(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-18
(45)【発行日】2022-11-29
(54)【発明の名称】免震滑り支承装置
(51)【国際特許分類】
F16F 15/02 20060101AFI20221121BHJP
E04H 9/02 20060101ALI20221121BHJP
【FI】
F16F15/02 L
E04H9/02 331E
(21)【出願番号】P 2019527748
(86)(22)【出願日】2018-07-04
(86)【国際出願番号】 JP2018025393
(87)【国際公開番号】W WO2019009334
(87)【国際公開日】2019-01-10
【審査請求日】2021-06-16
(31)【優先権主張番号】P 2017131250
(32)【優先日】2017-07-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2018014501
(32)【優先日】2018-01-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000005278
【氏名又は名称】株式会社ブリヂストン
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】谷 佑馬
(72)【発明者】
【氏名】神田 智之
(72)【発明者】
【氏名】中村 昌弘
【審査官】後藤 健志
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-007185(JP,A)
【文献】特開2004-169715(JP,A)
【文献】特開2001-059544(JP,A)
【文献】特開2001-132757(JP,A)
【文献】特開2004-144135(JP,A)
【文献】特開2010-054050(JP,A)
【文献】実開平04-092965(JP,U)
【文献】特開2007-211405(JP,A)
【文献】特開2001-165236(JP,A)
【文献】国際公開第2017/126692(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16F 15/02
F16C 17/02
F16C 33/10
F16C 33/20
E04H 9/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下部構造体と前記下部構造体の上方に配置される上部構造体との間に介在し、前記上部構造体及び前記下部構造体の一方に固定される滑り支承本体と、
前記滑り支承本体に設けられ、前記上部構造体及び前記下部構造体の他方に対する滑り面を有する第1滑り部材と、
前記滑り支承本体と前記第1滑り部材との間に介在し、前記第1滑り部材を保持すると共に、前記第1滑り部材が変形した際にはその外縁部が前記上部構造体及び前記下部構造体の他方から離れる方向に変形することを許容する位置に溝である有底凹部が設けられた保持部材と、
を有
し、
前記有底凹部の幅は、前記保持部材の前記第1滑り部材側の表面に近づく程広がっている免震滑り支承装置。
【請求項2】
前記有底凹部の深さは、前記第1滑り部材の厚みより小さい請求項1に記載の免震滑り支承装置。
【請求項3】
前記有底凹部の深さは、前記有底凹部の幅より小さい請求項1又は請求項2に記載の免震滑り支承装置。
【請求項4】
前記有底凹部
を含め、前記第1滑り部材が前記上部構造体及び前記下部構造体の他方から離れる方向に変形することを許容する有底凹部が複数箇所形成され、かつ複数の前記有底凹部の深さは少なくとも一部が互いに異なっている請求項1~請求項
3の何れか1項に記載の免震滑り支承装置。
【請求項5】
前記有底凹部
を含め、前記第1滑り部材が前記上部構造体及び前記下部構造体の他方から離れる方向に変形することを許容する有底凹部が複数箇所形成され、かつ前記有底凹部の少なくとも一部は、互いを連通する溝を有する請求項1~請求項
4の何れか1項に記載の免震滑り支承装置。
【請求項6】
前記連通する溝の深さは、前記有底凹部よりも浅い請求項
5に記載の免震滑り支承装置。
【請求項7】
前記有底凹部を含め、前記第1滑り部材が前記上部構造体及び前記下部構造体の他方から離れる方向に変形することを許容する有底凹部が複数箇所形成され、前記有底凹部は、前記保持部材の内側よりも外側の方が密に配置されている請求項1~請求項
6の何れか1項に記載の免震滑り支承装置。
【請求項8】
前記有底凹部を含め、前記第1滑り部材が前記上部構造体及び前記下部構造体の他方から離れる方向に変形することを許容する有底凹部が複数箇所形成され、
前記保持部材は、中心部に前記有底凹部を有する請求項1~請求項
7の何れか1項に記載の免震滑り支承装置。
【請求項9】
前記有底凹部を含め、前記第1滑り部材が前記上部構造体及び前記下部構造体の他方から離れる方向に変形することを許容する有底凹部が複数箇所形成され、
前記有底凹部は、前記第1滑り部材における外縁部に対応する部位と、前記外縁部より内側に対応する部位にそれぞれ設けられている請求項1~請求項
8の何れか1項に記載の免震滑り支承装置。
【請求項10】
前記有底凹部を含め、前記第1滑り部材が前記上部構造体及び前記下部構造体の他方から離れる方向に変形することを許容する有底凹部が複数箇所形成され、
