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特許7179784淡色ロジンエステル組成物及びこれを製造する方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-18
(45)【発行日】2022-11-29
(54)【発明の名称】淡色ロジンエステル組成物及びこれを製造する方法
(51)【国際特許分類】
   C09F 1/02 20060101AFI20221121BHJP
   C08L 93/04 20060101ALI20221121BHJP
   C09F 1/04 20060101ALI20221121BHJP
【FI】
C09F1/02
C08L93/04
C09F1/04
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2019571399
(86)(22)【出願日】2018-06-30
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-08-31
(86)【国際出願番号】 US2018040513
(87)【国際公開番号】W WO2019006431
(87)【国際公開日】2019-01-03
【審査請求日】2021-06-16
(31)【優先権主張番号】62/527,730
(32)【優先日】2017-06-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】519418226
【氏名又は名称】クレイトン・ポリマーズ・エル・エル・シー
(74)【代理人】
【識別番号】110001173
【氏名又は名称】弁理士法人川口國際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】スカープマン,マルク・セー
【審査官】森 健一
(56)【参考文献】
【文献】特開昭62-030170(JP,A)
【文献】特開平02-064182(JP,A)
【文献】特表2016-538352(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09F 1/00
C08L 93/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
1種以上のロジンを共触媒と接触させて混合物を生成し、
該混合物をある温度に加熱して淡色のロジンを生成することを含む、
淡色ロジンを生成する方法であって、
該共触媒が、次式で表される化合物を含む、方法。
【化1】
[式中、n=0、1又は2であり、
Xは、酸素、硫黄、窒素又は炭素を表し、
、Z、Z、Z、Z、Z、Z及びZは同一であるか又は異なり、各々独立して炭素又は窒素を表し、
、R、R、R、R、R、R及びRは同一であるか又は異なり、各々独立して、水素、アルキル基、アリール基、アリールアルキル基、アルケニル基、アリールアルケニル基、アルキニル基、アリールアルキニル基、シクロアルキル基、シクロアルキルアルキル基、アルキレン基、シクロアルキルアルキレン基、アルキニレン基、フェニル基、トリル基、ナフチル基、ピリジル基、フリル基、アシル基、プロピオニル基、ホルミル基、ベンゾイル基、アセトキシ基、ハロゲン、アルコキシ基、アミノ基、ベンジル、ハロゲン置換ベンジル基、アルキル置換ベンジル基、アルコキシ置換ベンジル基、ハロゲン置換アリール基、アルキル置換アリール基、アルコキシ置換アリール基、ジアルキルアミノ基、モノアルキルアミノ基、モノアルキルアミド基、ジアルキルアミド基、シアノ基、ヒドロキシメチル基、ヒドロキシアルキル基、トリフルオロメチル基、トリフルオロメトキシ基、トリフルオロメチルチオ基、トリフルオロメチルスルホニル基、ニトロ基、カルボキシル基、ヒドロキシル基、アルコキシアルキル基、アリールオキシアルキル基、スルファモイル基、ジメチルスルファミド基、スルフヒドリル基、アルキルスルホニル基、アリールスルホニル基、アルキルスルフィニル基、アリールスルフィニル基、アルキルスルファニル基、アリールスルファニル基、メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、イソプロポキシカルボニル基、カルバモイル基、カルボニルクロリド基、ホスフィン基、ホスフェート基、ホスホジエステル基、ホスホン酸基、オキシラニルアルキル基、カルボキシアルキル基、グルコピラノシル基又はグルコピラノシルオキシ基の群から選択される。]
【請求項2】
前記共触媒が、0.5を超える三重項形成量子収率(φ)及び0.5マイクロ秒を超える三重項寿命(τ)を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記共触媒が、アクリドン、アントロン、9-フルオレノン、チオキサントン、キサントン、それらの誘導体及びそれらの組合せの群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
淡色ロジンが、ASTM D1544-04(2010)に従って決定された、10未満の初期(ニート)ガードナーカラーを有する、請求項1~3のいずれか一項に記載の淡色ロジンを生成する方法。
【請求項5】
前記混合物を不均化触媒と接触させることをさらに含み、該不均化触媒が、2,2’-チオビスフェノール、3,3’-チオビスフェノール、4,4’-チオビス(レゾルシノール)、1,1’-チオビス(ピロガロール)、4,4’-チオビス(6-t-ブチル-m-クレゾール)、4,4’-チオビス(6-t-ブチル-o-クレゾール)チオビスナフトール、2,2’-チオ-ビスフェノール、3,3’-チオ-ビスフェノール、パラジウム、ニッケル、白金、ヨウ素、ヨウ化物、硫化物、ポリ-t-ブチルフェノールジスルフィド、4,4’-チオビス(2-t-ブチル-5-メチルフェノール、ノニルフェノールジスルフィドオリゴマー、アミルフェノールジスルフィドポリマー、及びそれらの組み合わせから選択され、
ロジン又はロジンエステルの総重量に基づいて、該不均化触媒が0.01重量%~5.0重量%の量で存在し、共触媒は0.01重量%~5.0重量%の量で存在する、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記1種以上のロジンが、トールオイルロジン、ガムロジン、ウッドロジン、不均化ロジン、強化ロジン及びそれらの組合せのいずれかを含み、1種以上のロジンが120mg KOH/グラム~190mg KOH/グラムの範囲の酸価を有する、請求項1~3のいずれか一項に記載の淡色のロジンを生成する方法。
【請求項7】
1種以上のロジンを、共触媒、1種以上の多価アルコール、任意選択的に1種以上のモノカルボン酸、及び任意選択的に1種以上のポリカルボン酸と接触させて混合物を生成し、
該混合物をある温度に加熱して淡色のロジンエステルを生成することを含む、
淡色のロジンエステルを製造する方法であって、
該共触媒が、次式で表される化合物を含む、方法。
【化2】
[式中、n=0、1又は2であり、
Xは、酸素、硫黄、窒素又は炭素を表し、
、Z、Z、Z、Z、Z、Z及びZは同一であるか又は異なり、各々独立して炭素又は窒素を表し、
、R、R、R、R、R、R及びRは同一であるか又は異なり、各々独立して、水素、アルキル基、アリール基、アリールアルキル基、アルケニル基、アリールアルケニル基、アルキニル基、アリールアルキニル基、シクロアルキル基、シクロアルキルアルキル基、アルキレン基、シクロアルキルアルキレン基、アルキニレン基、フェニル基、トリル基、ナフチル基、ピリジル基、フリル基、アシル基、プロピオニル基、ホルミル基、ベンゾイル基、アセトキシ基、ハロゲン、アルコキシ基、アミノ基、ベンジル、ハロゲン置換ベンジル基、アルキル置換ベンジル基、アルコキシ置換ベンジル基、ハロゲン置換アリール基、アルキル置換アリール基、アルコキシ置換アリール基、ジアルキルアミノ基、モノアルキルアミノ基、モノアルキルアミド基、ジアルキルアミド基、シアノ基、ヒドロキシメチル基、ヒドロキシアルキル基、トリフルオロメチル基、トリフルオロメトキシ基、トリフルオロメチルチオ基、トリフルオロメチルスルホニル基、ニトロ基、カルボキシル基、ヒドロキシル基、アルコキシアルキル基、アリールオキシアルキル基、スルファモイル基、ジメチルスルファミド基、スルフヒドリル基、アルキルスルホニル基、アリールスルホニル基、アルキルスルフィニル基、アリールスルフィニル基、アルキルスルファニル基、アリールスルファニル基、メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、イソプロポキシカルボニル基、カルバモイル基、カルボニルクロリド基、ホスフィン基、ホスフェート基、ホスホジエステル基、ホスホン酸基、オキシラニルアルキル基、カルボキシアルキル基、グルコピラノシル基又はグルコピラノシルオキシ基の群から選択される。]
【請求項8】
