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特許7180027ハダニを殺滅するためのタンパク質BVP8及びその使用
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  • 特許-ハダニを殺滅するためのタンパク質BVP8及びその使用 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-18
(45)【発行日】2022-11-29
(54)【発明の名称】ハダニを殺滅するためのタンパク質BVP8及びその使用
(51)【国際特許分類】
   A01N 63/50 20200101AFI20221121BHJP
   C07K 14/00 20060101ALI20221121BHJP
   C12N 15/11 20060101ALI20221121BHJP
   A01P 7/02 20060101ALI20221121BHJP
【FI】
A01N63/50
C07K14/00 ZNA
C12N15/11 Z
A01P7/02
【請求項の数】 2
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2022101036
(22)【出願日】2022-06-23
【審査請求日】2022-07-11
(31)【優先権主張番号】202110755725.1
(32)【優先日】2021-07-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】522252556
【氏名又は名称】湖北省生物農薬工程研究中心
(74)【代理人】
【識別番号】100095407
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 満
(74)【代理人】
【識別番号】100132883
【弁理士】
【氏名又は名称】森川 泰司
(74)【代理人】
【識別番号】100148633
【弁理士】
【氏名又は名称】桜田 圭
(74)【代理人】
【識別番号】100147924
【弁理士】
【氏名又は名称】美恵 英樹
(72)【発明者】
【氏名】劉 暁艶
(72)【発明者】
【氏名】閔 勇
(72)【発明者】
【氏名】陳 凌
(72)【発明者】
【氏名】朱 ▲レイ▼
(72)【発明者】
【氏名】邱 一敏
(72)【発明者】
【氏名】饒 犇
(72)【発明者】
【氏名】周 栄華
(72)【発明者】
【氏名】▲ゴン▼ 艶
(72)【発明者】
【氏名】廖 先清
(72)【発明者】
【氏名】陳 偉
(72)【発明者】
【氏名】邱 春富
(72)【発明者】
【氏名】石 麗橋
(72)【発明者】
【氏名】楊 靖鍾
【審査官】手島 理
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第110754471(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第109096379(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第109096378(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01N 63/50
C07K 14/00
C12N 15/11
A01P 7/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号2に示されるアミノ酸配列を有するタンパク質又は配列番号2に示されるアミノ酸配列を有するタンパク質を符号化する遺伝子の殺ハダニ剤の調製への使用であって、前記ハダニはナミハダニ、ミカンハダニ又はニセナミハダニである、使用。
【請求項2】
配列番号2に示されるアミノ酸配列を有するタンパク質又は配列番号2に示されるアミノ酸配列を有するタンパク質を符号化する遺伝子のハダニ卵の孵化阻害剤の調製への使用であって、前記ハダニはナミハダニである、使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は農業微生物学の技術分野に属し、具体的にはハダニを殺滅するためのタンパク質BVP8及びその応用に関する。
