(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-18
(45)【発行日】2022-11-29
(54)【発明の名称】再構成されたときにその伸長特性を維持し、嚥下障害者による安全な嚥下を助ける粉末状増粘剤
(51)【国際特許分類】
A23L 29/20 20160101AFI20221121BHJP
A23L 29/30 20160101ALI20221121BHJP
A23L 33/125 20160101ALI20221121BHJP
【FI】
A23L29/20
A23L29/30
A23L33/125
(21)【出願番号】P 2019560252
(86)(22)【出願日】2018-06-07
(86)【国際出願番号】 EP2018064999
(87)【国際公開番号】W WO2018224589
(87)【国際公開日】2018-12-13
【審査請求日】2021-05-20
(32)【優先日】2017-06-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】590002013
【氏名又は名称】ソシエテ・デ・プロデュイ・ネスレ・エス・アー
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100107456
【氏名又は名称】池田 成人
(74)【代理人】
【識別番号】100162352
【氏名又は名称】酒巻 順一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100140453
【氏名又は名称】戸津 洋介
(74)【代理人】
【識別番号】100167597
【氏名又は名称】福山 尚志
(72)【発明者】
【氏名】マルケジーニ, ジュリア
(72)【発明者】
【氏名】エンマン, ジャン
(72)【発明者】
【氏名】ヴィドマー, クリストフ
(72)【発明者】
【氏名】デュッター, ティボー
【審査官】安田 周史
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2015/0208706(US,A1)
【文献】国際公開第2016/012403(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 29/20
A23L 33/125
A23L 29/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
組成物の少なくとも一部に希釈する
ための増粘粉末であって、β-グルカン及び前記組成物の伸長特性に影響しない又は伸長特性を増強する炭水化物である担体成分を含
み、
前記増粘粉末が、10:1~300:1の重量比で前記担体成分と、前記β-グルカンとを含み、
前記担体成分がイソマルツロースである、増粘粉末。
【請求項2】
前記増粘粉末が、前記β-グルカン及び前記担体成分からなる、請求項
1に記載の増粘粉末。
【請求項3】
前記組成物が液体組成物である、請求項1
又は2に記載の増粘粉末。
【請求項4】
組成物の少なくとも一部に希釈する
ための増粘粉末の製造方法であって、前記増粘粉末が、β-グルカン及び前記組成物の伸長特性に影響しない又は伸長特性を増強する炭水化物である担体成分を含み、
穀物、キノコ、酵母、海藻、藻類、及びこれらの混合物からなる群から選択される供給源から前記β-グルカンを抽出する工程と、
(i)前記供給源から前記β-グルカンを抽出する前に前記担体成分を前記供給源に添加する工程及び(ii)前記β-グルカンを前記供給源から抽出した後に、前記担体成分を前記β-グルカンに添加する工程からなる群から選択される少なくとも1つの工程と、を含
み、
前記担体成分が、10:1~300:1の重量比で前記β-グルカンに添加され、
前記担体成分がイソマルツロースを含む、方法。
【請求項5】
前記組成物が、栄養製品である、請求項
4に記載の方法。
【請求項6】
前記供給源が、オート麦ふすまを含む、請求項
4又は5に記載の方法。
【請求項7】
前記担体成分が、前記供給源から前記β-グルカンを抽出する前に前記供給源に添加される、請求項
4~
6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
組成物の製造方法であって、β-グルカンと、前記組成物の伸長特性に影響しない又は伸長特性を増強する炭水化物である担体成分とを含む増粘粉末を希釈することによって、前記組成物の少なくとも一部を形成する工程を含
み、
前記増粘粉末が、10:1~300:1の重量比で前記担体成分と、前記β-グルカンとを含み、
前記担体成分がイソマルツロースである、方法。
【請求項9】
前記増粘粉末を希釈することが、液体:粉末の重量比100:1~15:1で前記増粘粉末を、水又は乳の少なくとも1つを含む液体に希釈する工程を含む、請求項
8に記載の方法。
【請求項10】
前記増粘粉末が、前記β-グルカン及び前記担体成分からなる、請求項
8又は9に記載の方法。
【請求項11】
前記
増粘粉末を希釈して得た水溶液が、全て20℃、50s
-1のせん断速度で測定される値として、1mPas~200mPasのせん断粘度、及び全て20℃の温度で測定され、キャピラリー破断式伸張粘度計(CaBER)実験によって測定される値として、10~2,000ミリ秒(ms)の緩和時間を前記組成物に提供する量で前記組成物中に存在する、請求項
8~1
0のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
組成物であって、
β-グルカンと、前記組成物の伸長特性に影響しない又は伸長特性を増強する炭水化物である担体成分とを含む水溶液であって、前記組成物が、全て20℃、50s
-1のせん断速度で測定される値として、1mPas~200mPasのせん断粘度、及び全て20℃の温度で測定され、キャピラリー破断式伸張粘度計(CaBER)実験によって測定される値として、10~2,000ミリ秒(ms)の緩和時間を前記組成物に提供する量で前記水溶液を含
み、
前記組成物が、10:1~300:1の重量比で前記担体成分と、前記β-グルカンとを含み、
前記担体成分がイソマルツロースである、組成物。
【請求項13】
液
体である、請求項
12に記載の組成物。
【請求項14】
組成物の凝集性を改善するための方法であって、β-グルカンと、組成物の伸長特性に影響しない又は伸長特性を増強する炭水化物である担体成分とを含む増粘粉末を希釈することによって、前記組成物の少なくとも一部を形成する工程を含
み、
前記増粘粉末が、10:1~300:1の重量比で前記担体成分と、前記β-グルカンとを含み、
前記担体成分がイソマルツロースである、方法。
【請求項15】
前記
増粘粉末を希釈して得た水溶液が、全て20℃で50s