前記混合物を、2,2’-チオビスフェノール、3,3’-チオビスフェノール、4,4’-チオビス(レゾルシノール)、1,1’-チオビス(ピロガロール)、4,4’-チオビス(6-t-ブチル-m-クレゾール)、4,4’-チオビス(6-t-ブチル-o-クレゾール)チオビスナフトール、2,2’-チオ-ビスフェノール、3,3’-チオ-ビスフェノール、パラジウム、ニッケル、白金、ヨウ素、ヨウ化物、硫化物、ポリ-t-ブチルフェノールジスルフィド、4,4’-チオビス(2-t-ブチル-5-メチルフェノール、ノニルフェノールジスルフィドオリゴマー、パラジウム、アミルフェノールジスルフィドポリマー、及びそれらの組み合わせの群から選択される不均化触媒と接触させることをさらに含む、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記1種以上のロジンが、トールオイルロジン、ガムロジン、ウッドロジン、不均化ロジン、フマル酸、マレイン酸、アクリル酸、無水マレイン酸、シトラコン酸、メサコン酸、イタコン酸、及びそれらから誘導されるエステルのいずれかで強化されたロジン、並びにそれらの組み合わせのいずれかを含む、請求項7又は8に記載の方法。
【請求項10】
前記1種以上の多価アルコールが、2~10の平均ヒドロキシル官能基を含み、前記1種以上の多価アルコールが、ロジンエステルの総重量に基づいて、5重量%~40重量%の量で存在し、
前記1種以上の多価アルコールが、グリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ネオペンチルグリコール、トリメチレングリコール、グリセロール、トリメチロールプロパン、トリメチロールエタン、ペンタエリスリトール、ペンタエリスリトール工業用グレード、ジペンタエリスリトール、トリペンタエリスリトール、1,4-シクロヘキサンジオール、ポリエチレングリコール、ポリグリセロール、ポリグリセロール工業用グレード、ポリグリセロール-3、ポリグリセロール-4、シクロヘキサン-1,4-ジメタノール、トリシクロ[5.2.1.0(2.6)]デカン-4,8-ジメタノール、水素化ビスフェノールA(4,4’-イソプロピリデンジシクロヘキサノール)、マンニトール、ソルビトール、キシリトール、マルチトール、ラクチトール、及びそれらの組み合わせの少なくとも1つを含み、
前記1種以上のモノカルボン酸が、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、カプロン酸、エナント酸、カプリル酸、ペラルゴン酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、アラキドン酸、ベヘン酸、セロチン酸、安息香酸、シクロプロパンカルボン酸、シクロペンタンカルボン酸、シクロヘキサンカルボン酸、リノール酸、アルファ-リノレン酸、エライジン酸、サピエン酸、アラキドン酸、ミリストレイン酸、パルミトレイン酸、オレイン酸、ミリスチン酸、イソステアリン酸、又はそれらの組合せのいずれかを含み、前記1種以上のモノカルボン酸が、ロジンエステルの総重量に対して、15重量%~90重量%の量で存在し、
前記1種以上のポリカルボン酸が、2~54個の炭素原子を含む、請求項7又は8に記載の方法。
【請求項11】
前記混合物をエステル化触媒と接触させる工程をさらに含み、該エステル化触媒が酢酸、p-トルエンスルホン酸、メタンスルホン酸、次亜リン酸、硫酸、アルカリ金属水酸化物、水酸化カルシウム、金属酸化物、酸化カルシウム、酸化マグネシウム、酸化アルミニウム、カルシウムビス-モノエチル(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)ホスホネート及びそれらの組合せのいずれかを含む、請求項7又は8に記載の方法。
【請求項12】
1種以上のロジンを、共触媒、不均化触媒、1種以上の多価アルコール、任意選択的に1種以上のモノカルボン酸、及び任意選択的に1種以上のポリカルボン酸と接触させて混合物を生成することを含む、
淡色のロジンエステルを提供する方法であって、
該共触媒が、次式で表される化合物を含み、
【化3】
[式中、n=0、1又は2であり、
Xは、酸素、硫黄、窒素又は炭素を表し、
、Z、Z、Z、Z、Z、Z及びZは同一であるか又は異なり、各々独立して炭素又は窒素を表し、
、R、R、R、R、R、R及びRは同一であるか又は異なり、各々独立して、水素、アルキル基、アリール基、アリールアルキル基、アルケニル基、アリールアルケニル基、アルキニル基、アリールアルキニル基、シクロアルキル基、シクロアルキルアルキル基、アルキレン基、シクロアルキルアルキレン基、アルキニレン基、フェニル基、トリル基、ナフチル基、ピリジル基、フリル基、アシル基、プロピオニル基、ホルミル基、ベンゾイル基、アセトキシ基、ハロゲン、アルコキシ基、アミノ基、ベンジル、ハロゲン置換ベンジル基、アルキル置換ベンジル基、アルコキシ置換ベンジル基、ハロゲン置換アリール基、アルキル置換アリール基、アルコキシ置換アリール基、ジアルキルアミノ基、モノアルキルアミノ基、モノアルキルアミド基、ジアルキルアミド基、シアノ基、ヒドロキシメチル基、ヒドロキシアルキル基、トリフルオロメチル基、トリフルオロメトキシ基、トリフルオロメチルチオ基、トリフルオロメチルスルホニル基、ニトロ基、カルボキシル基、ヒドロキシル基、アルコキシアルキル基、アリールオキシアルキル基、スルファモイル基、ジメチルスルファミド基、スルフヒドリル基、アルキルスルホニル基、アリールスルホニル基、アルキルスルフィニル基、アリールスルフィニル基、アルキルスルファニル基、アリールスルファニル基、メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、イソプロポキシカルボニル基、カルバモイル基、カルボニルクロリド基、ホスフィン基、ホスフェート基、ホスホジエステル基、ホスホン酸基、オキシラニルアルキル基、カルボキシアルキル基、グルコピラノシル基又はグルコピラノシルオキシ基の群から選択される。]
該共触媒は、0.5を超える三重項形成量子収率(φ)及び0.5マイクロ秒を超える三重項寿命(τ)を有し、
該ロジンエステルが、177℃の温度に96時間加熱されたとき、5.0以下のガードナーカラー単位の変化を示し、
該ロジンエステルは25以下のPAN数を有し、
1種以上のロジンは少なくとも30重量%のデヒドロアビエチン酸を有する、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
<関連出願>
本出願は、2017年6月30日の出願日を有する米国仮出願第62/527,730号からの優先権を主張するものであり、その開示全体が、あらゆる目的のために参照により本明細書に援用される。
【0002】
<分野>
本開示は、淡色の(又はかすかな色の)ロジン及びロジンエステルに関する。
【背景技術】
【0003】
CN105754485A号は、ロジンの高度加工を開示し、高い軟化点及び高純度を有するロジングリセリンエステルのための、ロジングリセリンエステルの製造方法を開示する。CN105778765A号は、高い軟化点及び純度を有するペンタエリスリトールロジンエステルを製造する方法を開示する。CN105802500A号及びCN105802501A号は、純度が高く、かつ色が淡いロジングリセリンエステルを製造する方法を開示する。JP02064182号は、淡色及び優れた熱安定性を有するロジンエステルを開示し、エステル化反応は、不活性ガス流中でのロジン及びアルコールの脱水縮合によって行われる。Holton, H.H.,Prepr.Pap.Annu.Meet.Tech.Sect., C.P.P.A,第62回、CPPA、カナダケベック州モントリオール、1976、p.A107は、紙産業におけるパルプ化触媒としてのアントラキノンの使用を開示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】中国特許出願公開第105754485号明細書
【文献】中国特許出願公開第105778765号明細書
【文献】中国特許出願公開第105802500号明細書
【文献】中国特許出願公開第105802501号明細書
【文献】特開平02-064182号公報
【非特許文献】
【0005】
【文献】Holton, H.H.,Prepr.Pap.Annu.Meet.Tech.Sect., C.P.P.A,第62回、CPPA、カナダケベック州モントリオール、1976、p.A107
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
種々の用途のためにロジンエステルの色特性を改善するための、満たされていない必要性が残っている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
一態様では、淡色ロジンを製造するか、又は淡色ロジンエステルを製造する方法が開示される。本方法は、1種以上のロジンを共触媒と接触させて混合物を生成する工程と、該混合物をある温度に加熱して淡色ロジンを生成する工程とを含む。一態様では、共触媒は、0.5を超える三重項形成量子収率(φ)及び0.5マイクロ秒を超える三重項寿命(τ)を有する。
【0008】
別の態様において、共触媒はアクリドン、アントロン、9-フルオレノン、チオキサントン、キサントン又はそれらの誘導体及び/若しくは組合せから選択される。
