(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-18
(45)【発行日】2022-11-29
(54)【発明の名称】醸造粕の微生物安定化方法及び醸造粕を加工する方法、微生物学的に安定化された醸造粕粉末、並びにその使用
(51)【国際特許分類】
A23L 7/20 20160101AFI20221121BHJP
A23L 7/10 20160101ALI20221121BHJP
A21D 2/36 20060101ALI20221121BHJP
A23G 3/34 20060101ALI20221121BHJP
A23L 7/109 20160101ALI20221121BHJP
A23L 33/22 20160101ALI20221121BHJP
【FI】
A23L7/20
A23L7/10 H
A21D2/36
A23G3/34 101
A23G3/34 102
A23L7/109 E
A23L33/22
(21)【出願番号】P 2021534822
(86)(22)【出願日】2019-08-23
(86)【国際出願番号】 EP2019072584
(87)【国際公開番号】W WO2020039068
(87)【国際公開日】2020-02-27
【審査請求日】2021-08-10
(32)【優先日】2018-08-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】BE
(73)【特許権者】
【識別番号】506385140
【氏名又は名称】アンハイザー-ブッシュ・インベヴ・ソシエテ・アノニム
【氏名又は名称原語表記】Anheuser-Busch InBev S.A.
(74)【代理人】
【識別番号】100169904
【氏名又は名称】村井 康司
(74)【代理人】
【識別番号】100132698
【氏名又は名称】川分 康博
(72)【発明者】
【氏名】ジョルジ ジル-マルティネス
(72)【発明者】
【氏名】エルケ エレント
(72)【発明者】
【氏名】ステファン ミューンチ
【審査官】戸来 幸男
(56)【参考文献】
【文献】BE1024957(BE,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 7/00-7/25
FSTA/CAplus/AGRICOLA/BIOSIS/
MEDLINE/EMBASE(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
Google
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
新鮮な醸造粕(BSG)を加工する方法であって、
大麦麦芽を含むマッシュを作るステップと、
前記マッシュをBSGから分離するステップと、
前記BSGを回収するステップと、
前記回収したBSGを微生物学的に安定化させ、微生物学的に安定した醸造粕(MS-BSG)スラリーを得るステップであって、MS-BSGスラリーを、ろ過又はデカンテーションによって、水溶性成分と非水溶性成分に分離し、前記水溶性成分は、塩、オリゴ糖、水溶性タンパク質性物質及び水溶性アラビノキシランを含む液相として得られ、前記非水溶性成分は、沈殿したタンパク質及び非水溶性アラビノキシランを含む湿った固相として得られる、ステップと、
前記水溶性成分および前記非水溶性成分を乾燥させるステップと、
前記水溶性成分および前記非水溶性成分を、1.4mm未満の平均粒径を有する粉末に粉末化するステップと
を含む方法。
【請求項2】
粉末化された粉末は、10ミクロン~700ミクロンの間の平均粒径を有する、
請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記液相の乾燥及び粉末化には、スプレー乾燥が用いられる、
請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記水溶性成分を乾燥したものと、前記非水溶性成分を乾燥したものとの混合、および、配合するステップを、
さらに含む、