-1のせん断速度で測定される値として、1mPas~200mPasのせん断粘度、及び20℃の温度で測定され、キャピラリー破断式伸張粘度計(CaBER)実験によって測定される値として、10~2,000ミリ秒(ms)の緩和時間を前記組成物に提供する量で前記組成物中に存在する、請求項
14に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
[0001]本開示は、一般に、嚥下障害者による組成物の安全な嚥下を助けるための粉末状増粘剤、粉末状増粘剤の希釈によって作製された組成物を投与することによる嚥下障害の治療方法、粉末状増粘剤の製造方法、及び粉末状増粘剤を希釈することにより組成物の凝集性を改善する方法に関する。粉末状増粘剤は、再構成されたときにその伸長特性を維持する。
【0002】
[0002]嚥下障害は、嚥下が困難な症状に対する医学的用語である。嚥下障害では、固形物又は液体(すなわち、栄養製品)を口から胃に送り込むのが難しく感覚し得る。
【0003】
[0003]口内での栄養製品の処理及び嚥下の間、せん断力により栄養製品の粘度は変化する。ほとんどの場合、栄養製品に作用するせん断力及びせん断速度(例えば、咀嚼力)が増加すると、栄養製品の粘度が低下する。嚥下障害者は、多くの場合、増粘した栄養製品を必要とする。栄養製品の増粘は、特に、製品のせん断粘度を増加するためにデンプン又はガム増粘剤などの増粘剤を添加することによりなされる。増粘した栄養製品は、栄養製品が、嚥下障害者の口から胃までの通過中に誤嚥されてしまう傾向を減じる。
【0004】
[0004]嚥下障害者は、栄養製品が、咳、吹き出し、又は更には窒息を起こすこと、したがって増粘した栄養製品であれば嚥下障害者でも安全に嚥下可能であることを認識し得る。増粘剤の添加は、食塊の制御及び嚥下のタイミングを改善すると考えられているが、添加により得られる粘度では、嚥下に普段よりも労力が必要とされるため、嚥下障害者に嫌われる。更に、増粘剤は、高濃度の粘度を有する残留物を残し、望ましくない感覚刺激特性をもたらす。嚥下障害患者は、液体製品には、高粘度を示さず、人工的でない粘度の低い液体(a real thin liquid)がもつ感覚刺激特性を有することを期待することから、液体及び飲料に特に関連する。更に、単にせん断粘度を増加させて増粘された栄養製品は、通常、唾液により典型的に食塊に提供される凝集性を欠く。
【0005】
[0005]嚥下障害は、3種類の主要な型:口腔咽頭嚥下障害、食道性嚥下困難、及び機能性嚥下障害に分類される。
【0006】
[0006]口腔咽頭嚥下障害は、概して投薬により治療することができない。口腔咽頭嚥下障害は全年齢に影響を及ぼすが、高齢者に一層多く見られる。世界中で、50歳より高齢のおよそ2200万人が口腔咽頭嚥下困難に罹患している。口咽頭嚥下困難は、急性事象、例えば、卒中、脳損傷、又は口腔癌若しくは咽頭癌の手術の結果であることが多い。加えて、放射線療法及び化学療法は、筋肉を弱らせ、嚥下反射の生理機能及び神経支配に関わる神経に障害を生じることがある。また、パーキンソン病などの進行性神経筋疾患を有する個体では口腔咽頭での嚥下障害が一般的であり、嚥下を開始するのを難しく感じることも一般によくある。中咽頭嚥下困難の代表的な原因としては、神経性疾病(脳幹腫瘍、頭部外傷、卒中、脳性麻痺、ギラン-バレー症候群、ハンチントン病、多発性硬化症、ポリオ、ポリオ後症候群、遅発性ジスキネジー、代謝性脳症、筋萎縮性側索硬化症、パーキンソン病、認知症)、感染性疾病(ジフテリア、ボツリヌス中毒、ライム病、梅毒、粘膜炎[ヘルペス、サイトメガロウイルス、カンジダなど])、自己免疫疾病(狼瘡、強皮症、シェーグレン症候群)、代謝性疾病(アミロイド症、カッシング症候群、甲状腺中毒症、ウィルソン病)、筋障害性疾病(結合組織15病、皮膚筋炎、重症筋無力症、筋硬直性ジストロフィー、眼球咽頭ジストロフィー、多発性筋炎、サルコイドーシス、腫瘍随伴症候群、炎症性筋疾患)、医原性疾病(薬剤副作用[例えば、化学療法、神経弛緩薬など]、術後筋肉又は神経原性、放射線療法、腐食[錠剤による傷害、意図的])、及び構造上の疾病(輪状咽頭筋圧痕、ツェンカー憩室、頸部ウエブ、中咽頭腫瘍、骨増殖体、及び骨格異常、先天的なもの[口蓋裂、憩室、嚢状部など])に関するものが挙げられる。
【0007】
[0007]食道性嚥下困難は全年齢に影響を及ぼし得る。食道性嚥下困難は、通常は投薬により治療可能であり、かつ嚥下障害のさほど深刻でない形態と考えられている。食道性嚥下困難は、粘膜疾患、縦隔疾患、又は神経筋疾患の結果であることが多い。粘膜(内在性)疾患は、様々な状態(例えば、胃食道逆流症に続く消化性狭窄、食道リング及びウエブ[例えば、鉄欠乏性嚥下困難又はプランマー・ヴィンソン症候群]、食道腫瘍、化学的傷害[例えば、アルカリ性物質の摂取、錠剤による食道炎、静脈瘤に対する硬化療法]、放射線傷害、感染性食道炎、及び好酸球性食道炎)に関連する炎症、線維形成、又は新形成を通じて、内腔を狭める。縦隔(外来性)疾患は、様々な状態(腫瘍[例えば、肺がん、リンパ腫]、感染症[例えば、結核、ヒストプラスマ症]、及び心血管系[心耳拡張、及び血管圧迫])に関連する直接侵入又はリンパ節拡大によって、食道を閉塞する。神経筋疾患は、一般に様々な状態(アカラシア[突発性とシャガス病関連の両方]、強皮症、他の運動障害、及び手術の帰結[すなわち、胃底皺襞形成術後、及び逆流防止介入後])に付随して、食道の平滑筋及びその神経支配を冒し、蠕動運動若しくは下部食道括約筋の弛緩、又はその両方を中断させる場合がある。管腔内異物を有する個体は、一般に急性食道性嚥下困難に罹患する。
【0008】
[0008]機能性嚥下障害は、嚥下障害に関係する器質的原因が全く見られない一部の患者において定義される。
【0009】
[0009]通常、嚥下障害は診断されない。嚥下障害は、主に嚥下障害者の健康及び医療費に対し影響を与える。重度の嚥下障害者は、嚥下直後に、口から胃への栄養製品の送り込みに障害を感じる。地域社会において生活を営んでいる場合、患者本人が症状を自覚し、医師による診察を受ける可能性がある。施設に入居している場合、医療従事者が、症状を観察し、あるいは嚥下障害者又はその家族から嚥下機能不全を示唆する説明を聞き、専門家による診断を嚥下障害者に勧める場合がある。対応に当たる医療従事者間で、嚥下機能不全に関する一般的な認識度が低いため、嚥下困難は診断されず、治療されないことが多い。更に、患者を臨床的に評価することができ、嚥下障害診断は、嚥下専門家(例えば、言語病理学者)への紹介により決定することができる。
【0010】
[0010]対応に当たる医療従事者間で、嚥下機能不全に関する一般的な認識度合は低い。多くの人々(特に高齢者)は、嚥下機能障害の診断を受けず、かつ治療を受けずにいる。一因には、対応に当たる地域ケア従事者(例えば、一般開業医/老年病専門医、訪問看護師、理学療法士など)が、通常、状態を選別しないということがある。嚥下機能不全の重症度を認識している場合でも、一般に、従事者はエビデンスベースの選別手法を使用しない。