【0009】
さらに別の態様では、共触媒は、式Iで表される化合物を含む。
【0010】
【化1】
【0011】
別の態様において、淡色ロジンエステルを製造する方法が開示される。この方法は、1種以上のロジンを共触媒、不均化触媒、1種以上の多価アルコール、任意選択的に1種以上のモノカルボン酸、及び任意選択的に1種以上のポリカルボン酸と接触させて混合物を生成させ、該混合物をある温度に加熱して淡色ロジンエステルを生成させることを含み、共触媒は式Iで表される化合物を含む。
【0012】
さらに別の態様において、淡色のロジンエステルを提供する方法が開示される。この方法は、1種以上のロジンを共触媒、不均化触媒、1種以上の多価アルコール、及び任意選択的に1種以上のモノカルボン酸、及び任意選択的に1種以上のポリカルボン酸と接触させて混合物を生成することを含み、共触媒は0.5を超える三重項形成量子収率(φ)及び0.5マイクロ秒を超える三重項寿命(τ)を有する。
【発明を実施するための形態】
【0013】
特に指定のない限り、以下の定義が本開示に適用される。
【0014】
酸価(又は「中和数」若しくは「酸性度指数」若しくは「酸性度」):1グラムの化学物質を中和するために必要な、ミリグラム単位の水酸化カリウム(KOH)の質量。ASTM D465-05(2010)を用いて酸価を求めることができる。
【0015】
ガードナーカラースケール:液体試料の黄色の強度を測定するために用いられるスケール。より淡い(すなわち、より少ない)黄色の強度は、より低いガードナーカラーの値に対応する。
【0016】
「トールオイル」は「液体ロジン」とも呼ばれ、主に針葉樹をパルプ化する際に木材パルプ製造のクラフト工程の副産物として得られる、粘性の黄黒色の液体である。粗トールオイルには、ロジン(主にアビエチン酸及びその異性体)、脂肪酸(主にオレイン酸及びリノール酸)、トールオイルピッチが含まれている。トールオイルの分別蒸留により、蒸留したトールオイル(ロジン含有率が10~35%に低下している)及びトールオイル脂肪酸(TOFA)(ロジン含有率が0.1~10%に低下している)を得ることができる。
【0017】
「PAN数(PAN number)」は、ロジンエステルからの加水分解によって得られる、パラストリン酸、アビエチン酸及びネオアビエチン酸部分の重量パーセントの合計を指す。
【0018】
本明細書中に開示されるのは、調製方法と共に、かすかな着色とも称される淡色のロジンエステル及び淡色のロジンエステル組成物である。本明細書にさらに開示されるのは、淡色のロジン及び/又は淡色のロジンエステル組成物を得るための新規な共触媒、並びにロジン、共触媒、及び任意選択的に不均化剤を接触させ、熱処理することによって該ロジンエステルを調製する方法である。別の態様において、かすかな色のロジンエステルを調製する方法は、(a)1種以上の新規な共触媒及び任意選択的にエステル化触媒及び/又は不均化触媒の存在下で、1種以上のロジンを接触させること、を含む。さらに別の態様において、かすかな色のロジンエステルを調製する方法は、(a)1種以上のロジン、(b)任意選択的に1種以上のモノカルボン酸、(c)1種以上の多価アルコール及び(d)任意選択的に1種以上のポリカルボン酸を、不均化触媒及び1種以上の新規な共触媒の存在下で接触させることを含む。
【0019】
<成分-ロジン>: ロジン(又はロジン酸)は、ロジン酸の混合物を含んでもよく、ロジンの正確な組成は部分的に植物種によって異なる。ロジン酸はC20縮合環モノカルボン酸で、数及び位置が異なる二重結合を含む3つの縮合した6炭素環の核を持つ。例としては、アビエチン酸、ネオアビエチン酸、デヒドロアビエチン酸、ジヒドロアビエチン酸、ピマル酸、レボピマル酸、サンダラコピマル酸、イソピマル酸、及びパラストリン酸が挙げられる。天然のロジンは、典型的には、少量の他の成分との組み合わされたいくつかの主にアビエチン型とピマル酸型の酸の混合物からなる。
【0020】
ロジンは市販されており、オレオレジンの蒸留(ガムロジンは蒸留残渣である)、マツの断端の抽出(ウッドロジン)、又はトールオイルの分別(トールオイルロジン)によってマツの木から得ることができる。例としては、トールオイルロジン、ガムロジン及びウッドロジン並びにそれらの混合物が挙げられる。所望であれば、ロジンは、本明細書に記載されるエステル化ステップにおけるロジンとしての使用前に、1つ以上の精製ステップ(例えば、減圧下での蒸留、抽出、及び/又は結晶化)に供することができる。水素化ロジン及び部分水素化ロジンもまた、ロジン源として使用され得る。一実施形態において、ロジンはトールオイルロジン、例えば、Kraton Chemical社から市販されているSYLVAROSロジン製品である。
【0021】
クラフト紙パルプ化法から得られる粗トールオイル(CTO)は、相当量のトールオイルロジン及びトールオイル脂肪酸(TOFA)を含む。蒸留したトールオイル(DTO)は、トールオイルロジン及びTOFA(いくつかのモノカルボン酸の混合物)を含む、粗トールオイル分別蒸留から得られる工業用精製生産物を構成し、これはロジンエステル組成の調製の出発点として使用できる。例としては、Kraton Chemical社のSYLVATAL(商標)製品ラインが挙げられる。
【0022】
いくつかの態様において、ロジンは、ロジンエステルの化学的及び物理的性質を改善するために1つ以上の処理ステップに供される。この方法は、ロジンエステルの製造前、製造と同時、又は製造後に実施することができる。一態様において、ロジンは部分的に二量体化されるか、又は重合され、次いでエステル化されてロジンエステルが得られる。ロジンの重合及び二量体化反応は、米国特許第2369125号、同第2017866号及び同第2108928号に記載されている。このようなロジンの重合及び二量体化反応は、硫酸のようなブレンステッド酸によって、又はAlClのようなルイス酸によって触媒され得る。
【0023】
ある態様において、ロジンエステルは不均化ロジンを含む。ロジンの不均化はアビエタジエン酸部分をデヒドロアビエチン酸部分及びジヒドロアビエチン酸部分に変換する。不均化の方法は、例えば、米国特許第3423389号、同第4302371号、及び同第4657703号に記載された1種以上の不均化剤の存在下でしばしばロジンを加熱することを含んでもよい。
【0024】
不均化剤の例としては、2,2’-チオビスフェノール、3,3’-チオビスフェノール、4,4’-チオビスフェノール(レゾルシノール)及びt,t’-チオビス(ピロガロール)、4,4’-15チオビス(6-t-ブチル-m-クレゾール)及び4/4’-チオビス(6-t-ブチル-o-クレゾール)チオビスナフトール、2,2’-チオ-ビスフェノール、3,3’-チオ-ビスフェノールをはじめとするチオビスナフトール;パラジウム、ニッケル及び白金をはじめとする金属;ヨウ素又はヨウ化物(例えば、ヨウ化鉄);硫化物(例えば、硫化鉄);及びそれらの組み合わせが挙げられるが、これらに限定されない。ある態様において、ロジンは、ポリ-t-ブチルフェノールジスルフィド、4,4’-チオビス(2-t-ブチル-5-メチルフェノール、ノニルフェノールジスルフィドオリゴマー及びアミルフェノールジスルフィドポリマーのようなフェノールスルフィド型不均化剤を用いて不均化される。
【0025】
一実施形態において、ロジンエステルは強化ロジンを含む。いくつかの態様において、得られるロジンエステルの化学的及び物理的性質を改善するために、エステル化反応の前にロジンが強化される。ロジンの強化は、ロジン中のロジン酸の共役二重結合系の化学修飾に関与し、強化前のロジンよりも低いPAN数及び高い分子量を有するロジンを提供する。例えば、ロジンは、α、β-不飽和有機酸又はそのような酸の無水物のようなジエノフィルとのロジン酸のディールスアルダー又はエン付加反応によって強化され得る。適切なジエノフィルの例としては、マレイン酸、フマル酸、アクリル酸、これらの酸に由来するエステル、及び無水マレイン酸が挙げられる。ロジンはまた、フェノール(又はビスフェノールA)及びホルムアルデヒドとの反応によってフェノール修飾され得る。ロジンの強化のための適用されたジエノフィル又はエノフィルとしては、シトラコン酸、メサコン酸、無水マレイン酸、マレイン酸、フマル酸及びイタコン酸が挙げられるが、これらに限定されない。
【0026】
ロジンは、それらの環系内に共役二重結合を含んでもよいロジン酸(例えば、アビエタジエン酸)の混合物を含んでもよい。これらの共役二重結合は酸化性の不安定さの原因である場合がある。いくつかの実施形態において、ロジンエステルは、共役二重結合を含む成分の重量パーセントを減少させるように処理される。
【0027】
いくつかの態様において、ロジンエステルは、25以下、あるいは15以下、あるいは5以下のPAN数を有するロジンを含む。このロジンは、ロジンの総重量に基づいて30重量%以上、あるいは30~60重量%、あるいは40~55重量%のデヒドロアビエチン酸を含んでもよい。いくつかの態様において、ロジン中のデヒドロアビエチン酸対ジヒドロアビエチン酸の重量比は、1:0.80~1:0.25、あるいは1:0.70~1:0.35、あるいは1:0.55~1:0.40の範囲である。
