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特許7179823コールドメタルトランスファープロセスによって製造される点火装置部品
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-18
(45)【発行日】2022-11-29
(54)【発明の名称】コールドメタルトランスファープロセスによって製造される点火装置部品
(51)【国際特許分類】
   H01T 13/20 20060101AFI20221121BHJP
   H01T 21/02 20060101ALI20221121BHJP
   B23K 9/073 20060101ALI20221121BHJP
【FI】
H01T13/20 E
H01T21/02
H01T13/20 B
B23K9/073 545
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2020503312
(86)(22)【出願日】2018-08-01
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-10-08
(86)【国際出願番号】 GB2018052197
(87)【国際公開番号】W WO2019025796
(87)【国際公開日】2019-02-07
【審査請求日】2021-06-30
(31)【優先権主張番号】1712503.0
(32)【優先日】2017-08-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(73)【特許権者】
【識別番号】590004718
【氏名又は名称】ジョンソン、マッセイ、パブリック、リミテッド、カンパニー
【氏名又は名称原語表記】JOHNSON MATTHEY PUBLIC LIMITED COMPANY
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100132263
【弁理士】
【氏名又は名称】江間 晴彦
(72)【発明者】
【氏名】マイケル・クローバー
(72)【発明者】
【氏名】ステファン・ハーブスト
【審査官】井上 信
(56)【参考文献】
【文献】特表2011-520620(JP,A)
【文献】特表2007-524979(JP,A)
【文献】特開2013-222519(JP,A)
【文献】特開昭61-8235(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01T 13/20 - 13/39
H01T 21/02
B23K 9/00 - 9/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コールドメタルトランスファーによる点火装置部品の製造プロセスであって、
(i)金属又は合金基板及び金属又は合金送給ワイヤを準備することであり、前記送給ワイヤは白金族金属又は白金族金属含有合金を含む、準備することと、
(ii)前記基板と前記送給ワイヤとの間の電気アークを点火することと、
(iii)前記送給ワイヤが前記基板に接触するまで、前記基板の表面と前記送給ワイヤとの間の距離を縮小することにより、短絡を生じさせることと、
(iv)前記基板と前記送給ワイヤとの間の距離を拡大して、前記短絡を切断し、金属又は合金を前記送給ワイヤから前記基板の前記表面上に堆積させて、金属又は合金の付着物を前記基板の前記表面上に形成することと、を含む、プロセス。
【請求項2】
前記基板が、ニッケル又はニッケル合金を含み、所望により銅コアを含む、請求項1に記載のプロセス。
【請求項3】
前記基板が、Inconel合金を含む、請求項2に記載のプロセス。
【請求項4】
コールドメタルトランスファー方法を使用して複数の部品を製造すること、を含み、複数の基板が、単一のコールドメタルトランスファーユニット内にアレイ状で配置される、請求項1~3のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項5】
前記アレイ内の各基板に対して同時に又は順次に工程(i)~工程(iv)を実行すること、を含む、請求項4に記載のプロセス。
【請求項6】
隣接する基板上の中心点間の間隔が、1~10mm、例えば2~8mmの範囲である、請求項4又は5に記載のプロセス。
【請求項7】
前記基板が、コールドメタルトランスファーユニットのビルドプレート内の凹部又は穴内に配置される、請求項1~6のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項8】
前記基板が、前記基板の上面が前記ビルドプレートの上面と実質的に同じ高さになるように、又は前記ビルドプレートの上面の上方に、5mm以下の隙間だけ突出するように、前記凹部内に配置される、請求項7に記載のプロセス。
【請求項9】
前記基板が、前記凹部又は穴内の適切な位置に保持される、請求項7又は8に記載のプロセス。
【請求項10】
金属又は合金基板を準備する前記工程(i)が、
(ia)選別及び配向されていない複数の基板を、送給機に供給する工程と、
(ib)前記送給機を使用して、前記基板を所定の所望の方向に配向する工程と、
(ic)配向された基板を、前記送給機の出力ラインから、コールドメタルトランスファーユニット内の所定の所望の位置に移送する工程と、を含む、請求項1~のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項11】
前記送給機が振動ボウルフィーダーである、請求項10に記載のプロセス。
【請求項12】
前記基板が、ハンドリングロボットを使用して移送され、所望により、前記ハンドリングロボットは、一度に複数の基板を移送する、請求項10又は11に記載のプロセス。
【請求項13】
前記部品の少なくとも一部の表面仕上げ及び/又は静水圧プレスから選択される工程(v)を更に含む、請求項1~12のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項14】
スパークプラグの中心電極又は接地電極の製造プロセスである、請求項1~13のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項15】
スパークプラグの中心電極の先端を、前記中心電極の残部を表す基板上に形成するためのプロセスである、請求項14に記載のプロセス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、概して、コールドメタルトランスファー(CMT)方法によって調製された貴金属含有部品に関し、それとともに、このような部品をCMTにより調製する方法に関する。より具体的には、CMTによる、白金族金属又は合金を含有する点火装置部品を調製する有利な方法が提供される。