前記保持部材の前記有底凹部は、最外側のものが最も深さが浅いか、又は幅が狭い請求項1~請求項
9の何れか1項に記載の免震滑り支承装置。
【請求項11】
前記第1滑り部材における前記滑り面の一部に凹部が形成されている請求項1~請求項
10の何れか1項に記載の免震滑り支承装置。
【請求項12】
前記凹部は複数設けられ、前記第1滑り部材における前記滑り面の端部から中央に向かうにしたがって、前記凹部の深さが深くなり、又は幅が広くなる請求項
11に記載の免震滑り支承装置。
【請求項13】
前記凹部は3箇所以上設けられ、前記第1滑り部材における前記滑り面の中央から端部に向かうにしたがって、互いに隣接する前記凹部同士の間隔が狭くなる請求項
11に記載の免震滑り支承装置。
【請求項14】
少なくとも一部の前記凹部は、前記第1滑り部材を貫通している請求項
11~請求項
13の何れか1項に記載の免震滑り支承装置。
【請求項15】
前記第1滑り部材の前記滑り面から前記凹部の底部に向かうにしたがって、前記凹部の幅が狭くなっている請求項
11~請求項
14の何れか1項に記載の免震滑り支承装置。
【請求項16】
前記凹部が前記第1滑り部材の前記滑り面に開口する部位は、断面弧状に面取りされている請求項
11~請求項
15の何れか1項に記載の免震滑り支承装置。
【請求項17】
前記上部構造体及び前記下部構造体の他方には、前記第1滑り部材に対する滑り面を有する第2滑り部材が設けられ、
前記第1滑り部材と前記第2滑り部材との間には、潤滑剤が配置されている請求項1~請求項
16の何れか1項に記載の免震滑り支承装置。
【請求項18】
前記第1滑り部材は、芳香族ポリエステル又はポリイミドを含有する四フッ化エチレン樹脂組成物である請求項1~請求項
17の何れか1項に記載の免震滑り支承装置。
【請求項19】
前記第1滑り部材は、芳香族ポリエステルを5~30wt%含有する四フッ化エチレン樹脂組成物である請求項1~請求項
17の何れか1項に記載のされた免震滑り支承装置。
【請求項20】
前記第1滑り部材は、ポリイミドを5~30wt%含有する四フッ化エチレン樹脂組成物である請求項1~請求項
17の何れか1項に記載の免震滑り支承装置。
【請求項21】
前記第1滑り部材は、更に炭素繊維、グラファイト、グラスファイバー、二硫化モリブデン、チタン酸カリウム、ブロンズのうち1種類以上を含有する請求項
18~請求項
20の何れか1項に記載された免震滑り支承装置。
【請求項22】
前記第1滑り部材は、更に炭素繊維、グラファイト、グラスファイバー、二硫化モリブデン、チタン酸カリウム、ブロンズのうち1種類以上を、0を超え20wt%以下含有する請求項
18~請求項
20の何れか1項に記載された免震滑り支承装置。
【請求項23】
前記第1滑り部材が面圧20MPaのときの摩擦係数は、0.01以下である請求項
18~請求項
22の何れか1項に記載された免震滑り支承装置。
【請求項24】
前記第1滑り部材が面圧80MPaのときの圧縮歪量は、40%以下である請求項
18~請求項
22の何れか1項に記載された免震滑り支承装置。
【請求項25】
前記第1滑り部材の内、前記下部構造体と対向する側の面の一部に凹部が形成されている請求項1から請求項
24の何れか1項に記載された免震滑り支承装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、免震滑り支承装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特開2004-144135号公報(特許文献1)には、滑り免震装置に用いられる滑り部材において、多孔質構造をなす基体の滑り面に部分的に潤滑剤を含浸させ、滑り面全体における潤滑剤含浸部分の占める面積比率を調整することにより、滑り面の摩擦係数を制御するようにした技術が開示されている。
また、特開2002-98189号公報(特許文献2)には、平滑板の上を摺動するすべり材の下面に凹部を形成し、平滑板とすべり材の少なくとも一方を、多孔質シリカおよび潤滑剤を少なくとも配合した樹脂組成物で成形した技術が開示されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、上記した特許文献1に記載の従来例では、潤滑剤が部分的に含浸された滑り面が下部構造側にあり、また潤滑剤含浸部分での潤滑剤の容量が決まっている。
また、上記した特許文献2に記載の従来例では、すべり材自体の下面に凹部が形成されており、この凹部を設けるためには、専用の金型を使用したり、樹脂に孔加工を行ったりする必要がある。
【0004】
本開示は、上記事実を考慮して、第1滑り部材の低摩擦性を長期にわたって維持しつつ、第1滑り部材に形成され潤滑剤を溜めることが可能なディンプルの深さや形状の自由度を高めることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示に係る免震滑り支承装置は、下部構造体と前記下部構造体の上方に配置される上部構造体との間に介在し、前記上部構造体及び前記下部構造体の一方に固定される滑り支承本体と、前記滑り支承本体に設けられ、前記上部構造体及び前記下部構造体の他方に対する滑り面を有する第1滑り部材と、前記滑り支承本体と前記第1滑り部材との間に介在し、前記第1滑り部材を保持すると共に、前記第1滑り部材が前記上部構造体及び前記下部構造体の他方から離れる方向に変形することを許容する有底凹部が設けられた保持部材と、を有する。
【発明の効果】
【0006】
