(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-18
(45)【発行日】2022-11-29
(54)【発明の名称】5-アミノレブリン酸類を含む水性製剤
(51)【国際特許分類】
A61K 31/197 20060101AFI20221121BHJP
A61K 9/06 20060101ALI20221121BHJP
A61K 9/08 20060101ALI20221121BHJP
A61K 9/10 20060101ALI20221121BHJP
A61K 31/295 20060101ALI20221121BHJP
A61K 33/26 20060101ALI20221121BHJP
A61K 47/02 20060101ALI20221121BHJP
A61K 47/04 20060101ALI20221121BHJP
A61K 47/08 20060101ALI20221121BHJP
A61K 47/12 20060101ALI20221121BHJP
【FI】
A61K31/197
A61K9/06
A61K9/08
A61K9/10
A61K31/295
A61K33/26
A61K47/02
A61K47/04
A61K47/08
A61K47/12
(21)【出願番号】P 2021131558
(22)【出願日】2021-08-12
(62)【分割の表示】P 2018537181の分割
【原出願日】2017-08-23
【審査請求日】2021-08-12
(31)【優先権主張番号】P 2016171753
(32)【優先日】2016-09-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】508123858
【氏名又は名称】SBIファーマ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100113376
【氏名又は名称】南条 雅裕
(74)【代理人】
【識別番号】100179394
【氏名又は名称】瀬田 あや子
(74)【代理人】
【識別番号】100185384
【氏名又は名称】伊波 興一朗
(74)【代理人】
【識別番号】100137811
【氏名又は名称】原 秀貢人
(72)【発明者】
【氏名】森下 美加
(72)【発明者】
【氏名】太田 麗
(72)【発明者】
【氏名】石塚 昌宏
【審査官】伊藤 良子
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-012197(JP,A)
【文献】特開2011-016753(JP,A)
【文献】国際公開第2013/054770(WO,A1)
【文献】特開平08-175986(JP,A)
【文献】特表2001-518498(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第105878225(CN,A)
【文献】国際公開第2013/054470(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/129535(WO,A1)
【文献】国際公開第2013/054755(WO,A1)
【文献】特開2010-095479(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/00-31/80
A61K 9/00- 9/72
A61K 33/00-33/44
A61K 47/00-47/69
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(I):
【化1】
(式中、R
1は、水素原子またはアシル基を表し、R
2は、水素原子、直鎖若しくは分岐状アルキル基、シクロアルキル基、アリール基またはアラルキル基を表す)
で示される化合物またはその塩、および、
鉄化合物、を含む水性製剤であって、
さらに、1.5~30重量%の塩類、を含み、
前記塩類は、塩化ナトリウム、硫酸ナトリウム、炭酸ナトリウム、および、酢酸ナトリウムからなる群から選択されるナトリウム
塩であり、
前記水性製剤のpHが2~8であることを特徴とする、
水性製剤。
【請求項2】
請求項1に記載の水性製剤であって、
前記式(I)において、R
1が、水素原子、炭素数1~8のアルカノイル基、及び、炭素数7~14のアロイル基からなる群から選択され、R
2が、水素原子、直鎖又は分岐状の炭素数1~8のアルキル基、炭素数3~8のシクロアルキル基、炭素数6~14のアリール基、及び、炭素数7~15のアラルキル基からなる群から選択されることを特徴とする、
水性製剤。
【請求項3】
請求項1または2に記載の水性製剤であって、
前記式(I)において、R
1およびR
2が、水素原子であることを特徴とする、
水性製剤。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載の水性製剤であって、
前記水性製剤中に含まれる、前記鉄化合物の量(mol)と、前記式(I)で示される化合物の量(mol)との比(鉄化合物/式(I)で示される化合物)が、0.01~100であることを特徴とする、
水性製剤。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載の水性製剤であって、