【背景技術】
【0002】
貴金属又は貴金属含有合金を別の金属又は合金に付着させて、アセンブリを形成することが、必要である又は望ましいことが多い。他の金属又は合金はまた、貴金属系のものであってもよく、又は別の種類の金属若しく合金であってもよい。貴金属は、ルテニウム(Ru)、ロジウム(Rh)、パラジウム(Pd)、銀(Ag)、オスミウム(Os)、イリジウム(Ir)、白金(Pt)、及び金(Au)からなる。
【0003】
金属又は合金を別の金属又は合金に接合してアセンブリを形成することもまた、スパークプラグなどの点火システム装置を製造する際に必要である。このような装置は、通常、点火システムに接続される中心電極、及び点火装置の金属シェルへの接続によって接地される接地電極又は側電極などの部品を含む。点火装置部品の先端(例えば、中心電極又は接地電極の先端)は、この先端から使用中にスパークが発生し、(常にではないが)多くの場合、貴金属又は貴金属含有合金(例えば、金、銀、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、オスミウム、イリジウム、又は白金を含む金属又は合金)からなる。この理由は、電極の先端は、装置の動作中に高温及び高電圧の非常に苛酷な条件に耐えることができる必要があるからであり、したがって、より弾力性があり、多くの場合より高価な材料から作製される必要がある。このような過酷な条件にさらされない電極の残部は、多くの場合、異なる、あまり高価ではない金属又は合金材料(例えば、Ni-Cr合金及び/又は銅)から形成される。
【0004】
このような点火システム装置において電極を製造するための一般的な方法は、貴金属(例えば、白金族金属(PGM))及び卑金属(典型的には、Inconel、Ni-Cr合金)ワイヤを引き込むことである。次いで、これらのワイヤは、金属が接触し、レーザー溶接又は摩擦溶接が行われるような方法で送給される。典型的には、溶接されると、貴金属及びベースワイヤのアセンブリを両側で切断することにより、溶接された材料の小さなスタブが形成される。典型的には、次いでこのスタブの卑金属元素は、各基板が(別個に)独立して製造された後に、基板上にそれ自体が溶接されて電極を形成する。この目的のために一般的に使用される基板は、Cuコアを有するInconel、Ni-Cr合金に基づくものである。このような基板は、2つの金属の共押出によって予備形成されており、よく知られている。
【0005】
このような装置において電極を製造するために現在使用されている代替方法は、各基板が独立して製造された後に、区分化されたPtワイヤの断片又は「スラグ」を基板上にレーザー溶接して、電極先端を形成することである。
【0006】
このような装置において電極を製造する一般的な方法は、各基板が独立して製造された後に、区分化された貴金属ワイヤの断片又は「スラグ」を基板上にレーザー溶接して、電極先端を形成することである。この目的のために一般的に使用される基板は、Cuコアを有するInconel、Ni-Cr合金に基づくものである。このような基板は、2つの金属の共押出によって予備形成され、よく知られている。
【0007】
これらの既存の製造プロセスは、使用される高価な貴金属の量が、完全に貴金属系である電極の使用に対して最小化されるという点で、いくつかの利点を有する。
【0008】
しかしながら、このプロセスでは、上流のプロセスで金属ワイヤを調製して、それらを区分し、各ワイヤ区分を基板上にレーザー溶接して電極先端を形成するか、又は2本のワイヤを摩擦溶接するかのいずれかで、必要な溶接工程を行う必要があるため、複雑で高価なものになる。ワイヤを切断することにより、カーフロス(切断工具が区分化中にワイヤを通過するときの材料の不可避的なロス)が生じる。成形された電極先端(テーパ状の先端など)が所望される場合、スラグの端部は、機械加工によって成形される必要があり、不可避的な更なる材料ロスを伴う。既存のプロセスはまた、電極先端の所望の対応する長さを提供するために、特定の長さの区分化されたワイヤを使用する必要があるため、融通性を欠く。その結果、プロセスの予備段階で、多種多様な長さの区分化されたワイヤを調製し、利用可能にすることが必要な場合があり、複雑である。スラグ及び他のごく一部分のワイヤを取り扱うことは困難であり、更なるロスが生じる。
【0009】
貴金属含有部品を製造するための、より具体的には、点火装置用の部品を製造するための、より簡単でより費用効率の高いプロセスが必要である。
【0010】
本明細書における任意のサブタイトルは、便宜のためにのみ挙げられており、決して本開示を限定するものとして解釈されるべきではない。
【0011】
本明細書に引用される全ての参考文献の開示は、本発明を実施するために当業者によって使用され得る限り、本明細書において、相互参照により本明細書に具体的に組み込まれる。
【発明の概要】
【0012】
したがって、本発明の第1の態様は、コールドメタルトランスファーによる点火装置部品の製造プロセスであって、
(i)金属又は合金基板及び金属又は合金送給ワイヤを準備することであり、送給ワイヤは白金族金属又はその合金を含む、準備することと、
(ii)基板と送給ワイヤとの間の電気アークを点火することと、
(iii)送給ワイヤが基板に接触するまで、基板の表面と送給ワイヤとの間の距離を縮小することにより、短絡を生じさせることと、
(iv)基板と送給ワイヤとの間の距離を拡大して、短絡を切断し、金属又は合金を送給ワイヤから基板の表面上に堆積させて、金属又は合金の付着物を基板の表面上に形成することと、を含む、プロセスである。
【0013】
この文脈において、「白金族金属」は、ルテニウム(Ru)、ロジウム(Rh)、パラジウム(Pd)、オスミウム(Os)、イリジウム(Ir)、及び白金(Pt)元素を指すことが理解されるであろう。
【0014】
本発明の第2の態様は、第1の態様によるプロセスによって得られる、又は得ることができる点火装置部品である。
【0015】
本発明の第3の態様は、第2の態様による部品を備える点火装置である。
【0016】
本発明の第4の態様は、第3の態様による点火装置を備えるエンジンである。
【0017】
第5の態様は、点火装置内の第2の態様による点火装置部品の、好ましくは点火装置における電極としての、使用である。
【0018】
本発明者らは、点火装置用電極などの点火装置部品の製造のためのコールドメタルトランスファー(CMT)方法により、無駄な材料を最小限に抑えた部品を製造するための非常に効率的な手段が提供されることを見出した。区分化されたワイヤの調製及びその後続の基板への付着を目的とした、更に時間を消費しロスが発生する製造プロセスが回避される。更に、堆積された付着物の幾何学形状は、特定の用途に適合するようにカスタマイズ可能であり、基板と付着物との間に強力な結合が形成される。
