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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-18
(45)【発行日】2022-11-29
(54)【発明の名称】低pH挿入ペプチド及びその組成物
(51)【国際特許分類】
   C07K 14/195 20060101AFI20221121BHJP
   C12N 15/31 20060101ALI20221121BHJP
   C07K 19/00 20060101ALI20221121BHJP
   C07K 16/00 20060101ALI20221121BHJP
   A61K 47/64 20170101ALI20221121BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20221121BHJP
   A61K 49/00 20060101ALI20221121BHJP
   A61K 38/16 20060101ALI20221121BHJP
【FI】
C07K14/195 ZNA
C12N15/31
C07K19/00
C07K16/00
A61K47/64
A61K45/00
A61K49/00
A61K38/16
【請求項の数】 36
(21)【出願番号】P 2020535072
(86)(22)【出願日】2018-11-30
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-02-22
(86)【国際出願番号】 CN2018118611
(87)【国際公開番号】W WO2019120063
(87)【国際公開日】2019-06-27
【審査請求日】2020-08-24
(31)【優先権主張番号】201711377076.6
(32)【優先日】2017-12-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(31)【優先権主張番号】201711464764.6
(32)【優先日】2017-12-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】520217733
【氏名又は名称】ベイジン ツェチン バイオメディカル カンパニー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【弁理士】
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】ウェイ,ファーウェイ
(72)【発明者】
【氏名】ヤン,チェンガン
【審査官】福澤 洋光
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2012/047354(WO,A2)
【文献】国際公開第2017/075533(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2015/0086617(US,A1)
【文献】Weerakkody, D. et.al.,Family of pH (low) insertion peptides for tumor targeting,PNAS,2013年,vol.110, no.15,pp5834-5839
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 1/00-15/90
C07K 1/00-19/00
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
UniProt/GeneSeq
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列が配列番号1である低pH挿入ペプチド又はその変異体の細胞外ドメインを2回以上繰り返して得られる配列をN末端に含有し、前記配列が配列番号1である低pH挿入ペプチドの変異体が、配列番号2~配列番号17で示す配列のポリペプチドを含むことを特徴とする改良型低pH挿入ペプチド。
【請求項2】
N末端からC末端までの配列が、(細胞外ドメイン)n+リンカー+前記配列が配列番号1である低pH挿入ペプチド又はその変異体であり、式中、n=1、2、3、4・・・・・・・・・・・である、請求項1に記載の改良型低pH挿入ペプチド。
【請求項3】
前記リンカーの配列が(GGGS)m(式中、m=1、2、3、4・・・・・・・・・・・・)である、請求項2に記載の改良型低pH挿入ペプチド。
【請求項4】
前記リンカーの配列がGGGSである、請求項3に記載の改良型低pH挿入ペプチド。
【請求項5】
配列が、配列番号18に示す通りであることを特徴とする請求項1~4のいずれか一項に記載の改良型低pH挿入ペプチド。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか一項に記載の改良型低pH挿入ペプチドを含むことを特徴とする組成物。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか一項に記載の配列が配列番号1である低pH挿入ペプチド若しくはその変異体と、マーカー分子とを含む、組成物。
【請求項8】
治療剤、診断剤、マーカー分子を含む機能体を含み、前記機能体は、前記改良型低pH挿入ペプチドのN末端と連結するか、若しくはC末端と連結し、又は前記配列が配列番号1である低pH挿入ペプチド若しくはその変異体のN末端と連結するか、若しくはC末端と連結することを特徴とする請求項7に記載の組成物。
【請求項9】
前記治療剤が、抗体医薬品、低分子医薬品、抗生物質、ポリペプチド、ペプチド核酸、ナノ粒子、又はリポソームを含み、前記ポリペプチドが、毒素、環状ペプチド、微小管阻害薬、プロテアーゼ活性化受容体を含み、前記ペプチド核酸が、アンチセンスオリゴポリヌクレオチドペプチドを含むことを特徴とする請求項8に記載の組成物。
【請求項10】
前記診断剤が、蛍光染料を含むことを特徴とする請求項8に記載の組成物。
【請求項11】
前記マーカー分子が、腫瘍表面抗原又はその機能ドメインを含み、前記腫瘍表面抗原の機能ドメインは、前記腫瘍表面抗原の抗体を識別し結合するドメインであり、前記腫瘍表面抗原が、ER、PR、P53、EGFR、IGFR、Her2、CD20、CD25、CD117、CD34、CD138、CD33、VEGFR、BCMA、Mesothelin、CEA、PSCA、MUC1、EpCAM、S100、CD22、CD19、CD70、CD30、ALK、RANK、GPC2、GPC3、Her3、EGFRvIII、GD2、PD-L1、PD-L2を含むことを特徴とする請求項8に記載の組成物。
【請求項12】
前記マーカー分子は、リンカーによって前記改良型低pH挿入ペプチドのN末端と連結するか、又は前記配列が配列番号1である低pH挿入ペプチド若しくはその変異体のN末端と連結する、請求項11に記載の組成物。
【請求項13】
前記リンカーの配列が(GGGS)m又は(GGGGS)m(式中、m=自然数)である、請求項12に記載の組成物。
【請求項14】
前記リンカーの配列がGGGGSである、請求項13に記載の組成物。
【請求項15】
前記マーカー分子は、リンカーによって前記配列が配列番号1である低pH挿入ペプチドのN末端と連結する、請求項12に記載の組成物。
【請求項16】
前記リンカーの配列が(GGGS)m又は(GGGGS)m(式中、m=自然数)である、請求項15に記載の組成物。
【請求項17】
前記リンカーの配列がGGGGSである、請求項16に記載の組成物。
【請求項18】
前記マーカー分子は、腫瘍表面抗原Her2又はその機能ドメインであることを特徴とする請求項11~17のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項19】
Her2の機能ドメインは、Her2タンパクの第IVドメイン、又はHer2タンパクの第IIドメインであり、Her2タンパクの第IVドメインの配列は、配列番号20に示す通りであり、Her2タンパクの第IIドメインの配列は、配列番号23に示す通りである、請求項18に記載の組成物。
【請求項20】
Her2タンパクの第IVドメインは、リンカーによって前記配列が配列番号1である低pH挿入ペプチドのN末端と連結し、前記リンカーの配列はGGGGSであり、前記組成物の配列は、配列番号21で示す通りであり、Her2タンパクの第IIドメインは、リンカーによって前記配列が配列番号1である低pH挿入ペプチドのN末端と連結し、前記リンカーの配列はGGGGSであり、前記組成物の配列は、配列番号24に示す通りであることを特徴とする請求項19に記載の組成物。
【請求項21】
新しい抗原配列が、請求項1~5のいずれか一項に記載の、配列が配列番号1である改良型低pH挿入ペプチドの細胞外ドメイン配列若しくはその変異体の配列を2回以上繰り返して得られる配列であり、前記新しい抗原配列が配列番号22に示す通りであることを特徴とする新しい抗原。
【請求項22】
請求項21に記載の新しい抗原をコードすることを特徴とする核酸分子。
【請求項23】
請求項21に記載の新しい抗原と、前記新しい抗原と連結したタンパク又はポリペプチドを含む、融合タンパク質。
【請求項24】
請求項21に記載の新しい抗原と、前記新しい抗原とカップリングしたキャリアタンパク質を含む、請求項23に記載の融合タンパク質。
【請求項25】
前記キャリアタンパク質が、KLH、BSA、又はOVAを含む、請求項24に記載の融合タンパク質。
【請求項26】
請求項21に記載の新しい抗原又は請求項23に記載の融合タンパク質により製造されてなることを特徴とする新しい抗体。
【請求項27】
請求項1~5のいずれか一項に記載の改良型低pH挿入ペプチドを含むことを特徴とする腫瘍標識システム。
【請求項28】
請求項11~20のいずれかに記載の組成物を含むことを特徴とする請求項27に記載の腫瘍標識システム。
【請求項29】
