(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-18
(45)【発行日】2022-11-29
(54)【発明の名称】最外クロム合金層を含む基材の耐食性を高める方法
(51)【国際特許分類】
C25D 3/06 20060101AFI20221121BHJP
C25D 11/38 20060101ALI20221121BHJP
【FI】
C25D3/06
C25D11/38 303
(21)【出願番号】P 2020534218
(86)(22)【出願日】2018-12-11
(86)【国際出願番号】 EP2018084410
(87)【国際公開番号】W WO2019121178
(87)【国際公開日】2019-06-27
【審査請求日】2021-08-20
(32)【優先日】2017-12-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】300081877
【氏名又は名称】アトテック ドイチュラント ゲー・エム・ベー・ハー ウント コー. カー・ゲー
【氏名又は名称原語表記】Atotech Deutschland GmbH & Co. KG
【住所又は居所原語表記】Erasmusstrasse 20, D-10553 Berlin, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100098501
【氏名又は名称】森田 拓
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100134315
【氏名又は名称】永島 秀郎
(74)【代理人】
【識別番号】100135633
【氏名又は名称】二宮 浩康
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】ベルケム エズカヤ
(72)【発明者】
【氏名】フィリップ ヴァハター
【審査官】松岡 徹
(56)【参考文献】
【文献】特表2014-513214(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25D 1/00- 3/66
C25D 5/00- 7/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
最外クロム合金層を含む基材の耐食性を高めるための方法であって、
(i)前記最外層を含む基材を供給する工程であって、前記層は
- 明度L
*が79以上のCIELABによって規定される色空間を有し、
- 酸素および炭素を含み、かつ
- 前記最外層内の原子の総数を基準として、0原子%~1原子%の総量で鉄を含む、工程、
(ii)水性の酸性不動態化溶液を供給する工程であって、前記溶液は、
- 三価クロムイオン、
- リン酸イオン、
- 1種以上の有機酸残基アニオンを含む、工程、
(iii)前記基材を前記不動態化溶液と接触させ、前記不動態化溶液中でカソードとしての前記基材とアノードとの間に電流を流して不動態化層を前記最外層上に堆積させる工程
を含み、
ここで、
工程(i)において、前記最外クロム合金層は、水性の酸性堆積組成物から電解堆積され、前記組成物は、
- 三価クロムイオン、
- イソチウレイド部分を含む少なくとも1種の有機酸および/またはその塩、および
- 前記堆積組成物の総重量を基準として、0重量%~0.1重量%の総量の塩化物イオン
を含む、方法。
【請求項2】
工程(i)において、前記最外層が、明度L
*が80以上、好ましくは81以上、より好ましくは82以上であるCIELABによって規定される色空間を有する、請求項1記載の方法。
【請求項3】
工程(i)において、前記最外層が、-2.0~+2.0、好ましくは-1.0~+1.0、より好ましくは-0.9~+0.1、さらにより好ましくは-0.9~-0.1の範囲のカラーチャネルa
*を有するCIELABによって規定される色空間を有する、請求項1または2記載の方法。
【請求項4】
工程(i)において、前記最外層が、-4.0~+4.0、好ましくは、-2.0~+3.0、より好ましくは-0.5~+2.0、さらにより好ましくは-0.25~+1.0の範囲のカラーチャネルb
*を有するCIELABによって規定される色空間を有する、請求項1から3までのいずれか1項記載の方法。
【請求項5】
工程(i)において前記最外層内の炭素が、前記最外層内の原子の総数を基準として、2原子%~10原子%の範囲、好ましくは4原子%~9原子%の範囲、より好ましくは5原子%~8原子%の範囲、さらにより好ましくは6原子%~7原子%の範囲の総量で存在する、請求項1から4までのいずれか1項記載の方法。
【請求項6】
工程(i)において前記最外層内の酸素が、前記最外層内の原子の総数を基準として、2原子%~15原子%の範囲、好ましくは5原子%~12原子%の範囲、より好ましくは7原子%~11原子%の範囲、さらにより好ましくは8原子%~10.5原子%の範囲の総量で存在する、請求項1から5までのいずれか1項記載の方法。
【請求項7】
工程(i)において前記最外層が、好ましくは、前記最外層内の原子の総数を基準として、0.3原子%~3.0原子%の範囲、好ましくは0.4原子%~2.5原子%の範囲、より好ましくは0.6原子%~1.5原子%の範囲の総量で硫黄を含む、請求項1から6までのいずれか1項記載の方法。
【請求項8】
工程(i)の前記水性の酸性堆積組成物において、前記イソチウレイド部分を含む少なくとも1種の有機酸およびその塩が、イソチウレイド部分を含む少なくとも1種のモノカルボン酸および/またはその塩を含み、好ましくは、末端イソチウレイド部分を含む少なくとも1種のモノカルボン酸および/またはその塩を含む、請求項1から7までのいずれか1項記載の方法。
【請求項9】
工程(i)の前記水性の酸性堆積組成物において、前記イソチウレイド部分を含む少なくとも1種の有機酸およびその塩が、化合物(NH
2)C(=NH)S-(CH
2)
m-COOHおよび/またはその塩を含み、ここで、mが1~10、好ましくは1~5、より好ましくは2~4の範囲の整数である、請求項1から8までのいずれか1項記載の方法。
【請求項10】
工程(i)の前記水性の酸性堆積組成物において、前記イソチウレイド部分を含む少なくとも1種の有機酸およびその塩が、化合物(NH
2)C(=NH)S-(CH
2)
3-COOHおよび/またはその塩を含み、好ましくは化合物(NH
2)C(=NH)S-(CH
2)
3-COOHおよび/またはその塩である、請求項1から9までのいずれか1項記載の方法。
【請求項11】
工程(i)において、前記水性の酸性堆積組成物が、チオ尿素、チオ硫酸塩、およびアンモニウムイオンからなる群から選択される1種、2種以上、またはすべての化合物を含まない、請求項1から10までのいずれか1項記載の方法。
【請求項12】
工程(i)において、前記水性の酸性堆積組成物が、前記堆積組成物の総重量を基準として、0重量%~0.05重量%、好ましくは0重量%~0.03重量%、より好ましくは0重量%~0.01重量%、最も好ましくは0重量%~0.005重量%の総量で塩化物イオンを含む、請求項1から11までのいずれか1項記載の方法。
【請求項13】
工程(ii)の前記水性の酸性不動態化溶液中の前記1種以上の有機酸残基アニオンが、2つのカルボン酸部分を有する少なくとも1種の有機酸残基アニオンを含み、好ましくは合計で2~8個の炭素原子および2つのカルボン酸部分を有する少なくとも1種の有機酸残基アニオン、より好ましくは合計で2~6個の炭素原子および2つのカルボン酸部分を有する少なくとも1種の有機酸残基アニオン、最も好ましくは合計で2~4個の炭素原子および2つのカルボン酸部分を有する少なくとも1種の有機酸残基アニオンを含む、請求項1から12までのいずれか1項記載の方法。
【請求項14】
工程
(i)の前記最外層には、亀裂がなく、かつ細孔がない、請求項1から13までのいずれか1項記載の方法。
【請求項15】
工程(iii)の前に、追加の工程
(ii-a)工程(i)の後に得られた前記基材を、
- 三価クロムイオン、
- リン酸イオン、
- 1種以上の有機酸残基アニオン、
を含む水性浸漬処理溶液中に浸漬する工程
を含み、
ここで、前記浸漬の間、電流を加えない、請求項1から14までのいずれか1項記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の属する技術分野
本発明は、三価クロムから得られた最外クロム合金層を含む基材の酸性雨により引き起こされる腐食に対する耐性を高める方法に関する。
【0002】
発明の背景
金属基材またはプラスチック基材上に電解堆積されたニッケルおよびクロム層は、装飾的および機能的な目的でよく知られている。また、特に最外層が六価クロムから得られる場合、このような基材は、良好でかつ許容可能な耐食性を示すことも知られている。
【0003】
