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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-18
(45)【発行日】2022-11-29
(54)【発明の名称】リチウムイオン二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/505 20100101AFI20221121BHJP
   H01M 4/525 20100101ALI20221121BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20221121BHJP
   C01G 53/00 20060101ALI20221121BHJP
【FI】
H01M4/505
H01M4/525
H01M10/052
C01G53/00 A
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2021027183
(22)【出願日】2021-02-24
(62)【分割の表示】P 2019106062の分割
【原出願日】2014-07-09
(65)【公開番号】P2021093370
(43)【公開日】2021-06-17
【審査請求日】2021-03-22
(31)【優先権主張番号】P 2013147170
(32)【優先日】2013-07-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2013198871
(32)【優先日】2013-09-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000153878
【氏名又は名称】株式会社半導体エネルギー研究所
(72)【発明者】
【氏名】川上 貴洋
(72)【発明者】
【氏名】吉富 修平
(72)【発明者】
【氏名】落合 輝明
(72)【発明者】
【氏名】米田 祐美子
(72)【発明者】
【氏名】門馬 洋平
(72)【発明者】
【氏名】瀬尾 哲史
(72)【発明者】
【氏名】三上 真弓
(72)【発明者】
【氏名】足立 駿介
【審査官】宮田 透
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2011/111364(WO,A1)
【文献】特開2007-200865(JP,A)
【文献】特開2011-233234(JP,A)
【文献】特開2008-091341(JP,A)
【文献】国際公開第2014/143834(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/00- 4/62
H01M 10/05-10/0587
C01G 45/00-45/12
C01G 53/00-53/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
LixMnyNizOwで表されるリチウムマンガン複合酸化物を有するリチウムイオン二次電池であって
前記リチウムマンガン複合酸化物は、0≦x/(y+z)<2、y>0、z>0、0.26≦(y+z)/w<0.5及び0.2<z/y<1.2を満たし、
前記リチウムマンガン複合酸化物は一つの粒子がスピネル型構造と、前記スピネル型構造と接する層状岩塩型構造とを有し、
前記スピネル型構造は、前記層岩塩型構造の表面に設けられ、
前記リチウムイオン二次電池は、正極を前記リチウムマンガン複合酸化物とし、負極とリチウム金属としたときに、放電容量が200mAh/g以上であるリチウムイオン二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、物、方法、または、製造方法に関する。または、本発明は、プロセス、マシン
、マニュファクチャ、または、組成物(コンポジション・オブ・マター)に関する。特に
、本発明の一態様は、半導体装置、表示装置、発光装置、蓄電装置、記憶装置、それらの
駆動方法、または、それらの製造方法に関する。特に、本発明の一態様は、二次電池の構
造及びその作製方法に関する。特にリチウムイオン二次電池の正極活物質に関する。
【背景技術】
【0002】
二次電池としては、ニッケル水素電池や、鉛蓄電池や、リチウムイオン二次電池などが挙
げられる。
【0003】
これらの二次電池は、携帯電話などで代表される携帯情報端末の電源として用いられてい
る。中でも、リチウムイオン二次電池は、高容量、且つ、小型化が図れるため、開発が盛
んに行われている。
【0004】
リチウムイオン二次電池において、正極活物質として例えば、特許文献1に示されている
、リン酸鉄リチウム(LiFePO)、リン酸マンガンリチウム(LiMnPO)、
リン酸コバルトリチウム(LiCoPO)、リン酸ニッケルリチウム(LiNiPO
)などの、リチウムと鉄、マンガン、コバルトまたはニッケルとを含むオリビン構造を有
するリン酸化合物などが知られている。
【0005】
また、正極活物質として例えばLiCoOやLiMnOなどの層状岩塩型構造を有
する化合物が知られている。また、例えばLiMnなどのスピネル構造を有する化
合物が知られている。これらの化合物は、正極活物質としての電池の挙動のみでなく、例
えば非特許文献1や非特許文献2に示されているように、磁性などの物性についても広く
研究されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開平11-25983号公報
【文献】Sanghyun Lee et al.,”Antiferromagnetic ordering in Li2MnO3 single crystals with a two-dimensional honeycomb lattice”,JOURNAL OF PHYSICS:CONDENSED MATTER,2012,Vol.24,456004,p1-9
【文献】Kazuhiko Mukai et al.,”Magnetic Properties of the chemically delithiated Li(x)Mn2O4 with 0.07≦x≦1”,Journal of Solid State Chemistry,2011,Vol.184,issue 5,p.1096-1104
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
リチウムイオン二次電池の正極活物質としてLiCoOが用いられている。しかし、L
iCoOの原料であるコバルトは、原料価格が高価である。そこで、低コストで作製で
きる正極活物質を提供することを課題の一とする。
【0008】
または、正極活物質に吸蔵可能な、または放出可能なリチウムイオンの量を増大させ、二
次電池としての容量を増大させ、且つ、高いエネルギー密度を実現することを課題の一と
する。
【0009】
または、リチウムイオン二次電池の正極活物質として要求される特性として、イオン伝導
度及び電子伝導度が高いことが望まれる。従って、イオン伝導度及び電子伝導度が高い正
極活物質を提供することを課題の一とする。または、新規な物質を提供することを課題の
一とする。または、新規な正極活物質を提供することを課題の一とする。
【0010】
または、リチウムイオン二次電池の正極として、容量を増大させ、且つ、高いエネルギー
密度を実現することを課題の一とする。または、新規な電池を提供することを課題の一と
する。または、新規なリチウムイオン二次電池を提供することを課題の一とする。
【0011】
または、リチウムイオン二次電池として、容量を増大させ、且つ、高いエネルギー密度を
実現することを課題の一とする。
【0012】
または、信頼性の高いリチウムイオン二次電池を提供することを課題の一とする。
【0013】
なお、これらの課題の記載は、他の課題の存在を妨げるものではない。なお、本発明の一
態様は、必ずしも、これらの課題の全てを解決する必要はない。なお、これら以外の課題
は、明細書、図面、請求項などの記載から、自ずと明らかとなるものであり、明細書、図
面、請求項などの記載から、これら以外の課題を抽出することが可能である。
【課題を解決するための手段】
【0014】
リチウムマンガン複合酸化物とは、少なくともリチウムとマンガンを含む酸化物であり、
その他の金属やシリコンおよびリンなどの元素を含んでいてもよい。また、リチウムマン
ガン複合酸化物をリチウムイオン二次電池の正極材料として用いた場合には、充電により
リチウムが放出されてもよい。
【0015】
本発明の一態様は、LiMnで表されるリチウムマンガン複合酸化物におい
て、Mはリチウム、マンガン以外から選ばれた金属元素、またはシリコン、リンであり、
y,z,wはy>0とz>0とw>0かつ0.26≦(y+z)/w<0.5を満たし、
リチウムマンガン複合酸化物は層状岩塩型の結晶構造を有するリチウムマンガン複合酸化
物である。
【0016】
または、本発明の一態様は、LiMnで表されるリチウムマンガン複合酸化
物において、Mはリチウム、マンガン以外から選ばれた金属元素、またはシリコン、リン
であり、y,z,wはy>0とz>0とw>0かつ0.26≦(y+z)/w<0.5を
満たし、リチウムマンガン複合酸化物は一つの粒子がスピネル型の結晶構造と、該スピネ
ル型の結晶構造と接する層状岩塩型の結晶構造とを有するリチウムマンガン複合酸化物で
ある。
【0017】
または、本発明の一態様は、LiMnで表されるリチウムマンガン複合酸化
物において、Mはリチウム、マンガン以外から選ばれた金属元素、またはシリコン、リン
であり、0≦x/(y+z)<2かつy>0かつz>0かつ0.26≦(y+z)/w<
0.5かつ0.2<z/y<1.2を満たすリチウムマンガン複合酸化物である。
【0018】
また、本発明の一態様は、LiMnで表されるリチウムマンガン複合酸化物
において、Mはリチウム、マンガン以外から選ばれた金属元素、またはシリコン、リンで
あり、0≦x/(y+z)<2かつy>0かつz>0かつ0.26≦(y+z)/w<0
.5を満たし、リチウムマンガン複合酸化物は、少なくとも層状岩塩型構造である結晶を
有し、前記層状岩塩型構造である結晶は空間群C12/m1に属し、前記層状岩塩型構造
である結晶は、2bサイトのMnの占有率とMで表される元素の占有率の和が40%以上
であるリチウムマンガン複合酸化物である。
【0019】
なお、上記構成において、Mで表される元素はNi、Ga、Fe、Mo、In、Nb、N
d、Co、Sm、Mg、Al、Ti、Cu、またはZnから選ばれた金属元素、Si、ま
たはPのいずれかであることが好ましい。特に、Niであることが好ましい。
【0020】
本発明の一態様は、LiMnNiで表されるリチウムマンガン複合酸化物にお
いて、0≦x/(y+z)<2かつy>0かつz>0かつ0.26≦(y+z)/w<0
.5を満たし、リチウムマンガン複合酸化物は、少なくとも空間群C12/m1に属する
層状岩塩型構造である結晶を有し、層状岩塩型構造である結晶のa軸の格子定数が0.4
94nm以上であり、b軸の格子定数が0.856nm以上であるリチウムマンガン複合
酸化物である。
【0021】
または、本発明の一態様は、LiMnで表されるリチウムマンガン複合酸化
物において、Mは、リチウム、マンガン以外から選ばれた金属元素、またはシリコン、リ
ンであり、1.35≦D/(y+z)<2かつy>0かつz>0かつ0.2<z/y<1
.2を満たすことを特徴とするリチウムマンガン複合酸化物である。また、上記構成にお
いて、前記Mで表される元素はNi、Ga、Fe、Mo、In、Nb、Nd、Co、Sm
、Mg、Al、Ti、Cu、またはZnから選ばれた金属元素、Si、またはPのいずれ
かであることが好ましい。
【0022】
また、本発明の一態様は、上記リチウムマンガン複合酸化物を用いた正極活物質層を正極
集電体上に設けた正極を含む。
【0023】
また、本発明の一態様は、上記正極を用いた電気機器を含む。
【発明の効果】
【0024】
低コストで作製できる正極活物質を提供することができる。
【0025】
または、正極活物質に吸蔵可能な、または放出可能なリチウムイオンの量を増大させ、二
次電池としての容量を増大させ、且つ、高いエネルギー密度を実現することができる。
【0026】
または、リチウムイオン二次電池の正極活物質として要求される特性として、イオン伝導
度及び電子伝導度が高いことが望まれる。従って、本発明の一態様によりイオン伝導度及
び電子伝導度が高い正極活物質を提供することができる。
【0027】
または、リチウムイオン二次電池の正極として、容量を増大させ、且つ、高いエネルギー
密度を実現することができる。
【0028】
または、リチウムイオン二次電池として、容量を増大させ、且つ、高いエネルギー密度を
実現することができる。
【0029】
または、新規な物質を提供することができる。または、新規な正極活物質を提供すること
ができる。または、新規な電池を提供することができる。または、新規なリチウムイオン
二次電池を提供することができる。
【0030】
本明細書で開示するリチウムマンガン複合酸化物は、構造的安定性に優れており、優れた
容量特性を示す。また、本明細書で開示するリチウムマンガン複合酸化物の製造工程は、
複数の原料を秤量し、ボールミルなどで粉砕し、混合させた後、焼成するシンプルな工程
で得られるため、原価節減の効果があり、大量生産時の生産性に優れている。
【0031】
また、本明細書で開示するリチウムマンガン複合酸化物の製造工程において、800℃以
上の高温で加熱すると、結晶性が高く、サイクル特性に優れている。
【0032】
なお、これらの効果の記載は、他の効果の存在を妨げるものではない。なお、本発明の一
態様は、必ずしも、これらの効果の全てを有する必要はない。なお、これら以外の効果は
、明細書、図面、請求項などの記載から、自ずと明らかとなるものであり、明細書、図面
、請求項などの記載から、これら以外の効果を抽出することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0033】
図1】本発明の一態様を示す生成エネルギーの計算結果を示す図。
図2】本発明の比較例を示す結晶構造を示す図。
図3】本発明の一態様を示す結晶構造を示す図。
図4】本発明の一態様を示す結晶構造を示す図。
図5】本発明の一態様を示す結晶構造を示す図。
図6】本発明の一態様を示す生成エネルギーの計算結果を示す図。
図7】本発明の一態様を示す結晶構造を示す図。
図8】本発明の一態様を示す結晶構造を示す図。
図9】本発明の一態様を示す結晶構造を示す図。
図10】本発明の一態様を示す結晶構造を示す図。
図11】本発明の一態様を示すリチウムイオン二次電池の充電時の概念図。
図12】本発明の一態様を示すリチウムイオン二次電池の放電時の概念図。
図13】本発明の一態様を示す放電容量と電圧の関係を示すグラフ及び比較例の放電容量と電圧の関係を示すグラフ。
図14】本発明の一態様を示す放電容量と組成の比の関係を示すグラフ。
図15】本発明の一態様を示すX線回折測定結果を示すグラフ。
図16】本発明の一態様を示す原子の占有率と組成の比の関係を示すグラフ。
図17】本発明の一態様を示す原子の占有率と組成の比の関係を示すグラフ。
図18】本発明の一態様を示す格子定数と組成の比の関係を示すグラフ。