前記鉄化合物が、塩化第二鉄、三二酸化鉄、硫酸鉄、ピロリン酸第一鉄、クエン酸第一鉄、クエン酸鉄ナトリウム、クエン酸第一鉄ナトリウム、クエン酸鉄アンモニウム、ピロリン酸第二鉄、乳酸鉄、グルコン酸第一鉄、ジエチレントリアミン五酢酸鉄ナトリウム、ジエチレントリアミン五酢酸鉄アンモニウム、エチレンジアミン四酢酸鉄ナトリウム、エチレンジアミン四酢酸鉄アンモニウム、ジカルボキシメチルグルタミン酸鉄ナトリウム、ジカルボキシメチルグルタミン酸鉄アンモニウム、フマル酸第一鉄、酢酸鉄、シュウ酸鉄、コハク酸第一鉄、コハク酸クエン酸鉄ナトリウム、ヘム鉄、デキストラン鉄、トリエチレンテトラアミン鉄、ラクトフェリン鉄、トランスフェリン鉄、鉄クロロフィリンナトリウム、フェリチン鉄、含糖酸化鉄、および、硫化グリシン鉄からなる群から選択される1種または2種以上の化合物であることを特徴とする、
水性製剤。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1項に記載の水性製剤であって、
前記水性製剤のpHが4~7.5であることを特徴とする、
水性製剤。
【請求項7】
請求項6に記載の水性製剤であって、
前記水性製剤のpHが5~7であることを特徴とする、
水性製剤。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか1項に記載の水性製剤であって、
前記水性製剤は、水溶液、ゼリー状、ゲル状、クリーム状、または、軟膏の形態である、
水性製剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、安定性が向上された、5-アミノレブリン酸類(以下「ALA類」ともいう)を含む水性製剤に関する。
【背景技術】
【0002】
5-アミノレブリン酸(以下「ALA」ともいう)は動物や植物や菌類に広く存在する、生体内に含まれる天然アミノ酸の一種であり、クロロフィルやヘムの共通前駆体として細胞内で代謝を受ける。ALAは他のポルフィリン関連化合物と同様に腫瘍組織に選択的に集積する性質を有するが、それ自体には光感受性はなく、細胞内でヘム生合成経路の一連の酵素群によって代謝されることにより、光感受性を有するプロトポルフィリンIX(以下「PpIX」ともいう)となる。
【0003】
ALAおよびその代謝産物であるPpIXの上記のような性質を利用した、5-アミノレブリン酸-光線力学的療法(以下「ALA-PDT」ともいう)や5-アミノレブリン酸-光線力学的診断(以下「ALA-PDD」)の研究が進められている(例えば、特許文献1)。ALA-PDTによるがん治療は、ALAを対象に投与し、がん組織に特定の波長の光を照射することによりがんの治療を行う治療方法であり、低侵襲かつ治療跡が残りにくい治療法であるため、近年注目を集めている。ALA-PDDは、ALAを対象に投与し、がん組織に特定の波長の光を照射することにより、がん組織の有無およびがん組織の範囲の判定を行う診断方法であり、これまでの診断法と比較して、低侵襲で副作用が少ないため、患者に対する負担が少ないという利点がある。
【0004】
さらに、ALAを含む組成物は、抗がん剤の副作用の予防・軽減(特許文献2)、二日酔いの予防・改善(特許文献3)、がん性貧血の予防・改善(特許文献4)等、様々な用途に利用され得ることが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平11-12197号公報
【文献】WO2013/054756
【文献】WO2013/084816
【文献】WO2013/054770
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明者らは、ALA類を含む製剤の開発を行っていたところ、水分を含む製剤中にALA類と鉄化合物とが共存すると、製剤中のALA類の安定性が低下し、ALAの濃度が短期間で減少してしまうという課題に直面した。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、ALA類を含む水性製剤の安定性を高めるために鋭意検討を行ったところ、驚くべきことに、ALA類と鉄化合物とを含む水性製剤において、所定の塩類を添加すると、製剤中のALA類の安定性が向上することを見出し、本発明を完成させるに到った。
【0008】
すなわち本発明は、一実施形態において、下記式(I):
【化1】
(式中、R
1は、水素原子またはアシル基を表し、R
2は、水素原子、直鎖若しくは分岐状アルキル基、シクロアルキル基、アリール基またはアラルキル基を表す)
で示される化合物またはその塩、および、
鉄化合物、を含む水性製剤であって、
さらに、0.2~30重量%の塩類、を含み、
前記塩類は、ナトリウム塩またはカリウム塩であり、
前記水性製剤のpHが2~8であることを特徴とする、
水性製剤に関する。
【0009】
また、本発明の一実施形態においては、前記式(I)において、R1が、水素原子、炭素数1~8のアルカノイル基、及び、炭素数7~14のアロイル基からなる群から選択され、R2が、水素原子、直鎖又は分岐状の炭素数1~8のアルキル基、炭素数3~8のシクロアルキル基、炭素数6~14のアリール基、及び、炭素数7~15のアラルキル基からなる群から選択されることを特徴とする。
【0010】
また、本発明の一実施形態においては、前記式(I)において、R1およびR2が、水素原子であることを特徴とする。
【0011】
また、本発明の一実施形態においては、前記水性製剤中に含まれる、前記鉄化合物の量(mol)と、前記式(I)で示される化合物の量(mol)との比(鉄化合物/式(I)で示される化合物)が、0.01~100であることを特徴とする。
【0012】
また、本発明の一実施形態においては、前記ナトリウム塩が、塩化ナトリウム、硫酸ナトリウム、炭酸ナトリウム、または、酢酸ナトリウムであり、前記カリウム塩が、塩化カリウム、酢酸カリウム、または、炭酸カリウムであることを特徴とする。
