(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-18
(45)【発行日】2022-11-29
(54)【発明の名称】延性耐震システム用高性能ゴム支承
(51)【国際特許分類】
E01D 19/04 20060101AFI20221121BHJP
【FI】
E01D19/04 B
(21)【出願番号】P 2021097361
(22)【出願日】2021-06-10
【審査請求日】2021-06-10
(31)【優先権主張番号】202011591631.7
(32)【優先日】2020-12-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】521254487
【氏名又は名称】天津市政工程設計研究総院有限公司
(74)【代理人】
【識別番号】100130111
【氏名又は名称】新保 斉
(72)【発明者】
【氏名】馮 克岩
(72)【発明者】
【氏名】項 敬輝
(72)【発明者】
【氏名】劉 旭▲ケー▼
(72)【発明者】
【氏名】曹 景
(72)【発明者】
【氏名】黄 思勇
(72)【発明者】
【氏名】羅 昊沖
(72)【発明者】
【氏名】楊 敏
(72)【発明者】
【氏名】李 海冬
(72)【発明者】
【氏名】李 氷
(72)【発明者】
【氏名】王 従遠
(72)【発明者】
【氏名】鮑 春
(72)【発明者】
【氏名】華 龍海
(72)【発明者】
【氏名】趙 興中
(72)【発明者】
【氏名】陳 良田
(72)【発明者】
【氏名】李 雪蓮
(72)【発明者】
【氏名】蔡 景波
(72)【発明者】
【氏名】崔 天嬌
【審査官】彦田 克文
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-234977(JP,A)
【文献】特開2016-070352(JP,A)
【文献】特開2003-184925(JP,A)
【文献】特開2005-282723(JP,A)
【文献】特開2000-193026(JP,A)
【文献】特開2000-027121(JP,A)
【文献】特開2005-146680(JP,A)
【文献】特開2014-015801(JP,A)
【文献】特開平10-176308(JP,A)
【文献】特開平10-168822(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E01D 19/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数層の補強鋼板とゴム基複合材料が積層して形成された支承本体を含み、支承本体の上下側に支承板が設けられ、上支承板及び下支承板にそれぞれアンカーボルトが設けられ、
上支承板はアンカーボルトによって桁底部に、
下支承板はアンカーボルトによって橋脚上面に接続され、
ゴム基複合材料層と補強鋼板はバインダーによって接着され、
支承本体の上下側に支承板が設けられ、支承本体と上支承板及び下支承板はバインダーによって接着され、上支承板は上スリーブボルトによって橋梁の桁底部に接続され、下支承板は下スリーブボルトによって橋脚に接続され、
ゴム基複合材料の成分及び質量部数含有量は、天然ゴム70~90、スチレン・ブタジエンゴム15~25、酸化亜鉛6~8、ステアリン酸1~2、老化防止剤4020 1.5~2.5、老化防止剤RD 1~2、カーボンブラックN330 30~40、ホワイトカーボン(透明)6~8、カップリング剤K550 2~4、樹脂RX~80 6~8、ファイバー17.5~22.5、硫黄1.5~2.0、促進剤DM 1.5~2.0、加硫剤DTDM 2.0~2.5、バインダーRH 2.0~4.0、バインダーRE 3.0~5.0、相溶化剤とオリゴエステル-I 5.0~10.0である
ことを特徴とする延性耐震システム用高性能ゴム支承。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建設工事及び橋梁構造の分野に関し、具体的には、延性耐震システム用高性能ゴム支承に関する。
【背景技術】
【0002】
支承は橋梁において荷重を伝達する重要な部材で、橋梁耐震及び防備を実現するための重要な部品の1つである。プレハブ式橋梁は一般的に横方向において複数の桁からなるため、多くの支承が必要で、ポット型支承又は球型支承を多く用いるのが好ましくない場合には、一般的にゴム支承を使用する。よく用いられるゴム系支承には通常の板式ゴム支承、水平力分散支承、高減衰ゴム支承、鉛亜鉛封入ゴム支承などがある。国内従来のゴム支承は仕様が単一で、支承の設計と実際の性能指標に大きな差がある。通常の板式支承は耐スリップ性、耐せん断変形性能が不十分で、水平支承性能を高めるにはせん断抵抗装置を別途設置する必要があり、当該装置は支承との協働、橋梁の正常な使用に対する影響、環境整合などの面でいくつかの問題があるため、弾性システムで実現するものは延性システムを代用し、延性システムで実現するものは免震システムを代用する。橋梁の耐震システムにより合理的な選択ができず、橋梁耐震及び防備を実現するのに技術ハードルが上がってしまう。