請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記回収したBSGを微生物学的に安定化するステップが、前記BSGを4以下のpHまで酸性化するステップを含み、前記BSGは、
3μg/kg超のオクラトキシンA(OTA)、750μg/kg超のデオキシニバレノール(DON)、20μg/kg超のニバレノール(NIV)、及び75μg/kg超のゼアラレノン(ZEA)のマイコトキシンレベルに達する前に酸性化される、及び/又は、
25℃で1週間貯蔵した後に、10
3
CFU/g MS-BSG以下の全好気性細菌、及び10
3
CFU/g MS-BSG以下の真菌、及び10
3
CFU/g MS-BSG以下の酵母、及び10
3
CFU/g MS-BSG以下の中温性好気性細菌、及び10
3
CFU/g MS-BSG以下の全嫌気性細菌のコロニー数を有する、
請求項1~4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記マッシュを前記BSGから分離してから8時間の時間枠内に、前記BSGが3.85~3.95の間のpHまで酸性化される、
請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記酸性化が、乳酸、酢酸、安息香酸、リンゴ酸、ギ酸及びアスコルビン酸を含む群の酸のうちの1つ又は複数の添加によって達成される、
請求項5又は6に記載の方法。
【請求項8】
前記酸性化が、0.4%の食品グレードの酢酸及び0.4%の食品グレードの乳酸の添加によって達成される、
請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記BSGが、BSG移送ラインにより又はBSG移送ラインを通して、前記BSGをマッシュ分離装置から回収タンクへ移送することによって回収され、前記BSGの酸性化が、前記BSGの前記回収タンクへの移送の間に行われる、
請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
請求項1~9のいずれか1項に記載の方法を実行し、得られた水溶性成分又は非水溶性成分を粉末化し、得られた粉末を、食品または食品材料の製造において、食品材料として利用する、
食品又は食品材料の製造方法。
【請求項11】
前記食品材料は、小麦粉である、
請求項
10に記載の食品又は食品材料の製造方法。
【請求項12】
前記食品は、、パン、クッキー、穀物製品、焼きスナック、押出調理スナック、キャンディーバー又はパスタ製品の群から選択された1つまたは組み合わせである、
請求項
10に記載の食品又は食品材料の製造方法。
【請求項13】
前記食品又は食品材料は、繊維補助食品である、
請求項
10に記載の食品又は食品材料の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、醸造プロセスから得られる醸造粕(brewers’spent grains)(BSG)を、前記醸造粕中の微生物の増殖と、その後の微生物毒素の産生とが、本明細書により特定される低レベルに保持される(微生物安定化)ように、そして加工されたBSGが容易に輸送され、例えば所与のベーカリー製品における食品材料として加工され得るように処理するためのプロセスに関する。本発明は、酸、又は有機酸、又は食品グレードの有機酸の1つ又は組合せによりBSGを酸性化して、BSGの微生物安定性を達成するための方法を包含する。本発明はさらに、前記プロセスから得られる微生物学的に安定したBSG(MS-BSG)粉末に関する。本発明はさらに、現在可能であるよりも長期間にわたるBSGの安定性と、結果として生じるMS-BSGの応用範囲の拡大と、前記応用によって生じるMS-BSGの価値の必然的な増大とに関する。本発明はさらに、人間の食品及び/又は食品グレードの材料の製造のため、及び/又は食品グレードの飲料材料の製造のための、微生物学的に安定した醸造粕(MS-BSG)粉末の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
醸造粕(BSG)はビール醸造プロセスにおいて生じる最も多量の副産物であり、全廃棄物の85%を構成する。この物質は、麦汁ろ過後に固体部分として得られる大麦粒の殻からなる。BSGは炭水化物及びタンパク質が豊富であることから、この産物を利用するために、今日まで主に動物飼料として使用されてきた。