しかしながら、例えばクロム酸中の六価クロムは、非常に毒性があり、発がん性があり、環境に有害である。特に、廃水処理は、非常に費用がかかり、多大な労力を必要とする。したがって、六価クロムの利用を最小限にすることが望ましい。その結果、典型的には、非常に優れた耐食性を示し、十分に確立された手順で製造される、六価クロムから得られる最外クロム層は、三価クロムから得られる最外クロム層によってますます置き換えられている。それ以来、例えば、耐食性に関して、六価クロムから得られるクロム層と少なくとも同等の特性に到達するために、このようなクロム層を最適化するための努力が続けられている。
【0004】
三価クロムから得られる最外クロム層の耐食性を最適化するために、浸漬処理および/または電解不動態化などの表面処理が典型的には適用されている。
【0005】
米国特許出願公開第2015/0252487号明細書は、基材の処理方法を請求する、Cr+3めっき浴から得られるクロムでめっきされたクロムめっき基材に改善された腐食保護を付与する方法であって、該基材は、三価クロム電解質から堆積されたクロムを含むめっき層を含み、該方法は、
(a)(i)三価クロム塩;および(ii)錯化剤を含む電解液中にアノードおよびカソードとしての基材を供給する工程;
(b)アノードとカソードとの間に電流を流して、基材上に不動態化膜を堆積させる工程
を含む、方法に関する。
【0006】
特開2009-235456号公報は、(i)三価クロムめっき液から形成されたクロムめっき膜の電解処理液、ならびに(ii)三価クロムめっき液から形成されたクロムめっき膜を電解処理する方法であって、該溶液は、水溶性の三価クロム化合物、例えば硫酸クロム、塩基性硫酸クロム、硝酸クロム、酢酸クロム、塩化クロム、およびリン酸クロムを含む、方法に関する。さらに、物品がカソードとして電解処理されることが開示されている。
【0007】
特開2010-209456号公報は、クロムめっき膜の錆を防止するための浸漬処理液、ならびに処理液が使用されるクロムめっき膜の錆を防止する処理を行うための方法(防錆処理方法)であって、該方法を六価クロムめっき膜または三価クロムめっき膜に適用することができる、方法に関する。
【0008】
国際公開第2008/151829号は、防食コーティング層を作製する方法であって、処理されるべき表面を、クロム(III)イオンおよび少なくとも1種のリン酸塩化合物を含む水性処理溶液と接触させ、クロム(III)イオンの物質量の濃度と少なくとも1種のリン酸塩化合物の濃度との比(オルトリン酸塩に関して計算)が、1:1.5~1:3である、方法に関する。この方法は、変換層を備えた金属表面、特に亜鉛を含む金属表面の防食保護を改善する。クロム(III)イオンは、無機クロム(III)塩によって、または適切な六価クロム化合物を還元することによって提供される。
【0009】
国際公開第2011/147447号は、亜鉛、アルミニウムまたはマグネシウムの表面、さらにはこれらの金属の合金の表面に、実質的にクロム(VI)を含まない防食層を生成するための方法に関する。処理されるべき表面は、クロム(III)イオン、処理されるべき基材表面の金属イオンおよび少なくとも1種の錯化剤を含む2つの水性処理溶液と直接連続して接触させられる。第1の処理溶液は、1.0~4.0の範囲のpHを有し、第2の処理溶液は、3.0~12.0のpHを有する。請求項12には、工程1の不動態化処理が、不動態化溶液中で基材をカソードとして接続することによって補助されることが開示されている。
【0010】
米国特許第6,004,448号明細書は、三価クロム化合物を含む浴から金属基材上に酸化クロムコーティングを電解堆積させるための可溶性組成物および方法に関する。
【0011】
金属の腐食は、通常、さまざまな腐食条件および/または化合物によって引き起こされる。典型的には、最外クロム合金層を含む基材は、これらの様々な腐食条件および化合物に対して異なる反応をする。多くの場合、基材およびその最外クロム合金層は、あらゆる種類の腐食に対する保護が不十分である。
【0012】
例えば、よく知られている攻撃的なタイプの環境腐食は、酸性雨によって引き起こされる。三価クロムから得られる、環境に自然にさらされる最外クロム合金層を含む基材、特に自動車で使用される物品は、典型的には、この特定のタイプの腐食の影響を受けやすい。多くの場合、このような最外層は、装飾目的に役立つ。腐食によって引き起こされる欠陥は、光学印象をすぐに劣化させるため、可能な限り回避しなければならない。しかしながら、多くの場合、このタイプの腐食の抑制は、不十分である。さらに、それぞれの製品の長い寿命を得るために、耐食性の要件が絶えず高まっている。したがって、耐食性を改善すること;この場合、酸性雨により引き起こされる腐食に対して、三価クロムから得られた最外クロム合金層の耐食性を高めることが継続的に要求されている。
【0013】
本発明の課題
したがって、本発明の課題は、上記の従来技術に基づいて、三価クロムから得られた最外クロム合金層を含む基材の耐食性、特に酸性雨により引き起こされる前記基材の腐食に対する耐性を高めることであった。
【0014】
発明の詳細な説明
上記の課題は、最外クロム合金層を含む基材の耐食性を高めるための方法、好ましくは最外クロム合金層を含む基材の酸性雨により引き起こされる腐食に対する耐性を高めるための方法であって、前記方法は、
(i)前記最外層を含む基材を供給する工程であって、前記層は
- 明度L*が79以上のCIELABによって規定される色空間を有し、
- 酸素および炭素を含み、かつ
- 前記最外層内の原子の総数を基準として、0原子%~1原子%の総量で鉄を含む、工程、
(ii)水性の酸性不動態化溶液を供給する工程であって、前記溶液は、
- 三価クロムイオン、
- リン酸イオン、
- 1種以上の有機酸残基アニオンを含む、工程、
(iii)基材を不動態化溶液と接触させ、不動態化溶液中でカソードとしての基材とアノードとの間に電流を流して不動態化層を最外層上に堆積させる工程
を含み、
ここで、
工程(i)において、最外クロム合金層は、水性の酸性堆積組成物から電解堆積され、前記組成物は、
- 三価クロムイオン、
- イソチウレイド部分を含む少なくとも1種の有機酸および/またはその塩、および
- 堆積組成物の総重量を基準として、0重量%~0.1重量%の総量の塩化物イオン
を含む、方法によって解決される。
【0015】
本発明の文脈において、「三価クロムイオン」という用語は、遊離および錯化形態のCr3+イオンを指す。
【0016】
さらに、本発明の文脈において、特定の値と組み合わせた「少なくとも」という用語は、この値またはこの値よりも大きいことを表す(そしてこれらと交換可能である)。例えば、「少なくとも90重量%」は、「90重量%または90重量%を上回る」ことを表す(そしてこれらと交換可能である)。同様に、「少なくとも1つ」は、「1つ、2つ、3つまたは3つを上回る」ことを表す(そしてこれらと交換可能である)。
【0017】
三価クロムから得られる最外クロム層は、典型的にはクロム合金層であり、通常、炭素および/または酸素、特に炭素などの合金化元素を含む。独自の実験により、本発明の方法の驚くべき利点は、2つの態様の組み合わせに依存することが示されている。第一に、最外クロム合金層が鉄をほとんど含まない場合、すなわち、本発明の文脈では、鉄が前記最外クロム合金層中の原子の総数を基準として、0原子%~1原子%の総量しか存在しない場合、酸性雨により引き起こされる腐食が大幅に抑制される。これは通常、三価クロムイオンを含むが、塩化物イオンを含まないかほとんど含まない水性の酸性堆積組成物を利用することによって達成される。このような堆積組成物では、典型的には、鉄化合物/鉄イオンは溶解しない。さらに、このような堆積組成物は、通常、輝いて、光沢があり、ぴかぴか光る最外層をもたらし、典型的には、明度L*が79以上のCIELABによって規定される色空間によって特徴付けられる。実験の部に示すように、本発明の方法の驚くべき利点は、通常、鉄を含みかつ塩化物イオン含有堆積組成物から堆積される、「暗い」最外クロム層では基本的に生じない。本発明の文脈では、「暗い」は、CIELABによって規定される、79よりかなり小さい明度L*、例えば、72および72よりかなり小さいL*を表す。第二に、前記最外クロム合金層は、三価クロムイオン、リン酸イオン、および1種以上の有機酸残基アニオンを含む水性の酸性不動態化溶液と接触させられる。さらに、接触は電解的に行われ、最外クロム合金層の不動態化が得られる。この特定の組み合わせ(上記の不動態化と組み合わせた輝く最外クロム合金層)は、驚くべきことに、大幅に向上した耐食性、特に酸性雨により引き起こされる腐食に対して大幅に向上した耐性をもたらす(さらなる詳細については、以下の実験の部を参照のこと)。
【0018】
本発明の方法の工程(iii)の後、不動態化された輝く最外クロム合金層を有する基材が得られ、該基材は、不動態化されていない輝く最外クロム合金層を有する基材と比較して、また「暗い」最外クロム合金層を有する基材と比較しても、酸性雨により引き起こされる腐食に対して大幅に向上した耐性をもたらす(不動態化層を有する場合および有していない場合;詳細については、以下のテキストの実験の部を参照のこと)。酸性雨により引き起こされる腐食に対する耐性は、典型的には、ケステルニッヒ試験によって評価される(実験の部も参照のこと)。