【0028】
さらなる態様において、ロジンは、120~190mg KOH/グラム、あるいは150mg KOH/グラム~185mg KOH/グラム、あるいは170mg KOH/グラム~182mg KOH/グラムの酸価の値を示す。酸価はASTM D465-05(2010)に従って測定することができ、試料1g当たりのKOHのmgとして表される。
【0029】
いくつかの態様において、ロジンエステル組成物のロジン含有率は、ロジンエステルの総重量に基づいて、20重量%~100重量%、あるいは55~80重量%、あるいは80重量%~100重量%の範囲にある。
【0030】
<任意の成分-モノカルボン酸>: 一態様では、ロジンエステルは、任意選択的に1種以上のモノカルボン酸を含む。例としては、芳香族単官能性カルボン酸、複素芳香族単官能性カルボン酸、脂肪族単官能性カルボン酸、不飽和直鎖又は分枝状単官能性カルボン酸、部分的不飽和直鎖又は分枝状単官能性カルボン酸、環状脂肪族単官能性カルボン酸、部分的不飽和環状単官能性カルボン酸、天然脂肪酸、合成脂肪酸、植物油又は動物油に由来する脂肪酸、及びそれらの組み合わせが挙げられる。ある場合には、モノカルボン酸は、オレイン酸、リノール酸、アルファ-リノレン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、又はそれらの組み合わせを含んでもよい。ある態様において、1種以上のモノカルボン酸は、トールオイル脂肪酸を含んでもよい。
【0031】
モノカルボン酸及びその誘導体は、それらのヨウ素数によって特性決定することができる。ある態様において、1種以上のモノカルボン酸は、ASTM D5768-02(2014)に記載された方法に従って決定される275mg/g未満、あるいは180mg/g未満、あるいは115mg/g未満、あるいは80mg/g未満、あるいは55mg/g~270mg/g、あるいは60mg/g~250mg/g、あるいは70mg/g~200mg/gのヨウ素数を有する。
【0032】
いくつかの態様において、ロジンエステル組成は、ロジンエステルを形成するために使用される成分の総重量に基づいて、15~90重量%、あるいは30重量%~80重量%、あるいは40~75重量%の1種以上のモノカルボン酸を含む。
【0033】
<成分-多価アルコール>: 実施形態において、ロジンエステルは、1種以上の多価アルコールを含む。多価アルコールは、直鎖状、分枝状、環状脂肪族、部分的不飽和、又は芳香族化学部分の組合せを含むことができ、任意選択的に、2つ以上のヒドロキシル部分に加えて、アルキル(例えばC1-3アルキル)、アリール(例えばベンジル)、アルコキシ(例えばメトキシ)、ハロアルキル(例えばトリフルオロメチル)、又はケト基のような1つ以上の追加の官能基を含んでもよい。芳香族多価アルコールの場合には、芳香環は、任意選択的に、フルオロ基、クロロ基、アルキル基(例えばメチル若しくはエチル)、メトキシ基、又はトリフルオロメチル基等の、1つ以上の環置換基を含んでもよい。所望であれば、1種以上の多価アルコールは、さらに、分子構造に取り込まれた1個以上のヘテロ原子(1個以上の酸素原子、酸素原子又は窒素原子)、例えば酸素原子の取込みの場合はエーテル基、硫黄原子の取込みの場合はチオエーテル基を含んでもよい。場合によっては、1種以上の多価アルコールは脂肪族アルコール(例えば脂環式アルコール)を含む。
【0034】
いくつかの態様において、1種以上の多価アルコールは、2~10、あるいは2~7、あるいは3~5の平均ヒドロキシル官能基を有し得る。場合によっては、1種以上の多価アルコールは、2~36個、あるいは2~20個、あるいは2~8個の炭素原子を含む。場合によっては、1種以上の多価アルコールは、1気圧で240℃を超える沸点を有することができる。
【0035】
多価アルコールの例としては、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ネオペンチルグリコール、トリメチレングリコール、グリセロール、トリメチロールプロパン、トリメチロールエタン、ペンタエリスリトール、ペンタエリスリトール工業用グレード、ジペンタエリスリトール、トリペンタエリスリトール、1,4-シクロヘキサンジオール、ポリエチレングリコール、ポリグリセロール、ポリグリセロール工業用グレード、ポリグリセロール-3、ポリグリセロール-4、シクロヘキサン-1,4-ジメタノール、トリシクロ[5.2.1.0(2.6)]デカン-4,8-ジメタノール、水素化ビスフェノールA(4,4’-イソプロピリデンジシクロヘキサノール)、マンニトール、ソルビトール、キシリトール、マルチトール及びラクチトールが挙げられるが、これらに限定されない。ある場合には、1種以上の多価アルコールは、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、グリセロール、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ペンタエリスリトール工業用グレード、ジペンタエリスリトール、ポリグリセロール、ポリグリセロール-4、トリシクロ[5.2.1.0(2.6)]デカン-4,8-ジメタノール、シクロヘキサン-1,4-ジメタノール、水素化ビスフェノールA(4,4’-イソプロピリデンジシクロヘキサノール)及びそれらの組合せからなる群より選択され得る。
【0036】
いくつかの態様において、ロジンエステルは、組成物を形成するために使用される成分の総重量に基づいて、5重量%~40重量%、あるいは5重量%~30重量%、あるいは8重量%~18重量%、あるいは8.5重量%~13重量%の多価アルコールを含んでもよい。
【0037】
<任意の成分-ポリカルボン酸>: 実施形態において、ロジンエステル組成物は、1種以上のポリカルボン酸を含む。例としては、2~35個の炭素原子を含むジカルボン酸、トリカルボン酸、及びテトラカルボン酸が挙げられる。場合によっては、1種以上のポリカルボン酸は2~54個の炭素原子を含む。
【0038】
ポリカルボン酸は、直鎖状、分枝状、環状脂肪族(脂環式)、不飽和、部分的不飽和、複素芳香族又は芳香族化学部分の組合せを含むことができ、任意選択的に、2つ以上のカルボン酸部分に加えて、ヒドロキシル基、アルキル(例えばC1-3アルキル)、アリール(例えばベンジル)、アルコキシ(例えばメトキシ)、ハロアルキル(例えばトリフルオロメチル)、又はケト基のような1つ以上の追加の官能基を含んでもよい。芳香族ポリカルボン酸の場合、芳香環は、任意選択的に、フルオロ基、クロロ基、アルキル基(例えばメチル若しくはエチル)、メトキシ基、又はトリフルオロメチル基等の1つ以上の環の置換基を含んでもよい。所望であれば、1種以上のポリカルボン酸は、さらに、分子構造に取り込まれた1個以上のヘテロ原子(例えば、1個以上の酸素原子、硫黄原子又は窒素原子)、例えば、酸素原子の取込みの場合はエーテル基、硫黄原子の取込みの場合はチオエーテル基を含んでもよい。
【0039】
適切なポリカルボン酸の例としては、アジピン酸、3-メチルアジピン酸、コハク酸、セバシン酸、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸、1,3-シクロヘキサンジカルボン酸、1,2-シクロヘキサンジカルボン酸、ロジン二量体、イソフタル酸、テレフタル酸、フタル酸、TOFA二量体、水素化TOFA二量体、2-(2-カルボキシフェニル)安息香酸、2,5-フランジカルボン酸、ショウノウ酸、cis-ノルボルネン-endo-2,3-ジカルボン酸、トリメリット酸、及びそれらの組合せが挙げられる。
【0040】
<成分-触媒>: いくつかの実施形態において、反応混合物は、共触媒、エステル化触媒及び/又は不均化触媒を含む。別の態様において、反応混合物は、ロジン、エステル化触媒及び/又は不均化触媒及び共触媒を含む。さらに別の態様において、反応混合物は、(a)ロジン、不均化触媒、及び(c)共触媒を含む。
【0041】
適切なエステル化触媒には、ルイス酸及びブレンステッド-ローリー酸が挙げられる。例としては、酢酸、p-トルエンスルホン酸、メタンスルホン酸、次亜リン酸、及び硫酸等の酸性触媒;水酸化カルシウム等のアルカリ金属水酸化物;酸化カルシウム、酸化マグネシウム、及び酸化アルミニウム等の金属酸化物;並びに塩化鉄、ギ酸カルシウム、及びホスホン酸カルシウム等の他の金属塩(例えばカルシウムビス-モノエチル(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)ホスホネート、Irganox(R)1425)が挙げられる。
【0042】
<共触媒>: 反応混合物は、共触媒を含む。共触媒という用語が用いられるが、エステル化触媒又は不均化触媒を加えることなく、単独で共触媒を用いることができることに留意すべきである。共触媒として使用する化合物の例は式Iで表される。
【0043】
【化2】
