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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-18
(45)【発行日】2022-11-29
(54)【発明の名称】ミリ波アンテナ用フィルム
(51)【国際特許分類】
   C08J 9/04 20060101AFI20221121BHJP
   C08J 9/26 20060101ALI20221121BHJP
   H01Q 1/38 20060101ALI20221121BHJP
   H01B 3/30 20060101ALI20221121BHJP
   H01B 3/42 20060101ALI20221121BHJP
【FI】
C08J9/04 101
C08J9/04 CFD
C08J9/04 CFG
C08J9/26 102
H01Q1/38
H01B3/30 D
H01B3/42 D
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2021090948
(22)【出願日】2021-05-31
(62)【分割の表示】P 2019140883の分割
【原出願日】2017-04-06
(65)【公開番号】P2021152165
(43)【公開日】2021-09-30
【審査請求日】2021-06-30
(31)【優先権主張番号】P 2016145541
(32)【優先日】2016-07-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003964
【氏名又は名称】日東電工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【弁理士】
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100067013
【弁理士】
【氏名又は名称】大塚 文昭
(74)【代理人】
【識別番号】100086771
【弁理士】
【氏名又は名称】西島 孝喜
(74)【代理人】
【識別番号】100109335
【弁理士】
【氏名又は名称】上杉 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100120525
【弁理士】
【氏名又は名称】近藤 直樹
(74)【代理人】
【識別番号】100139712
【弁理士】
【氏名又は名称】那須 威夫
(72)【発明者】
【氏名】中村 将義
(72)【発明者】
【氏名】程野 将行
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 孝彦
(72)【発明者】
【氏名】永岡 直樹
(72)【発明者】
【氏名】日紫喜 智昭
【審査官】千葉 直紀
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-026850(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J9/00-9/42
H01B3/16-3/56
H01Q1/00-1/10;1/27-1/52
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリマー材料からなるベース材料層に微細な空孔が分散形成された、多孔質の低誘電性ポリマーフィルムの製造方法であって、
前記ポリマー材料の前駆体であるポリマー前駆体の有機溶媒による溶液に、所定の配合割合で多孔化剤を添加して、ポリマー前駆体溶液を得る工程、
前記ポリマー前駆体溶液を基体に適用して、所望の形状を有する成形体を得る工程、
前記成形体を乾燥して、前記成形体中の溶媒の少なくとも一部を除去する工程、
前記成形体中の多孔化剤の少なくとも一部を抽出する工程、
前記ポリマー材料の前駆体を前記ポリマー材料に変換する工程
を含み、
前記抽出する工程を、前記溶媒を残存させた状態で行う
ことを特徴とする、前記製造方法。
【請求項2】
前記所定の配合割合が、前記ポリマー前駆体100重量部に対して前記多孔化剤が200重量部以下である割合であることを特徴とする、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記所定の配合割合が、前記ポリマー前駆体100重量部に対して前記多孔化剤が10重量部以上である割合であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記抽出する工程が、超臨界抽出法を含むことを特徴とする、請求項1~3のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項5】
前記超臨界抽出法が、超臨界二酸化炭素を用いて前記成形体から前記多孔化剤の少なくとも一部を除去する工程を含むことを特徴とする、請求項4に記載の製造方法。
【請求項6】
前記抽出する工程を、32~230℃の温度で行うことを特徴とする、請求項1~5のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項7】
前記抽出する工程を、7.3~100MPaの圧力で行うことを特徴とする、請求項1~6のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項8】
前記抽出する工程を、1~10時間行うことを特徴とする、請求項1~7のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項9】
前記除去する工程を、60~180℃の温度で行うことを特徴とする、請求項1~8のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項10】