【0019】
本発明の方法の工程(i)では、最外クロム合金層(本テキスト全体を通じて、しばしば「最外層」と略される)を含む基材が提供される。
【0020】
工程(i)において最外層が、
(a)直接、ベース基材の表面上にあり、工程(i)で規定された基材を形成するか、または
(b)層スタックの層であり、層スタックは、ベース基材の表面上にあり、好ましくはニッケル層、ニッケル合金層、銅層、銅合金層および貴金属シード層からなる群から選択される1つ以上の層を含む、本発明の方法が好ましい。
【0021】
最外層がこのような層スタックの層である場合、層スタックは、前記ベース基材の表面上にあり、ここで、前記ベース基材および前記層スタックは一緒に、本発明の方法の工程(i)で規定された基材を形成する。
【0022】
場合により、層スタック中の1つ以上の層(好ましくはニッケルまたはニッケル合金層)が、非導電性粒子、好ましくは二酸化ケイ素粒子および/または酸化アルミニウム粒子をさらに含むことが好ましい。
【0023】
ベース基材は、好ましくは、金属ベース基材または有機ベース基材である。
【0024】
好ましくは、金属ベース基材は、鉄、マグネシウム、ニッケル、亜鉛、アルミニウム、および銅、好ましくは鉄、銅、および亜鉛からなる群から選択される1種以上の金属を含む。多くの場合、前述の金属の合金ベース基材がより好ましい。
【0025】
金属ベース基材が鋼基材、亜鉛ベースのダイキャスト基材、真鍮基材、銅基材、およびアルミニウム基材からなる群から選択される本発明の方法が、最も好ましい。亜鉛ベースのダイキャスト基材は、典型的には、亜鉛、アルミニウム、マグネシウム、および銅の複数の元素またはすべての元素を含む。このような製品の典型的な商標は、例えばZAMACおよびSuperloyである。
【0026】
最外クロム合金層を有する真鍮基材は、特に衛生設備の製造において使用されている。鋼基材および亜鉛ベースのダイキャスト基材は、典型的には、多種多様な物品で使用されており、通常、装飾目的で前記最外クロム合金層を示す。
【0027】
場合により、最外層が、直接ベース基材の表面上にあり、ここで、ベース基材は、金属ベース基材であり、より好ましくは、金属ベース基材は、鉄を含み、最も好ましくは、金属ベース基材は、鋼基材である、本発明の方法が好ましい。直接、鋼基材の表面上にある最外クロム合金層は、典型的には、非常に優れたトライボロジー特性を示す。多くの場合、酸性雨によって引き起こされるこのような基材の腐食に対する耐性をさらに高めることが望ましい。
【0028】
本発明の方法は、ベース基材が金属ベース基材、好ましくは金属合金ベース基材、より好ましくはそれぞれ上記で規定したものである場合に特に有益である。しかしながら、本発明の方法によって得られる不動態化層は、また、有機ベース基材上に堆積された最外クロム合金層を、酸性雨により引き起こされる腐食性損傷および光学的劣化から保護する。
【0029】
好ましくは、有機ベース基材は、プラスチックからなる群から選択され、より好ましくは、アクリルニトリルブタジエンスチロール(ABS)、アクリルニトリルブタジエンスチロール-ポリカーボネート(ABS-PC)、ポリプロピレン(PP)、およびポリアミド(PA)からなるプラスチックの群から選択される。
【0030】
有機ベース基材は、自動車産業で利用される衛生設備や多様な物品を製造し、その際に金属または金属合金ベース基材を模倣するためにも使用されている。
【0031】
典型的には、有機ベース基材は、その後の金属化のためにシード層によって最初に導電性にされる。このようなシード層は、通常、無電解堆積によって堆積された金属層である。本発明の文脈では、このようなシード層は、上述の層スタックに属する。好ましくは、シード層は、銅層または貴金属シード層である。好ましい貴金属シード層は、パラジウム層および銀層からなる群から選択される。
【0032】
多くの場合、最外層は、層スタックの層であり、層スタックは、ベース基材の表面上にあり、最も好ましくは、ベース基材が有機ベース基材である場合である。
【0033】
しかしながら、ベース基材がニッケルを含むか、または層スタックがニッケルおよび/またはニッケル合金層を含む場合、本発明の方法の工程(i)における最外層は、銅または銅合金層上にあることが好ましい。これは、ニッケルイオンの浸出を防ぐのに役立つ可能性がある。
【0034】
多くの場合、層スタックが、銅または銅合金層と、その上の1つ以上のニッケルまたはニッケル合金層と、その上の、本発明の方法の工程(i)で規定された前記最外層とを含む、本発明の方法が好ましい。ベース基材は、好ましくは金属合金ベース基材、より好ましくは亜鉛を含む金属合金ベース基材、または好ましくは上記のような有機ベース基材である。
【0035】
最外層が、600nm以下、好ましくは500nm以下の最大層厚を有する、本発明の方法が好ましい。このような層厚は、装飾的なクロム合金層に典型的である。本発明の方法では、最外層が装飾層であることが好ましい。
【0036】
最外クロム合金層:
本発明の方法の工程(i)では、クロム、ならびに合金化元素としての酸素および炭素を含む、最外クロム合金層が存在する。本発明の文脈では、合金化元素は、クロムと共堆積される元素である。好ましくは、炭素および酸素以外の1種以上のさらなる合金化元素が、最外層に含まれる。好ましくは、1種以上のさらなる合金化元素は、硫黄および窒素からなる群から選択される。場合により、最外クロム合金層内のさらなる合金化元素の総量が、最外クロム合金層内の原子の総数を基準として5原子%以下、好ましくは4原子%以下、より好ましくは3原子%以下、さらにより好ましくは2原子%以下である、本発明の方法が好ましい。いくつかの場合、最外層がさらなる合金化元素を含まないことが好ましい。
【0037】
工程(i)において最外層内の炭素が、最外層内の原子の総数を基準として、2原子%~10原子%の範囲、好ましくは4原子%~9原子%の範囲、より好ましくは5原子%~8原子%の範囲、さらにより好ましくは6原子%~7原子%の範囲の総量で存在する、本発明の方法が非常に好ましい。対照的に、六価クロムから得られる最外クロム層は、典型的には、炭素を含まない。
【0038】
工程(i)において最外層内の酸素が、最外層内の原子の総数を基準として、2原子%~15原子%の範囲、好ましくは5原子%~12原子%の範囲、より好ましくは7原子%~11原子%の範囲、さらにより好ましくは8原子%~10.5原子%の範囲の総量で存在する、本発明の方法が好ましい。
【0039】
工程(i)において最外層が、好ましくは、最外層内の原子の総数を基準として、0.3原子%~3.0原子%の範囲、好ましくは0.4原子%~2.5原子%の範囲、より好ましくは0.6原子%~1.5原子%の範囲の総量で硫黄を含む、本発明の方法が好ましい。最外層が、好ましくは上記で規定された量で硫黄を含む場合、最外層の輝度は、良い影響を受ける。しかしながら、硫黄の総量が3.0原子%を大幅に超える場合、最外層の輝度が低下し、さらに、望ましくない黄色がかった色合いに変わる。
【0040】
最外クロム合金層内の合金化元素(クロムを除くすべての原子を含む)の総量が、最外クロム合金層内の原子の総数を基準として、28原子%以下、好ましくは23.5原子%以下、より好ましくは20.5原子%以下、さらにより好ましくは18原子%以下である、本発明の方法が好ましい。
【0041】
好ましくは、鉄由来の不純物を除いて、炭素、酸素、および硫黄が、唯一の合金化元素である。
【0042】
本発明の方法では、工程(i)において、最外層は、鉄をほとんど含まない、すなわち、ごく少量の、例えば不純物しか許容されない(0原子%~1原子%)。この量は、考えられるすべての酸化状態を含むすべての形の鉄を指す。工程(i)において、最外層が、前記最外層内の原子の総数を基準として、0原子%~0.7原子%、好ましくは0原子%~0.5原子%、より好ましくは0原子%~0.3原子%、さらにより好ましくは0原子%~0.2原子%、最も好ましくは0原子%~0.1原子%、さらに最も好ましくは0原子%~0.05原子%の総量で鉄を含む、本発明の方法が好ましい。非常に最も好ましくは、鉄は、検出されない。これは、好ましくは、鉄含有化合物および鉄イオンが、それぞれ、水性の酸性堆積組成物に含まれないことを意味する。しかしながら、不純物としての鉄および鉄含有化合物/イオンは、それぞれ、最外層および水性の酸性堆積組成物にそれぞれ含まれる可能性がある。これらの量は、意図せずに追加されかつ/または避けることができない。
【0043】
工程(i)において、最外クロム合金層が、最外クロム合金層内の原子の総数を基準として、少なくとも72原子%、好ましくは少なくとも76.5原子%、より好ましくは少なくとも79.5原子%、さらにより好ましくは少なくとも82原子%の総量でクロムを含む、本発明の方法が好ましい。
【0044】