【0013】
また、本発明の一実施形態においては、前記鉄化合物が、塩化第二鉄、三二酸化鉄、硫酸鉄、ピロリン酸第一鉄、クエン酸第一鉄、クエン酸鉄ナトリウム、クエン酸第一鉄ナトリウム、クエン酸鉄アンモニウム、ピロリン酸第二鉄、乳酸鉄、グルコン酸第一鉄、ジエチレントリアミン五酢酸鉄ナトリウム、ジエチレントリアミン五酢酸鉄アンモニウム、エチレンジアミン四酢酸鉄ナトリウム、エチレンジアミン四酢酸鉄アンモニウム、ジカルボキシメチルグルタミン酸鉄ナトリウム、ジカルボキシメチルグルタミン酸鉄アンモニウム、フマル酸第一鉄、酢酸鉄、シュウ酸鉄、コハク酸第一鉄、コハク酸クエン酸鉄ナトリウム、ヘム鉄、デキストラン鉄、トリエチレンテトラアミン鉄、ラクトフェリン鉄、トランスフェリン鉄、鉄クロロフィリンナトリウム、フェリチン鉄、含糖酸化鉄、および、硫化グリシン鉄からなる群から選択される1種または2種以上の化合物であることを特徴とする。
【0014】
また、本発明の一実施形態においては、前記水性製剤のpHが4~7.5であることを特徴とする。
【0015】
また、本発明の一実施形態においては、前記水性製剤のpHが5~7であることを特徴とする。
【0016】
また、本発明の一実施形態においては、前記水性製剤は、水溶液、ゼリー状、ゲル状、クリーム状、または、軟膏の形態であることを特徴とする。
【0017】
なお、上記に述べた本発明の一または複数の特徴を任意に組み合わせた発明も、本発明の範囲に含まれる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】
図1Aは、塩化ナトリウムのALA減少抑制効果を示したグラフである。横軸にサンプルの保存期間、縦軸にALA残存量(サンプル作成直後の水溶液中ALA濃度を100%とした時のALA濃度の割合)を示した。
図1Bは、各保存日数における溶液のpHを示す。横軸にサンプルの保存期間、縦軸にサンプルのpHを示した。
【
図2】
図2Aは、塩化ナトリウム濃度とALA減少抑制効果との関係に関するグラフを示す。横軸にサンプルの保存期間、縦軸にALA残存量(サンプル作成直後の水溶液中ALA濃度を100%とした時のALA濃度の割合)を示した。
図2Bは、各保存日数における溶液のpHを示す。横軸にサンプルの保存期間、縦軸にサンプルのpHを示した。
【
図3】
図3Aは、塩化ナトリウム濃度とALA減少抑制効果との関係に関するグラフである。横軸にサンプルの保存期間、縦軸にALA残存量(サンプル作成直後の水溶液中ALA濃度を100%とした時のALA濃度の割合)を示した。
図3Bは、各保存日数における溶液のpHを示す。横軸にサンプルの保存期間、縦軸にサンプルのpHを示した。
【
図4】
図4Aは、塩化カリウムのALA減少抑制効果を示したグラフである。横軸にサンプルの保存期間、縦軸にALA残存量(サンプル作成直後の水溶液中ALA濃度を100%とした時のALA濃度の割合)を示した。
図4Bは、各保存日数における溶液のpHを示す。横軸にサンプルの保存期間、縦軸にサンプルのpHを示した。
【
図5】
図5Aは、硫酸ナトリウムのALA減少抑制効果を示したグラフである。横軸にサンプルの保存期間、縦軸にALA残存量(サンプル作成直後の水溶液中ALA濃度を100%とした時のALA濃度の割合)を示した。
図5Bは、各保存日数における溶液のpHを示す。横軸にサンプルの保存期間、縦軸にサンプルのpHを示した。
【
図6】
図6Aは、ALAリン酸塩に対する塩類のALA減少抑制効果を示したグラフである。横軸にサンプルの保存期間、縦軸にALA残存量(サンプル作成直後の水溶液中ALA濃度を100%とした時のALA濃度の割合)を示した。
図6Bは、各保存日数における溶液のpHを示す。横軸にサンプルの保存期間、縦軸にサンプルのpHを示した。
【
図7】
図7Aは、ALA+DTPA鉄水溶液に対する塩類のALA減少抑制効果を示したグラフである。横軸にサンプルの保存期間、縦軸にALA残存量(サンプル作成直後の水溶液中ALA濃度を100%とした時のALA濃度の割合)を示した。
図7Bは、各保存日数における溶液のpHを示す。横軸にサンプルの保存期間、縦軸にサンプルのpHを示した。
【
図8】
図8Aは、ALA水溶液(鉄剤添加なし)に対する塩類のALA減少抑制効果を示したグラフである。横軸にサンプルの保存期間、縦軸にALA残存量(サンプル作成直後の水溶液中ALA濃度を100%とした時のALA濃度の割合)を示した。
図8Bは、各保存日数における溶液のpHを示す。横軸にサンプルの保存期間、縦軸にサンプルのpHを示した。
【
図9】
図9Aは、ALA+SFC水溶液に対する複数種類の塩類のALA減少抑制効果を示したグラフである。横軸にサンプルの保存期間、縦軸にALA残存量(サンプル作成直後の水溶液中ALA濃度を100%とした時のALA濃度の割合)を示した。
図9Bは、各保存日数における溶液のpHを示す。横軸にサンプルの保存期間、縦軸にサンプルのpHを示した。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本明細書において、ALA類とは、ALA若しくはその誘導体又はそれらの塩をいう。
【0020】
本明細書において、ALAは、5-アミノレブリン酸を意味する。ALAは、δ-アミノレブリン酸ともいい、アミノ酸の1種である。
【0021】
ALAの誘導体としては、下記式(I)で表される化合物を例示することができる。式(I)において、R
1は、水素原子又はアシル基を表し、R
