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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-18
(45)【発行日】2022-11-29
(54)【発明の名称】クラッチ制御装置
(51)【国際特許分類】
   F16D 48/02 20060101AFI20221121BHJP
   F16D 25/08 20060101ALI20221121BHJP
   B60K 23/02 20060101ALI20221121BHJP
【FI】
F16D48/02 640D
F16D25/08 C
B60K23/02 P
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2021508985
(86)(22)【出願日】2020-03-10
(86)【国際出願番号】 JP2020010278
(87)【国際公開番号】W WO2020195789
(87)【国際公開日】2020-10-01
【審査請求日】2021-06-23
(31)【優先権主張番号】P 2019059129
(32)【優先日】2019-03-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000005326
【氏名又は名称】本田技研工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100126664
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 慎吾
(74)【代理人】
【識別番号】100154852
【弁理士】
【氏名又は名称】酒井 太一
(74)【代理人】
【識別番号】100194087
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 伸一
(72)【発明者】
【氏名】小野 惇也
(72)【発明者】
【氏名】時任 顕
(72)【発明者】
【氏名】竜▲崎▼ 達也
(72)【発明者】
【氏名】松浦 康平
【審査官】倉田 和博
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-037177(JP,A)
【文献】特開2005-054908(JP,A)
【文献】特表2013-527389(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16D 48/02
F16D 25/08
B60K 23/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
原動機と駆動輪との間の動力伝達を断接するクラッチ装置と、
前記クラッチ装置を駆動してクラッチ容量を変更するクラッチアクチュエータと、
前記クラッチアクチュエータと前記クラッチ装置との間に配置され、前記クラッチアクチュエータの駆動により作動して前記クラッチ装置を作動させる従動機構と、
前記クラッチ容量の制御目標値を演算する制御部と、
前記従動機構の温度を測定する温度センサと、を備え、
前記制御部は、前記温度センサで測定された温度に基づき、前記制御目標値を補正し、
前記原動機および前記クラッチ装置を覆うカバー部材を備え、
前記カバー部材に、前記従動機構および前記温度センサが配置され、
前記カバー部材は、前記従動機構を嵌め込む円筒状の固定部を有し、
前記温度センサは、前記固定部に取り付けられていることを特徴とするクラッチ制御装置。
【請求項2】
前記従動機構は、油圧で駆動するピストンを含むスレーブシリンダであることを特徴とする請求項1に記載のクラッチ制御装置。
【請求項3】
前記温度センサの検知部は、前記従動機構を指向して設けられていることを特徴とする請求項1又は2に記載のクラッチ制御装置。
【請求項4】
前記制御部は、前記温度センサで測定された温度が高くなるにしたがって、前記制御目標値を低下させることを特徴とする請求項1から3の何れか一項に記載のクラッチ制御装置。
【請求項5】
前記制御目標値は、前記クラッチ装置の接続が始まるタッチポイント油圧に相当する値であることを特徴とする請求項1から4の何れか一項に記載のクラッチ制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クラッチ制御装置に関する。
本願は、2019年3月26日に、日本に出願された特願2019-059129号に基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
従来、クラッチの断接操作を、アクチュエータの駆動によって自動的に行うものがある。このようなクラッチでは、クラッチを構成するプレート同士の摩擦等によってクラッチ内部の温度が変化すると、クラッチが断接する際に、プレート同士が接離するタイミング(タッチポイント)が変動してしまう。
これに対し、特許文献1では、プレート同士の摩擦による発熱量を推定し、推定した発熱量に基づいて、シフトチェンジを促すための通知を行う構成が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】日本国特開2010-169169号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1では、プレート同士の摩擦による発熱量を推定しているが、発熱量の推定値と実際の温度とがかい離することがある。発熱量の推定値が実際の温度とかい離していれば、発熱量の推定値に基づいて行う通知のタイミング等、制御の精度が低下する場合がある。
【0005】