式中、n=0又はn=1;n=0又はn=2;Xは、酸素、硫黄、窒素又は炭素を表し、Z、Z、Z、Z、Z、Z、Z及びZは同一であるか又は異なり、各々独立して炭素又は窒素を表し;R、R、R、R、R、R、R及びRは同一であるか又は異なり、各々独立して、水素、アルキル基、アリール基、アリールアルキル基、アルケニル基、アリールアルケニル基、アルキニル基、アリールアルキニル基、シクロアルキル基、シクロアルキルアルキル基、アルキレン基、シクロアルキルアルキレン基、アルキニレン基、フェニル基、トリル基、ナフチル基、ピリジル基、フリル基、アシル基、プロピオニル基、ホルミル基、ベンゾイル基、アセトキシ基、ハロゲン、アルコキシ基、アミノ基、ベンジル、ハロゲン置換ベンジル基、アルキル置換ベンジル基、アルコキシ置換ベンジル基、ハロゲン置換アリール基、アルキル置換アリール基、アルコキシ置換アリール基、ジアルキルアミノ基、モノアルキルアミノ基、モノアルキルアミド基、ジアルキルアミド基、シアノ基、ヒドロキシメチル基、ヒドロキシアルキル基、トリフルオロメチル基、トリフルオロメトキシ基、トリフルオロメチルチオ基、トリフルオロメチルスルホニル基、ニトロ基、カルボキシル基、ヒドロキシル基、アルコキシアルキル基、アリールオキシアルキル基、スルファモイル基、ジメチルスルファミド基、スルフヒドリル基、アルキルスルホニル基、アリールスルホニル基、アルキルスルフィニル基、アリールスルフィニル基、アルキルスルファニル基、アリールスルファニル基、メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、イソプロポキシカルボニル基、カルバモイル基、カルボニルクロリド基、ホスフィン基、ホスフェート基、ホスホジエステル基、ホスホン酸基、オキシラニルアルキル基、カルボキシアルキル基、カルボキシアルキル基、グルコピラノシル基又はグルコピラノシルオキシ基であることができる。
【0044】
Xは、酸素原子、硫黄原子、窒素原子、又は炭素原子を表し、これらの原子は、化学価規則に従って1個以上の置換基で置換されており、その追加の置換基は、水素、酸素、ヒドロキシル、アルキル、アルケニル、アルキニル、シクロアルキル、シクロアルキルアルキル、アリール、ヘテロアリール、アラルキル、オキシラニルアルキル、カルボキシアルキル、カルボキシアルキル、ヒドロキシアルキル、ハロゲン置換ベンジル、アルキル置換ベンジル、アルコキシ置換ベンジル、ハロゲン置換アリール、アルキル置換アリール及びアルコキシ置換アリールから選択されるか、又は原子Xが式(I)中の原子Zに共有結合して、Xが窒素原子又は炭素原子を表す場合、5員環又は6員環をもたらす。一般構造(I)のこのような化合物の例は、10-アルキル-9(10H)-アクリジノン及び9H-チオキサンテン-9-オン、10,10-ジオキシドである。一態様では、n=2の場合、式Iの構造は、同一であるか又は異なってもよい2つのX基を有する。そのような場合には、両方のX基は炭素であってもよく、又は一方のX基が炭素であってもよく、第二のX基が窒素、酸素又は硫黄であってもよい。
【0045】
一実施形態において、互いに隣接する置換基R、R、R、R、R、R、R及びRのうちの2つは、それらが結合する炭素原子と共に環を形成することができる。n=0の場合、R及びRは隣接位置と考えられる。環は、脂環式、芳香族又は複素芳香族であることができ、任意選択的に1つ以上の置換基を含み、置換基は同一であるか又は異なり、水素、メチル、エチル、ヒドロキシ、メトキシ、シアノ、アミノ、クロロ及びフルオロから選択される。環は任意選択的に、追加の縮合又は孤立した脂環式環、芳香族環又は複素芳香族環で置換される。互いに隣接する置換基R、R、R、R、R、R、R及びRのうちの2つが、それらが結合される炭素原子と共に環を形成する例は、4H-シクロペンタ[lmn]フェナントリジン-5、9-ジオンである。他の例は、4H-シクロペンタ[def]フェナントレン-4-オン及び7H-ベンゾ[c]フルオレン-7-オンである。
【0046】
式(I)の幾つかの化合物が自然界に存在している。例えば、多くのキサントンが高等植物、菌類、シダ類、地衣類の天然源から単離されている。これらの天然に存在する化合物は、種々の置換パターンR、R、R、R、R、R、R及びRを有することができ、光学活性のある立体異性体として発生し得る。一般構造(1)のこれらの天然に存在する化合物は、商業的に入手可能である。一般構造(1)の天然に存在する化合物は、本発明の一部である。一般構造(1)のこのような天然に存在する化合物の例は、4-β-D-グルコピラノシル-1,3,6,7-テトラヒドロキシ-9H-キサンテン-9-オン(CAS番号24699-16-9、イソマンギフェリン)、3a,12c-ジヒドロ-8-ヒドロキシ-6-メトキシ-(3aR,12cS)-7H-フロ[3’,2’:4,5]フロ[2,3-c]キサンテン-7-オン(CAS番号10048-13-2、ステリグマトシスチン)及び1,3,6-トリヒドロキシ-7-メトキシ-2,8-ビス(3-メチル-2-ブテン-1-イル)-9H-キサンテン-9-オン(CAS番号6147-11-1、マンゴスチン)である。
【0047】
あるいは、共触媒は、本明細書に記載される式I及びその関連する官能基によって特徴付けられる化合物の、いずれかの前駆体を含んでもよい。あるいは、共触媒は、本明細書に記載される式I及びその関連する官能基で特徴付けられる化合物の、いずれかの化学還元の生成物又は化学酸化の生成物を含んでもよい。あるいは、共触媒は、本明細書に記載される式I及びその関連する官能基によって特徴付けられる化合物の、いずれかの前駆体の化学還元の生成物又は化学酸化の生成物を含んでもよい。
【0048】
さらに別の態様において、共触媒の例としては、チオキサントン、アントロン、キサントン、アクリドン、フルオレノン、及びその任意の二量体、オリゴマー又はポリマー誘導体、その任意の複合体、その任意の前駆体、その任意の塩、その任意の立体異性体、その任意の互変異性体、又はそれらの任意の組合せが挙げられる。共触媒化合物の例としては、アントロン、キサントン、1-アザキサントン、アクリドン、10-メチル-9(10H)-アクリドン、9-フルオレノン、チオキサントン、2-イソプロピルチオキサントン、4-イソプロピルチオキサントン、2-クロロチオキサントン、1-クロロ-4-プロポキシチオキサントン、2,4-ジエチルチオキサントン、2,4-ジメチルチオキサントン及び2,4-ジイソプロピルチオキサントンが挙げられる。
【0049】
一実施形態において、共触媒は、アントロン、キサントン、チオキサントン、アクリドン又は9-フルオレノンを含み、それらの構造を以下に示す。共触媒はまた、式Iに従うアントロン、キサントン、チオキサントン、アクリドン又は9-フルオレノンの誘導体を含み得る。
【0050】
【化3】
【0051】
いくつかの態様において、エステル化触媒は、1種以上のロジンの重量に基づいて、0.01重量%~5.0重量%、あるいは0.01重量%~1.0重量%、あるいは0.02重量%~0.5重量%の範囲の量で存在する。
【0052】
一実施形態において、共触媒は、1種以上のロジンの重量に基づいて、0.01重量%~5.0重量%、あるいは0.01重量%~1.0重量%、あるいは0.02重量%~0.5重量%の範囲の量で存在する。本明細書に開示されるタイプの共触媒は、任意の適切な方法によって調製することができる。例えば、本開示での使用に適した共触媒は、L.Murov,I.Carmichael及びG.L.Hug,Handbook of PhotoChemistry,Marcel Dekker, Inc,New York 1993,米国特許第4585876号、同第4661595号、同第5545760号、欧州特許第0520574号、及び米国特許出願第2014/0107354号に記載されている。
【0053】
一実施形態において、共触媒は、本明細書に開示された反応を触媒することができ、かつ混合物の他の成分と相溶性の任意の材料である。一態様では、適切な共触媒は、高三重項形成量子収率(φと称される)を有する。共触媒の一重項(E)状態及び三重項(ET)状態のエネルギーをkJ/molで示す。エネルギー差E-EはEΔ(kJ/mol)で表される。共触媒は生成要因として表される三重項形成量子収率(φ)及びマイクロ秒(μs)で表される三重項寿命(τ)を有する。一態様では、共触媒は0.5を超える、あるいは0.7を超える、あるいは0.8を超えるφを有する。一態様では、共触媒は、0.5μsを超える、あるいは1.0μsを超えるか、あるいは5.0μsを超える三重項寿命を有する。一態様では、共触媒は、200kJ/molを超える、あるいは225kJ/molを超える、あるいは250kJ/molを超えるEを有する。一態様では、適切な共触媒は、100kJ/mol未満、あるいは75kJ/mol未満又は50kJ/mol未満のEΔを有する。本明細書に開示されるタイプの共触媒の値を表1に示す。
【0054】
【表1】
【0055】