2は、水素原子、直鎖若しくは分岐状アルキル基、シクロアルキル基、アリール基又はアラルキル基を表す。なお、式(I)において、ALAは、R
1及びR
2が水素原子の場合に相当する。
【化2】
【0022】
ALA類は、生体内で式(I)のALA又はその誘導体の状態で有効成分として作用すればよく、生体内の酵素で分解されるプロドラッグ(前駆体)として投与することもできる。
【0023】
式(I)のR1におけるアシル基としては、ホルミル、アセチル、プロピオニル、ブチリル、イソブチリル、バレリル、イソバレリル、ピバロイル、ヘキサノイル、オクタノイル、ベンジルカルボニル基等の直鎖又は分岐状の炭素数1~8のアルカノイル基や、ベンゾイル、1-ナフトイル、2-ナフトイル基等の炭素数7~14のアロイル基を挙げることができる。
【0024】
式(I)のR2におけるアルキル基としては、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、sec-ブチル、tert-ブチル、ペンチル、イソペンチル、ネオペンチル、ヘキシル、ヘプチル、オクチル基等の直鎖又は分岐状の炭素数1~8のアルキル基を挙げることができる。
【0025】
式(I)のR2におけるシクロアルキル基としては、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル、シクロヘプチル、シクロオクチル、シクロドデシル、1-シクロヘキセニル基等の飽和、又は一部不飽和結合が存在してもよい、炭素数3~8のシクロアルキル基を挙げることができる。
【0026】
式(I)のR2におけるアリール基としては、フェニル、ナフチル、アントリル、フェナントリル基等の炭素数6~14のアリール基を挙げることができる。
【0027】
式(I)のR2におけるアラルキル基としては、アリール部分は上記アリール基と同じ例示ができ、アルキル部分は上記アルキル基と同じ例示ができ、具体的には、ベンジル、フェネチル、フェニルプロピル、フェニルブチル、ベンズヒドリル、トリチル、ナフチルメチル、ナフチルエチル基等の炭素数7~15のアラルキル基を挙げることができる。
【0028】
好ましいALA誘導体としては、R1が、ホルミル、アセチル、プロピオニル、ブチリル基等である化合物が挙げられる。また、好ましいALA誘導体としては、上記R2が、メチル、エチル、プロピル、ブチル、ペンチル基等である化合物が挙げられる。また、好ましいALA誘導体としては、上記R1とR2の組合せが、(ホルミルとメチル)、(アセチルとメチル)、(プロピオニルとメチル)、(ブチリルとメチル)、(ホルミルとエチル)、(アセチルとエチル)、(プロピオニルとエチル)、(ブチリルとエチル)の各組合せである化合物が挙げられる。
【0029】
ALA類のうち、ALA又はその誘導体の塩としては、薬理学的に許容される酸付加塩、金属塩、アンモニウム塩、有機アミン付加塩等を挙げることができる。酸付加塩としては、例えば塩酸塩、臭化水素酸塩、ヨウ化水素酸塩、リン酸塩、硝酸塩、硫酸塩等の各無機酸塩、ギ酸塩、酢酸塩、プロピオン酸塩、トルエンスルホン酸塩、コハク酸塩、シュウ酸塩、乳酸塩、酒石酸塩、グリコール酸塩、メタンスルホン酸塩、酪酸塩、吉草酸塩、クエン酸塩、フマル酸塩、マレイン酸塩、リンゴ酸塩等の各有機酸付加塩を例示することができる。金属塩としては、リチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩等の各アルカリ金属塩、マグネシウム、カルシウム塩等の各アルカリ土類金属塩、アルミニウム、亜鉛等の各金属塩を例示することができる。アンモニウム塩としては、アンモニウム塩、テトラメチルアンモニウム塩等のアルキルアンモニウム塩等を例示することができる。有機アミン塩としては、トリエチルアミン塩、ピペリジン塩、モルホリン塩、トルイジン塩等の各塩を例示することができる。なお、これらの塩は使用時において溶液としても用いることができる。
【0030】
以上のALA類のうち、もっとも望ましいものは、ALA、及び、ALAメチルエステル、ALAエチルエステル、ALAプロピルエステル、ALAブチルエステル、ALAペンチルエステル等の各種エステル類、並びに、これらの塩酸塩、リン酸塩、硫酸塩である。とりわけ、ALA塩酸塩、ALAリン酸塩を特に好適なものとして例示することができる。
【0031】
上記ALA類は、例えば、化学合成、微生物による生産、酵素による生産など公知の方法によって製造することができる。また、上記ALA類は、水和物又は溶媒和物を形成していてもよく、またALA類を単独で又は2種以上を適宜組み合わせて用いることもできる。
【0032】
本発明の水性製剤に含まれるALA類の濃度範囲は特に限定されず、当業者が適宜選択することができる。概して、成人に対するALA類の投与量は、ALAモル換算で、0.01mmol~25mmol/日、好ましくは0.025mmol~7.5mmol/日、より好ましくは0.075mmol~5.5mmol/日、さらに好ましくは0.2mmol~2mmol/日を挙げることができる。これらの好適な投与量から逆算して、本発明の水性製剤に含まれるALA類の濃度範囲を決定することができる。例えば、本発明の水性製剤に含まれるALA類の濃度範囲は、0.005重量%~30重量%、好ましくは0.01重量%~15重量%、さらに好ましくは0.1重量%~10重量%であってよい。
【0033】