そこで本発明は、クラッチ制御装置において、温度影響を抑えてより高精度な制御を行うことを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題の解決手段として、本発明の態様は以下の構成を有する。
(1)本発明の態様に係るクラッチ制御装置は、原動機と駆動輪との間の動力伝達を断接するクラッチ装置と、前記クラッチ装置を駆動してクラッチ容量を変更するクラッチアクチュエータと、前記クラッチアクチュエータと前記クラッチ装置との間に配置され、前記クラッチアクチュエータの駆動により作動して前記クラッチ装置を作動させる従動機構と、前記クラッチ容量の制御目標値を演算する制御部と、前記従動機構の温度を測定する温度センサと、を備え、前記制御部は、前記温度センサで測定された温度に基づき、前記制御目標値を補正する。
【0007】
(2)上記(1)に記載のクラッチ制御装置では、前記原動機は、前記原動機の外部を覆うカバー部材を備え、前記カバー部材に、前記従動機構および前記温度センサが配置されてもよい。
【0008】
(3)上記(2)に記載のクラッチ制御装置では、前記カバー部材は、前記クラッチ装置を覆うクラッチカバーであってもよい。
【0009】
(4)上記(2)又は(3)に記載のクラッチ制御装置では、前記カバー部材は、前記従動機構を嵌め込む円筒状の固定部を有し、前記温度センサは、前記固定部に取り付けられてもよい。
【0010】
(5)上記(1)から(4)の何れか一項に記載のクラッチ制御装置では、前記従動機構は、油圧で駆動するピストンを含むスレーブシリンダであってもよい。
【0011】
(6)上記(1)から(5)の何れか一項に記載のクラッチ制御装置では、前記温度センサの検知部は、前記従動機構を指向して設けられてもよい。
【0012】
(7)上記(1)から(6)の何れか一項に記載のクラッチ制御装置では、前記制御部は、前記温度センサで測定された温度が高くなるにしたがって、前記制御目標値を低下させてもよい。
【0013】
(8)上記(1)から(7)の何れか一項に記載のクラッチ制御装置では、前記制御目標値は、前記クラッチ装置の接続が始まるポイントに相当する値であってもよい。
【発明の効果】
【0014】
本発明の上記(1)に記載のクラッチ制御装置によれば、温度センサで測定した従動機構の温度の実測値に基づき、クラッチ容量の制御目標値を補正することで、クラッチ周りの温度を推定して制御を行う構成に比べて、より高精度な制御を行うことができる。
【0015】
本発明の上記(2)に記載のクラッチ制御装置によれば、原動機の外部を覆うカバー部材に従動機構および温度センサを配置することで、温度センサを従動機構に近接させて従動機構の温度を直接的に測定可能とし、より高精度な制御を行うことができる。
【0016】
本発明の上記(3)に記載のクラッチ制御装置によれば、クラッチ装置を覆うクラッチカバーに従動機構および温度センサを配置することで、従動機構をクラッチ装置に近接させてこれらを直接的に連動可能とするとともに、温度センサを従動機構に近接させて従動機構の温度を直接的に測定可能とし、より高精度な制御を行うことができる。
【0017】
本発明の上記(4)に記載のクラッチ制御装置によれば、カバー部材における従動機構を固定するための円筒状の固定部に、温度センサを併せて固定することで、固定部が従動機構の固定部と温度センサの固定部とを兼ねることとなり、合理化による小型軽量化を図ることができる。
【0018】
本発明の上記(5)に記載のクラッチ制御装置によれば、温度影響を受けやすい油圧作動式のスレーブシリンダの温度を検出して制御を行うことで、より高精度な制御を行うことができる。
【0019】
本発明の上記(6)に記載のクラッチ制御装置によれば、温度センサの検知部が従動機構を指向して設けられているので、従動機構の温度をより正確に検知し、より高感度な制御を行うことができる。
【0020】
本発明の上記(7)に記載のクラッチ制御装置によれば、温度センサで測定された温度が高くなるにしたがって、制御目標値を低下させるので、クラッチ装置を構成するクラッチプレート等の熱膨張に対応して、クラッチ装置が断接するポイントを適切に調整し、より高精度な制御を行うことができる。
【0021】
本発明の上記(8)に記載のクラッチ制御装置によれば、クラッチ装置の接続が始まるポイント(タッチポイント)に相当する制御目標値(クラッチ容量)を補正することで、クラッチ装置の断接制御における温度影響を抑えて高精度な制御を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】本発明の実施形態における自動二輪車の左側面図である。
図2】上記自動二輪車の変速機およびチェンジ機構の断面図である。
図3】クラッチアクチュエータを含むクラッチ作動システムの概略説明図である。
図4】変速システムのブロック図である。
図5】クラッチアクチュエータの供給油圧の変化を示すグラフである。
図6】本発明の実施形態におけるクラッチ制御モードの遷移を示す説明図である。
図7】クラッチ装置およびスレーブシリンダを示す断面図である。
図8】クラッチカバーの側面図である。
図9図8のIX-IX断面図である。
図10】クラッチアクチュエータの制御目標値とスレーブシリンダの温度との相関を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。以下の説明における前後左右等の向きは、特に記載が無ければ以下に説明する車両における向きと同一とする。また以下の説明に用いる図中適所には、車両前方を示す矢印FR、車両左方を示す矢印LH、及び車両上方を示す矢印UPが示されている。
【0024】
<車両全体>
図1に示すように、本実施形態は、鞍乗り型車両である自動二輪車1に適用されている。自動二輪車1の前輪2は、左右一対のフロントフォーク3の下端部に支持されている。