【0003】
牛の飼料としての従来の使用を越えて、BSGに対していくつかの他の応用が提唱されている(Mussatto et al.,20061及びXiros and Christakopoulos,20122により概説される):直接燃焼の形のエネルギー生産、BSG炭の低減、又はバイオガス製造用;レンガ建造用及び製紙用の原材料として;酵素の産生及び微生物の増殖などの生物工学的応用において;並びにタンパク質又はフェノール化合物などの高価値成分の分画及び濃縮。
【0004】
しかしながら、BSGは、その栄養価により、人間の食糧又は材料のための興味深い候補にもなる。食品又は食品材料としてのBSGのいくつかの応用が記載されている(Mussatto et.Al,20061及びLynch et al.,20163により概説される)。醸造粕は、パン、クッキー、ブレッドスティック、焼きスナックなどのベーキング物品、及びソーセージの材料としても、並びに飲料添加物として使用されている。食後血糖値の低下、コレステロールの低下、プレバイオティック、免疫調節及び抗酸化活性を含むいくつかの健康上の利益は、BSGを食事に含ませることと関連する。
【0005】
微生物安定性は、動物又は人間のいずれかが摂取するためのBSGの使用における主要な懸念事項である。水、糖及びタンパク質の利用可能性はBSGを微生物にとって魅力的な基質とし、微生物は急速にコロニーを形成し、後で食品として使用するためのその完全性を損ない得る。BSGの微生物腐敗に関連する問題が存在し、第1に、病原性微生物の増殖の可能性であり、次に、腐敗性微生物によるBSGからの栄養分の枯渇であり、最後に、真菌による有毒化合物の産生である。後者、特に安定したマイコトキシンの産生は、懸念事項である。
【0006】
湿ったBSGの非常に短期の安定性は、動物飼料、人間の食品又は人間の食品材料としてのその使用に対する障害として認識されている。効果的な保存方法がなければ、BSGは微生物に急速に感染することになる。これにより、BSGの栄養完全性及び一般的食品安全性が損なわれる。
【0007】
BSGの腐敗を防止するための現在の方法には、以下が含まれる(Mussato et al.,2006により概説される):
・ ロータリードラムドライヤー又はオーブン内での乾燥。前者は大量のエネルギーを消費し、後者は、高い乾燥温度での化学反応から生じる不快な芳香及び風味をBSGに導入し得る。代替の実験的乾燥方法は、過熱蒸気の使用を伴う5。
・ 凍結。大量の凍結BSGの貯蔵は、実用的又は経済的でない。さらに、解凍したBSGは、恐らく解凍中の微生物の増殖に起因して、新鮮なBSGよりも低いアラビノース含有量を有し得る6。
・ 加圧及び真空パッキング。BSGの良好な安定性は、El-Shafey et al.(2004)7により、真空乾燥と結合したメンブランフィルタープレスを用いて達成された。得られたBSGは20%の水分を有し、これは、開放空気中で貯蔵した後に10%まで低下した。処理の6カ月後まで、微生物の増殖は観察されなかった7。
・ 有機酸を用いるBSGの保存は、Al Hadithi et al.(19858、Mussato et al.,2006により引用)により調査された。有機酸は腐敗を防止し、長期間にわたってBSGの栄養価を保存することが見出された。
【0008】
酸性化は、食品の伝統的な保存手段である。食品は、酸の直接添加(例えば、食用酢によるピクルス漬け)、乳酸若しくは酢酸菌種による食品の微生物発酵(例えば、ザワークラウト、キムチ)、又は両方の組合せのいずれかによって酸性化することができる。低pH(<4.1)及び有機酸の存在は、ほとんどの有害な細菌及び真菌の増殖を阻害する。さらに、乳酸及び酢酸は、通常、正しい濃度において食品中で好ましいと認識されており、人間の健康に無害であると考えられる。
【0009】
