得られる水性製剤のpHが前記範囲内となるように前記抗体タンパク脱凝集剤が凝集ウステキヌマブに添加されることがより好ましい。
【0033】
本発明の水性製剤及び抗体タンパク脱凝集剤としては、ウステキヌマブと、ヒスチジン及びその塩から選択される少なくとも1種と、水と、必要に応じてメチオニンと、を配合してなる剤であってもよいが、より優れた凝集抑制効果及び脱凝集効果が奏される傾向にある観点から、ウステキヌマブ、ヒスチジン緩衝液、及び必要に応じてメチオニンを配合してなる剤であることが好ましい。すなわち、前記ヒスチジン及びその塩が前記ヒスチジン緩衝液に由来するものであることが好ましい。
【0034】
本発明において「緩衝液」とは、その酸塩基共役成分の作用により溶液のpHを許容される範囲内に維持することが可能な溶液である。本発明において「ヒスチジン緩衝液」とは、ヒスチジン及びその塩からなる群から選択される少なくとも2種(ヒスチジン塩を2種も含む)と水とを配合してなる緩衝液である。前記ヒスチジン及びその塩としては、上述のとおりである。前記ヒスチジン緩衝液のpHとしては、それぞれ、本発明の水性製剤及び脱凝集剤のpHが上記の好ましい範囲内となるpHであることが好ましい。
【0035】
本発明の水性製剤及び抗体タンパク脱凝集剤としては、本発明の効果を阻害しない範囲内において、ヒスチジン及びその塩、並びに、メチオニン以外のpHの緩衝機能を有する化合物(以下、場合により「他の緩衝剤」という)を更に含有していてもよい。
【0036】
前記他の緩衝剤としては、リン酸、リン酸ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸カリウム、リン酸二水素カリウム、リン酸水素二カリウム、酢酸、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、酢酸アンモニウム、コハク酸、コハク酸ナトリウム、クエン酸、クエン酸ナトリウム、クエン酸カリウム、マレイン酸、酒石酸、酒石酸ナトリウム、乳酸、乳酸ナトリウム、リンゴ酸、ホウ酸、アスコルビン酸、グルタミン酸、グルタミン酸ナトリウム、アルギニン、アルギニン塩酸塩、トリス-(ヒドロキシメチル)-アミノメタン(トリス)、及びジエタノールアミン等が挙げられ、これらのうちの1種を単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。また、これらは緩衝液(リン酸緩衝液、酢酸緩衝液、コハク酸緩衝液、クエン酸緩衝液、アルギニン緩衝液、及びその他有機酸緩衝液など)として配合されたものであってもよい。
【0037】
また、本発明の水性製剤及び抗体タンパク脱凝集剤としては、本発明の効果を阻害しない範囲内において、等張化剤、賦形剤等の添加剤を更に含有していてもよい。これらの中でも、本発明の水性製剤及び抗体タンパク脱凝集剤としては、前記等張化剤を更に含有することが好ましい。
【0038】
本発明において「等張化剤」とは、浸透圧を製剤として許容される範囲内に調整する機能を有する化合物であり、例えば、塩化ナトリウム、塩化カリウム、ソルビトール、マンニトール、スクロース、キシリトール、トレハロース、グルコース、グリシン、プロリン、及びシステインが挙げられ、これらのうちの1種を単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらの中でも、前記等張化剤としては、より優れた凝集抑制効果及び脱凝集効果が奏される傾向にあるという観点から、スクロースが特に好ましい。
【0039】