左右フロントフォーク3の上部は、ステアリングステム4を介して、車体フレーム5の前端部のヘッドパイプ6に支持されている。ステアリングステム4のトップブリッジ上には、バータイプの操向ハンドル4aが取り付けられている。
【0025】
車体フレーム5は、ヘッドパイプ6と、ヘッドパイプ6から車幅方向(左右方向)中央を下後方へ延びるメインチューブ7と、メインチューブ7の後端部の下方に連なる左右ピボットフレーム8と、メインチューブ7および左右ピボットフレーム8の後方に連なるシートフレーム9と、を備えている。左右ピボットフレーム8には、スイングアーム11の前端部が揺動可能に枢支されている。スイングアーム11の後端部には、自動二輪車1の後輪(駆動輪)12が支持されている。
【0026】
左右メインチューブ7の上方には、燃料タンク18が支持されている。燃料タンク18の後方でシートフレーム9の上方には、前シート19および後シートカバー19aが前後に並んで支持されている。シートフレーム9の周囲は、リヤカウル9aに覆われている。左右メインチューブ7の下方には、自動二輪車1の原動機であるパワーユニットPUが懸架されている。例えば、パワーユニットPUは、チェーン式伝動機構を介して後輪12と連係されている。
【0027】
パワーユニットPUは、その前側に位置するエンジン(内燃機関、原動機)13と後側に位置する変速機21とを一体に有している。例えば、エンジン13は、クランクシャフト14(以下「クランク軸14」ともいう。)の回転軸を左右方向(車幅方向)に沿わせた複数気筒エンジンである。エンジン13は、クランクケース15の前部上方にシリンダ16を起立させている。クランクケース15の後部は、変速機21を収容する変速機ケース17とされている。
【0028】
<変速機>
図2に示すように、変速機21は、メインシャフト22およびカウンタシャフト23ならびに両シャフト22,23に跨る変速ギア群24を有する有段式のトランスミッションである。カウンタシャフト23(以下「カウンタ軸23」ともいう。)は、変速機21、更にパワーユニットPUの出力軸を構成している。カウンタシャフト23の端部はクランクケース15の後部左側に突出し、上記チェーン式伝動機構を介して後輪12に連結されている。
【0029】
変速ギア群24は、両シャフト22,23にそれぞれ支持された変速段数分のギアを有する。変速機21は、両シャフト22,23間で変速ギア群24の対応するギア対同士が常に噛み合った常時噛み合い式とされる。両シャフト22,23に支持された複数のギアは、対応するシャフトに対して回転可能なフリーギアと、対応するシャフトにスプライン嵌合するスライドギア(シフター)とに分類される。これらフリーギア及びスライドギアの一方には軸方向で凸のドグが、他方にはドグを係合させるべく軸方向で凹のスロットがそれぞれ設けられている。すなわち、変速機21は、いわゆるドグミッションである。
【0030】
図3を併せて参照し、変速機21のメインシャフト22及びカウンタシャフト23は、クランクシャフト14の後方で前後に並んで配置されている。メインシャフト22の右端部には、クラッチアクチュエータ50により作動するクラッチ装置26が同軸配置されている。例えば、クラッチ装置26は、湿式多板クラッチであり、いわゆるノーマルオープンクラッチである。すなわち、クラッチ装置26は、クラッチアクチュエータ50からの油圧供給によって動力伝達可能な接続状態となり、クラッチアクチュエータ50からの油圧供給がなくなると動力伝達不能な切断状態に戻る。
【0031】
クラッチ装置26は、メインシャフト22の中心軸方向(左右方向)に複数枚が積層されたクラッチプレート71を備えている。複数枚のクラッチプレート71は、後述するスレーブシリンダ(従動機構)28でロッド28aを左右方向に移動させることで、互いに接離する。この複数枚のクラッチプレート71の接離により、クラッチ装置26が断接される。
【0032】
図2を参照し、クランクシャフト14の回転動力は、クラッチ装置26を介してメインシャフト22に伝達され、メインシャフト22から変速ギア群24の任意のギア対を介してカウンタシャフト23に伝達される。カウンタシャフト23におけるクランクケース15の後部左側に突出した左端部には、上記チェーン式伝動機構のドライブスプロケット27が取り付けられている。
【0033】
変速機21の後上方には、変速ギア群24のギア対を切り替えるチェンジ機構25が収容されている。チェンジ機構25は、両シャフト22,23と平行な中空円筒状のシフトドラム36の回転により、その外周に形成されたリード溝のパターンに応じて複数のシフトフォーク36aを作動させ、変速ギア群24における両シャフト22,23間の動力伝達に用いるギア対を切り替える。
【0034】
チェンジ機構25は、シフトドラム36と平行なシフトスピンドル31を有している。チェンジ機構25は、シフトスピンドル31の回転時には、シフトスピンドル31に固定されたシフトアーム31aがシフトドラム36を回転させ、リード溝のパターンに応じてシフトフォーク36aを軸方向移動させて、変速ギア群24の内の動力伝達可能なギア対を切り替える(すなわち、変速段を切り替える。)。
【0035】
シフトスピンドル31は、チェンジ機構25を操作可能とするべくクランクケース15の車幅方向外側(左方)に軸外側部31bを突出させている。シフトスピンドル31の軸外側部31bには、シフト荷重センサ73(シフト操作検知手段)が同軸に取り付けられている(図1参照)。シフトスピンドル31の軸外側部31b(またはシフト荷重センサ73の回転軸)には、揺動レバー33が取り付けられている。揺動レバー33は、シフトスピンドル31(または回転軸)にクランプ固定される基端部33aから後方へ延び、その先端部33bには、リンクロッド34の上端部が上ボールジョイント34aを介して揺動自在に連結されている。リンクロッド34の下端部は、運転者が足で操作するシフトペダル32に、下ボールジョイント(不図示)を介して揺動自在に連結されている。