図19】本発明の一態様を示す格子定数と組成の比の関係を示すグラフ。
図20】本発明の一態様を示す格子定数と組成の比の関係を示すグラフ。
図21】本発明の一態様を示すX線回折測定結果を示すグラフ。
図22】本発明の一態様を示すX線回折測定結果を示すグラフ。
図23】本発明の一態様を示すX線回折測定結果を示すグラフ。
図24】本発明の一態様を示すX線回折測定結果を示すグラフ。
図25】本発明の一態様を示すX線回折測定結果を示すグラフ。
図26】本発明の一態様を示すX線回折測定結果を示すグラフ。
図27】本発明の一態様を示すモデル図。
図28】本発明の一態様を示すモデル図。
図29】本発明の一態様を示す断面TEM写真。
図30図29の一部拡大写真。
図31】本発明の一態様を示す放電容量と電圧の関係を示すグラフ。
図32】比較例を示すモデル図。
図33】本発明の一態様を示す放電容量と電圧の関係を示すグラフ及び比較例の放電容量と電圧の関係を示すグラフ。
図34】実施例で得られたリチウムマンガン複合酸化物の放電容量と電圧の関係を示すグラフ。
図35】実施例で得られた二次電池の放電容量と電圧の関係を示すグラフ。
図36】コイン型の蓄電池を説明する図。
図37】円筒型の蓄電池を説明する図。
図38】ラミネート型の蓄電池を説明する図。
図39】可撓性を有するラミネート型の蓄電池を説明する図。
図40】蓄電装置の例を説明するための図。
図41】蓄電装置の例を説明するための図。
図42】蓄電装置の例を説明するための図。
図43】蓄電装置の例を説明するための図。
図44】蓄電装置の例を説明するための図。
図45】蓄電装置の応用形態を示す図。
図46】蓄電池の外観を示す図。
図47】蓄電池の外観を示す図。
図48】蓄電池の電極及び蓄電池の作製方法を説明するための図。
図49】本発明の一態様を示す放電容量と組成の比の関係を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下では、本発明の実施の形態について図面を用いて詳細に説明する。ただし、本発明は
以下の説明に限定されず、その形態および詳細を様々に変更し得ることは、当業者であれ
ば容易に理解される。また、本発明は以下に示す実施の形態及び実施例の記載内容に限定
して解釈されるものではない。
【0035】
(実施の形態1)
本実施の形態では、本発明の一態様であるリチウムマンガン複合酸化物の一例について説
明する。
【0036】
[1-1.リチウムマンガン複合酸化物]
本実施の形態では、リチウムマンガン酸化物であるスピネル型の結晶構造を有するLiM
2-Aと、層状岩塩型(α-NaFeO型)の結晶構造であるLiMn
-Bとを複合させたリチウムマンガン複合酸化物について説明する。なお、Mは
Li(リチウム)、Mn(マンガン)以外から選ばれた金属元素、またはSi、Pである
【0037】
前記リチウムマンガン複合酸化物は、層状岩塩型の結晶構造を有する一つの粒子の表面の
一部にスピネル型の結晶構造を有する。前記リチウムマンガン複合酸化物をリチウムイオ
ン二次電池の正極活物質として用いた場合、一つの粒子の表面の一部にスピネル型の結晶
構造を有することで、その領域(スピネル型の結晶構造部分)を介して粒子内部のリチウ
ム脱離やリチウム拡散が行われることで高い容量を実現できる。また、前記リチウムマン
ガン複合酸化物は、一つの粒子の表面に点在するように複数箇所にスピネル型の結晶構造
を有することが好ましい。なお、前記リチウムマンガン複合酸化物は、一つの粒子のうち
、層状岩塩型の結晶構造が占める領域は、スピネル型の結晶構造が占める領域よりも多い
ことが好ましい。
【0038】
また、上記一つの粒子には複数の結晶子が含まれており、結晶子の一つの大きさは一つの
粒子より小さく、具体的には1μm以下である。なお、一つの粒子が複数の結晶子を含ん
でいるかどうかは、高分解能型透過型電子顕微鏡(TEM:Transmission
Electron Microscope)で確認することができる。さらに高分解能型
TEM像(多波干渉像)を用いた高速フーリエ変換解析パターン(FFT(Fast F
ourier Transformation)パターン)において、結晶構造を同定す
ることができる。粉末X線回折パターンにおける標準鉱物データベースであるJCPDS
カードに記載された層状岩塩型のLiMnOのデータや、スピネル型のLiMn
のデータと比較することで結晶構造を同定することができる。従って、上記新規材料の
同一粒子内で複数箇所の同定を行えば、少なくともスピネル型の結晶構造に対応するスポ
ットと、層状岩塩型の結晶構造に対応するスポットが観察される。なお、結晶子とは、単
結晶と見なせる最大の集まりを言い、微小な単結晶を指している。なお、結晶子の一つの
大きさは、粉末X線回折法で得られる回折パターンのピークの広がりから計算(Sche
rrerの式)により得ることもできる。
【0039】
また、前記リチウムマンガン複合酸化物は、LiMn2―Aからなる結晶子(ス
ピネル型の結晶構造を有する結晶子)と、LiMn1-Bからなる結晶子(層
状岩塩型の結晶構造を有する結晶子)の複合材料とも言える。前記リチウムマンガン複合
酸化物の一つの粒子のモデル図を図27に示す。
【0040】
図27では、一つの粒子内に、スピネル型の結晶構造の結晶子201と、層状岩塩型の結
晶構造の結晶子202と、の両方が少なくとも存在していることを示している。図27
示すように、前記リチウムマンガン複合酸化物は、一つの粒子がスピネル型の結晶構造と
、該スピネル型の結晶構造と接する層状岩塩型の結晶構造とを有するリチウムマンガン複
合酸化物である。また、前記リチウムマンガン複合酸化物を正極活物質として用いるリチ
ウム電池を充電または放電する際、一つの粒子の表面に点在するスピネル型の結晶構造の
結晶子201を経由して同一粒子内に存在するLiMn1-Bのリチウム脱離
またはリチウム挿入が行われる。
【0041】
また、図28に示すように、前記リチウムマンガン複合酸化物は、例えばスピネル型の結
晶構造の結晶子201が一つの粒子の表面に広く存在していてもよい。
【0042】
本実施の形態により得られるリチウムマンガン複合酸化物をLiMn(Mは
Li(リチウム)、Mn(マンガン)以外から選ばれた金属元素、またはSi、P)とあ
らわす。LiMnにおいて、Mで表される元素としては、Ni、Ga、Fe
、Mo、In、Nb、Nd、Co、Sm、Mg、Al、Ti、Cu、またはZnから選ば
れた金属元素、Si、またはPが好ましく、さらにNiが最も好ましい。なお、ここでM
として選ばれる元素は必ずしも1種類でなくともよく、2種類以上の元素が含まれていて
もよい。
【0043】
[1-2.リチウムマンガン複合酸化物の合成]
LiMnで表されるリチウムマンガン複合酸化物の製造方法を以下に詳述す
る。ここでは元素MにNiを用いた例を示す。
【0044】
リチウムマンガン複合酸化物の原料は、例えばLiCOとMnCOとNiOを用い
ることができる。
【0045】
まず、それぞれの原料を所望のモル比率となるように秤量する。
【0046】
次に、これらの粉末にアセトンを加えた後、ボールミルで混合して混合粉末を調製する。
【0047】
次いで、アセトンを揮発させるための加熱を行い、混合原料を得る。
【0048】
次いで、坩堝に混合原料を入れ、800℃以上1100℃以下で第1の焼成を行い、新規
材料を合成する。焼成時間は5時間以上20時間以下とする。焼成雰囲気は大気とする。
【0049】
次いで、焼成した粒子の焼結を解くために解砕処理を行う。解砕処理は、アセトンを加え
た後、ボールミルで混合する。
【0050】
次いで、解砕処理後にアセトンを揮発させるための加熱を行い、その後、真空乾燥を行い
粉末状の新規材料を得る。
【0051】
また、結晶性を高める目的や、結晶を安定化させる目的のために、第1の焼成を行った後
、更に第2の焼成を行ってもよい。第2の焼成は、例えば500℃以上800℃以下の焼
成を行えばよい。
【0052】
第2の焼成の焼成雰囲気は、例えば窒素雰囲気でもよい。
【0053】
本実施の形態では、出発材料としてLiCOとMnCOとNiOを用いたが、特に
限定されず、他の材料を用いてもよい。
【0054】
ここで例えば、秤量の割合(原料の仕込み比とも呼ぶ)を異ならせ、層状岩塩型の結晶構
造とスピネル型の結晶構造の複合酸化物を得ることもできる。
【0055】
秤量の割合とは、用いた原料のモル比である。例えば、原料としてLiCO:MnC
:NiO=1:1.5:0.5を用いた場合には、MnCOとNiOの比は、Mn
CO/NiO=1.5÷0.5=3である。また、例えば「Ni/Mn比(原料仕込み
比)」や、「NiとMnの原料仕込み比」と記載した場合には、用いた原料のうち、Ni
とMnのモル比を示すこととする。例えば、原料としてLiCO:MnCO:Ni
O=1:1.5:0.5を用いた場合には、Li/Ni比はLi/Ni=(1×2)÷0
.5=4であり、Mn/Ni比はMn/Ni=1.5÷0.5=3である。
【0056】
ここで秤量の割合を異ならせる思想について説明する。
【0057】
スピネル型構造を有するLiMnのLiとMnの原子数比はLi:Mn=1:2で
あり、層状岩塩型構造LiMnOのLiとMnの原子数比はLi:Mn=2:1であ
る。よって、Liに対するMnの比を1/2より割合を高めることにより、例えばスピネ
ル型構造の割合を高めることができる。
【0058】
LiCOとMnCOを出発原料として約2%のスピネル型結晶構造の結晶子201
が含まれる例を用いて説明する。
【0059】
LiCOとMnCOが0.98:1.01(LiCO:MnCO)となるよ
うに秤量し、ボールミルなどで粉砕し、800℃以上1100℃以下の温度で焼成する。
【0060】
なお、約2%のスピネル型の結晶構造の結晶子201が含まれるようにするとは、約98
%の層状岩塩型の結晶構造の結晶子202と等価である。
【0061】
また、約5%のスピネル型の結晶構造の結晶子201が含まれるようにする場合、Li
COとMnCOが0.955:1.03(LiCO:MnCO)となるように
秤量し、ボールミルなどで粉砕し、焼成する。
【0062】
また、約50%のスピネル型の結晶構造の結晶子201が含まれるようにする場合、Li
COとMnCOが0.64:1.28(LiCO:MnCO)となるように
秤量し、ボールミルなどで粉砕し、焼成する。
【0063】
上記新規材料は、原料の仕込み比を意図的にずらすことで、約2%以上約50%以下のス
ピネル型の結晶構造の結晶子201が含まれるように秤量し、製造する。
【0064】
以上が秤量の割合を異ならせる思想である。
【0065】
ここで、所定の割合のスピネル型構造の結晶子が含まれるように原料を秤量した場合でも
、実際に製造されるリチウムマンガン複合酸化物において、スピネル型構造の結晶子の割
合が異なる場合がある。後の実施例に詳細を示すが、本発明の一態様であるリチウムマン
ガン複合酸化物は、LiMnOのLiサイトの一部にMnが置換された構造を有するこ
とが示唆された。よって、仕込み比をずらす場合、つまりLiに対するMnの比を高める
場合、増えたMnはスピネル型構造の結晶子の形成と、層状岩塩型構造のLiMnO
Liサイトの一部へのMnの置換との、両方に寄与する可能性がある。
【0066】
なお、ここでは簡単のためNiを含まない例について説明したが、Niを含む場合も同様
である。
【0067】
仕込み比をずらすことによって、層状岩塩型の結晶構造を有する一つの粒子の表面の一部
にスピネル型の結晶構造を有するリチウムマンガン複合酸化物を作製する。
【0068】
本実施の形態を用いて得られる新規材料の断面TEM写真を図29に示す。
【0069】
また、図29中に存在する複数の粒子のうち、一つの粒子の拡大図を図30に示す。図3
0に示すように黒点線で囲んだ領域が、スピネル型の結晶構造の結晶子201であり、白
点線で囲んだ領域が層状岩塩型の結晶構造の結晶子202である。
【0070】
図30中の黒点線で囲んだ領域の一部をFFT解析の測定範囲とし、FFTパターンを得
ると、スポットの位置関係(距離、角度)からJCPDSカードに記載されたスピネル型
のLiMnのデータ(入射角や回折強度)と対応がとれ、この領域がスピネル型の
結晶構造であると同定することができる。
【0071】
また、図30中の白点線で囲んだ領域の一部をFFT解析の測定範囲とし、得られるFF
Tパターンと、JCPDSカードに記載された層状岩塩型のLiMnOのデータ(入
射角や回折強度)との、スポットの位置関係(距離、角度)を比較し、この領域が層状岩
塩型の結晶構造であると同定することができる。
【0072】
次に、得られるリチウムマンガン複合酸化物の放電容量を図31に示す。縦軸が電圧(V
)であり、横軸が放電容量(mAh/g)である。新規材料は、本実施の形態で得られる
リチウムマンガン複合酸化物を示す。
【0073】
なお、比較例1として図32(A)と、比較例2として図32(B)を示す。上記新規材
料は、これら比較例1、2とは構成が大きく異なっており、また、特性も大きく異なる。
図32(A)においては、複数の粒子の混合物、即ち、一つの粒子サイズが数μmのスピ
ネル型の結晶構造の粒子(Spi-LiMn粒子204)と、一つの粒子サイズが
数μmの層状岩塩型の結晶構造のLiMnO粒子203の混合物を示している。また
、さらに図32(A)に示す混合物を高温(例えば1000℃)で焼結された材料205
図32(B)に示す。これらの比較例1、2において、LiMnO粒子203を得
る際には、LiCO(炭酸リチウム)とMnCO(炭酸マンガン)を1:1で秤量
し、ボールミルなどで粉砕し、焼成する。また、Spi-LiMn粒子204を得
る際には、LiCOとMnCOが0.5:2(LiCO:MnCO)となる
ように秤量し、ボールミルなどで粉砕し、焼成する。
【0074】
比較例1は図32(A)に対応する比較例であり、数μmのスピネル型の結晶構造の粒子
(Spi-LiMn粒子204)と、一つの粒子サイズが数μmの層状岩塩型の結
晶構造のLiMnO粒子203とを別々に合成し、それらを混合させたサンプルであ
る。
【0075】
比較例2は図32(B)に対応する比較例であり、比較例1を1000℃で焼成したサン
プルである。
【0076】
図31からわかるように、得られるリチウムマンガン複合酸化物の放電容量は、比較例1
及び比較例2と比べて、優れた値となっている。このように、得られる層状岩塩型の結晶
構造を有する一つの粒子の表面の一部にスピネル型の結晶構造を有するリチウムマンガン
複合酸化物は、高容量を示す。
【0077】
なお、一般式LiM(Mは金属元素またはSi、P)で表されるスピネル型の結晶
構造と比較して、一般式LiMO(Mは金属元素またはSi、P)で表される層状岩
塩型の結晶構造はM1つと、Liを2つ有し、Liが全て充放電に寄与すれば高い容量が
得られる材料である。しかし比較例1、比較例2に示す通り、LiMやLiMO
の単体を混合した物に比べて、図31に示すように、本発明の一態様として得られる複
合酸化物としての放電容量の方がはるかに大きい。しかし容量の小さいスピネル型の結晶
構造の配合が多くなり過ぎると、得られるリチウムマンガン複合酸化物の容量も小さくな
る。スピネル型の結晶構造をいかに少なく配合してリチウムマンガン複合酸化物を合成し
