(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-18
(45)【発行日】2022-11-29
(54)【発明の名称】抗SIRPg抗体の新規の使用
(51)【国際特許分類】
C07K 16/28 20060101AFI20221121BHJP
C12N 15/13 20060101ALI20221121BHJP
A61K 39/395 20060101ALI20221121BHJP
A61P 19/02 20060101ALI20221121BHJP
A61P 29/00 20060101ALI20221121BHJP
A61P 3/10 20060101ALI20221121BHJP
A61P 17/06 20060101ALI20221121BHJP
A61P 1/04 20060101ALI20221121BHJP
A61P 25/00 20060101ALI20221121BHJP
A61P 9/10 20060101ALI20221121BHJP
A61P 37/06 20060101ALI20221121BHJP
A61P 37/02 20060101ALI20221121BHJP
A61K 38/13 20060101ALI20221121BHJP
A61K 31/706 20060101ALI20221121BHJP
A61K 31/365 20060101ALI20221121BHJP
A61K 31/436 20060101ALI20221121BHJP
G01N 33/53 20060101ALI20221121BHJP
C12P 21/08 20060101ALN20221121BHJP
C07H 15/04 20060101ALN20221121BHJP
C07D 307/88 20060101ALN20221121BHJP
C07D 498/18 20060101ALN20221121BHJP
【FI】
C07K16/28 ZNA
C12N15/13
A61K39/395 D
A61K39/395 N
A61P19/02
A61P29/00 101
A61P3/10
A61P17/06
A61P1/04
A61P25/00
A61P9/10 101
A61P37/06
A61P37/02
A61K38/13
A61K31/706
A61K31/365
A61K31/436
G01N33/53 Y
C12P21/08
C07H15/04 B
C07D307/88
C07D498/18
(21)【出願番号】P 2019544888
(86)(22)【出願日】2018-02-15
(86)【国際出願番号】 EP2018053831
(87)【国際公開番号】W WO2018149938
(87)【国際公開日】2018-08-23
【審査請求日】2021-02-15
(32)【優先日】2017-02-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】517118478
【氏名又は名称】オーエスイー・イミュノセラピューティクス
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】ニコラ・ポワリエ
(72)【発明者】
【氏名】カロリーヌ・マリー
(72)【発明者】
【氏名】ヴァネッサ・ゴーティエ
(72)【発明者】
【氏名】ヴィルジニー・テパニエ
(72)【発明者】
【氏名】サブリナ・パンガム
(72)【発明者】
【氏名】ベルナール・ヴァンオヴ
【審査官】山本 匡子
(56)【参考文献】
【文献】特表2017-504568(JP,A)
【文献】特表2013-514795(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0375019(US,A1)
【文献】国際公開第2016/187226(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/178653(WO,A2)
【文献】Blood,2008年,Vol.112, No.4,p.1280-1289
【文献】Blood,2005年,Vol.105,No.6,p.2421-2427
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00-90
MEDLINE/BIOSIS/REGISTRY/CAPLUS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
T細胞増殖及び/又はT細胞活性化が悪影響を及ぼす疾患又は障害の、特にヒト疾患又はヒト障害の
、T細胞の増殖及び/又はT細胞の活性化を減少させるか又は阻害することによる予防及び/又は処置での使用のための、ヒト抗SIRPg抗体若しくはその抗原結合フラグメント又は抗原結合抗体模倣物を含む医薬組成物であって、前記抗SIRPg抗体若しくはその抗原結合フラグメント又は抗原結合抗体模倣物は、ヒトSIRPgへのヒトCD47の結合を阻害し、
前記T細胞増殖
及び/又はT細胞活性化が悪影響を及ぼす疾患又は障害は
、
- 移植片機能障害、特に移植片対宿主疾患
である、医薬組成物。
【請求項2】
前記抗体又はその抗原結合フラグメントが、陰性対照と比較してT細胞の増殖及び/又はT細胞の活性化を減少させるか、又は阻害し、特に前記T細胞の増殖の減少又は阻害が、20%超である、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項3】
前記抗SIRPg抗体若しくはその抗原結合フラグメント又は抗原結合抗体模倣物が、ヒトSIRPaに特異的に結合しない、請求項
1又は2に記載の医薬組成物。
【請求項4】
医薬としての同時の、別々の、又は逐次的な使用のための組合せ製品であって、
- 請求項1か
ら3のいずれか一項に記載の、少なくとも1種の抗ヒトSIRPg抗体若しくはその抗原結合フラグメント又は抗原結合抗体模倣物を含む医薬組成物と、
- 免疫療法剤、免疫抑制剤、抗生物質、及びプロバイオティクスからなる群から選択される少なくとも1種の第2の治療薬と
を含む、組合せ製品。
【請求項5】
前記免疫抑
制剤が、シクロスポリンA、タクロリムス、ミコフェノール酸モフェチル、ラパマイシン、ステロイド、抗TNF剤、抗IL-23剤からなる群から選択される、請求
項4に記載の組合せ製品。
【請求項6】
T細胞増殖及び/又はT細胞活性化が悪影響を及ぼす疾患又は障害に罹患している対象の生体サンプルから前
記対象中におけるSIRPg陽性細胞を決定するためのインビトロ又はエキソビボの方法であって、
i)請求項1か
ら3のいずれか一項
に規定の抗ヒトSIRPg抗体若しくはその抗原結合フラグメント又は抗原結合抗体模倣物を使用して、特に、請求
項3に規定の抗体又はその抗原結合フラグメント若しくは抗原結合抗体模倣物を使用して、前記対象の生体サンプル中におけるSIRPgの発現及び/又は発現レベルをインビトロ又はエキソビボで決定する工程
を含む方法。
【請求項7】
対象におけるT細胞増殖及び/又はT細胞活性化が悪影響を及ぼす疾患又は障害の処置に対する応答を予測するバイオマーカーとしてSIRPgが使用されるインビトロ又はエキソビボの方法における、請求項1か
ら3のいずれか一項
に規定の少なくとも1種の抗ヒトSIRPg抗体若しくはその抗原結合フラグメント又は抗原結合抗体模倣物のSIRPgの発現レベルの決定のための使用であり、特に、請求
項3に規定の抗体若しくはその抗原結合フラグメント又は抗原結合抗体模倣物の使用であって、
特に、前記T細胞増殖及び/又はT細胞活性化が悪影響を及ぼす疾患又は障害が
、
- 移植片機能障害、特に移植片対宿主疾
患
である、使用。
【請求項8】
T細胞増殖及び/又はT細胞活性化が悪影響を及ぼす疾患又は障害の処置に対する対象の応答で
あって、請求項1か
ら3のいずれか一項
に規定の抗ヒトSIRPg抗体若しくはその抗原結合フラグメント又は抗原結合抗体模倣物、特に請求項
3に規定の抗体若しくはその抗原結合フラグメント又は抗原結合抗体模倣物による処置に対する対象の応答を予測す
る方法であって、
- 特に請求項1か
ら3のいずれか一項
に規定の抗ヒトSIRPg抗体若しくはその抗原結合フラグメント又は抗原結合抗体模倣物、特に請求
項3に規定の抗体若しくはその抗原結合フラグメント又は抗原結合抗体模倣物により、対象、特にヒト対象から事前に得られたサンプル中におけるSIRPgの発現レベルを決定する工程と、
- 前記SIRPgの発現レベルを、非応答対象集団におけるSIRPgの発現レベルを表す値と比較する工程と
を含み、
前記対象の前記サンプル中におけるSIRPgのより高い発現レベルが、前記処置に応答する対象を示し、
特に、前記T細胞増殖及び/又はT細胞活性化が悪影響を及ぼす疾患又は障害が
、
- 移植片機能障害、特に移植片対宿主疾患
である、方法。
【請求項9】
T細胞増殖及び/又はT細胞活性化が悪影響を及ぼす疾患又は障害の、特にヒト疾患又はヒト障害の予防及び/又は処置での使用のための医薬組成物の製造における、ヒト抗SIRPg抗体若しくはその抗原結合フラグメント又は抗原結合抗体模倣物の使用であって、前記抗SIRPg抗体若しくはその抗原結合フラグメント又は抗原結合抗体模倣物は、ヒトSIRPgへのヒトCD47の結合を阻害し、
前記T細胞増殖
及び/又はT細胞活性化が悪影響を及ぼす疾患又は障害は
、
- 移植片機能障害、特に移植片対宿主疾患
である、使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は免疫療法の分野に関する。本発明は抗SIRPg抗体の新規の使用を提供し、この抗SIRPg抗体は、自己免疫障害又は自己免疫疾患の処置及び/又は予防のためにSIRPgへのCD47の結合を阻害する。
【背景技術】
【0002】
シグナル調節タンパク質(SIRP)は、免疫系及び中枢神経系で広く発現され、様々なシグナルを伝達する膜貫通糖タンパク質のファミリーを構成する。
【0003】
SIRPファミリーのプロトタイプメンバーは、SIRP-アルファ(SIRPa、SIRPα、CD172a、又はSHPS-1とも呼ばれる)である。ヒトSIRPaをコードする遺伝子は多型遺伝子であり、ヒト集団においていくつかのバリアントが説明された。最も一般的なタンパク質バリアントは、SIRPa v1(受託番号NP_542970及びP78324)並びにSIRPa v2(受託番号CAA71403)である。SIRPaは、単球、組織マクロファージのほとんどの亜集団、顆粒球、リンパ系組織中における樹状細胞のサブセット、一部の骨髄前駆細胞で発現され、ニューロンにより様々なレベルで発現され、脳のシナプスリッチ領域(例えば、小脳及び海馬の顆粒層)で著しく高く発現される。SIRPaは阻害性受容体であり、この阻害性受容体は、CD47に結合してマクロファージ及び樹状細胞の機能を調節し、増殖因子及び細胞接着により誘発されるシグナル伝達経路も調節する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開第2008068637号パンフレット