醸造製造プロセスは、その副産物ではなく最終生成物のビールを微生物学的に安定に保持する環境にある。醸造粕は、フィルター又はろ過樽(lauter tun)によって微生物学的に損なわれない。マッシング及びろ過の間の温度条件は75℃までである。フィルターによって、BSGは、好熱性細菌を除いて比較的少数の微生物を有し、微生物学的に安定していると考えることができる4。しかしながら、醸造粕が冷却されると、醸造粕は、食品安全性を全く気にせずに廃棄物として処理されるので、中温性細菌及び真菌はその上で増殖することができる。25℃で1日貯蔵した後、細菌(好気性及び嫌気性)及び真菌のコロニー数はそれぞれ、BSG1グラム当たり100コロニー形成単位(CFU)未満から105及び108CFU/グラムまで増大する。2日後には、全ての微生物が108CFU/グラムの規模で見出される。
【0010】
マイコトキシンは、穀物上で増殖する真菌によって産生されるタイプの化合物である。これらは有毒であり、高用量で摂取されると人間及び動物にとって致命的であり得る。このため、マイコトキシンは穀物食品産業及び醸造産業にとって大きな懸念事項であり、食品において許容される最大レベルに対して制限が設けられている。BSGの真菌汚染はマイコトキシンの産生をもたらすことが可能であり、これは不可逆的プロセスであり、すなわちBSG中のマイコトキシンレベルが一度設定限界を上回ると、摂取するのに安全でないと考えられる。
【0011】
BSGがフィルター/ろ過樽を出た後に微生物の増殖及び腐敗が起こる時間枠を考慮すると、動物又は人間の食品材料としてのその使用の機会が制限される。数時間のうちに、BSGの微生物及び/又はマイコトキシンレベルは、人間が摂取するための推奨レベルを上回り得る。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
人間の食品又は食品材料としてのBSGの使用は、任意の著しい微生物の増殖及び/又はマイコトキシンの産生がその完全性を損なう前に、BSGがその最も新鮮な状態、さらに輸送が容易で且つ加工が可能な状態で利用可能であることを必要とする。任意の食品製造プロセスに対して、これは非常に困難な操作上の障壁をもたらす。したがって、人間の食品又は食品材料として使用するためにBSGの完全性を保持することが依然として必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、新鮮な醸造粕(BSG)を微生物学的に安定化するための方法に関し、本方法は、
大麦麦芽を含むマッシュを製造するステップと、
マッシュをBSGから分離するステップと、
BSGを回収するステップと、
回収したBSGを微生物学的に安定化するステップと、
前記BSGを乾燥させるステップと、
前記乾燥させたBSGを粉末化するステップと
を含む。
【0014】
微生物学的な安定化は、BSGを4以下のpHに酸性化するステップを含む。このステップにおいて、BSGは、次の特徴を有する。すなわち、
-BSGは、3μg/kg超のオクラトキシンA(OTA)、750μg/kg超のデオキシニバレノール(DON)、20μg/kg超のニバレノール(NIV)、及び75μg/kg超のゼアラレノン(ZEA)のマイコトキシンレベルに到達する前に酸性化される、及び/又は
-BSGは、25℃で1週間貯蔵した後に、10
3
CFU/g MS-BSG以下の全好気性細菌、及び10
3
CFU/g MS-BSG以下の真菌、及び10
3
CFU/g MS-BSG以下の酵母、及び10
3
CFU/g MS-BSG以下の中温性好気性細菌、及び10
3
CFU/g MS-BSG以下の全嫌気性細菌のコロニー数を有する。
【0015】
より具体的には、食品グレードの有機酸の使用により、得られるBSGは微生物学的に安定になり、人間が摂取するために安全になる。さらにより具体的には、0.4%の乳酸及び0.4%の酢酸の組合せの使用により、人間が摂取するために安全であり、許容される官能特性を有する、微生物学的に安定した生成物が得られる。
【0016】
本発明の目的は、現在可能であるよりも長期間にわたってBSGを微生物学的に安定させ、容易に輸送可能であり、食品材料として加工できるようにすることである。結果として、MS-BSGの応用の範囲は未処理のBSGよりもはるかに広く、それにより、MS-BSGは未処理のBSGよりもはるかにより価値のある原材料になる。
【0017】