<調製方法>: 一態様において、淡色ロジンエステルを調製するための反応混合物は、(a)1種以上のロジン、(b)1種以上のモノカルボン酸、(c)1種以上の多価アルコール及び(d)1種以上のポリカルボン酸を含む。1種以上のポリカルボン酸の重量対ロジン及び1種以上のモノカルボン酸の重量の比は、1:20未満、あるいは1:50未満、あるいは1:100未満であることができる。場合によっては、ロジンの重量対1種以上のモノカルボン酸の重量の比は、60:40~10:85の範囲であることができる。ロジン及び1種以上のモノカルボン酸の重量対1種以上のポリカルボン酸の重量の比は、少なくとも6.5:1、又は少なくとも15:1であることができる。提供される値は、組成物の調製に使用される成分又は反応物の量(例えば重量%)についてである。全ての処理ステップ後の最終材料は、最終組成物の調製において利用される他の成分から化学的又は物理的に識別可能な個々の成分(例えば、ロジン)を有していなくてもよい。
【0056】
ロジンエステルは、本明細書に開示された反応物、触媒及び共触媒を利用した、エステル化反応、エステル交換(transesterification)反応又はエステル交換(interesterification)反応によって調製することができる。適切な反応条件は、例えば、米国特許第5504152号に記載されている。適切な反応条件は、a)反応物の性質(例えばロジンの化学的及び物理的性質)、b)1種以上のモノカルボン酸の同一性、c)1種以上のポリカルボン酸の同一性、d)1種以上の多価アルコールの同一性、e)1種以上の触媒モノカルボン酸の同一性及びe)得られるロジンエステルの所望の化学的及び物理的性質又はそれらの組合せを含む因子を考慮して選択することができる。
【0057】
一実施形態において、本方法は、共触媒の存在下でエステル化触媒を用いて、1種以上のロジン、1種以上のモノカルボン酸、及び任意選択的に1種以上のポリカルボン酸を含む反応混合物を、1種以上の多価アルコールでエステル化することを含む。この方法は、任意選択的に不均化剤を含んでもよい。この方法は、高温での熱反応であってもよい。一実施形態において、ロジンエステルは、混合物を200℃~320℃、あるいは240℃~300℃、あるいは265℃~290℃の温度に供することによって調製される。エステル化ステップはさらに、蒸留及び/又は真空の適用のような標準的な方法を用いて、反応を完結させるために、副産物として形成された水を除去するステップを含んでもよい。
【0058】
いくつかの態様において、ロジンエステルはエステル化方法によって調製することができ、ここで、カルボン酸含有成分は、1種以上の多価アルコールでエステル化される。このタイプのエステル化反応は平衡反応である。反応が進行するにつれて形成される水の除去は、反応平衡を生成物生成に有利にシフトさせ、それによって反応を完結に向かわせることができる。したがって、いくつかの態様において、本方法は、1種以上のロジン、1種以上のモノカルボン酸、及び任意選択的に1種以上のポリカルボン酸を含む混合物を、1種以上の多価アルコールでエステル化することを含む。エステル化ステップは、反応混合物及び1種以上の多価アルコールが、適切な条件下(例えば高温)で一定期間反応することを可能にすることを含んでもよい。任意選択的に、エステル化ステップは、エステル化反応の副生成物として形成された水を除去することをさらに含んでもよい。いくつかの態様において、エステル化ステップは、本明細書に記載されるように、共触媒の存在下で、反応混合物及び1種以上の多価アルコールをエステル化触媒(例えば、カルシウム-ビス(((3,5-ビス(1,1-ジメチルエチル)-4-ヒドロキシフェニル)メチル)-エチルホスホネート))と接触させることを含んでもよい。
【0059】
ロジンエステルは、エステル交換(transesterification)方法によって調製することもでき、ここで、カルボン酸含有成分のエステルを1種以上の多価アルコールと反応させる。カルボン酸と反応した多価アルコールの場合には、いくつかの遊離の未反応の多価アルコールのヒドロキシル基が残存し、エステル交換反応においてエステルと反応して、それらのアルコキシ基の交換を生じることができる。このようなエステル交換反応は、新しいロジンエステルが生成され得る平衡反応である。したがって、いくつかの態様において、本方法は、ゼロより大きいヒドロキシル価を有する1種以上のロジンエステルを、モノカルボン酸及び任意選択的に1種以上のポリカルボン酸から誘導される1種以上のエステルと反応させることを含んでもよい。いくつかの態様において、アルコール又は多価アルコールを加えて、このようなエステル交換反応を誘発又は促進することができる。いくつかの態様において、エステル交換ステップは、混合物及び1種以上の多価アルコールを、共触媒の存在下でエステル化触媒と接触させることを含んでもよい。
【0060】
ロジンエステルは、エステル化及びエステル交換反応に機構的に関連するエステル交換(inter-esterification)反応によっても調製することができる。エステル交換反応は、異なるエステルを混合し、次いで、触媒、例えばエステル化触媒の存在下で、共触媒の存在下で、適用された多価アルコール骨格上にカルボン酸部分を転位させることによって行うことができる。このエステル交換反応は平衡反応である。一例として、ロジンエステルをナタネ油のようなトリグリセリドエステルと反応させることができる。このようなエステル交換反応は、トリグリセリドエステル中の脂肪酸部分が部分的にロジン酸部分によって置換され、かつ、ロジンエステル中のロジン酸部分が部分的に脂肪酸部分によって置換されるロジンエステルを与えるであろう。
【0061】
任意選択的に、この方法は、得られたロジンエステルのヒドロキシル価及び酸価に影響を及ぼすために、反応物の相対量を変化させることを含んでもよい。例えば、多価アルコール官能基に対するカルボン酸官能基の化学量論的過剰は、一般に、低い又は無視できるヒドロキシル価を有するロジンエステルをもたらす。化学的観点からは、それは、多価アルコールの全ヒドロキシル部分のモル数と比較して、より多くのモルのカルボン酸部分(カルボキシル部分)が適用され得ることを意味する。いくつかの態様において、合成開始前の反応物混合物は、1.40以下(例えば1.10以下、1.05以下、1.00以下、又は0.95以下、又は1.00~1.15)の総カルボキシル官能基に対する総ヒドロキシル官能基の化学量論的モル比を含んでもよい。
【0062】
一実施形態において、本方法は、ロジン及び共触媒を接触させて反応混合物を形成し、該反応混合物を285℃~320℃の範囲の温度に加熱して、淡色ロジンを生成することを含む。言及されている淡色ロジンは、共触媒なしで加熱されたロジンよりも薄い色を有する。別の実施形態では、本方法は、ロジン、共触媒及び不均化触媒を接触させて反応混合物を形成し、該反応混合物を260℃~295℃の温度に加熱することを含む。さらに別の実施形態では、ロジンを、追加の触媒及び試薬(例えばエステル化触媒、不均化触媒、ポリオール等)と接触させ、260℃~295℃に加熱して、淡色のロジンエステル組成物を生成させる。
【0063】
実施形態において、本方法は、さらに、1つ以上の追加の処理ステップを含んでもよい。いくつかの態様において、1種以上のロジン、又はそれらの組合せをさらに処理して、例えば、ロジンのPAN数を減少させること、存在する種々のロジン酸及び/又はロジン酸エステルの重量比に影響を及ぼすこと、ヒドロキシル価に影響を及ぼすこと、酸価に影響を及ぼすこと、又はそれらの組合せを行うことができる。化学的に許容される場合には、このような方法は、エステル化反応と組み合わせて、エステル化反応後しかし水素化反応前、水素化反応後に、又はそれらの組合せを実施して、より以下に詳細に論述するように、所望の化学的及び物理的性質を有するロジンエステル及び/又は水素化ロジンエステルを得ることもできる。
【0064】
ある態様では、ロジンはエステル化の前に不均化される。これらの態様において、不均化ロジン又は部分的不均化ロジンは、エステル化のための供給原料として使用され得る。場合によっては、エステル化の間に不均化又はさらなる不均化を実施することができる。例えば、不均化された、又は部分的に不均化されたロジンをその場で生成し、その後、ワンポット手順でロジンエステルにエステル化することができる。
【0065】
いくつかの態様において、方法は、さらに、ロジンエステルを水素化すること、例えばロジンエステルを水素化触媒と適切な条件下で一定期間接触させ、水素化ロジンエステルを形成することを含んでもよい。水素化触媒の例としては、不均一な水素化触媒(例えば、炭素上に担持されたPd(Pd/C)のようなパラジウム触媒、PtOのような白金触媒、ラネーニッケル(Ra-Ni)のようなニッケル触媒、ロジウム触媒、又はルテニウム触媒)が挙げられる。場合によっては、水素化触媒は粗ロジンエステルの総重量に基づいて、0.25重量%~5重量の範囲の量で存在してもよい。水素化のための水素源は、水素(H)、又は、ギ酸、イソプロパノール、シクロヘキセン、シクロヘキサジエン、ジイミド、若しくはヒドラジンのような、反応条件下で水素を生成し得る化合物であり得る。
【0066】
水素化反応は、高温、高圧、又はそれらの組み合わせ、例えば120℃~300℃の温度、30~2000ポンド/平方インチ(psi)、又は100~1000psiの範囲の圧力で実施することができる。
【0067】