前記除去する工程を、5~60分行うことを特徴とする、請求項1~9のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項11】
前記除去する工程を、溶媒の残存量が前記ポリマー前駆体の量に対して15~250重量部となるまで行うことを特徴とする、請求項1~10のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項12】
前記有機溶媒がN-メチルピロリドンであることを特徴とする、請求項1~11のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項13】
前記ポリマー材料が、ポリイミド、ポリエーテルイミド、フッ化ポリイミド、及びポリカーボネートからなる群から選ばれることを特徴とする、請求項1~12のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項14】
前記ベース材料層の少なくとも一方の表面に、該ベース材料層のポリマー材料からなる実質的に平滑なスキン層が形成されていることを特徴とする、請求項1~13のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項15】
前記フィルムはミリ波アンテナ用の基板に使用するフィルムであることを特徴とする、請求項1~14のいずれか1項に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多孔質の低誘電性ポリマーフィルムに関する。特に、本発明は、ミリ波アンテナ用のシートとして有用な、多孔質の低誘電性ポリマーフィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
ミリ波は、周波数が30GHz~300GHzの電磁波で、波長がミリメートルオーダー(1mm~10mm)であることから、このように呼ばれている。ミリ波に比べて周波数が低いマイクロ波などの電磁波は、一般に、雨などによる影響をあまり受けないため、テレビやラジオなどの放送、携帯電話、長距離の無線通信に利用されてきた。これに対してミリ波は、雨による減衰、空気中の酸素や水分子の共鳴吸収等による減衰が発生するため、長距離無線通信に使用するのは難しい。
一方、ミリ波の場合、波長が短くなることによって、一度に大量のデータを送ることが可能となる。また、ミリ波をイメージング技術に適用した場合、分解能が高まるため、マイクロ波イメージングに比べて高精細な画像が得られることが期待される。このためミリ波は、近距離無線通信用途や自動車などの車載レーダーなどに活用されることが期待されている。
【0003】
ミリ波通信モジュールに使用されるアンテナ(ミリ波アンテナ)は、樹脂又はセラミックス製の基材の上にアンテナ電極の配線によるアレーを設けた構造を有するのが一般的である。アンテナの電力損失は、配線での損失とアンテナでの放射損失に比例するものであるところ、配線での損失は基材の誘電率の平方根に、アンテナでの放射損失は基材の誘電率に、それぞれ比例する。したがって、ミリ波アンテナを高利得化してミリ波の通信距離をできるだけ長くするためには、基材を低誘電率化するのが有効である。
【0004】
樹脂などのプラスチック材料の誘電率は、通常その分子骨格によって決定されるため、誘電率を下げる試みとして分子骨格を変成する方法が考えられる。しかし、比較的低い誘電率を持つポリエチレンでもその誘電率は約2.3、ポリテトラフルオロエチレンでも約2.1であり、その分子骨格の制御による低誘電率化には限界がある。また骨格の変更により、プラスチック材料で形成した膜の強度や線膨張係数などの諸物性が変化してしまうなどの問題が生じ得る。
【0005】
ポリイミド樹脂は高い絶縁性、寸法安定性、易成形性、軽量等の特徴を有するために、信頼性の必要な部品、部材として、回路基板などの電子、電気機器や電子部品に広く用いられている。特に近年、電気、電子機器の高性能、高機能化に伴い、情報の高速転送化が要求されており、これらに使用される部材にも高速化対応が求められている。そのような用途に使用されるポリイミドについて、高速化に対応した電気特性を有するように低誘電率化、低誘電正接化を図る試みがなされている。
【0006】
他の低誘電率化の試みとして、空気の誘電率が1であることを利用し、プラスチック材料を多孔化させて、その空孔率によって誘電率を制御しようとする方法が各種提案されている。
例えば、特開平9-100363号公報には、電子機器などのプリント配線基板や回転機のスロット絶縁などに用いられる耐熱性のある低誘電率プラスチック絶縁フィルムとして、空孔率が10vol%以上である多孔質なプラスチックを含み、耐熱温度が100℃以上で、かつ誘電率が2.5以下であることを特徴とする低誘電率プラスチック絶縁フィルムが開示されている。
また、特開2012-101438号公報には、プリント配線板用基板として有用な多孔性ポリイミド層を含有するポリイミド層と金属箔層が積層された積層体として、金属箔の片面に非多孔性ポリイミド層、多孔性ポリイミド層、非多孔性ポリイミド層の順に各ポリイミド層が積層されており、ポリイミド層の合計厚みが10~500μmであり、かつ、多孔性ポリイミド層の厚みがポリイミド層の合計厚みに対して10%~90%であることを特徴とする積層体が開示されている。
【0007】
従来の多孔質ポリマーを得る方法として、乾式法や湿式法等がある。乾式法としては、物理発泡法と化学発泡法とが知られている。
物理発泡法は、例えばクロロフルオロカーボン類、または炭化水素類などの低沸点溶媒を発泡剤としてポリマーに分散させた後、加熱して発泡剤を揮発させることによりセルを形成して、多孔質体を得るものである。
また化学発泡法は、ポリマーに発泡剤を添加してこれを熱分解することによって生じるガスによりセルを形成して、発泡体を得るものである。