【0036】
図1に示すように、シフトペダル32は、その前端部がクランクケース15の下部に左右方向に沿う軸を介して上下揺動可能に支持されている。シフトペダル32の後端部には、ステップ32aに載せた運転者の足先を掛けるペダル部が設けられ、シフトペダル32の前後中間部には、リンクロッド34の下端部が連結されている。
【0037】
図2に示すように、シフトペダル32、リンクロッド34およびチェンジ機構25を含んで、変速機21の変速段ギアの切り替えを行うシフトチェンジ装置35が構成されている。シフトチェンジ装置35において、変速機ケース17内で変速機21の変速段を切り替える集合体(シフトドラム36、シフトフォーク36a等)を変速作動部35aといい、シフトペダル32への変速動作が入力されてシフトスピンドル31の軸回りに回転し、この回転を上記変速作動部35aに伝達する集合体(シフトスピンドル31、シフトアーム31a等)を変速操作受け部35bという。
【0038】
ここで、自動二輪車1は、変速機21の変速操作(シフトペダル32の足操作)のみを運転者が行い、クラッチ装置26の断接操作はシフトペダル32の操作に応じて電気制御により自動で行うようにした、いわゆるセミオートマチックの変速システム(自動クラッチ式変速システム)を採用している。
【0039】
<変速システム>
図4に示すように、上記変速システムは、クラッチアクチュエータ50、ECU60(Electronic Control Unit、制御部)および各種センサ41~45,49を備えている。
ECU60は、シフトドラム36の回転角から変速段を検知するギアポジションセンサ41、およびシフトスピンドル31に入力された操作トルクを検知するシフト荷重センサ42(例えばトルクセンサ)からの検知情報、ならびにスロットル開度センサ43、車速センサ44およびエンジン回転数センサ45等からの各種の車両状態検知情報等に基づいて、クラッチアクチュエータ50を作動制御するとともに、点火装置46および燃料噴射装置47を作動制御する。ECU60には、後述する温度センサ49、油圧センサ57,58、並びにシフト操作検知スイッチ(シフトニュートラルスイッチ)48からの検知情報も入力される。
また、ECU60は、油圧制御部(クラッチ制御部)61およびメモリ(記憶部)62を備えており、それらの機能については後述する。
【0040】
図3を併せて参照し、クラッチアクチュエータ50は、ECU60により作動制御されることで、クラッチ装置26を断接する液圧を制御可能とする。クラッチアクチュエータ50は、駆動源としての電気モータ52(以下単に「モータ52」という。)と、モータ52により駆動されるマスターシリンダ51と、を備えている。クラッチアクチュエータ50は、マスターシリンダ51および油圧給排ポート50pの間に設けられる油圧回路装置53とともに、一体のクラッチ制御ユニット50Aを構成している。
ECU60は、予め設定された演算プログラムに基づいて、クラッチ装置26を断接するためにスレーブシリンダ28に供給する油圧の目標値(目標油圧)を演算し、下流側油圧センサ58で検出されるスレーブシリンダ28側の油圧(スレーブ油圧)が目標油圧に近づくように、クラッチ制御ユニット50Aを制御する。
【0041】
マスターシリンダ51は、シリンダ本体51a内のピストン51bをモータ52の駆動によりストロークさせて、シリンダ本体51a内の作動油をスレーブシリンダ28に対して給排可能とする。図中符号55はボールネジ機構としての変換機構、符号54はモータ52および変換機構55に跨る伝達機構、符号51eはマスターシリンダ51に接続されるリザーバをそれぞれ示す。
【0042】
油圧回路装置53は、マスターシリンダ51からクラッチ装置26側(スレーブシリンダ28側)へ延びる主油路(油圧給排油路)53mの中間部位を開通又は遮断するバルブ機構(ソレノイドバルブ56)を有している。油圧回路装置53の主油路53mは、ソレノイドバルブ56よりもマスターシリンダ51側となる上流側油路53aと、ソレノイドバルブ56よりもスレーブシリンダ28側となる下流側油路53bと、に分けられる。油圧回路装置53はさらに、ソレノイドバルブ56を迂回して上流側油路53aと下流側油路53bとを連通するバイパス油路53cを備えている。
【0043】
ソレノイドバルブ56は、いわゆるノーマルオープンバルブである。バイパス油路53cには、上流側から下流側への方向のみ作動油を流通させるワンウェイバルブ53c1が設けられている。ソレノイドバルブ56の上流側には、上流側油路53aの油圧を検出する上流側油圧センサ57が設けられている。ソレノイドバルブ56の下流側には、下流側油路53bの油圧を検出する下流側油圧センサ58が設けられている。
【0044】
図1に示すように、例えば、クラッチ制御ユニット50Aは、リヤカウル9a内に収容されている。スレーブシリンダ28は、クランクケース15の後部右側に取り付けられている。クラッチ制御ユニット50Aとスレーブシリンダ28とは、油圧配管53e(図3参照)を介して接続されている。
【0045】
図2に示すように、スレーブシリンダ28は、クラッチ装置26の右方に同軸配置されている。スレーブシリンダ28は、クラッチアクチュエータ50からの油圧供給時には、プッシュロッド28aを左方へ押圧する。スレーブシリンダ28は、プッシュロッド28aを左方へ押圧することで、該プッシュロッド28aを介してクラッチ装置26を接続状態へ作動させる。スレーブシリンダ28は、油圧供給が無くなると、プッシュロッド28aの押圧を解除し、クラッチ装置26を切断状態に戻す。