【0011】
[0011]嚥下障害の重症度は、(i)栄養製品を安全に嚥下するのがやや困難である(自覚している)、(ii)誤嚥又は窒息リスクは顕著ではないものの栄養製品の嚥下が不能である、及び(iii)栄養製品の嚥下が完全に不能である、に変化する。栄養製品の適切な嚥下は、栄養製品の食塊が、気道に進入し得る小塊に分解されること又は嚥下工程中に口腔咽頭及び/若しくは食道管に望ましくない残留物を生じることに起因して、不能になり得る(例えば、誤嚥)。ある程度の食塊がまとまって肺に進入した場合、患者は肺内に堆積した栄養製品で窒息する恐れがある。誤嚥した栄養製品が少量であったとしても気管支肺炎感染症が生じる恐れがあり、また慢性誤嚥では気管支拡張症が生じる恐れがあり、場合によっては喘息を引き起こす恐れもある。
【0012】
[0012]不顕性誤嚥は高齢者に一般的な状態であり、睡眠中の口腔咽頭の内容物の誤嚥を指す。人は、重症度の低い嚥下機能障害を、自主的な食事制限により補う場合もある。老化の過程そのものが、高血圧又は骨関節炎などの慢性疾患と関係し、高齢者の臨床未満の嚥下障害の素因となり、肺炎、脱水、栄養不良及び関連する合併症などの臨床上の合併症が生じるまで、診断されず、治療されない可能性がある。
【0013】
[0013]嚥下障害及び誤嚥は、生活の質、罹患率及び死亡率に影響を与える。施設ケアを受けている嚥下困難者及び誤嚥者の12ヶ月死亡率は高い(45%)。嚥下障害の診断及び早期管理がなされないことによる臨床的帰結による経済的負担は著しい。
【0014】
[0014]上述のとおり、肺炎は、嚥下障害の臨床上の一般的な帰結である。肺炎は、緊急入院及び救急外来受診を必要とすることが多い。誤嚥が原因で肺炎を発症した場合、現行の診療実施の結果として、必ずしも『誤嚥性肺炎』の鑑別診断が示されるとは限らない。
【0015】
[0015]肺炎は、嚥下障害者にとって生命に関わり、3ヶ月以内に死亡する確率は約50%である(van der Steen et al(2002))。加えて、肺炎などの急性侵襲により、高齢者の健康の悪循環が始まることが多い。侵襲は、摂食不良及び不活動を伴い、栄養障害、機能低下及び虚弱をもたらす。個別の介入(例えば、口腔衛生を増進するため、正常な嚥下の回復を援助するため、又は安全に嚥下できる食塊を強化するための介入)は、反復性肺炎(不顕性誤嚥を含む、口腔咽頭内容物の誤嚥による)のリスクがある者又は反復性肺炎に罹患している者にとって、有益であろう。
【0016】
[0016]肺炎と同様に、脱水は、死亡につながるおそれのある嚥下障害の臨床的合併症である。脱水は、神経変性疾患に罹患している(したがって、嚥下機能不全を有する可能性が高い)入院中の個体に一般的な共存症である。但し、脱水は、嚥下困難の臨床上回避することができる合併症である。これは、安全に消費することができ、嚥下障害者にとって感覚的に許容可能である粘度の低い(thin)液体の必要性を強調している。
【0017】
[0017]栄養不良及び関連する合併症(例えば、[尿路]感染症、褥瘡、嚥下困難の重症化[食品の選択肢の更なる制限、経管栄養、及び/又は経皮内視鏡的胃瘻造設(PEG)管置換の必要性、並びに生活の質の低下]、脱水、機能低下及び関連する帰結[転倒、認知症、虚弱、機動性の喪失、及び自律性の喪失])は、嚥下機能不全によって、食品及び液体に対する窒息の不安、消費速度の低下、及び食品の選択の自主的制限が引き起こされるときに生じる可能性がある。回復されなければ、生理的予備能が減少するにつれて、正常な嚥下を容易にするのを助ける筋肉が弱まるため、不適切な栄養摂取により嚥下障害が悪化する。栄養不良では、感染症のリスクは3倍超になる。感染症は、神経変性疾患者(よって、食事が十分でなくなる恐れがある慢性的な嚥下機能障害を有する可能性が高い)によく見られる。
【0018】
[0018]更に、栄養障害は、患者の回復と密接に関わっている。栄養不良の患者は、入院期間が長くなり、再入院する可能性も高く、入院診療費用もより高額になる。更に、栄養障害は、意図しない体重減少並びに筋肉及び体力の顕著な減少をもたらし、最終的には運動性及び自己管理能力を損なわせる。機能性の喪失により、介護者の負担は一般により重くなり、私的介護者、次いで公的介護者、更には施設収容が必要となる。しかしながら、栄養障害は、嚥下傷害に関係する、臨床上回避可能な合併症である。
【0019】
[0019]神経変性状態(例えば、アルツハイマー病)を有する人では、意図せぬ体重減少(栄養障害の指標となる)が、認知低下に先行する。また身体活動は、健全な認知を安定化するのに役立ち得る。したがって、神経変性状態を有する者に十分な栄養を確保させ、定期的な運動療法に参加する体力と持久力を持つように支援することと、意図しない体重減少、筋消耗、身体的及び認知的機能性の喪失、虚弱、認知症、並びに介護者の負担の漸増を防ぐこととが重要である。
【0020】
[0020]転倒及びそれに伴う負傷は、機能の低下を伴う神経変性状態をもつ高齢者にとって特に関心事である。転倒は、高齢者の傷害死亡を引き起こす。高齢者の転倒及びそれに伴う負傷(例えば、骨折)の予防には栄養学的な介入が有効であることから、医学的な栄養療法を含むエビデンスベースの診療を行うことにより、転倒を妥当に予防可能なものとすることができる。
【0021】
[0021]咀嚼及び嚥下困難は、褥瘡の進行のリスク因子として認識される。褥瘡は、エビデンスベースの診療を行うことにより(栄養状態が不充分であるときに褥瘡は生じやすいため、栄養療法を含む)合理的に予防可能とすることができる、回避可能な医療過誤であると考えられ得る。褥瘡は、ある程度は栄養摂取を保証することにより妥当に予防可能である。更に、特殊処方した栄養補給剤の使用を含む、個別の治療介入は、褥瘡の発症後に見込まれる治癒時間を短縮する助けとなる。
【発明の概要】
【0022】
[0022]国際公開第2016/012403号として公開され、その全体が参照により本明細書に組み込まれる同時係属出願米国特許第15/327,745号に記載されているように、栄養製品にβ-グルカンを含めることにより、驚くべきことに(例えば、唾液の分泌が損なわれた患者の)食塊の凝集性を高める類似又は同様の(場合によっては更に強化された)効果を達成する。しかし、本発明者らは、有意な伸長挙動を得るのに必要とされる量が非常に少ない(数重量%)ことから、栄養製剤における目標の伸長粘度を達成するために、レオロジー変性剤としてβ-グルカンを添加することは(液体又は粉末のいずれの変性剤としても)非常に困難であることを発見した。この理由から、本発明者らは、最終製品の伸長特性に影響しない(neutral)又は伸長特性を強化する担体成分を特定した。
【0023】