物理的手法による発泡技術は、発泡剤として用いる物質の有害性やオゾン層の破壊など各種の環境への問題が存在する。また物理的手法は一般に、数十μm以上のセル径を有する発泡体を得るのに好適に用いられ、微細で尚且つ均一なセル径を有する発泡体を得ることは難しい。
一方、化学的手法による発泡技術は、発泡後、ガスを発生させた発泡剤の残さが発泡体中に残る可能性が高い。特に電子部品用途などにおいては、低汚染性の要求が高いため、腐食性ガスや不純物による汚染が問題となる場合がある。
【0008】
さらに、セル径が小さく、なおかつセル密度の高い多孔質体を得る方法として、窒素や二酸化炭素等の不活性気体を、高圧でポリマー中に溶解させた後、圧力を解放し、ポリマーのガラス転移温度や軟化点付近まで加熱することにより気泡を形成させる方法が提案されている。この発泡方法は、熱力学的不安定な状態から核を形成し、形成された核が膨張成長することで気泡が形成するものであり、今までにない微孔質の発泡体が得られるという利点がある。
例えば、特開2001-081225号公報は、電子機器等の回路基板などとして有用な、微細な気泡を有し且つ誘電率の低い耐熱性のある多孔質体の製造方法として、ポリマの連続相に平均径10μm未満の非連続相が分散したミクロ相分離構造を有するポリマ組成物から、前記非連続相を構成する成分を蒸発及び分解から選択された少なくとも1種の操作と抽出操作とにより除去し、多孔化することを特徴とする多孔質体の製造方法において、非連続相を構成する成分の抽出溶媒として液化二酸化炭素又は超臨界状態にある二酸化炭素を用いることを開示している。
また、特開2002-146085号公報は、電子機器等の回路基板として有用な、微細なセル構造を有する耐熱性のある多孔質ポリイミドの製造方法として、ポリイミド前駆体Aからなる連続相に分散性化合物Bからなる平均径10μm未満の非連続相が分散したミクロ相分離構造を有するポリマー組成物から、分散性化合物Bを除去した後、ポリイミド前駆体Aをポリイミドに変換して多孔質ポリイミドを製造する方法であって、前記ポリイミド前駆体Aと分散性化合物Bの相互作用パラメーターχABが3<χABであることを特徴とする多孔質ポリイミドの製造方法において、分散性化合物Bの抽出溶媒として超臨界二酸化炭素を用いることを開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開平9-100363号公報
【文献】特開2012-101438号公報
【文献】特開2001-081225号公報
【文献】特開2002-146085号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、ミリ波の高周波数において低い誘電率を有することにより、ミリ波アンテナ用のシートとして有用な多孔質の低誘電性ポリマーフィルムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究した結果、ポリマー材料からなるフィルムに微細な空孔が分散形成された多孔質の低誘電性ポリマーフィルムにおいて、ベース材料層の表面に、ベース材料層のポリマー材料からなる実質的に平滑なスキン層が形成されるようにするにより、上記課題を解決することができることを見出し、本発明に到ったものである。
【0012】
すなわち、本発明は、ポリマー材料からなるベース材料層に微細な空孔が分散形成された、多孔質の低誘電性ポリマーフィルムであって、ベース材料層の少なくとも一方の表面に、ベース材料層のポリマー材料からなる実質的に平滑なスキン層が形成されていることを特徴とするフィルムである。
本発明によるフィルムにおいて、スキン層の厚さは、フィルム全体の厚さの10%未満であるのが望ましく、5%以下であるのがさらに望ましい。
また、スキン層の厚さは、1~5μmであるのが望ましい。
本発明によるフィルムにおいて、ベース材料層の両面にスキン層が形成されていてもよい。
また、スキン層は、液体不透過性であってもよい。
本発明によるフィルムの空孔率は、60%以上であるのが望ましく、また95%以下であるのが望ましい。
本発明によるフィルムにおいて、ベース材料層の平均孔径は、10μm以下であるのが好ましい。
本発明によるフィルムの空孔の孔径分布の半値全幅は、10μm以下であるのが望ましく、5μm以下であるのがさらに望ましい。
【0013】
また、誘電特性においてその多孔構造は独泡または連泡構造のいずれでも構わないが、回路基板加工性の観点から独泡構造であることが望ましい。
これは例えば、アンテナ回路基板を作製する際、ドリルやレーザなどで穴あけをしたうえでめっき処理をすると、穴あけにより露出した多孔部からめっき液が侵入し、Cuが析出してしまうといった問題(めっき液浸)、あるいは、低誘電材料を基板に貼り合わせる際、熱プレスにより孔が潰れてしまうといった問題(耐プレス性)が考えられるためである。
ここで、「独泡構造」とは、フィルムの多孔質構造が独立孔(隣接する孔とは連通しない構造を有する孔)のみからなる構造のほか、本発明の効果を損なわない範囲で、連続孔(隣接する孔と連通する構造を有する孔)を含むような構造であってもよい。例えば、独立孔が全孔の80%以上を占めるような多孔質構造とすることができる。
本発明によるフィルムの多孔質の構造が独泡構造であることは、JISに規定されている浸透探傷試験(JIS Z 2343-1等)で用いられるような浸透液を使用して、確認することができる。好ましくは、ポリマー表面に対する接触角が25°以下、粘度が2.4mm2/s(37.8℃)である浸透液を使用する。すなわち、多孔質フィルムを表面に対してほぼ垂直に切断して多孔質断面を露出させ、この断面を赤色浸透液などの浸透液に5分間浸漬後、液浸長(断面から浸透液が浸透した距離)を測定する。この液浸長が500μm以下、さらには300μm以下である場合には、本発明によるフィルムの多孔質の構造は独泡構造であるといえる。