【0019】
CMTプロセスでは、ロスがなく、したがってPGMワイヤの区分化及びレーザー溶接よりもはるかに望ましい。
【0020】
本発明のCMT方法を用いて、いかなる材料のロスを伴わず、かつ別個の機械加工工程を必要とせずに、成形された付着物を直接製造することができる。これまでの区分化プロセスから使用可能な区分化されたワイヤの長さの範囲を要求するのではなく、単純に好適なCMTプロセスのパラメータを選択することによって、同じ長さの送給ワイヤの使用、及び得られた付着物の長さの調整も可能である。
【0021】
本発明の第6の態様は、コールドメタルトランスファーによる貴金属含有部品の製造プロセスであって、
(i)金属又は合金基板及び送給ワイヤを準備することであり、送給ワイヤは貴金属又は貴金属含有合金を含む、準備することと、
(ii)基板と送給ワイヤとの間の電気アークを点火することと、
(iii)送給ワイヤが基板に接触するまで、基板の表面と送給ワイヤとの間の距離を縮小することにより、短絡を生じさせることと、
(iv)基板と送給ワイヤとの間の距離を拡大して、短絡を切断し、金属又は合金を送給ワイヤから基板の表面上に堆積させて、金属又は合金の付着物を基板の表面上に形成することと、を含む、プロセスである。
【0022】
この文脈において、貴金属は、ルテニウム(Ru)、ロジウム(Rh)、パラジウム(Pd)、銀(Ag)、オスミウム(Os)、イリジウム(Ir)、白金(Pt)、及び金(Au)元素を指すことが理解されるであろう。貴金属は、白金族金属(PGM)であってもよく、すなわちルテニウム(Ru)、ロジウム(Rh)、パラジウム(Pd)、オスミウム(Os)、イリジウム(Ir)、及び白金(Pt)元素から選択されてもよい。好ましくは、貴金属は、ルテニウム(Ru)、ロジウム(Rh)、パラジウム(Pd)、イリジウム(Ir)、及び白金(Pt)元素から選択される。
【発明を実施するための形態】
【0023】
金属又は合金送給ワイヤ
本発明のプロセスによれば、送給ワイヤからの金属又は合金は、基板上にCMTによって堆積され、基板上に付着物を形成する。CMTは、基板の表面と堆積された付着物との間の接合部で溶接接合を効果的に形成する。したがって、付着物は、単に表面上に堆積されるのではなく、基板にしっかりと固定される。
【0024】
好ましくは、送給ワイヤからの金属をCMTによって基板上に堆積させて、基板上に付着物を形成する。
【0025】
送給ワイヤは、Co、Al、Ni、W、Fe、Zn、Mn、Sc、Ti、V、Cr、Cu、Zr、Nb、Mo、Ru、Rh、Pd、Ag、Hf、Ta、Re、Os、Ir、Pt及びAuから選択される1つ以上の金属を含んでもよい。好ましくは、送給ワイヤは、Ru、Rh、Pd、Ag、Os、Ir、Pt及びAuから選択される1つ以上の金属を含むか、又はそれからなる。より好ましくは、送給ワイヤは、Au、Ag、Ru、Rh、Pd、Ir及びPtから選択される1つ以上の金属を含むか、又はそれからなる。最も好ましくは、送給ワイヤは、Ru、Rh、Pd、Ir及びPtから選択される1つ以上の金属を含むか、又はそれからなる。所望により、送給ワイヤは、Ru、Rh、Pd、Ag、Os、Ir、Au、及びPtから選択される2つ以上の金属を含むか、又はそれからなる。この場合、好ましくは、送給ワイヤは、Ru、Rh、Pd、Ag、Ir、Au、及びPtから選択される2つ以上の金属を含むか、又はそれからなる。より好ましくは、送給ワイヤは、Ru、Rh、Pd、Ir、及びPtから選択される2つ以上の金属を含むか、又はそれからなる。最も好ましくは、送給ワイヤは、Ru及びIrから選択される1つ以上の金属を含むか、又はそれからなる。
【0026】
好ましくは、送給ワイヤからの合金をCMTによって基板上に堆積させて、基板上に付着物を形成する。
【0027】
好適には、送給ワイヤは、Ru、Rh、Pd、Ag、Os、Ir、Pt及びAuのうちの1つ以上と、1つ以上の他の元素、例えば1つ以上の他の金属との合金を含むか、又はそれからなる。合金中の1つ以上の他の元素は、Co、Al、Ni、W、Fe、Zn、Mn、Sc、Ti、V、Cr、Cu、Zr、Nb、Mo、Ru、Rh、Pd、Ag、Hf、Ta、Re、Os、Ir、Pt及びAuから選択されてもよい。好ましくは、送給ワイヤは、Ru、Rh、Pd、Ag、Ir、Pt及びAuのうちの1つ以上と、1つ以上の他の元素、例えば1つ以上の他の金属との合金を含むか、又はそれからなる。より好ましくは、送給ワイヤは、Ru、Rh、Pd、Ir及びPtのうちの1つ以上と、1つ以上の他の元素、例えば1つ以上の他の金属との合金を含むか、又はそれからなる。合金は、Ru及びIrのうちの1つ以上と、1つ以上の他の金属との合金を含むか、又はそれからなるのが最も好ましく、合金は、主成分としてRu又はIrを含有し、1つ以上の他の金属を有する合金を含むか、又はそれからなり、このような合金が、点火装置において特定の有用性を有することが特に好ましい。
【0028】
加えて、又は代替的に、合金は、Ru、Rh、Pd、Ag、Os、Ir、Pt及びAuのうちの2つ以上の合金を含むか、又はそれからなる。
【0029】
所望により、合金は、Y(イットリウム)、Zr(ジルコニウム)、及びSm(サマリウム)のうちの1つ以上から選択される追加の成分を含有する。好ましくは、合金はZrを含有する。理論に束縛されるものではないが、これらの元素を含めることにより、合金を延性にすることができると考えられる。これらの元素(具体的にはZr)は、粒界(すなわち、異なる配向での結晶格子間の境界)を通る転位移動を妨げ、それゆえ、粒の成長を制限又は減速させることができるとも考えられる。
【0030】
加えて、又は代替的に、合金は、他の非合金成分を含んでもよい。例えば、いくつかの実施形態では、合金はまた、セラミック酸化物成分を含む。理論に束縛されるものではないが、このようなセラミック酸化物が存在することにより、合金の粒の安定化が高まり、(特に、点火装置部品において有利であり得る)スパークエロージョン特性を改善することができると考えられる。このようなセラミック酸化物の非限定的な例は、Y、ZrO、及び希土類酸化物である。
【0031】
好適には、基板上に堆積された金属又は合金は、貴金属又はその合金を含む。より好ましくは、基板上に堆積された金属又は合金はPGM又はその合金を含む。
【0032】
点火装置の部品(本発明の第1の態様)の製造プロセスに関して記載される好ましい特徴は、貴金属含有部品(本発明の第6の態様)の製造プロセスに等しく適用されるが、ただし、貴金属含有部品の製造は、
(i)金属又は合金基板及び送給ワイヤを提供することであって、送給ワイヤが貴金属又は貴金属含有合金を含む、提供すること、を含む、方法に限定され、
一方、点火装置部品の製造は、