請求項27又は28に記載の腫瘍標識システムを含むか、又は請求項9に記載の組成物を含む、標的腫瘍治療システム。
【請求項30】
請求項27又は28に記載の腫瘍標識システムと、請求項26に記載の新しい抗体、又は請求項11~20のいずれか一項に記載の組成物における腫瘍表面抗原若しくはその機能ドメインの抗体とを含む腫瘍殺傷システムを含む、請求項29に記載の標的腫瘍治療システム。
【請求項31】
前記腫瘍殺傷システムがCAR-Tシステムを含む、請求項30に記載の標的腫瘍治療システム。
【請求項32】
請求項7~20のいずれか一項に記載の組成物の製造における、請求項1~5のいずれか一項に記載の改良型低pH挿入ペプチド応用。
【請求項33】
請求項27又は28に記載の腫瘍標識システムの製造における、請求項1~5のいずれか一項に記載の改良型低pH挿入ペプチド又は請求項11~20のいずれか一項に記載の組成物の応用。
【請求項34】
請求項29~31のいずれか一項に記載の標的腫瘍治療システムの製造における、請求項1~5のいずれか一項に記載の改良型低pH挿入ペプチド請求項9に記載の組成物、請求項11~20のいずれか一項に記載の組成物、又は請求項27若しくは28に記載の腫瘍標識システムの応用。
【請求項35】
請求項23~25のいずれか一項に記載の融合タンパク質、請求項26に記載の新しい抗体又は請求項30~31のいずれか一項に記載の腫瘍殺傷システムの製造における、請求項21に記載の新しい抗原の応用。
【請求項36】
請求項9に記載の組成物又は請求項30~31のいずれか一項に記載の腫瘍殺傷システムの製造における、請求項26に記載の新しい抗体の応用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生物医学分野に属し、低pH挿入ペプチド及びその組成物に関し、さらに腫瘍の分子標的治療におけるこの組成物の作用に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、中国経済の迅速な発展に伴い、国民の物質的な文化水準が絶えず向上しており、生活方式にも大きな変化が生じている。それに伴い、水質悪化、大気の質の低下など、人々が暮らす環境にも変化が生じている。生活方式の変化及び環境の質の低下により、中国人の死因に大きな変化が生じており、悪性腫瘍、心血管疾患及び慢性疾患などの非感染性疾患が、中国の住民の死亡の主な原因となっている。中でも、悪性腫瘍に起因する死亡が大きな割合を占め、無視できない問題となっている。
【0003】
過去10年間において、化学療法は、腫瘍治療で非常に重要な役割を果たしているとともに、人々の広範な関心を集めている。しかしながら、従来の抗がん剤には、依然として多くの限界があり、例えば、正常組織と腫瘍組織を区別できず、治療効率が非常に低く、致命的な有害反応を引き起こすことさえもある。そのため、選択性を高めることが、抗がん剤の研究開発の鍵となっている。分子標的薬輸送システムは、抗がん剤を腫瘍組織に特異的に伝達することができ、正常組織による抗がん剤の摂取を低減させることができ、その不良反応を低下させ、臨床治療効果を高めることができる。現在、分子標的薬輸送システムの種類は多く、すでに臨床治療に用いられているものもある。しかしながら、正常組織においても同じ受容体の発現があり、これらは同様にこの標的リガンドを識別できるが、識別レベルが比較的低く、標的効率及び治療効果が著しく制限される。
【0004】
腫瘍組織と正常組織の最大の違いは、前者は細胞外環境が酸性に傾くことである。近年、腫瘍組織の酸性微小環境を標的とした抗がん剤が急速に発展している。腫瘍細胞はグルコースを多く摂取するため、無酸素条件下でグルコースが乳酸に分解され、酸性環境を形成する。一方、腫瘍の異常な血管によって腫瘍の酸素供給不足が引き起こされ、腫瘍細胞の形質転換により増殖が止まらなくなり酸素欠乏が引き起こされ、代謝異常により無酸素代謝が増加する。腫瘍細胞自体は、低酸素誘導因子を上方制御して低酸素環境およびそれに応じて解糖により乳酸を生成した後の酸性環境に適応し、最終的に腫瘍組織微小環境のpHが5.7~7.0となり、正常組織のpH7.4よりも著しく低くなる。酸性微小環境は、抗がん剤の選択性を高める非常に有効な標的である。
【0005】
バクテリオロドプシンの膜貫通ヘリックスC由来の低pH挿入ペプチド(pHLIP、pH low insertion peptide)は、まさにその酸性微小環境における特殊な性質のため、近年、研究の焦点となっている。 pHLIPは、水溶性のポリペプチドであり、細胞の脂質二重層に挿入され、安定した膜貫通αヘリックスを形成することができる。ペプチドの折り畳み及び膜挿入は、中性又はアルカリ性(pH>7.4)のpHを弱酸性(pH=7.0~6.5以下)に低下させることにより駆動されるものである。pHLIPは、中性pH下で構造がなく水に溶ける形態I、中性pH下で構造がなく細胞膜表面に結合する状態II、酸性pH下で挿入されαヘリックスで細胞膜を透過する状態IIIの3種類の主要形態を有する。凝集しやすいため溶解性がよくないのが膜ペプチドの性質であるが、pHLIPも膜ペプチドとして、特に高濃度及び低pHの少なくともひとつの条件下で凝集する傾向があり、中性pHの水溶液においては、pHLIP単体で存在する濃度は30μg/ml未満であり、低pH条件では、状態II及び状態IIIのpHLIPペプチドは、すべて単体形式で存在する。多くの研究によって、構造上の変化によるペプチド溶解性の低下により、ペプチドと膜の結合能力が低下し、ペプチド全体の立体配座に変化が生じることが示されている。血中のプロテアーゼはL型アミノ酸からなるペプチドを数分以内に分解することができるため、血中のペプチドの安定性は非常に重要な性質である。D型アミノ酸からなるポリペプチドは相対的に安定しているが、可変のキラリティーのため、特異的な受容体結合には適さない。pHLIPと脂質二重層との間に特異的な相互作用が存在しないため、L型又はD型からなるpHLIPが同じ生物物理学的特性及び腫瘍の位置決めの特性を有することは意外ではなく、pHLIPの位置決めはいかなる特異性分子結合事象の発生も必要としないことが多くの証拠によって認められている。唯一の著しい相違点は、D-pHLIPは膜貫通の左巻きのヘリックスを形成するが、L-pHLIPは膜貫通の右巻きのヘリックスを形成することである。細胞を透過するペプチドと比べ、pHLIPは、細胞膜に挿入された後、細胞膜中に留まり、一端が細胞質に入り、他端が細胞外空間に入る。そのため、ペプチドは、二重の伝達能力を有し、1つの能力は、カーゴ分子を細胞表面につなぐことができるというものであり、もう1つの能力は、膜を透過できないカーゴ分子を細胞質中に注射又は放出することができるというものである。1つ目の能力を実現するために、カーゴ分子をpHLIPのN末端に連結することができる。これによって、カーゴ分子は、幅広い極性及び大きさを有するようになる。応用した1つの実例は、イメージングプローブを酸性組織に送り、細胞膜表面に安定してつなぐというものである。2つ目の能力を実現するために、細胞質内で切断可能な結合によってカーゴ分子をpHLIPのC末端に連結することができる。これによって、切断された結合がジスルフィド結合に入ることができる。応用した1つの実例は、蛍光染料、環状ペプチド、極性毒素及びペプチド核酸などの抗がん剤を腫瘍組織に送り、腫瘍細胞質内に導入して作用させるものである。
【0006】
pHLIPに対する研究が深まるのに伴い、野生型pHLIPの応用が、体内でのクリアランスが遅い、膜挿入過程に対するカルボキシル末端が帯びる電荷の影響など、いくつかの主要因によって制限されることがわかった。学者らは、pHLIPのアミノ酸配列を調整することにより、さらに優れた性能を有するpHLIP誘導体を設計することを試みている。現在、pHLIP配列の調節方式は、主に、1)野生型pHLIP配列の膜挿入末端を切除又は反転すること、2)グルタミン酸残基、正電荷を帯びたリシン残基又はプロトン化した非標準アミノ酸残基(γ-カルボン酸、α-アミノアジピン酸)を用いて膜貫通領域のアスパラギン酸の一部又は全部を入れ替えることを含む。pHLIP変異体3(膜挿入末端を切除)など、配列調節を経て生成されたpHLIP誘導体は、pHLIPが帯びる電荷を少なくし、pHLIPが細胞膜に入り膜貫通ヘリックスを形成するプロセスを速め、その腫瘍標的性を高めることができる。pHLIP変異体7は、良好な標的性を保つとともに、血中での消失速度を速め、薬物の体内輸送の実現に有利である。現在のpHLIPの配列調節方法に鑑み、さらに先進的なpHLIP誘導体を発展させることができる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、配列が、WT低pH挿入ペプチド又はその変異体の細胞外ドメインを1回、又は2回以上繰り返して得られるポリペプチド配列を含有する改良型低pH挿入ペプチドを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
好ましくは、WT低pH挿入ペプチドの変異体は、Var1~Var16を含む。
【0009】
WT低pH挿入ペプチド又はその変異体の配列は、次の通りである。
WT: ACEQNPIYWARYADWLFTTPLLLLDLALLVDADEGT(配列番号1);
Var1: ACEDQNPYWARYADWLFTTPLLLLDLALLVDG(配列番号2);
Var2: ACEDQNPYWRAYADLFTPLTLLDLLALWDG(配列番号3);
Var3: ACDDQNPWRAYLDLLFPTDTLLLDLLW(配列番号4);
Var4: ACEEQNPWRAYLELLFPTETLLLELLW(配列番号5);
Var5: ACDDQNPWARYLDWLFPTDTLLLDL(配列番号6);
Var6: CDNNNPWRAYLDLLFPTDTLLLDW(配列番号7);
Var7: ACEEQNPWARYLEWLFPTETLLLEL(配列番号8);
Var8: CEEQQPWAQYLELLFPTETLLLEW(配列番号9);
Var9: CEEQQPWRAYLELLFPTETLLLEW(配列番号10);