本発明における鉄化合物の例としては、例えば、塩化第二鉄、三二酸化鉄、硫酸鉄、ピロリン酸第一鉄、クエン酸第一鉄、クエン酸鉄ナトリウム、クエン酸第一鉄ナトリウム、クエン酸鉄アンモニウム、ピロリン酸第二鉄、乳酸鉄、グルコン酸第一鉄、ジエチレントリアミン五酢酸鉄ナトリウム、ジエチレントリアミン五酢酸鉄アンモニウム、エチレンジアミン四酢酸鉄ナトリウム、エチレンジアミン四酢酸鉄アンモニウム、ジカルボキシメチルグルタミン酸鉄ナトリウム、ジカルボキシメチルグルタミン酸鉄アンモニウム、フマル酸第一鉄、酢酸鉄、シュウ酸鉄、コハク酸第一鉄、コハク酸クエン酸鉄ナトリウム、ヘム鉄、デキストラン鉄、トリエチレンテトラアミン鉄、ラクトフェリン鉄、トランスフェリン鉄、鉄クロロフィリンナトリウム、フェリチン鉄、含糖酸化鉄、硫化グリシン鉄を挙げることができる。また、本発明の水性製剤においては、上記に例示した鉄化合物のうち、1種または2種以上を含んでよい。
【0034】
本発明の水性製剤含まれる鉄化合物の濃度範囲は特に限定されず、当業者が適宜選択することができる。概して、本発明の水性製剤中に含まれる前記鉄化合物の量(mol)と、前記式(I)で示される化合物の量(mol)との比(鉄化合物/式(I)で示される化合物)は、0.01~100(好ましくは)であることが好ましい。これらの好適な投与量から逆算して、本発明の水性製剤に含まれる鉄化合物の濃度範囲を決定することができる。例えば、本発明の水性製剤に含まれる鉄化合物の濃度範囲は、0.01重量%~30重量%、好ましくは0.05重量%~15重量%、さらに好ましくは0.1重量%~10重量%であってよい。
【0035】
本発明の水性製剤は、塩類を含むことを特徴とする。本発明に用いられる塩類の例としては、例えば、ナトリウム塩、カリウム塩、マグネシウム塩、亜鉛塩、鉄塩、リチウム塩、カルシウム塩、銅塩、アンモニウム塩、を挙げることができ、特にナトリウム塩またはカリウム塩を好適に用いることができる。本発明に用い得るナトリウム塩の例としては、塩化ナトリウム、硫酸ナトリウム、炭酸ナトリウム、酢酸ナトリウムを挙げることができる。また、本発明に用い得るカリウム塩の例としては、塩化カリウム、酢酸カリウム、炭酸カリウムを挙げることができる。また、本発明に用い得るその他の塩類の例としては、塩化マグネシウム、塩化亜鉛、硫酸マグネシウム、塩化リチウム、塩化カルシウム、硫酸銅(II)、硫酸亜鉛、硫酸鉄(II)、酢酸リチウム、酢酸アンモニウム、等が挙げられる。
【0036】
本発明の水性製剤に含まれる塩類の濃度は、約0.2~30重量%の範囲である。水性製剤に含まれる塩類の濃度が0.2重量%以下になると所望のALA安定化効果が得られ難くなり、水性製剤に含まれる塩類の濃度が30重量%以上になると、塩類の濃度が高くなりすぎて製剤としての使用上の問題が生じるおそれがある。塩類の種類によって好ましい濃度範囲は異なるが、当業者であれば、約0.2~30重量%の範囲内において、適切な濃度を適宜調節することができ、例えば、約0.2~25重量%、約0.2~20重量%、約0.2~18重量%、約0.2~15重量%、約0.8~25重量%、約0.8~20重量%、約0.8~18重量%、約0.8~15重量%、約1~25重量%、約1~20重量%、約1~18重量%、約1~15重量%、約2.5~25重量%、約2.5~20重量%、約2.5~18重量%、約2.5~15重量%、約5~25重量%、約5~20重量%、約5~18重量%、または、約5~15重量%、の範囲に調節することができる。例えば、ナトリウム塩を用いる場合には、約0.2~20重量%の濃度範囲であることが好ましく、カリウム塩を用いる場合には、約5~25重量%の濃度範囲であることが好ましい。さらに、塩化ナトリウムを用いた場合には、約0.2~20重量%の濃度範囲であることが好ましく、硫酸ナトリウムを用いた場合には、約0.8~18重量%の濃度範囲であることが好ましく、塩化カリウムを用いた場合には、約5~25重量%の濃度範囲であることが好ましい。
【0037】
なお、本発明の水性製剤に含まれる「鉄化合物」と「塩類」とは異なるものであることが好ましい。
【0038】
本明細書において、水性製剤とは、水を基剤として含む製剤を広く意味する。本発明における水性製剤の形態としては、例えば、水溶液、ゼリー状、ゲル状、クリーム状、または、軟膏の形態が挙げられるが、これらに限定されない。
【0039】
本発明の水性製剤は、前記成分の他に、必要に応じて、等張化剤、溶解補助剤、粘性基剤、清涼化剤、pH調整剤、防腐剤、安定化剤、界面活性剤等の添加剤を含有してもよい。
【0040】
等張化剤としては、例えば、ソルビトール、グルコース、マンニトール等の糖類;グリセリン、プロピレングリコール等の多価アルコール類;塩化ナトリウム等の塩類;ホウ酸等が挙げられる。これらの等張化剤は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0041】
溶解補助剤としては、例えば、ポリオキシエチレンソルビタンモノオレエート、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、チロキサポール、プルロニック等の非イオン性界面活性剤;グリセリン等の多価アルコール等が挙げられる。これらの溶解補助剤は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0042】
粘性基剤としては、例えば、ポリビニルピロリドン、ポリエチレングリコール、ポリビニルアルコール、カルボキシビニルポリマー、コンドロイチン硫酸エステルナトリウム、アルギン酸又はその塩、ヒアルロン酸ナトリウム等の水溶性高分子;ヒプロメロース、ヒドロキシエチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム等のセルロース類等が挙げられる。これらの粘性基剤は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0043】