本開示に係る免震滑り支承装置によれば、第1滑り部材の低摩擦性を長期にわたって維持しつつ、第1滑り部材に形成され潤滑剤を溜めることが可能なディンプルの深さや形状の自由度を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】本実施形態に係る免震滑り支承装置を示す断面図である。
【
図2】本実施形態に係る免震滑り支承装置を示す要部拡大断面図である。
【
図3】(A)保持部材における有底凹部の形状を示す正面図である。(B)互いに深さの等しい有底凹部の形状を示す、
図3(A)における3B-3B矢視拡大断面図である。(C)互いに深さの異なる有底凹部の形状を示す、
図3(A)における3B-3B矢視に相当する拡大断面図である。
【
図4】(A)は、保持部材の第1滑り部材側の表面に近づく程、有底凹部の幅が広がっている例を示す拡大断面図である。(B)は、(A)において有底凹部の第1滑り部材側の角部がR面とされている例を示す拡大断面図である。
【
図5】試験例1に係る摩擦の繰返し数と摩擦係数の変化量との関係を示す線図である。
【
図6】(A)変形例1に係る保持部材において、有底凹部及び溝の形状を示す正面図である。(B)有底凹部と溝の深さが等しい例を示す、
図6(A)における6B-6B矢視拡大断面図である。(C)溝の深さが有底凹部の深さよりも浅い例を示す、
図6(A)における6B-6B矢視に相当する拡大断面図である。
【
図7】(A)変形例2に係る保持部材において、有底凹部の形状を示す正面図である。(B)
図7(A)における7B-7B矢視断面図である。
【
図8】変形例3に係る保持部材において、有底凹部の形状を示す正面図である。
【
図9】免震滑り支承装置の一実施形態を示す断面図である。
【
図10】免震滑り支承装置の一実施形態を示す断面図である。
【
図11】免震滑り支承装置の一実施形態を示す断面図である。
【
図13】免震滑り支承装置の一実施形態を示す断面図である。
【
図15】第1滑り部材における凹部の変形例を示す断面図である。
【
図16】第1滑り部材における凹部の変形例を示す断面図である。
【
図17】第1滑り部材における凹部の変形例を示す断面図である。
【
図18】第1滑り部材における凹部の変形例を示す断面図である。
【
図19】第1滑り部材における凹部の変形例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明を実施するための形態を図面に基づき説明する。
図1は、本実施形態に係る免震滑り支承装置を示す断面図である。
図1において、本実施形態に係る免震滑り支承装置10は、滑り支承本体12と、第1滑り部材14と、保持部材16とを有している。
【0009】
滑り支承本体12は、下部構造体18と下部構造体18の上方に配置される上部構造体20との間に介在し、上部構造体20及び下部構造体18の一方、例えば上部構造体20に固定される。上部構造体20は、建物、タンク、貯水槽等の被支持体である。下部構造体18は、例えば、コンクリート等で構成された基礎部分であり、地盤(図示せず)に設置されている。
【0010】
滑り支承本体12は、積層体22の上端に上取付け板26を固着し、下端に連結板28を固着して構成されている。積層体22は、複数枚の円板状の金属板30と、複数枚の円板状のゴム34とをその厚さ方向に交互に積層して円柱状に構成され、上取付け板26の中央に配置されている。金属板30は、例えば鋼板である。金属板30とゴム34とは、加硫接着により強固に一体化されている。これにより、鉛直方向(矢印V方向)の荷重に対しては所定の剛性を有し、水平方向(矢印H方向)の荷重に対しては、ばね機能を発揮すると共に所定の変形量を確保することが可能になっている。
【0011】
上取付け板26及び連結板28は、夫々肉厚の円板状の鋼板で構成されている。上取付け板26の外径は、滑り支承本体12の外径よりも大径であり、上部構造体20に対して例えばボルト締結されている(図示せず)。連結板28の外径は、金属板30の外径と同等に設定されており、積層体22及び連結板28の外周には、被覆ゴム36が円筒状に配置されている。この被覆ゴム36によって金属板30の外縁が覆われているため、金属板30及び連結板28が外部へ露出せず、その劣化が防止されるようになっている。
【0012】
図1において、滑り支承本体12は、上部構造体20からの荷重を受けており、ゴム34が僅かに圧縮変形して、無負荷状態よりも鉛直方向の長さが短くなっている。この状態で、上部構造体20が下部構造体18に対して水平方向に相対移動すると、この相対移動の振動エネルギーが、滑り支承本体12のせん断変形によって一部吸収されるようになっている。
【0013】
第1滑り部材14は、滑り支承本体12に設けられ、上部構造体20及び下部構造体18の他方に対する滑り面14Aを有する低摩擦部材である。第1滑り部材14の材質は、例えば四フッ化エチレン樹脂を主成分とする低摩擦性樹脂である。第1滑り部材14は、保持部材16を介して滑り支承本体12の例えば下端側に設けられている。
【0014】
第1滑り部材14の材質は、例えば次の(1)~(5)の何れかである。これらは、第1滑り部材14の摩擦係数の低減及び機械的強度を共に改善できる配合である。
【0015】
(1)芳香族ポリエステル又はポリイミドを含有する四フッ化エチレン樹脂組成物。
(2)芳香族ポリエステルを5~30wt%含有する四フッ化エチレン樹脂組成物。