Var10: ACEDQNPWARYADWLFPTTLLLLD(配列番号11);
Var11: ACEEQNPWARYAEWLFPTTLLLLE(配列番号12);
Var12: ACEDQNPWARYADLLFPTTLAW(配列番号13);
Var13: ACEEQNPWARYAELLFPTTLAW(配列番号14);
Var14: TEDADVLLALDLLLLPTTFLWDAYRAWYPNQECA(配列番号15);
Var15: CDDDDDNPNYWARYANWLFTTPLLLLNGALLVEAEET(配列番号16);
Var16: CDDDDDNPNYWARYAPWLFTTPLLLLPGALLVEAEET(配列番号17);
【0010】
上記配列のうち、下線のある部分が、低pH挿入ペプチドの細胞外ドメイン配列である。Var1~Var16は、いずれもWTの変異体である。
【0011】
配列が配列番号1~17である低pH挿入ペプチドの細胞外ドメインを1回又は2回以上繰り返して得られるポリペプチド配列は、次のものを含む。
【0012】
(細胞外ドメイン)n+リンカー+配列番号1~17(式中、n=1、2、3、4・・・・・・・・・・・。)
【0013】
本発明に用いることができる上記リンカーの配列は、(GGGS)m(式中、m=1、2、3、4・・・・・・・・・・・・)とすることができる。
【0014】
本発明の具体的な実施例において、前記改良型低pH挿入ペプチドの配列は、配列が配列番号8であるVar7の細胞外ドメインを1回繰り返して得られる配列であり、配列は、ACEEQNPGGGSACEEQNPWARYLEWLFPTETLLLEL(配列番号18)である。
【0015】
本発明の具体的な実施例において、Var7を例として、低pH挿入ペプチドの細胞外ドメインを1回繰り返した後に得られる配列が、元の配列よりもさらに有益な効果を有することが証明されているが、当業者は、本発明の研究成果により、直接、疑いなしに、WTの他の変異体について、その細胞外ドメインを1回繰り返した後に得られる配列が、元の配列と同様にさらに有益な効果を有すると推断できる。本発明の実験結果によって、低pH挿入ペプチドの細胞外ドメインの利点の共通性が示されているため、WT、及びVar1~Var16を含むWTの変異体の改良後の低pH挿入ペプチドは、いずれも本発明の保護範囲内に含まれる。
【0016】
本発明は、前記改良型低pH挿入ペプチドを含むか、又は前記配列が配列番号1である低pH挿入ペプチド又はその変異体を含む組成物を提供する。
【0017】
さらに、前記組成物は、治療剤、診断剤、マーカー分子を含む機能体をさらに含む。
【0018】
前記機能体は、前記改良型低pH挿入ペプチドのN末端と連結するか、若しくはC末端と連結し、又は前記配列が配列番号1である低pH挿入ペプチド若しくはその変異体のN末端と連結するか、若しくはC末端と連結する。
【0019】
具体的には、治療剤が細胞表面上の分子によって治療作用を奏する場合、この治療剤は、低pH挿入ペプチドのN末端と連結する必要がある。治療剤が細胞内部の分子によって治療作用を奏する場合、この治療剤は、低pH挿入ペプチドのC末端と連結する必要がある。診断剤は、疾患病理状態の存在を示すために用いられ、診断剤は、N末端と連結して細胞表面上で示しても、C末端と連結して細胞質内で示してもよい。マーカー分子は、細胞膜表面でこのマーカー分子を含まない細胞に、このマーカー分子の発現を増加させるため、一般に、マーカー分子は低pH挿入ペプチドのN末端と連結する。
【0020】
さらに、前記治療剤は、抗体医薬品、低分子医薬品、抗生物質、ポリペプチド、ペプチド核酸、ナノ粒子、リポソームを含むが、これらに限定されない。
【0021】
抗体医薬品は、いかなる腫瘍分子に対する抗体医薬品であってもよく、この腫瘍を治療できればよい。抗体医薬品は、分子標的モノクローナル抗体医薬品、分子標的抗体薬物複合体、二重特異性抗体医薬品、分子標的免疫チェックポイント阻害薬などを含む。このような抗体医薬品の実例は、リツキシマブ、トラスツズマブ、ゲムツズマブ、アレムツズマブ、イブリツモマブ、トシツモマブ、ベバシズマブ、セツキシマブ、パニツムマブ、オファツムマブ、デノスマブ、イピリムマブ、ブレンツキシマブ、ペルツズマブ、トラスツズマブエムタンシン、オビヌツズマブ、ラムシルマブ、ペムブロリズマブ、ブリナツモマブ、ニボルマブ、ダラツムマブ、ジヌツキシマブ、ネシツムマブ、エロツズマブ、アテゾリズマブ、アベルマブ、デノスマブ、ゲムツズマブ、ネシツムマブ、アテゾリズマブを含むが、これらに限定されない。
【0022】
さらに、前記抗生物質は、抗腫瘍性抗生物質を含み、微生物代謝により生成された、抗腫瘍活性を有する化学物質である。本発明に用いることができる抗腫瘍性抗生物質は、C1027、マイトマイシン、アドリアマイシン、CC-1065、アドゼレシン、デュオカルマイシン類、ギルブスマイシン、テトラサイクリン類、シンナミド、MMI-166、バチマスタット、緑茶ポリフェノール、サルビアノール酸A、C3368-A、C3368-B、エモジン、三環系ピロン類、ゲルダナマイシン、17AAG、パクリタキセル、エポチロンA、エポチロンB、カリケアミシン、リダマイシンを含む。
【0023】
さらに、前記低分子医薬品は、通常、シグナル伝達阻害剤であり、腫瘍の成長、増殖過程において必要なシグナル伝達経路を特異的に阻害することができ、これによって治療の目的を達成する。低分子医薬品の実例は、イマチニブ、ニロチニブ、ダサチニブ、エベロリムス、エルロチニブ、スニチニブ、イブルチニブ、ソラフェニブ、クリゾチニブ、パゾパニブ、ゲフィチニブ、カルフィルゾミブ、トファシチニブ、アキシチニブ、レゴラフェニブ、ベムラフェニブ、シロリムス、ポナチニブ、レンバチニブ、オラパリブ、アフリベルセプト、セリチニブ、ロミデプシン、アレクチニブ、ベリノスタット、ボスチニブ、バンデタニブ、カボザンチニブ、パノビノスタット、アファチニブ、パリフェルミン、トラメチニブ、ダブラフェニブ、テムシロリムス、ラパチニブ、ボリノスタット、ベネトクラックス、グリベック、イレッサを含むが、これらに限定されない。
【0024】
さらに、前記ポリペプチドの実例は、毒素、環状ペプチド、微小管阻害薬、プロテアーゼ活性化受容体を含むが、これらに限定されない。毒素の実例は、アマニチンなどであり、環状ペプチドの実例は、スッポンタケ環状ペプチドなどであり、微小管阻害薬の実例は、モノメチルアウリスタチンE(MMAE)などであり、プロテアーゼ活性化受容体の実例は、P1APなどである。
【0025】
さらに、前記ペプチド核酸は、anti-miR(アンチセンス)オリゴヌクレオチドペプチドを含む。
【0026】
さらに、ナノ粒子は、キトサンナノ粒子、血中滞留型ナノ粒子、ポリ乳酸ナノ粒子、固体脂質ナノ粒子、金ナノ粒子、ドキソルビシン内包メソポーラスシリカナノ粒子、超常磁性酸化鉄ナノ粒子を含む。
【0027】
さらに、前記リポソームは、リン脂質、コレステロールを含む。
【0028】
本発明に記載のリン脂質は、大豆リン脂質(SPC)、ポリエチレングリコール1000ビタミンEコハク酸エステル(TPGS)、ジミリストイルレシチン(DMPC)、ジラウロイルレシチン(DLPC)、ジステアロイルレシチン(DPPC)、ジパルミトイルレシチン(DPPC)、ジステアロイルレシチン(DSPC)、1-ミリストイル-2-パルミトイルレシチン(MPPC)、1-パルミトイル-2-ミリストイルレシチン(PMPC)、1-パルミトイル-2-ステアロイルレシチン(PSPC)、1-ステアロイル-2-パルミトイルレシチン(SPPC)、卵黄レシチン(EPC)、水素添加大豆リン脂質(HSPC)、ジオレオイルレシチン(DOPC)、ジオレオイルホスファチジルエタノールアミン(DOPE)、ジラウロイルホスファチジルグリセロール(DLPG)、ジパルミトイルホスファチジルグリセロール(DPPG)、ジステアロイルホスファチジルグリセロール(DSPG)、ジオレオイルホスファチジルグリセロール(DOPG)、ジミリストイルホスファチジン酸(DMPA)、ジパルミトイルホスファチジン酸(DPPA)、ジミリストイルホスファチジルエタノールアミン(DMPE)、ジパルミトイルホスファチジルエタノールアミン(DPPE)、ジミリストイルホスファチジルセリン(DMPS)、ジパルミトイルホスファチジルセリン(DPPS)、脳ホスファチジルセリン(PS)、脳スフィンゴミエリン(BSP)、ジパルミトイルスフィンゴミエリン(DPSP)、ジステアロイルスフィンゴミエリン(DSSP)、ジステアロイルホスファチジルエタノールアミン(DSPE)のいずれか1種又は複数種の混合を含むが、これらに限定されず、好ましくは、大豆レシチン(SPC)、ジステアロイルホスファチジルエタノールアミン(DSPE)又はジオレオイルホスファチジルエタノールアミン(DOPE)である。
【0029】
さらに、前記診断剤は、蛍光染料を含む。蛍光染料は、Alexa750、Alexa546、Alexa647、Cy5.5、DyLight 680、DyLight 680 4*PEG-コンジュゲート(DyP680)、IRDye(登録商標)680RD(IR680)、IRDye(登録商標)800CW(IR800)、インドシアニングリーンICG、PE、Percy-Cy5.5、FITC、APC、Cy7、FITC、GFP、Alexa Fluar488、Bidipy、Fluo-3、ヨウ化プロピジウム(PI)、PerCP、PE-Cy5、PE-Teses Red、7-AAD、PE-Cy7、PE-Alexa Flour750、Alexa Fluor660、Alexa Fluor700、APC-Cy7、APC-Alexa Flour750、Hoechsr33342-Blue、DAPI、Hoechsr33342-Red、arific Blue、Cascade Blue、Alexa Flour 405、Parific orangeを含むが、これらに限定されない。
【0030】
さらに、前記マーカー分子は、腫瘍表面抗原又はその機能ドメインを含み、腫瘍表面抗原とは、腫瘍の発生、発展の過程において、細胞表面に新しく現れる、又は過度に発現する抗原物質をいう。
