(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-18
(45)【発行日】2022-11-29
(54)【発明の名称】リチウムイオン電池用正極およびリチウムイオン電池
(51)【国際特許分類】
H01M 4/525 20100101AFI20221121BHJP
H01M 4/36 20060101ALI20221121BHJP
H01M 4/505 20100101ALI20221121BHJP
H01M 4/131 20100101ALI20221121BHJP
【FI】
H01M4/525
H01M4/36 C
H01M4/505
H01M4/131
(21)【出願番号】P 2021504678
(86)(22)【出願日】2019-03-12
(86)【国際出願番号】 JP2019010028
(87)【国際公開番号】W WO2020183612
(87)【国際公開日】2020-09-17
【審査請求日】2021-07-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000005326
【氏名又は名称】本田技研工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100126664
【氏名又は名称】鈴木 慎吾
(74)【代理人】
【識別番号】100154852
【氏名又は名称】酒井 太一
(74)【代理人】
【識別番号】100194087
【氏名又は名称】渡辺 伸一
(72)【発明者】
【氏名】荒木 一浩
(72)【発明者】
【氏名】松坂 拓
【審査官】福井 晃三
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-127024(JP,A)
【文献】特開2017-188424(JP,A)
【文献】特開2010-027482(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/00- 4/62
H01M 10/05-10/0587
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極集電体と、前記正極集電体に形成された正極合材層とを有し、
前記正極合材層が、リチウムニッケル複合酸化物と、前記リチウムニッケル複合酸化物を被覆した金属リン酸塩とを含み、
前記リチウムニッケル複合酸化物は、化学式LiNi
xCo
yM
zO
2(式中のMは、Mn、Al、MgおよびWからなる群から選択される1以上の元素であり、x+y+z=1、0.6≦x<1.0
、0.1≦y≦0.2)で表され、
前記金属リン酸塩は、VPO
4、VP
2O
7およびVPO
4Fからなる群から選択され る1以上の材料であり、
前記リチウムニッケル複合酸化物に対する前記金属リン酸塩の質量比が、0.01質量%以上20質量%以下である、リチウムイオン電池用正極。
【請求項2】
前記金属リン酸塩が、前記リチウムニッケル複合酸化物の表面の全体を被覆している、請求項1に記載のリチウムイオン電池用正極。
【請求項3】
前記リチウムニッケル複合酸化物に対する前記金属リン酸塩の質量比が、0.1質量%以上10質量%以下である、請求項1に記載のリチウムイオン電池用正極。
【請求項4】
前記リチウムニッケル複合酸化物は、化学式LiNi
xCo
yMn
zO
2(x+y+z=1、0.6≦x<1.0
、0.1≦y≦0.2)である、請求項1~
3のいずれか1項に記載のリチウムイオン電池用正極。
【請求項5】
前記金属リン酸塩はVP
2O
7である、請求項1~
3のいずれか1項に記載のリチウムイオン電池用正極。
【請求項6】
請求項1~
5のいずれか1項に記載のリチウムイオン電池用正極を備える、リチウムイオン電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン電池用正極およびリチウムイオン電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電気・電子機器の高性能化、多機能化に伴い、各種機器に電力を供給するリチウムイオン電池の高エネルギー密度化、高容量化、高出力化、耐久性の向上等が求められている。これを実現する方法の一つとして、正極の構成部材である正極活物質の研究が行われている。