(i)金属又は合金基板及び送給ワイヤを提供することであって、送給ワイヤが白金族金属又は白金族金属含有合金を含む、提供すること、を含む、方法に限定される。
【0033】
使用される送給ワイヤの直径は、付着物の所望の直径に応じて変わる。好適には、金属又は合金送給ワイヤは、少なくとも0.3mm、例えば少なくとも0.4mm、又は少なくとも0.5mmの直径を有する。好適には、付着物は、最大2.5mm、例えば最大2mm、又は最大1.5mmの直径を有する。当業者に既知の好適な方法を使用して、適切な組成物及びサイズの金属又は合金送給ワイヤを製造することができる。
【0034】
金属又は合金基板
本発明によるプロセスでは、CMTによって製造される付着物は、金属又は合金基板の表面上に堆積され、金属又は合金基板の表面に固定される。
【0035】
基板は、任意の好適な金属若しくは合金、又は金属及び/若しくは合金の混合物を含み得る。いくつかの実施形態では、基板は、2つの異なる金属若しくは合金の共押出、又は当業者に既知の任意の他の製造方法によって形成される本体である。
【0036】
いくつかの実施形態では、基板は、基板上にCMTによって堆積される金属又は合金とは異なる金属又は合金を含む。いくつかの実施形態では、基板は、送給ワイヤ又は基板上に堆積された材料中に存在する金属又は合金を全く含まない。いくつかの実施形態では、基板はPGMを全く含まない。
【0037】
基板は、好ましくは、点火装置の中心電極又は接地電極の一部分であってもよい。次いで、付着物は、使用中にスパークが発生し得る電極の「先端」を形成する。基板は、より好ましくは、点火装置の中心電極の一部分であってもよい。理解されるように、これは、点火装置を製造するためのプロセスの好ましい特徴である。
【0038】
基板は、伝導性金属又は合金を含んでもよい。好ましくは、基板は、Ag、Au、Cu、Al、Mo、Zn、W、Ni、Fe、Pd、Pt、Sn、Pb、Tiから選択される1つ以上の金属、又はこれらのうちのいずれか1つと、1つ以上の他の元素、例えば1つ以上の他の金属との合金を含む。より好ましくは、基板は、Cu及びNiから選択される1つ以上の金属、又はこれらのうちのいずれか1つと、1つ以上の他の元素、例えば1つ以上の他の金属との合金を含み、この特徴は、点火装置の製造プロセスにおいて特に好ましい。
【0039】
所望により、基板は、第1の金属又は合金を含む第1の領域と、第1の金属又は合金とは異なる第2の金属又は合金を含む第2の領域と、を含む。好ましくは、第1の領域は、第2の領域(シェル)によって少なくとも部分的に囲まれたコア領域(コア)である。第1及び第2の領域は、第1及び第2の金属又は合金の共押出によって形成されてもよい。いくつかの実施形態では、第1の領域は、導電性金属を含むか、又はそれからなる。いくつかの実施形態では、第1の領域は、Cuなどの遷移金属を含むか、又はそれからなる。いくつかの実施形態では、第2の領域は、導電性金属を含むか、又はそれからなる。いくつかの実施形態では、第2の領域は、Ni合金などの合金を含むか、又はそれからなる。いくつかの実施形態では、第2の領域は、Inconelを含むか、又はそれからなる。好ましくは、基板は、Ni又はInconelなどのNiの合金を含む外部部分(シェル)によって少なくとも部分的に囲まれたCuを含むコアを含む。
【0040】
上記の開示を基板に関して考慮することで、ワイヤがCMT中に堆積される表面は、Ni又はInconelなどのNiの合金を含んでもよく、好ましくは表面はNi又はNiの合金を含んでもよいことが理解されるであろう。Niの合金において、主成分はNiであってもよく、Niの合金中の他の元素は、Cr、Fe、Mo、Nb、Co、Mn、Cu、Al、Ti、Si、C、S、P及びBから選択されてもよい。所望により、合金中の最も豊富な元素はNiであり、合金中の2番目に豊富な元素はCrであり、合金は、Fe、Mo、Nb、Co、Mn、Cu、Al、Ti、Si、S、P及びBから選択される1つ以上の他の合金元素を含んでもよい。いくつかの実施形態では、合金はInconelである。
【0041】
点火装置電極の一部として使用するためのこのような「コアシェル」型の基板は、当業者に公知であり、市販されている。
【0042】
基板の全体的な形状は特に限定されない。当業者は、意図される点火装置(又は部品)用途に応じて好適な形状を選択することができるであろう。
【0043】
好ましくは、基板は細長い構造を有する。このような基板は、他の2つの寸法よりも少なくとも2倍、例えば少なくとも3倍、例えば少なくとも4倍長い1つの寸法を有する。このような細長い基板の断面幾何学形状は、特に限定されないが、円形、楕円形、三角形、正方形、矩形、台形、菱形、五角形、六角形、又は八角形から選択されてもよい。このような基板は、隆起部、ボス、又は凹部など、基板の表面上に特徴を含んでもよい。
【0044】
より好ましくは、基板は実質的に円筒状である。スパークプラグなどの点火装置の中心電極は、円筒状の形状であることが多く、スパークが発生する電極の「先端」は、円筒の一端に位置している。結果として、いくつかの実施形態では、材料がCMTによって堆積される円筒状基板の表面は、円筒の端面のうちの一方であり、これは実質的に平坦であってもよい。
【0045】
「実質的に円筒状」とは、本発明者らによると、基板が、円形又は円形に近い断面(例えば、断面は、完全な円ではなく、わずかに楕円形の形状であり得る)を有する細長い構造であることを意味する。更に、「実質的に円筒状」は、隆起部、ボス、又は凹部など、基板の表面上において特徴が存在することを除くものではない。基板の断面のサイズ及び形状は、その長さに沿って一貫していてもよく、又は、例えば、基板がテーパ状の外観を有するように変化してもよい。
【0046】
基板のサイズはまた、特に限定されず、点火装置(又は部品)の意図される用途に応じて変わる。既に述べたように、このような基板は市販されており、本明細書に記載されるプロセスは、任意のこのような基板と共に使用されるように適合されてもよい。概して、基板は、設計及び意図される用途に応じて、0.5~80mm、例えば10~20mmの長さを有し得る。
【0047】
本発明のプロセスでは、多量の送給ワイヤからの金属又は合金が、金属又は合金基板の表面上に堆積され、CMTプロセスで形成された溶接接合によって基板に機械的に接合される。この接合は、表面上への溶融金属の単なる堆積から形成されるであろうものよりもはるかに強い。金属又は合金の単一の堆積物は、基板上の送給ワイヤから作製されてもよい。金属又は合金は、堆積されると基板の露出表面の全領域を覆うことができるが、複数の堆積も想到され、本明細書に記載されるプロセスの工程の繰り返しによって達成されてもよい。あるいは、金属又は合金は、基板の露出表面の一部分のみを覆うように堆積されてもよい。基板が細長い基板、例えば上述のように実質的に円筒状である場合、金属又は合金は、基板の端面のうちの一方の上に堆積されてもよい。