【0031】
腫瘍表面抗原の実例は、ER、PR、P53、EGFR、IGFR、Her2、CD20、CD25、CD117、CD34、CD138、CD33、VEGFR、BCMA、Mesothelin、CEA、PSCA、MUC1、EpCAM、S100、CD22、CD19、CD70、CD30、ALK、RANK、GPC2、GPC3、Her3、EGFRvIII、GD2、PD-L1、PD-L2を含むが、これらに限定されない。
【0032】
本発明の記載のマーカー分子は、リンカーによって前記改良型低pH挿入ペプチドのN末端と連結するか、又は前記配列が配列番号1である低pH挿入ペプチド若しくはその変異体のN末端と連結する。
【0033】
さらに、本発明に記載のマーカー分子は、リンカーによって配列が配列番号1である低pH挿入ペプチドのN末端と連結する。
【0034】
上記リンカーは、本分野で通常用いられるものであり、前記リンカーの配列は、(GGGS)m又は(GGGGS)m(式中、m=自然数)である。
【0035】
本発明の具体的な実施形態において、前記リンカーの配列は、GGGGS(配列番号19)である。
【0036】
本発明の具体的な実施形態において、前記マーカー分子は、腫瘍表面抗原Her2又はその機能ドメインである。
【0037】
さらに、前記腫瘍表面抗原Her2の機能ドメインは、Her2タンパクの第IVドメイン若しくはその機能類似ドメイン、又はHer2タンパクの第IIドメイン若しくはその機能類似ドメインである。Her2タンパクの第IVドメインの配列は、配列番号20に示す通りであり、Her2タンパクの第IVドメインの機能類似ドメインは、配列番号20により示されるアミノ酸からなり、前記Her2タンパクの第IVドメイン結合抗体活性を保つポリペプチドであり、Her2タンパクの第IIドメインの配列は、配列番号23に示す通りであり、Her2タンパクの第IIドメインの機能類似ドメインは、配列番号23により示されるアミノ酸からなり、前記Her2タンパクの第IIドメイン結合抗体活性を保つポリペプチドである。
【0038】
さらに、腫瘍表面抗原Her2の機能ドメインは、Her2タンパクの第IVドメイン又はその機能類似ドメインであり、前記Her2タンパクの第IVドメインの機能類似ドメインは、前記Her2タンパクの第IVドメイン結合抗体の活性を保つ。
【0039】
Her2タンパクの第IVドメインの機能類似ドメインは、配列が配列番号20であるHer2タンパクの第IVドメインが、1つ又は複数のアミノ酸残基の置換、欠失及び付加の少なくともひとつを経て、配列番号20で示される配列と同じ機能を有する配列番号20により示されるアミノ酸配列を有するポリペプチドを含む。
【0040】
Her2タンパクの第IVドメインの機能類似ドメインは、配列が配列番号20で示されるアミノ酸配列と少なくとも80%の相同性(配列同一性ともいう)を有し、さらに好ましくは、配列番号20で示されるアミノ酸配列と少なくとも約90%~95%の相同性を有し、常に96%、97%、98%、99%相同性のアミノ酸配列からなるポリペプチドである。
【0041】
Her2タンパクの第IIドメインの機能類似ドメインは、配列が配列番号23であるHer2タンパクの第IIドメインが、1つ又は複数のアミノ酸残基の置換、欠失及び付加の少なくともひとつを経て、配列番号23で示される配列と同じ機能を有する配列番号23により示されるアミノ酸配列を有するポリペプチドを含む。
【0042】
Her2タンパクの第IIドメインの機能類似ドメインは、配列が配列番号23で示されるアミノ酸配列と少なくとも80%の相同性(配列同一性ともいう)を有し、さらに好ましくは、配列番号23で示されるアミノ酸配列と少なくとも約90%~95%の相同性を有し、常に96%、97%、98%、99%相同性のアミノ酸配列からなるポリペプチドである。
【0043】
通常、1つのタンパク質又はポリペプチドにおける1つ又は複数のアミノ酸の修飾は、タンパク質の機能に影響を及ぼさないことがわかっている。当業者は、1つのアミノ酸若しくは割合が小さいアミノ酸の変更、又はアミノ酸配列に対する個別の付加、欠失、挿入、置換は、保存的な修飾であり、そのうちのタンパク質ポリペプチドの変更は、類似した機能を有するタンパク質又はポリペプチドを生成することを認める。機能が類似したアミノ酸の保存的置換表を提供することは、本分野で公知なことである。
【0044】
Her2タンパクの第IVドメインの機能類似ドメインは、配列番号20で示されるアミノ酸配列に対する非保存的な修飾も含み、修飾されたポリペプチドが依然として結合抗体の生物学的活性を保つことができればよい。
【0045】
Her2タンパクの第IIドメインの機能類似ドメインは、配列番号23で示されるアミノ酸配列に対する非保存的な修飾も含み、修飾されたポリペプチドが依然として結合抗体の生物学的活性を保つことができればよい。
【0046】
好ましくは、腫瘍表面抗原Her2の機能ドメインは、Her2タンパクの第IVドメインであり、配列は配列番号20で示す通りであるか、又はHer2タンパクの第IIドメインであり、配列は配列番号23で示す通りである。
【0047】
本発明の具体的な実施形態において、Her2タンパクの第IVドメインは、リンカーによって配列が配列番号1である低pH挿入ペプチドのN末端と連結し、前記リンカーの配列は、GGGGSであり、前記組成物の配列は、配列番号21で示す通りである。
【0048】
本発明の具体的な実施形態において、Her2タンパクの第IIドメインは、リンカーによって配列が配列番号1である低pH挿入ペプチドのN末端と連結し、前記リンカーの配列は、GGGGSであり、前記組成物の配列は、配列番号24で示す通りである。
【0049】
本発明は、配列が、前記改良型低pH挿入ペプチドの細胞外ドメイン配列若しくはその変異体配列を含むか、又は前記配列が配列番号1で示される低pH挿入ペプチド若しくはその変異体の細胞外ドメイン配列若しくはその変異体配列を含む新しい抗原をさらに提供する。
【0050】
本発明の具体的な実施形態において、前記新しい抗原の配列は、配列番号22で示す通りである。
【0051】
本発明の新しい抗原は、(1)抗原性、(2)キャリアタンパク質と連結した後、免疫原として動物を刺激し特異性を生成する抗体の機能を有する。
【0052】
本発明の新しい抗原の製造方法は、化学合成法を用いることができ、ポリペプチド自動合成装置を用いて、固相法によって抗原を合成する。
【0053】
本発明は、前記新しい抗原をコードする核酸分子をさらに提供する。
【0054】
本発明は、空ベクターと、この空ベクターに挿入する、前記核酸分子である目的遺伝子とからなる組換えベクターをさらに提供する。
【0055】
本発明において、前記「空ベクター」(又は「ベクター」という)は、市販されている各種プラスミド、コスミド、バクテリオファージ及びレトロウイルスなど、本分野で知られている各種ベクターを選択することができる。前記空ベクターは、複数種の常用される検出マーカー(例えば蛍光標識、抗生物質標識等のレポーター遺伝子)及び酵素切断部位を含むことができる。組換えベクターの構築は、空ベクター自体のマルチクローニングサイトの各種エンドヌクレアーゼを用いて酵素切断し、線形プラスミドを得て、同じエンドヌクレアーゼを用いて切断した遺伝子セグメントと連結し、組換えプラスミドを得ることができる。
【0056】
本発明は、前記組換えベクターを含有する組換え宿主細胞をさらに提供する。
【0057】
塩化カルシウム法化学形質転換、高電圧電気穿孔形質転換など、本分野の通常の方法によって、前記組換えベクターを宿主細胞中に形質転換、形質導入又はトランスフェクションすることができ、電気穿孔形質転換が好ましい。前記宿主細胞は、原核細胞又は真核細胞とすることができ、大腸菌、枯草菌、酵母(ピキア酵母など)又は各種動植物細胞が好ましく、前記宿主細胞は、大腸菌、枯草菌又はピキア酵母などの、本分野で常用される遺伝子工程菌がさらに好ましい。
【0058】
本分野で常用される方法を用いて、本発明の新しい抗原を組換え宿主細胞から分離し精製することができる。例えば、培地及び組換え宿主細胞を遠心分離し、高圧ホモジネートして細胞を破砕し、遠心ろ過して細胞砕片を除去し、アフィニティークロマトグラフィーで新しい抗原を精製する。分離精製して得られた新しい抗原の生成物に対し、本分野で常用される方法を用いて純度の確認を行うことができる。例えば、クマシーブリリアントブルー法、ケルダール法、ビウレット法、Lowry法、紫外吸収法、アフィニティークロマトグラフィー、抗原抗体法、電気泳動分析(例えばドデシル硫酸ナトリウムポリアクリルアミドゲル電気泳動)、沈降分析、拡散分析、溶解度法、タンパク質量分析などである。
【0059】
本発明は、前記新しい抗原を含む融合タンパク質をさらに提供する。
【0060】
さらに、前記融合タンパク質は、前記新しい抗原と、前記新しい抗原と連結したタンパク質又はポリペプチドと、を含む。
【0061】
またさらに、前記融合タンパク質は、前記新しい抗原と、前記新しい抗原とカップリングしたキャリアタンパク質と、をさらに含む。
【0062】
本発明の具体的な実施形態において、前記融合タンパク質は、前記新しい抗原とキャリアタンパク質をカップリングして製造してなる。
【0063】
本発明で用いることができるキャリアタンパク質は、KLH(キーホールリンペットヘモシアニン)、ウシ血清アルブミン(BSA)、オボアルブミンOVA等を含むが、これらに限定されない。KLH(キーホールリンペットヘモシアニン)は、免疫原性が強く、結合部位が多く、免疫効果が比較的良好で、免疫動物と系統が比較的遠く、キャリアタンパク質として用いた際に交差反応を引き起こしにくいため、好ましい。
【0064】
本発明の融合タンパク質は、免疫原性及び特異性を有し、免疫原であり、動物を免疫して前記新しい抗原に対する特異的な抗体を製造するために用いることができる。
【0065】
本発明は、前記新しい抗原又は前記融合タンパク質により製造してなる新しい抗体をさらに提供する。
【0066】