本発明において「賦形剤(excipient)」としては、例えば、ラクトース、グリセロール、マルトース、イノシトール、牛血清アルブミン(BSA)、デキストラン、ポリビニルアルコール(PVA)、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)、ポリエチレンイミン、ゼラチン、ポリビニルピロリドン(PVP)、ヒドロキシエチルセルロース(HEC)、ポリエチレングリコール、エチレングリコール、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ジメチルホルムアミド(DMF)、L-セリングルタミン酸ナトリウム、グルタミン酸カリウム、アラニン、リシン塩酸塩、サルコシン、γ-アミノ酪酸、ポリソルベート20、ポリソルベート80、SDS、ポリオキシエチレンコポリマー、酢酸ナトリウム、硫酸アンモニウム、硫酸マグネシウム、硫酸ナトリウム、トリメチルアミンN-オキシド、ベタイン、亜鉛イオン、銅イオン、カルシウムイオン、マンガンイオン、マグネシウムイオン、CHAPS、スクロースモノラウレート、及び2-O-β-マンノグリセレートが挙げられ、これらのうちの1種を単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらの中でも、前記賦形剤としては、空気と液面との界面で生じるストレスからウステキヌマブを保護してその凝集を更に抑制できる傾向にあるという観点から、界面活性剤としての機能を有するものであることが好ましく、ポリソルベート20及びポリソルベート80等のポリソルベートであることがより好ましい。
【0040】
なお、例えば、前記他の緩衝剤のうち、アルギニン、クエン酸ナトリウム等は前記等張化剤としても機能し得るし、前記等張化剤のうち、ソルビトール、マンニトール、スクロース、キシリトール、トレハロース、グルコース、プロリン等は前記賦形剤としても機能し得る。
【0041】
そのため、本発明の水性製剤及び抗体タンパク脱凝集剤が更に前記他の緩衝剤、前記等張化剤、前記賦形剤を含有する場合、これらの含有量はその種類に応じて、本発明の効果を阻害しない範囲内において適宜調整することができるが、これらの含有量としては、合計で、本発明の水性製剤(前記抗体タンパク脱凝集剤を凝集ウステキヌマブに添加して得られる水性製剤を含む)の生理食塩水に対する浸透圧比が、0.8~1.2となる量であることが好ましく、1.0となる量であることが特に好ましい。
【0042】
例えば、本発明の水性製剤及び抗体タンパク脱凝集剤が更にスクロースを含有する場合、該水性製剤及び抗体タンパク脱凝集剤中におけるその含有量としては、20~75mg/mLであることが好ましく、40~55mg/mLであることがより好ましく、44.7~51.8mg/mLであることが更に好ましい。前記スクロースの含有量が前記範囲内にあることにより、より優れた凝集抑制効果及び脱凝集効果が奏される傾向にある。他方、前記スクロースの含有量が前記下限未満であると水性製剤の安定性が低下する傾向にあり、前記上限を超えると水性製剤の浸透圧が高くなり過ぎる傾向にある。
【0043】
また例えば、本発明の水性製剤及び抗体タンパク脱凝集剤が更に前記ポリソルベートを含有する場合、該水性製剤及び抗体タンパク脱凝集剤中におけるその含有量(混合物の場合には合計含有量)としては、0.01~1mg/mLであることが好ましく、0.01~0.1mg/mLであることがより好ましく、0.04mg/mLであることが更に好ましい。前記ポリソルベートの含有量が前記範囲内にあることにより、より優れた凝集抑制効果及び脱凝集効果が奏される傾向にあり、他方、前記範囲を外れるとウステキヌマブの安定性が低下する傾向にある。
【0044】
なお、本発明の抗体タンパク脱凝集剤及び抗体タンパク脱凝集方法においては、得られる水性製剤における前記スクロースやポリソルベートの含有量が前記範囲内となるように前記抗体タンパク脱凝集剤が凝集ウステキヌマブに添加されることがより好ましい。
【0045】