【0048】
本発明の第6の態様では、基板は、点火装置部品、例えば点火装置電極、例えばスパークプラグ電極であってもよい。あるいは、第6の態様の基板は、任意の他の好適な金属又は合金基板、例えばセンサの引き出しワイヤであってもよい。
【0049】
コールドメタルトランスファー製造プロセス
コールドメタルトランスファー(CMT)は、送給ワイヤからの材料が、(従来のアーク溶接技術と比較した場合)比較的「低温」条件下で、基板に移されることによるプロセスである。溶接用途で使用するために、CMTは、CMTが提供する自動化、入熱量の低減、ワークピースを接合するためによりきれいな溶接を形成することという要因を背景とし、電気アーク溶接の代替溶接プロセスとして提案されている。例えば、米国特許出願公開第2009/026188(A1)号及び同第2008/156781(A1)号を参照されたい。これらの内容は、参照により本明細書に組み込まれる。このような溶接プロセスは、溶接システムの製造業者に応じて、異なる用語で知られている場合がある。例えば、用語ColdArc(EWMにより使用)、RMDボール移動(Millerにより使用)、CBT(Daihenにより使用)、ColdMIG(Merkleにより使用)及びSTT(Lincolnにより使用)は全て既知であり、全てが同じ原理に基づいてコールドメタルトランスファーによる溶接を行っている。
【0050】
本出願で使用されるCMTプロセスは、上述のCMT溶接プロセスとは異なる。CMTによる溶接ビードの堆積の代わりに、本明細書に記載されるプロセスは、CMTによって送給ワイヤの一区分を基板に移し、それによって基板上に実質的に細長い付着物を形成する。このようなプロセスは、名称「CMT-ピン」、「CMT-パイク」、「CMT-ボール」、「CMT-コーン」、及び「CMT-プリント」で知られており、例えば、米国特許出願公開第2011/0073579(A1)号に記載され、参照によりその内容が本明細書に組み込まれる。
【0051】
本発明者らは、CMTにより、所望の特性を維持しながら、経済的な方法で点火装置用の部品を製造できることも見出した。
【0052】
加えて、本発明者らは、より一般的なCMTにより、所望の特性を維持しながら、経済的な方法で貴金属含有部品を製造できることも見出した。例えば、このようなプロセスであると、ラムダセンサアタッチメントなどのセンサアタッチメントの製造における使用、及び別の金属又は合金基板上への貴金属付着物の付着が必要とされる様々な他の使用が見出されるであろうが、他の方法であると、このような部品は、レーザー溶接などの上述のあまり経済的ではないプロセスを使用して製造され得る。
【0053】
本発明によるCMTプロセスでは、金属又は合金の付着物は、CMTシステムによって実行される単一の順序の工程で基板上に完全に形成され、後処理(仕上げ又は静水圧プレスなど)がほとんど又は全く必要ではない。
【0054】
本発明の全般的なプロセスは、4つの主要な工程:
(i)金属又は合金基板及び金属又は合金送給ワイヤを準備することと、
(ii)基板と送給ワイヤとの間の電気アークを点火することと、
(iii)送給ワイヤが基板に接触するまで、基板の表面と送給ワイヤとの間の距離を縮小することにより、短絡を生じさせることと、
(iv)基板と送給ワイヤとの間の距離を拡大して、短絡を切断し、金属又は合金を送給ワイヤから基板の表面上に堆積させて、金属又は合金の付着物を基板の表面上に形成することと、を含む。
【0055】
プロセスの工程(i)において、金属又は合金基板及び金属又は合金送給ワイヤが準備される。これらの特性は上記のとおりである。好適には、ワイヤは、ワイヤを軸方向に移動させてワイヤと基板との間の距離を変化させるように、かつワイヤを基板に向かって軸方向に移動させてワイヤの端部を基板と接触させるように、基板の表面に対して実質的に垂直に配設される。送給ワイヤの移動は手動で行われてもよい。しかしながら、代替的に、送給ワイヤは、ロボットアーム上に取り付けられた自動ワイヤフィーダー内に準備されてもよい。このように、送給ワイヤの移動は、コンピュータプログラムによって正確に制御される。
【0056】
基板は、以下により詳細に記載されるように、ビルドプレート上の適切な位置に保持又は固定されてもよい。
【0057】
CMTプロセス及び機器は当業者に公知であり、本発明のプロセスを実施するために使用されてもよい。
【0058】
プロセスの工程(ii)では、基板と送給ワイヤとの間に電気アークが点火される。電気アークは、ワイヤの先端における金属又は合金の部分溶融、及びワイヤに隣接する基板の金属又は合金の部分溶融を促進し、それにより、金属又は合金の送給ワイヤから基板への移動が生じ得る。これを達成するための手段は、米国特許出願公開第2011/0073579(A1)号の、CMTプロセスの標準パートであり、当業者に公知である。
【0059】
電気アークが点火された後、プロセスの工程(iii)において、基板の表面と送給ワイヤとの間の距離は、送給ワイヤが基板に接触するまで縮小する。これにより、送給ワイヤ及び基板が溶接される。この距離は、送給ワイヤを基板に向かって移動させることにより縮小することができる。送給ワイヤと基板との間の接触により短絡が生じ、電気アークが消滅する。
【0060】
CMT方法の最終工程(iv)は、基板と送給ワイヤとの間の距離を拡大して、短絡を切断し、基板の表面上に金属又は合金を送給ワイヤから堆積させて、基板の表面上に金属又は合金の付着物を形成すること、を含む。溶接電流及び送給ワイヤの動きなどの溶接パラメータを適切に制御することにより、所望の幾何学形状の付着物が得られる。
【0061】
上述したように、工程(iii)及び(iv)における送給ワイヤ及び基板の相対移動は、コンピュータプログラムによって駆動されるロボットアーム上に取り付けられたワイヤフィーダーの使用によって自動化されてもよい。溶接電流はまた、このようなコンピュータプログラムによって制御されてもよい。
【0062】
CMT条件(電気アークの電圧及び/又は電流、基板及びワイヤの相対的な移動のタイミングなど)を変化させることにより、様々な付着物の幾何学形状を作り出すことが可能である。
【0063】
本発明によるCMT方法を使用して達成可能な付着物の幾何学形状の非限定的な例としては、(実質的に平坦な端面を有する)円筒状、球状、「マッシュルーム」の幾何学形状、及びパイクの幾何学形状(点へと先細になる細長い付着物)が挙げられる。これらの付着物の幾何学形状の例を図に示す。
【0064】