【0003】
従来の正極活物質として、例えば、金属リン酸塩及びリチウム複合酸化物を含む複合正極活物質が提案されている(特許文献1)。
上記金属リン酸塩は、化学式(a):MxPyOz(式中、Mは、バナジウム(V)、ニオブ(Nb)及びタンタル(Ta)のうちから選択された1以上の元素であり、1≦y/x≦1.33であり、4≦z/y≦5の範囲を有する)で表される。
また、上記リチウム複合酸化物は、以下の化学式(b)~(e)のいずれかで表される化合物である。
化学式(b):LiM2O4(式中、Mは、ニッケル(Ni)、マンガン(Mn)及びコバルト(Co)からなる群から選択された1以上である)
化学式(c):Li1+xM1-xO2(式中、Mは、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)、マンガン(Mn)、チタン(Ti)、バナジウム(V)、鉄(Fe)、ニオブ(Nb)及びモリブデン(Mo)からなる群から選択された1以上であり、0<x≦0.3である)
化学式(d):LiaNibCocMndMeO2(式中、Mは、チタン(Ti)、バナジウム(V)、鉄(Fe)、ニオブ(Nb)及びモリブデン(Mo)からなる群から選択された1以上であり、1.1≦a<1.5、0<b<1、0≦c<1、0<d<1、0≦e<1及び0<b+c+d+e<1である)
化学式(e):Li1+x1M1-x1O2(式中、Mは、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)、マンガン(Mn)、チタン(Ti)、バナジウム(V)、鉄(Fe)、ニオブ(Nb)及びモリブデン(Mo)からなる群から選択された1以上であり、0.1≦x1≦0.3である)
【0004】
また、従来の他の正極活物質として、下記化学式(f)で表されるリチウムニッケル複合酸化物の粒子を含む非水系電解質二次電池用正極活物質が提案されている(特許文献2)。この正極活物質では、リチウムニッケル複合酸化物の粒子の表面にタングステン(W)およびリチウム(Li)を含む1~200nmの厚さの被膜を有しており、また、X線回折のリートベルト解析から得られるリチウムニッケル複合酸化物の結晶におけるc軸の長さが14.183オングストローム以上、14.205オングストローム以下である。
化学式(f):LibNi1-x-yCoxMyO2
(式中、Mは、マグネシウム(Mg)、アルミニウム(Al)、カルシウム(Ca)、チタン(Ti)、バナジウム(V)、クロム(Cr)、マンガン(Mn)、ニオブ(Nb)、ジルコニウム(Zr)およびモリブデン(Mo)から選ばれる少なくとも1種である。bは0.95≦b≦1.03、xは0<x≦0.15、yは0<y≦0.07、x+yはx+y≦0.16を満たす数値である。)
【0005】
更に、従来の他の正極活物質の構成として、リチウムニッケル複合酸化物の粒子と、そのリチウムニッケル複合酸化物の粒子表面を被覆したリン酸バナジウムリチウムの粒子とを含む正極活物質が提案されている(特許文献3)。この正極活物質では、リチウムニッケル複合酸化物粒子に対するリン酸バナジウムリチウム粒子の質量比が5:85~60:30の範囲となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2016-127024号公報
【文献】国際公開2017-073246号
【文献】特開2013/77420号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1は、リチウム複合酸化物がリチウム過剰の層状構造(OLO:overlithiated layered oxide)であることを前提として、OLOに所定の金属リン酸塩をコーティングする構成であり、耐久性の改善はある程度見込めるものの、正極活物質の結晶構造の変化に因って開回路電圧(OCV:Open Circuit Voltage)が低下し、リチウムイオン電池の耐久性が低下するという問題がある。
【0008】
特許文献2は、ニッケル比率を高めたリチウムニッケル複合酸化物における結晶構造を制御すると共に、リチウムニッケル複合酸化物の粒子に、タングステン(W)を含む所定厚さの被膜を形成する構成であり、タングステン(W)を含む被膜がリチウムイオン電池の高容量、高出力および低抵抗化には寄与するものの、耐久性の向上には寄与し難い。