好ましくは、本発明の上記新しい抗体は、モノクローナル抗体である。
【0067】
本発明のモノクローナル抗体は、本分野の通常の技術を用いて製造してなり、先行技術において常用される抗体の製造方法は、次のものを含む。
【0068】
(1)マウス/ウサギに基づくハイブリドーマ技術。
基本ステップ:動物免疫、細胞融合、ハイブリドーマ細胞の選別とモノクローナル抗体検出、ハイブリドーマ細胞のクローン化、モノクローナル抗体の同定及び製造等。
【0069】
(2)バクテリオファージ抗体ディスプレイライブラリに基づく抗体選別技術。
基本ステップ:1)末梢血又は脾臓、リンパ節等の組織からBリンパ球を分離し、mRNAを抽出してcDNAに逆転写する。2)抗体の軽鎖及び重鎖のプライマーを用いて、ライブラリ作製の必要に応じてPCR技術で異なるIg遺伝子セグメントを増幅する。3)バクテリオファージベクターを構築する。4)発現ベクターを細菌に形質転換し、完全な抗体ライブラリを構築する。抗原のアフィニティ吸着-溶出-増幅を複数回行うことにより、最終的に抗原特異的な抗体クローンを選別する。
【0070】
(3)モノクローナル抗体ライブラリに基づく選別技術。
本発明に記載の低pH挿入ペプチドは、本分野の通常の技術を用いて製造してなり、このような合成技術は、固相合成、液相合成を含む。
【0071】
固相合成の原理は、アミノ酸のカルボキシル末端を、適切な連結分子によって不溶性樹脂に固定した後、この樹脂上でアミノ基の保護基を外し、アミノ酸を順に縮合し、必要なポリペプチドが得られるまでペプチド鎖を伸長する。最後に、適切な試薬を用いて側鎖保護基を除去し、樹脂から生成物を分解する。液相と比べ、ポリペプチド固相合成の利点は、次の通りである。(1)各ステップの反応は、簡単なろ過及び樹脂の洗浄のみで精製の目的を達成することができ、古典的な液相合成法において各ステップの生成物でいずれも精製が必要な困難を克服し、操作に時間と労力がかからない。(2)可溶性試薬は、反応を完全にし、高収率を得るため、過剰にすることができ、過剰な試薬は、溶媒を用いて簡単に洗い流し、ろ過して除去することができる。(3)すべての反応を1つの容器の中で行うことができるため、反応中間体を移す手間が省け、損失が回避される。(4)適切な連結分子および分解条件を選択した場合、高分子樹脂を再生し繰り返し利用することができる。
【0072】
ポリペプチドを固相合成する戦略は、Boc固相法、Fmoc固相法を含む。本発明の具体的な実施形態において、本発明は、Fmoc固相法を用いる。
【0073】
本発明は、前記改良型低pH挿入ペプチド、又は前記配列が配列番号1で示される低pH挿入ペプチド若しくはその変異体を含む腫瘍標識システムを提供する。
【0074】
本発明は、前記マーカー分子を含有する組成物を含む腫瘍標識システムを提供する。
【0075】
さらに、前記腫瘍標識システムは、Cyanine 5.5、Alexa Flour 750、Alexa Fluor 647、Alexa Flour 488、Alexa Flour 546、64Cu-DOTA、68Ga-DOTA、18F-O-ピリジン、18F-リポソーム、リポソームローダミン、Nanogold、TAMRAをさらに含むことができる。
【0076】
本発明により構築する腫瘍標識システムは、以下の概念により完成した。腫瘍は異質性を有しており、同一の腫瘍組織における腫瘍細胞表面であっても異なるタンパク抗原が発現する可能性がある。あるタンパク抗原に対する薬物は、この抗原を発現する腫瘍細胞しか殺傷することができず、この抗原を発現しない腫瘍細胞に対しては殺傷作用がない。これらの腫瘍細胞が生存を続けて増殖の優位性を形成し、この腫瘍患者はこの薬物に対して薬剤耐性を生じることになる。1種のタンパク抗原がすべての腫瘍細胞表面で発現すれば、このタンパク抗原に対する薬物は、すべての腫瘍細胞を徹底的に殺傷することができる。異なる腫瘍組織に対しても同様である。本発明は、癌細胞表面で発現する分子タイピングマーカーと標的腫瘍の低pH挿入ペプチド又はその改良型を連結して組成物を形成する。この組成物は、あらゆる固形腫瘍細胞を標的として腫瘍細胞表面で示すことができ、Her2の第IVドメインに対する薬剤であるトラスツズマブなど、癌細胞表面で発現する分子タイピングマーカーの医薬品は、乳癌細胞を含むあらゆる癌細胞に対して殺傷作用を有し、この抗がん剤の適用範囲を拡大することができる。
【0077】
本発明は、前記腫瘍標識システムを含むか、又は前記治療剤を含有する組成物を含む標的腫瘍治療システムを提供する。
【0078】
前記標的腫瘍治療システムは、前記腫瘍標識システムと、前記新しい抗原の抗体、又は腫瘍表面抗原若しくはその機能ドメインに対する抗体を含む腫瘍殺傷システムと、を含む。
【0079】
詳細には、標的腫瘍治療システムは、2つのサブシステムを含むことができ、一方のサブシステムは、本発明に記載のマーカー分子を含有する組成物を含む腫瘍標識システムであり、他方のサブシステムは、前記新しい抗原に対する抗体、又は腫瘍表面抗原若しくはその機能ドメインに対する抗体を含む腫瘍殺傷システムである。
【0080】
本発明に記載の新しい抗原の抗体及び腫瘍表面抗原に対する抗体は、いかなる抗体であってもよい。前記抗体は、モノクローナル抗体、二重特異性抗体を含む。
【0081】
本発明に記載の新しい抗原の抗体、又は腫瘍表面抗原に対する抗体は、抗体に対する抗原結合部分を含んでもよく、さらに、前記抗体の抗原結合セグメントは、Fab、Fab′、F(ab′)2、Fv又は一本鎖抗体を含む。
【0082】
Fabとは、1本の軽鎖の可変領域及び定常領域並びに1本の重鎖の可変領域及び定常領域を含有しジスルフィド結合によって結合した抗体分子の一部をいう。
【0083】
Fab′とは、部分ヒンジ領域を含むFabセグメントをいう。
【0084】
F(ab′)2とは、Fab′の二量体をいう。
【0085】
Fvとは、抗体重鎖可変領域、軽鎖可変領域を含有し、すべての抗原結合部位を有する最小抗体セグメントをいう。
【0086】
一本鎖抗体とは、軽鎖可変領域と重鎖可変領域が直接つながるか、又は1つのペプチド鎖によって連結されてなる組換え抗体をいう。
【0087】
本発明に記載の新しい抗原の抗体、又は腫瘍表面抗原に対する抗体は、本分野で周知の相似アミノ酸由来の代替的変異体、アミノ酸の欠失、付加に起因する変異体など、抗体の各種変異体をさらに含む。
【0088】
本発明に記載の新しい抗原の抗体、又は腫瘍表面抗原に対する抗体は、重鎖及び軽鎖可変領域において、1つ又は複数のグリコシル化部位を含むことができる。本分野内で周知の通り、可変領域に存在する1つ又は複数のグリコシル化部位は、抗体免疫原性を増強することができ、又は抗原結合が変化するため、抗体の薬物動態が変わる。
【0089】
本発明に記載の新しい抗原の抗体、又は腫瘍表面抗原に対する抗体は、Fc領域内に変更を含むよう設計することができ、通常、血清半減期、補体結合、Fc受容体結合、抗原依存性細胞傷害性など、抗体の1つ又は複数の機能特性を改変する。また、本発明の抗体は、化学修飾されることができ(例えば、1つ又は複数の化学基を抗体に連結することができる)、又は修飾されてそのグリコシル化を改変することにより、抗体の1つ又は複数の機能特性をさらに改変することができる。
【0090】
本発明に記載の新しい抗原の抗体、又は腫瘍表面抗原に記載の抗体は、もう1つの修飾がポリエチレングリコール化であるよう設計することができる。抗体がポリエチレングリコール化されることにより、例えば、抗体の生物学的(血清など)半減期を増加させることができる。抗体をポリエチレングリコール化するために、この抗体又はそのセグメントは、通常、ポリエチレングリコールの活性エステル又はアルデヒド誘導体など、1つ又は複数のポリエチレングリコール(PEG)集団をこの抗体又は抗体セグメントと連結する条件の下で、PEGと反応させるのに適している。好ましくは、このポリエチレングリコール化は、活性のPEG分子(又は類似の活性水溶性ポリマー)とアシル化反応又はアルキル化反応を行うことにより実現する。
【0091】
腫瘍表面抗原に対する抗体の実例は、分子標的モノクローナル抗体医薬品、分子標的抗体薬物複合体、二重特異性抗体医薬品、分子標的免疫チェックポイント阻害薬などを含むが、これらに限定されない。このような抗体の実例は、リツキシマブ、トラスツズマブ、ゲムツズマブ、アレムツズマブ、イブリツモマブ、トシツモマブ、ベバシズマブ、セツキシマブ、パニツムマブ、オファツムマブ、デノスマブ、イピリムマブ、ブレンツキシマブ、ペルツズマブ、トラスツズマブエムタンシン、オビヌツズマブ、ラムシルマブ、ペムブロリズマブ、ブリナツモマブ、ニボルマブ、ダラツムマブ、ジヌツキシマブ、ネシツムマブ、エロツズマブ、アテゾリズマブ、アベルマブ、デノスマブ、ゲムツズマブ、ネシツムマブ、アテゾリズマブを含むが、これらに限定されない。
【0092】
本発明の腫瘍殺傷システムは、CAR-T又はTCR-Tシステムとすることができ、T細胞などの免疫細胞によって、腫瘍表面抗原に対する抗体又はTCRを発現する。腫瘍殺傷システムは、ADC(抗体薬物複合体)システム、すなわち、抗体毒素複合体(緑膿菌外毒素PE38、ジフテリア毒素、デュオカルマイシン、黄色ブドウ球菌エンテロトキシンA/E-120、志賀毒素、リシン)、化学療法薬(イリノテカン、エキサテカン、アドリアマイシン)、低分子阻害剤(アウリスタチン類、カリケアミシン類、メイタンシン類、ツブリシン、抗菌剤、ウレアーゼ)、リポソーム、金ナノ粒子などであってもよい。なお、腫瘍殺傷システムは、IL-2、IL-12、TNF-α、IL-10、TGF-βなどのイムノサイトカインであってもよく、すなわち、いくつかのイムノサイトカインを抗体と結合する。一方の抗体が融合ペプチドと結合した抗原又は抗原ドメインを識別し、他方の抗体が他の抗原を識別する二重特異性抗体殺傷システムも含む。
【0093】
本発明の標的腫瘍治療システムの作用原理は、次の通りである。腫瘍標識システムにおけるマーカー分子は、低pH挿入ペプチドの作用の下で細胞膜に挿入され、マーカー分子が腫瘍細胞表面で示され、腫瘍殺傷システムにおける抗体医薬品が腫瘍細胞表面のマーカー分子を識別することにより、腫瘍殺傷システムを腫瘍組織に集め、腫瘍細胞を徹底的に特異的に殺傷する。