【背景技術】
【0002】
ハダニは農業生産における重要な有害ダニである。綿、食料、果樹、林木及び観賞用植物に被害を与える。ニセナミハダニは中国十大害虫の一つである。ナミハダニは1分間あたりに18~22個の植物細胞を刺すことができる。ミカンハダニはミカン樹の重要な有害ダニであり、リンゴミカンハダニ及びオウトウハダニは中国北方果樹の重要な有害ダニであり、被害がひどい場合、果実の収率が1/3~2/3低下する可能性がある。ホモノハダニは中国のコムギ生産地に分布し、被害がひどい場合、コムギ一粒の収穫もない可能性がある。綿畑に被害を与えるニセナミハダニが複数種類あり、30%以上減産させ、さらに綿株を完全に枯れ干からびさせる可能性がある。
【0003】
温度はハダニ数の増加と減少に影響を与える一つの重要な要因である。ハダニが活動する温度範囲と適切な温度は種類により異なる。リンゴハダニのような高温活性種は、最適増殖温度が25~28℃であり、ニセクローバービラハダニのような低温活性種の場合、21~24℃である。ハダニの多くは乾燥した気候を好み、好ましくは相対湿度が40~70%である。このため、乾燥且つ炎熱の天気は往々にしてハダニの繁殖を促進する。ハダニの繁殖方式は主に両性生殖であり、単為生殖もあり得る。ニセクローバービラハダニなどは雌ダニのみで、単為生殖のものである。ハダニ属などは雌雄両性で、有性生殖だけでなく、単為生殖を行うこともでき、即ち、受精していない雌ダニは雄性世代のみを生む。
【0004】
ハダニの防除方法は、主に農業防除、生物的防除及び化学防除に分けられる。農業防除には、冬に田園を整理し、病葉を除去して集中的に焼失することで、有害ダニの越冬数を低減することと、水肥管理を補強し、果樹園の微気候を改善するなどが含まれる。生物的防除には、天敵、生物殺ダニ剤などのグリーンで安全な手段を利用して管理することが含まれる。化学防除は、主に化学殺ダニ剤などの薬剤を採用して防除を行う。近年、殺ダニ剤の代替品の不足により、殺ダニ剤が多く繰り返して利用され、有害ダニの耐性の発生を加速し、それにより、ダニ被害が深刻になり、農家に多大な経済的損失をもたらす。
【0005】
現在、国際的には、開発された殺ダニ剤の多くは水に不溶な化学物質又は高分子抗生物質であるが、低分子タンパク質類物質に関する報告が少なく、以上の背景に鑑み、ハダニを防除するためのタンパク質類製剤を開発する必要があり、ハダニ生物防除の分野に用いると、重要な生産上の実用的意義を有する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的はハダニを殺滅するためのタンパク質を提供することであり、前記タンパク質は配列番号2に示されるとおりである。
【0007】
本発明の別の目的はハダニを殺滅するためのタンパク質の殺ハダニ剤の調製への応用を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明は以下の技術的解決手段を採用する。
【0009】
ハダニを殺滅するためのタンパク質であって、前記タンパク質は配列番号2に示されるとおりである。配列番号2に示されるタンパク質を符号化する遺伝子も、本発明の保護範囲にも属し、好ましい遺伝子は配列番号1に示すとおりである。
【0010】
本分野の通常の態様、例えば、原核、真核発現、又は直接合成された上記タンパク質を利用することは、いずれも本発明の保護範囲である。
【0011】
ハダニを殺滅するためのタンパク質の殺ハダニ剤の調製への応用であって、配列番号2に示されるタンパク質を有効成分の一つ、又は唯一の有効成分として、殺ハダニ剤を調製することを含む。本発明のハダニを殺滅するためのタンパク質はさらにハダニ卵の孵化阻害剤に用いられてもよい。
【0012】
以上に記載の応用において、好ましくは、前記ハダニはナミハダニ、ミカンハダニ又はニセナミハダニである。
【発明の効果】
【0013】
従来技術と比較して、本発明は以下の特徴を有する。
【0014】
本発明は、ハダニを殺滅するための新規なタンパク質及びその殺滅活性を初めて報告し、新規な殺ダニ剤の調製のための新しい選択である。
【0015】