[0023]驚くべきことに、本発明者らは、β-グルカンと特定の炭水化物担体(例えば、イソマルツロース)との組み合わせがこのような効果を示すことを見出した。担体材料は、オート麦ふすま供給源からのβ-グルカンの抽出及び遠心分離による不溶性物質の分離の前又は後のいずれかで添加することができる。本発明者らの最良の知識によれば、安全な嚥下のために制御された方法で組成物に高い伸長粘度を提供する市販の溶液は患者には利用できない。
【0024】
[0024]本発明者らは、イソマルツロースの添加により、プロセス順序及びpHに応じて、オート麦ふすま抽出物の基準と比較して同様の又は更には増加した弾性(凝集性)挙動がもたらされることを見出した。
【0025】
[0025]したがって、一般的な実施形態では、本開示は組成物(例えば、栄養製品及び/又は栄養水)の少なくとも一部に希釈するように配合された増粘粉末であって、β-グルカンと、組成物の伸長特性に影響しない又は伸長特性を増強する炭水化物である担体成分とを含む、増粘粉末を提供する。
【0026】
[0026]一実施形態では、担体成分は、イソマルツロース、低分子量の炭水化物(例えば、スクロース及び/又はラクトース)及びそれらの混合物からなる群から選択される。好ましくは、担体成分はイソマルツロースである。
【0027】
[0027]一実施形態では、増粘粉末は、本質的にβ-グルカン及び担体成分からなる。好ましくは、増粘粉末はβ-グルカン及び担体成分からなる。
【0028】
[0028]一実施形態では、増粘粉末は、約10:1~約300:1、好ましくは約20:1~約200:1、より好ましくは約20:1~約150:1(例えば、約150:1)、最も好ましくは約20:1~約100:1の重量比で担体成分と、β-グルカンとを含む。
【0029】
[0029]一実施形態では、増粘粉末は、約1:1~約30:1、好ましくは約2:1~約20:1、より好ましくは約2:1~約15:1(例えば、約15:1)、最も好ましくは約2:1~約10:1の重量比で担体成分と、β-グルカンを含むオート麦抽出物とを含み、例えば、オート麦抽出物は14%のβ-グルカンを含む。好ましくは、オート麦抽出物は10%~18%、12%~16%、又はより好ましくは14%のβ-グルカンを含む。
【0030】
[0030]一実施形態では、組成物は液体組成物である。
【0031】
[0031]別の実施形態では、組成物(例えば、栄養製品及び/又は水)の少なくとも一部に希釈するように配合された増粘粉末の製造方法であって、増粘粉末が、β-グルカンと、組成物の伸長特性に影響しない又は伸長特性を増強する炭水化物である担体成分とを含む、方法を提供する。この方法は、穀物、キノコ、酵母、海藻、藻類、及びこれらの混合物からなる群から選択される供給源からβ-グルカンを抽出する工程と、(i)供給源からβ-グルカンを抽出する前に担体成分を供給源に添加する工程及び(ii)β-グルカンを供給源から抽出した後に担体成分をβ-グルカンに添加する工程からなる群から選択される少なくとも1つの工程と、を含む。
【0032】
[0032]一実施形態では、担体成分はイソマルツロースを含む。
【0033】
[0033]一実施形態では、増粘粉末は、約10:1~約300:1、好ましくは約20:1~約200:1、より好ましくは約20:1~約150:1(例えば、約150:1)、最も好ましくは約20:1~約100:1の重量比で担体成分と、β-グルカンとを含む。
【0034】
[0034]一実施形態では、増粘粉末は、約1:1~約30:1、好ましくは約2:1~約20:1、より好ましくは約2:1~約15:1(例えば、約15:1)、最も好ましくは約2:1~約10:1の重量比で担体成分と、β-グルカンを含むオート麦抽出物とを含み、例えば、オート麦抽出物は14%のβ-グルカンを含む。
【0035】
[0035]一実施形態では、供給源はオート麦ふすまを含む。
【0036】
[0036]好ましい実施形態では、担体成分は、供給源からβ-グルカンを抽出する前に供給源に添加される。
【0037】
[0037]別の実施形態では、本開示は、組成物(例えば、栄養製品及び/又は水性飲料)の製造方法を提供する。この方法は、β-グルカンと、組成物の伸長特性に影響しない又は伸長特性を増強する炭水化物である担体成分とを含む増粘粉末を希釈することによって、組成物の少なくとも一部を形成する工程を含む。増粘粉末を希釈することは、約100:1~約15:1の液体:粉末の重量比で、水又は乳の少なくとも1つを含む液体に増粘粉末を希釈する工程を含む。
【0038】
[0038]担体成分は、イソマルツロース、低分子量の炭水化物(例えば、スクロース及び/又はラクトース)及びそれらの混合物からなる群から選択され得る。好ましくは、担体成分はイソマルツロースである。増粘粉末は、本質的にβ-グルカン及び担体成分からなり得る。好ましくは、増粘粉末はβ-グルカン及び担体成分からなり得る。増粘粉末は、約10:1~約300:1、好ましくは約20:1~約200:1、より好ましくは約20:1~約150:1(例えば、約150:1)、最も好ましくは約20:1~約100:1の重量比で担体成分と、β-グルカンとを含み得る。増粘粉末は、約1:1~約30:1、好ましくは約2:1~約20:1、より好ましくは約2:1~約15:1(例えば、約15:1)、最も好ましくは約2:1~約10:1の重量比で担体成分と、β-グルカンを含むオート麦抽出物とを含み得、例えば、オート麦抽出物は14%のβ-グルカンを含む。好ましくは、オート麦抽出物は10%~18%、12%~16%、又はより好ましくは14%のβ-グルカンを含む。
【0039】
[0039]水溶液は、全て20℃、50s1のせん断速度で測定される値として、約1mPas~約200mPas、好ましくは約2mPas~約100mPas、より好ましくは約4mPas~約50mPas、最も好ましくは約5mPas~約20mPasのせん断粘度、及び全て20℃の温度で測定され、キャピラリー破断式伸張粘度計(CaBER)実験によって測定される値として、約10~約2,000ミリ秒(ms)、好ましくは約20ms~約1,000ms、より好ましくは約50ms~約500ms、最も好ましくは約100ms~約200msの緩和時間を組成物に提供する量で組成物中に存在し得る。
【0040】
[0040]別の実施形態では、本開示は、β-グルカンと、組成物の伸長特性に影響しない又は伸長特性を増強する炭水化物である担体成分とを含む水溶液を含む組成物(例えば、栄養製品及び/又は水性飲料)を提供する。組成物は、全て20℃で50s1のせん断速度で測定される値として、約1mPas~約200mPas、好ましくは約2mPas~約100mPas、より好ましくは約4mPas~約50mPas、最も好ましくは約5mPas~約20mPasのせん断粘度、及び全て20℃の温度で測定され、キャピラリー破断方式伸長ひずみ型レオメータ(CaBER)実験によって測定される値として、約10~約2,000ミリ秒(ms)、好ましくは約20ms~約1,000ms、より好ましくは約50ms~約500ms、最も好ましくは約100ms~約200msの緩和時間を組成物に提供する量の水溶液を含む。好ましくは、組成物は水性飲料であり、より好ましくは、組成物は液体組成物、更により好ましくは粘度の低い液体組成物である。組成物は、嚥下障害の治療に使用することができる。