いくつかの態様において、エステル化、エステル交換(transesterification)又はエステル交換(interesterification)に続いて、得られたロジンエステルは、未反応のロジン、脱炭酸ロジン酸、及び/又は未反応若しくは部分的に反応した多価アルコールのような少量の残留物質を含み得る。揮発性物質を除去した後、低い酸価を特徴とするロジンエステルは、低い分子量を有する化学種の比較的少ない重量分率を特徴とし、少ない移行及び/又は少ない揮発性有機化合物含有量が有益である用途に適することができる。例としては、食品接触用途、接着剤及び曇りが少ない系が挙げられる。
【0068】
任意選択的に、方法は、得られるロジンエステルのヒドロキシル価に影響を及ぼすため、得られるロジンエステルの酸価に影響を及ぼすため、又はそれらの組み合わせのために、1種以上数の処理ステップを含んでもよい。所望であれば、ロジンエステルをエステル化後(例えばエステル化反応後だが、水素化反応前、又は水素化反応後に)化学的に修飾して、低いヒドロキシル価を有するロジンエステルを提供することができる。この処理は、適切な合成方法を用いたエステル化に続く、ロジンエステル又は水素化ロジンエステル中の残留ヒドロキシル部分の化学的修飾を含む。例えば、アシル化剤(例えばカルボン酸又はその誘導体、例えば米国特許第4380513号に開示されている酸無水物)との反応。ロジンエステル又は水素化ロジンエステル中の残留ヒドロキシル部分も、イソシアネートのような求電子試薬と反応させて、対応するカルバメート誘導体を生成させることができる。残留ヒドロキシル部分を反応させるために使用され得る他の適切な求電子試薬としては、アルキル化剤が挙げられる。いくつかの態様において、ロジンエステルの酸価は、エステル化後であるが、その後の処理(例えば水素化反応、又は水素化反応後)の前に、過剰の及び/又は未反応のロジン(例えばロジン酸)を除去することによって、減少させることができる。例えばエステル化後、未反応のロジン及び他の揮発性成分を、任意の適切な方法を用いて除去することができる。
【0069】
ロジンエステルは、上記のエステル化方法、エステル交換(transesterification)方法、及びエステル交換(interesterification)方法の組合せによっても製造することができ、ここで、エステルは1種以上の多価アルコール及び1種以上のモノカルボン酸、並びに任意選択的に1種以上のポリカルボン酸又はそれらの部分エステル又は半エステルの存在下で互いに反応させてもよい。部分エステルの例は部分グリセリドであり、これはグリセロールと脂肪酸のエステルであり、全てのヒドロキシル基がエステル化されるわけではない。cis-HOOC-CH=CH-COOCHはマレイン酸に由来する半エステルの一例である。アジピン酸モノメチルエステル及びアジピン酸モノエチルエステルは、アジピン酸に由来する半エステルの例である。反応が進行するにつれて生成される水又は揮発性モノアルコールの除去は、反応平衡を生成物形成に有利にシフトさせ、それによって反応を完了に向かわせることができる。
【0070】
修飾されたカルボン酸基を有するモノカルボン酸、又は1つ以上の修飾されたカルボン酸基を有するポリカルボン酸をベースとする反応物を、それぞれモノカルボン酸又はポリカルボン酸の代わりに用いることができる。例えば、上述のように部分エステル及び半エステルをポリカルボン酸の代わりに用いることができる。他の例としては、無水物、チオエステル、及び塩化アシル又は酸塩化物とも呼ばれるカルボニル塩化物が挙げられ、これらはモノカルボン酸又はポリカルボン酸の代わりに使用され得る。一般に、これらの構造的に関連した反応物は、求核アシル置換機構を介して求核剤(例えば、多価アルコールのヒドロキシル基)と反応し得るアシル基を含有する。
【0071】
いずれの方法においても、無水物は、対応するカルボン酸又はポリカルボン酸の代わりに、代替反応物として使用することができる。例えば無水コハク酸はジヒドロ-2,5-フランジオンとも呼ばれ、コハク酸の代わりに適用することができ、パルミチン酸の代わりに無水パルミチン酸を適用することができる。トリメリット酸の代わりに無水トリメリット酸を適用することができる。同様に、酸塩化物は、対応するカルボン酸の代わりに適用されてもよく、あるいは対応するカルボン酸に由来するエステルの代わりに適用されてもよい。例えば、塩化メチルアジポイルは、アジピン酸モノメチルエステルクロリドとも呼ばれ、アジピン酸又はアジピン酸ジメチルエステル、アジピン酸ジエチルエステル、アジピン酸モノメチルエステル、アジピン酸モノエチルエステル若しくは塩化アジポイルの代わりに反応物として適用することができる。
【0072】
<性質>: ロジンエステルは、(ASTM D1544-04(2010)に従って決定される)10未満、あるいは8未満、あるいは6未満の改善されたガードナーカラーを有することが特徴である。さらなる態様において、ロジンエステルは、6未満、あるいは3未満、あるいは1.5未満の最終的な(ニート)ガードナーカラーを示す。
【0073】
いくつかの態様において、ロジンエステルは、熱老化時に色の安定性を示し、177℃の温度で96時間加熱された場合、5.0以下(例えば3.0以下、又は1.0以下)のガードナーカラー単位の変化を示す。いくつかの実施形態において、ロジンエステルは、0~5.0、0.1~5.0、0.2~5、0.3~5.0、0.5~0.5、1.0~5.0、2.5~5.0、3.0~5.0、3.5~5.0、4.0~5.0又は4.5~5.0のガードナーカラー単位の変化を示す。
【0074】
いくつかの態様において、ロジンエステルは、環球式方法を用いて測定される0℃~150℃の間、あるいは50℃~130℃の間、あるいは70℃~120℃の間の軟化点を有する。ある態様において、ロジンエステルは、20℃及び1気圧で液体(例えば粘性液体)であることができる。
【0075】
いくつかの態様において、ロジンエステルは、示差走査熱量測定法(DSC)によって測定される-80℃~100℃の間、あるいは-30℃~80℃の間、あるいは0℃~70℃の間のガラス転移温度(Tg)を有する。
【0076】
一実施形態において、ロジンエステルは、0ppm~200ppm、あるいは5ppm~150ppm、あるいは0.0005重量%~0.015重量%の量の共触媒の残存量を有することを特徴とする。いくつかの実施形態においては、最初に、800~4000ppmの共触媒を添加してロジンエステルを形成する。
【0077】
<用途>:本明細書で提供されるロジンエステル組成物は、接着剤(例えばホットメルト接着剤)、ホットメルト接着剤及び感圧接着剤中の粘着付与剤、接着剤水性分散液等の接着剤分散液、ゴム及び種々のプラスチックのための改質剤、合成ゴムのための乳化剤、チューインガムのための基材、コーティング組成物中の樹脂、インク、製紙のためのサイズ剤、アスファルト標識、舗装道路標識、路面標識、熱可塑性路面標識、インク、コーティング、ゴム(例えばタイヤ及びタイヤトレッド)、シーラント及び可塑剤をはじめとする種々の用途で使用することができる。また、ロジンエステルは、チューインガムベースの軟化剤及び可塑剤として、飲料中の増量剤及び混濁剤として、界面活性剤として、表面活性調節剤として、又は分散剤として、ワックス及びワックスベースの研磨剤中の添加剤として、スキン製品及び化粧品配合物(例えばマスカラ)中の修飾剤として、電気産業界において絶縁体として、塗料及び他の木材処理製品の製造における乾燥油として、木製ボートの船体を処理する際に、石けん中で、蝋燭中で、自動車用用途における潤滑剤及びエンジン潤滑剤として、バイオディーゼルを製造するために、生分解性の油圧油を製造するために、金属作業及び他の工業用途において、相変化材料として、又はコンクリートにおける硬化剤をはじめとする、様々な追加用途に使用することができる。
【0078】
他の例としては、反射マーカー、熱可塑性路面標識、既成の熱可塑性舗装道路標識及び既成のポリマーテープ等の路面標識が挙げられる。熱可塑性バインダー系は、一般に、本明細書に開示されるタイプのロジンエステルをベースとするものであり、可塑剤、ガラスビーズ(又は他の光学系)、顔料、及び充填剤も含む。道路標識システムの改善は継続的に取り組まれており、技術的なブレークスルーには、再帰反射性の付加、寿命の延長、設置コストの削減等がある。淡色のロジンエステルは、路面標識用途に著しい改善をもたらすより明るく鮮やかな色合いを持つ。一実施形態において、ロジンエステルは、熱可塑性路面標識配合物に使用される。配合物は、熱可塑性路面標識配合物の総重量に基づいて、5重量%~25重量%、あるいは10重量%~20重量%のロジンエステルを含んでもよい。熱可塑性路面標識配合物は、さらに、ポリマー(例えば1種以上のエチレン不飽和モノマーに由来するポリマー)、例えば、熱可塑性路面標識配合物の0.1重量%~1.5重量%のポリマーを含んでもよい。配合物はさらに、顔料(例えば1重量%~10重量%の二酸化チタン)及びガラスビーズ(例えば30重量%~40重量%)及び充填剤(例えば100重量%までの組成の残部を構成し得る炭酸カルシウム)を含んでもよい。配合物はさらに、オイル(例えば1重量%~5重量%の鉱油)、ワックス(例えば1重量%~5重量%のパラフィンベースのワックス又は合成フィッシャー・トロプシュワックス)、安定剤(例えば0.1重量%~0.5重量%のステアリン酸)、及び任意選択的に本明細書に記載されたロジンエステル以外の追加のポリマー及び/又はバインダーを含んでもよい。