本発明の水性製剤及び抗体タンパク脱凝集剤の製造方法としては、特に制限されないが、前記水性製剤ではウステキヌマブ、前記ヒスチジン緩衝液、及び必要に応じてメチオニンを、前記抗体タンパク脱凝集剤では前記ヒスチジン緩衝液、及び必要に応じてメチオニンを、それぞれ前記濃度となるように配合することによって、本発明の水性製剤及び抗体タンパク脱凝集剤を得ることが好ましい。
【0046】
本発明の水性製剤としては、注射剤又は輸液剤として用いられることが好ましく、予備充填滅菌注射器等の注射器内や輸液パック内に保存されていることが好ましい。本発明の注射器入り水性製剤としては、注射器と、前記注射器内に充填された前記水性製剤とを備えることが好ましい。
【0047】
また、本発明の水性製剤としては、前記水性製剤の仕様説明書と共にキット製剤とすることもできる。本発明のキット製剤としては、前記水性製剤及び前記注射器入り水性製剤のうちの少なくとも1つと、前記水性製剤の仕様説明書と、を含むことが好ましい。
【0048】
本発明の抗体タンパク脱凝集方法としては、特に制限されないが、凝集ウステキヌマブに、前記抗体タンパク脱凝集剤を、前記凝集ウステキヌマブ、前記ヒスチジン及び/又はその塩、並びに、必要に応じてメチオニンの濃度がそれぞれ前記濃度となるように添加することが好ましい。また、凝集ウステキヌマブに、前記ヒスチジン緩衝液、及び必要に応じてメチオニンを、これらの濃度がそれぞれ前記濃度となるように添加してもよい。本発明の抗体タンパク脱凝集剤及び本発明の抗体タンパク脱凝集方法によれば、前記凝集ウステキヌマブを十分に脱凝集せしめることができる。そのため、前記抗体タンパク脱凝集剤又は前記ヒスチジン緩衝液を前記凝集ウステキヌマブに添加して得られた組成物(水性製剤)は、そのまま本発明の水性製剤とすることができる。
【実施例
【0049】
以下、実施例及び比較例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。なお、各実施例及び比較例で得られた水性製剤について、保存安定性評価試験は以下に示す方法により行った。
【0050】
<保存安定性評価試験>
各実施例及び比較例で得られた水性製剤について、それぞれ、製造直後、並びに、40℃で2週間、1ヶ月間、及び2ヶ月間保存した後、サイズ排除クロマトグラフィー(SEC、カラム:TSKgel G3000SWXL 7.8×300mm、東ソー株式会社製、カラム温度:25℃、溶離液:20mM NaHPO+150mM NaCl(pH7.3)、流量:0.5ml/分))を用いて、各水性製剤中の%凝集体(全タンパク質量に占める凝集体質量の割合[%Aggregate])及び%単量体(全タンパク質量に占める単量体質量の割合[%Monomer])を測定した。なお、%凝集体の値が小さい程、或いは、%単量体の値が大きい程、その水性製剤は保存安定性に優れたものと評価できる。
【0051】
(実施例1)
先ず、ヒスチジン及びヒスチジン塩酸塩・1水和物からヒスチジン緩衝液(pH6.0)を調製した。次いで、ウステキヌマブと前記ヒスチジン緩衝液とを、ウステキヌマブ:90mg/mL、ヒスチジン及び/又はその塩(ヒスチジン換算):50mMの組成となるように配合し、500μLの水性製剤を得た。ウステキヌマブとしては、国際公開第2009/114040号に記載の方法でチャイニーズハムスター卵巣細胞安定発現株を用いて発現させたウステキヌマブを、ProteinAクロマトグラフィー等のクロマトグラフィーによって精製した試料を用いた(以下同じ)。
【0052】
(比較例1)
先ず、実施例1と同様にしてヒスチジン緩衝液(pH6.0)を調製した。次いで、ステラーラ(登録商標)と同様の組成となるように水性製剤を調製した。すなわち、ウステキヌマブと、前記ヒスチジン緩衝液と、ポリソルベート80と、スクロースとを、ウステキヌマブ:90mg/mL、ヒスチジン及び/又はその塩(ヒスチジン換算):6.4mM(1mg/ml)、ポリソルベート80:0.04mg/mL、スクロース:76mg/mLの組成となるように配合し、500μLの水性製剤を得た。