清涼化剤としては、例えば、l-メントール、ボルネオール、カンフル、ユーカリ油等が挙げられる。これらの清涼化剤は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0044】
pH調整剤としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、ホウ砂等のアルカリ;酢酸、クエン酸、塩酸、リン酸、酒石酸、ホウ酸等の酸が挙げられる。
【0045】
防腐剤としては、例えば、ソルビン酸又はその塩、安息香酸又はその塩、パラオキシ安息香酸メチル、パラオキシ安息香酸エチル、パラオキシ安息香酸プロピル、クロロブタノール、クロルヘキシジングルコン酸塩、ホウ酸、デヒドロ酢酸又はその塩、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム、ベンジルアルコール、塩化亜鉛、パラクロルメタキシレノール、クロルクレゾール、フェネチルアルコール、塩化ポリドロニウム、チメロサール、ポリヘキサメチレンビグアニド等が挙げられる。これらの防腐剤は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0046】
安定化剤としては、例えば、ポリビニルピロリドン、亜硫酸塩、モノエタノールアミン、グリセリン、プロピレングリコール、シクロデキストリン、デキストラン、アスコルビン酸、エデト酸塩、タウリン、トコフェロール等が挙げられる。これらの安定化剤は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0047】
界面活性剤としては、例えば、チロキサポール、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブロックコポリマー、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、オクトキシノール等の非イオン性界面活性剤;アルキルジアミノエチルグリシン、ラウリルジメチルアミノ酢酸ベタイン等の両性界面活性剤;アルキル硫酸塩、N-アシルタウリン塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩等の陰イオン界面活性剤;アルキルピリジニウム塩、アルキルアミン塩等の陽イオン界面活性剤等が挙げられる。これらの界面活性剤は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0048】
これらの添加剤の濃度については、添加剤の種類や水性製剤の用途等に応じて適宜設定される。
【0049】
本明細書において用いられる用語は、特に定義されたものを除き、特定の実施態様を説明するために用いられるのであり、発明を限定する意図ではない。
【0050】
また、本明細書において用いられる「含む」との用語は、文脈上明らかに異なる理解をすべき場合を除き、記述された事項(部材、ステップ、要素、数字など)が存在することを意図するものであり、それ以外の事項(部材、ステップ、要素、数字など)が存在することを排除しない。
【0051】
異なる定義が無い限り、ここに用いられるすべての用語(技術用語及び科学用語を含む。)は、本発明が属する技術の当業者によって広く理解されるのと同じ意味を有する。ここに用いられる用語は、異なる定義が明示されていない限り、本明細書及び関連技術分野における意味と整合的な意味を有するものとして解釈されるべきであり、理想化され、又は、過度に形式的な意味において解釈されるべきではない。
【0052】
以下において、本発明を、実施例を参照してより詳細に説明する。しかしながら、本発明はいろいろな態様により具現化することができ、ここに記載される実施例に限定されるものとして解釈されてはならない。
【実施例】
【0053】
実施例1:塩化ナトリウムによるALA減少抑制効果
ALA塩酸塩(コスモ石油社製)、クエン酸第一鉄ナトリウム(以下、SFC(小松屋社製))、塩化ナトリウム(以下、NaCl(和光純薬社製))を用いて以下の2種類の水溶液を作成してサンプルとし、各10gずつ透明ガラス瓶に入れ、温度40℃、湿度75%に設定した恒温恒湿器に保存した。保存前、保存7、14、21、27日目に各水溶液中のALA濃度、およびpHを測定した。
1)ALA+SFC
ALA塩酸塩1g、SFC1gを超純水に溶かし、全量を100gにした。
2)ALA+SFC+NaCl 5w/w%
ALA塩酸塩1g、SFC(小松屋社製)1g、塩化ナトリウム5gを超純水に溶かし、全量を100gにした。
【0054】
ALA濃度は、以下の方法により測定した。試薬は全て和光純薬社製を用いた。
サンプルを超純水で250倍に希釈したものを0.05mL試験管に取り、反応液A(68.4mM 塩化ナトリウム、15v/v% アセチルアセトン、10v/v% エタノールの混合液)3.5mL、反応液B(3.3w/w% ホルムアルデヒド液) 0.5mLを加え、沸騰水中で15分間加温後、すぐに氷冷した。この反応液をHPLCに注入し、励起363nm、蛍光473nmで蛍光を測定した値から、検量線法によりALA量を算出した。カラムはZorbax Eclipse plusC18(1.8μm、4.6×5mm、Agilent社製)、移動相は2.5%酢酸/メタノール(6 / 4, v/v)を用いた。pH測定にはラコムテスターpH計(アズワン社製)を使用した。
【0055】
実験結果を
図1に示した。