【0009】
また、特許文献3は、リチウムニッケル複合酸化物粒子に対するリン酸バナジウムリチウム粒子を30質量%以上85質量%以下とすることで、リチウムニッケル複合酸化物粒子の表面を殆ど露出させず、リチウムニッケル複合酸化物粒子の酸化分解を抑制できる構成としている。しかし、リン酸バナジウムリチウムも正極活物質として機能することから、リン酸バナジウムリチウムの放電容量が正極活物質全体の放電容量に大きく影響し、正極活物質全体としての放電容量が低下し、エネルギー密度の低下をもたらす。
【0010】
本発明の目的は、高エネルギー密度化を実現すると共に、耐久性を向上することができるリチウムイオン電池用正極およびリチウムイオン電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、鋭意研究を重ねた結果、ニッケル比率を特定の範囲まで高めたリチウムニッケル複合酸化物を金属リン酸塩で被覆し、更に、リチウムニッケル複合酸化物に対する金属リン酸塩の質量比を特定の範囲とすることで、高いニッケル比率によってリチウムイオン電池の高エネルギー密度化が実現されると共に、従来よりも低い特定の質量比の金属リン酸塩によってリチウムニッケル複合酸化物の表面からの酸素脱離が十分に抑制され、リチウムニッケル複合酸化物の表面に不活性なニッケル酸化物が生成し難くなり、これによりリチウムイオン電池の耐久性を向上できることを見出した。
【0012】
すなわち、本発明の要旨構成は、以下の通りである。
[1]正極集電体と、前記正極集電体に形成された正極合材層とを有し、
前記正極合材層が、リチウムニッケル複合酸化物と、前記リチウムニッケル複合酸化物を被覆した金属リン酸塩とを含み、
前記リチウムニッケル複合酸化物は、化学式LiNixCoyMzO2(式中のMは、Mn、Al、MgおよびWからなる群から選択される1以上の元素であり、x+y+z=1、0.6≦x<1.0)で表され、
前記金属リン酸塩は、VPO4、VP2O7およびVPO4Fからなる群から選択される1以上の材料であり、
前記リチウムニッケル複合酸化物に対する前記金属リン酸塩の質量比が、0.01質量%以上20質量%以下である、リチウムイオン電池用正極。
[2]前記化学式において、0<y≦0.2である、上記[1]に記載のリチウムイオン電池用正極。
[3]前記金属リン酸塩が、前記リチウムニッケル複合酸化物の表面の全体を被覆している、上記[1]に記載のリチウムイオン電池用正極。
[4]前記リチウムニッケル複合酸化物に対する前記金属リン酸塩の質量比が、0.1質量%以上10質量%以下である、上記[1]に記載のリチウムイオン電池用正極。
[5]前記リチウムニッケル複合酸化物は、化学式LiNixCoyMnzO2(x+y+z=1、0.6≦x<1.0)である、上記[1]~[4]のいずれかに記載のリチウムイオン電池用正極。
[6]前記金属リン酸塩はVP2O7である、上記[1]~[4]のいずれかに記載のリチウムイオン電池用正極。
[7]上記[1]~[6]のいずれかに記載のリチウムイオン電池用正極を備える、リチウムイオン電池。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、リチウムイオン電池の高エネルギー密度化を実現しつつ耐久性を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】
図1は、本発明の実施形態に係るリチウムイオン電池の全体構成を示す斜視図である。
【
図2】
図2(a)は、
図1のリチウムイオン電池の内部構成を概略的に示す部分断面図であり、
図2(b)は、
図2(a)におけるリチウムイオン電池用正極の構成を概略的に示す部分拡大断面図、
図2(c)は、正極活物質の構成を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。
【0016】
[リチウムイオン電池用正極およびリチウムイオン電池の構成]
図1は、本発明の実施形態に係るリチウムイオン電池の全体構成を示す斜視図であり、
図2(a)は、
図1のリチウムイオン電池の内部構成を概略的に示す部分断面図、
図2(b)は、
図2(b)は、
