(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-18
(45)【発行日】2022-11-29
(54)【発明の名称】磁石ユニット及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
H01F 7/02 20060101AFI20221121BHJP
G01D 5/12 20060101ALI20221121BHJP
【FI】
H01F7/02 A
H01F7/02 E
H01F7/02 Z
G01D5/12
(21)【出願番号】P 2021084460
(22)【出願日】2021-05-19
【審査請求日】2021-09-10
(73)【特許権者】
【識別番号】595181210
【氏名又は名称】株式会社ダイドー電子
(73)【特許権者】
【識別番号】000000011
【氏名又は名称】株式会社アイシン
(74)【代理人】
【識別番号】100076473
【氏名又は名称】飯田 昭夫
(74)【代理人】
【識別番号】100112900
【氏名又は名称】江間 路子
(74)【代理人】
【識別番号】100136995
【氏名又は名称】上田 千織
(74)【代理人】
【識別番号】100163164
【氏名又は名称】安藤 敏之
(74)【代理人】
【識別番号】100198247
【氏名又は名称】並河 伊佐夫
(72)【発明者】
【氏名】谷口 将太郎
(72)【発明者】
【氏名】臼井 康英
(72)【発明者】
【氏名】浜田 和樹
(72)【発明者】
【氏名】都築 孝規
(72)【発明者】
【氏名】大橋 佳史
【審査官】秋山 直人
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-134509(JP,A)
【文献】特開2017-173035(JP,A)
【文献】特開2016-205977(JP,A)
【文献】特開2018-044768(JP,A)
【文献】特開2005-121671(JP,A)
【文献】特開平06-331384(JP,A)
【文献】国際公開第2021/187074(WO,A1)
【文献】実開昭55-159510(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 7/02
G01D 5/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
筒状の保持部材と、
該保持部材の一端側の内部に形成されたボンド磁石と、
を備え、
前記ボンド磁石は、中心軸と交差する方向に延びる端面と前記保持部材の内周面に沿って形成された外周面とが交わる角部に、軸方向に突出して前記保持部材との接触部を拡張させる突出部を備え
、
前記突出部は、前記突出部における前記中心軸と交差する方向である軸交差方向において外向きの外面のみを前記保持部材に接触させていることを特徴とする磁石ユニット。
【請求項2】
前記突出部は、前記中心軸に沿った断面視において、軸方向に延びて前記保持部材に接する
前記外面と、前記端面側から先端側に向かうにつれて前記中心軸から離間するテーパ状の内面と、を備えていることを特徴とする請求項1に記載の磁石ユニット。
【請求項3】
前記突出部は、前記保持部材の内周面に沿って無端環状に形成されていることを特徴とする請求項1,2の何れかに記載の磁石ユニット。
【請求項4】
請求項2,3の何れかに記載の磁石ユニットを製造する方法であって、
前記保持部材の内部に成形金型を挿入させて前記保持部材の内部にキャビティを規定し、該キャビティ内にボンド磁石用材料を射出して磁石成形体を形成するステップを備え、
前記成形金型の、前記保持部材の内部に挿入される部位の先端角部に、前記ボンド磁石の突出部に対応するテーパ部が形成されていることを特徴とする磁石ユニットの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、回転体の回転位置の検出等の用途で用いられる磁石ユニット及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、回転体の回転位置の検出等の用途で磁気式の位置検出装置が用いられている。この位置検出装置は、検出対象である回転体に取り付けられる磁石と、磁石による磁気を検出する磁気センサと、を含んで構成されている。
【0003】