本発明によるフィルムにおいて、多孔構造を独泡構造とするためには、例えば、フィルム作製の際に使用する多孔化剤としてポリオキシエチレンジメチルエーテルを使用し、さらに必要に応じて、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)粉末などの核剤を使用するのが好適である。
【0014】
本発明によるフィルムは、60GHzで測定した誘電率が、2.0以下であるのが望ましい。
本発明によるフィルムは、前記ポリマーが、該ポリマー又はその前駆体が、N-メチルピロリドン(NMP)のような有機溶媒に可溶性であるものであるのが好ましい。
本発明によるフィルムは、前記ポリマーが、ポリイミド、ポリエーテルイミド、フッ化ポリイミド、及びポリカーボネートからなる群から選ばれるものであるのが好ましい。
本発明によるフィルムは、厚さが50μm~500μmであるのが望ましい。
本発明によるフィルムは、ミリ波アンテナ用の基板に使用するフィルムとすることができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、ミリ波の高周波数において低い誘電率を有する多孔質の低誘電性ポリマーフィルムを得ることができ、このフィルムをミリ波アンテナの基材に使用することにより、ミリ波アンテナを高利得化してミリ波の通信距離を長くすることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1a】実施例1で得られたフィルムの断面SEM写真ある。
図1b】実施例1で得られたフィルムの表面SEM写真である。
図2a】実施例2で得られたフィルムの断面SEM写真である。
図2b】実施例2で得られたフィルムの表面SEM写真である。
図3a】実施例3で得られたフィルムの断面SEM写真である。
図3b】実施例3で得られたフィルムの表面SEM写真である。
図4a】比較例で得られたフィルムの断面SEM写真である。
図4b】比較例で得られたフィルムの表面SEM写真である。
図5】実施例4で得られたフィルムの断面SEM写真である。
図6】実施例5で得られたフィルムの断面SEM写真である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明によるフィルムは、ポリマー材料からなるフィルムに微細な空孔が分散形成された、多孔質の低誘電性ポリマーフィルムであって、ベース材料層の表面に、ベース材料層のポリマー材料からなる実質的に平滑なスキン層が形成されているものである。
本発明によるフィルムにおけるスキン層は、ベース材料層の一方又は両方の表面に形成される層であって、ベース材料層を構成するポリマー材料と同じポリマー材料により構成されるものである。本発明によるフィルムが備えるベース材料層が、微細な空孔が分散形成されているものであるのに対し、スキン層にはそのような空孔がほとんど又は全く存在せず、実質的に平滑であることが、例えば顕微鏡観察などにより確認される。
本発明によるフィルムにおいて、スキン層の厚さは、フィルム全体の誘電率を上昇させないという観点から、フィルム全体の厚さの10%未満であるのが望ましく、5%以下であるのがさらに望ましい。また、スキン層の厚さは、フィルム全体の誘電率を低く抑えながらも平滑なスキン層を形成するという観点から、1~5μmであるのが望ましい。スキン層の厚さは、走査電子顕微鏡(SEM)観察のような方法により測定することができる。
スキン層は、その上に配線を形成する際のメッキ加工の容易性等の観点から、液体不透過性であるのが望ましい。
本発明によるフィルムは、高いアンテナ利得を得るために低誘電化されていることが望ましい。この観点から、その空孔率が望ましくは60%以上である。フィルムの空孔率は、95%以下であるのが望ましい。フィルムの空孔率は、電子比重計にて測定した無孔フィルムの比重と、多孔フィルムの比重とより、計算で求めることができる。
本発明によるフィルムはまた、空孔が粗大化すると、多孔質のフィルムの曲げ時の機械強度が著しく低下する、という観点から、空孔の平均孔径が10μm以下である。さらに、本発明によるフィルムにおいて、スキン層は、多孔質のフィルムの表面にアンテナ用の配線を形成する際に有用であるが、その際、スキン層の表面に凹凸があると、その上に形成された配線にも凹凸が形成されてしまう。このため、スキン層は平滑である必要がある。一方、スキン層が厚いと、フィルム全体の誘電率が上昇してしまうため、スキン層は薄くする必要がある。本発明によれば、空孔の平均孔径を10μm以下とすることにより、多孔質のフィルムの表面に薄く平滑なスキン層を形成することが容易に実現できる。
また、多孔質のフィルムの曲げ時の機械強度をより向上させる観点から、さらには、スキン層の平滑性を一層向上させる観点から、空孔の孔径分布の半値全幅が10μm以下であるのが望ましい。空孔の平均孔径や半値全幅は、フィルムの断面SEM写真の画像解析により測定することができる。
【0018】
本発明によるフィルムは、たとえば、以下のような乾燥誘起相分離法によるミクロ相分離構造を有するポリマー組成物の形成、さらに超臨界抽出法により得ることができる。すなわち、ポリアミド前駆体の有機溶媒(NMPなど)による溶液に、所定の配合割合で多孔化剤を添加し、これをPETフィルムや銅箔などの基体に塗布するなどして所望の形状(例えば、シート又はフィルム等)に成形した後、乾燥により溶媒を除去し、多孔化剤をポリイミド前駆体中で不溶化させることにより、ポリイミド前駆体の連続相に多孔化剤からなる非連続相が分散したミクロ相構造を有するポリマー組成物を得、さらに、超臨界二酸化炭素などを用いて多孔化剤を抽出した後にポリイミド前駆体をポリイミドに変換(イミド化)する。その際、乾燥を低温・短時間で行い、NMPなどの有機溶媒を敢えて残存させた状態で超臨界二酸化炭素などによる多孔化剤の抽出を行うことにより、所望の空孔率及び空孔の平均孔径を有するフィルムを得ることができる。
【0019】