【文献】欧州特許第1270725B1号明細書
【文献】米国特許第8536307B2号明細書
【文献】国際公開第2015138600号パンフレット
【文献】国際特許出願第PCT/EP2017/059071号
【非特許文献】
【0005】
【文献】Piccioら、Blood、105:6、2005
【文献】Krehenbrinkら、J. mol. Biol.、383:5、2008
【文献】Skerra、Febs J.、275:11、2008
【文献】Schlehuber及びSkerra、Biophys. Chem.、96:2-3、2002
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
SIRPファミリーの別のメンバーSIRP-ガンマ(SIRPg、SIRPγ、CD172g、又はSIRPベータ2とも呼ばれる-受託番号NM_018556又は受託番号Q9P1W8)が後に特定された。SIRPgは多くのヒト組織中で広く発現されているが、T細胞の表面で特に発現されている。著者は、SIRPg-CD47相互作用は細胞間接着を媒介し、スーパー抗原依存性T細胞媒介増殖を増強し、T細胞活性化を共刺激すると結論付けている(Piccioら、Blood、105:6、2005)。しかしながら、抗SIRPg抗体は、いくつかの条件下ではT細胞の増殖を部分的に阻害する可能性があると思われる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
これに関連して、本発明者らは、自己免疫障害及び/又は炎症性疾患及び/又は移植片機能障害(transplant dysfunction)の処置及び/又は予防のために、ヒトSIRPgへのヒトCD47の結合を阻害する抗SIRPg抗体の新規の使用を提供する。
【0008】
ある態様では、本発明は、T細胞が悪影響を及ぼす疾患又は障害の予防及び/又は処置での使用のための抗SIRPg抗体若しくはその抗原結合フラグメント又は抗原結合抗体模倣物であって、ヒトSIRPgへのヒトCD47の結合を阻害する抗SIRPg抗体若しくはその抗原結合フラグメント又は抗原結合抗体模倣物に関する。
【0009】
別の態様では、本発明は、T細胞増殖の阻害での使用のための抗SIRPg抗体若しくはその抗原結合フラグメント又は抗原結合抗体模倣物に関する。別の態様では、本発明は、T細胞活性化の阻害での使用のための抗SIRPg抗体若しくはその抗原結合フラグメント又は抗原結合抗体模倣物に関する。別の態様では、本発明は、T細胞活性化の阻害及び/又はT細胞増殖の阻害での使用のための抗SIRPg抗体若しくはその抗原結合フラグメント又は抗原結合抗体模倣物に関する。具体的には、本発明は、移植後での又は炎症性疾患の最中におけるT細胞、白血球及び/又はNK細胞の生着の減少での使用のための抗SIRPg抗体若しくはその抗原結合フラグメント又は抗原結合抗体模倣物に関する。具体的には、本発明は、移植された動物内でのT細胞の増殖及び/又は活性化を阻害することにより、移植された動物(具体的にはヒト)の生存の向上を可能にする抗SIRPg抗体若しくはその抗原結合フラグメント又は抗原結合抗体模倣物に関する。
【0010】
別の態様では、本発明は、T細胞の活性化及び/又は増殖が悪影響を及ぼす免疫系障害又は炎症性疾患(具体的には移植片対宿主疾患(GVHD)、具体的には急性及び/又は慢性のGVHD)の処置のための抗SIRPg抗体の使用に関する。同種移植には、遺伝的に異なるレシピエントへのドナーからの細胞又は臓器の移植が含まれる。そのような移植後の主な臨床的合併症は、ドナーT細胞により媒介される免疫障害であるGVHDの発症である。ドナーT細胞はレシピエントに対して毒性であり得、同種移植を受けたレシピエントの複数の臓器及び組織を攻撃して損傷を与える可能性があり、その結果、罹患率及び死亡率のリスクが高くなる。抗SIRPg抗体の使用により、GVHDモデル内でのT細胞の増殖及び/又は活性化が減少する。T細胞の増殖を、様々な方法により決定し得る。例えば、T細胞の増殖を、本出願の実施例で説明されているようにH3-チミジンの取込みにより測定し得る。具体的には、T細胞の増殖が陰性対照と比較して少なくとも20%減少し、より好ましくは少なくとも50%減少し、最も好ましくは少なくとも70%減少する場合には、抗SIRPg抗体はT細胞の増殖を阻害すると思われる。この抗SIRPg抗体を、具体的には移植関連のGVHD又は輸血GVHDに関連する臨床状態を予防する又は処置するために、免疫抑制療法の文脈内で使用し得る。この抗SIRPg抗体を、GVHDに対する予防的処置にも使用し得る。別の態様では、本発明は、炎症性疾患の進行を遅延させるための抗SIRPg抗体の使用に関する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】ヒトSIRPg組換えタンパク質に対する抗体のBlitzによる親和性分析。SIRPg-His組換えタンパク質をNINTAバイオセンサー上に固定し、示した抗体を10μg/mlで添加した。120秒の会合期間(ka)、及びそれに続く120秒の解離期間(kd)の後に値を推定して、親和性定数(KD)を決定した。
【
図2】SIRPgに対する抗体のELISAアッセイによる結合分析(ヒトSIRPg-Hisのコーティング及び抗ヒトカッパの検出)。SIRP29(△)、Kwar23(○)、LSB2-20(●)、及びIgG4 Ab対照(■)の固定されたSIRPg-Hisに対するELISAによる評価。ロバ抗ヒト抗体により顕色を実施し、TMB基質を使用する450nmでの比色分析により明らかにした。
【
図3】抗SIRP抗体と共にプレインキュベートしたヒトSIRPg組換えタンパク質に対するCD47のBlitzによる親和性分析。SIRPg-His組換えタンパク質を10μg/mlでNINTAバイオセンサー上に固定し、示した抗体を20μg/ml(飽和濃度)で添加した。次いで、CD47Fcを100μg/mlで添加し、120秒の会合期間(ka)、及びそれに続く120秒の解離期間(kd)の後に親和性値を推定して、親和性定数(KD)を決定した。
【
図4】樹状細胞の存在下でのT細胞(CD4
+細胞及びCD8
+細胞)の同種応答。健康なボランティアからの末梢血単核細胞から単離したヒトT細胞を、5日にわたり5個のT細胞:1個の同種樹状細胞(DC)の比でDCにより刺激した。0日目の培地に抗体を添加した。培養の最後の12時間の間でのH
3-チミジンの取込みにより、増殖を測定した。αSIRPα(■)は、SIRPgに結合しない、SIRPaに対して特異的な抗SIRPa抗体である、国際特許出願第PCT/EP2017/059071号に記載の社内用の抗体に対応する。SE7C2(●)は、同様にSIRPaに特異的に結合する抗体に対応する。αCD47#1(▲)及び#2(▼)は、CD47に結合する抗体に対応する。αSIRPγ(◇)はLSB2.20に対応する。Kwar23(□)は、SIRPg及びSIRPaに結合し、SIRPgとCD47との間の相互作用を破壊する抗体に対応する。SIRP29(◇)は、SIRPa及びSIRPgに結合するがSIRPgとCD47との間の相互作用を破壊しない抗体に対応する(換言すると、CD47は、抗体SIRP29の存在下でSIRPgに結合し得る)。
【
図5】ヒトSIRPa組換えタンパク質に対する抗体のBiacoreによる親和性分析。SIRPa-His組換えタンパク質を5μg/ml(500RU)でCM5チップ上に固定し、示した抗体を様々な濃度で添加した。3分の会合期間(ka)、及びそれに続く10分の解離期間(kd)の後に値を測定して、親和性定数(KD)を決定した。
【
図6】BlitzによるヒトSIRPa組換えタンパク質に対する抗SIRPg抗体LSB2.20の結合分析。SIRPa-His組換えタンパク質をNINTAバイオセンサー上に固定し、示した抗体を20μg/mで添加した。120秒の会合期間(ka)、及びそれに続く120秒の解離期間(kd)の後に値を推定して、親和性定数(KD)を決定した。抗SIRPaは、SIRPaには結合するがSIRPgには結合しないことが分かっている、国際特許出願第PCT/EP2017/059071号に記載の社内用の抗SIRPa抗体に対応する。
【
図7】ヒト単球に対する抗体の結合分析(SIRPaバリアント1(v1/v1)に関するホモ接合体)。SIRP29(△)及びKwar23(●)のヒト単球v1/v1(ヒトFc受容体結合阻害剤抗体で既に染色済)に対する細胞蛍光測定による評価。CantoII血球計算器で、PEで標識されたマウス抗ヒトFc mAbにより顕色を実施し、値は、染色された単球の割合に対応する。ED50は、このアッセイにおいて、シグナルの50%に達するための、示した抗体の濃度である。
【
図8】SIRPaに対する抗体とCD47との競合。一定濃度のビオチン化CD47-Fc(6μg/ml)と共にインキュベートした様々な濃度でのSIRP29(△)及びKwar23(○)の固定されたSIRPa-Hisに対するELISAによる評価。CD47分子を検出するために、ストレプトアビジンペルオキシダーゼにより顕色を実施し、TMB基質を使用する450nmでの比色分析により明らかにした。2回目の実験の結果をIC50値で示す。IC50は、このアッセイにおいて、シグナルの50%を阻害するための、示した抗体の濃度である。
【
図9】未処置に対する、抗SIRPγ抗体(LSB2.20)又は抗SIRPα抗体(社内用の抗体)で処置したGvHDマウスモデルの生存率。対照(○)と処置マウスとの間で生存率を比較した。処置マウスに、4.45mg/Kgの抗SIRPα抗体(×)又は5mg/kgの抗SIRPγ抗体(■)を、腹腔内注射で、21日まで1週間当たり3回投与した。
【
図10】ヒト化GvHDマウスモデルにおけるヒト血液白血球の表現型。
図10A:ヒト白血球生着。それぞれ抗hCD45 PeCy7クローンH130-Cat557748(1/20希釈)及び抗mCD45 PerCpCy5.5クローン30F11-cat550994(1/50希釈)により、総白血球(ヒトCD45+細胞及びマウスCD45+細胞)内での割合を決定した。
図10B:ヒトT細胞生着。抗hCD3 FITCクローンUCHT1-cat555332(1/10希釈)により、割合を決定した。