検出対象である回転体に磁石を取り付けるための手段として、例えば下記特許文献1で示されているように、筒状をなした保持部材を用い、保持部材の内部に磁石を取り付け、この保持部材を介して磁石を回転体に取り付けることが行われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ここで回転体の位置を精度良く検出するためには、磁気センサと回転体に取り付けられた磁石との相対位置が重要となる。検出対象の回転体が自動車の構成部品であった場合、回転体に取り付けられる保持部材及び磁石には、エンジンからの振動や走行中に加えられる振動等に起因する外力が長期に亘って作用するため、保持部材と磁石との間にはこのような外力によって変形やガタツキが生じない十分な強度が求められる。一方で、寸法的な制約や小型化、コスト低減等の要請から十分な強度を確保することが難しい場合も想定される。
本発明は以上のような事情を背景とし、保持部材と保持部材の内部に形成される磁石との間の固定強度を高めることが可能な磁石ユニット及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは上記課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、下記のように本発明に想到した。
この発明の第1の局面の磁石ユニットは次のように規定される。即ち、
筒状の保持部材と、
該保持部材の一端側の内部に形成されたボンド磁石と、
を備え、
前記ボンド磁石は、中心軸と交差する方向に延びる端面と前記保持部材の内周面に沿って形成された外周面とが交わる角部に、軸方向に突出して前記保持部材との接触部を拡張させる突出部を備えている。
【0007】
このように規定される第1の局面の磁石ユニットによれば、磁石ユニットを構成する保持部材及びボンド磁石の形状を大きく変更することなく、保持部材とボンド磁石との接触面積を増大させることができ、保持部材と磁石との間の固定強度を高めることができる。
【0008】
この発明の第2の局面は次のように規定される。即ち、
第1の局面で規定の磁石ユニットにおいて、前記突出部は、前記中心軸に沿った断面視において、軸方向に延びて前記保持部材に接する外面と、前記端面側から先端側に向かうにつれて前記中心軸から離間するテーパ状の内面と、を備えている。
このような形態の突出部は、射出成形の際、前記保持部材の内部に挿入される成形金型部位の先端角部に、前記突出部に対応するテーパ部を形成することで実現することができる。かかるテーパ部は成形金型挿入時のガイドとしての機能を有し、成形金型と保持部材との干渉を防いで、射出成形時における磁石ユニットの製造性を高めることができる。
【0009】
また発明の第3の局面では、第1又は第2の局面で規定の磁石ユニットにおいて、前記突出部は、前記保持部材の内周面に沿って無端環状に形成されている。
このように規定される第3の局面の磁石ユニットによれば、保持部材とボンド磁石との接触面積を周方向に最大化させることができる。
【0010】
この発明の第4の局面の磁石ユニットの製造方法は次のように規定される。即ち、
第2又は第3の局面に記載の磁石ユニットを製造する方法であって、
前記保持部材の内部に成形金型を挿入させて前記保持部材の内部にキャビティを規定し、該キャビティ内にボンド磁石用材料を射出して磁石成形体を形成するステップを備え、
前記成形金型の、前記保持部材の内部に挿入される部位の先端角部に、前記ボンド磁石の突出部に対応するテーパ部が形成されている。
このように規定される第4の局面の製造方法によれば、ボンド磁石に突出部を形成するため成形金型の先端角部に形成したテーパ部が成形金型挿入時のガイドとしての機能を有し、成形金型と保持部材との干渉を防いで、射出成形時における磁石ユニットの製造性を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の一実施形態に係る磁石ユニットの斜視図である。
【
図2】(A)は
図1の磁石ユニットの縦断面図、(B)は(A)におけるB部を拡大して示した図である。
【
図3】
図1の保持部材を単体で示した図で、(A)は平面図、(B)は縦断面図、(C)は(B)のC-C断面図である。
【
図4】
図1の磁石ユニットの製造方法についての説明図である。
【
図5】
図4に続く磁石ユニットの製造方法についての説明図である。
【
図6】突起部を無端環状に設けた変形例を示した図であり、(A)は平面図、(B)は縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
次に本発明の一実施形態の磁石ユニットを図面に基づいて詳しく説明する。
図1は本発明の一実施形態の磁石ユニット1を示した斜視図、
図2は磁石ユニット1の縦断面図である。
磁石ユニット1は、回転体Wの回転位置を検出するに際し、回転体Wに取り付けられるもので、円筒状の保持部材2と、保持部材2の内部に形成された磁石4とを備えている。磁石4には中心軸P周りの周方向の異なる位置にN極とS極が着磁されている。また、場合によっては厚み方向の異なる位置にN極とS極が着磁されていてもよい。