【0079】
いくつかの実施形態において、ロジンエステルは、ホットメルト接着剤において使用される。接着剤中のポリマーは、任意の適切なポリマーであることができる。ポリマーは、例えばポリアクリレート、ポリオレフィン、ポリアミド、ポリビニルエーテル、ポリウレタン、ポリエステル、ポリビニルエステル、それらのコポリマー、又はそれらの混合物であることができる。場合によっては、ポリマーは1種以上のエチレン不飽和モノマーから誘導することができる。いくつかの態様において、ポリマーは、エチレン及びn-ブチルアクリレートのコポリマー、スチレンとイソプレン及びブタジエンの1種以上とのコポリマー、スチレンとイソプレン及びブタジエンの1種以上とのブロックコポリマー、スチレンとイソプレン及びブタジエンの1種以上との水素化ブロックコポリマーであって、イソプレン及びブタジエンの1種以上が水素化され、又は部分的に水素化されているコポリマー、1種以上のエチレン不飽和モノマーから誘導されるポリマー、酢酸ビニルから誘導されるポリマーのいずれかを含んでもよい。ホットメルト接着剤は、追加の粘着付与剤、ワックス、安定剤(例えば酸化防止剤)、テンプレート剤、顔料及び染料、可塑剤、並びに充填剤をはじめとする、1種以上の追加の成分を含んでもよい。一般的にホットメルト接着組成物は、フィッシャー・トロプシュワックス又はパラフィンワックスのような1種以上のワックスを含有する。
【0080】
一態様において、接着剤組成物は、接着剤組成物全体に基づき、15重量%~60重量%、あるいは25重量%~45重量%の量のロジンエステルを含んでもよい。ホットメルト接着剤組成物は、ホットメルト接着組成物の総量に基づいて、15重量%~60重量%、あるいは25重量%~45重量%のロジンエステルを含んでもよい。感圧接着剤は、感圧接着剤組成物全体に基づいて、5~60重量%、25~45重量%の量のロジンエステルを含んでもよい。
【実施例
【0081】
<実施例>: 実施例は、例示のために与えられており、以下に続く明細書又は特許請求の範囲を何らかの方法で制限することを意図したものではない。
【0082】
ヒドロキシル価はDIN 53240-2に従って測定した。酸価はASTM D465-05(2010)に従って測定した。軟化点はASTM E28-99(2009)に従って決定した。PAN数及びデヒドロアビエチン酸含量はASTM D5974-00(2010)に従って測定した。ガードナーカラーはASTM D1544-04(2010)に従って測定した。オリゴエステルの分子量分布と誘導されるM値、M値及びM値はGPCで決定した。ガラス転移温度(Tg)はDSCで測定した。使用した全ての出発ロジンの性質を表1にまとめた。
【0083】
【表2】
【0084】
[実施例1]:SYLVAROS(商標) 90(300g、1gのロジン当たり172.2mg KOHの酸価を有する)を4つ首フラスコ(0.5L)に仕込み、窒素雰囲気下で200℃に加熱した。ロジンを完全に溶かした後、得られた溶液を機械的に攪拌した。ペンタエリスリトール(27.584g)、Irganox(商標) 1425(0.6g)及びRosinox(商標)(ポリ-tert-ブチルフェノールジスルフィド;Arkema Inc.)(0.6g)を添加した。反応混合物を275℃(30℃/時)に加熱し、その後、形成された水を水蒸気として逃がしながら275℃で8時間保持した。2時間の窒素散布中に残留揮発分を除去し、反応混合物を180℃に冷却した。Irganox(商標) 565(0.24g添加)及び均質なブレンドが得られた後に反応混合物を排出した。得られたロジンエステルは3.3のガードナーカラー(ニート)を呈した。
【0085】
[実施例2-12]:追加の共触媒(0.6g)を添加したこと(200℃でのエステル化前)を除き、実施例1の手順を繰り返した。実施例2~9では、反応開始前に(200℃で)共触媒を添加した。実施例10-12では、共触媒を段階的に加えた。段階的な共触媒の添加は以下のように行った。反応開始前(200℃)に0.3gの共触媒を添加し、温度が275℃に達した時点で0.15gの共触媒を添加し、275℃で2時間インキュベートした後に0.075gの共触媒を添加し、275℃で4時間インキュベートした後に0.075gの共触媒を添加した。共触媒の添加により、0.6ガードナー(ニート)を超える色の改善が達成された。軟化点に対する有意な影響は、いずれの実施例においても観察されなかった。結果を表2に示す。
【0086】
【表3】
【0087】
[実施例13~20]:実施例1に示すように、ロジン(300g)、Irganox(商標) 1425(0.6g)、Rosinox(商標) (ポリ-tert-ブチルフェノールジスルフィド;Arkema Inc.)(0.6g)及び表3に示す量の試薬を用いて、実施例を調製した。実施例10-12に対して上のように記載したように、実施例16、18及び20において共触媒の段階的添加を適用した。(実施)例13~20で調製したロジンエステルの性質を表4に示す。
【0088】
【表4】
【0089】
【表5】
【0090】
[実施例21]: SYLVAROS(商標) 90(200g、1gのロジン当たり175.0mg KOHの酸価及び65.8℃の軟化点を有する)を4つ首フラスコ(0.5L)に仕込んで窒素雰囲気下で200℃に加熱した。ロジンを完全に溶かした後、得られた溶液を機械的に攪拌した。Rosinox(商標)(ポリ-tert-ブチルフェノールジスルフィド;Arkema Inc.)(0.6g)を加え、反応混合物を275℃に加熱した。275℃で3時間後、反応混合物を180℃に冷却し、排出した。ロジン21は2.9のガードナーカラー(ニート)を示した。
【0091】
[実施例22]: 実施例21の手順を適用したが、加熱前に200℃でキサントン(0.6g)を添加した。ロジン22は1.9のガードナーカラー(ニート)を示した。
【0092】
[実施例23]: SYLVAROS(商標) 90(200g、1gのロジン当たり175.0mg KOHの酸価及び65.8℃の軟化点を有する)を4つ首フラスコ(0.5L)に仕込んで窒素雰囲気下で200℃に加熱した。ロジンを完全に溶かした後、得られた溶液を機械的に攪拌した。反応混合物を295℃に加熱した。295℃で3時間後、反応混合物を180℃に冷却し、排出した。ロジン23は5.1のガードナーカラー(ニート)を示した。
【0093】
[実施例24]: 実施例23の手順を適用したが、加熱前に200℃でキサントン(0.6g)を添加した。ロジン24は4.6のガードナーカラー(ニート)を示した。
【0094】
[実施例25]: SYLVAROS(商標) 90(1200g、1gのロジン当たり176.1mg KOHの酸価及び65.2℃の軟化点を有する)を4つ首フラスコ(0.5L)に仕込んで窒素雰囲気下で200℃に加熱した。ロジンを完全に溶かした後、得られた溶液を機械的に攪拌した。ペンタエリスリトール(141.0g)、Irganox(商標) 1425(2.4g)、Rosinox(商標)(ポリ-tert-ブチルフェノールジスルフィド;Arkema Inc.)(2.4g)及び2-イソプロピルチオキサントン(1.2g)を添加した。形成された水を水蒸気として逃がしながら反応混合物を275℃(30℃/時間)に加熱した。最高温度で、2-イソプロピルチオキサントンの第2ポーション(0.6g)を加えた。275℃で2時間後及び4時間後に、2-イソプロピルチオキサントンの第3及び第4ポーション(0.3g)を加えた。275℃で9時間の全保持時間後、2.25時間の窒素散布中に残留揮発物を除去し、反応混合物を200℃に冷却した。Irganox(商標) 565(0.6g)及びIrganox(商標) 1010(1.8g)を加え、均質なブレンドが得られた後に反応混合物を排出した。ロジンエステル25は、1gのロジンエステル当たり5.3mg KOHの酸価、91.9℃の軟化点及び3.6のガードナーカラー(ニート)を示した。
【0095】
[実施例26]: 実施例25の手順を適用したが、ペンタエリスリトール141.0グラムの代わりに118.0グラムを適用した。ロジンエステル26は1gのロジンエステル当たり5.9mg KOHの酸価、94.1℃の軟化点及び2.3のガードナーカラー(ニート)を示した。
【0096】
[実施例27]: 実施例25の手順を適用したが、2-イソプロピルチオキサントンの代わりに、9-フルオレノンを適用した。ロジンエステルは1gのロジンエステル当たり4.7mg KOHの酸価、92.8℃の軟化点及び2.8のガードナーカラー(ニート)を示した。
【0097】
[実施例28]: 実施例27の手順を適用したが、ペンタエリスリトール141.0グラムの代わりに118.0グラムを適用した。ロジンエステルは1gのロジンエステル当たり1.6mg KOHの酸価、96.1℃の軟化点及び1.8のガードナーカラー(ニート)を示した。