図10C:NK細胞生着。抗hCD56 Alexa 647クローンB159-cat557711(1/10希釈)により、割合を決定した。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本明細書で使用される場合、用語「抗体」は、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体、又は組換え抗体を指す。
【0013】
本明細書で使用される場合、「モノクローナル抗体」は、アミノ酸配列が異なる抗体の混合物を含む「ポリクローナル」抗体調製物とは対照的に、共通の重鎖アミノ酸配列及び共通の軽鎖アミノ酸配列を共有する抗体である抗体分子の調製物を指すことを意図されている。モノクローナル抗体は、フアージ、細菌、酵母、又はリボソームディスプレイのようないくつかの公知の技術により生成され得、ハイブリドーマ由来の抗体に例示される古典的な方法によっても生成され得る。そのため、用語「モノクローナル」は、1種の核酸クローンに由来する全ての抗体を指すために使用される。
【0014】
本発明の抗体は組換え抗体を含む。本明細書で使用される場合、用語「組換え抗体」は、組換え手段により産生されているか、発現されているか、生成されているか、又は単離されている抗体を指し、例えば、宿主細胞にトランスフェクトされた組換え発現ベクターを使用して発現されている抗体;組換えコンビナトリアル抗体ライブラリーから単離されている抗体;ヒト免疫グロブリン遺伝子に起因してトランスジェニックである動物(例えばマウス)から単離されている抗体;又は特定の免疫グロブリン遺伝子配列(例えばヒト免疫グロブリン遺伝子配列)が他のDNA配列と組み合わされている、任意の他の方法で産生されているか、発現されているか、生成されているか、若しくは単離されている抗体を指す。組換え抗体は、例えば、キメラ抗体及びヒト化抗体を含む。
【0015】
本明細書で使用される場合、「キメラ抗体」は、マウス等の哺乳動物種の生殖細胞系に由来する可変ドメインの配列がヒト等の別の哺乳動物種の生殖細胞系に由来する定常ドメインの配列上に移植されている抗体を指す。
【0016】
ある実施形態では、本発明の抗体はヒト化され得る。
【0017】
本明細書で使用される場合、「ヒト化抗体」は、マウス等の別の哺乳動物種の生殖細胞系に由来するCDR配列がヒトフレームワーク配列上に移植されている抗体を指す。
【0018】
本明細書で使用される場合、「抗体の抗原結合フラグメント」は、おそらく天然型の、SIRPgに対する抗原結合能を示す抗体の一部(即ち、本発明の抗体の構造の一部に対応する分子)を意味し、そのようなフラグメントは、対応する4本鎖抗体の抗原結合特異性と比較して、前記抗原に対して同一の又は実質的に同一の抗原結合特異性を特に示す。有利には、この抗原結合フラグメントは、対応する4本鎖抗体と類似の結合親和性を有する。しかしながら、対応する4本鎖抗体に関する抗原結合親和性が減少した抗原結合フラグメントも本発明に包含される。抗体と標的フラグメントとの間の親和性を測定することにより、抗原結合能を決定し得る。この抗原結合フラグメントはまた、抗体の「機能フラグメント」とも呼ばれ得る。
【0019】
抗体の抗原結合フラグメントは、CDR(相補性決定領域)と呼ばれる超可変ドメイン、又はこの超可変ドメインの、抗原の認識部位(即ち、SIRPgの細胞外ドメイン)を包含する一部を含むフラグメントであり、それにより、抗原認識特異性が定義される。
【0020】
4本鎖免疫グロブリンの各軽鎖可変ドメイン及び重鎖可変ドメイン(それぞれVL及びVH)はそれぞれ、VL-CDR1(又はLCDR1)、VL-CDR2(又はLCDR2)、VL-CDR3(又はLCDR3)、及びVH-CDR1(又はHCDR1)、VH-CDR2(又はHCDR2)、VH-CDR3(又はHCDR3)と呼ばれる3つのCDRを有する。
【0021】
当業者は、抗体の様々な領域/ドメインの位置を、記載されたこの点に関する標準的定義(例えば、KABATのナンバリングシステムへの参照である参照ナンバリングシステム)への参照により決定し得るか、又はIMGT「コリアデパール(collier de perle)」アルゴリズムの適用により決定し得る。この点において、本発明の配列の定義に関して、領域/ドメインの境界は参照システム毎に異なり得ることに留意されたい。従って、本発明で定義される領域/ドメインは、約+/-10%の、抗体の可変ドメインの完全長配列内の該当する配列の長さ又は位置決めの変動を示す配列を包含する。
【0022】
そのため、4本鎖免疫グロブリンの構造に基づいて、抗原結合フラグメントは、利用可能なデータベース及び先行技術における抗体の配列との比較により定義され得、特に、これらの配列における機能ドメインの位置の比較により定義され得、フレームワーク及び定常ドメインの位置は、様々なクラスの抗体(特にIgG、具体的には哺乳動物IgG)に関して十分に定義されていることが留意される。そのような比較には、抗体の3次元構造に関するデータも含まれる。
【0023】
本発明の特定の実施形態の例証目的のために、前記抗体のCDRを含む可変ドメインを含む抗体の抗原結合フラグメントは、Fv、dsFv、scFv、Fab、Fab'、F(ab')2を包含する。Fvフラグメントは、疎水性相互作用により互いに会合した抗体のVLドメイン及びVHドメインからなり、dsFvフラグメントでは、VH:VLヘテロ二量体はジスルフィド結合により安定化し、scFvフラグメントでは、VLドメイン及びVHドメインは柔軟なペプチドリンカーを介して互いに接続されており、そのため一本鎖タンパク質が形成される。Fabフラグメントは、抗体のパパイン消化により得られる単量体フラグメントであり、ジスルフィド結合により互いに結合したL鎖全体及びH鎖のVH-CH1フラグメントを含む。F(ab')2フラグメントは、ヒンジジスルフィドより下の抗体のペプシン消化により生成され得、2個のFab'フラグメントと、更に免疫グロブリン分子のヒンジ領域の一部とを含む。Fab'フラグメントは、ヒンジ領域中のジスルフィド結合を切断することによりF(ab')2フラグメントから得られる。F(ab')2フラグメントは二価であり、即ち天然の免疫グロブリン分子のような2箇所の抗原結合部位を含み、一方で、Fv(Fabの可変部分を構成するVHVL二量体)フラグメント、dsFvフラグメント、scFvフラグメント、Fabフラグメント、及びFab'フラグメントは一価であり、即ち単一の抗原結合部位を含む。本発明のこれらの基本的な抗原結合フラグメントを互いに組み合わせて、多価抗原結合フラグメント(例えば、ダイアボディ、トリアボディ、又はテトラボディ)を得ることができる。これらの多価抗原結合フラグメントも本発明の一部である。
【0024】
本明細書で使用される場合、用語「二重特異性」抗体は、第1の抗原に特異的である少なくとも1つの領域(例えば、第1の抗体の可変領域に由来する)と、第2の抗原に特異的である少なくとも第2の領域(例えば、第2の抗体の可変領域に由来する)とを持つことにより2種の異なる抗原を認識する抗体を指す。二重特異性抗体は2種の標的抗原に特異的に結合し、そのため多重特性抗体の一種である。2種以上の異なる抗原を認識する多重特異性抗体は、組換えDNA法により製造され得るか、又は任意の便利な方法により化学的に製造された抗体が挙げられるがこれに限定されない。二重特異性抗体は、全ての抗体若しくは抗体のコンジュゲート、又は2種の異なる抗原を認識し得る抗体のポリマー型を含む。二重特異性抗体として、その二価特性を保持するように還元されて再編成されている抗体、及び各抗原に対していくつかの抗原認識部位を持ち得るように化学的に結合されている抗体が挙げられ、例えば、BiME(二重特異性マクロファージ増強抗体)、BiTE(二重特異性T細胞エンゲージャー)、DART(デュアルアフィニティリターゲティング(Dual affinity retargeting));DNL(ドックアンドロック(dock-and-lock))、DVD-Ig(デュアル可変ドメイン免疫グロブリン)が挙げられる。
【0025】
従って、本発明の二重特異性抗体は、SIRPg及び第2の抗原に対するものである。
【0026】
ある実施形態では、抗SIRPg抗体若しくはその抗原結合フラグメント又は抗原結合抗体模倣物は二重特異性である。
【0027】
治療用抗体を開発するためのいくつかの研究により、抗体特性を最適化するためにFc領域が操作され、治療用抗体に必要な薬理活性により適している分子の生成が可能になった。抗体のFc領域は血清半減期及びエフェクター機能を媒介し、例えば、補体依存性細胞傷害(CDC)、抗体依存性細胞傷害(ADCC)、及び抗体依存性細胞食作用(ADCP)を媒介する。CH2ドメインとCH3ドメインとの間の界面に位置するいくつかの変異(例えば、T250Q/M428L及びM252Y/S254T/T256E+H433K/N434F)は、インビボで、FcRnに対する結合親和性及びIgG1の半減期を増加させることが分かっている。しかしながら、FcRn結合の増加と半減期の改善との間に直接的な関係が必ずしも存在するとは限らない。治療用抗体の有効性を改善するための1つのアプローチは、この治療用抗体の血清残留性を高めることであり、それにより、より高い循環レベル、より少ない投与頻度、及び用量の減少が可能になる。抗体のエフェクター機能を減少させるか、又は増加させるためには、Fc領域を操作することが望ましい場合がある。細胞表面分子(特に免疫細胞上の分子)を標的とする抗体の場合、エフェクター機能を抑制する必要がある。逆に、腫瘍学的使用が意図された抗体の場合、エフェクター機能の増加により治療活性が改善され得る。4種のヒトIgGアイソタイプは、様々な親和性で、活性化Fcγ受容体(FcγRI、FcγRIIa、FcγRIIIa)、抑制性FcγRIIb受容体、及び補体の第1の成分(C1q)に結合し、非常に異なるエフェクター機能が生じる。FcγR又はC1qへのIgGの結合は、ヒンジ領域及びCH2ドメインに位置する残基に依存する。CH2ドメインの2つの領域は、FcγR及びC1qの結合に重要であり、IgG2及びIgG4中に固有の配列を有する。
【0028】