【0003】
国内外で用いられる通常の板式ゴム支承は
図1に示すようなもので、補強鋼板及びゴム層で構成され、主に次の問題がある。(1)水平剛性に関する仕様が少ない。通常の板式ゴム支承はせん断弾性率が1.0、1.2で、国内で3種の仕様(厚さ)があるものの、剛性に大差はない。(2)支承と主桁との間、支承と橋脚との間にアンカーボルトがなく、耐スリップ性能が不十分である。
【0004】
ゴム系支承を用いた橋梁構造には主に、(1)弾性耐震システム、(2)延性耐震システム、(3)免震システムの3種の耐震システムがある。
【0005】
弾性耐震システムは耐震基準が厳格でないあるいは関連の基準がない地域に適し、例えば、地震加速度が0.05g、0.10g又は0.15gで設置条件が整う地域である。延性耐震システムは橋脚において塑性ヒンジを形成させて地震エネルギーを放散させ、支承が性能保持部材として働き、0.1~0.2gの地域に適する。免震システムは免震装置(支承)によって地震エネルギーを解消するもので、0.15g、0.2gで設置条件が整わない地域及び0.2g以上の地域に適する。
【0006】
道路橋梁用の通常の板式ゴム支承は他の支承構造より構成が簡単で、薄鋼板及びゴム片を模型に入れて加硫、接着を行ってなされたものである。板式支承には縦剛性が十分であるため、基本烈度区分の段階6、段階7の地域(0.1g)では版桁に、設置条件が整う地域では小型箱桁構造に適する。
【0007】
従来技術に基づく通常の板式ゴム支承には主に次の問題がある。
(1)せん断変形が要件を満たさない。
通常の板式ゴム支承はせん断弾性率Gが1.0MPaで、仕様要件はE1耐震弾性設計で、tanrが1.0以下であり、E2耐震延性設計で、支承は性能保持部材で、tanrが1.0以下である。通常の板式ゴム支承は地震の作用で、せん断変形が100%を超えるのが殆どで、200%以上に達する場合もある。
【0008】
(2)耐スリップ安定性が悪い。
水平地震力の作用に抵抗するのは摩擦力だけで、支承は主桁、橋脚と効果的に接続されず、水平地震力の作用が大きい場合にスリップが起きる。
【0009】
現在、国内外では延性設計用ゴム系支承に関する研究はまずなかった。
【発明の概要】
【0010】
本発明は従来技術における問題を解決するために、延性設計用高性能板式ゴム支承を開発し、支承のせん断剛性を高めて関連の基準に求められる支承のせん断ひずみを満たす。
【0011】
図2の「30m小型箱桁における支承のせん断ひずみと橋脚の高さとの関係」である理論的計算から分かるように、橋脚が高いほど、せん断ひずみ基準の限界値を満たすための剛性がより小さい。
図3の「30m小型箱桁における支承のせん断ひずみと支承の剛性との関係」から分かるように、支承の剛性が増すにつれて、支承のせん断ひずみが低減する。
【0012】
本発明は延性耐震システム用高性能ゴム支承を提供し、通常の積層ゴム支承に大きな改良を加えており新規性があるものである。本発明の技術的解決手段は以下のとおりである。
延性耐震システム用高性能ゴム支承であって、具体的には、複数層の補強鋼板とゴム基複合材料が積層して形成された支承本体を含み、支承本体の上下側に支承板が設けられ、上支承板及び下支承板にそれぞれアンカーボルトが設けられ、補強鋼板とゴム基複合材料が積層して形成された支承本体は水平剛性が通常のゴム支承の1.3~2.0倍に達しており、地震条件下で支承のせん断変形が1未満であるという要件が満たされ、上支承鋼板がアンカーボルトによって桁底部に、下支承鋼板がアンカーボルトによって橋脚上面に接続されることで、地震作用下で支承がスリップしないことが満たされる。
【0013】
前記延性耐震システム用高性能ゴム支承において、補強鋼板とゴム基複合材料が積層して支承本体が形成され、
前記ゴム基複合材料層と補強鋼板はバインダーによって接着され、
前記支承本体の上下側に支承板が設けられ、支承本体と上支承板及び下支承板はバインダーによって接着され、上支承板は上スリーブボルトによって橋梁の桁底部に接続され、下支承板は下スリーブボルトによって橋脚に接続される。
【0014】
前記ゴム基複合材料の成分及び質量部数含有量は、天然ゴム70~90、スチレン・ブタジエンゴム15~25、酸化亜鉛6~8、ステアリン酸1~2、老化防止剤4020 1.5~2.5、老化防止剤RD 1~2、カーボンブラックN330 30~40、ホワイトカーボン(透明)6~8、カップリング剤K550 2~4、樹脂RX-80 6~8、ファイバー17.5~22.5、硫黄1.5~2.0、促進剤DM 1.5~2.0、加硫剤DTDM 2.0~2.5、バインダーRH 2.0~4.0、バインダーRE 3.0~5.0、相溶化剤とオリゴエステル-I 5.0~10.0である。
