(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-18
(45)【発行日】2022-11-29
(54)【発明の名称】圧延装置の状態評価方法及び状態評価装置並びに圧延設備
(51)【国際特許分類】
B21C 51/00 20060101AFI20221121BHJP
B21B 37/46 20060101ALI20221121BHJP
B21B 38/00 20060101ALI20221121BHJP
G01H 17/00 20060101ALI20221121BHJP
【FI】
B21C51/00 N
B21B37/46 110Z
B21B38/00 D
G01H17/00 A
(21)【出願番号】P 2021538643
(86)(22)【出願日】2019-08-08
(86)【国際出願番号】 JP2019031332
(87)【国際公開番号】W WO2021024447
(87)【国際公開日】2021-02-11
【審査請求日】2021-12-22
(73)【特許権者】
【識別番号】314017543
【氏名又は名称】Primetals Technologies Japan株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000785
【氏名又は名称】SSIP弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】石川 英司
(72)【発明者】
【氏名】影平 喜美
(72)【発明者】
【氏名】下釜 宏徳
(72)【発明者】
【氏名】吉川 雅司
【審査官】中西 哲也
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-234952(JP,A)
【文献】特開2001-340905(JP,A)
【文献】末岡淳男ほか,製鉄機械ホットレベラのワークロールに発生する多角形摩耗,日本機械学会論文集(C編),日本,一般社団法人日本機械学会,2000年11月,第66巻, 第651号,p.3583-3590
【文献】松崎健一郎ほか,製鉄機械ホットレベラのワークロールに発生する多角形摩耗(第3報,動吸振器を用いた多角形摩耗の防止・遅延対策),日本機械学会論文集(C編),日本,一般社団法人日本機械学会,2005年04月,第71巻, 第704号,p.1123-1130
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B21B 37/00-37/78
B21B 38/00-38/12
B21C 51/00
JSTPlus(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧延装置の圧延ロールが偏摩耗してN角形になるN角形化の成長傾向を評価するための方法であって、
前記圧延ロールの回転数frでの圧延中に、複数のサンプリング期間の各々において、前記圧延ロールの振動を示す振動データを取得する振動データ取得ステップと、
前記複数のサンプリング期間に取得した前記振動データの各々について、周波数分析を行い、前記N角形に対応する周波数における前記振動の振幅を取得する振幅取得ステップと、
前記振動データ取得ステップにて異なる2つのサンプリング期間に取得された前記振動データについて、前記振幅取得ステップにてそれぞれ取得された前記振幅の比に基づいて、前記回転数frでの圧延中における前記圧延ロールの前記N角形に対応する周波数の振動の振幅の経時変化の指標を示す特性値σを取得する特性値取得ステップと、
前記
特性値σに基づいて、前記回転数frでの圧延時における前記圧延ロールの前記N角形化の成長傾向を評価する評価ステップと、
を備える、圧延装置の状態評価方法。
【請求項2】
前記特性値取得ステップでは、前記振幅の前記比、及び、前記異なる2つのサンプリング期間の間の時間の長さに基づいて、前記特性値σを取得する
請求項
1に記載の圧延装置の状態評価方法。
【請求項3】
前記圧延ロールの回転数frでの圧延中の時刻t1における振幅をA
1
とし、前記圧延ロールの前記回転数frでの圧延中の時刻t2における振幅をA
2
とし、Δt=(t2-t1)としたとき、前記特性値σが下記式
σ=ln(A
2
/A
1
)/(fr・Δt)
で表されることを特徴とする請求項1又は2に記載の圧延装置の状態評価方法。
【請求項4】
前記圧延ロールの異なる複数の回転数について、前記振動データ取得ステップ、前記振幅取得ステップ、及び、前記特性値取得ステップを実行することにより、前記圧延ロールの回転数frと前記特性値σとの相関関係を取得する相関関係取得ステップをさらに備える
請求項
1乃至3
の何れか一項に記載の圧延装置の状態評価方法。
【請求項5】
前記圧延ロールの回転数fr1での圧延中に取得された前記振動データに基づいて、時刻t1を含むサンプリング期間における前記振動の振幅を取得するステップを備え、
前記評価ステップでは、前記相関関係に基づいて、前記回転数fr1での圧延を前記時刻t1から継続した場合に前記振幅が閾値に達するまでの時間を算出する
請求項4に記載の圧延装置の状態評価方法。
【請求項6】
前記相関関係を取得した後で前記圧延ロールを用いた圧延中に取得された前記振動データから取得される前記振動の振幅に関するデータに基づいて、前記相関関係を修正するステップを備える
請求項4又は5に記載の圧延装置の状態評価方法。
【請求項7】
圧延ロールが偏摩耗してN角形になるN角形化の成長傾向を評価するための装置であって、
前記圧延ロールの回転数frでの圧延中に、複数のサンプリング期間の各々において、前記圧延ロールの振動を示す振動データを取得するように構成された振動データ取得部と、
前記複数のサンプリング期間に取得した前記振動データの各々について、周波数分析を行い、前記N角形に対応する周波数における前記振動の振幅を取得するように構成された振幅抽出部と、
前記振動データ取得部により異なる2つのサンプリング期間に取得された前記振動データについて、前記振幅抽出部によりそれぞれ取得された前記振幅の比に基づいて、前記回転数frでの圧延中における前記圧延ロールの前記N角形に対応する周波数の振動の振幅の経時変化の指標を示す特性値σを算出するように構成された特性値算出部と、
前記
特性値σに基づいて、前記回転数frでの圧延時における前記圧延ロールの前記N角形化の成長傾向を評価するように構成された評価部と、
前記評価部による評価結果を出力する出力部と、
を備える、圧延装置の状態評価装置。
【請求項8】
金属板を圧延するための圧延ロールを含む圧延装置と、
前記圧延ロールの偏摩耗によるN角形化の成長傾向を評価するように構成された請求項7に記載の状態評価装置と、