【0041】
[0041]別の実施形態では、本開示は、嚥下障害者における嚥下障害を治療する方法を提供する。この方法は、β-グルカンと、組成物の伸長特性に影響しない又は伸長特性を増強する炭水化物である担体成分とを含む水溶液を含む組成物(例えば、栄養製品及び/又は水性飲料)を、個体に経口投与する工程を含む。組成物は、全て20℃、50s-1のせん断速度で測定される値として、約1mPas~約200mPas、好ましくは約2mPas~約100mPas、より好ましくは約4mPas~約50mPas、最も好ましくは約5mPas~約20mPasのせん断粘度、及び全て20℃の温度で測定され、キャピラリー破断方式伸長ひずみ型レオメータ(CaBER)実験によって測定される値として、約10~約2,000ミリ秒(ms)、好ましくは約20ms~約1,000ms、より好ましくは約50ms~約500ms、最も好ましくは約100ms~約200msの緩和時間を組成物に提供する量の水溶液を含む。
【0042】
[0042]別の実施形態では、本開示は、組成物を必要とする個体における、当該組成物(例えば、栄養製品及び/又は水)の安全な嚥下を助ける方法を提供する。この方法は、β-グルカンと、組成物の伸長特性に影響しない又は伸長特性を増強する炭水化物である担体成分とを含む水溶液を、組成物に添加する工程を含む。水溶液は、全て20℃、50s-1のせん断速度で測定される値として、約1mPas~約200mPas、好ましくは約2mPas~約100mPas、より好ましくは約4mPas~約50mPas、最も好ましくは約5mPas~約20mPasのせん断粘度、及び全て20℃の温度で測定され、キャピラリー破断式伸張粘度計(CaBER)実験によって測定される値として、約10~約2,000ミリ秒(ms)、好ましくは約20ms~約1,000ms、より好ましくは約50ms~約500ms、最も好ましくは約100ms~約200msの緩和時間を組成物に提供する量で組成物に添加される。この方法は、水溶液が添加された組成物を個体に投与する工程を含む。
【0043】
[0043]別の実施形態では、本開示は、誤嚥のリスクを軽減する必要がある個体における、組成物(例えば、栄養製品及び/又は水)の嚥下中の誤嚥のリスクを軽減する方法を提供する。この方法は、β-グルカンと、組成物の伸長特性に影響しない又は伸長特性を増強する炭水化物である担体成分とを含む水溶液を、組成物に添加する工程を含む。水溶液は、全て20℃で50s-1のせん断速度で測定される値として、約1mPas~約200mPas、好ましくは約2mPas~約100mPas、より好ましくは約4mPas~約50mPas、最も好ましくは約5mPas~約20mPasのせん断粘度、及び全て20℃の温度で測定され、キャピラリー破断式伸張粘度計(CaBER)実験によって測定される値として、約10~約2,000ミリ秒(ms)、好ましくは約20ms~約1,000ms、より好ましくは約50ms~約500ms、最も好ましくは約100ms~約200msの緩和時間を組成物に提供する量で組成物中に添加される。この方法は、水溶液が添加された組成物を個体に投与する工程を含む。好ましくは、組成物は水である。
【0044】
[0044]別の実施形態では、本開示は、組成物(例えば、栄養製品及び/又は水)の凝集性を改善するための方法を提供する。この方法は、β-グルカンと、組成物の伸長特性に影響しない又は伸長特性を増強する炭水化物である担体成分とを含む増粘粉末を希釈することによって、組成物の少なくとも一部を形成する工程を含む。水溶液は、全て20℃、50s1のせん断速度で測定される値として、約1mPas~約200mPas、好ましくは約2mPas~約100mPas、より好ましくは約4mPas~約50mPas、最も好ましくは約5mPas~約20mPasのせん断粘度、及び全て20℃の温度で測定され、キャピラリー破断式伸張粘度計(CaBER)実験によって測定される値として、約10~約2,000ミリ秒(ms)、好ましくは約20ms~約1,000ms、より好ましくは約50ms~約500ms、最も好ましくは約100ms~約200msの緩和時間を組成物に提供する量で組成物中に存在し得る。
【0045】
[0045]本開示によって提供される1つ以上の実施形態の利点は、嚥下障害者における栄養製品の食塊のより安全な嚥下を助けることである。
【0046】
[0046]本開示によって提供される1つ又は2つ以上の実施形態の別の利点は、多くの及び数が増加している嚥下障害者の生活を改善することである。
【0047】
[0047]本開示によって提供される1つ又は2つ以上の実施形態の更に別の利点は、個別の介入(例えば、口腔衛生の増進、正常な嚥下の回復補助、又は嚥下に安全な食塊の補強)により、個体に対し、経管栄養を受けさせるのではなく及び/又はPEG設置を要求するのではなく、食物を口から食べさせることができ、嚥下能力が十分でないことから生じる可能性のある負の結果を防ぎながら、一般的な幸福と関係する栄養製品の心理社会的な側面を経験させることができることである。
【0048】
[0048]本開示によって提供される1つ又は2つ以上の実施形態の更に別の利点は、嚥下障害者による栄養製品の摂取を改善し、したがって嚥下障害者による、多様な栄養製品の安全で快適な嚥下を可能にし、ひいては嚥下障害者を最終的により健康な状態へと導き、健康に関係するそれ以上の機能低下を予防し得ることである。
【0049】
[0049]更に、本開示によって提供される1つ以上の実施形態の別の利点は、唾液が、典型的には、個体によって消費されたときに栄養製品の食塊を提供する、自然な凝集性を提供することである。
【0050】
[0050]更に、本開示によって提供される1つ以上の実施形態の別の利点は、食塊の侵入及び誤嚥を防止するよう栄養製品のレオロジー特性を変更することである。
【0051】
[0051]本開示によって提供される1つ以上の実施形態の別の利点は、栄養製品が口内で産生される唾液に類似した凝集性を有しており、したがって嚥下障害者に、より自然な感覚を提供することである。
【0052】
[0052]本開示によって提供される1つ以上の実施形態の更に別の利点は、本開示によって提供される1つ以上の実施形態は、嚥下障害者の口内に残留物を残さないため、栄養製品には、従来の増粘剤による増粘された感覚(高せん断粘度)がないことである。これは、粘度の低い液体特性を維持することが想定される液体製品に特に関連する。