【0094】
本発明は、前記改良型低pH挿入ペプチド、又は前記配列が配列番号1で示される低pH挿入ペプチド若しくはその変異体の、前記組成物の製造における応用をさらに提供する。
【0095】
具体的には、次の通りである。
【0096】
本発明は、前記改良型低pH挿入ペプチド、又は前記配列が配列番号1で示される低pH挿入ペプチド若しくはその変異体の、抗がん剤輸送システムの製造における応用を提供する。前記腫瘍治療剤を低pH挿入ペプチドと連結させ、弱酸性環境に対する低pH挿入ペプチドの標的性により、腫瘍組織を標的として腫瘍治療剤を輸送し、特異的に殺傷する。
【0097】
本発明は、前記改良型低pH挿入ペプチド、又は前記配列が配列番号1で示される低pH挿入ペプチド若しくはその変異体の、腫瘍診断ツールの製造における応用を提供する。前記腫瘍診断剤を低pH挿入ペプチドと連結させ、弱酸性環境に対する低pH挿入ペプチドの標的性により、腫瘍組織を標的として腫瘍診断試薬を輸送し、腫瘍組織の存在に標識をつけることにより、被験者が腫瘍を患っているかどうかを判断する。
【0098】
本発明は、前記改良型低pH挿入ペプチド、又は前記配列が配列番号1で示される低pH挿入ペプチド若しくはその変異体の、腫瘍標識システムの製造における応用を提供する。前記腫瘍表面抗原を低pH挿入ペプチドと連結させ、弱酸性環境に対する低pH挿入ペプチドの標的性により、腫瘍細胞表面を標的として腫瘍表面抗原を輸送してそこに留め、腫瘍細胞が腫瘍表面抗原によってマーカーをつけられるようにし、この特定抗原に対する腫瘍薬物がこの腫瘍に対して殺傷作用を奏するのに有利である。HER2を例とすると、トラスツズマブは、HER2陽性乳癌患者に対してのみ治療作用を有するが、HER2陰性乳癌患者の乳癌細胞表面を標的として低pH挿入ペプチドと連結したHER2を位置決めし、トラスツズマブがHER2陰性乳癌患者にも治療作用を奏するようにし、トラスツズマブの適用範囲を拡大する。
【0099】
本発明は、前記改良型低pH挿入ペプチド、前記配列が配列番号1で示される低pH挿入ペプチド若しくはその変異体、前記治療剤を含有する組成物、前記マーカー分子を含有する組成物、又は前記腫瘍標識システムの、前記標的腫瘍治療システムの製造における応用をさらに提供する。
【0100】
本発明は、前記組成物の、前記腫瘍標識システムの製造における応用をさらに提供する。
【0101】
本発明は、前記組成物の、前記腫瘍治療システムの製造における応用をさらに提供する。
【0102】
本発明は、前記腫瘍標識システムの、前記腫瘍治療システムの製造における応用をさらに提供する。
【0103】
本発明は、前記新しい抗原の、前記融合タンパク質、前記新しい抗体又は前記腫瘍殺傷システムの製造における応用をさらに提供する。
【0104】
本発明は、前記新しい抗体の、前記治療剤を含有する組成物又は前記腫瘍殺傷システムの製造における応用をさらに提供する。
【0105】
本発明は、前記改良型低pH挿入ペプチド、又は前記配列が配列番号1で示される低pH挿入ペプチド若しくはその変異体の、CAR-T配列の製造における応用をさらに提供する。本発明の低pH挿入ペプチド又はその改良型の細胞外ドメインを抗原として選別し、得られた抗体は、新しいScfv配列としてCAR-T配列を設計することができる。
【0106】
文中の用語「CAR-T」は、Chimeric Antigen Receptor T-Cell Immunotherapy、キメラ抗原受容体発現T細胞療法の略である。腫瘍微小環境という特性により、科学者は、一連のCART配列を最適化し、異なるpHの状況下で、抗原の親和性と完全に異なる親和性をもたせることにより、異なるpHの状況下で活性化させている。
【0107】
文中の用語「腫瘍表面抗原」とは、腫瘍の発生、発展の過程において、細胞表面に新しく現れる、又は過度に発現する抗原物質をいう。
【0108】
文中の用語「分子標的抗体薬物複合体」は、免疫複合体(immunoconjugate)ともいう。免疫複合体の分子は、モノクローナル抗体と「ペイロード」薬物の2つの部分からなる。「ペイロード」として用いることができる物質には、主に放射性核種、薬物及び毒素の3種類があり、モノクローナル抗体と連結し、それぞれ放射免疫複合体、化学免疫複合体及び免疫毒素を構成する。
【0109】
文中の用語「二重特異性抗体医薬品」とは、同時に2つの抗原エピトープと結合可能な抗体をいう。二重特異性抗体医薬品は、2種類に分けることができ、T細胞誘導型は、腫瘍細胞ターゲット-T細胞誘導部位を含み、これは二重特異性抗体医薬品の大部分の割合を占める。T細胞誘導部位とは、CD3(T細胞)、CD16ターゲット(NK細胞)をいうが、ターゲットは、通常、腫瘍細胞に位置する。なお、二重特異性抗体医薬品は、2つのターゲット部位(VEGF-PDGF、VEGF-Ang2など)と結合して、2本のシグナル経路を阻害することにより、薬剤耐性が生じる可能性を少なくすることもできる。
【0110】
文中の用語「ペプチド核酸」(peptidenucleicacid、PNA)は、人工的に合成された、DNA又はRNAに類似した物であり、その骨格は、繰り返し配列されたN-(2-アミノエチル)-グリシン(N(2-aminoethyl)glycine)単位からなり、塩基と骨格との間はメチレンカルボニル結合でつながっている。DNA又はRNA上のリン酸基がないため、電荷的に中性であり、DNA及びRNAとの間に電荷反発がなく、塩基対の特異性が強い。DNA及びRNAと結合するときに、安定した複合体を形成することができ、熱安定性が高いことに加え、PNAは、プロテアーゼ又はヌクレアーゼによって加水分解されにくいため、PNAは、生物学研究及び臨床医学分野において広範に応用される前途を有する。
【0111】
文中の用語「モノクローナル抗体」は、単一のB細胞のクローンから生成される、高度に均一な、ある特定の抗原エピトープに対する抗体である。
【0112】
本発明におけるポリペプチド配列は、いずれもN末端からC末端への順で配列している。
【0113】
本発明の利点及び有益な効果は以下の通りである。
【0114】
本発明は、すでに知られている低pH挿入ペプチドの基礎の上で配列における改善を行い、改善後のポリペプチドは、酸性の腫瘍組織微小環境においてさらに強い選択性を有し、体内での維持時間がさらに長くなる。
【0115】
本発明は、初めて腫瘍表面抗原Her2の第IVドメインを低pH挿入ペプチドと連結させ、腫瘍に標識をつけることが可能な組成物を形成した。本発明の研究成果は、既存の癌に対する、又は癌の特定のサブタイプに対する抗がん剤の適応を極めて大きく広げ、腫瘍の臨床治療に対して非常に重要な意義を有する。
【図面の簡単な説明】
【0116】
図1】低pH挿入ペプチドvar7の細胞における位置決めを示す蛍光図である。
図2】改良型低pH挿入ペプチドp-var7の細胞における位置決めを示す蛍光図である。
図3】生体イメージング技術を用いて低pH挿入ペプチドの動物体内での位置決めの研究を示す図である。図中、A:24h、B:48h、C:72h、D:72hであり、マウスを解剖して得られた腫瘍組織である。
図4】1G12の腫瘍増殖に対する影響を示す曲線グラフである。
図5】1G12の腫瘍重量に対する影響を示す統計図である。
図6】1G12のマウス体重に対する影響を示す統計図である。
図7】肝臓病理染色図である。
図8】腎臓病理染色図である。
図9】肺病理染色図である。
図10】大腸病理染色図である。
図11】脾臓病理染色図である。
図12】発現精製したHer2の第IVドメイン-pHLIPを、SDS-PAGEを用いて同定した電気泳動図である。
図13】共焦点を用いてA549細胞中のHer2タンパク発現状況を観察した蛍光図である。
図14】共焦点を用いて中性環境におけるA549細胞上のHer2の第IVドメイン-pHLIPの位置決めを観察した蛍光図である。
図15】共焦点を用いて酸性環境におけるA549細胞上のHer2の第IVドメイン-pHLIPの位置決めを観察した蛍光図である。
図16】Her2の第IVドメイン-pHLIPの腫瘍増殖に対する影響を示す曲線グラフである。
【発明を実施するための形態】
【0117】
下記実施例により、本発明の内容をさらに容易に理解することができる。これらの実施例は、本発明についてさらに説明するためのものであるにすぎず、本発明の範囲を限定することを意図していない。
【0118】
下記実施例において用いる実験方法に特殊な説明がない場合、いずれも通常の方法である。
【0119】
下記実施例において用いる材料、試薬等に特殊な説明がない場合、いずれも市販ルートから得ることができる。
【0120】
実施例1 改良型低pH挿入ペプチドの合成
配列番号8及び配列番号18の配列により、カルボキシル末端からアミノ末端に向けて順に合成する。
【0121】
(1)1つ目のアミノ酸と樹脂の連結
2-クロロトリチルクロリド樹脂1gを、乾燥した清潔なペプチド合成カラムの中に置き、DCMを8ml加え、5分間膨潤させ、溶媒を真空吸引した。それぞれFmocアミノ酸を2mmol及びDIEAを5mmol取り、8mlのDCMに溶かし、樹脂中に加え、室温で軽く振り60分間反応させた。溶媒を真空吸引した。10mlのDMFで樹脂を2回洗浄し、1回は2分とした。DCM/メタノール/DIEA(80:15:5)を10ml加え、軽く振り10分間反応させ、溶媒を真空吸引した。1回繰り返した。10mlのDMFで樹脂を3回洗浄し、1回は2分とした。溶媒を真空吸引し、N2を吹き付け乾燥させた。
【0122】
(2)1つ目のアミノ酸と樹脂のカップリング率測定
乾燥させたFmocアミノ酸-樹脂2mgを正確に秤取し、キュベットの中に置き、20%ピペリジン/DMFを3ml加え、軽く振り10分間反応させ、20%ピペリジン/DMFをブランク対照として用いてゼロに調整し、紫外分光光度計で試料の290nm吸光度を測定した。2回繰り返して測定し、平均値を取った。カップリング率は、以下の公式によって計算した。