を備える圧延設備。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、圧延装置の状態評価方法及び状態評価装置並びに圧延設備に関する。
【背景技術】
【0002】
圧延ロールを含む圧延装置による金属板等の圧延において、圧延装置の振動の計測結果に基づいて、圧延された製品の不具合の発生を検出したり抑制したりすることがある。
【0003】
例えば、特許文献1には、圧延機のハウジングやロールチョックに設置した振動センサにより振動を検出し、得られた振動データの周波数解析の結果に基づいて、圧延される金属板に生じる縞状の疵(チャタマーク)の原因となり得る圧延機の共振現象(チャタリング)を検出することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、圧延ロールを含む圧延装置において金属板等の材料の圧延を続けると、圧延ロールの断面形状が特定のN角形に近づくN角形化が生じることがある。圧延ロールのN角形化が生じて成長すると、圧延ロールにより圧延された材料の表面に、圧延ロールのN角形に対応した凹凸が形成され、製品の品質上問題となることがある。そこで、圧延ロールのN角形化の成長傾向を適切に把握して、製品の品質低下を抑制することが望まれる。
【0006】
上述の事情に鑑みて、本発明の少なくとも一実施形態は、圧延ロールのN角形化の成長傾向を適切に評価可能な圧延装置の状態評価方法及び状態評価装置並びに圧延設備を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の少なくとも一実施形態に係る圧延装置の状態評価方法は、
圧延装置の圧延ロールが偏摩耗してN角形になるN角形化の成長傾向を評価するための方法であって、
前記圧延ロールの回転数frでの圧延中に、複数のサンプリング期間の各々において、前記圧延ロールの振動を示す振動データを取得する振動データ取得ステップと、
前記複数のサンプリング期間に取得した前記振動データの各々について、周波数分析を行い、前記N角形に対応する周波数における前記振動の振幅を取得する振幅取得ステップと、
前記振動データの各々について取得された前記振幅の経時変化に基づいて、前記回転数frでの圧延時における前記圧延ロールの前記N角形化の成長傾向を評価する評価ステップと、
を備える。
【発明の効果】
【0008】
本発明の少なくとも一実施形態によれば、圧延ロールのN角形化の成長傾向を適切に評価可能な圧延装置の状態評価方法及び状態評価装置並びに圧延設備が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】一実施形態に係る状態評価方法及び状態評価装置が適用される圧延設備の模式図である。
【
図2】一実施形態に係る状態評価装置の概略構成図である。
【
図3】一実施形態に係る状態評価方法の概略的なフローチャートである。
【
図4A】圧延ロールにおけるN角形に対応する振動振幅Aの経時変化の一例を模式的に示すグラフである。
【
図4B】圧延ロールの回転数と時間との関係の一例を模式的に示すグラフである。
【
図5A】圧延ロールの振動データを周波数分析して得られる周波数スペクトルの一例の模式図である。
【
図5B】
図5Aに示す振動データのサンプリング期間から時間Δt経過後のサンプリング期間に取得された圧延ロールの振動データを周波数分析して得られる周波数スペクトルの一例の模式図である。
【
図6】圧延ロールの回転数frと特性値σの相関関係(特性図)の典型的な一例を示す図である。
【
図7】圧延ロールのN角形化が生じている圧延装置の模式図である。
【
図8】表示部に表示される評価結果の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、添付図面を参照して本発明の幾つかの実施形態について説明する。ただし、実施形態として記載されている又は図面に示されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対的配置等は、本発明の範囲をこれに限定する趣旨ではなく、単なる説明例にすぎない。
【0011】
図1は、幾つかの実施形態に係る状態評価方法及び状態評価装置が適用される圧延設備の模式図である。
図1に示すように、一実施形態に係る圧延設備1は、金属板Sを圧延するように構成された圧延スタンド10を含む圧延装置2と、圧延装置2の状態を評価するための状態評価装置50と、を備えている。また、圧延設備1は、圧延スタンド10を構成する圧延ロール3の振動を計測するための振動計測部90を備えている。
【0012】
圧延スタンド10は、金属板Sを圧延するための複数の圧延ロール3と、圧延ロール3に荷重を加えて金属板Sを圧下するための圧下装置8と、ハウジング(不図示)等を含む。圧下装置8は、油圧シリンダを含んでいてもよい。
【0013】
図1に示す圧延装置2では、圧延ロール3は、金属板Sを挟むように設けられる一対のワークロール4A,4Bと、一対のワークロール4A,4Bを挟んで金属板Sとは反対側に設けられ、一対のワークロール4A,4Bをそれぞれ支持するための一対のバックアップロール6A,6Bと、を含む。ワークロール4A,4Bは、それぞれ、ロールチョック5A,5Bによって回転可能に支持されている。バックアップロール6A,6Bは、それぞれ、ロールチョック7A,7Bによって回転可能に支持されている。ロールチョック5A,5B及びロールチョック7A,7Bは、ハウジング(不図示)によって支持されている。
【0014】
図1に示す圧延設備1において、振動計測部90は、ロールチョック5A,5B,7A,7Bにそれぞれ取り付けられた加速度センサ91~94を含む。加速度センサ91~94は、それぞれ、ロールチョック5A,5B,7A,7Bの任意の方向(例えば、垂直方向、水平方向、及び/又は、圧延ロール3の回転軸方向)における振動、すなわち、ワークロール4A,4B及びバックアップロール6A,6Bの任意の方向における振動を検出するように構成されている。加速度センサ91~94で検出された、上述の振動を示す信号は、状態評価装置50に送られるようになっている。
【0015】
他の実施形態では、振動計測部90は、圧延ロール3の任意の方向における変位を計測するように構成された変位検出部を含んでいてもよい。この場合、変位検出部による計測結果に基づいて、圧延ロール3の振動を算出するようにしてもよい。変位検出部として、例えば、レーザ式又は渦電流式等の変位計を用いることができる。あるいは、変位検出部として撮像装置(カメラ等)を用いることができる。この場合、圧延ロール3の一部位を撮像装置で撮像し、得られた撮像データを画像処理することにより、圧延ロール3の振動を算出するようにしてもよい。
【0016】