CMTプロセスは、FroniusからのTransPulsSynergicレンジ又はCMT Advancedシステムなどの市販されているCMTシステムを使用して実行され得る。このようなCMTシステムは、自動化され、ワイヤフィーダー、デジタル制御MIG/MAG電源、溶接トーチを冷却するための冷却ユニット、ワイヤの滑らかな動きを容易にするためのワイヤバッファ、並びに正確なワイヤ送給及び一定の接触圧力のためのロボット溶接トーチアームを含む。
【0065】
CMTプロセスは、好ましくは、電気アーク放電を囲む領域にシールドガスを投与すること、を含む。これは、CMTプロセス及びより一般的に溶接分野でよく知られている金属不活性ガス(MIG:Metal Inert Gas)又は金属活性ガス(MAG:Metal Active Gas)技術のいずれかによって達成され得る。
【0066】
MIGプロセスでは、不活性ガス又は不活性ガス混合物がシールドガスとして使用され、CMTプロセス中に電気アークを囲む領域に送給される。いくつかの実施形態では、不活性ガスは、Ar、He及びこれらの混合物から選択される。
【0067】
MAGプロセスでは、活性ガス又は活性ガス混合物がCMT中のシールドガスとして使用される。いくつかの実施形態では、活性ガス混合物は、CO若しくはH、又はこれらと1つ以上の不活性ガスとの混合物を含む。
【0068】
MIG及びMAGプロセスは、ガスメタルアーク溶接(GMAW:Gas Metal Arc Welding)として共に知られることがある。
【0069】
好ましくは、活性ガス混合物は、Ar及びOを含む。活性ガス混合物は、少なくとも1.5体積%のO、例えば少なくとも2体積%、少なくとも2.5体積%、又は少なくとも3体積%のO及び残部のArを含んでもよい。活性ガス混合物は、最大6体積%のO、例えば最大5.5体積%、最大5体積%、又は最大4.5体積%のO及び残部のArを含んでもよい。
【0070】
加えて、又は代替的に、活性ガス混合物は、Ar及びCOを含む。活性ガス混合物は、少なくとも4体積%のCO、例えば少なくとも4.5体積%、又は少なくとも5体積%のCO及び残部のArを含んでもよい。活性ガス混合物は、最大30体積%のCO、例えば最大25体積%、最大20体積%、又は最大15体積%のCO、及び残部のArを含んでもよい。
【0071】
したがって、活性ガス混合物は、Ar、O、及びCOを含んでもよい。活性ガス混合物は、少なくとも5体積%のCO、少なくとも2体積%のO、及び残部のArを含んでもよい。活性ガス混合物は、最大15体積%のCO、最大10体積%のO、及び残部のArを含んでもよい。
【0072】
あるいは、活性ガス混合物は、He、O、及びCOを含む。活性ガス混合物は、少なくとも5体積%のCO、少なくとも2体積%のO、及び残部のHeを含んでもよい。活性ガス混合物は、最大15体積%のCO、最大10体積%のO、及び残部のHeを含んでもよい。
【0073】
更に、又は代替的に、ガス混合物は、Nを含む。これは、移動される金属又は合金の同一性に応じて、活性又は不活性であると考えることができる。
【0074】
当業者は、シールドガスの組成が、アークの安定性、金属移動特性、スパターの量、及び溶接プールの挙動、例えば、その貫入及び基板と付着物との間の溶接された接合部の得られた機械的特性に影響を及ぼすことを理解している。
【0075】
このように(CMTプロセスを介して)3次元付着物が基板の表面上に堆積される。
【0076】
所望により、このプロセスは、CMT方法を使用して複数の点火装置の部品を製造すること、を含み、複数の基板は、単一のCMTユニット内にアレイ状で配置される。より具体的には、プロセスは、単一のCMTユニット内にアレイ状で配置された複数の基板を準備する工程を含んでもよく、それにより、本発明のプロセスの各工程は、各基板に対して同時に又は順次に実行され得る。したがって、プロセスはバッチプロセスであると考えることができ、プロセスの各「実行」において2つ以上の部品を提供する。
【0077】
このように、単一のCMT実行を使用して、CMTユニットの単一のビルドプレート上に複数の点火装置部品を製造することが可能である。これは、時間及びリソースの両方に関して非常に経済的である。送給ワイヤは、ある基板から次の基板に直接移動し、工程(i)~(iv)は、各基板に対して実行されて、金属又は合金を基板上に堆積させ、付着物を形成する。各基板に対してCMTプロセス条件を同一に保つことによって、一貫した幾何学形状及び特性を有する点火装置部品を製造することができる。
【0078】
当業者は、用語「CMTユニット」が、CMTプロセスを実行するように適合されたシステムを指すことを理解するであろう。このようなシステムは、当業者に既知であり、上述したように市販されている。
【0079】
例えば、単一のビルドプレート上で実行される単一のCMTにおいて、例えば少なくとも2、少なくとも5、少なくとも10、少なくとも15、少なくとも20、少なくとも50、少なくとも100、少なくとも500、少なくとも1000、少なくとも2000、又は少なくとも4000の複数の部品を製造することによって、プロセスがはるかに効率的に行われる。
【0080】
基板上に単一の付着物を形成するための、金属のコールドメタルトランスファープロセス全体は、ほんの数秒かかる。したがって、このプロセスは非常に効率的であり、例えば、1秒あたり少なくとも5、少なくとも10、少なくとも15、少なくとも20、少なくとも25、又は少なくとも30の、1秒あたり複数の点火装置部品を製造するために使用することができる。
【0081】
好適には、複数の基板は、ビルドプレート上に2次元アレイ状で配置される。いくつかの実施形態では、複数の基板は、ビルドプレート上の三角形、正方形、又は六角形のアレイなどの規則的なアレイ状で配置される。好ましくは、2つの隣接する基板間の距離は最小に保たれる。これにより、CMTプロセスの最大効率が確保される。
【0082】
好ましくは、金属又は合金基板は、CMTプロセス中にビルドプレート上に保持される。基板は、任意の好適な手段によってビルドプレート内の適切な位置に保持されてもよく、又はビルドプレートによって画定される好適な穴若しくは凹部内に位置してもよい。基板は、好適な手段によって、例えば、基板の表面からの突出部と穴又は凹部の内面からの突出部との間の連接によって、上記穴又は凹部内の適切な位置に保持されてもよい。穴又は凹部の内面からの突出部は、環状隆起部を備えて、基板が上部に載置されるより安定なプラットフォームが提供されるようにしてもよい。このように、基板の軸方向位置が制御されるだけでなく、基板の横方向位置もまたより安定する。
【0083】
あるいは、基板は、ビルドプレート内の凹部の床部上に位置してもよい。このように、例えば、基板の上面とビルドプレートとが同一平面上にあることを確実にするために、穴又は凹部内の基板の軸方向位置を制御することができる。
【0084】
したがって、プロセスは、工程(i)の前に、1つ以上の基板をビルドプレート上の適切な位置に配置する工程を含んでもよい。