【0053】
(比較例2)
先ず、実施例1と同様にしてヒスチジン緩衝液(pH6.0)を調製した。次いで、ウステキヌマブと前記ヒスチジン緩衝液とを、ウステキヌマブ:90mg/mL、ヒスチジン及び/又はその塩(ヒスチジン換算):6.4mMの組成となるように配合し、500μLの水性製剤を得た。
【0054】
(比較例3~9)
各種アミノ酸を更に配合したこと以外は比較例2と同様にして、各水性製剤(ウステキヌマブ:90mg/mL+ヒスチジン及び/又はその塩(ヒスチジン換算):6.4mM+各種アミノ酸)をそれぞれ得た。各種アミノ酸としては、比較例3:L-グルタミン酸ナトリウム塩(50mM)、比較例4:L-リジン塩酸塩(50mM)、比較例5:L-プロリン(50mM)、比較例6:L-ロイシン(30mM(製剤調製時の溶解限界濃度))、比較例7:L-トリプトファン(10mM(製剤調製時の溶解限界濃度))、比較例8:グリシン(50mM)、及び比較例9:L-セリン(50mM)を、それぞれ括弧内の濃度となるように用いた。
【0055】
実施例1及び比較例1~9で得られた各水性製剤について、それぞれ保存安定性評価試験を行い、次式:
相対凝集体量=(各水性製剤を40℃で2週間保存した後の%凝集体)/(比較例2の水性製剤を40℃で2週間保存した後の%凝集体)
により、各水性製剤をそれぞれ40℃で2週間保存した後の相対凝集体量、すなわち、比較例2で得られた水性製剤の%凝集体に対する各水性製剤の%凝集体の相対量[Relative Aggregate Amount]を求めた。各水性製剤をそれぞれ40℃で2週間保存した後の相対凝集体量を示すグラフを図1に示す。図1に示す結果から明らかなように、ウステキヌマブ含有水性製剤に高濃度のヒスチジン及び/又はその塩が添加された本発明の水性製剤(実施例1)においては、凝集体(凝集ウステキヌマブ)の生成が顕著に抑制されることが確認された。
【0056】
(比較例10~11)
各種等張化剤を更に配合したこと以外は比較例2と同様にして、各水性製剤(ウステキヌマブ:90mg/mL+ヒスチジン及び/又はその塩(ヒスチジン換算):6.4mM+各種等張化剤)をそれぞれ得た。各種等張化剤としては、比較例10:スクロース(76mg/mL)、比較例11:マンニトール(30mg/mL(製剤調製時の溶解限界濃度))を、それぞれ括弧内の濃度となるように用いた。
【0057】
比較例10~11で得られた各水性製剤について、それぞれ保存安定性評価試験を行い、実施例1及び比較例1~9と同様にして比較例2で得られた水性製剤の%凝集体に対する各水性製剤の%凝集体の相対量(相対凝集体量)を求めた。各水性製剤をそれぞれ40℃で2週間保存した後の相対凝集体量を示すグラフを図2に示す。図2に示す結果から、ウステキヌマブ含有水性製剤にスクロースを添加すると凝集体の生成が抑制されることが確認された。
【0058】
(実施例2~3、比較例12~14)
ヒスチジン及び/又はその塩の濃度を変更し、それぞれ下記の表1に示す組成となるようにしたこと以外は実施例1と同様にして各水性製剤を得た。また、実施例1~3については、更にL-メチオニンを添加し、その濃度が10、25、50mMとなるようにした水性製剤もそれぞれ得た。下記の表1に得られた水性製剤の組成を示す。また、表1には、実施例1及び比較例2で得られた水性製剤の組成も併せて示す。なお、下記の表中、ヒスチジン[mM]は、ヒスチジン緩衝液により配合されたヒスチジン及び/又はその塩のヒスチジン換算での含有量を示す(以下同じ)。
【0059】
【表1】
【0060】