図2は、一実施形態に係る状態評価装置50の概略構成図である。状態評価装置50は、詳しくは後述するように、圧延ロール3の偏摩耗によるN角形化の成長傾向を評価するように構成されている。状態評価装置50は、振動計測部90から圧延ロール3の振動を示す信号を受け取るとともに、ロール回転数計測部95にて計測された圧延ロール3の回転数を示す信号を受け取るように構成されている。また、状態評価装置50は、鋼種データ記憶部96から、圧延装置2で圧延される金属板Sの鋼種データ(材質や硬さ等)を取得するように構成されている。状態評価装置50は、受け取った情報を処理するための振動データ取得部52、周波数分析部54、振幅抽出部56、特性値算出部62、相関関係取得部66、及び、評価部68等を含む。また、状態評価装置50は、該状態評価装置50による評価結果を出力するように構成された出力部72を含む。状態評価装置50による評価結果は、出力部72を介して表示部98(ディスプレイ等)に出力されるようになっている。
【0017】
状態評価装置50は、CPU、メモリ(RAM)、補助記憶部及びインターフェース等を含んでいてもよい。状態評価装置50は、インターフェースを介して、各種計測器(上述の振動計測部90又はロール回転数計測部95等)からの信号を受け取るようになっている。CPUは、このようにして受け取った信号を処理するように構成される。また、CPUは、メモリに展開されるプログラムを処理するように構成される。
【0018】
状態評価装置50での処理内容は、CPUにより実行されるプログラムとして実装され、補助記憶部に記憶されていてもよい。プログラム実行時には、これらのプログラムはメモリに展開される。CPUは、メモリからプログラムを読み出し、プログラムに含まれる命令を実行するようになっている。
【0019】
上述した圧延装置2において、特定の回転数で金属板Sの圧延を続けると、圧延ロール3の断面形状が特定のN角形に近づくN角形化が生じることがある。ここで、
図7は、圧延ロール3のN角形化が生じている圧延装置の模式図である。
図7に示す圧延装置2は、複数の圧延スタンド10A~10Cを含む。圧延ロール3の軸方向に直交する断面形状は、通常、圧延スタンド10A又は10Cの圧延ロール3のように円形形状を有するが、
図7に示す圧延スタンド10Bの圧延ロール3(ワークロール4A,4B及びバックアップロール6A,6B)の断面形状はN角形(具体的には12角形)となっており、これらの圧延ロール3にはN角形化が生じている。
【0020】
圧延ロール3のN角形化が生じて成長すると、圧延ロール3により圧延された金属板Sの表面に、圧延ロール3のN角形に対応した凹凸が形成され、製品の品質上問題となることがある。そこで、圧延ロール3のN角形化の成長傾向を適切に把握して、製品金属板の品質低下を抑制することが望まれる。以下に説明する圧延装置の状態評価方法によれば、圧延ロール3のN角形化の成長傾向を適切に把握することができる。
【0021】
なお、
図7においては、各圧延ロール3において、12角形化(N=12)が生じた様子が模式的に示されているが、実際の圧延装置では、圧延ロール3の回転数等の運転条件にもよるが、Nが50程度あるいは100程度のN角形が圧延ロール3に生じることもある。
【0022】
また、圧延装置2の運転条件や仕様(固有振動数等)に応じて、特定の圧延スタンド10において圧延ロール3のN角形化が生じたり、1つの圧延スタンドを構成する複数の圧延ロール3のうち、特定の圧延ロール3(ワークロール4A,4B又はバックアップロール6A,6B)にてN角形化が生じたりすることがある。例えば、比較的高温で行う熱間圧延の場合、ワークロール4A,4BにおいてN角形化が比較的起きやすい。また、比較的低温で行う冷間圧延の場合、バックアップロール6A,6BにおいてN角形化が比較的起きやすい。
【0023】
次に、幾つかの実施形態に係る圧延装置の状態評価方法について説明する。この状態評価方法により、圧延ロール3(ワークロール4A,4B又はバックアップロール6A,6B)のN角形化の成長傾向を評価することができる。なお、以下においては、上述の状態評価装置50を用いて圧延装置の状態を評価する方法について説明するが、幾つかの実施形態では、以下に説明する状態評価装置50による処理の一部又は全部をマニュアルで行うことにより、圧延装置の状態評価を行うようにしてもよい。
【0024】
図3は、一実施形態に係る圧延装置の状態評価方法の概略的なフローチャートである。
一実施形態では、まず、振動データ取得部52により、圧延ロール3の特定の回転数frでの圧延中に、複数のサンプリング期間における圧延ロール3の振動を示す振動データを取得する(振動データ取得ステップ;ステップS102)。該振動データとして、上述の振動計測部90により計測したものをオンラインで取得するようにしてもよい。あるいは、過去に振動計測部90で計測され、記憶装置に記憶された振動データを該記憶装置から読み出すことによって、取得するようにしてもよい。
【0025】
次に、周波数分析部54により、複数のサンプリング期間に取得した振動データの各々について周波数分析を行う(ステップS104)。また、振幅抽出部56により、周波数分析の結果得られる周波数スペクトルに基づいて、特定のN角形に対応する周波数(fr×N)における振動の振幅A(以下、N角形に対応する振動振幅A等ともいう。)を取得する(振幅取得ステップ;ステップS106)。
【0026】
そして、評価部68により、ステップS106にて振動データの各々について取得された振動振幅Aの経時変化に基づいて、圧延ロール3の回転数frでの圧延時における圧延ロール3のN角形化の成長傾向を評価する(評価ステップ;ステップS112)。
【0027】
一実施形態では、特性値算出部62により、ステップS106にて取得した振動振幅A等に基づいて、該振動振幅Aの経時変化の指標を示す特性値σを算出してもよい(特性値取得ステップ;ステップS108)。この場合、ステップS112では、ステップS108にて算出した特性値σに基づいて、圧延ロール3の回転数frでの圧延時における圧延ロール3のN角形化の成長傾向を評価するようにしてもよい。
【0028】
また、一実施形態では、相関関係取得部66により、圧延ロール3の複数の回転数frにて上述のステップS102~S108を行って、複数の回転数frにそれぞれ対応する特性値σを取得して、圧延ロール3の回転数frと特性値σの相関関係を示す特性図を取得してもよい(相関関係取得ステップ;ステップS110)。この場合、ステップS112では、ステップS110にて取得した特性図(相関関係)に基づいて、圧延ロール3の回転数frでの圧延時における圧延ロール3のN角形化の成長傾向を評価するようにしてもよい。
【0029】
すなわち、
図3のフローチャートにおけるステップS108及びステップS110は、必要に応じて実行可能な任意のステップである。