【0015】
本発明のゴム基複合材料は通常のゴム加硫プロセスによって作製される。
【0016】
本発明に係る延性耐震システム用高性能ゴム支承は次の特徴を有する。(1)支承と桁底部との間にスリーブ、アンカーロッドを設けて接続させることで、支承の耐スリップ安定性要件を満たす。(2)補強鋼板とゴム基複合材料を積層させることで、支承の水平剛性が効果的に高められ、通常のゴム支承の1.3~2.0倍に達しており、延性耐震設計で性能保持部材として働く支承にはせん断変形要件が満たされる。(3)実際の工事状況に応じて、異なる剛性の支承を設けて各橋脚に作用する水平地震力を分散して、通常の板式ゴム支承は仕様が単一であるという問題を解決し、確実に橋梁の耐震性能を高め、工事費用を節約する。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1a】通常の板式ゴム支承の構造概略を示す立面図
【
図2】30m小型箱桁における支承のせん断ひずみと橋脚の高さとの関係のグラフ(段階8、0.2g)
【
図3】30m小型箱桁における支承のせん断ひずみと支承の剛性との関係のグラフ(段階8、0.2g)
【発明を実施するための形態】
【0018】
次に実施例を用いて本発明をさらに説明し、本発明はこれらの実施例に限定されない。実施例に記載の性能試験結果は、いずれも国の関連基準に定める方法で測定した数値である。
【0019】
(実施例1)
【0020】
【0021】
【0022】
(実施例3)
【0023】
【0024】
実施例1、2、3で作製したゴム基複合材料に関する試験条件及び性能は表2に示すとおりである。
【表2】
【0025】
(実施例4)
支承作製
支承の型番表示はφ200×35である。実施例4の支承本体は5層の補強鋼板と4層のゴム基複合材料がバインダーREによって接着されたもので、ゴム基複合材料は実施例1の配合で作製された。支承本体の上下側に支承板が設けられ、上支承板及び下支承板にそれぞれアンカーボルトが設けられた。
【0026】
(1)材料仕様:
鋼板仕様はφ190×2mmの5枚で、鋼板の重量は442g/枚で、鋼板の総重量は2210gであった。鋼板の表面にはサンドブラストが行われてシルバーホワイト色であった。ケムロック(Chemlok)205、そしてケムロック220を均一に塗布し、乾燥した状態であった。
【0027】
ゴム基複合材料の仕様は(4)3.0×φ190の4枚、(1)2.9×φ190(上層料及び下層料)の2枚で80g/枚、(5)3.5×630×35外側被覆料1枚で90g/枚であった。
【0028】
バインダーRE仕様は(3)1.0×φ190の8枚で32g/枚であった。
【0029】
(2)製作プロセス:
[1]実施例1、2、3の材料配合で、密閉式混合機でブレンドしてゴム基複合材料を作製した。
【0030】
[2]金型を開け、(5)3.5×630×35ゴム基複合材料である外側被覆料を入れ、加硫プロセスの仕込み工程(
図5)に示すとおり、まず1層の下層料を設置し、そして1層の補強鋼板(2)及び1層のゴム基複合材料(4)をこの順に設置し、合計で5層の鋼板及び4層のゴム基複合材料を設置し、最後に1層の上層料を設置し、総厚さは35mmで、補強鋼板とゴム基複合材料との間にバインダーREを入れた。
【0031】
[2]金型を閉じ、金型が自ずと型締装置に入った。
【0032】
[3]加硫プロセスである。加硫時間は55分、温度は150℃±5℃、圧力は20MPa±1MPaであった。
【0033】
[5]加硫完了後、製品を取り出した。
【0034】
[6]バインダーRHによって支承本体と上支承板及び下支承板を接着させた。
【0035】
性能試験
参照基準:「公路橋梁板式橡膠支座(道路橋梁用板式ゴム支承)」(JT/T4-2019)、「橡膠支座 第2部分:橋梁隔震橡膠支座(ゴム支承 二部:橋梁用免震ゴム支承)」(GB20688.2-2006)、「公路橋梁鉛芯隔震橡膠支座(道路橋梁用鉛封入免震ゴム支承)」。
【0036】
実施例4で作製した3つの支承サンプルに対し、前記参照基準に従って機械的特性を検出し、検出結果は下表に示すとおりである。
【0037】
【0038】
試験結論:実施例4の支承サンプルに機械的特性検出を行い、各項目の検出結果がいずれも技術要件の規定を満たしており、水平剛性が同じ仕様の通常の板式ゴム支承の1.46倍となった。
【0039】
本発明は補強鋼板とゴム基複合材料を積層させることで、支承の水平剛性が効果的に高められ、通常のゴム支承の1.3~2.0倍に達しており、延性耐震設計で性能保持部材として働く支承にはせん断変形tanrが1.0以下であるという要件が満たされる。上支承鋼板がアンカーボルトによって桁底部に、下支承鋼板がアンカーボルトによって橋脚上面に接続されることで、地震作用下で支承がスリップしないことが満たされる。