実施例1~3及び比較例2、12~14で得られた各水性製剤について、それぞれ保存安定性評価試験を行った。各水性製剤(メチオニン濃度:0mM)をそれぞれ40℃で2週間保存した後の%凝集体を示すグラフ、すなわち、40℃で2週間保存した後の%凝集体(%Aggregate)とヒスチジン濃度(His[mM])との関係を示すグラフを図3に示す。図3に示す結果から明らかなように、ヒスチジン及び/又はその塩の濃度(His[mM])が特定の範囲内にある本発明の水性製剤(実施例1~3)においては、凝集体の生成が顕著に抑制され、優れた安全性も期待できることが確認された。
【0061】
また、実施例1~3で得られた各水性製剤(メチオニン濃度:0、10、25、50mM)について、それぞれ40℃で2週間保存した後の%凝集体(%Aggregate)とメチオニン濃度(Met[mM])との関係を示すグラフを図4に示す。図4に示す結果から明らかなように、本発明の水性製剤(実施例1~3)においては、メチオニンを更に添加することにより、凝集体の生成が更に抑制されることが確認された。
【0062】
(実施例4~5)
先ず、実施例1と同様にしてヒスチジン緩衝液(pH6.0)を調製した。次いで、ウステキヌマブと、L-メチオニンと、前記ヒスチジン緩衝液と、ポリソルベート80と、スクロースとを、下記の表2に示す組成となるように配合し、500μLの水性製剤をそれぞれ得た。下記の表2に得られた水性製剤の組成を示す。また、表2には、比較例1で得られた水性製剤の組成も併せて示す。
【0063】
【表2】
【0064】
実施例4~5及び比較例1で得られた水性製剤について、それぞれ保存安定性評価試験を行った。各水性製剤の製造直後、並びに、40℃で2週間、1ヶ月間、及び2ヶ月間保存した後の%凝集体(%Aggregate)と、該保存期間(Storage Time[weeks])との関係を示すグラフを図5に示す。図5に示す結果から明らかなように、本発明の水性製剤(実施例4~5)においては、長期間保存しても凝集体の生成が十分に抑制されることが確認された。
【0065】
(実施例6~9、比較例15)
先ず、実施例1と同様にしてヒスチジン緩衝液(pH6.0)を調製した。また、実施例1と同様にして得られたウステキヌマブを37℃において24時間保存して凝集させ、凝集ウステキヌマブとした。次いで、凝集ウステキヌマブと、L-メチオニンと、前記ヒスチジン緩衝液と、ポリソルベート80と、スクロースとを、下記の表3に示す組成となるように配合し、500μLの水性製剤をそれぞれ得た。下記の表3に得られた水性製剤の組成を示す。
【0066】
【表3】
【0067】
実施例6~9及び比較例15で得られた水性製剤について、それぞれ保存安定性評価試験を行った。各水性製剤の製造直後、及び40℃で2週間保存した後の%凝集体(%Aggregate)と、該保存期間(Storage Time[weeks])との関係を示すグラフを図6に示す。また、各水性製剤の製造直後、及び40℃で2週間保存した後の%単量体(%Monomer)と、該保存期間(Storage Time[weeks])との関係を示すグラフを図7に示す。図6~7に示す結果から明らかなように、本発明の水性製剤(実施例6~9)においては、凝集ウステキヌマブが脱凝集されることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0068】
本発明によれば、安定性に優れたウステキヌマブ含有水性製剤及びそれを含む注射器入り水性製剤、並びに、凝集ウステキヌマブを脱凝集せしめることが可能な抗体タンパク脱凝集剤及び抗体タンパク脱凝集方法を提供することが可能となる。そのため、ウステキヌマブ含有水性製剤の安定性向上、薬理作用の低下抑制が期待され、さらに免疫原性の低減等、安全性の向上も期待される。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7