工程(i)において、最外クロム合金層が、最外クロム合金層内の原子の総数を基準として、95原子%以上、好ましくは97原子%以上、より好ましくは98原子%以上、さらにより好ましくは99原子%以上、最も好ましくは99.8原子%以上の総量でクロム、酸素、炭素、および硫黄を含む、本発明の方法が好ましい。好ましくは、最外層は、実質的にクロム、酸素、炭素および硫黄からなる。
【0045】
場合により、工程(i)において、最外クロム合金層が、実質的にリンを含まない、好ましくはリンを含まない、本発明の方法が好ましい。
【0046】
本発明の方法では、最外層は、輝く層である。既に上述したように、本発明の方法では、典型的には輝く層は、酸性雨により引き起こされる腐食に対して大幅に向上した耐性を示す。したがって、CIELAB色空間に基づく明度L*は、79以上である。工程(i)において、前記最外層が、明度L*が80以上、好ましくは81以上、より好ましくは82以上であるCIELABによって規定される色空間を有する、本発明の方法が好ましい。比較のため、六価クロムから得られる最外層は、典型的には84~85の範囲のL*値を有し、通常、非常にぴかぴか光り、光沢があると見なされる。概して、L*値0(ゼロ)は、黒に相当し、L*値100は、白に相当する。
【0047】
本発明の文脈では、CIELAB色空間(国際照明委員会によって指定される)は、パラメータL*、a*、およびb*によって決定され、ここでL*は、0~+100の範囲である。
【0048】
工程(i)において、前記最外層は、CIELABによって規定される色空間を有し、カラーチャネルa*およびb*は、独立して、-5.0~+5.0の範囲である、本発明の方法が好ましい。この範囲内では、最外層の外観は、ほとんど灰色/灰色がかっており、クロムの色合いがある。
【0049】
工程(i)において、前記最外層が、-2.0~+2.0、好ましくは-1.0~+1.0、より好ましくは-0.9~+0.1、さらにより好ましくは-0.9~-0.1の範囲のカラーチャネルa*を有するCIELABによって規定される色空間を有する、本発明の方法がより好ましい。カラーチャネルa*は、それぞれ、赤(正の値)および緑(負の値)の部分を表す。
【0050】
工程(i)において、前記最外層が、-4.0~+4.0、好ましくは、-2.0~+3.0、より好ましくは-0.5~+2.0、さらにより好ましくは-0.25~+1.0の範囲のカラーチャネルb*を有するCIELABによって規定される色空間を有する、本発明の方法がより好ましい。カラーチャネルb*は、それぞれ、黄色(正の値)および青(負の値)の部分を表す。わずかに正のカラーチャネルb*から得られるわずかに黄色がかった色相と比較して、わずかに青みがかった色相が好ましいため、カラーチャネルb*は負であることが好ましい。
【0051】
「最外クロム合金層」は、工程(i)において、追加の金属または金属合金層が、前記最外層上に堆積されないか、存在しないことを意味する。好ましくは、工程(i)において、不動態化層(有機および/または無機)は、前記最外層上に存在しない。しかしながら、これは、本発明の文脈では、工程(iii)の前の洗浄工程を除外しない。さらに、場合により、最外クロム合金層の前処理(例えば、浸漬工程)を、工程(iii)の前に実施する、本発明の方法が好ましい。工程(iii)の前に、追加の工程
(ii-a)工程(i)の後に得られた基材を、
- 三価クロムイオン、
- リン酸イオン、
- 1種以上の有機酸残基アニオン、
を含む水性浸漬処理溶液中に浸漬する工程
を含み、
ここで、浸漬の間、電流を加えない、本発明の方法が好ましい。
【0052】
水性浸漬処理溶液(本発明の文脈では、単に浸漬溶液とも略される)は、好ましくは1~3、好ましくは1~1.5の範囲のpHを有し、水溶性三価リン酸クロムおよびリン酸を含む。三価クロムイオンの総濃度は、水性浸漬処理溶液の総体積を基準として、1g/L~50g/Lの範囲、好ましくは8g/L~12g/Lの範囲である。任意選択的に、水性浸漬処理溶液は、水性浸漬処理溶液の総体積を基準として、総濃度1g/L~100g/Lの、1種以上のpH緩衝化合物、好ましくは1種以上の水溶性脂肪族有機酸、より好ましくはギ酸、酢酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルコン酸、リンゴ酸、クエン酸、およびそれらの水溶性塩、好ましくはそれらのナトリウム塩および/またはカリウム塩からなる群から選択されるものを含む。本発明の方法のいくつかの場合において、工程(i)で規定される基材は、好ましくは、工程(iii)の前に3秒~120秒間、好ましくは5秒~30秒間、このような水性浸漬処理溶液中に浸漬される。浸漬中、水性浸漬処理溶液の温度は、好ましくは20℃~50℃の範囲、より好ましくは21℃~35℃の範囲である。前処理の後、基材をDI水で完全にすすぐことが好ましい。
【0053】
好ましくは、浸漬溶液は、不動態化溶液とは異なり、特に、浸漬溶液中の三価クロムイオンの濃度は、リン酸イオンの濃度と同様に、不動態化溶液中よりも高い。さらに、浸漬溶液のpHは、好ましくは、不動態化溶液のpHよりも低い。
【0054】
特定の化学組成物に加えて、最外層は、さらに特定の物理的特性も有する。好ましくは、工程(i)の最外層には、亀裂がなく、細孔がない。「細孔がない」とは、細孔の数が、2000細孔/cm2未満、好ましくは1000細孔/cm2未満、より好ましくは500細孔/cm2未満、最も好ましくは200細孔/cm2未満であることを表す。細孔の数は、既知の試験、例えば、デュパーネル試験またはキャス試験によって決定され得る。「亀裂がない」とは、亀裂の数が、500/cm未満、好ましくは300/cm未満、より好ましくは200/cm未満であることを表す。
【0055】
水性の酸性堆積組成物:
本発明の方法の工程(i)では、最外層は、
- 三価クロムイオン、
- イソチウレイド部分を含む少なくとも1種の有機酸(好ましくはカルボン酸)および/またはその塩、および
- 堆積組成物の総重量を基準として、0重量%~0.1重量%の総量の塩化物イオン
を含む、水性の酸性堆積組成物(本テキスト全体を通じて、しばしば堆積組成物と略される)から電解堆積される。
【0056】
堆積組成物は、水性であり、これは、水が主要な溶媒、好ましくは唯一の溶媒であることを意味する。したがって、イソチウレイド部分を含む少なくとも1種の有機酸およびその塩は、好ましくは水溶性化合物のみを表す。pHは、酸性、すなわち、好ましくは6.5以下である。工程(i)において、堆積組成物が、2.0~4.0の範囲、好ましくは2.8~3.8の範囲、最も好ましくは3.2~3.6の範囲のpHを有する、本発明の方法がより好ましい。pHは、55℃を基準としている。
【0057】
最外層が、2A/dm2~15A/dm2の範囲、好ましくは3A/dm2~7A/dm2の範囲のカソード電流密度で電解堆積される、本発明の方法が好ましい。しかしながら、それぞれの場合において、最外層を得るために利用されるカソード電流密度は、好ましくは、不動態化層を得るために工程(iii)で利用されるカソード電流密度よりも高い。電流密度が15A/dm2を大幅に超える場合、望ましくない六価クロムが形成され、場合によりアノードが損傷する。電流密度が2A/dm2を大幅に下回る場合、最外層は、不完全に堆積される。
【0058】
最外層を電解堆積させるには、少なくとも1つのアノードが必要であり、好ましくは少なくとも1つの不活性アノード、より好ましくはグラファイトアノード、白金化チタンアノード、白金アノード、白金被覆チタンアノード、および酸化イリジウム被覆チタンアノードからなる群から選択される少なくとも1つのアノード、最も好ましくは、白金化チタンアノード、白金被覆チタンアノード、および酸化イリジウム被覆チタンアノードからなる群から選択される少なくとも1つのアノードが必要である。
【0059】
最外クロム合金層は、好ましくは40℃~65℃の範囲の温度を有する、(本テキスト全体を通して記載されるように)水性の酸性堆積組成物から電解堆積される。電解堆積は、好ましくは1分~15分、より好ましくは2分~12分行われる。
【0060】
堆積組成物中の三価クロムイオンは、好ましくは、少なくとも1種の三価クロム塩由来である。三価クロム塩に関しては、塩化物含有三価クロム塩が回避されない限り、特別な制限はない。好ましい三価クロム塩は、硫酸クロム(塩基性および/または酸性)、ギ酸クロム、および酢酸クロムからなる群から選択される。
【0061】
堆積組成物中の三価クロムイオンが、堆積組成物の総体積を基準として4g/L~25g/Lの範囲、より好ましくは5g/L~15g/Lの範囲、最も好ましくは6g/L~12g/Lの範囲の総濃度で存在する、本発明の方法が好ましい。上記の総濃度は、クロムの場合、52g/モルの分子量を基準とする。
【0062】
本発明の方法では、堆積組成物は、イソチウレイド部分を含む少なくとも1種の有機酸および/またはその塩を含む(「イソチウレイド」は、「イソチオウレイド」と同義に交換可能であり、本発明の文脈では同じ意味を有する)。本発明の文脈では、イソチウレイド部分は、次のように:その塩を含めて(NR1R2)C(=NR3)S-で表され、ここで、