本明細書で使用される場合、「改変抗体」は、抗体又はその抗原結合フラグメントを含む分子に対応し、前記モノクローナル抗体又はその機能的フラグメントは、機能が異なる分子と会合している。本発明の改変抗体は、抗体又は機能的フラグメントの安定性及び/又は半減期の改善のために、任意の適切な形の付着(例えば、共有結合的付着、移植、化学基若しくは生物学基との又は分子(例えば、PEGポリマー、若しくは別の保護基、若しくはインビボでのプロテアーゼ開裂に対する保護に適した分子)との化学結合)から生じる融合キメラタンパク質又はコンジュゲートであり得る。同様の技術により(特に、化学的カップリング又は移植により)、生物学的に活性な分子により改変抗体を調製し得、前記活性な分子は、例えば、毒素(具体的には、シュードモナス(Pseudomonas)外毒素A、植物毒素リシン又はサポリン毒素のA鎖)、特に治療有効成分、人体の特定の細胞又は組織への抗体又は機能的フラグメントのターゲティングに適したベクター(特にタンパク質ベクターを含む)の中から選択されるか、又はこの改変抗体は、特に抗体のフラグメントが使用される場合には、標識又はリンカーと会合され得る。抗体又はその機能的フラグメントのPEG化は、特に治療用途の場合に宿主への活性物質の送達条件が改善されることから、特に興味深い実施形態である。PEG化は、抗体又は機能的フラグメントの認識部位との干渉を予防するために部位特異的であり得、高分子量PEGにより実施され得る。抗体若しくは機能的フラグメントの配列中に存在する遊離システイン残基を介して、又は抗体若しくは機能的フラグメントのアミノ酸配列中の付加された遊離システイン残基を介して、PEG化を達成し得る。
【0029】
ある実施形態では、抗SIRPg抗体若しくはその抗原結合フラグメント又は抗原結合抗体模倣物は改変されている。
【0030】
本発明の高分子は、抗体及びそのフラグメントを含むが、抗体のものを模倣する抗原に結合する能力を有する人工タンパク質(本明細書では抗原結合抗体模倣物と呼ばれる)も含む。
【0031】
抗原結合抗体模倣物は、抗原に特異的に結合するが抗体と構造的に関連していない有機化合物である。抗原結合抗体模倣物は通常、約3~20kDaの分子量を有する人工のペプチド又は小さいタンパク質である。核酸及び小分子が抗体模倣物と見なされることもあるが、人工抗体、抗体フラグメント、及びこれらから構成される融合タンパク質は抗体模倣物とは見なされない。抗体を超える一般的な利点は、より良好な溶解性、組織浸透、熱及び酵素に対する安定性、並びに比較的低い製造コストである。抗体模倣物は、治療薬及び診断薬として開発されている。抗原結合抗体模倣物はまた、アフィボディ(affibody)、アフィリン(affilin)、アフィマー(affimer)、アフィチン(affitin)、DARPin、及びモノボディ(Monobody)を含む群からも選択され得る。
【0032】
抗原結合抗体模倣物は、アフィチン及びアンチカリン(anticalin)を含む群からより優先的に選択される。アフィチンは、抗原に選択的に結合する能力を有する人工タンパク質である。アフィチンは、古細菌ドメインに属する微生物であるスルホロブス・アシドカルダリウス(Sulfolobus acidocaldarius)で見られるDNA結合タンパク質Sac7dに構造的に由来する。Sac7dの結合表面上のアミノ酸を無作為化することにより、例えば、Sac7dの結合界面の11個の残基のランダム置換に対応するバリアントを生成することにより、アフィチンライブラリーを生成して、得られたタンパク質ライブラリーを一連のリボソームディスプレイに供し得、親和性を様々な標的(例えば、ペプチド、タンパク質、ウイルス、及び細菌)に向けることができる。アフィチンは抗体模倣物であり、生物工学におけるツールとして開発されている。アフィチンはまた、様々な酵素の特異的阻害剤としても使用されている(Krehenbrinkら、J. mol. Biol.、383:5、2008)。当業者は、当分野で公知の方法を使用して(具体的には、特許出願国際公開第2008068637号パンフレット及び上記で引用した刊行物で開示されているように、具体的には、ファージディスプレイライブラリー及び/又はリボソームディスプレイライブラリーの生成並びに本明細書で開示された抗原を使用するそれらのスクリーニングを使用して)、必要な結合特性を有するアフィチンを容易に開発し得る。アンチカリンは、抗原(タンパク質又は小分子のいずれか)に結合し得る人工タンパク質である。アンチカリンは、自然に結合するタンパク質のファミリーであるヒトリポカリンに由来する抗体模倣物である。アンチカリンは約8倍小さく、サイズは約180個のアミノ酸であり、質量は約20kDaである(Skerra、Febs J.、275:11、2008)。具合的には特異的結合特性を有するアンチカリンのスクリーニング及び選択を可能にするアンチカリンファージディスプレイライブラリーが生成されている。当業者は、当分野で公知の方法を使用して(具体的には、欧州特許第1270725B1号明細書、米国特許第8536307B2号明細書、Schlehuber及びSkerra、Biophys. Chem.、96:2-3、2002、並びに上記で引用した刊行物で開示されているように、具体的には、ファージディスプレイライブラリー及び/又はリボソームディスプレイライブラリーの生成並びに本明細書で開示された抗原を使用するそれらのスクリーニングを使用して)、必要な結合特性を有するアンチカリンを容易に開発し得る。アンチカリン及びアフィチンは両方とも、細菌発現系を含む多くの発現系で産生され得る。そのため、本発明は、(具体的には、SIRPgへの結合に関して、SIRPgへのCD47の結合の阻害に関して)本明細書で説明された抗体の特徴を有するアフィチン、アンチカリン、及び他の類似の抗体模倣物を含み、これらは全て、本発明の高分子として企図されている。
【0033】
抗体又はそのフラグメントに関して本明細書で開示された全ての実施形態は、必要な変更を加えて、本発明の高分子(具体的には、抗原結合抗体模倣物)に置き換えられる。
【0034】
本明細書で使用される場合、用語「エピトープ」は、抗原において抗体が結合する部分を意味する。タンパク質抗原のエピトープは、立体構造エピトープと直鎖状エピトープとの2つのカテゴリに分類され得る。立体構造エピトープは、抗原のアミノ酸配列の不連続部分に対応する。直鎖状エピトープは、抗原からのアミノ酸の連続配列に対応する。
【0035】
本発明では、SIRPg内に存在し、抗SIRPg抗体が結合するペプチドは、この抗体により特異的に認識されるエピトープを構成する。
【0036】
本明細書で使用される場合、用語「SIRPg」は、哺乳動物種由来のSIRPg(好ましくはヒトSIRPg)に関する。
【0037】
ヒトSIRPgタンパク質の参照配列は、受託番号Q9P1W8又はNM 018556に関連する配列に対応する。
【0038】
「抗SIRPg抗体」は、SIRPgに対して相当な結合親和性を示し、SIRPaに対して相当な結合親和性を示してもよいし示さなくてもよい抗体であり、結合親和性は、いずれの場合でも、限定されないがBiacore分析、Blitz分析、ELISAアッセイ、又はScatchardプロットのような当分野で公知の方法により検出可能である。「抗SIRPg抗体」はまた、SIRPgに対して相当な結合親和性を示し、CD47とSIRPgとの間の相互作用をブロックする抗体としても定義され得る。特定の実施形態では、そのような抗体は、SIRPaに対して相当な親和性結合も示し得、CD47とSIRPaとの間の相互作用をブロックし得る。「相互作用をブロックする」は、抗体がCD47/SIRPg相互作用へのアンタゴニスト効果を有し、特定の実施形態では、CD47/SIRPa相互作用へのアンタゴニスト効果を有すると理解すべきである。
【0039】
抗体又はその抗原結合フラグメントとエピトープ(又はこのエピトープを含む領域)との間の特異的結合は、抗体が特定のタンパク質又は抗原(本明細書ではSIRPg)上のエピトープ(このエピトープを含む領域)に対して相当な親和性を示すことを意味する。「相当な親和性」又は「特異的結合」又は「特異的に結合する」は、約10-8M(KD)以上の親和性での結合を含む。好ましくは、結合親和性が10-8M(KD)~10-12M(KD)であり、任意選択により10-8M(KD)~10-10M(KD)であり、具体的には少なくとも10-8M(KD)である場合には、結合は特異的であると見なされる。結合ドメインが標的と特異的に反応するかどうか、又は結合するかどうかを、特に、前記結合ドメインと標的のタンパク質又は抗原との反応を、前記結合ドメインと標的タンパク質以外のタンパク質又は抗原との反応と比較することにより容易に試験し得る。用語「特異的結合」又は「特異的に結合する」は、抗体が単一の標的分子を認識して結合することを意味せず、抗体が、他の分子と比較して標的分子に対して高い結合親和性を有し、具体的には、本明細書の上記で詳述した所与の親和性よりも高い標的分子に対する結合親和性を有することを意味する。否定形で使用される場合、用語「特異的結合」又は「特異的に結合する」は、抗体が低親和性で標的分子を認識するか、又は標的分子を認識しないことを意味し、即ち、抗体と標的分子との間の結合が特異的ではないことを意味する。好ましくは、結合親和性が10-8M(KD)未満である場合には、結合は特異的ではないと認識される。結合が特異的であると見なされ得る限りでは、比較される分子は、具体的にはSIRPg及びSIRPaである。
【0040】
親和性を、当業者に公知の様々な方法により決定し得る。この方法として、Biacore分析、Blitz分析、及びScatchardプロットが挙げられるがこれらに限定されない。
【0041】
ある実施形態では、抗SIRPg抗体若しくはその抗原結合フラグメント又は抗原結合抗体模倣物は、具体的にはBlitz分析により、SIRPgに対して10-8M未満のKD値を有し、好ましくは10-9M未満のKD値を有する。
【0042】
本発明の抗SIRPg抗体若しくはその抗原結合フラグメント又は抗原結合抗体模倣物は、SIRPgへのCD47の結合を顕著に阻害するか、減少させるか、拮抗するか、又は競合する。
【0043】
このアンタゴニスト効果を、本出願の実施例で定義された方法を使用して決定し得る。
【0044】
本発明では、抗体(若しくはその抗原結合フラグメント又は抗原結合抗体模倣物)が、BlitzによるSIRPg結合競合アッセイにおけるCD47のKD値の1log超、好ましくは2log超、より好ましくは3log超、最も好ましくは4log超の増加を誘発する場合には、前記抗体(若しくはその抗原結合フラグメント又は抗原結合抗体模倣物)がSIRPgへのCD47の結合を阻害すると見なし得る。
【0045】
本発明は、アンタゴニストSIRPg抗体が、T細胞が悪影響を及ぼす疾患又は障害(具体的には、自己免疫疾患、慢性炎症性疾患、慢性神経炎症性疾患、免疫性代謝疾患、全身性炎症により引き起こされる心血管疾患、又は移植片機能障害)と関連する症状の処置、予防に有用であり得、それにより具体的にはこの症状の包括的な阻害、進行の遅延、又は軽減に有用であり得るという本発明者らにより行なわれた予想外の観察に基づく。本発明の特定の実施形態では、移植片機能障害には移植片拒絶が含まれない。