、高容量を得るかが重要である。
【0078】
リチウムマンガン複合酸化物LiMn(MはLi(リチウム)、Mn(マン
ガン)以外から選ばれた金属元素、またはSi、P)において、スピネル型LiMn
(MはLi(リチウム)、Mn(マンガン)以外から選ばれた金属元素、またはS
i、P)が100%の場合にはx=1,(y+z)/w=0.5を満たし、層状岩塩型L
MnOが100%の場合はx=2,(y+z)/w=0.333を満たす。なお、
ここでxは充放電に伴い変化し、正極からのリチウム脱離により増加し、挿入により減少
する。但しここに示したx,y、z,wの値は理想的な場合であり、例えば合成の過程な
どで遷移金属あるいは酸素のいずれかが少なくなった場合には、20%程度は変動するこ
ともあり得る。以上より、xはx≦2.2を満たし、y,z,wはy>0とz>0とw>
0かつ0.26≦(y+z)/w<0.5を満たす。また、スピネル型の結晶構造が占め
る割合が少ない方が好ましいことを考慮すると、y,z,wは更に好ましくは0.3≦(
y+z)/w≦0.45を満たす。
【0079】
本実施の形態は、他の実施の形態と適宜組み合わせて実施することが可能である。
【0080】
(実施の形態2)
本実施の形態では、本発明の一態様であるリチウムマンガン複合酸化物について説明する
【0081】
[2-1.リチウムマンガン複合酸化物:LiMn
発明者らは、LiMnで表されるリチウムマンガン複合酸化物をリチウムイ
オン二次電池の正極材料に用いた場合に、高い容量が得られることを見出した。また、容
量はMnと元素Mの比に依存し、その比がある範囲をとる場合に、より高い容量を発現す
ることが示唆された。
【0082】
ここで、本発明の一態様であるLiMnで表されるリチウムマンガン複合酸
化物の元素M、x、y、z、wについて説明する。元素Mは、リチウムおよびマンガン以
外から選ばれた金属元素、シリコンまたはリンであることが好ましく、x,y,z,wは
、0≦x/(y+z)<2かつy>0かつz>0かつ0.26≦(y+z)/w<0.5
を満たすことが好ましい。また、Mnと元素Mの比z/yは、好ましくは0.2より大き
く1.2より小さい値であり、より好ましくは0.2より大きく0.9以下であり、さら
に好ましくは0.25以上0.6以下である。
【0083】
さらに、本実施の形態に示すリチウムマンガン複合酸化物LiMnにおいて
、元素MとしてNiを用いた場合、Mnに対するNiの比(Ni/Mn)を0.276以
上とすることで、該リチウムマンガン複合酸化物を正極に含まれる正極活物質層に用いた
電池の容量を高めることができる。但し、Mnに対するNiの比(Ni/Mn)は、原料
の仕込み比である。
【0084】
また、リチウムマンガン複合酸化物LiMnにおいて、リチウムサイトの一
部にMnまたはMが置換している。元素MとしてNiを用いた場合、Mnに対するNiの
比(Ni/Mn、但し原料の仕込み比)が0.2より大きい場合、好ましくは0.276
以上の場合、2bサイト、2cサイトおよび4hサイトにNiあるいはMnが占有してい
る。また、2bサイトにおけるNiの占有率とMnの占有率の合計が40%以上、より好
ましくは40%以上85%以下、さらに好ましくは40%以上75%以下である。また、
2cサイトおよび4hサイトにおけるNiの占有率と、2cサイトおよび4hサイトにお
けるMnの占有率との合計が0.2%以上、より好ましくは0.5%以上である。
【0085】
2bサイト、2cサイトおよび4hサイトのうちいずれか、または複数のサイトが、Ni
またはMnに占有されることにより、結晶における歪み、電子状態の変化等が生じ、Li
の拡散が起こりやすくなる。この結果、該リチウムマンガン複合酸化物を正極に含まれる
正極活物質層に用いた電池の容量を高めることができる。
【0086】
なお、ここでは、リチウムマンガン複合酸化物LiMnのMの代表例として
Niを用いて説明しているが、適宜リチウム及びマンガン以外から選ばれた金属元素、シ
リコン、またはリンを用いても同様の効果を得ることができる。
【0087】
[2-2.X線回折]
ここで、リチウムマンガン複合酸化物LiMnの一例として、MにNiを用
い、且つMnに対するNiの原料仕込み比(Ni/Mn)が0.276以上の条件を用い
て得られたリチウムマンガン複合酸化物LiMnにおいて、X線回折測定(
XRD:X-Ray Diffraction)によって特定される結晶構造について説
明する。
【0088】
[2-3.リートベルト解析1]
リートベルト解析(Rietveld解析)を用いることにより、リチウムマンガン複合
酸化物の結晶構造データを得ることができる。解析ソフトには、ブルカー・エーエックス
エス社のTOPAS(DIFFRAC PLUS TOPAS Version3)を用
いる。得られるリチウムマンガン複合酸化物が第一相と第二相を有すると仮定し、X線回
折測定をもとにリートベルト解析を行う。第一相は、空間群C12/m1に属する層状岩
塩型構造のLiMnOを初期状態とし、第二相は空間群Fd-3mに属するスピネル
構造のLiMnを初期状態としてフィッティングを行う。表1に層状岩塩型構造(
C12/m1)のLiMnOの結晶情報を示す。また表2にスピネル構造(Fd-3
m)のLiMnの結晶情報を示す。表1に用いた値は非特許文献1から引用し、表
2に用いた値はTOPAS(DIFFRAC PLUS TOPAS Version3
)のデータベースより引用した。そのため、表現は少し異なるが、非特許文献2に記載の
結晶情報と同様のものを表現している。なお、フィッティングを行った後の座標は、初期
の座標からは変化することがあるが、対称性が大きく崩れるほどには変化しない。なお、
ここで、計算の際に「Preferred Orientation」の設定を行い、S
pherical Harmonicsのアルゴリズムを用いた。
【0089】
【表1】
【0090】
【表2】
【0091】
ここで、Bは、デバイ・ワラー因子と呼ばれる温度因子である。リートベルト解析により
、空間群C12/m1に属する層状岩塩型構造と空間群Fd-3mに属するスピネル構造
の重量比率を求めたところ、Ni/Mnの原料仕込み比が0.276以上の条件では、ス
ピネル構造の重量比率は約1.1%以下であることがわかった。
【0092】
[2-4.リートベルト解析2]
次に、各サイトについて原子の占有率をより詳細に調べるため、層状岩塩型構造の2bサ
イト、2cサイトおよび4hサイトの3つのサイトについて、Li、MnおよびNiの占
有率の計算を行う。なお、表1に示す通り、空間群C12/m1に属する層状岩塩型構造
のLiMnOでは、2b、2c、4hはいずれもLiが占有するサイトである。ここ
では、得られるリチウムマンガン複合酸化物LiMnは層状岩塩型構造の単
層であると仮定してリートベルト解析を行い、原子の占有率を求める。ここで占有率とは
、ある原子がそのサイトに存在する確率である。
【0093】
なお、NiとMnは、X線散乱能の差が小さいため、その区別が難しい。よって、ここで
はNiの占有率とMnの占有率の和について議論する。
【0094】
元素Xの2bの占有率をA(X)2b、2cの占有率をA(X)2c、4hの占有率をA
(X)4hとする。なお2cサイトおよび4hサイトは、LiMnOにおいて、およ
そ層状に分布しているという特徴がある。よってここでは4hサイトと2cサイトを合わ
せた占有率を計算することとする。4hサイトは2cサイトの2倍のサイトが存在するた
め、4hサイトと2cサイトを合わせた占有率A(X)2c+4hを式(1)の通り定義
する。
【0095】
A(X)2c+4h={A(X)2c×1+A(X)4h×2}÷(1+2) (1)
【0096】
ここで例えば、元素Mの2bの占有率は、A(M)2bのように表すことができる。また
、Mnの2bの占有率は、A(Mn)2bのように表すことができる。
【0097】
ここで、Ni/Mnの原料仕込み比が0.276以上の条件では、A(Ni)2bとA(
Mn)2bの和:{A(Ni)2b+A(Mn)2b}は57.8%以上、A(Ni)
c+4hとA(Mn)2c+4hの和:{A(Ni)2c+4h+A(Mn)2c+4h
}は、およそ1%以上と求められた。
【0098】
[2-5.生成エネルギーの計算]
空間群C12/m1に属する層状岩塩型構造のLiMnOにおいて、各原子位置にN
iを置換し、その電子状態および生成エネルギーを算出する。Ni置換の生成エネルギー
の算出には、以下の式(2)を用いる。
【0099】
LiMnO+xNiO→Li2-xNiMnO+xLiCO (2)
【0100】
LiMnO、NiO、Li2-xNiMnO、LiCOのそれぞれの凝集エネ
ルギーをE、E、E、Eとすると、生成エネルギーEformは以下の式(3)
で表される。
【0101】
form=E+E-(E+E) (3)
【0102】
表3に示す条件により、電子状態および生成エネルギーについて数値的な評価を行った。
なお、電子状態の評価には、VASP(Vienna Ab-initio Simul
ation Package)を用いて行った。
【0103】
【表3】
【0104】
なお、計算に用いたスーパーセル内の原子の数は、Liが32個、Mnが16個、酸素が
48個である。ここでスーパーセルとは、単位格子(ユニットセル)を結晶軸方向に自然
数倍し、結晶の周期単位として定義し直した結晶格子を意味する。ここでは単位格子(ユ
ニットセル)に対し、2×1×2のスーパーセルを用いている。ただし、LiMnO
の単位格子(ユニットセル)はLiが8個、Mnが4個、Oが12個である。k点とは逆
格子空間における格子点であり、k点サンプリング幅とは、逆格子空間においてサンプリ
ングを行う間隔である。
【0105】
[2-5.A. 1サイト置換の場合]
2bサイト、2cサイトまたは4hサイトのいずれかにNiが置換した場合を条件(A1
)とする。条件(A1)は、以下の式(4)に示す化学式で表される。
【0106】
Li32―1Mn16NiO48 (4)
【0107】
次に、4gサイトにNiが置換した場合を条件(A2)とする。条件(A2)は、以下の
式(5)に示す化学式で表される。
【0108】
Li32Mn16―1NiO48 (5)
【0109】
まず、Ni置換前のLiMnOの結晶構造を図2に示す。次に、(A1)および(A
2)のそれぞれの生成エネルギーを算出した結果を図1に示す。図1より、(A1)の最
小値と(A2)の最小値を比較すると、(A1)の方が必要とする生成エネルギーが小さ
く、(A2)の方が大きいことが示唆された。よって4gサイト、すなわちLiMnO
におけるMn原子の存在するサイトへのNi置換は、2bサイト、2cサイトおよび4
hサイトへのNi置換と比較して、起こりにくいことが推測される。
【0110】
なお、図1の計算結果に対応する結晶構造の図を図3乃至図5に示す。図3および図4
、いずれも条件(A1)に対応する配置の例を示している。図3図1に示す(A1)の
生成エネルギーのうち、最もエネルギーが高かった配置を示しており、4hサイトにNi
が置換する条件の一つである。また、図4は生成エネルギーが最も低かった配置を示して
おり、2bサイトにNiが置換する条件の一つである。
【0111】
また、図5は、条件(A2)を示す図の一例である。
【0112】
[2-5.B. 2サイト置換の場合]
2b、2cおよび4hサイトのいずれかに2つのNi原子が置換した場合を条件(B1)
とする。条件(B1)は、以下の式(6)に示す化学式で表される。
【0113】
Li32-2Mn16Ni48 (6)
【0114】
次に、2b、2cおよび4hのいずれかのサイトに1つのNi原子が置換し、4gサイト
に1つのNi原子が置換した場合を条件(B2)とする。条件(B2)は、以下の式(7
)に示す化学式で表される。
【0115】
Li32-1Mn16-1Ni48 (7)
【0116】
次に、4gサイトに2つのNi原子が置換した場合を条件(B3)とする。条件(B3)
は、以下の式(8)に示す化学式で表される。
【0117】
Li32Mn16-2Ni48 (8)
【0118】
図6に、(B1)、(B2)および(B3)に対応する生成エネルギーを計算した結果を
示す。条件(B3)、すなわち4gサイトのNi置換の生成エネルギーはきわめて高いこ
とがわかる。一方、条件(B2)、すなわち2b、2cおよび4hサイトのいずれかがN
i原子に置換され、かつ4gサイトも置換する場合には、Ni置換の生成エネルギーは低
くなることがわかる。
【0119】
なお、図6の計算結果に対応する結晶構造の図の一例を図7乃至図10に示す。なお、図
7乃至図10に示す図は、計算に用いたスーパーセルの1単位よりは少し大きい。スーパ
ーセルの1単位は、Liが32個、Mnが16個、酸素が48個であるが、図7乃至図1
0ではそれよりも多い原子を示す。
【0120】
図7および図8は、いずれも条件(B1)に対応する配置の例を示している。図7図6
に示す(B1)の生成エネルギーのうち、最もエネルギーが高かった配置であり、一つの
Ni原子は2bサイトに置換し、もう一つのNiは2cサイトに置換する条件の一つであ
る。また、図8は生成エネルギーが最も低かった配置であり、2bサイトに二つのNi原
子が置換する条件の一つである。なお、図8では置換した原子同士が近くに配置している
のも特徴である。
【0121】
次に、図9および図10は、いずれも条件(B2)に対応する配置の例を示している。図
9は図6に示す(B2)の生成エネルギーのうち、最もエネルギーが高かった配置を示し
ており、一つのNi原子は2bサイトに置換し、もう一つのNiは4gサイトに置換する
条件の一つである。
【0122】
また、図10は、図6に示す(B2)の生成エネルギーのうち生成エネルギーが最も低か
った配置を示す。図10図9と同様に、条件(B2)において、一つのNi原子は2b
サイトに置換し、もう一つのNiは4gサイトに置換する場合を示すが、図9との違いは
図10においてはNi原子が同一層内に配置していることである。
【0123】
以上より、LiMnOにNi原子が置換する場合には、1サイト置換においては、L
MnOにおいてLiサイトである、2bサイト、2cサイト、4hサイトのうち、
2bサイトをNi原子が置換する場合に生成エネルギーが低いことが示唆される。また、
2サイト置換においては、Ni原子のうち1つの原子はLiMnOにおいてLiサイ
トである2bサイト、2cサイト、4hサイトのいずれかを置換し、もう1つの原子はL
MnOにおいてMnサイトである4gサイトを置換する場合に、生成エネルギーが
低いことが示唆される。
【0124】
よって、生成エネルギーの計算からも、Ni原子がLiサイトである2bサイト、2cサ
イト、4hサイトのいずれかを置換する可能性が高いことが示唆される。X線回折のリー
トベルト解析からも、Ni原子あるいはMn原子がLiサイトである2bサイト、2cサ
イト、4hサイトのいずれかを置換する可能性が示唆されている。このことから、得られ
るリチウムマンガン複合酸化物は、2bサイト、2cサイト、4hサイトの少なくともい
ずれかにNi原子あるいはMn原子が占有していると予測される。
【0125】
本実施の形態で示すリチウムマンガン複合酸化物をリチウムイオン二次電池に用いること
で、高い容量の電池を得ることができるとともに、電池のエネルギー密度を高めることが