図1Aに示すとおり、塩化ナトリウムを添加したサンプルでは、保存7日目からALAの減少が抑制され、保存27日目のALA残存量は、塩化ナトリウムを添加しないサンプルよりも、約20%多かった。また、
図1Bに示すとおり、各サンプルの保存前のpHに差はなく、また、保存期間でpHの変動はなかった。このことから、
図1AのALAの減少抑制効果は、pHの影響によるものではないことが確認された。
【0056】
実施例2:塩化ナトリウム濃度とALA減少抑制効果の関係
塩化ナトリウム濃度が異なる以下の4種類の水溶液を、実施例1の試験と同様の方法で作成してサンプルとし、各10gずつ透明ガラス瓶に入れ、温度40℃、湿度75%に設定した恒温恒湿器に保存した。保存14、27日目にALA濃度およびpHを測定し、ALA減少抑制効果と塩化ナトリウム濃度の関係を調べた。
1)ALA+SFC
2)ALA+SFC+NaCl 1.0w/w%
3)ALA+SFC+NaCl 2.5w/w%
4)ALA+SFC+NaCl 5.0w/w%
【0057】
実験結果を
図2に示した。
図2Aに示すとおり、保存14日目、27日目ともに、塩化ナトリウム濃度が高いサンプルほどALA残存量が多く、水溶液中のALA減少抑制効果が強かった。また、
図2Bの結果から、各サンプルの保存前のpHに差はなく、また、保存期間でpHの変動はなかった。このことから、
図2AのALAの減少抑制効果は、pHの影響によるものではないことが確認された。
【0058】
実施例3:塩化ナトリウム濃度とALA減少抑制効果の関係
実施例2と同様の試験において、さらに高濃度の塩化ナトリウム(19.1w/w%)を含むサンプルを用いて実験を行った結果を
図3に示す。
図3Aおよび
図3Bに示すとおり、保存14日目、27日目ともに、塩化ナトリウム濃度が高いサンプルほどALA残存量が多く、水溶液中のALA減少抑制効果が強かった。
【0059】
実施例4:塩化ナトリウム以外の塩類によるALA減少抑制効果
ALA塩酸塩1g、SFC1gを超純水に溶かした水溶液と、塩化カリウム(和光純薬社製、KCl)または硫酸ナトリウム(和光純薬社製、Na2SO4)を溶かした水溶液を混合し、1M-クエン酸緩衝液でpH4に調整後、超純水で全量を100gとした。塩化カリウムと硫酸ナトリウムの配合量は以下の通りであり、各溶液を調製後にそれぞれ10gずつ透明ガラス瓶に入れ、温度40℃、湿度75%に設定した恒温恒湿器に保存した。
保存14、27日目にALA濃度およびpHを測定し、塩化カリウムおよび硫酸ナトリウムのALA減少抑制効果を調べた。
1)ALA+SFC ※2), 3), 4)のコントロール
2)ALA+SFC+KCl 1.3w/w%
3)ALA+SFC+KCl 6.4w/w%
4)ALA+SFC+KCl 24.5w/w%
5)ALA+SFC ※6), 7), 8)のコントロール
6)ALA+SFC+Na2SO4 0.8w/w%
7)ALA+SFC+Na2SO4 4.1w/w%
8)ALA+SFC+Na2SO4 16.2w/w%
【0060】
実験結果を
図4および
図5に示した。
図4Aに示すとおり、塩化カリウムを6.4%または24.5%配合したサンプルは、塩化カリウムを配合しなかったサンプルと比較して、保存27日目のALA残存量が約10%多かった。
図5Aにおいても同様に、硫酸ナトリウムを配合したサンプルでは、硫酸ナトリウムを配合しなかったサンプルと比較して、保存27日目のALA残存量が多かった。以上のことから、塩化ナトリウム以外の塩をサンプルに添加しても、ALA減少抑制効果が得られることが確認された。また、
図4Bおよび
図5Bに示すとおり、各サンプルの保存前のpHに差はなく、また、保存期間でpHの変動はなかった。このことから、
図4Aおよび
図5Aに示されたALAの減少抑制効果は、pHの影響によるものではないことが確認された。
【0061】
実施例5:ALAリン酸塩に対する塩類のALA減少抑制効果
ALAリン酸塩(コスモ石油社製)、クエン酸第一鉄ナトリウム(以下、SFC、 小松屋社製)、塩化ナトリウム(以下、NaCl、和光純薬社製)、塩化カリウム(以下、KCl、和光純薬社製),硫酸ナトリウム(以下、Na2SO4、和光純薬社製)を用いて以下の4種類の水溶液を作成してサンプルとした。pHを1M-クエン酸緩衝液でpH4に調整後、各20gずつ透明ガラス瓶に入れ、温度40℃、湿度75%に設定した恒温恒湿器に保存した。
保存前、保存14、28日目に各水溶液中のALA濃度、およびpHを測定し、ALAリン酸塩の場合も、塩類の添加がALA量の減少を抑制するか検証した。なお、ALA濃度およびpHは、これまでの実施例と同様の方法で測定した。また、特に記載がない限り、試薬は全て和光純薬社製を用いた。
1)ALA+SFC
ALAリン酸塩 1.37g、SFC 1.0gを超純水に溶かし、全量を100gにした。
2)ALA+SFC+NaCl 5.0w/w%
ALAリン酸塩 1.37g、SFC 1.0g、NaCl 5.0gを超純水に溶かし、全量を100gにした。
3)ALA+SFC+KCl 6.4w/w%
ALAリン酸塩 1.37g、SFC 1.0g、KCl 6.4gを超純水に溶かし、全量を100gにした。
4)ALA+SFC+Na2SO4 4.1w/w%
ALAリン酸塩 1.37g、SFC 1.0g、Na2SO4 4.1gを超純水に溶かし、全量を100gにした。
【0062】
実験結果を
図6に示した。
図6Aに示すとおり、NaCl、KCl、Na
2SO
4を添加したサンプルの保存28日目のALA残存量は、塩類を添加しないサンプルよりも、それぞれ9%、7%、4%程度多かった。この結果から、ALA塩酸塩をALAリン酸塩に変えても、塩類添加によるALA減少抑制効果が確認された。また、