本発明によるフィルムを得るのに使用し得るポリイミド前駆体としては、ポリイミドに変換可能な中間体であればよく、公知乃至慣用の方法により得ることができる。例えば、ポリイミド前駆体は、有機テトラカルボン酸二無水物とジアミノ化合物(ジアミン)とを反応させることにより得ることができる。
【0020】
上記有機テトラカルボン酸二無水物としてはピロメリット酸二無水物、3,3´,4,4´-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,2-ビス(2,3-ジカルボキシフェニル)-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン二無水物、2,2-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン二無水物、3,3´,4,4´-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)エーテル二無水物、ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)スルホン二無水物等が挙げられる。これらの有機テトラカルボン酸二無水物は単独あるいは2種以上混合して用いてもよい。
【0021】
上記ジアミノ化合物としては、例えば、m-フェニレンジアミン、p-フェニレンジアミン、3,4´-ジアミノジフェニルエーテル、4,4´-ジアミノジフェニルエーテル、4,4´-ジアミノジフェニルスルホン、3,3´-ジアミノジフェニルスルホン、2,2-ビス(4-アミノフェノキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-アミノフェノキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン、1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、2,4-ジアミノトルエン、2,6-ジアミノトルエン、ジアミノジフェニルメタン、4,4´-ジアミノ-2,2-ジメチルビフェニル、2,2-ビス(トリフルオロメチル)-4,4´-ジアミノビフェニル等が挙げられ、単独もしくは2種以上を混合して用いることができる。
【0022】
前記ポリイミド前駆体は、有機テトラカルボン酸二無水物とジアミノ化合物(ジアミン)とを、通常、有機溶媒中で、0~90℃で1~24時間反応させることにより得られる。前記有機溶媒として、N-メチル-2-ピロリドン、N,N-ジメチルアセトアミド、N,N-ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド等の極性溶媒が挙げられる。後述の通り、有機溶媒を敢えてフィルム内に残存させた状態を作り出し、この状態で多孔化剤の抽出を行うことにより、高い空孔率と小さな空孔の平均孔径を有するフィルムを得ることができる、という考え方から、製造プロセス上、乾燥条件の制御によって残存量を制御しやすいN-メチル-2-ピロリドンを使用するのが好ましい。
【0023】
本発明によるフィルムを得るのに使用し得る多孔化剤としては、ミクロ相分離構造の非連続相(多孔質体の空孔部位に相当)を構成するものであって、ポリイミド前駆体と混合した場合に分散可能な成分、より具体的には、ポリイミド前駆体に対して、微粒子状となってミクロ相分離して海島構造を形成しうる化合物が挙げられる。多孔化剤はより好ましくは、ポリイミド前駆体から超臨界二酸化炭素などを用いた抽出除去操作により除去しうる成分である。
【0024】
多孔化剤としては、より具体的には、例えばポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールなどのポリアルキレングリコール;前記ポリアルキレングリコールの片末端もしくは両末端メチル封鎖物、又は片末端もしくは両末端(メタ)アクリレート封鎖物;フェノキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレートなどのポリアルキレングリコールの一方の末端がアルキル基又はアリール基で封鎖され、他方の末端が(メタ)アクリレートで封鎖されている化合物;ウレタンプレポリマー;トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレートなどの多価アルコールポリ(メタ)アクリレート、ε-カプロラクトン(メタ)アクリレート、ウレタン(メタ)アクリレート、エポキシ(メタ)アクリレート、オリゴエステル(メタ)アクリレートなどの(メタ)アクリレート系化合物などが挙げられる。これらは、その一種あるいは複数を同時に選択してもよい。
【0025】
本発明によるフィルムにおいて、多孔構造を独泡構造とする場合には、多孔化剤としてポリオキシエチレンジメチルエーテルを使用するのが好ましい。この場合、さらに必要に応じて、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)粉末などの核剤を使用するのが好ましい。
【0026】
本発明によるフィルムを得る場合、上記のように、まず、ポリアミド前駆体の有機溶媒による溶液に、所定の配合割合で多孔化剤を添加し、これをシート又はフィルム等に成形した後、乾燥により溶媒を除去する。
この時の溶媒の乾燥温度は、用いる溶媒の種類によっても異なるが、60~180℃、より好適には60~120℃である。また、乾燥時間は、5~60分、さらには5~30分程度とするのが好ましい。
特定の理論に拘束されるものではないが、従来技術に比べて乾燥を低温・短時間で行うことにより、NMPなどの有機溶媒を敢えて残存させた状態を作り出し、この状態で超臨界二酸化炭素などによる多孔化剤の抽出を行うと、従来技術では得られなかったような高い空孔率、小さな空孔の平均孔径を有するフィルムを得ることができる。