【0046】
図7図9に示すように、スレーブシリンダ28は、クラッチ装置26を覆うクラッチカバー(カバー部材)72に固定されている。クラッチカバー72は、スレーブシリンダ28を固定するシリンダ固定部(固定部)72aを有している。シリンダ固定部72aには、車体幅方向内側に窪む有底円筒状の収容凹部72bが形成されている。スレーブシリンダ28は、収容凹部72b内に車幅方向外側から嵌め込まれて固定されている。図中符号C1はクランクシャフト14の軸心、符号C2はメインシャフト22およびクラッチ装置26の軸心をそれぞれ示す。
【0047】
スレーブシリンダ28は、左右方向に沿う円筒状のシリンダ部28sと、シリンダ部28s内で左右方向に移動可能なピストン28pと、を備えている。スレーブシリンダ28は、クラッチアクチュエータ50からの油圧供給によって、ピストン28pをシリンダ部28s内で左右方向に進退駆動させる。ピストン28pには、プッシュロッド28aの一端が連結されている。プッシュロッド28aは、クラッチアクチュエータ50で発生した油圧が供給されることで、ピストン28pとともに左右方向に進退駆動する。プッシュロッド28aが進退駆動することで、クラッチ装置26のプレッシャープレートが作動して複数枚のクラッチプレート71を接離させ、クラッチ装置26を断接する。
【0048】
スレーブシリンダ28の外周部には、上記温度センサ49が配置されている。温度センサ49は、スレーブシリンダ28の温度を測定する。温度センサ49は、シリンダ固定部72aに配置されている。温度センサ49は、シリンダ固定部72aの上後部に形成されたセンサ収容凹部72hに差し込まれて固定されている。センサ収容凹部72hは、シリンダ固定部72aの径方向に沿うように穿設されている。
【0049】
温度センサ49は、一方向に延びる棒状をなしている。温度センサ49は、シリンダ固定部72aの径方向に沿って延びるように(シリンダ固定部72aの径方向に長手方向を向けるように)配置されている。温度センサ49の長手方向の一端部には、検知部49sが設けられている。温度センサ49は、長手方向の一端部側からセンサ収容凹部72h内に差し込まれ、螺着により固定されている。検知部49sは、センサ収容凹部72h内でスレーブシリンダ28に向けて設けられている。図中符号72cはシリンダ固定部72aの外周部に形成されてセンサ収容凹部72hが開口するセンサ取り付け座面を示す。
実施形態において、クラッチカバー72はエンジン13の右側部を覆うカバー部材であり、このカバー部材にスレーブシリンダ28および温度センサ49を配置しているが、これに限らない。例えば、エンジン13の左側部を覆うカバー部材にスレーブシリンダ28および温度センサ49を配置してもよい。
【0050】
クラッチ装置26を接続状態に維持するには油圧供給を継続する必要があるが、その分だけ電力を消費することとなる。そこで、図3に示すように、クラッチ制御ユニット50Aの油圧回路装置53にソレノイドバルブ56を設け、クラッチ装置26側への油圧供給後にソレノイドバルブ56を閉じている。これにより、クラッチ装置26側への供給油圧を維持し、圧力低下分だけ油圧を補う(リーク分だけリチャージする)構成として、エネルギー消費を抑えている。
【0051】
<クラッチ制御>
次に、クラッチ制御系の作用について図5のグラフを参照して説明する。図5のグラフにおいて、縦軸は下流側油圧センサ58が検出する供給油圧、横軸は経過時間をそれぞれ示している。
自動二輪車1の停車時(アイドリング時)、ECU60で制御されるソレノイドバルブ56は開弁状態にある。このとき、スレーブシリンダ28側(下流側)はタッチポイント油圧(ポイント)TPより低い低圧状態となり、クラッチ装置26は非締結状態(切断状態、解放状態)となる。この状態は、図5の領域Aに相当する。
車両がインギアで停止した状態では、モータ52には電力が供給されており、僅かであるが油圧を発生させている。これは、すぐにクラッチを継続し車両を発進させるためである。
【0052】
自動二輪車1の発進時、エンジン13の回転数を上昇させると、モータ52にのみ電力供給がなされ、マスターシリンダ51から開弁状態のソレノイドバルブ56を経てスレーブシリンダ28へ油圧が供給される。スレーブシリンダ28側(下流側)の油圧がタッチポイント油圧TP以上に上昇すると、クラッチ装置26の締結が開始され、クラッチ装置26が一部の動力を伝達可能な半クラッチ状態となる。これにより、自動二輪車1の滑らかな発進が可能となる。この状態は、図5の領域Bに相当する。
やがて、クラッチ装置26の入力回転と出力回転との差が縮まり、スレーブシリンダ28側(下流側)の油圧が下限保持油圧LPに達すると、クラッチ装置26の締結がロック状態に移行し、エンジン13の駆動力が全て変速機21に伝達される。この状態は、図5の領域Cに相当する。領域A~Cを、発進領域とする。
【0053】
マスターシリンダ51側からスレーブシリンダ28側に油圧を供給する際には、ソレノイドバルブ56を開弁状態とし、モータ52に通電して正転駆動させて、マスターシリンダ51を加圧する。これにより、スレーブシリンダ28側の油圧がクラッチ締結油圧に調圧される。このとき、クラッチアクチュエータ50の駆動は、下流側油圧センサ58の検出油圧に基づきフィードバック制御される。
【0054】
そして、スレーブシリンダ28側(下流側)の油圧が上限保持油圧HPに達すると、ソレノイドバルブ56に電力供給がなされて該ソレノイドバルブ56が閉弁作動するとともに、モータ52への電力供給が停止されて油圧の発生が停止される。すなわち、上流側は油圧が解放して低圧状態となる一方、下流側が高圧状態(上限保持油圧HP)に維持される。これにより、マスターシリンダ51が油圧を発生することなくクラッチ装置26が締結状態に維持され、自動二輪車1の走行を可能とした上で電力消費を抑えることができる。