【0053】
[0053]本開示によって提供される1つ以上の実施形態の更に別の利点は、栄養製品が既知の増粘栄養製品より優れた感覚刺激特性を有することである。
【0054】
[0054]更に、本開示によって提供される1つ以上の実施形態の別の利点は、食塊の凝集性を改善して、食塊が、気道に入り込む恐れのある又は嚥下中に口腔咽頭及び/若しくは食道管に望ましくない残留物を生じ得る、小塊に分解することを防止することである。
【0055】
[0055]更に、本開示によって提供される1つ以上の実施形態の別の利点は、嚥下障害者が嚥下に要する力を低減することである。
【0056】
[0056]本開示によって提供される1つ以上の実施形態の別の利点は、嚥下障害患者の中咽頭及び/又は食道路における残留物の蓄積のリスクが低減されることである。
【0057】
[0057]本開示によって提供される1つ以上の実施形態の更に別の利点は、凝集性を増加させること、並びに、嚥下障害者がより広範な食品及び飲料製品を安全かつ快適に嚥下することを可能にすることにより、例えば、食塊のまとまり(「凝集性」)を改善し、したがって、嚥下障害者に対して、自身がより広範囲の製品を消費することができるという自信を与えることにより、嚥下障害者の栄養摂取を改善すること、である。
【0058】
[0058]本開示によって提供される1つ以上の実施形態の更に別の利点は、嚥下能力及び効率が改善され、したがって、肺吸引のリスクを低減することにより安全性が改善されることである。
【0059】
[0059]更に、本開示によって提供される1つ以上の実施形態の別の利点は、摂食補助からの独立性がより大きいこと及び/又は食事摂取中の摂食支援に費やす時間が短縮されることである。
【0060】
[0060]更なる特徴及び利益が本明細書において記述されており、以下の図面、及び発明を実施するための形態から明らかとなるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【
図1】本明細書に開示する実験例において使用したプロセスを示すフローチャートである。
【
図2】本明細書に開示する実験例の結果を示す表である。
【
図3】本明細書に開示する実験例の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0062】
[0061]定義
[0062]以下、いくつかの定義を示す。しかしながら定義が以下の「実施形態」の項にある場合もあり、上記の見出し「定義」は、「実施形態」の項におけるそのような開示が定義ではないことを意味するものではない。
【0063】
[0063]本明細書に記載する全てのパーセンテージは、別途記載のない限り組成物の総重量によるものである。全固形分の重量は「%TS」と記載される。
【0064】
[0064]本明細書で使用するとき、「約」、「およそ」、及び「実質的に」は、数値範囲内、例えば、参照数字の-10%から+10%の範囲内、好ましくは-5%から+5%の範囲内、より好ましくは、参照数字の-1%から+1%の範囲内、最も好ましくは参照数字の-0.1%から+0.1%の範囲内の数を指すものと理解される。本明細書における全ての数値範囲は、その範囲内の全ての整数又は分数を含むと理解されるべきである。更に、これらの数値範囲は、この範囲内の任意の数又は数の部分集合を対象とする請求項を支持するために与えられていると解釈すべきである。例えば、1~10という開示は、1~8、3~7、1~9、3.6~4.6、3.5~9.9などの範囲を支持するものと解釈すべきである。
【0065】
[0065]本開示及び添付の特許請求の範囲において使用するとき、単数形「1つの」(「a」、「an」及び「the」)には、別段の指示がない限り、複数の参照物も含まれる。したがって、例えば、「1つの成分/ある成分(a component)」又は「その成分(the component)」についての言及は、2つ以上の成分を包含する。
【0066】
[0066]「含む(comprise)」、「含む(comprises)」、及び「含んでいる(comprising)」という用語は、排他的にではなく包含的に解釈されるべきである。同様にして、用語「含む(include)」、「含む(including)」及び「又は(or)」は全て、このような解釈が文脈から明確に妨げられない限りは包括的なものであると解釈される。しかしながら、本明細書に開示されている組成物は、本明細書において具体的に開示されていない要素を含まない場合がある。したがって、「を含む(comprising)」という用語を用いた実施形態の開示は、特定されている構成成分「本質的に~からなる(consisting essentially of)」及び「からなる(consisting of)」実施形態の開示を含む。「本質的になる」組成物とは、参照された構成成分を少なくとも75重量%、好ましくは参照された構成成分を少なくとも85重量%、より好ましくは参照された構成成分を少なくとも90重量%、最も好ましくは参照された構成成分を少なくとも95重量%含むことをいう。
【0067】
[0067]「X及び/又はY」の文脈にて使用される用語「及び/又は」は、「X」又は「Y」又は「X及びY」と解釈されるべきである。本明細書において使用する場合、用語「例(example)」及び「などの(such as)」は、特に後に用語の掲載が続く場合は、単に例示的なものであり、かつ説明のためのものであり、排他的又は包括的なものであると判断すべきではない。
【0068】
[0068]用語「栄養製品」は、ヒトなどの個体による摂取を意図し、個体に少なくとも1つの栄養素を提供する製品又は組成物を意味する。
【0069】
[0069]「予防」は、状態又は疾患のリスク及び/又は重症度を低減させることを含む。用語「治療」、「治療する」、「軽減する」及び「緩和する」には、予防若しくは予防的治療(標的とする病態若しくは障害の発現を予防する及び/又は遅らせる)と、治癒的、治療的若しくは疾患改善的な治療の両方が含まれ、例えば、診断された病態又は障害の治癒、遅延、症状の緩和、及び/又は進行の停止のための治療的手段、並びに、疾患のリスクがある患者又は疾患に罹患する疑いのある患者、及び体調不良の患者又は疾患若しくは医学的症状に罹患していると診断された患者の治療が含まれる。この用語は、完治するまで対象が治療されることを必ずしも意味するものではない。これらの用語はまた、疾患を患ってはいないが、不健康な状態を起こしやすい個体の健康維持及び/又は増進も意味する。これらの用語はまた、1つ以上の主たる予防的又は治療的手段の相乗作用あるいは強化を含むことを意図するものである。用語「治療」、「治療する」、「軽減する」及び「緩和する」は更に、疾患若しくは症状に対する食事療法、又は疾患若しくは症状の予防(prophylaxis)若しくは予防(prevention)のための食事療法を含むことを意図するものである。治療は患者に関連するものであってもよく、又は医師に関連するものであってもよい。