したがって、本発明のさらなる態様は、MS-BSG粉末及びその使用に関する。MS-BSG粉末の1つの用途は、人間の食事の一部として、限定はされないが例えば、小麦粉の材料、ベーキング製品添加物又は食品強化材料としての用途である。食品グレードのMS-BSG粉末のさらなる用途は、飲料のための材料物質としての用途である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
(定義)
BSGは、本来の大麦粒を被覆する種皮-果皮-殻層からなる。デンプン含有量は通常低く、BSGの組成物は主に、非デンプン性多糖類(NSP、約38%;アラビノキシラン(AX)の形態のヘミセルロース及びセルロース)である繊維と、かなりの量のタンパク質(約19%)、リグニン(約15%)、結合フェノール類(10%)、脂質(約10%)及び灰分(5%)とを含有する4。したがって、BSGは基本的にリグノセルロース系物質である。この高い繊維及びタンパク質含有量により、BSGは食品用途のための興味深い原材料とされる。
【0019】
麦汁フィルター又はろ過樽から放出される際、BSGは、70~85%の範囲の水を含有し得る。高レベルの水及び栄養分の存在により、BSGは細菌及び真菌の増殖のための良好な基質になる。実際に、これに対して何も手段が講じられなければ、新鮮なBSGは、種々のタイプの細菌及び真菌種により急速にコロニーが形成される。25℃でBSGを2日間インキュベーションした後、全細菌、中温性細菌、嫌気性細菌及び真菌は、1gのBSG当たり107~108CFUまで増大する。また25及び35℃におけるBSGの貯蔵はBSGの栄養価の低下にも関連し、全タンパク質、可溶性糖及びBSGの全乾燥質量が減少する9。
【0020】
Wang et al.(2014)9及び本明細書の著者らは、25℃で2日間貯蔵した後にBSG中の酵母及びカビの両方の著しい増大を観察した。いずれの場合も、カビのコロニー数は1日後には106、そして2日後には108にも達する9(及びLynch、未公開)。貯蔵されたBSG中のカビ群集の一部は、ペニシリウム(Penicillum)及びフザリウム(Fusarium)種などのマイコトキシン産生カビから構成されることが証明されている10。
【0021】
マイコトキシンは、食用作物に感染する真菌によって産生される化合物である。これらは特に、醸造のために使用される大麦又は小麦などの穀物においてよく見られる。種々のタイプのマイコトキシンは、汚染作物が与えられる動物の健康に様々な影響を与える。マイコトキシンは非常に安定した分子であり、冷却又は熱処理、さらには動物の消化にも抵抗し、これは、マイコトキシンが汚染動物を介して人間の食物連鎖に入り得ることを意味する。
【0022】
大麦に影響する主要な真菌は、フザリウム(Fusarium)属のものである11、12。フザリウム(Fusarium)種は、ゼアラレノン(ZEA)並びにトリコテセン類(trichocethenes)のニバレノール(NIV)及びデオキシニバレノール(DON)を含む様々な毒素を産生する。表1は、これらのマイコトキシン及びオクラトキシンA(OTA)に対してヨーロッパにおいて許容される最大レベルを示す(完全なデータセットは13~16において見出される)。
【0023】
【0024】
酸化合物を用いてBSGのpHを4以下pH単位まで低下させると、25℃で貯蔵されたBSGにおける全細菌及び好気性中温性細菌の増殖が著しく阻害される。25℃で1週間貯蔵した後に、酸性化BSG1グラム当たりそれぞれ102.7及び102CFUの全細菌及び中温性細菌が見出される。より具体的には、25℃で2週間貯蔵した後に、酸性化BSG1グラム当たりそれぞれ103及び102.1CFUの全細菌及び中温性細菌が見出される。
【0025】
酸化合物を用いてBSGのpHを4以下pH単位まで低下させると、25℃で貯蔵されたBSGにおけるカビの増殖が著しく阻害される。25℃で1週間貯蔵した後に酸性化BSG1g当たり102~102.4CFU、より具体的には、25℃で2週間貯蔵した後に酸性化BSG1g当たり102CFU未満で見出される。
【0026】
25℃で1週間貯蔵した後に酸性化BSGにおいてモニターされるマイコトキシンのレベルはそれに応じて低い:DON、非検出(検出閾値(DT)=20μg/kg);NIV、非検出(DT=20μg/kg);ZEA、非検出(DT=30μg/kg);及びOTA、0.6μg/kg(DT=0.5μg/kg)。