(3)ポリイミドを5~30wt%含有する四フッ化エチレン樹脂組成物。
(4)上記1)~3)の何れかにおいて、更に炭素繊維、グラファイト、グラスファイバー、二硫化モリブデン、チタン酸カリウム、ブロンズのうち1種類以上を含有するもの。
(5)上記1)~3)の何れかにおいて、更に炭素繊維、グラファイト、グラスファイバー、二硫化モリブデン、チタン酸カリウム、ブロンズのうち1種類以上を、0を超え5~20wt%以下含有するもの。
なお、上記(4)、(5)においては、グラファイト、二硫化モリブデンが、摩擦特性の観点から他の材料より好ましい。
【0016】
面圧20MPaのときの第1滑り部材14の摩擦係数は、例えば0.01以下であり、0.008以下がより好ましい。面圧80MPaのときの第1滑り部材14の圧縮歪量は、例えば40%以下である。
【0017】
第1滑り部材14は、例えば円板状に形成されており、保持部材16の凹部16Aに嵌め込まれている。ここでは第1滑り部材14の外径は、保持部材16の外径よりも小さいが、第1滑り部材14を保持部材16に嵌め込むための縁(後述する凹部16Aの縁)をなくし、
図9に示されるように、第1滑り部材14の外径を、保持部材16の外径と同径としてもよく、又は
図10に示されるように、該外径より大きくしてもよい。また、凹部16Aは、第1滑り部材14の厚さよりも浅く形成されている。これにより、第1滑り部材14は、保持部材16の下方に突出している。第1滑り部材14は、保持部材16に、例えば接着により固定されている。また、第1滑り部材14の外径は、保持部材16の外径よりも小さい場合に限定されず、第1滑り部材14の外径が保持部材16の外径と略等しくてもよく、保持部材16の外径よりも大きくてもよい。
【0018】
保持部材16は、滑り支承本体12と第1滑り部材14との間に介在し、第1滑り部材14を保持している。保持部材16は、例えばステンレス鋼等の金属製であり、円板状に形成されている。保持部材16の下端(第1滑り部材14側の端部)には、第1滑り部材14が嵌め込まれる円形の凹部16Aが形成されている。保持部材16は、連結板28に対して、ボルト等(図示せず)により締結されている。また保持部材16は、円板状に限られず、例えば角形状も考えられる。
【0019】
保持部材16には、第1滑り部材14が上部構造体20及び下部構造体18の他方、例えば下部構造体18から離れる方向に変形することを許容する有底凹部40が設けられている。
図3(A)は、保持部材16における有底凹部40の形状を示す正面図である。
図3(B)は、互いに深さの等しい有底凹部40の形状を示す、
図3(A)における3B-3B矢視拡大断面図である。
図3(C)は、互いに深さの異なる有底凹部40の形状を示す、
図3(A)における3B-3B矢視に相当する拡大断面図である。
【0020】
有底凹部40は、保持部材16を貫通しない変形許容部であり、例えば保持部材16と同心状に形成された2つの環状溝(内側凹部40A、外側凹部40B)である。有底凹部40は、このように例えば複数形成されている。
【0021】
有底凹部40は、保持部材16の内側よりも外側の方が密に配置されている。ここで、保持部材16が円板状の場合、保持部材16の内側とは、保持部材16の中心から外側に保持部材16の半径の1/2の領域である。保持部材16が角形状の場合、保持部材16の内側とは、保持部材16の中心から外側に保持部材16の一辺の1/4の内側の領域である。
【0022】
保持部材16が円板状の場合、保持部材16の外側とは、保持部材16の凹部16Aの外縁から内側に保持部材16の半径の1/2の領域である。保持部材16が角形状の場合、保持部材16の外側とは、保持部材16の凹部16Aに相当する部位の外縁から内側に、保持部材16の一辺の1/4の領域である。
「密」とは、有底凹部40の全体積(幅×深さ×長さ)を示す。つまり、有底凹部40の体積は、保持部材16の内側よりも外側の方が大きく設定されている。
【0023】
なお、有底凹部40は環状溝に限られず、点在する凹部、直線状や曲線状に延びる凹部等、種々の形状の凹部とすることができる(図示せず)。
【0024】
図2は、本実施形態に係る免震滑り支承装置10を示す要部拡大断面図である。
図2、
図3(B)において、2つの有底凹部40の深さdは、互いに同じでもよく、また
図3(C)に示されるように、少なくとも一部が互いに異なっていてもよい。
図3(C)では、最外側の外側凹部40Bの深さd2が、内側凹部40Aの深さd1より深くなっている。有底凹部40の深さdは、有底凹部40の幅wより小さく、かつ第1滑り部材14の厚みtより小さい。
図2、
図3(A)において、有底凹部40の幅wは、一定である。
【0025】
これに対し、
図4に示される例では、有底凹部40の幅wが、保持部材16の第1滑り部材14側の表面に近づく程広がっている。ここで、保持部材16の第1滑り部材14側の表面とは、凹部16Aの底面である。具体的には、
図4(A)に示される例では、有底凹部40の縦壁部41が、有底凹部40の深さ方向に対して傾斜している。また、
図4(B)に示される例では、同様に傾斜した縦壁部41の第1滑り部材14側の角部43が、R面とされている。
【0026】
上部構造体20及び下部構造体18の他方には、第1滑り部材14に対する滑り面24Aを有する第2滑り部材24が設けられている。第2滑り部材24の材質は、例えば第1滑り部材14と同様であるが、ステンレス鋼等を用いることもできる。