R1は、水素またはアルキル、好ましくは水素またはC1~C4アルキル、より好ましくは水素、メチル、エチル、イソプロピル、n-プロピル、n-ブチル、またはtert-ブチルを表し、
R2は、水素またはアルキル、好ましくは水素またはC1~C4アルキル、より好ましくは水素、メチル、エチル、イソプロピル、n-プロピル、n-ブチル、またはtert-ブチルを表し、かつ
R3は、水素またはアルキル、好ましくは水素またはC1~C4アルキル、より好ましくは水素、メチル、エチル、イソプロピル、n-プロピル、n-ブチル、またはtert-ブチルを表す。
【0063】
好ましくは、R1、R2、およびR3のうち少なくとも1つは水素であるか、またはR1およびR2のうち少なくとも1つは水素である。より好ましくは、R1、R2、およびR3のすべてが水素である。後者の状態は、次のイソチウレイド部分:(NH2)C(=NH)S-によって表され、これが最も好ましい。この部分では、硫黄原子Sに一端が接続されている「-」は、残りの有機酸への共有結合を表す。
【0064】
好ましくは、イソチウレイド部分は、末端部分である。
【0065】
堆積組成物において、イソチウレイド部分を含む少なくとも1種の有機酸およびその塩は、好ましくは、A-(CH2)n-Bの少なくとも1種の化合物、および/またはその塩によって表され、ここで、
Aは、イソチウレイド部分、好ましくは上記で好ましいものとして記載されているイソチウレイド部分を表し、
Bは、COOHおよびS(=O)2-OHから独立して選択され、好ましくはCOOHであり、かつ
nは、1~10、好ましくは1~8、より好ましくは1~6、最も好ましくは2~4の範囲の整数である。「その塩」は、例えば、プロトンがアルカリカチオンによって置き換えられた、脱プロトン化されたカルボン酸基を含む。
【0066】
好ましくは、イソチウレイド部分を含む少なくとも1種の有機酸およびその塩は、好ましくはイソチウレイド部分を含む少なくとも1種のカルボン酸および/またはその塩を含み、より好ましくはイソチウレイド部分を含むカルボン酸および/またはその塩のみを含む。したがって、それぞれの方法が好ましい。工程(i)の水性の酸性堆積組成物において、イソチウレイド部分を含む少なくとも1種の有機酸およびその塩が、イソチウレイド部分を含む少なくとも1種のモノカルボン酸および/またはその塩を含み、好ましくは、末端イソチウレイド部分を含む少なくとも1種のモノカルボン酸および/またはその塩を含む、本発明の方法がより好ましい。好ましくは、上記少なくとも1種のカルボン酸のうち少なくとも1種は、好ましくは上記で規定したように、合計で3~12個の炭素原子、より好ましくは3~10個の炭素原子、さらにより好ましくは3~8個の炭素原子、最も好ましくは3~6個の炭素原子を含む。さらにより好ましくは、上記少なくとも1種のカルボン酸の各々は、好ましくは上記で規定したように、合計で3~12個の炭素原子、より好ましくは3~10個の炭素原子、さらにより好ましくは3~8個の炭素原子、最も好ましくは3~6個の炭素原子を含む。
【0067】
堆積組成物は、イソチウレイド部分を含む少なくとも1種の有機酸(好ましくは上記のように、好ましくは好ましいと記載されている)および/またはその塩を含む。その塩は、例えば脱プロトン化されたカルボン酸基、脱プロトン化されたスルホン酸基、および/またはプロトン化されたイソチウレイド部分を含む、あらゆるイオン形態を含む。
【0068】
工程(i)の水性の酸性堆積組成物において、イソチウレイド部分を含む少なくとも1種の有機酸およびその塩が、化合物(NH2)C(=NH)S-(CH2)m-COOHおよび/またはその塩を含み、ここで、mが1~10、好ましくは1~5、より好ましくは2~4の範囲の整数である、本発明の方法が好ましい。
【0069】
工程(i)の水性の酸性堆積組成物において、イソチウレイド部分を含む少なくとも1種の有機酸およびその塩が、化合物(NH2)C(=NH)S-(CH2)3-COOHおよび/またはその塩を含み、好ましくは化合物(NH2)C(=NH)S-(CH2)3-COOHおよび/またはその塩である、本発明の方法がより好ましい。前述の特定の化合物は、β-イソチウレイドプロピオン酸(CAS5398-29-8)として知られている。この化合物およびその塩は、チオ尿素および/またはチオ硫酸塩などの代替化合物(典型的には、変動する不調和な堆積速度をもたらす)と比較して、非常に均一でかつ一定の堆積速度が得られるため、最も好ましい。さらに、イソチウレイド部分を含む化合物により、優れた輝度および安定した均一な外観が得られる。概して、イソチウレイド部分を含む化合物は、(i)チオ尿素およびチオ硫酸塩と比較して、それぞれ、堆積組成物においてより長い寿命をもたらし、かつ(ii)それらの作業濃度の変動に対する感度が低く、かつ不純物に対する感度が低い。チオ尿素およびチオ硫酸塩の非常に狭い最適作業濃度から外れると、すぐにそれぞれの最外層の望ましくない変色が発生する。
【0070】
水性の酸性堆積組成物中に、イソチウレイド部分を含む少なくとも1種の有機酸およびその塩が、堆積組成物の総重量を基準として1ppm~500ppmの範囲、好ましくは2ppm~250ppmの範囲、より好ましくは3ppm~120ppmの範囲、さらにより好ましくは4ppm~60ppmの範囲の総量で存在する、本発明の方法が好ましい。前述の総量には、イソチウレイド部分を含むすべての有機酸およびその塩が含まれる。しかしながら、総量を決定する場合、塩は、非荷電/中性の形で考慮される(すなわち、酸性基は、プロトン化されており、イソチウレイド部分は、プロトン化されていない;これは、例えば、アルカリ金属カチオンが、考慮されていないことも意味する)。総濃度が1ppm未満である場合、必要な輝度が得られず、酸性雨により引き起こされる腐食の抑制は不十分である。総濃度が500ppmを大幅に超えている場合、望ましくない外観および暗い色が認められる。好ましくは、イソチウレイド部分を含むすべての有機酸およびその塩は、好ましくは総量で、かつ上述のように計算して、イソチウレイド部分を含むカルボン酸および/またはその塩である。
【0071】
工程(i)において、水性の酸性堆積組成物が、チオ尿素およびチオ硫酸塩を実質的に含まない、好ましくは含まない、本発明の方法が好ましい。本発明の文脈では、対象(例えば、化合物、材料など)の「実質的に含まない」という用語は、上記の対象が、全く存在しないか、または本発明の意図された目的に影響を与えることなく、非常に少量かつ邪魔にならない量(程度)しか存在しないことを表す。例えば、このような対象は、例えば不可避の不純物として、意図せずに添加または利用される可能性がある。「実質的に含まない」は、好ましくは、堆積組成物の総重量を基準として(上記組成物について規定されている場合)、または不動態化溶液の総重量を基準として(上記溶液について規定されている場合)、0(ゼロ)ppm~50ppm、好ましくは0ppm~25ppm、より好ましくは0ppm~10ppm、さらにより好ましくは0ppm~5ppm、最も好ましくは0ppm~1ppmを表す。ゼロppmは、それぞれの対象が含まれていないことを表し、これが最も好ましい。特に、工程(i)において、水性の酸性堆積組成物が、堆積組成物の総重量を基準として、0ppm~1ppm、好ましくは0ppm~0.5ppm、より好ましくは0ppm~0.1ppm、最も好ましくは0ppmの総量でチオ尿素を含む、本発明の方法が好ましい。
【0072】
堆積組成物がアンモニウムイオンを含まないか、またはごくわずかしか含まない、本発明の方法が好ましい。アンモニウムイオンは、典型的には、塩化物イオンを含む堆積組成物に含まれる。アンモニウムイオンは、このような組成物において安定化効果を有し、堆積プロセス中の高電流密度の燃焼を回避すると想定されている。しかしながら、アンモニウムイオンは、本発明の方法で利用される堆積組成物では望ましくない。それらは望ましくない方法で堆積速度を低下させると想定されている。さらに、アンモニウムイオンは、典型的には、廃水処理で深刻な問題を引き起こす。したがって、工程(i)において、水性の酸性堆積組成物が、堆積組成物の総重量を基準として、0重量%~0.1重量%、好ましくは0重量%~0.05重量%、より好ましくは0重量%~0.03重量%、さらにより好ましくは0重量%~0.01重量%、最も好ましくは0重量%~0.005重量%の範囲の総量でアンモニウムイオンを含む、本発明の方法が好ましい。
【0073】
工程(i)において、水性の酸性堆積組成物が、チオ尿素、チオ硫酸塩、およびアンモニウムイオンからなる群から選択される1種、2種以上、またはすべての化合物を含まない、本発明の方法が最も好ましい。
【0074】