【0027】
したがって、本発明の1つの目的は、BSGの酸性化を用いてマイコトキシン産生真菌の増殖を最小限にすることによって、動物又は人間が摂取するための醸造粕(BSG)中のマイコトキシンの含有量を低減することである。
【0028】
本発明において、BSGの酸性化は、新鮮なBSGと同じタンパク質、可溶性繊維及び不溶性繊維価を有し、25℃で2週間貯蔵した後に10
3
CFU/g以下の細菌及び真菌数を有し、25℃で1週間貯蔵した後に低い又は検出不能なレベルのマイコトキシンを有する、微生物学的に安定したBSG(MS-BSG)をもたらす。
【0029】
本発明のさらなる目的は、消費者にとって好ましい官能特性を有する、微生物的に安定したBSG(MS-BSG)粉末を製造することである。本発明において、それぞれ0.4%の最終濃度の酢酸及び乳酸の混合物が酸性化剤として使用される。酢酸は、乳酸(20℃で0.0813mmHg)よりも揮発性である(20℃で蒸気圧=15.8mmHg)。酢酸は、乳酸(ビール中400mg/L)よりも低い検出閾値(ビール中200mg/L)を有する。高濃度では、酢酸は刺激性の酢のような芳香を有する。MS-BSG中の酢酸濃度がMS-BSGで作られた下流の飲料製品についての消費者の支持に与える影響を調査した。種々の酢酸濃度で酸性化されたMS-BSGを使用して、発酵飲料のベースを製造した。MS-BSGを粉砕し、そのpHを6.1pH単位にし、糖化酵素で処理し、乳酸菌で発酵させた。出発MS-BSG中0.4%よりも高い酢酸のレベルは、発酵MS-BSG飲料に対する消費者の拒絶をもたらし、0.4%の乳酸及び0.4%以下の酢酸で安定化されたMS-BSGで製造した飲料は、消費者パネルにより許容されることが見出された。
【0030】
発明の詳細な説明
70%の水分含量を有する新鮮な醸造粕(BSG)は、麦汁フィルター又はろ過樽から回収される。新鮮なBSGは、好ましくは、フィルター/ろ過樽から放出されてから8時間以内に加工され、好ましくは、BSG移送ラインにより又はBSG移送ラインを通して、BSGをマッシュ分離装置から回収タンクへ移送することによって回収される。ここで、BSGの酸性化は、BSGの回収タンクへの移送の間に行われる。好ましくは、BSGは、フィルター/ろ過樽から貯蔵庫又は移送容器への搬送される際に、「インライン」で加工される。
【0031】
本発明は、特に、酸化合物の1つ又は組合せの添加によりBSGを化学的に酸性化して、BSGのpHを4.1以下のpH単位、より具体的には3.85~3.95pH単位のレベルまで低下させるプロセスに関する。具体的には、本プロセスは、乳酸、酢酸、クエン酸、安息香酸、リンゴ酸、ギ酸又はアスコルビン酸などであるがこれらに限定されない有機酸の1つ又は組合せを使用して、BSGのpHを4.1以下のpH単位、より具体的には3.85~3.95pH単位のレベルまで低下させる。さらにより具体的には、本プロセスは、0.4%の食品グレードの酢酸及び0.4%の食品グレードの乳酸を使用して、BSGのpHを4.1以下のpH単位、より具体的には3.85~3.95pH単位のレベルまで低下させ、知覚的に好ましい製品が得られる。
【0032】
本発明の目的は、以下を特徴とする微生物学的に安定したBSG(MS-BSG)粉末を提供することである。
・ 4.1以下のpH単位、より具体的には3.85~3.95のpH単位のpHレベル
・ 新鮮なBSGと同じ栄養価
・ 25℃で1週間貯蔵した後に、10
3
CFU/g MS-BSG以下の全好気性細菌、及び10
3
CFU/g MS-BSG以下の真菌、及び10
3
CFU/g MS-BSG以下の酵母、及び10
3
CFU/g MS-BSG以下の中温性好気性細菌、及び10
3
CFU/g MS-BSG以下の全嫌気性細菌のコロニー数