できる。
【0126】
[2-6.リチウムマンガン複合酸化物の合成]
LiMnで表されるリチウムマンガン複合酸化物の製造方法を以下に詳述す
る。ここでは元素MにNiを用いた例を示す。
【0127】
本実施の形態では、秤量の割合を異ならせ、本発明の一態様であるリチウムマンガン複合
酸化物を得る。
【0128】
ここで説明をわかりやすくために、まずz=0、つまりNiを用いない場合について説明
する。比較試料となる層状岩塩型構造のLiMnOを作製したい場合には、リチウム
とマンガンのモル比率は、Li:Mn=2:1とするのに対し、本発明の一態様における
リチウムマンガン複合酸化物を作製する場合には、例えばマンガンに対してリチウムを少
なめにずらした配合とする。
【0129】
次に、z>0の場合について説明する。このときには、z=0におけるリチウムとマンガ
ンのモル比率をLi:Mn=1.68:1.12とした場合には、z>0では、Mnの一
部をNiに置き換えればよい。例えば、MnとNiのモル比を0.8062:0.318
とする場合は、LiとMnとNiのモル比は、Li:Mn:Ni=1.68:0.806
2:0.318とする。ここで出発材料としてLiCOとMnCOとNiOを用い
る場合には、そのモル比率は、LiCO:MnCO:NiO=0.84:0.80
62:0.318となるように、それぞれの出発材料を秤量する。
【0130】
次に、これらの粉末にアセトンを加えた後、ボールミルで混合して混合粉末を調製する。
【0131】
次いで、アセトンを揮発させるための加熱を行い、混合原料を得る。
【0132】
次いで、坩堝に混合原料を入れ、800℃以上1100℃以下で第1の焼成を行い、新規
材料を合成する。焼成時間は5時間以上20時間以下とする。焼成雰囲気は大気とする。
【0133】
次いで、焼成した粒子の焼結を解くために解砕処理を行う。解砕処理は、アセトンを加え
た後、ボールミルで混合する。
【0134】
次いで、解砕処理後にアセトンを揮発させるための加熱を行い、その後、真空乾燥を行い
粉末状の新規材料を得る。
【0135】
ここで、得られるLiMnの容量をより高くするためのMnに対する元素M
の原料仕込み比(M/Mn)は、好ましくは0.2より大きく1.2より小さい値であり
、より好ましくは0.2より大きく0.9以下であり、さらに好ましくは0.25以上0
.6以下であるとよい。
【0136】
また、結晶性を高める目的や、結晶を安定化させる目的のために、第1の焼成を行った後
、更に第2の焼成を行ってもよい。第2の焼成は、例えば500℃以上800℃以下の焼
成を行えばよい。
【0137】
第2の焼成の焼成雰囲気は、例えば窒素雰囲気でもよい。
【0138】
また、本実施の形態では、出発材料としてLiCOとMnCOとNiOを用いたが
、特に限定されず、他の材料を用いてもよい。
【0139】
以上より、得られたリチウムマンガン複合酸化物を正極活物質として用い、好ましい正極
を形成することができる。
【0140】
本実施の形態は、他の実施の形態と適宜組み合わせて実施することが可能である。
【0141】
(実施の形態3)
本実施の形態では、層状岩塩型(α-NaFeO型)の結晶構造であるLiMn
1-y(MはLi(リチウム)、Mn(マンガン)以外から選ばれた金属元素、また
はSi、P)を正極活物質に用いる例を示す。
【0142】
以下にLiMn1-yの合成方法を示す。本実施の形態ではy=0.9の例に
ついて示す。表4に、比較試料150、および試料151乃至試料166を作製するため
の原料を示す。本実施の形態では、表4に示す原料の組み合わせにより、比較試料150
、および試料151乃至試料166を作製する。ここで、表4に示すLi原料、Mn原料
、及びM原料は、例えばLi、Mn、およびMを有する原料であり、例えば異なる元素M
を有するM原料を用いることにより、異なるMを有するLiMn1-yの合成
することができる。
【0143】
【表4】
【0144】
まず、Li原料、Mn原料、およびM原料として表4に示す材料を用いて、それぞれを秤
量する。本実施の形態では、yが0.9の試料を作製する。よって、原料の仕込み比を、
出来上がった試料中のLi、Mn、およびMのmol比が、2:0.9:0.1となるよ
うに調整する。例えば、試料151を作製する場合、mol比でLiCO(炭酸リチ
ウム):MnCO(炭酸マンガン):NiO(酸化ニッケル)=1:0.9:0.1と
なるように各原料を秤量する。また、試料152を作製する場合、mol比でLiCO
:MnCO:Ga(酸化ガリウム)=1:0.9:0.05となるように各原
料を秤量する。なお、比較試料150、および試料151乃至試料166の作製方法は、
原料の仕込み比が異なる以外は、ほぼ同じである。
【0145】
次に、各原料にアセトンを加えた後、各原料をボールミルにより混合し、混合原料を作製
する。本実施の形態では、ジルコニア製のポットに秤量した各原料、ジルコニア製のφ3
mmのボール、アセトンを入れて湿式による遊星回転ボールミル処理を行う。処理時間は
2時間、処理回転数400rpmとする。
【0146】
次いで、アセトンを揮発させるための加熱を行い、混合原料を得る。本実施の形態では、
ボールミル処理が終わったスラリーを大気下で50℃の温度でアセトンを揮発させ、混合
原料を得る。
【0147】
次いで、坩堝に混合原料を入れ、500℃以上1000℃以下で焼成を行い、新規材料を
合成する。焼成時間は5時間以上20時間以下とする。焼成雰囲気は大気とする。本実施
の形態では、乾燥した混合原料をアルミナ製坩堝に充填し、900℃、10時間の加熱を
行う。
【0148】
次いで、焼成した粒子の焼結を解くために解砕処理を行う。本実施の形態では、ジルコニ
ア製のポットに焼成物、ジルコニア製のφ3mmのボール、アセトンを入れて湿式による
遊星回転ボールミル処理を行う。処理時間は2時間、処理回転数200rpmとする。
【0149】
次いで、解砕処理後にアセトンを揮発させるための加熱を行い、その後、真空乾燥を行い
粉末状の新規材料をそれぞれ得る。本実施の形態では、解砕処理が終わったスラリーを大
気下で50℃の温度でアセトンを揮発させ、その後170℃で真空乾燥する。
【0150】
比較試料150、および試料151乃至試料166の放電容量を測定した結果を図33
示す。図33中の右上に、同図中の部位170の拡大図を示す。
【0151】
図33に示すように、比較試料150と比較して、試料151乃至試料166は高い放電
容量を示している。特に、MとしてNiを用いた試料151が最も高い放電容量を示して
いる。
【0152】
以上より、新規材料(試料151乃至試料166)を正極活物質として用い、好ましい正
極を形成することができる。
【0153】
本実施の形態は、他の実施の形態と適宜組み合わせて実施することが可能である。
【0154】
(実施の形態4)
本実施の形態では、実施の形態1で示した製造方法により製造した正極活物質を用いた蓄
電池の構造について、図36乃至図38を参照して説明する。
【0155】
[コイン型蓄電池]
図36(A)は、コイン型(単層偏平型)の蓄電池の外観図であり、図36(B)は、そ
の断面図である。
【0156】
コイン型の蓄電池300は、正極端子を兼ねた正極缶301と負極端子を兼ねた負極缶3
02とが、ポリプロピレン等で形成されたガスケット303で絶縁シールされている。正
極304は、正極集電体305と、これと接するように設けられた正極活物質層306に
より形成される。正極活物質層306は、正極活物質の他、正極活物質の密着性を高める
ための結着剤(バインダ)、正極活物質層の導電性を高めるための導電助剤等を有しても
よい。導電助剤としては、導電助剤としては比表面積が大きい材料が望ましく、アセチレ
ンブラック(AB)等を用いることができる。また、カーボンナノチューブ、グラフェン
、フラーレンといった炭素材料を用いることもできる。
【0157】
また、負極307は、負極集電体308と、これに接するように設けられた負極活物質層
309により形成される。負極活物質層309は、負極活物質の他、負極活物質の密着性
を高めるための結着剤(バインダ)、負極活物質層の導電性を高めるための導電助剤等を
有してもよい。正極活物質層306と負極活物質層309との間には、セパレータ310
と、電解質(図示せず)とを有する。
【0158】
負極活物質層309に用いる負極活物質としては、リチウムの溶解・析出、又はリチウム
イオンの挿入・脱離が可能な材料を用いることができ、リチウム金属、炭素系材料、合金
系材料等を用いることができる。リチウム金属は、酸化還元電位が低く(標準水素電極に
対して-3.045V)、重量及び体積当たりの比容量が大きい(それぞれ3860mA
h/g、2062mAh/cm)ため、好ましい。
【0159】
炭素系材料としては、黒鉛、易黒鉛化性炭素(ソフトカーボン)、難黒鉛化性炭素(ハー
ドカーボン)、カーボンナノチューブ、グラフェン、カーボンブラック等がある。
【0160】
黒鉛としては、メソカーボンマイクロビーズ(MCMB)、コークス系人造黒鉛、ピッチ
系人造黒鉛等の人造黒鉛や、球状化天然黒鉛等の天然黒鉛がある。
【0161】
黒鉛はリチウムイオンが黒鉛に挿入されたとき(リチウム-黒鉛層間化合物の生成時)に
リチウム金属と同程度に卑な電位を示す(0.1以上0.3V以下 vs.Li/Li
)。これにより、リチウムイオン二次電池は高い作動電圧を示すことができる。さらに、
黒鉛は、単位体積当たりの容量が比較的高い、体積膨張が小さい、安価である、リチウム
金属に比べて安全性が高い等の利点を有するため、好ましい。
【0162】
負極活物質として、リチウムとの合金化・脱合金化反応により充放電反応を行うことが可
能な合金系材料も用いることができる。例えば、Ga、Al、Si、Ge、Sn、Pb、
Sb、Bi、Ag、Au、Zn、Cd、In等のうち少なくとも一つを含む材料がある。
このような元素は炭素に対して容量が大きく、特にシリコンは理論容量が4200mAh
/gと飛躍的に高い。このため、負極活物質にシリコンを用いることが好ましい。このよ
うな元素を用いた合金系材料としては、例えば、SiO、MgSi、MgGe、Sn
O、SnO、MgSn、SnS、VSn、FeSn、CoSn、Ni
、CuSn、AgSn、AgSb、NiMnSb、CeSb、LaSn
、LaCoSn、CoSb、InSb、SbSn等がある。ここでSiOとは
、SiOと比較してシリコンの組成が多い材料を指す。
【0163】
また、負極活物質として、二酸化チタン(TiO)、リチウムチタン酸化物(Li
12)、リチウム-黒鉛層間化合物、(Li)、五酸化ニオブ(Nb
)、酸化タングステン(WO)、酸化モリブデン(MoO)等の酸化物を用いること
ができる。
【0164】
また、負極活物質として、リチウムと遷移金属の複窒化物である、LiN型構造をもつ
Li3-xN(M=Co、Ni、Cu)を用いることができる。例えば、Li2.6
Co0.4は大きな充放電容量(900mAh/g、1890mAh/cm)を示
し好ましい。
【0165】
リチウムと遷移金属の複窒化物を用いると、負極活物質中にリチウムイオンを含むため、
正極活物質としてリチウムイオンを含まないV、Cr等の材料と組み合わせ
ることができ好ましい。なお、正極活物質にリチウムイオンを含む材料を用いる場合でも
、あらかじめ正極活物質に含まれるリチウムイオンを脱離させることで、負極活物質とし
てリチウムと遷移金属の複窒化物を用いることができる。
【0166】
また、コンバージョン反応が生じる材料を負極活物質として用いることもできる。例えば
、酸化コバルト(CoO)、酸化ニッケル(NiO)、酸化鉄(FeO)等の、リチウム
と合金化反応を行わない遷移金属酸化物を負極活物質に用いてもよい。コンバージョン反
応が生じる材料としては、さらに、Fe、CuO、CuO、RuO、Cr
等の酸化物、CoS0.89、NiS、CuS等の硫化物、Zn、CuN、G
等の窒化物、NiP、FeP、CoP等のリン化物、FeF、BiF
等のフッ化物でも起こる。
【0167】
また、正極集電体305や負極集電体308などの集電体としては、ステンレス、金、白
金、亜鉛、鉄、ニッケル、銅、アルミニウム、チタン、タンタル等の金属、及びこれらの
合金など、導電性の高く、リチウム等のキャリアイオンと合金化しない材料を用いること
ができる。また、シリコン、チタン、ネオジム、スカンジウム、モリブデンなどの耐熱性
を向上させる元素が添加されたアルミニウム合金を用いることができる。また、シリコン
と反応してシリサイドを形成する金属元素で形成してもよい。シリコンと反応してシリサ
イドを形成する金属元素としては、ジルコニウム、チタン、ハフニウム、バナジウム、ニ
オブ、タンタル、クロム、モリブデン、タングステン、コバルト、ニッケル等がある。ま
た、集電体は、箔状、板状(シート状)、網状、円柱状、コイル状、パンチングメタル状
、エキスパンドメタル状等の形状を適宜用いることができる。集電体は、厚みが10μm
以上30μm以下のものを用いるとよい。
【0168】
正極活物質層306には、実施の形態1で示した正極活物質を用いることができる。
【0169】
セパレータ310は、セルロース(紙)、または空孔が設けられたポリプロピレン、ポリ
エチレン等の絶縁体を用いることができる。
【0170】
電解液は、電解質として、キャリアイオンを有する材料を用いる。電解質の代表例として
は、LiPF、LiClO、LiAsF、LiBF、LiCFSO、Li(
CFSON、Li(CSON等のリチウム塩がある。これらの電解
質は、一種を単独で用いてもよく、二種以上を任意の組み合わせ及び比率で用いてもよい
【0171】
なお、キャリアイオンが、リチウムイオン以外のアルカリ金属イオンや、アルカリ土類金
属イオンの場合、電解質として、上記リチウム塩において、リチウムの代わりに、アルカ
リ金属(例えば、ナトリウムやカリウム等)、アルカリ土類金属(例えば、カルシウム、
ストロンチウム、バリウム、ベリリウム、マグネシウム等)を用いてもよい。
【0172】
また、電解液の溶媒としては、キャリアイオンの移送が可能な材料を用いる。電解液の溶
媒としては、非プロトン性有機溶媒が好ましい。非プロトン性有機溶媒の代表例としては
、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジ
エチルカーボネート(DEC)、γーブチロラクトン、アセトニトリル、ジメトキシエタ
ン、テトラヒドロフラン等があり、これらの一つまたは複数を用いることができる。また
、電解液の溶媒としてゲル化される高分子材料を用いることで、漏液性に対する安全性が
高まる。また、蓄電池の薄型化及び軽量化が可能である。ゲル化される高分子材料の代表
例としては、シリコーンゲル、アクリルゲル、アクリロニトリルゲル、ポリエチレンオキ
サイド、ポリプロピレンオキサイド、フッ素系ポリマー等がある。また、電解液の溶媒と
して、難燃性及び難揮発性であるイオン液体(常温溶融塩)を一つまたは複数用いること
で、蓄電池の内部短絡や、過充電等によって内部温度が上昇しても、蓄電池の破裂や発火
などを防ぐことができる。
【0173】
また、電解液の代わりに、硫化物系や酸化物系等の無機物材料を有する固体電解質や、P
EO(ポリエチレンオキシド)系等の高分子材料を有する固体電解質を用いることができ