図2(a)におけるリチウムイオン電池用正極の構成を概略的に示す部分拡大断面図である。なお、以下の説明で用いる図面は、特徴をわかりやすくするために、便宜上特徴となる部分を拡大して示している場合があり、各構成要素の形状、寸法比率等は図示するものに限らないものとする。
【0017】
図1に示すように、リチウムイオン電池1は、電極を含む積層体2と、積層体を収容する外装体4と、外装体4を封止する蓋体5とを備える。リチウムイオン電池1は、例えば角型のリチウムイオン二次電池である。外装体4は、例えば金属製の筐体で構成されている。
【0018】
積層体2は、
図2(a)及び
図2(b)に示すように、リチウムイオン電池用正極21(以下、単に正極ともいう)と、リチウムイオン電池用負極22(以下、単に負極ともいう)と、正極21および負極22の間に介装されたセパレータ23とを備える。正極21、負極22およびセパレータには電解液が含侵されている。正極集電体21Aは、不図示の正極集電部に接続されており、負極集電体22Aは、不図示の負極集電部に接続されている。
【0019】
正極21は、正極集電体21Aと、正極集電体21A上に形成され、正極活物質を含む正極合材層21Bとを有する。
【0020】
正極集電体21Aは、例えば導電性の材料で形成された板状体あるいは膜状体である。導電性の材料としては、例えばアルミニウム(Al)またはニッケル(Ni)等の金属を用いることができる。上記導電性の材料がアルミニウム(Al)の場合、JIS A8021等のAl-Fe系合金や、JIS A1085等の純アルミニウムを用いることができる。正極集電体21Aの厚みは、例えば8μm以上15μm以下である。
【0021】
正極合材層21Bは、
図2(c)に示すように、リチウムニッケル複合酸化物21aと、リチウムニッケル複合酸化物21aを被覆した金属リン酸塩21bとを含む。また、正極合材層21Bは、バインダー21cと、導電助剤21dとを含むのが好ましい。
【0022】
リチウムニッケル複合酸化物21aは、化学式LiNixCoyMzO2(式中のMは、Mn、Al、MgおよびWからなる群から選択される1以上の元素であり、x+y+z=1、0.6≦x<1.0)で表される。このように、リチウムニッケル複合酸化物21aにおけるニッケル比率を高めることで、高エネルギー密度化を実現することができる。また、リチウムニッケル複合酸化物21aは、化学式LiNixCoyMnzO2(x+y+z=1、0.6≦x<1.0)で表されるのが好ましい。
【0023】
ここで、Ni濃度に因らず、正極合材層と電解液との接触エリアにおける正極活物質の表面近傍の結晶構造が変質し、リチウムの挿入脱離の反応を妨げていることは良く知られている。そこで、安定的な材料である、後述する特定の金属リン酸塩で正極活物質の表面を被覆することにより、正極活物質と電解液との直接接触を効果的に防ぐことができる。このため、例えば、リチウムニッケル複合酸化物がリチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物(三元系活物質)であるNCM811、NCM622、NCM523のいずれの材料であっても、上記特定の金属リン酸塩を用いることで、複合酸化物と電解液との直接接触を防ぐことが可能となる。
【0024】
また、リチウムニッケル複合酸化物21aは、上記化学式において、例えば、0.6≦x≦0.95、0≦y0.2、0≦z≦0.4で表される化合物を用いることができる。
【0025】
リチウムニッケル複合酸化物21aは、例えば粒子形状を有している。リチウムニッケル複合酸化物21aは、一次粒子であってもよいし、一次粒子同士が凝集した二次粒子であってもよい。
【0026】
金属リン酸塩21bは、VPO
4、VP
2O
7およびVPO
4Fからなる群から選択される1以上の材料であり、耐久性をより向上させる観点から、好ましくはVPO
4Fである。また、金属リン酸塩21bは、リチウムニッケル複合酸化物21aの表面の必ずしも全体を被覆している必要はない。例えば、リチウムニッケル複合酸化物21aが粒子形状を有する場合、金属リン酸塩21bは、リチウムニッケル複合酸化物21aの粒子の表面を被覆しているのが好ましい。
図2(c)の例示では、金属リン酸塩21bは、リチウムニッケル複合酸化物21aの表面の全体を被覆しているが、リチウムニッケル複合酸化物21aの表面の必ずしも全体を被覆している必要はない。金属リン酸塩21bは、リチウムニッケル複合酸化物21aの表面の少なくとも一部を被覆していればよい。