【0030】
以下、各ステップについてより具体的に説明する。
【0031】
上述したように、ステップS102では、圧延ロール3の特定の回転数frでの圧延中に、複数のサンプリング期間の各々において、圧延ロール3の振動を示す振動データを取得する。
【0032】
ここで、
図4Aは、圧延ロール3における特定のN角形に対応する振動振幅A(ステップS106で取得される振動振幅に対応するもの)の経時変化の一例を模式的に示すグラフである。
図4Bは、時間tと、圧延ロール3の回転数frとの関係の一例を模式的に示すグラフである。なお、
図4Aのグラフと
図4Bグラフの時間軸(横軸)は共通である。
【0033】
図4A及び
図4Bに示すように、圧延ロール3の回転数frに応じて、特定のN角形に対応する振動振幅Aの経時変化の傾向(増加又は減少、及びその速度等)は異なる。
図4A及び
図4Bに示す例では、時刻t0から時刻t1までの期間(当該期間の長さΔt1)は、圧延ロール3の回転数fr1で圧延を行っている(
図4B参照)。この期間中、特定のN角形に対応する振動振幅Aは、増加傾向を示している(
図4A参照)。これは、圧延ロール3においてN角形化が成長していること、すなわち、圧延ロール3の軸方向に直交する断面の形状が、円形からN角形に近づくように変形していることを示す。また、時刻t1において、圧延ロール3の回転数fr1からfr2(ただしfr1<fr2)に変更し、時刻t1から時刻t2までの期間(当該期間の長さΔt2)は、圧延ロール3の回転数fr2で圧延を行っている(
図4B参照)。この期間中、特定のN角形に対応する振動振幅Aは、減少傾向を示している(
図4A参照)。これは、圧延ロール3においてN角形化が減衰していること、すなわち、圧延ロール3の軸方向に直交する断面の形状が、N角形から円形に近づくように変形していることを示す。
【0034】
したがって、圧延ロール3の特定の回転数frでの圧延中に、異なる2つの時刻ti、ti+1におけるN角形に対応する振動振幅Ai,Ai+1を取得すれば、振動振幅Aiと振動振幅Ai+1との比較により、圧延ロール3のN角形化の成長傾向を評価することができる。
【0035】
例えば、ステップS102では、圧延ロール3の回転数fr1で圧延中の時刻t0を含むサンプリング期間と、時刻t1(ただし、t0<t1)を含むサンプリング期間において、振動データを取得する(
図4A及び
図4B参照)。そして、これらの振動データについて周波数分析を行い、時刻t0におけるN角形に対応する振動振幅A0と、時刻t1におけるN角形に対応する振動振幅A1を取得する(ステップS104及びS106)。そして、ステップS112では、上述の振動振幅A0と振動振幅A1との比較により、圧延ロール3のN角形化の成長傾向を評価する。より具体的には、
図4Aに示すように、振動振幅A0に比べて振動振幅A1は大きいので、圧延ロール3の回転数fr1では、N角形に対応する振動振幅Aは増大する傾向である。すなわち、圧延ロール3の回転数fr1では、圧延ロール3のN角形化は成長する、と評価することができる。
【0036】
同様に、圧延ロール3の回転数frで圧延中の時刻t1を含むサンプリング期間と、時刻t2(ただし、t1<t2)を含むサンプリング期間に取得された振動データを用いて得られる、時刻t1におけるN角形に対応する振動振幅A1と、時刻t2におけるN角形に対応する振動振幅A2を比較することにより、圧延ロール3のN角形化の成長傾向を評価することができる。
図4Aに示すように、振動振幅A1に比べて振動振幅A2は小さいので、圧延ロール3の回転数fr2では、N角形に対応する振動振幅Aは減少する傾向である。すなわち、圧延ロール3の回転数fr2では、圧延ロール3のN角形化は減衰する、と評価することができる。
【0037】
上述した方法によれば、圧延ロール3の特定の回転数frにて金属板Sの圧延中に取得された振動データに基づいて、特定のN角形に対応する周波数(fr×N)の振動の振幅(振動振幅A)を取得するようにしたので、該振動振幅Aの経時変化に基づいて、圧延ロール3の回転数frにおける圧延ロール3のN角形化の成長傾向(例えば、N角形化が成長又は減衰しているか否か等)を評価することができる。したがって、例えば、この評価に基づいて、圧延ロール3のN角形化が成長しないように圧延装置2の運転制御を行うことにより、製品金属板の品質低下を抑制することができる。
【0038】
ここで、
図5Aは、圧延ロール3の特定の回転数frにて、あるサンプリング期間に取得された圧延ロール3の振動データを周波数分析して得られる周波数スペクトルの模式図である。
図5Bは、同じ回転数frにて、
図5Aに示す振動データのサンプリング期間から時間Δt経過後のサンプリング期間に取得された圧延ロール3の振動データを周波数分析して得られる周波数スペクトルの模式図である。
図5A及び
図5Bにおいて、周波数fr×(N-1)、fr×N、及び、fr×(N+1)は、それぞれ、(N-1)角形、N角形、及び、(N+1)角形に対応する振動周波数を示す。
【0039】
図5A及び
図5Bに示すように、同一の回転数frで圧延を行った場合、あるN角形(N1角形)の成長傾向と、別のN角形(N2角形)の成長傾向は、独立したものとなる。
図5A及び
図5Bにおいて、回転数frでの圧延をΔt継続したときに、圧延ロール3のN角形に対応する振動振幅A
N(周波数fr×Nにおける振動振幅)は、A
N
i(
図5A)からA
N
i+1(
図5B)に増加している。これに対し、同様の条件で、圧延ロール3の(N-1)角形に対応する振動振幅A
N-1(周波数fr×(N-1)における振動振幅)は、A
N-1
i(
図5A)からA
N-1
i+1(
図5B)に減少しており、また、圧延ロール3の(N+1)角形に対応する振動振幅A
N+1(周波数fr×(N+1)における振動振幅)は、A
N+1
i(
図5A)からA
N+1
i+1(
図5B)に減少している。すなわち、この圧延ロール3の回転数frの条件では、圧延ロール3のN角形化は成長すると同時に、(N-1)角形化及び(N+1)角形化は減衰する。
一方、別の回転数frでは、圧延ロール3のN角形化は減衰するが、(N-1)角形化又は(N+1)角形化は成長する、ということもあり得る。
【0040】
したがって、例えば、圧延ロール3の回転数frで圧延を行い、圧延ロール3のN角形化が進行し過ぎる前に、圧延ロール3の回転数frを変更することで、圧延ロール3のN角形化の進行を適切に抑制することができる。また、変更後の回転数での運転にて、圧延ロール3のN角形化は減衰するが、(N+1)角形化が成長する場合であっても、圧延ロール3の(N+1)角形化が進行し過ぎる前に、圧延ロール3の回転数を変更することで、圧延ロール3の(N+1)角形化の進行を適切に抑制することができる。