回転体Wに取り付けられた磁石ユニット1は、回転体Wが回転すると、回転体Wとともに回転する。この際の磁力の変化が磁石4の上向きの端面31の直上に配置された磁気センサ(図示省略)により検出され、回転体Wの回転位置が検出される。
【0013】
図3は、磁石ユニット1の一部を構成する保持部材2を単体で示した図である。同図で示すように保持部材2は、両端が軸方向に開放された円筒状の部材で、その周壁部10は軸方向に沿って外径及び内径が変化しないストレート形状とされている。保持部材2(詳しくは周壁部10)の一端側11には径方向外側に向かって延びる環状のフランジ部12が設けられている。フランジ部12は保持部材2の強度を高める効果を有し、保持部材2の円筒形状を維持するのに有効である。
【0014】
フランジ部12が設けられた保持部材2の一端側11は磁石4が形成される部位で、その内部は磁石4を形成し保持する空間とされている。周壁部10における一端側の内周面10aからは、径方向内側に(即ち、中心軸P側に)突出する突起部15が、周方向に間隔を隔てて複数(ここでは4箇所)形成されている。突起部15は磁石4の抜止め等を目的としたもので、突起部15は磁石4が形成される空間の軸方向における略中央の位置に形成されている。
【0015】
一方、保持部材2の他端側22は回転体Wと嵌合する部位で、その内部は回転体Wを収容する空間とされている。周壁部10における他端側の内周面10aには、軸方向他端側の開口縁に向かって延びて他端側に開放する溝23が周方向に間隔を隔てて複数(ここで3箇所)形成されている。かかる溝23は、回転体Wを内嵌させた際に、保持部材2内の空気を外部に排出するための空気抜きとして機能するものである。
【0016】
このように構成された保持部材2は、金属製の非磁性材であることが好ましい。非磁性材としては、アルミニウム、銅、真鍮、ステンレス等を例示することができる。また、磁気回路を構成する目的でSPCC等の鉄あるいはSUS420を使用することもできる。
【0017】
なお、保持部材2に形成される突起部の長さや数は適宜変更可能である。
図6は、保持部材2における突起部の変形例を示している。この変形例では、保持部材2の内周面10aの全周に亘って突起部15Bが無端環状に形成されている。また、突起部の突起は、形状も適宜変更可能であり、突起の数は必要に応じて増減可能である。保持部材2と磁石4との強度が確保できれば、0個でもよい。
【0018】
次に磁石4について説明する。本例の磁石4は、磁石材料と樹脂を混合し、保持部材2の内部に射出成形して得られたボンド磁石である。磁石材料は、Sm、Nd、Pr等の希土類元素の1種または2種以上を含む磁性材料を意味し、例えば、SmFeN系、NdFeB系の希土類磁性粉やフェライト系磁性粉及びこれらの混合物を用いることができる。
また磁石材料との混合に用いられる樹脂としては、熱可塑性のポリアミド12、ポリアミド6、PPS、PBT、EVA、ポリプロピレン等を例示することができる。
【0019】
磁石4は、略円板状をなし、
図2で示すように、中心軸Pと交差する方向(図中左右方向)に延びる第1の端面31及び第2の端面32が軸方向に間隔を隔てて形成されている。ここで、第1の端面31は一端側11の端部開口の近くに形成された軸方向外側の端面で、第2の端面32は第1の端面31よりも他端側22に形成された軸方向内側の端面である。また、第1の端面31と第2の端面32との間には、保持部材2の内周面10aと接する外周面34が形成されている。
【0020】
この磁石4は、外周面34の軸方向の略中央において、保持部材2の突起部15が埋設されている。本例では、突起部15と磁石4との嵌合により磁石4の軸方向への抜止めおよび周方向への回り止めが図られている。
【0021】
また軸方向内側に位置する第2の端面32と外周面34とが交わる角部には、軸方向に突出して保持部材2との接触部を拡張させる突出部40が、保持部材2の内周面10aに沿って無端環状に形成されている。
【0022】
この突出部40は、
図2(B)で示すように、中心軸Pに沿った断面視において、軸方向に延びて保持部材2に接する外面42と、第2の端面32側から突出部先端側に向かうにつれて中心軸Pから離間するテーパ状の内面44と、を備えている。突出部40の断面形状は略三角形状で、基端側から先端側に向かって肉厚が漸次減少する形状とされている。
【0023】
突出部40が形成された本例の磁石ユニット1においては、仮想的に突出部40が形成されていない場合と比較して、
図2(B)で示す軸方向長さδだけ、磁石4と保持部材2との接触部が拡張されるため、保持部材2と磁石4との間の固定強度を高めることができる。例えば、磁石4の直径Dが7~10mm、厚みtが2~4mmである場合に、本例では突出部40の軸方向長さδを0.3~2.0mmの範囲で形成することができ、より好ましくは0.5~1.0mmの範囲で形成することができる。