図2に示されるように、第1滑り部材14と第2滑り部材24との間には、潤滑剤42が配置されている。この潤滑剤42は、主に、有底凹部40の位置に形成されるディンプル44と第2滑り部材24内に溜まる。
【0027】
(作用)
本実施形態は、上記のように構成されており、以下その作用について説明する。
図1において、本実施形態に係る免震滑り支承装置10を、上部構造体20及び下部構造体18の一方、例えば上部構造体20に固定し、該上部構造体20と下部構造体18との間に介在させる。すると、上部構造体20から滑り支承本体12を介して下部構造体18に荷重が作用し、保持部材16に保持された第1滑り部材14が圧縮荷重を受ける。
【0028】
このとき、
図2に示されるように、保持部材16の有底凹部40は、第1滑り部材14に接触していないので、圧縮された第1滑り部材14の一部が、該有底凹部40に入り込むように変形する。第1滑り部材14の外縁は、保持部材16の凹部16Aに嵌合しているので、第1滑り部材14が、凹部16Aの外側に広がることが抑制される。したがって、保持部材16の周縁部の有底凹部40にも、第1滑り部材14の一部が入り込むように変形する。
【0029】
これにより、第1滑り部材14は、有底凹部40の位置において、上部構造体20及び下部構造体18の他方、本実施形態では下部構造体18から離れる方向に変形する。この結果、第1滑り部材14と、第2滑り部材24(下部構造体18の他方)との間に、潤滑剤42を溜めることが可能なディンプル44が形成される。
図1に示される例では、有底凹部40が複数箇所設けられているので、ディンプル44も複数箇所形成される。ディンプル44は、第1滑り部材14が圧縮荷重を受けることで、保持部材16の有底凹部40に対応する位置に自然に形成されるため、ディンプル44を設けるために専用の金型を使用したり、第1滑り部材14を後加工したりする必要がない。なお別途、第1滑り部材14を予め加工する事も可能である。例えばディンプルの形を切削加工で形成する場合等である。
【0030】
本実施形態では、変形許容部が有底凹部40であるので、第1滑り部材14の成形時に変形許容部を容易に設けることができ、また後加工で変形許容部を設ける場合でも、加工が容易である。また、有底凹部40が環状溝であるので、該有底凹部40を切削加工等により容易に形成することができる。
【0031】
本実施形態では、第1滑り部材14に形成されるディンプル44と、第2滑り部材24との間に、潤滑剤42が溜まるので、第1滑り部材14と第2滑り部材24との間の低摩擦性を長期にわたって維持することができる。地震等の作用により上部構造体20が動いた際には、第1滑り部材14が第2滑り部材24に対して滑ることにより、上部構造体20に作用する水平方向の加速度を低減することができる。この際、ディンプル44内の潤滑剤42が、第1滑り部材14の滑り面と第2滑り部材24の滑り面との間に供給される。第1滑り部材14が第2滑り部材24に対して滑ることにより、上部構造体20に作用する水平方向の加速度を低減することができる。
【0032】
また、保持部材16に設けられた変形許容部が有底凹部40であるため、第1滑り部材14の変形を許容するための部位が貫通孔である場合(図示せず)と比較して、ディンプル44の形状パターンに関し制限が少なくなる。具体的には、ディンプル44を同心状に形成することも可能となる。
【0033】
図2に示されるように、有底凹部40の深さdが第1滑り部材14の厚みtより小さいので、第1滑り部材14に形成されるディンプル44の形状が滑らかになり、第1滑り部材14の変形部の歪が抑制される。また、有底凹部40の深さdが有底凹部40の幅wより小さいので、有底凹部40の深さdが有底凹部40の幅wより大きい場合と比較して、第1滑り部材14に形成されるディンプル44の形状が滑らかになり、第1滑り部材14の変形部の歪が抑制される。
【0034】
図4(A)、
図4(B)に示される例では、有底凹部40の幅wが、保持部材16の第1滑り部材14側の表面に近づく程広がっているので、第1滑り部材14に形成されるディンプル44の形状が滑らかになり、第1滑り部材14の変形部の歪が更に抑制される。
【0035】
有底凹部40は、保持部材16の内側よりも外側の方が密に配置されているので、保持部材16の外側においてディンプル44が通過しない領域を減らす事ができる。このため、保持部材16内での潤滑剤42の偏りを緩和することができる。
【0036】
有底凹部40が複数箇所形成され、かつ複数の有底凹部40の深さdが互いに異なっている場合には、場所によりディンプル44の形状が変わるので、例えば第1滑り部材14の滑り面14Aの外周部や中央部のように、潤滑剤42をより多く必要とする場所に該潤滑剤42を多く保持することができる。
【0037】
なお、保持部材16の構成は上記のものに限られず、次の変形例1~3の構成であってもよい。
図6(A)において、変形例1に係る保持部材16は、有底凹部40が複数箇所形成されている(内側凹部40A及び外側凹部40B)。有底凹部40の少なくとも一部が、互いを連通する溝45を有している。溝45は、例えば3本形成され、保持部材16の径方向に延び、内側凹部40A及び外側凹部40Bにそれぞれ開口している。各々の溝45は、保持部材16の周方向において、均等に配置されている。換言すれば、各々の溝45は、120°毎に形成されている。この構成により、ディンプル44がより広い領域を占めるため、潤滑剤42が不足しやすい場所に、該潤滑剤42を多く保持することができる。なお、溝45の形状や本数は、これに限られるものではなく、また、溝45が設けられない有底凹部40が存在してもよい。