【0085】
所望により、本発明のプロセスは、工程(i)の前に、CMTプロセス中に金属又は合金基板を保持するのに好適な穴又は凹部を含む改変されたビルドプレートを準備することと、CMTユニット内にビルドプレートを設置することと、を含む。改変されたビルドプレートは、複数の穴又は凹部を備えてもよく、その中に、等しい複数の基板が配置されてもよい。改変されたビルドプレートは、三角形、正方形、又は六角形のアレイなど、アレイ状で配置された複数の穴又は凹部を備えてもよい。
【0086】
改変されたビルドプレートが準備される場合、プロセスは、1つ以上の基板を、ビルドプレート内の1つ以上の穴又は凹部に挿入する工程を更に含む。
【0087】
概して、改変されたビルドプレートは、好適な凹部又は穴を提供するために、従来のビルドプレートを穿孔することによって準備され得る。
【0088】
1つ以上の凹部を含む改変されたビルドプレートが提供される場合、基板は、基板の上面がビルドプレートの上面と実質的に同じ高さになるように、又はビルドプレートの上面の上方に、5mm以下の隙間だけ突出するように、凹部内に配置される。このように、例えばCMTプロセス中に、材料が基板の上面にのみ堆積することが確保できる。
【0089】
好適には、基板をCMTプロセスの位置に(手又はロボットによる手段によって)個別に移動させて、基板と接触させ、金属又は合金の付着物を堆積する。
【0090】
好ましくは、このプロセスでは、基板(例えば、電極)がCMT機内の正しい位置及び配向で選別及び配置される、自動基板送給工程が組み込まれる。例えば、このプロセスでは、所定の数の基板を提供することができ、かつ基板が正しい配向で提供されることを確実にすることができる送給機の使用を伴い得る。このような送給機としては、当業者に既知の振動ボウルフィーダーが挙げられる。いくつかの実施形態では、振動ボウルフィーダーを使用して、全ての基板を同じ所望の配向に配置し、それらを1つずつ分配する。次いで、送給機によって提供される正しい配向で、基板は、一度に1つ又は複数の基板をつかみ、送給機の出力ラインからCMT機内の必要な位置まで基板を移動させて、CMTプロセスを実行することができる、ハンドリングロボットを使用して、正しい位置に移動させることができる。
【0091】
したがって、本発明の第1の態様によるCMTプロセスにおいて金属又は合金基板を準備する工程(i)は、
(ia)選別及び配向されていない複数の基板を、送給機に供給する工程と、
(ib)送給機を使用して、基板を所定の所望の方向に配向する工程と、
(ic)配向された基板を、送給機の出力ラインから、CMT機内の所定の所望の位置に移送する工程と、を含み得る。
【0092】
工程(ia)では、送給機は振動ボウルフィーダーであってもよい。複数の基板は、送給機に送給され、機械の振動及びコンベヤの動きによって同じ配向に向けられる。基板は、バッチ式で送給機に供給されても、連続供給されてもよい。複数の基板は全て同一であってもよく、又は同一でない基板のグループ、例えば、様々なサイズ及び/又は様々な形状の基板を含んでもよい。後者の場合、送給機はまた、それらのサイズ及び/又は形状に基づいて、基板を異なる出力ラインに選別してもよい。
【0093】
工程(ib)において、複数の基板は、所望の配向で送給機から出て、収集及びCMT機に移送する準備が整う。
【0094】
工程(ic)において、基板は、手動で、又は好ましくはハンドリングロボットを使用して移送されてもよい。好適なハンドリングロボットは、当業者に既知であり、本明細書に記載される基板などの複数の本体を把持し、移送することができる。
【0095】
このように、選別されていない多数の基板が、人の監視又は介入を必要とせずに、CMTが非常に効率的な方法で行われるのに必要な正確な位置及び配向で、選別され配置される自動化されたプロセスが提供される。
【0096】
金属又は合金の付着物
本発明の一態様によるCMTプロセスの製造物は、金属又は合金基板と、基板と一体となった堆積金属又は合金の付着物と、を含むアセンブリである、点火装置の部品である。
【0097】
本発明の代替的態様によるCMTプロセスの製造物は、金属又は合金基板と、基板と一体となった貴金属又はその合金を含むCMT堆積付着物と、を含む、貴金属含有部品である。
【0098】
金属又は合金ワイヤの特性に関して上記の開示は、金属又は合金の付着物にも適用され、これは、金属又は合金を送給ワイヤから基板に移動させることによって作製される物体である。
【0099】
付着物は、その断面積が、付着している基板からの距離と共に縮小するように、テーパ形状を有してもよい。
【0100】
あるいは、付着物は、凸形状、例えば、半球形状、又は球状キャップ若しくはドームの形状を有してもよい。
【0101】
好ましくは、付着物は、点火装置で使用するための電極がスパークする先端である。付着物がPGM金属又は合金から形成される場合、これは、付着物がスパークする先端として使用されるときに特に望ましい特性をもたらす。例えば、付着物は、高い溶融温度を有し、スパークエロージョンが生じにくいため、点火装置の誤発火のリスクが低減される。
【0102】
当然のことながら、付着物のサイズは、基板のサイズ及び意図される用途に応じて変わり、当業者は、好適なサイズの付着物を製造するためにCMT方法を調整することができる。
【0103】
好適には、付着物は、少なくとも0.1mm、例えば少なくとも0.2mm、少なくとも0.25mm、少なくとも0.3mm、少なくとも0.35mm、又は少なくとも0.4mmの長さを有する。加えて、好適には、付着物は、最大10mm、例えば最大5mm、最大4mm、最大3mm、例えば最大2.5mm、又は最大2mmの長さを有する。
【0104】
好適には、付着物は、少なくとも0.3mm、例えば少なくとも0.4mm、又は少なくとも0.5mmの幅(直径)を有する。好ましくは、付着物は、最大2.5mm、例えば最大2mm、又は最大1.5mmの幅(直径)を有し得る。
【0105】
概して、ワイヤのゲージは、付着物の形成時に保存されるため、選択されたワイヤゲージによって、CMT中に形成された付着物の厚さが決まる。付着物の他の寸法、例えば、基板表面から測定されるその高さ、形成された任意の球形特徴部の直径、及び付着物のベースの貫入深さは、CMTシステムの電源プログラムによって決定される。
【0106】
所望により、本発明のプロセスは、部品の少なくとも一部の表面仕上げ及び/又は機械加工から選択される工程(v)を更に含む。
【0107】
表面仕上げ工程は、ビルドプレート上の各部品の3次元位置を決定し、この情報をCNC機械加工システムに送る3Dスキャンプロセスを含んでもよい。CNC仕上げの精度は、基板の位置決め精度に応じて変化し得る。したがって、溶接後の基板位置の3Dスキャンを行うことにより、表面仕上げプロセスが正確になる。