【0046】
従って、T細胞が悪影響を及ぼす疾患又は障害には、T細胞の増殖及び/又は活性化が悪影響を及ぼすあらゆる疾患又は障害が含まれる。
【0047】
アンタゴニストSIRPg抗体はT細胞の増殖を減少させ得るか、又は阻害し得ることから、このアンタゴニストSIRPg抗体は免疫抑制環境に好都合であり得、自己免疫障害若しくは自己免疫疾患、移植片機能障害、又は炎症性疾患の処置に有用であり得る。実際には、免疫反応は損傷又は疾患に対する宿主の正常で防御的な反応であるが、宿主の細胞に敵対する場合には、望ましくない損傷を引き起こす可能性もある。
【0048】
ある実施形態では、本発明は、疾患又は障害の処置及び/又は予防(疾患又は障害の発症の遅延を含む)での使用のための、上記で定義された抗SIRPg抗体若しくはその抗原結合フラグメント又は抗原結合抗体模倣物であって、疾患又は障害は、
- 自己免疫疾患、具体的には関節リウマチ、1型糖尿病、ループス、乾癬、
- 慢性炎症性疾患、具体的には炎症性腸疾患、例えばクローン病及び潰瘍性大腸炎、
- 慢性神経炎症性疾患、具体的には多発性硬化症、脳脊髄炎、
- 免疫性代謝疾患、具体的にはII型糖尿病、
- 全身性炎症により引き起こされる心血管疾患、具体的には粥状動脈硬化、及び
- 移植片機能障害、具体的には移植片対宿主疾患
からなる群から選択される、抗SIRPg抗体若しくはその抗原結合フラグメント又は抗原結合抗体模倣物に関する。
【0049】
具体的には、上記で定義された抗SIRPg抗体若しくはその抗原結合フラグメント又は抗原結合抗体模倣物は、SIRPg-CD47経路を阻害し、具体的にはT細胞の増殖及び/又は活性化を阻害する。
【0050】
SIRPgとSIRPaとの間の配列の類似性に起因して、具体的には、CD47と相互作用する領域において、いくつかの抗SIRPg抗体はまた、SIRPaとも結合し得、類似の及び/又は補足的な治療効果を示す。
【0051】
特定の実施形態では、本発明は、上記で定義された使用のための、上記で定義された抗SIRPg抗体若しくはその抗原結合フラグメント又は抗原結合抗体模倣物であって、SIRPaに特異的に結合する抗SIRPg抗体若しくはその抗原結合フラグメント又は抗原結合抗体模倣物に関する。
【0052】
或いは、本発明者らは、いくつかの抗SIRPg抗体がSIRPgに対して特異的であり、従ってSIRPaを認識しないか、又はSIRPaに特異的に結合し得ないことを示している。従って、別の特定の実施形態では、本発明は、上記で定義された使用のための、上記で定義された抗SIRPg抗体若しくはその抗原結合フラグメント又は抗原結合抗体模倣物であって、SIRPaに特異的に結合せず、従ってCD47とSIRPaとの間の相互作用をブロックしない抗SIRPg抗体若しくはその抗原結合フラグメント又は抗原結合抗体模倣物に関する。
【0053】
SIRPaは、単球、組織マクロファージのほとんどの亜集団、顆粒球、リンパ系組織中における樹状細胞のサブセット、一部の骨髄前駆細胞で発現され、ニューロンにより様々なレベルで発現され、脳のシナプスリッチ領域(例えば、小脳及び海馬の顆粒層)で著しく高く発現される。ヒトSIRPaをコードする遺伝子は多型遺伝子であり、ヒト集団においていくつかのバリアントが説明された。最も一般的なタンパク質バリアントは、SIRPa v1及びv2(受託番号NP_542970(P78324)及びCAA71403)である。ヒトSIRPの多型は、表面に露出したアミノ酸に変化をもたらすが、CD47への結合には影響を及ぼさない。
【0054】
CD47とのSIRPa相互作用は大部分が説明されており、宿主細胞の食作用を阻害する下方制御シグナルを生じる。CD47は、ほとんどの健康細胞により低レベルで広く発現されているが、一部の癌細胞中でも過剰発現されている。従って、CD47は、「私を食べるな(don't-eat-me)」シグナルとして機能する。CD47は「私を食べるな」シグナルとして機能し、それ自体が、マクロファージによる宿主細胞の食作用の重要な決定因子であることから、近年では、癌細胞のクリアランスにおけるCD47-SIRPa相互作用の潜在的な寄与が熱心に調査されている。
【0055】
本明細書で使用される場合、用語「SIRPa」は哺乳動物種由来のSIRPaタンパク質を指し、好ましくはヒトSIRPa(例えば、受託番号NP_542970(P78324)及びCAA71403)を指す。
【0056】
本発明によれば、抗SIRPg抗体は、SIRPg(具体的にはヒトSIRPg)には特異的に結合するがSIRPa(具体的にはヒトSIRPa)には特異的に結合しない抗体(市販の抗体LSB2.20により例示される、Biolegend(登録商標)の参照336606)、又はSIRPg及びSIRPa(具体的にはヒトSIRPg及びヒトSIRPa)に結合する抗体(市販の抗体Kwar23により例示される、Creative Biolabs社の参照TAB-453CT)のいずれかである。
【0057】
ある実施形態では、抗SIRPg抗体若しくはその抗原結合フラグメント又は抗原結合抗体模倣物は、具体的にはBlitz分析により、SIRPaに対して10-8M未満のKD値を有し、好ましくは10-9M未満のKD値を有する。
【0058】
特定の実施形態では、抗SIRPg抗体若しくはその抗原結合フラグメント又は抗原結合模倣物は10-8M未満のKD値を有し、好ましくは、SIRPgに対して10-9M未満のKD値を有し、SIRPaに対して10-8M未満のKD値を有する。
【0059】
ある実施形態では、抗SIRPg抗体若しくはその抗原結合フラグメント又は抗原結合抗体模倣物は、SIRPaアイソフォームv1及びv2の両方に特異的に結合する。
【0060】
特定の実施形態では、抗SIRPg抗体若しくはその抗原結合フラグメント又は抗原結合抗体模倣物は、SIRPa v1に特異的に結合する。
【0061】
特定の実施形態では、本発明は、SIRPa v2に特異的に結合する抗SIRPa抗体若しくはその抗原結合フラグメント又は抗原結合抗体模倣物に関する。
【0062】
特定の実施形態では、本発明は、上記で定義された使用のための、上記で定義された抗SIRPg抗体若しくはその抗原結合フラグメント又は抗原結合抗体模倣物であって、SIRPaに特異的に結合してSIRPaへのCD47の結合を減少させ、具体的には、SIRPaの機能的アンタゴニスト又はSIRPaの機能的アゴニストである抗SIRPg抗体若しくはその抗原結合フラグメント又は抗原結合抗体模倣物に関する。
【0063】
本明細書で使用される場合、用語「SIRPaの機能的アンタゴニスト」は、SIRPa-CD47経路を阻害し得るあらゆる分子を指す。
【0064】
本明細書で使用される場合、用語「SIRPaの機能的アゴニスト」は、SIRPa-CD47経路を活性化させ得るあらゆる分子を指す。
【0065】
実際には、本発明者らは、骨髄由来サプレッサー細胞(MDSC)が、細胞傷害性NK細胞表現型を有する非抑制細胞の新規で予想外の集団に分化し得ること、及びシグナル調節タンパク質アルファ(SIRPa)が、分化のこの道を強く制御することを既に示している。
【0066】
具体的には、SIRPaのアンタゴニストは、骨髄由来サプレッサー細胞の非抑制細胞への分化を誘導し得、単球骨髄由来サプレッサー細胞(Mo-MDSC)の非抑制細胞への分化により改善されやすい又は予防されやすいあらゆる状態の処置及び/又は予防で使用され得る。
【0067】
本明細書で定義される場合、「単球骨髄由来サプレッサー細胞(Mo-MDSC)の非抑制細胞への分化により改善されやすい又は予防されやすい状態」は下記に対応する:癌、感染性疾患、外傷、自己免疫疾患(例えば関節リウマチ、1型糖尿病、ループス、乾癬)、ワクチン接種、慢性炎症性疾患(例えば炎症性腸疾患、例えばクローン病及び潰瘍性大腸炎)、敗血症性ショック、慢性感染性疾患(例えば、シュードモナス(Pseudomonas)又はCMVによる)、線維症、粥状動脈硬化、又は移植片対宿主疾患のような移植片機能障害。
【0068】
ある実施形態では、抗SIRPg抗体若しくはその抗原結合フラグメント又は抗原結合抗体模倣物は、SIRPaとCD47との間の相互作用を減少させる。
【0069】
ある実施形態では、抗SIRPg抗体若しくはその抗原結合フラグメント又は抗原結合抗体模倣物は、部分的に又は完全に(具体的には完全に)、SIRPaへのCD47の結合(具体的にはヒトSIRPaへのヒトCD47の結合)を阻害する。SIRPaに特異的に結合してヒトSIRPaへのヒトCD47の結合を顕著に減少させ、SIRPaの機能的アンタゴニストであるそのような本発明の抗SIRPg抗体若しくはその抗原結合フラグメント又は抗原結合抗体は、骨髄由来サプレッサー細胞の存在が有害である、自己免疫疾患の予防及び/若しくは処置並びに/又は移植片対宿主疾患のような移植片機能障害の処置で有用であり得る。
【0070】
そのような抗体は、二重アンタゴニストSIRPg/SIRPa抗体に対応する。二重アンタゴニストSIRPg/SIRPa抗体の一例は、抗体Kwar23(Creative Biolabs社:カタログ番号: TAB-453CT)である。そのような抗体はまた、参照国際公開第2015138600号パンフレットで公開された特許出願でも説明されており、この抗体がSIRPaに結合することが開示されている。本明細書で開示された抗体がSIRPgにも結合し得、本発明の実施例で詳述されるようにCD47/SIRPg相互作用を破壊し得ることを本発明者らが初めて示す。従って、本発明者らは本発明において初めて、SIRPg-CD47相互作用に、いくつかの抗SIRPa抗体(具体的にはKwar23抗体)のアンタゴニスト特性をもたらすSIRPgへの結合能力を示す。そのような抗体は、SIRPg-CD47相互作用へのアンタゴニスト効果に起因して、T細胞増殖の阻害に対して活性であり得る。本発明の特定の実施形態では、そのような抗体の使用により、陰性対照と比較してT細胞の増殖が減少するか、又は阻害され、具体的には、T細胞の増殖の減少又は阻害は20%を超える。
【0071】
KWAR23可変重鎖(VH)
EVQLQQSGAELVKPGASVKLSCTASGFNIKDYYIHWVQQRTEQGLEWIGRIDPEDGETKYAPKFQDKATITADTSSNTAYLHLSSLTSEDTAVYYCARWGAYWGQGTLVTVSS (配列番号1)
【0072】
KWAR23可変重鎖のCDR(IMGTにより定義される)
CDR-H1: GFNIKDYY (配列番号2)
CDR-H2: IDPEDGET (配列番号3)