【0038】
図6(B)に示される例では、連通する溝45の深さdgが、有底凹部40(内側凹部40A及び外側凹部40B)の深さdと等しい。一方、
図6(C)に示される例では、連通する溝45の深さdgが、有底凹部40(内側凹部40A及び外側凹部40B)の深さdよりも浅い。有底凹部40の深さdが場所により異なっている場合には、最も浅い深さdよりも、溝45の深さdgが浅くなる。溝45の深さdgが一定でない場合、該深さは平均深さとされる。溝の深さdgを変更することにより、保持部材16に保持する潤滑剤42の量を微調整することができる。
【0039】
図7(A)、
図7(B)において、変形例2に係る保持部材16は、保持部材16が、中心部に有底凹部40を有している。保持部材16が円板状の場合、保持部材16の中心部とは、保持部材16の中心を含む領域である。保持部材16が角形状の場合、保持部材16の中心部とは、保持部材16の中心及びその周囲を含む領域である。保持部材16が、中心部に有底凹部40を有しているので、第1滑り部材14の中心部に、潤滑剤42を溜めることが可能なディンプル44(
図2参照)が形成される。したがって、潤滑剤42が最も入り難い第1滑り部材14の中心部に潤滑剤42を保持することができる。なお、中心部の有底凹部40の外側に、更に各種の有底凹部を設けてもよい(図示せず)。
【0040】
図8において、変形例3に係る保持部材16の有底凹部40は、保持部材16の端部から中心に向かうにしたがって、幅が広くなっている。この例では、内側凹部40Aの幅w1が、外側凹部40Bの幅w2よりも広い。内側凹部40Aや外側凹部40Bのような環状溝が3本以上形成されている場合には、保持部材16の中心に対して最内側となる環状溝の幅を最も広くしてもよい。内側凹部40Aの容積を大きくすることで、潤滑剤42(
図2)の枯渇を抑制できる。また、外側凹部40Bの容積を小さくすることで、潤滑剤42(
図2)が過剰になることを抑制し、潤滑剤42の量を適切に調整することができる。
【0041】
[他の実施形態]
以上、本発明の実施形態の一例について説明したが、本発明の実施形態は、上記に限定されるものでなく、上記以外にも、その主旨を逸脱しない範囲内において種々変形して実施可能であることは勿論である。
【0042】
有底凹部40の深さdが、第1滑り部材14の厚みtより小さいものとしたが、これに限られず、深さdが厚みt以上であってもよい。また、有底凹部40の深さdが有底凹部40の幅wより小さいものとしたが、これに限られず、深さdが幅w以上であってもよい。
【0043】
免震滑り支承装置10において、第1滑り部材14が下部構造体18に対して滑る構造としたが、上下の向きを反転させて、第1滑り部材14が上部構造体20に対して滑る構造としてもよい。
【0044】
第2滑り部材24を設けず、上部構造体20及び下部構造体18の他方に、第1滑り部材14に対する滑り面を設けてもよい。
【0045】
また、
図11に示されるように、保持部材16には、第1滑り部材14の外縁部14Bに対応する有底凹部32と、外縁部より内側に対応する有底凹部40がそれぞれ設けられていてもよい。
【0046】
ここで、
図12に示されるように、この保持部材16における凹部16Aの外側には、該凹部16Aに第1滑り部材14を収容した状態で、第1滑り部材14の側面14Cに沿って第1滑り部材14の外周部を覆う部分が長くなるように延び出す延出部16Bが、当該保持部材16の側壁面によって形成されている。なお、本明細書では、延び出す状態を延出とする。
【0047】
この延出部16Bは、第1滑り部材14の厚み方向中央部まで延出しており、第1滑り部材14の側面14Cは、延出部16Bが密着した状態で全周に渡って包囲されている。これにより、保持部材16が横方向へ水平移動する際の保持部材16からの第1滑り部材14の離脱を防止できるように構成されている。
【0048】
有底凹部32は、保持部材16のうち、第1滑り部材14の外縁部14Bに対応する部位、具体的には、凹部16Aにおける天面16Cの外縁部の全周に渡って延設されている。有底凹部32は、延出部16Bの内側に沿って延在する断面矩形状の溝を構成している。
【0049】
これにより、この有底凹部32は、当該保持部材16に第1滑り部材14を収容した状態で、第1滑り部材14の外縁部14B上面に対応する部位に設けられている。第1滑り部材14が変形する際に、当該第1滑り部材14における外縁部14Bが第2滑り部材24の滑り面24Aから離れる方向である上方へ変形できるように、変形許容部としての有底凹部32が設けられている。
【0050】
そして、保持部材16は、凹部16Aの天面16Cにおいて、有底凹部32,40を除く領域が第1滑り部材14に面接触する。保持部材16から第1滑り部材14へ加えられる鉛直荷重は、この面接触部分から伝達されるように構成されている。これにより、第1滑り部材14への荷重の伝達は、外縁部14Bにおいて抑制されるようになっている。
【0051】
この変形許容部は、例えば変形許容構造や圧力抑制構造と言い換えることができる。また、この変形許容部は、凹部16Aの天面16Cにおいて上方へ後退した有底凹部32で構成されることから、天面16Cに対して段差を有している。このため、変形許容部を段付き部と言い換えることができる。