カップリング率(mmol/g)=(Abs試料)/(試料重量mg×1.75)
【0123】
(3)Fmoc基の脱保護
樹脂に脱保護(DEBLOCK)試薬10mlを加え、均等に混ぜ、室温で軽く振り5分間反応させた。溶媒を捨て、10mlのDMFで樹脂を3回洗浄し、1回は2分とした。6mlのイソプロパノールで樹脂を3回洗浄し、1回は5分とした。6mlのヘキサンで樹脂を3回洗浄し、1回は5分とした。溶媒を真空吸引した。少量の樹脂試料を取り、ニンヒドリン呈色法(Kaiser法)を用いて樹脂上の遊離アミノ基含有量を素早く測定した。樹脂2mlをエタノールで3回洗浄し、5%ニンヒドリン、80%フェノールおよびKCN(2mlの0.001MのKCN:98mlのピペリジン)をそれぞれ2滴加え、均等に充分し、120℃で4~6分間加熱した。Fmoc基の脱保護反応の程度を判断した。
【0124】
(4)2つ目のアミノ酸のカップリング反応
2つ目のアミノ酸の連結は、in-situ活性化法を採用した。Fmocアミノ酸を2mmol、TBTUを4.0mmol及びHOBTを4.0mmol取り、DMFを最少量加えて溶解した後、DIEAを5mmol加え、均等に充分混ぜ、Fmoc基を外した樹脂の中に加えた。室温で軽く振り60分間反応させた。溶媒を真空吸引した。5mlのメタノールで樹脂を3回洗浄し、1回は5分とした。10mlのDMFで樹脂を3回洗浄し、1回は2分とした。溶媒を真空吸引した。樹脂試料を少量取り、ニンヒドリン呈色分析を行った。カップリング率を測定した。
【0125】
(5)ペプチド鎖の延伸反応
10mlのDEBLOCK試薬を用いて前のアミノ酸N末端のFmoc保護基を外し、10mlのDMFで樹脂を3回洗浄し、溶媒を真空吸引した。樹脂試料を少量取り、ニンヒドリン呈色分析を行った。(3)の方法により、次のアミノ酸をカップリングした。必要なポリペプチド鎖がカップリングされるまで、Fmoc保護基の脱保護及びアミノ酸カップリング反応を繰り返し行った。
【0126】
(6)ペプチド鎖N末端のAlexa647標識
すべてのアミノ酸配列が合成された樹脂から、アミノ酸N末端のFmoc保護基を外し、10mlのイソプロパノールで樹脂を3回洗浄し、1回は5分とした。Alexa647を1.38g、TBTU53を1.6g、DIEAを0.76ml取り、混合した後にペプチド-樹脂の中に加え、室温軽く振り60分間反応させた。溶媒を真空吸引した。5mlのメタノールで樹脂を3回洗浄し、1回は5分とした。10mlのDMFで樹脂を3回洗浄し、1回は2分とした。溶媒を真空吸引した。
【0127】
(7)ペプチド鎖の側鎖の脱保護及び樹脂からの切断
すべてのアミノ酸配列が合成された樹脂を、10mlのDMFで洗浄した後、さらに6mlのイソプロパノールで樹脂を3回洗浄し、1回は5分とした。6mlのヘキサンで樹脂を3回洗浄し、1回は5分とした。溶媒を真空吸引した後、N2を吹き付け、分解容器の中に入れた。樹脂1gを25mlの切断試薬に入れ、室温で切断し、2時間反応させた。ときどき振り均等に混ぜ、反応後の混合液をガラスろ過器に通して樹脂をろ過し、切断反応混合液を収集し、TFAで樹脂を3回洗浄した。反応混合液を丸底フラスコに移し、予め冷やしておいた等体積のエチルエーテルで4回洗浄し、沈殿を収集した。乾燥後に、合成粗ポリペプチドを得た。
【0128】
(8)合成ポリペプチドの脱塩
粗ポリペプチドに蒸留水を加え溶解した。Amersham G-25ゲルを15g秤取し、膨潤後にカラムに充填し、充填後のカラムをまず50ml蒸留水で平衡化した。平衡化後に、1回に入れる試料は3~5mlとし、蒸留水で溶出し、紫外分光光度計で220nmにおける紫外吸収を検出し、ピークでポリペプチドを収集した。
【0129】
(9)HPLCでのポリペプチド精製
Waters社のWaters Delta Prep 4000 HPLC高速クロマトグラフを用いてポリペプチドを分離精製した。カラムは、径方向加圧カラム(25×100、15μm、DELTA PAKC18充填剤)であり、溶出システムは、A液:5%アセトニトリル溶液(0.1%TFAを含む)、B液:95%アセトニトリル溶液(0.08%TFAを含む)である。手動で試料を入れ、1回に入れる試料は1mlとし、流速4ml/分、リニアグラジエントで、45分以内に、B液を5%から50%に上昇させた後、5分以内に95%まで上昇させ、B液を最後に溶出した。215nmにおいて紫外吸収を検出し、ピークで成分を収集し、質量分析で検出した。分子量を検出して正確な成分を収集し、真空で凍結乾燥し、必要な純品とし、使用に備えた。
【0130】
実施例2 in vitro培養した腫瘍細胞における低pH挿入ペプチドの位置決め
1、細胞株
ヒト大腸癌細胞株SW480(ADCCから購入)。
【0131】
2、試薬
RPMI 1640培地(solarbio)、ウシ胎児血清(元亨金馬社)、PBS(pH=7.4)(Gibco)、塩酸、alexa647で標識したvar7(var7は標準var7であり、配列は、Ala-Cys-Glu-Glu-Gln-Asn-Pro-Trp-Ala-Arg-Tyr-Leu-Glu-Trp-Leu-Phe-Pro-Thr-Glu-Thr-Leu-Leu-Leu-Glu-Leu(配列番号8))及びalexa647で標識したp-var7(p-var7はvar7の細胞外ドメインを1回繰り返した伸長版var7であり、配列は、Ala-Cys-Glu-Glu-Gln-Asn-Pro-Gly-Gly-Gly-Ser-Ala-Cys-Glu-Glu-Gln-Asn-Pro-Trp-Ala-Arg-Tyr-Leu-Glu-Trp-Leu-Phe-Pro-Thr-Glu-Thr-Leu-Leu-Leu-Glu-Leu(配列番号18))。alexa647は、上記2つのポリペプチドのN末端2位のCys上に連結する。
【0132】
3、装置
クリーンベンチ(RONGFENG)、CO2インキュベーター(Thermo)、遠心機(Thermo)、共焦点レーザー顕微鏡用シャーレ(20mm)(Corning)、電子pH計(ザルトリウス)、光学顕微鏡(オリンパス)、共焦点レーザー顕微鏡(ニコン)。
【0133】
4、実験方法
(1)対数期にあるSW480細胞を収集し、培養液を捨て、生理食塩水で2回洗い、0.25%パンクレアチンを適量加えて細胞が容器に付着しなくなるまで消化させ、培養液を適量加えて消化を停止させ、10ml試験管に移し、1000rpmで5分間遠心し、上清を吸い取り、10%ウシ胎児血清を含むRPMI 1640培地を1ml加え、再懸濁し、細胞を均等に混ぜた。中から10μl細胞懸濁液を吸い取り、細胞計算盤の中に入れて数を計測した後、細胞懸濁液を一定量取り、共焦点レーザー顕微鏡用シャーレの中に入れ、完全培地を用いて5×105まで調整し、1ml細胞の系を、細胞培養装置に入れて1晩培養した。
【0134】
(2)1mol/Lの塩酸とpH=7.4のPBS緩衝液を用いて培養液を調製した。塩酸をPBS緩衝液の中に滴下し、最終的な滴定緩衝液のpHを6.3とした。合成したペプチド((p-var7及びvar7)を、pHが6.3及び7.4であるPBS緩衝液にそれぞれ加えて均等に充分混ぜ、比に応じてペプチドの最終濃度を2.5μmol/Lまで希釈し、ペプチド含有PBS培養液とした。
【0135】
(3)1晩培養したSW480細胞が容器に付着するまで待ち、培地の上清を吸い取り、pH=7.4のPBS緩衝液で2回洗浄した。
【0136】
(4)シャーレの中のPBS緩衝液を吸い取り、2つのシャーレの皿の中に予め用意しておいたpH=6.3及び7.4のPBSとペプチドの混合培養緩衝液をそれぞれ1ml加え、別の対照群シャーレの中にペプチドを含まないpH=7.4のPBS培地を1ml加え、いずれも37℃の細胞培養装置の中に入れ、1時間培養した。
【0137】
(5)培養終了後に、ペプチド含有PBS培養液の上清を吸い取り、それぞれpHが異なるペプチドを含まないPBS緩衝液で3回洗い流した後、pH=7.4のPBS緩衝液を加えた。
【0138】
(6)調製したシャーレを共焦点レーザー顕微鏡の下に置き(647mm励起波長)、細胞膜表面の蛍光発現状況を観察した。
【0139】
3、実験結果:
結果は、図1及び図2に示す通りであった。var7及びp-var7は、酸性溶液環境において、どちらもヒト結腸癌細胞SW480表面に有効に挿入することができたが、中性溶液環境では、p-var7の膜挿入能力が失われ(図2)、var7はこの能力を持ち続けた(図2)。p-var7は、酸性の腫瘍組織微小環境での方が強い選択性を有することが示された。
【0140】
実施例3 動物体内における低pH挿入ペプチドの位置決め
1、試験手順
マウス結腸癌細胞CT26をBalb/cマウスに皮下接種し、腫瘍を約1cmの長さにし、静脈に生理食塩水(N.S.)、alexa647で標識したp-var7、alexa647で標識したvar7をそれぞれ注射し、用量は60μΜ/100μL N.S.とした。24、48、72時間後に生体イメージング(Cy5.5の波長で励起した)を行い、仰臥位で写真を撮影した。マウスを安楽死させ、腫瘍の撮像を行った。
【0141】
2、実験結果
結果は、図3の結果に示す通りであった。var7及びp-var7は、どちらも腫瘍を標識することができたが、p-var7の標識能力の方が強かった。時間の経過に伴い、var7の蛍光強度の衰えが著しく、72時間後には、腫瘍組織で少量の標識しか認められなかったのに対し、p-var7は、72時間後でも比較的強い蛍光標識が認められた。この実験によって、p-var7は、体内で腫瘍組織を標的とすることができ、且つ比較的長時間維持されることが証明された。A図において黒い矢印で表したものが、腫瘍組織である。
【0142】
実施例4 p-var7細胞外ドメインを抗原として調製した抗体の腫瘍抑制効果の評価