BVP8タンパク質を含む殺ダニ剤は効率的で、低毒性で、環境に優しい利点を有する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】BVP8タンパク質を精製した後のSDS-PAGE電気泳動分析図である。
図2】BVP8タンパク質によるナミハダニ卵への作用効果図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
下記実施例における実験方法は、特別な説明がない限り、いずれも報告された微生物学的に通常の操作方法である。前記試薬又は材料は、特別な説明がない限り、いずれも本分野の通常の形態である。
【0018】
本発明に係るBVP8タンパク質は、本分野での通常の手段、例えば原核発現、商業的合成などの手段で得ることができる。本発明は原核発現BVP8タンパク質を例とし、その抗ダニ機能を説明するが、他の手段で得られた当該タンパク質も同じ機能を発揮することができる。
【0019】
(実施例1)
ダニを殺滅するためのBVP8タンパク質の取得:
1)配列番号1に示される配列(配列番号2に示されるタンパク質を符号化したもの)で、BVP8タンパク質遺伝子断片(Sangon Bioengineering(Shanghai)Co.Ltd.)を人工合成し、且つ大腸菌発現ベクターpet28aプラスミドに結合し、組換え発現プラスミドpet28a-BVP8を構築した。
【0020】
2)ダニを殺滅するためのBVP8タンパク質遺伝子の大腸菌BL21での発現と精製
ダニを殺滅するためのBVP8タンパク質を多く発現するために、上記の符号化配列が担持された組換え発現プラスミドpet28a-BVP8を大腸菌BL21に形質転換し、組換え菌BL21/pet28a-BVP8を得た。該組換え菌を5mL LB液体培地に接種し、37℃の振動台に置いてOD600が0.6になるまで培養した後、1.0mmol/Lのイソプロピル-B-Dチオガラクトシド(即ちIPTGであり、Sigma会社から購入されるもの)を添加して30℃で3時間誘導培養した。上記50mL組換え菌BL21/pet28a-BVP8の誘導培養を3時間行ったものを12000rpmで30秒間遠心分離して菌体を収集し、超音波(技術パラメータ:300W、粉砕30秒、間欠時間30秒)で細胞を粉砕した後、12000rpmで15分間遠心分離して上澄みを取り、続いて0.4μm孔径の濾過膜で濾過して異物を除去し、GST融合タンパク質のアフィニティークロマトグラフィー法で様々なタンパク質を精製した。最終的な精製生成物に対してSDS-PAGE電気泳動検出を行い、結果を図1に示すが、精製されたタンパク質とタンパク質分子量標準を比較すると、分子量が9kDaであることと推定され、予想されるタンパク質BVP8の分子量8.34kDaにほぼ一致し、本発明のBVP8タンパク質の大腸菌BL21での発現が成功したことが証明された。
【0021】
(実施例2)
1)BVP8タンパク質によるナミハダニ(Tetranychus urticae)の殺滅
FAO(国連食糧農業機関)で推薦する有害ダニ測定標準方法であるスライドグラス浸漬法を参照する。両面テープを2-3cmの長さに切り、顕微鏡のスライドガラスの一端に貼り付け、ピンセットでテープ上の紙を剥がし、0号毛筆で、大きさが一致し、色が鮮やかで、活発な雌成体を選択し、その背部を両面テープに貼り付け(ダニの足、髭及び口器に貼り付けないようにすることを注意する)、各シートに4行、各行に10匹貼り付けた。温度25℃、相対湿度85%の左右の生化学インキュベータに4時間放置した後、双眼鏡で観察し、死亡した又は活発でない生体を除去した。予備試験をベースとして水で薬剤を5-7種の濃度に希釈し、ダニ付きスライドグラスの一端を薬液に浸漬させ、軽く5秒間振った後に取り出し、吸水紙でダニ及びその周辺の余計な薬液を迅速に吸い取った。上記生化学インキュベータに置き、24時間後に双眼鏡で結果を検査する。毛筆でダニを軽く触れ、ダニの足が動かないものを死亡したものとした。各濃度のものに対して3回繰り返して行い、清水に浸漬したものを対照とした。上記実験ステップに従い、BVP8タンパク質懸濁液によってナミハダニをバイオアッセイすると、その結果は、以下の表1に示すように、12.98μg/mLであった。LC50値はSPASS 19.0データ処理ソフトウェアで算出された。