溶媒の残存量は、ポリイミド前駆体の量に対して15~250重量部、特に25~250重量部、さらには50~150重量部とするのが好ましい。
【0027】
前記多孔化剤の添加量は、空孔の平均孔径を十分に小さなものとする観点から、ポリイミド前駆体100重量部に対して200重量部以下とするのが好ましい。また、フィルムの誘電率を十分に小さなものとする観点から、前記多孔化剤をポリイミド前駆体100重量部に対して10重量部以上配合するのが好ましい。
【0028】
次に、前記ポリイミド前駆体と多孔化剤からなるミクロ相分離構造を有するポリマー組成物から、多孔化剤を除去することにより、多孔質構造を形成する。多孔化剤の除去方法は、特に限定されず、蒸発や分解などにより行うこともできるが、抽出操作により除去する方法が好ましい。抽出操作による除去は、多孔化剤の分解、変質を伴っても良く、分解、変質の後に抽出しても良い。
【0029】
多孔化剤の抽出除去に用いる溶媒としては、該多孔化剤を溶解しうるものであれば特に制限されないが、その除去性、無害性から二酸化炭素、特に超臨界二酸化炭素が好適である。超臨界二酸化炭素を用いて前記ポリイミド組成物から多孔化剤を除去する方法において、実施される温度は超臨界二酸化炭素の臨界点以上であればよいが、除去過程においてポリイミド前駆体のイミド化が極端に進行しない温度域であるのが好ましい。また温度を高くするに従って多孔化剤の超臨界二酸化炭素に対する溶解度は低下する。従って超臨界二酸化炭素により多孔化剤を除去する際の温度(抽出温度)は32~230℃の範囲が好ましく、さらに好ましくは40~200℃である。
【0030】
超臨界二酸化炭素の圧力は、超臨界二酸化炭素の臨界点以上であればよいが、7.3~100MPa、さらには10~50MPaで行うことが好ましい。
【0031】
超臨界二酸化炭素は、加圧した後、ミクロ相分離構造を有するポリマー組成物を入れた耐圧容器内に、定量ポンプにより連続的に供給してもよく、また、前記耐圧容器中に所定圧力に加圧した超臨界二酸化炭素を投入してもよい。抽出時間は抽出温度、抽出圧力、ポリイミド前駆体に添加した多孔化剤の量にもよるが、1~10時間程度である。
【0032】
上記のようにして多孔化剤を除去して多孔質化したポリイミド前駆体は、その後例えば脱水閉環反応により多孔質ポリイミドに変換する。ポリイミド前駆体の脱水閉環反応は、例えば、300~400℃程度に加熱したり、無水酢酸とピリジンの混合物などの脱水環化剤を作用させることなどにより行われる。
【0033】
このような方法により作製し得る本発明によるフィルムは、低誘電化の観点から、60GHzで測定した誘電率が、2.0以下であるのが望ましい。フィルムの誘電率は、開放型共振器法のような方法により測定することができる。
また、上記の方法については、前記ポリマーがポリイミドである場合について詳細に述べたが、本発明によるフィルムは、乾燥誘起相分離、超臨界抽出法が適用できるとの観点から、前記ポリマーが、ポリイミド、ポリエーテルイミド、フッ化ポリイミド、及びポリカーボネートからなる群から選ばれるものであるのが好ましい。
本発明によるフィルムは、塗布・乾燥工程によって製膜するという性質上、厚さが50μm~500μmであるのが望ましい。
本発明によるフィルムは、ミリ波アンテナ用の基板に使用するフィルムとして、好適に使用することができる。
【実施例
【0034】
以下に実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0035】
(スキン層の厚み、平均孔径及び孔径分布の評価)
スキン層の厚み、平均孔径及び孔径分布は、走査電子顕微鏡(日本電子(株)製 JSM-6510LV)を用いて多孔形状を観察することにより行った。サンプルを剃刀にて切断して、断面は露出させた。さらに表面に白金蒸着後、観察を行った。スキン層の厚み、平均孔径及び孔径分布(半値全幅)は、SEM画像解析より算出した。画像解析は、SEM像に2値化を施し、孔を識別後、孔径を算出し、ヒストグラム化した。解析ソフトはImageJを用いた。また、孔径評価における孔径は、より実際の構造を表している最大径を値として適用した。
【0036】
(空孔率の評価)
比重は電子比重計(アルファーミラージュ(株)製 MD-3005)を用いて測定した。また、空孔率は下記式を用いて算出した。
空孔率(%)=(1-ポリイミド多孔体の比重/ポリイミド無孔体の比重)×100
【0037】
(電気特性の評価)
PNAネットワークアナライザー(アジレント・テクノロジー社製)、SPDR共振器を用いて、10GHzの比誘電率および誘電正接を測定した。また、ベクトルネットワークアナライザ、開放型共振器を用いて60GHzの比誘電率および誘電正接を測定した。
【0038】
(曲げ時の機械強度の評価)
曲げ時の機械強度は、多孔フィルムを90°の角度になるまで折り曲げ、その際の破壊の有無について観察し、評価した。
【0039】
(メッキ加工性の評価)
得られたフィルムにスパッタ処理と電解めっきを行い、厚み12umのCu箔層を形成した後、実際の配線形成の加工プロセス(サブトラクティブ法)に通して、フィルム内にめっき液が侵入しないかの確認実験を行った。その後、フィルムの断面にX線マイクロアナライザー(XMA)分析を行い、めっき液由来の元素(Cu、Sなど)の検出有無について確認を行った。検出されない場合を、加工性あり、と評価した。
【0040】
(液浸性の評価)
ポリイミド多孔体断面を剃刀にて切断して、露出させた。赤色浸透液(太洋物産(株)製NRC-ALII)に5分間浸漬後、表面に付着した浸透液をふき取った。ポリイミド多孔体をさらに露出断面に対し垂直に切断し、液浸長を光学顕微鏡により評価した。
【0041】
(潰れ評価)
ポリイミド多孔体を50mm×50mmに切り出し、熱プレスを用いて、180℃、3MPaで60分間加圧した。プレス前後での厚みを測定し、その値から、プレス後の厚みの減少を変化率として算出した。
【0042】