CDR-H3: ARWGAY (配列番号4)
【0073】
KWAR23可変軽鎖 (VL)
QIVLTQSPAIMSASPGEKVTLTCSASSSVSSSYLYWYQQKPGSSPKLWIYSTSNLASGVPARFSGSGSGTSYSLTISSMEAEDAASYFCHQWSSYPRTFGAGTKLELK (配列番号5)
【0074】
KWAR23可変軽鎖のCDR(IMGTにより定義される)
CDR-L1: SSVSSSY (配列番号6)
CDR-L2: STS (配列番号8)
CDR-L3: HQWSSYPRT (配列番号7)
【0075】
特定の実施形態では、本発明は、上記で定義された使用のための、抗SIRPg抗体若しくはその抗原結合フラグメント又は抗原結合抗体模倣物であって、SIRPaに特異的に結合してSIRPaへのCD47の結合を増加させる抗SIRPg抗体若しくはその抗原結合フラグメント又は抗原結合抗体模倣物に関する。
【0076】
実際には、SIRPaはチェックポイント阻害剤として機能し、マクロファージの極性化に関与する。具体的には、SIRPaの活性化により、2型マクロファージに関連するマクロファージの抗炎症機能が誘発され(M2型高食作用活性=M(IL4))、マクロファージの抑制活性が促進され、なぜならば、マクロファージの抗炎症プロファイルは1型マクロファージを犠牲にして得られるからである(M1炎症性=M(IFNg))。そのため、SIRPaのアゴニストは、マクロファージのM2表現型の極性化を促進し得、及び/又は炎症性M1型マクロファージ機能を阻害し得、特に免疫抑制療法のための治療で使用され得る。
【0077】
ある実施形態では、SIRPg抗体若しくはその抗原結合フラグメント又は抗原結合抗体模倣物は、SIRPaへのCD47の結合(具体的には、ヒトSIRPaへのヒトCD47の結合)を増加させる。
【0078】
本発明の別の態様では、本発明者らは、或いは、SIRPg-CD47相互作用のアンタゴニストでもあり(即ち、名称LSB2.20(Biolegend社の参照336606)で公知である抗体)、SIRPgには特異的に結合するがSIRPaには特異的に結合しないこと及びSIRPg/CD47相互作用へのアンタゴニスト特性を有することが確認された抗体を選択している。換言すると、LSB2.20はSIRPaと交差反応しないことを示している。そのような抗体又は抗原結合フラグメントは、SIRPgとSIRPaとの両方を認識する交差反応抗体と比べてT細胞増殖の阻害に強い影響を及ぼし得る。従って、本発明はまた、SIRPgへのCD47の結合を阻害し、及び/又はT細胞の増殖を阻害し、SIRPaに特異的に結合せず、及び/又はSIRPaへのCD47の結合を阻害しない抗SIRPg抗体若しくはその抗原結合フラグメント又は抗原結合抗体模倣物も包含し、具体的には、SIRPgへのCD47の結合を阻害し、T細胞(具体的にはCD4+T細胞)の増殖を阻害し、SIRPaに特異的に結合せず、SIRPaへのCD47の結合を阻害しない抗体若しくはその抗原結合フラグメント又は抗原結合抗体模倣物を包含する。抗CD47抗体の代わりにそのような抗SIRPg抗体が使用される場合には、T細胞の増殖の阻害がより重要であり得ることに留意すべきである。本発明の特定の実施形態では、そのような抗体の使用により、陰性対照と比較してT細胞の増殖が減少するか、又は阻害され、具体的には、T細胞の増殖の減少又は阻害は20%超であり、より優先的には50%超であり、最も優先的には70%超である。
【0079】
特定の実施形態では、本発明は、そのため、上記で定義された使用ための、抗SIRPg抗体若しくはその抗原結合フラグメント又は抗原結合抗体模倣物であって、SIRPaに特異的に結合しない抗SIRPg抗体若しくはその抗原結合フラグメント又は抗原結合抗体模倣物に関する。
【0080】
特定の実施形態では、抗SIRPg抗体若しくはその抗原結合フラグメント又は抗原結合模倣物は、SIRPgに対して約10-8以下のKD値を有し、SIRPaに対して10-8超のKD値を有する。
【0081】
抗体若しくはその抗原結合フラグメント又は抗原結合抗体模倣物を様々な適切な経路で対象に投与し得、例えば、静脈内(IV)、皮下(SC)、又は筋肉内(IM)で対象に投与し得る。
【0082】
抗体若しくはその抗原結合フラグメント又は抗原結合抗体模倣物を、単独で投与し得るか、又は別の治療薬(例えば、第2のヒトモノクローナル抗体若しくはその抗原結合フラグメント)と組み合わせて投与し得る。別の例では、抗体を、治療用細胞組成物及び同類のものと組み合わせて、別の薬剤(例えば、免疫抑制剤、赤血球生成刺激剤(ESA))と共に投与する。
【0083】
ある実施形態では、本発明は、上記で定義された使用のための、抗SIRPg抗体若しくはその抗原結合フラグメント又は抗原結合抗体模倣物であって、抗SIRPg抗体若しくはその抗原結合フラグメントは第2の治療薬と組み合わされる、抗SIRPg抗体若しくはその抗原結合フラグメント又は抗原結合抗体模倣物に関する。
【0084】
この第2の薬剤の投与は、抗SIRPg抗体の投与と同時であり得るか、又は同時であり得ない。この第2の薬剤の性質に応じて、「コンボ(combo)」としても公知である組合せ薬剤の形で共投与物を調製し得る。コンボとは、単一の剤形で組み合わせた2種以上の活性医薬成分を含む固定用量の組合せであり、固定用量で製造されて配布される。用量レジメン及び/又は投与経路も異なり得る。
【0085】
好ましい実施形態では、この第2の治療薬は、免疫療法剤、免疫抑制剤、抗生物質、及びプロバイオティクスからなる群から選択される。
【0086】
好ましい実施形態では、この第2の治療薬は、シクロスポリンA、タクロリムス、ミコフェノール酸モフェチル、ラパマイシン、ステロイド、抗TNF剤、抗IL-23剤からなる群から選択される免疫抑制剤である。
【0087】
本発明はまた、医薬としての同時の、別々の、又は逐次的な使用のための、具体的には、T細胞の活性化及び/又は増殖が悪影響を及ぼす疾患又は障害の予防及び/又は処置のための組合せ製品であって、
- 上記で定義された少なくとも1種の抗ヒトSIRPg抗体若しくはその抗原結合フラグメント又は抗原結合抗体模倣物と、
- 免疫療法剤、免疫抑制剤、抗生物質、及びプロバイオティクスからなる群から選択される少なくとも1種の第2の治療薬と
を含む、組合せ製品にも関する。
【0088】
抗体は、約1ng/kg体重~約30mg/kg体重又はより多くの有効用量で投与され得る。具体的な実施形態では、投与量は1μg/kgから約20mg/kgの範囲であり得、任意選択により10μg/kg~10mg/kg又は100μg/kg~5mg/kgの範囲であり得る。
【0089】
用語「有効用量」又は「有効投与量」又は「有効量」は、所望の効果を達成するのに又は少なくとも部分的に達成するのに十分な量と定義される。用語「有効用量」は、既に疾患に苦しめられている患者の疾患及びその合併症を治癒するか、又は少なくとも部分的に抑止するのに十分な量を包含することを意味する。この使用に有効な量又は用量は、処置される状態、送達される抗体構築物、治療の状況及び目的、疾患の重症度、以前の治療、患者の臨床歴及び治療薬への応答、投与経路、サイズ(体重、体表面及び臓器のサイズ)、並びに/又は患者の状態(年齢、全体的な健康)、並びに患者自身の免疫系の一般的な状態に依存するだろう。一度の又は一連の投与で患者に投与され得るように、最適な治療効果を得るために、適切な用量を調整し得る。
【0090】
そのような目的のための投与を必要に応じて繰り返してもよく、例えば、毎日、半週毎に、毎週、半月毎に、毎月、又は再発中に必要に応じて繰り返してもよい。
【0091】
ある態様では、本発明は、本発明の抗体、そのような抗体の抗原結合フラグメント又は模倣物を選択する方法であって、
a.抗体、そのような抗体の抗原結合フラグメント又は模倣物の、SIRPgに結合する能力を(例えば、実施例で説明されている方法に従って)試験する工程;
b.抗体、そのような抗体の抗原結合フラグメント又は模倣物の、SIRPgへのCD47の結合を減少させる能力を(例えば、実施例で説明されている方法に従って)試験する工程;
c.抗体、そのような抗体の抗原結合フラグメント又は模倣物の、SIRPaに結合する能力を(例えば、実施例で説明されている方法に従って)試験する工程;
d.抗体、そのような抗体の抗原結合フラグメント又は模倣物の、SIRPaへのCD47の結合を減少させるか又は増加させる能力を(例えば、実施例で説明されている方法に従って)試験する工程
のうちの少なくとも1つを含むか、又はからなり、
任意選択により、
- ヒトSIRPgへのヒトCD47の結合を顕著に阻害し、具体的にはヒトSIRPaに特異的に結合し、より具体的には、ヒトSIRPaへのヒトCD47の結合を顕著に減少させる抗体、そのような抗体の抗原結合フラグメント又は模倣物を選択する工程
を含む方法に関する。
【0092】
本発明の特定の実施形態では、抗体は、ヒトSIRPaへのヒトCD47の結合を顕著に増加させる。
【0093】
ある態様では、本発明はまた、診断試験での使用のための、具体的には個別化医療での使用のための、より具体的にはコンパニオン診断試験での使用のための、上記で定義された抗SIRPg抗体若しくはその抗原結合フラグメント又は抗原結合抗体模倣物にも関する。
【0094】
ある実施形態では、本発明は、上記で定義された抗SIRPg抗体若しくはその抗原結合フラグメント又は抗原結合抗体模倣物を使用する診断の方法に関し、具体的には個別化医療の方法に関し、より具体的にはコンパニオン診断試験の方法に関する。
【0095】
ある実施形態では、本発明は、診断試験用の医薬の製造での、具体的には個別化医療での、より具体的にはコンパニオン診断試験での、上記で定義された抗SIRPg抗体若しくはその抗原結合フラグメント又は抗原結合抗体模倣物の使用に関する。
【0096】
ある態様では、本発明はまた、対象の生体サンプル中におけるSIRPgの発現及び/又は発現レベルの決定のための手段としての、具体的には、ヒトSIRPaと交差反応しない抗ヒトSIRPg抗体又はその抗原結合フラグメントとの、本発明の少なくとも1種の抗ヒトSIRPg抗体若しくはその抗原結合フラグメント又は抗原結合抗体模倣物の使用にも関する。
【0097】
本発明はまた、対象の生体サンプルから前記対象中におけるSIRPg陽性細胞を決定するためのインビトロでの又はエキソビボでの方法であって、
i)具体的には、ヒトSIRPaと交差反応しない抗ヒトSIRPg抗体又はその抗原結合フラグメントと共に、本発明の抗ヒトSIRPg抗体若しくはその抗原結合フラグメント又は抗原結合抗体模倣物を使用して、前記対象の生体サンプル中におけるSIRPgの発現及び/又は発現レベルをインビトロで決定する工程