る。固体電解質を用いる場合には、セパレータやスペーサの設置が不要となる。また、電
池全体を固体化できるため、漏液のおそれがなくなり安全性が飛躍的に向上する。
【0174】
正極缶301、負極缶302には、電解液に対して耐腐食性のあるニッケル、アルミニウ
ム、チタン等の金属、又はこれらの合金やこれらと他の金属との合金(例えば、ステンレ
ス鋼等)を用いることができる。また、電解液による腐食を防ぐため、ニッケルやアルミ
ニウム等を被覆することが好ましい。正極缶301は正極304と、負極缶302は負極
307とそれぞれ電気的に接続する。
【0175】
これら負極307、正極304及びセパレータ310を電解質に含浸させ、図36(B)
に示すように、正極缶301を下にして正極304、セパレータ310、負極307、負
極缶302をこの順で積層し、正極缶301と負極缶302とをガスケット303を介し
て圧着してコイン形の蓄電池300を製造する。
【0176】
ここで図36(C)を用いてバッテリーの充電時の電流の流れを説明する。リチウムを用
いたバッテリーを一つの閉回路とみなした時、リチウムイオンの動きと電流の流れは同じ
向きになる。なお、リチウムを用いたバッテリーでは、充電と放電でアノード(陽極)と
カソード(陰極)が入れ替わり、酸化反応と還元反応とが入れ替わることになるため、反
応電位が高い電極を正極と呼び、反応電位が低い電極を負極と呼ぶ。したがって、本明細
書においては、充電中であっても、放電中であっても、逆パルス電流を流す場合であって
も、充電電流を流す場合であっても、正極は「正極」または「+極(プラス極)」と呼び
、負極は「負極」または「-極(マイナス極)」と呼ぶこととする。酸化反応や還元反応
に関連したアノード(陽極)やカソード(陰極)という用語を用いると、充電時と放電時
とでは、逆になってしまい、混乱を招く可能性がある。したがって、アノード(陽極)や
カソード(陰極)という用語は、本明細書においては用いないこととする。仮にアノード
(陽極)やカソード(陰極)という用語を用いる場合には、充電時か放電時かを明記し、
正極(プラス極)と負極(マイナス極)のどちらに対応するものかも併記することとする
【0177】
図36(C)に示す2つの端子には充電器が接続され、蓄電池400が充電される。蓄電
池400の充電が進めば、電極間の電位差は大きくなる。図36(C)では、蓄電池40
0の外部の端子から、正極402の方へ流れ、蓄電池400の中において、正極402か
ら負極404の方へ流れ、負極から蓄電池400の外部の端子の方へ流れる電流の向きを
正の向きとしている。つまり、充電電流の流れる向きを電流の向きとしている。
【0178】
[円筒型蓄電池]
次に、円筒型の蓄電池の一例について、図37を参照して説明する。円筒型の蓄電池60
0は図37(A)に示すように、上面に正極キャップ(電池蓋)601を有し、側面及び
底面に電池缶(外装缶)602を有している。これら正極キャップと電池缶(外装缶)6
02とは、ガスケット(絶縁パッキン)610によって絶縁されている。
【0179】
図37(B)は、円筒型の蓄電池の断面を模式的に示した図である。中空円柱状の電池缶
602の内側には、帯状の正極604と負極606とがセパレータ605を間に挟んで捲
回された電池素子が設けられている。図示しないが、電池素子はセンターピンを中心に捲
回されている。電池缶602は、一端が閉じられ、他端が開いている。電池缶602には
、電解液に対して耐腐食性のあるニッケル、アルミニウム、チタン等の金属、又はこれら
の合金やこれらと他の金属との合金(例えば、ステンレス鋼等)を用いることができる。
また、電解液による腐食を防ぐため、ニッケルやアルミニウム等の腐食性金属を被覆する
ことが好ましい。たとえばめっきなどを用いればよい。電池缶602の内側において、正
極、負極及びセパレータが捲回された電池素子は、対向する一対の絶縁板608、609
により挟まれている。また、電池素子が設けられた電池缶602の内部は、非水電解液(
図示せず)が注入されている。非水電解液は、コイン型の蓄電池と同様のものを用いるこ
とができる。
【0180】
正極604及び負極606は、上述したコイン型の蓄電池の正極及び負極と同様に製造す
ればよいが、円筒型の蓄電池に用いる正極及び負極は捲回するため、集電体の両面に活物
質を形成する点において異なる。正極604には正極端子(正極集電リード)603が接
続され、負極606には負極端子(負極集電リード)607が接続される。正極端子60
3及び負極端子607は、ともにアルミニウムなどの金属材料を用いることができる。正
極端子603は安全弁機構612に、負極端子607は電池缶602の底にそれぞれ抵抗
溶接される。安全弁機構612は、PTC素子(Positive Temperatu
re Coefficient)611を介して正極キャップ601と電気的に接続され
ている。安全弁機構612は電池の内圧の上昇が所定の閾値を超えた場合に、正極キャッ
プ601と正極604との電気的な接続を切断するものである。また、PTC素子611
は温度が上昇した場合に抵抗が増大する熱感抵抗素子であり、抵抗の増大により電流量を
制限して異常発熱を防止するものである。PTC素子には、チタン酸バリウム(BaTi
)系半導体セラミックス等を用いることができる。
【0181】
[ラミネート型蓄電池]
次に、ラミネート型の蓄電池の一例について、図38(A)を参照して説明する。ラミネ
ート型の蓄電池は、可撓性を有する構成とすれば、可撓性を有する部位を少なくとも一部
有する電子機器に実装すれば、電子機器の変形に合わせて蓄電池も曲げることもできる。
【0182】
図38(A)に示すラミネート型の蓄電池500は、正極集電体501および正極活物質
層502を有する正極503と、負極集電体504および負極活物質層505を有する負
極506と、セパレータ507と、電解液508と、外装体509と、を有する。外装体
509内に設けられた正極503と負極506との間にセパレータ507が設置されてい
る。また、外装体509内は、電解液508で満たされている。正極活物質層502には
、実施の形態1で示した正極活物質を用いることができる。
【0183】
図38(A)に示すラミネート型の蓄電池500において、正極集電体501および負極
集電体504は、外部との電気的接触を得る端子の役割も兼ねている。そのため、正極集
電体501および負極集電体504の一部は、外装体509から外側に露出するように配
置してもよい。また、正極集電体501および負極集電体504を、外装体509から外
側に露出させず、リード電極を用いてそのリード電極と正極集電体501、或いは負極集
電体504と超音波接合させてリード電極を外側に露出するようにしてもよい。
【0184】
ラミネート型の蓄電池500において、外装体509には、例えばポリエチレン、ポリプ
ロピレン、ポリカーボネート、アイオノマー、ポリアミド等の材料からなる膜上に、アル
ミニウム、ステンレス、銅、ニッケル等の可撓性に優れた金属薄膜を設け、さらに該金属
薄膜上に外装体の外面としてポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂等の絶縁性合成樹脂
膜を設けた三層構造のラミネートフィルムを用いることができる。このような三層構造と
することで、電解液や気体の透過を遮断するとともに、絶縁性を確保し、併せて耐電解液
性を有する。
【0185】
また、ラミネート型の蓄電池500の断面構造の一例を図38(B)に示す。図38(A
)では簡略のため、2つの集電体で構成する例を示しているが、実際は、複数の電極層で
構成する。
【0186】
図38(B)では、一例として、電極層数を16としている。なお、電極層数を16とし
ても蓄電池500は、可撓性を有する。図38(B)では負極集電体504が8層と、正
極集電体501が8層の合計16層の構造を示している。なお、図38(B)は負極の取
り出し部の断面を示しており、8層の負極集電体504を超音波接合させている。勿論、
電極層数は16に限定されず、多くてもよいし、少なくてもよい。電極層数が多い場合に
は、より多くの容量を有する蓄電池とすることができる。また、電極層数が少ない場合に
は、薄型化でき、可撓性に優れた蓄電池とすることができる。
【0187】
ここで、ラミネート型の蓄電池500の外観図の一例を図46及び図47に示す。図46
及び図47は、正極503、負極506、セパレータ507、外装体509、正極リード
電極510及び負極リード電極511を有する。
【0188】
図48(A)は正極503及び負極506の外観図を示す。正極503は正極集電体50
1を有し、正極活物質層502は正極集電体501の表面に形成されている。また、正極
503は正極集電体501が一部露出する領域(以下、タブ領域という)を有する。負極
506は負極集電体504を有し、負極活物質層505は負極集電体504の表面に形成
されている。また、負極506は負極集電体504が一部露出する領域、すなわちタブ領
域を有する。正極及び負極が有するタブ領域の面積や形状は、図48(A)に示す例に限
られない。
【0189】
[ラミネート型蓄電池の作製方法]
ここで、図46に外観図を示すラミネート型蓄電池の作製方法の一例について、図48
B)、(C)を用いて説明する。
【0190】
まず、負極506、セパレータ507及び正極503を積層する。図48(B)に積層さ
れた負極506、セパレータ507及び正極503を示す。ここでは負極を5組、正極を
4組使用する例を示す。次に、正極503のタブ領域同士の接合と、最表面の正極のタブ
領域への正極リード電極510の接合を行う。接合には、例えば超音波接合等を用いれば
よい。同様に、負極506のタブ領域同士の接合と、最表面の負極のタブ領域への負極リ
ード電極511の接合を行う。
【0191】
次に外装体509上に、負極506、セパレータ507及び正極503を配置する。
【0192】
次に、図48(C)に示すように、外装体509を破線で示した部分で折り曲げる。その
後、外装体509の外周部を接合する。接合には例えば熱圧着等を用いればよい。この時
、後に電解液508を入れることができるように、外装体509の一部(または一辺)に
接合されない領域(以下、導入口という)を設ける。
【0193】
次に、外装体509に設けられた導入口から、電解液508を外装体509の内側へ導入
する。電解液508の導入は、減圧雰囲気下、或いは不活性ガス雰囲気下で行うことが好
ましい。そして最後に、導入口を接合する。このようにして、ラミネート型の蓄電池であ
る蓄電装置500を作製することができる。
【0194】
なお、本実施の形態では、蓄電池として、コイン型、ラミネート型及び円筒型の蓄電池を
示したが、その他の封止型蓄電池、角型蓄電池等様々な形状の蓄電池を用いることができ
る。また、正極、負極、及びセパレータが複数積層された構造、正極、負極、及びセパレ
ータが捲回された構造であってもよい。
【0195】
本実施の形態で示す蓄電池300、蓄電池500、蓄電池600の正極には、本発明の一
態様に係る正極活物質層が用いられている。そのため、蓄電池300、蓄電池500、蓄
電池600の放電容量を高めることができる。
【0196】
[電子機器に実装する例]
また、可撓性を有するラミネート型の蓄電池を電子機器に実装する例を図39に示す。フ
レキシブルな形状を備える蓄電装置を適用した電子機器として、例えば、テレビジョン装
置(テレビ、又はテレビジョン受信機ともいう)、コンピュータ用などのモニタ、デジタ
ルカメラ、デジタルビデオカメラ、デジタルフォトフレーム、携帯電話機(携帯電話、携
帯電話装置ともいう)、携帯型ゲーム機、携帯情報端末、音響再生装置、パチンコ機など
の大型ゲーム機などが挙げられる。
【0197】
また、フレキシブルな形状を備える蓄電装置を、家屋やビルの内壁または外壁や、自動車
の内装または外装の曲面に沿って組み込むことも可能である。
【0198】
図39(A)は、携帯電話機の一例を示している。携帯電話機7400は、筐体7401
に組み込まれた表示部7402の他、操作ボタン7403、外部接続ポート7404、ス
ピーカ7405、マイク7406などを備えている。なお、携帯電話機7400は、蓄電
装置7407を有している。
【0199】
図39(B)は、携帯電話機7400を湾曲させた状態を示している。携帯電話機740
0を外部の力により変形させて全体を湾曲させると、その内部に設けられている蓄電装置
7407も湾曲される。また、その時、曲げられた蓄電装置7407の状態を図39(C
)に示す。蓄電装置7407はラミネート型の蓄電池である。
【0200】
図39(D)は、バングル型の表示装置の一例を示している。携帯表示装置7100は、
筐体7101、表示部7102、操作ボタン7103、及び蓄電装置7104を備える。
また、図39(E)に曲げられた蓄電装置7104の状態を示す。
【0201】
[蓄電装置の構造例]
蓄電装置(蓄電池)の構造例について、図40図41図42図43図44を用い
て説明する。
【0202】
図40(A)及び図40(B)は、蓄電装置の外観図を示す図である。蓄電装置は、回路
基板900と、蓄電体913と、を有する。蓄電体913には、ラベル910が貼られて
いる。さらに、図40(B)に示すように、蓄電装置は、端子951と、端子952と、
を有し、ラベル910の裏にアンテナ914と、アンテナ915と、を有する。
【0203】
回路基板900は、端子911と、回路912と、を有する。端子911は、端子951
、端子952、アンテナ914、アンテナ915、及び回路912に接続される。なお、
端子911を複数設けて、複数の端子911のそれぞれを、制御信号入力端子、電源端子
などとしてもよい。
【0204】
回路912は、回路基板900の裏面に設けられていてもよい。なお、アンテナ914及
びアンテナ915は、コイル状に限定されず、例えば線状、板状であってもよい。また、
平面アンテナ、開口面アンテナ、進行波アンテナ、EHアンテナ、磁界アンテナ、誘電体
アンテナ等のアンテナを用いてもよい。又は、アンテナ914若しくはアンテナ915は
、平板状の導体でもよい。この平板状の導体は、電界結合用の導体の一つとして機能する
ことができる。つまり、コンデンサの有する2つの導体のうちの一つの導体として、アン
テナ914若しくはアンテナ915を機能させてもよい。これにより、電磁界、磁界だけ
でなく、電界で電力のやり取りを行うこともできる。
【0205】
アンテナ914の線幅は、アンテナ915の線幅よりも大きいことが好ましい。これによ
り、アンテナ914により受電する電力量を大きくできる。
【0206】
蓄電装置は、アンテナ914及びアンテナ915と、蓄電体913との間に層916を有
する。層916は、例えば蓄電体913による電磁界の遮蔽を防止することができる機能
を有する。層916としては、例えば磁性体を用いることができる。層916を遮蔽層と
してもよい。
【0207】
なお、蓄電装置の構造は、図40に限定されない。
【0208】
例えば、図41(A-1)及び図41(A-2)に示すように、図40(A)及び図40
(B)に示す蓄電体913のうち、対向する一対の面のそれぞれにアンテナを設けてもよ
い。図41(A-1)は、上記一対の面の一方側方向から見た外観図であり、図41(A