【0024】
図4、
図5に基づいて、本例の磁石ユニット1の製造方法について説明する。
図4、
図5において、50は成形金型で、この成形金型50は磁石ユニット1の軸方向に分割された分割型(第1分割型)50Aと、分割型(第2分割型)50Bと、に分割されている。
【0025】
第1分割型50Aは、保持部材2の下方に位置して保持部材2を支持する金型で、位置決め用の環状の凹溝52と、その内側にあって凹溝52よりも上方に突出させた底面部53とを備えている。
また第2分割型50Bは、保持部材2の上方から保持部材2の内部に挿入させる柱状の成形部55を備えている。柱状の成形部55の先端角部には磁石4に形成される突出部40に対応するテーパ部57が形成されている。
【0026】
まず、
図4(I)で示すように、所定の形状に加工された保持部材2を、フランジ部12を下に向けた状態とし、該フランジ部12を第1分割型50Aに形成された凹溝52に嵌め合わせる。このとき保持部材2の一端側11の端部開口が第1分割型50Aの底面部53で閉塞される。
【0027】
続いて、保持部材2の、上向きに開放された他端側22の端部開口から、第2分割型50Bの柱状の成形部55を保持部材2の内部に挿入する。そして、第1分割型50Aと第2分割型50Bとが閉じた状態で、
図4(II)で示すように、保持部材2と、第1分割型50Aの底面部53と、第2分割型50Bの成形部55とでキャビティ58が形成される。
【0028】
第2分割型50Bの成形部55の中央部にはボンド磁石材料を注入するための通路56が設けられており、キャビティ58内に通路56を通じてボンド磁石材料が射出されると、
図5(III)で示すように、保持部材2の内部に磁石成形体4Aが形成される。尚、形成された磁石成形体4Aの端面32における通路56との接続部には、ゲート残りに起因する図示を省略する突出部が形成されてもよい。
【0029】
その後、形成された磁石成形体4Aに着磁を施し磁石4とすることで、本実施形態の磁石ユニット1が得られる。
【0030】
以上のように、本実施形態の磁石ユニット1によれば、ボンド磁石4の、中心軸Pと交差する方向に延びる端面32と保持部材2の内周面10aに沿って形成された外周面34とが交わる角部に、軸方向に突出して保持部材2との接触部を拡張させる突出部40が形成されており、磁石ユニット1を構成する保持部材2やボンド磁石4の形状を大きく変更することなく、保持部材2とボンド磁石4との接触面積を増大させることができ、保持部材2とボンド磁石4との間の固定強度を高めることができる。
【0031】
本実施形態の磁石ユニット1では、突出部40が、中心軸Pに沿った断面視において、軸方向に延びて保持部材2に接する外面42と、端面32側から先端側に向かうにつれて中心軸Pから離間するテーパ状の内面44と、を備えている。
このような形態の突出部40は、射出成形の際、保持部材2の内部に挿入される成形金型50Bの成形部55の先端角部に、突出部40に対応するテーパ部57を形成することで実現することができる。かかるテーパ部57は成形金型50B挿入時のガイドとしての機能を有し、成形金型50Bと保持部材2との干渉を防いで、射出成形時における製造性を高めることができる。
【0032】
また本実施形態の磁石ユニット1では、突出部40を、保持部材2の内周面10aに沿って無端環状に形成することで、保持部材2と磁石4との接触面積を周方向に最大化させることができる。
【0033】
以上本発明の実施形態について詳述したが、本発明はこれに限定されず、その趣旨を逸脱しない範囲内において種々変更して実施可能である。例えば上記実施形態では円筒形状の保持部材としたが、多角形や長円形の筒状部材を保持部材として採用することも可能である。また回転体と嵌合させる他端側を一端側に対して縮径若しくは拡径された形状の保持部材を採用することも可能であるなど、請求の範囲の記載を逸脱せず、当業者が容易に想到できる範囲で種々の変形態様も本発明に含まれる。
【符号の説明】
【0034】
1 磁石ユニット
2 保持部材
4 磁石(ボンド磁石)
4A 磁石成形体
10a 内周面
32 端面
34 外周面
40 突出部
42 外面
44 内面
50A,50B 分割型(成形金型)
57 テーパ部
58 キャビティ
P 中心軸
【要約】
【課題】保持部材と保持部材の内部に形成される磁石との間の固定強度を高めることが可能な磁石ユニットを提供する。
【解決手段】磁石ユニット1は筒状の保持部材2と、保持部材2の一端側11の内部に形成されたボンド磁石4と、を備える。ボンド磁石4は、中心軸Pと交差する方向に延びる端面32と保持部材2の内周面10aに沿って形成された外周面34とが交わる角部に、軸方向に突出して保持部材2との接触部を拡張させる突出部40を備えている。
【選択図】
図2