【0052】
なお、この変形許容部を構成する有底凹部32が断面矩形状に形成された場合を例に挙げて説明するが、これに限定されるものでない。例えば、断面半円形状や断面三角形状等の他の断面形状であってもよい。
【0053】
図12に示されるように、例えば上部構造体20からの鉛直荷重が第1滑り部材14に伝達され第1滑り部材14が変形した際には、その外縁部14Bが、第2滑り部材24の滑り面24Aから離れる上方へ変形する。第1滑り部材14の外縁部14Bが滑り面24A側へ変形して鋭角のエッジ(図示せず)が形成されることはない。よって、エッジが形成される場合のように、エッジが第1滑り部材14の外周部の潤滑剤42を当該第1滑り部材14の移動範囲外へ押し退けてしまう場合と比較して、第1滑り部材14の戻り位置での潤滑剤の維持が可能となる。
【0054】
これにより、第1滑り部材14が所定位置へ戻った際に維持された潤滑剤42を繰り返し使用することができる。このため、第1滑り部材14が滑動しても、利用可能な潤滑剤の減少を抑制することができる。
【0055】
よって、潤滑剤42の仕様や種類の選択や、潤滑剤42の保持量を多くするなどの対策を講ずることなく、所定厚の潤滑剤42の維持が可能となり摩擦係数の増大を抑えることができる。これにより、第1滑り部材14の摩擦係数を安定させることができるとともに、滑動時の繰り返し特性を向上することができる。
【0056】
また、第1滑り部材14の外縁部14Bは、滑り面24Aから離れる方向へ変形する。したがって、第1滑り部材14の外縁部14Bに、最外縁へ向かうに従って上方へ変形する変形部14Dが形成されるようにすることも可能となる。
【0057】
このような場合には、角部を丸めることが可能となるため、この変形部14Dと滑り面24Aとの間に形成される間隙によって、第1滑り部材14と滑り面24A間への潤滑剤42の取り込みを促進することができる。したがって、第1滑り部材14と滑り面24Aとの摩擦係数の増大を抑制することができる。
【0058】
さらに、保持部材16には、第1滑り部材14の側面14Cに沿って延出する延出部16Bが設けられている。このため、下部構造体18と上部構造体20とが水平方向へ相対移動することで第1滑り部材14が滑り面24Aに対して水平移動する際には、延出部16Bを第1滑り部材14の側面14Cに当接させることができる。この延出部16Bで第1滑り部材14を側方から支持することができるので、滑動時における保持部材16による第1滑り部材14の保持力を高めることができる。
【0059】
図12の構造を基にしつつ、
図13、
図14に示されるように、有底凹部40(
図12)が省略された構成としてもよい。換言すれば、保持部材16の天面16Cに、第1滑り部材14の外縁部14Bに対応する有底凹部32のみが形成されるようにしてもよい。また、この例では、第1滑り部材14のうち、下部構造体18と対向する側の面(滑り面14A)の一部に凹部14Eが形成されている。凹部14Eは例えば環状溝であるが、これに限られず、点在する凹部、直線状や曲線状に延びる凹部等、種々の形状の凹部とすることができる。凹部14Eは、
図1、
図9、
図10及び
図11に示される構造に適用されてもよい。
【0060】
この構造では、第1滑り部材14に凹部14Eが形成されており、該凹部14Eがディンプルとなる。したがって、この第1滑り部材14と下部構造体18との間、具体的には、第2滑り部材24の滑り面24Aと凹部14Eとの間に、潤滑剤42を溜めることが可能となる。
【0061】
図15から
図19において、第1滑り部材14の凹部14Eの変形例について説明する。
図15において、凹部14Eは複数設けられている。また、第1滑り部材14Eにおける滑り面14Aの端部から中央CL(矢印IN方向)に向かうにしたがって、凹部14Eの深さが深くなり、又は幅が広くなっている。本実施形態では、滑り面14Aの端部から中央CL(矢印IN方向)に向かうにしたがって、凹部14Eの深さが深くなり、かつ凹部14Eの幅が広くなっている。ここで、端部から中央CLに向かって3つの凹部14Eがある場合に、凹部14Eの深さを、端部側から中央CL側に向かって順にda、db、dcとする。また、凹部14Eの幅を、端部側から中央CL側に向かって順にwa、wb、wcとする。そうすると、dc≧db≧daであり、wc≧wb≧waである。このように、中央CL側の凹部14の容積を大きくすることで、潤滑剤42(
図14)の枯渇を抑制できる。なお、中央CLの凹部14Eは円形の凹部であり、幅wcは円の直径に相当する。
【0062】
換言すれば、
図15において、第1滑り部材14における滑り面14Aの中央CLから端部(矢印OUT方向)に向かうにしたがって、凹部14Eの深さが浅くなり、又は幅が狭くなっている。本実施形態では、滑り面14Aの中央CLから端部(矢印OUT方向)に向かうにしたがって、凹部14Eの深さが浅くなり、かつ凹部14Eの幅が狭くなっている。凹部14Eが環状に形成されている場合、滑り面14Aの端部に行くほど凹部14Eの周長が長くなり、容積が大きくなる。したがって、端部に向かうにしたがって凹部14Eの深さを浅くし、幅を狭くすることにより、潤滑剤42(
図14)が過剰になることを抑制し、潤滑剤42の量を適切に調整することができる。
【0063】