【0041】
このようにして、圧延ロール3の回転数frを、N角形化の成長傾向の評価結果に基づいて適切に選択することで、圧延ロール3の多角形化を適切に抑制することができる。
【0042】
次に、ステップS108での特性値σの算出について説明する。本発明者らの知見によれば、一定の回転数frでの圧延中、N角形に対応する振動振幅Aは、指数関数的に増減する。そして、圧延ロール3の回転数fr1で圧延中の時刻t0及びt1における、上述のN角形に対応する振動振幅A0及びA1は、下記式(A)で示す関係を満たす。
A1=A0×exp(σ(Φ1)・fr1・Δt1) …(A)
【0043】
また、圧延ロール3の回転数fr2で圧延中の時刻t1及びt2における、上述のN角形に対応する振動振幅A1及びA2は、下記式(B)で示す関係を満たす。
A2=A1×exp(σ(Φ2)・fr2・Δt2) …(B)
上記式(B)を一般化して整理すると、下記式(C)が得られる。
Ai+1/Ai=exp(σ(Φi+1)・fri+1・Δti+1) …(C)
上記(C)の両辺の自然対数をとって整理すると、下記式(D)が得られる。
σ(Φi+1)=ln(Ai+1/Ai)/(fri+1・Δti+1) …(D)
【0044】
ここで、上記式(A)~(D)中のσ(Φi)は、圧延ロール3の回転数friに対応して定まる特性値(以下、単に「特性値σ」ともいう。)である。また、Φiは、Φi=fri×N/fn(ただし、fnは圧延ロール3の固有振動数)で表されるパラメータである。なお、Nは特定の自然数(角形数)であり、fnも圧延対象の金属板の材質や厚さ等によらず概ね一定であると見做すことができるので、Φiは圧延ロール3の回転数friと概ね比例関係にある。
【0045】
したがって、圧延ロール3の特定の回転数frでの圧延中に、異なる2つの時刻ti、ti+1におけるN角形に対応する振動振幅Ai,Ai+1を取得すれば、上記式(D)から、この回転数frに対応する特性値σを算出することができる。
【0046】
例えば、ステップS102では、圧延ロールの回転数fr2で圧延中の時刻t1を含むサンプリング期間と、時刻t2を含むサンプリング期間において、振動データを取得する。そして、これらの振動データについて周波数分析を行い、時刻t1におけるN角形に対応する振動振幅A1と、時刻t2におけるN角形に対応する振動振幅A2を取得する(ステップS104及びS106)。ステップS108ではこれらの振動振幅A1,A2と、圧延ロール3の回転数fr2と、上述の2つのサンプリング期間の間の時間の長さΔt2とから、回転数fr2に対応するσ(Φ2)を算出することができる。
【0047】
ここで、第1のサンプリング期間(例えば時刻t1を含むサンプリング期間)と、第2のサンプリング期間(例えば時刻t2を含むサンプリング期間)の間の時間の長さ(以下、サンプリング期間の時間差ともいう。)Δtは、例えば、各サンプリング期間の開始時刻の差であってもよく、各サンプリング期間の終了時刻の差であってもよく、あるいは、第1のサンプリング期間の開始時刻と第2のサンプリング期間の終了時刻との差であってもよいが、各iについて同じ算出方法で取得される。
【0048】
上記式(D)により算出された特性値σがゼロより大きい場合、上記式(D)の右辺中の(Ai+1/Ai)が1よりも大きくなる。したがって、特性値σがゼロより大きいことは、当該σに対応する回転数frにおいて圧延ロール3のN角形化が成長することを示す。一方、上記式(D)により算出された特性値σがゼロより小さい場合、上記式(D)の右辺中の(Ai+1/Ai)が1よりも小さくなる。したがって、特性値σがゼロより小さいことは、当該σに対応する回転数frにおいて圧延ロール3のN角形化が減衰することを示す。
【0049】
このように、圧延ロール3のN角形に対応する振動振幅Aの比(Ai+1/Ai)は、2つのサンプリング期間の間における、振動振幅Aの経時変化の傾向(振幅の増大又は減少等)を示すものである。したがって、上述のように、この比(Ai+1/Ai)に基づいて取得される特性値σは、圧延ロール3の回転数frでの圧延中における圧延ロール3のN角形化の成長傾向(N角形化の成長又は減衰等)を示す指標となり得る。したがって、特性値σを用いることにより、圧延ロール3の回転数frにおける圧延ロール3のN角形化の成長傾向を適切に評価することができる。
【0050】
また、上記式(D)で算出される特性値σは、上記式(D)の右辺の分子に、振動データのサンプリング期間同士の時間差(Δt)が含まれることから、単位時間当たりの振動振幅の変化を示すものである。したがって、特性値σが正の領域では、特性値σが大きいほど、N角形に対応する振動振幅Aの増加速度が大きく、圧延ロール3のN角形化の成長速度が速い傾向であると評価することができる。また、特性値σが負の領域では、特性値σが小さいほど、N角形に対応する振動振幅Aの減少速度が大きく、圧延ロール3のN角形化の減衰速度が速い傾向であると評価することができる。
【0051】
このように、圧延ロール3のN角形に対応する振動振幅の比(Ai+1/Ai)、及び、2つのサンプリング期間の時間差Δtにより、2つのサンプリング期間の間における、上述の振幅の単位時間あたりの変化度合いがわかる。したがって、上述の振動振幅の比(Ai+1/Ai)、及び、時間差Δtに基づいて取得される特性値σは、圧延ロール3の回転数frでの圧延中における圧延ロール3のN角形化の成長又は減衰の速度の指標となり得る。よって、この特性値σを用いることにより、圧延ロール3の回転数frにおける圧延ロール3のN角形化の成長傾向を適切に評価することができる。
【0052】
次に、ステップS110(相関関係取得ステップ)での回転数frと特性値σとの相関関係(特性図)の取得について説明する。ステップS110では、上述したように、圧延ロール3の複数の回転数frにて上述のステップS102~S118を行い、複数の回転数frにそれぞれ対応する特性値σを取得する。このように取得された回転数frと特性値σの組合せは、記録部60(
図2参照)に記録されるようになっていてもよい。このように取得された回転数frと特性値σの組合せをグラフにプロットすることで、回転数frと特性値σとの相関関係(特性図)を取得することができる。
【0053】
図6は、ステップS110で取得される回転数frと特性値σの相関関係(特性図)の典型的な一例を示す図である。
図6のグラフの横軸のパラメータΦ(Φ=fr×N/fn)は、上述したように、回転数frの指標となるパラメータである。
【0054】
図6に示すように、典型的な特性図においては、「N」に関わらず、Φ=1(即ち、N角形に対応する周波数fr×Nが圧延ロール3の固有振動数と等しくなる回転数fr)の近傍と、Φ<1の領域に、σがゼロとなるΦ(
図6中のΦ=α2及びΦ=α1)(即ち回転数)が存在する。