実験材料:MC38細胞は、ATCCから購入した。p-var7ポリペプチド(分子量4095Da)は、北京華大タンパク質研究開発センター有限公司に合成を委託し、PBSに溶かし、濃度は40μMとした。p-var7の細胞外ドメイン(Ala-Cys-Glu-Glu-Gln-Asn-Pro-Gly-Gly-Gly-Ser-Ala-Cys-Glu-Glu-Gln-Asn-Pro、配列番号22)をKLH(北京金斯瑞生物科技有限公司が合成)と連結させた。6~8週齢の雌性C57/BL6マウスは、Vital Riverから購入した。
【0143】
1、抗体の調製:
(1)ステップ:KLHと連結したp-var7の細胞外ドメインを用いてBalb/cマウスを免疫し、ハイブリドーマを調製し、2株のモノクローナル抗体を得て、ELISAで抗体と抗原の特異的な結合及び抗体亜型を検出した。
【0144】
(2)結果:
その結果、1G12及び1G1と命名されたモノクローナル抗体が、抗原と特異的に結合することが示された。そのうち、1G12の方が、親和性が高く、1G1の方が、親和性が低かった。OD値はそれぞれ1.4423、0.4924であり、且つこの2株はどちらもIgG1亜型であり、調製された抗体の濃度は約0.7mg/mlであった。
【0145】
2、抗体の腫瘍抑制効果の評価
(1)マウス結腸癌MC38移植モデルの作製:MC38をC57/BL6マウスに接種し、腫瘍の直径が1cmになったときに、腫瘍を無菌剥離し、切り刻み、ホモジネートし、ろ過して、単細胞懸濁液を作製した。1640完全培地で培養して増殖し、細胞をC57/BL6マウスの側腹部に皮下注射し、2×106個の細胞/匹とした。腫瘍の直径が0.8~1cmになるまで待ち、大きすぎる腫瘍及び小さすぎる腫瘍を除去し、腫瘍の大きさが基本的に一致したマウスを割付けた。p-var7単独注射群10匹、p-var7と1G12の併用注射群10匹、p-var7と1G1の併用注射群10匹、生理食塩水N.S注射群10匹の計4群に割付けた。3日ごとに腫瘍の大きさを測定した。
【0146】
(2)投与方法:p-var7の投与:1匹あたり1回に40μM/100μl(約16μg。前記生体イメージングの実験結果を参照。同じ用量を注射し、蛍光が腫瘍部位に集中していることが観察されたが、3日目には基本的に消失した)を静脈注射した。割付け完了後、その日に注射を開始し、1日1回注射し、2日に1回注射した。抗体の投与:腹腔注射し、用量5mg/kg(抗体及びp-var7のモル比は約1:5)とし、注射頻度はp-var7と同じとし、注射時間はp-var7投与後6~12時間とし、終了までこれを行った。
【0147】
(3)結果:
結果は、図4及び図5に示す通りであった。1G12は、腫瘍の増殖を著しく抑制することができ、2週目での抑制率は50%であったが、1G1には顕著な腫瘍抑制効果が認められなかった。治療過程において、マウスの体質の状况は良好であり、活動の低下、下痢、体重減少などの症状は認められなかった。図6は、マウスの体重が変わらなかったことを示している。病理の結果、治療群のマウスの肝臓、腎臓、肺、脾臓、腸の臓器に器質的な変化は認められなかった(図7~11)。
【0148】
実施例5 her2の第IVドメイン-pHLIPの合成
1、原核の発現
ステップ:
菌種の作製
配列番号21で示されるアミノ酸配列によりDNA配列を設計し全遺伝子の合成を行った。合成時に酵素切断部位Nde I及びXho I配列を両端に連結し、この2種類の酵素を用いて、それぞれher2の第IVドメイン-pHLIPを切断し、核酸及びPET28aベクターをコードした。酵素切断セグメント及びベクターを回収し、T4リガーゼを用いてコンピテントセルBL21(DE3)を連結し、平板培地で培養し、クローンを選別してシークエンシングした。
【0149】
培養誘導
シークエンシングが正確なクローンを培養し(LB培地、37℃)、OD値が0.6~0.8になったときに誘導し、IPTGを加えて誘導し、IPTGの最終濃度を0.5mMとし、4~6時間遠心して菌を回収した。
【0150】
2、封入体の精製
ステップ:
(1)封入体の洗浄
A液:50mMのTris、2mMのEDTA、pH8.0、2回洗浄。
B液:50mMのTris、2mMのEDTA、0.1%のTriton、pH8.0、1回洗浄。
C液:20mMのTris、1M尿素、pH8.0、1回洗浄。
【0151】
(2)リフォールディング、ニッケルカラムの精製
抽出:8M尿素、5mMのβ-Me、0.3MのNaCl、20mMのTrisを用いて、pH8.0で封入体を抽出し、抽出比は1:20とした。
【0152】
リフォールディング透析:目的タンパクに10mMのβ-Meを加え、40℃で15分間還元し、0.2mg/mlまで希釈し、10mMのPB、50μMのCuCl2を用いて、pH8.0で試料を透析し、透析液を3回交換し、遠心して上清を収集した。
【0153】
Niカラムの精製:0.3MのNaCl、10mMのPBを用いて、pH8.0でカラムを平衡化し、試料を入れた後、40mMイミダゾールを含む平衡化バッファーを用いて洗浄し、300mMイミダゾールを含む平衡化バッファーを用いて目的タンパクを溶出した。目的タンパクの純度は95%を超えた。
【0154】
脱塩:20mMのPB、0.1MのNaClに脱塩した。
【0155】
(3)SDS-PAGE
ステップ(2)で処理した試料にSDS-PAGEを行った。結果は、図12に示す通りであった。本実験により、本発明の組成物を分離精製することができた。注:図12において、レーン1:GJ封入体リフォールディング;レーン2:試料逃げ;レーン3及び4:緩存液平衡化;レーン5:40mMのイミダゾール溶出;レーン6:300mMイミダゾール溶出;レーン7:マーカー。
【0156】
実施例6 in vitro培養した腫瘍細胞におけるher2の第IVドメイン-pHLIPの位置決め
1、細胞培養
A549細胞を、10%ウシ胎児血清、160万単位ゲンタマイシン/mlを含有するDMEM培地で、37℃で、5%のCO2インキュベーターの中で培養した。細胞が一面に増殖した後、1:10で継代培養した。
【0157】
2、位置決めの共焦点観察
A549細胞(5×105/ウェル)を、カバースリップ(coverslip)シャーレで1晩培養し、培養上清を捨て、pH6.3及び7.4のPBSをそれぞれ加え、実施例5で発現したher2の第IVドメイン-pHLIP(60μg/ml)を加え、37℃で1時間培養し、上清を捨て、対応するpHのPBSで3回洗浄し、pH6.3及び7.4のPBSを加えた。トラスツズマブ-FITC又はTGLA-FITC(対照抗体)(濃度はいずれも1:400で希釈)を加え、37℃で30分間培養し、上清を捨て、対応するpHのPBSで3回洗浄し、pH7.4のPBSを加え、共焦点観察した。割付け:(1)pH6.3未処理群;(2)pH6.3組成物(her2の第IVドメイン-pHLIP);(3)pH6.3組成物(her2の第IVドメイン-pHLIP)+トラスツズマブ-FITC;(4)pH6.3組成物(her2の第IVドメイン-pHLIP)+TGLA-FITC;(5)pH7.4組成物(her2の第IVドメイン-pHLIP)+トラスツズマブ-FITC;(6)pH7.4トラスツズマブ-FITC。
【0158】
3、結果
図13に示すように、ヒト肺癌細胞株A549でHer2が発現しなかった。
【0159】
図14に示すように、中性溶液環境では、本発明の組成物は、A549の細胞膜に挿入することができず、細胞膜上でHer2の第IVドメインを示すことができなかった。
【0160】
図15に示すように、酸性溶液環境では、本発明の組成物は、A549の細胞膜に挿入することができ、且つ細胞膜上に示されるHer2の第IVドメインをトラスツズマブが識別することができた。
【0161】
上記結果から、低pH挿入ペプチドをHer2の第IVドメインに連結することは、その低pH挿入ペプチドを細胞膜に挿入する特性に影響しないとともに、Her2の第IVドメインと低pH挿入ペプチドの連結は、その立体配座にも影響しないことが明らかになった。
【0162】
実施例7 Her2の第IVドメイン-pHLIP及びherceptinによる腫瘍治療効果の評価
実験材料:A549細胞は、ATCCから購入した。Her2の第IVドメイン-pHLIP(Her2 D4-pHLIP)原核発現。Herceptinは、ロシュ製薬から購入した。6~8週齢の雄性ヌードマウスは、Vital Riverから購入した。
【0163】
試験手順:
A549をヌードマウスに接種し、腫瘍の直径が1cmになったときに、腫瘍を無菌剥離し、切り刻み、ホモジネートし、ろ過して、単細胞懸濁液を作製した。1640完全培地で培養して増殖し、細胞をヌードマウスの側腹部に皮下注射し、1×106個の細胞/匹とした。腫瘍の直径が0.5~1cmになるまで待ち、大きすぎる腫瘍及び小さすぎる腫瘍を除去し、腫瘍の大きさが基本的に一致したマウスを割付けた。Her2 D4-pHLIP単独注射群10匹、Her2 D4-pHLIPとherceptinの併用注射群10匹、Her2 D4-pHLIPとIgG1の併用注射群10匹、生理食塩水N.S注射群10匹の計4群に割付けた。3日ごとに腫瘍の大きさを測定した。
【0164】
投与方法:Her2 D4-pHLIPの投与:1匹あたり1回に40μM/100μlを静脈注射した。割付け完了後、その日に注射を開始し、1日1回注射し、2日に1回注射した。抗体の投与:腹腔注射し、用量10mg/kgとし、注射頻度はHer2 D4-pHLIPと同じとし、注射時間はHer2 D4-pHLIP投与後6~12時間とし、終了までこれを行った。
【0165】
結果分析:
図16の結果に示すように、Herceptinは肺癌マウスの腫瘍増殖を著しく抑制した。
【0166】
以上の内容は、具体的な好ましい実施形態を結合して本発明に対して行ったさらなる詳細な説明であり、本発明の具体的な実施はこれらの説明のみに限定されると考えることはできない。本発明の所属技術分野の当業者は、本発明の趣旨を逸脱せずに、若干の簡単な修正または変更をさらに行うことができ、いずれも本発明の保護範囲に属するものとみなす。
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【配列表】
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