【0027】
また、リチウムニッケル複合酸化物21aに対する金属リン酸塩21bの質量比は、0.01質量%以上20質量%以下である。これにより、リチウムニッケル複合酸化物21aにおけるニッケル比率が高く、高いニッケル比率によってリチウムイオン電池の高エネルギー密度化が実現される。また、従来よりも低い上記質量比の範囲の金属リン酸塩21bをリチウムニッケル複合酸化物21aに被覆させた場合でも、充放電サイクル時に、リチウムニッケル複合酸化物21aの表面からの酸素脱離を十分に抑制することができ、リチウムニッケル複合酸化物21aの表面に不活性な酸化ニッケル(NiO)が生成し難くなり、これによりリチウムイオン電池の耐久性が向上する。
【0028】
リチウムニッケル複合酸化物21aに対する金属リン酸塩21bの質量比が0.01質量%未満であると、リチウムニッケル複合酸化物21aの表面からの酸素脱離を抑制することができず、ヤーンテラー効果(エネルギー状態の安定化)により結晶歪が生じ、リチウムニッケル複合酸化物21aの表面に不活性な酸化ニッケルが生成し、正極活物質の表面近傍の結晶構造がスピネル構造に変化し易くなる。一方、上記質量比が20質量%を超えると、リン酸バナジウムリチウムの放電容量がリチウムニッケル複合酸化物の放電容量よりも小さいため、正極活物質全体の放電容量が低下し、リチウムイオン電池のエネルギー密度が低下する。また、被覆物による抵抗増加を生じ,リチウムイオン電池の出力密度が低下してしまう。
【0029】
リチウムニッケル複合酸化物21aに対する金属リン酸塩21bの質量比は、は0.1質量%以上10質量%以下であるのが好ましい。これにより、リチウムイオン電池高エネルギー密度化を実現しつつ、耐久性を更に向上することができる。
【0030】
また、リチウムニッケル複合酸化物21aは、上記化学式LiNixCoyMzO2において、0<y≦0.2であるのが好ましい。コバルトイオン(Co3+)には、ニッケルイオン(Ni3+)とは異なり、ヤーンテラー効果に伴う結晶歪が生じないため、コバルトイオン(Co3+)の増大によって、リチウムニッケル複合酸化物21aの表面に不活性な酸化ニッケルが生成するのを抑制することができる。よって、リチウムニッケル複合酸化物21aにおけるコバルト(Co)の比率を上記範囲とすることで、酸素脱離が更に抑制され、正極活物質の層状構造をより安定化することができる。上記化学式LiNixCoyMzO2において、0.2<yであるとリチウムニッケル複合酸化物の放電容量が低下する。
【0031】
バインダー21cとしては、例えばポリフッ化ビニリデン(PVDF)を用いることができる。また、導電助剤21dとしては、例えば炭素材料を用いることができる。炭素材料としては、アセチレンブラック、カーボンナノチューブ、グラフェンおよび黒鉛粒子からなる群から選択される1または2以上を用いることができる。カーボンナノチューブとしては、例えば気相法(CVD)で合成されたVGCFを用いることができる。
【0032】
正極合材層21Bにおける合剤の配合比は、例えば(正極活物質):(導電助剤):(バインダー)=90~95:3~5:2~5とすることができる。
【0033】
負極22は、負極集電体22Aと、負極集電体22A上に形成され、負極活物質を含む負極合材層22Bとを有する。負極合材層22Bは、不図示のバインダー、導電助剤、増粘剤等を含んでいてもよい。
【0034】
負極集電体22Aは、正極集電体21Aと同様、例えば導電性の材料で形成された板状体あるいは膜状体である。導電性の材料としては、例えば銅(Cu)またはニッケル(Ni)等の金属を用いることができる。上記導電性の材料が銅の場合、例えばJIS C1100等のタフピッチ銅を用いることができる。負極集電体22Aの厚みは、例えば5μm以上10μm以下である。
【0035】
負極活物質は、特に制限は無いが、例えば天然黒鉛、人造黒鉛、ハードカーボン、活性炭、ケイ素(Si)、酸化ケイ素(SiOx)、錫(Sn)および酸化錫(SnOx)からなる群から選択される1または複数を含むことができる。
【0036】