【0055】
そして、α1<Φ<α2の回転数領域においてσがゼロより大きく、特に、Φ≒α2にてσが極大となっている。すなわち、この回転数領域では、圧延ロール3のN角形化が成長(進行)し、σが大きいほど、圧延ロール3のN角形化の成長速度が速い。一方、Φ<α1及びΦ>α2の回転数領域ではσがゼロよりも小さい。すなわち、この回転数領域では、圧延ロール3のN角形化が減衰し、σが小さいほど、圧延ロール3のN角形化の減衰速度が速い。なお、σ=0では、圧延ロール3のN角形化は成長も減衰もしない。
【0056】
ステップS110で上述の特性図(相関関係)を取得したら、ステップS112において、この特性図に基づいて、圧延ロール3の回転数frでの圧延時における圧延ロール3のN角形化の成長傾向を評価することができる。すなわち、上述の特性図を用いることで、圧延ロール3の様々な回転数frに対応するσを取得することができるので、圧延ロール3の特定の回転数に対応するN角形化の成長傾向を評価することができる。よって、例えば、現在の圧延ロール3の回転数に対応するσを把握して、現時点での圧延ロール3のN角形化の成長傾向を把握したり、あるいは、将来変更予定の圧延ロール3の回転数での圧延ロール3のN角形化の成長傾向を予測したりすることができる。
【0057】
なお、圧延する金属板Sの鋼種に応じて、各鋼種に適合する特性図を複数種作成してもよい。この場合、ステップS110では、鋼種データ記憶部96(
図2参照)から鋼種データ(鋼種毎の材質や硬さ等の情報を含む)を読み出し、該鋼種データとともに回転数fr及び特性値σの組合せを記録部60(
図2参照)に記録し、この記録に基づいて、鋼種毎に特性図(回転数frと特性値σとの相関関係)を取得するようにしてもよい。
【0058】
幾つかの実施形態では、ステップS112での評価結果を、出力部72(
図2参照)を介して、表示部98(ディスプレイ等)に出力するようにしてもよい。
【0059】
図8は、表示部98に表示される評価結果の一例を示す図である。
図8に示す例では、回転数fr(即ちΦ)と特性値σとの相関関係のグラフとともに、圧延ロール3の現在の回転数frにおける複数種のN角形(N=39,40,41)の各々に対応する特性値σを、グラフ上の点として示したものである。なお、各N角形について、回転数frと特性値σの相関関係を示すグラフは個別に得られるが、
図8(及び
図6)のグラフのように、角形数N及び圧延ロール3の固有振動数fnで回転数frを正規化したパラメータΦを用いてグラフ化すると、複数種のN角形についての相関関係の曲線(特性図)がほぼ重なる場合がある。
【0060】
図8のグラフからは、現在の回転数frでは、N=40(40角形)についてのσは0より大きいことから、圧延ロール3において40角形が成長していることがわかる。また、この図から、現在の回転数frでは、N=39(39角形)及びN=41(41角形)についてのσは0よりも小さいことから、圧延ロール3において39角形及び41角形が減衰していることがわかる。
【0061】
上述の相関関係を取得すると、例えば、現在の運転状態と同じ運転条件(圧延ロール3の回転数)で運転を継続した場合に、特定のN角形に対応する振動振幅が閾値に達する時間を予測することができる。幾つかの実施形態では、圧延ロール3の回転数fr1での圧延中、時刻t1を含むサンプリング期間に圧延ロール3の振動データを取得し、周波数分析を行うことで、時刻t1を含むサンプリング期間におけるN角形に対応する振動振幅A1を取得する。そして、ステップS110で取得した、回転数frと特性値σとの相関関係に基づいて、圧延ロール3の回転数fr1での圧延を前記時刻t1から継続した場合に振動振幅が閾値Athに達するまでの時間Δtcを算出する。
【0062】
上記時間Δtcの算出方法の一例について説明する。式(D)より、特性値σは、圧延ロール3の回転数fri+1での圧延中、時間Δti+1の間の振幅の変化を比(Ai+1/Ai)で示すものである。したがって、式(D)より、回転数fr1での圧延中の特性値σを、回転数fr1での圧延中のある時点でのN角形に対応する振動振幅A、振動振幅の閾値Ath(ただしA<Ath)、及び、振動振幅がAからAthになるまでの時間Δtcを用いて、下記式(E)のように表現できる。
σ=ln(Ath/A1)/(fr1・Δtc) …(E)
上記式(E)を変形して、下記式(F)が得られる。
Δtc=ln(Ath/A1)/(σ・fr1) …(F)
したがって、上記式(F)から、回転数fr1において圧延中の、N角形に対応する振動振幅A1である時刻t1(例えば現在の時刻)から、振動振幅が閾値Athとなる時刻までの時間の長さΔtcを算出(予測)することができる。
【0063】
上述の実施形態では、圧延ロール3の回転数frと特性値σとの上述の相関関係(圧延ロールのN角形化の成長傾向を示す相関関係)に基づいて、圧延ロール3の回転数fr1で圧延を時刻t1から継続した場合に、圧延ロール3のN角形に対応する振動振幅が既定の閾値Athに達するまでの時間Δtcを算出(予測)する。すなわち、圧延ロール3のN角形化が既定の程度(閾値Ath)に達するまでの時間を算出するようにしたので、算出された時間が経過する前に、例えば運転条件(圧延ロール回転数等)を変更したり、圧延ロール3を交換したりすることにより、圧延ロール3のN角形化の程度が大きくなりすぎるのを抑制することができる。これにより、圧延後の製品金属板の品質低下を抑制することができる。
【0064】
幾つかの実施形態では、圧延ロール3の回転数frと特性値σとの相関関係(特性図)を取得した後、修正部70により(
図2参照)、圧延ロール3を用いた圧延中に取得された振動データから取得される、N角形に対応する振動振幅に関するデータに基づいて、上述の相関関係(特性図)を修正するようにしてもよい。
【0065】
ここで、上述の相関関係を修正する手順の一例について説明する。式(D)より、回転数fr1での圧延中の特性値σを、回転数fr1での圧延中の時刻t1におけるN角形に対応する振動振幅A1、回転数fr1での圧延中の時刻t2(ただしt1<t2)におけるN角形に対応する振動振幅A2、及び、時刻t1とt2の時間差Δt(Δt=t2-t1)を用いて、下記式(G)のように表現できる。
σ=ln(A2/A1)/(fr1・Δt) …(G)
【0066】
したがって、上記式(G)から、圧延ロールの回転数fr1、時刻t1における上述の振動振幅A1、時刻t2における上述の振動振幅A2、及び、時刻t1とt2の時間差Δtの各実測値に基づいて、特性値σを算出することができる。すなわち、圧延ロール3の回転数fr1に対応する特性値σについて、実測値に基づく特性値σ(上記式(G)から算出されるもの)と、相関関係(特性図)に基づく特性値σの両方を取得することができる。したがって、実測値に基づく特性値σに基づいて相関関係(特性図)を修正することにより、より精度の良好な相関関係(特性図)を得ることができる。