図16において、凹部14Eは3箇所以上設けられている。そして、第1滑り部材14における滑り面14Aの中央CLから端部(矢印OUT方向)に向かうにしたがって、互いに隣接する凹部14E同士の間隔が狭くなっている。ここで、互に隣り合う凹部14Eの間隔を中央CL側から端部側に向かって順にD2、D1とすると、D2>D1である。これにより、滑り面14Aの端部に行くほど凹部14Eの密度が大きくなるため、免震滑り支承装置10(
図13)が動いたときに、凹部14Eが通過しない領域を小さくすることができる。これにより、滑り面14Aの端部にも潤滑剤42(
図14)を行き渡らせることができる。
【0064】
図17において、少なくとも一部の凹部14Eは、第1滑り部材14を貫通している。換言すれば、この凹部14Eは貫通孔として形成されている。第1滑り部材14を保持部材16に取り付けることで、貫通孔の滑り面14Aと反対側は保持部材16より塞がれる。これにより、貫通孔の部位が凹部として機能する。凹部14Eを貫通孔とすることにより、潤滑剤42を入れられる容積を増やすことができる。また、凹部14Eを有底とする場合と比較して、肉厚が薄くなる部位が少なくなるので、第1滑り部材14の割れを抑制できる。
【0065】
図18において、滑り面14Aから凹部14Eの底部14Fに向かうにしたがって、凹部14Eの幅が狭くなっている。凹部14Eの滑り面14A側は、潤滑剤42の出入り口となる。具体的には、凹部14Eのうち、滑り面14Aと底部14Fとを結ぶ壁部が、第1滑り部材14の厚さ方向に対して傾斜する傾斜面14Gとされている。1つの凹部14Eにおいて対向配置された傾斜面14G間の距離は、底部14Fから滑り面14Aに向かうにしたがって次第に大きくなっている。このように、凹部14Eの滑り面14A側の幅を広くすることで、凹部14Eから滑り面14Aに潤滑剤42が供給され易くなる。また、凹部14Eの底部14Fに向かうにしたがって幅w14が狭くなっているので、凹部14Eに溜められる潤滑剤42の量が過剰とならないように調整できる。
【0066】
図19に示されるように、凹部14Eが第1滑り部材14の滑り面14Aに開口する部位は、断面弧状に面取りされていてもよい(R面取り部14R)。これにより、第1滑り部材14が第2滑り部材24(
図13)に対して滑るときの引っ掛かりを抑制できる。一方、凹部14Eの底部14Fの隅部14Hは面取りされていない。これにより、凹部14Eの容積を確保して、凹部14Eに溜められる潤滑剤42の量を適切に調整することができる。
【0067】
(試験例1)
図3に示される構成の保持部材を用いた場合と、有底凹部を有しない保持部材(図示せず)について、第2滑り部材に対する第1滑り部材の摺動(滑り)の繰返し数に対する摩擦係数の変化量を調べた。
【0068】
図3に示される構成の保持部材では、深さd=3mm、幅w=12mm、の有底凹部が、保持部材と同心かつ円環状に2箇所設けられている。
【0069】
第1滑り部材の材質は、四フッ化エチレン樹脂を主成分とする樹脂であり、第2滑り部材の材質は、SUS404である。第1滑り部材及び第2滑り部材の寸法は、表1に示されるとおりである。潤滑剤の使用量は、2.5gである。また、試験条件は表2、表3に示されるとおりである。試験結果は、
図5に示されるとおりである。
図5から、保持部に有底凹部が設けられていない場合(破線)には、繰返し数の増加に伴って摩擦係数の変化量が大きくなるが、保持部に有底凹部が設けられている場合(実線)には、繰返し数が増加しても、摩擦係数の変化量は小さいことがわかる。
【0070】
【0071】
【0072】
【0073】
(試験例2)
表4~表6において、第1保持部材の組成の違いによる、摩擦係数及び圧縮歪量の違いを試験した。共通の試験条件は、次のとおりである。
【0074】
ベース樹脂:ポリテトラフルオロエチレン(四フッ化エチレン樹脂、PTFE)
<摩擦試験>
試験機:動的摩擦試験機
第2滑り部材の材質:SUS304
面圧:20MPa
速度:100mm/s
振幅:200mm
<圧縮歪量>
試験機:圧縮試験機
面圧:80MPa
速度:1.3mm/min
試験片形状:直径30mm×厚さ5mm
【0075】
共通でない試験条件は、次のとおりである。
潤滑剤:シリコーンオイル
【0076】
摩擦係数の目標値は、0.01以下である。圧縮歪量の目標値は、40%以下である。摩擦係数の目標値と圧縮歪量の目標値が、共に満たされることが望ましい。なお、圧縮歪量は((d1-d2)/d1)×100(%)と定義した。ここで、d1は第1保持部材の試験前厚みであり、d2は第1保持部材の試験後厚みである。
【0077】
表4、表5より、第1保持部材に配合される材料が、芳香族ポリエステル又はポリイミドの何れであっても、各々の配合割合が5~30wt%の場合に、摩擦係数及び圧縮歪量の目標値が共に達成されることがわかった。また、表6より、グラファイト添加量として20wt%以下の場合に、摩擦係数及び圧縮歪量の目標値が達成されることがわかった。
【0078】
【0079】
【0080】
【0081】
2017年7月4日に出願された日本国特許出願2017-131250号、及び2018年1月31日に出願された日本国特許出願2018-14501号の開示は、その全体が参照により本明細書に取り込まれる。
本明細書に記載されたすべての文献、特許出願、および技術規格は、個々の文献、特許出願、および技術規格が参照により取り込まれることが具体的かつ個々に記された場合と同程度に、本明細書中に参照により取り込まれる。