負極合材層22Bのバインダーとしては、例えばポリフッ化ビニリデン(PVDF)、スチレンブタジエンゴム(SBR)およびカルボキシメチルセルロース(CMC)からなる群から選択される1または2以上を用いることができる。また、負極合材層22Bの導電助剤としては、例えばアセチレンブラックおよびカーボンナノチューブのうちのいずれかまたは双方を用いることができる。カーボンナノチューブとしては、例えば気相法(CVD)で合成されたVGCFを用いることができる。
【0037】
負極合材層22Bにおける合剤の配合比は、例えば(負極活物質):(導電助剤):(バインダー):(増粘剤)=96~98:0~1:1~2:0.5~1とすることができる。
【0038】
正極集電部は、複数の正極集電体21Aと正極端子6とを電気的に接続している。正極集電部は、例えばアルミニウム(Al)又はアルミニウム合金で構成されている。
【0039】
負極集電部は、複数の負極集電体22Aと不図示の負極端子とを電気的に接続している。負極集電部は、例えば銅(Cu)又は銅合金で構成されている。
【0040】
リチウムイオン電池1は角型であるが、これに限らず、ラミネートセル型であってもよいし、円筒型であってもよい。また、リチウムイオン電池1の外装体4は、例えば金属製の筐体であるが、これに限らず、外装体がラミネートフィルムであってもよい。
【0041】
リチウムイオン電池1の外装体がラミネートフィルムである場合、ラミネートフィルムは、基材と、保護層と、接着層とを有することができる。
基材は、例えばアルミニウム(Al)、あるいはSUSなどのステンレスで構成される。保護層は、例えばポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエーテルスルホン(PES)およびナイロンからなる群から選択される1または2以上で構成される。接着層は、例えばポリオレフィン樹脂で構成される。ポリオレフィン樹脂としては、例えば、無水マレイン酸変性ポリエチレンおよびポリプロピレン(PP)のいずれかを用いることができる。
【0042】
セパレータ23は、絶縁性の薄膜であり、例えばポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂あるいはアラミド樹脂等の材料で形成された多孔質体である。また、セパレータ23は、多孔質体と、該多孔質体の表面に形成されたコーティング層とを有していてもよい。コーティング層としては、例えば酸化ケイ素(SiOx)、酸化アルミニウム(Al2O3)等で構成されるセラミック、あるいはアラミド樹脂などを用いることができる。
【0043】
電解液は、例えば溶媒と、リチウム塩と、添加剤とを含むことができる。
【0044】
溶媒としては、例えばエチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、ジメチルカーボネート(DMC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、ジエチルカーボネート(DEC)およびγ-ブチロタクトン(γBL)からなる群から選択される1又は2以上を用いることができる。
【0045】
リチウム塩としては、例えばLiPF6、リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド(LiFSI)、リチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(LiTFSI)、リチウムビス(オキサレート)ボレート(LiBOB)、リチウムジフルオロホスフェート(LiDFP)およびリチウムジフルオロ(オキサレート)ボレート(LiDFOB)からなる群から選択される1または2以上を用いることができる。
【0046】
添加剤としては、例えばビニレンカーボネート(VC)、フルオロエチレンカーボネート(FEC)、PS(プロパンスルトン)およびPRS(プロペンスルトン)からなる群から選択される1又は2以上を用いることができる。
【0047】
以上、本発明の実施形態について詳述したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲内に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
【実施例】
【0048】