を含む方法にも関する。
【0098】
本発明はまた、対象における処置に対する応答を予測するバイオマーカーとしてSIRPgが使用される方法での、具体的には、ヒトSIRPaと交差反応しない抗ヒトSIRPg抗体又はその抗原結合フラグメントとの、本発明の少なくとも1種の抗ヒトSIRPg抗体若しくはその抗原結合フラグメント又は抗原結合抗体模倣物の使用にも関する。
【0099】
本発明はまた、処置に対する対象の応答、具体的には本発明の抗ヒトSIRPg抗体若しくはその抗原結合フラグメント又は抗原結合抗体模倣物による、具体的には、ヒトSIRPaと交差反応しない抗ヒトSIRPg抗体若しくはその抗原結合フラグメントによる処置に対する対象の応答を予測するインビトロでの方法であって、
- 具体的には本発明の抗ヒトSIRPg抗体若しくはその抗原結合フラグメント又は抗原結合抗体模倣物により、対象のサンプル中におけるSIRPgの発現レベルを決定する工程と、
- このSIRPgの発現レベルを、非応答対象集団におけるSIRPgの発現レベルを表す値と比較する工程と
を含み、
対象のサンプル中におけるSIRPgのより高い発現レベルは、処置に応答する対象を示す、方法にも関する。
【0100】
本発明は又は、ヒト対象においてT細胞増殖が悪影響を及ぼす疾患又は障害を処置する又は予防する方法であって、抗SIRPg抗体若しくはその抗原結合フラグメント又は抗原結合抗体模倣物を対象に投与することによるヒトSIRPgへのヒトCD47の結合の阻害工程を含み、T細胞増殖が悪影響を及ぼす疾患又は障害は、
- 自己免疫疾患、具体的には関節リウマチ、I型糖尿病、ループス、乾癬、
- 慢性炎症性疾患、具体的には炎症性腸疾患、例えばクローン病及び潰瘍性大腸炎、
- 慢性神経炎症性疾患、具体的には多発性硬化症、脳脊髄炎、
- 免疫性代謝疾患、具体的にはII型糖尿病、
- 全身性炎症により引き起こされる心血管疾患、具体的には粥状動脈硬化、並びに
- 移植片機能障害、具体的には移植片対宿主疾患
からなる群から選択される、方法にも関する。
【0101】
この方法の特定の実施形態では、抗SIRPg抗体又はその抗原結合フラグメント又はその抗原結合抗体模倣物の投与により、陰性対照と比較して20%を超えてT細胞の増殖が減少するか、又は阻害される。
【0102】
この方法の特定の実施形態では、T細胞増殖が悪影響を及ぼす疾患又は障害は、
- 自己免疫疾患、具体的には関節リウマチ、I型糖尿病、ループス、乾癬、
- 慢性神経炎症性疾患、具体的には多発性硬化症、脳脊髄炎
からなる群から選択される。
【0103】
この方法の特定の実施形態では、T細胞増殖が悪影響を及ぼす疾患又は障害は移植片機能障害であり、具体的には移植片対宿主疾患である。
【0104】
この方法の特定の実施形態では、抗SIRPg抗体又はその抗原結合フラグメント又はその抗原結合抗体模倣物は、ヒトSIRPaに特異的に結合する。
【0105】
この方法の特定の実施形態では、抗SIRPg抗体又はその抗原結合フラグメント又はその抗原結合抗体模倣物は、ヒトSIRPaへのヒトCD47の結合を減少させる。
【0106】
本発明の特定の実施形態では、抗SIRPg抗体又はその抗原結合フラグメント又はその抗原結合抗体模倣物は、配列番号2、配列番号3、及び配列番号4のアミノ酸配列を含むか、又はこれらのアミノ酸配列からなるCDRを含む可変重鎖と、配列番号6、配列番号8、及び配列番号7のアミノ酸配列を含むか、又はこれらのアミノ酸配列からなるCDRを含む可変軽鎖とを有し、具体的には、可変重鎖は配列番号1のアミノ酸配列を含み、可変軽鎖は配列番号5のアミノ酸配列を含み、より具体的には、抗体はKwar23である。
【0107】
この方法の特定の実施形態では、抗SIRPg抗体又はその抗原結合フラグメント又はその抗原結合抗体模倣物はヒトSIRPaに特異的に結合せず、具体的には、この抗体はLSB2.20である。
【0108】
この方法の特定の実施形態では、抗SIRPg抗体又はその抗原結合フラグメント又はその抗原結合抗体模倣物は、ヒトSIRPaへのヒトCD47の結合を増加させる。
【0109】
本発明は又は、ヒト対象においてT細胞増殖が悪影響を及ぼす疾患又は障害を処置する又は予防する方法であって、抗SIRPg抗体若しくはその抗原結合フラグメント又は抗原結合抗体模倣物を対象に投与することによるヒトSIRPgへのヒトCD47の結合の阻害工程を含み、T細胞増殖が悪影響を及ぼす疾患又は障害は、
- 自己免疫疾患、具体的には関節リウマチ、I型糖尿病、ループス、乾癬、
- 慢性炎症性疾患、具体的には炎症性腸疾患、例えばクローン病及び潰瘍性大腸炎、
- 慢性神経炎症性疾患、具体的には多発性硬化症、脳脊髄炎、
- 免疫性代謝疾患、具体的にはII型糖尿病、
- 全身性炎症により引き起こされる心血管疾患、具体的には粥状動脈硬化、並びに
- 移植片機能障害、具体的には移植片対宿主疾患
からなる群から選択され、
この抗SIRPg抗体若しくはその抗原結合フラグメント又は抗原結合抗体模倣物を、免疫療法剤、免疫抑制剤、抗生物質、及びプロバイオティクスからなる群から選択される少なくとも1種の第2の治療薬と組み合わせて投与し、前記組合せでの投与は、同時、別々、又は逐次のいずれかである、方法に関する。
【0110】
特定の実施形態では、免疫抑制剤は、シクロスポリンA、タクロリムス、ミコフェノール酸モフェチル、ラパマイシン、ステロイド、抗TNF剤、抗IL-23剤からなる群から選択される。
【0111】
この方法の特定の実施形態では、この方法は、対象における処置に対する応答のインビトロでの又はエキソビボでの予測を含み、前記予測は、処置を受けている又は処置を受ける可能性が高い対象からのサンプル中におけるSIRPgの発現レベルを測定する工程を含み、前記発現レベルを、抗SIRPg抗体又はその抗原結合フラグメント又はその抗原結合抗体模倣物により決定し、前記予測は、SIRPgの発現レベルと、非応答対象集団におけるSIRPgの発現レベルを表す値との比較を更に含み、対象のサンプル中におけるSIRPgのより高い発現レベルは、処置に応答する対象を示す。
【0112】
下記の図及び実施例は、本発明をどのようにして作って使用するかの完全な開示及び説明を当業者に提供するために提示されており、本発明者らが彼らの発明と見なすものの範囲を制限することを意図されておらず、下記の実験が、実施された全ての又は唯一の実験であること表すことも意図されていない。本発明をその特定の実施形態を参照して説明しているが、本発明の真の趣旨及び範囲を逸脱することなく、様々な変更を行ない得、均等物を置換し得ることを当業者は理解すべきである。加えて、特定の状況、材料、物質の組成、プロセス、プロセス工程又は工程を本発明の目的、趣旨、及び範囲に適合させるために、多くの改変を行ない得る。全てのそのような改変は、本明細書に添付された特許請求の範囲内であることが意図されている。
【実施例】
【0113】
(実施例1)
Blitz法によるSIRPgに対する抗体の親和性分析
方法:この方法を、Blitz(Forte Bio社;米国;参照番号C22-2 No 61010-1)により実施した。組換えhSIRPg-His(Sino Biologicals社、北京、中国;参照番号11828-H08H)を、30秒にわたり、Ni-NTAバイオセンサー(ホルテバイオ (Forte Bio社;米国;参照番号18-0029)中にヒスチジンテイルにより10μg/mlで固定した。次いで、120秒にわたり、20μg/mLで抗体を会合させた。120秒にわたり、キネティクス緩衝液(kinetics buffer)中で抗体の解離を行なった。Blitz pro 1.2ソフトウェアによりデータの解析を行ない、会合定数(ka)及び解離定数(kd)を算出し、親和性定数KD(ka/kd)を決定した。
【0114】
結果:
図1に示すように、先行技術において抗SIRPa抗体であることが分かっている抗体Kwar23及びSIRP29は、同様にSIRPgに対しても驚くべき親和性を有する。LSB2.20は、SIRPgに対して強い親和性を有する。
【0115】
(実施例2)
SIRPgに対する抗体のELISA結合
方法:活性ELISAアッセイのために、hSIRPg-His(Sino Biologicals社、北京、中国;参照番号11828-H08H)を、炭酸緩衝液(pH9.2)中において1μg/mlでプラスチック上に固定し、精製済抗体を添加して結合を測定した。インキュベーション及び洗浄の後、ペルオキシダーゼで標識されたロバ抗ヒトIgG(Jackson Immunoresearch社;米国;参照番号709-035-149)を添加して、従来の方法により明らかにした。
【0116】
結果:
図2に示すように、抗体SIRP29及びKwar23は、SIRPgに対して顕著な結合を示す。抗体LSB2.20は、SIRPgに対して非常に顕著な結合を示す。
【0117】
(実施例3)
SIRPgに対するCD47との競合のBlitz法:SIRPg+抗体+CD47
方法:この方法を、Blitz(Forte Bio社;米国;参照番号C22-2 No 61010-1)により実施した。第1の工程では、hSIRPg-His(Sino Biologicals社、北京、中国;参照番号11828-H08H)を、30秒にわたり、Ni-NTAバイオセンサー(Forte Bio社;米国;参照番号18-0029)中にヒスチジンテイルにより10μg/mlで固定した。第2の工程では、120秒にわたり、抗体を20μg/mL(飽和濃度)で添加した。次いで、120秒にわたり、抗体との競合下で、ヒトCD47Fc(Sino Biologicals社、北京、中国;参照番号12283-H02H)を100μg/mLで会合させた。120秒にわたり、キネティクス緩衝液中でCD47Fcの解離を行なった。Blitz pro 1.2ソフトウェアによりデータの解析を行ない、会合定数(ka)及び解離定数(kd)を算出し、親和性定数KD(ka/kd)を決定した。
【0118】
結果:
図3に示すように、Kwar23は、SIRP29とは対照的に、SIRPgへのCD47の結合を顕著に減少させる。両方の抗体が同一の標的(SIRPa及びSIRPg)を認識するが、それにもかかわらず、SIRP29はCD47とSIRPgとの相互作用に影響を及ぼさない(即ち、SIRP29は、CD47へのSIRPgの結合を破壊しない)。
【0119】
(実施例4)
ヒトCD3+T細胞の増殖