【0055】
ここで、変速操作によっては、クラッチ装置26に油圧を充填した直後に変速を行うような場合も有り得る。この場合、ソレノイドバルブ56が閉弁作動して上流側を低圧状態とする前に、ソレノイドバルブ56が開弁状態のままでモータ52を逆転駆動し、マスターシリンダ51を減圧するとともにリザーバ51eを連通させ、クラッチ装置26側の油圧をマスターシリンダ51側へリリーフする。このとき、クラッチアクチュエータ50の駆動は、上流側油圧センサ57の検出油圧に基づきフィードバック制御される。
【0056】
ソレノイドバルブ56を閉弁し、クラッチ装置26を締結状態に維持した状態でも、図5の領域Dのように、下流側の油圧は徐々に低下(リーク)する。すなわち、ソレノイドバルブ56およびワンウェイバルブ53c1のシールの変形等による油圧漏れや温度低下といった要因により、下流側の油圧は徐々に低下する。
【0057】
一方、図5の領域Eのように、温度上昇等により下流側の油圧が上昇する場合もある。下流側の細かな油圧変動であれば、不図示のアキュムレータにより吸収可能であり、油圧変動の度にモータ52およびソレノイドバルブ56を作動させて電力消費を増やすことはない。
図5の領域Eのように、下流側の油圧が上限保持油圧HPまで上昇した場合、ソレノイドバルブ56への電力供給を低下させる等により、ソレノイドバルブ56を段階的に開弁状態として、下流側の油圧を上流側へリリーフする。
【0058】
図5の領域Fのように、下流側の油圧が下限保持油圧LPまで低下した場合、ソレノイドバルブ56は閉弁したままでモータ52への電力供給を開始し、上流側の油圧を上昇させる。上流側の油圧が下流側の油圧を上回ると、この油圧がバイパス油路53cおよびワンウェイバルブ53c1を介して下流側に補給(リチャージ)される。下流側の油圧が上限保持油圧HPになると、モータ52への電力供給を停止して油圧の発生を停止する。これにより、下流側の油圧は上限保持油圧HPと下限保持油圧LPとの間に維持され、クラッチ装置26が締結状態に維持される。領域D~Fを、クルーズ領域とする。
【0059】
自動二輪車1の停止時に変速機21がニュートラルになると、モータ52およびソレノイドバルブ56への電力供給をともに停止する。これにより、マスターシリンダ51は油圧発生を停止し、スレーブシリンダ28への油圧供給を停止する。ソレノイドバルブ56は開弁状態となり、下流側油路53b内の油圧がリザーバ51eに戻される。以上により、スレーブシリンダ28側(下流側)はタッチポイント油圧TPより低い低圧状態となり、クラッチ装置26が非締結状態となる。この状態は、図5の領域G,Hに相当する。領域G、Hを、停止領域とする。
自動二輪車1の停止時に変速機21がニュートラルの状態では、モータ52への電力供給が遮断され、停止状態となる。このため、油圧は0に近い状態になる。
【0060】
一方、自動二輪車1の停止時に変速機21がインギアのままだと、スレーブシリンダ28側に待機油圧WPが付与された待機状態となる。
待機油圧WPは、クラッチ装置26の接続を開始するタッチポイント油圧TPよりも若干低い油圧であり、クラッチ装置26を接続しない油圧(図5の領域A,Hで付与する油圧)である。待機油圧WPの付与により、クラッチ装置26の無効詰め(各部のガタや作動反力のキャンセル並びに油圧経路への予圧の付与等)が可能となり、クラッチ装置26の接続時の作動応答性が高まる。
【0061】
<変速制御>
次に、自動二輪車1の変速制御について説明する。
本実施形態の自動二輪車1は、変速機21のギアポジションが1速のインギア状態にあり、かつ車速が停車に相当する設定値未満にあるインギア停車状態において、シフトペダル32に対する1速からニュートラルへのシフト操作を行う際に、スレーブシリンダ28に供給する待機油圧WPを低下させる制御を行う。
【0062】
ここで、自動二輪車1が停車状態であり、変速機21のギアポジションがニュートラル以外の何れかの変速段位置にある場合、すなわち、変速機21がインギア停車状態にある場合には、スレーブシリンダ28に予め設定した待機油圧WPが供給される。
【0063】
待機油圧WPは、通常時(シフトペダル32の変速操作が検知されていない非検知状態の場合)は、標準待機油圧である第一設定値P1(図5参照)に設定される。これにより、クラッチ装置26は無効詰めがなされた待機状態となり、クラッチ締結時の応答性が高まる。つまり、運転者がスロットル開度を大きくしてエンジン13の回転数を上昇させると、スレーブシリンダ28への油圧供給により直ちにクラッチ装置26の締結が開始されて、自動二輪車1の速やかな発進加速が可能となる。
【0064】
自動二輪車1は、シフトペダル32に対する運転者のシフト操作を検知するために、シフト荷重センサ73とは別にシフト操作検知スイッチ48を備えている。
そして、インギア停車状態において、シフト操作検知スイッチ48が1速からニュートラルへのシフト操作を検知した際には、油圧制御部61が待機油圧WPを、変速操作を行う前の第一設定値P1よりも低い第二設定値P2(低圧待機油圧、図5参照)に設定する制御を行う。
【0065】
変速機21がインギア状態にある場合、通常時は第一設定値P1相当の標準待機油圧がスレーブシリンダ28に供給されるため、クラッチ装置26には僅かながらいわゆる引きずりが生じる。このとき、変速機21のドグクラッチにおける互いに噛み合うドグおよびスロット(ドグ孔)が回転方向で押圧し合い、係合解除の抵抗を生じさせてシフト操作を重くすることがある。このような場合に、スレーブシリンダ28に供給する待機油圧WPを第二設定値P2相当の低圧待機油圧に低下させると、ドグおよびスロットの係合が解除しやすくなり、シフト操作を軽くすることとなる。