以下、本発明の実施例を説明する。但し、本発明は、以下の実施例のみに限定されるものではない。
(実施例1-1)
所定量の四酢酸バナジウムを蒸留水に溶かし、30分間攪拌して溶液Aを得た。また、四酢酸バナジウムに、同じモル数のNH4H2PO4を溶かして溶液B1を得た。溶液Aにニッケル複合酸化物(LiNi0.8Co0.1Mn0.1O2)を分散させた溶液Cに、溶液B1を滴下して3時間攪拌し、溶液D1を得た。溶液D1を60℃のオイルバスにて乾燥後、300℃×5時間の熱処理を行い、リチウムニッケル複合酸化物の表面にVPO4を被覆した正極活物質を得た。得られた正極活物質における、リチウムニッケル複合酸化物に対する金属リン酸塩の質量比を、表1に示す。
【0049】
次に、得られた正極活物質94質量%と、導電助剤である炭素材料3質量%と、結着剤であるPVDFバインダー3質量%とを混合して正極合剤スラリーを調整し、厚み15μmのアルミニウム箔上に塗布した。正極合剤スラリーの塗工量は21.2mg/cm2とした。その後、乾燥、圧延して正極を得た。正極の寸法は、40mm×40mmであった。
【0050】
また、天然黒鉛97質量%と、導電助剤である炭素材料1質量%と、バインダーであるSBR1質量%と、増粘剤であるCMC1質量%とを混合して、負極合剤スラリーを調整し、膜厚8μmの圧延銅箔上に塗布した。負極合剤スラリーの塗工量は12.5mg/cm2とした。その後、乾燥、圧延して負極を得た。負極の寸法は、44mm×44mmであった。
【0051】
次に、上記で得られた正極および負極と、ポリオレフィン製の多孔質セパレータとを準備し、正極、多孔質セパレータおよび負極をこの順に積層し、これらを巻回して積層体を形成した。次いで、外装体に積層体を収容し、正極集電部、負極集電部をそれぞれ正極端子、負極端子に接続した。その後、EC:30wt%、EMC:40wt%、DMC:30wt%に1.2MのLiPF6を混合して電解液を調整し、電解液を外装体に充填し、外装体を蓋体で密封して、リチウムイオン電池を得た。
【0052】
(実施例1-2)
正極活物質における、リチウムニッケル複合酸化物に対する金属リン酸塩の質量比を変えたこと以外は、実施例1-1と同様にして、正極およびリチウムイオン電池を得た。
【0053】
(実施例2-1)
所定量の四酢酸バナジウムを蒸留水に溶かし、30分間攪拌して溶液Aを得た。また、四酢酸バナジウムに、同じモル数のNH4H2P2O7を溶かして溶液B2を得た。溶液Aにニッケル複合酸化物(LiNi0.8Co0.1Mn0.1O2)を分散させた溶液Cに、溶液B2を滴下して3時間攪拌し、溶液D2を得た。溶液D2を60℃のオイルバスにて乾燥後、300℃×5時間の熱処理を行い、ニッケル複合酸化物正極の表面にVP2O7を被覆した正極活物質を得た。その後、実施例1-1と同様にして、正極およびリチウムイオン電池を得た。
【0054】
(実施例2-2)
正極活物質における、リチウムニッケル複合酸化物に対する金属リン酸塩の質量比を変えたこと以外は、実施例2-1と同様にして、正極およびリチウムイオン電池を得た。
【0055】
(実施例3-1)
所定量の四酢酸バナジウムを蒸留水に溶かし、30分間攪拌して溶液Aを得た。また、四酢酸バナジウムに、同じモル数のNH4H2PO4を溶かし、更にPTFEを分散させて溶液B3を得た。溶液Aにニッケル複合酸化物(LiNi0.8Co0.1Mn0.1O2)を分散させた溶液Cに、溶液B3を滴下して3時間攪拌し、溶液D3を得た。溶液D3を60℃のオイルバスにて乾燥後、450℃×5時間の熱処理を行い、ニッケル複合酸化物の表面にVPO4Fを被覆した正極活物質を得た。その後、実施例1-1と同様にして、正極およびリチウムイオン電池を得た。
【0056】
(実施例3-2)
正極活物質における、リチウムニッケル複合酸化物に対する金属リン酸塩の質量比を変えたこと以外は、実施例3-1と同様にして、正極およびリチウムイオン電池を得た。
【0057】
(比較例1)
リチウムニッケル複合酸化物の表面に金属リン酸塩を被覆しなかったこと以外は、実施例1-1と同様にして、正極およびリチウムイオン電池を得た。
【0058】
次に、得られたリチウムイオン電池を、以下の方法で測定、評価した。
【0059】
[初期抵抗]