【0108】
機械加工は、CMT堆積構造の構造及び/又は密度を変化させるために使用するための当業者に既知の任意のプロセスを含み得る。工程(iv)で使用され得る機械加工技術の非限定的な例としては、ビードピーニング、機械的ピーニング、静水圧プレス、例えば熱間静水圧プレスなどの熱間又は冷間のローリング又はプレス、及び積層造形(ALM:additive layer manufacturing)が挙げられる。
【0109】
機械加工は、高密度化プロセスを含んでもよい。高密度化は、CMT製造部材の内部空隙率を低減する手段である。このように、より高密度の付着物を提供することができる。
【0110】
機械加工を使用して、制御されたレベルの機械作業を導入してもよく、この機械作業を、放置するか、又は中程度の局所加熱と組み合わせて使用して、表面に等軸粒構造を形成するか、又は処理の強度及び使用される熱レジームに応じて、より深いものとすることができる。場合によっては、等軸構造は、エピタキシャル成長した指向性粒が付着物の表面に限定された、基板との接合部で作製されてもよい。このような多様な構造は、酸化/腐食に関して電極先端の改善された安定性をもたらすが、より顕著に熱的及び機械的サイクルにつながると予想される。これは、点火装置における電極先端の製造に特に有利であり得ることが理解されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0111】
ここで、以下の非限定的な図及び実施例を参照して、本発明を更に説明する。本発明の他の実施形態は、これらに照らして当業者には見出されるであろう。
【0112】
図面
図1】本発明のCMTプロセスを使用して達成可能な付着物の幾何学形状の様々な概略断面図を示す。
図2】本発明によるCMTプロセスの典型的なサイクルの概略断面図である。
【0113】
詳細な説明
図1は、本発明によるCMTプロセスを使用して製造することが可能な、起こりうる「ピン」の幾何学形状の一部を示す。
【0114】
図1(a)~(d)のそれぞれは、異なる「ピン」の幾何学形状を示す。各場合において、付着物は、点火装置電極であり得る基板5上にCMTによって堆積されている。
【0115】
図1(a)は、「マッシュルーム」の幾何学形状を有する付着物(「ピン」)11が基板5に付着している実施形態1を示す。付着物11は、付着物の主ステムよりも大きな直径まで延びる球形状の末端部分12を有する。付着物11は、金属又は合金送給ワイヤからCMTによって基板5にしっかりと固定されている。基板5は、Inconel合金であってもよく、付着物11は、貴金属又はその合金であってもよい。
【0116】
図1(b)は、「平坦な」幾何学形状を有する付着物(「ピン」)21が基板5に付着している、実施形態2を示す。付着物21は、実質的に平坦な端面を有する末端部分22を有し、そのため、付着物の幾何学形状は実質的に円筒状である。付着物21は、金属又は合金送給ワイヤからCMTによって基板5にしっかりと固定されている。基板5は、Inconel合金であってもよく、付着物21は、貴金属又はその合金であってもよい。
【0117】
図1(c)は、「パイク」又は「円錐形」の幾何学形状を有する付着物(「ピン」)31が基板5に付着している実施形態3を示す。付着物31は、実質的に円錐形の幾何学形状を有する末端部分を提供するテーパ状の末端部分32を有する。付着物31は、金属又は合金送給ワイヤからCMTによって基板5にしっかりと固定されている。基板5は、Inconel合金であってもよく、付着物31は、貴金属又はその合金であってもよい。
【0118】
図1(d)は、「ボール」の幾何学形状を有する付着物(「ピン」)41が基板5に付着している実施形態4を示す。付着物41は、図1(a)に示される付着物11の末端部分と同様の球形の幾何学形状を有するが、付着物41は、付着物11内に存在する細長いステム部分を欠いている。付着物41は、金属又は合金送給ワイヤからCMTによって基板5にしっかりと固定されている。基板5は、Inconel合金であってもよく、付着物41は、貴金属又はその合金であってもよい。
【0119】
スパークプラグの電極などの点火装置部品内に存在する場合、図1に示される実施形態のいずれかも、本明細書に記載される利点を提供し、無駄な材料を最小限に抑えて効率的かつ経済的な方法で製造することができる。
【0120】
図2は、本発明によるCMTプロセスの典型的なサイクルの概略断面図である。図2の工程(a)~工程(e)は、CMTプロセスの単一サイクル(単一の付着物堆積)における時系列でみた場合の工程を表す。
【0121】
典型的には、Ni-Cr合金などの遷移金属又はその合金である基板51が提供される。基板51は、Inconelであってもよい。
【0122】
図2の工程(a)では、送給ワイヤ52が基板51に隣接して提供され、送給ワイヤは、その軸が基板51の表面に対して実質的に垂直になるように配向される。送給ワイヤは、典型的には、Ru又はIrの合金などの貴金属又はその合金である。図には示されていないが、送給ワイヤ52は、Fronius TransPulsSynergicシステムなどのCMTシステムの一部であるロボットアーム上に取り付けられたワイヤフィーダーに保持されている。
【0123】
図2の工程(b)では、送給ワイヤ52の先端と、送給ワイヤに隣接する基板54の表面の部分との間に電気アーク55が点火される。電気アークは、送給ワイヤ52の先端のゾーン53及び基板51の表面のゾーン54において局所的な部分溶融を引き起こす。アークの点火は、アークの電圧及び電流のように、CMTシステムによって自動的に制御される。
【0124】
次いで、送給ワイヤ52と基板51との間の距離は、図2の工程(c)に示されるように、送給ワイヤ52と基板51とが接触し、短絡を生じさせるまで、例えば、ワイヤフィーダー(図示せず)又はワイヤを基板51に向かって移動させることによって縮小する。これにより、送給ワイヤ52と基板51との間に溶接部56が形成される。
【0125】
図2の工程(d)において、送給ワイヤ52と基板51との間の距離は、例えば、ワイヤフィーダー(図示せず)又はワイヤを再び基板51から離れるように移動させることによって拡大する。これにより、送給ワイヤに縮んだ部分57が形成され最終的に切断して、基板51の表面に溶接された付着物58を残す。図2に示される付着物58の幾何学形状は、「平坦」であるが、溶接電圧、電流、及び送給ワイヤの移動などの溶接パラメータの調節によって、正確な幾何学形状を変えることができる。
【0126】
工程(e)の後、送給ワイヤ52をロボットアームによって(例えば、別の基板に隣接する)別の位置に移動させて、別の付着物を同じ方法で堆積する、又は別の付着物を同じ方法ではあるが代替形状で堆積することができる。
図1
図2