【0067】
上述の実施形態によれば、圧延ロール3の回転数frと特性値σの相関関係(特性図)取得後に、圧延ロール3を用いた実際の圧延中に取得された振動データから取得される、圧延ロール3のN角形に対応する周波数の振動の振幅に関するデータに基づいて、回転数frと特性値σとの相関関係を修正するようにしたので、該相関関係に基づく、圧延ロール3のN角形化の成長傾向をより精度良く評価することができる。
【0068】
なお、上述において、各圧延ロール3(ワークロール4A,4B又はバックアップロール6A,6B)の振動を示すデータを、圧延ロール3を支持するロールチョック(ロールチョック5A,5B,7A又は7B)に取り付けた振動計測部90(具体的には加速度センサ91~94)を用いて取得する実施形態(
図1参照)について説明したが、振動計測部90の態様はこれに限定されない。
【0069】
例えば、幾つかの実施形態では、振動計測部は、圧延ロール3(ワークロール4A,4B及びバックアップロール6A,6B)を支持するハウジングの振動を検出するように構成されていてもよい。この場合、振動計測部により得られる振動データに基づいて、ハウジングに支持される圧延ロール3のN角形化の成長傾向を評価することができる。例えば、ハウジングに支持される複数の圧延ロール3のうち、何れかの圧延ロール3においてN角形化が成長又は減衰していることを検出することが可能である。このようにして、圧延ロール3のN角形化の成長が検出されたハウジングを含む圧延スタンドを特定してから、該圧延スタンドに含まれる複数の圧延ロール3の各々に対して振動計測部を設置し、各圧延ロール3のN角形化の成長傾向を個別に評価するようにしてもよい。
【0070】
以下、幾つかの実施形態に係る圧延装置の状態評価方法及び状態評価装置並びに圧延設備について概要を記載する。
【0071】
(1)本発明の少なくとも一実施形態に係る圧延装置の状態評価方法は、
圧延装置の圧延ロールが偏摩耗してN角形になるN角形化の成長傾向を評価するための方法であって、
前記圧延ロールの回転数frでの圧延中に、複数のサンプリング期間の各々において、前記圧延ロールの振動を示す振動データを取得する振動データ取得ステップと、
前記複数のサンプリング期間に取得した前記振動データの各々について、周波数分析を行い、前記N角形に対応する周波数における前記振動の振幅を取得する振幅取得ステップと、
前記振動データの各々について取得された前記振幅の経時変化に基づいて、前記回転数frでの圧延時における前記圧延ロールの前記N角形化の成長傾向を評価する評価ステップと、
を備える。
【0072】
本発明者らは、鋭意検討の結果、圧延中において圧延ロールのN角形化が成長する場合には、圧延ロールの振動に含まれるN角形に対応する周波数成分の振幅が時間経過に伴い増大すること、及び、圧延中において圧延ロールのN角形化が減衰する場合には、圧延ロールの振動に含まれるN角形に対応する周波数成分の振幅が時間経過に伴い減少することを見出した。
【0073】
この点、上記(1)の方法によれば、圧延ロールの特定の回転数frにて材料(金属板等)の圧延中に取得された振動データに基づいて、特定のN角形に対応する周波数の振動の振幅を取得するようにしたので、該振幅の経時変化に基づいて、圧延ロールの回転数frにおける圧延ロールのN角形化の成長傾向(例えば、N角形化が成長又は減衰しているか否か等)を評価することができる。したがって、例えば、この評価に基づいて、圧延ロールのN角形化が成長しないように圧延装置の運転制御を行うことにより、製品金属板の品質低下を抑制することができる。
【0074】
(2)幾つかの実施形態では、上記(1)の方法において、
前記振動データ取得ステップにて異なる2つのサンプリング期間に取得された前記振動データについて、前記振幅取得ステップにてそれぞれ取得された前記振幅の比に基づいて、前記回転数frでの圧延中における前記圧延ロールの前記N角形に対応する周波数の振動の振幅の経時変化の指標を示す特性値σを取得する特性値取得ステップをさらに備え、
前記評価ステップでは、前記特性値σに基づいて、前記回転数frでの圧延時における前記N角形化の成長傾向を評価する。
【0075】
上記(2)の方法では、圧延ロールの回転数frでの圧延中に異なる2つのサンプリング期間に取得された振動データからそれぞれ得られる、圧延ロールのN角形に対応する周波数の振動の振幅の比に基づいて、特性値σを取得する。前述の周波数の振動の振幅の比は、2つのサンプリング期間の間における、前述の周波数の振動の振幅の経時変化の傾向(振幅の増大又は減少等)を示すものであるから、この比に基づいて取得される特性値σは、圧延ロールの回転数frでの圧延中における圧延ロールのN角形化の成長傾向(N角形化の成長又は減衰等)を示す指標となり得る。よって、上記(2)の構成によれば、圧延ロールの回転数frにおける圧延ロールのN角形化の成長傾向を適切に評価することができる。
【0076】
(3)幾つかの実施形態では、上記(2)の方法において、
前記特性値取得ステップでは、前記振幅の前記比、及び、前記異なる2つのサンプリング期間の間の時間の長さに基づいて、前記特性値σを取得する。
【0077】
上記(3)の方法では、圧延ロールの回転数frでの圧延中に異なる2つのサンプリング期間に取得された振動データからそれぞれ得られる、圧延ロールのN角形に対応する周波数の振動の振幅の比、及び、2つのサンプリング期間の間の時間の長さ(2つのサンプリング期間の時間差)に基づいて、特性値σを取得する。すなわち、上述の振幅の比と、上述の時間差とから、2つのサンプリング期間の間における、上述の振幅の単位時間あたりの変化度合いがわかるから、上述の振幅の比、及び、上述の時間差に基づいて得られる特性値σは、圧延ロールの回転数frでの圧延中における圧延ロールのN角形化の成長又は減衰の速度の指標となり得る。よって、上記(3)の構成によれば、圧延ロールの回転数frにおける圧延ロールのN角形化の成長傾向を適切に評価することができる。
【0078】
(4)幾つかの実施形態では、上記(2)又は(3)の方法において、
前記圧延ロールの異なる複数の回転数について、前記振動データ取得ステップ、前記振幅取得ステップ、及び、前記特性値取得ステップを実行することにより、前記圧延ロールの回転数frと前記特性値σとの相関関係を取得する相関関係取得ステップをさらに備える。
【0079】