(マイグレーション試験)
ポリイミド多孔体に、1.52mmピッチで孔径が0.3mmのスルーホールを作製し、スルーホールにプラス電極とマイナス電極とを形成し、85℃/85%RHにおいて電極間に60Vの電圧を印加して、絶縁抵抗値を測定した。
【0043】
参考例
(ポリイミド前駆体[BPDA/PDA, DPE]の合成)
撹拌機および温度計を備えた1000mlのフラスコに、p-フェニレンジアミン(PDA)43.2 gおよびジアミノジフェニルエーテル(DPE)20gをいれ、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)768.8gを加えて撹拌し、溶解させた。次いで、この溶液にビフェニルテトラカルボン酸二無水物(BPDA)147gを徐々に添加し、40℃にて2時間撹拌し、反応促進した。さらに75℃にて12時間撹拌し、エージング処理を行い、固形分濃度20wt%のポリイミド前駆体溶液を得た。このポリイミド前駆体の組成は物質量比でPDA:DPE:BPDA=0.8mol:0.2mol:1molである。
【0044】
実施例1
参考例で得られたポリイミド前駆体溶液に重量平均分子量が400のポリプロピレングリコール(日油(株)製 グレード:D400)をポリイミド樹脂前駆体100重量部に対し200重量部添加し、さらにジメチルアセトアミドを400重量部加え、撹拌して透明な均一溶液を得た。得られた溶液にイミド化触媒として2-メチルイミダゾールを4.2重量部、化学イミド化剤として安息香酸無水物を5.4重量部添加し、配合液とした。この配合液をダイ方式でPETフィルムまたは銅箔に塗工し、85℃で15分間熱風乾燥させて、厚み100μmの相分離構造を有するポリイミド前駆体フィルムを作製した。
このフィルムを40℃にて30MPaに加圧した二酸化炭素に浸漬、8時間流通することで、ポリプロピレングリコールの抽出除去および残存NMPの相分離、孔形成を促進した。その後、二酸化炭素を減圧し、ポリイミド前駆体の多孔フィルムを得た。
さらに得られたポリイミド前駆体の多孔フィルムを真空下、380℃で2時間熱処理し、残存成分の除去およびイミド化を促進することで、ポリイミド多孔フィルムを得た。
【0045】
実施例2
参考例で得られたポリイミド前駆体溶液に重量平均分子量が400のポリプロピレングリコール(日油(株)製 グレード:D400)をポリイミド樹脂前駆体100重量部に対し200重量部添加し、さらにジメチルアセトアミドを400重量部加え、撹拌して透明な均一溶液を得た。得られた溶液にイミド化触媒として2-メチルイミダゾールを4.2重量部、化学イミド化剤として安息香酸無水物を1.1重量部添加し、配合液とした。この配合液をダイ方式でPETフィルムまたは銅箔に塗工し、85℃で15分間熱風乾燥させて、厚み100μmの相分離構造を有するポリイミド前駆体フィルムを作製した。
このフィルムを40℃にて30MPaに加圧した二酸化炭素に浸漬、8時間流通することで、ポリプロピレングリコールの抽出除去および残存NMPの相分離、孔形成を促進した。その後、二酸化炭素を減圧し、ポリイミド前駆体の多孔フィルムを得た。
さらに得られたポリイミド前駆体の多孔フィルムを真空下、380℃で2時間熱処理し、残存成分の除去およびイミド化を促進することで、ポリイミド多孔フィルムを得た。
【0046】
実施例3
参考例で得られたポリイミド前駆体溶液に重量平均分子量が400のポリプロピレングリコール(日油(株)製 グレード:D400)をポリイミド樹脂前駆体100重量部に対し200重量部添加し、さらにジメチルアセトアミドを400重量部加え、撹拌して透明な均一溶液を得た。この配合液をダイ方式でPETフィルムまたは銅箔に塗工し、80 ℃で15分間熱風乾燥させて、厚み100μmの相分離構造を有するポリイミド前駆体フィルムを作製した。
このフィルムを40℃にて30MPaに加圧した二酸化炭素に浸漬、8時間流通することで、ポリプロピレングリコールを抽出除去した。その後、二酸化炭素を減圧し、ポリイミド前駆体の多孔フィルムを得た。
さらに得られたポリイミド前駆体の多孔フィルムを真空下、380℃で2時間熱処理し、残存成分の除去およびイミド化を促進することで、ポリイミド多孔フィルムを得た。
【0047】
実施例4
参考例で得られたポリイミド前駆体溶液に重量平均分子量が400のポリオキシエチレンジメチルエーテル(日油(株)製 グレード:MM400)をポリイミド樹脂前駆体100重量部に対し200重量部添加し、さらにNMPを150重量部加え、撹拌して透明な均一溶液を得た。得られた溶液にイミド化触媒として2-メチルイミダゾールを4.2重量部添加し、配合液とした。この配合液をダイ方式でPETフィルムまたは銅箔に塗工し、120℃で30分間熱風乾燥させて、厚み100μmの相分離構造を有するポリイミド前駆体フィルムを作製した。
このフィルムを40℃にて30MPaに加圧した二酸化炭素に浸漬、8時間流通することで、ポリオキシエチレンジメチルエーテルの抽出除去および残存NMPの相分離、孔形成を促進した。その後、二酸化炭素を減圧し、ポリイミド前駆体の多孔フィルムを得た。
さらに得られたポリイミド前駆体の多孔フィルムを真空下、380℃で2時間熱処理し、残存成分の除去およびイミド化を促進することで、ポリイミド多孔フィルムを得た。
【0048】
実施例5
参考例で得られたポリイミド前駆体溶液に重量平均分子量が400のポリオキシエチレンジメチルエーテル(日油(株)製 グレード:MM400)をポリイミド樹脂前駆体100重量部に対し200重量部、および粒径2μm程度のPTFE粉末を10重量部添加し、さらにNMPを150重量部加え、撹拌して透明な均一溶液を得た。得られた溶液にイミド化触媒として2-メチルイミダゾールを4.2重量部添加し、配合液とした。この配合液をダイ方式でPETフィルムまたは銅箔に塗工し、120℃で30分間熱風乾燥させて、厚み100μmの相分離構造を有するポリイミド前駆体フィルムを作製した。