【0066】
<クラッチ制御モード>
図6に示すように、本実施形態のクラッチ制御装置60Aは、三種のクラッチ制御モードを有している。クラッチ制御モードは、自動制御を行うオートモードM1、手動操作を行うマニュアルモードM2、および一時的な手動操作を行うマニュアル介入モードM3、の三種のモード間で、クラッチ制御モード切替スイッチ59(図4参照)およびクラッチレバー4b(図1参照)の操作に応じて適宜遷移する。なお、マニュアルモードM2およびマニュアル介入モードM3を含む対象をマニュアル系M2Aという。
【0067】
オートモードM1は、自動発進・変速制御により走行状態に適したクラッチ容量を演算してクラッチ装置26を制御するモードである。マニュアルモードM2は、乗員によるクラッチ操作指示に応じてクラッチ容量を演算してクラッチ装置26を制御するモードである。マニュアル介入モードM3は、オートモードM1中に乗員からのクラッチ操作指示を受け付け、クラッチ操作指示からクラッチ容量を演算してクラッチ装置26を制御する一時的なマニュアル操作モードである。なお、マニュアル介入モードM3中に乗員がクラッチレバー4bの操作をやめる(完全にリリースする)と、オートモードM1に戻るよう設定されている。
【0068】
本実施形態のクラッチ制御装置60Aは、クラッチアクチュエータ50(図3参照)を駆動してクラッチ制御油圧を発生する。このため、クラッチ制御装置60Aは、システム起動時には、オートモードM1でクラッチオフの状態(切断状態)から制御を始める。また、クラッチ制御装置60Aは、エンジン13停止時にはクラッチ操作が不要なので、オートモードM1でクラッチオフに戻るよう設定されている。
実施形態において、クラッチ制御装置60Aは、クラッチレバー4bとともにクラッチ制御システムを構成している。
【0069】
オートモードM1は、クラッチ制御を自動で行うことが基本であり、レバー操作レスで自動二輪車1を走行可能とする。オートモードM1では、スロットル開度、エンジン回転数、車速およびシフトセンサ出力により、クラッチ容量をコントロールしている。これにより、自動二輪車1をスロットル操作のみでエンスト(エンジンストップ)することなく発進可能であり、かつシフト操作のみで変速可能である。ただし、アイドリング相当の極低速時には自動でクラッチ装置26が切断することがある。また、オートモードM1では、クラッチレバー4bを握ることでマニュアル介入モードM3となり、クラッチ装置26を任意に切ることも可能である。
【0070】
一方、マニュアルモードM2では、乗員によるレバー操作により、クラッチ容量をコントロールする。オートモードM1とマニュアルモードM2とは、停車中にクラッチ制御モード切替スイッチ59(図4参照)を操作することで切り替え可能である。なお、クラッチ制御装置60Aは、マニュアル系M2A(マニュアルモードM2又はマニュアル介入モードM3)への遷移時にレバー操作が有効であることを示すインジケータを備えてもよい。
【0071】
マニュアルモードM2は、クラッチ制御を手動で行うことが基本であり、クラッチレバー4bの作動角度に応じてクラッチ油圧を制御可能である。これにより、乗員の意思のままにクラッチ装置26の断接をコントロール可能であり、かつアイドリング相当の極低速時にもクラッチ装置26を接続して走行可能である。ただし、レバー操作によってはエンストすることがあり、かつスロットル操作のみでの自動発進も不可である。なお、マニュアルモードM2であっても、シフト操作時にはクラッチ制御が自動で介入する。
【0072】
オートモードM1では、クラッチアクチュエータ50により自動でクラッチ装置26の断接が行われるが、クラッチレバー4bに対するマニュアルクラッチ操作が行われることで、クラッチ装置26の自動制御に一時的に手動操作を介入させることが可能である(マニュアル介入モードM3)。
【0073】
<マニュアルクラッチ操作>
図1に示すように、操向ハンドル4aの左グリップの基端側(車幅方向内側)には、クラッチ手動操作子としてのクラッチレバー4bが取り付けられている。クラッチレバー4bは、クラッチ装置26とケーブルや油圧等を用いた機械的な接続がなく、ECU60にクラッチ作動要求信号を発信する操作子として機能する。すなわち、自動二輪車1は、クラッチレバー4bとクラッチ装置26とを電気的に接続したクラッチバイワイヤシステムを採用している。
【0074】
図4を併せて参照し、クラッチレバー4bには、クラッチレバー4bの操作量(回動角度)を検出するクラッチレバー操作量センサ4cが一体的に設けられている。クラッチレバー操作量センサ4cは、クラッチレバー4bの操作量を電気信号に変換して出力する。クラッチレバー4bの操作が有効な状態(マニュアル系M2A)において、ECU60は、クラッチレバー操作量センサ4cの出力に基づき、クラッチアクチュエータ50を駆動する。なお、クラッチレバー4bとクラッチレバー操作量センサ4cとは、相互に一体でも別体でもよい。
【0075】
自動二輪車1は、クラッチ操作の制御モードを切り替えるクラッチ制御モード切替スイッチ59を備えている。クラッチ制御モード切替スイッチ59は、所定の条件下において、クラッチ制御を自動で行うオートモードM1と、クラッチレバー4bの操作に応じてクラッチ制御を手動で行うマニュアルモードM2と、の切り替えを任意に行うことを可能とする。例えば、クラッチ制御モード切替スイッチ59は、操向ハンドル4aに取り付けられたハンドルスイッチに設けられている。これにより、通常の運転時に乗員が容易に操作することができる。
【0076】
<クラッチ温度補正制御>