上記(4)の方法によれば、複数の回転数frの各々について、振動データ取得ステップ、振幅取得ステップ、及び、特性値取得ステップを実行することにより、特性値σを取得し、こうして得られる回転数frと特性値σとの複数の組み合わせから、回転数frと特性値σとの相関関係を取得する。したがって、このように取得される回転数frと特性値σとの相関関係に基づいて、圧延ロールのN角形化の成長傾向を適切に評価することができる。よって、例えば、特定の運転条件(圧延ロール回転数等)で圧延ロールのN角形化が成長するか否か、又は、圧延ロールのN角形化の成長速度がどれくらいであるかについて評価を行うことができ、この評価結果に基づいて、圧延ロールのN角形化が進行しない運転条件(圧延ロール回転数等)を選択することができる。これにより、圧延後の製品金属板の品質低下を抑制することができる。
【0080】
(5)幾つかの実施形態では、上記(4)の方法において、
前記圧延ロールの回転数fr1での圧延中に取得された前記振動データに基づいて、時刻t1を含むサンプリング期間における前記振動の振幅を取得するステップを備え、
前記評価ステップでは、前記相関関係に基づいて、前記回転数fr1での圧延を前記時刻t1から継続した場合に前記振幅が閾値に達するまでの時間を算出する。
【0081】
上記(5)の方法によれば、圧延ロールの回転数fr1での圧延中の時刻t1での振動データから、時刻t1での、圧延ロールのN角形に対応する振動の振幅A1を取得する。そして、回転数frと特性値σとの上述の相関関係(圧延ロールのN角形化の成長傾向を示す相関関係)に基づいて、圧延ロールの回転数fr1で圧延を時刻t1から継続した場合に、圧延ロールのN角形に対応する振動の振幅が既定の閾値に達するまでの時間を算出(予測)する。すなわち、圧延ロールのN角形化が既定の程度に達するまでの時間を算出するようにしたので、算出された時間が経過する前に、例えば運転条件(圧延ロール回転数等)を変更したり、圧延ロールを交換したりすることにより、圧延ロールのN角形化の程度が大きくなりすぎるのを抑制することができる。これにより、圧延後の製品金属板の品質低下を抑制することができる。
【0082】
(6)幾つかの実施形態では、上記(4)又は(5)の方法において、
前記相関関係を取得した後で前記圧延ロールを用いた圧延中に取得された前記振動データから取得される前記振動の振幅に関するデータに基づいて、前記相関関係を修正するステップを備える。
【0083】
上記(6)の方法によれば、上述の相関関係取得後に、実際に圧延ロールを用いた圧延中に取得された振動データから取得される、圧延ロールのN角形に対応する周波数の振動の振幅に関するデータに基づいて、回転数frと特性値σとの相関関係を修正するようにしたので、該相関関係に基づく、圧延ロールのN角形化の成長傾向をより精度良く評価することができる。
【0084】
(7)本発明の少なくとも一実施形態に係る圧延装置の状態評価装置は、
圧延装置の圧延ロールの偏摩耗によるN角形化の成長傾向を評価するための装置であって、
前記圧延ロールの回転数frでの圧延中に、複数のサンプリング期間の各々において、前記圧延ロールの振動を示す振動データを取得するように構成された振動データ取得部と、
前記複数のサンプリング期間に取得した前記振動データの各々について、周波数分析を行い、前記N角形に対応する周波数における前記振動の振幅を取得するように構成された振幅抽出部と、
前記振動データの各々について取得された前記振幅の経時変化に基づいて、前記回転数frでの圧延時における前記圧延ロールの前記N角形化の成長傾向を評価するように構成された評価部と、
前記評価部による評価結果を出力する出力部と、
を備える。
【0085】
上記(7)の構成によれば、圧延ロールの特定の回転数frにて材料(金属板等)の圧延中に取得された振動データに基づいて、特定のN角形に対応する周波数の振動の振幅を取得するようにしたので、該振幅の経時変化に基づいて、圧延ロールの回転数frにおける圧延ロールのN角形化の成長傾向(例えば、N角形化が成長又は減衰しているか否か等)を評価することができる。したがって、例えば、この評価に基づいて、圧延ロールのN角形化が成長しないように圧延装置の運転制御を行うことにより、製品金属板の品質低下を抑制することができる。
【0086】
(8)本発明の少なくとも一実施形態に係る圧延設備は、
金属板を圧延するための圧延ロールを含む圧延装置と、
前記圧延ロールの偏摩耗によるN角形化の成長傾向を評価するように構成された上記(7)に記載の状態評価装置と、
を備える。
【0087】
上記(8)の構成によれば、圧延ロールの特定の回転数frにて材料(金属板等)の圧延中に取得された振動データに基づいて、特定のN角形に対応する周波数の振動の振幅を取得するようにしたので、該振幅の経時変化に基づいて、圧延ロールの回転数frにおける圧延ロールのN角形化の成長傾向(例えば、N角形化が成長又は減衰しているか否か等)を評価することができる。したがって、例えば、この評価に基づいて、圧延ロールのN角形化が成長しないように圧延装置の運転制御を行うことにより、製品金属板の品質低下を抑制することができる。
【0088】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上述した実施形態に限定されることはなく、上述した実施形態に変形を加えた形態や、これらの形態を適宜組み合わせた形態も含む。
【0089】
本明細書において、「ある方向に」、「ある方向に沿って」、「平行」、「直交」、「中心」、「同心」或いは「同軸」等の相対的或いは絶対的な配置を表す表現は、厳密にそのような配置を表すのみならず、公差、若しくは、同じ機能が得られる程度の角度や距離をもって相対的に変位している状態も表すものとする。
例えば、「同一」、「等しい」及び「均質」等の物事が等しい状態であることを表す表現は、厳密に等しい状態を表すのみならず、公差、若しくは、同じ機能が得られる程度の差が存在している状態も表すものとする。
また、本明細書において、四角形状や円筒形状等の形状を表す表現は、幾何学的に厳密な意味での四角形状や円筒形状等の形状を表すのみならず、同じ効果が得られる範囲で、凹凸部や面取り部等を含む形状も表すものとする。
また、本明細書において、一の構成要素を「備える」、「含む」、又は、「有する」という表現は、他の構成要素の存在を除外する排他的な表現ではない。
【符号の説明】
【0090】
1 圧延設備
2 圧延装置
3 圧延ロール
4A,4B ワークロール
5A,5B ロールチョック
6A,6B バックアップロール
7A,7B ロールチョック
8 圧下装置
10,10A~10C 圧延スタンド
50 状態評価装置
52 振動データ取得部
54 周波数分析部
56 振幅抽出部
60 記録部
62 特性値算出部
66 相関関係取得部
68 評価部
70 修正部
72 出力部
90 振動計測部
91~94 加速度センサ
95 ロール回転数計測部
96 鋼種データ記憶部
98 表示部
S 金属板