図6Bに示すとおり、各サンプルの保存前のpHに差はなく、また、保存期間でpHの変動はなかった。このことから、
図6AのALAの減少抑制効果は、pHの影響によるものではないことが確認された。
【0063】
実施例6:ALA+DTPA鉄水溶液に対する塩類のALA減少抑制効果
ALA塩酸塩とジエチレントリアミン五酢酸鉄50%溶液(以下、「DTPA鉄溶液」、キレスト社製)、NaClを用いて、NaCl濃度が異なる以下の3種類の水溶液を作成し、サンプルとした。これを、1M-クエン酸緩衝液でpH4に調整後、各20gずつ透明ガラス瓶に入れ、温度40℃、湿度75%に設定した恒温恒湿器に保存した。保存前、保存28日目にサンプルのALA濃度およびpHを測定し、SFC以外の鉄剤を添加したALA水溶液でも、塩類添加によりALA減少抑制効果が得られるか検証した。
1)ALA+DTPA鉄
ALA塩酸塩1.0gを溶かした超純水にDTPA鉄溶液1.82gを添加し、全量を100gにした。
2)ALA+DTPA鉄+NaCl 5.0w/w%
ALA塩酸塩1.0g、NaCl5.0gを溶かした超純水にDTPA鉄溶液1.82gを添加し、全量を100gにした。
3)ALA+DTPA鉄+NaCl 20.0w/w%
ALA塩酸塩1g、NaCl20.0gを溶かした超純水にDTPA鉄溶液1.82gを添加し、全量を100gにした。
【0064】
実験結果を
図7に示した。
図7Aに示すとおり、サンプル中のNaCl濃度が高いほどALA残存量が多く、水溶液中のALA減少抑制効果が強かった。この結果から、鉄剤がDTPA鉄の場合でも、塩類添加よるALA減少抑制効果が確認された。また、
図7Bに示すとおり、各サンプルの保存前のpHに差はなく、また、保存期間でpHの変動はなかった。このことから、
図7AのALAの減少抑制効果は、pHの影響によるものではないことが確認された。
【0065】
実施例7:ALA水溶液(鉄剤添加なし)に対する塩類のALA減少抑制効果
4種類の塩を添加した水溶液を、以下の方法で作成してサンプルとし、1M-クエン酸緩衝液でpH4に調製後、各溶液をそれぞれ20gずつ透明ガラス瓶に入れて、温度40℃、湿度75%に設定した恒温恒湿器に保存した。保存前、保存28、86、231日目にALA濃度およびpHを測定し、鉄剤を添加しないALA水溶液の場合も、塩類添加によるALA減少抑制効果が得られるか検証した。
1)ALA
ALA塩酸塩1.0gを超純水に溶かし、全量を100gとした。
2)ALA+NaCl 5.0w/w%
ALA塩酸塩1.0g、NaCl5.0gを超純水に溶かし、全量を100gとした。
3)ALA+KCl 6.4w/w%
ALA塩酸塩1.0g、KCl6.4gを超純水に溶かし、全量を100gとした。
4)ALA+Na2SO4 4.1w/w%
ALA塩酸塩1.0g、Na2SO44.1gを超純水に溶かし、全量を100gとした。
【0066】
実験結果を
図8に示した。
図8Aに示すとおり、保存231日目のALA残存量は、NaCl添加サンプルでは塩類を添加しないサンプルと同程度であったが、KClおよびNa
2SO
4添加サンプルでは、塩類を添加しないサンプルよりも、それぞれ8%、14%程度多かった。以上のことから、鉄剤を添加しないALA水溶液の場合も、塩類添加によるALA減少抑制効果が確認された。また、
図8Bに示すとおり、各サンプルの保存前のpHに差はなく、また、保存期間でpHの変動はなかった。このことから、
図8AのALAの減少抑制効果は、pHの影響によるものではないことが確認された。
【0067】
実施例8:ALA+SFC水溶液に対する複数種類の塩類のALA減少抑制効果
3種類の塩(NaCl、KCl、Na2SO4)、またはNaClを添加したALA+SFC水溶液を以下の方法で作成してサンプルとし、1M-クエン酸緩衝液でpH4に調製後、各溶液をそれぞれ20gずつ透明ガラス瓶に入れて、温度40℃、湿度75%に設定した恒温恒湿器に保存した。保存前、保存28日目にALA濃度およびpHを測定し、低濃度の塩を複数種類添加し、塩類の合計添加量を増やすことで、ALA減少抑制効果が向上するか検証した。
1)ALA+SFC
ALA塩酸塩1.0g、SFC1.0gを超純水に溶かし、全量を100gとした。
2)ALA+SFC+NaCl 0.5w/w%
ALA塩酸塩1.0g、SFC1.0g、NaCl0.5gを超純水に溶かし、全量を100gとした。
3)ALA+SFC+NaCl 1.5w/w%
ALA塩酸塩1.0g、SFC1.0g、NaCl1.5gを超純水に溶かし、全量を100gとした。
4)ALA+SFC+NaCl 0.5w/w%+KCl 0.6w/w%+Na2SO4 0.4w/w%(3種類の塩類の合計添加濃度 1.5w/w%)
ALA塩酸塩1.0g、SFC1.0g、NaCl0.5g、KCl0.6g、Na2SO40.4gを超純水に溶かし、全量を100gにした。
【0068】
実験結果を
図9に示した。
図9Aに示すとおり、3種類の塩を合計で1.5%添加したサンプルの保存28日目のALA残存量は、NaClを1.5%添加したサンプルと同程度であり、塩を添加しないサンプルよりも5%程度多かった。以上のことから、各塩類の濃度は低くても、添加された塩類の合計量が増えれば、ALA減少抑制効果が向上することが示された。また、
図9Bに示すとおり、各サンプルの保存前のpHに差はなく、また、保存期間でpHの変動はなかった。このことから、
図9AのALAの減少抑制効果は、pHの影響によるものではないことが確認された。