本発明の方法では、水性の酸性堆積組成物は、堆積組成物の総重量を基準として、0重量%~0.1重量%の総量で塩化物イオンを含む。これは、塩化物イオンの存在が望ましくないことを意味する。工程(i)において、水性の酸性堆積組成物が、堆積組成物の総重量を基準として、0重量%~0.05重量%、好ましくは0重量%~0.03重量%、より好ましくは0重量%~0.01重量%、最も好ましくは0重量%~0.005重量%の総量で塩化物イオンを含む、本発明の方法が好ましい。上述のように、塩化物イオンは、典型的には、「暗い」最外クロム層の堆積組成物に含まれている。塩化物イオンの総量が0.1重量%を大幅に超えている場合、酸性雨により引き起こされる腐食に対する耐性が不十分となる。
【0075】
水性の酸性堆積組成物が、フッ化物イオンを実質的に含まない、好ましくは含まない、本発明の方法がより好ましい。水性の酸性堆積組成物が、フッ素を含む化合物を実質的に含まない、好ましくは含まない、本発明の方法がさらにより好ましい。
【0076】
水性の酸性堆積組成物が、臭化物イオンを実質的に含まない、好ましくは含まない、本発明の方法がより好ましい。
【0077】
水性の酸性堆積組成物が、ヨウ化物イオンを実質的に含まない、好ましくは含まない、本発明の方法がより好ましい。多くの場合、前述のハロゲン化物は、酸性雨により引き起こされる腐食に対する耐性に悪影響を及ぼす。
【0078】
水性の酸性堆積組成物が、好ましくは、堆積組成物の総体積を基準として、1g/L~10g/Lの範囲の総濃度でサッカリンを含む、本発明の方法が好ましい。独自の実験により、サッカリンが、最外層の輝度および均一性に良い影響を与える(すなわち、増加させる)ことが示されている。
【0079】
上述のように、最外層では、鉄の存在は基本的に望ましくない。したがって、水性の酸性堆積組成物が、鉄イオンを実質的に含まない、好ましくは含まない、本発明の方法が好ましい。これには、すべての酸化数の鉄イオンが含まれる。典型的には、鉄イオンは、最外層の顕著な暗色化に寄与し、これは、本発明の文脈では望ましくない。
【0080】
水性の酸性堆積組成物が、六価クロムを含む化合物またはイオンを実質的に含まない、好ましくは含まない、本発明の方法が好ましい。したがって、環境問題および健康問題が、大幅に軽減される。
【0081】
水性の酸性堆積組成物が、コバルトイオンおよびニッケルイオンを実質的に含まない、好ましくは含まない、本発明の方法が好ましい。独自の実験により、このようなイオンが最外層の輝度に悪影響を与える(すなわち、低下させる)ことが示されている。したがって、最外層は、好ましくはニッケルおよび/またはコバルトを実質的に含まず、好ましくはニッケルおよび/またはコバルトを含まない。
【0082】
水性の酸性堆積組成物が、以下のうち1種、2種、3種またはすべて:
- 三価クロムイオン用の少なくとも1種の(好ましくは1種の)錯化剤、好ましくはカルボン酸およびその塩、ならびにアミノ酸およびその塩からなる群から選択され;それぞれがイソチウレイド部分を含まない、錯化剤、
- 少なくとも1種の(好ましくは1種の)pH緩衝化合物、
- 塩化物イオンを含まない少なくとも1種の(好ましくは1種の)導電性塩、好ましくはナトリウム塩および/またはカリウム塩、および
- 少なくとも1種の(好ましくは1種の)界面活性剤、好ましくはカチオン性界面活性剤およびアニオン性界面活性剤からなる群から選択される、界面活性剤
をさらに含む、本発明の方法が好ましい。
【0083】
堆積組成物が、好ましくは、それぞれがイソチウレイド部分を含まない、カルボン酸およびその塩、ならびにアミノ酸およびその塩からなる群から選択される、三価クロムイオン用の前記少なくとも1種の(好ましくは1種の)錯化剤を含む、本発明の方法が非常に好ましい。典型的には、錯化剤、特にカルボン酸は、最外クロム合金層内の炭素および酸素の含有量に大きく寄与する。
【0084】
三価クロムイオン用の錯化剤として好ましいカルボン酸およびその塩は、ギ酸、酢酸、クエン酸、リンゴ酸、およびそれらの塩からなる群から選択される。
【0085】
三価クロムイオン用のすべての錯化剤(すなわち、イソチウレイド部分を含むすべての有機酸およびその塩を除く)は、好ましくは、堆積組成物の総体積を基準として、5g/L~35g/L、より好ましくは6g/L~25g/L、最も好ましくは7g/L~20g/Lの範囲の総濃度で存在する。好ましくは、これらの錯化剤の総濃度は、イソチウレイド部分を含む有機酸およびその塩の総量よりも有意に高い。本発明の文脈では、イソチウレイド部分を含む有機酸およびその塩の総量は、典型的には、三価クロムイオンの総量を有意に錯化するには不十分である。
【0086】
好ましいpH緩衝化合物は、ホウ酸およびその塩、カルボン酸およびその塩、アミノ酸およびその塩、ならびに硫酸アルミニウムからなる群から選択される。多くの場合、同じ化合物が三価クロムイオンの錯化剤およびpH緩衝剤として機能することが好ましい。ホウ酸およびその塩がpH緩衝化合物として使用される場合、それらの総濃度は、好ましくは、堆積組成物の総体積を基準として、好ましくは40g/L~80g/Lの範囲である。
【0087】
好ましい導電性塩は、硫酸イオンを含む。
【0088】
好ましい界面活性剤は、スルホコハク酸塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキル硫酸塩、アルキルエーテル硫酸塩、および脂肪アルコールからなる群から選択される。好ましくは、すべての界面活性剤の総濃度は、堆積組成物の総体積を基準として、0.001g/L~0.1g/Lの範囲である。
【0089】
水性の酸性不動態化溶液:
本発明の方法の工程(ii)では、水性の酸性不動態化溶液(本テキスト全体を通じて、しばしば不動態化溶液と略される)が提供される。「提供する」という用語は、本発明の方法の工程(iii)で利用する準備ができている水性の酸性不動態化溶液を指す。
【0090】
不動態化溶液では、水は主要な溶媒であり、好ましくは唯一の溶媒である。
【0091】
本発明の方法では、水性の酸性不動態化溶液中の三価クロムイオンは、六価クロムを化学的に還元することによって、または少なくとも1種の三価クロム塩を溶解することによって得られる。場合により、このような不動態化溶液が、酸性雨により引き起こされる腐食に対して非常に向上した耐性をもたらすため、少なくとも1種の三価クロム塩、好ましくは少なくとも1種の水溶性三価クロム塩を溶解することによって三価クロムイオンが得られることが好ましい。どの塩を利用できるかに関して特別な制限はない。しかしながら、好ましい水溶性三価クロム塩は、硫酸クロム(塩基性および/または酸性)、塩化クロム、ギ酸クロム、および酢酸クロムからなる群から選択される。しかしながら、他の場合には、酸性雨により引き起こされる腐食に対して向上した耐性に加えて、優れた耐食性が、中性塩水噴霧試験(NSST)において認められるため、六価クロムを化学的に還元することによって三価クロムイオンを得ることが好ましい。
【0092】
水性の酸性不動態化溶液のpHが、3.0~5.0、好ましくは3.1~4.0、より好ましくは3.3~3.9の範囲である、本発明の方法が好ましい。pHは、20℃を基準としている。pHが5.0を大幅に上回る場合、望ましくない沈殿が、不動態化溶液に認められる。pHが3.0を大幅に下回る場合、酸性雨により引き起こされる腐食に対する不十分な耐性が得られる。好ましくは、上記のpH範囲は、それぞれ、水酸化物、好ましくは水酸化ナトリウム、およびリン酸を添加することによって得られ、かつ/または維持される。
【0093】
水性の酸性不動態化溶液中の三価クロムイオンの総濃度が、水性の酸性不動態化溶液の総体積を基準として、0.1g/L~50g/L、好ましくは1g/L~25g/L、より好ましくは1g/L~10g/L、さらにより好ましくは1g/L~7g/L、最も好ましくは2g/L~7g/Lの範囲である、本発明の方法が好ましい。上記の総濃度は、クロムの場合、52g/モルの分子量を基準とする。三価クロムイオンの総濃度が0.1g/Lを大幅に下回る場合、不動態化効果は認められない。総濃度が50g/Lを大幅に上回る場合、しみやにじみなどの最外層の光学的外観の望ましくない変化がしばしば認められる。さらに、50g/Lを上回ると、不動態化プロセスは、通常、もはや費用対効果が高くない。
【0094】
水性の酸性不動態化溶液中のリン酸イオンの総濃度が、不動態化溶液の総体積を基準として、1g/L~90g/L、好ましくは2g/L~50g/L、より好ましくは5g/L~40g/L、最も好ましくは8g/L~30g/Lの範囲である、本発明の方法が好ましい。上記の総濃度は、リン酸イオン(PO4
3-)の場合、95g/モルの分子量を基準とする。本発明の方法で利用される水性の酸性不動態化溶液では、リン酸イオンは、好ましくは三価クロムイオンと錯体を形成するか、または水性の酸性不動態化溶液の酸性pHに従って少なくともプロトン化される(例えば、pH3.5でH2PO4
-)。
【0095】
工程(ii)では、水性の酸性不動態化溶液は、最も好ましくは錯化の目的で、1つ以上、好ましくはただ1つの有機酸残基アニオンを含む。水性の酸性不動態化溶液では、溶液のpH、それぞれの有機酸の酸解離定数、および前記有機酸残基アニオンを含む錯体に応じて、1種以上の有機酸残基アニオンが、プロトン化される(すなわち、それぞれの有機酸として存在する)か、または脱プロトン化される(すなわち、それぞれの有機酸残基アニオンとして存在する)。有機酸残基アニオンが2つ以上のカルボン酸基を有する有機酸残基アニオンである場合、アニオンは、それぞれ、部分的にプロトン化/脱プロトン化され得る。