・ 25℃で1週間貯蔵した後に、3μg/kg以下のオクラトキシンA(OTA)、好ましくは1μg/kg以下のOTA、さらにより好ましくは検出不能なレベルのOTA、及び750μg/kg以下のデオキシニバレノール(DON)、好ましくは20μg/kg以下のDON、さらにより好ましくは検出不能なレベルのDON、及び20μg/kgのニバレノール(NIV)、より好ましくは検出不能なレベルのニバレノール、及び75μg/kg以下のゼアラレノン(ZEA)、好ましくは30μg/kg以下のZEA、より好ましくは検出不能なレベルのZEAのマイコトキシンレベル
【0033】
本発明の一実施形態では、新鮮なBSGは、フィルター/ろ過樽から放出されてから8時間以内に、貯蔵容器内で、それぞれ0.4%の最終濃度の酢酸及び乳酸のストック溶液と混合される。
【0034】
本発明の好ましい実施形態では、新鮮なBSGは、フィルター/ろ過樽から貯蔵庫へ搬送される際に「インライン」で、それぞれ0.4%の最終濃度の酢酸及び乳酸のストック溶液と混合される。この実施形態は、本明細書に記載される方法の最も効率的な用途を表す。
【0035】
本発明によると、安定化されたBSG(MS-BSG)は乾燥され、さらに粉末に加工される。
【0036】
MS-BSGの乾燥及び粉末化のために異なる選択肢が可能である。第1の選択肢は、フリーズドライ、凍結乾燥、加熱、加圧乾燥、真空蒸発、空気乾燥又はこのような技術の1つ又は複数の組合せなどの従来の乾燥方法によって、通常はスラリーであるMS-BSGを乾燥させることを含む。
【0037】
乾燥の後、好ましくは1.4mm未満、好ましくは10ミクロン~700ミクロンの間、より好ましくは250~650ミクロンの間の範囲の平均粒径を有する微粒子になるように乾燥物質を粉砕又は切断することにより、MS-BSGは粉末に加工され得る。
【0038】
代替的に、MS-BSGスラリーは、まずろ過又はデカンテーションによって画分に分離されて、塩、オリゴ糖、水溶性タンパク質性物質及び水溶性アラビノキシランを含む液相(透過物)と、特に、沈殿したタンパク質及び非水溶性アラビノキシランを含む湿った固相とが得られる。
【0039】
両方の画分は次に、フリーズドライ、凍結乾燥、加熱、加圧乾燥、真空蒸発、空気乾燥又はこのような技術の1つ又は複数の組合せなどの従来の乾燥方法によって、互いに独立して乾燥させることができる。また、単一の加工ステップにおいて液相を乾燥及び粉末化するためにスプレー乾燥を使用することもできる。この最後の場合、粉砕又は混合によりさらなる粉末化又は粉末粒径の低減が達成され得る。
【0040】
2つの粉末化ストリームは別々に(すなわち、1つは透過物から得られる粉末であり、1つは保持物(retentate)から得られる粉末である)保持することもできるし、或いは両方の粉末を好ましい比率でブレンド/混合することもできる。
【0041】
乾燥及び粉末化の前にBSG物質は微生物学的に安定化されたので、粉末自体は、HCCP標準に従って十分に注意を払って取り扱われれば、微生物学的に安定している。
【0042】
上記の微生物学的に安定した醸造粕(MS-BSG)粉末は、以下の用途において使用することができる。
・ 動物飼料。MS-BSG粉末は、動物の飼料又は飼料補足物として使用することができる。より具体的には、乳牛などの反芻動物の牛の飼料又は飼料補足物として使用することができる。
・ 人間の食品又は食品材料として。MS-BSG粉末は、パン、クッキー、穀物製品、焼きスナック、押出調理スナック、キャンディーバー又はパスタ製品などの食品の製造;及び/又は小麦粉などの食品材料の製造;及び/又は繊維補助食品などの栄養補助食品の製造における材料として使用することができる。
【0043】
醸造粕は、好ましくは、麦芽と、潜在的にコーン、コメ、ソルガム、小麦、大麦、ライ麦、オート麦又はこれらの組合せなどのいくつかの付加物とを、水と混合してマッシュを形成する通常のビール製造プロセスから得られ、ここで、酵素(大麦麦芽に由来するか、或いは別個にマッシュに添加される)によって、デンプンは、通常はグルコース、マルトース及びマルトトリオースの混合物である発酵性糖に分解することが可能になる。マッシングの最後に、マッシュをろ過して発酵性麦汁を得て、これをさらに加工してビールにする。マッシュろ過の保持物が醸造粕(BSG)であり、これは、次に、上記の方法によって安定化される。
【0044】
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