このフィルムを40℃にて30MPaに加圧した二酸化炭素に浸漬、8時間流通することで、ポリオキシエチレンジメチルエーテルの抽出除去および残存NMPの相分離、孔形成を促進した。その後、二酸化炭素を減圧し、ポリイミド前駆体の多孔フィルムを得た。
さらに得られたポリイミド前駆体の多孔フィルムを真空下、380℃で2時間熱処理し、残存成分の除去およびイミド化を促進することで、ポリイミド多孔フィルムを得た。
【0049】
比較例
参考例で得られたポリイミド前駆体溶液に重量平均分子量が400のポリプロピレングリコール(日油(株)製 グレード:D400)をポリイミド樹脂前駆体100重量部に対し300重量部添加し、さらにジメチルアセトアミドを400重量部加え、撹拌して透明な均一溶液を得た。この配合液をダイ方式でPETフィルムまたは銅箔に塗工し、140℃で20分間熱風乾燥させて、厚み100μmの相分離構造を有するポリイミド前駆体フィルムを作製した。
このフィルムを40℃にて30MPaに加圧した二酸化炭素に浸漬、8時間流通することで、ポリプロピレングリコールを抽出除去した。その後、二酸化炭素を減圧し、ポリイミド前駆体の多孔フィルムを得た。
さらに得られたポリイミド前駆体の多孔フィルムを真空下、380℃で2時間熱処理し、残存成分の除去およびイミド化を促進することで、ポリイミド多孔フィルムを得た。
【0050】
実施例1~3及び比較例で得られたフィルムの断面と表面をSEMで観察した結果を、図1a及び図1b(実施例1)、図2a及び図2b(実施例2)、図3a及び図3b(実施例3)、及び図4a及び図4b(比較例)に示す。それぞれの図において、aは断面SEM像、bは表面SEM像である。
図から、本発明の実施例で得られたフィルムには、断面において空孔が存在せず、表面が平滑なスキン層が形成されているのに対し、比較例で得られたフィルムにはそのようなスキン層が存在せず、断面には一様に空孔が存在し、表面に凹凸が存在することが認められる。
SEM観察の結果から、実施例1~3で得られたフィルムに形成されているスキン層の厚みは、表1に示すような厚みを有するものであった。
【0051】
【表1】
【0052】
さらに、実施例1~3及び比較例で得られたフィルムについて測定された結果を、表2に示す。
【0053】
【表2】
【0054】
結果から明らかであるように、本発明によるフィルムは、高周波で低い誘電率及び誘電正接を示し、優れた電気的特性を有するものである。
また、実施例及び比較例で得られたフィルムについて、メッキ加工性を評価したところ、比較例で得られたフィルムの場合、液浸の問題があったが、実施例で得られたフィルムの場合にはそのような問題はなく、良好なメッキ加工を行うことができた。
さらに、本発明によるフィルムは、曲げ時の機械物性の点でも優れている。
【0055】
次に、実施例4及び5で得られたフィルムの断面をSEMで観察した結果を、図5(実施例4)及び図6(実施例5)に示す。
SEM観察の結果から、実施例4及び5で得られたフィルムに形成されているスキン層の厚みは、表3に示すような厚みを有するものであった。
【0056】
【表3】
【0057】
さらに、実施例4及び5で得られたフィルムについて測定された結果を、表4に示す。
【0058】
【表4】
【0059】
結果から明らかであるように、多孔構造が独泡構造である本発明によるフィルムは、優れた電気的特性を有するものであるとともに、液浸性や耐プレス性に優れ、加工後も高い絶縁抵抗値を示すことから、回路基板加工性の点でも優れている。
【0060】
1.ポリマー材料からなるベース材料層に微細な空孔が分散形成された、多孔質の低誘電性ポリマーフィルムであって、
前記ベース材料層の少なくとも一方の表面に、該ベース材料層のポリマー材料からなる実質的に平滑なスキン層が形成されている、
ことを特徴とする、前記フィルム。
2.前記スキン層の厚さは前記フィルム全体の厚さの10%未満であることを特徴とする、1に記載のフィルム。
3.前記スキン層の厚さは前記フィルム全体の厚さの5%以下であることを特徴とする、2に記載のフィルム。
4.前記スキン層の厚さは1~5μmであることを特徴とする、1~3のいずれかに記載のフィルム。
5.前記ベース材料層の両面に前記スキン層が形成されていることを特徴とする、1~4のいずれかに記載のフィルム。
6.前記スキン層は液体不透過性であることを特徴とする、1~5のいずれかに記載のフィルム。
7.前記ベース材料層の空孔率が60%以上であることを特徴とする、1~6のいずれかに記載のフィルム。
8.前記ベース材料の空孔率が95%以下であることを特徴とする、1~7のいずれかに記載のフィルム。
9.前記ベース材料層の平均孔径が10μm以下であることを特徴とする、1~8のいずれかに記載のフィルム。
10.前記ベース材料層の孔径分布の半値全幅が10μm以下であることを特徴とする、1~9のいずれかに記載のフィルム。
11.60GHzで測定した誘電率が2.0以下であることを特徴とする、1~10のいずれかに記載のフィルム。
12.前記ポリマーが、該ポリマー又はその前駆体が有機溶媒に可溶性であるものであることを特徴とする、1~11のいずれかに記載のフィルム。
13.前記有機溶媒がN-メチルピロリドンであることを特徴とする、12に記載のフィルム。
14.前記ポリマーが、ポリイミド、ポリエーテルイミド、フッ化ポリイミド、及びポリカーボネートからなる群から選ばれることを特徴とする、1~13のいずれかに記載のフィルム。
15.厚さが50μm~500μmであることを特徴とする、1~14のいずれかに記載のフィルム。
16.ミリ波アンテナ用の基板に使用するフィルムであることを特徴とする、1~15のいずれかに記載のフィルム。
17.多孔構造が独泡構造であることを特徴とする、1~16のいずれかに記載のフィルム。
図1a
図1b
図2a
図2b
図3a
図3b
図4a
図4b
図5
図6