【0096】
水性の酸性不動態化溶液中の1種以上の有機酸残基アニオンが、
- 1つのカルボン酸部分を有する有機酸残基アニオン、2つのカルボン酸部分を有する有機酸残基アニオン、および3つのカルボン酸部分を有する有機酸残基アニオンからなる群から選択され、
- 好ましくは、2つのカルボン酸部分を有する有機酸残基アニオンからなる群から選択され、
- より好ましくは、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、リンゴ酸、および酒石酸からなる群から選択される有機酸由来のアニオンであり、
- 最も好ましくはシュウ酸アニオン
である、本発明の方法が好ましい。
【0097】
工程(ii)の水性の酸性不動態化溶液中の1種以上の有機酸残基アニオンが、2つのカルボン酸部分を有する少なくとも1種の有機酸残基アニオンを含み、好ましくは合計で2~8個の炭素原子および2つのカルボン酸部分を有する少なくとも1種の有機酸残基アニオン、より好ましくは合計で2~6個の炭素原子および2つのカルボン酸部分を有する少なくとも1種の有機酸残基アニオン、最も好ましくは合計で2~4個の炭素原子および2つのカルボン酸部分を有する少なくとも1種の有機酸残基アニオンを含む、本発明の方法が最も好ましい。
【0098】
水性の酸性不動態化溶液中の1種以上の有機酸残基アニオンの総濃度が、水性の酸性不動態化溶液の総体積を基準として、1g/L~30g/L、好ましくは2g/L~14g/L、より好ましくは6g/L~12g/Lの範囲である、本発明の方法が好ましい。総濃度は、対応する有機酸の完全にプロトン化された非錯化モノマー型に基づいて決定される。総量が1g/Lを大幅に下回る場合、十分な不動態化効果は認められない。総量が30g/Lを大幅に超える場合、しみやにじみなどの最外層の光学的外観の望ましくない変化だけでなく、不十分な不動態化効果も認められることがある。
【0099】
工程(ii)において、水性の酸性不動態化溶液が、六価クロム化合物を実質的に含まない、好ましくは含まない、好ましくは六価クロム化合物およびアルミニウム化合物を実質的に含まない、好ましくは含まない、より好ましくは六価クロム化合物、アルミニウム化合物、モリブデン化合物、バナジウム化合物、および水銀化合物を実質的に含まない、好ましくは含まない、本発明の方法が好ましい。独自の実験によれば、アルミニウム化合物、モリブデン化合物、バナジウム化合物、および水銀化合物が、不動態化溶液中の六価クロムの測定および分析方法に悪影響を与え得ると想定されている。場合により、不動態化溶液は、好ましくは、モリブデン、タングステン、および元素の周期系の第7族(例えば、マンガン)~第12族(例えば、亜鉛)の元素のイオンを実質的に含まない、好ましくは含まない。不動態化溶液が、銅イオン、亜鉛イオン、ニッケルイオン、および鉄イオンを実質的に含まない、好ましくは含まないことがより好ましい。六価クロムは、好ましくは一般に知られているジフェニルカルバジド法によって測定され、かつ分析される(その定量を含む)。
【0100】
水性の酸性不動態化溶液が、ホウ酸を実質的に含まない、好ましくは含まない、好ましくはホウ素含有化合物を実質的に含まない、好ましくは含まない、本発明の方法が好ましい。
【0101】
水性の酸性不動態化溶液が、チオシアン酸塩を実質的に含まない、好ましくは含まない、好ましくは酸化状態が+6を下回る硫黄原子を含む硫黄含有化合物を実質的に含まない、好ましくは含まない、本発明の方法が好ましい。しかしながら、これは、例えば、不動態化溶液が、例えば、導電性塩のアニオンとして、硫酸イオン(+6の酸化状態)を含み得ることを意味する(以下のテキストを参照のこと)。
【0102】
水性の酸性不動態化溶液が、1種以上の導電性塩を含む、本発明の方法が好ましい。好ましくは、不動態化溶液の導電率は、25℃で測定して、1mS/cm~30mS/cmの範囲である。1種以上の導電性塩は、好ましくは、硫酸塩含有塩、硝酸塩含有塩、および過塩素酸塩含有塩からなる群から選択される。最も好ましくは、1種以上の導電性塩のカチオンは、ナトリウムである。したがって、最も好ましくは、1種以上の導電性塩は、硫酸ナトリウム、硝酸ナトリウム、および過塩素酸ナトリウムからなる群から選択される。場合により、カチオンが、カリウム、アンモニウム、およびマグネシウムからなる群から選択されず、より好ましくは、カリウム、アンモニウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、およびバリウムからなる群から選択されず、最も好ましくは、カリウム、アンモニウム、およびアルカリ土類金属からなる群から選択されない、本発明の方法が好ましい。これは、本発明の方法における不動態化溶液が、好ましくは、カリウム、アンモニウム、およびマグネシウムからなる群から選択されるカチオンを含まず、より好ましくは、カリウム、アンモニウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、およびバリウムからなる群から選択されるカチオンを含まず、最も好ましくは、カリウム、アンモニウム、およびアルカリ土類金属からなる群から選択されるカチオンを含まないことを意味する。工程(iii)では、不動態化溶液の電圧作動ウィンドウを比較的低く維持することができ、したがって、比較的小さい電圧作動ウィンドウを有する整流器を利用することができ、これは費用対効果が高いので、上記の導電率が好ましい。好ましくは、不動態化溶液中の導電性塩の総濃度は、不動態化溶液の総体積を基準として、0g/L~30g/Lの範囲、より好ましくは1g/L~28g/Lの範囲である。
【0103】
独自の実験によれば、カリウムカチオンおよびアルカリ土類金属イオンが、多くの場合に、それぞれの不動態化溶液に望ましくない沈殿を引き起こした。それぞれの不動態化溶液でアンモニウムカチオンを使用した実験では、工程(iii)の後に、場合により、最外層の光学的外観が悪影響を受け、しみまたはにじみが発生することが認められることがあった。
【0104】
本発明の方法の工程(iii)において、(カソードとして動作する)基材は、(好ましくは、基材を不動態化溶液中に浸漬することにより)不動態化溶液と接触し、電流が、基材とアノードとの間に流れ(アノードはまた、典型的には不動態化溶液中に浸漬される)、その結果、不動態化層が、最外層上に堆積される。
【0105】
工程(iii)において、アノードが、混合金属酸化物被覆アノード、グラファイトアノード、および鋼アノードからなる群から選択される、最も好ましくは混合金属酸化物被覆アノードである、本発明の方法が好ましい。特に、混合金属酸化物被覆アノードなどの不溶性アノードが好ましい。独自の実験によれば、本発明の方法において、混合金属酸化物被覆アノードについて、三価クロムから望ましくない六価クロムへの陽極酸化の速度が比較的低いことが示された。好ましくは、本発明の方法は、水性の酸性不動態化溶液中の六価クロムの総量が(工程(iii)で陽極形成されたとしても)、本発明の方法が実施される間、検出レベル未満に留まるように実施される(六価クロムの検出については、上記テキストを参照のこと)。これは、前記混合金属酸化物被覆アノードを使用することによって達成され得る。好ましい混合金属酸化物被覆アノードは、酸化チタン、酸化イリジウム、酸化ルテニウム、および酸化白金からなる群から選択される1種以上の酸化物を含む。
【0106】
工程(iii)における電流は、好ましくは直流であり、より好ましくはパルスを含まない。しかしながら、この電流ならびに不動態化溶液中の三価クロムイオンの総濃度は、工程(iii)において金属クロムを最外層上に堆積させるのに十分ではない。これは、不動態化層が追加の金属クロム層ではなく、三価クロムを含む化合物の層であることを意味する。
【0107】
工程(iii)において、電流が、0.1~5A/dm2、好ましくは0.1~4A/dm2、より好ましくは0.2~3A/dm2、最も好ましくは0.3~2A/dm2の範囲のカソード電流密度で流される、本発明の方法が好ましい。電流密度が、0.1A/dm2を大幅に下回る場合、十分な不動態化効果が得られない。電流密度が8A/dm2を大幅に上回る場合、しみやにじみなどの最外層の光学的外観の望ましくない変化が認められることがあり、不十分な不動態化効果を伴う。
【0108】
工程(iii)において、電流が、10~300秒間、好ましくは12~240秒間、より好ましくは15~120秒間、最も好ましくは20~60秒間流れる、本発明の方法が好ましい。時間の長さが10秒を大幅に下回る場合、十分な不動態化効果が得られない。時間の長さが300秒を大幅に上回る場合、しみやにじみなどの最外層の光学的外観の望ましくない変化が、場合により認められる。
【0109】