-2)は、上記一対の面の他方側方向から見た外観図である。なお、図40(A)及び図
40(B)に示す蓄電装置と同じ部分については、図40(A)及び図40(B)に示す
蓄電装置の説明を適宜援用できる。
【0209】
図41(A-1)に示すように、蓄電体913の一対の面の一方に層916を挟んでアン
テナ914が設けられ、図41(A-2)に示すように、蓄電体913の一対の面の他方
に層917を挟んでアンテナ915が設けられる。層917は、例えば蓄電体913によ
る電磁界の遮蔽を防止することができる機能を有する。層917としては、例えば磁性体
を用いることができる。層917を遮蔽層としてもよい。
【0210】
上記構造にすることにより、アンテナ914及びアンテナ915の両方のサイズを大きく
することができる。
【0211】
又は、図41(B-1)及び図41(B-2)に示すように、図40(A)及び図40
B)に示す蓄電体913のうち、対向する一対の面のそれぞれに別のアンテナを設けても
よい。図41(B-1)は、上記一対の面の一方側方向から見た外観図であり、図41
B-2)は、上記一対の面の他方側方向から見た外観図である。なお、図40(A)及び
図40(B)に示す蓄電装置と同じ部分については、図40(A)及び図40(B)に示
す蓄電装置の説明を適宜援用できる。
【0212】
図41(B-1)に示すように、蓄電体913の一対の面の一方に層916を挟んでアン
テナ914及びアンテナ915が設けられ、図41(B-2)に示すように、蓄電体91
3の一対の面の他方に層917を挟んでアンテナ918が設けられる。アンテナ918は
、例えば、外部機器とのデータ通信を行うことができる機能を有する。アンテナ918に
は、例えばアンテナ914及びアンテナ915に適用可能な形状のアンテナを適用するこ
とができる。アンテナ918を介した蓄電装置と他の機器との通信方式としては、NFC
など、蓄電装置と他の機器の間で用いることができる応答方式などを適用することができ
る。
【0213】
又は、図42(A)に示すように、図40(A)及び図40(B)に示す蓄電体913に
表示装置920を設けてもよい。表示装置920は、端子919を介して端子911に電
気的に接続される。なお、表示装置920が設けられる部分にラベル910を設けなくて
もよい。なお、図40(A)及び図40(B)に示す蓄電装置と同じ部分については、図
40(A)及び図40(B)に示す蓄電装置の説明を適宜援用できる。
【0214】
表示装置920には、例えば充電中であるか否かを示す画像、蓄電量を示す画像などを表
示してもよい。表示装置920としては、例えば電子ペーパー、液晶表示装置、エレクト
ロルミネセンス(ELともいう)表示装置などを用いることができる。例えば、電子ペー
パーを用いることにより表示装置920の消費電力を低減することができる。
【0215】
又は、図42(B)に示すように、図40(A)及び図40(B)に示す蓄電体913に
センサ921を設けてもよい。センサ921は、端子922を介して端子911に電気的
に接続される。なお、センサ921は、ラベル910の裏側に設けられてもよい。なお、
図40(A)及び図40(B)に示す蓄電装置と同じ部分については、図40(A)及び
図40(B)に示す蓄電装置の説明を適宜援用できる。
【0216】
センサ921としては、例えば、変位、位置、速度、加速度、角速度、回転数、距離、光
、液、磁気、温度、化学物質、音声、時間、硬度、電場、電流、電圧、電力、放射線、流
量、湿度、傾度、振動、におい、又は赤外線を測定することができる機能を有すればよい
。センサ921を設けることにより、例えば、蓄電装置が置かれている環境を示すデータ
(温度など)を検出し、回路912内のメモリに記憶しておくこともできる。
【0217】
さらに、蓄電体913の構造例について図43及び図44を用いて説明する。
【0218】
図43(A)に示す蓄電体913は、筐体930の内部に端子951と端子952が設け
られた捲回体950を有する。捲回体950は、筐体930の内部で電解液に含浸される
。端子952は、筐体930に接し、端子951は、絶縁材などを用いることにより筐体
930に接していない。なお、図43(A)では、便宜のため、筐体930を分離して図
示しているが、実際は、捲回体950が筐体930に覆われ、端子951及び端子952
が筐体930の外に延在している。筐体930としては、金属材料(例えばアルミニウム
など)又は樹脂材料を用いることができる。
【0219】
なお、図43(B)に示すように、図43(A)に示す筐体930を複数の材料によって
形成してもよい。例えば、図43(B)に示す蓄電体913は、筐体930aと筐体93
0bが貼り合わされており、筐体930a及び筐体930bで囲まれた領域に捲回体95
0が設けられている。
【0220】
筐体930aとしては、有機樹脂など、絶縁材料を用いることができる。特に、アンテナ
が形成される面に有機樹脂などの材料を用いることにより、蓄電体913による電界の遮
蔽を抑制できる。なお、筐体930aによる電界の遮蔽が小さければ、筐体930の内部
にアンテナ914やアンテナ915などのアンテナを設けてもよい。筐体930bとして
は、例えば金属材料を用いることができる。
【0221】
さらに、捲回体950の構造について図44に示す。捲回体950は、負極931と、正
極932と、セパレータ933と、を有する。捲回体950は、セパレータ933を挟ん
で負極931と、正極932が重なり合って積層され、該積層シートを捲回させた捲回体
である。なお、負極931と、正極932と、セパレータ933と、の積層を、さらに複
数重ねてもよい。
【0222】
負極931は、端子951及び端子952の一方を介して図40に示す端子911に接続
される。正極932は、端子951及び端子952の他方を介して図40に示す端子91
1に接続される。
【0223】
[電気機器の一例:車両に搭載する例]
次に、蓄電池を車両に搭載する例について示す。蓄電池を車両に搭載すると、ハイブリッ
ド車(HEV)、電気自動車(EV)、又はプラグインハイブリッド車(PHEV)等の
次世代クリーンエネルギー自動車を実現できる。
【0224】
図45において、本発明の一態様を用いた車両を例示する。図45(A)に示す自動車8
100は、走行のための動力源として電気モーターを用いる電気自動車である。または、
走行のための動力源として電気モーターとエンジンを適宜選択して用いることが可能なハ
イブリッド自動車である。本発明の一態様を用いることで、走行距離の長い車両を実現す
ることができる。また、自動車8100は蓄電装置を有する。蓄電装置は電気モーターを
駆動するだけでなく、ヘッドライト8101やルームライト(図示せず)などの発光装置
に電力を供給することができる。
【0225】
また、蓄電装置は、自動車8100が有するスピードメーター、タコメーターなどの表示
装置に電力を供給することができる。また、蓄電装置は、自動車8100が有するナビゲ
ーションゲーションシステムなどの半導体装置に電力を供給することができる。
【0226】
図45(B)に示す自動車8200は、自動車8200が有する蓄電装置にプラグイン方
式や非接触給電方式等により外部の充電設備から電力供給を受けて、充電することができ
る。図45(B)に、地上設置型の充電装置8021から自動車8200に搭載された蓄
電装置に、ケーブル8022を介して充電を行っている状態を示す。充電に際しては、充
電方法やコネクタの規格等はCHAdeMO(登録商標)やコンボ等の所定の方式で適宜
行えばよい。充電装置8021は、商用施設に設けられた充電ステーションでもよく、ま
た家庭の電源であってもよい。例えば、プラグイン技術によって、外部からの電力供給に
より自動車8200に搭載された蓄電装置を充電することができる。充電は、ACDCコ
ンバータ等の変換装置を介して、交流電力を直流電力に変換して行うことができる。
【0227】
また、図示しないが、受電装置を車両に搭載し、地上の送電装置から電力を非接触で供給
して充電することもできる。この非接触給電方式の場合には、道路や外壁に送電装置を組
み込むことで、停車中に限らず走行中に充電を行うこともできる。また、この非接触給電
の方式を利用して、車両どうしで電力の送受信を行ってもよい。さらに、車両の外装部に
太陽電池を設け、停車時や走行時に蓄電装置の充電を行ってもよい。このような非接触で
の電力の供給には、電磁誘導方式や磁界共鳴方式を用いることができる。
【0228】
本発明の一態様によれば、蓄電装置のサイクル特性が良好となり、信頼性を向上させるこ
とができる。また、本発明の一態様によれば、蓄電装置の特性を向上することができ、よ
って、蓄電装置自体を小型軽量化することができる。蓄電装置自体を小型軽量化できれば
、車両の軽量化に寄与するため、走行距離を向上させることができる。また、車両に搭載
した蓄電装置を車両以外の電力供給源として用いることもできる。この場合、電力需要の
ピーク時に商用電源を用いることを回避することができる。
【0229】
本実施の形態は、他の実施の形態と適宜組み合わせて実施することが可能である。
【実施例1】
【0230】
本実施例では実施の形態1に従い、リチウムマンガン複合酸化物を合成し、得られたリチ
ウムマンガン複合酸化物の組成をICP-MS(Inductively Couple
d Plasma-Mass Spectrometry)及びTEM-EDX(Ene
rgy Dispersive X-ray Spectroscopy)を用いて測定
した。
【0231】
以下にリチウムマンガン複合酸化物の作製手順を詳細に示す。
【0232】
ジルコニア製のポットに秤量した原料、3mmφのジルコニアボール、アセトンを入れて
湿式による遊星回転ボールミル処理を行った(ステップ1)。処理時間は2時間、処理回
転数400rpmとした。
【0233】
次いで、ボールミル処理が終わったスラリーを大気下で50℃の温度でアセトンを揮発さ
せ、混合原料を得た(ステップ2)。
【0234】
次いで、乾燥した混合原料をアルミナ製坩堝に充填し、焼成することで目的物を合成した
(ステップ3)。焼成温度は1000℃、焼成時間は10時間、焼成雰囲気は大気を用い
た。
【0235】
次いで、焼成した粒子の焼結を解くために解砕処理を行った。ジルコニア製のポットに焼
成物、φ3mmとφ10mmのジルコニアボール、アセトンを入れて湿式による遊星回転
ボールミル処理を行った。処理時間は2時間、処理回転数400rpmとした(ステップ
4)。
【0236】
次いで、解砕処理が終わったスラリーを大気下で50℃の温度でアセトンを揮発させた(
ステップ5)。その後、真空乾燥を行った(ステップ6)。以上のステップにより、リチ
ウムマンガン複合酸化物である電極の正極活物質を得た。得られたリチウムマンガン複合
酸化物を試料Aとする。作製したリチウムマンガン複合酸化物(すなわち試料A)の組成
をICP-MS及びTEM-EDXにより測定した結果を表5の(a)に示す。示した数
値は元素組成である。表5においてMn/Niと表記した値は、Mn組成をNi組成で割
った値であり、(Mn+Ni)/Oと表記した値は、Mn組成とNi組成の和をO組成で
割った値である。なおカッコ内の数値はMnの原料仕込み量である0.8062で規格化
した数値である。
【0237】
【表5】
【0238】
表5(a)より、原料の仕込み比であるLiCO:MnCO:NiO=0.84:
0.8062:0.318と比較して、Mnに対するNiの原子数比が大きくなっている
ことがわかる。
【実施例2】
【0239】
本実施例では、実施例1で得られた試料Aを正極活物質に用いて充放電を行った後、TE
M-EDXを用いてリチウムマンガン複合酸化物のMn,Ni,Oについて組成分析を行
った。
【0240】
まず、正極活物質、導電助剤、バインダー、分散媒を用いて、正極ペーストを作製し、当
該正極ペーストを正極集電体上に塗布して、乾燥させることで、正極活物質層を含む正極
を形成した。
【0241】
本実施例では、正極活物質として、前記リチウムマンガン複合酸化物を用い、導電助剤と
してアセチレンブラックを用い、バインダーとしてポリフッ化ビニリデン(PVdF)を
用いた。リン酸鉄リチウムと、アセチレンブラックと、ポリフッ化ビニリデンと、を80
:15:5の割合で混合し、粘度調整のため分散媒としてNMPを添加して、混練するこ
とで正極ペーストを作製した。
【0242】
上述の方法で作製した正極ペーストを、正極集電体(膜厚20μmのアルミニウム)に塗
布し、80℃、40分乾燥させた後、減圧環境下で、170℃、10時間乾燥させること
により、正極活物質層を形成し、正極を得た。
【0243】
次に、正極を用いたハーフセルを形成し、充放電を行った。特性の評価はコインセルの形
態で行った。負極としてリチウム金属を用い、セパレータにはポリプロピレン(PP)、
電解液には、エチレンカーボネート(EC)とジエチルカーボネート(DEC)とを体積
比で1:1の割合で混合した混合溶液中へ六フッ化リン酸リチウム(LiPF)を1モ
ル/リットルの濃度で溶解したものを用いた。充電は0.2C(5時間で充電)のレート
で停止電圧4.8Vまで定電流充電した。放電は0.2C(5時間で放電)のレートで行
い、停止電圧2Vまで定電流放電した。環境温度は25℃に設定して測定を行った。
【0244】
1回目の充電および放電を行った後にコインセルを解体し、正極のリチウムマンガン複合
酸化物のMn,Ni,Oの組成をTEM-EDXで測定した。結果を表5の(b)に示す
【0245】
表5の(b)より、合成後と同様に、充放電後においても材料の配合比であるLiCO
:MnCO:NiO=0.84:0.8062:0.318と比較して、Mnに対す
るNiの原子数比が大きくなっていることがわかる。また、表5の(a)と(b)を比較
すると、充放電を行うことによりMnに対する酸素の比がわずかに減少している可能性が
ある。
【0246】
表5の(a)、(b)に示す通り、充放電前つまり合成後と、充放電後の組成を得ること
ができた。組成は充放電前後ではやや異なる可能性があることがわかった。
【0247】
次に、実施例1で得られた試料Aを正極活物質に用いてハーフセルを形成し、充放電を2
回行い、得られた2回目の放電特性を図34に示す。図34より、充放電の2回目におい
ても良好な放電容量が得られることがわかった。よって、表5の(b)に示した充放電後
の組成を持つリチウムマンガン複合酸化物においても、高容量を発揮できることがわかっ
た。
【実施例3】
【0248】
実施の形態1で示したリチウムマンガン複合酸化物を正極活物質に用いて、ラミネート型
蓄電池を作製した。
【0249】
以下にリチウムマンガン複合酸化物の作製手順を詳細に示す。
【0250】
ジルコニア製のポットに秤量した原料、ジルコニアボールφ3mmのボール、アセトンを
入れて湿式による遊星回転ボールミル処理を行った。処理時間は2時間、処理回転数40
0rpmとした。
【0251】
次いで、ボールミル処理が終わったスラリーを大気下で50℃の温度でアセトンを揮発さ
せ、混合原料を得た。
【0252】
次いで、乾燥した混合原料をアルミナ製坩堝に充填し、焼成することで目的物を合成した
。焼成温度は1000℃、焼成時間は10時間、焼成雰囲気はガスとして空気を用いた。
【0253】
次いで、焼成した粒子の焼結を解くために解砕処理を行った。ジルコニア製のポットに焼