【0070】
[0070]用語「個体」は、認知的加齢を生じる可能性を有し、ゆえに、本願明細書に開示される1つ以上の方法から利益を得ることができる、ヒトを含む任意の動物を意味する。一般には、個体は、ヒト、又はトリ、ウシ、イヌ、ウマ、ネコ、ヤギ、オオカミ、ネズミ、ヒツジ、又はブタの動物である。「コンパニオンアニマル」は、任意の飼いならされた動物であり、限定されないが、ネコ、イヌ、ウサギ、モルモット、フェレット、ハムスター、マウス、アレチネズミ、ウマ、ウシ、ヤギ、ヒツジ、ロバ、ブタなどが挙げられる。好ましくは、個体はイヌやネコ等のコンパニオンアニマル又はヒトである。
【0071】
[0071]本明細書で使用するとき、「有効量」とは、欠乏を予防する、個体の疾患若しくは医学的状態を治療する、又はより一般的には、症状を軽減させる、疾患の進行を管理する、若しくは個体に対して栄養学的、生理学的若しくは医学的利益を提供する、量である。相対用語「助ける」、「改善する」、「増加する」、「増強する」などは、増粘粉末を含まない栄養製品の効果に対して、本明細書に開示される増粘粉末を含むこと以外は同一である栄養製品の効果を比較して指す。
【0072】
[0072]本発明において、「ベータ-グルカン」及び「β-グルカン」は、(1→3)、(1→4)グルコシド結合により連結されたD-グルコピラノースモノマーのホモ多糖を指す。β-グルカンは、植物又は微生物、例えば、穀物(例えば、オート麦、大麦)、特定の種のキノコ(例えば、霊芝、シイタケ、マイタケ)、酵母、海藻、及び藻類から、例えば、Lazaridou et al.の「A comparative study on structure-function relations of mixed-linkage(1→3),(1→4)linear β-D-glucans」in Food Hydrocolloids,18(2004),837-855に記載の方法などの当業者に既知の方法により得ることができる。
【0073】
[0073]「イソマルツロース」は、6-O-α-D-グルコピラノシル-D-フルクトースであり、Palatinose(商標)としても知られている。
【0074】
[0074]実施形態
【0075】
[0075]本開示の一態様では、増粘粉末を、乳又は水のうちの少なくとも1つを含む液体に希釈し、組成物(例えば、栄養製品又は水性飲料)の少なくとも一部を形成することができる。粉末は、β-グルカンと、組成物の伸長特性に影響しない又は伸長特性を増強する炭水化物である担体成分とを含む。好適な担体成分の非限定的な例としては、イソマルツロース及び低分子量の炭水化物(例えば、スクロース及び/又はラクトース)が挙げられる。好ましくは、粉末の希釈から得られる組成物は、花蜜の稠度を有する飲料である。より好ましくは、粉末の希釈から得られる組成物は、水様の稠度を有する飲料である。
【0076】
[0076]一実施形態では、増粘粉末は、約10:1~約300:1、好ましくは約20:1~約200:1、より好ましくは約20:1~約150:1(例えば、約150:1)、最も好ましくは約20:1~約100:1の重量比で担体成分と、β-グルカンとを含む。
【0077】
[0077]一実施形態では、増粘粉末は、約1:1~約30:1、好ましくは約2:1~約20:1、より好ましくは約2:1~約15:1(例えば、約15:1)、最も好ましくは約2:1~約10:1の重量比で担体成分と、β-グルカンを含むオート麦抽出物とを含み、例えば、オート麦抽出物は14%のβ-グルカンを含む。好ましくは、オート麦抽出物は10%~18%、12%~16%、又はより好ましくは14%のβ-グルカンを含む。
【0078】
[0078]粉末を形成するために、β-グルカンを含む組成物を、噴霧乾燥、凍結乾燥、又は当該技術分野において既知の任意の他の乾燥手順に供することができる。追加的に又は代替的に、粉末は、乾燥混合によって製造することができる。
【0079】
[0079]粉末は、容器中で再構成するために、及び/又は使用者が容器から粉末を再構成する飲用受容器中に粉末を移すことができるように、容器(例えば、密封容器)に入れて消費者に提供することができる。好適な容器の非限定的な例としては、袋、箱、カートン、ボトル、又はこれらの組み合わせが挙げられる。好ましい容器としては、サッシェ/スティックパック、すなわち、典型的にはセロファン又は紙などの柔軟性フィルムの、好ましくはその一端又は両端で破って開けることができ、組成物1回分を入れることができる、小型の使い捨てパウチが挙げられる。
【0080】
[0080]一実施形態において、粉末はタンパク質を含有しない。一実施形態では、粉末は、脂肪又は油を含有しない。一実施形態では、粉末は、組成物の伸長特性に影響しない又は伸長特性を増強する炭水化物である担体成分以外の炭水化物を含有しない(例えば、粉末は、イソマルツロース又は低分子量の炭水化物以外に炭水化物を含有しない)。例えば、粉末は、β-グルカン及び担体成分(例えば、イソマルツロース及び/又は低分子量の炭水化物)から本質的になる、又はそれからなることができる。
【0081】
[0081]別の態様では、嚥下障害者における嚥下障害を治療する方法は、β-グルカンと、組成物(例えば、スクロース及び/又はラクトースなどのイソマルツロース及び/又は低分子量の炭水化物)の伸長特性に影響しない又は伸長特性を増強する炭水化物である担体成分とを含む希釈された粉末を含む、組成物を嚥下障害者に投与する工程を含む。更なる態様では、嚥下障害者における組成物の嚥下中の誤嚥のリスクを軽減する方法は、嚥下障害者に組成物を投与する工程を含み、組成物は、β-グルカンと、組成物(例えば、スクロース及び/又はラクトースなどのイソマルツロース及び/又は低分子量の炭水化物)の伸長特性に影響しない又は伸長特性を増強する炭水化物である担体成分とを含む希釈された粉末を含む。
【0082】
[0082]したがって、β-グルカンは少量で有利なせん断粘度及び緩和時間を提供することができることから、β-グルカン及びオート麦もまた、粉末において特に好ましい特性を示す。好ましくは、せん断粘度は低く、緩和時間は長い。製品のせん断粘度は、製品に適用するせん断速度を正確に制御しつつせん断応力を測定することができる、又はその逆も可能である、任意の方法によって測定される。標準方法には、同心円筒型粘度計、円錐平板型粘度計、及び平板平板型粘度計の使用が含まれる。緩和時間は、当該技術分野で公知のキャピラリー破断式伸張粘度計(CaBER)によりこの文脈で測定することができる。製品のせん断粘度は、緩和時間と同じ温度で測定される。
【0083】