初期抵抗は、環境温度25℃にて、SOC50%に調整し、3C放電を10秒間実施した。その際の電圧および電流の測定値を測定し、以下の式(1)から抵抗値を算出することにより求めた。
初期抵抗(R)=(OCV-10秒目電圧)/放電電流 ・・・(1)
【0060】
[容量維持率]
環境温度45℃、充電条件0.6C、4.2Vカットオフ、放電条件1.2C、2.7Vカットオフとし、当該サイクルを600回実施した。容量維持率(%)は、以下の式(2)から求めた。
容量維持率(%)=(600サイクル目放電容量/1サイクル目放電容量)×100 ・・・(2)
【0061】
[抵抗増加率]
抵抗増加率(%)は、初期抵抗をR0、600サイクルに掛かった時間(t)が経過した後の抵抗をRtとし、以下の式(3)から求めた。
抵抗増加率(%)=Rt/R0×100 ・・・(3)
測定結果を表1に示す。
【0062】
【0063】
表1の結果から、実施例1-1では、リチウムニッケル複合酸化物がLiNi0.8Co0.1Mn0.1O2であり(x=0.8)、且つリチウムニッケル複合酸化物に対するVPO4の質量比が0.5質量%であると、初期抵抗が1.05Ωとなり、高いニッケル比率によって高エネルギー密度化が実現できていることが分かった。また、容量維持率が比較例1の容量維持率よりも高く、また、抵抗増加率が比較例1の容量維持率よりも低く、耐久性が向上していることが分かった。
【0064】
実施例1-2では、リチウムニッケル複合酸化物に対するVPO4の質量比が5.0質量%であり、初期抵抗が実施例1-1の初期抵抗よりも大きいものの、容量維持率が実施例1-1の容量維持率よりも高く、また、抵抗増加率が実施例1-1の抵抗増加率よりも低く、耐久性がより向上していることが分かった。
【0065】
実施例2-1では、リチウムニッケル複合酸化物がLiNi0.8Co0.1Mn0.1O2であり(x=0.8)、且つリチウムニッケル複合酸化物に対するVP2O7の質量比が0.5質量%であると、初期抵抗が1.06Ωとなり、高いニッケル比率によって高エネルギー密度化が実現できていることが分かった。また、容量維持率が比較例1の容量維持率よりも高く、また、抵抗増加率が比較例1の容量維持率よりも低く、耐久性が向上していることが分かった。
【0066】
実施例2-2では、リチウムニッケル複合酸化物に対するVP2O7の質量比が5.0質量%であり、初期抵抗が実施例2-1の初期抵抗よりも大きいものの、容量維持率が実施例2-1の容量維持率よりも高く、また、抵抗増加率が実施例2-1の抵抗増加率よりも低く、耐久性がより向上していることが分かった。
【0067】
実施例3-1では、リチウムニッケル複合酸化物がLiNi0.8Co0.1Mn0.1O2であり(x=0.8)、且つリチウムニッケル複合酸化物に対するVPO4Fの質量比が0.5質量%であると、初期抵抗が1.04Ωとなり、高いニッケル比率によって高エネルギー密度化が実現できていることが分かった。また、容量維持率が比較例1の容量維持率よりも高く、また、抵抗増加率が比較例1の容量維持率よりも低く、耐久性が向上していることが分かった。
【0068】
実施例3-2では、リチウムニッケル複合酸化物に対するVPO4Fの質量比が5.0質量%であり、初期抵抗および抵抗増加率が、それぞれ実施例3-1の初期抵抗および抵抗増加率よりも大きいものの、容量維持率が実施例1-1の容量維持率よりも高く、耐久性が向上していることが分かった。
【0069】
一方、比較例1では、リチウムニッケル複合酸化物がLiNi0.8Co0.1Mn0.1O2であるものの(x=0.8)、リチウムニッケル複合酸化物が金属リン酸塩によって被覆されておらず、容量維持率が低く、また、抵抗増加率が高く、耐久性が劣った。
【産業上の利用可能性】
【0070】
本発明のリチウムイオン電池用正極は、一次電池や二次電池などのリチウムイオン電池に適用することができる。また、本発明のリチウムイオン電池は、二輪車、四輪車などの電気車両(EV)に適用することができ、特に電気自動車やハイブリッド車に好適である。
【符号の説明】
【0071】
1 リチウムイオン電池
2 積層体
4 外装体
5 蓋体
6 正極端子
21 正極
21A 正極集電体
21B 正極合材層
21a リチウムニッケル複合酸化物
21b 金属リン酸塩
21c バインダー
21d 導電助剤
22 負極
22A 負極集電体
22B 負極合材層
23 セパレータ