方法:健康なボランティアのバフィーコートからhPBMCを単離した。AutoMACS(Miltenyi社)を使用した陽性選択によりCD4 T細胞又はCD8 T細胞を選択し、96丸ウェルプレートに播種した(50000個の細胞/ウェル)。増幅シグナルが、3日の間に、1個のT細胞に対して1個のビーズの割合での、抗CD3/抗CD28のいずれかがコーティングされたマイクロビーズ(LifeTechnologies社)により生じたか、又は5日の間に、1個のmDCに対して5個のT細胞での、インビトロで生成された同種成熟樹状細胞により生じた。SIRPa/CD47経路及び/又はSIRPg/CD47経路を標的とする抗体を、飽和濃度(10μg/mL)で、この増殖試験の最初から添加した。増殖を、培養の最後の12時間の間でのH3-チミジンの取込みにより測定した。
【0120】
結果:
図4に示すように、抗CD47抗体は、ヒトT細胞の増殖を大幅に減少させる(T細胞の増殖の約50%の阻害)。SIRPaには結合するがSIRPgには結合しない、国際特許出願第PCT/EP2017/059071号で開示されている社内用のクローン抗体、及び市販の抗体SE7C2は、T細胞の増殖にいかなる影響も及ぼさない。SIRPa-CD47相互作用及びSIRPg-CD47相互作用の両方をブロックするKwar23は、T細胞の増殖を阻害する。SIRPa及びSIRPgの両方に結合するがSIRPgとCD47との間の相互作用を破壊しないSIRP29抗体は、T細胞の増殖にほとんど影響を及ぼさない。
【0121】
特異的抗SIRPg抗体LSB2.20は、最も強力な効力でT細胞の増殖を阻害する(即ち、約75%の阻害)。従って、抗SIRPg抗体は、抗CD47抗体、又はSIRPaのみを標的とする抗体と比べて、T細胞の増殖の阻害にとって強力である。SIRPa及びSIRPgの両方を標的とし、Kwar23のようにCD47とSIRPgとの間の相互作用を破壊する抗体もT細胞の増殖を阻害するが、特定の抗SIRPg抗体(即ち、SIRPaに結合しない抗体)と比べて程度が低い。T細胞中へのSIRPgの細胞内シグナル伝達の欠如(Piccioら、Blood 2005を参照されたい)に起因して、T細胞の増殖及び/又は活性化への影響は、CD47へのSIRPgの結合の阻害及びT細胞中におけるCD47依存性経路の阻害に対して特異的であると思われる。図示するように、本発明に係る抗体を使用しても、CD4+T細胞の活性化及び/又は増殖は増強されない。
【0122】
(実施例5)
SIRPaに対する抗体のバイオセンサー親和性測定
方法:組換えhSIRPa(Sino Biologicals社、北京、中国;参照番号11612-H08H)を、5μg/ml(500RU)でCM5センサーチップ(GeHealthcare社、フランス)中に固定し、40μl/分の流速にて様々な濃度で抗体をアプライした。BIAcore 3000(Biacore、GeHealthcare社)で分析を実施した。3分の会合期間(ka)、及びそれに続く10分の解離期間(kd)の後に値を測定して、親和性定数(KD)を決定した。
【0123】
結果:
図5に示すように、Kwar23及びSIRP29はSIRPaに対して強い親和性(KD)を有しており、市販の抗体SE7C2と比べて優れている。
【0124】
(実施例6)
Blitz法によるSIPRaに対する抗体の親和性分析
方法:この方法を、Blitz(Forte Bio社;米国;参照番号C22-2 No 61010-1)により実施した。hSIRPa-His組換えタンパク質(Sino Biologicals社、北京、中国;参照番号11828-H08H)を、30秒にわたり、Ni-NTAバイオセンサー(Forte Bio社;米国;参照番号18-0029)中にヒスチジンテイルにより10μg/mlで固定した。次いで、120秒にわたり、20μg/mLで、抗SIRPa抗体(社内用の特異的抗体-SIRPa結合分析に関して陽性対照として使用する)及び抗SIRPg抗体LSB2.20を会合させた。120秒にわたり、キネティクス緩衝液中で抗体の解離を行なった。Blitz pro 1.2ソフトウェアによりデータの解析を行ない、会合定数(ka)及び解離定数(kd)を算出し、親和性定数KD(ka/kd)を決定した。
【0125】
結果(
図5に示す)。ヒトLSB2.20は、陽性対照抗SIRPa抗体と比べてヒトSIRPa組換えタンパク質に結合しない。従って、実施例1の実験結果と相関して、LSB2.20はSIRPg(具体的にはヒトSIRPg)に特異的に結合するが、SIRPgに対するLSB2.20の親和性は、SIRPgに対するKwar23抗体及びSIRP29抗体の親和性と比べて弱いように思われる。この実施例及び実施例1で図示した結果の組合せは、LSB2.20は、SIRPgに特異的な抗体であり、SIRPaを認識しないことを裏付ける。
【0126】
(実施例7)
細胞蛍光測定によるヒト単球に対するSIRPa結合アッセイ
方法:ヒト単球に対する抗体の結合を測定するために、ヒトFc受容体結合阻害剤(BD pharmingen社;米国;参照番号564220)を室温で30分にわたり最初に添加し、ヒト単球上のヒトFc受容体をブロックしてバックグラウンドを低減させた。次いで、抗体を4℃で30分にわたりインキュベートし、洗浄した後、PEで標識された抗ヒトIgG Fc(Biolegend社;米国;参照番号409303)により4℃で30分にわたり染色した。サンプルを、BD LSRII又はCanto II細胞蛍光光度計(cytofluorometer)で分析した。
【0127】
結果:
図7に示すように、結果は、ヒト単球に対する抗体Kwar23及びSIRP29の強い結合を示す。
【0128】
(実施例8)
アンタゴニストELISAアッセイによるCD47と抗体との間の競合分析
方法:競合ELISAアッセイのために、組換えhSIRPa(Sino Biologicals社、北京、中国;参照番号11612-H08H)を、炭酸緩衝液(pH9.2)中において0.5μg/mlでプラスチック上に固定した。精製済抗体(様々な濃度)を、ビオチン化ヒトCD47Fc(AcroBiosystems interchim社;フランス;参照番号:#CD7-H82F6)の6μg/ml最終(固定濃度)と混合して、37℃で2時間にわたり競合結合を測定した。インキュベーション及び洗浄の後、ペルオキシダーゼで標識されたストレプトアビジン(Vector laboratoring社;米国;参照番号SA-5004)を添加してビオチン-CD47Fc結合を検出し、従来の方法により明らかにした。
【0129】
結果:
図8に示すように、抗体Kwar23及びSIRP29は、SIRPa-CD47相互作用に対してアンタゴニスト活性を有する。
【0130】
(実施例9)
ヒト化移植片対宿主疾患(GvHD)マウスモデルにおける抗SIRP抗体の効果(
図10及び
図11)。
方法:このマウスモデルは包括的な炎症性疾患を模倣する。この実験では、18匹の雄及び雌のNSG-SGM3マウス(NOD.Cg-Prkdcscid Il2rgtm1Wjl Tg(CMV-IL3,CSF2,KITLG)1Eav/MloySzJ)(JACKSON Laboratory社により販売されている)を処置した。これらのマウスは、3種の同時注射された導入遺伝子(即ち、ヒトインターロイキン-3(IL-3)、ヒト顆粒球/マクロファージ刺激因子(GM-CSF)、及びヒト造血幹細胞因子(SF)遺伝子)を含み、それぞれは、ヒトサイトメガロウイスルのプロモーター/エンハンサー配列により駆動される。これらのマウスを、NOD.Cg-Prkdcscid Il2rgtm1Wjl/SzJマウス(ストック番号005557)バックグラウンドで維持する。これらのマウスは、ヒトIL-3、GM-CSF、及びSFの2~4ng/ml血清レベルを構成的に産生する。Il2rg-/-特異的NOD.SCIDバックグラウンドはヒト及びマウスの造血細胞の生着を支持し、ヒト赤血球生成を抑制し、ヒト骨髄造血を増強し、骨髄又は肝細胞の移植後のマウスにおけるヒトBリンパ球生成を減少させる。マウスは21~24週齢であった。
【0131】
このマウスに放射線照射し(ガンマ線:レベル6で3分にわたり1,5 Gy)、腹腔内に注入する。次いで、マウスをロンパン(Rompun)/ケタラールで麻酔し、次いで24時間放射線照射した後に、健康なドナーからのヒトPBMC(45.106 hBPMC/マウス)を注射した。次いで、動物を無菌状態で維持し、体重の評価及び臨床評価のために1週間当たり3回モニタリングした。対照群(n=6)は、hPBMCの注射後に未処置のまま放置した。第1の処置群(n=6)には、0~21日目に及び1週間当たり3回で、5mg/KgのLSB2.20 mAb(Biolegend社、抗SIRPg抗体)を腹腔内注射した。第2の処置群(n=6)には、0~21日目に及び1週間当たり3回で、4.5mg/kgの抗SIRPa mAb(PCT/EP2017/059071号で開示された社内用のクローン)を腹腔内注射した。20%の体重減少時に、マウスにGvHD診断を行なった。20%を超えて体重が減少していることが分かった動物、及び0日目から100日後に生存している動物を安楽死させた。
【0132】
結果:
図9に示すように、SIRPgに対する抗体で処置したマウスは、対照マウス及び抗SIRPa抗体で処置したマウスと比べて長く生存した。21日目では、抗SIRPg抗体で処置したマウスの60%超が生存していたが、対照マウスでは20%未満が生存していた。処置の中止(21日目)の後、抗SIRPg抗体が以前に投与されていたマウスは、GvHDを発症し始めた。従って、抗SIRPg抗体は、処置中に重度の及び急性のGvHDからマウスを保護する。これらの結果は、抗SIRPg抗体、又は抗SIRPg抗体及び抗SIRPa抗体の免疫抑制効果を裏付ける。
図10のパネルAに示すように、LSB2.20抗体で処置したマウスにおける総ヒト白血球生着は、処置の間では大幅に減少する。21日目の処置の終了後に、白血球の生着が再構成される。このことは、SIRPgを標的とする抗体が、ヒト白血球の再構成をブロックすることなく、又は防ぐことなく、処置時に生存期間を延ばすことを明確に示す。抗SIRPg処置は、ヒトTリンパ球又はNK細胞への細胞毒性効果によりヒト白血球を欠失させないことが裏付けられる(
図10、パネルB及びパネルC)。これにより、ヒトTリンパ球の活性化及び機能を制御するアンタゴニスト作用(T細胞の増殖を阻害することにより表される)による抗SIRPg抗体のインビボでの効力が裏付けられる。このことは、10日間の治療後の対照群におけるヒトT細胞の過剰蓄積により裏付けられる。更に、SIRPa及びSIRPgは共通の標的CD47を共有することが分かっているにもかかわらず、両方とも異なる機能を有しており、なぜならば、抗SIRPg抗体は、抗SIRPa抗体と比べて効果が異なるからである。
【配列表】