成物、φ3mmとφ10mmのジルコニアボール、アセトンを入れて湿式による遊星回転
ボールミル処理を行った。処理時間は2時間、処理回転数400rpmとした。
【0254】
次いで、解砕処理が終わったスラリーを大気下で50℃の温度でアセトンを揮発させた。
その後、空気雰囲気で600℃3時間の熱処理を行い、粉末状のリチウムマンガン複合酸
化物を得た。得られたリチウムマンガン複合酸化物を正極活物質に用いて、正極503を
作製した。得られた正極の膜厚は85μmであった。
【0255】
次に、負極活物質、導電助剤、バインダー、分散媒を用いて、負極ペーストを作製し、当
該負極ペーストを負極集電体504(膜厚18μmの銅)上に塗布して、乾燥させること
で、負極活物質層505を含む負極506を形成した。本実施例では、負極活物質にGa
を用いて負極506を形成した。得られた負極の膜厚は45μmであった。
【0256】
次に、得られた正極503と負極506を用いて、単層のラミネート型蓄電池作製した。
図38にラミネート型の蓄電池500を示す。正極集電体501および正極活物質層50
2を有する正極503と、負極集電体504および負極活物質層505を有する負極50
6と、セパレータ507(厚さ25μm)と、電解液508と、外装体509と、を有す
る。外装体509内に設けられた正極503と負極506との間にセパレータ507が設
置されている。また、外装体509内は、電解液508で満たされている。なお、図38
では、正極集電体501と負極集電体504のそれぞれに接続されるリード電極が省略さ
れている。
【0257】
図35に作製したラミネート型蓄電池の放電特性を示す。横軸は、正極、負極及びセパレ
ータの容積の和で規格化した値を示している。本発明で得られたリチウムマンガン複合酸
化物を正極活物質として用い、良好なラミネート型蓄電池を形成することができた。
【実施例4】
【0258】
本実施例では、表6に示す原料の仕込み比に基づき、実施の形態1に示した作製方法を用
いて複数のリチウムマンガン複合酸化物を合成した。また、合成したリチウムマンガン複
合酸化物について、X線回折測定および組成分析を行った。
【0259】
[1.リチウムマンガン複合酸化物の合成]
LiMnで表されるリチウムマンガン複合酸化物を作製した。表6に、比較
試料100、および試料101乃至試料109を作製するための原料およびその仕込み比
を示す。本実施例では、表6に示す原料の組み合わせにより、比較試料100、および試
料101乃至試料109を作製した。なお、試料105については、同じ配合において、
4回繰り返して作製を行った。4回作製をおこなったそれぞれの試料を試料105a、試
料105b、試料105c、試料105dとする。
【0260】
【表6】
【0261】
まず、出発材料としてLiCOとMnCOとNiOを用い、表6に基づいてそれぞ
れを秤量した。表6はモル比率を示す。なお、試料101および比較試料100は、原料
としてNiOを使用しなかった。比較試料100は、層状岩塩型構造のLiMnO
得ることを目的とした原料の混合比である。ここで層状岩塩型構造のLiMnOを作
製したい場合には、リチウムとマンガンの比率は、Li:Mn=2:1である。一方、試
料101においては、リチウムとマンガンの比率をLi:Mn=1.68:1.12とし
た。すなわち、マンガンに対してリチウムを少なめにずらした配合を用いた。また、試料
102乃至試料109は、試料101のマンガンの一部を元素M、すなわちここではNi
に置き換えた。
【0262】
次に、これらの粉末にアセトンを加えた後、ボールミルで混合して混合粉末を調製した。
【0263】
次いで、アセトンを揮発させるための加熱を行い、混合原料を得た。
【0264】
次いで、坩堝に混合原料を入れ、新規材料を合成した。ここでは1000℃、10時間の
条件で焼成を行った。焼成ガスに空気を用い、流量は10L/min.とした。
【0265】
次いで、焼成した粒子の焼結を解くために解砕処理を行った。解砕処理は、アセトンを加
えた後、ボールミルで混合した。
【0266】
次いで、解砕処理後にアセトンを揮発させるための加熱を行い、その後真空乾燥を行った
【0267】
次に600℃、3時間の条件で焼成を行った。焼成ガスに空気を用い、流量は10L/m
in.とした。以上の工程により、粉末状の新規材料を得た。
【0268】
なお、比較試料100、および試料101乃至試料109の作製方法は、原料の仕込み比
が異なる以外は、同じ工程を用いた。
【0269】
[2.X線回折]
次に、表6の原料を用いて得られたリチウムマンガン複合酸化物のX線回折測定(XRD
:X-Ray Diffraction)を行った。図15にその測定結果を示す。また
図15を拡大して表示したものを図21乃至図23に示す。
【0270】
図15図21図22および図23より、試料100、試料101および試料102で
は、21°近傍と22°近傍の2つのピークがみえるが、試料103以降では弱くなる傾
向がみられる。この二つのピークは空間群C12/m1に属する層状岩塩型構造のLi
MnOに特徴的にみられるピークである。後述するリートベルト解析の結果に示す通り
、Mnに対するNiの比(Ni/Mn)が大きくなるのに伴い、層状岩塩型構造の2bサ
イト、2cサイトおよび4hサイトの3つのサイトへのMnの占有率とNiの占有率の和
が増大することが示唆された。空間群C12/m1に属する層状岩塩型構造のLiMn
ではLiのサイトである2bサイト、2cサイトおよび4hサイトの3つのサイトに
NiまたはMnが置換することにより、結晶の周期性に乱れが生じてこれらのピークが弱
くなった可能性がある。
【0271】
また、試料101および試料102では、37°近傍のピークとは別に、36°近傍にピ
ークが見られる。これは、空間群Fd-3mに属するスピネル構造のLiMnに起
因する可能性があり、後述するリートベルト解析の結果よりスピネル構造の比率が小さく
なったことが示唆されているため、それに起因してピークが弱くなった可能性がある。
【0272】
また、図24乃至図26に試料102、試料103、試料105c、試料106および試
料108のX線回折測定結果について、2θが25°から50°の範囲を拡大した図を示
す。
【0273】
表7および表8に、X線回折測定の結果から顕著にみられたピークのうちいくつかについ
て、2θの値および強度を示す。表7にはピーク1からピーク5までの5つのピークを、
表8にはピーク6からピーク9までの4つのピークを示した。表7および表8の中に示し
たI1は、ピーク強度であり、I2は、ピーク1に対する各ピークの強度である。データ
がないピークについては必ずしもピークが存在しないわけではなく、強度が弱いため(2
00カウント以下)記載していないものもある。ピーク1は2θが18.6°以上18.
8°以下の範囲の最大値とし、(0 0 1)面に帰属すると考えられる。ピーク2は2
θが20.65°以上20.90°以下の範囲の最大値とし、(0 2 0)面に帰属す
ると考えられる。ピーク3は2θが21.5°以上21.85°以下の範囲の最大値とし
、(1 1 0)面に帰属すると考えられる。ピーク4は前述する通りスピネル構造に起
因する可能性が考えられる。ピーク5は36°以上37.5°以下の範囲の最大値とし、
(1 3 0)面に帰属すると考えられる。ピーク6は2θが37.8°以上39.3°
以下の範囲の最大値とする。ピーク7は2θが43.7°以上44.7°以下の範囲の最
大値とする。ピーク8は2θが43.8°以上45.3°以下の範囲の最大値とする。ピ
ーク9は2θが48°以上49.5°以下の範囲の最大値とする。
【0274】
ピーク6に着目すると、試料104、つまりMnに対するNiの原料仕込み比(Ni/M
n比)が0.276以上ではピーク1に対する強度比(I2)が0.05以上と大きくな
る傾向がみられた。高い容量を得るためには、ピーク6のI2は0.04以上であること
が好ましい。また、ピーク9についても同様に試料104以降ではI2が0.052以上
と大きくなる傾向がみられた。高い容量を得る為には、ピーク9のI2は0.04以上で
あることが好ましい。言い換えれば、X線回折測定において、2θが18.6°以上18
.8°以下の範囲の最大値に対する、2θが37.8°以上39.3°以下の範囲の最大
値の比は、0.04以上であることが好ましい。また、2θが18.6°以上18.8°
以下の範囲の最大値に対する、2θが48°以上49.5°以下の範囲の最大値の比は、
0.04以上であることが好ましい。
【0275】
【表7】
【0276】
【表8】
【0277】
[3.リートベルト解析1]
次に、リートベルト解析(Rietveld解析)で確認した結晶構造データを以下に示
す。第一相は、空間群C12/m1に属する層状岩塩型構造のLiMnOを初期状態
とし、第二相は空間群Fd-3mに属するスピネル構造のLiMnを初期状態とし
てフィッティングを行った。解析条件は、実施の形態1に示した条件を用いたため、ここ
では詳細な記述は省く。
【0278】
リートベルト解析により、層状岩塩型構造とスピネル構造の重量比を求めた。なお計算の
初期状態については、基本的には表1および表2の値を用いたが、格子定数については、
試料105cについては表1および表2の値を初期値として計算を開始して格子定数を求
め、その他の試料については試料105cで求めた格子定数を初期値として計算を開始し
て格子定数を求めた。試料105cで求めた格子定数の値は、a=0.4959nm、b
=0.8583nm、c=0.5033nmであった。また、各サイト(site)につ
いて、層状岩塩型構造では2bサイトはLiまたはMnが占有するとして解析を行った。
なお、後述する通り、X線回折においてはMnとNiを区別することが難しい。また、初
期値として、2bサイトの占有率はLiが70%、Mnが30%として計算を開始した。
その他のサイトは、表1に記載されている原子(atom)が100%占有すると仮定し
た。また、スピネル構造についても、表2に記載されている原子(atom)が100%
占有すると仮定した。
【0279】
リートベルト解析から求めた第一相および第二相の重量比率を表9に示す。
【0280】
【表9】
【0281】
表9に示す通り、Ni/Mn比(原料仕込み比)が0.276以上では、スピネル構造の
重量比率は、およそ1.1%以下であった。
【0282】
[4.リートベルト解析2]
次に、各サイトについて原子の占有率をより詳細に調べるため、層状岩塩型構造の2bサ
イト、2cサイト、4hサイトおよび4gサイトの4つのサイトについて、Li、Mnお
よびNiの占有率の計算を行う。ここでは層状岩塩型構造の単層と仮定して、リートベル
ト解析を行い、原子の占有率、および格子定数の値を求めた。
【0283】
なお計算の初期状態については、基本的には表1および表2の値を用いたが、格子定数に
ついては、試料105cについては表1および表2の値を初期値として計算を開始して格
子定数を求め、その他の試料については試料105cで求めた格子定数を初期値として計
算を開始して格子定数を求めた。試料105で求めた格子定数の値は、後述する表10に
示す。
【0284】
計算結果の一例として、試料105a、試料105b、試料105cおよび試料105d
についてリートベルト解析により求めた結果を表10に示す。なお、NiとMnは、X線
散乱能の差が小さいため、その区別が難しい。よって、ここではNiの占有率とMnの占
有率の和について議論する。
【0285】
【表10】
【0286】
ここで、Rwpとは、残差二乗和を観測強度の総和で割ったものである。また、Rpとは
、観測強度の、理論回折強度からのズレである。Rexpとは、Rwpの期待値であり、
統計的に予想される最小のRwpである。また、GOFとは、Good of Fitn
essの略であり、RwpをRexpで割った値であり、1に近いほどよい。
【0287】
ここで、LiMnOにおいてはLiのサイトである2bサイト:初期座標(0,0.
5,0)、2cサイト:初期座標(0,0,0.5)および4hサイト:初期座標(0,
0.6560,0)について、Niの占有率とMnの占有率の和に注目して考察を行う。
表10より、試料105aでは、2bサイトの63.0%が、NiあるいはMnに占有さ
れていることがわかる。また、2cサイトは1.9%が、4hサイトは6.4%が、Ni
あるいはMnが占有していることがわかる。
【0288】
次に、試料101乃至試料109について、第一相である空間群C12/m1に属する層
状岩塩型構造について、A(Ni)2bとA(Mn)2bの和{A(Ni)2b+A(M
n)2b}を図16に、A(Ni)2c+4hとA(Mn)2c+4hの和{A(Ni)
2c+4h+A(Mn)2c+4h}を図17に、それぞれ示す。横軸は、各試料のNi
/Mn比(原料仕込み比)である。なお、試料107については、解析は行っていない。
【0289】
まず、Ni/Mn比(原料仕込み比)が<0.2の領域においては、2bサイトがNiあ
るいはMnに占有されている。次に、0.2>の領域においては、2cサイトおよび4h
サイトの占有率も上昇する。よって、容量の向上が見られ始めるNi/Mn比(原料仕込
み比)が0.2758(すなわち試料104の条件)以上において、2bサイト、2cサ
イトおよび4hサイトにNiあるいはMnが占有している状態と考察できる。ここで、A
(Ni)2b+A(Mn)2bは、好ましくは40%以上、より好ましくは40%以上8
5%以下、さらに好ましくは40%以上75%以下である。また、A(Ni)2c+4h
+A(Mn)2c+4hは、好ましくは0.2%以上、より好ましくは0.5%以上であ
る。
【0290】
Ni/Mn比(原料仕込み比)が0.2758(すなわち試料104の条件)以上の条件
において、容量の向上がみられた要因について推測を行う。0.2>の領域において2b
サイトのみならず2cサイトおよび4hサイトへのNiとMnの占有率の和が上昇する。
よって、2bサイト、2cサイトおよび4hサイトのうちいずれか、または複数のサイト
がNiまたはMnに占有されることにより、例えば結晶に歪みなどが生じる、あるいは電
子状態に変化が生じる、などの現象が起きてLiの拡散が起こりやすくなる可能性がある
【0291】
次に、試料101乃至試料109の格子定数a、bおよびcを図18図19および図2
0にそれぞれ示す。横軸は、各試料のNi/Mn比(原料仕込み比)である。図18、図
19、図20の図中に線形で近似した直線をしめす。なお、線形で近似する際には、Ni
/Mn比が0,0.935,1.221の3点を用いて近似した。直線で格子定数が推移
する例としては、例えばベガード則が成立する場合などが挙げられる。一般に、固溶体に
おいてはベガード則が成立し、固溶している濃度に応じて格子定数が線形に変化する。
【0292】
図18図19より、格子定数a、bについては、容量の向上が見られ始めるNi/Mn
比(原料仕込み比)が0.2758(すなわち試料104の条件)近傍において、線形近
似から外れる傾向がみられる。線形近似から外れた領域では、例えばNiが固溶していな
いことなどが推測される。格子定数aは、好ましくは0.494nm以上、より好ましく
は0.494nm以上0.4975nm以下、さらに好ましくは0.494nm以上0.