工程(iii)において、不動態化溶液の温度が、20℃~40℃、好ましくは22℃~30℃の範囲である、本発明の方法が好ましい。温度が40℃を大幅に超える場合、しみやにじみなどの最外層の光学的外観の望ましくない変化が認められることがあり、不十分な不動態化効果を伴う。さらに、望ましくない沈殿が発生する可能性がある。
【0110】
好ましくは、工程(iii)の後に得られる不動態化層は、4nm以下、より好ましくは3nm以下、最も好ましくは2nm以下の最大層厚を有する。
【0111】
さらに、不動態化層は、透明であり、最外層の色または輝度に影響を与えない。
【0112】
本発明は、以下の非限定的な実施例によってさらに説明される。
【0113】
実施例
すべての実験例を、以下の表にまとめる。追加の説明を、以下に示す。
【表1】
No.は、それぞれの実験番号を指す。
*は、28℃でのリン酸のみとの接触を表す
【0114】
最外クロム合金層を含む基材を供給する、工程(i):
BRASSは、真鍮で作られた試験片(例えば、プレートまたはチューブ)を表し、これは、本発明の文脈では好ましい金属合金ベース基材である。各ベース基材を、最初に室温にて一連の洗浄液中で洗浄し、洗浄したベース基材を得た。洗浄後、洗浄したベース基材を、室温にて酸性溶液(UniClean 675、Atotech)中で30秒間活性化した。活性化後、活性化したベース基材(SupremePlus、Atotech)上に、輝くニッケル層を、4A/dm2で約20分間堆積させた。その後、最外クロム合金層をさらに堆積させるために、輝くニッケル層を有するベース基材を、酸性溶液(UniClean 675、Atotech)中で活性化した。したがって、最外クロム合金層は、ベース基材の表面上の2層スタックの層である。
【0115】
ABSは、本発明の文脈において好ましい有機ベース基材である、アクリルニトリルブタジエンスチロール(ABS)で作られた試験片(例えば、プレート)を表す。各ベース基材を、最初に50℃で洗浄し、洗浄したベース基材を得た。洗浄後、洗浄したベース基材を、クロム硫酸でエッチングし、その後、パラジウムで還元、活性化した。一連の工程で、無電解ニッケル、無電解銅、および電解銅の層を堆積させた。最外クロム合金層を堆積する前に、輝くニッケル層を4A/dm2で約20分間堆積させた。その後、最外クロム合金層をさらに堆積させるために、輝くニッケル層を有するベース基材を、酸性溶液(UniClean 675、Atotech)中で活性化させた。したがって、最外クロム合金層は、ベース基材の表面上の多層スタックの層である。
【0116】
堆積組成物DC1は、22g/Lの三価クロムイオン、12重量%の塩化物イオン、および80ppmの鉄イオンを含む比較例の組成物を表す。さらに、DC1は、ホウ酸、アンモニウムイオン、およびモノカルボン酸を含む。pHは、2.7~3.0の範囲である。
【0117】
堆積組成物DC2は、例えば、9g/Lの三価クロムイオン、0重量%の塩化物イオン、0重量%のアンモニウムイオン、および4ppm~60ppmの範囲の総濃度の(NH2)C(=NH)S-(CH2)3-COOHを含む、本発明による組成物を表す。さらに、DC2は、ホウ酸、サッカリン、およびジカルボン酸を含む。pHは、3.4~3.6の範囲である。
【0118】
最外層OuL1(比較例)は、明度L*が79を大幅に下回り、この特定の例では72.3~73.5の範囲であるCIELABによって規定された色空間を有する最外クロム合金層を表す。カラーチャネルa*は、ほぼゼロ、すなわち、-0.02~+0.03の範囲であり、b*は、+1.5~+1.9の範囲であった。本発明の文脈において、かかる最外層は、79以上のL*を有する輝く最外クロム合金層と比較して十分に輝くものではない。OuL1は、最外層内の原子の総数を基準として、80原子%~85原子%のクロム、4原子%~9原子%の炭素、5原子%~11.5原子%の酸素、約5原子%の鉄、および0原子%の硫黄を含む。OuL1は、堆積組成物DC1(35℃、10A/dm2、1.5分)から得られる。
【0119】
最外層OuL2(本発明による例)は、明度L*が79を大幅に上回り、この特定の例では81.0~83.4の範囲であるCIELABによって規定された色空間を有する最外クロム合金層を表す。本発明の文脈では、これは望ましい輝度である。カラーチャネルa*は、-0.6~-0.3の範囲であり、b*は、+0.7~+1.4の範囲であった。OuL2は、最外層内の原子の総数を基準として、80原子%~85原子%のクロム、6原子%~7原子%の炭素、8原子%~10.5原子%の酸素、0.6原子%~1.5原子%の硫黄、および0原子%の鉄を含む。OuL2は、堆積組成物DC2(55℃、5A/dm2、5分)から得られる。
【0120】
L*、a*、およびb*の値を、光度計、コニカミノルタ分光光度計Cm-700dを用いて測定し、パラメータは、カラーシステム:L*a*b*、モード:SCI+SCE、オブザーバー:10°、光源:D65、照明エリア11mm、測定エリア8mmであった。基準最外層内の原子の総数を基準として90原子%のクロムおよび10原子%の酸素を含む六価クロムから得られる基準最外層が、(かなりの量の他の要素を含まずに)84~85の範囲のL*値をもたらすように設定を選択した。
【0121】
基材を浸漬溶液(IS)に浸す、任意の工程(ii-a):
ISは、浸漬溶液の総体積を基準として、約10g/Lの三価クロムイオン、約83g/Lのリン酸イオン、および約1.5g/Lのリンゴ酸を含む、約1.3のpHを有する強酸性浸漬溶液を表す。適用した場合、浸漬を25℃の温度で10秒間行った。
【0122】
水性の酸性不動態化溶液(PS)を供給する、工程(ii):
PS1は、約5g/Lの三価クロムイオン、約14g/Lのリン酸イオン、および約10g/Lのシュウ酸アニオンを含む、3.5のpHを有する水性の酸性不動態化溶液を表す。PS1は、リン酸クロム(III)、シュウ酸クロム(III)、およびリン酸(不動態化溶液の総重量を基準として10重量%)を溶解することを含んでいた。
【0123】
PS2は、リン酸の存在下で過酸化水素を用いて六価クロム酸を還元し、その後シュウ酸を添加することにより三価クロムイオンが得られたことを除いて、PS1とほぼ同じ水性の酸性不動態化溶液を表す。
【0124】
基材を不動態化溶液と接触させる、工程(iii):
工程(iii)の接触を、1A/dm2の電流密度を有する電流および不溶性の混合金属酸化物被覆アノードを用いて25℃で30~60秒間行った。
【0125】
ケステルニッヒ試験の結果:
ケステルニッヒ試験を、酸性雨により引き起こされる腐食(工場大気により引き起こされる腐食と呼ばれることもある)に対する耐性を評価するために行う。これは、二酸化硫黄を含む凝縮水環境に試験片をさらす、急速腐食試験である。
【0126】
各実験(表の実験番号「No.」を参照のこと)について、2~3個の同一の試験片を準備し、3サイクルで試験し、各サイクルは、約24時間(40℃で8時間、その後、周囲条件で約16時間)続く。
【0127】
ケステルニッヒ試験を、Liebisch KB300製の装置(試験チャンバーの総体積は300リットル)で、ISO 6270-2 AHTに基づく「連続曝露」モードで行った。したがって、コントローラは、AHTモードで動作していた。二酸化硫黄の公称濃度は、二酸化硫黄2.0リットルを添加して得られた0.067体積%であった。各試験片をチャンバー内に配置し、少なくとも20mmの距離で互いに離した。試験を開始する前に、導電率が500μS/m以下の2リットルの総体積の水を装置に入れた。試験を開始し、試験開始から1.5時間以内に40℃の試験温度が得られ、さらに6.5時間一定に保ち、試験片の表面に凝縮水(亜硫酸)が生成した。上記の8時間後(1.5時間+6.5時間)、試験チャンバーをベントし、1.5時間以内に周囲温度に冷却し、この状態でさらに14.5時間維持し(このようにしてさらに16時間得た)、チャンバー内を乾燥させた。このサイクルを2回繰り返して、合計3サイクルを得た。
【0128】
光学的劣化の評価を、各サイクルの後に行い、最終評価を、第3サイクルの後に行った。最終評価の結果を表に示す。
【0129】
最終評価のために、光学的劣化を、次の2つのカテゴリーの1つに分類した:
「合格」は、ケステルニッヒ試験後の腐食および光学的劣化に対する有意な耐性を表す。最小要件は、光学的劣化がない面積が、それぞれの試験片の最外クロム合金層の総面積の少なくとも80%であることである。
「失敗」は、最外層全体のケステルニッヒ試験後に、深刻で許容できない光学的劣化が認められることを表す。これは通常、光学的劣化がない面積が、それぞれの試験片の最外クロム合金層の総面積の80%を大幅に下回ることを意味する。したがって、これは、最外クロム合金層の総面積の20%以上が、認識可能な望ましくない光学的劣化を示すことを意味する。
【0130】
光学的劣化を、少なくとも2人の熟練した専門家のパネルによってステンシルを用いた目視検査により評価した。光学的劣化には、光学的に認識可能である限り、最外層の腐食、最外層の下のベース基材または層の腐食、およびベールやにじみを含むあらゆる種類の変色が含まれる。