[0083]せん断粘度は測定可能なレオロジー特性である。せん断粘度は、多くの場合、粘度として参照され、せん断応力をかけた物質の反応が記載される。換言すれば、せん断応力は、流体の表面に対し横断又は水平方向に加えられた「応力」(単位面積あたりの力)の、流体内を下に動くときの流体の速度変化(「速度勾配」)に対する比率である。せん断粘度は、製品に増粘された感覚を付与する。
【0084】
[0084]物質の別のレオロジー特性には、伸長粘度がある。伸長粘度は、液体をその流動方向に伸長させるのに必要とされる応力の、伸長速度に対する比率である。伸長粘度係数は、せん断粘度から単純に計算又は推定することのできない、高分子の特性評価に広く使用される。レオロジー試験は、概して、流体に特定の応力場又は変形を加え、得られた変形又は応力を観察する、レオメータを使用して実施される。これらの装置は、流動試験又は振動流試験に加え、せん断試験及び伸長試験の両方で動作させることができる。伸長粘度は、増粘した感覚をもたらすことなく、凝集性を増大させた製品を提供し得る。
【0085】
[0085]組成物は、好ましくは、例えば、医薬製剤、栄養製品、栄養補助食品、機能性食品、又は飲料製品のうちの1つ以上として経口投与可能である。
【0086】
[0086]更なる態様では、組成物の凝集性を改善するための方法は、β-グルカンと、組成物(例えば、イソマルツロース、並びに/又はスクロース及び/若しくはラクトースなどの低分子量の炭水化物)の伸長特性に影響しない又は伸長特性を増強する炭水化物である担体成分とを含む希釈された粉末を、組成物の1つ以上の成分に添加する工程を含む。組成物は栄養製品であってもよく、栄養製品の1つ以上の成分は、タンパク質、アミノ酸、脂肪、炭水化物、プレバイオティクス、プロバイオティクス、脂肪酸、植物性栄養素、酸化防止剤、及び/又はこれらの組み合わせからなる群から選択することができる。
【0087】
[0087]栄養製品中のタンパク質は、乳性タンパク質、植物性タンパク質、又は動物性タンパク質のうちの1つ以上であり得る。好適な乳性タンパク質の非限定例としては、カゼイン、カゼイン塩(例えば、カゼインナトリウム、カゼインカルシウム、カゼインカリウムを含む全ての形態)、カゼイン加水分解物、乳清(例えば、濃縮物、単離物、脱塩物を含む全ての形態)、乳清加水分解物、乳タンパク質濃縮物、及び乳タンパク質単離物が挙げられる。好適な植物性のタンパク質の非限定例としては、例えば、大豆タンパク質(例えば、濃縮物及び単離物を含む全ての形態)、エンドウ豆タンパク質(例えば、濃縮物及び単離物を含む全ての形態)、キャノーラタンパク質(例えば、濃縮物及び単離物を含む全ての形態)、小麦及び分画小麦タンパク質、トウモロコシ及びゼインを含むその画分、米、オート麦、ジャガイモ、落花生、グリーンピース粉末、サヤエンドウ粉末などの他の植物タンパク質、並びに腎臓型の豆(beans)、ヒラマメ(lentils)及び豆類(pulses)由来の任意のタンパク質が挙げられる。好適な動物性タンパク質の非限定例としては、牛肉、家禽、魚、子羊、海産物、及びこれらの組み合わせが挙げられる。
【0088】
[0088]栄養製品に好適な脂肪源の非限定例としては、植物性脂肪(例えば、オリーブ油、コーン油、ヒマワリ油、菜種油、ヘーゼルナッツ油、ダイズ油、パーム油、ココナッツ油、キャノーラ油、レシチンなど)、動物性脂肪(乳脂肪など)又はこれらの組み合わせが挙げられる。
【0089】
[0089]栄養製品に好適な炭水化物の非限定例としては、(担体成分に追加で)グルコース、フルクトース、コーンシロップ固形物、マルトデキストリン、変性デンプン、アミロースデンプン、タピオカデンプン、トウモロコシデンプン、又はこれらの任意の組み合わせが挙げられる。一実施形態では、栄養製品は、可溶性繊維及び/又は不溶性繊維を含み得る。好適な可溶性繊維の非限定的な例としては、フルクトオリゴ糖、アカシアガム、イヌリン、及びこれらの混合物が挙げられる。好適な不溶性繊維の非限定例としては、エンドウマメの外皮繊維が挙げられる。
【0090】
[0090]実施例
【0091】
[0091]以下の非限定的な例は、本開示によって提供される増粘粉末の1つ以上の実施形態を支持する実験例である。実験で使用されるプロセスは、
図1に記載される。
【0092】
[0092]実験の目的は、最大30%TSのイソマルツロース又は最大30%TSの可溶性トウモロコシ繊維(PROMITOR(登録商標))を、14%のβ-グルカンを含有する1.64% TSのオート麦ふすま(OATWELL(登録商標))に、異なるpHで添加しようと試みることとした。得られた濃度は、約0.23%のβ-グルカン及び約28.36%の担体成分であった。
【0093】
[0093]第1の試験では、オート麦ふすまからβ-グルカンを抽出した後、β-グルカンに担体原材料を添加した。具体的には、β-グルカンは、60℃で30分間オート麦ふすま(OATWELL(登録商標))から抽出し、次いで、β-グルカン抽出物を15℃に冷却し、1部分(参照)を15℃及び2939×gで20分間直接遠心分離し、不溶性物質をデカントし、上清を分離し、分析用に回収した。抽出物の第2の部分及び第3の部分を、30%TSに達成させるために可溶性トウモロコシ繊維又はイソマルツロースと混合し、両方の試料を15℃及び2939×gで20分間遠心分離し、不溶性物質をデカントし、上清を分離し、分析用に回収した。3つの最終試料、すなわち、1つのβ-グルカン抽出物、可溶性トウモロコシ繊維を含む別のβ-グルカン抽出物、及びイソマルツロースを含む別のβ-グルカン抽出物を得た。各バリエーションのpHを測定し、各試料の1部分を5%のクエン酸でpH6.0に調整した。全ての試料の粘度及び凝集性を測定した。
【0094】
[0094]調整なしの試料のpHは、参照試料については7.12であり、Promitormpの試料については6.92、及びイソマルツロースの試料については6.99であった。
【0095】
[0095]第2の試験では、β-グルカン抽出前に、各担体原材料をオート麦ふすまに添加した。具体的には、イソマルツロース又は可溶性トウモロコシ繊維を別々に溶解して28.36%TSに到達させ、60℃で15分間混合し、次いで、最終濃度30%TSを達成させるために、1.64%のオート麦ふすまを各担体分散体に添加した。オート麦ふすま及び担体を60℃で30分間撹拌した後、15℃に冷却した。各変種のpHを測定し、各試料の1部分を5%のクエン酸でpH6.0に調整した。全ての試料の粘度及び凝集性を測定した。
【0096】
[0096]結果を
図2の表及び
図3のグラフに示す。
【0097】
[0097]本明細書に記載されている、本発明の好ましい実施形態に対する様々な変更及び修正が、当業者には明らかであることを理解されたい。かかる変更及び修正は、本発明の主題の趣旨及び範囲から逸脱することなく、かつ意図される利点を損なわずに、行うことができる。したがって、かかる変更及び修正は、添付の特許請求の範囲に包含されることが意図されている。