4965nm以下である。格子定数bは、好ましくは0.856nm以上、より好ましく
は0.856nm以上0.864nm以下、さらに好ましくは0.856nm以上0.8
62nm以下である。
【0293】
また図20より、格子定数cについてはNi/Mn比(原料仕込み比)が0.0915以
上の条件において、顕著な増大がみられる。格子定数cは、好ましくは0.5021nm
以上、より好ましくは0.5021nm以上0.5038nm以下、さらに好ましくは0
.5021nm以上0.5035nm以下である。
【実施例5】
【0294】
本実施例では、実施例4で作製したリチウムマンガン複合酸化物を用いてハーフセルを作
製し、放電特性を評価した。
【0295】
[1.セルの作製]
実施例4で得られたリチウムマンガン複合酸化物を含む電極を用いてハーフセルを作製し
、充放電特性を測定した。なお、ハーフセルでの測定は、正極にリチウムマンガン複合酸
化物を用い、負極にはリチウム金属を用いた。
【0296】
ここで、ハーフセルの動作について説明する。図11にハーフセルの充電を行う場合につ
いて示し、図12に、ハーフセルの放電を行う場合について示す。
【0297】
図11に、リチウムイオン二次電池を充電する場合における、リチウムイオン二次電池1
41と、充電器142との接続構成を示す。リチウムイオン二次電池に充電を行う場合、
正極では式(9)の反応が起こる。
【0298】
LiMn → Lix―aMn + aLi + ae
9)
【0299】
また、負極では、式(10)の反応が起こる。
【0300】
aLi + ae → aLi (10)
【0301】
ここで、式(9)および式(10)において、aは0<a<xを満たす。
【0302】
図12に、リチウムイオン二次電池を放電する場合における、リチウムイオン二次電池1
41と、負荷143との接続構成を示す。リチウムイオン二次電池の放電を行う場合、正
極では、式(11)の反応が起こる。
【0303】
Lix―aMn+ aLi + ae → LiMn (1
1)
【0304】
また、負極では、式(12)の反応が起こる。
【0305】
aLi→ aLi + ae (12)
【0306】
ここで、式(11)および式(12)において、aは0<a<xを満たす。
【0307】
まず、表1の原料を用いて得られたリチウムマンガン複合酸化物と、樹脂としてのPVd
Fと、導電助剤としてのABとを極性溶媒の一つであるNMP(N-メチル-2-ピロリ
ドン)に溶解させ、混合したスラリーを得た。ここでリチウムマンガン複合酸化物と、A
Bと、PVdFとの配合比は、重量比でリチウムマンガン複合酸化物:AB:PVdF=
80:15:5とした。次に、該スラリーを集電体上に塗布した後、乾燥させた。なお、
集電体表面には、あらかじめアンダーコートを施した。ここでアンダーコートとは、集電
体上に正極ペーストを塗布する前に、活物質層と集電体との界面抵抗を低減する目的や、
活物質層と集電体との密着性を高める目的で集電体上に形成する膜を指す。なお、アンダ
ーコートは、必ずしも膜状である必要はなく、島状に形成されていてもよい。アンダーコ
ートとしては、例えば炭素材料を用いることができる。炭素材料としては例えば、黒鉛や
、アセチレンブラック、ケッチェンブラック等のカーボンブラック、カーボンナノチュー
ブなどを用いることができる。
【0308】
集電体上にアンダーコートを形成することにより、後に形成される活物質層と集電体との
界面抵抗を低減することができる。また、活物質層と集電体との密着性を高めることがで
きる。なお、活物質層と集電体との密着性、電極強度、又は集電体と電極との間の界面抵
抗に問題がなければ、アンダーコートを集電体上に形成する必要はない。
【0309】
負極としてLi金属を用い、正極と負極の間に電解液を充填してハーフセルを作製した。
なお、電解液は、塩としてLiPFを用い、非プロトン性有機溶媒であるエチレンカー
ボネートとジエチルカーボネートを1:1の体積比で混合させた混合溶液を用いた。また
、セパレータとしてはポリプロピレン(PP)を用いた。
【0310】
[2.放電特性評価]
作製した試料100乃至試料109を有するハーフセルの放電容量を図13に示す。縦軸
が電圧(V)であり、横軸が放電容量(mAh/g)である。充電条件は、電流密度30
mA/g、定電流充電、終止電圧4.8Vであった。また、放電条件は、30mA/g、
定電流放電、終止電圧2.0Vであった。充放電測定を行った温度は25℃であった。
【0311】
また、図13をもとにして横軸にNiとMnの原料仕込み比、縦軸に放電容量をプロット
したグラフを図14に示す。なお、ここでは比較試料である試料100の放電容量のプロ
ットは省く。Ni/Mn比(原料仕込み比)が0.2758(すなわち試料104の条件
)以上の条件において、容量の向上がみられた。
【0312】
NiとMnの組成の和に対する、Li組成の比は、LiMnにおいてx/(
y+z)で表され、好ましくは2未満、より好ましくは1.6未満である。また、Ni/
Mnの組成の比はz/yで表される。また、Li/Mnの組成の比はx/yで表される。
【実施例6】
【0313】
本実施例では、表11に示す原料の仕込み比に基づき、実施の形態1に示した作製方法を
用いて複数のリチウムマンガン複合酸化物を合成した。
【0314】
[1.リチウムマンガン複合酸化物の合成]
LiMnで表されるリチウムマンガン複合酸化物を作製した。表11に、試
料121乃至試料131を作製するための原料およびそのモル比率を示す。原料のリチウ
ムのモル量を、原料のマンガンのモル量と原料のニッケルのモル量の和で割った値をLi
/(Mn+Ni)とし、表11に記載した。また、原料のニッケルのモル量を原料のマン
ガンのモル量で割った値をNi/Mnとし、表11に記載した。
【0315】
【表11】
【0316】
まず、出発材料としてLiCOとMnCOとNiOを用い、表11に基づいてそれ
ぞれを秤量した。
【0317】
次に、これらの粉末にアセトンを加えた後、ボールミルで混合して混合粉末を調製した。
【0318】
次いで、アセトンを揮発させるための加熱を行い、混合原料を得た。
【0319】
次いで、坩堝に混合原料を入れ、新規材料を合成した。ここでは1000℃、10時間の
条件で焼成を行った。焼成ガスに空気を用い、流量は10L/min.とした。
【0320】
次いで、焼成した粒子の焼結を解くために解砕処理を行った。解砕処理は、アセトンを加
えた後、ボールミルで混合した。
【0321】
次いで、解砕処理後にアセトンを揮発させるための加熱を行い、その後真空乾燥を行った
【0322】
以上の工程により、粉末状の新規材料を得た。
【0323】
次に、作製した試料121乃至試料131を用いてハーフセルを作製し、放電特性を評価
した。
【0324】
[2.セルの作製]
得られた試料121乃至試料131を含む電極を用いてハーフセルを作製し、充放電特性
を測定した。なお、ハーフセルでの測定は、正極にリチウムマンガン複合酸化物を用い、
負極にはリチウム金属を用いた。
【0325】
電極の作製方法について説明する。まず、表11の原料を用いて得られたリチウムマンガ
ン複合酸化物と、樹脂としてのPVdFと、導電助剤としてのABとを極性溶媒の一つで
あるNMP(N-メチル-2-ピロリドン)に溶解させ、混合したスラリーを得た。ここ
で表12に、リチウムマンガン複合酸化物(表12では活物質と表記する)と、ABと、
PVdFとの配合比を重量比で示す。次に、該スラリーを集電体上に塗布した。塗布を行
った後、80℃で乾燥を行い、電極を得た。その後、さらに表12に記載の温度で電極に
熱処理を行った。
【0326】
【表12】
【0327】
なお、集電体表面には、あらかじめアンダーコートを施した。ここでアンダーコートとは
、集電体上に正極ペーストを塗布する前に、活物質層と集電体との界面抵抗を低減する目
的や、活物質層と集電体との密着性を高める目的で集電体上に形成する膜を指す。なお、
アンダーコートは、必ずしも膜状である必要はなく、島状に形成されていてもよい。アン
ダーコートとしては、例えば炭素材料を用いることができる。炭素材料としては例えば、
黒鉛や、アセチレンブラック、ケッチェンブラック等のカーボンブラック、カーボンナノ
チューブなどを用いることができる。
【0328】
集電体上にアンダーコートを形成することにより、後に形成される活物質層と集電体との
界面抵抗を低減することができる。また、活物質層と集電体との密着性を高めることがで
きる。なお、活物質層と集電体との密着性、電極強度、又は集電体と電極との間の界面抵
抗に問題がなければ、アンダーコートを集電体上に形成する必要はない。
【0329】
負極としてLi金属を用い、正極と負極の間に電解液を充填してハーフセルを作製した。
なお、電解液は、塩としてLiPFを用い、非プロトン性有機溶媒であるエチレンカー
ボネートとジエチルカーボネートを1:1の体積比で混合させた混合溶液を用いた。また
、セパレータとしてはポリプロピレン(PP)を用いた。
【0330】
[3.放電特性評価]
作製した試料121乃至試料131を有するハーフセルの放電容量を縦軸に、NiとMn
の原料仕込み比を横軸にプロットしたグラフを図49に示す。図49(A)は表11に示
すLi/(Mn+Ni)の値が1.00、1.26、及び1.30の試料を用いた場合に
、得られる放電容量を示す。図49(B)は、表11に示すLi/(Mn+Ni)の値が
1.42、及び1.59の場合を示す。また、図49(B)に示すLi/(Mn+Ni)
=1.49の結果は、実施例5の図13に示すデータを用いてプロットを行った。図49
(C)は、表11に示すLi/(Mn+Ni)の値が1.64、及び1.73の場合を示
す。
【0331】
ここで、図49(A)及び(B)より、Li/(Ni+Mn)の値が1.30以下の場合
に比べて、1.46以上の場合の方がより高い容量が得られるため好ましい。また、図4
9(C)の結果から、Li/(Ni+Mn)の値が1.64及び1.73の場合にも高い
放電容量が得られることがわかった。
【0332】
次に、Ni/Mnの値に着目して考察を行う。図49(B)と図49(C)を比較すると
、Li/(Ni+Mn)の値が1.49の場合には、1.73の場合と比較して、高い容
量が得られるNi/Mnの値の範囲が広い。
【0333】
以上より、LiMnNiで表されるリチウムマンガン複合酸化物において、D
/(y+z)は1.35以上2未満が好ましく、1.4以上1.8未満がより好ましく、
1.4以上1.6未満がさらに好ましい。また、0.2<z/y<1.2であることが好
ましい。なお、蓄電池の動作では、例えば充電等によりリチウムマンガン複合酸化物から
リチウムが脱離する。ここでDは、例えば、リチウムが充電等により脱離するより前にリ
チウムマンガン複合酸化物が有するリチウム量、あるいは充電によりリチウムが脱離した
後に放電等により再度リチウムが挿入された後にリチウムマンガン複合酸化物が有するリ
チウム量を指す。
【符号の説明】
【0334】
100 比較試料
101 試料
102 試料
103 試料
104 試料
105 試料
105a 試料
105b 試料
105c 試料
105d 試料
106 試料
107 試料
108 試料
109 試料
121 試料
122 試料
123 試料
124 試料
125 試料
126 試料
127 試料
128 試料
129 試料
130 試料
131 試料
141 リチウムイオン二次電池
142 充電器
143 負荷
150 比較試料
151 試料
152 試料
153 試料
154 試料
155 試料
156 試料
157 試料
158 試料
159 試料
160 試料
161 試料
162 試料
163 試料
164 試料
165 試料
166 試料
170 部位
201 スピネル型の結晶構造の結晶子
202 層状岩塩型の結晶構造の結晶子
203 LiMnO粒子
204 Spi-LiMn粒子
205 焼結された材料
300 蓄電池
301 正極缶
302 負極缶
303 ガスケット
304 正極
305 正極集電体
306 正極活物質層
307 負極
308 負極集電体
309 負極活物質層
310 セパレータ
400 蓄電池
402 正極
404 負極
500 蓄電池
501 正極集電体
502 正極活物質層
503 正極
504 負極集電体
505 負極活物質層
506 負極
507 セパレータ
508 電解液
509 外装体
600 蓄電池
601 正極キャップ
602 電池缶
603 正極端子
604 正極
605 セパレータ
606 負極
607 負極端子
608 絶縁板
609 絶縁板
610 ガスケット
611 PTC素子
612 安全弁機構
900 回路基板
910 ラベル
911 端子
912 回路
913 蓄電体
914 アンテナ
915 アンテナ
916 層
917 層
918 アンテナ
919 端子
920 表示装置
921 センサ
922 端子
930 筐体
930a 筐体
930b 筐体
931 負極
932 正極
933 セパレータ
951 端子
952 端子
7100 携帯表示装置
7101 筐体
7102 表示部
7103 操作ボタン
7104 蓄電装置
7400 携帯電話機
7401 筐体
7402 表示部
7403 操作ボタン
7404 外部接続ポート
7405 スピーカ
7406 マイク
7407 蓄電装置
8021 充電装置
8022 ケーブル
8024 蓄電装置
8100 自動車
8101 ヘッドライト
8200 自動車
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23
図24
図25
図26
図27
図28
図29
図30
図31
図32
図33
図34
図35
図36
図37
図38
図39
図40
図41
図42
図43
図44
図45
図46
図47
図48
図49