【0022】
表1:BVP8タンパク質によるナミハダニの殺滅活性
【表1】
【0023】
2)BVP10タンパク質によるミカンハダニ(Panonychus citri)の殺滅:
FAO(国連食糧農業機関)で推薦する有害ダニ測定標準方法であるスライドグラス浸漬法を参照する。両面テープを2-3cmの長さに切り、顕微鏡のスライドガラスの一端に貼り付け、ピンセットでテープ上の紙を剥がし、0号毛筆で、大きさが一致し、色が鮮やかで、活発な雌成体を選択し、その背部を両面テープに貼り付け(ダニの足、髭及び口器に貼り付けないようにすることを注意する)、各シートに4行、各行に10匹貼り付けた。温度25℃、相対湿度85%の左右の生化学インキュベータに4時間放置した後、双眼鏡で観察し、死亡した又は活発でない生体を除去した。予備試験をベースとして水で薬剤を5-7種の濃度に希釈し、ダニ付きスライドグラスの一端を薬液に浸漬させ、軽く5秒間振った後に取り出し、吸水紙でダニ及びその周辺の余計の薬液を迅速に吸い取った。上記生化学インキュベータに置き、24時間後に双眼鏡で結果を検査する。毛筆でダニを軽く触れ、ダニの足が動かないものを死亡したものとした。各濃度のものを3回繰り返し、清水に浸漬したものを対照とした。上記実験ステップに従い、BVP8タンパク質懸濁液によってミカンハダニをバイオアッセイすると、その結果は、以下の表2に示すように、33.45μg/mLであった。LC50値はSPASS 19.0データ処理ソフトウェアで算出された。
【0024】
表2:BVP8タンパク質によるミカンハダニの殺滅活性
【表2】
【0025】
3)上記実験ステップに従い、BVP8タンパク質懸濁液によってニセナミハダニをバイオアッセイすると、その結果は、以下の表3に示すように、26.32μg/mLであった。LC50値はSPASS 19.0データ処理ソフトウェアで算出された。
【0026】
表3:BVP8タンパク質によるニセナミハダニの殺滅活性
【表3】
【0027】
4)BVP8タンパク質によるナミハダニ卵への抑制作用
卵期のナミハダニが付いた葉を取り、水で成体と若虫を洗い流して除去した。吸水紙で葉の水分を吸い取った。両面テープが貼り付けられたスライドガラスに卵を軽く貼り付け、顕微鏡で観察してカウントし、カウントした後の卵を被検試料に3秒浸漬させて取り出した。続いて25度の恒温インキュベータに入れ、且つそれぞれ24時間、48時間、72時間後に顕微鏡でBVP8タンパク質によるナミハダニ卵への作用と効果を観察し、異なる形態の卵をカウントし、撮影した。
【0028】
結果によると、BVP8タンパク質はナミハダニ卵に対して抑制作用があり、卵の孵化を抑制することができ、24時間後に卵が萎縮し始め、且つ、段階的に分解し、48時間と72時間の卵の分解率はそれぞれ22.41%と75.86%であった(表4、図2)。
【0029】
表4:BVP8タンパク質によるナミハダニ卵への抑制作用
【表4】
備考:+、卵がふっくらし、淡黄色で、孵化待ち状態にある。++、正常の卵で、一部が孵化した。+++、卵が孵化した。++++、卵が萎縮し、孵化していない。+++++、卵が分解された。
【0030】
[付記]
[付記1]
配列番号2に示されるタンパク質又は配列番号2に示されるタンパク質を符号化する遺伝子の殺ハダニ剤の調製への使用であって、前記ハダニはナミハダニ、ミカンハダニ又はニセナミハダニである、使用。
【0031】
[付記2]
配列番号2に示されるタンパク質又は配列番号2に示されるタンパク質を符号化する遺伝子のハダニ卵の孵化阻害剤の調製への使用であって、前記ハダニはナミハダニである、使用。
【要約】      (修正有)
【課題】ハダニを殺滅するためのタンパク質およびその使用を提供する。
【解決手段】特定の配列で示されるタンパク質(BVP8)又は前記配列で示されるタンパク質を符号化する遺伝子の殺ハダニ剤の調製への使用であって、前記ハダニはナミハダニ、ミカンハダニ又はニセナミハダニである、使用を提供する。
【選択図】なし
図1
図2
【配列表】
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