ECU60は、上記した各モードのクラッチ制御を行う際に、クラッチ装置26の温度変化に応じた制御目標値の補正制御を実行する。ECU60は、例えば図10に示すように、温度と制御目標値との相関データを、予めメモリ62に記憶している。ECU60は、温度センサ49で測定された温度に基づき、制御目標値を補正する。ECU60は、メモリ62に記憶された温度と制御目標値との相関データに基づいて、温度センサ49で測定された温度に応じて制御目標値を補正する。ECU60は、温度センサ49で測定された温度が高くなるにしたがって、制御目標値を低下させる。ここで、制御目標値は、クラッチ装置26の接続が始まるポイント(すなわちタッチポイント油圧)となるクラッチ容量である。
【0077】
以上説明したように、上記実施形態のクラッチ制御装置60Aは、エンジン13と変速機21との間の動力伝達を断接するクラッチ装置26と、油圧を発生し、前記クラッチ装置26のクラッチ容量を変更するクラッチアクチュエータ50と、前記クラッチアクチュエータ50で発生された油圧により、前記クラッチ装置26を駆動するスレーブシリンダ28と、クラッチ容量の制御目標値を演算するECU60と、スレーブシリンダ28の温度を測定する温度センサ49と、を備える。ECU60は、温度センサ49で測定された温度に基づき、制御目標値を補正する。ECU60は、温度センサ49でスレーブシリンダ28の温度を測定することで、クラッチ装置26の温度変化を検知する。ECU60は、測定された温度に基づいて、クラッチ容量の制御目標値を補正する。ECU60は、スレーブシリンダ28の温度に応じて、クラッチ装置26が断接するポイントを調整する。
この構成によれば、温度センサ49で測定したスレーブシリンダ28の温度の実測値に基づき、クラッチ容量の制御目標値を補正することで、クラッチ周りの温度を推定して制御を行う構成に比べて、より高精度な制御を行うことができる。
【0078】
また、上記実施形態では、クラッチ装置26を覆うクラッチカバー72にスレーブシリンダ28および温度センサ49を配置することで、スレーブシリンダ28をクラッチ装置26に近接させてこれらを直接的に連動可能とするとともに、温度センサ49をスレーブシリンダ28に近接させてスレーブシリンダ28の温度を直接的に測定可能とし、より高精度な制御を行うことができる。
【0079】
また、上記実施形態では、クラッチカバー72におけるスレーブシリンダ28を固定するための円筒状のシリンダ固定部72aに、温度センサ49を併せて固定することで、シリンダ固定部72aがスレーブシリンダ28の固定部と温度センサ49の固定部とを兼ねることとなり、合理化による小型軽量化を図ることができる。
【0080】
また、上記実施形態では、スレーブシリンダ28は、クラッチ装置26を油圧で駆動するピストン28pを備えている。クラッチ装置26を作動させる際、スレーブシリンダ28のピストン28pが油圧により移動すること伴って、スレーブシリンダ28が温度上昇する。スレーブシリンダ28は、温度変化によってピストンストロークのフリクションに変化が生じるため、温度影響を受けやすいといえる。このように、温度影響を受けやすい油圧作動式のスレーブシリンダ28の温度を検出して制御を行うことで、より高精度な制御を行うことができる。
【0081】
また、上記実施形態では、温度センサ49の検知部49sがスレーブシリンダ28を指向して設けられているので、スレーブシリンダ28の温度をより正確に検知し、より高感度な制御を行うことができる。
【0082】
また、上記実施形態では、温度センサ49で測定された温度が高くなるにしたがって、制御目標値を低下させるので、クラッチ装置26を構成するクラッチプレート等の熱膨張に対応して、クラッチ装置26が断接するポイントを適切に調整し、クラッチ容量を精度よく制御することができる。
【0083】
また、上記実施形態では、制御目標値は、クラッチ装置26の接続が始まるポイント(タッチポイント油圧)に相当する制御目標値(クラッチ容量)を補正することで、クラッチ装置26の断接制御における温度影響を抑えて高精度な制御を行うことができる。
【0084】
本発明は上記実施形態に限られるものではなく、例えば、油圧の増加でクラッチを接続し、油圧の低減でクラッチを切断する構成への適用に限らず、油圧の増加でクラッチを切断し、油圧の低減でクラッチを接続する構成に適用してもよい。
クラッチ操作子は、クラッチレバーに限らず、クラッチペダルやその他の種々操作子であってもよい。
上記実施形態のようにクラッチ操作を自動化した鞍乗り型車両への適用に限らず、マニュアルクラッチ操作を基本としながら、所定の条件下でマニュアルクラッチ操作を行わずに駆動力を調整して変速を可能とする、いわゆるクラッチ操作レスの変速装置を備える鞍乗り型車両にも適用可能である。
また、上記鞍乗り型車両には、運転者が車体を跨いで乗車する車両全般が含まれ、自動二輪車(原動機付自転車及びスクータ型車両を含む)のみならず、三輪(前一輪かつ後二輪の他に、前二輪かつ後一輪の車両も含む)又は四輪の車両も含まれ、かつ電気モータを原動機に含む車両も含まれる。
そして、上記実施形態における構成は本発明の一例であり、当該発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
【符号の説明】
【0085】
1 自動二輪車(鞍乗り型車両)
12 後輪(駆動輪)
13 エンジン(原動機)
21 変速機
26 クラッチ装置
28 スレーブシリンダ(従動機構)
28p ピストン
49 温度センサ
49s 検知部
50 クラッチアクチュエータ
60 ECU(制御部)
60A クラッチ制御装置
72 クラッチカバー(カバー部材)
72a シリンダ固定部(固定部)
TP タッチポイント油圧(ポイント)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10